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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1369224
審判番号 不服2019-15246  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-13 
確定日 2020-12-17 
事件の表示 特願2015-182083「半導体装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月23日出願公開、特開2017- 59636〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年9月15日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 7月31日付け 拒絶理由通知書
平成30年10月 2日 意見書、手続補正書の提出
平成31年 3月27日付け 拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
令和 元年 5月28日 意見書、手続補正書の提出
令和 元年 9月27日付け 令和元年5月28日の手続補正について
の補正却下の決定、拒絶査定
令和 元年11月13日 審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和元年11月13日にされた手続補正についての補正却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和 元年11月13日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「互いに対向する第1及び第2の主面を持つ半導体基板の前記第1の主面にAl又はAl合金から構成された第1の主電極を形成する工程と、
前記半導体基板の前記第2の主面にAl又はAl合金から構成された第2の主電極を形成する工程と、
前記第1及び第2の主電極の表面を活性化する表面活性化処理を行う工程と、
前記第1及び第2の主電極の表面を清浄化する表面清浄化処理を行う工程と、
前記表面活性化処理及び前記表面清浄化処理の後に、前記第1及び第2の主電極を無電解Niめっき液に浸漬させ、前記Al又はAl合金上に前記無電解Niめっき液中の還元剤である次亜りん酸によりNiを析出させた後に、加熱処理により結晶性Niの割合を変化させて前記第1及び第2の主電極上にそれぞれ2%以上の前記結晶性Niを含む第1及び第2のNi膜を湿式成膜法により同時に形成する工程とを備えることを特徴とする半導体装置の製造方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年10月2日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「互いに対向する第1及び第2の主面を持つ半導体基板の前記第1の主面にZnで被覆されたAl又はAl合金から構成された第1の主電極を形成する工程と、
前記半導体基板の前記第2の主面にZnで被覆されたAl又はAl合金から構成された第2の主電極を形成する工程と、
前記第1及び第2の主電極の表面を活性化する表面活性化処理を行う工程と、
前記第1及び第2の主電極の表面を清浄化する表面清浄化処理を行う工程と、
前記表面活性化処理及び前記表面清浄化処理の後に、前記第1及び第2の主電極を無電解Niめっき液に浸漬させ、前記Al又はAl合金上に前記無電解Niめっき液中の還元剤である次亜りん酸によりNiを析出させ、前記第1及び第2の主電極上にそれぞれ2%以上の結晶性Niを含む第1及び第2のNi膜を湿式成膜法により同時に形成する工程とを備えることを特徴とする半導体装置の製造方法。」

2 補正の適否
本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記第1及び第2の主電極を無電解Niめっき液に浸漬させ、前記Al又はAl合金上に前記無電解Niめっき液中の還元剤である次亜りん酸によりNiを析出させ、前記第1及び第2の主電極上にそれぞれ2%以上の結晶性Niを含む第1及び第2のNi膜を湿式成膜法により同時に形成する工程」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものを含む。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
平成30年7月31日付けの拒絶理由通知書で引用した文献である、特開2013-194291号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の記載がある。(下線は、当審で付加した。以下同じ。)

「【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体装置およびその半導体装置の製造方法に関するもので、特に電力用パワー半導体装置の1つであるIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)等の表裏導通型の半導体装置の電極部に、はんだ付け性に優れた合金膜を備えた半導体装置およびその製造方法に係るものである。」

「【0010】
以下、この発明をより理解するため、本願発明のすべての実施の形態で採用しているメッキ処理やジンケート処理についての一般的な概略を説明する。
まず無電解Niメッキ、無電解Auメッキ、無電解Pdメッキ方法について説明する。なお、実施の形態は、全てウエハ状態で行うものとする。
(1)ウエハ上のAl合金電極に、一般的に知られた脱脂、酸洗いした後にメッキをしても、強固な付着力を有したメッキ層は形成できない。その理由は、ウエハ上のAl合金の表面には、強固な有機物残渣と酸化膜が形成されているためである。前記の残渣や酸化物が除去できずにメッキ膜が付着すると、Alとメッキ金属との間で金属拡散が生じないため満足な付着力が確保できず、容易に剥離し、はんだ付けなどの電極の表面処理には使えない。
(2)前述した結果より、ウエハ上でのAl合金電極へのメッキは、プラズマクリーニング、脱脂、酸洗い、第1ジンケート処理、ジンケート剥離、第2ジンケート処理、メッキの順番に実施する。なお、各工程の間には十分な水洗時間を確保し、前の工程の処理液や残渣が次工程に持ち込まれない様にする必要がある。一般的なメッキと異なる点は、プラズマクリーニング、ジンケート処理とジンケート剥離が工程内に付与されていることである。
(3)以下、各工程にそってその概略を説明する。最初にプラズマクリーニングについて説明する。プラズマクリーニングとはAl合金電極上に焼きついてしまった一般的なメッキ前処理で除去できない有機物残渣を、プラズマで酸化分解するか叩き出し表面を清浄にする処理方法である。続いて脱脂、酸洗いを行う。脱脂はAl合金表面に残留した軽度の有機物汚染や酸化膜を除去するために行う。続いて、Al表面を中和し、Alの表面をエッチングして面を荒らし、後工程での処理液の反応性を高め、メッキの付着力を向上させるための処置を行う。ついで、ジンケート処理というものを実施し、その後、メッキをすることで、強固な付着力を持ったメッキ膜を成膜する。
(4)次に、ジンケート処理について詳しく説明する。ジンケート処理とは、Al合金の表面にAlの酸化膜を除去しつつ亜鉛(以下Znと記す。)の皮膜を形成する処理である。具体的には、Znがイオンとして溶解した水溶液に、Al合金を浸漬すると、Znの方がAlよりも標準酸化還元電位が貴であるため、Alがイオンとして溶解しこの時生じた電子によってZnイオンがAl合金の表面で電子を受け取りAlの表面にZnの皮膜を作る。またこの時にAlの酸化膜も除去される。この後、Znで被覆されたAl合金を濃硝酸に浸漬しZnを溶解させると共に、Al表面に薄くて均一なAl酸化物皮膜を形成する。そして再度Al合金を、Zn処理液に浸漬してAl合金表面をZnで被覆しなおかつAlの酸化膜を除去する。この操作によって、Alの酸化膜層は薄くなると共に平滑になる。回数を増やすほどAlの表面は均一になり、メッキ膜の出来ばえも良くなるが、生産性を考慮すると2回多くても3回が一般的である。
(5)そして、無電解Niメッキを実施する。Znで被覆されたAl合金皮膜を無電解Niメッキ液に浸漬すると、最初は、Znの方がNiよりも標準酸化還元電位が卑であるため、Al合金上にNiが析出する。続いて表面がNiで覆われると、メッキ液中に含まれる還元剤の作用によって、自動触媒的にNiが析出する。ただし、この自動触媒的析出時には、還元剤の成分がメッキ膜に取り込まれるため、無電解Niメッキ皮膜は合金となり、また還元剤の濃度が高いと非晶となる。一般に還元剤として次亜りん酸が利用されているため、無電解NiメッキにはPが含まれている。
(6)さらに、無電解Auメッキを実施する。置換型の無電解Auメッキは、無電解Niメッキの上に施すものであり、メッキ液中に含まれる錯化剤の作用によってNiとAuが置換する作用を利用したものである。置換型であるためNiの表面がAuで被覆されてしまうと反応が停止するため、厚く成膜するのは難しく、多くても0.1um、一般的には0.05um程度の成膜をするものが多いが、はんだ付け用として利用する場合は、Auメッキの厚さは上述した値でも少なすぎるといったことはない。
(7)最後に、無電解Pdメッキについて説明する。無電解Pdメッキは、無電解Niメッキの上に付着させ、さらにその上に無電解Auメッキを施して利用するもので、Pdの優れたバリヤ性により、無電解Niメッキ皮膜が無電解Auメッキ皮膜を押しのけて這い上がり、それが酸化膜となってはんだ付け性等を低下させることを防止するため行うものである。無電解Pdメッキの膜厚は0.3um程度でバリヤ性が確保される。また、一般に無電解Niメッキと同様に、還元剤として次亜りん酸を利用しており、そのため無電解Pdメッキ膜も非晶となる例が多い。また置換型Auメッキは無電解Pdメッキ膜とその下にある無電解Niメッキ膜から電子を得てPd表面に置換析出する。
【0011】
上記した一般的な概論を踏まえた上で、以下、各実施の形態毎に説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1によるウエハの一部分に存在する、例えばIGBT半導体装置の断面構造を示す図である。図1において、Si基板やSiC基板あるいはGaAs化合物系基板等のいずれかを用いた半導体基板1は、第1の主面1aと第2の主面1bが設けられ、図示省略した拡散層には、IGBT半導体装置のPNジャンクションやゲート電極等の半導体装置の動作を司る機能を備えている。半導体基板1の第1の主面1aには第1の主電極110であるAl合金電極2が設けられており、第2の主面1bには第2の主電極210を構成するバリヤメタル3、Ni電極4、Au電極5が設けられている。また前記Al合金電極3上には保護膜6が設けられている。尚、上記第1の主電極110、第2の主電極210は、それぞれ第1の主面1a、第2の主面1bの図示省略した拡散層を含むものとする。
Al合金電極2はこの前記拡散層との電気的導通を担う電極であり、一般に純AlやAlSi合金、AlCu合金、AlSiCu合金が利用されており、SiやCuの混合比率はAl膜中での重量比で5wt%以下である。バリヤメタル3は、外部からの素子動作を阻害する元素が浸入したりしない様にするもので、一般にTi、Mo、W、V、Cr、Al等の金属そのものやそれらの酸化物や窒化物が利用されている。Ni電極4は、バリヤメタル3と直接接合され、はんだ付け時にはんだと反応して合金層や金属間化合物を形成するものである。Au電極5は、半導体装置の特性を測定する時に接触抵抗の影響を除き、さらには、Niの酸化を防ぎはんだ付け性を向上させるために設けられている。保護膜6は、半導体装置表面の物理的な保護と絶縁距離を増加させるために設けられ、無機物ではSiO2、SiNが主として利用され、有機物ではポリイミドが利用されている。
【0012】
次に、実施の形態1による半導体装置の製造方法を説明する。予め、図示省略した拡散層が設けられた半導体基板1の、第1の主面1aに第1の主電極110であるAl合金電極2を形成後、所望の厚さに半導体基板1を研削する。その後、第2の主面1bに第2の主電極210であるバリヤメタル3、Ni電極4、Au電極5を、例えば真空成膜法で設ける。
保護膜6は、無機物の場合はAl合金電極2の形成後、有機物の場合はNi電極4、Au電極5を形成後に成膜する。
本願発明の実施の形態1の特徴の1つは、第1の主電極110のAl合金電極2上および第2の主電極210上のAu電極5と、異なる離れた個所にある異種金属表面に同時にメッキを施すことにある。そのために前述したAl合金へのジンケート処理によるメッキ手法を利用する。まず、ウエハレベルでの第1の主電極110および第2の主電極210に対して、まず、プラズマクリーニング、脱脂、酸洗いといった表面を清浄にする処理、第1ジンケート処理、ジンケート剥離、第2ジンケート処理の順番に実施する。第2の主面1bにAuがついているので化学的に安定であるため、金属そのものが溶解することはない。またジンケート処理時にはAuの方がZnよりも標準酸化還元電位が貴であるため、Au上にはZnは析出しない。またジンケート剥離液は硝酸であるので、Auを溶解することはない。さらに、Auは無電解Niメッキの自己触媒析出の触媒点として作用するため、Au上にはNiが還元剤の作用によって自動触媒的に析出する。ただし、Auは空気中の汚染物質を多く引き寄せ、前処理液やメッキ液との間でのぬれ性が確保できなくなり、無電解Niメッキ液とのぬれが確保できず未反応とならない様、プラズマクリーニングや後に続く脱脂、酸洗いを施してぬれ性を確保する必要がある。
前記前処理後のウエハ全体を無電解Niメッキ液に浸漬すると、Al合金電極2およびAu電極5の表面に無電解Niメッキ層7が析出する。そして、無電解Niメッキ層7を付着させた後に、無電解Auメッキ層8を施すことで、メッキ用に特別な処置を施さなくとも、図1で示した半導体装置の第1の主面1a側、第2の主面1b側を同時に無電解Niメッキ層7と無電解Auメッキ層8をすることができる。
【0013】
この実施の形態1のプラズマクリーニング条件と利用した薬液とその条件は以下の通りである。なお利用したウエハのサイズは8インチで、真空成膜によるNi電極4の膜厚は0.5um、Au電極5の膜厚は0.08umである。表1において、ステップ2から8の工程後には全て超純水による洗浄を実施した。
【0014】
【表1】

【0015】
上記条件で、第1の主電極110上の無電解Niメッキ層7を5.3um、無電解Auメッキ層8を0.04um、第2の主電極210上の無電解Niメッキ層7を4.8um、無電解Auメッキ層8を0.04um形成できた。また無電解Niメッキ層7の中のP濃度は6.2wt%であり、その膜は非晶であった。
【0016】
以上から実施の形態1によれば、第1の主電極110と第2の主電極210を一括してメッキ処理することで、マスキングの必要なく、裏面汚染の対策が不要なため製造コストを削減でき、ウエハのさらなるそりも抑制できる。また無電解Niメッキ層7は非晶質であるので、温度や応力変化にしたがってメッキ膜の結晶構造が変化したり、粒界ボイドが発生して皮膜が割れたりせず信頼性が高くなる。Al以外のAuの表面にもジンケート法で無電解Niメッキ層7が形成でき、メッキをするために特別なメタル構成のウエハを作成する必要がなくなり、製造コスト削減につながる。尚、図2に示すように第1の主面1a上にバリヤメタル3を設けた第1の主電極110であってもこの実施の形態1は適用できる。」

「【0030】
実施の形態9.
図10に実施の形態9における半導体装置の断面構造を示す。
この実施の形態9は、バリヤメタル3の上にAl合金電極10を付加したものである。そのため析出させる条件は、実施の形態1と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
以上から実施の形態9によれば、第2の主電極210のバリヤメタル3の上にAl合金電極10を形成しているため、不純物元素の拡散による半導体装置性能の低下を抑制できる。」

「【0032】
なお、上記実施の形態1から10において、無電解Niメッキ層7に含まれる元素はPであり、Pの皮膜中の重量比率は4%以上、15%以下で、5-10wt%程度が好適であり、これらのNi合金皮膜は非晶質である。また無電解メッキ液の還元剤として、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン等を利用し、皮膜中にBを含有させても構わない。」

【図1】

【図10】


上記記載の図10の実施の形態9における半導体装置の製造法は、詳細に記載されていないが、「実施の形態1と同様である」(段落【0030】)と記載されていることから、引用文献1には実施の形態9として、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「半導体基板1の、第1の主面1aに第1の主電極110であるAl合金電極2を形成し、
Al合金電極2は、純AlやAlSi合金、AlCu合金、AlSiCu合金からなり、
第2の主面1bに第2の主電極210であるAl等の金属からなるバリヤメタル3及びAl合金電極10を設け、
第1の主電極110および第2の主電極210に対して、プラズマクリーニング、脱脂、酸洗いといった表面を清浄にする処理を行い、
Alの酸化膜層は薄くなると共に平滑にするために、第1ジンケート処理、ジンケート剥離、第2ジンケート処理を実施し、
ウエハ全体を無電解Niメッキ液に浸漬し、Al合金電極2およびAl合金電極10の表面にNiが析出させた後、還元剤である次亜りん酸の作用によりNiが析出し、非晶質からなる無電解Niメッキ層7を付着させる、無電解Niメッキを実施し、
半導体装置の特性を測定する時に接触抵抗の影響を除き、さらには、Niの酸化を防ぎはんだ付け性を向上させるために設けられる、無電解Auメッキ層8を施す、
はんだ付け性に優れた合金膜を備えた半導体装置の製造方法。」

イ 周知技術が記載されてた文献
(ア)引用文献2
平成30年7月31日付けの拒絶理由通知書で引用した文献である、特開2002-76189号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体素子収納用パッケージや回路基板等に使用される配線基板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】半導体素子収納用パッケージや電子部品搭載用基板等の各種の回路基板に使用される配線基板は、各種のセラミックス材料や有機絶縁樹脂材料あるいは無機絶縁物粉末を有機絶縁樹脂で結合したもの等から成る絶縁基体と、その絶縁基体の表面ならびに必要に応じて内部に形成された、タングステンやモリブデン、モリブデン-マンガン、銅、銀、銀-パラジウム等の金属粉末メタライズや銅、銀等の金属粉末の焼結体あるいは銅の金属箔等から成る信号用、接地用、電源用等の配線導体と、絶縁基体の表面に形成され配線導体と電気的に接続された接続パッドとから構成されている。
【0003】そして、絶縁基体の表面に形成された接続パッドには、耐食性や低融点ロウ材の濡れ性を高める目的で、通常はニッケルメッキ層と金メッキ層とが順次被着形成されている。
【0004】このようなメッキ層としては、ロウ材濡れ性およびボンディング特性に優れ、無電解メッキ法により接続パッドの表面に被着形成が可能なことから、ニッケルメッキ層および金メッキ層が多用されている。特に、ニッケルメッキ層の無電解メッキ法においてはホウ素系の還元剤が用いられることが多く、そのためホウ素系のニッケルメッキ層、いわゆるニッケル-ホウ素合金メッキ層が広く用いられている。なお、前記ニッケルメッキ層の表面には、一般に、金メッキ層が、置換型の無電解メッキ法、すなわち、ニッケルを酸化溶出させるとともに金を還元析出させる方法により被着形成され、ニッケルメッキ層の耐食性、ロウ材接合特性を向上させている。」

「【0006】一方、ホウ素系の無電解ニッケルメッキ層については、そのメッキ層中のホウ素含有量を多くすることにより耐食性を向上させることができることが知られているが、メッキ層中のホウ素含有量を多くするとニッケルメッキ層中のニッケルの結晶ホウ素系の無電解ニッケルメッキ層については、メッキ層中のホウ素含有量を多くするとニッケルメッキ層中のニッケルの結晶性が低下してしまい、特に、ホウ素が3重量%を超えるとニッケルが非晶質の状態となり、その結果、メッキ層の導電性が接続パッドの表面被膜としては不適当な程度にまで低下してしまうという問題があった性が低下してしまい、特に、ホウ素が3重量%を超えるとニッケルが非晶質の状態となり、その結果、メッキ層の導電性が接続パッドの表面被膜としては不適当な程度にまで低下してしまうという問題があった。」

「【0025】前記ニッケルメッキ層7にホウ素を0.05乃至3重量%、硫黄を0.005乃至008重量%、鉛を0.008乃至0.2重量%含有させておくと、ホウ素がニッケルメッキ層7の耐食性を、硫黄が導電性を、鉛が金メッキ層8の析出形成の反応性を良好とし、これによって接続パッド3表面に導電性が高く、耐食性に優れたニッケルメッキ層7と、耐食性、ロウ材濡れ性に優れた金メッキ層8とを均一厚みに被着させることができ、その結果、接続パッド3に半導体素子4の電極を半田等の低融点ロウ材6を介して確実、強固に接合させることが可能となり、半導体素子4の配線導体2への電気的接続の信頼性を極めて高いものとなすことができる。
【0026】なお、前記ニッケルメッキ層7に含有されるホウ素はその量が0.05重量%未満であるとニッケルメッキ層7の耐食性が低下し、接続パッド3に半導体素子4の各電極を強固に接合させることができず、また3重量%を超えるとニッケルメッキ層7中のニッケルが非晶質の状態となってニッケルメッキ層7の導電性が接続ハッド3の表面被覆としては不適当な程度、具体的には20Ω・cm以下にまで低下してしまう。従って、前記ニッケルメッキ層7に含有されるホウ素はその量が0.05重量%乃至3重量%の範囲に特定される。」

「【0029】また更に前記ニッケルメッキ層7は、例えば、アンモニア分解ガス雰囲気中、約850℃?870℃の温度で約10?30分程度熱処理を加えておくとニッケルメッキ層7の表層部(表面から約300オングストロームの深さ)より金の析出を阻害するホウ素が揮散除去され、これによってニッケルメッキ層7の表面に金メッキ層8をより一層均一、かつ強固に被着させることができ、同時にニッケルメッキ層7に内在する応力が緩和されてクラック等の不具合が生じ難くなるとともにニッケルの結晶粒が粒成長して緻密化し、耐食性がさらに向上する。従って、前記ニッケルメツキ層7は、一旦、アンモニア分解ガス雰囲気中、約850℃?870℃の温度で約10?30分程度熱処理を加えておくことが好ましい。」

(イ)引用文献3
本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された文献である、特開2015-53455号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに次の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力用半導体装置及びその製造方法に関する。」

「【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
先ず、第1の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る電力用半導体装置を例示する断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る電力用半導体装置1は、耐圧が例えば600?800VのIGBTである。また、電力用半導体装置1の外形は、例えば、一辺の長さが例えば10?15mm(ミリメートル)のチップ形状である。
【0010】
電力用半導体装置1(以下、単に「装置1」又は「チップ」ともいう)においては、半導体部分としてのシリコン部分10が設けられており、シリコン部分10の上面上には表面電極構造体20が設けられており、シリコン部分10の下面上には裏面電極構造体30が設けられている。チップの周辺部分には、耐圧を得るために終端部として、例えば、フィールドプレートを備えたガードリング部(図示せず)が設けられている。
【0011】
シリコン部分10においては、下層側から順に、p^(+)形コレクタ層11、n^(+)形バッファー層12、n^(-)形バルク層13、p形ベース層14及びn^(+)形エミッタ層15が積層されている。また、シリコン部分10の上面側から、n^(+)形エミッタ層15及びp形ベース層14を貫通し、n^(-)形バルク層13内に到達するように、トレンチゲート電極16が設けられている。トレンチゲート電極16は、装置1のベース電極である。トレンチゲート電極16の周囲には、例えばシリコン酸化物からなるゲート絶縁膜17が設けられている。シリコン部分10は単結晶のシリコン(Si)からなり、シリコン部分10全体の厚さは、例えば60?120μm(ミクロン)であり、例えば70μmである。
【0012】
表面電極構造体20においては、下層側、すなわち、シリコン部分10側から順に、厚さが例えば30nm(ナノメートル)のチタン(Ti)層21、厚さが例えば150nm(ナノメートル)のチタン窒化物(TiN)層22、アルミニウム(Al)層23、アルミニウム-銅(AlCu)合金層24、厚さが例えば5μmのニッケル層25、及び、厚さが例えば50nmの金(Au)層26が積層されている。アルミニウム層23及びアルミニウム-銅合金層24の合計の厚さは、例えば4μmである。ニッケル層25は無電解めっき法によって成膜されたニッケル-リン(Ni-P)化合物からなり、リンの濃度は例えば4?10質量%であり、少なくとも一部、例えば全体が結晶化している。
【0013】
表面電極構造体20は、装置1のエミッタ電極を構成している。ニッケル層25及び金層26は、装置1を用いたパッケージの組立時に、半田付けされる電極パッドである。また、表面電極構造体20には、層間絶縁膜(図示せず)も設けられている。
【0014】
裏面電極構造体30においては、上層側、すなわち、シリコン部分10側から順に、厚さが例えば200nmのアルミニウム-シリコン(AlSi)合金層31、厚さが例えば200nmのチタン層32、厚さが例えば1000nmのニッケル層33、及び、厚さが例えば100nmの金-銀(AuAg)合金層34が積層されている。ニッケル層33は、スパッタ法により形成されたものであり、ほぼ純ニッケルからなり、少なくとも一部、例えば全体が結晶化している。裏面電極構造体30は、装置1のコレクタ電極である。
【0015】
そして、裏面電極構造体30のニッケル層33の厚さは、表面電極構造体20のニッケル層25の厚さの15%以上である。上述の例では、ニッケル層25の厚さは5μmであり、ニッケル層33の厚さは1000nmであるため、ニッケル層33の厚さはニッケル層25の厚さの20%である。
【0016】
次に、本実施形態に係る電力用半導体装置の製造方法について説明する。
図2は、本実施形態に係る電力用半導体装置の製造方法を例示するフローチャート図である。
以下、図1及び図2を参照して、説明する。
【0017】
先ず、シリコン部分10として、n形のシリコンウェーハを用意する。以下、便宜上、このシリコンウェーハを「シリコン部分10」という。
そして、ステップS1に示すように、表面側から不純物をイオン注入する。これにより、シリコン部分10内に、p形ベース層14及びn^(+)形エミッタ層15を形成する。
次に、ステップS2に示すように、トレンチを形成し、トレンチの内面上にゲート絶縁膜17を形成し、トレンチ内にトレンチゲート電極16を埋め込む。これにより、トレンチゲート構造を形成する。
【0018】
次に、ステップS3に示すように、シリコン部分10上に表面電極構造体20を形成する。具体的には、スパッタ法により、チタン層21を例えば30nmの厚さに形成し、チタン窒化物層22を例えば150nmの厚さに形成し、アルミニウム層23及びアルミニウム-銅合金層24を合計で例えば4μmの厚さに形成する。次に、リンを含むめっき液を用いた無電解めっき法により、ニッケル層25を例えば5μmの厚さに形成する。次に、金層26を例えば50nmの厚さに形成する。この時点では、ニッケル層25はほぼ非晶質である。
【0019】
次に、ステップS4に示すように、表面電極構造体20の上面に保護テープ(図示せず)を貼付して、表面を保護する。
次に、ステップS5に示すように、シリコン部分10の裏面を研削して、所定の厚さまで薄くする。その後、エッチングを施し、研削により損傷した部分を除去する。このとき、シリコン部分10の厚さは、例えば60?120μm、例えば70μmとする。その後、保護テープを剥離する。
【0020】
次に、ステップS6に示すように、シリコン部分10の裏面側から、不純物をイオン注入する。これにより、シリコン部分10内にn^(+)形バッファー層12及びp^(+)形コレクタ層11を形成する。
【0021】
次に、ステップS7に示すように、熱処理を行い、シリコン部分10内に注入した不純物を活性化する。この熱処理により、ニッケル層25の少なくとも一部、例えば全体が結晶化する。このとき、ニッケル層25が収縮し、体積が減少するため、ニッケル層25はシリコン部分10の上面に対して収縮力を加える。この収縮力は、シリコンウェーハを下に凸に反らせるように作用する。
【0022】
次に、ステップS8に示すように、シリコン部分10の下面上に、裏面電極構造体30を形成する。具体的には、スパッタ法により、アルミニウム-シリコン合金層31を例えば200nmの厚さに形成し、チタン層32を例えば200nmの厚さに形成し、ニッケル層33を例えば1000nmの厚さに形成し、金-銀合金層34を例えば100nmの厚さに形成する。このとき、ニッケル層33は、スパッタ法により成膜されるため、成膜直後の時点で、その少なくとも一部、例えば全体が結晶化している。ニッケルがチタン層32上に堆積され、結晶化する際に、堆積物が収縮し、体積が減少するため、ニッケル層33はシリコン部分10の下面に対して収縮力を加える。この収縮力は、シリコンウェーハを上に凸に反らせるように作用する。
【0023】
その後、シリコンウェーハ(シリコン部分10)を表面電極構造体20及び裏面電極構造体30と共にダイシングすることにより、複数のチップに個片化する。これにより、本実施形態に係る電力用半導体装置1が製造される。
【0024】
次に、本実施形態の動作及び効果について説明する。
本実施形態に係る電力用半導体装置1においては、シリコン部分10の厚さが例えば60?120μm、例えば70μmであり、耐圧が600?800VのIGBTとしては薄いため、飽和電圧とスイッチング損失とのバランスが良好である。例えば、同じトレードオフ損失で比較すると、シリコン部分10の厚さを80μmとした場合の飽和電圧は2.0Vであったが、シリコン部分10の厚さを70μmとすると、飽和電圧は1.75Vに低減された。このように、耐圧が600?800VであるIGBTにおいて、シリコン部分10の厚さを80μmから70μmに薄くすることで、飽和電圧を10?20%改善することができた。
【0025】
また、装置1においては、シリコン部分10の上方にニッケル層25が設けられており、組立時に半田付けされる電極パッドが形成されている。そして、シリコン部分の10の下方には、ニッケル層25と同じ金属、すなわちニッケルを含むニッケル層33が設けられている。そして、ニッケル層25及び33は、いずれも、その少なくとも一部、例えば全体が結晶化している。このため、ニッケル層25はシリコン部分10の上面に対して収縮力を印加し、ニッケル層33はシリコン部分10の下面に対して収縮力を印加する。これにより、ニッケル層33の収縮力によりチップを反らせる作用によって、ニッケル層25の収縮力によりチップを反らせる作用を打ち消し、チップの反りを抑制できる。例えば、本実施形態においては、チップの一辺の長さが10mmである場合、チップ反り量は80μmであった。例えば、チップの反り量が100μm以下であると、組立不良は発生せず、高い組立歩留が得られる。
【0026】
また、ニッケル層25及び33は既に少なくとも一部が結晶化しているため、その後の半田付け工程において、ニッケル層25又はニッケル層33が結晶化することが少なく、結晶化に伴う収縮により、チップを反らせることが少ない。このように、装置1は反り量が小さく、半田付け工程等の組立工程においても反りが変化しにくいため、組立性が良好である。
【0027】
従って、本実施形態に係る装置1は、飽和電圧とスイッチング損失とのトレードオフを改善するためにシリコン部分10を薄くしても、チップの反りを抑えて良好な組立性を実現できる。すなわち、チップ特性と組立性との両立を図ることができる。
【0028】
更に、本実施形態においては、図2のステップS3に示す工程において、無電解めっき法によりニッケル層25を形成した後、ステップS7に示す工程において、不純物を活性化させるための熱処理を行っている。このため、ニッケル層25の微細構造は、めっき直後はほぼ非晶質構造であるが、熱処理によって結晶化する。また、ステップS8に示す工程において、ニッケル層33をスパッタ法により形成している。このため、ニッケル層33は、成膜直後の時点において、少なくとも一部が結晶化している。このように、本実施形態によれば、特別な結晶化処理を行うことなく、ニッケル層25及びニッケル層33を結晶化させることができる。
【0029】
これに対して、仮に、ニッケル層33を無電解めっき法により形成し、その後、熱処理を行わないと、ニッケル層33は非晶質のままである。この場合は、ニッケル層33は、ニッケル層25の収縮力に対抗するような収縮力を生じることができず、チップは下に凸となるように反ってしまう。このため、その後の半田付け工程において、半田の濡れ性が低下するなどして、組立性が低下する。」

(ウ)引用文献4
本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された文献である、特開2013-14809号公報(以下、「引用文献4」という。)には、図面とともに次の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解ニッケルめっき皮膜および無電解ニッケルめっき液に関する。」

「【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究、開発を遂行した結果、安定剤として2価のスズイオンをめっき液に添加することが上記課題を解決するのに有効であることに想到し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、ニッケルイオンを0.04?0.2mol/L、次亜リン酸イオンを0.09?0.5mol/L、テトラヒドロホウ酸イオンを1?80mmol/L、2価のスズイオンを50?1000μmol/L含むことを特徴とする無電解ニッケルめっき液である。
また、本発明は、上記無電解ニッケルめっき液を用いて得ることのできる0.5?4重量%のリン、0.01?2重量%のホウ素および0.1?5重量%のスズを含有することを特徴とする無電解ニッケルめっき皮膜である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、環境負荷物質、特に人体への悪影響が懸念される重金属類の含有量が極めて低いにもかかわらず、安定性に優れ、且つ優れた機械的特性を有するめっき皮膜を与えることのできる無電解ニッケルめっき液および無電解ニッケルめっき皮膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明に係る無電解ニッケルめっき皮膜に関して説明する。
本発明に係る無電解ニッケルめっき皮膜は、ニッケル、リン、ホウ素およびスズを必須成分として含むものである。
無電解ニッケルめっき皮膜中のリン含有量は、0.5?4重量%であることが必須であり、1?3重量%であることが好ましい。リンの含有量が0.5重量%未満のめっき皮膜は、次亜リン酸塩等を還元剤とするめっき液では形成することができない。また、リンの含有量が4重量%を超えると、めっき皮膜が非結晶質となって硬度が極端に下がるとともに機械的特性が悪化する。」

「【0019】
本発明で得られた無電解ニッケルめっき皮膜は、熱処理を施すことにより、皮膜硬度を向上させることができる。熱処理の条件は、めっき皮膜に要求される硬度と母材の耐熱性とを考慮して決めることができる。熱処理温度は、例えば150?400℃の範囲とすることができる。150℃未満では皮膜硬度や密着性の向上効果が不十分であり、400℃を超えると皮膜硬度が逆に低下する。好ましくは200?350℃の範囲である。また、熱処理時間は、処理温度、めっき皮膜に要求される硬度、母材の耐熱性および生産性等を考慮して決めることができ、通常、30?120分間とすることが適当である。
【0020】
熱処理の雰囲気は、空気、不活性ガス、還元性ガス等を用いることができ、作業性およびコスト等を考慮して適宜選択することができる。上記熱処理により、上記めっき皮膜は徐々に結晶成長が進み、硬度が高くなる。本発明の上記組成のめっき皮膜は、めっきした状態で低い結晶性を有するために、従来のニッケルめっき皮膜に比べて比較的低温での熱処理で結晶化が進み、高い硬度の皮膜を得ることができる。」

(エ)周知技術
上記(ア)ないし(ウ)の記載から、以下の技術は周知技術(以下、「周知技術」という。)である。

「無電解メッキで形成された非晶質であるNiを含むニッケルめっき層について、耐食性の向上、チップの反りを抑制すること、硬度を高くすること等を目的として、加熱処理を行い、非晶質であるNiを結晶質とすること。」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明を対比する。
(ア)引用発明の「半導体基板1」、「第1の主面1a」、「第2の主面1b」、「純AlやAlSi合金、AlCu合金、AlSiCu合金からな」る「Al合金電極2」、「半導体装置の製造方法」は、それぞれ本件補正発明の「半導体基板」、「第1の主面」、「第2の主面」、「Al又はAl合金から構成された第1の主電極」、「半導体装置の製造方法」
に相当する。

(イ)引用発明の「Al等の金属からなるバリヤメタル3及びAl合金電極10」と本件補正発明の「Al又はAl合金から構成された第2の主電極」は、「Al合金から構成された第2の主電極」である点で共通する。

(ウ)引用発明の「半導体基板1の、第1の主面1aに第1の主電極110であるAl合金電極2を形成」することは、本件補正発明の「互いに対向する第1及び第2の主面を持つ半導体基板の前記第1の主面にAl又はAl合金から構成された第1の主電極を形成する工程」に相当する。

(エ)引用発明の「第2の主面1bに第2の主電極210であるAl等の金属からなるバリヤメタル3及びAl合金電極10を設け」ることと、本件補正発明の「前記半導体基板の前記第2の主面にAl又はAl合金から構成された第2の主電極を形成する工程」は、「前記半導体基板の前記第2の主面にはAl合金から構成された第2の主電極を形成する工程」である点で共通する。

(オ)本件補正発明の「前記第1及び第2の主電極の表面を活性化する表面活性化処理を行う工程」について、発明の詳細な説明に
「【0022】
図7は、本発明の実施の形態1に係るめっき前処理のフローチャートである。まず、表面活性化処理として例えばプラズマを利用したプラズマクリーニングを行う(ステップS6-1)。プラズマクリーニングとはAl合金上に焼きついてしまった一般的なめっき前処理で除去できない有機物残渣を、プラズマで酸化分解するか又は叩き出して表面を清浄にする処理方法である」
「【0030】
また、表面活性化処理としてプラズマクリーニングを行うことにより半導体基板1の表裏面を非接触で同時に表面活性化することができる。また、表面清浄化処理としてジンケート処理を行うことにより無電解Niめっき膜14,15を均一に形成することができる。さらに、ジンケート処理を少なくとも2回実施することにより、無電解Niめっき膜14,15の膜厚を均一にすることができる。また、無電解Niめっきを用いることで簡易な設備構成で無電解Niめっき膜14,15を形成することができる。」
と記載されていることから、引用発明の「第1の主電極110および第2の主電極210に対して、プラズマクリーニング、脱脂、酸洗いといった表面を清浄にする処理」を行うことは、本件補正発明の「前記第1及び第2の主電極の表面を活性化する表面活性化処理を行う工程」に相当する。

(カ)本件補正発明の「前記第1及び第2の主電極の表面を清浄化する表面清浄化処理を行う工程」について、発明の詳細な説明に
「【0030】
また、表面活性化処理としてプラズマクリーニングを行うことにより半導体基板1の表裏面を非接触で同時に表面活性化することができる。また、表面清浄化処理としてジンケート処理を行うことにより無電解Niめっき膜14,15を均一に形成することができる。さらに、ジンケート処理を少なくとも2回実施することにより、無電解Niめっき膜14,15の膜厚を均一にすることができる。また、無電解Niめっきを用いることで簡易な設備構成で無電解Niめっき膜14,15を形成することができる。」
と記載されていることから、引用発明の「Alの酸化膜層は薄くなると共に平滑にするために、第1ジンケート処理、ジンケート剥離、第2ジンケート処理を実施」することは、本件補正発明の「前記第1及び第2の主電極の表面を清浄化する表面清浄化処理を行う工程」に相当する。

(キ)引用発明の「ウエハ全体を無電解Niメッキ液に浸漬し、Al合金電極2およびAl合金電極10の表面にNiが析出させた後、還元剤である次亜りん酸の作用によりNiが析出し、非晶質からなる無電解Niメッキ層7を付着させる、無電解Niメッキを実施」することと、本件補正発明の「前記表面活性化処理及び前記表面清浄化処理の後に、前記第1及び第2の主電極を無電解Niめっき液に浸漬させ、前記Al又はAl合金上に前記無電解Niめっき液中の還元剤である次亜りん酸によりNiを析出させた後に、加熱処理により結晶性Niの割合を変化させて前記第1及び第2の主電極上にそれぞれ2%以上の前記結晶性Niを含む第1及び第2のNi膜を湿式成膜法により同時に形成する工程」とは、「前記表面活性化処理及び前記表面清浄化処理の後に、前記第1及び第2の主電極を無電解Niめっき液に浸漬させ、前記Al又はAl合金上に前記無電解Niめっき液中の還元剤である次亜りん酸によりNiを析出させ、第1及び第2のNi膜を湿式成膜法により同時に形成する工程」である点で共通する。

(ク)そうすると、本件補正発明と引用発明は以下の点一致し、また相違する。
[一致点]
「互いに対向する第1及び第2の主面を持つ半導体基板の前記第1の主面にAl又はAl合金から構成された第1の主電極を形成する工程と、
前記半導体基板の前記第2の主面にAl合金から構成された第2の主電極を形成する工程と、
前記第1及び第2の主電極の表面を活性化する表面活性化処理を行う工程と、
前記第1及び第2の主電極の表面を清浄化する表面清浄化処理を行う工程と、
前記表面活性化処理及び前記表面清浄化処理の後に、前記第1及び第2の主電極を無電解Niめっき液に浸漬させ、前記Al又はAl合金上に前記無電解Niめっき液中の還元剤である次亜りん酸によりNiを析出させ、第1及び第2のNi膜を湿式成膜法により同時に形成する工程とを備えることを特徴とする半導体装置の製造方法。」

[相違点1]
「前記半導体基板の前記第2の主面にAl合金から構成された電極を形成する工程」について、本件補正発明が「前記半導体基板の前記第2の主面にAl又はAl合金から構成された第2の主電極を形成する工程」であるのに対して、引用発明は、Al合金電極10との記載はあるものの、Alから構成された電極を形成する点について明示がない点。

[相違点2]
「前記表面活性化処理及び前記表面清浄化処理の後に、前記第1及び第2の主電極を無電解Niめっき液に浸漬させ、前記Al又はAl合金上に前記無電解Niめっき液中の還元剤である次亜りん酸によりNiを析出させ、第1及び第2のNi膜を湿式成膜法により同時に形成する工程」について、本件補正発明が「前記表面活性化処理及び前記表面清浄化処理の後に、前記第1及び第2の主電極を無電解Niめっき液に浸漬させ、前記Al又はAl合金上に前記無電解Niめっき液中の還元剤である次亜りん酸によりNiを析出させた後に、加熱処理により結晶性Niの割合を変化させて前記第1及び第2の主電極上にそれぞれ2%以上の前記結晶性Niを含む第1及び第2のNi膜を湿式成膜法により同時に形成する工程」であるのに対して、引用発明は、加熱処理により結晶性Niの割合を変化させて前記第1及び第2の主電極上にそれぞれ2%以上の前記結晶性Niを含む第1及び第2のNi膜を形成することを行っていない点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用発明は、Al等の金属からなるバリヤメタル3及びAl合金電極10を設けているのであるから、このことは、本件補正発明の「Al又はAl合金から構成され」ることのうち、「Al合金から構成され」ることに対応する電極を設けていることに相当する。そうすると、相違点1は実質的相違ではない。
また、仮に相違があったとしても、引用発明の第1の主電極110は、Al合金電極について、純AlやAlSi合金、AlCu合金、AlSiCu合金からなる電極を採用していることから、第2の主電極210についても、純AlやAlSi合金、AlCu合金、AlSiCu合金からなる電極を採用し、相違点1に係る構成とすることに格別の困難性は認められない。

イ 相違点2について
上記(2)イ(エ)に記載の周知技術にあるように、無電解メッキで形成された非晶質であるNiを含むニッケルめっき層について、耐食性の向上、チップの反りを抑制すること、硬度を高くすること等を目的として、加熱処理を行い、非晶質であるNiを結晶質とすることは、周知の技術である。
そして、引用発明の非晶質からなる無電解Niメッキ層7につてい、耐食性の向上、チップの反り抑制、メッキ層7の硬度等を考慮することは、当業者が当然行うことであるから、引用発明に、上記周知技術を採用することに格別の困難性は認められない。
その際に、非晶質のNiと結晶性のNiをどのような割合にするかは、コストや結晶性の割合を増やすことによる効果等を考慮して、当業者が適宜定めることであり、引用発明の無電解Niメッキ層7の結晶の割合を2%以上とすることは、当業者が容易に想到することである。

ウ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2ないし4に記載された周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2ないし4に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和元年11月13日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年10月2日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、平成30年10月2日付け手続補正でした補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない、というものである。

3 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)の記載

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する第1及び第2の主面を持つ半導体基板の前記第1の主面に第1の主電極を形成する工程と、
前記半導体基板の前記第2の主面に第2の主電極を形成する工程と、
前記第1及び第2の主電極の表面を活性化する表面活性化処理を行う工程と、
前記第1及び第2の主電極の表面を清浄化する表面清浄化処理を行う工程と、
前記表面活性化処理及び前記表面清浄化処理の後に、前記第1及び第2の主電極上にそれぞれ2%以上の結晶性Niを含む第1及び第2のNi膜を湿式成膜法により同時に形成する工程とを備えることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記第1及び第2のNi膜上にそれぞれ第1及び第2のAu膜を湿式成膜法により形成する工程を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記第1及び第2のNi膜上にそれぞれ第1及び第2のPd膜を湿式成膜法により形成する工程と、
前記第1及び第2のPd膜上にそれぞれ第1及び第2のAu膜を湿式成膜法により形成する工程とを備えることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記表面活性化処理としてプラズマクリーニングを行うことを特徴とする請求項1?3の何れか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記表面清浄化処理としてジンケート処理を行うことを特徴とする請求項1?4の何れか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記ジンケート処理を少なくとも2回実施することを特徴とする請求項5に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記第1及び第2のNi膜を形成するための前記湿式成膜法は無電解Niめっきであることを特徴とする請求項1?6の何れか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記第1及び第2のAu膜を形成するための前記湿式成膜法は無電解Auめっきであることを特徴とする請求項2又は3に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記第1及び第2のPd膜を形成するための前記湿式成膜法は無電解Pdめっきであることを特徴とする請求項3に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記第1及び第2のNi膜を形成する前に、前記半導体基板の前記第1の主面において前記第1の主電極の周囲を保護膜で囲繞する工程を更に備えることを特徴とする請求項1?9の何れか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記第1及び2の主電極の少なくとも一方はAl合金電極であることを特徴とする請求項1?10の何れか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記第1及び2の主電極の少なくとも一方は、バリアメタルと、前記バリアメタル上に設けられたAl合金電極とを有することを特徴とする請求項1?10の何れか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記第1及び2の主電極の少なくとも一方は、Al合金電極と、前記Al合金電極上に設けられたバリアメタルとを有することを特徴とする請求項5又は6に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記半導体基板はSi又はSiCであることを特徴とする請求項1?13の何れか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)及びMOSFET(MOS型電界効果トランジスタ)などの電力用半導体装置(パワーデバイス)は、産業用モータや自動車用モータなどのインバータ回路、大容量サーバの電源装置、及び無停電電源装置などの半導体スイッチとして広く用いられている。
【0003】
表裏導通型の電力用半導体装置では、オン特性などに代表される通電性能を改善するために、半導体基板が薄く加工される。近年では、コスト面・特性面を改善するため、FZ(Floating Zone)法により作製されたウエハ材料をもとに、50μm程度まで薄型化された極薄ウエハプロセスを用いて半導体装置が製造されている。
【0004】
一方、このような表裏導通型の電力用半導体装置を回路基板などに実装する場合、電力用半導体装置の裏面側を回路基板上にはんだ付けし、表面側をAlワイヤなどでワイヤボンドすることで回路基板と電気的に接続していた。近年では、電力用半導体装置の通電性能が向上したため、両面をはんだ付けすることで、電力用半導体装置を組み込んだ電力用半導体モジュールの通電性能や放熱性能を向上させる構造に変化しつつある。そのため、電力用半導体装置の表面側に形成する電極層に、はんだ付けのために数μm(ミクロン)レベルのNi(ニッケル)膜が必要とされている。蒸着又はスパッタなどの真空成膜法では、成膜速度が遅く、生産性及び製造コストの面で問題が残る。そのため、高速成膜可能な湿式成膜法である、めっきが注目されている。
【0005】
しかし、前述のウエハ薄肉化と電極厚膜化の動向から、ウエハプロセス中のウエハ反りが問題となる。具体的には、ウエハハンドリング中に予期せぬ場所にウエハ端が接触すると、ウエハ欠け又は割れが発生する。これにより、製造歩留りが低下し、製造コストの高騰を招くといった問題がある。
【0006】
このようなウエハの反りを防止するために以下の技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。半導体ウエハの裏面に真空成膜法で裏面電極を形成すると、半導体ウエハは裏面電極の成膜時の温度差に基づく応力によって表面側に凸に反った状態となる。次に、半導体ウエハの裏面をプラズマ処理し、半導体ウエハの裏面に付着する付着物を除去する。次に、めっき処理時の裏面電極汚染を防止し、かつウエハの反りを抑制するために、半導体ウエハの裏面に半導体ウエハの反りに沿って剥離テープを貼り付ける。剥離テープの貼り付け後も、半導体ウエハは、表面側に凸に反った状態を維持する。次に、半導体ウエハの表面にめっき膜を無電解めっき処理により形成する。次に、半導体ウエハから剥離テープを剥離する。その後、半導体ウエハから半導体チップを切り出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-222898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に示された技術では、安定した品質を維持するための成膜条件やテープ貼付条件などの製造条件の管理が難しい。また、裏面電極の保護のために、ウエハへのテープの貼りと剥がし工程を付与してプロセス数を増加させている。これにより、必然的にウエハのハンドリング回数も増加し、そのことに起因したウエハ破損の確率も増加する。また、テープ剥がし後の裏面電極にテープ材料の残渣などがあると、組立時の不良率も増加する。これらの理由から、製造コストを低減するのが難しいという問題がある。
【0009】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的はウエハ反りを抑制し、製造コストを削減し、導電性の高いNi膜を得ることができる半導体装置の製造方法を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る半導体装置の製造方法は、互いに対向する第1及び第2の主面を持つ半導体基板の前記第1の主面に第1の主電極を形成する工程と、前記半導体基板の前記第2の主面に第2の主電極を形成する工程と、前記第1及び第2の主電極の表面を活性化する表面活性化処理を行う工程と、前記第1及び第2の主電極の表面を清浄化する表面清浄化処理を行う工程と、前記表面活性化処理及び前記表面清浄化処理の後に、前記第1及び第2の主電極上にそれぞれ2%以上の結晶性Niを含む第1及び第2のNi膜を湿式成膜法により同時に形成する工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、表面電極と裏面電極上にそれぞれNi膜を同時に形成する。これにより、ウエハ反りを抑制し、製造コストを削減することができる。また、Ni膜に含まれる結晶性Niの割合を2%以上とすることにより導電性の高いNi膜を得ることができる。
・・・ 中 略 ・・・
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態に係る半導体装置の製造方法について図面を参照して説明する。同じ又は対応する構成要素には同じ符号を付し、説明の繰り返しを省略する場合がある。
【0014】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る半導体装置の製造方法のフローチャートである。図2?図6は、本発明の実施の形態1に係る半導体装置の製造工程を示す断面図である。本実施の形態では、表裏導通型の半導体装置の一例としてトレンチ型IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)の表裏面にはんだ付け用の電極を形成する。
【0015】
まず、図2に示すように、半導体基板1の表面側の構造を形成する(ステップS1)。具体的には、n型の半導体基板1の表面側(紙面の上方)からリン又は砒素などのイオンを注入し、活性化炉による熱処理を行ってn型電荷蓄積層2を形成する。同様にホウ素又は二フッ化ホウ素(BF2)などを注入してp型ベース層3を形成する。同様にリン又は砒素などを注入してp型ベース層3の一部にn型エミッタ層4を形成する。
【0016】
次に、半導体基板1の表面側に写真製版及びドライエッチングを行って、n型エミッタ層4、p型ベース層3及びn型電荷蓄積層2を貫通するトレンチ5を形成する。トレンチ5は紙面奥行方法に同様の断面形状が連続している。次に、熱酸化などによりトレンチ5内壁に沿ってゲート絶縁膜6を例えば100nm程度形成する。次に、トレンチ5内にポリシリコンを埋め込んでトレンチゲート7を形成する。次に、CVD(化学気相成長:Chemical Vapor Deposition)等によりトレンチゲート7上に層間絶縁膜8を形成する。電極とのコンタクトを取るために、写真製版、ドライエッチング又はウエットエッチングなどにより不要な層間絶縁膜8を取り除く。このようにして半導体基板1の表面構造が形成される。
【0017】
次に、図3に示すように、半導体基板1の表面上に、エミッタ電極9を真空蒸着法又はスパッタ法などにより例えば5μm程度形成する(ステップS2)。エミッタ電極9はp型ベース層3及びn型エミッタ層4に電気的に接続されている。エミッタ電極9の材料として純Al、AlSi合金、AlCu合金、又はAlSiCu合金を用いることができる。ただし、エミッタ電極9のAl中のSi又はCuの濃度は5wt%以下である。また、エミッタ電極9のAlと半導体基板1のSi又はSiCの間で原子の相互拡散が起こり、Alが基板側に突き出すといった、いわゆるAlスパイクという現象が発生することもある。そこで、エミッタ電極9は、Ti、Mo、W、V、Crなどの金属膜をバリアメタルとして半導体基板1とAl合金の間に設けた積層構造にしてもよい。
【0018】
また、エミッタ電極9の周囲を覆う保護膜10を形成する。保護膜10は、半導体装置表面の保護や外部との絶縁距離を確保するために設けられている。保護膜10の材料として、SiO2(シリコン酸化膜)又はSiN(シリコン窒化膜)など無機物、又は、ポリイミドなどの有機物を用いることができる。その厚みは主に1μmから10μmであり、外部との絶縁を確保するために50μm程度の厚みとすることもある。
【0019】
次に、図4に示すように、半導体基板1の裏面を研削砥石による機械加工及びフッ酸又は硝酸を含むウエットエッチングにより適切な厚さまで薄化する(ステップS3)。次に、半導体基板1の裏面側(紙面の下方)からのイオン注入と熱処理によりn型バッファ層11及びp型コレクタ層12を順に形成する(ステップS4)。なお、半導体基板1の表面に形成されたエミッタ電極9は融点が低いため、拡散炉を用いて1000℃程度まで加熱するとエミッタ電極9の融点を超えてしまう。そこで、n型バッファ層11及びp型コレクタ層12を形成するための熱処理において、裏面側だけを効率的に加熱できるレーザアニールを用いてもよい。
【0020】
次に、図5に示すように、半導体基板1の裏面にコレクタ電極13を形成する(ステップS5)。コレクタ電極13はp型コレクタ層12に電気的に接続されている。コレクタ電極13の材料として純Al、AlSi合金、AlCu合金、又はAlSiCu合金を用いることができる。
【0021】
ここで、エミッタ電極9及びコレクタ電極13の表面には強固な有機物残渣と酸化膜が形成されている。このため、一般的な脱脂と酸洗いを行った後にめっきを行っても、それらの電極のAl合金とめっき金属との間で金属拡散が生じず、強固な付着力を有するめっき膜を形成できない。そこで、以下に説明するようなめっき前処理を行う(ステップS6)。
【0022】
図7は、本発明の実施の形態1に係るめっき前処理のフローチャートである。まず、表面活性化処理として例えばプラズマを利用したプラズマクリーニングを行う(ステップS6-1)。プラズマクリーニングとはAl合金上に焼きついてしまった一般的なめっき前処理で除去できない有機物残渣を、プラズマで酸化分解するか又は叩き出して表面を清浄にする処理方法である。
【0023】
次に、Al合金の表面に残留した軽度の有機物汚染と酸化膜を除去する脱脂処理を行う(ステップS6-2)。次に、Al合金の表面を中和し、表面をエッチングして面を荒らし、後工程での処理液の反応性を高め、めっきの付着力を向上させる酸洗浄を行う(ステップS6-3)。
【0024】
次に、エミッタ電極9及びコレクタ電極13のAl合金の表面にAlの酸化膜を除去しつつZn(亜鉛)の皮膜を形成する第1ジンケート処理を行う(ステップS6-4)。具体的には、Znがイオンとして溶解した水溶液にAl合金を浸漬すると、Znの方がAlよりも標準酸化還元電位が貴であるため、Alがイオンとして溶解しこの時生じた電子によってZnイオンがAl合金の表面で電子を受け取りAl合金の表面にZnの皮膜を作る。この時にAlの酸化膜も除去される。
【0025】
次に、Znで被覆されたAl合金を濃硝酸に浸漬しZnを溶解させると共に、Al表面に薄くて均一なAl酸化物皮膜を形成するジンケート剥離を行う(ステップS6-5)。次に、再びAl合金をZn処理液に浸漬してAl合金の表面にAlの酸化膜を除去しつつZn(亜鉛)の皮膜を形成する第2ジンケート処理を行う(ステップS6-6)。これらの処理によりAl合金は薄くなると共に平滑になる。回数を増やすほどAl合金の表面は均一になり、めっき膜の出来映えも良くなるが、生産性を考慮すると2回多くても3回が好ましい。
【0026】
このようにしてめっき前処理を行う。一般的なめっき前処理と異なる点はプラズマクリーニング、ジンケート処理及びジンケート剥離が工程内に含まれていることである。なお、各工程の間には十分な水洗時間を確保し、前の工程の処理液や残渣が次工程に持ち込まれないようにする。
【0027】
次に、図6に示すように、無電解Niめっきを行うことで基板表面のエミッタ電極9と基板裏面のコレクタ電極13上にそれぞれ無電解Niめっき膜14,15を同時に形成する(ステップS7)。具体的には、Znで被覆されたエミッタ電極9及びコレクタ電極13のAl合金を無電解Niめっき液に浸漬すると、最初は、Znの方がNiよりも標準酸化還元電位が卑であるため、Al合金上にNiが析出する。続いて表面がNiで覆われると、めっき液中に含まれる還元剤の作用によって、自動触媒的にNiが析出する。ただし、この自動触媒的析出時には、還元剤の成分がめっき膜に取り込まれるため、無電解Niめっき膜14,15は合金となり、また還元剤の濃度が高いと非晶となる。一般に還元剤として次亜りん酸が利用されているため、無電解Niめっき膜14,15にはPが含まれ
ている。このような条件で、エミッタ電極9上の無電解Niめっき膜14を5.0μm、コレクタ電極13上の無電解Niめっき膜15を4.8μm形成する。また、無電解Niめっき膜14,15の中のP濃度は5.5wt%であり、X線回折により結晶性Niの存在を確認した。
【0028】
図8は、Niめっき膜中の結晶性Niの割合とNiめっき膜の抵抗値の関係を示す図である。図9は、図8の横軸の一部を拡大した図である。図6に示すようなトレンチIGBTを用いてNiめっき膜を形成していないサンプルとの比較によりNiめっき膜のみの抵抗値を調査した。この結果、Niめっき膜に含まれる結晶性Niの割合を2%以上とすることによりNiめっき膜の抵抗値が下がり、導電性が向上することを確認した。また、この実験では、無電解Niめっき膜に含まれるP濃度を変化させることによって、無電解Niめっき膜に含まれる結晶性Niの割合を変化させた。結晶性Niの割合は、無電解Niめっき膜の形成後に半導体装置を形成したウエハ全体を熱処理により加熱することで、適宜、調整することも可能である。
【0029】
以上説明したように、本実施の形態では、基板表面のエミッタ電極9と基板裏面のコレクタ電極13上にそれぞれ無電解Niめっき膜14,15を同時に形成する。これにより、めっき膜形成時のウエハ反りを抑制することができる。また、両面に対して同時にめっきによる湿式成膜を実施することでテープ貼付やテープ剥がし工程が不要となるため、ウエハハンドリング時のウエハ破損確率も低減することができる。また、テープ貼付に伴うプロセス数も減らし、製造時のエネルギー消費量を減らすことができる。よって、ウエハ反りを抑制し、製造コストを削減することができる。また、無電解Niめっき膜14,15に含まれる結晶性Niの割合を2%以上とすることにより導電性の高いNi膜を得ることができる。
【0030】
また、表面活性化処理としてプラズマクリーニングを行うことにより半導体基板1の表裏面を非接触で同時に表面活性化することができる。また、表面清浄化処理としてジンケート処理を行うことにより無電解Niめっき膜14,15を均一に形成することができる。さらに、ジンケート処理を少なくとも2回実施することにより、無電解Niめっき膜14,15の膜厚を均一にすることができる。また、無電解Niめっきを用いることで簡易な設備構成で無電解Niめっき膜14,15を形成することができる。
【0031】
また、無電解Niめっき膜14,15を形成する前に、半導体基板1の表面においてエミッタ電極9の周囲を保護膜10で囲繞する。これにより、組立に必要な部分のみに無電解Niめっき膜14,15を形成することができ、チップ周辺にはんだ材料が飛散することによる特性変動を抑制することができる。
【0032】
また、エミッタ電極9及びコレクタ電極13がAl合金電極であれば、半導体基板1との確実な接続を行うことができる。さらに、これらの電極がバリアメタルと、バリアメタル上に設けられたAl合金電極とを有することが好ましい。これにより、これらの電極を半導体基板1と接合して熱処理が行われた場合でも、Al合金とSiの相互拡散によるアルミスパイクを抑制しつつ、確実な電気的接続を行うことができる。または、これらの電極がAl合金電極と、Al合金電極上に設けられたバリアメタルとを有する構成としてもよい。これにより、ジンケート処理によるAlの浸食を抑制することができる。」

上記記載によると、当初明細書等には以下の事項が記載されていると認められる。

(1)半導体基板1の表面上に、純Al、AlSi合金、AlCu合金、又はAlSiCu合金を材料としたエミッタ電極9を形成する(ステップS2)。(段落【0017】)
(2)次に、半導体基板1の裏面に、純Al、AlSi合金、AlCu合金、又はAlSiCu合金を材料としたコレクタ電極13を形成する(ステップS5)。(段落【0020】)
(3)次に、表面活性化処理として、プラズマを利用したプラズマクリーニングを行う(ステップS6-1)。(段落【0022】)
(4)次に、Al合金の表面に残留した軽度の有機物汚染と酸化膜を除去する脱脂処理を行う(ステップS6-2)。(段落【0023】)
(5)次に、Al合金の表面を中和し、表面をエッチングして面を荒らし、後工程での処理液の反応性を高め、めっきの付着力を向上させる酸洗浄を行う(ステップS6-3)。(段落【0023】)
(6)次に、エミッタ電極9及びコレクタ電極13のAl合金の表面にAlの酸化膜を除去しつつZn(亜鉛)の皮膜を形成する第1ジンケート処理を行う(ステップS6-4)。(段落【0024】)
(7)次に、Znで被覆されたAl合金を濃硝酸に浸漬しZnを溶解させると共に、Al表面に薄くて均一なAl酸化物皮膜を形成するジンケート剥離を行う(ステップS6-5)。(段落【0025】)
(8)次に、再びAl合金をZn処理液に浸漬してAl合金の表面にAlの酸化膜を除去しつつZn(亜鉛)の皮膜を形成する第2ジンケート処理を行う(ステップS6-6)。(段落【0025】)
(9)次に、無電解Niめっきを行うことで基板表面のエミッタ電極9と基板裏面のコレクタ電極13上にそれぞれ無電解Niめっき膜14,15を同時に形成する(ステップS7)。(段落【0027】)

4 判断
上記3(1)?(3)にあるように、当初明細書等には、(3)表面活性化処理の前には、(1)半導体基板の表面上に純Al、AlSi合金、AlCu合金、又はAlSiCu合金を材料としたエミッタ電極9を形成すること、及び、(2)半導体基板1の裏面に、純Al、AlSi合金、AlCu合金、又はAlSiCu合金を材料としたコレクタ電極13を形成することしか記載されておらず、純Al、AlSi合金、AlCu合金、又はAlSiCu合金を材料としたエミッタ電極9及びコレクタ電極13を形成することは記載されているものの、エミッタ電極9及びコレクタ電極13をZnで被覆することは記載されていない。
また、Znで被覆することは、当初明細書等には、(5)酸洗浄を行った後の、(6)エミッタ電極9及びコレクタ電極13のAl合金の表面にAlの酸化膜を除去しつつZn(亜鉛)の皮膜を形成する第1ジンケート処理を行うこと、(7)Znで被覆されたAl合金を濃硝酸に浸漬しZnを溶解させると共に、Al表面に薄くて均一なAl酸化物皮膜を形成するジンケート剥離を行うこと、(8)再びAl合金をZn処理液に浸漬してAl合金の表面にAlの
酸化膜を除去しつつZn(亜鉛)の皮膜を形成する第2ジンケート処理を行うことしか記載されていない。
そうすると、平成30年10月2日付け手続補正で補正した請求項1に記載された、「表面活性化処理を行う工程」及び「表面清浄化処理を行う工程」の前に、「互いに対向する第1及び第2の主面を持つ半導体基板の前記第1の主面にZnで被覆されたAl又はAl合金から構成された第1の主電極を形成する工程」及び「前記半導体基板の前記第2の主面にZnで被覆されたAl又はAl合金から構成された第2の主電極を形成する工程」は、当初明細書等には記載されておらず、また、自明の事項であるとも認められない。
よって、上記請求項1に記載された事項を特許請求の範囲に記載することとなる平成30年10月2日付け手続補正でした補正は、当初明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるとはいえない。

5 本願発明についてのまとめ
以上のとおりであるから、本願は、平成30年10月2日付け手続補正でした補正が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえず、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないので、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-10-07 
結審通知日 2020-10-13 
審決日 2020-10-28 
出願番号 特願2015-182083(P2015-182083)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 55- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 綿引 隆早川 朋一  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 脇水 佳弘
小田 浩
発明の名称 半導体装置の製造方法  
代理人 久野 淑己  
代理人 高田 守  
代理人 高橋 英樹  

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