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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1369228
審判番号 不服2020-67  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-06 
確定日 2020-12-17 
事件の表示 特願2015-150986「防眩フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 2月 9日出願公開、特開2017- 32711〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2015-150986号(以下、「本件出願」という。)は、平成27年7月30日を出願日とする特許出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成31年 3月28日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 5月30日提出:意見書
令和 元年 5月30日提出:手続補正書
令和 元年 9月30日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。)
令和 2年 1月 6日提出:審判請求書

2 本願発明
本件出願の請求項1に係る発明は、令和元年5月30日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりの、次のものである(以下、「本願発明」という。)。
「 透明基材層と、
該透明基材層の少なくとも片側に配置され、バインダー樹脂および粒子を含む、防眩層と、
該透明基材層と該防眩層との間に形成され、該透明基材層を構成する材料の少なくとも一部および該バインダー樹脂の少なくとも一部とを含む、中間層とを備え、
該中間層の厚みが、該防眩層の厚みに対して、17.6%?123%である、
防眩フィルム。」

3 原査定の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本件出願の出願前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用例1:特開2013-33240号公報

第2 当合議体の判断
1 引用例の記載及び引用発明
(1) 引用例1の記載
原査定の拒絶の理由において引用例1として引用された特開2013-33240号公報(以下、「引用例1」という。)は、本件出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある(当合議体注:下線は当合議体が付した。)。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、防眩性フィルム、偏光板、画像表示装置および防眩性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
防眩性フィルムは、陰極管表示装置(CRT)、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)およびエレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)等の、様々な画像表示装置において、外光の反射や像の映り込みによるコントラストの低下を防止するために、ディスプレイ表面に配置される。ディスプレイの最表面に防眩性フィルムを用いる場合には、明るい環境下での使用では光の拡散により黒表示の画像が白っぽくなる「白ボケ」という問題がある。この白ボケは防眩性フィルムの防眩性(拡散性)を落とすことで対応可能であるが、トレードオフとして映り込み防止が損なわれ本来の機能を低下させることになる。このように、防眩性の向上と白ボケ改善は、一般的に相反関係にあるとされているが、これらの特性を両立させるための、種々の提案がなされている。
【0003】
・・・略・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献1では、微粒子が平面状に集合することを利用して、ベナードセルを形成することにより防眩層表面をなだらかな凹凸構造とし、防眩性とコントラストとの両立を図っている。しかし、ベナードセルを利用して所望の形状を作るためには、塗工・乾燥工程において極めて緻密な生産条件の制御が必要となる。
【0007】
一方、特許文献2では、防眩層表面をなだらかな凹凸構造とするために、粒子を凝集させて形成した防眩層の表面に、さらに表面調整層を形成した2層構造となっている。このため、防眩層が1層構造のものと比べ、製造工程が多く、生産性が悪い。
【0008】
そこで、本発明者らは、表面がなだらかな凹凸構造を有する防眩層を、粒子を凝集させて形成するとともに、生産性とコストを考慮して防眩層を2層構造ではなく、1層構成で形成すべく、新規開発に着手した。鋭意開発を進めていたところ、粒子の凝集を利用して形成した1層構成の防眩層では、外観検査(暗室における蛍光灯での目視による)で防眩性フィルムの表面に欠点が見つかるという新たな課題に直面した。この外観欠点を有する防眩性フィルムは、製品として使用できず廃棄することになる。さらに、例えば防眩性フィルムを用いて枚葉状態の偏光板にしたものに外観欠点が見つかると、その外観欠点が1箇所であっても偏光板自体を廃棄しなければならない。このため、特に大型の液晶パネル用の偏光板ほど、外観欠点に対する廃棄面積が広くなり、歩留りが極めて悪くなる。
【0009】
この外観欠点のメカニズムについて検討を重ねた結果、この原因が防眩層表面に発生する突起状物(「ブツ」とも言う)に起因することが分かった。この突起状物の外観欠点は、なだらかな表面形状を有する防眩層を形成した場合に、特に顕著に現れると考えられる。すなわち、防眩層表面の凹凸形状が粗く(算術平均表面粗さRaが高い)、防眩性が高い防眩性フィルムでは、仮にこの突起状物を有するとしても、防眩効果による光の拡散によってそれほど顕著な外観欠点として現れなかったと考えられる。
【0010】
本発明者らは、さらに検討を進めるべく、この突起状物を断面して走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、複数の粒子が防眩層の厚み方向に重なりあって存在することが、この突起状物の発生要因であることを突き止めた。
【0011】
この突起状物を防眩層から無くすためには、使用する粒子の部数を減らしたり、粒径の小さな粒子を採用したりすることが考えられる。しかし、その場合、防眩性と、白ボケの防止とを両立した所望するなだらかな表面凹凸形状を形成することは困難であった。さらに、粒子に対して防眩層の厚みを厚くして、粒子の厚み方向の重なりを防止することも考えられるが、その場合、フィルムにカールが発生する等の問題が生じてしまう。
【0012】
そこで、本発明は、粒子の凝集を利用して防眩層を形成した防眩性フィルムであり、防眩性と、白ボケの防止とを両立した優れた表示特性を有するとともに、外観欠点となる防眩層表面の突起状物の発生を防止して製品の歩留まりを向上させた防眩性フィルムおよびその製造方法を提供することを目的とする。さらには、この防眩性フィルムを用いた偏光板および画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明の防眩性フィルムは、透光性基材の少なくとも一方の面に、防眩層を有する防眩性フィルムであって、
前記防眩層が、樹脂、粒子およびチキソトロピー付与剤(チキソ剤、thixotropic agent)を含む防眩層形成材料を用いて形成されており、
前記防眩層が、前記粒子および前記チキソトロピー付与剤が凝集することによって、前記防眩層の表面に凸状部を形成する凝集部を有しており、
前記凸状部を形成する凝集部において、前記粒子が、前記防眩層の面方向に、複数集まった状態で存在することを特徴とする。
・・・略・・・
【0015】
本発明の画像表示装置は、防眩性フィルムを備える画像表示装置であって、前記防眩性フィルムが前記本発明の防眩性フィルムであることを特徴とする。
・・・略・・・
【0017】
本発明の防眩性フィルムの製造方法は、透光性基材の少なくとも一方の面に、防眩層を有する防眩性フィルムの製造方法であって、
樹脂、粒子、チキソトロピー付与剤および溶媒を含む塗工液を、前記透光性基材の少なくとも一方の面に塗工して塗膜を形成し、前記塗膜を硬化させて前記防眩層を形成する防眩層形成工程を有し、
前記塗工液として、Ti値が1.3?3.5の範囲のものを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の防眩性フィルムおよびその製造方法によれば、防眩性と、白ボケの防止とを両立した優れた表示特性を有するとともに、粒子の凝集を利用して防眩層を形成しているにもかかわらず、外観欠点となる防眩層表面の突起状物の発生を防止して製品の歩留まりを向上させることができる。さらには、この防眩性フィルムや、この防眩性フィルムを有する偏光板を用いた画像表示装置は、表示特性が優れたものになる。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の防眩性フィルムにおいて、前記チキソトロピー付与剤が、有機粘土、酸化ポリオレフィンおよび変性ウレアからなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0021】
本発明の防眩性フィルムにおいて、前記凸状部の前記防眩層の粗さ平均線からの高さが、前記防眩層の厚みの0.4倍未満であることが好ましい。
【0022】
本発明の防眩性フィルムにおいて、前記防眩層において、最大径が200μm以上の外観欠点が前記防眩層の1m^(2)あたり1個以下であることが好ましい。
【0023】
本発明の防眩性フィルムにおいて、前記防眩層の厚み(d)が3?12μmの範囲内にあり、かつ、前記粒子の粒子径(D)が2.5?10μmの範囲内にあることが好ましい。この場合において、前記厚み(d)と前記粒子径(D)との関係が、0.3≦D/d≦0.9の範囲内にあることが好ましい。
【0024】
本発明の防眩性フィルムにおいて、前記防眩層において、前記樹脂100重量部に対し、前記粒子が0.2?12重量部の範囲で含まれ、前記チキソトロピー付与剤が0.2?5重量部の範囲で含まれていることが好ましい。
【0025】
本発明の防眩性フィルムは、前記透光性基材と前記防眩層との間に、前記樹脂が前記透光性基材に浸透して形成された浸透層を有していることが好ましい。
【0026】
つぎに、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の記載により制限されない。
【0027】
本発明の防眩性フィルムは、透光性基材の少なくとも一方の面に、防眩層を有するものである。前記透光性基材は、特に制限されないが、例えば、透明プラスチックフィルム基材等があげられる。
【0028】
・・・略・・・前記透明プラスチックフィルム基材としては、光学的に複屈折の少ないものが好適に用いられる。本発明の防眩性フィルムは、例えば、保護フィルムとして偏光板に使用することもでき、この場合には、前記透明プラスチックフィルム基材としては、トリアセチルセルロース(TAC)、・・・略・・・等から形成されたフィルムが好ましい。・・・略・・・
【0029】
本発明において、前記透明プラスチックフィルム基材の厚みは、特に制限されないが、例えば、強度、取り扱い性などの作業性および薄層性などの点を考慮すると、10?500μmの範囲が好ましく、より好ましくは20?300μmの範囲であり、最適には、30?200μmの範囲である。前記透明プラスチックフィルム基材の屈折率は、特に制限されない。前記屈折率は、例えば、1.30?1.80の範囲であり、好ましくは、1.40?1.70の範囲である。
【0030】
前記防眩層は、前記樹脂、前記粒子および前記チキソトロピー付与剤を含む防眩層形成材料を用いて形成される。前記樹脂は、例えば、例えば、熱硬化性樹脂、紫外線や光で硬化する電離放射線硬化性樹脂があげられる。
・・・略・・・
【0033】
前記防眩層を形成するための粒子は、形成される防眩層表面を凹凸形状にして防眩性を付与し、また、前記防眩層のヘイズ値を制御することを主な機能とする。前記防眩層のヘイズ値は、前記粒子と前記樹脂との屈折率差を制御することで、設計することができる。前記粒子としては、例えば、無機粒子と有機粒子とがある。・・・略・・・
【0034】
前記粒子の重量平均粒径(D)は、2.5?10μmの範囲内にあることが好ましい。前記粒子の重量平均粒径を、前記範囲とすることで、例えば、より防眩性に優れ、かつ白ボケが防止できる防眩性フィルムとすることができる。前記粒子の重量平均粒径は、より好ましくは、3?7μmの範囲内である。
・・・略・・・
【0036】
前記防眩層における前記粒子の割合は、前記樹脂100重量部に対し、0.2?12重量部の範囲が好ましく、より好ましくは、0.5?12重量部の範囲であり、さらに好ましくは1?7重量部の範囲である。前記範囲とすることで、例えば、より防眩性に優れ、かつ白ボケが防止できる防眩性フィルムとすることができる。
【0037】
前記防眩層を形成するためのチキソトロピー付与剤としては、例えば、有機粘土、酸化ポリオレフィン、変性ウレア等があげられる。
【0038】
前記有機粘土は、前記樹脂との親和性を改善するために、有機化処理した粘土であることが好ましい。有機粘土としては、例えば、層状有機粘土をあげることができる。前記有機粘土は、自家調製してもよいし、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、ルーセンタイトSAN、・・・略・・・等があげられる。
【0039】
前記酸化ポリオレフィンは、自家調製してもよいし、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、ディスパロン4200-20(商品名、楠本化成(株)製)、・・・略・・・等があげられる。
【0040】
前記変性ウレアは、イソシアネート単量体あるいはそのアダクト体と有機アミンとの反応物である。前記変性ウレアは、自家調製してもよいし、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、BYK410(ビッグケミー社製)等があげられる。
・・・略・・・
【0042】
本発明の防眩性フィルムにおいて、前記凸状部の前記防眩層の粗さ平均線からの高さが、前記防眩層の厚みの0.4倍未満であることが好ましい。より好ましくは、0.01倍以上0.4倍未満の範囲であり、さらに好ましくは、0.01倍以上0.3倍未満の範囲である。この範囲であれば、前記凸状部に外観欠点となる突起物が形成されることを、好適に防止できる。本発明の防眩性フィルムは、このような高さの凸状部を有することで、外観欠点を生じにくくすることができる。ここで、前記平均線からの高さについて、図8を参照して説明する。図8は、前記防眩層の断面の二次元プロファイルの模式図であり、直線Lは、前記二次元プロファイルにおける粗さ平均線(中心線)である。前記二次元プロファイルにおける粗さ平均線からの頂部(凸状部)の高さHを、本発明における凸状部高さとする。図8において、前記凸状部のうち、前記平均線を越えている部分には、平行斜線を付している。また、前記防眩層の厚みは、防眩性フィルムの全体厚みを測定し、前記全体厚みから、透光性基材の厚みを差し引くことにより算出される、防眩層の厚みである。前記全体厚みおよび前記透光性基材の厚みは、例えば、マイクロゲージ式厚み計によって、測定することができる。
【0043】
前記防眩層における前記チキソトロピー付与剤の割合は、前記樹脂100重量部に対し、0.1?5重量部の範囲が好ましく、より好ましくは、0.2?4重量部の範囲である。
【0044】
前記防眩層の厚み(d)は、特に制限されないが、3?12μmの範囲内にあることが好ましい。前記防眩層の厚み(d)を、前記範囲とすることで、例えば、防眩性フィルムにおけるカールの発生を防ぐことができ、搬送性不良等の生産性の低下の問題を回避できる。また、前記厚み(d)が前記範囲にある場合、前記粒子の重量平均粒径(D)は、前述のように、2.5?10μmの範囲内にあることが好ましい。前記防眩層の厚み(d)と、前記粒子の重量平均粒径(D)とが、前述の組み合わせであることで、さらに防眩性に優れる防眩性フィルムとすることができる。前記防眩層の厚み(d)は、より好ましくは、3?8μmの範囲内である。
【0045】
前記防眩層の厚み(d)と前記粒子の重量平均粒径(D)との関係は、0.3≦D/d≦0.9の範囲内にあることが好ましい。このような関係にあることにより、より防眩性に優れ、かつ白ボケが防止でき、さらに、外観欠点のない防眩性フィルムとすることができる。
【0046】
本発明の防眩性フィルムでは、前述のように、前記防眩層は、前記粒子および前記チキソトロピー付与剤が凝集することによって、前記防眩層の表面に凸状部を形成する凝集部を有しており、前記凸状部を形成する凝集部において、前記粒子が、前記防眩層の面方向に、複数集まった状態で存在する。これにより、前記凸状部が、なだらかな形状となっている。本発明の防眩性フィルムは、このような形状の凸状部を有することで、防眩性を維持しつつ、かつ、白ボケを防止することができ、さらに、外観欠点を生じにくくすることができる。
【0047】
防眩層の表面形状は、防眩層形成材料に含まれる粒子の凝集状態を制御することで、任意に設計することができる。前記粒子の凝集状態は、例えば、前記粒子の材質(例えば、粒子表面の化学的修飾状態、溶媒や樹脂に対する親和性等)、樹脂(バインダー)または溶媒の種類、組合せ等により制御できる。ここで、本発明では、前記防眩層形成材料に含まれるチキソトロピー付与剤により、前記粒子の凝集状態をコントロールすることができる。この結果、本発明では、前記粒子の凝集状態を前述のようにすることができ、前記凸状部を、なだらかな形状とすることができる。
【0048】
本発明の防眩性フィルムにおいて、透光性基材が樹脂等から形成されている場合、前記透光性基材と防眩層との界面において、浸透層を有していることが好ましい。前記浸透層は、前記防眩層の形成材料に含まれる樹脂成分が、前記透光性基材に浸透して形成される。浸透層が形成されると、透光性基材と防眩層との密着性を向上させることができ、好ましい。前記浸透層は、厚みが0.2?3μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.5?2μmの範囲である。例えば、前記透光性基材がトリアセチルセルロースであり、前記防眩層に含まれる樹脂がアクリル樹脂である場合には、前記浸透層を形成させることができる。前記浸透層は、例えば、防眩性フィルムの断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することで、確認することができ、厚みを測定することができる。
【0049】
本発明の防眩性フィルムでは、このような浸透層を有する防眩性フィルムに適用した場合であっても、防眩性と、白ボケの防止とを両立した所望するなだらかな表面凹凸形状を容易に形成することができる。前記浸透層は、前記防眩層との密着性が乏しい透光性基材であるほど、密着性の向上のため、厚く形成することが好ましい。
【0050】
図9Aに、本発明の防眩性フィルムの一例の構成を模式的に示す。図9Aの模式図に示すように、防眩層11において、粒子12およびチキソトロピー付与剤13が凝集して防眩層11の表面に凸状部14が形成されている。粒子12およびチキソトロピー付与剤13の凝集状態は、特に限定されないが、粒子12の少なくとも周りにチキソトロピー付与剤13が存在する傾向にある。凸状部14を形成する凝集部において、粒子12は、防眩層11の面方向に複数集まった状態で存在している。この結果、凸状部14は、なだらかな形状となっている。一方、前記防眩層に前記チキソトロピー付与剤が含まれていない場合、図9Bの模式図に示すように、防眩層11において、粒子12が、防眩層11の面方向だけでなく、その厚み方向にも複数凝集し、凸状部14aおよび14bが形成される。粒子12の面方向の凝集と厚み方向の凝集の度合いにより、例えば、防眩層11の表面に、凸状部14aおよび凸状部14bのような凸状部が形成されることにより外観欠点および白ボケが発生しやすくなる。
・・・略・・・
【0052】
図10Aは、本発明の防眩性フィルムにおいて、防眩層における凝集状態のメカニズムを説明するために、本発明の防眩性フィルムの厚み方向の断面を側面から見た状態を、模式的に示す概略説明図である。図10Bは、本発明とは異なる粒子の凝集状態を、模式的に示す概略説明図である。図10Aおよび図10Bにおいて、(a)は、溶媒を含む前記防眩層形成材料(塗工液)を、透光性基材に塗工等して塗膜を形成した状態を示し、(b)は、塗膜から溶媒を除去して防眩層を形成した状態を示す。
【0053】
図10Aの場合では、樹脂、粒子およびチキソトロピー付与剤を含む防眩層形成材料を用いて防眩層を形成しているのに対し、図10Bの場合では、防眩層形成材料がチキソトロピー付与剤を含んでいない。なお、図10Aでは、図面の見易さを考慮して、前記チキソトロピー付与剤の図示を省略している。
【0054】
以下、図10Aを参照して、前述のような、なだらかな凸状部が形成されるメカニズムを説明する。図10A(a)および(b)に示すように、前記塗膜に含まれる溶媒を除去することで、塗膜の膜厚は収縮(減少)する。塗膜の下面側(裏面側)は前記透光性基材でとまっているため、前記塗膜の収縮は、前記塗膜の上面側(表面側)から起こる。図10A(a)において、前記塗膜の膜厚が減った部分に存在する粒子(例えば、粒子1、粒子4および粒子5)は、この膜厚減少により、前記塗膜の下面側に移動しようとする。これに対し、膜厚変化の影響を受けないか、影響を受けにくい下面寄りの比較的低い位置に存在する粒子(例えば、粒子2、粒子3および粒子6)は、防眩層形成材料に含まれるチキソトロピー付与剤の沈降防止効果(チキソトロピー効果)により、下面側への移動が抑制されている(例えば、二点鎖線10より下面側には移動しない)。このため、前記塗膜の収縮が起こっても、下面側の粒子(粒子2、粒子3および粒子6)は、表面側から移動しようとする粒子(粒子1、粒子4および粒子5)により、下方(裏面側)へ押されず、ほぼその位置に留まっている。前記下面側の粒子(粒子2、粒子3および粒子6)がほぼその位置に留まるため、前記表面側から移動しようとする粒子(粒子1、粒子4および粒子5)は、前記下面側の粒子が存在していない、前記下面側の粒子の隣(前記塗膜の面方向)に移動する。このようにして、本発明の防眩性フィルムでは、前記防眩層において、前記粒子が前記防眩層の面方向に複数集まった状態で存在していると推察される。
【0055】
以上のようにして、前記防眩層において、前記粒子が前記防眩層の面方向に凝集するため、図10A(b)に示すように、前記凸状部が、なだらかな形状となる。また、前記防眩層に、沈降防止効果を有するチキソトロピー付与剤が含まれることで、前記粒子が防眩層の厚み方向に過度に凝集することが回避される。これによって、外観欠点となる防眩層表面の突起状物の発生を防止できる。
【0056】
一方、防眩層形成材料がチキソトロピー付与剤を含んでいない場合では、粒子にはチキソトロピー付与剤の沈降防止効果が働かない。このため、前記膜厚の収縮により、図10B(a)に示すように、下面側の粒子(粒子2、粒子3および粒子6)は、上面側の他の粒子(粒子1、粒子4および粒子5)と共に、透光性基材面側に沈降して集まる(例えば、二点鎖線10より下面側に移動して集まる)。このため、図10B(b)に示すように、前記粒子が前記防眩層の厚み方向に過度に凝集する部分が発生する場合がある。そして、この部分が外観欠点となる防眩層表面の突起状物になると推察される。
・・・略・・・
【0058】
つぎに、前述の推察されるメカニズムにおいて、前記透光性基材と前記防眩層との間に、前述の浸透層が形成される場合について、図10Cおよび図10Dの概略説明図を参照して説明する。図10Cは、図10Aを参照して説明したのと同様に、本発明の防眩性フィルムについての概略説明図であり、図10Dは、図10Bを参照して説明したのと同様に、本発明とは異なる防眩性フィルムについての概略説明図である。図10Cおよび図10Dにおいて、(a)は、塗膜から溶媒を除去して防眩層が形成される途中の状態を示し、(b)は、塗膜から溶媒を除去して防眩層を形成した状態を示す。図10Cおよび図10Dにおいて、前記浸透層には、平行斜線を付している。なお、本発明は、以下の説明により、なんら制限および限定されない。
【0059】
図10Cを参照して、本発明の防眩性フィルムの場合について説明する。図10C(a)および(b)に示すように、前記塗膜に含まれる溶媒を除去することで、前記塗膜の膜厚が収縮(減少)して防眩層が形成される。さらに前記防眩層の形成とともに、前記防眩層形成材料に含まれる樹脂が前記透光性基材に浸透することで、前記防眩層と透光性基材との間に浸透層が形成される。図10C(a)に示すように、前記浸透層が形成される前の状態では、前記チキソトロピー付与剤の沈降防止効果により、前記粒子は、前記透光性基材と接さずに、離れた状態で存在する傾向にある。そして、前記浸透層が形成される際には、前記透光性基材側に位置する樹脂、すなわち、前記粒子の下方(透光性基材側)に位置する樹脂が主に前記浸透層に浸透していく。これにより、本発明では、前記透光性基材への前記樹脂の浸透に追随して、前記防眩層の面方向に凝集した粒子群とそれを覆う樹脂とが一緒になって、前記透光性基材側に移動する。すなわち、前記粒子は、図10C(a)に示す凝集状態を維持しながら、図10C(b)に示すように、前記透光性基材側に移動する。これにより、前記防眩層表面側の粒子群とそれを覆う前記樹脂がその表面形状を維持しながら、全体としてあたかも前記透光性基材側へ落ち込むような状態をとる。これにより、本発明の防眩性フィルムでは、前記防眩層の表面形状の変化を受けにくいと推察される。
【0060】
さらに、本発明では、前記チキソトロピー付与剤により、前記樹脂がチキソトロピー(チキソ性)を有している。このため、前記浸透層を厚く形成した場合でも、前記粒子群の表面を覆って凸状部を構成する樹脂は、前記透明性基材側へ移動しにくいと推察される。このような効果も相まって、本発明の防眩性フィルムでは、前記防眩層の表面形状の変化を受けにくいと推察される。
【0061】
以上のように、本発明では、前記防眩層の厚さ方向における粒子と前記透光性基材との位置関係と、前記チキソトロピー付与剤のチキソ性との相乗効果により、前記浸透層を有するものであっても、防眩層の表面形状の変化を受けにくいと推察される。
【0062】
図10Dを参照して、チキソトロピー付与剤を含まない、本発明とは異なる防眩性フィルムの場合について説明する。チキソトロピー付与剤を含んでいない場合、前述のように、粒子にはチキソトロピー付与剤の沈降防止効果が働かない。したがって、図10D(a)に示すように、前記粒子は、前記透光性基材に接した位置で存在する傾向にある。さらに、前記樹脂が前記透光性基材に浸透することで形成される浸透層に、前記粒子は移動することができない。このため、前記浸透層が形成される際には、図10D(a)に示す粒子群は、前記透光性基材に接した状態でその位置に留まり、前記粒子群の周りの樹脂だけが、前記透光性基材へ浸透していくことになる。その結果、図10D(b)に示すように、その位置で留まる前記粒子群に対して前記防眩層表面の樹脂の量が減ることになるため、前記防眩層の表面形状が変化しやすくなり、外観欠点となる防眩層表面の突起状物がより一層目立ち易くなると推察される。
【0063】
本発明の防眩性フィルムは、前記防眩層において、最大径が200μm以上の外観欠点が前記防眩層の1m^(2)あたり1個以下であることが好ましい。より好ましくは、前記外観欠点が無いことである。
【0064】
本発明の防眩性フィルムは、へイズ値が0?10%の範囲内であることが好ましい。前記ヘイズ値とは、JIS K 7136(2000年版)に準じた防眩性フィルム全体のヘイズ値(曇度)である。前記ヘイズ値は、0?5%の範囲がより好ましく、さらに好ましくは、0?3%の範囲である。ヘイズ値を上記範囲とするためには、前記粒子と前記樹脂との屈折率差が0.001?0.02の範囲となるように、前記粒子と前記樹脂とを選択することが好ましい。ヘイズ値が前記範囲であることにより、鮮明な画像が得られ、また、暗所でのコントラストを向上させることができる。
【0065】
本発明の防眩性フィルムは、前記防眩層表面の凹凸形状において、JIS B 0601(1994年版)に規定される算術平均表面粗さRaが0.02?0.3μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.03?0.2μmの範囲である。防眩性フィルムの表面における外光や像の映り込みを防ぐためには、ある程度の表面の荒れがあることが好ましいが、Raが0.02μm以上あることで前記映り込みを改善することができる。前記Raが上記範囲にあると、画像表示装置等に使用したときに、斜め方向から見た場合の反射光の散乱が抑えられ、白ボケが改善されるとともに、明所でのコントラストも向上させることができる。
【0066】
前記凹凸形状は、JIS B0601(1994年版)にしたがって測定した表面の平均凹凸間距離Sm(mm)が0.05?0.4の範囲であることが好ましく、より好ましくは、0.05?0.3の範囲、さらに好ましくは0.08?0.3の範囲、最も好ましくは、0.8?0.25の範囲である。前記範囲とすることで、例えば、より防眩性に優れ、かつ白ボケが防止できる防眩性フィルムとすることができる。
【0067】
本発明の防眩性フィルムは、前記防眩層表面の凹凸形状において、平均傾斜角θa(°)が0.1?1.5の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.2?1.0の範囲である。ここで、前記平均傾斜角θaは、下記数式(1)で定義される値である。前記平均傾斜角θaは、例えば、後述の実施例に記載の方法により測定される値である。
平均傾斜角θa=tan^(-1)Δa (1)
【0068】
前記数式(1)において、Δaは、下記数式(2)に示すように、JIS B 0601(1994年度版)に規定される粗さ曲線の基準長さLにおいて、隣り合う山の頂点と谷の最下点との差(高さh)の合計(h1+h2+h3・・・+hn)を前記基準長さLで割った値である。前記粗さ曲線は、断面曲線から、所定の波長より長い表面うねり成分を位相差補償形高域フィルタで除去した曲線である。また、前記断面曲線とは、対象面に直角な平面で対象面を切断したときに、その切り口に現れる輪郭である。
Δa=(h1+h2+h3・・・+hn)/L (2)
【0069】
Ra、Smおよびθaがすべて、上記範囲にあると、より防眩性に優れ、かつ白ボケが防止できる防眩性フィルムとすることができる。
【0070】
前記防眩層を形成するにあたり、調製した防眩層形成材料(塗工液)がチキソ性を示していることが好ましく、下記で規定されるTi値が、1.3?3.5の範囲にあることが好ましく、より好ましくは1.3?2.8の範囲である。
Ti値=β1/β2
ここで、β1はHAAKE社製レオストレス6000を用いてずり速度20(1/s)の条件で測定される粘度、β2はHAAKE社製レオストレス6000を用いてずり速度200(1/s)の条件で測定される粘度である。
【0071】
Ti値が、1.3未満であると、外観欠点が生じやすくなり、防眩性、白ボケについての特性が悪化する。また、Ti値が、3.5を超えると、前記粒子が凝集しにくく分散状態となりやすくなり、本発明の防眩性フィルムが得られにくくなる。
【0072】
本発明の防眩性フィルムの製造方法は、特に制限されず、いかなる方法で製造されてもよいが、例えば、前記本発明の防眩性フィルムの製造方法により製造できる。前記本発明の防眩性フィルムの製造方法により製造された防眩性フィルムは、上述の本発明の防眩性フィルムと同様の特性を備えていることが好ましい。本発明の防眩性フィルムは、具体的には、例えば、前記樹脂、前記粒子、前記チキソトロピー付与剤および溶媒を含む防眩層形成材料(塗工液)を準備し、前記防眩層形成材料(塗工液)を前記透明プラスチックフィルム基材等の前記透光性基材の少なくとも一方の面に塗工して塗膜を形成し、前記塗膜を硬化させて前記防眩層を形成することにより、製造できる。
・・・略・・・
【0073】
前記溶媒は、特に制限されず、種々の溶媒を使用可能であり、一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。前記樹脂の組成、前記粒子および前記チキソトロピー付与剤の種類、含有量等に応じて、本発明の防眩性フィルムを得るために、最適な溶媒種類や溶媒比率が存在する。溶媒としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、2-メトキシエタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ジイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類等があげられる。
【0074】
透光性基材として、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)を採用して浸透層を形成する場合は、TACに対する良溶媒が好適に使用できる。その溶媒としては、例えば、酢酸エチル、メチルエチルケトン、シクロペンタノンなどをあげることができる。
【0075】
また、溶媒を適宜選択することによって、チキソトロピー付与剤による防眩層形成材料(塗工液)へのチキソ性を良好に発現させることができる。例えば、有機粘土を用いる場合には、トルエンおよびキシレンを好適に、単独使用または併用することができ、例えば、酸化ポリオレフィンを用いる場合には、メチルエチルケトン、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルメーテルを好適に、単独使用または併用することができ、例えば、変性ウレアを用いる場合には、酢酸ブチルおよびメチルイソブチルケトンを好適に、単独使用または併用することができる。
【0076】
前記防眩層形成材料には、各種レベリング剤を添加することができる。前記レベリング剤としては、塗工ムラ防止(塗工面の均一化)を目的に、例えば、フッ素系またはシリコーン系のレベリング剤を用いることができる。本発明では、防眩層表面に防汚性が求められる場合、または、後述のように反射防止層(低屈折率層)や層間充填剤を含む層が防眩層上に形成される場合などに応じて、適宜レベリング剤を選定することができる。本発明では、例えば、前記チキソトロピー付与剤を含ませることで塗工液にチキソ性を発現させることができるため、塗工ムラが発生しにくい。このため、本発明は、例えば、前記レベリング剤の選択肢を広げられるという優位点を有している。
・・・略・・・
【0081】
前記防眩層形成材料を塗工して透明プラスチックフィルム基材等の前記透光性基材の上に塗膜を形成し、前記塗膜を硬化させる。前記硬化に先立ち、前記塗膜を乾燥させることが好ましい。前記乾燥は、例えば、自然乾燥でもよいし、風を吹きつけての風乾であってもよいし、加熱乾燥であってもよいし、これらを組み合わせた方法であってもよい。
【0082】
前記防眩層形成材料の塗膜の硬化手段は、特に制限されないが、紫外線硬化が好ましい。
・・・略・・・
【0089】
本発明の防眩性フィルムおよびその製造方法において、前記透明プラスチックフィルム基材等の前記透光性基材および前記防眩層の少なくとも一方に対し表面処理を行うことが好ましい。前記透明プラスチックフィルム基材表面を表面処理すれば、前記防眩層または偏光子若しくは偏光板との密着性がさらに向上する。また、前記防眩層表面を表面処理すれば、前記反射防止層または偏光子若しくは偏光板との密着性がさらに向上する。
・・・略・・・
【0099】
本発明の画像表示装置は、本発明の防眩性フィルムを用いる以外は、従来の画像表示装置と同様の構成である。例えば、LCDの場合、液晶セル、偏光板等の光学部材、および必要に応じ照明システム(バックライト等)等の各構成部品を適宜に組み立てて駆動回路を組み込むこと等により製造できる。
【0100】
本発明の画像表示装置は、任意の適切な用途に使用される。その用途は、例えば、パソコンモニター、ノートパソコン、コピー機等のOA機器、携帯電話、時計、デジタルカメラ、携帯情報端末(PDA)、携帯ゲーム機等の携帯機器、ビデオカメラ、テレビ、電子レンジ等の家庭用電気機器、バックモニター、カーナビゲーションシステム用モニター、カーオーディオ等の車載用機器、商業店舗用インフォメーション用モニター等の展示機器、監視用モニター等の警備機器、介護用モニター、医療用モニター等の介護・医療機器等である。」

ウ 「【実施例】
【0101】
つぎに、本発明の実施例について、比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、以下の実施例および比較例により制限されない。なお、下記実施例および比較例における各種特性は、下記の方法により評価または測定を行った。
【0102】
(ヘイズ値)
へイズ値の測定方法は、JIS K 7136(2000年版)のヘイズ(曇度)に準じ、ヘイズメーター((株)村上色彩技術研究所製、商品名「HM-150」)を用いて測定した。
【0103】
(表面形状測定)
防眩性フィルムの防眩層が形成されていない面に、松浪ガラス工業(株)製のガラス板(厚み1.3mm)を粘着剤で貼り合わせ、高精度微細形状測定器(商品名;サーフコーダET4000、(株)小坂研究所製)を用いて、カットオフ値0.8mmの条件で前記防眩層の表面形状を測定し、算術平均表面粗さRa、平均凹凸間距離Smおよび平均傾斜角θaを求めた。なお、前記高精度微細形状測定器は、前記算術平均表面粗さRaおよび前記平均傾斜角θaを自動算出する。前記算術平均表面粗さRaおよび前記平均傾斜角θaは、JIS B 0601(1994年版)に基づくものである。前記平均凹凸間距離Smは、JIS B0601(1994年版)にしたがって測定した表面の平均凹凸間距離(mm)である。
【0104】
(防眩性評価)
(1)防眩性フィルムの防眩層が形成されていない面に、黒色アクリル板(三菱レイヨン(株)製、厚み2.0mm)を粘着剤で貼り合わせ、裏面の反射をなくしたサンプルを作製した。
(2)一般的にディスプレイを用いるオフィス環境下(約1000Lx)において、サンプルを蛍光灯(三波長光源)で照らし、上記で作製したサンプルの防眩性を、下記の基準で目視にて判定した。
判定基準
AA:防眩性に極めて優れ、写り込む蛍光灯の輪郭の像を残さない
A :防眩性が良好であるが、写り込む蛍光灯の輪郭の像がわずかに残る。
B :防眩性に劣り、蛍光灯の輪郭の像が写り込む。
C :防眩性がほとんどない。
【0105】
(白ボケ評価)
(1)防眩性フィルムの防眩層が形成されていない面に、黒色アクリル板(日東樹脂工業(株)製、厚み1.0mm)を粘着剤で貼り合わせ、裏面の反射をなくしたサンプルを作製した。
(2)一般的にディスプレイを用いるオフィス環境下(約1000Lx)にて、上記で作製したサンプルの平面に対し垂直方向を基準(0°)として60°の方向から見て、白ボケ現象を目視により観察し、下記の判定基準で評価した。
判定基準
AA:白ボケがほとんどない。
A :白ボケがあるが、視認性への影響は小さい。
B :白ボケが強く、視認性を著しく低下させる。
【0106】
(微粒子の重量平均粒径)
コールターカウント法により、微粒子の重量平均粒径を測定した。具体的には、細孔電気抵抗法を利用した粒度分布測定装置(商品名:コールターマルチサイザー、ベックマン・コールター社製)を用い、微粒子が細孔を通過する際の微粒子の体積に相当する電解液の電気抵抗を測定することにより、微粒子の数と体積を測定し、重量平均粒径を算出した。
【0107】
(防眩層の厚み)
(株)ミツトヨ製のマイクロゲージ式厚み計を用い、防眩性フィルムの全体厚みを測定し、前記全体厚みから、透光性基材の厚みを差し引くことにより、防眩層の厚みを算出した。
【0108】
(凸状部高さ)
防眩性フィルムの防眩層が形成されていない面に、松浪ガラス工業(株)製のガラス板(厚み1.3mm)を粘着剤で貼り合わせ、非接触式3次元表面形状測定器(商品名;Wyko、日本ビーコ(株)製)を用いて、対物レンズ10倍、測定面積595μm×452μmにて、前記防眩層の表面形状を測定した。次いで、前記領域で得られた表面形状における凸状部の中心を通る直線で断面した二次元プロファイルを得た。得られた二次元プロファイルにおける中心線(粗さ平均線)からの頂部(凸状部)の高さを、凸状部高さとして算出した。
【0109】
(外観評価)
1m^(2)の防眩性フィルムを用意し、暗室内で蛍光灯(1000Lx)を用いて、30cmの距離から外観欠点について目視で確認した。確認された外観欠点について、目盛り付きのルーペを用いて観察し、外観欠点の大きさ(最大径)を測定し、200μm以上であるものの個数をカウントした。
【0110】
(凝集状態評価)
防眩性フィルムの面を、垂直方向から光学顕微鏡(オリンパス(株)製、「MX61L」)を用いて、半透過モードで、倍率を500倍として粒子の分布を確認した。粒子が隣り合わせになっているものを面方向に凝集しているものと判断した。
【0111】
(浸透層の厚み)
防眩性フィルムの断面を切断し、その切断面について、透過型電子顕微鏡(TEM、日立製作所(株)製、「H-7650」)で、加速電圧100kVの条件で観察し、樹脂が透光性基材に浸透して形成された浸透層の厚みを測定した。
【0112】
(実施例1)
防眩層形成材料に含まれる樹脂として、紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂(日本合成化学工業(株)製、商品名「UV1700B」、固形分100%)80重量部、および、ペンタエリストールトリアクリレートを主成分とする多官能アクリレート(大阪有機化学工業(株)製、商品名「ビスコート#300」、固形分100%)20重量部を準備した。前記樹脂の樹脂固形分100重量部あたり、前記粒子としてアクリルとスチレンの共重合粒子(積水化成品工業(株)製、商品名「テクポリマー」、重量平均粒径:5.0μm、屈折率:1.520)を2重量部、前記チキソトロピー付与剤として有機粘土である合成スメクタイト(コープケミカル(株)製、商品名「ルーセンタイトSAN」)を1.5重量部、光重合開始剤(BASF社製、商品名「イルガキュア907」)を3重量部、レベリング剤(DIC(株)製、商品名「PC4100」、固形分10%)を0.5部混合した。なお、前記有機粘土は、トルエンで固形分が6.0%になるよう希釈して用いた。この混合物を、固形分濃度が40重量%となるように、トルエン/シクロペンタノン(CPN)混合溶媒(重量比80/20)で希釈して、防眩層形成材料(塗工液)を調製した。なお、前記防眩層形成材料(塗工液)の粘度から算出される下記Ti値は、2.0であった。
Ti値=β1/β2
ここで、β1はHAAKE社製レオストレス6000を用いてずり速度20(1/s)の条件で測定される粘度、β2はHAAKE社製レオストレス6000を用いてずり速度200(1/s)の条件で測定される粘度である。
【0113】
透光性基材として、透明プラスチックフィルム基材(トリアセチルセルロースフィルム、富士フイルム(株)製、商品名「フジタック」、厚さ:60μm、屈折率:1.49)を準備した。前記透明プラスチックフィルム基材の片面に、前記防眩層形成材料(塗工液)を、コンマコータを用いて塗布して塗膜を形成した。そして、この塗膜が形成された透明プラスチックフィルム基材を、約30°の角度で傾斜させながら乾燥工程へと搬送した。乾燥工程において、90℃で2分間加熱することにより前記塗膜を乾燥させた。その後、高圧水銀ランプにて積算光量300mJ/cm^(2)の紫外線を照射し、前記塗膜を硬化処理して厚み7.5μmの防眩層を形成し、実施例1の防眩性フィルムを得た。得られた防眩性フィルムについて、断面のTEM観察を行い浸透層の厚みを測定した、TEM写真を図7に示す。前記防眩性フィルムにおける浸透層の厚みは、1μmであった。
【0114】
(実施例2)
前記粒子としてアクリルとスチレンの共重合粒子(積水化成品工業(株)製、商品名「テクポリマー」、重量平均粒径:3.0μm、屈折率:1.52)を用いたこと以外は、実施例1と同様な方法にて、実施例2の防眩性フィルムを得た。なお、前記防眩層形成材料(塗工液)のTi値は、2.0であった。また、前記防眩性フィルムにおける浸透層の厚みは、1μmであった。
【0115】
(実施例3)
前記粒子としてアクリルとスチレンの共重合粒子(積水化成品工業(株)製、商品名「テクポリマー」、重量平均粒径:6.0μm、屈折率:1.52)を用いたこと以外は、実施例1と同様な方法にて、実施例3の防眩性フィルムを得た。なお、前記防眩層形成材料(塗工液)のTi値は、2.0であった。また、前記防眩性フィルムにおける浸透層の厚みは、1μmであった。
【0116】
(実施例4)
実施例1と同様に調製した混合物を、固形分濃度が35重量%となるように希釈して、防眩層形成材料(塗工液)を調製したこと以外は、実施例1と同様な方法にて、実施例4の防眩性フィルムを得た。なお、前記防眩層形成材料(塗工液)のTi値は、2.0であった。また、前記防眩性フィルムにおける浸透層の厚みは、1μmであった。
【0117】
(実施例5)
前記粒子としてアクリルとスチレンの共重合粒子(積水化成品工業(株)製、商品名「テクポリマー」、重量平均粒径:1.5μm、屈折率:1.52)を用いたこと以外は、実施例1と同様な方法にて、実施例5の防眩性フィルムを得た。なお、前記防眩層形成材料(塗工液)のTi値は、2.0であった。また、前記防眩性フィルムにおける浸透層の厚みは、1μmであった。
【0118】
(実施例6)
前記チキソトロピー付与剤として酸化ポリオレフィン(楠本化成(株)製、商品名「ディスパロン4200-20」)4.0重量部を用いて調製した混合物を、固形分濃度が32重量%となるように、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)/CPN混合溶媒(重量比80/20)で希釈して、防眩層形成材料(塗工液)を調製したこと以外は、実施例1と同様な方法にて、実施例6の防眩性フィルムを得た。前記酸化ポリオレフィンは、PMで固形分が6%になるよう希釈して用いた。なお、前記防眩層形成材料(塗工液)のTi値は、1.7であった。また、前記防眩性フィルムにおける浸透層の厚みは、1μmであった。
【0119】
(実施例7)
前記チキソトロピー付与剤として変性ウレア(ビックケミ-社製、商品名「BYK410」)0.5重量部を用いて調製した混合物を、固形分濃度が45重量%となるように、メチルイソブチルケトン(MIBK)/CPN混合溶媒(重量比80/20)で希釈して、防眩層形成材料(塗工液)を調製したこと以外は、実施例1と同様な方法にて、実施例7の防眩性フィルムを得た。前記変性ウレアは、MIBKで固形分が6%になるよう希釈して用いた。なお、前記防眩層形成材料(塗工液)のTi値は、1.8であった。また、前記防眩性フィルムにおける浸透層の厚みは、1μmであった。
・・・略・・・
【0131】
このようにして得られた実施例1?14および比較例1?4の各防眩性フィルムについて、各種特性を測定若しくは評価した。その結果を、図1?図6および下記表1に示す。
【0132】
【表1】



【0133】
前記表1に示すように、実施例においては、外観評価、防眩性および白ボケのすべてについて、良好な結果が得られた。一方、チキソトロピー付与剤を添加していない比較例1?4については、外観評価において、外観欠点が認められ、比較例1、2および4では、防眩性についても、実施例よりも劣る結果となった。このように、比較例においては、上記のすべての特性について良好なものは得られなかった。
【0134】
・・・略・・・前記実施例で得られた防眩性フィルムと前記比較例で得られた防眩性フィルムとを比べると、前記実施例で得られた防眩性フィルムの表面形状は、なだらかな凹凸となっていることがわかる。このようななだらかな表面凹凸形状を実現したことにより、防眩性フィルムとして良好なものを得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の防眩性フィルムおよびその製造方法によれば、防眩性と、白ボケの防止とを両立した優れた表示特性を示す。さらに、外観欠点も発生しにくい。したがって、本発明の防眩性フィルムは、例えば、偏光板等の光学部材、液晶パネル、および、LCD(液晶ディスプレイ)やOLED(有機ELディスプレイ)等の画像表示装置に好適に使用でき、その用途は制限されず、広い分野に適用可能である。
【符号の説明】
【0136】
1?6、12 粒子
11 防眩層
13 チキソトロピー付与剤
14、14a、14b 凸状部」

エ 「【図7】




オ 「【図8】




カ 「【図9A】




キ 「【図9B】




ク 「【図10A】




ケ 「【図10B】




コ 「【図10C】




サ 「【図10D】




(2) 引用発明
ア 引用例1の実施例1の「防眩性フィルム」は、図7のTEM写真からも看取される「浸透層」を具備するところ、「浸透層の厚みは、1μm」(【0113】)である。また、「浸透層」に関して、引用例1の段落【0048】には、「本発明の防眩性フィルムにおいて、透光性基材が樹脂等から形成されている場合、前記透光性基材と防眩層との界面において、浸透層を有していることが好ましい。前記浸透層は、前記防眩層の形成材料に含まれる樹脂成分が、前記透光性基材に浸透して形成される。」との記載がある。
上記記載からみて、実施例1の「防眩性フィルム」は、「透光性基材と防眩層との界面において浸透層を有し」、「浸透層の厚みは1μmであり」、「浸透層は」、「防眩層」「形成材料に含まれる樹脂」「が」「透光性基材に浸透して形成される」ものと理解できる。

イ 上記(1)ア?サ及び上記アより、引用例1には、実施例1として、以下の「防眩性フィルム」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「 防眩層形成材料に含まれる樹脂として、紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂(固形分100%)80重量部、及び、ペンタエリストールトリアクリレートを主成分とする多官能アクリレート(固形分100%)20重量部を準備し、樹脂の樹脂固形分100重量部あたり、粒子としてアクリルとスチレンの共重合粒子(重量平均粒径:5.0μm、屈折率:1.520)を2重量部、チキソトロピー付与剤として有機粘土である合成スメクタイトを1.5重量部、光重合開始剤を3重量部、レベリング剤(固形分10%)を0.5部混合し、なお、有機粘土は、トルエンで固形分が6.0%になるよう希釈して用い、この混合物を、固形分濃度が40重量%となるように、トルエン/シクロペンタノン(CPN)混合溶媒(重量比80/20)で希釈して、防眩層形成材料(塗工液)を調製し、
透光性基材として、透明プラスチックフィルム基材(トリアセチルセルロースフィルム、厚さ:60μm、屈折率:1.49)を準備し、
透明プラスチックフィルム基材の片面に防眩層形成材料(塗工液)を塗布して塗膜を形成し、この塗膜が形成された透明プラスチックフィルム基材を、約30°の角度で傾斜させながら乾燥工程へと搬送し、乾燥工程において、90℃で2分間加熱することにより前記塗膜を乾燥させ、その後、前記塗膜を硬化処理して厚み7.5μmの防眩層を形成して得られた、防眩性フィルムであって、
透光性基材と防眩層との界面において浸透層を有し、浸透層の厚みは1μmであり、浸透層は、防眩層形成材料に含まれる樹脂が透光性基材に浸透して形成される、
防眩性フィルム。」

2 対比
本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりである。
(1) 引用発明の「防眩性フィルム」の製造工程及び構造は、上記1(2)イに記載のとおりである。
引用発明の製造工程及び構造からみて、「引用発明」の「防眩性フィルム」は、「透光性基材」の「片面」に「防眩層を形成して得られた」ものであって、「透光性基材と防眩層との界面に」、「防眩層形成材料に含まれる樹脂が透光性基材に浸透して形成される」、「厚み」「1μm」の「浸透層」を有する。
そうすると、引用発明は、「透光性基材」から「浸透層」を除いた部分(以下「透光性基材非浸透部分」という。)の片側の上に、「厚み」「1μm」の「浸透層」、「防眩層」がこの順に形成・配置されているということができる。

(2) 透明基材層
上記(1)の引用発明の構造からみて、引用発明の「透光性基材非浸透部分」は、層(かさなりをなすものの一つ)を構成しているといえる。
また、引用発明の「透光性基材」は「透明プラスチックフィルム基材」である。
そうすると、引用発明の「透光性基材非浸透部分」は、「透明」な「基材」の層ということができる。
してみると、引用発明の「透光性基材非浸透部分」は、本願発明の「透明基材層」に相当する。

(3) バインダー樹脂、粒子及び防眩層
ア 引用発明の製造工程からみて、引用発明の「防眩層」は、「防眩層形成材料に」「樹脂として」「含まれる」、「紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂」及び「ペンタエリストールトリアクリレートを主成分とする多官能アクリレート」の「硬化」物からなる樹脂を主成分として含んでいることが理解できる。
また、引用発明の製造工程からみて、引用発明の「防眩層」は、「アクリルとスチレンの共重合粒子」を含んでいることが理解できる。

イ 上記アより、引用発明の「紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂」及び「ペンタエリストールトリアクリレートを主成分とする多官能アクリレート」の「硬化」物からなる樹脂は、本願発明の「バインダー樹脂」に相当する。

ウ 上記アより、引用発明の「アクリルとスチレンの共重合粒子」は、本願発明の「粒子」に相当する。

エ 上記ア?ウより、引用発明の「防眩層」は、本願発明の「防眩層」に相当する。
上記(1)、(2)と上記ア?ウより、引用発明の「防眩層」は、本願発明の「防眩層」の、「該透明基材層の少なくとも片側に配置され」及び「バインダー樹脂および粒子を含む」との要件を具備する。

(4) 中間層
ア 引用発明の「浸透層は、防眩層形成材料に含まれる樹脂が透光性基材に浸透して形成される」。
そうすると、引用発明の「浸透層」は、「透光性基材」を構成する材料と、「防眩層」を構成する樹脂材料(上記(3)の「紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂」、「ペンタエリストールトリアクリレートを主成分とする多官能アクリレート」の未反応物、あるいは、これらの「硬化」物)とを含むと理解できる。また、上記(1)の引用発明の構造からみて、引用発明の「浸透層」は、「透光性基材非浸透部分」と「防眩層」の中間に位置する層である。
そうすると、引用発明の「浸透層」は、本願発明の「中間層」に相当する。また、引用発明の「浸透層」は、本願発明の「中間層」の、「該透明基材層を構成する材料の少なくとも一部および該バインダー樹脂の少なくとも一部とを含む」との要件を具備する。
さらに、上記(1)の引用発明の構造及び上記(2)、(3)とから、引用発明の「浸透層」は、本願発明の「中間層」の、「該透明基材層と該防眩層との間に形成され」との要件を具備する。

(5) 防眩フィルム
上記(2)?(4)より、引用発明の「防眩性フィルム」は、本願発明の「防眩フィルム」に相当する。また、引用発明の「防眩性フィルム」と、本願発明の「防眩フィルム」は、「透明基材層と」、「防眩層と」、「中間層とを備え」ている点で共通する。

3 一致点及び相違点
(1) 一致点
本願発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「 透明基材層と、
該透明基材層の少なくとも片側に配置され、バインダー樹脂および粒子を含む、防眩層と、
該透明基材層と該防眩層との間に形成され、該透明基材層を構成する材料の少なくとも一部および該バインダー樹脂の少なくとも一部とを含む、中間層とを備えた、
防眩フィルム。」

(2) 相違点
本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。
(相違点)
「中間層」が、本願発明は、「厚みが、該防眩層の厚みに対して、17.6%?123%である」のに対して、引用発明は、13.3%である点。
(当合議体注:引用発明の「防眩層」及び「浸透層」の厚みは、それぞれ7.5μm及び1μmであるから、1÷7.5≒13.3%と計算される。)

4 判断
上記相違点について検討する。
(1) 引用発明の「防眩性フィルム」は、「粒子の凝集を利用して防眩層を形成した防眩性フィルムであり」、「防眩性と、白ボケの防止とを両立した優れた表示特性を有するとともに、粒子の凝集を利用して防眩層を形成しているにもかかわらず、外観欠点となる防眩層表面の突起状物の発生を防止して製品の歩留まりを向上させ」ることができ」、「さらには、この防眩性フィルム」「を用いた画像表示装置」は、「表示特性が優れたものになる」ものである(引用例1【0012】(【発明の課題】)、【0018】(【発明の効果】)、【0132】【表1】、【0133】等)。
また、引用発明を用いた「画像表示装置」の「用途は、例えば、パソコンモニター、ノートパソコン、コピー機等のOA機器、携帯電話、時計、デジタルカメラ、携帯情報端末(PDA)、携帯ゲーム機等の携帯機器、ビデオカメラ、テレビ、電子レンジ等の家庭用電気機器、バックモニター、カーナビゲーションシステム用モニター、カーオーディオ等の車載用機器、商業店舗用インフォメーション用モニター等の展示機器、監視用モニター等の警備機器、介護用モニター、医療用モニター等の介護・医療機器等である」(同【0100】)。

(2) ここで、引用発明において、「防眩層」の厚みは「7.5μm」、「アクリルとスチレンの共重合粒子」の「重量平均粒径」は「5.0μm」であり、「防眩層形成材料に含まれる樹脂が透光性基材に浸透して形成される」「浸透層」の厚みは「1μm」であるところ、引用発明の「防眩層」に関し、引用例1の【0044】には、「防眩層の厚み(d)は、特に制限されないが、3?12μmの範囲内にあることが好ましい。前記防眩層の厚み(d)を、前記範囲とすることで、例えば、防眩性フィルムにおけるカールの発生を防ぐことができ、搬送性不良等の生産性の低下の問題を回避できる。」、「前記防眩層の厚み(d)は、より好ましくは、3?8μmの範囲内である。」、【0045】には、「前記防眩層の厚み(d)と前記粒子の重量平均粒径(D)との関係は、0.3≦D/d≦0.9の範囲内にあることが好ましい。このような関係にあることにより、より防眩性に優れ、かつ白ボケが防止でき、さらに、外観欠点のない防眩性フィルムとすることができる。」との記載がある。
また、引用発明の「浸透層」に関し、引用例1の【0048】には、「浸透層が形成されると、透光性基材と防眩層との密着性を向上させることができ、好ましい。」、「前記浸透層は、厚みが0.2?3μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.5?2μmの範囲である。」、【0049】には、「前記浸透層は、前記防眩層との密着性が乏しい透光性基材であるほど、密着性の向上のため、厚く形成することが好ましい。」との記載がある。
そうすると、引用例1の【0044】及び【0045】の記載に接した当業者は、引用発明の「防眩層」の厚み(「7.5μm」)について、カールや搬送性・生産性の観点からより好ましい厚み範囲内のものであり、「防眩層の厚み(d)」と「粒子の重量平均粒径(D)」との関係についても、粒子の重量平均粒径(D)/防眩層の厚み(d)(約0.67)は、より防眩性に優れ、かつ白ボケが防止でき、さらに、外観欠点がないとの観点から好ましい範囲内のものであると理解する。
一方、引用例1の【0048】及び【0049】の記載に接した当業者は、引用発明の「浸透層」の厚み(「1μm」)について、(より)好ましい厚み範囲内のものであるものの、透光性基材及び防眩層の材質によっては、より厚く(例えば、2μm、あるいは、3μm)形成することにより、密着性を改善できると理解できる。

(3) 引用発明の「透光性基材」は「トリアセチルセルロースフィルム」であるところ、トリアセチルセルロースフィルムには、種々の材質のものがある。また、引用発明の「防眩性フィルム」が適用される、バックモニター、カーナビゲーションシステム用モニター、カーオーディオ等の車載用機器(上記(1)の引用発明の用途例を参照。)の使用環境を考えると、耐久性・信頼性の点からは、「透光性基材」と「防眩層」との密着性ができるだけ高い方が望ましいことは明らかである。同様に、例えば、引用発明の、監視用モニター等の警備機器、介護用モニター、医療用モニター等の介護・医療機器等への適用、あるいは、パソコンや、携帯電話・PDA等の携帯機器への適用に際しても、信頼性・耐久性の点から、「透光性基材」と「防眩層」との密着性ができるだけ高い方が望ましいことも明らかである。

(4) 以上勘案すると、当業者が、[A]カールや搬送性・生産性の観点から、引用発明の「防眩層」の厚みを、より好ましい厚みである7.5μmに維持しつつ、[B]「透光性基材」と「防眩層」との密着性向上の観点から、引用発明の「浸透層」の厚みを、好ましい範囲の上限である3μm、あるいは、より好ましい範囲の上限である2μmとすることは、引用例1の記載が示唆する範囲内のことである。
そして、このような設計変更を行った引用発明は、「防眩層」の厚み7.5μmに対して、「浸透層」の厚み3μm(約40%)、あるいは、2μm(約27%)となるから、上記相違点に係る本願発明の構成を具備することとなる。
(当合議体注:防眩層の厚みについて、本件出願の明細書【0012】には、「防眩層の厚みは、防眩層表面の平坦部から、防眩層と中間層との界面との距離を意味する。」と記載されている。これに対して、引用例1の【0042】には、「前記防眩層の厚みは、防眩性フィルムの全体厚みを測定し、前記全体厚みから、透光性基材の厚みを差し引くことにより算出される、防眩層の厚みである。前記全体厚みおよび前記透光性基材の厚みは、例えば、マイクロゲージ式厚み計によって、測定することができる。」と記載されている。そうしてみると、引用発明の「防眩層」の「厚み」と本願発明の「防眩層」の厚みとは、定義・測定方法において異なるといえなくもない。しかしながら、引用例1の【0047】、【0049】、【0050】、【0054】、【0055】及び【0134】等の説明によれば、引用発明は、「防眩層形成材料に含まれるチキソトロピー付与剤により、前記粒子の凝集状態をコントロール」して、「なだらかな表面凹凸形状」としたものである(図7(実施例1のTEM写真)や、【0132】【表1】の「表面形状」(例えば、平均傾斜角「θa(°)」(定義については【0067】、【0068】)の数値)などからも確認できる。)。そして、引用発明において、「防眩層表面の平坦部から」「防眩層と中間層との界面との距離」として定義・測定したものを、「防眩層」の厚みとしても、その定義からみて引用発明の「防眩層」の厚みは若干小さく(薄く)なるだけである。したがって、上記設計変更を施した引用発明が、上記相違点に係る本願発明の構成を具備することになるとの結論は、変わらない。)
さらに補足すると、上記の「浸透層」の厚みに係る設計変更について、引用発明の製造工程や、引用例1の【0050】?【0062】及び図【図9A】?【図10D】における引用例1でいう「本発明の防眩性フィルム」における「防眩層における凝集状態のメカニズム」の説明や、【0047】、【0048】、【0073】?【0075】及び【0081】等の記載に基づき、当業者は、引用発明において、防眩層におけるチキソ性の発現に影響を与えない範囲で、防眩層形成材料(塗工液)に含まれる、TACに対する良溶媒(シクロペンタノン)の含有量を変更したり、酢酸エチル、メチルエチルケトンなど他のTACに対する良溶媒に変更したり、あるいは、防眩層形成材料(塗工液)の塗膜の形成から乾燥工程へ搬送するまでの時間や、防眩層形成材料塗工後の溶媒の乾燥条件(乾燥時間、温度等)を変更することにより、防眩層形成材料に含まれる樹脂の透光性基材への浸透の程度・深さを変更することができる。そして、引用例1の【0059】、【0060】、【0061】等の記載によれば、「防眩性フィルム」の表面形状は、浸透層及びその厚みによって、変化を受けにくいのであるから、上記のように浸透層の厚みに係る設計変更を行ったとしても、引用発明の表面形状の変化は小さく、引用発明が、上記(1)で述べた、防眩性、白ボケの防止などの優れた表示特性を有さなくなる、外観欠点となる防眩層表面の突起状物の発生を防止できなくなるわけでもない。

(5) あるいは、画像表示装置の薄型化は、当業者にとって周知の課題である(当合議体注:例えば、携帯電話、携帯情報端末(PDA)への適用(上記(1)参照)にあたり、薄型化は特に求められることである。)。そして、当業者であれば、引用発明の「防眩層」の厚み(「7.5μm」)について、カールや搬送性・生産性の観点からより好ましい「3?8μm」の厚み範囲内、かつ、より防眩性に優れ、かつ白ボケが防止でき、さらに、外観欠点がないとの観点から好ましい「0.3≦D/d≦0.9」の範囲内で、より薄型化が可能であると理解する。
そうすると、当業者が、[C]薄型化の観点から、引用発明の「防眩層」の厚みを、カールや搬送性・生産性の観点からより好ましい「3?8μm」の範囲内、かつ、より防眩性に優れ、かつ白ボケが防止でき、さらに、外観欠点がないとの観点から好ましい「0.3≦D/d≦0.9」の範囲内でより薄く、例えば、(D/dの上限値近傍に対応する)5.5μm程度とし、かつ、[D]引用発明の「浸透層」の厚みを1μmに維持する(あるいは、「透光性基材」と「防眩層」との密着性向上の観点から、引用発明の「浸透層」の厚みを、(より)好ましい範囲上限の3μm、または、2μmとする)ことは、引用例1の記載に基づいて容易になし得たことである。そして、このような設計変更を行った引用発明は、いずれも、上記相違点に係る本願発明の構成を具備することとなる。
さらに補足すると、上記の設計変更について、当業者は、防眩性形成材料(塗工液)の塗布量を調整したり、あるいは、TACに対する良溶媒の含有量・種類を変更したり、防眩層形成材料(塗工液)の塗膜の形成から乾燥工程へ搬送するまでの時間や、防眩層形成材料塗工後の溶媒の乾燥条件(乾燥時間、温度等)を変更する(上記(4)参照。)ことにより、防眩層の厚みを薄くしたり、防眩層形成材料に含まれる樹脂の透光性基材への浸透の程度・深さを維持あるいは変更することができる。

(6) 上記1、2及び3(1)?(5)においては、引用例1の実施例1に基づき、引用発明を認定し、検討を行ったが、引用例1の実施例2?5、「チキソトロピー付与剤として酸化ポリオレフィン」を用いた実施例6、及び、「チキソトロピー付与剤として変性ウレア」を用いた実施例7のいずれかを引用発明として検討したとしても同様である。

(7) 本願発明の効果について
ア 本願発明の効果に関して、本件出願の明細書の【0009】には、「本発明によれば、透明基材層と防眩層との間に、透明基材層を構成する材料および防眩層を構成する材料を含む中間層を形成させ、該中間層の厚みを特定の厚みとすることにより、防眩性および透明性を維持しつつ、さらに、ギラツキを抑制し得る防眩フィルムを提供することができる。本発明の防眩フィルムは、高精細化と耐熱性とが求められる画像表示装置において、特に有用である。」と記載されている。

イ しかしながら、本願発明の「防眩性および透明性を維持しつつ、さらに、ギラツキを抑制し得る防眩フィルムを提供することができる」、「高精細化と耐熱性とが求められる画像表示装置において、特に有用である」との効果は、引用発明も有する効果である。あるいは、用途として、バックモニター、カーナビゲーション用モニター、カーオーディオ等の車載用機器が例示される、引用発明(防眩性フィルム)において、あるいは、引用発明において上記相違点に係る構成としたものにおいて、当業者が期待する効果、あるいは、当業者にとって予測可能な効果であって、格別のものではない(当合議体注:カーナビゲーションシステム用モニターなどに適用可能な防眩(性)フィルムについて、高精細パネル(例えば、200ppi、350ppi等)に対するギラツキを抑制することが望まれることは、例えば、特開2014-29456号公報の【0106】、【0170】、【0173】、【0174】【表3】(「ギラツキ(精細度)」等)、【0175】、特開2014-29457号公報の【0003】、【0104】、【0114】、【0127】、【0128】【表2】(「ギラツキ(精細度)」等)、【0130】、特開2015-14735号公報の【0006】、【0007】、【0113】、【0180】、【0181】、【0185】【表1】(「ギラツキ評価1」、「ギラツキ評価2」等)等に記載されているように、周知のことである。加えて、バックモニター、カーナビゲーション用モニター、カーオーディオ等の車載用機器への適用にあたり、画像表示装置の耐熱性は当然に求められることである。)。

(8) 請求人の主張について
ア 請求人は、審判請求書の「3.本願発明が特許されるべき理由」「(1)本願請求項1の発明について」において、「本発明によれば、透明基材層と防眩層との間に、透明基材層を構成する材料および防眩層を構成する材料を含む中間層を形成させ、該中間層の厚みを特定の厚みとすることにより、防眩性および透明性を維持しつつ、さらに、ギラツキを抑制し得る防眩フィルムを提供することができます。本発明の防眩フィルムは、高精細化と耐熱性とが求められる画像表示装置において、特に有用です。」旨主張している。
また、請求人は、同「(2)本願発明と引用文献に記載の発明との対比」において、「引用文献1は、中間層の厚みが、防眩層の厚みに対して、17.6%?123%であることを開示も示唆もしていません。引用文献1は、各層の厚みを記載するにすぎず、中間層厚み/防眩層厚みが上記範囲であることは開示も示唆もしていません。また、引用文献1は、画像表示装置のギラツキを課題とすることを開示も示唆もしていません。」、「引用文献1において、中間層(浸透層)と防眩層との厚み比を具体的に開示しているのは、実施例の記載のみであり、いずれの実施例においても、防眩層の厚みに対する中間層(浸透層)の厚みは13%(=1μm/7.5μm)です。また、引用文献1の0044段には、防眩層の厚み(3?12μm)が記載され、0048段には浸透層の厚み(0.2?3μm)が記載されています。」、「しかしながら、引用文献1においては、これらの層を特定の厚み比として、画像表示装置のギラツキを抑制するという技術的思想はもとより、厚み比の特定により何らかの効果を得るという技術的思想すら存在しません。」、「各光学機能層の膜厚を適宜設計することは、通常行われることであったとしても、中間層と防眩層の2層の関係性を特定して所定の効果を得ることは容易に想到し得ることではありません。」、「防眩フィルムにおいては、中間層の厚みが変わると、防眩層において光散乱に影響する成分の分布が変化します。より詳細には、中間層には、防眩層に含有されて光散乱に影響する成分(粒子等)は存在せず、したがって、中間層の厚み変化により防眩層の厚みが変化し、これらに依存して、防眩層中の光散乱に影響する成分の密度が変化します。」、「そして、防眩層中の光散乱に影響する成分の密度は、画像表示装置のギラツキ等の光学特性に影響します。本願発明においては、中間層厚み/防眩層厚みを特定することにより、これら層間の密着性を良好とすると共に、光学特性をも制御して、画像表示装置のギラツキを抑制することができます。」、「中間層厚み/防眩層厚みを特定の比とすること、および、画像表示装置のギラツキを課題とすることを開示も示唆もしていない引用文献1に基づいて、上記のような本願発明に想到することは容易ではありません。」旨主張している。

イ しかしながら、上記(1)?(4)で述べたとおり、引用発明において、[A]カールや搬送性・生産性の観点から、引用発明の「防眩層」の厚みをより好ましい厚みの7.5μmに維持しつつ、かつ、[B]「透光性基材」と「防眩層」との密着性向上の観点から、引用発明の「浸透層」の厚みを、好ましい範囲の上限の3μm、あるいは、より好ましい範囲の上限の2μmとして、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、引用例1の記載に接した当業者が容易になし得たことである。あるいは、上記(5)で述べたとおり、[C]薄型化の観点から、引用発明の「防眩層」の厚みを、カールや搬送性・生産性の観点からより好ましい「3?8μm」の範囲内、かつ、より防眩性に優れ、かつ白ボケが防止でき、さらに、外観欠点がないとの観点から好ましい「0.3≦D/d≦0.9」の範囲内でより薄く、5.5μmとし、かつ、[D]引用発明の「浸透層」の厚みを1μmに維持し(あるいは、「透光性基材」と「防眩層」との密着性向上の観点から、引用発明の「浸透層」の厚みを、3μm、または、2μmとし)て、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
また、請求人が主張する本願発明の作用・効果についても、上記(7)イにおいて述べたとおりである。
したがって、請求人の審判請求書の上記アの主張を採用することはできない。

第3 まとめ
本願発明は、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-10-07 
結審通知日 2020-10-13 
審決日 2020-10-28 
出願番号 特願2015-150986(P2015-150986)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 大思清水 督史  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 河原 正
福村 拓
発明の名称 防眩フィルム  
代理人 籾井 孝文  

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