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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1369304
審判番号 不服2020-8801  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-24 
確定日 2021-01-06 
事件の表示 特願2015- 40809「眼軸長測定装置、眼球形状情報取得方法、および眼球形状情報取得プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月 5日出願公開、特開2016-158906、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成27年3月2日の出願であって、平成30年3月1日に手続補正書が提出され、平成31年1月9日付けで拒絶理由が通知され、令和元年5月16日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月30日付けで拒絶理由が通知され、令和2年1月9日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年3月18日付けで拒絶査定(原査定)がされたところ、同年6月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正がなされたものである。


第2 原査定の概要

原査定(令和2年3月18日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1、4及び5に係る発明は、以下の引用文献4に記載された発明及び引用文献1記載された周知技術に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1 国際公開第2013/134554号(周知技術を示す文献)
4 特許第5667730号公報


第3 本願発明

本願の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という)は、令和2年6月24日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
被検眼に照射された測定光と参照光との干渉信号を検出する干渉光学系を備え、前記干渉光学系によって前記測定光による角膜反射光と眼底反射光とを受光することで、前記被検眼の角膜から眼底までの距離である眼軸長を測定する眼軸長測定装置であって、
前記被検眼上における前記眼軸長の測定位置を、前記被検眼の瞳孔を支点とし、前記眼底の耳側と鼻側とを含む複数の測定位置に変更する測定位置変更手段と、
前記干渉光学系からの干渉信号に基づいて前記眼軸長を取得する取得手段と、
を備え、
前記取得手段は、前記測定位置変更手段によって変更された、前記耳側と鼻側とを含む複数の測定位置において前記眼軸長を取得し、前記耳側と鼻側とを含む複数の測定位置における前記眼軸長に基づいて、前記被検眼の眼球形状情報を取得することを特徴とする眼軸長測定装置。」

なお、本願発明2ないし5の概要は以下のとおりである。

本願発明2及び3は、本願発明1を減縮した発明である。

本願発明4は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1とカテゴリ表現が異なるだけの発明である。

本願発明5は、本願発明1に対応する眼軸長測定装置において本願発明4を実行するためのプログラムに係る発明である。


第4 引用文献の記載及び引用発明

1 引用文献4について

(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献4(特許第5667730号公報)には、以下の事項が記載されている(下線は当審において付加した。引用文献の記載において、以下同様。)。

(引4-ア)「【0034】
本発明は、児童や成人等の近視の進行を容易に診断できるようにすると共に、児童等の近視の今後の進行の有無を予想できるようにした近視進行診断装置、近視進行判別方法、プログラム及び記憶媒体を提供することを目的とする。
【0035】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るコンタクトレンズ及びその選定方法について、その説明をする。図1に示す近視進行診断装置100は児童や成人等の被検者1の眼球(以下被検眼球2という)における周辺視野の光学データを取得して解析する装置である。近視進行診断装置100は、ヒトの眼の水晶体の中心から角度40°の軸ずれした周辺視野まで、焦点が合う度数±2.5[D](D:ジオプター)という広範囲の光学データが取得可能なものである。
【0036】
近視進行診断装置100は、既存のPSFアナライザー(登録商標)に工夫を施したものであり、例えば、児童等の近視が今後進行するか否かの判定、進行しうる近視が治療で抑制できるか否かの判定、進行しうる遠用レンズの周辺部にどのくらいの度数の屈折矯正レンズを加入することで近視抑制の治療ができるか否かの判定、及び、一定期間の治療の後の効果判定等に適用が可能なものである。
【0037】
近視進行診断装置100は、光学データ取得部10及びデータ解析装置20を有している。光学データ取得部10は、例えば、本体部11、XYZステージ12、円弧状の軌道53を有している。本体部11はXYZステージ12上に載置されており、このXYZステージ12が円弧状の軌道53上を時計方向又は反時計方向に移動できるようになっている。XYZステージ12は、本体部11をX方向(左右方向)、Y方向(前後方向)、Z方向(上下方向:紙面に鉛直な方向)に移動調整可能なものである。
【0038】
XYZステージ12には、例えば、設定部15が設けられ、被検眼球2の瞳孔の略中心と黄斑とを結ぶ眼軸線L(図3参照:図32A,図32Bで記述した光軸Oに同じ)に対する角度θを設定するように操作される。設定部15は角度表示器51や操作レバー52等から構成される。角度表示器51には例えばデジタル表示器が使用され、角度θが表示される。被検者1は本体部11とは別の固定座標系に頭部や顎等が固定され、設定部15で角度θを設定すると、XYZステージ12を被検眼球2の瞳孔の中心を原点にして、被検者1の回りを角度θだけ回動する方法が採られる。
【0039】
固定座標系には被検者1固定用の枠(図示せず)の他に軌道53が取り付けられる。軌道53にはXYZステージ12が移動自在に係合されている。角度表示器51はXYZステージ12に設けられ、操作者(眼科医師)が角度θを設定する際に、操作レバー52を持ってXYZステージ12を軌道53に沿って移動すると、角度表示器51の値が順次カウントアップするように表示する。もちろん、角度表示器51を軌道53に設け、XYZステージ12に基線を設けて、アナログ角度表示した目盛りに基線を合わせ込む方法を採ってもよい。
【0040】
また、XYZステージ12に図示しない駆動機構を設けて、テンキー等で角度θを設定し、駆動機構を動作させてXYZステージを時計方向又は反時計方向に自動的に回転する方法を採ってもよい。なお、図中の16はXYZステージ操作用の既存のレバーである。54は固視票(水平方向や垂直方向等に切り欠きを有するランドルト環:C記号)である。
【0041】
光学データ取得部10にはPSFアナライザー(登録商標)や、オートレフラクトメーター等が使用される。オートレフラクトメーターは被検眼球2に赤外線光を当て、眼の屈折状態、主に近視・遠視・乱視などの有無やその程度を自動的にコンピューターで解析可能で、かつ、被検眼球2を客観的に測定して数値化が可能なものである。
【0042】
データ解析装置20はキーボード21、マウス22、制御部23及び表示部24を有している。データ解析装置20には、ノート型やデスクトップ型等のパーソナルコンピューター(情報処理装置)が使用される。マウス22には有線式や無線式のものが使用される。表示部24には液晶表示パネルが使用される。
【0043】
本体部11には、図2に示すように光照射部13、光検出部14及びデータ入出力部17が備えられ、これらが光学データ取得部10の制御系を構成する。光照射部13は、図示しない光源、フォーカシングレンズ、偏光ビームスプリッタ、1/4波長板等の投影系の構成要素が設けられる。光照射部13は照射制御信号S13に基づいて眼軸線Lに対して角度θの方向の網膜46(図3、図4等を参照)へ測定光を照射する。照射制御信号S13は光源やフォーカシングレンズ等を制御する信号である。
【0044】
光検出部14は、角度θ方向の網膜46から反射される光を受光して眼底の周辺視野における光検出信号S14を発生する。光検出部14は例えば、撮像素子(CCD)から構成される。光検出部14では、前焦線・後焦線のデフォーカス成分を含む広屈折範囲の光学データD17となる光検出信号S14を発生する。
【0045】
ここにデフォーカス成分(非焦点成分)とは、水晶体42(図3参照)の結像位置から光軸線(方向)上で前後にズレた非焦点位置の輝度成分をいう。この視野周辺部のデフォーカス成分こそが、近視進行の有無を予想する第一の因子になり得るものである。なお、光照射部13、光検出部14及びデータ入出力部17の個々の構成及びその機能については、既存のPSFアナライザー(登録商標)を利用できるので、その詳細な説明を省略する。
【0046】
データ入出力部17は光学データD17をデータ解析装置20に転送したり、データ解析装置20から制御データD33を受信して光照射部13及び光検出部14を制御する。例えば、データ入出力部17は制御データD33をD/A変換して照射制御信号S13を作成し、照射制御信号S13を光照射部13に出力する。
【0047】
また、データ入出力部17は光検出信号S14をA/D変換して光学データD17を作成し、ヘッダに角度θを書き込み、当該ヘッダに光学データD17を添付してデータ解析装置20に転送する。光学データD17は角度θにおける周辺視野の網膜46から反射される反射光の光軸±2.0[D」の範囲について、0.25[D]ステップ毎に点像(Point Spread Function;PSF像)を再生(撮像)した21個のダブルパスPSF像を構成するデータである。制御データD33には±2.0[D」の範囲について、0.25[D]ステップ毎にフォーカシングレンズを駆動するデータが含まれる。
【0048】
データ入出力部17には光検出信号S14をデジタルの光学データD17に変換するAD変換器や、制御データD33を照射制御信号S13に変換するDA変換器が設けられ、AD変換器やDA変換器等の入出力を制御するためのローカルな中央処理装置(CPU)も備えられる。
【0049】
光学データ取得部10にPSFアナライザー(登録商標)を使用する場合は、当該アナライザーを児童の被測定眼で固視させて、眼底の中心及びその周辺視野の光学データD17を±2.0[D]の広範囲で0.25[D]ステップで測定する。光学データ取得部10によれば、光照射部13のフォーカシングレンズの駆動により被検眼球2に入射する測定光(光束)を収束から平行、発散へと変化させことで、被検眼球2から点光源までの距離を0.25[D]ステップで光学的に変えてダブルパスPSF像を取得できるようになる。
【0050】
これにより、児童(小児)等における眼底の中心及びその周辺視野での前焦線及び後焦線を含めた正確な光学データD17を詳細に把握できるようになる。被検眼球2の近視が今後進行するか否かを判別(予想)できるようになる。
【0051】
光学データ取得部10にはデータ解析装置20が接続され、データ解析装置20は光学データD17を解析するものである。例えば、角度θにおける測定光の焦点の位置及び当該焦点の前後の位置(0.25[D]ステップ)での点像強度分布特性(以下PSF特性という)を求め、当該PSF特性に基づいて被検眼球2の眼底の周辺視野に遠視性の後非焦点が存在するか否かを判別する。ここに後焦点とは、角度θにおける光軸線L’上で最も焦点が合った測定光の焦点の後側を後焦線としたとき、この後焦線上に位置する非焦点をいう。
【0052】
データ解析装置20は制御部23を有しており、制御部23は例えば演算部31、判別部32、データ入出力部33及びメモリ部34を有している。演算部31及び判別部32には中央処理装置(CPU)が使用される。
【0053】
演算部31は、シングルパスPSF像に関する光学データD17から角度θにおける測定光の焦点の位置及び当該焦点の前後の位置のPSF特性を求める。例えば、演算部31は、角度θにおける光軸線L’上で最も焦点が合った測定光の焦点の位置、光軸線L’上で焦点の前側に位置する前焦線上の非点像の位置、及び、光軸線L’上で焦点の後側に位置する後焦線上の非点像の位置のPSF特性を求める。
【0054】
更に、演算部31は角度θにおける焦点位置のPSF像の屈折度数、前焦点の屈折度数及び後焦点の屈折度数を角度θ毎に演算する。これにより、前焦点と後焦点の屈折度数から近視の進行の有無を予想できるようになる。」

(引4-イ)「【0152】
続いて、図21?図29Dを参照して、コンタクトレンズ200の幾つかの処方例について説明をする。これらの処方例では、被検眼球2の視力に対応した近視矯正用の屈折度数をレンズ本体部61の中心領域に設定して遠用光学部62とし、遠用光学部62の周囲領域にタイプTa?Tcの中から選定される1つの近視進行抑制用の屈折度数が設定されて後焦点コントロールエリア63とした複数のコンタクトレンズ200が予め作成されており、その中から、被検眼球2に対応した最適な1つのコンタクトレンズ200を処方する場合を前提とする。
【実施例1】
【0153】
第1実施例では、平準化された後焦等線Sを基準にして被検眼球2の眼底曲率形状がその内側にあるか外側に有るかに基づいて後焦点コントロールエリア63のタイプTa?Tcを設定するようにした。この設定のために、被検眼球2の黄斑45を含む網膜46の内面形状を眼底曲率半径rxで表したとき、眼底曲率半径rxが最も小さい網膜眼と眼底曲率半径rxが最も大きい網膜眼とを平均して、平均の眼底曲率半径rxを有する網膜眼を求め、ここで得られた平均の網膜眼を基準(平準化)とする(図22)。この例では、平均の網膜眼の後焦等線SをタイプTa?Tcの選定時の比較基準線とする。後焦等線Sは平準化したS曲線データDsから再生されるものとする。S曲線データDsは半径rsの後焦等線Sを描画するための画像データである。
【0154】
これらを選定条件にして、例えば、図5に示したステップST7からコールされて、図24に示すステップST71で制御部23は被検眼球2の遠用光学部62の屈折度数Rx、眼底形状データDIN及びS曲線データDsを入力する。屈折度数Rx、眼底形状データDIN及びS曲線データDsは例えば、メモリ部34から読み出して演算部31や判別部32に入力される。
【0155】
次に、ステップST72で制御部23は被検眼球2の眼底曲率半径rxを計算する。例えば、演算部31は被検眼球2の水晶体42の略中心頂点(図2参照)と黄斑45とを結ぶ眼軸線Lの左右の網膜46の周辺内面に少なくとも2点以上の測定点(対称位置)p1?p3を設定し、被検眼球2で測定点p1?p5に至る深度を測定して得た眼軸長L1等及び各測定点p1?p5の深度の情報から眼底曲率半径rxを演算する。眼底曲率半径rxは、図25Aに示す弧長がLaで、矢高がhの円弧(眼底曲率)を求め、既知の円弧をパラメータにして重ね合わせ、両者が一致したときの既知の円弧の半径rx’を読み取ることで得られる。
【0156】
次に、ステップST73で制御部23は被検眼球2の後焦点コントロールエリア63の屈折度数のタイプがTaか又はTa以外であるかを判別する。このとき、判別部32によって、半径rsの後焦等線Sと被検眼球2の眼底曲率半径rxとが比較される。この比較についてはパターン認識による方法を採ってもよい。
【0157】
この例で、図21に示したような平均の網膜眼の後焦等線Sの半径rsよりも被検眼球2の眼底曲率半径raが大きい網膜眼である場合(図25Bに示す緩い曲率)は、判別部32は眼底曲率半径raのタイプがTaであると判別するので、ステップST74に移行する。ステップST74で制御部23は屈折度数Rx+タイプTaのコンタクトレンズを処方する旨の表示制御を行う。
【0158】
表示部24はデータ入出力部33から表示データD24を入力し、当該表示データD24に基づいて「遠用光学部62の屈折度数Rx+後焦点コントロールエリア63の屈折度数がタイプTaである。」旨の表示を行う。これにより、平均の網膜眼の屈折度数よりも弱い屈折度数が設定されたコンタクトレンズ200を自動選定(処方)できるようになる。
【0159】
上述のステップST73で被検眼球2の後焦点コントロールエリア63の屈折度数のタイプがTa以外である場合は、ステップST75に移行して制御部23は被検眼球2の眼底曲率半径rxの後焦点コントロールエリア63のタイプがTb又はTcであるかを判別する。このとき、後焦等線Sの半径rsと被検眼球2の眼底曲率半径rxとを比較した結果、図22に示したように後焦等線Sの半径rsと眼底曲率半径rxとがほぼ等しい場合(図25Bに示す平均的な曲率)は、判別部32は、眼底曲率半径rbのタイプがTbであると判定するので、ステップST76に移行する。ステップST76で制御部23は屈折度数Rx+タイプTbのコンタクトレンズ200を処方する旨の表示制御を行う。
【0160】
表示部24は表示データD24に基づいて「遠用光学部62の屈折度数Rx+後焦点コントロールエリア63の屈折度数がタイプTbである」旨の表示を行う。これにより、平均の網膜眼の屈折度数とほぼ等しい屈折度数が設定されたコンタクトレンズ200を自動選定(処方)できるようになる。
【0161】
また、上述のステップST75で後焦等線Sの半径rsよりも被検眼球2の眼底曲率半径rxが小さい網膜眼である場合(図25Bに示すきつい曲率)は、判別部32は被検眼球2の眼底曲率半径rcの後焦点コントロールエリア63のタイプがTcであると判別するので、ステップST77に移行する。ステップST77で制御部23は屈折度数Rx+タイプTcのコンタクトレンズ200を処方する旨の表示制御を行う。
【0162】
表示部24は表示データD24に基づいて「遠用光学部62の屈折度数Rx+後焦点コントロールエリア63の屈折度数がタイプTcである」旨の表示を行う。これにより、第1実施例では、平均の網膜眼の屈折度数よりも強い屈折度数が設定されたコンタクトレンズ200を簡易に自動選定(処方)できるようになる。その後、図5に示したステップST7にリターンする。」

(引4-ウ)「【0176】
続いて、図28A?図28Dを参照して、眼軸長Lx及び眼底曲率形状からタイプTa,Tb,Tcを決定する例について説明する。この例では、近視進行診断装置100において、光学データ取得部10の代わるレフラクトメーターや後眼部OCT(Optical Coherence Tomography)等の眼底画像取得装置から得られる眼底形状データDINに基づいて眼軸長Lxを測定し、その眼軸長Lxと平均的な眼底曲率形状から後焦点コントロールエリア63のタイプTa,Tb,Tcを決定するようにした。
【0177】
例えば、図28Aに示す被検眼球2が眼軸長Lx=23mmで、図28Dで実線に示すような平均的な眼底曲率形状C23を有する場合は、タイプTaを処方する。これにより、平均の網膜眼の屈折度数よりも弱い屈折度数が設定されたコンタクトレンズ200を処方できるようになる。
【0178】
また、図28Bに示す被検眼球2が眼軸長Lx=24mmで、図28Dで破線に示すような平均的な眼底曲率形状C24を有する場合は、タイプTbを処方する。これにより、平均の網膜眼の屈折度数とほぼ等しい屈折度数が設定されたコンタクトレンズ200を処方できるようになる。
【0179】
更に、図28Cに示す被検眼球2が眼軸長Lx=25mmで、図28Dで二点鎖線に示すような平均的な眼底曲率形状C25を有する場合は、タイプTcを処方する。これにより、平均の網膜眼の屈折度数よりも強い屈折度数が設定されたコンタクトレンズ200を簡易に処方できるようになる。
【0180】
このように第1及び第2実施例で説明したような判別方法が採れない場合に、レフラクトメーター等の光学データ取得部から得られる最低限の眼底形状データDINに基づいて後焦点コントロールエリア63のタイプTa,Tb,Tcを決定できるようになる。」

(引4-エ)【図1】




(引4-オ)【図2】




(引4-カ)【図18】




(引4-キ)【図25A】




(引4-ク)【図25B】





(引4-ケ)【図28D】




(2)引用文献4に記載された発明

ア 実施例1に基づく発明

(ア)上記(引4-イ)の【実施例1】は、コンタクトレンズ200の処方例に関するものであるが、コンタクトレンズ200の選択に必要なデータの取得は、上記(引4-ア)に記載された「近視進行診断装置100」を用いて行うものと認められる。

(イ)上記(引4-イ)の「【0155】・・・眼軸線Lの左右の網膜46の周辺内面に少なくとも2点以上の測定点(対称位置)p1?p3を設定し、被検眼球2で測定点p1?p5に至る深度を測定して得た眼軸長L1等及び各測定点p1?p5の深度の情報から眼底曲率半径rxを演算する」との記載、及び、上記(引4-キ)の【図25A】に、p3を中心にp1ないしp5の5点が示されていることから、5点の測定点(対称位置)p1?p5を設定する態様が読み取れる。

(ウ)上記(ア)及び(イ)を踏まえると、引用文献4には、

「 光学データ取得部10及びデータ解析装置20を有している近視進行診断装置100であって、
光学データ取得部10は、本体部11、XYZステージ12、円弧状の軌道53を有しており、
本体部11はXYZステージ12上に載置されており、このXYZステージ12が円弧状の軌道53上を時計方向又は反時計方向に移動できるようになっており、
XYZステージ12には、設定部15が設けられ、被検眼球2の瞳孔の略中心と黄斑とを結ぶ眼軸線Lに対する角度θを設定するように操作され、
データ解析装置20は、キーボード21、マウス22、制御部23及び表示部24を有しており、
本体部11には、既存のPSFアナライザー(登録商標)を利用した光照射部13、光検出部14及びデータ入出力部17が備えられ、これらが光学データ取得部10の制御系を構成し、
光照射部13は照射制御信号S13に基づいて眼軸線Lに対して角度θの方向の網膜46へ測定光を照射し、
光検出部14は、角度θ方向の網膜46から反射される光を受光して眼底の周辺視野における光検出信号S14を発生し、
制御部23は、演算部31、判別部32、データ入出力部33及びメモリ部34を有しており、
演算部31は、シングルパスPSF像に関する光学データD17から角度θにおける測定光の焦点の位置及び当該焦点の前後の位置のPSF特性を求め、
さらに、演算部31は角度θにおける焦点位置のPSF像の屈折度数、前焦点の屈折度数及び後焦点の屈折度数を角度θ毎に演算し、これにより、前焦点と後焦点の屈折度数から近視の進行の有無を予想でき、
制御部23は、被検眼球2の遠用光学部62の屈折度数Rx、眼底形状データDIN及びS曲線データDsをメモリ部34から読み出して演算部31や判別部32に入力し、
演算部31は、被検眼球2の水晶体42の略中心頂点と黄斑45とを結ぶ眼軸線Lの左右の網膜46の周辺内面に5点の測定点(対称位置)p1?p5を設定し、被検眼球2で測定点p1?p5に至る深度を測定して得た眼軸長L1等及び各測定点p1?p5の深度の情報から眼底曲率半径rxを演算し、
平準化された後焦等線Sを基準にして被検眼球2の眼底曲率形状がその内側にあるか外側にあるかに基づいて、遠用光学部62の周囲領域にタイプTa?Tcの中から選定される1つの近視進行抑制用の屈折度数が設定されて後焦点コントロールエリア63とした複数のコンタクトレンズ200の中から、被検眼球2に対応した最適な1つのコンタクトレンズ200を自動選定する、
近視進行診断装置100。」

の発明(以下「引用発明A」という。)が記載されていると認められる。

イ 実施例1及び2とは異なる態様に基づく発明

(ア)上記(引4-ウ)の「【0176】
続いて、図28A?図28Dを参照して、眼軸長Lx及び眼底曲率形状からタイプTa,Tb,Tcを決定する例について説明する。この例では、近視進行診断装置100において、光学データ取得部10の代わるレフラクトメーターや後眼部OCT(Optical Coherence Tomography)等の眼底画像取得装置から得られる眼底形状データDINに基づいて眼軸長Lxを測定し、その眼軸長Lxと平均的な眼底曲率形状から後焦点コントロールエリア63のタイプTa,Tb,Tcを決定するようにした。
・・・
【0180】
このように第1及び第2実施例で説明したような判別方法が採れない場合に、レフラクトメーター等の光学データ取得部から得られる最低限の眼底形状データDINに基づいて後焦点コントロールエリア63のタイプTa,Tb,Tcを決定できるようになる。」との記載から、上記(引4-ウ)の段落【0176】ないし【0179】には、既存のPSFアナライザーを利用した実施例1とは異なり、後眼部OCT(Optical Coherence Tomography)を眼底画像取得装置とした態様が読み取れる。

(イ)(引4-ウ)の段落【0177】には、「その眼軸長Lxと平均的な眼底曲率形状から後焦点コントロールエリア63のタイプTa,Tb,Tcを決定するようにした」と、一見、「眼軸長Lx」と「平均的な眼底曲率形状」との2つのパラメータに基づいてコンタクトレンズ200のタイプを決定することを意味するとも解される記載がある。
しかしながら、続く段落【0177】ないし【0179】におけるコンタクトレンズ200の選択に関する記載では、「図28Aに示す被検眼球2が眼軸長Lx=23mmで、図28Dで実線に示すような平均的な眼底曲率形状C23を有する場合」、「図28Bに示す被検眼球2が眼軸長Lx=24mmで、図28Dで破線に示すような平均的な眼底曲率形状C24を有する場合」及び「図28Cに示す被検眼球2が眼軸長Lx=25mmで、図28Dで二点鎖線に示すような平均的な眼底曲率形状C25を有する場合」の3つの場合についての説明しか記載されておらず、1つの眼軸長に対して異なる眼底曲率形状が対応する場合の記載はないことから、1つの眼軸長に対して組み合わされる眼底曲率形状は、1つのみであるといえる。
してみると、段落【0176】の「その眼軸長Lxと平均的な眼底曲率形状から後焦点コントロールエリア63のタイプTa,Tb,Tcを決定するようにした」との記載は、「その眼軸長Lxに対応する平均的な眼底曲率形状から後焦点コントロールエリア63のタイプTa,Tb,Tcを決定するようにした」ことを意味するものと解される。
すなわち、段落【0177】ないし【0179】の「図28Aに示す被検眼球2が眼軸長Lx=23mmで、図28Dで実線に示すような平均的な眼底曲率形状C23を有する場合は、タイプTaを処方する」、「図28Bに示す被検眼球2が眼軸長Lx=24mmで、図28Dで破線に示すような平均的な眼底曲率形状C24を有する場合は、タイプTbを処方する」及び「図28Cに示す被検眼球2が眼軸長Lx=25mmで、図28Dで二点鎖線に示すような平均的な眼底曲率形状C25を有する場合は、タイプTcを処方する」は、それぞれ、「被検眼球2が眼軸長Lx=23mmの場合は、平均的な眼底曲率形状はC23であるから、タイプTaを処方する」、「被検眼球2が眼軸長Lx=24mmの場合は、平均的な眼底曲率形状はC24であるから、タイプTbを処方する」及び「被検眼球2が眼軸長Lx=25mmの場合は、平均的な眼底曲率形状はC25であるから、タイプTcを処方する」であるといえる。

(ウ)上記(ア)及び(イ)を踏まえると、引用文献4には、

「 後眼部OCTである眼底画像取得装置から得られる眼底形状データDINに基づいて眼軸長Lxを測定し、その眼軸長Lxに対応する平均的な眼底曲率形状から、コンタクトレンズ200の後焦点コントロールエリア63のタイプTa,Tb,Tcを決定するものであって、
被検眼球2が眼軸長Lx=23mmの場合は、平均的な眼底曲率形状はC23であるから、タイプTaを処方し、
被検眼球2が眼軸長Lx=24mmの場合は、平均的な眼底曲率形状はC24であるから、タイプTbを処方し、
被検眼球2が眼軸長Lx=25mmの場合は、平均的な眼底曲率形状はC25であるから、タイプTcを処方することを決定する、
近視進行診断装置100。」

の発明(以下「引用発明B」という。)が記載されていると認められる。

2 引用文献1について

(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1(国際公開第2013/134554号)には、以下の事項が記載されている。

(引1-ア)「1. Field of the Invention
[0002] Embodiments of the present invention relate to a device for optical coherence tomography for determining geometric structures and optical biometry of the eye. In particular, embodiments of the present invention relate to a device for optical coherence tomography for determining the power of an intraocular lens implant and the condition of the retina.」
(和訳:1.発明の技術分野
[0002] 本発明の実施態様は、眼の幾何学的構造の判定及び光学式生体計測を行う光干渉断層法のためのデバイスに関する。詳しくは、本発明の実施態様は、移植される眼内レンズのパワー及び網膜の状態を判定する光干渉断層法のためのデバイスに関する。)

(引1-イ)「[0037] In some embodiments of the present invention, a plurality of measurements on multiple measurement axes is acquired so that at least one light beam could avoid the dense lens opacity and produce useful measurements.
[0038] Additionally, some embodiments of the present invention are able to measure both the anterior and posterior corneal curvatures simultaneously with a single measurement beam, allowing a more accurate calculation of the net corneal power after refractive surgery. As discussed below, optical measurements can be obtained using low-coherence interferometry, partial coherence interferometry, or optical coherence tomography.
[0039] FIG. 1 shows the optical layout of a dual beam interferometer 100 with partially coherent light. A measurement of axial eye length is performed along a single measurement axis of the eye 109 at a time. In some embodiments, a scanning mechanism (not shown) can be included to obtain a plurality of measurements over an area of eye 109. As shown in FIG. 1, a light source 101 with a short coherence length provides light to a beam splitter 106. The light is split into a path incident on mirror 103 and a path incident on mirror 104. These two light paths are recombined at beam splitter 106 and incident onto the eye 109 where it is reflected from both the cornea and retina. After reflection from beamsplitter 107, an interference signal appears at detector 108 when the axial eye length d matches the difference in optical path length Nd between the location of mirror 104 and the equivalent distance 105 as that to mirror 103, shown as a dashed line.
[0040] FIG. 2A shows the optical layout of an extended range OCT that incorporates two reference arms and a phase generator in one of the references arms to create a full range Fourier domain interferometer that is capable of measuring the eye length. As shown in FIG. 2 A, OCT apparatus 200 includes a light source 201 coupled to provide light to a splitter/coupler 203. Splitter/coupler 203 receives light from optical source 201 and sends the energy into both sample arm 213 and reference arm 212. Sample arm 213 may include various collimating lenses 209 and focusing lenses 210. Additionally, sample arm 213 includes a beam scanning mechanism 216 to direct the beam to perform two- or three- dimension transverse beam scanning and imaging of a sample 211. For achieving simultaneous imaging, reference arm 212 includes an additional splitter/coupler 204 that separates the beam of light received from splitter/coupler 203 into two or more reference arm paths, such as reference path 214 and reference path 215. Reference path 214 includes collimating lenses 205 and mirror 207. Reference path 215 includes collimating lenses 206 and mirror 208. Collimator lenses 205 and 206 in reference paths 214 and 215, respectively, collimate the beam from an optical fiber coupled to splitter/coupler 204 and focuses the beams back into the optical fiber after it is reflected from reference mirrors 207 and 208, respectively.
[0041] In some embodiments, reference mirror 207 is adjusted to correspond to the anterior segment of the eye while reference mirror 208 is adjusted to correspond to the posterior segment of the eye. The beams returning from the sample arm 213 and reference arm 212 are combined in splitter/coupler 203 and transmitted to detection system 202. The detected signal can then be sent to a processor 218. Phase generator 217 allows the processor 218 to distinguish the signals returning from the anterior and posterior eye. In some embodiment of the present invention, a transverse beam scanning mechanism 216 is included in this configuration to allow a plurality of measurements to be obtained along varying optical axes of the eye. Scanning mechanisms that can be used for scanner 216 or in other measurement techniques can include, for example, mirror that is tilted using a galvanometer or microelectromechanical (MEMS) device, an acousto-optic modulator, a variable diffraction grating, or other mechanical translation of the beam incident on eye 109.」
(和訳:[0037] 本発明の幾つかの実施形態では、複数の測定軸上の複数の測定値を取得することにより、少なくとも1つの光ビームが重度の水晶体混濁を回避し、有用な測定値を得ることができる。
[0038] 更に本発明の幾つかの実施形態は、単一の測定ビームによって、角膜の前面及び後面の曲率の両方を同時に測定でき、屈折矯正手術後の正味角膜屈折力をより正確に算出できる。後述するように、光学的測定値は、低コヒーレンス干渉法、部分的コヒーレンス干渉法又は光干渉断層法を用いて取得することができる。
[0039] 図1は、部分的干渉光を用いた二重ビーム干渉計100の光学的構成を示している。眼軸長の測定は、眼109の単一の測定軸に沿って一度に実行される。幾つかの実施形態では、走査メカニズム(図示せず)を設けて、眼109の領域上で複数の測定値を取得することができる。図1に示すように、コヒーレンス長が短い光源101は、ビームスプリッタ106に光を供給する。光は、ミラー103に入射する経路及びミラー104に入射する経路に分割される。これらの2つの光路は、ビームスプリッタ106において再結合され、眼109に入射し、角膜及び網膜の両方から反射される。ビームスプリッタ107からの反射の後、眼軸長dが、ミラー104の位置と、ミラー103と等距離となる点線で示された位置105との間の差分である光路長Ndに一致すると、検出器108に干渉信号が現れる。
[0040] 図2Aは、眼軸長を測定できる完全な範囲のフーリエドメイン干渉計を実現する、2つの参照アーム及び一方の参照アーム内の位相発生器を備えた範囲が拡張されたOCTの光学的構成を示している。図2Aに示すように、OCT装置200は、スプリッタ/カプラ203に光を供給する光源201を備える。スプリッタ/カプラ203は、光源201から光を受光し、サンプルアーム213及び参照アーム212の両方にエネルギを供給する。サンプルアーム213は、様々なコリメートレンズ209及びフォーカスレンズ210を含んでいてもよい。更にサンプルアーム213は、サンプル211の2次元又は3次元横断ビーム走査及びイメージングを実行するためにビームを方向付けるビーム走査メカニズム216を含む。同時のイメージングを達成するために、参照アーム212は、追加的なスプリッタ/カプラ204を含み、スプリッタ/カプラ204は、スプリッタ/カプラ203からの光ビームを2つ以上の参照アーム経路、例えば、参照経路214及び参照経路215に分離する。参照経路214は、コリメートレンズ205及びミラー207を含む。参照経路215は、コリメートレンズ206及びミラー208を含む。参照経路214、215のコリメートレンズ205、206は、それぞれ、スプリッタ/カプラ204に接続されている光ファイバからのビームをコリメートし、そして、それぞれ参照ミラー207、208から反射された後にビームを光ファイバにフォーカスして戻す。
[0041] 幾つかの実施形態では、参照ミラー207は、前眼部に対応するように調整され、参照ミラー208は、後眼部に対応するように調整される。サンプルアーム213及び参照アーム212から戻るビームは、スプリッタ/カプラ203で結合され、検出システム202に供給される。そして、検出された信号は、プロセッサ218に送信することができる。位相発生器217によって、プロセッサ218は、前眼部及び後眼部からの戻り信号を区別することができる。本発明の幾つかの実施形態では、この構成に横断ビーム走査メカニズム216を設け、眼の異なる光軸に沿って複数の測定値を取得することができる。スキャナ216のため又は他の測定技術のために用いることができる走査メカニズムは、例えば、ガルバノメータ又は微小電気機械(MEMS)デバイスを用いて傾斜されるミラー、音響光学変調器、可変回折格子、又は眼109へ入射するビームに対する他の機械的移動メカニズムを含む。)

(引1-ウ)「[0045] One advantage of the plurality of measurements 300 over the prior art is that as long as the entire array is positioned approximately over the desired measurement axis of the eye, there is increased probability that at least one measurement beam will be coincident or approximately coincident with the preferred measurement axis, which can be the cornea vertex normal or the corneal apex, or center of the pupil. As is customary in the art, axial eye length measurement is usually acquired along the eye's direction of fixation or the direction of sight. In other methods, the optical biometer might be further aligned by the operator until a specular reflection from the cornea is located, which defines the cornea vertex normal. In situations with uncooperative patients, or patients with dense cataract, or corneal or retinal disease, it may be difficult for the operator to locate the corneal vertex normal accurately due to excessive eye motion or poor fixation. An inexperienced operator may also have more difficulty performing proper alignment. The rapid acquisition of the array of measurements 300 according to some embodiments of the present invention increases the probability that at least one of the measurements is exactly or approximately coincident with the preferred measurement axis, customarily the cornea vertex normal.」
(和訳:[0045] 従来の技術に対する複数の測定値のアレイ300の1つの利点は、アレイ全体が概ね眼の所望の測定軸上に配置されていれば、少なくとも1つの測定ビームが適切な測定軸に一致又は略一致する確率が高まる点であり、適切な測定軸は、角膜頂点法線、角膜の先端、又は瞳孔の中心であってもよい。当分野では通常、眼軸長測定値は、眼の固定の方向又は視線方向に沿って取得される。他の手法では、角膜頂点法線を画定する角膜からの鏡面反射が特定されるまで、オペレータが光学式生体計測器を整列させる。患者の協力が得られない状況、患者が重度の白内障又は角膜若しくは網膜に疾患を有する状況では、余分な眼の動き又は固定の不足のために、オペレータが正確に角膜頂点法線を特定することが困難である場合がある。また、経験不足のオペレータでは、正しい整列を行うことがより困難な場合もある。本発明の幾つかの実施形態に基づく測定値のアレイ300の速やかな取得によって、測定値の少なくとも1つが適切な測定軸、通常、角膜頂点法線に正確に一致又は略一致する確率が高まる。)

(引1-エ)



(引1-オ)




(引1-カ)




(2)引用文献1に記載された技術事項

上記(引1-ア)ないし(引1-カ)の記載から、引用文献1には、

「 眼軸長を測定できる完全な範囲のフーリエドメイン干渉計を実現する、2つの参照アーム及び一方の参照アーム内の位相発生器を備えた範囲が拡張されたOCTであって、
サンプルアーム213は、サンプル211の2次元又は3次元横断ビーム走査及びイメージングを実行するためにビームを方向付けるビーム走査メカニズム216を含み、
参照経路214はミラー207を含み、参照経路215はミラー208を含み、
参照ミラー207は、前眼部に対応するように調整され、参照ミラー208は、後眼部に対応するように調整される、OCT。」

という技術事項(以下「引用文献1技術事項」という。)が記載されていると認められる。


第5 対比・判断

1 本願発明1について

(1)引用発明Aを主引用発明とした場合

ア 本願発明1と引用発明Aとを対比する。

(ア)
a 引用発明Aの「被検眼球2」、「測定光」及び「網膜46から反射される光」は、それぞれ本願発明1の「被検眼」、「測定光」及び「眼底反射光」に相当する。

b 本願発明1の「測定光と参照光との干渉信号」は、「前記測定光による角膜反射光と眼底反射光」と「参照光」との干渉信号であるから、引用発明Aの「既存のPSFアナライザー(登録商標)を利用した光照射部13、光検出部14」「が備えられ」、「光照射部13は」「被検眼球2の」「網膜46へ測定光を照射し」、「光検出部14は」「網膜46から反射される光を受光して眼底の周辺視野における光検出信号S14を発生」する「本体部11」と、本願発明1の「被検眼に照射された測定光と参照光との干渉信号を検出する干渉光学系」とは、「被検眼に照射された測定光の眼底反射光を検出する光学系」で共通する。

c 引用発明Aの「本体部11」の「光照射部13は」「被検眼球2の」「網膜46へ測定光を照射し」、「光検出部14は」「網膜46から反射される光を受光」することと、本願発明1の「前記干渉光学系によって前記測定光による角膜反射光と眼底反射光とを受光すること」とは、「前記干渉光学系によって前記測定光による眼底反射光を受光すること」で共通する。

d 一般に、眼軸長は眼軸上での角膜から眼底までの距離を意味し、引用文献4において眼軸長を定義する記載もないことから、引用発明Aの「眼軸長L1」は、本願発明1の「角膜から眼底までの距離である眼軸長」に相当するといえる。

e 引用発明Aの「近視進行診断装置100」は、「被検眼球2で測定点p1?p5に至る深度を測定して」「眼軸長L1」を得ることができるものであるから、本願発明1の「眼軸長測定装置」に含まれる。

f 上記aないしeを踏まえると、引用発明Aの「本体部11には、既存のPSFアナライザー(登録商標)を利用した光照射部13、光検出部14」「が備えられ」、「光照射部13は」「被検眼球2の」「網膜46へ測定光を照射し」、「光検出部14は」「網膜46から反射される光を受光して眼底の周辺視野における光検出信号S14を発生し」、「被検眼球2で測定点p1?p5に至る深度を測定して」「眼軸長L1」を得ることができる「近視進行診断装置100」と、本願発明1の「被検眼に照射された測定光と参照光との干渉信号を検出する干渉光学系を備え、前記干渉光学系によって前記測定光による角膜反射光と眼底反射光とを受光することで、前記被検眼の角膜から眼底までの距離である眼軸長を測定する眼軸長測定装置」とは、「被検眼に照射された測定光の眼底反射光を検出する光学系を備え、前記光学系によって前記測定光による眼底反射光を受光することで、前記被検眼の角膜から眼底までの距離である眼軸長を測定する眼軸長測定装置」で共通する。

(イ)
a 引用発明Aは、「被検眼球2の水晶体42の略中心頂点と黄斑45とを結ぶ眼軸線Lの左右の網膜46の周辺内面に5点の測定点(対称位置)p1?p5を設定」するものであるから、引用発明Aの「被検眼球2の瞳孔の略中心と黄斑とを結ぶ眼軸線Lに対する角度θ」は、「眼軸線Lの左右」を表す角度であり、この「眼軸線Lの左右」は、本願発明1の「耳側と鼻側」に相当する。

b そして、引用発明Aは、「被検眼球2で測定点p1?p5に至る深度を測定」する際、各測定点p1?p5それぞれに対応する角度θにおいて、その角度θにおける深度を測定するものと認められる。

c 引用発明Aの「深度」と、本願発明1の「眼軸長」とは、「眼寸法」で共通する。

d 上記aないしcを踏まえると、引用発明Aの「本体部11」が「載置されており」、「被検眼球2の瞳孔の略中心と黄斑とを結ぶ眼軸線Lに対する角度θを設定するように操作され」る「設定部15が設けられ」た「XYZステージ12」を、「時計方向又は反時計方向に移動できるように」し、「被検眼球2で測定点p1?p5に至る深度を測定」できるようにしている「円弧状の軌道53」と、本願発明1の「前記被検眼上における前記眼軸長の測定位置を、前記被検眼の瞳孔を支点とし、前記眼底の耳側と鼻側とを含む複数の測定位置に変更する測定位置変更手段」とは、「前記被検眼上における眼寸法の測定位置を、前記被検眼の瞳孔を支点とし、前記眼底の耳側と鼻側とを含む複数の測定位置に変更する測定位置変更手段」で共通する。

(ウ)
a 引用発明Aは、「PSF特性」、「屈折度数」及び「眼底曲率半径rx」の演算を「演算部31」で行っており、他に「光検出信号S14」の演算処理を行う手段を備えていないことから、「被検眼球2で測定点p1?p5に至る深度を測定して」「眼軸長L1」を得るための演算を「演算部31」で行っているものと認められる。

b 上記aを踏まえると、引用発明Aの「演算部31」と、本願発明1の「前記干渉光学系からの干渉信号に基づいて前記眼軸長を取得する取得手段」とは、「前記光学系からの信号に基づいて前記眼軸長を取得する取得手段」で共通する。

(エ)
a 引用発明Aの「眼底曲率半径rx」は、「被検眼球2の眼底曲率形状」を表すものであるから、本願発明1の「前記被検眼の眼球形状情報」に含まれる。

b 引用発明Aにおいて、「被検眼球2で測定点p1?p5に至る深度を測定」する際に、「本体部11」が「載置され」た「XYZステージ12」を「円弧状の軌道53上」で「時計方向又は反時計方向に移動」させているといえる。

c 引用発明Aの「深度」と、本願発明1の「眼軸長」とは、「眼寸法」で共通する。

d 上記aないしcを踏まえると、引用発明Aの「演算部31は、被検眼球2の水晶体42の略中心頂点と黄斑45とを結ぶ眼軸線Lの左右の網膜46の周辺内面に5点の測定点(対称位置)p1?p5を設定し、被検眼球2で測定点p1?p5に至る深度を測定して得た眼軸長L1等及び各測定点p1?p5の深度の情報から眼底曲率半径rxを演算」すると、本願発明1の「前記取得手段は、前記測定位置変更手段によって変更された、前記耳側と鼻側とを含む複数の測定位置において前記眼軸長を取得し、前記耳側と鼻側とを含む複数の測定位置における前記眼軸長に基づいて、前記被検眼の眼球形状情報を取得する」とは、「前記取得手段は、前記測定位置変更手段によって変更された、前記耳側と鼻側とを含む複数の測定位置において眼寸法を取得し、前記耳側と鼻側とを含む複数の測定位置における眼寸法に基づいて、前記被検眼の眼球形状情報を取得する」で共通する。

イ そうすると、本願発明1と引用発明Aとは、

「 被検眼に照射された測定光の眼底反射光を検出する光学系を備え、前記光学系によって前記測定光による眼底反射光を受光することで、前記被検眼の角膜から眼底までの距離である眼軸長を測定する眼軸長測定装置であって、
前記被検眼上における眼寸法の測定位置を、前記被検眼の瞳孔を支点とし、前記眼底の耳側と鼻側とを含む複数の測定位置に変更する測定位置変更手段と、
前記光学系からの信号に基づいて前記眼軸長を取得する取得手段と、
を備え、
前記取得手段は、前記測定位置変更手段によって変更された、前記耳側と鼻側とを含む複数の測定位置において眼寸法を取得し、前記耳側と鼻側とを含む複数の測定位置における眼寸法に基づいて、前記被検眼の眼球形状情報を取得する眼軸長測定装置。」

の発明である点で一致し、次の2点において相違する。

(相違点1)
前記被検眼の角膜から眼底までの距離である眼軸長を測定するための構成について、本願発明1においては、備える光学系が「被検眼に照射された測定光と参照光との干渉信号を検出する干渉光学系」であって、「前記干渉光学系によって前記測定光による角膜反射光と眼底反射光とを受光」し、「取得手段」が「前記干渉光学系からの干渉信号に基づいて前記眼軸長を取得する」のに対し、引用発明Aにおいては、備える光学系が「既存のPSFアナライザー(登録商標)を利用した光照射部13、光検出部14」「が備えられ」た「本体部11」であって、「光検出部14は、角度θ方向の網膜46から反射される光を受光して眼底の周辺視野における光検出信号S14を発生し」、「演算部31」が「被検眼球2の水晶体42の略中心頂点と黄斑45とを結ぶ眼軸線Lの左右の網膜46の周辺内面に5点の測定点(対称位置)p1?p5を設定し、被検眼球2で測定点p1?p5に至る深度を測定して」「眼軸長L1」を得る点。

(相違点2)
前記被検眼の眼球形状情報を取得するための構成について、本願発明1においては、測定位置変更手段により変更する眼寸法の測定位置が、「前記眼軸長の測定位置」であり、「前記取得手段は、前記測定位置変更手段によって変更された、前記耳側と鼻側とを含む複数の測定位置において前記眼軸長を取得し、前記耳側と鼻側とを含む複数の測定位置における前記眼軸長に基づいて、前記被検眼の眼球形状情報を取得する」のに対し、引用発明Aにおいては、測定位置変更手段により変更する眼寸法の測定位置が、「深度」の測定位置であり、「演算部31は、被検眼球2の水晶体42の略中心頂点と黄斑45とを結ぶ眼軸線Lの左右の網膜46の周辺内面に5点の測定点(対称位置)p1?p5を設定し、被検眼球2で測定点p1?p5に至る深度を測定して得た眼軸長L1等及び各測定点p1?p5の深度の情報から眼底曲率半径rxを演算」する点。

ウ 相違点についての判断

上記相違点1について検討する。

(ア)引用文献1技術事項は、測定光による角膜反射光及び眼底反射光を受光して、それらと参照経路214及び参照経路215からの参照光との干渉信号を検出する干渉光学系を用いて、眼軸長を測定するOCTである。
よって、引用文献1技術事項は、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項である干渉光学系及び取得手段の構成を備えている。

(イ)しかしながら、引用発明Aは、「シングルパスPSF像に関する光学データD17から角度θにおける測定光の焦点の位置及び当該焦点の前後の位置のPSF特性を求め」、「角度θにおける焦点位置のPSF像の屈折度数、前焦点の屈折度数及び後焦点の屈折度数を角度θ毎に演算し、これにより、前焦点と後焦点の屈折度数から近視の進行の有無を予想でき」る「近視進行診断装置100」であるところ、引用発明Aの「既存のPSFアナライザー(登録商標)を利用した光照射部13、光検出部14」に代えて引用文献1技術事項の干渉光学系を採用した場合、「シングルパスPSF像に関する光学データD17」を得られず、「近視の進行の有無を予想」することができなくなってしまうことから、引用発明Aの「既存のPSFアナライザー(登録商標)を利用した光照射部13、光検出部14」に代えて引用文献1技術事項の干渉光学系を採用することには、阻害要因があるといえる。

(ウ)また、引用発明Aは「眼軸長L1」を得ることができるものであるから、引用発明Aに、眼軸長を取得するための引用文献1技術事項の干渉光学系を付加することを動機付ける事情があるとも認められない。

(エ)そうすると、引用発明Aを、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を備えたものとすることは、引用文献4及び1に接した当業者といえども、容易に想到し得たこととはいえない。

エ 小括

したがって、上記相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明A及び引用文献1技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)引用発明Bを主引用発明とした場合

ア 本願発明1と引用発明Bとを対比する。

(ア)後眼部OCTは、眼底部からの反射光と参照光との干渉信号を検出して眼底部の層構造を解析する装置であるから、引用発明Bの「後眼部OCTである眼底画像取得装置」は、本願発明1の「被検眼に照射された測定光と参照光との干渉信号を検出する干渉光学系」に相当する光学系を備えている。

(イ)引用発明Bの「後眼部OCTである眼底画像取得装置から得られる眼底形状データDIN」は、眼底からの反射光と参照光との干渉信号を検出して得られるものである。
そうすると、引用発明Bの「後眼部OCTである眼底画像取得装置から得られる眼底形状データDINに基づいて眼軸長Lxを測定」すると、本願発明1の「前記干渉光学系によって前記測定光による角膜反射光と眼底反射光とを受光することで、前記被検眼の角膜から眼底までの距離である眼軸長を測定する」とは、「前記干渉光学系によって前記測定光による眼底反射光を受光することで、前記被検眼の角膜から眼底までの距離である眼軸長を測定する」で共通する。
また、引用発明Bの「後眼部OCTである眼底画像取得装置から得られる眼底形状データDINに基づいて眼軸長Lxを測定」する「近視進行診断装置100」は、本願発明1の「前記干渉光学系からの干渉信号に基づいて前記眼軸長を取得する取得手段」と、「前記干渉光学系からの眼底部の干渉信号に基づいて前記眼軸長を取得する取得手段」で共通する手段を備えているといえる。

(ウ)引用発明Bの「近視進行診断装置100」は、「眼軸長Lxを測定」するものであるから、本願発明1の「眼軸長測定装置」に含まれる。

(エ)引用発明Bの「後眼部OCTである眼底画像取得装置」は、「眼底形状データDIN」を得ることができるものであるから、眼底の測定位置を2次元的に変更することができるものであるといえる。
そうすると、引用発明Bの「後眼部OCTである眼底画像取得装置から得られる眼底形状データDINに基づいて眼軸長Lxを測定」する「後眼部OCTである眼底画像取得装置」は、本願発明1の「前記被検眼上における前記眼軸長の測定位置を、前記被検眼の瞳孔を支点とし、前記眼底の耳側と鼻側とを含む複数の測定位置に変更する測定位置変更手段」と、「前記被検眼上における眼底の測定位置を、前記眼底の耳側と鼻側とを含む複数の測定位置に変更する測定位置変更手段」で共通する手段を備えているといえる。
また、引用発明Bの「後眼部OCTである眼底画像取得装置から得られる眼底形状データDINに基づいて眼軸長Lxを測定」する「近視進行診断装置100」は、本願発明1の「前記取得手段は、前記測定位置変更手段によって変更された、前記耳側と鼻側とを含む複数の測定位置において前記眼軸長を取得し」と、「前記取得手段は、前記測定位置変更手段によって変更された、前記耳側と鼻側とを含む複数の測定位置における眼底の測定により前記眼軸長を取得し」で共通する構成を備えているといえる。


イ そうすると、本願発明1と引用発明Bとは、

「 被検眼に照射された測定光と参照光との干渉信号を検出する干渉光学系を備え、前記干渉光学系によって前記測定光による眼底反射光を受光することで、前記被検眼の角膜から眼底までの距離である眼軸長を測定する眼軸長測定装置であって、
前記被検眼上における眼底の測定位置を、前記眼底の耳側と鼻側とを含む複数の測定位置に変更する測定位置変更手段と、
前記干渉光学系からの眼底部の干渉信号に基づいて前記眼軸長を取得する取得手段と、
を備え、
前記取得手段は、前記測定位置変更手段によって変更された、前記耳側と鼻側とを含む複数の測定位置における眼底の測定により前記眼軸長を取得する眼軸長測定装置。」

の発明である点で一致し、次の2点において相違する。

(相違点3)
前記被検眼の角膜から眼底までの距離である眼軸長を測定するための構成について、本願発明1においては、被検眼に照射された測定光と参照光との干渉信号を検出する干渉光学系が、「前記測定光による角膜反射光と眼底反射光とを受光」し、「取得手段」が「前記干渉光学系からの干渉信号に基づいて前記眼軸長を取得する」のに対し、引用発明Bにおいては、被検眼に照射された測定光と参照光との干渉信号を検出する干渉光学系が、「後眼部OCTである眼底画像取得装置」であり、それによって「得られる眼底形状データDINに基づいて眼軸長Lxを測定」するものであって、「眼底形状データDIN」を得るために眼底の測定位置を変更することに加え、角膜反射光に係る干渉信号を用いない点。

(相違点4)
本願発明1においては、「測定位置変更手段」が「前記被検眼上における前記眼軸長の測定位置を、前記被検眼の瞳孔を支点とし」変更するものであり、「前記取得手段は、前記測定位置変更手段によって変更された、前記耳側と鼻側とを含む複数の測定位置において前記眼軸長を取得し、前記耳側と鼻側とを含む複数の測定位置における前記眼軸長に基づいて、前記被検眼の眼球形状情報を取得する」のに対し、引用発明Bにおいては、「眼底形状データDIN」を得るために眼底の測定位置を変更するものであって、「複数の測定位置において前記眼軸長を取得」することは特定されておらず、「複数の測定位置における前記眼軸長に基づいて、前記被検眼の眼球形状情報を取得する」ものではない点。

ウ 相違点についての判断

(ア)上記相違点3について検討する。

a 引用文献1技術事項は、測定光による角膜反射光及び眼底反射光を受光して、それらと参照経路214及び参照経路215からの参照光との干渉信号を検出する干渉光学系を用いて、眼軸長を測定するOCTである。
よって、引用文献1技術事項は、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項である干渉光学系及び取得手段の構成を備えている。

b 上記(引4-ウ)の「【0176】・・・この例では、近視進行診断装置100において、光学データ取得部10の代わるレフラクトメーターや後眼部OCT(Optical Coherence Tomography)等の眼底画像取得装置から得られる眼底形状データDINに基づいて眼軸長Lxを測定し、その眼軸長Lxと平均的な眼底曲率形状から後焦点コントロールエリア63のタイプTa,Tb,Tcを決定するようにした。」との記載から、引用発明Bは、眼底形状データDINに基づいて眼軸長を測定しようとするものと認められる。
しかしながら、眼軸長が測定できればよいことから、入手可能な装置などの事情を勘案して、眼軸長を測定可能な他の装置を用いることを阻害するとまではいえない。
そうすると、引用発明Bにおいて、後眼部OCTである眼底画像取得装置に代えて引用文献1技術事項を採用し、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項を備えたものとすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

(イ)上記相違点4について検討する。

a 引用発明Bは、「後眼部OCTである眼底画像取得装置から」「眼底形状データDIN」を得ているが、「眼底形状データDIN」は「眼軸長Lxを測定」するために用いられていることから、「眼底形状データDIN」は眼軸長Lxの測定に必要な眼底の限定的な領域に対応するものであると認められ、「眼軸長Lxに対応する平均的な眼底曲率形状から、コンタクトレンズ200の後焦点コントロールエリア63のタイプTa,Tb,Tcを決定するものであ」ることから、引用発明Bは被検眼球2の眼底曲率形状を測定する必要のないものである。

b ところで、一般に精度と簡便さはトレードオフの関係にあるところ、平均的な眼底曲率形状から被検眼球2に対応した最適な1つのコンタクトレンズ200を自動選定する引用発明Bにおいても、自動選定の精度と眼底曲率形状取得の簡便さはトレードオフの関係にあるといえる。
そうすると、自動選定の精度向上を重視し、平均的な眼底曲率形状の利用に代えて実測した被検眼球2の眼底曲率形状を利用しようと動機付ける事情は否定できない。

c そこで、眼軸長を測定できる引用文献1技術事項について検討するに、引用文献1技術事項は、「サンプルアーム213」に「ビーム走査メカニズム216」を備えている。
しかしながら、上記(引1-イ)の「[0037] 本発明の幾つかの実施形態では、複数の測定軸上の複数の測定値を取得することにより、少なくとも1つの光ビームが重度の水晶体混濁を回避し、有用な測定値を得ることができる。」及び(引1-ウ)の「[0045] 従来の技術に対する複数の測定値のアレイ300の1つの利点は、アレイ全体が概ね眼の所望の測定軸上に配置されていれば、少なくとも1つの測定ビームが適切な測定軸に一致又は略一致する確率が高まる点であり、適切な測定軸は、角膜頂点法線、角膜の先端、又は瞳孔の中心であってもよい。当分野では通常、眼軸長測定値は、眼の固定の方向又は視線方向に沿って取得される。他の手法では、角膜頂点法線を画定する角膜からの鏡面反射が特定されるまで、オペレータが光学式生体計測器を整列させる。患者の協力が得られない状況、患者が重度の白内障又は角膜若しくは網膜に疾患を有する状況では、余分な眼の動き又は固定の不足のために、オペレータが正確に角膜頂点法線を特定することが困難である場合がある。また、経験不足のオペレータでは、正しい整列を行うことがより困難な場合もある。本発明の幾つかの実施形態に基づく測定値のアレイ300の速やかな取得によって、測定値の少なくとも1つが適切な測定軸、通常、角膜頂点法線に正確に一致又は略一致する確率が高まる。」との記載、並びに、上記(引1-カ)のFIG.4Aに交差しない複数の光ビームが示されていることから、引用文献1技術事項の「ビーム走査メカニズム216」は、複数の光ビームのうちのいずれかが所望の経路を通過するように、複数の光ビームの経路を交差させずにずらすためのものであり、「前記被検眼の瞳孔を支点とし、前記眼底の耳側と鼻側とを含む複数の測定位置に変更する」ものではない。

d また、引用文献1は、「前記被検眼の瞳孔を支点とし、前記眼底の耳側と鼻側とを含む複数の測定位置」「において前記眼軸長を取得し、前記耳側と鼻側とを含む複数の測定位置における前記眼軸長に基づいて、前記被検眼の眼球形状情報を取得する」ことを開示又は示唆するものではない。

e してみると、引用文献4及び1に接した当業者といえども、上記相違点4に係る本願発明1の発明特定事項を容易に想到し得たとはいえない。

エ 小括

したがって、本願発明1は、当業者であっても引用発明B及び引用文献1技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本願発明1のまとめ

以上のとおりであるから、本願発明1は、当業者であっても、引用発明A又はB、及び引用文献1技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2及び3について

本願発明2及び3は、本願発明1の構成を全て備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明A又はB、及び引用文献1技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 本願発明4について

本願発明4は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1の全ての構成に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明A又はB、及び引用文献1技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 本願発明5について

本願発明5は、本願発明1に対応する眼軸長測定装置において本願発明4を実行するためのプログラムに係る発明であり、本願発明1の全ての構成に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明A又はB、及び引用文献1技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第6 原査定について

上記第5で検討したとおり、審判請求時の手続補正により補正された本願発明1、4及び5は、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献4及び1に基づいて、容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第7 むすび

以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-12-14 
出願番号 特願2015-40809(P2015-40809)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐藤 秀樹  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 渡戸 正義
磯野 光司
発明の名称 眼軸長測定装置、眼球形状情報取得方法、および眼球形状情報取得プログラム  

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