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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03G 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G03G 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G03G 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 G03G |
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管理番号 | 1369340 |
審判番号 | 不服2020-6736 |
総通号数 | 254 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-02-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-05-18 |
確定日 | 2021-01-12 |
事件の表示 | 特願2016- 33620「トナー、トナー収容ユニット、画像形成装置、及び画像形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月31日出願公開、特開2017-151268、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続等の経緯 特願2016-33620号(以下「本件出願」という。)は、平成28年(2016年)2月24日を出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 令和元年11月12日付け:拒絶理由通知書 令和2年 1月17日 :意見書・手続補正書 令和2年 1月30日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和2年 5月18日 :審判請求書 2 原査定の概要 (1)新規性 本件出願の請求項1?9に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。 (2)進歩性 本件出願の請求項1?9に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 (3)委任省令要件 本件出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。 (4)明確性要件 本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。 引用文献1:特開2009-69222号公報 3 本願発明 本件出願の請求項1?請求項9に係る発明は、令和2年1月17日にした手続補正(以下「本件補正」という。)後の特許請求の範囲の請求項1?請求項9に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。 「【請求項1】 結着樹脂を有するトナー母体粒子と、少なくとも2種類以上の無機微粒子とを含有するトナーであって、 前記無機微粒子を前記トナー母体粒子に対して1.0質量%?3.5質量%含有し、 トナーを基板に衝突させる真空分散型画像解析法により真空分散器を用いて前記トナーを衝突させた場合、 カーボンテープからなる前記基板に分散した前記無機微粒子の遊離数が前記トナー1粒子あたり10個以下であり、 マイカからなる前記基板に分散した前記無機微粒子の遊離数が前記トナー1粒子あたり200個?1,800個であり、 前記マイカからなる前記基板に分散した350nm以上500nm以下の前記無機微粒子の遊離数が前記トナー1粒子あたり50個以下であることを特徴とするトナー。 【請求項2】 前記無機微粒子が、シリカ、チタン、及びアルミナから選ばれる酸化物又は複合酸化物を少なくとも1種類を含有する請求項1に記載のトナー。 【請求項3】 前記無機微粒子のうち、少なくとも1種類は、個数平均粒径が40nm?200nmの無機微粒子である請求項1から2のいずれかに記載のトナー。 【請求項4】 前記無機微粒子のうち、少なくとも1種類は、個数平均粒径が70nm?150nmの無機微粒子であって、他の1種類は、個数平均粒径が2nm?10nmの無機微粒子である請求項1から3のいずれかに記載のトナー。 【請求項5】 前記トナーに対し、断面観察をした場合、 前記トナーは、コントラスト差による組成の異なるシェル構造を有し、 前記シェル構造の平均厚みが、前記トナーの直径に対して1/60?1/10であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のトナー。 【請求項6】 キャリアと、請求項1から5のいずれかに記載のトナーとを含有することを特徴とする二成分系現像剤。 【請求項7】 請求項1から5のいずれかに記載のトナーを収容した、トナー収容ユニット。 【請求項8】 静電潜像担持体と、前記静電潜像担持体上に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、 前記静電潜像担持体に形成された前記静電潜像を、トナーを用いて現像してトナー像を形成する、トナーを備える現像手段と、 前記静電潜像担持体上に形成されたトナー像を記録媒体の表面に転写する転写手段と、 前記記録媒体の表面に転写されたトナー像を定着する定着手段とを含み、 前記トナーが、請求項1から5のいずれかに記載のトナーであることを特徴とする画像形成装置。 【請求項9】 静電潜像担持体上に静電潜像を形成する静電潜像形成工程と、 前記静電潜像担持体上に形成された前記静電潜像を、トナーを用いて現像してトナー像を形成する現像工程と、 前記静電潜像担持体上に形成されたトナー像を記録媒体の表面に転写する転写工程と、 前記記録媒体の表面に転写されたトナー像を定着する定着工程とを含み、 前記トナーが、請求項1から5のいずれかに記載のトナーであることを特徴とする画像形成方法。」 第2 当合議体の判断 1 引用文献の記載及び引用発明 (1)引用文献1について 原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である、特開2009-69222号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定及び判断等に活用した箇所を示す。 ア 「【背景技術】 【0001】 近年、電子写真作像業界において、高速化、高画質化が一般的に求められている。特に画質に重要な影響を与える要因の一つとされるトナーの定着性が、作像速度、いわゆる画像形成装置のシステム速度が高速になるにつれて、悪化するため、高速化とトナーの定着性を両立させることが課題となっている。さらに定着性を向上させるために発生する樹脂の軟化特性の低下、離型剤の多用がトナーの感光体フィルミングを引き起こし、その現象が画像品質の低下の原因となり問題であった。 このように高速化というキーワード一つとってもそこから引き起こされる各種副作用、例えば前述の定着性だけでなく、現像性(帯電立ち上がり性、帯電保持性)、トナーとしての耐熱保存性、感光体汚染性(フィルミング)等、従来の装置ではとてもそれらの課題の同時達成は困難であった。 ・・・中略・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 上記問題点に鑑み、本発明は、高速出力システムにおいて、対感光体フィルミング(汚染)性が向上し、低温定着が可能でかつトナー保存性も良好で、定着高温巻き付き性も良好で、定着紙との定着強度が十分高い画像形成技術、特に、画像形成装置を提供することを課題とする。さらに、同時に高度に帯電特性(帯電立ち上がり性、帯電保持性)が制御されたトナー、キャリアスペント性の少ない現像システム、現像剤を用いて、高度に信頼性の高い画像を維持しつつ高現像剤寿命を達成するとともに、かつ、低温低湿環境下における劣化かぶりを減少させることができ、高品質な画像が印刷できる画像形成装置を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 上記課題は、以下の本発明によって解決される。 (1)「記録媒体上の可視像を熱と圧力により定着させる定着装置を備える画像形成装置において、システム速度が400?3000mm/secであり、可視像形成に用いるトナーが、少なくともアモルファスポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂と着色剤と離型剤とを含有するトナーであって、結晶構造がトナーの状態で存在し、かつトナーの中心活性化エネルギーE(50)の値が0.76eV?0.85eVであることを特徴とする画像形成装置」、 ・・・中略・・・ 【発明の効果】 【0010】 本発明により、超高速画像形成装置においても、低温定着性、フィルミング性、高温巻き付き性、耐熱保存性に優れ、かつ定着紙との定着強度が十分高くかつ、高度に帯電特性(帯電立ち上がり性、帯電保持性)が制御されたトナー、キャリアスペント性の少ない現像システム、高度に信頼性の高い画像を維持しつつ高現像剤寿命を達成するとともに、かつ、低温低湿環境下における劣化かぶりを減少させることのできる画像形成装置を提供することができる。 また本発明により、上記画像形成装置並びにそれに用いるトナー、キャリア、現像剤、プロセスカートリッジを提供することができる。」 イ 「【0106】 (トナー外添剤) 本発明のトナーに添加する外添剤として、特に疎水化処理したシリカ1種類以上と酸化チタン1種類以上を含有し、かつトナーの中心活性化エネルギーE(50)の値が0.76eV?0.85eVになるように外添剤の混合条件が制御されていることがより好ましい。 【0107】 外添剤として用いることができる無機微粒子として、例えばシリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛、酸化スズ、ケイ砂、クレー、雲母、ケイ灰石、ケイソウ土、酸化クロム、酸化セリウム、ベンガラ、三酸化アンチモン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素などを挙げることができる。この中でも、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物が好ましく、この無機微粒子はトナー母体に対し0.01から5重量%使用することがより好ましい。 トナーの流動性を高度に制御する手段として、外添剤の製造条件の制御だけでなく、外添剤生成後の解砕、篩がけ他が有効で、さらにトナー表面への付着させかた、付着状態も重要となる。 【0108】 外添剤としては、無機微粒子や疎水化処理無機微粒子を併用することができるが、疎水化処理された一次粒子の平均粒径が1?20nm、より好ましくは6?15nm(BET法による比表面積で100?400m^(2)/g)、の小粒径無機微粒子と30?150nm、より好ましくは90?130nm(BET法による比表面積で20?100m^(2)/g)の大粒径無機微粒子を少なくとも2種類以上がトナー表面に存在することがより好ましい。またさらに好ましくは、小粒径無機微粒子はシリカあるいは酸化チタンでその両方が存在するとより好ましい。また大粒径無機微粒子はシリカがより好ましい。さらにゾルゲル法等湿式法で製造されたシリカがより好ましい。また中粒径無機微粒子として20?50nm(BET法による比表面積で40?100m^(2)/g)の無機微粒子、さらに好ましくはシリカ、がトナー表面にさらに存在するとさらに好ましい。 ・・・中略・・・ 【0113】 (混合条件) トナーに添加する方法として、ヘンシェルミキサー、Qミキサー等による乾式外添処理だけでなく、湿式外添処理(溶媒、水(必要に応じて濡れ性改善のための活性剤等を含有させる))による付着も有効である。 外添剤の混合方式であるが、外添剤の母体トナーへの外添は、母体トナーと外添剤をミキサー類を用い混合・攪拌することにより外添剤が解砕されながらトナー表面に被覆される乾式混合でも良い。この時、無機微粒子や樹脂微粒子等の外添剤が均一にかつ強固に母体トナーに付着させることが耐久性の点で重要である。これら添加・混合条件として、ミキサー類の羽形状、回転数、混合時間、混合回数、外添剤量、母体トナー量、母体トナーの表面性(凹凸、硬度、粘弾性、他)が重要となる。 【0114】 また、湿式混合として、液中で無機微粒子付着処理を施すことができる。トナー粒子が水中で形成され、用いた界面活性剤等を洗浄によって除去した後に、本工程を行なってもよい。水中に存在している余剰の界面活性剤をろ過、遠心分離などの固液分離操作をして除去し、得られたケーキ、スラリーを水系媒体中に再分散する。さらにそのスラリーに無機微粒子を添加分散する。あらかじめ無機微粒子を水系分散体に分散させておくこともできる。その際逆極性の界面活性剤を用いて分散しておくとトナー粒子表面への付着はさらに効率的に行なわれる。また無機微粒子が疎水化処理されており水系分散体に分散させにくい場合は少量のアルコールなどとの併用により界面張力を下げて濡れ易くしてから無機微粒子を分散させても良い。その後 逆極性の界面活性剤水溶液を攪拌下徐々に添加する。逆極性の界面活性剤はトナー粒子固形分に対し0.01から1重量%使用することが好ましい。逆極性の界面活性剤の添加によって無機微粒子分散体の水中での荷電が中和され、トナー粒子表面に無機微粒子を凝集付着させることができる。この無機微粒子はトナー粒子固形分に対し0.01から5重量%使用することが好ましい。 これらトナー表面に付着させた無機微粒子は、その後スラリーを加熱することによりトナー表面に固定化し、脱離を防止することができる。その際トナーを構成する樹脂のTgよりも高い温度にて加熱することが望ましい。さらに凝集を防止しながら乾燥後加熱処理を行なっても良い。」 ウ 「【実施例】 【0120】 以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。ここで示す、部は重量部を示す。「%」は重量%を意味する。 ・・・中略・・・ 【0131】 (結晶性ポリエステル樹脂の合成例) -結晶性ポリエステル樹脂1の合成- 窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱伝対を装備した5リットルの四つ口フラスコに以下原材料を入れ、160℃で6時間反応させた後、180℃に昇温して1.5時間反応させ、さらに8.3KPaにて2時間反応させ結晶性ポリエステル樹脂1を得た。該結晶性ポリエステル樹脂1のTgピークは、110℃であった。 1,4-ブタンジオール: 23.75モル エチレングリコール: 1.25モル フマル酸: 22.75モル 無水トリメリット酸: 1.65モル ハイドロキノン: 5.1g 【0132】 -結晶性ポリエステル樹脂2の合成- 窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱伝対を装備した5リットルの四つ口フラスコに以下原材料を入れ、160℃で5時間反応させた後、170℃に昇温して1時間反応させ、さらに8.3KPaにて2時間反応させ結晶性ポリエステル樹脂2を得た。該結晶性ポリエステル樹脂2のTgピークは、77℃であった。 1,6-ヘキサンジオール: 23.75モル エチレングリコール: 1.25モル フマル酸: 24.40モル ハイドロキノン: 5.1g 【0133】 -結晶性ポリエステル樹脂3の合成- 窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱伝対を装備した5リットルの四つ口フラスコに以下原材料を入れ、160℃で8時間反応させた後、180℃に昇温して1.5時間反応させ、さらに8.3KPaにて4時間反応させ結晶性ポリエステル樹脂3を得た。該結晶性ポリエステル樹脂3のTgピークは、135℃であった。 1,4-ブタンジオール: 21.75モル 1,6-ヘキサンジオール: 2.00モル エチレングリコール: 1.25モル フマル酸: 22.75モル 無水トリメリット酸: 1.65モル ハイドロキノン: 5.1g 【0134】 (外添剤の製造例) -シリカ1の合成- 気相法によって製造されたBET比表面積300m^(2)/gのシリカ微粉末100gを反応槽に入れ、窒素雰囲気下、撹拌しながら水2.0gを噴霧した。これにヘキサメチルジシラザン13gを噴霧し、150℃で2時間加熱撹拌し、その後冷却した。そしてジェットミルで解砕して1次平均粒径9nmのシリカ粒子を得た。その後、乾式分級機TC-40II(日清エンジニアリング製)により分級処理を行ない、粒径50μm以上の凝集体を除去し、シリカ1を得た。 【0135】 -シリカ2の合成- 気相法によって製造されたBET比表面積300m^(2)/gのシリカ微粉末100gを反応槽に入れ、窒素雰囲気下、撹拌しながら水2.0gを噴霧した。これにヘキサメチルジシラザン4gを噴霧し、150℃で1時間加熱撹拌し、その後冷却した。そしてジェットミルで解砕して1次平均粒径9nmのシリカ粒子を得た。その後、乾式分級機TC-40II(日清エンジニアリング製)により分級処理を行ない、粒径50μm以上の凝集体を除去し、シリカ2を得た。 【0136】 -酸化チタン1の合成- 平均一次粒子径15nmの酸化チタン(結晶型ルチル型)1000gをトルエン3000gに分散し、その酸化チタンに対し18質量%のイソブチルトリメトキシシランを添加した後、酸化チタン粒子が合一しないように強力な分散処理を行ない、その後、乾燥、解砕して疎水性の酸化チタンを得た。その後、乾式分級機TC-40II(日清エンジニアリング製)により分級処理を行ない、粒径50μm以上の凝集体を除去し、酸化チタン1を得た。 【0137】 -酸化チタン2の合成- 平均一次粒子径15nmの酸化チタン(結晶型ルチル型)1000gをトルエン3000gに分散し、その酸化チタンに対し3質量%のイソブチルトリメトキシシランを添加した後、酸化チタン粒子が合一しないように強力な分散処理を行ない、その後、乾燥、解砕して疎水性の酸化チタンを得た。その後、乾式分級機TC-40II(日清エンジニアリング製)により分級処理を行ない、粒径50μm以上の凝集体を除去し、酸化チタン2を得た。 【0138】 (結着樹脂合成例) -アモルファスポリエステル樹脂aの合成- [線状ポリエステル樹脂の合成] 冷却管、撹拝機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールAのPO2モル付加物430部、ビスフェノールAのPO3モル付加物300部、テレフタル酸257部、イソフタル酸65部、無水マレイン酸10部及び縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)2部を入れ、200℃で窒素気流下に生成する水を留去しながら7時間反応させた。次いで5?20mmHgの減圧下に反応させ、酸価が5になった時点で取り出し、室温まで冷却後粉砕して線状ポリエステル樹脂(AX1-1)を得た。(AX1-1)はTHF不溶分を含有しておらず、その酸価は7、水酸基価は12、Tgは48℃、Mnは5940、Mpは18200であった。分子量1500以下の成分の比率は1.1%であった。 【0139】 [非線状ポリエステル樹脂の合成] 冷却管、撹拝機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールAのEO2モル付加物350部、ビスフェノールAのPO3モル付加物326部、テレフタル酸278部、無水フタル酸40部及び縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)2部を入れ、210℃で窒素気流下に生成する水を留去しながら7時間反応させた。次いで5?20mmHgの減圧下に反応させ、酸価が2以下になった時点で180℃に冷却し、無水トリメリット酸62部を加え、常圧密閉下2時間反応後取り出し、室温まで冷却後、粉砕して非線状ポリエステル樹脂(AX2-1)を得た。 (AX2-1)はTHF不溶分を含有しておらず、その酸価は35、水酸基価は17、Tgは57℃、Mnは3700、Mpは11200であった。分子量1500以下の成分の比率は0.8%であった。 前述のポリエステル(AX1-1)800部とポリエステル(AX2-1)200部をコンテイニアスニーダーにて、ジャケット温度140℃、滞留時間3分で溶融混合した。溶融樹脂をスチールベルト冷却機を使用して、4分間で30℃まで冷却後粉砕して本発明のポリエステル樹脂aを得た。 得られたポリエステル樹脂aは、数平均分子量(Mn)が2,800、重量平均分子量(Mw)が7,200、ガラス転移温度(Tg)が55℃であった。 【0140】 <実施例1> -トナーAの作製- ・アモルファスポリエステル樹脂a:90部 ・結晶性ポリエステル1:10部 ・C.I.Pigment Blue15,3:5部 ・帯電制御剤:2部 (ビス(3,5-ジ・ターシャリーブチルサリチラト-O1,O2)亜鉛) ・カルナバワックス(Tgピーク81℃):3部 商品名;WA-03(東亜化成株式会社製) ・脂肪酸アミド化合物:2部 (エチレンビスステアリン酸アマイド、Tgピーク147℃、 商品名;EB-P(花王株式会社製)) 【0141】 (混合条件の具体例) 上記トナー材料をヘンシェルミキサー(三井鉱山社製 FM20C)を用いてプレミックス(混合)した。混合条件は、周速30m/secで、120秒回転、60秒回転停止、のセットを3回繰り返して十分混合した。その後予め回収しておいた微粉トナー10質量部を加え、ロール表面を95℃に設定した2本ロールにより45分間混練を行なった。その後、圧延冷却、粗粉砕後、ジェットミル方式の粉砕器(I-2式ミル:日本ニューマチック工業社製)と旋回流による風力分級(DS分級機:日本ニューマチック工業社製)を行ない、ブルーの着色粒子を得た。 この着色粒子を10kg/hの処理速度にて、機械式回転粉砕機(ターボ工業(株)製ターボミルT-400RS型)に供給し、処理温度53℃、ローター周速113m/sで粉砕する工程を3回繰り返して円形度を調整した着色粒子を得た。 その後、着色粒子100部、シリカ1を1.0部と酸化チタン1を1.0部をヘンシェルミキサー(三井鉱山社製 FM20C)にて混合してトナーを得た。混合条件は、周速30m/secで、60秒回転、30秒回転停止、のセットを3回繰り返して混合してトナーを得た。 得られたトナー7重量部に対してキャリア1を100重量部を容器が転動して攪拌される型式のターブラーミキサーを用いて均一混合し帯電させて、現像剤を作成した。得られたトナーの物性は表1に示す。得られたトナーを評価機1で評価した。評価結果は表2に示した。 【0142】 <実施例2> 実施例1において、用いた評価機1を評価機2とした以外は実施例1と同様にして評価した。評価結果は表2に示した。 【0143】 <実施例3> 実施例1において、用いた評価機1を評価機3とした以外は実施例1と同様にして評価した。評価結果は表2に示した。 【0144】 <実施例4> 実施例1において、用いた評価機1を評価機4とした以外は実施例1と同様にして評価した。評価結果は表2に示した。 【0145】 <実施例5> 実施例1において、用いた評価機1を評価機5とした以外は実施例1と同様にして評価した。評価結果は表2に示した。 【0146】 <実施例6> 実施例1において、用いた評価機1を評価機6とした以外は実施例1と同様にして評価した。評価結果は表2に示した。 【0147】 <実施例7> 実施例1において、用いた評価機1を評価機7とした以外は実施例1と同様にして評価した。評価結果は表2に示した。 【0148】 <実施例8> 実施例1において、使用した外添剤をシリカ1からシリカ2に変更した以外は実施例1と同様にして評価した。得られたトナーの物性は表1に示す。評価結果は表2に示した。 【0149】 <実施例9> 実施例1において、使用した外添剤を酸化チタン1から酸化チタン2に変更した以外は実施例1と同様にして評価した。得られたトナーの物性は表1に示す。評価結果は表2に示した。 【0150】 <実施例10> 実施例1において、用いたトナーのワックスをカルナバワックスの代わりにパラフィンワックス(Tgピーク48℃)、商品名;パラフィンワックス115(日本精蝋株式会社製)を用い、さらに分級後の着色粒子を機械式回転粉砕機に供給せずに着色粒子を製造した。その後の処理は実施例1と同様にして製造して評価した。得られたトナーの物性は表1に示す。得られたトナーを評価機1で評価した。評価結果は表2に示した。 【0151】 <実施例11> 実施例1において、用いたトナーのワックスをカルナバワックスの代わりにポリプロピレンワックス(Tgピーク143℃)、商品名;ビスコール660-P(三洋化成工業株式会社製)を用いた以外は実施例1と同様にして評価した。得られたトナーの物性は表1に示す。得られたトナーを評価機1で評価した。評価結果は表2に示した。 【0152】 <実施例12> 実施例1において、用いたトナーの脂肪酸アミド化合物をエチレンビスステアリン酸アミドの代わりにオレイン酸アマイド(Tgピーク69℃)、商品名;ニュートロン(日本精化株式会社製)を用いた以外は実施例1と同様にして評価した。得られたトナーの物性は表1に示す。得られたトナーを評価機1で評価した。評価結果は表2に示した。 【0153】 <実施例13> 実施例1において、用いたトナーの脂肪酸アミド化合物をエチレンビスステアリン酸アミドの代わりにエチレンビスカプリン酸アマイド(Tgピーク161℃)、商品名;スリパックスC10(日本化成株式会社製)を用いた以外は実施例1と同様にして評価した。得られたトナーの物性は表1に示す。得られたトナーを評価機1で評価した。評価結果は表2に示した。 【0154】 <実施例14> 実施例1において、用いたトナーの結晶性ポリエステル1の代わりに結晶性ポリエステル2を用いた以外は実施例1と同様にして評価した。得られたトナーの物性は表1に示す。得られたトナーを評価機1で評価した。評価結果は表2に示した。 【0155】 <実施例15> 実施例1において、用いたトナーの結晶性ポリエステル1の代わりに結晶性ポリエステル3を用いた以外は実施例1と同様にして評価した。得られたトナーの物性は表1に示す。得られたトナーを評価機1で評価した。評価結果は表2に示した。 【0156】 <実施例16> 実施例1において、用いたトナーの以下のように作成した以外は実施例1と同様にして評価した。得られたトナーの物性は表1に示す。得られたトナーを評価機1で評価した。評価結果は表2に示した。 ・・・中略・・・ 【0172】 (評価項目) (1)帯電保持性 得られた二成分現像剤と各評価機を用いて5%画像面積チャートを5,000枚出力した直後、以下に示すブローオフ装置により帯電量を評価した。その値をQsとする。その後温湿度が30℃90%の環境に12時間放置し、放置後の帯電量を評価した。その値をQeとする。ここで帯電保持性を以下の式で定義した。 帯電保持性(%)=Qe/Qs×100 帯電保持性の値が0以上15未満を◎、15以上30未満を○、30以上60未満を△、60以上を×とした。 【0173】 (ブローオフ帯電量) ブローオフ粉体帯電量測定装置「TB-200(東芝ケミカル社製)」を使用して下記の方法で測定した。現像剤0.05gを635メッシュの金網上に計り取り、窒素ブロー圧:0.5kg/cm^(2)、ブロー時間:20秒の条件でブローオフ帯電量を測定した。 【0174】 (2)画像濃度 ベタ画像をリコーフルカラーPPC用紙タイプ6200に画像出力後、画像濃度をX-Rite(X-Rite社製)により測定。これを4色単独に行ない平均を求めた。この値が、1.0以上1.4未満の場合濃度が薄すぎて×、1.4以上1.8未満の場合は○、1.8以上の場合は狙いの画像濃度よりも高くなりトナー消費量が増大するため好ましくなく××とした。 【0175】 (3)低温定着性 得られた二成分現像剤と各評価機を用いて10%画像面積チャートを5,000枚出力した後、定着ロールの温度を5℃づつ変化させ、画像出しをし、定着後から3日間経時した時点での定着性を測定した。転写紙はリコーフルカラーPPC用紙タイプ6200を用いた。 定着単体機の定着温度を変え、マクベス濃度計による画像濃度が1.2となるようなコピー画像を得た。各温度のコピー画像を砂消しゴムを装着したクロックメーターにより50回擦り、その前後の画像濃度を測定し、下記式にて定着率を求めた。 定着率(%)=〔(砂消しゴム10回後の画像濃度)/(前の画像濃度)〕×100 定着率70%以上を達成する温度を、定着下限温度とした。低温定着性の判定基準は次の通りである。 評価結果は以下のように示した。 ◎:非常に低温で定着し始め定着下限温度が低く、非常に低温定着性に優れる ○:低温定着性にかなり優れる △:低温定着性が従来のシステムより優れる ×:従来のシステム(imagio NEO C600未改造品)より、定着下限性が劣る。 【0176】 (4)フィルミング性 得られた二成分現像剤と各評価機を用いて5%画像面積チャートを出力し、初期及び100,000枚、及び300,000枚でそれぞれ評価画像である黒ベタ(A3)3枚を出力する。感光体にトナーがフィルミングすることによる白抜け画像部分の程度を目視で評価した。白抜け画像部分が多いほど、画像品質が悪い。評価結果はベタ画像全体対して白抜け部分多さで目視評価し、以下のようにランク評価した。 ◎:白抜け画像部分が少なくかなり優れる ○:白抜け画像部分が少なく比較的に優れる △:白抜け画像部分が普通 △△:白抜け画像部分が少し多い ×:白抜け画像部分がとても多い 【0177】 (5)高温定着巻き付き性 得られた二成分現像剤と各評価機を用いて5%画像面積チャートを10,000枚出力した後、定着ロールの温度を5℃づつ変化させ、画像を出し定着ローラへの紙の巻き付き性を評価した。特に巻き付き評価の強制試験として、紙搬送を定着途中で一時停止して熱の供給を一時的に多くして、その後定着を継続させる方法により、巻く付きに対してより厳しい評価条件とした。転写紙はリコーフルカラーPPC用紙タイプ6200を用いた。 評価結果は以下のように示した。 ◎:非常に高温巻き付き性が高く、高温定着性に優れる ○:高温巻き付き性にかなり優れる △:高温巻き付き性が従来のシステムより優れる ×:従来のシステム(imagio NEO C600未改造品)より、高温巻き付き性が劣る 【0178】 (6)トナー環境保存性 トナーを10gずつ計量し、20mlのガラス容器に入れ、ガラス瓶をタッピングマ装置にて100回タッピングした後、温度55℃、湿度80%にセットした恒温槽に24時間放置した後、針入度試験器(日科エンジニアリング マニュアル記載条件)にて針入度を測定した。また低温低湿(10℃、15%)環境に保存したトナーも同様に針入度を評価し、高温高湿、低温低湿環境で、より針入度が小さい方の値を採用して評価した。良好なものから、◎:20mm以上、○:15mm以上20mm未満、△:10mm以上?15mm未満、×:10mm未満、とした。 【0179】 【表1】 ![]() 【0180】 【表2】 ![]() 【0181】 【表3】 ![]() 」 (2)引用文献1に記載された発明 上記エによれば、引用文献1の【0141】には、実施例1として、「着色粒子100部、シリカ1を1.0部と酸化チタン1を1.0部を」、「ヘンシェルミキサー」「にて混合して」得た「トナー」が記載されている。そして、引用文献1の【0140】?【0141】の記載から、「着色粒子」は、「アモルファスポリエステル樹脂a」、「結晶性ポリエステル1」、「C.I.Pigment Blue15,3」、「帯電制御剤」、「カルナバワックス」及び「脂肪酸アミド化合物」から得られるものと理解され、「アモルファスポリエステル樹脂a」及び「結晶性ポリエステル1」は、それぞれ引用文献1の【0138】及び【0131】に記載された工程にて調整されたものである。また、「シリカ1」及び「酸化チタン1」は、それぞれ引用文献1の【0134】及び【0136】に記載された工程にて調整されたものである。くわえて、引用文献1の【0010】には、上記「トナー」の効果が記載されている。 以上勘案すると、引用文献1には、実施例1として、次の「トナー」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 なお、引用発明の認定にあたり、「ポリエステル樹脂a」及び「アモルファスポリエステル樹脂a」は、後者に用語を統一した。 「 反応槽中に、ビスフェノールAのPO2モル付加物430部、ビスフェノールAのPO3モル付加物300部、テレフタル酸257部、イソフタル酸65部、無水マレイン酸10部及び縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)2部を入れ、200℃で窒素気流下に生成する水を留去しながら7時間反応させ、線状ポリエステル樹脂(AX1-1)を得、 反応槽中に、ビスフェノールAのEO2モル付加物350部、ビスフェノールAのPO3モル付加物326部、テレフタル酸278部、無水フタル酸40部及び縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)2部を入れ、210℃で窒素気流下に生成する水を留去しながら7時間反応させ、無水トリメリット酸62部を加え、常圧密閉下2時間反応後取り出し、非線状ポリエステル樹脂(AX2-1)を得、 ポリエステル(AX1-1)800部とポリエステル(AX2-1)200部を溶融混合し、アモルファスポリエステル樹脂aを得、 四つ口フラスコに1,4-ブタンジオール:23.75モル、エチレングリコール:1.25モル、フマル酸:22.75モル、無水トリメリット酸:1.65モル、ハイドロキノン:5.1gを入れ、160℃で6時間反応させた後、180℃に昇温して1.5時間反応させ、さらに8.3KPaにて2時間反応させ結晶性ポリエステル樹脂1を得、 気相法によって製造されたシリカ微粉末100gを反応槽に入れ、窒素雰囲気下、撹拌しながら水2.0gを噴霧し、ヘキサメチルジシラザン13gを噴霧し、150℃で2時間加熱撹拌し、その後冷却し、ジェットミルで解砕して1次平均粒径9nmのシリカ粒子を得、乾式分級機により分級処理を行ない、粒径50μm以上の凝集体を除去し、シリカ1を得、 平均一次粒子径15nmの酸化チタン1000gをトルエン3000gに分散し、18質量%のイソブチルトリメトキシシランを添加した後、酸化チタン粒子が合一しないように強力な分散処理を行ない、その後、乾燥、解砕して疎水性の酸化チタンを得、乾式分級機により分級処理を行ない、粒径50μm以上の凝集体を除去し、酸化チタン1を得、 アモルファスポリエステル樹脂a:90部、結晶性ポリエステル1:10部、C.I.Pigment Blue15,3:5部、帯電制御剤:2部、カルナバワックス:3部及び脂肪酸アミド化合物:2部をヘンシェルミキサーを用いてプレミックスし、ロール表面を95℃に設定した2本ロールにより45分間混練を行ない、ジェットミル方式の粉砕器と旋回流による風力分級を行ない、円形度を調整した着色粒子を得、 着色粒子100部、シリカ1を1.0部と酸化チタン1を1.0部をヘンシェルミキサーにて、周速30m/secで、60秒回転、30秒回転停止、のセットを3回繰り返して混合して得たトナーであって、 低温定着性、フィルミング性、高温巻き付き性、耐熱保存性に優れ、かつ定着紙との定着強度が十分高くかつ、高度に帯電特性が制御されたトナー。」 2 対比及び判断 (1)対比 本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。 ア 結着樹脂を有するトナー母体粒子 引用発明の「トナー」は、その文言の意味するとおり、本願発明の「トナー」に相当する。また、引用発明の「アモルファスポリエステル樹脂a」及び「結晶性ポリエステル1」は、技術的にみて、本願発明の「結着樹脂」に相当する。また、引用発明の「着色粒子」は、技術的にみて、本願発明の「トナー母体粒子」に相当する。 そうしてみると、引用発明の「着色粒子」は、本願発明の「トナー母体粒子」における、「結着樹脂を有する」という要件を満たす。 イ 少なくとも2種類以上の無機微粒子 引用発明の「シリカ1」及び「酸化チタン1」は、技術的にみて、本願発明の「無機微粒子」に相当する。また、「着色粒子100部」に対して、「シリカ1を1.0部」及び「酸化チタン1を1.0部」を混合することから、引用発明の「トナー」は、本願発明の「少なくとも2種類以上の無機微粒子とを含有する」及び「前記無機微粒子を前記トナー母体粒子に対して1.0質量%?3.5質量%含有」するという要件を満たす。 (2) 一致点及び相違点 ア 一致点 本願発明と引用発明は、次の構成で一致する。 「結着樹脂を有するトナー母体粒子と、少なくとも2種類以上の無機微粒子とを含有するトナーであって、前記無機微粒子を前記トナー母体粒子に対して1.0質量%?3.5質量%含有する、トナー。」 イ 相違点 本願発明と引用発明は、次の点で相違する。 (相違点) 本願発明は、「トナーを基板に衝突させる真空分散型画像解析法により真空分散器を用いて前記トナーを衝突させた場合、カーボンテープからなる前記基板に分散した前記無機微粒子の遊離数が前記トナー1粒子あたり10個以下であり、マイカからなる前記基板に分散した前記無機微粒子の遊離数が前記トナー1粒子あたり200個?1,800個であり、前記マイカからなる前記基板に分散した350nm以上500nm以下の前記無機微粒子の遊離数が前記トナー1粒子あたり50個以下である」のに対し、引用発明では、真空分散型画像解析法により真空分散器を用いて前記トナーを衝突させた場合の無機微粒子の遊離数が明らかでない点。 (3)判断 相違点について検討する。 ア 引用文献1には、引用発明の「トナー」を、「真空分散型画像解析法により真空分散器を用いて前記トナーを衝突させた場合の無機微粒子の遊離数」についての明示の記載はない。そこで、引用発明の「トナー」が、「トナーを基板に衝突させる真空分散型画像解析法により真空分散器を用いて前記トナーを衝突させた場合、カーボンテープからなる前記基板に分散した前記無機微粒子の遊離数が前記トナー1粒子あたり10個以下であり、マイカからなる前記基板に分散した前記無機微粒子の遊離数が前記トナー1粒子あたり200個?1,800個であり、前記マイカからなる前記基板に分散した350nm以上500nm以下の前記無機微粒子の遊離数が前記トナー1粒子あたり50個以下である」と推認できるといえるかについて、トナーの材料及び製造工程等の観点から、以下検討する。 本件出願の明細書の【0063】-【0086】等の記載によれば、実施例1のトナー1は、無機微粒子としてシラン化合物処理を行う前にピン式解砕装置を用いて解砕処理を行い(以下「予備解砕」という。)、シラン化合物処理を行った後にも解砕処理を行った「シリカ微粒子1」を用いて製造されているのに対して、比較例1のトナー12は、無機微粒子として予備解砕を行っていない「シリカ微粒子1」を用いたものであって、両トナーは、シリカ微粒子1の予備解砕の有無以外は、同一の製造条件で得られたものと認められる。このような製造条件の差異と、真空分散型画像解析法によりカーボンテープとマイカ上の無機微粒子の遊離数を測定した【表3】の測定結果から、予備解砕が、マイカ上の遊離数及び350nm以上500nm以下の粗大粒子数(遊離数)を抑制する上で重要な役割を果たしていることを当業者は理解する。 一方、引用発明の「トナー」は、「アモルファスポリエステル樹脂a」及び「結晶性ポリエステル1」を含有する、「着色粒子100部、シリカ1を1.0部と酸化チタン1を1.0部をヘンシェルミキサーにて」「混合して得たトナーであって、フィルミング性、耐熱保存性に優れ」るものである。そして、引用発明の「トナー」に混合される「シリカ1」は、「気相法によって製造されたシリカ微粉末100gを反応槽に入れ、窒素雰囲気下、撹拌しながら水2.0gを噴霧し、ヘキサメチルジシラザン13gを噴霧し、150℃で2時間加熱撹拌し、その後冷却し、ジェットミルで解砕して1次平均粒径9nmのシリカ粒子を得、乾式分級機により分級処理を行ない、粒径50μm以上の凝集体を除去し」て得られるものであって、「ヘキサメチルジシラザン」が噴霧される前に、解砕処理は行われていない。また、引用発明の「トナー」に混合される「酸化チタン1」は、「平均一次粒子径15nmの酸化チタン1000gをトルエン3000gに分散し、18質量%のイソブチルトリメトキシシランを添加した後、酸化チタン粒子が合一しないように強力な分散処理を行ない、その後、乾燥、解砕して疎水性の酸化チタンを得、乾式分級機により分級処理を行ない、粒径50μm以上の凝集体を除去し」て得られるものであって、「イソブチルトリメトキシシラン」が添加される前に、解砕処理は行われていない。 さらに、引用文献1の【0008】には、「低温低湿環境下における劣化かぶりを減少させることができ、高品質な画像が印刷できる画像形成装置を提供する」ことが記載されているものの、「低温低湿環境下における劣化かぶりを減少させることができ、高品質な画像が印刷できる」ことから引用発明の「トナー」における「無機微粒子の遊離数」が一義的に導かれるものとはいえないし、また、引用文献1には「無機微粒子の遊離数」が本願発明の数値範囲となることをうかがわせるような他の記載もない。 そして、トナー外添剤のトナー母粒子への付着状態、あるいは、埋め込み状態の目安として、「トナーを基板に衝突させる真空分散型画像解析法により真空分散器を用いて前記トナーを衝突させた場合、カーボンテープからなる前記基板に分散した前記無機微粒子の遊離数が前記トナー1粒子あたり10個以下であり、マイカからなる前記基板に分散した前記無機微粒子の遊離数が前記トナー1粒子あたり200個?1,800個であり、前記マイカからなる前記基板に分散した350nm以上500nm以下の前記無機微粒子の遊離数が前記トナー1粒子あたり50個以下である」という評価手法が、本件出願前に技術常識であったことを示す証拠もない。 したがって、引用発明の「トナー」が、相違点に係る本願発明の構成を具備すると推認することはできない。また、引用文献1に記載された技術事項及び技術常識を参酌しても、当業者が相違点に係る本願発明の構成に容易に想到し得たともいえない。 イ 以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明と同一の発明ということはできず、また、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものということもできない。 また、引用文献1に記載の他の実施例から、引用発明を認定したとしても判断は同様である。 (4)請求項2?9に係る発明について 本件出願の請求項2?9に係る発明は、いずれも、本願発明に対してさらに他の発明特定事項を付加した発明であるから、本願発明における全ての発明特定事項を具備するものである。 そうしてみると、前記(3)で述べたのと同じ理由により、これらの発明も、引用文献1に記載された発明と同一の発明ということはできず、また、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 3 委任省令要件について 本願発明は、3種類の「遊離数」についての条件を具備しているところ、その技術上の意義が当業者に理解できるように、本件出願の明細書の発明の詳細な説明が記載されているかについて検討する。 本件出願の明細書の【0010】には、「真空分散型画像解析法を用いた真空分散器を使って、カーボンテープからなる基板にトナーを衝突させた時、前記カーボンテープに分散した無機微粒子の遊離数は、トナーが画像形成装置にセットされる前、すなわちトナーにストレスが一切かかっていないときの無機微粒子の遊離状態に相当するとみなし得ることがわかった。カーボンテープ上のトナー1粒子あたりの無機微粒子の遊離数が10個以上である場合は、現像内で流動性が確保できず、適切な帯電性が得られないためトナー飛散による地肌汚れ画像が発生する。また、前記真空分散器を使って、マイカからなる基板にトナーを衝突させた時、前記マイカ上に分散した無機微粒子の遊離数は、硬いものにトナーがぶつかった際の無機微粒子の遊離状態に相当するとみなし得ることがわかった。マイカ上に分散した無機微粒子の遊離数がトナー1粒子あたり200個以下の場合は、無機微粒子のトナー母体への埋没が顕著になり、トナー同士の凝集が起こって黒ポチ画像が発生して画像濃度ムラが発生する。また、1,800個以上の場合は、感光体へのフィルミングが多くなり、フィルミング部に起因する白抜け画像が発生する。マイカ上に分散した無機微粒子の遊離数は、トナー1粒子あたり200個?1,800個が好ましく、300個?600個がより好ましい。 また、前記マイカからなる前記基板に分散した350nm以上500nm以下の前記無機微粒子の遊離数は、前記トナー1粒子あたり50個以下である。350nm以上500nm以下の前記無機微粒子の遊離数がトナー1粒子あたり50個以上である場合は、遊離した粗大な無機微粒子が感光体へ傷をつけ、白ポチなどの異常画像が発生する。」と記載されており、【0011】には、「トナーを衝突させる基板上には、粘着性を有する箇所と、粘着性を有する箇所よりも硬い箇所とを、それぞれ少なくとも1箇所以上は設ける。粘着性を有する箇所で、トナーは捕獲される。トナーが粘着剤を有する箇所に衝突した際、トナー母体粒子から微粒子が遊離する場合もあるが、トナー母体粒子は粘着性を有する箇所に付着している必要がある。」、「粘着性を有する箇所よりも硬い箇所は、粘着性がないため、トナー母体粒子の多くは、硬い箇所上に固定されない。しかし、トナー母体粒子に付着していた微粒子は、その小ささ故に、静電力、分子間力等により硬い箇所の上に留まる。」と記載されている。 上記記載によれば、本願発明における「カーボンテープからなる前記基板に分散した前記無機粒子の遊離数」、「マイカからなる前記基板に分散した前記無機微粒子の遊離数」及び「マイカからなる前記基板に分散した350nm以上500nm以下の前記無機微粒子の遊離数」についての条件は、それぞれ「トナー飛散による地肌汚れ画像」、「トナー母体への埋没」による「画像濃度ムラ」及び「感光体へ傷をつけ、白ポチなどの異常画像」を抑制するための条件と当業者は理解する。したがって、3つの「遊離数」の条件を規定する技術上の意義が理解できないとはいえない。なお、原査定は、カーボンテープ上で測定される遊離数の中に、マイカに衝突して遊離した微粒子が含まれるため、ストレスフリー状態での遊離数を見積もることができない(衝突後に遊離した粒子と、衝突前に遊離した粒子とが区別できない)から、3つの遊離数を特定することの技術上の意義が不明であるというものであるが、仮に、カーボンテープ上でカウントされる遊離数の中に、マイカからなる基板との衝突の際に遊離した微粒子が混入していたとしても、それはトナー飛散防止の観点からみて、実質的により厳しい条件が課されることを意味するに過ぎないから、技術上の意義が不明になるとまではいえない。 よって、本件出願の明細書の発明の詳細な説明は、本願発明の技術上の意義が当業者に理解できるように記載されていないとはいえない。 4 明確性要件について 本件出願の明細書の【0010】には、「真空分散型画像解析法を用いた真空分散器を使って、カーボンテープからなる基板にトナーを衝突させた時、前記カーボンテープに分散した無機微粒子の遊離数は、トナーが画像形成装置にセットされる前、すなわちトナーにストレスが一切かかっていないときの無機微粒子の遊離状態に相当するとみなし得ることがわかった。カーボンテープ上のトナー1粒子あたりの無機微粒子の遊離数が10個以上である場合は、現像内で流動性が確保できず、適切な帯電性が得られないためトナー飛散による地肌汚れ画像が発生する。また、前記真空分散器を使って、マイカからなる基板にトナーを衝突させた時、前記マイカ上に分散した無機微粒子の遊離数は、硬いものにトナーがぶつかった際の無機微粒子の遊離状態に相当するとみなし得ることがわかった。」と記載されており、【0011】には、「トナーを衝突させる基板上には、粘着性を有する箇所と、粘着性を有する箇所よりも硬い箇所とを、それぞれ少なくとも1箇所以上は設ける。粘着性を有する箇所で、トナーは捕獲される。」、「粘着性を有する箇所よりも硬い箇所は、粘着性がないため、トナー母体粒子の多くは、硬い箇所上に固定されない。しかし、トナー母体粒子に付着していた微粒子は、その小ささ故に、静電力、分子間力等により硬い箇所の上に留まる。粘着性を有する箇所よりも硬い箇所の材質としては、画像形成装置内でトナーが衝突する可能性がある箇所で使用されている材料を適宜選択するとよい。」と記載されており、粘着性を有する箇所であるカーボンテープとの対比として、粘着性を有する箇所よりも硬い箇所の材質として、マイカが特定されていることが理解できる。 そうしてみると、本件出願の特許請求の範囲において、マイカの種類が特定されておらず、その硬度が不明であったとしても、基板がマイカからなるものであることが特定されていれば充分であって、本願発明が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。 第3 むすび 以上のとおり、本件出願の請求項1?9に係る発明は、引用文献1に記載されたということができず、また、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。さらに、本件出願の発明の詳細な説明の記載は、本件出願の請求項1?9に係る発明の技術上の意義が当業者に理解できるように記載したものであるから、特許法36条4項1号の規定に適合し、また、本件出願の請求項1?9に係る発明は、不明確であるとはいえないものであるから、特許法36条6項2号の規定に適合する。 したがって、原査定の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。 また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2020-12-25 |
出願番号 | 特願2016-33620(P2016-33620) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G03G)
P 1 8・ 113- WY (G03G) P 1 8・ 537- WY (G03G) P 1 8・ 536- WY (G03G) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 福田 由紀 |
特許庁審判長 |
里村 利光 |
特許庁審判官 |
井口 猶二 神尾 寧 |
発明の名称 | トナー、トナー収容ユニット、画像形成装置、及び画像形成方法 |
代理人 | 廣田 浩一 |