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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D06F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 D06F
管理番号 1369385
審判番号 不服2019-7923  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-13 
確定日 2020-12-09 
事件の表示 特願2016-528423「スチームアイロン」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月29日国際公開、WO2015/010969、平成28年 9月 8日国内公表、特表2016-527016〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2014年(平成26年)7月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年(平成25年)7月25日、欧州特許庁、2014年(平成26年)6月30日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成28年1月26日に手続補正書が提出され、平成30年5月24日付けの拒絶の理由の通知に対し、平成30年7月24日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年12月12日付けの拒絶の理由の通知に対し、平成31年1月30日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成30年12月12日付けで通知された拒絶の理由によって、平成31年3月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対して令和元年6月13日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 本願発明
この出願の請求項に係る発明は、平成31年1月30日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「湯垢収集領域を有する蒸気生成表面と、織物接触表面とを有する、底板と、
湯垢を前記湯垢収集領域から排出区画まで移す流体流を引き起こすように構成される流体流構成と、を含む、
スチームアイロンであって、
前記蒸気生成表面は、当該スチームアイロンが使用中であるときに、湯垢を前記蒸気生成表面の下方端にある前記湯垢収集領域まで案内するよう、前記織物接触表面に対してある角度で延びる傾斜部分を含むことを特徴とする、
スチームアイロン。」

第3 原査定の拒絶の理由
本願発明(請求項1に係る発明)についての原査定(平成31年3月15日付け拒絶査定)の拒絶の理由(平成30年12月12日付けで通知された拒絶の理由)のうち、引用文献3に基づくものの概要は、次のとおりである。

1.(新規性)この出願の請求項1に係る発明は、この出願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2.(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献3に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献3:米国特許第05345704号明細書

第4 引用文献の記載及び引用発明
1.引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由で引用された、この出願の優先日前に頒布された刊行物である、引用文献3には、図面とともに、次の記載がある(日本語は当審訳。下線は、当審で付与した。以下、同様である。)。

(1)「BACKGROUND OF THE INVENTION
In known devices of this type, the closure means are constituted by a plug and the de-scaling opening is adapted to permit the introduction of a tool within the vaporization chamber. The user can thus, with the aid for example of a screwdriver, scrape the walls of the vaporization chamber so as to achieve mechanical de-scaling. The drawback of these devices resides in the fact that the user, not seeing the calcified deposit within the chamber, scrapes hard and randomly and so does not cover all the surface of the chamber, and particularly the forward portion of said chamber which is the least accessible. Scaling is therefore incomplete. Moreover, he scores the internal surface of the chamber which is generally provided with a cemented coating to improve vaporization, thus destroying the coating. On the other hand, between each de-scaling operation and during the different thermal cycles, the small calcified scales come loose and pass into the distribution chamber, eventually blocking the distribution openings.」(第1欄第21行?第40行)
[発明の背景
この種の公知の装置は、閉鎖手段がプラグによって構成され、スケール除去開口部が気化室内に工具を導入することができるように構成されている。使用者は、例えば、ねじ回しの助けを借りて、機械的なスケール除去を達成するために、気化室の壁を削り取ることができる。これらの装置の欠点は、チャンバ内の石灰化堆積物を見ていないユーザが、強くランダムに削り、チャンバの表面全体、特に最もアクセスしにくい前記チャンバの前方部分をカバーしないという事実にある。したがってスケーリングは不完全である。さらに、気化を改善するために、一般に接合コーティングが施されたチャンバの内面を刻み、したがってコーティングを破壊する。一方、各スケール除去動作と異なる熱サイクルの間、小さな石灰化スケールはばらばらになり、分配室内に入り、最終的に分配開口を閉塞する。]

(2)「The electric steam iron shown in FIGS.1 and 2 comprises a casing 1 whose rear forms a heel 2 and a sole 3 heated by an electric resistance 4. The iron can thus have two positions, either an ironing position in which it rests on the sole 3, or a rest position (not shown) in which it rests on the heel 2. The sole 3 has a partition 5 forming with a closure plate 6 a vaporization chamber 7 which is supplied with water from a reservoir 8 and which, on the one hand, is in communication with a steam distribution chamber 9 having steam distribution openings 10 that open to the outside, and, on the other hand, comprises a so-called de-scaling opening 11 opening into a rear position of the iron and plugged by removably mounted closure means.
According to the invention, the closure means comprise a removable receptacle 12 for recovery of the calcified deposit, communicating by a weir 13 with the vaporization chamber 7, so that the calcified deposit present in the vaporization chamber 7 will fall into the receptacle 12 particularly when the iron occupies its rest position.
Thus, each time the user rests the iron on its heel 2, the scales of calcified deposit present in the vaporization chamber 7 will fall into the receptacle 12 in which they are retained. Moreover, thanks to the weir, the calcified scales can also if desired enter into the receptacle 12 in the ironing position, thanks to the to-and-fro movement given to the iron by the user. Thus, this movement gives rise in the vaporization chamber 7 to waves which override the weir 13.」(第2欄第20行?第49行)
[FIG.1とFIG.2に示される、この電気スチームアイロンは、後部がヒール2を形成するケーシング1と、電気抵抗4によって加熱されるソール3とを備えている。したがって、アイロンは、ソール3上に載置されるアイロンがけ位置と、ヒール2上に載置される休止位置(図示せず)との2つの位置を有することができる。ソール3は、リザーバ8から水が供給され、一方で外側に開口する蒸気分配開口10を有する蒸気分配室9と連通し、他方でアイロンの後方位置に開口され、取り外し可能に取り付けられた閉鎖手段によって閉塞される所謂スケール除去開口部11を有する気化室7を、閉鎖プレート6と共に形成する仕切り5を有する。
この発明によれば、閉鎖手段は、石灰化堆積物を回収するための着脱可能な容器12を有し、この着脱可能な容器は堰13によって気化室7と連通し、その結果、気化室7内に存在する石灰化堆積物は、特にアイロンが休止位置にあるときに容器12内に落下する。
したがって、使用者がアイロンをそのヒール2に載せる度に、気化室7内に存在する石灰化堆積物のスケールは、容器12内に落下し、そこで保持される。さらに、アイロンに付与される往復運動によって、石灰化されたスケールは、所望であれば、堰によってアイロンがけ位置において容器12内に入ることもできる。したがって、この運動は、堰13を打ち消す波動を気化室7内に発生させる。]

(3)記載事項(2)によると、ソール3は、電気抵抗4によって加熱されるものである。また、ソール3は、気化室7を、閉鎖プレート6と共に形成する仕切り5を有するものであるから、ソール3は、閉鎖プレート6と共に気化室7を形成するものといえる。さらに、気化室7は、リザーバ8から水が供給され、外側に開口する蒸気分配開口10を有する蒸気分配室9と連通するものである。すると、ソール3は、リザーバ8から水が供給され、外側に開口する蒸気分配開口10を有する蒸気分配室9と連通する気化室7を閉鎖プレート6と共に形成し、電気抵抗4によって加熱されるものといえる。

(4)記載事項(2)によると、電気スチームアイロンは、アイロンがけ位置においてアイロンに付与される往復運動によって、気化室7内に波動が発生し、気化室7内に存在する石灰化堆積物のスケールが、容器12内に入るものといえる。

(5)FIG.1の図示内容によると、アイロンがけ位置におけるソール3の一断面において、ソール3の上縁の気化室7と対向する部分が、アイロンの後方位置に向かうにつれて、ソール3の下縁に近づくように傾斜しているといえる。

2.引用発明
引用文献3の記載事項(1)?(5)及び図面の図示内容を総合すると、引用文献3には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「リザーバ8から水が供給され、外側に開口する蒸気分配開口10を有する蒸気分配室9と連通する気化室7を閉鎖プレート6と共に形成し、電気抵抗4によって加熱されるソール3を含み、
アイロンがけ位置においてアイロンに付与される往復運動によって、前記気化室7内に波動が発生し、前記気化室7内に存在する石灰化堆積物のスケールが、容器12内に入る、
電気スチームアイロンであって、
アイロンがけ位置におけるソール3の一断面において、ソール3の上縁の気化室7と対向する部分が、アイロンの後方位置に向かうにつれて、ソール3の下縁に近づくように傾斜している、
電気スチームアイロン。」

第5 対比
以下、本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「ソール3」は、本願発明の「底板」に相当する。また、引用発明の「ソール3」のアイロンがけ位置における上面は、リザーバ8から水が供給され、蒸気分配室9と連通する気化室7と対向する面であることや、ソール3が電気抵抗4によって加熱されるものであることを考慮すると、蒸気を生成する表面であるということができ、本願発明の「蒸気生成表面」に相当する。そして、引用発明の「ソール3」のアイロンがけ位置における下面は、アイロンがけの対象となる織物などに接触する表面であるということができ、本願発明の「織物接触表面」に相当する。すると、引用発明の「リザーバ8から水が供給され、外側に開口する蒸気分配開口10を有する蒸気分配室9と連通する気化室7を閉鎖プレート6と共に形成し、電気抵抗4によって加熱されるソール3」と、本願発明の「湯垢収集領域を有する蒸気生成表面と、織物接触表面とを有する、底板」とは、「蒸気生成表面と、織物接触表面とを有する、底板」である点において共通する。
引用発明の「石灰化堆積物のスケール」及び「容器12内」は、それぞれ本願発明の「湯垢」及び「排出区画」に相当し、引用発明の「前記気化室7内に存在する石灰化堆積物のスケールが、容器12内に入る」という事項は、気化室7内、つまりソール3の蒸気を生成する表面(アイロンがけ位置における上面)に存在する石灰化堆積物のスケールが、容器12内に移動するものといえるから、本願発明の「湯垢を前記湯垢収集領域から排出区画まで移す」という事項と、「湯垢を前記蒸気生成表面から排出区画まで移す」点において共通する。そして、引用発明の「アイロンがけ位置においてアイロンに付与される往復運動によって、前記気化室7内に波動が発生し、前記気化室7内に存在する石灰化堆積物のスケールが、容器12内に入る」という作用は、アイロンに付与される往復運動によって、気化室7内に波動、つまり流体の流れが発生し、この流体の流れからスケールが力を受けることにより生じるものである。すると、引用発明の電気スチームアイロンは、気化室7がアイロンに付与される往復運動によって、流体の流れが発生するような形状、寸法等に構成されており、また、気化室7と容器12とを連通させる堰等の構成を備えているといえるから、石灰化堆積物のスケールを気化室7内から容器12内に移す流体の流れを発生させる構成を備えているといえる。これらを総合すると、引用発明の「アイロンがけ位置においてアイロンに付与される往復運動によって、前記気化室7内に波動が発生し、前記気化室7内に存在する石灰化堆積物のスケールが、容器12内に入る」という事項と、本願発明の「湯垢を前記湯垢収集領域から排出区画まで移す流体流を引き起こすように構成される流体流構成と、を含む」という事項とは、「湯垢を前記蒸気生成表面から排出区画まで移す流体流を引き起こすように構成される流体流構成と、を含む」点において共通する。
引用発明の「アイロンがけ位置におけるソール3の一断面において、ソール3の上縁の気化室7と対向する部分が、アイロンの後方位置に向かうにつれて、ソール3の下縁に近づくように傾斜している」という事項は、ソール3のアイロンがけ位置における上縁の気化室7と対向する部分が、蒸気を生成する表面の一部であり、ソール3のアイロンがけ位置における下縁が、織物などに接触する表面の一部であることを考慮すると、ソール3の一断面において、蒸気を生成する表面の少なくとも一部が、ソール3の織物などに接触する表面の少なくとも一部に対して傾斜する部分を有するといえるから、本願発明の「前記蒸気生成表面は、当該スチームアイロンが使用中であるときに、湯垢を前記蒸気生成表面の下方端にある前記湯垢収集領域まで案内するよう、前記織物接触表面に対してある角度で延びる傾斜部分を含む」という事項と、「少なくとも底板の一断面において、前記蒸気生成表面の少なくとも一部は、前記織物接触表面の少なくとも一部に対してある角度で延びる傾斜部分を含む」点において共通する。
引用発明の「電気スチームアイロン」は、本願発明の「スチームアイロン」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明とは、
「蒸気生成表面と、織物接触表面とを有する、底板と、
湯垢を前記蒸気生成表面から排出区画まで移す流体流を引き起こすように構成される流体流構成と、を含む、
スチームアイロンであって、
少なくとも前記底板の一断面において、前記蒸気生成表面の少なくとも一部は、前記織物接触表面の少なくとも一部に対してある角度で延びる傾斜部分を含む、
スチームアイロン。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
蒸気生成表面について、本願発明は、「湯垢収集領域を有」し、湯垢を「前記湯垢収集領域」から排出区画まで移し、「当該スチームアイロンが使用中であるときに、湯垢を前記蒸気生成表面の下方端にある前記湯垢収集領域まで案内するよう、前記織物接触表面に対してある角度で延びる傾斜部分を含む」ものであるのに対し、引用発明は、アイロンがけ位置におけるソール3の一断面において、ソール3の上縁の気化室7と対向する部分が、アイロンの後方位置に向かうにつれて、ソール3の下縁に近づくように傾斜しているものの、ソール3の上面が、ソール3の下面に対してある角度で延びる傾斜部分を含むのかが明確でなく、また、この傾斜の作用・機能も明確でない点。

第6 判断
(1)相違点について
以下、[相違点]について検討する。
まず、引用発明のソール3のアイロンがけ位置における上面の形状について、引用文献3のFIG.1の図示内容によると、前記「第4 1.」の記載事項(5)に示したように「アイロンがけ位置におけるソール3の一断面において、ソール3の上縁の気化室7と対向する部分が、アイロンの後方位置に向かうにつれて、ソール3の下縁に近づくように傾斜している」ことが示されているが、引用文献3には、それ以外に、ソール3のアイロンがけ位置における上面の形状を特別なものとすることについて、何ら記載されていない。また、引用発明の背景として、引用文献3に記載されている気化室の後方から工具でスケールを除去するという事項(前記「第4 1.」の記載事項(1)参照。)と、同様の事項が記載されている、この出願の優先日前に頒布された刊行物である、米国特許第4240217号明細書(特に、第4欄第43行?第49行、第5欄第31行?第38行、第61行?第63行、第6欄第7行?第11行及びFIG.1,4参照。)に、「Said boss 27 slopes downwards towards the rear end of the iron」等と記載され、底板のアイロンがけ位置における上面を、アイロンの後方位置に向かうにつれて、底板の下面に近づくように傾斜させることが示されていることも考慮すると、スチームアイロンの技術分野において、底板のアイロンがけ位置における上面が、このような傾斜面となっていること自体、特別なものではない。すると、引用発明の「アイロンがけ位置におけるソール3の一断面において、ソール3の上縁の気化室7と対向する部分が、アイロンの後方位置に向かうにつれて、ソール3の下縁に近づくように傾斜している」という事項は、ソール3の一断面のみならず、ソール3の上面の気化室7と対向する部分が、アイロンの後方位置に向かうにつれて、ソール3の下面に近づくように傾斜しているものと解するのが自然である。
次に、この傾斜面の作用について、検討すると、まず、引用文献3のFIG.1には、リザーバ8からケーシング1の内部を左右に延び、さらに上下に延びる一点鎖線が2本、平行に記載されているが、これらの一点鎖線は、引用発明が「リザーバ8から水が供給され」る「気化室7」を備えることを考慮すれば、リザーバ8から気化室7に水を供給するための水路を表していることは明らかである。そうすると、リザーバ8からの水は、引用発明の「アイロンがけ位置におけるソール3の一断面において、ソール3の上縁の気化室7と対向する部分が、アイロンの後方位置に向かうにつれて、ソール3の下縁に近づくように傾斜している」という事項におけるソール3の傾斜の上部側に供給され、この上部側で最初に蒸気が生成され、その結果、この上部側において多くの石灰化堆積物のスケールが生成されるものと解される(リザーバ8からの水が供給される、ソール3の傾斜の上部側を、以下、「水供給点」という)。
また、引用発明は「アイロンがけ位置においてアイロンに付与される往復運動によって、前記気化室7内に波動が発生し、前記気化室7内に存在する石灰化堆積物のスケールが、容器12内に入る」ものであるところ、引用文献3の前記「第4 1.(1)」の記載事項イ.及びFIG.1の図示内容によると、気化室7と容器12とを連通させ、石灰化堆積物のスケールが通過するスケール除去開口部11及び堰13が設けられる位置は、アイロンの後方位置であり、前記した多くの石灰化堆積物のスケールが生成される水供給点とは、アイロンの前後方向において離れた位置となっている。そして、仮に、水供給点で生成された多くの石灰化堆積物のスケールが、水供給点にとどまっているとすれば、水供給点と、スケール除去開口部11及び堰13とが離れていることにより、引用発明の「アイロンがけ位置においてアイロンに付与される往復運動によって、前記気化室7内に波動が発生し、前記気化室7内に存在する石灰化堆積物のスケールが、容器12内に入る」という作用がほぼ生じないことになるから、引用発明において、前記作用が生じている以上、アイロンを使用中であるアイロンがけ位置にあるときにも、水供給点で生成された多くのスケールの少なくとも一部が、スケール除去開口部11及び堰13のある後方に向けて移動していると考えるのが自然である。
そして、先の米国特許第4240217号明細書に、「The water then flows downwards drop by drop and falls onto the milled cavity 28 of the boss 27, then immediately begins to vaporize. But the fraction which is not immediately vaporized flows down the slope of the boss 27 to the rear portion of the vaporization chamber 11 and the vaporization process continues along the entire flow path and therefore on all the walls of the chamber.」(第5欄第31行?第38行)[次に、水は一滴ずつ下方に落下し、ボス27の粉砕されたキャビティ28上に落下し、次に直ちに蒸発を開始する。しかし、直ちに蒸発されない留分は、ボス27の傾斜部を通って気化室11の後部に流れ、蒸発プロセスは、流路全体に沿って、したがってチャンバの全壁に沿って継続する。]、「As a result of the large dimensions of the vaporization chamber 11, the scale deposit is distributed over a large surface and is consequently of very small thickness.」(第5欄第61行?第63行)[気化室11の大きな寸法の結果として、スケール堆積物は大きな表面にわたって分布され、その結果、非常に薄い厚さになる。]と記載されているように、スチームアイロンの技術分野において、底板のアイロンがけ位置における上面に設けられた傾斜部の上部に水滴が落下した際、直ちに蒸発されない水分が、この傾斜部を通って気化室の後部に流れ、気化室の全体にわたって、蒸発プロセスが継続し、スケールが広く分布するという傾斜部の作用が知られていることも考慮すると、引用発明の「アイロンがけ位置におけるソール3の一断面において、ソール3の上縁の気化室7と対向する部分が、アイロンの後方位置に向かうにつれて、ソール3の下縁に近づくように傾斜している」という事項も傾斜部である以上、同様の作用を奏するものと解されるから、前記した水供給点で生成された多くのスケールの少なくとも一部が、スケール除去開口部11及び堰13のある後方に向けて移動していることに寄与しており、また、後方に向けて移動したスケールは、その傾斜の下方端であるスケール除去開口部11及び堰13の近傍の領域にも堆積していると考えるのが自然である。
そうすると、引用発明のソール3のアイロンがけ位置における上面は、米国特許第4240217号明細書に記載されているような、スチームアイロンの技術分野で慣用されている事項も踏まえると、電気スチームアイロンが使用中であるときに、石灰化堆積物のスケールをソール3の上面の下方端にあるスケールを堆積、収集する領域まで案内するよう、ソール3の下面に対してある角度で延びる傾斜部分を含んでいるといえ、スケールを堆積、収集する領域を有し、スケールを、このスケールを堆積、収集する領域から容器12まで移しているといえるから、前記相違点は、実質的な相違点とはいえない。

また、前記相違点が、実質的な相違点であるとしても、引用発明のソール3のアイロンがけ位置における上面を、スチームアイロンの技術分野で慣用されている前記事項を踏まえ、アイロンの後方位置に向かうにつれて、ソール3の下面に近づくように傾斜させ、石灰化堆積物のスケールをソール3の上面の下方端にあるスケールを堆積、収集する領域まで案内可能なものとし、本願発明の前記相違点に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。さらに、本願発明の作用効果は、引用発明から当業者が予測できる範囲のものである。

(2)請求人の主張について
ア.請求人は、審判請求書において、「前回の拒絶理由通知書に対する意見書でも主張したように、引用文献3には、「蒸気生成表面(upper surface of vaporization chamber 7)」が「湯垢収集領域」を有することが明示的に記載されていません(相違点4)。更に、引用文献3には、図1に単に描写されているに過ぎない「傾斜部分」が請求項1に係る発明におけるように「スチームアイロンが使用中であるときに、湯垢を前記蒸気生成表面の下方端で前記湯垢収集領域まで案内する」ために設けられていることが明示的に記載されていません(相違点5)。」と主張している。
しかしながら、引用文献3に「湯垢収集領域」を有すること、及び図1に描写されている「傾斜部分」が「スチームアイロンが使用中であるときに、湯垢を前記蒸気生成表面の下方端にある前記湯垢収集領域まで案内する」ために設けられていることが明示的に記載されていないとしても、前記(1)で検討したように、引用発明のソール3のアイロンがけ位置における上面は、スチームアイロンの技術分野で慣用されている前記事項も踏まえると、「湯垢収集領域」を有し、「スチームアイロンが使用中であるときに、湯垢を前記蒸気生成表面の下方端にある前記湯垢収集領域まで案内」しているといえる。また、仮にそうでないとしても、引用発明のソール3のアイロンがけ位置における上面を、スチームアイロンの技術分野で慣用されている前記事項を踏まえ、「湯垢収集領域」を有し、「スチームアイロンが使用中であるときに、湯垢を前記蒸気生成表面の下方端にある前記湯垢収集領域まで案内」できるものとすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
そうすると、請求人の前記主張は採用できない。

イ.請求人は、審判請求書において、「引用文献3に記載の発明において、審査官殿の上記認定における「waves」、即ち、流体流を引き起こすのは、「the to-and-fro movement given to the iron by the user」(ユーザによるアイロンの前後運動)というユーザの行為であって、アイロンの構成ではありません。従って、上述の通り、引用文献3は、「湯垢を前記湯垢収集領域から排出区画まで移す流体流を引き起こすように構成される流体流構成」という構成を何ら開示も示唆もしていません。」と主張している。
しかしながら、本願発明の「湯垢を前記湯垢収集領域から排出区画まで移す流体流を引き起こすように構成される流体流構成」に関し、この出願の発明の詳細な説明には、「【0055】流体流構成56は、湯垢収集領域21に液体をもたらして、湯垢収集領域21に移される湯垢を除去するように構成される。流体流構成56は、流体湯垢混合物を蒸気生成表面16の湯垢収集領域21から離れる方向に案内して、取り外し可能な湯垢収集器35内に至らせる、流体をもたらす。本実施態様において、流体流構成56は、ポンプ57を含む。しかしながら、流体流構成56は代替的な構成を有してよいことが理解されるであろう。【0056】ポンプ57は、底板3の蒸気生成表面16に流体を導くように構成される。流体は水貯槽(図示せず)からの水である。ポンプ57は、機械ポンプ(図示せず)を含む。機械ポンプは、プランジャ(図示せず)を含む。プランジャは、使用者によって手動で操作されて、水を蒸気生成表面16に導く。機械ポンプは、蒸気生成表面16の水投与領域18に水を送る点滴注入構成(図示せず)よりも多量の水を蒸気生成表面16に一度に投与し得る。ポンプ57は、流体給送パイプ58も含む。流体給送パイプ58は、機械ポンプ(図示せず)を蒸気チャンバ15と流体的に接続し、蒸気生成表面16に水を給送する。流体給送パイプ58は、蒸気チャンバ15の頂壁として作用するハウジング2を通じて蒸気チャンバ15に入る。」と記載されており、流体流構成には、使用者が手動で操作するプランジャを含む機械ポンプが含まれることが示されている。この発明の詳細な説明の記載を踏まえれば、本願発明の「湯垢を前記湯垢収集領域から排出区画まで移す流体流を引き起こすように構成される流体流構成」に、ユーザの行為(手動操作)に起因して流体流を引き起こすものが含まれないとは解されない。この点は、この出願の請求項1を間接的に引用する請求項3に「流体流構成は、液体を前記蒸気生成表面に導くように構成されるポンプを含む」と記載されており、本願発明が流体流構成として、使用者によって手動で操作されるスチームアイロンと一体とはいえないポンプを用いることを除外していないことからも裏付けられている。
そうすると、請求人の、引用文献3に記載の発明において、流体流を引き起こすのは、ユーザの行為であって、アイロンの構成ではないから、引用文献3は、「湯垢を前記湯垢収集領域から排出区画まで移す流体流を引き起こすように構成される流体流構成」という構成を何ら開示も示唆もしていないという主張は、この出願の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載に基づくものではなく、前記「第5」に示したように、引用発明の電気スチームアイロンは、気化室7がアイロンに付与される往復運動によって、流体の流れが発生するような形状、寸法等に構成されており、また、気化室7と容器12とを連通させる堰等の構成を備えているといえるから、石灰化堆積物のスケールを気化室7内から容器12内に移す流体の流れを発生させる構成を備えているといえる。したがって、引用発明は、スチームアイロンの技術分野で慣用されている前記事項も踏まえると、「湯垢を前記湯垢収集領域から排出区画まで移す流体流を引き起こすように構成される流体流構成」を備えるものである。
そうすると、請求人の前記主張は採用できない。

第7 むすび
したがって、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用文献3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。又は、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含するこの出願は、この出願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-06-30 
結審通知日 2020-07-07 
審決日 2020-07-22 
出願番号 特願2016-528423(P2016-528423)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (D06F)
P 1 8・ 121- Z (D06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大光 太朗  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 長馬 望
柿崎 拓
発明の名称 スチームアイロン  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  
代理人 大貫 進介  

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