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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C09J 審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 C09J |
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管理番号 | 1369407 |
審判番号 | 不服2019-15003 |
総通号数 | 254 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-02-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-11-08 |
確定日 | 2020-12-09 |
事件の表示 | 特願2016-248845「高温静電チャック接着剤」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月 8日出願公開、特開2017-101243〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2009年12月18日(パリ条約に基づく優先権主張 2008年12月19日 米国、2009年12月17日 米国)を国際出願日とする特願2011-542474号(以下、「原出願」という。)の一部を、平成26年10月10日に新たな特許出願(特願2014-208966号)とし、さらに、その一部を平成28年12月22日に特許出願としたものであって、平成30年1月24日付けで拒絶理由が通知され、同年7月24日に意見書及び手続補正が提出され、同年8月23日付けで拒絶理由(最後)が通知され、平成31年2月28日に意見書及び手続補正書が提出され、令和元年7月2日付けで、平成31年2月28日付けの手続補正書でした補正は、補正の却下の決定により却下されるとともに同日付けで拒絶査定がされ、令和元年11月8日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。 第2 令和元年11月8日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の結論] 令和元年11月8日付けの手続補正(以下「本件補正」という)を却下する。 [理由] 1 本件補正について 本件補正は、次の(1)及び(2)のとおりである。 (1)請求項1について、 「半導体処理環境内で使用される基板サポート部品の接着用接着剤であって、 フィラーが内部に分散するシリコンベースの高分子材料のマトリックスを含み、前記シリコンベースの高分子材料は、3?10の繰り返しジメチルシロキサンユニットの含有量が500ppm未満のポリジメチルシロキサン(PDMS)構造を含み、前記フィラーは、前記接着剤の体積で67?70%を構成する接着剤。」(以下、「旧請求項1」という。)を、 「半導体処理環境内で使用される基板サポート部品の接着用接着剤であって、 フィラーが内部に分散するシリコンベースの高分子材料のマトリックスを含み、前記シリコンベースの高分子材料は、3?10の繰り返しジメチルシロキサンユニットの含有量が500ppm未満のポリジメチルシロキサン(PDMS)構造を含み、前記フィラーは、前記接着剤の体積で50?70%を構成し、前記フィラーは、酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))、窒化アルミニウム(AlN)、酸化イットリウム(Y_(2)O_(3))、又はそれらの組み合わせを含み、前記接着材は10^(10)?10^(12)イオン/cm^(3)までのプラズマ密度を有する半導体処理環境内で耐性を有する接着材。」(以下、「新請求項1」という。)と補正する。なお、下記(2)の記載からみて「接着材」は、「接着剤」の誤記と解される。 (2)次の請求項2?6を新たに追加する(以下、「新請求項2?6」などという。)。 「【請求項2】 前記フィラーは、前記接着剤の体積の約50?約70パーセントの間の量の酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))を含んでいる、請求項1に記載の基板サポート部品の接着用接着剤。 【請求項3】 前記接着剤は脱ガスされていることを特徴とする、請求項1に記載の基板サポート部品の接着用接着剤。 【請求項4】 白金触媒をさらに含む、請求項1に記載の基板サポート部品の接着用接着剤。 【請求項5】 前記フィラーは前記接着剤の体積で約67%であり、 前記フィラーは、酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))、窒化アルミニウム(AlN)、酸化イットリウム(Y_(2)O_(3))、又はそれらの組み合わせを含んでいる、請求項1に記載の基板サポート部品の接着用接着剤。 【請求項6】 触媒をさらに含み、前記マトリックスと前記触媒の質量比は5:1?20:1になっていることで、前記マトリックスの架橋を促進している、請求項1に記載の基板サポート部品の接着用接着剤。」 2 本件補正の適否について (1)請求項1に係る補正について 請求項1に係る補正は、「接着用接着剤」に含まれるフィラーの接着剤の体積に対する含有量について、「67?70%」を「50?70%」と補正するものを含み、補正前には含まれていなかった「50?67%未満」の範囲のものを含むものとなったことから、含有量の範囲は明らかに拡張されている。 (2)請求項2?6に係る補正について ア 新請求項2?6は、新請求項1を引用するものであるところ、新請求項1は旧請求項1を補正したものと解せざるを得ないから、新請求項2?6に対応する補正の対象となる旧請求項は存在しない。 そうすると、新請求項2?6は、それぞれ、旧請求項1に記載されていた発明特定事項の「接着用接着剤」において、「フィラー」、「脱ガス」、「白金触媒」、「フィラー」及び「触媒」に関して、それぞれ新請求項1とは別個のものとして特定し、独立した5個の請求項としてたてることにより、旧請求項1を分割して実質的に新しい5個の請求項を追加したものと解するほかない。 (3)むすび 上記(1)及び(2)で述べたように、請求項1に係る補正は、「接着用接着剤」に含まれるフィラーの接着剤の体積に対する含有量を拡張するものであり、請求項2?6に係る補正は、請求項の項数が増加したものであり、いずれも、特許請求の範囲の拡張に該当するから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当するものであるということができない。 また、本件補正が、特許法第17条の2第5項第1、3、4号で掲げる「請求項の削除」、「誤記の訂正」又は「明瞭でない記載の釈明」のいずれの目的とする補正に該当するものではないことは明らかである。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和元年11月8日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成30年7月24日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(1)の「旧請求項1」に記載のとおりのものである。 2 原査定における拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、平成30年8月23日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものである、というものであり、同拒絶理由通知書には、「理由2」として、次のように記載されている。 「2.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 ・・・(略)・・・ ここで,本願の発明の詳細な説明には,静電チャック(ESC)は,例えば,接着層によって基板サポート部品に結合されることができるが,通常ESCを接着するのに使用される従来の接着層は,高温プロセスによって性能が劣化する可能性があり,ESCが接着している部品から剥離する可能性があること,したがって,ESCチャックと基板サポート部品との間の接着を改善する方法及び装置を提供することが示されている(【0002】?【0004】)。したがって,本願における発明の解決課題は,高温プロセスによる接着層の性能劣化を防止し,静電チャックと基板サポート部品との接着を改善することにあるものと解される。 しかしながら,発明の詳細な説明(特に,前記摘示(1?4))や図面の記載をみても,請求項1所載の接着剤におけるシリコンベースの高分子材料が「3?10の繰り返しジメチルシロキサンユニットの含有量が500ppm未満のポリジメチルシロキサン(PDMS)構造を含」むことと,本願における発明の解決課題(高温プロセスによる接着層の性能劣化を防止し,静電チャックと基板サポート部品との接着を改善すること)との具体的関係は何も示されていない。 そして,当該技術分野における接着剤の接着性は,接着剤の組成,接着時の温度・圧力条件,さらには接着後の使用条件に大きく影響されるものであるという技術常識を勘案すると,請求項1所載の接着剤の接着性は,具体的な実験結果を参酌しければ分からないことである。そうすると,係る具体的な実験結果が一切開示されていない発明の詳細な説明及び図面の記載をみても,当業者といえども請求項1所載の接着剤による接着性の改善を認識することができない。 したがって,本願の請求項1は,接着剤のマトリックス成分であるシリコンベースの高分子材料が「3?10の繰り返しジメチルシロキサンユニットの含有量が500ppm未満のポリジメチルシロキサン(PDMS)構造を含」むものの発明特定事項を含む点において,明細書に開示の範囲を超えて特許を請求しようとするものである。」 3 当審の判断 (1)判断手法 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否か、すなわち、特許法第36条第6項第1号に係る規定に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、すなわち、本願発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、上記の観点に立って検討することとする。 (2)発明の詳細な説明の記載 本願明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。 ア 「【背景】 【0002】 静電チャック(ESC)は、例えば、接着層によって基板サポート部品に結合されることができる。デバイスのフィーチャーサイズが縮小し続けるにつれて、そのようなデバイスが作られるプロセスは、ますます高温プロセスを必要とする。本発明者らは、通常ESCを接着するのに使用される従来の接着層は、高温プロセスによって性能が劣化する可能性があり、ESCが接着している部品から剥離する可能性があることに気付いた。このような剥離は、プロセスの均一性の問題だけでなく、接着層の断片から粒子汚染を引き起こす可能性がある。 【0003】 また、より小さいフィーチャーサイズのデバイスを作るために使用されている又は開発中の多くのプロセスでは、使用するRF電力も増加し、これは更に上述の温度の問題を悪化させる可能性があり、接着層を浸食する可能性もある。 【0004】 従って、本発明者らは、ESCチャックと基板サポート部品の間の接着を改善する方法及び装置を提供する。」 イ 「【概要】 【0005】 基板サポート部品に静電チャックを接着するための方法及び装置が、本明細書内で提供される。いくつかの実施形態において、基板サポート部品の接着用接着剤は、フィラーが内部に分散したシリコンベースの高分子材料のマトリックスを含んでもよい。シリコンベースの高分子材料は、低分子量(LMW)の含有量ΣD3?D10が約500ppm未満の分子量を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)構造であってもよい。いくつかの実施形態において、フィラーは、接着層の体積で約50?約70%を構成してもよい。いくつかの実施形態において、フィラーは、酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))、窒化アルミニウム(AlN)、酸化イットリウム(Y_(2)O_(3))、又はそれらの組み合わせの粒子を含んでもよい。いくつかの実施形態において、フィラーは、約10ナノメートル?約10ミクロンの直径を有する粒子を含んでもよい。 【0006】 いくつかの実施形態において、基板サポートは、ベースと、フィラーが内部に分散したシリコンベースの高分子材料のマトリックスを含む接着層と、ベース及び接着層の上に配置された静電チャックとを含み、接着層はベースと静電チャックを接着することができる。いくつかの実施形態では、シリコンベースの高分子材料は、繰り返しジメチルシロキサンユニットを有するポリジメチルシロキサン(PDMS)構造を含んでもよい。いくつかの実施形態では、マトリックスは、低分子量(LMW)の含有量ΣD_(3)?D_(10)が約500ppm未満の分子量を有する高分子材料でできていてもよい。いくつかの実施形態では、接着層は、摂氏約120度を超える温度で使用可能であるかもしれない。」 ウ 「【詳細な説明】 【0011】 基板サポート部品に静電チャックを接着するための方法及び装置が、本明細書内で提供される。本発明の方法及び装置は、基板サポートに結合された静電チャック(ESC)、及び、例えば、摂氏約120度を超える温度で、又はいくつかの実施形態では最高摂氏約180度の温度を有するプロセス環境で基板サポートを有利に使用可能にする同製造手段を提供する。ESCは、高い熱伝導率、高いラップせん断ひずみ、高い引張りひずみ、低ガス放出、高純度、及び/又はプラズマ浸食に対する高い耐性を有利に提供することができる接着剤を用いて基板サポートのベースに結合することができる。 【0012】 本発明に係る基板サポートは、プロセスチャンバ内に配置されるように構成してもよい。例えば、図1は、本明細書内で議論されるような本発明の実施形態を実施するために使用できる種類の例示的なエッチングリアクタ102の概略図を示す。リアクタ102は、単独で、又は、統合化半導体基板処理システム又はクラスタツール(図示せず、カリフォルニア州サンタクララのアプライドマテリアルズ社(Applied Materials,Inc.)から入手可能なCENTURA(登録商標)統合化半導体ウェハ処理システムなど)の処理モジュールとして、使用可能である。適当なエッチングリアクタ102の例としては、半導体装置のDPS(登録商標)ライン(例えば、DPS(登録商標)、DPS(登録商標)II、DPS(登録商標)AE、又はDPS(登録商標)G3ポリエッチャー等)、半導体装置のADVANTEDGE(登録商標)ライン(例えば、AdvantEdge、AdvantEdge G3)、又は同様にアプライドマテリアルズから入手可能な他の半導体装置(例えば、ENABLER(登録商標)、E-MAX(登録商標)、又は同様の装置)を含む。半導体装置の上記リストは単なる例示であり、本明細書内で提供される開示に従って、他のエッチングリアクタ、及び非エッチング装置(CVDリアクタ、又は他の半導体処理装置等)に変更されてもよい。」 エ 「【0019】 接着層204はベース202の上に配置され、ベース202と静電チャック126との間の接着を形成する。接着層204は、約4?約15milの間の厚さを有することができる。一般的に、接着層は、約0.5W/mKよりも大きい熱伝導率を有することができる。接着層204は、現在使用されている接着材料(例えば、マサチューセッツ州ウォーバーンのパーカーハネフィン社(Parker Hannifin Corp.)の一部門であるコメックス(Chomehcs)から入手可能なTHERMATTACH(登録商標)T412)と少なくとも同等又はそれに勝る、ラップせん断ひずみ、引張りひずみ、耐浸食性及びガス放出特性を有することができる。更に、接着層204は高バルク純度(>99%)を有し、処理中に基板100に金属汚染を制限してもよい。更に、接着層204は、ハロゲン含有化学薬品(例えば、臭化水素(HBr)、塩素(Cl_(2))、トリフルオロメタン(CHF_(3))、テトラフルオロメタン(CF_(4))、又はそれらの組み合わせ)等の反応性化学薬品に耐性を持つことが可能である。 【0020】 接着層204は、フィラーが内部に分散したシリコンベースの高分子材料のマトリックスを含んでもよい。いくつかの実施形態では、マトリックスは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)又は他の適当なシリコン材料を含む。マトリックスは、直鎖ポリマー、分岐ポリマー、架橋ポリマー、又はそれらの組み合わせから形成可能である。更に、所望の物性(せん断及び引張りひずみ等)を達成するために、又は接着層のガス放出を制限するために、マトリックスは、低分子量(LMW)の含有量ΣD_(3)?D_(10)(例えば、D_(3)?D_(10)のすべての成分の合計。ただし、D_(3)?D_(10)は、繰り返しジメチルシロキサンユニットを指す。)が、いくつかの実施形態では約200ppm未満、又はいくつかの実施形態では約500ppm未満の分子量を有する高分子材料でできていてもよい。 【0021】 フィラーは、接着層204のマトリックスに分散できる。フィラーは、例えば、機械的又は熱的特性(熱伝導率など)を高めるために利用できる。フィラーは、接着層204の体積で約50?約70%を構成してもよい。一実施形態では、フィラーは、接着層204の体積で約67%である。フィラーは、粒子(酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))、窒化アルミニウム(AlN)、酸化イットリウム(Y_(2)O_(3))、又はそれらの組み合わせを含む粒子等)を含んでもよい。粒子は、直径が約10ナノメートル?約10ミクロン、又は約100ナノメートル?約3ミクロンの範囲であってもよい。」 オ 「【0023】 図1に戻って、運転中、基板100は基板サポート116上に配置される。チャンバ内部は、真空に近い環境まで減圧され、点火時にプラズマを生成するガス150(例えば、アルゴン)が、ガスパネル138からシャワーヘッド132を通ってプロセスチャンバ110へ供給される。ガス150は、RF電源118から上部電極128(陽極)に電力を印加することにより、プロセスチャンバ110内で点火されプラズマ152となる。磁場がソレノイドセグメント112を介してプラズマ152に印加され、基板サポート116はバイアス電源122から電力を印加することによってバイアスが掛けられている。基板100の処理中に、エッチングチャンバ110の内部の圧力は、ガスパネル138及びスロットルバルブ127を用いて制御される。プラズマ152は、例えば、基板100内で構造(ビア又はトレンチ等)をエッチングするために使用できる。 【0024】 チャンバ壁130の温度は、壁の内部及び周りに配置される液体含有コンジット(図示せず)を用いて制御される。更に、基板100の温度は、クーラントを循環させるために内部に形成されたチャネルを有する冷却板(図示せず)を介して基板サポート116の温度を調節することによって制御される。更に、裏面側のガス(例えば、ヘリウム(He)ガス)は、基板100の裏面側及び静電チャック126の表面内の溝(図示せず)によって形成されるチャネル内にガス源148から供給される。ヘリウムガスは、基板サポート116と基板100との間の熱伝達を促進するために使用される。静電チャック126は、チャック本体内の抵抗ヒータ(図示せず)によって定常状態の温度まで加熱され、ヘリウムガスは、基板100の均一加熱を促進する。チャック126の熱制御を使用して、基板100は摂氏10?500度の温度に維持される。」 カ 「【0027】 図4Bに示されるように、304において、接着層404がベース402の上に堆積される。接着層404は、前述の接着層404に構造及び機能が似ている。接着層404は、予め成形されたシートとして、又は液体として堆積可能である。例えば、液体プロセスを用いるとき、マトリックス材料(PDMS等)及びフィラー(酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))粒子等)が共に混合され、例えば脱気によって脱ガスされ、これによって捕捉されたガス等を除去してもよい。その後、触媒が、マトリックス及びフィラーの混合物に添加されてもよい。触媒は、例えば、白金触媒又はマトリックス材料の架橋を促進する他の適切な触媒材料であってもよい。マトリックス材料及び触媒は、約5:1?約20:1の質量比を有しており、より低い質量比は、接着プロセス中にマトリックス材料の架橋の増加を引き起こす可能性がある。その後、混合物は、例えば脱気によって再び脱ガスされてもよく、ベース402の上に液体状に堆積されてもよい。予め成形されたシートは、接着剤のシートがまずシートを成形するために事前に硬化されてから、ベース402の上に堆積可能となることを除いて、液体プロセスと同様の方法によって形成可能である。いくつかの実施形態では、シリコンベースの高分子材料の混合物を加熱又は蒸留して、これによって混合物から低分子量成分(例えば、D_(3)?D_(10)ユニット)の少なくともいくつかを除去してもよい。」 (3)本願発明の課題について 上記(2)アの記載から、デバイスが作られるプロセスにおいて、高温プロセスが必要とされているところ、高温プロセスにおいては、接着層によって基板サポート部品に結合される静電チャック(ESC)において、従来の接着層は、性能が劣化する可能性やESCが接着している部品から剥離する可能性があり、その結果、プロセスの均一性の問題だけでなく、接着層の断片から粒子汚染を引き起こす可能性があることが理解される。 そうすると、本願発明の課題は、高温プロセスによる接着層の性能の劣化や、ESCが接着している部品からの接着層の剥離を防ぎ、さらに、接着層の断片から生じる粒子汚染を防止するための、静電チャック(ESC)と基板サポート部品との接着を改善する方法及び装置を提供することにあるものと解される。 (4)発明の詳細な説明の記載について 本願明細書の発明の詳細な説明に接した当業者は、接着層のマトリックスの低分子量(LMW)の含有量ΣD_(3)?D_(10)(例えば、D_(3)?D_(10)のすべての成分の合計。ただし、D_(3)?D_(10)は、繰り返しジメチルシロキサンユニットを指す。)が、いくつかの実施形態では約200ppm未満、又はいくつかの実施形態では約500ppm未満の分子量を有する高分子材料でできていれば、所望の物性(せん断及び引張りひずみ等)が達成され、又は、接着層のガス放出が制限されることが理解できる(【0020】(2)エ)。 また、接着層のマトリックスにフィラーが分散したものは、機械的又は熱的特性(熱伝導率など)が高いものであり、フィラーは、接着層の体積で約50?約70%を構成してもよく、一実施形態では、フィラーは、接着層の体積で約67%であることが理解できる(【0021】(2)エ)。 ここで、上記「低分子量(LMW)の含有量ΣD_(3)?D_(10)(例えば、D_(3)?D_(10)のすべての成分の合計。ただし、D_(3)?D_(10)は、繰り返しジメチルシロキサンユニットを指す。)」は、本願発明における「シリコンベースの高分子材料」の「3?10の繰り返しジメチルシロキサンユニットの含有量」に相当するものであるといえるものの、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明は、どのようなメカニズムによって、本願発明の上記課題を解決するものであるのかについて、具体的に述べた記載を見出すことができない。 すなわち、本願明細書の発明の詳細な説明からは、本願発明に係るいくつかの実施形態においては、所望の物性(せん断及び引張りひずみ等)が達成され、又は、接着層のガス放出が制限され、機械的又は熱的特性(熱伝導率など)が高いものが得られることは理解できるとしても、本願発明は、基板サポート部品は、「半導体処理環境内で使用される」ものであって、「半導体処理環境」には、基板が加熱され、数百℃といった高温となり、しかも、高真空でプラズマに晒されるような環境も含まれるというべきであり(本件明細書には、「チャンバ内部は、真空に近い環境まで減圧され」(【0023】)、「基板100は摂氏10?500度の温度に維持される」(【0024】)と記載されている。)、そのような場合については、接着層の3?10の繰り返しジメチルシロキサンユニットの含有量が500ppm未満だとしても、当該ジメチルシロキサンユニットが、高温高真空のプラズマ下で分解、ないしは接着層から放出され、接着層の劣化やESCが接着している部品からの接着層の剥離、粒子汚染が引き起こされることが生じる場合があることは明らかである。 そうすると、本願発明は、静電チャック(ESC)と基板サポート部品との接着を改善しないものも含むといわざるを得ない。 さらに、本願の発明の詳細な説明には、シリコーベースの高分子材料のマトリックスを含む接着剤について、3?10の繰り返しジメチルシロキサンユニットの含有量がどの程度のもので、フィラーが接着層の体積でどの程度含まれるものが、どのような「半導体処理環境」において、どの程度、静電チャック(ESC)と基板サポート部品との接着を改善したものとなったのかについて確認することができるような、具体的な実施例については、何も示されていない。 そして、接着剤の接着性は、接着剤の組成、接着時の温度・圧力条件、さらには接着後の使用条件に大きく影響されるものであるという当該技術分野における技術常識を勘案すると、本願発明に係る接着剤の接着性は、具体的な実験結果を参酌しなければわからない、というべきである。 以上のことから、本願発明は、接着剤のマトリックス成分であるシリコンベースの高分子材料が「3?10の繰り返しジメチルシロキサンユニットの含有量が500ppm未満のポリジメチルシロキサン(PDMS)構造を含み」、「フィラーは、前記接着層の体積で67?70%」である旨の発明特定事項を含む点において、発明の詳細な説明において当該発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されていないといわざるをえない。 4 審判請求人の主張について 請求人は、平成31年2月28日付けの意見書において、次のように主張している。 「本願発明の課題は、半導体処理環境内で基板サポート部品の接着に用いられる接着剤の劣化防止及び基板サポート部品の接着改善である。そして、本願発明者は、シリコンベースの接着材の内、上記構成を有する本願発明が上記課題の解決のために最適であることを見出し、本願発明を完成した。本願発明の上記構成は明細書の段落0005、0006、0016、0020、0027等に記載されている。更に、拒絶理由通知でも認定されているように、シリコンベースの接着材は出願時に公知である。これらの点に鑑みれば、出願時の技術常識に照らして、本願発明は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されている。 尚、平成30年8月28日(発送日)付け拒絶理由通知書においては、本件特許出願の明細書に実験結果が記載されていないことを理由として、サポート要件違反を認定している。しかし、そもそも、サポート要件の趣旨は明細書で公開されていない発明について権利が発生することを防止するものであることある点に鑑みれば、上記認定は妥当でない。 また、特許・実用新案審査基準第II部第2号第2節においても、サポート要件を具備するために、実験結果の記載は要求されていない。」 しかしながら、拒絶理由通知で引用したシリコンベースの接着材(接着剤)は、引用文献1では、61℃(【0057】【表1】実施例2)程度の環境において使用されるものであり、引用文献2では、半導体ペレットとタブ等の接着に用いられるものであり、引用文献3では、フレキシブルプリント基板の固定治具等に用いられるものであって、いずれも、本願発明のような、高温かつ高真空のプラズマ下において使用されることは想定されるものではなく、本願発明の課題を解決できるような接着材(接着剤)が、本願の原出願前に公知であるということはできない。そして、本願明細書の発明の詳細な説明には、そのような背景技術のもとで、当該課題が解決できることを理解できる程度の具体例が何ら記載されていない。 そうすると、本願発明は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているとはいえない。 したがって、請求人の主張は採用することができない。 5 むすび 以上のとおり、本願の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 したがって、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2020-07-01 |
結審通知日 | 2020-07-07 |
審決日 | 2020-07-22 |
出願番号 | 特願2016-248845(P2016-248845) |
審決分類 |
P
1
8・
56-
Z
(C09J)
P 1 8・ 537- Z (C09J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 澤村 茂実 |
特許庁審判長 |
天野 斉 |
特許庁審判官 |
川端 修 門前 浩一 |
発明の名称 | 高温静電チャック接着剤 |
代理人 | 安齋 嘉章 |