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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
管理番号 1369424
審判番号 不服2020-5209  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-17 
確定日 2020-12-10 
事件の表示 特願2017-120920号「回胴式遊技機」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 1月17日出願公開、特開2019- 4949号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件に係る出願(以下「本願」という。)は、平成29年6月20日の出願であって、令和1年10月8日付けで拒絶の理由が通知され、同年12月6日に意見書及び手続補正書が提出され、令和2年2月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、当審において、令和2年5月19日付けで拒絶の理由が通知(以下、通知された拒絶の理由を「当審拒絶理由」という。)され、同年7月16日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、令和2年7月16日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載の事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものであると認める。(なお、AないしIについては、分説するため合議体が付した。)。

「A リールと、
B ストップスイッチと、
C スタートスイッチと、
D 抽選手段と
を備え、
E 1の遊技で賭け設定される遊技価値を賭け数とし、
F 1の遊技で遊技者に付与される遊技価値を付与数とし、
G N(Nは数値。以下同様。)回の遊技における出玉率は、N回の遊技における付与数の合計をN回の遊技における賭け数の合計で除算した値となっており、
H 所定の抽選テーブルで400回の遊技が行われた場合であって、再遊技役が成立した遊技の付与数を「0」とし、小役が成立したことによって付与される遊技価値を小役が成立した遊技の付与数とし、再遊技役が成立したことにより実行可能となった遊技の賭け数を「0」として算出し、再遊技役が成立した遊技の付与数の和と小役が成立した遊技の付与数の和を加算した値を付与数の合計とした場合における出玉率が、1/3以上となるよう構成されている
I ことを特徴とする遊技機。」

3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由は、概略、次のとおりである。
(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項1
・引用文献等
引用例1.特開2014-193334号公報
引用例2.特開2005-193004号公報

4 引用例の記載及び引用発明
当審拒絶理由で引用例2として引用され、本願の出願前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2005-193004号公報(平成17年7月21日公開)には、遊技機(発明の名称)に関し、次の事項が図とともに記載されている。なお、下線は合議体が付した。以下同じ。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、遊技時に所定のタイミングで乱数値を取得し、その乱数値に基づいて抽選が行われる、パチンコ遊技機や回胴式遊技機等の遊技機に関するものである。」

(2)「【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、図面を参照して、本願に係る発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0023】
[第一実施形態]
まず、本発明の第一実施形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の第一実施形態である遊技機の概略正面図、図2は第一実施形態の遊技機の概略制御ブロック図、図3は第一実施形態の遊技機における乱数発生手段及び主制御基板の概略ブロック図である。ここでは、遊技機が、いわゆるパチスロ機といわれる回胴式遊技機である場合を考える。
【0024】
第一実施形態の回胴式遊技機の正面には、図1に示すように、リール11a,11b,11cと、表示窓12と、メダル投入口13と、クレジット数表示部14と、ベットボタン15a,15b,15cと、入賞ライン16a,16b,16c,16d,16eと、有効ライン表示部17と、スタートレバー(スタート手段)18と、停止ボタン19a,19b,19cと、払出数表示部21と、メダル放出口22と、メダル受皿23と、画像表示部24と、電飾表示部25と、スピーカ26とが配設されている。
【0025】
また、かかる回胴式遊技機は、上記の各構成要素に加えて、図2に示すように、投入メダル検出センサ51と、ベットボタン操作検出センサ52a,52b,52cと、スタートレバー操作検出センサ53と、停止ボタン操作検出センサ54a,54b,54cと、リール駆動手段61a,61b,61cと、乱数発生手段70と、主制御基板80と、周辺制御基板90とを備える。」

(3)「【0047】
主制御基板80は、主に遊技内容やメダルの払出しの制御及び管理を行う。また、主制御基板80は、役の抽選処理を行う。この役の抽選処理については後に詳述する。主制御基板80は、抽選結果に応じて所定のコマンドを周辺制御基板90に送る。」

(4)「【0053】
次に、第一実施形態の回胴式遊技機における主制御基板80の構成について詳しく説明する。ここで、図3では、主制御基板80が行う制御系のうち役の抽選処理に関するものだけを示している。
【0054】
主制御基板80は、図3に示すように、ROM81と、RAM82と、CPU(遊技制御手段)83と、乱数値比較手段(検出手段)84と、変更手段85と、抽選手段86とを備えている。
【0055】
ROM81は、乱数値と役の対応関係を定める定義データをテーブル形式で複数パターン格納する定義パターン格納領域811と、後述する乱数値用の閾値のデータを格納している乱数値用閾値格納領域812と、遊技の制御に必要な各種のプログラムを格納しているプログラム格納領域(不図示)とを有している。定義パターン格納領域811には、8種類の定義データのパターンがテーブル形式で格納されている。図4はROM81に格納された8個の定義データのパターンを説明するための図である。本実施形態では、図4に示すように、パターン1からパターン8まで8つのパターンが格納されている。図4に示すように、各パターンは、0?65535の乱数値を8つの当選エリア(0?7)に区分して、乱数値と役との対応関係を定義している。
【0056】
パターン1では、0から47335までの乱数値の範囲(47336通り)を当選エリア「0」(不当選)、47336から47485までの乱数値の範囲(150通り)を当選エリア「1」(RB)、47486から47757までの乱数値の範囲(272通り)を当選エリア「2」(BB)、47758から53757までの乱数値の範囲(6000通り)を当選エリア「3」(ベル)、53758から62735までの乱数値の範囲(8978通り)を当選エリア「4」(再遊技)、62736から63035までの乱数値の範囲(300通り)を当選エリア「5」(角チェリー)、63036から65035までの乱数値の範囲(2000通り)を当選エリア「6」(単チェリー)、そして、65036から65535までの乱数値の範囲(500通り)を当選エリア「7」(なすび)としている。
【0057】
パターン2は、パターン1の不当選の役をRBの後の位置に移動したものであり、この移動に応じてRBと不当選の乱数値の範囲が変更されている。その他は、パターン1と同様である。パターン3は、パターン2の不当選の役をBBの後の位置に移動したものであり、この移動に応じてBBと不当選の乱数値の範囲が変更されている。パターン4以下の各パターンも、同様に、一つ前のパターンの不当選の役の位置を順次ずらすことにより作成したものである。したがって、第一実施形態によれば、8つのパターンを容易に作成することができる。
【0058】
なお、上述した各パターンは、BB遊技やRB遊技以外の一般遊技時に使用されるものであり、各パターンは、この他に、通常の公知の回胴式遊技機のように、BB遊技時及びRB遊技時に使用される乱数値と役の対応関係を定めるデータも有しているが、説明を簡略化するために、第一実施形態では、BB遊技時及びRB遊技時のデータは省略している。」

(5)「【0107】
[第四実施形態]
次に、本発明の第四実施形態について図面を参照して説明する。図10は本発明の第四実施形態である遊技機における乱数発生手段及び主制御基板の概略ブロック図である。
【0108】
第四実施形態の遊技機が第一実施形態のものと異なるのは、ROM81に新たに指定遊技数格納領域816を設けると共に乱数値用閾値格納領域812の代わりに出玉率用閾値格納領域815を設け、RAM82に新たに払出メダル数格納領域828と投入メダル数格納領域829を設けると共に前回乱数値格納領域822の代わりに現在出玉率格納領域827を設け、乱数値比較手段84の代わりに出玉率比較手段84cを設け、更に遊技数計数手段88と遊技数確認手段89と現在出玉率算出手段100を新たに設けた点である。その他の点は、第一実施形態と同様である。したがって、第四実施形態において、第一実施形態のものと同様の機能を有するものには、同一の符号或いは対応する符号を付すことにより、その詳細な説明を省略する。尚、第四実施形態においても、遊技機がいわゆるパチスロ機といわれる回胴式遊技機である場合を考える。
【0109】
次に、第四実施形態の回胴式遊技機における主制御基板80cの構成について詳しく説明する。ここで、図10では、主制御基板80cが行う制御系のうち役の抽選処理に関するものだけを示している。
【0110】
主制御基板80cは、図10に示すように、ROM81と、RAM82と、CPU(遊技制御手段)83と、出玉率比較手段(検出手段)84cと、変更手段85と、抽選手段86と、遊技数計数手段88と、遊技数確認手段89と、現在出玉率算出手段100を備えている。
【0111】
ROM81は、乱数値と役の対応関係を定める定義データをテーブル形式で複数パターン格納する定義パターン格納領域811と、後述する出玉率用の閾値のデータを格納している出玉率用閾値格納領域815と、後述する予め定めた所定の指定遊技数のデータを格納する指定遊技数格納領域816と、遊技の制御に必要な各種のプログラムを格納しているプログラム格納領域(不図示)とを有している。
【0112】
RAM82は、乱数発生手段70のラッチ回路73に保持された乱数値を記憶する今回乱数値格納領域821と、今回の遊技で使用する定義データのパターン番号を記憶するパターン番号格納領域823と、後述する遊技数計数手段88によって計数された遊技数のデータを記憶する遊技数格納領域826と、各ゲームごとに現在出玉率算出手段100が算出した現在の出玉率のデータを格納する現在出玉率格納領域827と、遊技機が払い出したメダルの数を記憶する払出メダル数格納領域828と、遊技者が投入したメダルの数を記憶する投入メダル数格納領域829と、データを一時的に記憶する作業領域(不図示)とを有している。なお、遊技機が払い出すメダルの数を計数して、払出メダル数格納領域828に記憶する払出メダル計数手段及び遊技者が投入したメダルの数を計数して投入メダル数格納領域829に記憶する投入メダル計数手段は公知のものであるので、その詳細な説明を省略する。また、メダル払出数格納領域828や投入メダル数格納領域829等に記憶されたRAM82のデータは、遊技機の電源が切断された後も、バックアップ電源(不図示)により保持される。
【0113】
遊技数計数手段88は、スタートレバー18が押下されたことを検知するスタートレバー操作検出センサ53からの信号を主制御基板80cが受信するごとに、1を加算する処理を行うことにより、遊技の回数を計数する。計数した遊技数のデータは、RAM82の遊技数格納領域826に記憶される。
【0114】
遊技数確認手段89は、各ゲーム毎にRAM82の遊技数格納領域826に記憶された遊技数のデータを読み出し、ROM81の指定遊技数格納領域816に記憶された指定遊技数のデータ(本実施形態の場合「50」)と一致したか否かを確認する。一致していれば、その旨の信号を出力する。なお、遊技数確認手段89が、一致している旨の信号を出力した後、CPU83は遊技数計数手段88が計数している遊技の回数を0に戻し、次の50回の計数に備える。
【0115】
現在出玉率算出手段100は、各ゲームごとに、すなわち、主制御基板80cがスタートレバー操作検出センサ53からの信号を受信するごとに、直近の所定回数(例えば400回、6000回又は17500回)の遊技における遊技媒体の投入数に対する払出数の比率である現在の出玉率を算出して、その結果を現在出玉率格納領域827に記憶する。
【0116】
出玉率比較手段84cは、RAM82の現在出玉率格納領域827に記憶された現在の出玉率とROM81の出玉率用閾値格納領域815に格納された出玉率用の閾値とを比較し、その結果を示す信号を出力する。すなわち、出玉率比較手段84cは、現在出玉率格納領域827に記憶された出玉率が予め定めた所定の2つの閾値(本実施形態の場合、55%と120%)になったときに、例えば120%を超えたとき、又は、55%を下まわったときに、遊技状態が予め定めた所定の状態になったと判断し、所定の信号を出力する。
【0117】
変更手段85は、出玉率比較手段84cが所定の信号を出力したときに、これまで使用していた定義データのパターンを抽選により変更する。たとえば、簡単な乱数発生回路を用いて、現在使用しているパターンを除いた他の7つのパターンから均等な確率で一つのパターンを選ぶ。また、変更手段85は、変更後のパターンの番号をRAM82のパターン番号格納領域823に格納し、処理終了の信号を発する。抽出手段86は、第一実施形態のものと同様である。
【0118】
次に、本実施形態の出玉率について説明する。遊技機の出玉率は下式で表わすことができる。
【0119】
出玉率(%)={(払い出しメダル枚数)÷(投入メダル枚数)}×100
【0120】
この出玉率は、各遊技機ごとに、各遊技機に設けられた出玉率設定スイッチにより、1?6の6段階に設定することができる。この設定値は、設定値1から順に出玉率が高くなるように設計されている。通常、設定値1又は2に設定された遊技機を低設定の遊技機と呼び、設定値3又は4に設定された遊技機を中設定の遊技機、設定値5又は6に設定された遊技機を高設定の遊技機と呼んでいる。ホールの新規開店時には、殆どの遊技機を設定値5又は6の高設定に設定して、遊技者が容易に賞メダルを獲得することができようにしている。このようにホールでは、ほぼ毎日のように、その日の営業方針に沿って、各遊技機の出玉率の設定を変更している。
【0121】
本実施形態の遊技機は、適正な数の賞メダルを払い出すことができるように、出玉率を55%から120%までの範囲に設計しているものとする。しかしながら、そのように設計された遊技機をホールに設置して、実際に使用すると、出玉率が120%より大きくなったり、逆に55%より小さくなったりすることがある。ホール内で、このような状態の遊技機が多くなると、ホールが意図する営業方針を実現することができなくなる。
【0122】
図11は、実際の出玉率に応じた定義データのパターンの変更を説明するための図である。本実施形態では、図11に示すように実際の出玉率が55%から120%までの範囲であるときには、出玉率が適正であるので、定義データのパターンは変更しない。これに対して、実際の出玉率が120%より大きいときには、遊技者が体感機等を用いて不正に多量のメダルを獲得している可能性が高い。また、不正が行なわれていなくても、遊技者が一定の周期でスタートレバー18を押下することにより、頻繁に当選エリアが選択されて、実際の出玉率が設計された出玉率を上回り、出過ぎの状態となっている。このような不正行為や出過ぎを防止するために、出玉率が120%より大きいときには、使用している定義データのパターンを他の定義データのパターンに変更する。
【0123】
また、遊技者がスタートレバー18を押下するタイミングが悪く、不当選エリアを頻繁に選択するタイミングとなっていると、実際の出玉率が設計された出玉率55%より小さくなり、出不足の状態となることが多い。そこで、本実施形態では、かかる出不足の状態を防止するために、出玉率が55%より小さくなったときにも、使用している定義データのパターンを他の定義データのパターンに変更することにしている。これにより、遊技者が悪いタイミングでスタートレバーを押下していても、参照する定義データのパターンが変わるので、不当選エリアを頻繁に選択する状態を回避することが可能となる。すなわち、本実施形態では、出玉率が55%から120%までの範囲以外となっときには、使用している定義データのパターンを他の定義データのパターンに変更することにより、出玉率が55%から120%の範囲となるように制御している。
・・・略・・・
【0127】
次に、遊技数確認手段89は、ROM83の指定遊技数格納領域816から指定遊技数のデータ(本実施形態の場合「50」)を取得し(S34)、RAM82の遊技数格納領域826から遊技数のデータを取得する(S35)。ステップS36では、遊技数確認手段89は、取得した指定遊技数のデータと遊技数のデータとを比較し、遊技数が指定遊技数に到達したか否かを判断する。遊技数が指定遊技数(50回)より小さいときには、定義データのテーブルを変更することなく、ステップS41に移行して、抽選手段86が今回乱数値格納領域821に記憶されている乱数値について、パターン番号格納領域823に記憶されているパターン番号の定義データを使用して、今回の当選役を決定する。
【0128】
一方、ステップS36の判断で、遊技数が指定遊技数(50回)と一致していれば、CPU83は、次の50回の計数に備えて遊技数計数手段88が計数している遊技の回数を0にリセットする。また、出玉率比較手段84cは、RAM82の現在出玉率格納領域827から現在の出玉率のデータを取得し(S37)、ROM83の出玉率閾値用格納領域815から出玉率の閾値(本実施形態の場合、「55%」と、「120%」)のデータを取得する(S38)。出玉率比較手段84cは、その取得した現在の出玉率と、出玉率の閾値とを比較し、取得した現在の出玉率が閾値55%から120%までの範囲にあるか否かを判断して、その結果を示す信号を出力する(S39)。このように遊技数が指定遊技数(50回)になったときに、出玉率を算出して、算出した出玉率が所定の閾値範囲にあるか否かを判断するのは、ある程度の回数のゲームを行わないと、出玉率が変わらないからである。なお、指定遊技数は50回に限定されるものではない。」

(6)「【図4】



(7)上記(1)ないし(6)からみて、引用例2には、第一実施形態に関する記述を一部流用した第四実施形態として、次の発明が記載されている。なお、aないしiについては本願発明のAないしIに概ね対応させて付与し、引用箇所の段落番号等を併記した。
「a リール11a,11b,11c(【0024】)と、
b 停止ボタン19a,19b,19c(【0024】)と、
c スタートレバー18(【0024】)と、
d 抽選手段86を備える主制御基板80c(【0025】、【0110】)と、
を備え、
e、f、g 各ゲームごとに、すなわち、主制御基板80cがスタートレバー操作検出センサ53からの信号を受信するごとに、直近の所定回数(例えば、400回、6000回又は17500回)の遊技における遊技媒体の投入数に対する払出数の比率である下記式で表される現在の出玉率を算出して、その結果を現在出玉率格納領域827に記憶し(【0115】、【0118】)、
h 現在出玉率格納領域827に記憶された現在の出玉率と出玉率用閾値格納領域815に格納された出玉率用の閾値とを比較し、出玉率が120%を超えたとき、又は、55%を下まわったときに(【0116】)、(【0117】)、乱数値と役の対応関係を定めた下記定義データのパターンを変更し、これに対し、出玉率が55%から120%までの範囲であるときには、出玉率が適正であるので、定義データのパターンは変更しないようにして、結果として、出玉率が55%から120%の範囲となるように制御して(【0055】、【0122】、【0123】)、出玉率を55%から120%までの範囲となるように設計した(【0121】)、
i 回胴式遊技機(【0023】、【0108】)。

式:出玉率(%)={(払い出しメダル枚数)÷(投入メダル枚数)}×100(【0119】)
定義データのパターン(図4):

」(以下「引用発明」という。)

5 対比
本願発明と引用発明を対比する(見出し(a)ないし(i)は、本願発明の特定事項AないしIに概ね対応する。)。

(a)引用発明の「リール11a,11b,11c」は、本願発明の「リール」に相当する。

(b)引用発明の「停止ボタン19a,19b,19c」が本願発明の「ストップスイッチ」を備えることは技術常識からみて明らかである。

(c)引用発明の「スタートレバー18」が本願発明の「スタートスイッチ」を備えることは技術常識からみて明らかである。

(d)引用発明の「抽選手段86」は、本願発明の「抽選手段」に相当する。

(e)(f)(g)引用発明の「投入メダル枚数」及び「払い出しメダル枚数」は、本願発明の「N回の遊技における賭け数の合計」及び「N回の遊技における付与数の合計」にそれぞれ相当するといえる。そうすると、引用発明の「出玉率」は、(払い出しメダル枚数;N回の遊技における付与数の合計)÷(投入メダル枚数;N回の遊技における賭け数の合計)×100として算出されるものであるところ、本願発明のE、F、Gの「1の遊技で賭け設定される遊技価値を賭け数とし、1の遊技で遊技者に付与される遊技価値を付与数とし、N(Nは数値。以下同様。)回の遊技における出玉率は、N回の遊技における付与数の合計をN回の遊技における賭け数の合計で除算した値となって」いるといえる。
してみると、引用発明は、本願発明のE、F、Gを備えることは明らかである。

(h)回胴式遊技機において、出玉率を計算する際に、リプレイ入賞時の払出し枚数は0枚、次遊技での投入枚数が0枚として計算することは技術常識(例.引用例1(「【0124】・・・現行の5号機では、リプレイ入賞時の払出し枚数は0枚、次遊技での投入枚数が0枚として計算される。」)との記載参照。)であるとともに、出玉率は一般的に投入枚数と払出枚数との比を意味するが、出玉率の下限が規定されている際に他の特別遊技の払出枚数を考慮せずに、小役入賞時の払出枚数だけを考慮すれば良いことは自明であるから、引用発明の「出玉率」は、本願発明のHの「再遊技役が成立した遊技の付与数を「0」とし、小役が成立したことによって付与される遊技価値を小役が成立した遊技の付与数とし、再遊技役が成立したことにより実行可能となった遊技の賭け数を「0」として算出し、再遊技役が成立した遊技の付与数の和と小役が成立した遊技の付与数の和を加算した値を付与数の合計とした場合における」ものであることは明らかである。
また、引用発明は、直近の所定回数の遊技における出玉率を算出して、出玉率を制御して(【0055】、【0122】、【0123】)、出玉率が55%から120%までの範囲となるように設計したものであるから、本願発明のHのうち「出玉率が、1/3以上となるよう構成されている」を備える。
また、引用発明の「定義データのパターン」は、乱数値と役の対応関係を定めたものであるから、本願発明の「抽選テーブル」に相当する。
そうすると、引用発明のhと、本願発明のHとは、「H’抽選テーブルで所定回数の遊技が行われた場合であって、再遊技役が成立した遊技の付与数を「0」とし、小役が成立したことによって付与される遊技価値を小役が成立した遊技の付与数とし、再遊技役が成立したことにより実行可能となった遊技の賭け数を「0」として算出し、再遊技役が成立した遊技の付与数の和と小役が成立した遊技の付与数の和を加算した値を付与数の合計とした場合における出玉率が、1/3以上となるよう構成されている」点で一致する。

(i)引用発明の「回胴式遊技機」は、本願発明の「遊技機」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、
「A リールと、
B ストップスイッチと、
C スタートスイッチと、
D 抽選手段と
を備え、
E 1の遊技で賭け設定される遊技価値を賭け数とし、
F 1の遊技で遊技者に付与される遊技価値を付与数とし、
G N(Nは数値。以下同様。)回の遊技における出玉率は、N回の遊技における付与数の合計をN回の遊技における賭け数の合計で除算した値となっており、
H’ 抽選テーブルで所定回数の遊技が行われた場合であって、再遊技役が成立した遊技の付与数を「0」とし、小役が成立したことによって付与される遊技価値を小役が成立した遊技の付与数とし、再遊技役が成立したことにより実行可能となった遊技の賭け数を「0」として算出し、再遊技役が成立した遊技の付与数の和と小役が成立した遊技の付与数の和を加算した値を付与数の合計とした場合における出玉率が、1/3以上となるよう構成されている
I 遊技機。」である点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点(特定事項H)
「出玉率」は、
本願発明では、「所定の抽選テーブルで400回の遊技が行われた場合」に「1/3以上となるよう構成されている」ものであるのに対し、
引用発明では、本願発明のように「所定の抽選テーブルで400回の遊技が行われた場合」に「1/3以上となるよう構成されている」といえるかどうか明らかでない点。

6 判断
上記相違点について検討する。
(1)引用発明は、直近の所定回数の遊技の出玉率が55%から120%の範囲にあるときには、定義データのパターン(抽選テーブル)を変更せず、該パターン(所定の抽選テーブル)を継続的に用いて抽選を実行し続けるものであるところ、出玉率が55%から120%の範囲のまま推移して所定回数の遊技が行われた場合、当該パターン(所定の抽選テーブル)を変更することなく、言い換えれば当該パターン(所定の抽選テーブル)で、所定回数の遊技が行われた場合、出玉率は、55%から120%の範囲にあり、1/3以上であるといえる。
そして、引用発明は「所定回数」として400回が例示されているから、引用発明において、「所定回数」を400回とし、前記パターン(所定の抽選テーブル)で、400回の遊技が行われた場合、出玉率が55%から120%の範囲、すなわち、1/3以上となるように構成すること、すなわち、上記相違点に係る本願発明のHの「所定の抽選テーブルで400回の遊技が行われた場合」に「出玉率が1/3以上となるよう構成されている」との特定事項を備えるようになすことは当業者が適宜なし得たことである。

(2)直近の所定回数の遊技の出玉率が55%から120%の範囲になく、定義データのパターン(抽選テーブル)を変更した場合について検討を進める。「所定」が「定まっていること。定めてあること。」(広辞苑第三版)の意味であることからすると、本願発明の「所定の抽選テーブル」は、「同一の抽選テーブル」等との解釈に限られず、定められたものであれば、「複数の抽選テーブル」も排除するものではない。そうしてみると、引用発明における複数の「定義データのパターン」は、本願発明の「所定の抽選テーブル」に相当するといえる。
そして、引用発明のように、直近の所定回数の遊技における出玉率により定義データのパターンを必要に応じて変更して、出玉率が55%から120%の範囲となるように制御するものであれば、引用発明において、400回遊技が行われたときに出玉率が55%から120%の範囲、言い換えれば1/3以上となるように構成すること、すなわち上記相違点に係る本願発明の構成とすることは当業者が適宜なし得たことである。

(3)上記(2)とは異なり、仮に、本願発明の「所定の抽選テーブル」が「同一の抽選テーブル」であると解して検討する。
ア 回胴式遊技機において、同一の抽選テーブルで400回程度の遊技が行われることは例を挙げるまでもなく周知(以下「周知技術」という。)である。
イ 引用発明は、直近の所定回数の出玉率を算出して、算出した出玉率が所定の閾値範囲(55%ないし120%)にあるか否かを判定し、閾値範囲外である場合に、定義データのパターン(抽選テーブル)を変更して、出玉率が55%から120%の範囲となるように制御するものである。しかしながら、引用発明の定義データのパターン(引用例2の特に【0055】ないし【0058】も参照。)のように、定義データのパターン1ないし8は、「不当選」の役の47336通りの置き数を変えずに、該「不当選」の役の位置をずらしたものにすぎないから、パターンを変更しても、統計的な出玉率は同じである。
そうすると、引用発明において、定義データのパターン(抽選テーブル)を変更してもしなくても、RB、BB、再遊技、各小役の当選確率が統計的には変わらないのであるから、周知技術を考慮して定義データのパターン(抽選テーブル)を変更せずに、同一の定義データのパターン(抽選テーブル)を用いるようになすことは当業者が適宜なし得たことである。
そして、引用発明は、前提として、出玉率を55%から120%までの範囲となるように設計した回胴式遊技機であるところ、同一の定義データのパターン(抽選テーブル)を用いたとしても、400回遊技が行われたときに出玉率が55%から120%の範囲となるようにすることは当業者であれば自明な事項である。
してみると、引用発明において、遊技が400回行われたときについて、出玉率が55%から120%の範囲となるようにし、すなわち、1/3以上となるようになし、上記相違点に係る本願発明の特定事項となすことは当業者が周知技術に基づいて適宜なし得た事項である。

(5)本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び周知技術の奏する効果から、予測することができた程度のものである。

(6)請求人の主張について
ア 請求人は、令和2年7月16日提出の意見書において、以下のとおり主張する。
「引用文献2に記載の発明(以後、「引用文献2発明」という)は、その段落0055、0111等により、抽選テーブルを変化させることによって、出玉率を55%?120%の範囲内に収める旨が記載されている。これに対し、請求項1発明は、上述のように、今回の「所定の抽選テーブルで400回の遊技が行われた場合であって、」との規定内容を付加した補正を行ったことによって、引用文献2発明との差異が明確なものとなった。
すなわち、引用文献2には、「同一の抽選テーブルを用いた状況下で、遊技が400回行われたときの出玉率が、1/3以上となるよう構成されている」という請求項1発明については、一切の記載も示唆もない。それどころか、引用文献2発明は、「互いに異なる複数の抽選テーブルを変更する」ことが前提であり、この前提は、「同一の抽選テーブルを用いる」ことが前提の請求項1発明とは、真逆ともいえる前提であるため、これが請求項1発明に想到するにあたっての阻害要因ともなっているといえる。このため、引用文献2発明から請求項1発明に想到するには困難性を伴う。
そして、請求項1発明による「設計上、遊技者が約10,000円を使っても少なくとも約30分間、遊技できる時間を遊技者に付与することにより、最低限の利益を遊技者に確保することができ、遊技者に著しく不利益な状態が生ずることを防止することができる」との効果については、引用文献2発明では奏することができない。しかも、請求項1発明においては、「同一の抽選テーブルを用いた状況下で、遊技が400回行われたときの出玉率が、1/3以上となるよう構成されている」という構成を有していることによって、引用文献2発明のように、抽選テーブルを変化させるという処理すら必要なく、引用文献2発明に比して制御負荷を軽減することができるという有利な効果をも奏する。
このように、請求項1発明については、引用文献2に記載も示唆もないどころか、引用文献2には、請求項1発明に想到することに対する阻害要因となる記載があるため、引用文献2発明から請求項1発明に想到することは困難性を伴うとともに、請求項1発明は、引用文献2発明では奏することのできない効果や有利な効果をも奏する。
したがって、請求項1発明は、引用文献2発明から容易に想到しえたとはいえないものと思料する。」(「3.拒絶理由について」の「(3-2)請求項1に記載の発明と引用文献2に記載の発明との対比」)

イ しかしながら、上記6(2)で示したように、本願発明の「所定の抽選テーブル」が「同一の抽選テーブル」であると限定解釈することはできないから、「所定の抽選テーブル」については引用文献2(引用例2)に開示されているといえる。また、仮に本願発明の「所定の抽選テーブル」が「同一の抽選テーブル」であると限定解釈したとしても、上記6(3)で示したように、本願発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に想到し得たものである。
したがって、上記主張は採用できない。

7 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-09-29 
結審通知日 2020-10-06 
審決日 2020-10-20 
出願番号 特願2017-120920(P2017-120920)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (A63F)
P 1 8・ 121- WZ (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金子 和孝  
特許庁審判長 瀬津 太朗
特許庁審判官 鷲崎 亮
鉄 豊郎
発明の名称 回胴式遊技機  
代理人 伊藤 温  

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