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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P |
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管理番号 | 1369494 |
審判番号 | 不服2018-11013 |
総通号数 | 254 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-02-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-08-10 |
確定日 | 2020-12-16 |
事件の表示 | 特願2014- 44743「モータ制御器システムおよびモータを制御するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 9月28日出願公開、特開2015-171241〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成26年3月7日の出願であって、平成30年3月26日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成30年4月10日)、これに対し、平成30年8月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ、当審により令和元年6月28日付で拒絶の理由が通知され(発送日:令和元年7月2日)、これに対し、令和元年11月5日付で意見書及び手続補正書が提出され、当審により令和元年12月18日付で最後の拒絶の理由が通知され(発送日:令和2年1月7日)、これに対し、令和2年4月6日付で意見書及び手続補正書が提出されたものである。 2.令和2年4月6日付の手続補正(以下、「本件補正」という。) 本件補正前の特許請求の範囲の記載は以下のとおりである。 「【請求項1】 モータ制御器システムであって、 硬化フィールドプログラム可能ゲートアレイと、 前記フィールドプログラム可能ゲートアレイによって制御される逆起電力デコーダ回路と、 前記デコーダ回路において逆起電力信号に条件付けを行うように構成されるフィルタと、 を備え、 前記フィルタは、少なくとも1つのカットオフ周波数を有し、前記少なくとも1つのカットオフ周波数が、前記フィールドプログラム可能ゲートアレイによって動的に制御され、前記フィルタのカットオフ周波数は、論理デバイスによって動的に制御され、特に、前記カットオフ周波数は、ロータ速度が変化する際、逆起電力信号の位相シフトを最小限にするように、前記論理デバイスによって調節され、 ロータ位置信号が、直流リンクからの帰還信号に対する前記逆起電力信号に基づいて推定され、 前記デコーダ回路は、ゼロ交差検出器をさらに備えることを特徴とするモータ制御器システム。 【請求項2】 前記硬化フィールドプログラム可能ゲートアレイは、放射線硬化される、請求項1に記載のモータ制御器システム。 【請求項3】 モータの速度を調整するように構成される、デジタル制御ループをさらに備える、請求項1に記載のモータ制御器システム。 【請求項4】 電流制限回路をさらに備え、前記電流制限回路は、平均電流およびピーク電流に別個に応答するように構成される、請求項1に記載のモータ制御器システム。 【請求項5】 前記ロータ位置信号は、120°切り替えパターンの波形信号を模倣し、前記デコーダ回路が、前記ロータ位置信号のための波形出力を生成する、請求項1に記載のモータ制御器システム。 【請求項6】 前記モータは、前記フィールドプログラム可能ゲートアレイによる非同期フィールドの適用によって始動され、前記非同期フィールドは、逆起電力が検出された後に同期フィールドに切り替わる、請求項1に記載のモータ制御器システム。 【請求項7】 前記モータ制御器システムは、モータを制御するように構成され、前記モータは、宇宙機上の対象デバイスを駆動する、請求項1に記載のモータ制御器システム。 【請求項8】 前記モータ制御器システムは、対象デバイスを駆動するモータを制御するように構成され、前記対象デバイスは、ポンプ、ファン、または作動装置のうちの1つである、請求項1に記載のモータ制御器システム。 【請求項9】 前記デコーダ回路は、交流(AC)結合増幅器をさらに備え、前記交流(AC)結合増幅器は、前記デコーダ回路による逆起電力信号の測定を向上させるために、逆起電力信号を増幅する、請求項1に記載のモータ制御器。 【請求項10】 モータを制御するための方法であって、 モータ制御器内の逆起電力デコーダ回路において、モータのロータから逆起電力信号を受信するステップであって、前記デコーダ回路は、硬化フィールドプログラム可能ゲートアレイによって制御される、逆起電力信号を受信するステップと、 前記逆起電力信号に、前記デコーダ回路内のフィルタにより条件付けを行うステップであって、前記フィルタは、少なくとも1つのカットオフ周波数を有し、前記少なくとも1つのカットオフ周波数は、前記フィールドプログラム可能ゲートアレイによって動的に制御され、前記フィルタのカットオフ周波数は、論理デバイスによって動的に制御され、特に、前記カットオフ周波数は、ロータ速度が変化する際、逆起電力信号の位相シフトを最小限にするように、前記論理デバイスによって調節される、条件付けを行うステップと、 前記条件付けが行われた逆起電力信号から前記ロータの位置を判定するステップと、 前記ロータの前記位置に基づいて、前記モータを整流するために電圧を供給するステップと、 を含み、 ロータの位置の信号が、直流リンクからの帰還信号に対する前記逆起電力信号に基づいて推定され、 前記デコーダ回路は、ゼロ交差検出器をさらに備える、方法。 【請求項11】 1つ以上の放射線硬化電界効果トランジスタを使用して、前記モータに電力を供給するステップを含む、請求項10に記載の方法。」 本件補正により特許請求の範囲は以下のように補正された(下線は補正箇所を示す。)。 「【請求項1】 モータ制御器システムであって、 硬化フィールドプログラム可能ゲートアレイと、 前記フィールドプログラム可能ゲートアレイによって制御される逆起電力デコーダ回路と、 前記デコーダ回路において逆起電力信号に条件付けを行うように構成されるフィルタと、 を備え、 前記フィルタは、少なくとも1つのカットオフ周波数を有し、前記少なくとも1つのカットオフ周波数が、前記フィールドプログラム可能ゲートアレイによって動的に制御され、前記フィルタのカットオフ周波数は、前記フィールドプログラム可能ゲートアレイによって動的に制御され、特に、前記カットオフ周波数は、ロータ速度が変化する際、逆起電力信号の位相シフトを最小限にするように、前記フィールドプログラム可能ゲートアレイによって調節され、 ロータ位置信号が、直流リンクからの帰還電圧に対する前記逆起電力信号に基づいて推定され、 前記デコーダ回路は、ゼロ交差検出器をさらに備えることを特徴とするモータ制御器システム。 【請求項2】 前記硬化フィールドプログラム可能ゲートアレイは、放射線硬化される、請求項1に記載のモータ制御器システム。 【請求項3】 モータの速度を調整するように構成される、デジタル制御ループをさらに備える、請求項1に記載のモータ制御器システム。 【請求項4】 電流制限回路をさらに備え、前記電流制限回路は、平均電流およびピーク電流に別個に応答するように構成される、請求項1に記載のモータ制御器システム。 【請求項5】 前記ロータ位置信号は、120°切り替えパターンの波形信号を模倣し、前記デコーダ回路が、前記ロータ位置信号のための波形出力を生成する、請求項1に記載のモータ制御器システム。 【請求項6】 前記モータは、前記フィールドプログラム可能ゲートアレイによる非同期フィールドの適用によって始動され、前記非同期フィールドは、逆起電力が検出された後に同期フィールドに切り替わる、請求項1に記載のモータ制御器システム。 【請求項7】 前記モータ制御器システムは、モータを制御するように構成され、前記モータは、宇宙機上の対象デバイスを駆動する、請求項1に記載のモータ制御器システム。 【請求項8】 前記モータ制御器システムは、対象デバイスを駆動するモータを制御するように構成され、前記対象デバイスは、ポンプ、ファン、または作動装置のうちの1つである、請求項1に記載のモータ制御器システム。 【請求項9】 前記デコーダ回路は、交流(AC)結合増幅器をさらに備え、前記交流(AC)結合増幅器は、前記デコーダ回路による逆起電力信号の測定を向上させるために、逆起電力信号を増幅する、請求項1に記載のモータ制御器。 【請求項10】 モータを制御するための方法であって、 モータ制御器内の逆起電力デコーダ回路において、モータのロータから逆起電力信号を受信するステップであって、前記デコーダ回路は、硬化フィールドプログラム可能ゲートアレイによって制御される、逆起電力信号を受信するステップと、 前記逆起電力信号に、前記デコーダ回路内のフィルタにより条件付けを行うステップであって、前記フィルタは、少なくとも1つのカットオフ周波数を有し、前記少なくとも1つのカットオフ周波数は、前記フィールドプログラム可能ゲートアレイによって動的に制御され、前記フィルタのカットオフ周波数は、前記フィールドプログラム可能ゲートアレイによって動的に制御され、特に、前記カットオフ周波数は、ロータ速度が変化する際、逆起電力信号の位相シフトを最小限にするように、前記フィールドプログラム可能ゲートアレイによって調節される、条件付けを行うステップと、 前記条件付けが行われた逆起電力信号から前記ロータの位置を判定するステップと、 前記ロータの前記位置に基づいて、前記モータを整流するために電圧を供給するステップと、 を含み、 ロータの位置の信号が、直流リンクからの帰還電圧に対する前記逆起電力信号に基づいて推定され、 前記デコーダ回路は、ゼロ交差検出器をさらに備える、方法。 【請求項11】 1つ以上の放射線硬化電界効果トランジスタを使用して、前記モータに電力を供給するステップを含む、請求項10に記載の方法。」 本件補正前後で請求項数は11であり、本件補正前後で独立項は物の発明に係る請求項1と方法の発明に係る請求項10であり、本件補正前後で請求項の引用関係は同じであるから、本件補正前の請求項1は本件補正後の請求項1に対応し、本件補正前の請求項10は本件補正後の請求項10に対応する。 本件補正によって請求項1、10の記載が補正された。 フィルタのカットオフ周波数の制御に関し、本件補正前の請求項1は「論理デバイス」が行っていたものが、本件補正後の請求項1は「フィールドプログラム可能ゲートアレイ」が行っており、又、ロータの位置の信号に関し、本件補正前の請求項1は「直流リンクからの帰還信号に対する前記逆起電力信号」に基づいていたものが、本件補正後の請求項1は「直流リンクからの帰還電圧に対する前記逆起電力信号」に基づいており、これらの補正は、令和元年12月18日付最後の拒絶理由で通知した理由に対するものであるから、特許法第17条の2第5項第4号の明りょうでない記載の釈明に該当する。請求項10も同様である。 したがって、本件補正は適法なものであるから、審理の対象は本件補正後の特許請求の範囲となる。 3.拒絶の理由 令和元年12月18日付の当審の最後の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。 「この出願は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 (1)請求項1に「前記フィルタのカットオフ周波数は、論理デバイスによって動的に制御され、特に、前記カットオフ周波数は、ロータ速度が変化する際、逆起電力信号の位相シフトを最小限にするように、前記論理デバイスによって調節され」との訳語があるが、請求項1のモータ制御器システムは、硬化フィールドプログラム可能ゲートアレイ、逆起電力デコーダ回路、フィルタしか有していないので、論理デバイスはモータ制御器システムの構成であるのか否か不明であり、又、「逆起電力信号の位相シフトを最小限にするように」とはどの様な演算を行うのか明細書(【0020】等)を参照しても不明(ロータ速度が変化することが前提であるから、1周期の長さが変化することとなる。逆起電力信号はロータの位置を検出するための信号であるから、ロータ速度が変化することによってゼロ点と逆起電力信号の時間間隔は変化するので、当該変化を「位相シフト」というと仮定すると、当該変化を最小限にすればロータの正確な位置が検出できなくなる。1周期を角度で判断すると、逆起電力信号が発生する角度はゼロ点に対して一定であるから、そもそも位相シフトは起こらないのではないか。位相シフトとはどの様な現象であって、最小限にするとはどの様な演算を行うのか明確にされたい。)である。請求項10も同様である。 更に、請求項1に「ロータ位置信号が、直流リンクからの帰還信号に対する前記逆起電力信号に基づいて推定され」との訳語があり、モータ制御回路において、通常直流リンクとは整流器とインバータの間を連結する直流部分のリンクをいうから、直流リンクの電圧は一定値であり、信号は発生していないから、「直流リンクからの帰還信号」とは直流リンクに対するどの様な信号であるのか明細書(【0018】等)、図面を参照しても不明であり、帰還信号と逆起電力信号からどの様な演算を行ってロータ位置を求めるのか明細書を参照しても不明である。請求項10も同様である。」 4.拒絶の理由に対する当審の判断 (1)請求項1に「前記フィルタのカットオフ周波数は、前記フィールドプログラム可能ゲートアレイによって動的に制御され、特に、前記カットオフ周波数は、ロータ速度が変化する際、逆起電力信号の位相シフトを最小限にするように、前記フィールドプログラム可能ゲートアレイによって調節され」とあるが、「逆起電力信号の位相シフトを最小限にするように」とは、どの様な演算を行うのか明細書(【0020】等)を参照しても不明のため、ひいてはカットオフ周波数をどの様に調節するのか不明である。 即ち、「位相シフト」とは、この場合どの様な物理現象を意味するのか明細書を参照しても不明であり、「最小限にする」とはどの様な演算を行うのか明細書を参照しても不明(モータのロータ速度が変化することが前提であるから、1周期の長さが変化することとなるが、逆起電力信号はロータの位置を検出するための信号であるから、ロータ速度が変化することによってゼロ点と逆起電力信号の時間間隔は変化するので、当該変化を「位相シフト」というと仮定すると、当該変化を最小限にすればロータの正確な位置が検出できなくなる。1周期を角度で判断すると、逆起電力信号が発生する角度はゼロ点に対して一定であるから、そもそも位相シフトは起こらないものと考えられる。また、ノイズが加わった逆起電力信号から正確な位置信号を抽出することを「逆起電力信号の位相シフトを最小限にする」の意味と仮定しても、明細書には、ノイズが加わった逆起電力信号から正確な位置信号を抽出するカットオフ周波数をどの様に演算し、調節するかは何ら開示が無いため、この様に解しても不明である。)である。 請求人は、令和2年4月6日付意見書で「「位相シフトを最小限にすること」は、明細書の段落0017、0020の記載から理解することができるように、フィールドプログラム可能ゲートアレイによって制御されるフィルタのカットオフ周波数を絶えず調節することで達成されます。」と主張するが、上述のように明細書の記載は不明であり、又、機械であるモータ制御器がカットオフ周波数を調節するためには、逆起電力信号に対し何らかの演算を行い、その出力を用いて位相シフトを最小限にするようにカットオフ周波数を調節しなければならないが、上述のように当該演算について明細書には何らか開示が無いため、請求人の上記主張は採用できない。 なお、請求項10も同様である。 (2)請求項1に「ロータ位置信号が、直流リンクからの帰還電圧に対する前記逆起電力信号に基づいて推定され」とあるが、モータ制御回路において、通常直流リンクとは整流器とインバータの間を連結する直流部分のリンクを意味し、当該リンクは、通常、平滑用コンデンサが接続されているから、直流リンクの電圧は一定値であり、信号は発生していないから、「直流リンクからの帰還電圧に対する前記逆起電力信号」とは直流リンクに対するどの様な信号であるのか明細書(【0018】等)、図面を参照しても不明であり、帰還電圧と逆起電力信号からどの様な演算を行ってロータ位置を求めるのか明細書を参照しても不明である。仮に、直流電源を直流リンクとしても、直流電源とモータの間にはインバータがあり、モータで発生した逆起電力信号はインバータの逆並列ダイオードを経由して直流電源に到達するから、直流リンクでは電圧が一定値であって、しかも多相モータの各相巻線に発生した逆起電力信号がインバータを経て1つになって直流リンクに流れるため、何れの相に発生した逆起電力信号であるか特定できないこととなるから、上述のように直流リンクに対するどの様な信号であるのか明細書、図面を参照しても不明であり、帰還電圧と逆起電力信号からどの様な演算を行ってロータ位置を求めるのか明細書を参照しても不明である。 なお、請求項10も同様である。 (3)したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許請求の範囲の記載は発明が明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 5.むすび したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許請求の範囲の記載は発明が明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 そうすると、本願を拒絶すべきであるとした原査定は維持すべきである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2020-07-08 |
結審通知日 | 2020-07-14 |
審決日 | 2020-07-29 |
出願番号 | 特願2014-44743(P2014-44743) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(H02P)
P 1 8・ 537- WZ (H02P) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 上野 力 |
特許庁審判長 |
柿崎 拓 |
特許庁審判官 |
堀川 一郎 佐々木 芳枝 |
発明の名称 | モータ制御器システムおよびモータを制御するための方法 |
代理人 | 富岡 潔 |
代理人 | 小林 博通 |