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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B29C |
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管理番号 | 1369535 |
審判番号 | 不服2020-2129 |
総通号数 | 254 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-02-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-02-17 |
確定日 | 2021-01-05 |
事件の表示 | 特願2015-157114「押出機」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 2月16日出願公開、特開2017- 35801、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年8月7日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成31年 4月 9日付け:拒絶理由通知 令和 1年 6月11日 :意見書及び手続補正書の提出 令和 1年 7月12日付け:拒絶理由通知(最後) 令和 1年 9月18日 :意見書及び手続補正書の提出 令和 1年11月 7日付け:補正の却下の決定 令和 1年11月 7日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。) 令和 2年 2月17日 :審判請求書及び手続補正書の提出 第2 原査定の理由の概要 原査定の理由の概要は次のとおりである。 本願の請求項1-4に係る発明は、以下の引用文献1-5に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.実願昭60-121387号(実開昭62-30617号)のマイクロフィルム 2.特開2001-131235号公報 3.中国特許出願公開第101077614号明細書 4.特開平5-32797号公報 5.特開2010-131962号公報 第3 本願発明 本願の請求項1-3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明3」という。)は、令和2年2月17日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 シリンダ内にスクリュが挿通され、前記シリンダの基端側から供給された樹脂材料を前記シリンダ内で溶融可塑化して、前記シリンダの先端側から吐出させる押出機であって、 前記シリンダと前記スクリュは、樹脂材料が供給される基端側から先端側に向けて、フィード部と予熱部と溶融・可塑化部とに区分されており、 前記フィード部は、非加熱領域であり、前記シリンダに樹脂材料の入口が設けられると共に、該入口と重なる位置から先端側における前記シリンダの内面に前記スクリュと同方向の螺旋状の溝部を有し、 前記予熱部は、前記シリンダの外周に加熱部を備え、前記シリンダの内面に平滑面を有し、 前記予熱部内に配置される加熱部は、前記フィード部に隣接する第1加熱部と、前記フィード部からは離間した第2加熱部を備え、前記第1加熱部の加熱温度は、供給される樹脂材料の融点未満に設定され、前記第2加熱部の加熱温度は、供給される樹脂材料の融点以上であり、 前記溶融・可塑化部の加熱温度が、前記第2加熱部の加熱温度より低い温度に設定されていることを特徴とする押出機。 【請求項2】 前記フィード部は、前記シリンダの外周に冷却部を備えることを特徴とする請求項1記載の押出機。 【請求項3】 前記シリンダは、樹脂材料を供給する入口の基端側に一部又は全部が樹脂製の軸受部を設け、前記スクリュは、前記軸受部に滑動自在に支持されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の押出機。」 第4 主な引用文献の記載事項等 1.引用文献1の記載事項 引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線については、当審において付与した。 「本考案は高分子材料(以下、単に樹脂という)の単軸スクリュ式押出成形機に係り、特に、押出能力向上を目的とした樹脂喰い込み装置の新設に関する。」(明細書第2ページ第2-5行) 「以下、本考案の一実施例を第1図乃至第4図に基づき説明する。 シリンダ2の基端である入口側に固体樹脂を供給するホッパ3が設けられているとともに、シリンダ2内にスクリュ1が内挿されている。 そして、シリンダ2の基端である入口側に接近した部分の周囲4ヶ所にシリンダ2の軸方向に向かう長孔10が明けてある。この長孔10に、縦溝8を施した摩擦駒6が嵌合され、ボルトにてシリンダ2に着脱自在に固定されている。この摩擦駒6はシリンダ2内となる内側面がシリンダ2の内壁面と同一面を形成してシリンダ2内壁面となっており、この部分に前記縦溝8を形成してあるもので、この縦溝8はスクリュ1の軸と平行になっており、これにより摩擦力増大部分を形成している。また、摩擦駒6を含めたこの部分は外周から水冷却用のジャケット7が着脱自在に取付けられ、温度管理されることにより、常に樹脂との摩擦力が一定となるように工夫してある。」(明細書第6ページ第5行-第7ページ第3行) 「そして、シリンダ2内は入口側から出口側にかけて、明確な境はないがおおよそ供給部、溶融部、計量部とに区分されており、供給部において、ホッパ3からの樹脂はスクリュ1の回転により押出方向へと搬送され、この搬送中にシリンダ2からの加熱とスクリュ1を介して伝えられるモータ仕事とにより予熱され、さらに、溶融部ではスクリュ1の深溝が除々に浅くなって、予熱された樹脂はさらにシリンダ2からの加熱とスクリュ1の圧縮により溶融され、最後に、溶融された樹脂は、均一化のために混練されつつ計量部で計量されつつダイ5へと搬送され、所望形状の成形品に成形される。」(明細書第7ページ第11行-第8ページ第3行) 「第1図 」 2.引用文献1に記載された発明 引用文献1の第1図からは、シリンダ2におけるホッパ3の接続部分に、固体樹脂が入る入口が存在していることが看取できる。 この点をふまえつつ、引用文献1の記載事項、特に実施例に関する記載事項を中心に整理すると、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 「シリンダ2内にスクリュ1が内挿され、シリンダ2の基端である入口側から供給された固体樹脂をシリンダ2内で溶融して、シリンダ2の出口側のダイ5に搬送する単軸スクリュ式押出成形機であって、シリンダ2とスクリュ1は、固体樹脂が供給される入口側から出口側にかけて、供給部、溶融部とに区分されており、供給部において、シリンダ2の基端である入口側に接近した部分には外周から水冷却用ジャケット7が着脱自在に取付けられ、搬送中の樹脂がシリンダ2からの加熱により予熱され、シリンダ2に固体樹脂の入口が設けられ、シリンダ2の基端である入口側に接近した部分の周囲4ヶ所にシリンダ2の軸方向に向かう長孔10が明けてあり、この長孔10に、スクリュ1の軸と平行になっている縦溝8を施した摩擦駒6が嵌合され、この摩擦駒6のシリンダ内側面がシリンダ2の内壁面と同一面を形成してシリンダ2内壁面となっている単軸スクリュ式押出成形機。」 第5 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「シリンダ2」は、本願発明1の「シリンダ」に相当する。また、引用発明においては、「摩擦駒6のシリンダ内側面がシリンダ2の内壁面と同一面を形成してシリンダ2内壁面となって」いるものであるから、「摩擦駒6のシリンダ内側面」は、本願発明1の「シリンダ」の一部に相当するといえる。 イ 引用発明の「スクリュ1」は、本願発明1の「スクリュ」に相当し、以下同様に、「内挿」は「挿通」に、「シリンダ2の基端である入口側」は「シリンダの基端側」に、「シリンダ2の出口側」は「シリンダの先端側」に、「ダイ5に搬送」は「吐出」に、「単軸スクリュ式押出成形機」は「押出機」に、それぞれ相当する。 ウ 引用発明の「固体樹脂」、「樹脂」は、いずれも本願発明1の「樹脂材料」に相当する。 エ 引用発明は、樹脂を「溶融」することで成形可能な状態としているから、引用発明の樹脂を「溶融」することは、本願発明1の樹脂材料を「溶融・可塑化」することに相当する。 オ 引用発明の「供給部」において、「水冷却用ジャケット7」が取付けられている部分である「シリンダ2の基端である入口側に接近した部分」は、本願発明1の「フィード部」に相当する。 カ 引用発明においては、「供給部」における「搬送中の樹脂がシリンダ2からの加熱により予熱され」る部分のうち「水冷却用ジャケット7」が取付けられていない部分は、本願発明1の「予熱部」に相当するといえる。 キ 引用発明の「溶融部」は、本願発明1の「溶融・可塑化部」に相当する。 ク 引用発明の「シリンダ2の基端である入口側に接近した部分」は、「水冷却用ジャケット7」により冷却されている、すなわち加熱されていないと解される。そうすると、引用発明の「シリンダ2の基端である入口側に接近した部分」は、本願発明1の「非加熱領域」に相当するといえる。 ケ 引用発明の「シリンダ2の基端である入口側に接近した部分」は、本願発明1の「入口と重なる位置から先端側におけるシリンダの内面」に相当する。 コ 引用発明においては、「シリンダ2の基端である入口側に接近した部分の周囲4ヶ所にシリンダ2の軸方向に向かう長孔10が明けてあり、この長孔10に、スクリュ1の軸と平行になっている縦溝8を施した摩擦駒6が嵌合され」ているものであるから、引用発明の「スクリュ1の軸と平行になっている縦溝8」は、本願発明1の「スクリュと同方向の螺旋状の溝部」と、「溝部」という限りにおいて一致する。 サ 引用発明において、「供給部」において搬送中の樹脂は、「シリンダ2からの加熱により予熱され」るものであることと、引用文献1の第1図に、「シリンダ2」の外周に「符号4」の部材が記載されていることを合わせて参酌すれば、引用文献1の「符号4」の部材は、加熱するための部材であって、引用発明は「加熱部」を有するものといえる。そして、引用文献1の第1図からは、「符号4」の部材がシリンダ2の外周に備えられていることが、看取できる。 シ 引用発明の「水冷却用ジャケット7」が取付けられていない「供給部において搬送中の樹脂がシリンダ2から予熱され」る部分のシリンダ内側面は、「摩擦駒6」が存在していないことから、本願発明1のように「平滑面」となっているといえる。 してみると、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。 ・一致点 「シリンダ内にスクリュが挿通され、前記シリンダの基端側から供給された樹脂材料を前記シリンダ内で溶融可塑化して、前記シリンダの先端側から吐出させる押出機であって、 前記シリンダと前記スクリュは、樹脂材料が供給される基端側から先端側に向けて、フィード部と予熱部と溶融・可塑化部とに区分されており、 前記フィード部は、非加熱領域であり、前記シリンダに樹脂材料の入口が設けられると共に、該入口と重なる位置から先端側における前記シリンダの内面に溝部を有し、 前記予熱部は、前記シリンダの外周に加熱部を備え、前記シリンダの内面に平滑面を有している、押出機。」 ・相違点 (相違点1)溝部について、本願発明1は、「スクリュと同方向の螺旋状の溝部」と特定されるのに対し、引用発明は、「スクリュ1の軸と平行になっている縦溝」である点。 (相違点2)加熱部に関し、本願発明1は、「加熱部は、フィード部に隣接する第1加熱部と、前記フィード部からは離間した第2加熱部を備え、前記第1加熱部の加熱温度は、供給される樹脂材料の融点未満に設定され、前記第2加熱部の加熱温度は、供給される樹脂材料の融点以上」であると特定されるのに対し、引用発明は、そのような特定がない点。 (相違点3)本願発明1は、「溶融・可塑化部の加熱温度が、第2加熱部の加熱温度より低い温度に設定されている」と特定されるのに対し、引用発明は、そのような特定がない点。 (2)相違点についての判断 本件の事案に鑑み、まず、上記相違点2について検討する。 引用発明には、加熱部に「第1加熱部」、「第2加熱部」を設けることは特定されておらず、引用文献1の記載全体を通じてみても、加熱温度を異ならせた複数の加熱部を設けることについては何ら記載されていない。さらに、引用文献5には、樹脂の二軸押出機において、種々の実施例(段落【0050】-【0078】)が記載され、フィーディングゾーンの温度を段階的に上昇させていくという技術的事項については記載されているといえるものの、上記相違点2のように、予熱部の第1加熱部の加熱温度を、供給される樹脂材料の融点未満に設定し、第2加熱部の加熱温度を、供給される樹脂材料の融点以上となるように設定することを示唆するものではないし、その他の引用文献をみても、供給される樹脂材料の融点に着目し、加熱部の温度設定として相違点2に係る本願発明1の特定事項を満たすものとすることを示唆する記載もない。 したがって、引用発明及び引用文献2-5に記載された技術的事項に基いて、相違点2に係る本願発明1の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 そして、本願発明1は、相違点2に係る本願発明1の特定事項を有することで、本願明細書に記載されているように、「予熱部S2での加熱がフィード部S1に影響するのを極力抑えることができる。」(段落【0022】)、「フィード部S1での樹脂材料の温度上昇を抑えながら加熱して、樹脂材料(ペレット)を溶融するとともに内部を軟化させ、流動化と供給安定化させている。」(段落【0027】)という、格別な効果を奏するものである。 また、相違点3に係る本願発明1の特定事項、すなわち、「溶融・可塑化部の加熱温度が、第2加熱部の加熱温度より低い温度に設定されている」点については、引用文献1には記載も示唆もされてないし、また、引用文献2-5のいずれにおいても、記載も示唆もされていないから、引用発明及び引用文献2-5の記載事項に基いて、相違点3に係る本願発明1の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 そして、本願発明1は、相違点3に係る本願発明1の特定事項を有することで、本願明細書に記載されているように、「圧力を高めて円滑に樹脂材料の可塑化を進行させている。」(段落【0028】)という、格別な効果を奏するものである。 したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び引用文献2-5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2.本願発明2-3について 本願発明2ないし3はいずれも、直接または間接的に請求項1を引用する発明であり、本願発明1の特定事項を全て有するものである。 そして、上記1のとおり、本願発明1は、引用発明及び引用文献2-5の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本願発明2ないし3もまた、引用発明及び引用文献2-5の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2020-12-14 |
出願番号 | 特願2015-157114(P2015-157114) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(B29C)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | ▲高▼橋 理絵 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
岩田 健一 植前 充司 |
発明の名称 | 押出機 |
代理人 | 特許業務法人 英知国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人 英知国際特許事務所 |