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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C02F |
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管理番号 | 1369612 |
審判番号 | 不服2019-17018 |
総通号数 | 254 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-02-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-12-17 |
確定日 | 2021-01-12 |
事件の表示 | 特願2016- 58642「油脂含有排水処理システム及び油脂含有排水処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月28日出願公開、特開2017-170330、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年 3月23日を出願日とする出願であって、平成31年 3月18日付けで拒絶理由が通知され、令和 1年 5月22日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年 9月 9日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、同年12月17日付けで本件拒絶査定不服審判の請求がされるとともに手続補正書が提出され、令和 2年 3月31日付けで上申書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明5」という。)は、令和 1年12月17日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 油脂含有排水を限定的な酸素供給状態で嫌気処理する前段処理部と、 前記前段処理部での前段処理後の前記油脂含有排水を嫌気処理する嫌気処理部と、を備え、 前記前段処理部は、酸素含有ガスの供給下において、溶存酸素量が0mG/Lで酸化還元電位が0mV以下となるように制御する油脂含有排水処理システム。 【請求項2】 油脂含有排水を限定的な酸素供給状態で嫌気処理する前段処理部と、 前記前段処理部での前段処理後の前記油脂含有排水を嫌気処理する嫌気処理部と、 前記嫌気処理部から前記前段処理部に対して、汚泥及び処理水の一部を返送する返送部と、を備え、 前記前段処理部は、酸素含有ガスの供給下において、溶存酸素量が0mG/Lで酸化還元電位が0mV以下である油脂含有排水処理システム。 【請求項3】 前記前段処理部と前記嫌気処理部とは独立している、又は、 前記嫌気処理部は、酸生成槽と、前記酸生成槽の後段に設けられたメタン発酵槽と、を含む請求項1又は2に記載の油脂含有排水処理システム。 【請求項4】 油脂含有排水を限定的な酸素供給状態で嫌気処理する前段処理工程と、 前記前段処理工程後の前記油脂含有排水を嫌気処理する嫌気処理工程と、を有し、 前記前段処理工程は、酸素含有ガスの供給下において、溶存酸素量が0mG/Lで酸化還元電位が0mV以下となるように制御された状態で行われる油脂含有排水処理方法。 【請求項5】 油脂含有排水を限定的な酸素供給状態で嫌気処理する前段処理工程と、 前記前段処理工程での前段処理後の前記油脂含有排水を嫌気処理する嫌気処理工程と、 前記嫌気処理工程から前記前段処理工程に対して、汚泥及び処理水の一部を返送する返送工程と、を有し、 前記前段処理工程は、酸素含有ガスの供給下において、溶存酸素量が0mG/Lで酸化還元電位が0mV以下の状態で行われる油脂含有排水処理方法。」 第3 原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由の概要は、令和 1年 5月22日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3、5に係る発明は、引用文献1?3のいずれかに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、同請求項4に係る発明は、引用文献1?3のいずれかに記載された発明及び引用文献4に記載される事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:特開2015-208693号公報 引用文献2:特開2015-131271号公報 引用文献3:特開2014-180629号公報 引用文献4:特開2015-54264号公報 第4 原査定についての当審の判断 1 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明 (1)引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明 ア 引用文献1には、以下(1a)?(1c)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「…」は記載の省略を表す)。 (1a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 油脂含有排水にマイクロバブルを供給して好気性処理を施す好気性処理工程を備える油脂含有排水の処理方法。 【請求項2】 さらに、前記油脂含有排水に嫌気性処理を施して嫌気性処理水を排出する嫌気性処理工程を備え、 前記好気性処理工程が、前記嫌気性処理水に前記マイクロバブルを供給して好気性処理を施す工程である、請求項1に記載の油脂含有排水の処理方法。 … 【請求項4】 油脂含有排水にマイクロバブルを供給して好気性処理を施す好気性処理手段を有する油脂含有排水の処理装置。 【請求項5】 さらに、前記油脂含有排水に嫌気性処理を施して嫌気性処理水を排出する嫌気性処理手段を有し、 前記好気性処理手段が、前記嫌気性処理水に前記マイクロバブルを供給して好気性処理を施す手段である、請求項4に記載の油脂含有排水の処理装置。」 (1b)「【0052】 嫌気性処理について説明する。 … したがって、本発明における嫌気性処理は、従来公知の嫌気性処理であってよく、嫌気消化であってもよい。 【0053】 従来公知の嫌気性処理(嫌気性生物処理)とは、酸素のない嫌気性環境下で生育する嫌気性菌の代謝作用によって、有機物をメタンガスや炭酸ガスに分解する生物処理方法を意味する。… 【0054】 また、酸素のない嫌気性環境下または酸素が微量である微好気性環境下において、嫌気性菌、通性嫌気性菌、微好気性菌および好気性菌からなる群から選ばれる少なくとも1つを、油脂含有排水に含まれる油脂分に作用させることで、主として、これらの菌が生産するバイオサーファクタント等の代謝産物によって油脂分の乳化を促進および/または、リパーゼなどの酵素によって一部分解させる処理であって、原則として、絶対嫌気性菌であるメタン生成菌による分解に伴うガス(メタンガス、炭酸ガス等)の発生を伴わない処理であってもよい。 このような処理を、以下では「準嫌気性処理」ともいう。 【0055】 準嫌気性処理は、このような従来の嫌気性処理における第3段階に相当する分解反応(メタンガス生成反応)を原則として含まないため、メタンガスは発生しない。…準嫌気性処理は、従来の嫌気消化を含まない。」 (1c)「【0070】 微好気性菌および/または好気性菌を油脂含有排水へ作用させて準嫌気性処理を行う場合、例えば従来公知の曝気処理とは異なる、制限された酸素供給を油脂含有排水に対して行うことが好ましい。このとき、油脂含有排水の酸化還元電位が+50mV以下、より好ましくは-50mV以下、さらに好ましくは-50?-250mVとなるように調整して準嫌気性処理を施すことが好ましい。 … 【0074】 嫌気性処理手段は、2段階以上の嫌気性処理を施すものであることが好ましい。 ここで2段階の嫌気性処理とは、嫌気性処理を2回施すことを意味する。…」 イ 前記ア(1a)によれば、引用文献1には「油脂含有排水の処理装置」が記載されており、当該「油脂含有排水の処理装置」は、油脂含有排水にマイクロバブルを供給して好気性処理を施す好気性処理手段を有し、さらに、前記油脂含有排水に嫌気性処理を施して嫌気性処理水を排出する嫌気性処理手段を有し、前記好気性処理手段が、前記嫌気性処理水に前記マイクロバブルを供給して好気性処理を施す手段であるものである。 また、引用文献1には「油脂含有排水の処理方法」が記載されており、当該「油脂含有排水の処理方法」は、油脂含有排水にマイクロバブルを供給して好気性処理を施す好気性処理工程を備え、さらに、前記油脂含有排水に嫌気性処理を施して嫌気性処理水を排出する嫌気性処理工程を備え、前記好気性処理工程が、前記嫌気性処理水に前記マイクロバブルを供給して好気性処理を施す工程であるものである。 そして、前記ア(1b)、(1c)によれば、前記嫌気性処理は、従来公知の嫌気性処理であってよく、嫌気消化であってもよいものであり、従来公知の嫌気性処理(嫌気性生物処理)とは、酸素のない嫌気性環境下で生育する嫌気性菌の代謝作用によって、有機物をメタンガスや炭酸ガスに分解する生物処理方法を意味するものである。 また、前記嫌気性処理は、酸素のない嫌気性環境下または酸素が微量である微好気性環境下において、嫌気性菌、通性嫌気性菌、微好気性菌および好気性菌からなる群から選ばれる少なくとも1つを、油脂含有排水に含まれる油脂分に作用させることで、主として、これらの菌が生産するバイオサーファクタント等の代謝産物によって油脂分の乳化を促進および/または、リパーゼなどの酵素によって一部分解させる処理であって、原則として、絶対嫌気性菌であるメタン生成菌による分解に伴うガスの発生を伴わない処理、すなわち「準嫌気性処理」であってもよいものであり、「準嫌気性処理」は、メタンガスが発生せず、従来の嫌気消化を含まないものであり、「準嫌気性処理」を行う場合、従来公知の曝気処理とは異なる、制限された酸素供給を油脂含有排水に対して行うことが好ましいものであり、このとき、油脂含有排水の酸化還元電位が+50mV以下、より好ましくは-50mV以下、さらに好ましくは-50?-250mVとなるように調整して準嫌気性処理を施すことが好ましいものである。 更に、嫌気性処理手段は、2段階以上の嫌気性処理を施すものであることが好ましいものであり、ここで2段階の嫌気性処理とは、嫌気性処理を2回施すことを意味するものである。 ウ 前記イによれば、引用文献1には以下の発明が記載されているといえる。 (ア)「油脂含有排水にマイクロバブルを供給して好気性処理を施す好気性処理手段を有し、さらに、前記油脂含有排水に嫌気性処理を施して嫌気性処理水を排出する嫌気性処理手段を有し、前記好気性処理手段が、前記嫌気性処理水に前記マイクロバブルを供給して好気性処理を施す手段である、油脂含有排水の処理装置であって、 前記嫌気性処理は、従来公知の嫌気性処理であってよく、嫌気消化であってもよいものであり、従来公知の嫌気性処理(嫌気性生物処理)とは、酸素のない嫌気性環境下で生育する嫌気性菌の代謝作用によって、有機物をメタンガスや炭酸ガスに分解する生物処理方法を意味するものであり、 前記嫌気性処理は、酸素のない嫌気性環境下または酸素が微量である微好気性環境下において、嫌気性菌、通性嫌気性菌、微好気性菌および好気性菌からなる群から選ばれる少なくとも1つを、油脂含有排水に含まれる油脂分に作用させることで、主として、これらの菌が生産するバイオサーファクタント等の代謝産物によって油脂分の乳化を促進および/または、リパーゼなどの酵素によって一部分解させる処理であって、原則として、絶対嫌気性菌であるメタン生成菌による分解に伴うガス(メタンガス、炭酸ガス等)の発生を伴わない処理、すなわち準嫌気性処理であってもよいものであり、 準嫌気性処理は、メタンガスが発生せず、従来の嫌気消化を含まないものであり、準嫌気性処理を行う場合、従来公知の曝気処理とは異なる、制限された酸素供給を油脂含有排水に対して行うことが好ましいものであり、このとき、油脂含有排水の酸化還元電位が+50mV以下、より好ましくは-50mV以下、さらに好ましくは-50?-250mVとなるように調整して準嫌気性処理を施すことが好ましいものであり、 嫌気性処理手段は、2段階以上の嫌気性処理を施すものであることが好ましいものであり、ここで2段階の嫌気性処理とは、嫌気性処理を2回施すことを意味する、油脂含有排水の処理装置。」(以下、「引用1発明」という。) (イ)「油脂含有排水にマイクロバブルを供給して好気性処理を施す好気性処理工程を備え、さらに、前記油脂含有排水に嫌気性処理を施して嫌気性処理水を排出する嫌気性処理工程を備え、前記好気性処理工程が、前記嫌気性処理水に前記マイクロバブルを供給して好気性処理を施す工程である、油脂含有排水の処理方法であって、 前記嫌気性処理は、従来公知の嫌気性処理であってよく、嫌気消化であってもよいものであり、従来公知の嫌気性処理(嫌気性生物処理)とは、酸素のない嫌気性環境下で生育する嫌気性菌の代謝作用によって、有機物をメタンガスや炭酸ガスに分解する生物処理方法を意味するものであり、 前記嫌気性処理は、酸素のない嫌気性環境下または酸素が微量である微好気性環境下において、嫌気性菌、通性嫌気性菌、微好気性菌および好気性菌からなる群から選ばれる少なくとも1つを、油脂含有排水に含まれる油脂分に作用させることで、主として、これらの菌が生産するバイオサーファクタント等の代謝産物によって油脂分の乳化を促進および/または、リパーゼなどの酵素によって一部分解させる処理であって、原則として、絶対嫌気性菌であるメタン生成菌による分解に伴うガス(メタンガス、炭酸ガス等)の発生を伴わない処理、すなわち準嫌気性処理であってもよいものであり、 準嫌気性処理は、メタンガスが発生せず、従来の嫌気消化を含まないものであり、準嫌気性処理を行う場合、従来公知の曝気処理とは異なる、制限された酸素供給を油脂含有排水に対して行うことが好ましいものであり、このとき、油脂含有排水の酸化還元電位が+50mV以下、より好ましくは-50mV以下、さらに好ましくは-50?-250mVとなるように調整して準嫌気性処理を施すことが好ましいものであり、 嫌気性処理手段は、2段階以上の嫌気性処理を施すものであることが好ましいものであり、ここで2段階の嫌気性処理とは、嫌気性処理を2回施すことを意味する、油脂含有排水の処理方法。」(以下、「引用1’発明」という。) (2)引用文献2の記載事項及び引用文献2に記載された発明 ア 引用文献2には、以下(2a)?(2c)の記載がある。 (2a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 油脂含有排水に嫌気性処理を施して嫌気性処理水を排出する嫌気性処理工程と、 前記嫌気性処理水に好気性処理を施す好気性処理工程と、 前記好気性処理工程において発生した汚泥を、前記油脂含有排水へ供給する汚泥返送工程と、を備える油脂含有排水の処理方法。 … 【請求項6】 油脂含有排水に嫌気性処理を施して嫌気性処理水を排出する嫌気性処理手段と、 前記嫌気性処理水に好気性処理を施す好気性処理手段と、 前記好気性処理手段において発生した汚泥を、前記油脂含有排水へ供給する汚泥返送手段と、を有する油脂含有排水の処理装置。」 (2b)「【0017】 嫌気性処理について説明する。 … したがって、本発明における嫌気性処理は、従来公知の嫌気性処理であってよく、嫌気消化であってもよい。 従来公知の嫌気性処理(嫌気性生物処理)とは、酸素のない嫌気性環境下で生育する嫌気性菌の代謝作用によって、有機物をメタンガスや炭酸ガスに分解する生物処理方法を意味する。… 【0018】 また、酸素のない嫌気性環境下または酸素が微量である微好気性環境下において、嫌気性菌、通性嫌気性菌、微好気性菌および好気性菌からなる群から選ばれる少なくとも1つを、油脂含有排水に含まれる油脂分に作用させることで、主として、これらの菌が生産するバイオサーファクタント等の代謝産物によって油脂分の乳化を促進および/または、リパーゼなどの酵素によって一部分解させる処理であって、原則として、絶対嫌気性菌であるメタン生成菌による分解に伴うガス(メタンガス、炭酸ガス等)の発生を伴わない処理であってもよい。 このような処理を、以下では「準嫌気性処理」ともいう。 【0019】 準嫌気性処理は、このような従来の嫌気性処理における第3段階に相当する分解反応(メタンガス生成反応)を原則として含まないため、メタンガスは発生しない。… 準嫌気性処理は、従来の嫌気消化(例えば特許文献2に記載の嫌気消化)を含まない。」 (2c)「【0034】 微好気性菌および/または好気性菌を油脂含有排水2へ作用させて準嫌気性処理を行う場合、例えば従来公知の曝気処理とは異なる、制限された酸素供給を油脂含有排水2(嫌気性処理手段3において反応槽を用いる場合、その槽内容物)に対して行うことが好ましい。このとき、油脂含有排水2(嫌気性処理手段3において反応槽を用いる場合、その槽内容物)の酸化還元電位が+50mV以下、より好ましくは-50mV以下、さらに好ましくは-50?-250mVとなるように調整して準嫌気性処理を施すことが好ましい。 … 【0038】 嫌気性処理手段3は、2段階以上の嫌気性処理を施すものであることが好ましい。 ここで2段階の嫌気性処理とは、嫌気性処理を2回施すことを意味する。…」 イ 前記ア(2a)によれば、引用文献2には「油脂含有排水の処理装置」が記載されており、当該「油脂含有排水の処理装置」は、油脂含有排水に嫌気性処理を施して嫌気性処理水を排出する嫌気性処理手段と、前記嫌気性処理水に好気性処理を施す好気性処理手段と、前記好気性処理手段において発生した汚泥を、前記油脂含有排水へ供給する汚泥返送手段と、を有するものである。 また、引用文献2には「油脂含有排水の処理方法」が記載されており、当該「油脂含有排水の処理方法」は、油脂含有排水に嫌気性処理を施して嫌気性処理水を排出する嫌気性処理工程と、前記嫌気性処理水に好気性処理を施す好気性処理工程と、前記好気性処理工程において発生した汚泥を、前記油脂含有排水へ供給する汚泥返送工程と、を備えるものである。 そして、前記ア(2b)、(2c)によれば、前記嫌気性処理及び嫌気性処理手段は、前記(1)イに記載されたのと同様のものである。 ウ 前記イによれば、引用文献2には以下の発明が記載されているといえる。 (ア)「油脂含有排水に嫌気性処理を施して嫌気性処理水を排出する嫌気性処理手段と、前記嫌気性処理水に好気性処理を施す好気性処理手段と、前記好気性処理手段において発生した汚泥を、前記油脂含有排水へ供給する汚泥返送手段と、を有する、油脂含有排水の処理装置であって、 前記嫌気性処理は、従来公知の嫌気性処理であってよく、嫌気消化であってもよいものであり、従来公知の嫌気性処理(嫌気性生物処理)とは、酸素のない嫌気性環境下で生育する嫌気性菌の代謝作用によって、有機物をメタンガスや炭酸ガスに分解する生物処理方法を意味するものであり、 前記嫌気性処理は、酸素のない嫌気性環境下または酸素が微量である微好気性環境下において、嫌気性菌、通性嫌気性菌、微好気性菌および好気性菌からなる群から選ばれる少なくとも1つを、油脂含有排水に含まれる油脂分に作用させることで、主として、これらの菌が生産するバイオサーファクタント等の代謝産物によって油脂分の乳化を促進および/または、リパーゼなどの酵素によって一部分解させる処理であって、原則として、絶対嫌気性菌であるメタン生成菌による分解に伴うガス(メタンガス、炭酸ガス等)の発生を伴わない処理、すなわち準嫌気性処理であってもよいものであり、 準嫌気性処理は、メタンガスが発生せず、従来の嫌気消化を含まないものであり、準嫌気性処理を行う場合、従来公知の曝気処理とは異なる、制限された酸素供給を油脂含有排水に対して行うことが好ましいものであり、このとき、油脂含有排水の酸化還元電位が+50mV以下、より好ましくは-50mV以下、さらに好ましくは-50?-250mVとなるように調整して準嫌気性処理を施すことが好ましいものであり、 嫌気性処理手段は、2段階以上の嫌気性処理を施すものであることが好ましいものであり、ここで2段階の嫌気性処理とは、嫌気性処理を2回施すことを意味する、油脂含有排水の処理装置。」(以下、「引用2発明」という。) (イ)「油脂含有排水に嫌気性処理を施して嫌気性処理水を排出する嫌気性処理工程と、前記嫌気性処理水に好気性処理を施す好気性処理工程と、前記好気性処理工程において発生した汚泥を、前記油脂含有排水へ供給する汚泥返送工程と、を備える、油脂含有排水の処理方法であって、 前記嫌気性処理は、従来公知の嫌気性処理であってよく、嫌気消化であってもよいものであり、従来公知の嫌気性処理(嫌気性生物処理)とは、酸素のない嫌気性環境下で生育する嫌気性菌の代謝作用によって、有機物をメタンガスや炭酸ガスに分解する生物処理方法を意味するものであり、 前記嫌気性処理は、酸素のない嫌気性環境下または酸素が微量である微好気性環境下において、嫌気性菌、通性嫌気性菌、微好気性菌および好気性菌からなる群から選ばれる少なくとも1つを、油脂含有排水に含まれる油脂分に作用させることで、主として、これらの菌が生産するバイオサーファクタント等の代謝産物によって油脂分の乳化を促進および/または、リパーゼなどの酵素によって一部分解させる処理であって、原則として、絶対嫌気性菌であるメタン生成菌による分解に伴うガス(メタンガス、炭酸ガス等)の発生を伴わない処理、すなわち準嫌気性処理であってもよいものであり、 準嫌気性処理は、メタンガスが発生せず、従来の嫌気消化を含まないものであり、準嫌気性処理を行う場合、従来公知の曝気処理とは異なる、制限された酸素供給を油脂含有排水に対して行うことが好ましいものであり、このとき、油脂含有排水の酸化還元電位が+50mV以下、より好ましくは-50mV以下、さらに好ましくは-50?-250mVとなるように調整して準嫌気性処理を施すことが好ましいものであり、 嫌気性処理手段は、2段階以上の嫌気性処理を施すものであることが好ましいものであり、ここで2段階の嫌気性処理とは、嫌気性処理を2回施すことを意味する、油脂含有排水の処理方法。」(以下、「引用2’発明」という。) (3)引用文献3の記載事項及び引用文献3に記載された発明 ア 引用文献3には、以下(3a)?(3e)の記載がある。 (3a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 有機性廃水を微嫌気性条件下で生物学的に分解する前処理工程と、 前記前処理工程で得られた処理水を、好気性生物処理を含む生物処理に付して、生物学的に分解する生物処理工程を有することを特徴とする水処理方法。 … 【請求項7】 有機性廃水が微嫌気性条件下に保持された前処理槽と、 少なくとも好気槽を有する生物反応槽と、 前記前処理槽からの流出水を前記生物反応槽に移送する流路を有することを特徴とする水処理システム。」 (3b)「【0020】 前処理工程では、有機性廃水を微嫌気性条件下で生物学的に分解する。前処理工程では、有機性廃水は前処理槽に導入することが好ましく、前処理槽において有機性廃水に含まれる有機物を微嫌気性条件下で生物学的に分解する。… 【0021】 本発明において、微嫌気性とは、好気性微生物の活性が抑えられて、嫌気性微生物の活性が高められた状態であって、しかしメタン生成菌などの偏性嫌気性微生物の活性は抑えられた状態を意味する。…一方、嫌気性微生物の働きによって有機性廃水中の有機物が嫌気的に分解されるが、メタン生成菌の活性が抑えられているため、有機物がメタンにまで分解されることも抑えられる。…」 (3c)「【0049】 図4には、本発明の水処理システムの第4実施態様を示した。… 【0050】 図4に示した水処理システムは、生物反応槽17が嫌気槽(無酸素槽)17bと好気槽17aとで構成されている。前処理槽11からの流出水2は、生物反応槽17の嫌気槽(無酸素槽)17bにまず導入され、その後好気槽17aに導入され、好気槽17aの槽内水4は硝化循環液6として嫌気槽(無酸素槽)17bに返送されている。このように前処理槽11からの流出水2を処理することにより、流出水2中の窒素を生物学的に除去することができる。…」 (3d)「【実施例】 【0053】 以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。 【0054】 図4に示した処理システムを用いて、有機性廃水の処理を行った。有機性廃水としては切削油排水を用い、前処理槽で有機性廃水を微嫌気性条件下に保持し、その後、生物反応槽にて硝化脱窒循環法で生物処理を行い、生物反応槽の好気槽の槽内水を膜分離処理することにより最終的な処理水を得た(処理系)。なお前処理槽では、槽内の有機性廃水の酸化還元電位を測定し、空気供給量を調整しながら曝気することにより、有機性廃水の酸化還元電位を-250mV?-150mVの範囲に保持した。処理は連続して22日間行った。…」 (3e)「【図4】 」 イ 前記ア(3a)によれば、引用文献3には「水処理システム」が記載されており、当該「水処理システム」は、有機性廃水が微嫌気性条件下に保持された前処理槽と、少なくとも好気槽を有する生物反応槽と、前記前処理槽からの流出水を前記生物反応槽に移送する流路を有するものである。 また、引用文献3には「水処理方法」が記載されており、当該「水処理方法」は、有機性廃水を微嫌気性条件下で生物学的に分解する前処理工程と、前記前処理工程で得られた処理水を、好気性生物処理を含む生物処理に付して、生物学的に分解する生物処理工程を有するものである。 具体的には、前記ア(3c)?(3e)によれば、前記「水処理システム」及び「水処理方法」は、生物反応槽が嫌気槽(無酸素槽)と好気槽とで構成されており、前処理槽からの流出水は、生物反応槽の嫌気槽(無酸素槽)にまず導入され、その後好気槽に導入され、好気槽の槽内水が硝化循環液として嫌気槽(無酸素槽)に返送されており、このように前処理槽からの流出水を処理することにより、流出水中の窒素を生物学的に除去することができるものであり、有機性廃水が切削油排水であり、前処理槽で有機性廃水を微嫌気性条件下に保持し、その後、生物反応槽にて硝化脱窒循環法で生物処理を行い、生物反応槽の好気槽の槽内水を膜分離処理することにより最終的な処理水を得るものであり、前処理槽では、槽内の有機性廃水の酸化還元電位を測定し、空気供給量を調整しながら曝気することにより、有機性廃水の酸化還元電位を-250mV?-150mVの範囲に保持するものである。 ウ 前記イによれば、引用文献3には以下の発明が記載されているといえる。 (ア)「有機性廃水が微嫌気性条件下に保持された前処理槽と、少なくとも好気槽を有する生物反応槽と、前記前処理槽からの流出水を前記生物反応槽に移送する流路を有する水処理システムであって、 前記水処理システムは、生物反応槽が嫌気槽(無酸素槽)と好気槽とで構成されており、前処理槽からの流出水は、生物反応槽の嫌気槽(無酸素槽)にまず導入され、その後好気槽に導入され、好気槽の槽内水が硝化循環液として嫌気槽(無酸素槽)に返送されており、このように前処理槽からの流出水を処理することにより、流出水中の窒素を生物学的に除去することができるものであり、 有機性廃水が切削油排水であり、前処理槽で有機性廃水を微嫌気性条件下に保持し、その後、生物反応槽にて硝化脱窒循環法で生物処理を行い、生物反応槽の好気槽の槽内水を膜分離処理することにより最終的な処理水を得るものであり、前処理槽では、槽内の有機性廃水の酸化還元電位を測定し、空気供給量を調整しながら曝気することにより、有機性廃水の酸化還元電位を-250mV?-150mVの範囲に保持する、水処理システム。」(以下、「引用3発明」という。) (イ)「有機性廃水を微嫌気性条件下で生物学的に分解する前処理工程と、前記前処理工程で得られた処理水を、好気性生物処理を含む生物処理に付して、生物学的に分解する生物処理工程を有し、前記前処理工程において、有機性廃水を曝気して酸化還元電位を-350mV以上0mV以下に保持するものであり、有機性廃水の酸化還元電位を測定し、測定値に基づいて有機性廃水の曝気量を調節することにより、有機性廃水を微嫌気性条件下に保持するものである、水処理方法であって、 前記水処理方法は、生物反応槽が嫌気槽(無酸素槽)と好気槽とで構成されており、前処理槽からの流出水は、生物反応槽の嫌気槽(無酸素槽)にまず導入され、その後好気槽に導入され、好気槽の槽内水が硝化循環液として嫌気槽(無酸素槽)に返送されており、このように前処理槽からの流出水を処理することにより、流出水中の窒素を生物学的に除去することができるものであり、 有機性廃水が切削油排水であり、前処理槽で有機性廃水を微嫌気性条件下に保持し、その後、生物反応槽にて硝化脱窒循環法で生物処理を行い、生物反応槽の好気槽の槽内水を膜分離処理することにより最終的な処理水を得るものであり、前処理槽では、槽内の有機性廃水の酸化還元電位を測定し、空気供給量を調整しながら曝気することにより、有機性廃水の酸化還元電位を-250mV?-150mVの範囲に保持する、水処理方法。」(以下、「引用3’発明」という。) 2 対比・判断 (1)本願発明1について ア 対比 本願発明1と引用1発明、引用2発明のいずれかとを対比すると、本願発明1の「前段処理部は、酸素含有ガスの供給下において、溶存酸素量が0mG/Lで酸化還元電位が0mV以下となるように制御する」との発明特定事項に関して、引用1発明及び引用2発明において「準嫌気性処理を行う場合、従来公知の曝気処理とは異なる、制限された酸素供給を油脂含有排水に対して行うことが好ましいものであって、このとき、油脂含有排水の酸化還元電位が+50mV以下、より好ましくは-50mV以下、さらに好ましくは-50?-250mVとなるように調整して準嫌気性処理を施すことが好ましい」ことは、本願発明1における前記「前段処理部」で、「酸素含有ガスの供給下において」、「酸化還元電位が0mV以下となるように制御する」ことに相当する。 また、本願発明1と引用3発明とを対比すると、引用3発明の「前処理槽で有機性廃水を微嫌気性条件下に保持し、その後、生物反応槽にて硝化脱窒循環法で生物処理を行い、生物反応槽の好気槽の槽内水を膜分離処理することにより最終的な処理水を得るものであり、前処理槽では、槽内の有機性廃水の酸化還元電位を測定し、空気供給量を調整しながら曝気することにより、有機性廃水の酸化還元電位を-250mV?-150mVの範囲に保持する」ことは、本願発明1における前記「前段処理部」で、「酸素含有ガスの供給下において」、「酸化還元電位が0mV以下となるように制御する」ことに相当する。 ところが、引用1発明?引用3発明は、「準嫌気性処理」及び「前処理槽」での処理における「溶存酸素量」を特定するものではないから、本願発明1と引用1発明?引用3発明の各発明との間には、少なくとも以下の相違点が存在するものといわざるを得ない。 相違点:本願発明1は、「前段処理部」において、「溶存酸素量が0mG/L」「となるように制御する」、との発明特定事項を有するのに対して、引用1発明?引用3発明は、いずれも前記発明特定事項を有しない点。 イ 相違点の検討 (ア)以下、前記相違点について検討すると、前記1(1)ウ、同(2)ウによれば、引用1発明及び引用2発明における「準嫌気性処理」は、いずれも、メタンガスが発生しないものであり、従来の嫌気消化を含まないものである。 また、前記1(3)ア(3b)によれば、引用3発明における「前処理槽」による処理は、好気性微生物の活性が抑えられて、嫌気性微生物の活性が高められた状態であって、しかしメタン生成菌などの偏性嫌気性微生物の活性は抑えられた状態であるものであり、嫌気性微生物の働きによって有機性廃水中の有機物が嫌気的に分解されるが、メタン生成菌の活性が抑えられているため、有機物がメタンにまで分解されることも抑えられるものである。 (イ)前記(ア)によれば、引用1発明及び引用2発明における「準嫌気性処理」も、引用3発明における「前処理槽」での処理も、偏性嫌気性微生物であるメタン生成菌によるメタンガスの発生を抑制するものといえるが、技術常識からみれば、偏性嫌気性微生物であるメタン生成菌は、「溶存酸素量」が増加することで活性が抑えられるものと解されるから、前記メタン生成菌によるメタンガスの発生を抑制するものである前記「準嫌気性処理」または「前処理槽」での処理において、「溶存酸素量」を「0mG/L」とする動機付けは存在しないというべきである。 すると、引用1発明?引用3発明のいずれにおいても、「前段処理部」において、「溶存酸素量が0mG/L」「となるように制御する」、との前記相違点に係る本願発明1の発明特定事項を有するものとすることを、当業者が容易になし得る事項ということはできない。 したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本願発明1を、引用1発明?引用3発明のいずれかに基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (2)本願発明2について 本願発明2と引用1発明?引用3発明の各発明とを対比すると、両者の間には少なくとも、前記(1)アにおいて認定したのと同様の相違点が存するものといえる。 そして、当該相違点に係る事項が容易想到の事項とはいえないことは、前記(1)イ(イ)のとおりである。 したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本願発明2を、引用1発明?引用3発明のいずれかに基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (3)本願発明3について 本願発明3は、本願発明1または2の発明特定事項を具備するものであるから、引用1発明?引用3発明のいずれかに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (3)本願発明4、5について 前記(1)アと同様にして、本願発明4と引用1’発明?引用3’発明の各発明とを対比すると、いずれの場合であっても、少なくとも前記相違点と同様の相違点が認められ、この相違点が容易想到の事項ではないことは前記のとおりである。 また、この容易想到性の判断は、引用文献4の記載事項に左右されるものでもない。 更に、本願発明5についてみても同様である。 そうすると、本願発明4及び5を、引用1’発明?引用3’発明のいずれかに基づいて、または、引用1’発明?引用3’発明のいずれか及び引用文献4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 3 小括 以上の検討のとおり、本願発明1?5は、引用文献1?3に記載された発明に基づいて、または、引用文献1?3に記載された発明及び引用文献4に記載される事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないということはできないので、前記第3の原査定の拒絶の理由はいずれも理由がない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、原査定の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2020-12-22 |
出願番号 | 特願2016-58642(P2016-58642) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(C02F)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 富永 正史 |
特許庁審判長 |
日比野 隆治 |
特許庁審判官 |
岡田 隆介 金 公彦 |
発明の名称 | 油脂含有排水処理システム及び油脂含有排水処理方法 |
代理人 | 特許業務法人雄渾 |