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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1369663
審判番号 不服2020-5798  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-28 
確定日 2021-01-21 
事件の表示 特願2018-519230「回転テーブル用ウェーハ加熱保持機構及び方法並びにウェーハ回転保持装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月30日国際公開,WO2017/204083,請求項の数(5)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2017年(平成29年)5月18日(優先権主張 平成28年5月26日)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

令和 1年 7月 2日付け:拒絶理由通知書(起案日)
令和 1年 9月 2日 :意見書,手続補正書の提出
令和 2年 1月30日付け:拒絶査定(起案日)(以下「原査定」という。)
令和 2年 4月28日 :審判請求書,手続補正書の提出(以下この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
1.(進歩性)本願請求項1-5に係る発明は,以下の引用文献1ないし8に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2009-135201号公報
2.特開平6-232047号公報
3.特開2010-87197号公報
4.特開2014-96612号公報
5.特開2002-184750号公報
6.特開2004-72000号公報
7.特開2014-90168号公報
8.特開平11-121384号公報

第3 本件補正について
本件補正は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
本件補正における,請求項1において「前記回転テーブル側2次コイルに接続された負荷」を「前記回転テーブル側2次コイルに接続された前記加熱手段」とする補正は,「回転テーブル側2次コイル」に接続された負荷を「前記加熱手段」と限定するものであり,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また,「回転テーブル側2次コイル」に接続される部材が「加熱手段」であることは,当初明細書等の段落【0022】や図4に記載されているから,新規事項を追加するものではない。
また,本件補正における,請求項1において「前記加熱手段上に樹脂シートが設けられてなる」との記載を追加する補正は,加熱手段に関する構成を追加するものであり,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。そして,「樹脂シート」については,当初明細書等の段落【0016】及び図1に記載されているから,新規事項を追加するものではない。
そして,「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように,補正後の請求項1-5に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1-5に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明5」という。)は,令和2年4月28日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
ウェーハ回転保持装置の回転テーブル用ウェーハ加熱保持機構であって,
回転軸と,
前記回転軸の先端に載置され且つ上面に支持ピンを介してウェーハを保持する回転テーブルと,
前記回転軸に動力を供給する駆動モータと,
前記回転テーブル上又は内部であり且つ前記ウェーハの下部に前記ウェーハに空間を有する非接触状態で設けられた前記ウェーハを加熱するための加熱手段と,
を有し,
前記回転軸の周囲に巻回された固定側1次コイルと,
前記固定側1次コイルに接続された電力供給源と,
前記固定側1次コイルに対応して所定距離離間して設けられ,且つ前記回転テーブルに取り付けられた回転テーブル側2次コイルと,
前記回転テーブル側2次コイルに接続された前記加熱手段と,
を含む回転テーブル用非接触電力供給機構を用い,電磁誘導により前記2次コイルを介して前記加熱手段に電力が供給されてなり,
前記加熱手段上に樹脂シートが設けられてなる,
回転テーブル用ウェーハ加熱保持機構。
【請求項2】
前記回転テーブルと前記加熱手段の間に反射板を設けてなる,請求項1記載の回転テーブル用ウェーハ加熱保持機構。
【請求項3】
請求項1又は2記載の回転テーブル用ウェーハ加熱保持機構を用いて,前記ウェーハを加熱してなる,回転テーブル用ウェーハ加熱方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の回転テーブル用ウェーハ加熱保持機構を備えてなる,ウェーハ回転保持装置。
【請求項5】
前記ウェーハ回転保持装置が,スピン処理機構を備える,請求項4記載のウェーハ回転保持装置。」

第5 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同じ。)
「【技術分野】
【0001】
本発明は,半導体ウェーハの上面に,加熱しながらプロセスガスを供給して成膜を行なう半導体製造装置および半導体製造方法に関する。」

「【0003】
高品質化を維持しながら生産性を向上する方法として,テーブルに載置されたウェーハを高速で回転しながら加熱してエピタキシャル成長を行う枚葉式の半導体製造装置が知られている(例えば特許文献1など参照)。」

「【0016】
反応室11下部には,モータ(図示せず),回転軸(図示せず)などから構成されたウェーハwを回転させるための回転駆動機構16と,回転駆動機構16上でウェーハwを載置するための下部支持部材17が設置されている。尚,ここでは下部支持部材17をサセプタとしているが,開口部を有するホルダーであってもよい。下部支持部材17の上方には,例えばリング状の上部支持部材18が設けられ,昇降駆動機構19によって鉛直方向に昇降し,ウェーハwの支持と開放が行われる。上部支持部材18は,ウェーハwの外周縁部を全周に亘ってウェーハwの上面側より支持する。」

「【0020】
また,下部支持部材17の下方には,ウェーハwを加熱するためのインヒータ20aが設置され,下部支持部材17とインヒータ20aの間に,ウェーハwの周縁部を加熱するためのアウトヒータ20bが設置されている。インヒータ20aの下部には,ウェーハwを効率的に加熱するための円盤状のリフレクター21が設置されている。」

「【図1】



(2)上記(1)から,上記引用文献1には次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア テーブルに載置されたウェーハを高速で回転しながら加熱してエピタキシャル成長を行う枚葉式の半導体製造装置であって,回転駆動機構16と,ウェーハwを載置するための下部支持部材17を有し,下部支持部材17の下方には,ウェーハwを加熱するためのインヒータ20a及びアウトヒータ20bが設置されており,インヒータ20aの下部には,ウェーハwを効率的に加熱するための円盤状のリフレクター21が設置されている,半導体製造装置。

2 引用文献2について
(1)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ワークが載置されると共にこのワークに対する電気的負荷が組み込まれたテーブルと,このテーブルに対して同軸一体に突設された回転軸と,この回転軸とハウジングとの間に介装されて当該回転軸を前記ハウジングに対して非接触状態で回転自在に支持する磁気軸受と,前記ハウジングと前記回転軸との間に組み込まれて前記回転軸を駆動する駆動手段と,前記回転軸を囲むように前記ハウジングに固定され且つ交流電源に接続する一次側コイルと,この一次側コイルと対向するように前記回転軸に嵌着され且つ前記電気的負荷に接続する二次側コイルとを具えたことを特徴とするウェハ回転装置。」

「【0002】
【従来の技術】半導体ウェハに各種の表面処理を施す場合,通常はこの半導体ウェハを回転しながら均一に加熱し,化学的な方法にて種々の表面処理が施される。」

「【0004】即ち,上下二組の玉軸受101,102を介してハウジング103に対し垂直な状態で回転自在に支持された回転軸104の上端部には,図示しない半導体ウェハを載置するためのワークテーブル105が同軸状をなして固定されている。上下二組の玉軸受101,102の間には,回転軸104に対して一体的に嵌着された回転子106aとこの回転子106aを囲むようにハウジング103に保持された固定子106bとを有する回転軸駆動モータ106が組み込まれ,固定子106bには図示しない電源が接続している。」

「【0011】
【作用】回転軸はハウジングに対し磁気軸受を介して支持されており,磁気軸受自体が非接触支持形式のため,摩擦による発塵が全く発生しない。又,交流電源から一次側コイルに交流電流を通電すると,トランスの原理により二次側コイルに交流電流が誘導され,これがテーブルに組み込まれた電気的負荷に供給される。つまり,ハウジング側から非接触にて回転軸側の電気的負荷へ電力が供給される。」

「【0015】一方,下側のラジアル磁気軸受14とスラストディスク15との間の回転軸12の部分には,二次側鉄心19が一体的に嵌着され,この二次側鉄心19の外周側には二次側コイル20が巻回されている。又,前記ワークテーブル17内には半導体ウェハを数百℃に加熱保持するための電気的負荷としてヒータ21が組み込まれており,このヒータ21と前記二次側コイル20とはケーブル22を介して導通している。微小な?間を隔てて二次側鉄心19を囲むようにハウジング11に装着された環状の一次側鉄心23の内周側には,一次側コイル24が巻回され,この一次側コイル24には,ケーブル25を介して交流電源26が接続している。」

「【0019】このような本発明によるウェハ回転装置の他の一実施例の概略構造を表す図3に示すように,ハウジング11と回転軸12との間には,二組のラジアル磁気軸受13,14がそれぞれ介装され,前記ハウジング11とスラストディスク15との間には環状のスラスト磁気軸受16が介装され,これらラジアル磁気軸受13,14及びスラスト磁気軸受16により,回転軸12はハウジング11に対し非接触で回転自在に支持された状態となっている。
【0020】回転軸12の上端部には,ワークテーブル17が同軸状をなして固定されている。又,上下二組のラジアル磁気軸受13,14の間には,回転軸12に対して一体的に嵌着された回転子18aとこの回転子18aを囲むようにハウジング11に保持された固定子18bとを有する回転軸駆動モータ18が組み込まれ,固定子18bには図示しない電源が接続している。
【0021】一方,下側のラジアル磁気軸受14とスラストディスク15との間の回転軸12の部分には,二次側鉄心27が一体的に嵌着され,この二次側鉄心27の下面側には二次側コイル28が巻回されている。又,前記ワークテーブル17内にはヒータ21が組み込まれており,このヒータ21と前記二次側コイル28とはケーブル22を介して導通している。微小な隙間を隔てて二次側鉄心27と上下に対向するようにハウジング11に装着された環状の一次側鉄心29の上面側には,一次側コイル30が巻回され,この一次側コイル30には,ケーブル25を介して交流電源26が接続している。
【0022】従って,この実施例も先の場合と同様に,交流電源26からケーブル25を介して一次側コイル30に通電すると,磁束が一次側鉄心29と二次側鉄心27との間に形成され,これに伴って二次側コイル28に交流電流が誘導され,この誘導電流がケーブル22を介してヒータ21に供給される。」

「【図3】



(2)上記(1)から,上記引用文献2には,他の一実施例のウェハ回転装置について,次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「半導体ウェハが載置されると共にこの半導体ウェハに対するヒータ21が組み込まれたワークテーブル17と,このワークテーブル17に対して同軸一体に突設された回転軸12と,この回転軸12とハウジングとの間に介装されて当該回転軸12を前記ハウジングに対して非接触状態で回転自在に支持する磁気軸受とを具えたウェハ回転装置であって,
回転軸12の上端部には,ワークテーブル17が同軸状をなして固定され,
回転軸駆動モータ18が組み込まれ,
回転軸12に一体的に嵌着された二次側鉄心27の下面側には二次側コイル28が巻回され,
ヒータ21と前記二次側コイル28とはケーブル22を介して導通しており,
微小な隙間を隔てて二次側鉄心27と上下に対向するようにハウジング11に装着された環状の一次側鉄心29の上面側には,一次側コイル30が巻回され,この一次側コイル30には,ケーブル25を介して交流電源26が接続しており,
交流電源26からケーブル25を介して一次側コイル30に通電すると,二次側コイル28に交流電流が誘導され,この誘導電流がケーブル22を介してヒータ21に供給される,
ウェハ回転装置。」

3 引用文献3について
(1)引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 搭載したウェハー基板を回転させ且つウェハー基板との接触部位を通じてウェハー基板を加熱するマイカヒータを備えたスピンチャックと,
(b) レジスト液を霧状にしてウェハー基板上に噴霧する超音波スプレーノズルと,
(c) 前記ウェハー基板の加熱温度を測定する温度計測部と,
(d) 前記温度計測部からの信号により前記マイカヒータを制御してマイカヒータに給電する給電装置とを備えていることを特徴とするレジスト塗布装置。」

「【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下,本発明を図示実施例に従って詳述する。レジスト塗布装置(A)のスピンチャック(4)は,載置台(8)とその下面中心に垂設された回転軸(10)とで構成されており,回転軸(10)は装置本体(図示せず)に取り付けられたベアリング(11)に回転可能に取り付けられている。載置台(8)は円板状で,回転軸(10)が設けられ,その上面にヒーター収納凹所が形成された本体部(8a)と,ウェハー基板(1)との接触部位(2)となり,ヒーター収納凹所を閉塞するウェハー載置蓋(8b)とで構成されており,ヒータ収納凹所の内部にマイカヒータ(3)が内蔵され,ウェハー載置蓋(8b)およびヒータ収納凹所に接触している。少なくとも載置台(8)或いはウェハー載置蓋(8b)そのものは熱容量の小さいアルミニウム(勿論,これに限られず熱容量の小さい材料であればよい。また,材料は金属に限られず耐薬品性があれば樹脂でもよい。)が使用される。このような熱容量の小さい材料であれば,加熱源がマイカヒータ(3)のようなものでしかも非接触給電方式であっても実用足りうる。
【0011】
また,ウェハー載置蓋(8b)にはウェハー基板(1)を吸着するための吸着孔(図示せず)あるいは吸着孔が形成された吸着溝(図示せず)が形成されており,載置されたウェハー基板(1)を吸着固定するようになっている。勿論,吸着以外の方法でウェハー基板(1)を固定することも可能である。
・・・
【0013】
スピンチャック(4)の回転軸(10)は隣接して設けられたスピンモータ(20)によりタイミングベルト(21)を介して回転駆動されている。(22)(23)はタイミングベルト(21)が取り付けられるプーリである。
【0014】
給電装置(6)はリモートシステム(6a)(6b)とヒーターコントローラ(6c)とを含んでおり,一対で構成されるリモートシステム(6a)(6b)は回転軸(10)と同軸にて設置されている。リモートシステム(6a)(6b)は回転トランスの一種で,一方(6a)が回転軸(10)の軸端に一体的に装着されて回転軸(10)と共に回転する。他方(6b)は非接触で且つ近接して装置本体に固定されており,給電装置(6)からの電力を回転軸側のリモートシステム(6a)を介してマイカヒータ(3)に非接触で給電するようになっている。」

「【図1】



(2)上記(1)から,上記引用文献3には次の発明(以下,「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「搭載したウェハー基板を回転させ且つウェハー基板との接触部位を通じてウェハー基板を加熱するマイカヒータ(3)を備えた,レジスト塗布装置のスピンチャック(4)であって,
載置台(8)とその下面中心に垂設された回転軸(10)とで構成されており,
載置台(8)は,その上面にヒーター収納凹所が形成された本体部(8a)と,ヒーター収納凹所を閉塞するウェハー載置蓋(8b)とで構成されており,
ヒータ収納凹所の内部にマイカヒータ(3)が内蔵され,ウェハー載置蓋(8b)およびヒータ収納凹所に接触しており,
回転軸(10)はスピンモータ(20)により回転駆動されており,
給電装置(6)からの電力をマイカヒータ(3)に給電するようになっており,
給電装置(6)はリモートシステム(6a)(6b)を含んでおり,一対で構成されるリモートシステム(6a)(6b)は回転軸(10)と同軸にて設置されており,
リモートシステム(6a)(6b)は回転トランスの一種で,一方(6a)が回転軸(10)の軸端に一体的に装着されて回転軸(10)と共に回転し,他方(6b)は非接触で且つ近接して装置本体に固定されており,給電装置(6)からの電力を回転軸側のリモートシステム(6a)を介してマイカヒータ(3)に非接触で給電するようになっている,
スピンチャック(4)。」

(3)また,上記(1)から,上記引用文献3には次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア ウェハー載置蓋8bは樹脂でもよい。

4 引用文献4について
(1)引用文献4の記載
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
本開示は,アンテナモジュール,情報通信装置及び情報通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年,非接触型ICカードやRFID(Radio Frequency IDentification)などの非接触の近接無線通信を行う通信装置が普及している。この近接無線通信の方法としては,例えば,アンテナコイルによる交流磁界を利用した磁界結合を用いたものや,板状の電極をアンテナとする電界結合を用いたものなどが知られている。」

「【0005】
一方,データ通信ではなく電力伝送を非接触で行う非接触電力伝送も知られている。一般に非接触電力伝送は,受電装置と送電装置の両方にコイルを設け,電磁誘導や磁界共鳴などを利用することにより行われる。
【0006】
さらに,非接触電力伝送コイルと近接無線通信アンテナとを一つの通信装置に備えることにより,非接触電力伝送及び近接無線通信の両方を行うことができる通信装置等の電子機器が知られている。
【0007】
しかし,従来の通信装置において,非接触電力伝送コイルと近接無線通信アンテナは別個に配置されていた。したがって,非接触電力伝送及び近接無線通信の両方が使用可能になるためには,ユーザは非接触電力伝送コイル及び近接無線通信アンテナの両方について,位置合わせをする必要があった。
【0008】
そのため,送信側又は受信側で位置合わせ後に通信装置の位置がずれたり,向きが回転したりした場合,非接触電力伝送及び近接無線通信のどちらか一方,又は両方が使用不可能となっていた。
【0009】
そこで,本開示では,送信側又は受信側の通信装置の向きが回転しても近接無線通信と非接触電力伝送の両方を使用することが可能な,新規かつ改良されたアンテナモジュール,情報通信装置及び情報通信システムを提案する。」

「【0097】
(2.4.3.変形例3)
続いて,図14を参照して変形例3のアンテナモジュール50-3の説明を行う。図14に示すように,変形例3のアンテナモジュール50-3は,第1誘電体基板501と,第1近接無線通信アンテナ510と,第1非接触電力伝送コイル520と,第2誘電体基板503と,第2近接無線通信アンテナ512と,第2非接触電力伝送コイル522と,回転軸540と,ベアリング542と,第3誘電体基板505と,スペーサ509と,を備える。
【0098】
変形例3のアンテナモジュール50-3においても,第1近接無線通信アンテナ510,第1非接触電力伝送コイル520,第2近接無線通信アンテナ512及び第2非接触電力伝送コイル522のすべてが異なる平面上に形成されている。具体的には,第1誘電体基板501と第3誘電体基板505は,スペーサ509によって結合されており,第1誘電体基板501上に第1近接無線通信アンテナ510が形成され,第3誘電体基板505上に第1非接触電力伝送コイル520が形成されている。また,回転軸540と結合された第2誘電体基板503上の一方の面に第2近接無線通信アンテナ512が形成され,一方の面の反対の面に第2非接触電力伝送コイル522が形成されている。
【0099】
また,第3誘電体基板505と回転軸540との間にベアリング542が備えられている。したがって,第1近接無線通信アンテナ510及び第1非接触電力伝送コイル520側に対して,第2近接無線通信アンテナ512及び第2非接触電力伝送コイル522側が,近接無線通信及び非接触電力伝送を行いつつ,無限回転することが可能になっている。変形例3のアンテナモジュール50-3は,変形例1及び2のアンテナモジュール50-1及び50-2に対して,誘電体基板を1枚減らすことができるので,構造を単純化することが可能である。」

「【図14】



(2)上記(1)から,上記引用文献4には次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア 送信側又は受信側の通信装置の向きが回転しても近接無線通信と非接触電力伝送の両方を使用することが可能な情報通信システムを提供することを目的とする。

イ 第3誘電体基板505上に第1非接触電力伝送コイル520が形成され,回転軸540と結合された第2誘電体基板503上には第2非接触電力伝送コイル522が形成されている。

ウ 第1非接触電力伝送コイル520側に対して,第2非接触電力伝送コイル522側が,非接触電力伝送を行いつつ,無限回転することが可能になっている。

5 引用文献5について
原査定において,周知技術を示す文献として引用された上記引用文献5には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0028】パンチングプレート44の下方には,処理対象のウエハWをパンチングプレート44に対向させた状態で水平に保持するホットプレート45が配置されている。このホットプレート45の内部には,ウエハWを所定の温度(たとえば,40℃?80℃)で加熱するためのヒータ45bが設けられている。さらに,ホットプレート45は,モータ等を含む回転駆動機構46によってウエハWの中心を通る鉛直軸OW(以下,回転軸OWという)まわりに回転(自転)される回転軸47の上端に固定されている。また,ホットプレート45の上面45aには,ウエハWを取り囲むような円環状のリング部材Rが取付られているが,この詳細については後述する。」

「【0045】また,上述の実施形態では,ウエハWを平面状の上面45a上に直接載置して保持しているが,ウエハWを上面45a上から,複数のピンなどによって所定間隔だけ離した状態で保持してもよい。また,この上面45aは,上述の実施形態では,ウエハW下面に沿うような平面であるが,なだらかな曲面であってもよい。」

6 引用文献6について
原査定において,周知技術を示す文献として引用された上記引用文献6には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0022】
本実施の形態では,ウエハ2は,ピン状のウエハ支持部材6a,6b,6c,6dの上に4点支持されており,下部ホットプレート52 ,54の表面に数ミリと近接して置かれ,主として熱輻射と間の空気による伝導・対流によって加熱されるようになっている。ウエハ支持部材の本数は少なくとも3本あればよいし,また4本以上あってもよい。図1ではウエハ支持部材6c ,6dは見えない。ウエハ2の上面側にはホットプレート50が配置され,ウエハ2の下面側には,ヒータを内蔵したホットプレート52 ,54が配置されている。これら上下2つのホットプレートはウエハ2上に形成されたレジスト膜などを外気からできるだけ遮断する役目も果たす。」

「【0024】
ウエハ支持部材6a,6b,6c,6dは,ウエハ支持ブロック18を介してモータ12に接続されており,モータ12でウエハ支持ブロック18を回転させることにより,ウエハ支持部材6a,6b,6c,6dを回転させるが,ウエハ支持部材6a?6dが自由に下部ホットプレート52,54を突き抜けて自由に回転するようにウエハ支持部材溝20が設けられている。モータ12は,モータ制御回路16に接続されており,これにより外部からの電気制御によりウエハ支持部材6a ,6b,6c,6dを自動的に回転させるため,ウエハ2を自動的に回転させることが可能となっており,これが本発明の一つの特徴となっている。下部ホットプレート(52,54)を貫通するウエハ支持部材6a,6b,6c,6dと,それらを支持するウエハ支持ブロック18と,モータ12と,モータ制御回路16とで,ウエハ回転機構5を構成している。また,ウエハ回転機構5を設けるために下部ホットプレートにウエハ支持部材溝20が設けられている。図2では,ウエハ支持部材溝20は1つであるが,ウエハ支持部材溝20は,複数個設けても良い。そのようにすれば,ウエハ支持部材6a,6b,6c,6dの本数を必要に応じてさらに増やすことが可能となる。」

7 引用文献7について
原査定において,周知技術を示す文献として引用された上記引用文献7には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0054】
ここで,図2によると,加熱アセンブリ20の外周に隣接して突き出たピン16の端部によってウエハWが支持されていることがわかる。図2および図3の一点鎖線は,装置によって保持された時のウエハWの位置を示しており,ウエハWの下側は,小さい規定のギャップだけカバー24から離間されている。
【0055】
ウエハWは,加熱アセンブリ20の上方で中央に配置され,加熱アセンブリは,下にあるスピンチャックの回転軸を中心に配置されている。したがって,スピンチャック10が,特定の直径のウエハWを保持するよう設計されることは明らかである。本明細書に記載の実施形態において,その直径は300mmであり,これは,現在のシリコンウエハで一般的な直径である。しかしながら,装置は,もちろん,200mmおよび450mmなど,他の直径の円板状物品を保持するよう設計されてもよい。」

8 引用文献8について
原査定において,周知技術を示す文献として引用された上記引用文献8には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0008】本発明の別の特徴は,ウエハ上に物質の層を堆積するための装置に関するものであり,この装置は,堆積チャンバと,チャンバ内で回転のためのシャフト上に載置される円形のサセプタプレートと,チャンバ内へのガス流入口と,チャンバから外への排気口と,サセプタプレートを加熱するための手段とを備えている。サセプタプレートは,その上面から突き出る複数の支持ポストを有している。支持ポストは,支持ポスト上にウエハが置かれたときサセプタプレートの表面と間隔を置くことができるようなパターンに従った間隔を持って,配置される。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)引用発明2を主引用発明とした検討
ア 対比
本願発明1と引用発明2とを対比すると,次のことがいえる。
(ア)引用発明2の「回転軸12」は,本願発明1の「回転軸」に相当する。

(イ)本願発明1の「前記回転軸の先端に載置され且つ上面に支持ピンを介してウェーハを保持する回転テーブル」と引用発明2の「半導体ウェハが載置される」「ワークテーブル17」とを対比する。
引用発明2は,「このワークテーブル17に対して同軸一体に突設された回転軸12」を具えるので,引用発明2の「半導体ウェハ」,「ワークテーブル17」は,それぞれ本願発明1の「ウェーハ」,「回転テーブル」に相当する。
したがって,本願発明1と引用発明2とは,「前記回転軸の先端に載置され且つウェーハを保持する回転テーブル」を有する点で共通する。

(ウ)引用発明2の「回転軸駆動モータ18」は,本願発明1の「前記回転軸に動力を供給する駆動モータ」に相当する。

(エ)本願発明1の「前記回転テーブル上又は内部であり且つ前記ウェーハの下部に前記ウェーハに空間を有する非接触状態で設けられた前記ウェーハを加熱するための加熱手段」と,引用発明2の「半導体ウェハに対するヒータ21」とを対比する。
引用発明2では,「ヒータ21」は,「ワークテーブル17」に「組み込まれた」ものであるから,本願発明1と引用発明2とは,「前記回転テーブル内部に設けられた前記ウェーハを加熱するための加熱手段」を有する点で共通する。

(オ)本願発明1の「前記回転軸の周囲に巻回された固定側1次コイルと,前記固定側1次コイルに接続された電力供給源と,前記固定側1次コイルに対応して所定距離離間して設けられ,且つ前記回転テーブルに取り付けられた回転テーブル側2次コイルと,前記回転テーブル側2次コイルに接続された前記加熱手段と,を含む回転テーブル用非接触電力供給機構を用い,電磁誘導により前記2次コイルを介して前記加熱手段に電力が供給されてなる」と引用発明2の「一次側コイル30」と,「交流電源26」と,「二次側コイル28」と,「ヒータ21」と,を含む構成とを対比する。

a まず,本願発明1の「前記回転軸の周囲に巻回された固定側1次コイル」と,引用発明2の「一次側コイル30」とを対比する。
引用発明2では,「微小な隙間を隔てて二次側鉄心27と上下に対向するようにハウジング11に装着された環状の一次側鉄心29の上面側には,一次側コイル30が巻回され」,「2次側鉄心27」は「回転軸12に一体的に嵌着された二次側鉄心27」であるから,「一次側コイル30」は,「回転軸の周囲に巻回された1次コイル」といえる。
また,引用発明2は,「回転軸12に一体的に嵌着された二次側鉄心27の下面側には二次側コイル28が巻回され」たものであるから,「一次側コイル30」は,「固定側1次コイル」といえる。
したがって,引用発明2の「一次側コイル30」は,本願発明1の「前記回転軸の周囲に巻回された固定側1次コイル」に対応する。

b 引用発明2では,「一次側コイル30には,ケーブル25を介して交流電源26が接続して」いるところ,「交流電源26」は「電力供給源」といえるから,本願発明1の「前記固定側1次コイルに接続された電力供給源」に相当する。

c 本願発明1の「前記固定側1次コイルに対応して所定距離離間して設けられ,且つ前記回転テーブルに取り付けられた回転テーブル側2次コイル」と,引用発明2の「二次側コイル28」とを対比する。
引用発明2では,「回転軸12に一体的に嵌着された二次側鉄心27の下面側には二次側コイル28が巻回され」,「微小な隙間を隔てて二次側鉄心27と上下に対向するようにハウジング11に装着された環状の一次側鉄心29の上面側には,一次側コイル30が巻回され」たものであるところ,「二次側コイル28」は,本願発明1の「回転テーブル側2次コイル」に相当するから,本願発明1の「固定側1次コイルに対応して所定距離離間して設けられた回転テーブル側2次コイル」に相当する。

d 引用発明2では,「ヒータ21と前記二次側コイル28とはケーブル22を介して導通して」いるから,「前記加熱手段」について,本願発明1と引用発明2とは,「前記回転テーブル側2次コイルに接続された前記加熱手段」である点で一致する。

e 引用発明2では,「交流電源26からケーブル25を介して一次側コイル30に通電すると,二次側コイル28に交流電流が誘導され,この誘導電流がケーブル22を介してヒータ21に供給される」から,これらの「一次側コイル30」(固定側1次コイル)と,「交流電源26」(電力供給源)と,「二次側コイル28」(回転テーブル側2次コイル)と,「ヒータ21」(前記加熱手段)と,を含む構成は,上記cを勘案すると,本願発明1の「回転テーブル用非接触電力供給機構」に対応するといえる。したがって,本願発明1と引用発明2とは,当該「回転テーブル用非接触電極機構を用い,電磁誘導により前記2次コイルを介して前記加熱手段に電力が供給されてなる」ものである点で一致する。

f そうすると,上記a?eから,本願発明1と引用発明2とは,「前記回転軸の周囲に巻回された固定側1次コイルと,前記固定側1次コイルに接続された電力供給源と, 前記固定側1次コイルに対応して所定距離離間して設けられた回転テーブル側2次コイルと,前記回転テーブル側2次コイルに接続された前記加熱手段と,を含む回転テーブル用非接触電力供給機構を用い,電磁誘導により前記2次コイルを介して前記加熱手段に電力が供給されてな」る点で共通する。

(カ)引用発明2の「ウェハ回転装置」は,上記(ア)?(オ)のとおり,ウェハを加熱し保持するものであるので,本願発明1の「ウェーハ回転保持装置の回転テーブル用ウェーハ加熱保持機構」に相当する。

したがって,本願発明1と引用発明2との間には,次の一致点,相違点があるといえる。
<一致点>
「ウェーハ回転保持装置の回転テーブル用ウェーハ加熱保持機構であって,
回転軸と,
前記回転軸の先端に載置され且つウェーハを保持する回転テーブルと,
前記回転軸に動力を供給する駆動モータと,
前記回転テーブル上又は内部に設けられ,前記ウェーハを加熱するための加熱手段と,
を有し,
前記回転軸の周囲に巻回された固定側1次コイルと,
前記固定側1次コイルに接続された電力供給源と,
前記固定側1次コイルに対応して所定距離離間して設けられた回転テーブル側2次コイルと,
前記回転テーブル側2次コイルに接続された前記加熱手段と,
を含む回転テーブル用非接触電力供給機構を用い,電磁誘導により前記2次コイルを介して前記加熱手段に電力が供給されてなる,
回転テーブル用ウェーハ加熱保持機構。」

<相違点>
(相違点1)
本願発明1の回転テーブルは,「上面に支持ピンを介してウェーハを保持」するものであるのに対し,引用発明2では,支持ピンについて記載されていない点。

(相違点2)
本願発明1の回転テーブルに設けられた加熱手段が「ウェーハの下部にウェーハに空間を有する非接触状態で設けられ」るものであるのに対し,引用発明2では,そのような特定はなされていない点。

(相違点3)
本願発明1の「回転テーブル側2次コイル」は,「回転テーブルに取り付けられた」ものであるのに対し,引用発明2の「二次側コイル28」について,そのような特定はなされていない点。

(相違点4)
本願発明1は「前記加熱手段上に樹脂シートが設けられてなる」のに対し,引用発明2にはそのような記載がない点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み,最初に上記相違点3について検討する。
引用文献4には,回転軸540と結合された第2誘電体基板503上に第2非接触電力伝送コイル522が形成され,第1非接触電力伝送コイル520に対して,非接触電力伝送を行いつつ,無限回転することが可能なものが記載されている。
しかし,引用文献4に記載された発明は,情報通信システムであり,引用発明2とは技術分野が同一でない。さらに,引用文献4に記載された発明の「第2誘電体基板503」は半導体ウェハを保持するものでもなく,加熱するものでもない。
したがって,当業者といえども,引用発明2及び引用文献4に記載された技術的事項から,相違点3に係る,「回転テーブル側2次コイル」は,「回転テーブル」に取り付けられているとの構成を容易に想到することはできない。
また,引用文献1,3,5-8のいずれにも,回転テーブルにコイルを設け,非接触電力供給機構を構成することについて,記載されておらず,引用発明2において「回転軸12」に取り付けられた「二次側コイル28」を「ワークテーブル17」に取り付けるように取り付け位置を変更する動機はない。

ウ 小括
上記ア,イのとおりであるから,他の相違点については検討するまでもなく,本願発明1は当業者であっても引用発明2と引用文献1?8に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)引用発明3を主引用発明とした検討
ア 対比
本願発明1と引用発明3とを対比すると,次のことがいえる。
(ア)引用発明3の「回転軸(10)」は,本願発明1の「回転軸」に相当する。

(イ)本願発明1の「前記回転軸の先端に載置され且つ上面に支持ピンを介してウェーハを保持する回転テーブル」と引用発明3の「載置台(8)」とを対比する。
引用発明3は,「載置台(8)とその下面中心に垂設された回転軸(10)」を有し,「ウェハー基板」が搭載されるものであるので,引用発明3の「ウェハー基板」,「載置台(8)」は,それぞれ本願発明1の「ウェーハ」,「回転テーブル」に相当する。
したがって,本願発明1と引用発明2とは「前記回転軸の先端に載置され且つ上面にウェーハを保持する回転テーブル」を有する点で共通する。

(ウ)引用発明3の「スピンモータ(20)」は,「回転軸(10)」を回転させるものであるので,本願発明1の「前記回転軸に動力を供給する駆動モータ」に相当する。

(エ)本願発明1の「前記回転テーブル上又は内部であり且つ前記ウェーハの下部に前記ウェーハに空間を有する非接触状態で設けられた前記ウェーハを加熱するための加熱手段」と,引用発明3の「ウェハー基板との接触部位を通じてウェハー基板を加熱するマイカヒータ(3)」とを対比する。
引用発明3において,「マイカヒータ(3)」は,「載置台(8)は,その上面にヒーター収納凹所が形成された本体部(8a)と,ヒーター収納凹所を閉塞するウェハー載置蓋(8b)とで構成されており,ヒータ収納凹所の内部にマイカヒータ(3)が内蔵され,ウェハー載置蓋(8b)およびヒータ収納凹所に接触して」いることから,「載置台(8)」の内部に設けられているといえる。
したがって,本願発明1と引用発明3とは「前記回転テーブル上又は内部」に「設けられた前記ウェーハを加熱するための加熱手段」を有する点で共通する。

(オ)本願発明1の「前記回転軸の周囲に巻回された固定側1次コイルと,前記固定側1次コイルに接続された電力供給源と,前記固定側1次コイルに対応して所定距離離間して設けられ,且つ前記回転テーブルに取り付けられた回転テーブル側2次コイルと,前記回転テーブル側2次コイルに接続された前記加熱手段と,を含む回転テーブル用非接触電力供給機構を用い,電磁誘導により前記2次コイルを介して前記加熱手段に電力が供給されてな」る点と,引用発明3の「給電装置(6)」と,「リモートシステム(6a)(6b)」と,「マイカヒータ(3)」と,を含む構成とを対比する。
a 本願発明1の「前記固定側1次コイルに接続された電力供給源」に関して,引用発明3においても,「リモートシステム(6a)(6b)は回転トランスの一種で,一方(6a)が回転軸(10)の軸端に一体的に装着されて回転軸(10)と共に回転し,他方(6b)は非接触で且つ近接して装置本体に固定されており,給電装置(6)からの電力を回転軸側のリモートシステム(6a)を介してマイカヒータ(3)に非接触で給電する」ものであることから,「リモートシステム(6b)」と接続される「電力」を供給する供給源を有していると認められる。
また,引用発明3において「リモートシステム(6a)(6b)は回転トランスの一種で」あり,「(6b)は」「装置本体に固定されて」いることから,引用発明3の「リモートシステム(6b)」は本願発明1の「固定側1次コイル」に相当する。
したがって,本願発明1と引用発明3とは「前記固定側1次コイルに接続された電力供給源」を有する点で一致する。

b 本願発明1の「前記固定側1次コイルに対応して所定距離離間して設けられ,且つ前記回転テーブルに取り付けられた回転テーブル側2次コイル」と,引用発明3の「リモートシステム(6a)」とを対比する。
引用発明3の「リモートシステム(6a)」は,「一方(6a)が回転軸(10)の軸端に一体的に装着されて回転軸(10)と共に回転し,他方(6b)は非接触で且つ近接して装置本体に固定されて」いることから,「リモートシステム(6b)」に対応して所定距離離間して設けられているといえる。
また,引用発明3の「リモートシステム(6a)」は「回転軸(10)の軸端に一体的に装着され」ているものであることから,本願発明1の「回転テーブル側2次コイル」に相当する。
したがって,本願発明1と引用発明3とは「前記固定側1次コイルに対応して所定距離離間して設けられた回転テーブル側2次コイル」を有する点で共通する。

c 引用発明3の「マイカヒータ(3)」は,「給電装置(6)からの電力を回転軸側のリモートシステム(6a)を介して」給電されるものであるから,「前記加熱手段」について,本願発明1と引用発明3とは,「前記回転テーブル側2次コイルに接続された前記加熱手段」である点で一致する。

d 引用発明3では,「給電装置(6)からの電力を回転軸側のリモートシステム(6a)を介してマイカヒータ(3)に非接触で給電するようになっている」ことから,これらの「リモートシステム(6b)」(固定側1次コイル)と,「リモートシステム(6a)」(回転テーブル側2次コイル)と,「マイカヒータ(3)」(前記加熱手段)と,を含む構成は,本願発明1の「回転テーブル用非接触電力供給機構」に対応するといえる。したがって,本願発明1の引用発明3とは,「回転テーブル用非接触電力供給機構を用い,電磁誘導により前記2次コイルを介して前記加熱手段に電力が供給されてな」るものである点で,共通する。

e そうすると,上記a?dから,本願発明1の引用発明3とは,「固定側1次コイルと,前記固定側1次コイルに接続された電力供給源と,前記固定側1次コイルに対応して所定距離離間して設けられた回転テーブル側2次コイルと,前記回転テーブル側2次コイルに接続された前記加熱手段と,を含む回転テーブル用非接触電力供給機構を用い,電磁誘導により前記2次コイルを介して前記加熱手段に電力が供給されてな」る点で共通する。

(カ)引用発明3の「スピンチャック(4)」は,上記(ア)?(オ)のとおり,「ウェハー基板」を加熱し保持するものであるので,本願発明1の「回転テーブル用ウェーハ加熱保持機構」に相当する。

(キ)引用発明3の「レジスト塗布装置」は,「スピンチャック(4)」を備える装置であるので,本願発明1の「ウェーハ回転保持装置」に相当する。

したがって,本願発明1と引用発明3との間には,次の一致点,相違点があるといえる。
<一致点>
「ウェーハ回転保持装置の回転テーブル用ウェーハ加熱保持機構であって,
回転軸と,
前記回転軸の先端に載置され且つウェーハを保持する回転テーブルと,
前記回転軸に動力を供給する駆動モータと,
前記回転テーブル上又は内部に設けられ,前記ウェーハを加熱するための加熱手段と,
を有し,
固定側1次コイルと,
前記固定側1次コイルに接続された電力供給源と,
前記固定側1次コイルに対応して所定距離離間して設けられた回転テーブル側2次コイルと,
前記回転テーブル側2次コイルに接続された前記加熱手段と,
を含む回転テーブル用非接触電力供給機構を用い,電磁誘導により前記2次コイルを介して前記加熱手段に電力が供給されてなる,
回転テーブル用ウェーハ加熱保持機構。」

<相違点>
(相違点1)
本願発明1の回転テーブルは,「上面に支持ピンを介してウェーハを保持」するものであるのに対し,引用発明3では,支持ピンについて記載されていない点。

(相違点2)
本願発明1の回転テーブルに設けられた加熱手段が「ウェーハの下部にウェーハに空間を有する非接触状態で設けられ」るものであるのに対し,引用発明3では,そのような特定はなされていない点。

(相違点3)
本願発明1の「固定側1次コイル」は「前記回転軸の周囲に巻回され」ているのに対し,引用発明3では,「リモートシステム(6b)」は,「回転軸10」の周囲に設けられていることについて,特定されていない点。

(相違点4)
本願発明1の「回転テーブル側2次コイル」は,「回転テーブルに取り付けられた」ものであるのに対し,引用発明3の「リモートシステム(6a)」について,そのような特定はなされていない点。

(相違点5)
本願発明1は「前記加熱手段上に樹脂シートが設けられてなる」のに対し,引用発明3にはそのような記載がない点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み,最初に上記相違点4について検討する。
引用文献4には,回転軸540と結合された第2誘電体基板503上に第2非接触電力伝送コイル522が形成され,第1非接触電力伝送コイル520に対して,非接触電力伝送を行いつつ,無限回転することが可能なものが記載されている。
しかし,引用文献4に記載された発明は,情報通信システムであり,引用発明3とは技術分野が同一でない。さらに,引用文献4に記載された発明の「第2誘電体基板503」は半導体ウェハを保持するものでもなく,加熱するものでもない。
したがって,当業者といえども,引用発明3及び引用文献4に記載された技術的事項から,相違点4に係る,「回転テーブル側2次コイル」は,「回転テーブル」に取り付けられているとの構成を容易に想到することはできない。
また,引用文献1,2,5-8のいずれにも,回転テーブルにコイルを設け,非接触電力供給機構を構成することについて,記載されておらず,引用発明3において「回転軸(10)」に取り付けられた「リモートシステム(6a)」を「載置台(8)」に取り付けるように取り付け位置を変更する動機はない。

ウ 小括
上記ア,イのとおりであるから,他の相違点については検討するまでもなく,本願発明1は当業者であっても引用発明3と引用文献1?8に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2-5について
本願発明2-5は,本願発明1の発明特定事項を全て含み,さらに限定したものであるから,本願発明1が,引用発明2と引用文献1-8に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえず,引用発明3と引用文献1-8に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえないことから,本願発明2-5も,引用発明2と引用文献1-8に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえず,引用発明3と引用文献1-8に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 原査定について
1.理由1(特許法第29条第2項)について
本願発明1-5は「前記固定側1次コイルに対応して所定距離離間して設けられ,且つ前記回転テーブルに取り付けられた回転テーブル側2次コイル」を有するものであり,上記第6で判断したとおり,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1-8に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由1を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-01-06 
出願番号 特願2018-519230(P2018-519230)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 馬場 慎  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 ▲吉▼澤 雅博
井上 和俊
発明の名称 回転テーブル用ウェーハ加熱保持機構及び方法並びにウェーハ回転保持装置  
代理人 石原 進介  

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