• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1369755
審判番号 不服2019-11046  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-21 
確定日 2021-01-04 
事件の表示 特願2014-165088「糖尿病性腎症悪化抑制用組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月31日出願公開、特開2016- 41661〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年8月14日の出願であって、主な手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年 3月30日付け:拒絶理由通知書
平成30年 6月12日 :意見書の提出
平成30年11月16日付け:拒絶理由通知書
平成31年 1月15日 :意見書、手続補正書の提出
令和 1年 6月 6日付け:拒絶査定
令和 1年 8月21日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年 7月21日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 9月25日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願請求項1?6に係る発明は、令和2年9月25日提出の手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
イソマルツロースを有効成分とする、糖尿病性腎症悪化抑制剤。」

なお、「イソマルツロース」は、本願明細書の【0017】に記載されるとおり、「パラチノース」とも呼ばれる物質であり、本願明細書でも「パラチノース」という呼称が多数用いられていることから、以下「イソマルツロース」を「パラチノース」ということがある。

第3 当審が通知した拒絶理由の概要
令和2年7月21日付け拒絶理由通知書において、当審が通知した拒絶の理由は、次の「理由4」を含むものである。

「[理由4](実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」

そして、上記拒絶理由通知書では、上記「理由4」について、概略、次の指摘をしている。

本願明細書の発明の詳細な説明には、表1に示す組成のパラチノース配合飼料を、OLETFラットにおける糖尿病性腎症の悪化を抑制するために使用できることまでは記載されているといえる。
しかし、上記パラチノース配合飼料を摂取した群における糖尿病性腎症悪化抑制効果が、真にパラチノースのみによってもたらされていたと直ちに結論づけることができない、つまりは、上記パラチノース配合飼料を摂取した群における糖尿病性腎症悪化抑制効果は、パラチノース単独でもたらされ得るものではなく、パラチノースとコーンオイルなど、表1に示される他の諸成分を適量併せることでもたらされたものである可能性を排除することはできない。
引用文献7(日本栄養・食糧学会大会講演要旨集,2007年,Vol.61st,p.104 右上、3D-11a)に記載されるように、パラチノース配合飼料を糖尿病モデル動物に投与したとしても、パラチノースと併せて用いる他成分の種類に応じて、腎臓における炎症を抑止できるか否かが予測性を伴うことなく変わり得る点が当該分野で既に知られていたことも勘案すれば、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者が、表1に示される以外の成分組成を有する「組成物」又は「剤」にて、本願発明1?8の実施を試みる場合には、「組成物」又は「剤」に含まれる、パラチノース以外の成分の種類や量を種々変更し、試行的に調製した各試料が、真に糖尿病性腎症に罹患しているヒト対象において、糖尿病性腎症の悪化を抑制できるか否かを逐一確認しなければならない。かかる作業は、当業者に期待し得る程度を超える、過度の試行錯誤を要する事項に他ならない。
よって、本願明細書の発明の詳細な説明に、当業者が過度の試行錯誤を伴うことなく、表1に示される以外の成分組成の、イソマルツロースを含有する、もしくは、有効成分とする「組成物」又は「剤」を、「糖尿病性腎症に罹患しているヒト対象用」として、「糖尿病性腎症悪化抑制」のために使用できる程度の記載があるとはいえない。

第4 当審の判断
1 判断の前提
特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載について、いわゆる実施可能要件を規定したものである。そして、物の発明の場合、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たしているというためには、当業者が、出願時の技術常識も踏まえ、その物を作り、使用することができる程度に、記載されている必要がある。
そこで、上記観点に立って、検討を行う。

2 本願明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載
本願の発明の詳細な説明及び図面には、以下の記載がある。なお、下線は当審合議体が付した。

(摘記a)
「【0006】
本発明者らは、肥満糖尿病と糖尿病性合併症(特に糖尿病性腎症)を発症するモデルラットにおいて、イソマルツロース含有食を与えたラットでは、糖尿病性腎症の悪化が抑制されることを見出した。また、イソマルツロース含有食を与えたラットでは、運動療法を併用した場合でも、糖尿病性腎症の悪化が抑制されることを見出した。本発明はこれらの新規な知見に基づくものである。」

(摘記b)
「【0017】
イソマルツロースは、6-O-α-D-グルコピラノシル-D-フルクトースとも称される化合物である。また、イソマルツロースは、パラチノースとも呼ばれる。なお、「パラチノース/PALATINOSE」は、三井製糖株式会社の登録商標である。」

(摘記c)
「【0020】
糖尿病性腎症は、慢性の高血糖状態により引き起こされる細小血管合併症の一つであり、一定期間の糖尿病罹患の後、蛋白尿(アルブミン尿)、高血圧、腎機能障害が徐々に進行していく病態である。糖尿病性腎症では、病理学的には、糸球体毛細血管基底膜の肥厚、メサンギウム領域の拡大が観察され、終末像として糸球体硬化病変を呈する。
【0021】
なお、顕性タンパク尿を伴う糖尿病性腎症とは、尿試験紙による検査(重篤度は、-、±、+、++、+++の順になる。)で、「+」以上を呈する病態を意味し、微量アルブミン尿を伴う糖尿病性腎症とは、尿試験紙による検査では、「±」以下を呈する病態を意味する。微量アルブミン尿を伴う糖尿病性腎症は、初期段階の腎症ということもできる。微量アルブミン尿を伴う糖尿病性腎症でも、例えばELISA法等、より感度の高い検出手法によれば尿中タンパク質(尿中アルブミン)が検出され得る。
【0022】
本実施形態に係る組成物は、既に発症した糖尿病性腎症の悪化(進行)を抑制することができるため、糖尿病性腎症悪化(進行)抑制用組成物として好適に用いられる。なお、糖尿病性腎症の発症と、既に発症した糖尿病性腎症の悪化(進行)とは、尿中タンパク質(尿中アルブミン)の検出量により、明確に区別される。
【0023】
糖尿病性腎症の悪化(進行)が抑制されたか否かは、例えば、メサンギウム領域面積の増加が有意に抑制されたか否か、糸球体基底膜の厚みの増加が有意に抑制されたか否かによって判定することができる。」

(摘記d)
「【0039】
(試験方法)
〔実験動物〕
大塚製薬(株)徳島研究所から入手したOLETFラット及びLETOラットを使用した。OLETFラットは、コレシストキニンA(CCK-A)受容体遺伝子が欠失しているため、インスリン抵抗性であり、腹腔内脂肪の蓄積が見られる(Jpn J Physiol,2000年,50巻,pp.443-448)。OLETFラットは、肥満を伴う糖尿病と糖尿病性合併症(特に腎症)を発症するモデル動物である。LETOラットは、正常対照(コントロール)として用いた。
【0040】
〔実験プロトコル〕
実験動物は、特定病原体フリーの条件下で、温度(22.9±0.3℃)、湿度(58.7%±1.1%)、照明(午前6時?午後6時)が制御された専用施設で飼育した。ラットは、5?24週齢の間、標準的なプラスチックケージ(36cm×26cm×20cm)に1ケージあたり2?3匹を収容して飼育した。当該飼育期間終了後、1ケージあたり1匹とし、OLETFラットを無作為に以下の4群に分け、試験を開始した。
OLETF-Sed群
OLETF-Pala群
OLETF-Ex群
OLETF-Pala&Ex群
【0041】
OLETF-Sed群、OLETF-Ex群及びLETOラット(LETO-Sed群)には、標準的な粉末状のラット飼料(商品名:CLEA Rodent Diet CE-2(飼育繁殖用)、日本クレア株式会社)を与えた。OLETF-Pala群及びOLETF-Pala&Ex群には、パラチノース配合飼料を与えた。また、全ての群のラットに水を自由摂取させた。OLETF-Ex群及びOLETF-Pala&Ex群は、毎日回転輪(株式会社シナノ製)で自発的に運動させた。走行距離は毎週記録した。パラチノース配合飼料の組成を表1に示す。
【表1】




(摘記e)
「【0046】
(結果)
図1及び図2に結果を示す。図1及び図2中の「n」は、試験されたラットの個体数を意味する。図1は、各群のラットについて、メサンギウム領域面積、糸球体領域面積、メサンギウム領域面積/糸球体領域面積比、腎重量、糸球体容積、及び基底膜の厚さの測定結果を示すグラフである。OLETF-Sed群及びOLETF-Ex群と比較して、OLETF-Pala群及びOLETF-Pala&Ex群では、メサンギウム領域面積の増加、及び糸球体基底膜の厚さの増加が抑制されており、糖尿病性腎症が悪化(進行)していなかった。
【0047】
図2は、各群のラットについて、介入前後の尿中総タンパク質排泄量の差(ΔU_(TP))、及び介入前後の尿中アルブミン排泄量の差(ΔU_(Alb))の測定結果を示すグラフである。介入前(24週齡時)の尿中総タンパク質排泄量(U_(TP))及び尿中アルブミン排泄量(U_(alb))は、OLETF-Sed群、OLETF-Pala群、OLETF-Ex群及びOLETF-Pala&Ex群のそれぞれについて、33.4±2.2、47.9±10.4、41.4±6.5及び64.2±15.2mg/日(U_(TP))、及び17.8±1.7、29.4±7.1、22.7±4.7及び38.5±10.6mg/日(U_(alb))であり、いずれにも統計上の有意差はなかった。一方、OLETF-Sed群はΔU_(TP)、ΔU_(Alb)いずれも有意な上昇を示したものの、OLETF-Pala群、OLETF-Ex群及びOLETF-Pala&Ex群は、いずれもやや増加傾向にはあるものの、統計上の有意差はなく、OLETF-Sed群の値に比して有意な低値であり、尿中総タンパク質排泄量、及び尿中アルブミン排泄量の増加は認められなかった。」

(摘記f)
「【図1】


【図2】



3 本願の実施可能要件適合性について
(1)本願発明は、「イソマルツロースを有効成分とする、糖尿病性腎症悪化抑制剤」という物の発明である。そうすると、本願発明について、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たしているというためには、本願明細書及び図面の記載、並びに、出願時の技術常識に基づいて、当業者が、「イソマルツロースを有効成分とする」「剤」を作り、これを「糖尿病性腎症悪化抑制」のために使用できる程度の記載が、本願明細書の発明の詳細な説明になければならない。

(2)本願明細書の発明の詳細な説明には、肥満糖尿病と糖尿病性合併症(特に糖尿病性腎症)を発症するモデルラットにおいて、イソマルツロース含有食を与えたラットでは、糖尿病性腎症の悪化が抑制されることが見出されたこと(上記摘記a)、イソマルツロースはパラチノースとも呼ばれる物質であること(上記摘記b)、糖尿病性腎症は、アルブミン尿や糸球体毛細血管基底膜の肥厚、メサンギウム領域の拡大が観察される病態であり、これが抑制されたか否かは、尿中タンパク質(尿中アルブミン)の検出量、メサンギウム領域面積の増加の抑制の有無、糸球体基底膜の厚みの抑制の有無によって判定できることが記載されている(上記摘記c)。
そして、本願明細書の実施例には、上記摘記d?fのとおり、肥満を伴う糖尿病と糖尿病性合併症(特に腎症)を発症するモデル動物であるOLETFラット、正常対照(コントロール)LETOラットを用いて試験を行ったこと、OLETFラットは、OLETF-Sed群、OLETF-Pala群、OLETF-Ex群、OLETF-Pala&Ex群の4群に分け、OLETF-Sed群、OLETF-Ex群及びLETOラットには、標準的な粉末状のラット飼料(商品名:CLEA Rodent Diet CE-2(飼育繁殖用)、日本クレア株式会社)を与えたこと、OLETF-Pala群及びOLETF-Pala&Ex群には、パラチノース配合飼料を与えたが、当該パラチノース配合飼料の組成は表1に示すとおりのものであったこと、上記各群のラットにおける尿中総タンパク質排泄量及び尿中アルブミン排泄量、糸球体領域面積、メサンギウム領域面積及び糸球体容積、糸球体基底膜の厚さを測定したところ、図1、図2に示すとおりの結果となったことが記載されている。
これらの記載に照らせば、表1に示す組成のパラチノース配合飼料を摂取することで、CLEA Rodent Diet CE-2なる標準的飼料を摂取した場合に比べて、OLETFラットにおける尿中総タンパク質排泄量及び尿中アルブミン排泄量、メサンギウム領域面積及び糸球体基底膜の厚さが減少し、糖尿病性腎症の悪化が抑制される点を理解できることから、本願明細書の発明の詳細な説明には、表1に示す組成のパラチノース配合飼料を、OLETFラットにおける糖尿病性腎症の悪化を抑制するために使用できることまでは記載されているといえる。
しかしながら、本願明細書に開示される実施例において使用されるパラチノース配合飼料は、上記摘記dの表1に示されるとおり、パラチノース以外に、コーンオイルなどの諸成分を多数含むものである。そして、本願の実施例において対照飼料とされたCLEA Rodent Diet CE-2なる標準的飼料は、令和2年9月25日提出の意見書に添付された参考資料1と、同意見書に示される【表A】に照らせば、パラチノース以外の成分の種類や量において、上記パラチノース配合飼料と一致するものではない。してみると、上記パラチノース配合飼料を摂取した群における糖尿病性腎症悪化抑制効果が、真にパラチノースのみによってもたらされていた、すなわち、糖尿病性腎症悪化抑制効果をもたらした「有効成分」がパラチノースであったと直ちに結論づけることはできない。上記摘記aには、本発明者らは、イソマルツロース含有食を与えたラットでは、糖尿病性腎症の悪化が抑制されることが見出したとの記載がなされているが、実施例において糖尿病性腎症悪化抑制効果をもたらすことが示されているのは、表1の成分を全て含んでなるパラチノース配合飼料(イソマルツロース含有食)のみであり、イソマルツロース含有食における有効成分が真にイソマルツロースであることまでが実験結果をもって裏付けられていたとはいえない。

さらに、引用文献7には、以下の事項が記載されている。

(摘記7a)
「3D-11a 糖尿病モデル動物(OLETFラット)を用いた、腎症進展に対する糖・脂質複合成分の抑制効果」(表題)

(摘記7b)
「【背景】近年、糖尿病は、腎症発症により透析患者が増加しており、腎症の予防が重要である。昨年の本学会にて、我々はパラチノース(P)およびオレイン酸(O)の組み合わせが、シュクロース(S)およびリノール酸(L)の組み合わせよりも血糖値の上昇を抑制し、膵臓や脂肪組織に対して炎症を抑制することを報告した。」(第1?5行)

(摘記7c)
「【目的】PおよびOの組み合わせが糖尿病性腎症の発展・進展および増悪に対する予防効果について検討した。
【方法】2型糖尿病モデル動物OLETFラットを用い、糖質としてPまたはS、脂質としてOまたはLを組み合わせた、PO・PL・SO・SLの4種類の餌を14週間投与し、腎機能の評価として、血液・尿検査、組織学的評価および腎症進展に対する炎症および増殖因子の遺伝子発現について評価した。」(第6?12行)

(摘記7d)
「【結果】14週間投与後の空腹時血糖値および血清インスリン値はPO群において他の群と比較して低値を示した。PO群以外の他の3群におけるクレアチニンクリアランスは上昇し、PLおよびSL群における糸球体の平均サイズは、POおよびSO群に比して増加傾向を示した。このようにPLおよびSL群では糖尿病に特徴づけられる過剰濾過を示した。細胞外基質産生を促進するTransforming growth factor-β(TGF-β)、マクロファージ浸潤を惹起するMonocyte chemoattractant protein-1(MCP-1)、代表的な細胞外基質であるType IV collagen、炎症性サイトカインなどによって誘導されるCyclooxygenase-2(COX-2)を、リアルタイムPCR法を用いてmRNA発現量を解析した。PO群は他の3群に比して全てのmRNA量は低値を示し、特にPLおよびSL群のリノール酸群ではPO群に比して、炎症が強いことが示された。」(第13?24行)

(摘記7d)
「【結語】パラチノースおよびオレイン酸の組み合わせは、血糖上昇抑制効果だけでなく、OLETFラットにおける腎臓の炎症を抑制し腎症発症を予防することが示唆された。」(第25?27行)

上記摘記7a?7dのとおり、引用文献7には、糖尿病モデル動物(OLETFラット)における腎症進展に対する糖・脂質複合成分の抑制効果を検討したこと、糖質であるパラチノース(P)又はシュクロース(S)を、脂質であるオレイン酸(O)又はリノール酸(L)と組み合わせ、PO・PL・SO・SLの4種類の餌を2型糖尿病モデル動物OLETFラットに投与したところ、PLおよびSL群における糸球体の平均サイズは、POおよびSO群に比して増加傾向を示したこと、PLおよびSL群では糖尿病に特徴づけられる過剰濾過を示したこと、PL及びSL群のリノール酸群ではPO群に比して、炎症が強いことが記載されている。これによれば、腎臓の炎症の抑止効果は、パラチノース以外に用いる成分の種類にも依存しているといえ、こうした引用文献7の記載からも、本願明細書の実施例が、糖尿病性腎症悪化抑制効果がパラチノースのみによってもたらされたものである、すなわちパラチノースが糖尿病性腎症悪化抑制の有効成分であることを裏付けるに足りるものではないといえるものである。
よって、本願明細書の発明の詳細な説明には、出願当時の技術常識を参酌しても、イソマルツロースが糖尿病性腎症悪化抑制効果を有することを当業者が理解することができる程度に記載されているとはいえず、「イソマルツロースを有効成分とする」「剤」を「糖尿病性腎症悪化抑制」のために使用できる程度の記載があるとはいえない。
以上によれば、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

4 請求人の主張について
(1)令和2年9月25日提出の意見書の(3)(3-5)及び(4)(4-1)において請求人は、次の趣旨の主張をしている。

ア CE-2なる飼料は、参考資料1に示される原材料から成り立っているが、これらの各原材料は、参考資料2?6に見て取れるように、ラット用の飼料としてごく一般的に汎用されている原材料であり、CE-2及びパラチノース配合飼料のいずれにおいても、パラチノース以外の原材料に関しては、ラット用の通常食として汎用される原材料が用いられているという点で共通している一方、パラチノースに関しては、ラット用の飼料として一般的に用いられる原材料であることを裏付けるような技術常識は一切存在しない。よって、当業者は、パラチノース配合飼料は、一般的な通常食である飼料(CE-2)と比較したときに、パラチノース以外の原材料については栄養的観点から相違がないが、パラチノースを含有するという点で通常食とは異なっていると認識し、糖尿病性腎症悪化抑制という効果に関しても、通常食である飼料には含まれていない特徴的な原材料であるパラチノースによってもたらされており、パラチノースが有効成分であると理解する。

イ コーンオイルにはオレイン酸が含まれてはいるが、その含有量は特開平6-199683号公報(当審注:上記意見書では、「特開平6-100683号公報」と記載されているが、令和2年7月21日付けの拒絶理由通知書において示した文献は、特開平6-199683号公報であることから、上記意見書に記載される「特開平6-100683号公報」は、特開平6-199683号公報の誤記と判断した。)の[0024]によると約30重量%である。そして、コーンオイルは、引用文献7において腎臓の炎症抑制効果が見られなかったリノール酸をオレイン酸より多く(約56重量%)含んでいる。したがって、リノール酸よりも含有量がわずかであるオレイン酸のみに注目して、本願発明の効果がパラチノースとコーンオイル中のオレイン酸によってもたらされたものであると考えるのは不自然である。

(2)上記主張アについて
本願の実施例で対照飼料として使用されたCE-2は、一般的に使用される原材料からなるものではあるものの、上記意見書の【表A】のとおり、パラチノース以外の成分の種類や量において、実施例で使用したパラチノース配合飼料と一致するものではない。
そして、CE-2とパラチノース配合飼料とが、栄養的観点から相違のないものであるとしても、各原材料の成分組成の差異が、糖尿病性腎症悪化抑制効果の発現に影響を与えないものであると直ちに結論づけることはできない。
引用文献7に記載されるオレイン酸及びリノール酸はいずれも、特開平6-199683号公報(【0024】参照)のとおり、コーンオイル等の植物油に含まれる成分であり、上記意見書に添付された参考資料8からみても、一般的な飼料に含まれ得る汎用的な原材料といえるものである。にも関わらず、一方(オレイン酸)はパラチノースと併せて用いた場合に、糖尿病性腎症の発症を予防し、もう一方(リノール酸)はパラチノースと併せて用いた場合に、腎臓の炎症を抑制しなかった点に照らせば、飼料における汎用的な原材料であるとしても、糖尿病性腎症悪化抑制効果に影響を与えないとはいえない。
してみれば、上記アの主張をもって、本願の実施例において、糖尿病性腎症悪化抑制という効果をもたらしている有効成分がパラチノースであるということはできない。

(3)上記主張イについて
本願実施例で使用されるCE-2とパラチノース配合飼料とは、コーンオイルの有無以外にも、ビタミンやミネラルの組成においても異なるものである。そうすると、本願の実施例において示される糖尿病性腎症悪化抑制効果の発現に主として寄与しているのがオレイン酸ではないとしても、他のビタミンやミネラルがパラチノースと相まって、糖尿病性腎症悪化抑制効果を発揮している可能性を排除することはできない。引用文献7に記載されるオレイン酸とリノール酸は、パラチノースと併せて用いる他成分の種類に応じて、糖尿病性腎症悪化抑制効果の発現の可否が変わり得ることを示す一例にすぎないものであり、着目すべき他成分がオレイン酸とリノール酸のみであることを意味するものではない。
してみれば、上記イの主張をもって、本願の実施例において、糖尿病性腎症悪化抑制という効果をもたらしている有効成分がパラチノースであるということもできない。

以上によれば、審判請求人の主張はいずれも、上記3に示した判断を左右するものではない。

第5 むすび
以上のとおり、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり、審決する。
 
審理終結日 2020-10-20 
結審通知日 2020-10-27 
審決日 2020-11-10 
出願番号 特願2014-165088(P2014-165088)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 裕彰鈴木 理文  
特許庁審判長 滝口 尚良
特許庁審判官 松本 直子
石井 裕美子
発明の名称 糖尿病性腎症悪化抑制用組成物  
代理人 清水 義憲  
代理人 坂西 俊明  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 阿部 寛  
代理人 吉住 和之  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ