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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B21B
管理番号 1369758
審判番号 不服2019-12833  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-09-27 
確定日 2021-01-05 
事件の表示 特願2017-60191「シームレス熱間圧延管及び圧延遠心鋳造管を製造するための方法及びシステム、並びに遠心鋳造によって製造された中空ブロックの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月12日出願公開、特開2017-185545〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年3月24日(パリ条約による優先権主張2016年4月1日、ドイツ連邦共和国)の出願であって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 9月21日付け :拒絶理由通知
平成31年 2月28日 :意見書、手続補正書の提出
令和 1年 5月14日付け :拒絶査定
令和 1年 9月27日 :審判請求と同時に手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)の提出
令和 2年 2月26日付け :拒絶理由通知
令和 2年 6月10日 :意見書の提出

第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「熱間圧延シームレス鋼管を製造するための方法であって、
(i)クロスロール穿孔ステップを行わずに、
(ii)鋳造熱の少なくとも一部を利用して、及び
(iii)延伸圧延機では内部ツールを利用して、
鋳造中空ブロックが、10以下の伸び率を有する前記延伸圧延機で伸張され、
前記中空ブロックが、前記延伸圧延機での伸張前に加熱される、及び/又は緩衝装置としての炉で焼戻しされることを特徴とする製造方法。」
(なお、符号については当審で除いた。)

第3 拒絶の理由
令和2年2月26日付けで当審が通知した拒絶理由の概要は、次のとおりのものである。
本願発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開平5-228512号公報
引用文献2:特開平4-344804号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
引用文献1には、「長尺管の製造方法」に関し、図1とともに以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。

(1)段落【0001】-【0002】
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は遠心鋳造と圧延ロールによる絞り加工を併用して長尺管を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び問題点】遠心鋳造による管体の形成は、管体に継ぎ目が存在しないこと、内層と外層の特性が異なる二層管を簡単に形成できること、加工性の悪い耐熱鋼であっても容易に管体を形成できる等の利点がある。」

(2)段落【0007】
「【0007】
【作用及び効果】遠心鋳造にて、遠心鋳造に無理のない口径及び長さの管体(1)を形成し、次工程の絞り加工にて管体を所望の直径に縮径して長尺化するため、遠心鋳造の利点を損うことがない。」

(3)段落【0010】
「【0010】遠心鋳造直後の高温エネルギーを有効に利用し、エネルギー効率を高め、低コストで製造できる。」

(4)段落【0012】-【0014】
「【0012】
【実施例】遠心鋳造管体(1)は耐熱鋼管であって、
成分(wt%)
C 0.41、Si 1.48、Mn 0.95、Cr 25.2、Ni 35.3、Mo 1.2
外径 72mm
内径 51mm
全長 3.5mである。
【0013】上記管を遠心鋳造後直ちに脱型し、1000゜C以上の高温状態のまま、単段或は数段の圧延ロール(2)に通し、管の外面を軸心に向けて押圧し、管径を絞る。外径が50mm程度になるまで絞る(約30%の縮径)と、長さは約4.6mとなる。
【0014】更に、小径に加工する場合、管を再加熱して1200゜Cに高め、再び、圧延ロール(2)に通して外径が35mm程度まで絞ると長さは約6mとなる。」

(5)上記(4)の段落【0013】の「上記管を遠心鋳造後直ちに脱型し、1000゜C以上の高温状態のまま、単段或は数段の圧延ロール(2)に通し」との記載によれば、遠心鋳造後にクロスロール穿孔ステップを行わないこと、及び、鋳造熱を利用して管径を絞るべく圧延ロールに通すことが理解できる。

(6)上記(4)の段落【0012】の「外径72mm」との記載、及び段落【0014】の「外径が35mm程度まで絞ると」との記載、及び、本願明細書の段落【0015】の「用語『伸び率』は、対応する圧延機を通過するとき又は対応する圧延方法ステップ中の、それぞれのワークピースの進入断面積と退出断面積との比を表す。」との記載による伸び率の定義を参酌すると、遠心鋳造管体1の最終的な伸び率は、「π(72mm/2)^(2) / π(35mm/2)^(2) =4.23」であることが理解できる。

2 引用発明
上記1の記載事項から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「長尺管を製造するための方法であって、
(i)クロスロール穿孔ステップを行わずに、
(ii)鋳造熱の少なくとも一部を利用して、
遠心鋳造管体1が、4.23の伸び率を有する圧延ロール2で伸張され、
前記遠心鋳造管体1を前記圧延ロール2に通して管径を絞った後、前記圧延ロール2での再度の伸張前に再加熱される製造方法。」

3 引用文献2の記載
引用文献2には、「マンドレルミルの圧延方法」に関し、図2とともに以下の事項が記載されている。

(1)段落【0001】-【0004】
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は継目無鋼管をマンネスマン-マンドレルミル方式により製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】継目無鋼管は一般に、マンドレルミル方式、プラグミル方式等の圧延法、或いは、ユージンセジュルネ方式、エアハルトプッシュベンチ方式等の熱間押し出し法で製造されるが、比較的小径サイズの造管には、生産性及び寸法精度の点で優れているマンドレルミル方式の圧延法が広く利用されている。
【0003】マンドレルミル方式は、例えば図2に示すように、素材ビレット1を回転炉床式加熱炉2において所定の温度(一般的には1100℃?1300℃)まで加熱した後、マンネスマンピアサ3により穿孔圧延して中空素管4Aとする。尚、かような中空素管4Aは中空素管製造用連続鋳造機5によって直接製造してもよい。かかる中空素管4Aは厚肉短尺であるので、延伸圧延機であるマンドレルミル6により減肉延伸される。マンドレルミル6は、中空素管4Aに、表面に熱間圧延用潤滑剤を塗布したマンドレルバー7を挿入した状態で延伸圧延する圧延機であり、通常6?8基のロールスタンドから構成されていて、各ロールスタンドには一対の孔型ロール8を備え、隣接するロールスタンド間ではこの孔型ロール8の回転軸を圧延軸に垂直な面内で相互に90度づつずらして配置している。マンドレルミル6での素管温度は、圧延機入側では1050℃?1200℃、圧延機出側では800℃?1000℃となるのが一般的である。中空素管4Aはマンドレルミル6でもとの長さの2から4倍の長さに延伸され、仕上圧延機用素管4Bとなる。
【0004】この仕上圧延機用素管4Bは、必要に応じて再加熱炉11によって所定の温度(一般的には850℃?1000℃)に再加熱された後、仕上圧延機である例えばストレッチレデューサー12によって仕上げ圧延される。ストレッチレデューサー12によって素管の外径は最大で75%も絞られ、素管ビレットの長さの40倍以上にも延伸され、更にその外表面はストレッチレデューサー10の最終側の数スタンドの真円孔型ロールによって定径されるため比較的優れた外形寸法精度の仕上がり管13が得られる。」

(2)図2


第5 対比
1 本願発明と引用発明とを対比すると、以下のとおりとなる。
(1)引用発明の「長尺管」は、高温状体のまま圧延される継ぎ目のない鋼管であるから、本願発明の「熱間圧延シームレス鋼管」に相当し、以下同様に「遠心鋳造管体1」は「(鋳造)中空ブロック」に、「圧延ロール2」は「延伸圧延機」に、「4.23の伸び率」は「10以下の伸び率」に、それぞれ相当する。

(2)引用発明の「遠心鋳造管体1を前記圧延ロール2に通して管径を絞った後、前記圧延ロール2での再度の伸張前に再加熱される」ことと、本願発明の「中空ブロックが、前記延伸圧延機での伸張前に加熱される、及び/又は緩衝装置としての炉で焼戻しされる」こととを対比すると、「延伸の対象物が延伸圧延機での伸長前に加熱される」という限りにおいて共通する。

2 したがって、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「熱間圧延シームレス鋼管を製造するための方法であって、
(i)クロスロール穿孔ステップを行わずに、
(ii)鋳造熱の少なくとも一部を利用して、
鋳造中空ブロックが、10以下の伸び率を有する延伸圧延機で伸張され、
延伸の対象物が延伸圧延機での伸長前に加熱される製造方法。」

【相違点1】
本願発明は、「延伸圧延機では内部ツールを利用して」いるのに対し、引用発明は、「圧延ロール2」で内部ツールを利用しているか不明な点。

【相違点2】
延伸の対象物が延伸圧延機での伸長前に加熱されることが、本願発明は、「中空ブロックが、前記延伸圧延機での伸張前に加熱される、及び/又は緩衝装置としての炉で焼戻しされる」のに対し、引用発明は、「遠心鋳造管体1を前記圧延ロール2に通して管径を絞った後、前記圧延ロール2での再度の伸張前に再加熱される」ものであり、(鋳造後の最初の)圧延ロール2での伸張前に加熱されるものではなく、焼戻しについては不明である点。

第6 判断
上記相違点について、判断する。
1 相違点1について
引用文献2には、上記第4の3(1)の記載事項及び図2の図示事項から、「中空素管4Aを延伸圧延するマンドレルミル6がマンドレルバー7を利用していること」が記載されている(以下、「引用文献2に記載された事項」という。)。
引用文献2に記載された事項における「マンドレルミル6」は「延伸圧延機」に、「マンドレルバー7」は「内部ツール」に、それぞれ相当し、引用文献2に記載された事項における「中空素管4A」と本願発明における「鋳造中空ブロック」とは、「中空ブロック」という限りにおいて共通するから、引用文献2には、「中空ブロックを伸張する延伸圧延機が内部ツールを利用していること」が記載されているといえる。
そして、上記第4の3(1)の段落【0003】の「かような中空素管4Aは中空素管製造用連続鋳造機5によって直接製造してもよい。」との記載からみて、引用文献2の「中空素管4A」は、製造用連続鋳造機5から、マンネスマンピアサ3による穿孔を経ずに、すなわち、圧延クロスロール穿孔ステップを行わずに、直接、マンドレルミル6で伸張されるものである。
そうすると、引用文献2に記載された事項は、引用発明と同様な伸張工程を有するものであり、かつ、引用発明の「圧延ロール2」と引用文献2に記載された「マンドレルミル6」とは、中空ブロックを伸張して継目無鋼管を形成するという点で機能・作用が共通しており、引用発明に引用文献2に記載された事項を適用する動機付けは十分にあると解されるから、引用発明の「圧延ロール2」において、引用文献2に記載された「マンドレルミル6」の「マンドレルバー7」を採用し、相違点1に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

2 相違点2について
引用文献1の上記第4の1(4)の段落【0013】及び【0014】に「上記管を遠心鋳造後直ちに脱型し、1000゜C以上の高温状態のまま、単段或は数段の圧延ロール(2)に通し、管の外面を軸心に向けて押圧し、管径を絞る。」、「更に、小径に加工する場合、管を再加熱して1200゜Cに高め、再び、圧延ロール(2)に通して外径が35mm程度まで絞ると長さは約6mとなる。」と記載されているように、延伸加工前の素材の温度が要求する長さに延伸するのに不十分であれば、延伸加工前に素材を延伸に必要な温度まで加熱することは通常行われることである。
引用発明においては、鋳造後の最初の延伸加工時には、遠心鋳造管体1が、遠心鋳造後直ちに脱型されて延伸されており当該延伸に十分な温度を有することから、当該遠心鋳造管体1を加熱してはいないが、延伸に必要な温度は、対象材料の種類や加工条件によって変わることから、最初の延伸加工時に、遠心鋳造管体1が延伸に必要な温度を下回っていることもあり、その場合には、当然延伸に必要な温度まで加熱するはずである。
そうすると、相違点2に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことといえる。
なお、本願発明は「及び/又は緩衝装置としての炉で焼戻しされる」のに対し、引用文献1には焼戻しに関する記載は無いが、焼戻しは、「又は」と記載されているように択一的な特定であるから、引用文献1に焼戻しに関する記載がないとしても、上記の判断を覆すことにはならない。

3 小活
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

4 請求人の意見
請求人は、令和2年6月10日付け意見書において、本願発明は、明細書【0010】に記載されるように、鋳造直後に生じる内部構造を維持しながら、延伸鋳造により製造された複合材中空ブロックをシームレス鋼管の製造に利用することが可能となる旨を主張しているが、引用発明においても、延伸鋳造により製造された複合材中空ブロックをシームレス鋼管の製造に利用することが可能である点においては同じである。
また、引用文献1の発明は、本願のように鋳造後の最初の圧延前に素管を加熱することについては何も記載されておらず、引用文献2の発明は、中空素管を鋳造する連続鋳造機とその後のマンドレルミルとの間の加熱工程の配置については何も記載されていないので、引用文献1と2の発明を組み合わせることにより本願発明を想到することはできない旨を主張しているが、上記2で述べたとおりであるから、引用発明においても、鋳造後の最初の圧延前に素管を加熱することは、当業者にとって容易に想到し得たことである。
よって、上記請求人の主張は採用できない。

第7 むすび
上記のとおりであるから、本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1ないし2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-07-16 
結審通知日 2020-07-28 
審決日 2020-08-12 
出願番号 特願2017-60191(P2017-60191)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B21B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中西 哲也坂口 岳志  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 青木 良憲
大山 健
発明の名称 シームレス熱間圧延管及び圧延遠心鋳造管を製造するための方法及びシステム、並びに遠心鋳造によって製造された中空ブロックの使用  
代理人 ▲吉▼川 俊雄  

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