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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01B
管理番号 1369760
審判番号 不服2019-13699  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-15 
確定日 2021-01-05 
事件の表示 特願2016-142027「スピーカーケーブル」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 1月25日出願公開,特開2018- 14195〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2016年(平成28年) 7月20日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年12月20日付け:拒絶理由通知書
平成31年 2月19日 :意見書の提出
令和 1年 7月 4日付け:拒絶査定
令和 1年10月15日 :審判請求書,手続補正書の提出

第2 令和 1年10月15日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和 1年10月15日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。(下線部は,補正箇所である。以下,「補正後の請求項1」という。)
「 【請求項1】
線径0.7mm以下の段階的に線径の異なる多数本の単線導体からなるスピーカーケーブルであって,導体の線径の範囲により,線径0.2mm以上から0.3mm未満の範囲のグループ,線径0.3mm以上から0.4mm未満の範囲のグループ,線径0.4mm以上から0.5mm未満の範囲のグループ,スピーカーの再生能力に合わせて使用する導体の構成が変更される線径0.5mm以上から0.7mm以下の範囲のグループに分類し,各線径の範囲グループから,少なくとも各1本以上を混用し導体としたことを特徴とするスピーカーケーブル。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,本願出願時の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。(以下,「補正前の請求項1」という。)
「【請求項1】
線径0.7mm以下の段階的に線径の異なる多数本の単線導体からなるスピーカーケーブルであって,導体の線径の範囲により,線径0.2mm以上から0.3mm未満の範囲のグループ,線径0.3mm以上から0.4mm未満の範囲のグループ,線径0.4mm以上から0.5mm未満の範囲のグループ,線径0.5mm以上から0.7mm以下の範囲のグループに分類し,各線径の範囲グループから,少なくとも各1本以上を混用し導体としたことを特徴とするスピーカーケーブル。」

2 補正の目的
(1)本件補正は,補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「線径0.5mm以上から0.7mm以下の範囲のグループ」の「導体」に,「スピーカーの再生能力に合わせて使用する導体の構成が変更される」との限定を付加するものであるから,特許請求の範囲の減縮(限定的減縮)を目的とするものである。
そして,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であることあは明らかである。

(2)したがって,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するといえることから,特許法第17条の2第5項の規定に適合するものである。

3 独立特許要件
(1)以上のように,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そこで,補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用例1に記載されている技術的事項及び引用発明
ア 本願出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり,原審の拒絶査定の理由である平成30年12月20日付けの拒絶理由通知において引用された,米国特許出願公開第2002/0053459号明細書(2002年(平成14年) 5月 9日公開,以下,「引用例1」という。)には,以下の事項が記載されている。(当審注:日本語訳は当審により付記した。下線は,参考のために当審で付与したものである。以下同じ。)

「[0001] The present invention concerns a connection cable between a plurality of devices, an audio recording or reproduction system, realized with copper, silver, gold and silk or cotton dielectric wires, with the possibility of calibrating said cable, and with contact devices or connectors.」
(当審訳;[0001] 本発明は,複数の装置間,オーディオ録音または再生システム,の接続ケーブルに関するものであり,銅,銀,金と絹または綿の誘電体のワイヤにより実現され,ケーブルを調整する可能性を有し,接触デバイスまたはコネクタを有する。)

「[0052] The sections of the wires are as important as the metals used; infact, by varying the sections, controllable and repeatable sound variations may be obtained.」
(当審訳;[0052] ワイヤの断面は,使用される金属と同様に重要であり,実際,その断面を変えることで,制御可能で再現性のある音の変化を得ることができる。)

「[0053] In general, if a plurality of wires is used with different sections for the same metal, a more accurate calibration of the kind of reproduced sound is obtained, considering the total tone the metal confers to the cable's sound.」
(当審訳;[0053] 一般的に,同じ金属で異なる断面の複数のワイヤが使用される場合,金属がケーブルの音に与える音色の総量を考えると,より正確なある種の再生音の調整が得られる。)

「[0054] Infact, in an exemplification of the cable according to the present invention, a more precise calibration may be obtained with three wires: a golden, a silver and a copper one, each one of the diameter of 0.40 mm, and three wires of 0.70 mm and three wires of 0.22 mm diameter, all insulated one from the other; this means that, e.g., by increasing the number of 0.70 mm wires, a predominance of low sounds is obtained, while increasing the 0.22 mm wires a predominance of high sounds is obtained.」
(当審訳;[0054] 実際,本発明に係るケーブルの例では,3本のワイヤ,金,銀および銅からなり,それぞれが,直径0.40mmのワイヤと,3本の直径0.70mmのワイヤと,3本の直径0.22mmのワイヤであり,全てが互いに絶縁されているものを用いて,より正確な調整を行うことができる。 つまり,例えば,0.70mmのワイヤを増やすと低い音が優勢になり,0.22mmのワイヤを増やすと高い音が優勢になる。)

「[0058] The same above mentioned considerations may be applied to speaker cables, even if the use of copper wires with different sections has proved to be more practical.」
(当審訳;[0058] 上記と同様の考慮は,スピーカーケーブルに適用することができ,異なる断面を有する銅ワイヤを使用することが,より実用的であることが判明した。)

イ ここで,引用例1に記載されている事項を検討する。
(ア)引用例1の[0001]には,引用例1の,「銅,銀,金」「のワイヤにより実現され」た「ケーブル」が,「オーディオ」「再生システム」の「接続ケーブルに関する」ものであることが記載されている。
また,引用例1の[0058]の記載から,引用例1の「ケーブル」が,「スピーカーケーブルに適用」されるものであることは明らかである。

(イ)引用例1の[0052]には,引用例1の「ワイヤの断面」を変えることにより,「音の変化を得ることができ」ることが記載されている。
そして,引用例1の[0053]の記載から,引用例1の「ケーブル」において,「同じ金属で異なる断面の複数のワイヤが使用される場合」に,「より正確な」「再生音の調整が得られる」といえる。
ここで,引用例1の[0054]の記載から,「直径0.40mmのワイヤ」と,「直径0.70mmのワイヤ」と,「直径0.22mmのワイヤ」からなる「ケーブル」においては,「0.70mmのワイヤを増やすと低い音が優勢になり,0.22mmのワイヤを増やすと高い音が優勢になる」ものと認められる。

ウ 上記ア,イで示した事項から,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「異なる断面の複数のワイヤが使用され,より正確な再生音の調整が得られるスピーカーケーブルであって,
直径0.40mmのワイヤと,直径0.70mmのワイヤと,直径0.22mmのワイヤからなるケーブルにおいて,0.70mmのワイヤを増やすと低い音が優勢になり,0.22mmのワイヤを増やすと高い音が優勢になること。」

(3)対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「ワイヤ」,「スピーカーケーブル」は,本件補正発明の「単線導体」,「スピーカーケーブル」に対応する。
そして,引用発明の「直径0.40mmのワイヤ」,「直径0.70mmのワイヤ」,「直径0.22mmのワイヤ」は,それぞれ,本件補正発明の「線径0.4mm以上から0.5mm未満の範囲のグループ」,「線径0.5mm以上から0.7mm以下の範囲のグループ」,「線径0.2mm以上から0.3mm未満の範囲のグループ」の導体である。
すると,引用発明の「直径0.40mmのワイヤと,直径0.70mmのワイヤと,直径0.22mmのワイヤからなるケーブル」は,本件補正発明と「線径0.7mm以下の段階的に線径の異なる多数本の単線導体からなるスピーカーケーブルであって,導体の線径の範囲により,線径0.2mm以上から0.3mm未満の範囲のグループ,線径0.4mm以上から0.5mm未満の範囲のグループ,線径0.5mm以上から0.7mm以下の範囲のグループに分類し,各線径の範囲グループから,少なくとも各1本以上を混用し導体としたことを特徴とするスピーカーケーブル。」である点で一致する。

イ 以上から,本件補正発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。
<一致点>
「線径0.7mm以下の段階的に線径の異なる多数本の単線導体からなるスピーカーケーブルであって,導体の線径の範囲により,線径0.2mm以上から0.3mm未満の範囲のグループ,線径0.4mm以上から0.5mm未満の範囲のグループ,線径0.5mm以上から0.7mm以下の範囲のグループに分類し,各線径の範囲グループから,少なくとも各1本以上を混用し導体としたことを特徴とするスピーカーケーブル。」

<相違点1>
スピーカーケーブルに関して,本件補正発明は,「線径0.3mm以上から0.4mm未満の範囲のグループ」の導体が混用されると特定されているのに対して,引用発明は,そのように特定されていない点。

<相違点2>
「線径0.5mm以上から0.7mm以下の範囲のグループ」の「導体」に関して,本件補正発明は,「スピーカーの再生能力に合わせて使用する導体の構成が変更される」と特定されているのに対し,引用発明は,そのように特定されていない点。

(4)当審の判断
上記相違点1-2について検討する。

ア 相違点1について
引用発明は,「異なる断面の複数のワイヤが使用され,より正確な再生音の調整が得られるスピーカーケーブル」である。
また,引用発明には,「0.70mmのワイヤを増やすと低い音が優勢になり,0.22mmのワイヤを増やすと高い音が優勢になる」,すなわち,導体の線径と周波数とが関連することが記載されている。
そして,調整を行う際に,必要に応じてその調整幅をより細かくすることは,当業者にとって周知の技術思想である。
すると,引用発明において,より細かい周波数の幅で調整するために,「線径0.3mm以上から0.4mm未満の範囲のグループ」の導体を加えることは,当業者が実施に当たり適宜なし得る設計的事項にすぎず,当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
引用発明には,「0.70mmのワイヤを増やすと低い音が優勢になり,0.22mmのワイヤを増やすと高い音が優勢になる」,すなわち,導体の線径と周波数とが関連することが記載されている。
そして,調整を行う際に,必要に応じてその特定の音域の調整幅をより細かくすることは,当業者にとって周知の技術思想である。
すると,引用発明において,スピーカーの再生能力,特に低音の再生能力を考慮して,例えば,低音に関連する0.70mmの導体の数を増加したり,異なる線径の導体を追加したりすることにより,「線径0.5mm以上から0.7mm以下の範囲のグループ」の導体の構成を変更することは,当業者が実施に当たり適宜なし得る設計的事項にすぎず,当業者が容易に想到し得たことである。

(5)小括
上記で検討したごとく,相違点1-2に係る構成は当業者が容易に想到し得たものであり,そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する作用効果は,上記引用発明及び当該技術分野の周知技術の奏する作用効果から予測される範囲のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。
したがって,本件補正発明は,上記引用発明及び当該技術分野の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4 補正却下の決定のむすび
以上から,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって,上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和 1年10月15日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,本願出願時の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,上記「第2 令和 1年10月15日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「1 本件補正について(補正の内容)」の「(2)本件補正前の特許請求の範囲」に,補正前の請求項1として記載されたとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,以下のとおりである。
(1)この出願の請求項1に係る発明は,下記の引用例1に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用例1 米国特許出願公開第2002/0053459号明細書

3 引用例に記載されている技術的事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1は,前記「第2 令和 1年10月15日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「3 独立特許要件」の「(2)引用例1に記載されている技術的事項及び引用発明」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,前記「第2 令和 1年10月15日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「3 独立特許要件」で検討した本件補正発明に関する限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が,前記「第2 令和 1年10月15日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「3 独立特許要件」に記載したとおり,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,上記限定事項を省いた本願発明も同様の理由により,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-10-20 
結審通知日 2020-10-27 
審決日 2020-11-11 
出願番号 特願2016-142027(P2016-142027)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01B)
P 1 8・ 121- Z (H01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神田 太郎  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 ▲吉▼澤 雅博
井上 和俊
発明の名称 スピーカーケーブル  

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