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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60W |
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管理番号 | 1369764 |
審判番号 | 不服2019-16795 |
総通号数 | 254 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-02-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-12-12 |
確定日 | 2021-01-04 |
事件の表示 | 特願2018-520426「自動車と物体とが衝突する衝突危険性を低減するための方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年4月27日国際公開、WO2017/067729、平成30年11月22日国内公表、特表2018-534200〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願(以下、「本願」という。)は、2016年(平成28年)9月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年10月22日(DE)ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、令和元年5月20日付け(発送日:同年5月23日)で拒絶理由が通知され、令和元年8月19日に意見書の提出及び手続補正がされ、令和元年9月2日付け(発送日:同年9月5日)で拒絶査定がされ、これに対し、令和元年12月12日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたものである。 第2 令和元年12月12日の手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 令和元年12月12日の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)を以下の理由により却下する。 [理由] 1 補正の内容 (1)本件補正後の請求項1の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。) 「走行する自動車(301)と物体とが衝突する衝突危険性を低減するための方法において、 走行する自動車(301)の現在の環境を制限する第1部分範囲を確定する第1安全範囲(503)を決定するステップ(101)と、 走行する自動車(301)の現在の環境を制限する第2部分範囲であって、第1部分範囲よりも自動車(301)に対してさらに離間されている第2部分範囲を確定する第2安全範囲(505)を決定するステップ(103)と、 それぞれの安全範囲内へ移動する物体および/またはそれぞれの安全範囲の内部にある物体について第1および第2部分範囲を監視するステップ(105)であって、前記安全範囲の監視が駐車場管理インフラストラクチャに含まれる一つ以上の環境センサのみによって行われるステップと、 物体が第1安全範囲(503)の内部にあることが監視により明らかになった場合に、自動車(301)を停止するために自動車(301)の停止を制御するステップ(107)と、 物体が第2安全範囲(505)の内部にあることが監視により明らかになった場合に、 現在の自動車速度の低減、 自動車(301)のブレーキ装置の制動準備、および 実施された第2安全範囲(505)の監視についての点検 のすくなくともいずれかである安全動作の実施を制御するステップ(109)と、 を含む走行する自動車(301)と物体とが衝突する衝突危険性を低減するための方法。」 (2)本件補正前の請求項1の記載 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「走行する自動車(301)と物体とが衝突する衝突危険性を低減するための方法において、 走行する自動車(301)の現在の環境を制限する第1部分範囲を確定する第1安全範囲(503)を決定するステップ(101)と、 走行する自動車(301)の現在の環境を制限する第2部分範囲であって、第1部分範囲よりも自動車(301)に対してさらに離間されている第2部分範囲を確定する第2安全範囲(505)を決定するステップ(103)と、 それぞれの安全範囲内へ移動する物体および/またはそれぞれの安全範囲の内部にある物体について第1および第2部分範囲を監視するステップ(105)であって、前記安全範囲の監視が駐車場管理インフラストラクチャに含まれる一つ以上の環境センサによって行われるステップと、 物体が第1安全範囲(503)の内部にあることが監視により明らかになった場合に、自動車(301)を停止するために自動車(301)の停止を制御するステップ(107)と、 物体が第2安全範囲(505)の内部にあることが監視により明らかになった場合に、 現在の自動車速度の低減、 自動車(301)のブレーキ装置の制動準備、および 実施された第2安全範囲(505)の監視についての点検 のすくなくともいずれかである安全動作の実施を制御するステップ(109)と、 を含む走行する自動車(301)と物体とが衝突する衝突危険性を低減するための方法。」 2 補正の適否 上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「安全範囲の監視」について、「駐車場管理インフラストラクチャに含まれる一つ以上の環境センサのみによって行われる」という限定を付加するものであって、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載、引用発明、周知技術 ア.引用文献1の記載、引用発明、引用文献1事項 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2012-234408号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「車両用運転支援装置」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。 (ア)「【請求項1】 車両前方に認知エリアを設定する認知エリア設定手段と、 車両前方で前記認知エリアの内側に判断エリアを設定する判断エリア設定手段と、 車両前方の障害物を検出する障害物検出手段と、 前記障害物検出手段によって前記認知エリア内で検出された障害物に対して運転者の視線を誘導する視線誘導手段と、 前記障害物検出手段によって前記判断エリア内で障害物が検出されたとき、衝突警報または衝突回避制御を行う衝突回避手段と、 あらかじめ設定された所定条件に応じて、前記認知エリアを変更する一方、前記判断エリアの変更を禁止するかまたは該認知エリアの変更度合よりも小さい変更度合でもって該判断エリアを変更するエリア変更手段と、 を備えていることを特徴とする車両用運転支援装置。」 (イ)「【技術分野】 【0001】 本発明は、車両用運転支援装置に関するものである。」 (ウ)「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 ところで、障害物との衝突(接触)回避のためには、自車両の前方に存在する障害物を、運転者が余裕をもった状態であらかじめ明確に認識していることが重要となる。このため、例えばレーダやカメラ等によって前方の障害物を検出するための認知エリアを設定して、この認知エリアで障害物が検出されたときに、運転者の視線を障害物に誘導することが考えられる。このようにすることによって、運転者が例えば左方を注視している状態で、認知エリア内の右方側に障害物が検出されたときに、この検出された障害物に運転者の視線を誘導して、余裕をもった状態において障害物を運転者に認識させることが可能になる。 【0006】 また、車両前方に、衝突回避のための判断エリアを設定して、この判断エリア内で障害物が検出されたときは、衝突警報、あるいは自動ブレーキや自動操舵等の衝突回避制御を行うことが考えられる。このような判断エリアと認知エリアとの両方のエリア設定によって、障害物との衝突回避の上でより一層好ましいものとなる。 【0007】 上記のように認知エリアおよび判断エリアを設定する場合、各エリアをどのような範囲でもって設定するか、ということが問題となる。すなわち、安全のために認知エリアをあまりに広く(大きく)設定すると、不必要に多くの障害物を検出して、運転者の視線を誘導する機会が増大し過ぎて、運転者にとって大きな負担となる。逆に、認知エリアを狭く(小さく)設定し過ぎると、接触の可能性のある障害物を検出しないということになりかねない。また、判断エリアをあまりに広く設定すると、衝突警報や衝突回避制御が不必要に行われてしまう事態をまねいて好ましくないものとなる。逆に。判断エリアを狭く設定し過ぎると、衝突警報や衝突回避制御による衝突回避を確実に行う、という点で問題が残る。 【0008】 本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、認知エリアと判断エリアとを適切に設定できるようにした車両用運転支援装置を提供することにある。」 (エ)「【発明を実施するための形態】 【0020】 図1は、車両(実施形態では自動車)Vの周囲のうち特に前方に設定される3つのエリアP1、P2、P3を示す。P1は認知エリアP1であり、P2は判断エリアであり、P3は物理限界エリアとされる。各エリアP1?P3は、障害物の検出範囲となるもので、各エリアP1?P3内に障害物が検出されると、検出された障害物が位置するエリアに応じた危険回避の制御が実行される。認知エリアP1は、もっとも外側(遠方)に設定されたエリアで、前後長がもっとも長くて遠方の障害物を検出可能であり、その左右幅ももっとも大きくなっている。判断エリアP2は、認知エリアP1の内側に設定されて、その前後長が認知エリアP1よりも短く、かつ左右幅も認知エリアP1よりも小さく設定されている。物理限界エリアP3は、判断エリアP2の内側に設定されて、前後長が判断エリアP2よりも短くかつ左右幅も判断エリアP2よりも小さく設定されている。・・・ 【0021】 ・・・ 【0022】 判断エリアP2内に障害物が検出されたときは、衝突警報が行われる。衝突警報は、運転者の視線が障害物に向かうように誘導する場合よりもより積極的な警報で、例えば、大きな音量で「衝突の危険があります」というように音声案内したり、操舵反力やペダル反力を大きくしたり、ハンドルやペダルに振動を与えたり、自動操舵装置によって障害物を避ける方向へ操舵したり、自動ブレーキ装置によって減速したりする等の制御や、これらの制御を組み合わせた制御を行うこともできる。上記の制御は、障害物との衝突を回避できる可能性が高いときであるので、この接触回避のための制御としては上記の場合に限らず、適宜の制御を採択することができる。上記警報を行う警報装置が図3において警報装置6として示され、また衝突回避のための各種の車両制御を行う車両制御装置が図3において車両制御装置10として示される。 【0023】 物理限界エリアP3内に障害物が検出されたときは、もはや障害物との衝突は避けられないときであるとして、車両Vの乗員の安全を確保する制御が行われる。例えば、自動ブレーキ装置によって急制動したり、自動操舵装置によって少しでも障害物からずれるように大きく自動操舵したり、シートベルトを強制的に引き込み操作して乗員をシートバックに強く押し付ける等の制御が行われ、これらの制御を組み合わせた制御を行うこともできる。・・・ 【0024】 図2は、車両Vに搭載された各種機器類を示すものである。この図2において、車両前方の障害物検出するために、車両Vの前部にレーダ1が設けられると共に、運転席の前方高い位置に外界カメラ2が設けられる。レーダ1と外界カメラ2とが、障害物検出センサを構成しているが、いずれか一方のみを設けたものであってもよい。・・・」 (オ)「【0028】 次に、図5?図9を参照しつつ、コントローラ7による制御例について、特に認知エリアP1と判断エリアP2との設定、変更に着目して説明することとする。なお、以下の説明でQはステップを示す。 【0029】 まず、全体制御を示す図5のQ1において物理限界エリアP3が作成される。この後、Q2において認知エリアP1が作成され、Q3において判断エリアP2が作成される。なお、認知エリアP1および判断エリアP2の作成については後に詳述する。この後、Q4において、レーダ1、カメラ2によって、車両前方の障害物の検出が行われる。Q4の後、Q5において、障害物が存在するか否か(検出されたか否か)が判別される。このQ5の判別でNOのときは、Q1に戻る。 【0030】 Q5の判別でYESのときは、Q6において、障害物の位置が算出される。この後、Q7において、障害物の移動速度と進行方向とが算出され、Q8において、所定時間後の障害物の位置が算出される。Q8の後、Q9において、Q8で算出された障害物の位置が、物理限界エリアP3内であるか否かが判別される。このQ9の判別でYESのときは、衝突回避は不可能であるとして、Q10において、衝突に備えて、プリクラッシュセーフティが作動される(シートベルトを引き戻し操作して、乗員をシートバックに押しつける)。 【0031】 前記Q9の判別でNOのときは、Q11において、Q8で算出された障害物の位置が、判断エリアP2内であるか否かが判別される。このQ11の判別でYESのときは、Q12において、既述のように衝突警報と衝突回避の制御との少なくとも一方が行われる。」 (カ)「【0056】 以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能である。・・・」 (キ)「【図1】 」 (ク)「【図5】 」 上記(ア)ないし(カ)に摘記した事項及び上記(キ)、(ク)の図示内容を、本件補正発明に照らして整理すると、引用文献1には、次の発明及び事項(以下、「引用発明」及び「引用文献1事項」という。)が記載されているといえる。 《引用発明》 「障害物との衝突(接触)回避のための車両用運転支援方法であって、 ステップQ1において、車両Vの周囲に設定され、後記判断エリアP2の内側に設定される物理限界エリアP3を作成し、 ステップQ3において、車両Vの周囲に設定される判断エリアP2を作成し、 ステップQ4において、レーダ1、カメラ2によって、車両前方の障害物の検出が行われ、ステップQ5において、障害物が存在するか否か(検出されたか否か)が判別され、前記ステップQ5の判別でYESのときは、ステップQ6において、障害物の位置が算出され、ステップQ7において、障害物の移動速度と進行方向とが算出され、ステップQ8において、所定時間後の障害物の位置が算出され、 ステップQ9において、前記ステップQ8で算出された障害物の位置が、物理限界エリアP3内であるか否かが判別され、前記ステップQ9の判別でYESのときは、ステップQ10において、衝突に備えて、シートベルトを引き戻し操作して、乗員をシートバックに押しつける、プリクラッシュセーフティが作動され、 前記ステップQ9の判別でNOのときは、ステップQ11において、Q8で算出された障害物の位置が、判断エリアP2内であるか否かが判別され、前記ステップQ11の判別でYESのときは、ステップQ12において、衝突警報と、自動ブレーキ装置によって減速したりする等の衝突回避の制御との少なくとも一方が行われる、 障害物との衝突(接触)回避のための車両用運転支援方法。」 《引用文献1事項》 「物理限界エリアP3内に障害物が検出されたときには、車両Vの乗員の安全を確保する制御として、例えば、自動ブレーキ装置によって急制動したり、自動操舵装置によって少しでも障害物からずれるように大きく自動操舵したり、シートベルトを強制的に引き込み操作して乗員をシートバックに強く押し付ける等の制御が行われ、これらの制御を組み合わせた制御を行うこともできること。」 イ.周知技術 (ア)本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2005-182504号公報には、「駐車支援システム」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。 「【要約】 【課題】 駐車場全体における空き駐車区画を容易に探し、自車両を目標とする空き区画に容易に駐車できるようにする。 【解決手段】 駐車場に設置されて駐車場全体を上方から撮像するカメラ2からの画像信号を駐車場内の車載装置11へ送信し、車載装置11は、受信した画像信号を基に自車両を含む車両が表示された駐車場平面図を作成し、駐車場平面図および自車両の諸元から自車両が駐車可能な空き区画を検出し、自車両の現在位置から空き区画までの誘導経路および空き区画内へ自車両を導くための予想軌跡を算出してモニタ画面に表示する。」 「【0032】 駐車場が広い場合には、駐車場側辺には複数のカメラが設置され、駐車場設備1からは複数のカメラからの画像データが車載装置11に送信され、車載装置11は、受信した複数のカメラからの画像を合成して駐車場平面図を作成してモニタ画面に表示する。そして、運転者が、自車両に最も近いカメラの番号を選択して、その番号を示すカメラ選択信号を駐車場設備1へ送信すると、駐車場設備1は、カメラ選択信号により指定されたカメラを選択してそのカメラの画像を車載装置11へ送信する。これにより、自車両を含む拡大された画像がモニタ画面に表示され、明確な駐車場平面図を作成することができる。自車両に最も近いカメラの番号を選択する代わりに、運転者は、自車両の現在位置情報を駐車場設備1へ送信し、駐車場設備1は、その位置情報を基に自車両に最も近いカメラを選択し、そのカメラの画像を車載装置11へ送信することもできる。そして、車両が移動すると、その移動に伴ってカメラの画像が切り換えられることになる。 【0033】 最適駐車空き区画(駐車区画A)が決定されると、次は誘導経路算出部17により誘導経路算出処理が行われる。まずステップS5において、図5に示すように、現在の自車両200の位置から駐車区画Aに駐車するために、一旦、駐車区画Aの前方に進んで停止する進入開始停止位置Pまでの誘導経路Rを算出し、ステップS6で表示出力部19のモニタ画面に表示する。このような目標とする駐車区画までの誘導経路の算出は、前記した特許文献3に記載されており、本実施の形態もこの最短経路トリーをダイクストラ法などを用いて探索する。なお、進入開始停止位置Pは、駐車区画Aに基づいて自ずと決定されるので、予め駐車場設備1からその位置座標を受信して決定することもできる。 【0034】 そして、運転者が自車両を誘導経路に沿って移動させ、進入開始停止位置Pで停車すると、今度はステップS7で、予想軌跡算出部18が進入開始停止位置Pから駐車区画Aに駐車する駐車位置Qまで後退する際の予想軌跡を算出し、ステップS8でその予想軌跡を表示出力部19のモニタ画面に表示する。この予想軌跡の算出および表示は、前記した特許文献2に記載された技術を用いることができる。次いでステップS9で駐車区画A内での駐車が可能かを判断し、駐車不可能であればステップ7に戻って再度予想軌跡を算出し、駐車可能であればステップS10で自車両が駐車位置Qで停止したかを判断し、停止していなければステップS7に戻って以上の処理を繰り返し、停止していれば処理を終了する。」 (イ)本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2003-143595号公報には、「駐車支援システム」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。 「【要約】 【課題】車の後方のカメラは、車のバンパー以後の状況のみであり、車の両側面の状況はサイドミラー等をつかっても死角ができてしまう。また、上記カメラの取付け位置の問題より、車と後方障害物の相対的な距離はわかりづらい。また、車のバンパーのカメラでは、カメラのレンズの画角の問題から、後方の全ての状況は撮影できない。また、車庫入れのたびにディスプレイの表示を切換えるのは、運転者にとってわずらわしい。本発明は、以上述べた従来の駐車支援システムで問題となっていた車庫入れ時の死角を解消することを目的とする。 【解決手段】上記課題は、車庫側から車の進入状況を撮影して、無線により車側に伝送して、車側ではその映像を車室内のディスプレイに表示することにより解決される。」 (ウ)本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2015-5848号公報には、「駐車場撮像送信装置、撮像信号受信装置及び撮像信号受信装置を備えた車両」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。 「【背景技術】 【0002】 従来、自動車などの車両を駐車する際に、後部に人や障害物がないかを確認するため、車両の後部にリアビューカメラを設置することが広く行われている。このようなリアビューカメラは、シフトレバーをバックの位置に切り替えると撮像を開始して運転席の近傍に設けられたモニターに後部の画像を表示するものであり、車両の後部に人や障害物がないかを確認することができる。 【0003】 しかしながら駐車場の後ろの壁ぎりぎりまでバックしたり、駐車場で左右の障害物に余裕を持たせて駐車するためには、駐車場における車両の周囲の状況をより正確に知ることが望まれる。そこで壁や障害物と車両との位置関係をより正確に示すため、図12に示すように、駐車場の上部に設置したカメラで撮像を行い、見おろした画像を車両のモニターに表示させて駐車を支援するシステムが知られている(たとえば、特許文献1参照)。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】 特開2003-143595号公報」 上記(ア)ないし(ウ)に摘記した事項からみて、本願の優先日前、当業者にとって以下の技術が周知であったといえる。 《周知技術》 「駐車場において、駐車場設備であるカメラの画像データのみを用いて、車両の周囲の状況を監視すること。」 (3)対比 引用発明と本件補正発明とを対比する。引用発明の「車両V」は本件補正発明の「走行する自動車(301)」に相当し、同様に、「物理限界エリアP3」は「第1安全範囲(503)」に、「判断エリアP2」は「第2安全範囲(505)」に、相当する。 また、引用発明の「ステップQ4」ないし「ステップQ8」は本件補正発明の「ステップ(105)」に対応するところ、引用発明の「ステップQ4において、レーダ1、カメラ2によって、車両前方の障害物の検出が行われ、ステップQ5において、障害物が存在するか否か(検出されたか否か)が判別され、前記ステップQ5の判別でYESのときは、ステップQ6において、障害物の位置が算出され、ステップQ7において、障害物の移動速度と進行方向とが算出され、ステップQ8において、所定時間後の障害物の位置が算出され」と本件補正発明の「それぞれの安全範囲内へ移動する物体および/またはそれぞれの安全範囲の内部にある物体について第1および第2部分範囲を監視するステップ(105)であって、前記安全範囲の監視が駐車場管理インフラストラクチャに含まれる一つ以上の環境センサのみによって行われるステップ」とは、「それぞれの安全範囲内へ移動する物体および/またはそれぞれの安全範囲の内部にある物体について第1および第2部分範囲を監視するステップであって、前記安全範囲の監視が一つ以上の環境センサによって行われるステップ」という限りにおいて一致する。 さらに、引用発明の「ステップQ9」及び「ステップQ10」は、本件補正発明の「ステップ(107)」に対応するところ、引用発明の「ステップQ9において、前記ステップQ8で算出された障害物の位置が、物理限界エリアP3内であるか否かが判別され、前記ステップQ9の判別でYESのときは、ステップQ10において、衝突に備えて、シートベルトを引き戻し操作して、乗員をシートバックに押しつける、プリクラッシュセーフティが作動され」と本件補正発明の「物体が第1安全範囲(503)の内部にあることが監視により明らかになった場合に、自動車(301)を停止するために自動車(301)の停止を制御するステップ(107)」とは、「物体が第1安全範囲の内部にあることが監視により明らかになった場合に、衝突危険性を低減する動作を実施するステップ」という限りにおいて一致する。 そして、引用発明の「ステップQ12」における「自動ブレーキ装置によって減速したりする」ことは、本件補正発明の「ステップ109」における「現在の自動車速度の低減」に相当し、引用発明の「ステップQ11」及び「ステップQ12」は、本件補正発明の「ステップ(109)」に相当する。 してみると、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。 《一致点》 「走行する自動車と物体とが衝突する衝突危険性を低減するための方法において、 走行する自動車の現在の環境を制限する第1部分範囲を確定する第1安全範囲を決定するステップと、 走行する自動車の現在の環境を制限する第2部分範囲であって、第1部分範囲よりも自動車に対してさらに離間されている第2部分範囲を確定する第2安全範囲を決定するステップと、 それぞれの安全範囲内へ移動する物体および/またはそれぞれの安全範囲の内部にある物体について第1および第2部分範囲を監視するステップであって、前記安全範囲の監視が一つ以上の環境センサによって行われるステップと、 物体が第1安全範囲の内部にあることが監視により明らかになった場合に、衝突危険性を低減する動作を実施するステップと、 物体が第2安全範囲の内部にあることが監視により明らかになった場合に、 現在の自動車速度の低減、 自動車のブレーキ装置の制動準備、および 実施された第2安全範囲の監視についての点検 のすくなくともいずれかである安全動作の実施を制御するステップと、 を含む走行する自動車と物体とが衝突する衝突危険性を低減するための方法。」 《相違点1》 安全範囲の監視が一つ以上の環境センサによって行われることが、本件補正発明では「駐車場管理インフラストラクチャに含まれる一つ以上の環境センサのみによって行われる」ことであるのに対し、引用発明では「レーダ1、カメラ2によって、車両前方の障害物の検出が行われ」ることである点。 《相違点2》 物体が第1安全範囲の内部にあることが監視により明らかになった場合に、衝突危険性を低減する動作を実施することが、本件補正発明では「自動車を停止するために自動車の停止を制御する」ことであるのに対し、引用発明では「衝突に備えて、シートベルトを引き戻し操作して、乗員をシートバックに押しつける、プリクラッシュセーフティが作動され」ることである点。 (4)判断 ア.相違点1について 上記(2)イで示したように、駐車場において、駐車場設備であるカメラの画像データのみを用いて、車両の周囲の状況を監視することは、本願の優先日前に当業者にとっての周知技術であったといえる。 そして、引用発明の「車両用運転支援方法」は、車両を運転すべき場所の一種である駐車場においても実施されるべき発明であることが明らかであるから、引用発明において、車両が駐車場に存在する場合に、「レーダ1、カメラ2によって、車両前方の障害物の検出が行われ」ることに代えて、駐車場設備であるカメラの画像データのみを用いて、車両の周囲の状況を監視するように変更し、相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者にとって容易というべきである。 イ.相違点2について 上記(2)アで示したように、引用文献1には、引用文献1事項、すなわち、「物理限界エリアP3内に障害物が検出されたときには、車両Vの乗員の安全を確保する制御として、例えば、自動ブレーキ装置によって急制動したり、自動操舵装置によって少しでも障害物からずれるように大きく自動操舵したり、シートベルトを強制的に引き込み操作して乗員をシートバックに強く押し付ける等の制御が行われ、これらの制御を組み合わせた制御を行うこともできること」が記載されている。 そして、この記載に接した当業者であれば、引用発明において、「衝突に備えて、シートベルトを引き戻し操作して、乗員をシートバックに押しつける、プリクラッシュセーフティが作動され」ることに代えて、または、付加して、「自動ブレーキ装置によって急制動」を実施するように変更し、相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、容易になし得たことというべきである。 ウ.本件補正発明の作用効果について 上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項、すなわち、安全範囲の監視が一つ以上の環境センサによって行われることが、「駐車場管理インフラストラクチャに含まれる一つ以上の環境センサのみによって行われる」ことについて、本願の願書に添付した明細書(以下、「本願明細書」という。)には、段落【0089】に「一実施形態によれば、安全範囲の監視は、1つ以上の環境センサによって実施される。特に、例えばそれぞれセンサシステムに含まれていてもよい複数の環境センサが使用される。この場合、環境センサは全て自動車に含まれているか、または全て駐車場(駐車場管理監視インフラストラクチャ)に含まれているか、または自動車および駐車場管理監視インフラストラクチャの両方に含まれている。」と記載されているのみであって、前記「駐車場管理インフラストラクチャに含まれる一つ以上の環境センサのみによって行われる」ことがいかなる作用効果を奏するのかについては、本願明細書には何ら説明されていない。 また、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項、すなわち、「自動車を停止するために自動車の停止を制御する」ことが奏する作用効果は、引用発明において、「衝突に備えて、シートベルトを引き戻し操作して、乗員をシートバックに押しつける、プリクラッシュセーフティが作動され」ることに代えて、または、付加して、「自動ブレーキ装置によって急制動」を実施するように変更したものにおいても奏される作用効果であることが明らかである。 したがって、本件補正発明が奏する作用効果は、引用発明、引用文献1事項、上記周知技術から、当業者が予測し得た程度のことであり、格別なものということはできない。 (5)小括 以上のとおり、本件補正発明は、引用発明、引用文献1事項及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和元年8月19日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2の1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項 1ないし15 ・引用文献等 (1)及び(2) <引用文献等一覧> (1)特開2012-234408号公報 (2)特開2009-184376号公報 3 引用文献の記載、引用発明、 (1)引用文献1の記載、引用発明、引用文献1事項 引用文献1の記載、引用発明、引用文献1事項は、前記第2の2(2)アに示したとおりである。 (2)引用文献2の記載、引用文献2事項 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2009-184376号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「駐車支援装置及び駐車支援システム」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。 ア.「【要約】 【課題】駐車目標位置に対する車両の相対的な位置に応じた適切な情報を運転者に的確に伝達すること。 【解決手段】本発明による駐車支援装置は、駐車スペースを撮像する車載カメラ11と、駐車場に設置された駐車場カメラ3から駐車スペースの撮像画像を取得する手段と、車載ディスプレイ14に表示する表示画像を生成する表示制御手段12とを備え、前記表示制御手段は、車載カメラの撮像画像に基づいて表示画像を生成する第1モードと、駐車場カメラからの撮像画像と車載カメラの撮像画像とを合成した鳥瞰画像に基づいて表示画像を生成する第2モードとを備え、前記表示制御手段は、前記第2モードで動作中、前記合成時のマッチング率が低下したときに、第1モードに切り替る。」 イ.「【請求項1】 駐車スペースを撮像する車載カメラと、 駐車場に設置された駐車場カメラから駐車スペースの撮像画像を取得する手段と、 車載ディスプレイに表示する表示画像を生成する表示制御手段とを備え、 前記表示制御手段は、車載カメラの撮像画像に基づいて表示画像を生成する第1モードと、駐車場カメラからの撮像画像と車載カメラの撮像画像とを合成した鳥瞰画像に基づいて表示画像を生成する第2モードとを備え、 前記表示制御手段は、前記第2モードで動作中、前記合成時のマッチング率が低下したときに、第1モードに切り替ることを特徴とする、駐車支援装置。 ・・・ 【請求項4】 請求項1?3のいずれか1項に記載の駐車支援装置と、 駐車場に設置され、駐車スペースを撮像する駐車場カメラと、 前記駐車場カメラの撮像画像を前記駐車支援装置に送信する通信手段とを備えることを特徴とする、駐車支援システム。」 ウ.「【0004】 そこで、本発明は、駐車目標位置に対する車両の相対的な位置に応じた適切な情報を運転者に的確に伝達することができる駐車支援装置及び駐車支援システムの提供を目的とする。」 エ.「【発明の効果】 【0009】 本発明によれば、駐車目標位置に対する車両の相対的な位置に応じた適切な情報を運転者に的確に伝達することができる駐車支援装置及び駐車支援システムが得られる。」 オ.「【0011】 図1は、本発明による駐車支援システム1の一実施例の要部を示すシステム構成図である。駐車支援システム1は、駐車場に設置される駐車施設装置8と、車両に搭載される駐車支援装置20とからなる。 【0012】 駐車施設装置8は、駐車場内の駐車スペースを撮像するように配置された駐車場カメラ3と、通信部5と、制御部6とを含む。」 カ.「【0032】 ステップ110では、駐車支援ECU12は、上記ステップ102で生成した駐車場画像とBGM画像の合成画像(鳥瞰画像)を、ディスプレイ14上に表示(出力)する。図6は、ディスプレイ14上に表示される鳥瞰画像の一例を概略的に示す。これにより、運転者の死角となる部分の情報が補間され、鳥瞰画像を見たユーザ(典型的には、運転者)は、駐車目標位置までの軌道の確認や、軌道上の安全確認を容易に行うことができる。尚、鳥瞰画像には、ユーザが鳥瞰画像であることを理解できるように、その旨(鳥瞰画像であることを示す表示)が重畳表示されてもよい。 【0033】 ステップ112では、駐車支援ECU12は、バックガイドモニタカメラ11のBGM画像をディスプレイ14上に表示(出力)する。図7は、ディスプレイ14上に表示されるBGM画像の一例を概略的に示す。尚、BGM画像には、ユーザがBGM画像であることを理解できるように、その旨(BGM画像であることを示す表示)が重畳表示されてもよい。また、BGM画像には、後退時の操舵態様をガイドするためのガイド表示が重畳表示されてもよい。また、駐車場画像が通信により受信されている場合には、手動で駐車場画像に表示を切り替えることができるようにしてもよい。例えば、駐車場画像が通信により受信されている場合には、BGM画像に、駐車場画像を表示する画面への切替を指示するためのタッチスイッチ70(図7参照)を表示(又はアクティブ化)してもよい。この場合、タッチスイッチ70をユーザが操作すると、図8に示すような駐車場画像がディスプレイ14上に表示される。」 上記アないしカに摘記した事項を整理すると、引用文献2には、次の事項(以下、「引用文献2事項」という。)が記載されているといえる。 《引用文献2事項》 「駐車場に設置され駐車スペースを撮像する駐車場カメラからの駐車場画像を用いて、車両の周囲の状況を監視すること。」 4 対比 本願発明と引用発明との対比、一致点は、上記第2の2(3)に示したとおりであり、本願発明と引用発明とは、上記第2の2(3)に示した《相違点2》に加え、以下の点で相違する。 《相違点1A》 安全範囲の監視が一つ以上の環境センサによって行われることが、本願発明では「駐車場管理インフラストラクチャに含まれる一つ以上の環境センサによって行われる」ことであるのに対し、引用発明では「レーダ1、カメラ2によって、車両前方の障害物の検出が行われ」ることである点。 5 判断 上記相違点2の判断は、上記第2の2(4)イに示したとおりである。 上記相違点1Aについて検討する。 上記3(2)で示したように、引用文献2には、引用文献2事項、すなわち、「駐車場に設置され駐車スペースを撮像する駐車場カメラからの駐車場画像を用いて、車両の周囲の状況を監視すること」が記載されている。 そして、引用発明の「車両用運転支援方法」は、車両を運転すべき場所の一種である駐車場においても実施されるべき発明であることが明らかであるから、上記引用文献2事項に接した当業者ならば、引用発明において、車両が駐車場に存在する場合に、「レーダ1、カメラ2によって、車両前方の障害物の検出が行われ」ることに代えて、駐車場に設置され駐車スペースを撮像する駐車場カメラからの駐車場画像を用いて、車両の周囲の状況を監視するように変更し、相違点1Aに係る本願発明の発明特定事項とすることは、容易になしえたことというべきである。 さらに、本願発明が奏する作用効果は、引用発明、引用文献1事項、引用文献2事項から、当業者が予測し得た程度のことであり、格別なものということはできない。 6 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献1事項及び引用文献2事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものであって、原査定は妥当である。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2020-08-06 |
結審通知日 | 2020-08-07 |
審決日 | 2020-08-18 |
出願番号 | 特願2018-520426(P2018-520426) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B60W)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鶴江 陽介 |
特許庁審判長 |
金澤 俊郎 |
特許庁審判官 |
北村 英隆 渡邊 豊英 |
発明の名称 | 自動車と物体とが衝突する衝突危険性を低減するための方法および装置 |
代理人 | 中西 基晴 |
代理人 | 宮前 徹 |
代理人 | 松尾 淳一 |
代理人 | 山本 修 |
代理人 | 小野 新次郎 |