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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1369776
審判番号 不服2020-3623  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-03-17 
確定日 2021-01-04 
事件の表示 特願2015-194698「熱電変換モジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月 6日出願公開,特開2017- 69443〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成27年9月30日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 元年 5月24日付け:拒絶理由通知書(起案日)
令和 元年 7月29日 :意見書,手続補正書の提出
令和 元年12月19日付け:拒絶査定(起案日)(以下「原査定」という。)
令和 2年 3月17日 :審判請求書,手続補正書の提出

第2 令和2年3月17日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年3月17日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された。(下線部は,補正箇所である。)
「【請求項1】
250℃以上の熱源を用いた熱電発電に適用される熱電変換モジュールであって,
第1主面と,前記第1主面とは反対の第2主面と,前記第1主面に配列された複数の第1電極と,前記第2主面に設けられた第1メタライズ層と,を有し,最大径が15mm以下になるように分割され,前記第1電極と前記第1メタライズ層との厚さの差が前記第1電極の厚さの20%以下である高温側基板と,
前記第1主面に対向する第3主面と,前記第3主面とは反対の第4主面と,前記第3主面に配列された複数の第2電極と,前記第4主面に設けられ,所定のパターンで分割された第2メタライズ層と,前記第2電極に接続されたリード線と,を有する低温側基板と,
前記第1主面と前記第3主面との間に配列され,それぞれ前記第1電極及び前記第2電極に接続された複数の熱電素子と,
を具備する熱電変換モジュール。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,令和元年7月29日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
第1主面と,前記第1主面とは反対の第2主面と,前記第1主面に配列された複数の第1電極と,前記第2主面に設けられた第1メタライズ層と,を有し,最大径が15mm以下になるように分割され,前記第1電極と前記第1メタライズ層との厚さの差が前記第1電極の厚さの20%以下である高温側基板と,
前記第1主面に対向する第3主面と,前記第3主面とは反対の第4主面と,前記第3主面に配列された複数の第2電極と,前記第4主面に設けられ,所定のパターンで分割された第2メタライズ層と,前記第2電極に接続されたリード線と,を有する低温側基板と,
前記第1主面と前記第3主面との間に配列され,それぞれ前記第1電極及び前記第2電極に接続された複数の熱電素子と,
を具備する熱電変換モジュール。」

2 補正の適否
本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「熱電変換モジュール」について,さらに「250℃以上の熱源を用いた熱電発電に適用される」ものに限定するものであって,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,特開2008-244100号公報(平成20年10月9日出願公開。以下「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。(下線は当審で付加した。以下同じ。)
「【0002】
従来より,P型半導体からなる熱電素子とN型半導体からなる熱電素子を隣り合わせて交互に配列し,これらの各熱電素子を直列に導電接続されるように,熱電素子用配線パターンが形成された上基板と下基板との間に配設して構成された熱電モジュールは広く知られている。この種の熱電モジュールにおいては,基板(上基板と下基板とからなる一対の基板)が比較的大面積となる場合は,放熱側と吸熱側との温度差により熱歪みが生じ,基板に反りが発生したり熱電素子が破損するという問題を生じた。
【0003】
そこで,一対の基板の内の少なくとも一方の基板を分割して形成した分割基板を用いることが,特許文献1(特開平09-223823号公報)や特許文献2(特開2000-68564号公報)や特許文献3(特開2006-216642号公報)で提案されるようになった。また,このような分割基板を用いた熱電モジュールにおいて,熱電素子(ペルチェ素子)の表面に防湿膜を形成することが特許文献4(特開2000-286460号公報)で提案されるようになった。ここで,このような一対の基板の内の少なくとも一方の基板を分割して形成した分割基板を用いた熱電モジュールの一例を図9に基づいて,以下に説明する。」

「【0006】
上述のように,上基板71,72,73,74が4つに分割されていると,上基板71,72,73,74と下基板75との間に温度差が生じても,熱電素子76に熱歪みが生じることが防止できるので,上基板71,72,73,74や下基板75に反りが発生したり,熱電素子76が破損することが防止でき,熱電モジュール70の寿命を長くすることが可能となる。
【特許文献1】特開平09-223823号公報
【特許文献2】特開2000-68564号公報
【特許文献3】特開2006-216642号公報
【特許文献4】特開2000-286460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら,上述した各特許文献にて提案された熱電モジュールにおいては,各分割基板の平面度のバラツキまでは考慮されていない。このため,平面度の低さに起因して基板と被冷却物との間で熱抵抗が増加するようになって,冷却効果の低下につながる事態となる。また,各分割基板あるいは通常の基板においては,熱電素子を接合するために,通常,一方の表面には熱電素子接合用の配線パターン(導電層)が形成されていて,ハンダ付け等により,熱電素子が熱電素子接合用の配線パターン(導電層)に接合されるようになされている。ところが,銅(Cu)からなる熱電素子接合用の配線パターン(導電層)は基板の一方の表面のみに形成されている。
【0008】
このため,熱電素子の接合時に一方の表面と他方の表面との間に歪みを生じ,基板に反りが発生するという問題も生じた。これは,次のような理由による。即ち,接合時のハンダ付け工程において,基板がハンダの融点以上に加熱されたとき,基板材料のセラミック材の熱膨張率に比較して銅(Cu)の熱膨張率が大きいために,銅(Cu)がより大きく膨張することとなる。このため,基板の片側のみにしか熱電素子接合用の配線パターン(導電層)を形成した銅(Cu)が存在しないと基板に反りが生じることとなる。」

「【0011】
本発明の熱電モジュールは,裏面に熱電素子用(熱電素子接合用)配線パターンが形成された上基板と,表面に熱電素子用配線パターンが形成された下基板と,これらの両基板の熱電素子用配線パターン間で直列接続されるように配置・固定された複数の熱電素子とからなる。そして,上基板あるいは下基板のうち少なくとも一方の基板は複数個に分割されているとともに,複数個に分割されている基板の熱電素子用配線パターンが形成されていない表面にはメタライズ層が形成されている。
【0012】
このように,熱電素子用配線パターンが形成されていない表面にはメタライズ層が形成されていると,基板の一方面に形成された熱電素子用配線パターンと他方面に形成されたメタライズ層により,熱電素子の接合時の加熱による基板の両面の延びが略均衡するようになる。これにより基板に反りが生じることを防止できるようになる。この場合,基板全体の反りを小さくするためには,メタライズ層の厚みは熱電素子用配線パターンの厚みと同等以下になるように形成されているのが望ましい。」

「【0020】
1.実施例1
本実施例1の熱電モジュール10は,図1に示すように,4つに分割された分割上基板11,12,13,14および1枚の下基板15と,これらの間で電気的に直列接続された多数の熱電素子16とからなる。ここで,分割上基板11,12,13,14および下基板15は,アルミナ(Al_(2)O_(3)),窒化アルミナ(AlN),炭化珪素(SiC)などのセラミック材(例えば,厚みが0.30mmのもの)により形成されている。なお,セラミック材でなくても,電気絶縁性のある基板であれば材質は問わない。
【0021】
また,各分割上基板11,12,13,14の表面(図1においては下面(裏面)となる)には熱電素子用(熱電素子接合用)配線パターン(導電層)11a,12a,13a,14aが形成されており,下基板15の表面(図1においては上面となる)にも熱電素子用配線パターン(導電層)15aが形成されている。なお,熱電素子用配線パターン11a,12a,13a,14aおよび15aの上にニッケルめっき層や金めっき層を設けるようにしてもよい。この場合,熱電素子用配線パターン11a,12a,13a,14aおよび15aは,例えば,銅めっき法やDBC(ダイレクトボンディングカッパー)法やロウ付け法などで形成するようにすればよい。
【0022】
一方,各分割上基板11,12,13,14の各表面(図1においては上面となる)にはメタライズ層11b,12b,13b,14bが形成されており,下基板15の表面(図1においては下面(裏面)となる)にも4つに分割されたメタライズ層15b,15b,15b,15bが形成されている。なお,メタライズ層11b,12b,13b,14bおよび15b,15b,15b,15bの上にニッケルめっき層や金めっき層を設けるようにしてもよい。この場合,メタライズ層11b,12b,13b,14bおよび15b,15b,15b,15bは,例えば,銅めっき法やDBC(ダイレクトボンディングカッパー)法やロウ付け法などで形成するようにすればよい。
【0023】
なお,各分割上基板11,12,13,14は,例えば,16mm×16mmの1枚の基板が4分割されて形成されていて,分割部xの幅が0.4mmになるように形成されている。また,熱電素子用配線パターン11a,12a,13a,14aの厚みが,例えば,60μmになるように形成されているとともに,メタライズ層11b,12b,13b,14bの厚みが,例えば,20μmになるように形成されている。一方,下基板15は,例えば,16mm×18mmの大きさに形成されていて,メタライズ層15b,15b,15b,15bは4分割されるように形成されている。そして,下基板15の熱電素子用配線パターン15aの厚みが,例えば,60μmになるように形成されているとともに,メタライズ層15b,15b,15b,15bの厚みが,例えば,20μmになるように形成されている。
【0024】
そして,これらの熱電素子用配線パターン11a,12a,13a,14aと15aとの間に,多数の熱電素子16が電気的に直列接続されて形成されているとともに,下基板15に形成された熱電素子用配線パターン15aの端部には一対の電極部15c,15cが形成されていて,この電極部15c,15cにハンダ付けされているリード線(スズめっき銅線や金メッキ銅線など)17,17を通して熱電素子16に外部電力が供給されるようになされている。この場合,熱電素子16は,P型半導体化合物素子とN型半導体化合物素子とからなるものである。そして,これらがP,N,P,N・・・の順に電気的に直列に接続されるように,熱電素子用配線パターン11a,12a,13a,14aと15aにSnSb合金やSnAu合金やSnAgCu合金からなるハンダによりハンダ付けされている。
【0025】
熱電モジュール10を上述のような構造とすることにより,4つの分割上基板11,12,13,14と下基板15との間に温度差が生じたとしても,各熱電素子16に付与される温度差に起因する熱的応力を分散でき,その大きさを低減することが可能となる。この結果,長寿命の熱電モジュール10とすることが可能となる。
【0026】
また,各分割上基板11,12,13,14は下面(裏面)に熱電素子用配線パターン11a,12a,13a,14aが形成されているとともに上面にメタライズ層11b,12b,13b,14bが形成されている。一方,下基板15は上面に熱電素子用配線パターン15aが形成されているとともに下面(裏面)にメタライズ層15b,15b,15b,15bが形成されている。このため,ハンダ付け時にハンダの融点以上に加熱されても,各分割上基板11,12,13,14および下基板15の両面の延びが略均衡するようになる。
【0027】
上述のような構成となる熱電モジュール10においては,4つに分割された分割上基板11,12,13,14を用い,かつそれらの表面にメタライズ層11b,12b,13b,14bが形成されているので各分割上基板11,12,13,14の平面度が向上(図9に示す分割上基板71,72,73,74の平面度が22μmであるのに対して,8μmに向上していた)することとなる。このように各分割上基板11,12,13,14および下基板15に反りが生じることが防止できるようになり,さらに長寿命化を達成することが可能となる。」

「【0032】
なお,1枚の上基板を分割して複数の分割上基板にすることに代えて,1枚の下基板を分割して複数の分割下基板にするようにしてもよい。また,1枚の上基板を分割して複数の分割上基板にするとともに,1枚の下基板も分割して複数の分割下基板にするようにしてもよいが,この場合は,複数のP型半導体化合物素子とN型半導体化合物素子とからなる熱電素子16が直列に接続され,かつ熱電モジュール10が形成されたときにバラバラならないに考慮する必要がある。また,ダイシング加工により切断される基板においては,メタライズ層を切断するとバリが発生して基板表面から突出するようになる。このため,切断部にはメタライズ層がないことが望ましい。」

「【図1】



(イ)上記記載から,引用文献1には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 引用文献1に記載された技術は,熱電モジュールであって,放熱側基板と吸熱側基板との温度差により熱歪みが生じ,基板に反りが発生したり熱電素子が破損するという問題に対し,上基板を分割することにより反りの発生や熱電素子の破損を防ぐものであって,各基板の一方のみに熱電素子接合用の導電層が形成されていることにより,熱電素子の接合時の半田付け工程において,基板に反りが生じることを課題とするものである(【0002】-【0003】,【0006】-【0008】)。

b 基板の一方面に形成された熱電素子用配線パターンと他方面に形成されたメタライズ層により,熱電素子の接合時の加熱による基板の両面の延びが略均衡するようになり,基板に反りが生じることを防止できるようになる(【0012】)。

c 基板全体の反りを小さくするためには,メタライズ層の厚みは熱電素子用配線パターンの厚みと同等以下になるように形成されているのが望ましい(【0012】)。

d 熱電モジュール10は,4つに分割された分割上基板11,12,13,14および1枚の下基板15と,これらの間で電気的に直列接続された多数の熱電素子16とからなる(【0020】,【図1】)。

e 各分割上基板11,12,13,14の下面には複数の熱電素子用配線パターン11a,12a,13a,14aが形成されており,下基板15の上面にも複数の熱電素子用配線パターン15aが形成されている(【0021】【図1】)。

f 各分割上基板11,12,13,14の上面にはメタライズ層11b,12b,13b,14bが形成されており,下基板15の下面にも4つに分割されたメタライズ層15b,15b,15b,15bが形成されている(【0022】【図1】)。

g 各分割上基板11,12,13,14は,例えば,16mm×16mmの1枚の基板が4分割されて形成されていて,分割部xの幅が0.4mmになるように形成されている(【0023】)。

h 熱電素子用配線パターン11a,12a,13a,14aの厚みが,例えば,60μmになるように形成されているとともに,メタライズ層11b,12b,13b,14bの厚みが,例えば,20μmになるように形成されている(【0023】)。

i 下基板15の熱電素子用配線パターン15aの厚みが,例えば,60μmになるように形成されているとともに,メタライズ層15b,15b,15b,15bの厚みが,例えば,20μmになるように形成されている(【0023】)。

j 下基板15に形成された熱電素子用配線パターン15aの端部には一対の電極部15c,15cが形成されていて,この電極部15c,15cにハンダ付けされているリード線17,17を通して熱電素子16に外部電力が供給されるようになされている(【0024】,【図1】)。

k 1枚の上基板を分割して複数の分割上基板にすることに代えて,1枚の下基板を分割して複数の分割下基板にするようにしてもよく,1枚の上基板を分割して複数の分割上基板にするとともに,1枚の下基板も分割して複数の分割下基板にするようにしてもよい(【0032】)。

(ウ)上記(ア),(イ)から,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「下面に複数の熱電素子用配線パターン11a,12a,13a,14aが形成され,上面にメタライズ層11b,12b,13b,14bが形成され,例えば,16mm×16mmの1枚の基板が4分割されて形成され,メタライズ層の厚みは熱電素子用配線パターンの厚みと同等以下になるように形成され,例えば熱電素子用配線パターンは60μm,メタライズ層の厚みが20μmになるように形成される各分割上基板11,12,13,14と,
上面に複数の熱電素子用配線パターン15aが形成され,下面に4つに分割されたメタライズ層15b,15b,15b,15bが形成され,熱電素子用配線パターン15aの端部には一対の電極部15c,15cが形成されていて,この電極部15c,15cにハンダ付けされているリード線17,17を通して熱電素子16に外部電力が供給されるようになされている,下基板15と,
各分割上基板11,12,13,14の下面と下基板15の上面との間に配置され,熱電素子用配線パターン11a,12a,13a,14aと熱電素子用配線パターン15aに接続された多数の熱電素子16と,
を有する熱電モジュール。」

イ 引用文献2
(ア)同じく原査定に引用され,本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平7-335945号公報(以下「引用文献2」という。)には,次の記載がある。
「【0002】
【従来の技術】熱電対列は冷却,加熱または電気エネルギーの発生に使用され,日常生活,貿易,計器関係,エレクトロニックス,コンピュータその他各方面の技術分野,たとえば空調機の熱電加熱,温度制御装置,さらには諸目的の熱電源として使用することができる。」

「【0005】
【発明が解決しようとする課題】この発明の技術に最も近似するものとしては,前記マルロウ社によって製造されているMI1063熱電対列である。この熱電対列は吸熱および放熱用の熱伝導性の複数のセラミックス板から構成してある。その各セラミックス板の一方の表面には半導体のn-形の腕とp-形の腕とを接続するために銅板にはんだ付けした金属パッドを備えている。この形式の熱電対列は銅とセラミックスとの熱膨張係数の相違によって機械的ストレスを招き,熱電対列の信頼性を損ない,とくにオン-オフ操作を繰り返してゆくと,その支障が激しく,結局は故障してしまう。」

「【0007】
【課題を解決するための手段】この目的を達成するために,この発明の熱電対列は内側面にn-型の半導体の腕とp-型の半導体の腕と,その接合板とからなる金属被覆パターンを備えた2枚のセラミックス板から成り,その信頼性を高めるために,セラミックス板の外側面に内側面の接合板に類似する板体が(はんだ付けで)取り付けてある。
【0008】セラミックス板の外側面に取り付けた板体は,その内側面に取り付けた接合板と同一のもので,熱膨張したときにセラミックス板が湾曲しようとする力を極力抑えて,熱電対列の信頼性を高める役目を果たすのである。」

「【0012】図に示すように,セラミックス板3の外側面は,その内側面のパッド4と背中合わせにパッド4’を配した金属パターンを形成している。このようにして,各セラミックス板3の一方の側面のパターンはその他方の側面のパターンと同じにしてある。セラミックス板3の外側面の金属パッド4’には金属板2’をはんだ付けして,接合板2と同一の構造にしてある。
【0013】
【発明の作用と効果】この発明の熱電対列の作動は熱電対列を電流が流れるときの熱電対列の接合部における放熱と吸熱に基づくものであって,先行技術の装置の作動と同様である。 熱電対列の作動時には,その構成部分の温度が変化し,使用されている材料,とくに接合板2とセラミックスとの熱膨張係数の相違によって機械的なストレスを発生する。しかしながら,セラミックス板3の外側面に内側面の接合板2と同一の金属板2’が取り付けてあって,セラミックス板3の両側面が同一の状態にしてあるので,熱膨張によって湾曲しようとする力を最小限度のものにする。これによって,熱電対列の寿命を長くし,無事故の作動を行うことができるという効果がある。」

(イ)上記記載から,引用文献2には,次の技術が記載されていると認められる。
a 熱電対列は冷却,加熱または電気エネルギーの発生に使用される(【0002】)。

b 各セラミックス板3の一方の側面の金属パッド4と他方の側面の金属パッド4は同じにしてあり,金属パッド4には接合板2を取り付け,金属パッド4‘には接合板2と同一のものである金属板4’を取り付けることにより,セラミックス板3の両側面が同一の状態にしてあるので,熱膨張によって湾曲しようとする力を最小限度のものにする(【0008】,【0013】)。

ウ 引用文献3
(ア)同じく原査定に引用され,本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2007/109368号(以下「引用文献3」という。)には,次の記載がある。
「BACKGROUND OF THE INVENTION
A thermoelectric module can be used either to produce electric power from a temperature differential or to produce cooling from an electric current.」(第1頁第10行?第12行)(日本語訳は当合議体で作成した。以下同じ。:発明の背景
熱電モジュールは,温度差から電力を生成するために,あるいは電流から冷却を生成するために使用することができる。)

「A typical embodiment of a thermoelectric module of the prior art is shown in FIG. 1. It consists of two substrates 1 made of a rigid dielectric material, such as alumina, aluminum nitride or any other suitable insulating substrate.
Interconnection elements 3 are placed on the interior surfaces of the two substrates 1 to connect the thermoelements 4, as described below. Generally, a layer of copper or any other metallic conductor is adhered to the interior surfaces of the substrate and is etched to leave only the desired interconnection elements 3. The thickness of conventional interconnection elements 3 usually ranges between 0.004 inches to 0.02 inches. In addition, a complimenting layer of metal 5 such as copper, with similar thickness as the metallic layer on the inside, is often placed on the exterior surfaces of the two substrates 1 to help prevent warping of the substrates 1 due to differential expansion coefficients between the substrate material and the metallic conductors on the inside surface of the module. The metallic layer on the outside, or strengthening element, 5 is usually produced to mirror the interconnection elements 3 on the inside of the module, using the same process as is used for the interconnection elements 3.」(第1頁第18行?第2頁第7行)(従来技術の熱電モジュールの典型的な実施例を図1に示す。剛性誘電体材料で形成された2枚の基板1は,アルミナ,窒化アルミニウムまたはその他適切な絶縁性基板から構成されている。
以下に説明するように,相互接続要素3は2枚の基板1の内面上に載置され,熱電素子4と接続される。一般に,銅または任意の他の金属導体の層は,基板の内表面に付着され,エッチングにより所望の配線要素3のみ残される。従来の相互接続要素3の厚さは,通常0.004インチと0.02インチの範囲である。内側の金属層と同様の厚さを有し,例えば銅からなる補完層である金属5は,2枚の基板1の外面上に載置され,基板材料とモジュールの内面上の金属導体との間の膨張率の差に起因する基板1の反りを防止するのを助ける。外側の金属層,又は補強要素5は,モジュール内側の相互接続要素3を反映し,相互接続要素3と同じプロセスで形成される。)

(イ)上記記載から,引用文献3には,次の技術が記載されていると認められる。
a 熱電モジュールは,温度差から電力を生成するために,あるいは電流から冷却を生成するために使用することができる(第1頁第10行?第12行)。

b 基板1と基板1の内面上に形成される相互接続要素3との間の膨張率の差に起因する基板1の反りを防止するために,基板1の外面上に,相互接続要素3と同様の厚さを有し同様のプロセスで形成される金属5を配置する(第1頁第18行?第2頁第7行)。

エ 引用文献4
(ア)同じく原査定に引用され,本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2007/105361号(以下「引用文献4」という。)には,次の記載がある。
「[0002] 電気自動車や電車等の大電流を制御する部品として, パワー半導体モジュールが使用されている。 また, 廃熱を利用して発電を行う装置,半導体プロセスにおける恒温装置,電子デバイスを冷却する装置等に熱電変換モジュールが使用されている。これら電子部品モジュールにおいては,パワー半導体素子や熱電素子を実装する基板として, セラミックス基板の両面に金属板を接合した回路基板が用いられている(特許文献1,2参照) 。」

「[0005] しかしながら,今後のパワー半導体モジュールや熱電変換モジュールにおいては,次のような課題がある。例えば,Si素子に代えてSiC素子のような高温動作型のワイドギャップ半導体単結晶素子を用いた場合,その特性を十分に発揮させるためには300?500℃といった高温環境下で動作させる必要がある。高温環境下で動作させるSiC素子を従来の半田付けで回路基板上に固定した場合,SiC素子の動作温度で回路基板との固定状態が不安定になり,SiC素子の剥がれ等を招いてしまう。
[0006] 高温環境下で動作可能な熱電変換モジュールを使用した場合,例えば自動車や工場等から排出される500℃前後の高温廃熱から電気エネルギーを作り出すことができ,環境負荷の低減が期待できる。しかしながら,パワー半導体モジュールと同様に,高温環境下で使用される熱電素子を従来の半田付けで回路基板上に固定した場合には,回路基板に対する熱電素子の固定状態を安定に保つことができない。熱電変換モジュールでは拡散防止や応力緩和のために,熱電素子と電極との間にチタン層等を中間層として介在させることも行われている(特許文献4参照)。 しかし,ここでは中間層や電極を溶射法で形成しているため,熱電変換モジュールの製造性に難点を有している」

「[0020] 第1の金属板5と第2の金属板7との厚さ比を50%以上200%以下とすることによって,回路基板 2の反り量を例えば回路基板2の大きさが60mm×60mm以下の場合に15μm以下とすることができる。 従って,ろう材層8,10を均一な厚さに塗布することができる。電子部品9が複数個ある場合,それらを一括して適切に回路基板2上に接触,配置して接合することができる。金属板5,7の厚さ比(t1/t2比)は回路基板2の反り量をさらに低減する観点から,75%以上150%以下の範囲とすることが好ましく,100%程度とすればさらに好ましい。 このような金属板5,7の厚さ比は,特に使用環境温度が200℃以上のときに好適である。」

「[0050] 図3に示す熱電変換モジュール20は, 上下の回路基板2A,2B間に温度差を与えるように,第1の回路基板2Aを低温側(L)に配置すると共に ,第2の回路基板2Bを高温側 (H)に配置して使用される。この温度差に基づいて第1の電極5Aと第2の電極5Bとの間に電位差が生じ,電極の終端に負荷を接続すると電力を取り出すことができる。このように,高温動作型の熱電素子9A,9Bを使用することによって,熱電変換モジュール20を発電装置として利用することができる。
[0051] 熱電素子9A,9Bを搭載した熱電変換モジュール20においては,熱電素子9A,9Bの動作環境温度より高い融点を有するろう材層8を用いることによって, 回路基板2からの熱電素子9A,9Bの剥離や特性劣化等を抑制することができる。さらに,高温側(H)に配置される第1の電極(第1の回路基板2Aの第1の金属板5A)の厚さを低温側(L)に配置される第2の電極(第2の回路基板2Bの第1の金属板5B)の厚さより薄くすることが好ましい。 これによって, 熱電変換モジュール20のヒートサイクル特性(TCT特性)をさらに高めることが可能となる。特に,高温側(H)と 低温側(L)との温度差が300℃以上, さらには400℃以上の動作環境下におけるヒートサイクル特性等を向上させることができる。
[0052] なお,熱電変換モジュール20は熱を電力に変換する発電用途に限らず,電気を熱に変換する加熱用途にも使用可能である。すなわち,直列接続されたp型熱電素子9Aとn型熱電素子9Bに直流電流を流すと,一方の回路基板側では放熱が起こり,他方の回路基板側では吸熱が起こる。従って,放熱側の回路基板上に被処理体を配置することで,被処理体を加熱することがで きる。 例えば,半導体製造装置では半導体ウェハの温度制御を実施しており,このような温度制御に熱電変換モジュール20を適用することができる。
[0053] 熱電変換モジュール20は図4に示すようにケース21内に収容して使用することも可能である。熱電変換モジュール20はケース21に設けられた 電極22と導電性ワイヤ23を介して電気的に接続されている。ケース21内には熱電変換モジュール20を封止するように絶縁物質24が充填されて いる。絶縁物質24としては,例えばシリコーンゲル等のゲル状封止体が好適に用いられる。ケース21による封止構造は熱電変換モジュール20のみならず,パワー半導体モジュールに対しても有効である。」

「[図3]



「[図4]



(イ)上記記載から,引用文献4には,次の技術が記載されていると認められる。
a 廃熱を利用して発電を行う装置,半導体プロセスにおける恒温装置,電子デバイスを冷却する装置等に熱電変換モジュールが使用されている([0002])。

b 高温環境下で動作可能な熱電変換モジュールを使用した場合,例えば自動車や工場等から排出される500℃前後の高温廃熱から電気エネルギーを作り出すことができ,環境負荷の低減が期待できる([0006])。

c 特に使用環境温度が200℃以上のときに,金属板5,7の厚さ比は回路基板2の反り量を低減する観点から,100%程度とすれば好ましい([0020])。

d 第1の回路基板2Aを下側である低温側に配置し,第2の回路基板2Bを上側である高温側に配置し,第1の回路基板2Aは導電性ワイヤ23を介して電極22と接続され,高温側と低温側の温度差が300℃以上,さらには400℃以上の動作環境で使用される([0050],[0051],[0053],[図3],[図4])。

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「複数の熱電素子用配線パターン11a,12a,13a,14a」は,本願補正発明の「複数の第1電極」に相当する。
また,引用発明の「メタライズ層11b,12b,13b,14b」は,本願補正発明の「第1メタライズ層」に相当する。
また,引用発明の「分割上基板11,12,13,14」は,16mm×16mmの1枚の基板が4分割されて形成されるため,各分割上基板の一辺の長さは4mm以下となり,その最大径である対角線の長さは6mm以下となるものと認められるから,本願補正発明における「最大径が15mm以下になるように分割され」ている点を満たしている。
したがって,引用発明の「下面に熱電素子用配線パターン11a,12a,13a,14aが形成され,上面にメタライズ層11b,12b,13b,14bが形成され,例えば,16mm×16mmの1枚の基板が4分割されて形成される各分割上基板11,12,13,14」と,本件補正発明の「第1主面と,前記第1主面とは反対の第2主面と,前記第1主面に配列された複数の第1電極と,前記第2主面に設けられた第1メタライズ層と,を有し,最大径が15mm以下になるように分割され,前記第1電極と前記第1メタライズ層との厚さの差が前記第1電極の厚さの20%以下である高温側基板」とは,後記の点で相違するものの,「第1主面と,前記第1主面とは反対の第2主面と,前記第1主面に配列された複数の第1電極と,前記第2主面に設けられた第1メタライズ層と,を有し,最大径が15mm以下になるように分割された第1の基板」である点で一致する。

(イ)引用発明の「複数の熱電素子用配線パターン15a」は,本願補正発明の「複数の第2電極」に相当する。
また,引用発明の「4つに分割されたメタライズ層15b,15b,15b,15b」は,本願補正発明の「所定のパターンで分割された第2メタライズ層」に相当する。
また,引用発明の「リード線17,17」は,「下基板15」上の「複数の熱電素子用配線パターン15a」の端部に形成された「一対の電極部15c,15c」と電気的に接続されているから,本願補正発明における「前記第2電極に接続されたリード線」に相当する。
したがって,引用発明の「上面に熱電素子用配線パターン15aが形成され,下面に4つに分割されたメタライズ層15b,15b,15b,15bが形成され,リード線17,17を有する下基板15」と,本件補正発明の「前記第1主面に対向する第3主面と,前記第3主面とは反対の第4主面と,前記第3主面に配列された複数の第2電極と,前記第4主面に設けられ,所定のパターンで分割された第2メタライズ層と,前記第2電極に接続されたリード線と,を有する低温側基板」は,後記の点で相違するものの,「前記第1主面に対向する第3主面と,前記第3主面とは反対の第4主面と,前記第3主面に配列された複数の第2電極と,前記第4主面に設けられ,所定のパターンで分割された第2メタライズ層と,前記第2電極に接続されたリード線と,を有する第2の基板」である点で一致する。

(ウ)引用発明の「各分割上基板11,12,13,14の下面と下基板15の上面との間に配置され,熱電素子用配線パターン11a,12a,13a,14aと熱電素子用配線パターン15aに接続された多数の熱電素子16」は,本願補正発明の「前記第1主面と前記第3主面との間に配列され,それぞれ前記第1電極及び前記第2電極に接続された複数の熱電素子」に相当する。

イ 以上のことから,本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
【一致点】
「第1主面と,前記第1主面とは反対の第2主面と,前記第1主面に配列された複数の第1電極と,前記第2主面に設けられた第1メタライズ層と,を有し,最大径が15mm以下になるように分割された第1の基板と,
前記第1主面に対向する第3主面と,前記第3主面とは反対の第4主面と,前記第3主面に配列された複数の第2電極と,前記第4主面に設けられ,所定のパターンで分割された第2メタライズ層と,前記第2電極に接続されたリード線と,を有する第2の基板と,
前記第1主面と前記第3主面との間に配列され,それぞれ前記第1電極及び前記第2電極に接続された複数の熱電素子と,
を具備する熱電変換モジュール。」

【相違点1】
本願補正発明は,「250℃以上の熱源を用いた熱電発電に適用される熱電変換モジュール」であるが,引用発明では,熱電変換モジュールが「250℃以上の熱源を用いた熱電発電に適用される」ことについて特定されていない点。

【相違点2】
本件補正発明では,上側に配置された「第1の基板」が「高温側基板」であり,下側に配置された「第2の基板」が「低温側基板」であるのに対し,引用発明では「第1の基板」に対応する「各分割上基板11,12,13,14」と「第2の基板」に対応する「下基板15」のいずれが「高温側」又は「低温側」であるか,特定されていない点。

【相違点3】
本件補正発明では,「第1電極と第1メタライズ層との厚さの差が第1電極の厚さの20%以下である」のに対し,引用発明では,「メタライズ層の厚みは熱電素子用配線パターンの厚みと同等以下になるように形成され,例えば熱電素子用配線パターンは60μm,メタライズ層の厚みが20μmになるように形成され」ている点。

【相違点4】
本件補正発明では,「リード線」は「低温側基板」に備えられるものであるのに対し,引用発明では,「リード線17,17」は,「下基板15」に備えられているものの,相違点2で記載したように,引用発明においては「下基板15」が低温側であることが特定されていないため,引用発明において「リード線17,17」が低温側の基板に備えられていることが特定されていない点。

(4)判断
以下,相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用文献2-4に見られるように,熱による熱電素子デバイスの変形を防ぐことを目的とした構成を有する熱電変換モジュールを熱発電に用いることは周知技術である。よって,上記周知技術に接した当業者であれば,引用文献1に記載の熱電変換モジュールの構成を熱発電に用いることに格別の困難性を生じない。また,熱発電の熱源の温度をどの程度のものを用いるかは,当業者が適宜設定しうる程度のものにすぎず,例えば引用文献4には「高温側と低温側の温度差が300℃以上,さらには400℃以上の動作環境で使用される」との記載があることから,250℃以上の熱源に対応する熱電素子デバイスとすることも,当業者が容易になし得るものである。

イ 相違点2及び4について
熱電変換素子の基本構造として,リードを有する側を低温側とすることは設計事項であるので,引用文献1に明記がないとしても,引用文献1の「下基板15」を低温側とし,「各分割上基板11,12,13,14」を「高温側」とすることは容易になし得たことである(リードを有する側を低温側とすることについては以下の周知文献1ないし3を参照のこと)。

・周知文献1
(ア)本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2013/27661号には,次の記載がある。
「【0031】例えば,図11に示すように,1つのp型熱電変換材料101と,1つのn型熱電変換材料102とを備え,p型熱電変換材料101とn型熱電変換材料102とが,高温側端面103aにおいて高温側接続電極104を介して接続され,かつ,p型熱電変換材料101およびn型熱電変換材料102の低温側端面103bには,それぞれ,電極(取り出し電極)105が配設されたπ型の熱電変換素子(pn接合対が1つの熱電変換モジュール)110を考えた場合,高温側端面103aと,低温側端面103bに温度差が与えられると,ゼーベック(Seebeck)効果により起電力が生じ,電極(取り出し電極)105を経て電力が取り出される。」

「【図11】



(イ)上記記載から,周知文献1には,次の技術が記載されていると認められる。
a p型熱電変換材料101およびn型熱電変換材料102の低温側端面103bには,それぞれ,電極(取り出し電極)105が配設される。

・周知文献2
(ア)本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2013-219218号公報には,次の記載がある。
「【0040】
図7Bに示すようにp型半導体層103とn型半導体層104の上部を電極102で接続し,それぞれの下部にそれぞれ電極102を接続したπ型構造の熱電変換素子では,上部の電極102を高温側とした場合,n型半導体層内部では低温側から高温側に電流が流れ,p型半導体層内部では高温側から低温側に電流が流れ,それらの電流の流れる方向120,130を一致させることができる。」

「【図7B】



(イ)上記記載から,周知文献2には,次の技術が記載されていると認められる。
a p型半導体層とn型半導体層の上部を電極で接続し,それぞれの下部にそれぞれ電極を接続したπ型構造の熱電変換素子において、下部の電極から電流が取り出される。

・周知文献3
(ア)本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2015-79796号公報には,次の記載がある。
「【0004】図9に示すように,π型熱電素子4は,p型熱電材料の一端とn型熱電材料の一端とが電極(高温側の電極)を介して接続され,それぞれの他端にはそれぞれ電極(低温側の電極)が取り付けられており,生成された起電力により低温側の電極に接続された負荷に電力が供給される。 」

「【図9】



(イ)上記記載から,周知文献3には,次の技術が記載されていると認められる。
a p型熱電材料の一端とn型熱電材料の一端とが電極(高温側の電極)を介して接続され,それぞれの他端にはそれぞれ電極(低温側の電極)が取り付けられており,生成された起電力により低温側の電極に接続された負荷に電力が供給される。

ウ 相違点3について
引用文献2-4に記載されるように,熱電変換モジュールにおいて,熱膨張率の差に起因する基板の反りを抑制するために,基板の両面に形成された金属層の厚みを同等程度とすることが望ましいことは,本願出願前において周知な事項である。
引用発明においても,熱電素子用配線パターンが形成された基板の他方面に形成されたメタライズ層は,加熱により基板の両面の伸びが略均衡するように設けられ,これにより基板の反りが抑制される(【0012】参照)ものであるから,基板の反りを抑制するために配線パターンとメタライズ層を形成する材料のそれぞれの熱膨張係数の値等の物性値に基づいてそれぞれの熱膨張の大きさを検討し,両者が略つり合うように,例えば,メタライズ層の厚みを熱電素子用配線パターンの厚みと同等とする,すなわち,厚みの差を20%以下とすることは,引用文献1の【0012】の「基板全体の反りを小さくするためには,メタライズ層の厚みは熱電素子用配線パターンの厚みと同等以下になるように形成されているのが望ましい。」との記載に照らして,当業者が容易に想到しうるものである。

エ そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する作用効果は,引用発明,引用文献1ないし引用文献4に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

オ したがって,本件補正発明は,引用発明及び引用文献1ないし4に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年3月17日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,令和元年7月29日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,その請求項1に記載された事項により特定される,前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1に係る発明は,本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし4に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用文献1:特開2008-244100号公報
引用文献2:特開平07-335945号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:国際公開第2007/109368号(周知技術を示す文献)
引用文献4:国際公開第2007/105361号(周知技術を示す文献)

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし4及びその記載事項は,前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,「熱電変換モジュール」について,さらに「250℃以上の熱源を用いた熱電発電に適用される」ものに限定するものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに限定されたものに相当する本件補正発明が,前記第2の[理由]2(3),(4)に記載したとおり,引用発明及び引用文献1ないし4に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,引用発明及び引用文献1ないし4に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2020-10-21 
結審通知日 2020-10-27 
審決日 2020-11-10 
出願番号 特願2015-194698(P2015-194698)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柴山 将隆  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 ▲吉▼澤 雅博
井上 和俊
発明の名称 熱電変換モジュール  
代理人 千葉 絢子  
代理人 関根 正好  
代理人 金山 慎太郎  
代理人 高橋 満  
代理人 大森 純一  
代理人 白鹿 智久  
代理人 中村 哲平  

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