• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1369785
審判番号 不服2020-12540  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-08 
確定日 2021-01-26 
事件の表示 特願2016-166281「ウェハの表面処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月 1日出願公開,特開2018- 32833,請求項の数(5)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成28年8月26日を出願日とする特許出願であって,令和2年2月18日付けで拒絶理由通知がされ,令和2年4月23日に意見書と手続補正書が提出され,令和2年6月4日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,令和2年9月8日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和2年6月4日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1ないし5に係る発明は,以下の引用文献1ないし5に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.国際公開第2015/002199号
2.特開2012-130992号公報
3.特開2001-277304号公報
4.特開2011-082470号公報
5.特開2007-242902号公報

第3 本願発明
本願請求項1ないし5に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は,令和2年4月23日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
表面にデバイス領域が形成されたウェハの裏面を鏡面状に仕上げ研磨すると共にゲッタリング層を生成するウェハの表面処理装置であって,
前記ウェハを保持して回転させる基板保持機構と,
該基板保持機構に対向して配置され,砥粒を混入した樹脂材をパッド基材に含浸させて成るEGパッドを有する表面処理パッドと,
前記基板保持機構と前記EGパッドとの間にアルカリ性の研磨助剤を供給する研磨助剤供給機構と,
を備え,
前記研磨助剤が前記樹脂材を加水分解させて前記砥粒の少なくとも一部を前記表面処理パッドから遊離させて,前記EGパッドに含まれる固定砥粒が前記ウェハを押圧された状態で前記基板保持機構及び前記EGパッドを回転させて前記EGパッドから遊離した遊離砥粒が前記ウェハ上を転動することにより,前記ウェハを研磨するとともに前記ウェハに前記ゲッタリング層を生成することを特徴とするウェハの表面処理装置。」

なお,本願発明2ないし5は,それぞれ本願発明1を減縮した発明である。

第4 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には,次の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同じ。)
「技術分野
[0001] 本発明は,研磨パッド及びその製造方法に関する。特に,シリコンウェハの裏面研磨のための研磨パッド及びその製造方法に関する。
背景技術
[0002] 半導体デバイスを製造するにあたっては,100ミクロン以下への薄化加工・ストレスリリーフ(ストレスリリーフとは,研削によるウェハ研削面に発生するダメージ除去を意味する)と共に,ゲッタリング層を形成する必要がある(ゲッタリングとは,環境中からコンタミネーションする金属イオンの捕集を意味する)。
従来,ゲッタリング層は,固定砥粒タイプの研磨パッドや研削砥石を用いた乾式研磨により形成されてきた。例えば,特許文献1には,固定砥粒を使用して半導体ウェハの裏面を研磨することにより,金属不純物のゲッタリングサイトとなる歪層を形成することが開示されている。また,特許文献2には,粒径4μm以下のダイヤモンド砥粒をボンド材で固めた研削砥石で半導体デバイスの裏面を研削することによりゲッタリング加工を行う方法が開示されている。特許文献3には,平均粒径が5μm以下の砥粒を分散させた研磨部材でウェハの裏面を研磨することによりゲッタリング層を好適に付与する加工方法が開示されている。
[0003] しかしながら,特許文献1?3において用いられる研削砥石等は,いずれもスラリーを用いることなく半導体ウェハを研磨(乾式研磨)するものであるため,これらの乾式研磨によるゲッタリング層形成では,研磨時に粉塵が発生してしまうという欠点があった。また,特許文献3の研磨部材を用いる場合には,ゲッタリング形成の前工程で研磨やエッチングを行って,薄化加工・ストレスリリーフをする必要があり,作業効率やコストの点でも問題があった。
[0004] 一方,乾式研磨法ではなく湿式研磨法に用いる研磨パッドとしては,例えば,特許文献4に,砥粒とアルカリ粒子を発泡ポリウレタンに含有させた研磨パッドが開示されている。該研磨パッドは,研磨液として純水を用いてウェハ裏面にゲッタリング層を形成させている。
しかしながら,特許文献4に記載の研磨パッドは,発泡ポリウレタンからなるものであり,独立気泡を有するため,研磨くず等で目詰まりを起こしやすいという問題があった。また,発泡ポリウレタンに用いる樹脂硬度が高いため,薄化したウェハが割れやすいという欠点を有していた。
先行技術文献
特許文献
[0005]特許文献1:特開2005-72150号公報
特許文献2:特開2005-317846号公報
特許文献3:特開2007-242902号公報
特許文献4:特開2010-225987号公報
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0006] 本発明は,従来技術の上記問題点に鑑みてなされたものであり,シリコンウェハ裏面の研磨(薄化加工,ストレスリリーフ)とゲッタリング層の形成とを行うことができる研磨パッドを提供することを目的とする。」

「[0012] 本発明の研磨パッドは,樹脂含有研磨布中に,ポリウレタン樹脂が,研磨布基体100質量部に対して,10?500質量部の範囲内で含まれることが好ましく,30?300質量部の範囲内で含まれることがより好ましく,80?250質量部の範囲内で含まれることがさらにより好ましい。
ポリウレタン樹脂の質量比が上記範囲内であると,シリコンカーバイト,繊維が樹脂に抱埋され研磨加工中での脱落が少なく,良好な研磨状態が得られる。」

「[0014](ポリウレタン樹脂)
本発明の研磨パッドの材料となるポリウレタン樹脂の種類に特に制限はなく,種々のポリウレタン樹脂の中から使用目的に応じて選択することができる。例えば,ポリエステル系,ポリエーテル系,又はポリカーボネート系の樹脂を1種または2種以上用いることできる。
ポリエステル系の樹脂としては,エチレングリコールやブチレングリコール等とアジピン酸等とのポリエステルポリオールと,ジフェニルメタン-4,4'-ジイソシアネート等のジイソシアネートとの重合物が挙げられる。ポリエーテル系の樹脂としては,ポリテトラメチレンエーテルグリコールやポリプロピレングリコール等のポリエーテルポリオールと,ジフェニルメタン-4,4'-ジイソシアネート等のイソシアネートとの重合物が挙げられる。ポリカーボネート系の樹脂としては,ポリカーボネートポリオールと,ジフェニルメタン-4,4'-ジイソシアネート等のイソシアネートとの重合物が挙げられる。これらの樹脂は,DIC(株)製の商品名「クリスボン」や,三洋化成工業(株)製の商品名「サンプレン」,大日精化工業(株)製の商品名「レザミン」など,市場で入手可能な樹脂を用いてもよく,所望の特性を有する樹脂を自ら製造してもよい。
これらの中でも,化学的安定性の高い,ポリエーテル系のポリウレタン樹脂が特に好ましい。
[0015](モジュラス)
ポリウレタン樹脂は,3?70MPaの樹脂モジュラスを有することが好ましく,25?60MPaであることがより好ましい。樹脂モジュラスが上記範囲内であると,シリコンカーバイトの保持性に優れ,且つ,樹脂の自己崩壊性により研磨特性が安定する。
樹脂モジュラスとは,樹脂の硬さを表す指標であり,無発泡の樹脂シートを100%伸ばしたとき(元の長さの2倍に伸ばしたとき)に掛かる荷重を断面積で割った値である(以下,100%モジュラスと呼ぶことがある。)。この値が高い程,硬い樹脂である事を意味する。」

「[0017]<研磨パッドの物性>
(密度)
本発明の研磨パッドは,ポリウレタン樹脂及びシリコンカーバイドを含浸させてなる樹脂含有研磨布の密度が,0.20?1.00g/cm^(3)の範囲とすることが好ましく,0.30?0.65g/cm^(3)の範囲とすることがより好ましい。樹脂含有研磨布の密度が上記範囲内であると,好適な研磨材物性が得られ,研磨加工においてパッドの磨耗が抑えられ,良好な研磨特性が持続する。」

「[0027]<<研磨パッドの製造方法>>
本発明の研磨パッドの製造方法は,ポリウレタン樹脂及びシリコンカーバイドを含むポリウレタン樹脂溶液を調製する工程;ポリウレタン樹脂溶液を研磨布基体に含浸させる工程;及びポリウレタン樹脂溶液を含浸させた研磨布基体を凝固液に浸漬して,ポリウレタン樹脂を凝固させる工程を含むことを特徴とする。また,前記シリコンカーバイドの粒径は,好ましくは0.2?3.0μmの範囲内である。」

「[0033]<<半導体ウェハの研磨(ゲッタリング層形成)>>
本発明の研磨パッドによる半導体ウェハの裏面研磨及びゲッタリング層形成は,例えば,研磨装置に本発明の研磨パッド及び半導体ウェハをそれぞれセットし,研磨剤を研磨パッドに滴下しつつ,半導体ウェハを研磨パッドに押し付けながら半導体ウェハを研磨することにより,1工程でまとめて行うことができる。研磨剤としては,コロイダルシリカ,アルミナ,酸化ジルコニウム,ダイヤモンド,窒化ホウ素,炭化ケイ素などの分散液を用いることができる。
また,上記の方法の他に,コロイダルシリカ,アルミナなどの研磨剤及び本発明の研磨パッドを用いて薄化及びストレスリリーフを行った後,研磨剤を水などに変更してゲッタリング層を形成させることもできる。この方法では,1種類の研磨パッドを用いて,半導体ウェハの裏面研磨及びゲッタリング層形成を連続的に行うことが出来る。
実施例
[0034] 以下の工程により研磨パッドを製造した。
[0035]<<研磨パッドの製造>>
以下の工程により比較例1及び実施例1?5及び比較例1?3の研磨パッドを製造した。
<I.研磨層の製造>
(1) 不織布(繊維名:ポリエステル,繊度:3d,繊維長:51mm)(密度:0.104g/cm^(3))を準備した。
(2) DMFに熱可塑性ポリエーテル系ポリウレタン樹脂(100%モジュラス:47MPa)を溶解させた溶液に砥粒としてSiCを加えた砥粒含有ポリウレタン樹脂溶液を準備した。なお,実施例1?5及び比較例1?3において,使用した樹脂溶液のDMF,ポリウレタン樹脂,SiCの質量比は表1,2の通りである。
(3) 上記(1)の不織布に(2)の砥粒含有ポリウレタン樹脂溶液を25℃で3分間含浸した。その後,凝固液として水を用いて,18℃で60分間湿式凝固した後,洗浄・乾燥し,研磨層を得た。」

「[0047]<<評価>>
実施例1?5及び比較例1?3の研磨パッドを用いて,以下の研磨方法にて研磨を用い,研磨レート,キズ密度及び欠陥キズの有無を評価した。その結果を表5?6に示す。
[0048](研磨方法)
研磨装置(不二越機械工業株式会社製:MCP-150X)にシリコンウェハ,研磨パッドをセットし,研磨剤を研磨パッドに滴下しながら研磨した。
研磨剤はCONPOL80(株式会社フジミインコーポレーテッド製)と水を3:7で混合したものを用い1分間に200mlを研磨パッドに滴下した。定盤の回転速度は80rpmとした。加圧ヘッドによりシリコンウェハを研磨パッドに押し付ける圧力は300g/cm^(2)とした。なお,シリコンウェハは6インチ(直径152.4mm)を使用し,研磨時間は10分間であった。
次にパッド表面を♯200のダイヤモンドドレッサーにてパッド表面を軽くドレッシングし,純水を用い1分間に200ml研磨パッドに滴下した。上記と同条件にて処理しゲッタリング層の形成を行った。
なお,より均一なゲッタリング層を付与するために前記の通り純水での研磨を行ったが,要求されるゲッタリング層の程度により前記純水による研磨を省略しても良い。
(研磨レート)
分析用電子天秤(株式会社エーアンドディー製 GH-300)を使用し,研磨前後のシリコンウェハの質量の差を計測し,その値をSi密度(g/cm^(3))と表面積(cm^(2))の積で除して,さらに値をμmに直した後,研磨時間で除して研磨レート(μm/min)を算出し,下記表3の基準に従って評価した。」

「[0050](キズ密度及び欠陥キズの有無)
研磨後のシリコンウェハの表面を光学顕微鏡(暗視野検鏡 倍率200倍)で下記表4の基準に従って目視判定した。
なお,ゲッタリング層が付与されたウェハは,通常鏡面に見えるがウェハに光を当てることによってキズが確認されるが,欠陥キズは光を当てなくとも確認されるものである。したがって,キズ密度におけるキズは,光を当てることによって確認できるキズを意味しており,欠陥キズは,光を当てずに確認できるキズを意味している。」








「[0054] 表5及び表6から明らかなように,シリコンカーバイドを不織布100質量部に対して60?500質量部の割合で含まない場合には,研磨レートが低く,ゲッタリング層に適するほどのキズ密度が認められなかった(比較例2?3)。また,シリコンカーバイドを不織布100質量部に対して60?500質量部の割合で含む場合でも,粒径0.2?3.0μmの範囲外であると,欠陥キズが発生した(比較例1)。
一方,粒径0.2?3.0μmのシリコンカーバイドを不織布100質量部に対して60?500質量部の割合で含む本発明の研磨パッドは,研磨レートが高く,ゲッタリング層に適したキズ密度が認められた。また,欠陥キズも存在しなかった(実施例1?5)。
[産業上の利用可能性]
[0055] 本発明によれば,シリコンウェハ裏面の研磨とゲッタリング層の形成とを行うことのできる研磨パッドを提供することができる。したがって,産業上,極めて有用である。」

「 請求の範囲
[請求項1]
研磨布基体にポリウレタン樹脂及びシリコンカーバイドを含浸させてなる樹脂含有研磨布を含む研磨パッドであって,
前記シリコンカーバイドの粒径が0.2?3.0μmの範囲内であり,且つ
前記シリコンカーバイドが,樹脂含有研磨布中に,研磨布基体100質量部に対して,60?500質量部の範囲内で含まれる,前記研磨パッド。」

(2)上記記載から,引用文献1には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア 引用文献1に記載された技術は,研磨パッド,特に,シリコンウェハの裏面研磨のための研磨パッド及びその製造方法に関するものであること。

イ 半導体デバイスを製造するにあたっては,100ミクロン以下への薄化加工・ストレスリリーフと共に,ゲッタリング層を形成する必要があること。

ウ 従来技術である,スラリーを用いることなく半導体ウェハを研磨(乾式研磨)することによるゲッタリング層形成方法では,研磨時に粉塵が発生してしまうという欠点があり,また,湿式研磨法であっても,砥粒とアルカリ粒子を発泡ポリウレタンに含有させた研磨パッドと,研磨液として純水とを用いたゲッタリング層形成方法では,発泡ポリウレタンからなる研磨パッドが,独立気泡を有するため,研磨くず等で目詰まりを起こしやすいという問題があり,さらに,発泡ポリウレタンに用いる樹脂硬度が高いため,薄化したウェハが割れやすいという欠点を有していたこと。

エ 引用文献1に記載された技術は,従来技術の上記問題点に鑑みてなされたものであり,シリコンウェハ裏面の研磨(薄化加工,ストレスリリーフ)とゲッタリング層の形成とを行うことができる研磨パッドを提供することを目的とすること。

オ 前記研磨パッドは,樹脂含有研磨布中に,ポリウレタン樹脂が,研磨布基体100質量部に対して,10?500質量部の範囲内で含まれることが好ましく,ポリウレタン樹脂の質量比が上記範囲内であると,シリコンカーバイト,繊維が樹脂に抱埋され研磨加工中での脱落が少なく,良好な研磨状態が得られること。

カ 前記研磨パッドの材料となるポリウレタン樹脂の種類に特に制限はなく,種々のポリウレタン樹脂の中から使用目的に応じて選択することができるが,化学的安定性の高い,ポリエーテル系のポリウレタン樹脂が特に好ましいこと。
さらに,ポリウレタン樹脂は,3?70MPaの樹脂モジュラスを有することが好ましく,樹脂モジュラスが上記範囲内であると,シリコンカーバイトの保持性に優れ,且つ,樹脂の自己崩壊性により研磨特性が安定すること。

キ 前記研磨パッドは,ポリウレタン樹脂及びシリコンカーバイドを含浸させてなる樹脂含有研磨布の密度が,0.20?1.00g/cm^(3)の範囲とすることが好ましく,樹脂含有研磨布の密度が上記範囲内であると,好適な研磨材物性が得られ,研磨加工においてパッドの磨耗が抑えられ,良好な研磨特性が持続すること。

ク 前記研磨パッドの製造方法は,ポリウレタン樹脂及びシリコンカーバイドを含むポリウレタン樹脂溶液を調製する工程;ポリウレタン樹脂溶液を研磨布基体に含浸させる工程;及びポリウレタン樹脂溶液を含浸させた研磨布基体を凝固液に浸漬して,ポリウレタン樹脂を凝固させる工程を含み,前記シリコンカーバイドの粒径は,好ましくは0.2?3.0μmの範囲内であること。

ケ 前記研磨パッドによる半導体ウェハの裏面研磨及びゲッタリング層形成は,例えば,研磨装置に前記研磨パッド及び半導体ウェハをそれぞれセットし,研磨剤を研磨パッドに滴下しつつ,半導体ウェハを研磨パッドに押し付けながら半導体ウェハを研磨することにより,1工程でまとめて行うことができること。

コ 上記ケの方法の他に,コロイダルシリカ,アルミナなどの研磨剤及び本発明の研磨パッドを用いて薄化及びストレスリリーフを行った後,研磨剤を水などに変更してゲッタリング層を形成させることもできる。この方法では,1種類の研磨パッドを用いて,半導体ウェハの裏面研磨及びゲッタリング層形成を連続的に行うことが出来ること。

サ 引用文献1には,以下の(1)ないし(3)工程を含む方法で,実施例1ないし5に係る研磨パッドを製造する方法が記載されていること。
(1) 不織布(繊維名:ポリエステル,繊度:3d,繊維長:51mm)(密度:0.104g/cm^(3))を準備する工程と,
(2) DMFに熱可塑性ポリエーテル系ポリウレタン樹脂(100%モジュラス:47MPa)を溶解させた溶液に砥粒としてSiCを加えた砥粒含有ポリウレタン樹脂溶液を準備する工程と,
(3) 上記(1)の不織布に(2)の砥粒含有ポリウレタン樹脂溶液を25℃で3分間含浸し,その後,凝固液として水を用いて,18℃で60分間湿式凝固した後,洗浄・乾燥し,研磨層を得る工程。

シ 引用文献1には,実施例1ないし5の研磨パッドを用いて,以下の工程を含む研磨方法にて研磨を行う研磨装置,及び,これらの各研磨パッドを用いた研磨の研磨レート,キズ密度及び欠陥キズの有無を評価した結果が,表5,表6に示されていること。
(1)研磨装置(不二越機械工業株式会社製:MCP-150X)にシリコンウェハ,研磨パッドをセットする工程と,
(2)研磨剤を研磨パッドに滴下しながら研磨する工程であって,研磨剤として,CONPOL80(株式会社フジミインコーポレーテッド製)と水を3:7で混合したものを用い1分間に200mlを研磨パッドに滴下し,定盤の回転速度は80rpmとして,加圧ヘッドによりシリコンウェハを研磨パッドに押し付ける圧力を300g/cm^(2)として,6インチ(直径152.4mm)のシリコンウェハを,10分間研磨する工程と,
(3)次にパッド表面を♯200のダイヤモンドドレッサーにてパッド表面を軽くドレッシングし,純水を用い1分間に200ml研磨パッドに滴下して,上記と同条件にて処理しゲッタリング層の形成を行う工程。

ス 上記シの研磨方法では,より均一なゲッタリング層を付与するために前記の通り純水での研磨を行ったが,要求されるゲッタリング層の程度により前記純水による研磨を省略しても良いこと。

セ 表5,表6から,実施例1ないし5による研磨パッドを用いた研磨では,いずれも,ゲッタリング層に適した(若しくは,最適な)キズ密度が認められると共に,欠陥となるキズが認められない状態,すなわち,研磨後のシリコンウェハの表面を光学顕微鏡(暗視野検鏡 倍率200倍)で目視判定した結果,光を当てずに確認できるキズは認められず,通常鏡面に見えるが,ウェハに光を当てることによって初めてキズが確認される状態と判定されること。

(3)上記(1),(2)から,引用文献1には,上記(2)スに示される,要求されるゲッタリング層の程度により純水による研磨を省略した製造方法に用いられる研磨装置に係る次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「(1) 不織布(繊維名:ポリエステル,繊度:3d,繊維長:51mm)(密度:0.104g/cm^(3))を準備する工程と,
(2) DMFに熱可塑性ポリエーテル系ポリウレタン樹脂(100%モジュラス:47MPa)を溶解させた溶液に砥粒としてSiCを加えた砥粒含有ポリウレタン樹脂溶液を準備する工程と,
(3) 上記(1)の不織布に(2)の砥粒含有ポリウレタン樹脂溶液を25℃で3分間含浸し,その後,凝固液として水を用いて,18℃で60分間湿式凝固した後,洗浄・乾燥し,研磨層を得る工程と,
を含む方法で製造した研磨パッドによる半導体ウェハの裏面研磨及びゲッタリング層形成に用いる研磨装置であって,
(1)研磨装置(不二越機械工業株式会社製:MCP-150X)にシリコンウェハ,研磨パッドをセットする工程と,
(2)研磨剤を研磨パッドに滴下しながら研磨する工程であって,研磨剤として,CONPOL80(株式会社フジミインコーポレーテッド製)と水を3:7で混合したものを用い1分間に200mlを研磨パッドに滴下し,定盤の回転速度は80rpmとして,加圧ヘッドによりシリコンウェハを研磨パッドに押し付ける圧力を300g/cm^(2)として,6インチ(直径152.4mm)のシリコンウェハを,10分間研磨する工程と,
を含む方法に用いられる研磨装置。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には,次の事項が記載されている。
「【0009】
しかしながら,特許文献3の技術では,ポリウレタン樹脂のゲル化点を高くすることから,一般的にポリエステルポリオール系ポリウレタン樹脂が用いられることとなる。ポリエステル系のポリウレタン樹脂では,耐加水分解性,とりわけ,耐アルカリ加水分解性が劣っているため,CMP法による研磨加工では,研磨液にさらされることで樹脂シートの劣化を招くことがある。この結果,安定した研磨加工を継続することができず,研磨レートや被研磨物の平坦性を低下させることとなる。また,細孔が砥粒や研磨屑の蓄積により目詰まりを起こすと被研磨物にスクラッチを生じることとなる。樹脂シートの研磨面側に,エンボス加工等により凹凸を形成すれば,砥粒の循環性や研磨屑の排出性が向上しスクラッチを抑制することが期待できる。ところが,凹部の表面に細孔の開孔が形成されていると,凹部では研磨加工時に圧縮変形を受けにくいため,開孔に研磨屑等が貯留しやすくスクラッチの抑制が不十分となる。さらに,本発明者らの検討結果によれば,細孔の形成しやすさと凝固価とが必ずしも相関しないこと,すなわち,凝固価を小さくしても細孔が形成されることが見出されている。従って,細孔が形成されるとともに,砥粒や研磨屑の貯留を生じにくく耐アルカリ加水分解性を有する樹脂シートを得ることができれば,上述した半導体デバイス等の研磨加工に要求される微細化や高精度化に応えることが可能となる。」

「【0037】
また,湿式凝固法で円錐状の巨大気孔が形成されることなく細孔が連続状に形成されたウレタンシートを形成する方法として,用いるポリウレタン樹脂の凝固価(ゲル化点)を大きくすることが知られている。ゲル化点を大きくすると緻密なスキン層が形成されにくくなり,凝固液と樹脂溶液内部の極性溶媒との相互拡散が容易となるため,未凝固樹脂の凝集による空隙の拡大が抑えられ,細孔が形成されやすくなる。ポリエーテル系やポリカーボネート系のポリウレタン樹脂と比べて,ポリエステル系のポリウレタン樹脂では,ゲル化点を高くすることができるものの,耐加水分解性が劣るため,CMP法による研磨加工時に研磨液にさらされウレタンシートが劣化しやすくなる。このため,研磨加工の継続が難しくなり,研磨性能や被研磨物の平坦性を低下させることとなる。また,細孔が砥粒や研磨屑の蓄積により目詰まりを起こすと被研磨物にスクラッチを生じることとなる。樹脂シートの研磨面側に,エンボス加工等により凹凸を形成すれば,砥粒の循環性や研磨屑の排出性が向上しスクラッチを抑制することが期待できる。ところが,凹部の表面に細孔の開孔が形成されていると,凹部では研磨加工時に圧縮変形を受けにくいため,開孔に研磨屑等が貯留しやすくスクラッチの抑制が不十分となる。一方,耐加水分解性を改善するためにはポリエーテル系やポリカーボネート系のポリウレタン樹脂のようにゲル化点の小さな樹脂を用いればよいが,この場合は樹脂中に巨大気孔と細孔とが形成される。図5に示すように,巨大気孔13と細孔4とが形成されたウレタンシート12を用い,研磨面P側に凸部15と凹部16とを形成した研磨パッド20では,研磨面P(凸部15の表面)に巨大気孔13の開孔13aが形成されている。エンボス加工により,凸部15では巨大気孔13や細孔4が形成されたままの状態となるのに対して,凹部16では気孔14が形成されていることとなる。この気孔14は,巨大気孔13が凹部16の形成に伴う加圧により圧縮されたものの閉塞することなく残されたものである。このため,凹部16の表面においても,気孔14の開孔14aが形成されていることとなる。研磨パッド20では,凹部16に研磨加工時の押圧力がかかりにくく,気孔14が変形しにくくなるため,開孔14aを通じて気孔14内に入り込んだスラリや研磨屑が放出されず,長時間滞留し凝集することがある。このような凝集物が偶発的に放出されると,被研磨物にスクラッチを生じさせることとなる。本実施形態は,これらの問題を解決することができる研磨パッド10である。」

(2)したがって,上記引用文献2には,以下の技術的事項が記載されていると認められる。
ア ポリエステル系のポリウレタン樹脂では,耐加水分解性,とりわけ,耐アルカリ加水分解性が劣っているため,CMP法による研磨加工では,研磨液にさらされることで樹脂シートの劣化を招くことがあり,この結果,安定した研磨加工を継続することができず,研磨レートや被研磨物の平坦性が低下すること。

イ ポリエーテル系のポリウレタン樹脂を用いることで,耐加水分解性が改善されること。

3 引用文献3について
(1)原査定に引用された上記引用文献3には,次の事項が記載されている。
「【0004】発泡ポリウレタンを用いた研磨パッドは,前記の不織布パッドに比べ,組織が比較的密に仕上げられており,パッド全体から見た場合に,研磨の加工圧力による変形量は比較的少なく,被加工物の平坦加工性には優れているが,ポリウレタン樹脂は耐アルカリ性が悪いために,スラリーの構成材料として用いられるKOH等のアルカリによって発泡ポリウレタンの研磨表面の劣化,または変質が早期に起こり,しばしばパッドの表面を削り込むドレッシング操作が必要となっている。そのため,研磨パッドの寿命が短くなるとともに,この削り込み作業は連続して行われる研磨加工を中断し,量産性を低下させる要因となっている。」

(2)したがって,上記引用文献3には,以下の技術的事項が記載されていると認められる。
・ポリウレタン樹脂は耐アルカリ性が悪いために,スラリーの構成材料として用いられるKOH等のアルカリによって発泡ポリウレタンの研磨表面の劣化,または変質が早期に起こり,しばしばパッドの表面を削り込むドレッシング操作が必要となるため,研磨パッドの寿命が短くなるとともに,この削り込み作業が連続して行われる研磨加工を中断し,量産性を低下させる要因となっていること。

4 引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には,次の事項が記載されている。
「【0030】
図2はテクスチャリングユニットの部分側面図である。図2に示されるように,テクスチャリングユニット34のアーム41の先端には,モータ42が懸架されている。そして,モータ42の出力軸42aには,テクスチャリングヘッド43が回転可能に取付けられている。また,テクスチャリングヘッド43には,スラリーが供給される。
【0031】
研磨時には,テクスチャリングヘッド43およびチャック部12aが互いに反対方向に回転し,次いで,テクスチャリングヘッド43がアーム41と一体的にウェーハ20の厚さ方向に下降する。これにより,チャック部12dに保持されたウェーハ20の裏面22が全体的に均等にテクスチャリング処理され,ウェーハ20の裏面22にはダメージ層が形成される。」

5 引用文献5について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献5には,次の事項が記載されている。
「【0033】
次に,テーブルベース14が壁部12方向に移動し,ウエーハ1が切削ユニット20の下方の加工位置に送り込まれる。そして,チャックテーブル17が回転してウエーハ1が回転させられ,このウエーハ1に,送り機構30によって下降させた研磨ユニット20を近付け,スピンドル22を回転させて研磨工具40の研磨部材42をウエーハ1の裏面に押圧し,回転する研磨部材42によってウエーハ1の裏面を研磨する。図3に示すように研磨部材42はウエーハ1の裏面全面を覆ってその裏面全面を研磨するが,同図に示すように,研磨工具40とウエーハ1の回転中心とは同心状に配されず,オフセットされる。これは,研磨部材42がウェーハ1の回転中心と同心状に配された場合,ウェーハ1の中心付近が研磨されないためである。また,図3では,研磨工具40の回転方向はウエーハ1の回転方向と同じ方向であるが,これに限られず,両者を互いに逆の方向に回転させてもよい。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。
ア 半導体ウェハの裏面研磨に際して,半導体ウェハの表面に「デバイス領域」が形成されていることは明らかである。
また,「研磨装置」は,「表面処理装置」の一種といえる。
したがって,引用発明の「半導体ウェハの裏面研磨及びゲッタリング層形成に用いる研磨装置」と,本願発明1の「表面にデバイス領域が形成されたウェハの裏面を鏡面状に仕上げ研磨すると共にゲッタリング層を生成するウェハの表面処理装置」とは,「表面にデバイス領域が形成されたウェハの裏面を研磨すると共にゲッタリング層を生成するウェハの表面処理装置」である点で一致する。

イ 引用発明の,研磨装置(不二越機械工業株式会社製:MCP-150X)は,「シリコンウェハ」を研磨するものであるから,引用発明の研磨装置が,「ウェハを保持」する「基板保持機構」を備えることは明らかである。

ウ 引用発明の「(1)不織布(繊維名:ポリエステル,繊度:3d,繊維長:51mm)(密度:0.104g/cm^(3))を準備する工程と,(2)DMFに熱可塑性ポリエーテル系ポリウレタン樹脂(100%モジュラス:47MPa)を溶解させた溶液に砥粒としてSiCを加えた砥粒含有ポリウレタン樹脂溶液を準備する工程と,(3)上記(1)の不織布に(2)の砥粒含有ポリウレタン樹脂溶液を25℃で3分間含浸し,その後,凝固液として水を用いて,18℃で60分間湿式凝固した後,洗浄・乾燥し,研磨層を得る工程と,を含む方法で製造した研磨パッド」は,本願発明1の「砥粒を混入した樹脂材を含侵させて成るEGパッドを有する表面処理パッド」に相当する。
そして,引用発明の研磨装置において,「研磨パッド」が,基板保持機構に対向して配置されていることは自明である。

エ 技術常識に照らして,引用発明の「研磨剤として,CONPOL80(株式会社フジミインコーポレーテッド製)と水を3:7で混合したもの」は,本願発明1の「アルカリ性の研磨助剤」に相当する。
そして,引用発明の研磨装置が,「研磨剤」を,基板保持機構と研磨パッドとの間に供給する研磨助剤供給機構を備えることは自明である。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「表面にデバイス領域が形成されたウェハの裏面を研磨すると共にゲッタリング層を生成するウェハの表面処理装置であって,
前記ウェハを保持して回転させる基板保持機構と,
該基板保持機構に対向して配置され,砥粒を混入した樹脂材をパッド基材に含浸させて成るEGパッドを有する表面処理パッドと,
前記基板保持機構と前記EGパッドとの間にアルカリ性の研磨助剤を供給する研磨助剤供給機構と,
を備え,
前記ウェハを研磨するとともに前記ウェハに前記ゲッタリング層を生成するウェハの表面処理装置。」

(相違点)
(相違点1)ウェハの裏面の研磨が,本願発明1では,「鏡面状に仕上げ」研磨するものであるのに対して,引用発明は,そのような特定がされていない点。

(相違点2)本願発明1は,「前記研磨助剤が前記樹脂材を加水分解させて前記砥粒の少なくとも一部を前記表面処理パッドから遊離させて,前記EGパッドに含まれる固定砥粒が前記ウェハを押圧された状態で前記基板保持機構及び前記EGパッドを回転させて前記EGパッドから遊離した遊離砥粒が前記ウェハ上を転動することにより,」前記ウェハの裏面を研磨すると共に前記ゲッタリング層を生成するものであるのに対して,引用発明は,そのような特定がされていない点。

(相違点3)基板保持機構が,本願発明1では,ウェハを保持して「回転させる」ものであるのに対して.引用発明は,そのような特定がされていない点。

(2)相違点についての判断
ア 上記相違点1及び相違点2を併せて検討する。
上記第4の1(2)シ及びセのとおり,引用文献1には,研磨剤として,CONPOL80(株式会社フジミインコーポレーテッド製)と水を3:7で混合したものを用い1分間に200mlを研磨パッドに滴下し,定盤の回転速度は80rpmとして,加圧ヘッドによりシリコンウェハを研磨パッドに押し付ける圧力を300g/cm^(2)として,6インチ(直径152.4mm)のシリコンウェハを,10分間研磨する工程と,次にパッド表面を♯200のダイヤモンドドレッサーにてパッド表面を軽くドレッシングし,純水を用い1分間に200ml研磨パッドに滴下して,上記と同条件にて処理しゲッタリング層の形成を行う工程とを含む方法による実施例1ないし5による研磨では,いずれも,ゲッタリング層に適した(若しくは,最適な)キズ密度が認められると共に,欠陥となるキズが認められない状態,すなわち,研磨後のシリコンウェハの表面を光学顕微鏡(暗視野検鏡 倍率200倍)で目視判定した結果,光を当てずに確認できるキズは認められず,通常鏡面に見えるが,ウェハに光を当てることによって初めてキズが確認される状態と判定される結果が得られることが記載されているが,当該方法から,純水による研磨を省略したものとなる引用発明の研磨方法において,研磨後のシリコンウェハの表面の状態がどのようなものとなるかは記載されていない。
そして,シリコンウェハの研磨において,研磨剤を用いた研磨の後に,パッド表面を♯200のダイヤモンドドレッサーにてパッド表面を軽くドレッシングし,純水を用い1分間に200ml研磨パッドに滴下して,前記研磨と同条件にて処理する工程を設けるか否かによって,シリコンウェハの表面の状態が異なることは,技術常識に照らして明らかである。
してみれば,引用文献1の記載からは,引用発明の研磨が,「鏡面状に仕上げ」研磨するものであるとは直ちには認めることはできない。

イ しかも,上記第4の3(2)のとおり,引用文献3には,ポリウレタン樹脂は耐アルカリ性が悪いことが記載されているが,上記第4の2(2)のとおり,引用文献2には,ポリエステル系のポリウレタン樹脂は,耐加水分解性,とりわけ,耐アルカリ加水分解性が劣っているものの,ポリエーテル系のポリウレタン樹脂を用いることで,耐加水分解性が改善されることが記載されている。
そうすると,引用発明の研磨パッドで用いられているポリエーテル系ポリウレタン樹脂は,耐加水分解性が改善されたものであると理解されるから,当該耐加水分解性が改善されたものである樹脂材が,CONPOL80(株式会社フジミインコーポレーテッド製)と水を3:7で混合したものによって,加水分解させて砥粒の少なくとも一部を表面処理パッドから遊離させ,その結果として,EGパッドに含まれる固定砥粒が前記ウェハに押圧された状態で基板保持機構及び前記表面処理パッドを回転させて前記EGパッドから遊離した遊離砥粒が前記ウェハ上を転動することによりウェハの裏面を鏡面状に研磨することになるとは,引用文献2ないし5の記載及び周知技術を参酌しても認めることはできない。

ウ むしろ,上記第4の1(2)オ,カ,及びキのとおり,引用文献1には,「前記研磨パッドは,樹脂含有研磨布中に,ポリウレタン樹脂が,研磨布基体100質量部に対して,10?500質量部の範囲内で含まれることが好ましく,ポリウレタン樹脂の質量比が上記範囲内であると,シリコンカーバイト,繊維が樹脂に抱埋され研磨加工中での脱落が少なく,良好な研磨状態が得られること。」,「前記研磨パッドの材料となるポリウレタン樹脂の種類に特に制限はなく,種々のポリウレタン樹脂の中から使用目的に応じて選択することができるが,化学的安定性の高い,ポリエーテル系のポリウレタン樹脂が特に好ましいこと。さらに,ポリウレタン樹脂は,3?70MPaの樹脂モジュラスを有することが好ましく,樹脂モジュラスが上記範囲内であると,シリコンカーバイトの保持性に優れ,且つ,樹脂の自己崩壊性により研磨特性が安定すること。」及び「前記研磨パッドは,ポリウレタン樹脂及びシリコンカーバイドを含浸させてなる樹脂含有研磨布の密度が,0.20?1.00g/cm^(3)の範囲とすることが好ましく,樹脂含有研磨布の密度が上記範囲内であると,好適な研磨材物性が得られ,研磨加工においてパッドの磨耗が抑えられ,良好な研磨特性が持続すること。」と記載されているように,シリコンカーバイトが樹脂に抱埋され研磨加工中での脱落が少ないことにより良好な研磨状態が得られ,ポリエーテル系のポリウレタン樹脂が化学的安定性の高いことから特に好ましく,シリコンカーバイトの保持性が優れ,研磨加工においてパッドの磨耗が抑えられることが望まれることが示されており,これは,本願発明1の,「研磨助剤が前記樹脂材を加水分解させて前記砥粒の少なくとも一部を前記表面処理パッドから遊離させて」という技術思想とは真逆の思想といえる。

エ してみれば,引用発明及び引用文献2ないし5に記載された技術的事項から,相違点1,2に係る本願発明1の構成を容易に想到することができたと認めることはできない。

オ したがって,他の相違点については検討するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明及び引用文献2ないし5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2ないし5について
本願発明2ないし5は,それぞれ本願発明1を減縮した発明であって,本願発明1の構成と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2ないし5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明1ないし5は,当業者が引用発明及び引用文献2ないし5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-01-06 
出願番号 特願2016-166281(P2016-166281)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山口 大志  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 加藤 浩一
▲吉▼澤 雅博
発明の名称 ウェハの表面処理装置  
代理人 清水 貴光  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ