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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1369800
審判番号 不服2019-1429  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-01 
確定日 2021-01-06 
事件の表示 特願2015-509207「上皮成長因子受容体を結合する活性化可能抗体及びその使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月31日国際公開、WO2013/163631、平成27年 6月18日国内公表、特表2015-516813〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年 4月26日(パリ条約による優先権主張 2012年 4月27日 (US)アメリカ合衆国、2012年 6月20日 (US)アメリカ合衆国、2013年 1月 4日 (US)アメリカ合衆国、2013年 1月 7日 (US)アメリカ合衆国、2013年 2月11日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成30年 9月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成31年 2月 1日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。その後の当審における手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 1年 8月29日付け 上申書
令和 2年 2月28日付け 拒絶理由通知書
令和 2年 5月29日付け 意見書

第2 本願発明
本願の請求項1?70に係る発明は、平成31年 2月 1日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?70に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「【請求項1】上皮成長因子受容体(EGFR)を、活性化された状態下で結合する活性化可能抗体であって、抗体又はその抗原結合フラグメント(AB)、マスキング部分(MM)、及び、前記ABと前記MMとを連結する切断可能部分(CM)とを含み、
前記ABは、EGFRに対して特異的に結合すると共に、(i)配列番号26を含むH鎖アミノ酸配列及び配列番号68を含むL鎖アミノ酸配列、又は(ii)配列番号2を含むH鎖アミノ酸配列及び配列番号68を含むL鎖アミノ酸配列を含み;
前記MMは、前記CMが切断されていない状態で、前記活性化可能抗体のEGFRに対する結合を阻害し、ここで、前記マスキング部分はアミノ酸配列CISPRGCPDGPYVMY(配列番号14)を含み;及び
前記CMは、プロテアーゼのための基質として機能するポリペプチドであり、そしてアミノ酸配列LSGRSDNH(配列番号13)を含み、
ここで、前記活性化可能抗体は、前記CMが切断されていない状態で、次のようなN-末端からC-末端への構造配置:MM-CM-AB又はAB-CM-MMを有する、活性化可能抗体。」

第3 当審で通知した拒絶の理由
令和 2年 2月28日付けで当審が通知した拒絶理由の概要は、請求項1?70に係る発明は、本願優先日前に頒布された刊行物である引用文献1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

第4 引用文献の記載事項
当審の拒絶理由で引用文献1として引用した、本願優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2010/081173号(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。下線は合議体による。)。

ア.「請求項104.活性化可能抗体(AA)であって、
(a)その標的と特異的に結合することができる抗体または抗体フラグメント(AB)と、
(b)前記ABとその標的との特異的結合を阻害することができる、前記ABとカップリングしたマスキング部分(MM)と、
(c)酵素によって特異的に切断することができる前記ABとカップリングした切断可能部分(CM)と
を含み、
前記AAが前記CMを切断するために十分な酵素活性の存在下にない場合に、前記MMが、前記AAが前記CMを切断するために十分な酵素活性の存在下にあって前記MMが前記ABとその標的との特異的結合を阻害しない場合と比較して、前記ABとその標的との特異的結合を少なくとも90%低下させる、活性化可能抗体(AA)。
・・・・・・・・・・・・
請求項118.前記ABが表2の抗体からなる群より選択される、請求項104に記載のAA。
請求項119.前記ABが、セツキシマブ、パニツムマブ、インフリキシマブ、アダリムマブ、エファリズマブ、イピリムマブ、トレメリムマブ、アデカツムマブ、Hu5c8、アレムツズマブ、ラニビズマブ、トシツモマブ、イブリツモマブチウキセタン、リツキシマブ、インフリキシマブ、ベバシズマブ、またはフィギツムマブである、請求項118に記載のAA。
請求項120.前記標的が表1の標的からなる群より選択される、請求項104に記載のAA。
請求項121.前記標的が、EGFR、TNFアルファ、CD11a、CSFR、CTLA-4、EpCAM、VEGF、CD40、CD20、Notch1、Notch2、Notch3、Notch4、Jagged1、Jagged2、CD52、MUC1、IGF1R、トランスフェリン、gp130、VCAM-1、CD44、DLL4、またはIL4である、請求項120に記載のAA。
・・・・・・・・・・・・
請求項124.前記CMが表3の酵素からなる群より選択される酵素の基質である、請求項104に記載のAA。
請求項125.前記CMが、レグマイン、プラスミン、TMPRSS-3/4、MMP-9、MT1-MMP、カテプシン、カスパーゼ、ヒト好中球エラスターゼ、ベータ-セクレターゼ、uPA、またはPSAの基質である、請求項124に記載のAA。」(請求項104?125)

イ.「例えば、AAは、以下の式(アミノ(N)末端領域からカルボキシル(C)末端領域への順序:
(MM)-(CM)-(AB)
(AB)-(CM)-(MM)
によって表すことができ、MMはマスキング部分であり、CMは切断可能部分であり、ABは抗体またはそのフラグメントである。MMおよびCMは上記式中で明確な構成要素として示すが、本明細書中に開示するすべての例示的な実施形態(式が含まれる)において、MMおよびCMのアミノ酸配列が、たとえばCMが完全にまたは部分的にMM内に含有されるように重なることができることが企図されることに注意されたい。さらに、上記式は、AA要素のN末端またはC末端側に位置し得るさらなるアミノ酸配列を提供する。」([00127])

ウ.「

」(表2)

エ.「実施例16:抗EGFR IgG AAの構築
抗EGFR IgG抗体の構築
Bessetteら、Methods in Molecular Biology、第231巻に記載のように、オリゴCX638?CX655を用いてC225軽鎖可変領域の遺伝子をアセンブリPCRによって合成した。生じた生成物をBamHI/NotIで消化し、BamHI/NotIで消化したpXMalの大きな断片とライゲーションさせ、プラスミドpX-scFv225-Vkを作製した。同様に、オリゴCX656?CX677を用いてC225重鎖可変領域の遺伝子をアセンブリPCRによって合成し、BglII/NotIで消化し、pXMalのBamHI/NotIとライゲーションさせて、プラスミドpX-scFv225-Vhを作製した。その後、可変軽鎖遺伝子をpX-scFv225-VkからBamHI/NotI断片としてpX-scFv225-Vhプラスミド内にBamHI/Notでクローニングして、C225に基づくscFv遺伝子を含有するプラスミドpX-scFv225m-HLを作製した。
IL2シグナル配列をpINFUSE-hIgG1-Fc2(InvivoGen)からKasI/NcoI断片として、KasI/NcoIで消化したpFUSE2-CLIg-hk(InvivoGen)に移動させ、プラスミドpFIL2-CL-hkがもたらされた。また、IL2シグナル配列をpINFUSE-hIgG1-Fc2からKasI/EcoRI断片として、KasI/EcoRIで消化したpFUSE-CHIg-hG1(InvivoGen)(大きなおよび中程度の断片)に3方向ライゲーションで移動させ、プラスミドpFIL-CHIg-hG1がもたらされた。
ヒトIgG軽鎖定常領域を、プラスミドpFIL2-CL-hkからのオリゴCX325/CX688を用いた増幅、BsiWI/NheIでの消化、およびpFIL2-CL-hkのBsiWI/NheI内へのクローニングによって、部位特異的に突然変異させて、プラスミドpFIL2-CL_(225)がもたらされた。
ヒトIgG重鎖定常領域を、プラスミドpFIL-CHIg-hG1からのオリゴCX325/CX689、CX690/CX692、およびCX693/CX694を用いた3つのセグメントでの増幅、次いで外部プライマーCX325/CX694を用いた3つすべての生成物の重複PCRによって、部位特異的に突然変異させた。生じた生成物をEroRI(合議体注:「EcoRI」の誤記と認める。)/AvrIIで消化し、pINFUSE-hIgG1-Fc2のEcoRI/NheI内にクローニングして、プラスミドpFIL-CH_(225)がもたらされた。
可変軽鎖遺伝子セグメントをpX-scFv225m-HLからオリゴCX695/CX696を用いて増幅し、BsaIで消化し、pFIL2-CL_(225)のEcoRI/BsiWI内にクローニングして、C225軽鎖発現ベクターpFIL2-C225-軽がもたらされた。
可変重鎖遺伝子セグメントをpX-scFv225m-HLからオリゴCX697/CX698を用いて増幅し、BsaIで消化し、pFIL-CH_(225)のEcoRI/NheI内にクローニングして、C225重鎖発現ベクターpFIL-C225-重がもたらされた。
・・・・・・・・・・・・
抗EGFR AAの発現ベクターの構築
プラスミドpX-scFv225m-HLを、プライマーCX730/CX731およびCX732/CX733を用いた別々の反応でPCR増幅し、生じた生成物を、外部プライマーCX730/CX733を用いた重複PCRによって増幅し、BglII/NotIで消化し、pXMalのBamHI/NotI内にクローニングして、プラスミドpX-scFv225m-LHがもたらされた。
リンカー配列を、重複順方向プライマーCX740、CX741および逆方向プライマーCX370を用いた反応において、pFUSE-hIgG-Fc2のPCR増幅によって、ヒトIgG Fc断片の遺伝子のN末端側に付加した。生じた生成物をEcoRI/BglIIで消化し、約115bpの断片をpFUSE-hIgG-Fc2のEcoRI/BglII内にクローニングした。生じたプラスミドをKpnI/BglIIで消化し、大きな断片を、KpnI/BamHIで消化した、pX-scFv225m-LHをオリゴCX736/CX735を用いて増幅したPCRの産物とライゲーションさせて、プラスミドpPHB3734がもたらされた。
生じたプラスミドをSfiI/XhoIで消化し、マスキングペプチド3690をpPHB3690のSfiI/XhoI断片としてクローニングして、プラスミドpPHB3783がもたらされた。
生じたプラスミドをBamHI/KpnIで消化し、アニーリングの産物であるリン酸化オリゴCX747/CX748とライゲーションさせることによって、プロテアーゼ基質SM984を付加して、プラスミドpPHB3822がもたらされた。
生じたプラスミドをXhoIで消化し、5’末端を脱リン酸化し、XhoIで消化した、pPHB3579をプライマーCX268/CX448を用いて増幅したPCR産物をクローニングすることによって、タンデムペプチドマスキングを構築して、プラスミドpPHB3889がもたらされた。
pPHB3783、pPHB3822、およびpPHB3889のマスキング領域、リンカー、基質、および軽鎖可変領域を、プライマーCX325/CX696を用いたPCRによって増幅し、EcoRI/BsiWIで消化し、pFIL2-CL_(225)のEcoRI/BsiWI内にクローニングして、それぞれAA軽鎖発現ベクターpPHB4007、pPHB3902、およびpPHB3913がもたらされた。
親和性成熟したマスキングペプチドを、SfiI/XhoI断片としてクローニングすることによってAA軽鎖発現ベクター内に交換した。プロテアーゼ基質はBamHI/KpnIに適合性のある断片として交換した。

抗EGFR抗体およびAAの発現および精製
3μgのpFIL-CH_(225)-HLおよび3μgのpFIL2-CH225-軽を、Lipofectamine200(Invitrogen)を用いて、製造者のプロトコルに従って、CHO-S細胞(Invitrogen)内に同時トランスフェクトした。トランスフェクトした細胞をFreestyle CHO培地(Invitrogen)中で培養し、ゼオシンおよびブラストサイジンに対する耐性について選択した。個々のクローンを限界希釈によって単離し、ELISAによってEGFRと結合することができるヒトIgGの発現について選択した。すべての抗体およびAAは、標準の技法を用いたタンパク質Aクロマトグラフィーによって精製した。
同様に、3μgのAAの軽鎖のそれぞれの発現ベクターを、3μgのpFIL-CH_(225)-HLと共にCHO-S細胞内に同時トランスフェクトした。トランスフェクトした細胞をFreestyle CHO培地(Invitrogen)中で培養し、ゼオシンおよびブラストサイジンに対する耐性について選択した。個々のクローンを限界希釈によって単離し、ELISAによってEGFRと結合することができるヒトIgGの発現について選択した。

親和性成熟した抗EGFR MMライブラリのスクリーニング
初回のMACSラウンドは、SA dynabeadsおよびecpX3-755ライブラリからの1.4×10^(8)個の細胞を用いて行った。磁気選択の前に、細胞を3nMのビオチン標識したC225Mabと共にインキュベーションした。磁気選択により、6×10^(6)個の細胞の単離がもたらされた。第1ラウンドのFACS分別は、0.1nMのDyLight(fluor 530 nM)-C225Mabで標識した2×10^(7)個の細胞上で行い、1.5×10^(5)個の陽性結合を有する細胞の単離がもたらされた。集団に増加した選択圧をかけるために、第2ラウンドのFACSは、10nMのDyLight-C225Mabで標識した細胞上で、100uMの3690ペプチド(CISPRGC)の存在下、37℃で行った。選択圧をさらに増加させるために、第3および第4ラウンドは、100nMのDyLight-C225Fabで標識した細胞上で、100uMの3690ペプチド(CISPRGC)の存在下、37℃で行った。陽性集団の最も明るい1%を収集し、これは、3690ペプチドによって競合されない結合を表す。上記スクリーニングから単離された個々のクローンの細胞上親和性測定により、C225に対する親和性が3690(CISPRGC)よりも少なくとも100倍高い3つのペプチド、すなわち、3954(CISPRGCPDGPYVM)、3957(CISPRGCEPGTYVPT)および3958(CISPRGCPGQIWHPP)が明らかとなった。これら3つのMMを抗EGFR AA内に組み込んだ。図22は、EGFR MMの一部の親和性成熟のプロセスを示す。

C225 MMの親和性測定
C225 FabとMM3690、3954および3957との結合の細胞上親和性測定。eCPX3.0クローン3690、3954および3957の結合を、FACS上にて、3つの異なる濃度のDyLightで標識した抗EGFR Fabで分析した。結合曲線を図23に示す。MM3954および3957は3690よりも少なくとも100倍高い親和性を示した。

抗EGFR AAの標的置換アッセイ
EGFRを96ウェルマイクロタイタープレートのウェル上に吸着させ、乳タンパク質で洗浄および遮断した。2nMの抗EGFR抗体またはMM3690、3957、3954および3960/3579を含有する抗EGFR AAを含有する25mlの培養培地をコーティングしたウェルに加え、1、2、4、8または24時間インキュベーションした。インキュベーション後、ウェルを洗浄し、結合したAAの程度を抗huIgG免疫検出によって測定した。AAのコンテキストにおけるマスキング効率を直接比較するために、抗EGFR AAの結合を抗EGFR抗体結合(100%)に対して正規化した。親または改変していない抗体結合のパーセントとしての平衡結合の程度を表34および図24に示す。MM3954および3957は、3609(合議体注:表34、図24、表42等から、「3690」の誤記と認める。)よりも100倍高い、同じ親和性を示す一方で、3954は標的結合の阻害が少なくとも2倍、より効率的である。C225の重鎖および軽鎖、MM、ならびにAAの配列を以下の表に提供する。ヌクレオチドおよびアミノ酸配列を以下の表に提供する。括弧は様々な配列のドメイン間の境界を示す:(リンカー)(MM)(リンカー)(CM)(リンカー)(AB)。

」([00414]?[00431]、表34)

オ.「

」(表35)

カ.「

」(表36)

キ.「

」(表39)

ク.「

」(表42)

ケ.「実施例17:選択的基質/CMの発見および試験
下のセクションは、いくつかの例示的な酵素のための選択的基質の発見および試験のための方法を示す。

uPA選択的基質の発見
uPA選択的基質は、E.coliの表面のN末端融合物として発現される、約10^(8)個のランダムな8量体基質からなる8eCLiPS細菌ライブラリから単離した。uPAによる切断のために最適化され、標的外セリンプロテアーゼklk5および7による切断に抵抗性である基質について濃縮するために、交互に実行したFACSによる陽性および陰性の選択を用いた。ナイーブなライブラリを8ug/ml uPAと共に37℃で1時間インキュベーションし、続いてSAPE(赤色)およびyPET mona(緑色)で標識した。uPAによる切断は、SAPE標識の消失を生じ、uPA基質を発現する細菌(緑色だけ、陽性選択)の、未切断のペプチドを発現する細菌(赤色+緑色)からの選別を可能にする。uPA基質をFACSによって選別し、濃縮されたプールを増幅し、次に5ng/ml KLK5および7と共に37℃で1時間インキュベーションし、SAPEおよびyPET monaで標識し、これらの標的外プロテアーゼによる切断の欠如について選別した(赤色+緑色、陰性選択)。プールを増幅し、暫減濃度のuPA(4ug/ml、2ug/ml)および暫増濃度のklk5および7(5ng/ml、10ng/ml)を用いて、さらなる4ラウンドの陽性および陰性交互FACSで選別した。FACSの最後の3ラウンドからの個々のクローンを配列決定し、いくつかのコンセンサスに分類した(表44)。次に、表44の標的対標的外プロテアーゼによる切断の特異性について、各コンセンサスからのクローンを、uPA、klk5および7、ならびにプラスミンの様々な濃度による切断について個々に分析した。図25は、uPA対照および基質SM16と違って、KK1203、1204および1214は、KLK5、KLK7およびプラスミンによる切断に抵抗性を示すことを示す。

」([00433]、表44)
(合議体注:表44の下線部のアミノ酸配列は「LSGRSDNH」と記載されている。)

コ.「実施例19:AAの投与による副作用の低減
通常のEGFR抗体治療薬を一般に投与した患者の80%超が、体の最大の器官である皮膚の毒性を示す。患者にEGFRに対するAAが投与されると、AAは疾患特異的CMを欠くため皮膚において活性化されないので、皮膚の毒性がほとんどまたは全くないと考えられる。したがって、AAの抗EGFR ABはEGFR標的に特異的に結合することができないと考えられる。さらに、このような患者では、AAが皮膚において活性がないのでAAは隔離されないと考えられ、AAの血清レベルは高いままであり、それにより罹患した組織におけるAAの濃度を増加させ、有効用量を効果的に上昇させると考えられる。疾患環境に基づく罹患した組織におけるCMの加水分解により、活性化されたAAが生じて脱マスキングおよびEGFR標的に対するABの特異的結合を可能にし、所望の治療効果をもたらす。」([00448])

当審の拒絶理由で引用文献2として引用した、本願優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2008/101177号(以下、「引用文献2」という。)には、CHO細胞で産生されたセツキシマブの2つの変異体、1)CHO-C225、2)アミノ酸置換によりN88位にグリコシル化を欠くCHO-C225-N88Qが記載されており、また、これら2つのモノクローナル抗体が、市販の抗体と同じEGFRに対する親和性を有することも記載されている(第35頁第13行?第21行)。

当審の拒絶理由で引用文献3として引用した、本願優先日前に頒布された刊行物である特表2011-504742号公報(以下、「引用文献3」という。)には、アービタックス(セツキシマブ)の重鎖のアミノ酸配列(配列番号139)、軽鎖のアミノ酸配列(配列番号137)が記載されている(第110頁及び第184頁)。

引用文献1の上記記載事項ア.の「活性化可能抗体(AA)」の具体例として、上記記載事項エ.に記載されている「抗EGFR AA」は、上記記載事項エ.?カ.の記載から、C225抗体を基に作製され、マスキング部分(MM)は、アミノ酸配列CISPRGCの3690であり、切断可能部分(CM)は、アミノ酸配列PSPPVKMMPEのプロテアーゼ基質SM984であって、表35に記載のH鎖アミノ酸配列と表36に記載のL鎖アミノ酸配列を含むものと認められる。
よって、上記記載事項ア.?カ.及びク.によると、引用文献1には、「上皮成長因子受容体(EGFR)を、活性化された状態下で結合する活性化可能抗体であって、抗体又はその抗原結合フラグメント(AB)、マスキング部分(MM)、及び、前記ABと前記MMとを連結する切断可能部分(CM)とを含み、
前記ABは、EGFRに対して特異的に結合すると共に、表35に記載のH鎖アミノ酸配列及び表36に記載のL鎖アミノ酸配列を含み;
前記MMは、前記CMが切断されていない状態で、前記活性化可能抗体のEGFRに対する結合を阻害し、ここで、前記マスキング部分はアミノ酸配列CISPRGCを含み;及び
前記CMは、プロテアーゼのための基質として機能するポリペプチドであり、そしてアミノ酸配列PSPPVKMMPEを含み、
ここで、前記活性化可能抗体は、前記CMが切断されていない状態で、次のようなN-末端からC-末端への構造配置:MM-CM-AB又はAB-CM-MMを有する、活性化可能抗体。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「表35に記載のH鎖アミノ酸配列」は、本願発明の配列番号26のアミノ酸配列の1位?87位、89位?215位、217位?449位のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を有し、また、引用発明の「表36に記載のL鎖アミノ酸配列」は、本願発明の配列番号68のアミノ酸配列の1位?212位のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を有する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、「上皮成長因子受容体(EGFR)を、活性化された状態下で結合する活性化可能抗体であって、抗体又はその抗原結合フラグメント(AB)、マスキング部分(MM)、及び、前記ABと前記MMとを連結する切断可能部分(CM)とを含み、
前記ABは、EGFRに対して特異的に結合すると共に、配列番号26のアミノ酸配列の1位?87位、89位?215位、217位?449位のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含むH鎖アミノ酸配列及び配列番号68のアミノ酸配列の1位?212位のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含むL鎖アミノ酸配列を含み;
前記MMは、前記CMが切断されていない状態で、前記活性化可能抗体のEGFRに対する結合を阻害し、;及び
前記CMは、プロテアーゼのための基質として機能するポリペプチドであり、
ここで、前記活性化可能抗体は、前記CMが切断されていない状態で、次のようなN-末端からC-末端への構造配置:MM-CM-AB又はAB-CM-MMを有する、活性化可能抗体。」である点で一致し、両者は以下の点で相違する。

相違点1:本願発明は、MMがアミノ酸配列CISPRGCPDGPYVMY(配列番号14)であるのに対し、引用発明は、MMがアミノ酸配列CISPRGCである点。

相違点2:本願発明は、CMがアミノ酸配列LSGRSDNH(配列番号13)であるのに対し、引用発明は、CMがアミノ酸配列PSPPVKMMPEである点。

相違点3:本願発明は、H鎖の88位のアミノ酸がQであるのに対し、引用発明は、H鎖の88位のアミノ酸がNであり、本願発明は、H鎖の216位のアミノ酸がKであるのに対し、引用発明は、H鎖の216位のアミノ酸がRであり、また、本願発明は、L鎖のC末端のアミノ酸配列がNRGECであるのに対し、引用発明は、L鎖のC末端のアミノ酸配列がNRGAである点。

第6 当審の判断
以下、上記相違点について検討する。
相違点1について
引用文献1には、アミノ酸配列CISPRGCPDGPYVMYの3954が、アミノ酸配列CISPRGCの3690よりもC225に対する親和性が少なくとも100倍高いことが記載されており(上記記載事項エ.)、また、アミノ酸配列CISPRGCPDGPYVMYの3954をC225の軽鎖に連結させたアミノ酸配列も記載されている(上記記載事項キ.)から、引用発明において、MMとして、アミノ酸配列CISPRGCの代わりに、アミノ酸配列CISPRGCPDGPYVMYを使用することは、当業者が適宜なし得ることである。

相違点2について
引用文献1には、CMとして、uPAの基質を使用することが記載されており(上記記載事項ア.)、また、uPAの基質であるアミノ酸配列LSGRSDNHのkk1204は、KLK5、KLK7およびプラスミンによる切断に抵抗性を示し、uPAによる切断に対して特異性が高いアミノ酸配列であることが記載されている(上記記載事項ケ.)から、引用発明において、CMとして、PSPPVKMMPEの代わりに、アミノ酸配列LSGRSDNHを使用することは、当業者が適宜なし得ることである。

相違点3について
引用文献2には、CHO細胞で産生されたセツキシマブの変異体であって、アミノ酸置換によりN88位にグリコシル化を欠くCHO-C225-N88Qが記載されており、また、該モノクローナル抗体が、市販の抗体と同じEGFRに対する親和性を有することも記載されている(第35頁第13行?第21行)から、引用発明において、グリコシル化部位を除去することを目的として、H鎖の88位のアミノ酸NをQに置換することは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、引用文献3には、セツキシマブのH鎖のアミノ酸配列として、H鎖の216位のアミノ酸がKであるアミノ酸配列(配列番号139)が、セツキシマブのL鎖のアミノ酸配列として、L鎖のC末端のアミノ酸配列がNRGECであるアミノ酸配列(配列番号137)が記載されている(第110頁及び第184頁)から、引用発明において、H鎖の216位のアミノ酸RをKに置換し、L鎖のC末端のアミノ酸配列NRGAをNRGECに置換することは、当業者が適宜なし得ることである。

そして、本願発明が奏する効果は、引用文献1?3の記載から予測可能なものであり、格別顕著なものとは認められない。

したがって、本願発明は、引用文献1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7 審判請求人の主張
審判請求人は、令和 2年 5月29日付け意見書において、以下のア.?ウ.の点を主張しているので、以下この点について検討する。

ア.引用文献1には、有効なMMを見出すためにはアフィニティのみではなく、標的置換アッセイ(TDA)によるマスキング効率の経験的測定も考慮する必要がある旨が明記されており、これらの基準を考慮すると、引用文献1に記載の種々のマスキングペプチドの中から、当業者が特にペプチド3954を選択するとは考えられない。
引用文献1の段落[00430]及び図23の結合親和性の試験結果によると、ペプチド3957及びペプチド3958も、ペプチド3960と同等以上の結合親和性を示しており、また、TDAを用いたマスキング効率(段落[00431]、図24、表34)によると、ペプチド3690/3579は、EGFR結合の阻害に関するマスキング効率において最も優れており、標的結合に関する経時安定性を有しているから、当業者が引用文献1の記載の中から、ペプチド3957やペプチド3958ではなくペプチド3954を選択するという認定は、後知恵によるものと言わざるを得ない。

イ.引用文献1に記載のCMは、段落[0015]から明らかなように、表3の酵素群から選択される酵素の基質と定義されており、表3には54種もの酵素・プロテアーゼが列挙されており、uPAはあくまでもそのうちのプロテアーゼの一例にすぎない。仮に、当業者がプロテアーゼとしてuPAを選択し、その基質をCMとして選択し得たと仮定しても、引用文献1の表44には、CMの候補となりうるuPAの基質が14種も列挙されており、図25にデータが示されている3種類の基質(即ち、ペプチドkk1203、1204、1214)の全てが、uPAによる高い切断性を示し、KLK5/7及びプラスミンに対する耐性に優れているから、引用文献1には、54種もの酵素・プロテアーゼの中からuPAを選択し、その14種の基質の中からペプチドkk1204を選択することを当業者に示唆又は動機づける記載はない。

ウ.引用文献2では、マウスメラノーマ株SP2/0で産生されたセツキシマブ(C225)を、CHO細胞で産生されたセツキシマブ(CHO-C225)及びCHO細胞で産生されたN88Q変異を有するセツキシマブ(CHO-C225-N88Q)と比較しており、表3(第49頁)の結果をみると、SP2/0細胞で産生されたC225は何れも陽性の結果(過敏反応)を示し、グリコシル化の存在を示しているのに対し、CHO細胞で産生されたCHO-C225及びCHO-C225-N88Qは何れも陰性の結果を示している。
引用文献2には、SP2/0細胞で産生されたC225のグリコシル化抗体が、対象の「既存のIgE AbのalphaGalに対する反応」により「重度のアナフィラキシー反応」を引き起こすおそれがあると明記しており(第38頁第23行?第27行)、セツキシマブ(C225)が、他のほとんどのmAbとは異なり、α-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子を発現しているSP2/0マウス骨髄腫細胞で産生されることが記載されている(第38頁第29行?第31行)から、引用文献2の著者等は、CHO-C225-N88QのようにN88Q変異を導入するのではなく、SP2/0マウス骨髄腫細胞の代わりにCHO細胞を宿主細胞として使用することによって、セツキシマブ等の抗体からグリコシル化部位を除去することを示唆しているから、当業者は、変異を導入するのではなく、宿主細胞を変更することでグリコシル化部位を除去しようという、本願発明の発想とは逆の動機づけを受けるはずである。

主張ア.について
引用文献1には、アミノ酸配列CISPRGCPDGPYVMYの3954が、アミノ酸配列CISPRGCの3690よりもC225に対する親和性が少なくとも100倍高いことが記載されており(上記記載事項エ.)、また、3954以外にも同程度の機能を有するアミノ酸配列が記載されていたとしても、そのことが3690よりもC225に対する特異性の高い3954の使用を妨げる理由になるとはいえないので、引用文献1には、MMとして、アミノ酸配列CISPRGCの3690の代わりに、アミノ酸配列CISPRGCPDGPYVMYの3954を使用する動機付けとなる記載が示されているといえる。
また、引用文献1には、「MM3954および3957は、3609(合議体注:表34、図24、表42等から、「3690」の誤記と認める。)よりも100倍高い、同じ親和性を示す一方で、3954は標的結合の阻害が少なくとも2倍、より効率的である。」と記載されており、表34も合わせ見るとマスキング効率についても、3954は3690よりも効率的であることが示されているから、3954以外にマスキング効率が効率的なアミノ酸配列が記載されていたとしても、そのことが3690よりも効率性の高い3954の使用を妨げる理由になるとはいえないので、効率性の点からも、引用文献1は、MMとして、アミノ酸配列CISPRGCの3690の代わりに、アミノ酸配列CISPRGCPDGPYVMYの3954を使用することを動機付けるものといえる。
したがって、審判請求人の上記主張ア.は採用できない。

主張イ.について
審判請求人が指摘する引用文献1の段落[0015]には、「関連する実施形態では、CMは表3の酵素からなる群より選択される酵素の基質である。具体的な実施形態では、CMは、レグマイン、プラスミン、TMPRSS-3/4、MMP-9、MT1-MMP、カテプシン、カスパーゼ、ヒト好中球エラスターゼ、ベータ-セクレターゼ、uPA、またはPSAの基質である。」と記載されており、CMは、表3の酵素からなる群より選択される酵素の基質であると記載されているものの、具体的な実施形態として記載されているのは、レグマイン、プラスミン、TMPRSS-3/4、MMP-9、MT1-MMP、カテプシン、カスパーゼ、ヒト好中球エラスターゼ、ベータ-セクレターゼ、uPA、またはPSAの11種の酵素の基質であって、しかも、uPAの基質は、実施例において具体的に記載されている(上記記載事項ケ.)ものである。
そして、引用文献1には、uPAの基質であるアミノ酸配列LSGRSDNHのkk1204は、KLK5、KLK7およびプラスミンによる切断に抵抗性を示し、uPAによる切断に対して特異性が高いアミノ酸配列であることが記載されているから(上記記載事項ケ.)、kk1204以外にも同程度の機能を有するuPAの基質が記載されていたとしても、そのことがuPAによる切断に対して特異性の高いkk1204の使用を妨げる理由になるとはいえないので、引用文献1には、CMとして、アミノ酸配列LSGRSDNHを使用する動機付けとなる記載が示されているといえる。
したがって、審判請求人の上記主張イ.は採用できない。

主張ウ.について
引用文献2には、CHO細胞で産生されたセツキシマブの変異体であって、アミノ酸置換によりN88位にグリコシル化を欠くCHO-C225-N88Qが明記されており、また、該モノクローナル抗体が、市販の抗体と同じEGFRに対する親和性を有することも記載されている(第35頁第13行?第21行)から、当業者は、セツキシマブ等の抗EGFR抗体のH鎖の88位のアミノ酸NをQに置換させても、市販の抗体と同様の抗EGFR結合能を有しつつ、グリコシル化部位を除去できることを理解する。ゆえに、引用文献2の記載から、哺乳動物細胞で産生させた場合のセツキシマブ等の抗EGFR抗体のH鎖の88位のアミノ酸NをQに置換させる動機付けはあるといえるので、引用文献2の記載が阻害要因になるとはいえない。
一方、本願明細書には、「いくつかの実施態様によれば、EGFRを結合する抗体又はその抗体結合フラグメントの配列は、グリコシル化の可能性ある部位を除くために、少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。例えば、EGFRを結合する抗体又はその抗原結合フラグメントは、グリコシル化の可能性ある部位を除くためにH鎖及び/又はL鎖にアミノ酸置換を含む。いくつかの実施態様によれば、EGFRを結合する抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号30のアミノ酸配列を有するH鎖の位置88でアスパラギンに対応するアスパラギン(N)が、配列番号26のアミノ酸を有するH鎖を生成するために、グルタミン(Q)残基により置換されているH鎖を有する。」と記載されている(段落【0334】)だけで、H鎖の88位のアスパラギン(N)をグルタミン(Q)に置換させて、「グリコシル化の可能性ある部位を除く」ことにより、抗EGFR抗体にどのような効果を生じさせるのか何ら具体的に記載されていない。
そして、審判請求人も、引用文献2に記載されている過敏反応について、「CHO細胞で産生されたCHO-C225及びCHO-C225-N88Qは何れも陰性の結果を示して」いると述べているように、CHO細胞で産生されたセツキシマブのH鎖の88位におけるグリコシル化の有無が、「重度のアナフィラキシー反応」に関連していないことが示されているから、H鎖の88位のアスパラギン(N)をグルタミン(Q)に置換させることによる本願発明の活性化可能抗体の効果は、グリコシル化部位を除いた時に通常期待される効果を超えるものではない。
したがって、審判請求人の上記主張ウ.は採用できない。

第8 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-07-22 
結審通知日 2020-07-28 
審決日 2020-08-19 
出願番号 特願2015-509207(P2015-509207)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 玉井 真人吉森 晃北田 祐介  
特許庁審判長 田村 聖子
特許庁審判官 高堀 栄二
大久保 智之
発明の名称 上皮成長因子受容体を結合する活性化可能抗体及びその使用方法  
代理人 青木 篤  
代理人 三橋 真二  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 鶴田 準一  
代理人 胡田 尚則  
代理人 南山 知広  

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