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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1369806
審判番号 不服2019-9464  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-07-16 
確定日 2021-01-06 
事件の表示 特願2017-532622「位相誤差に基づいて振動センサの振動を制御する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月23日国際公開、WO2016/099603、平成29年12月21日国内公表、特表2017-538127〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件出願(以下「本願」と記す。)は、2015年7月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年12月19日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成31年3月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、令和元年7月16日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、当審にて令和2年4月21日付けで拒絶理由が通知され、これに対し同年7月20日に意見書が提出されたものである。

2 本願発明について
本願の請求項1ないし20に係る発明(以下「本願発明1ないし20」という。)は、令和元年7月16日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定された以下のとおりのものである。

「【請求項1】
位相誤差に基づいて振動要素の振動を制御する方法であって、
駆動信号を用いて振動要素を振動させるステップと、
振動要素から振動信号を受信するステップと、
駆動信号と振動信号との位相差を測定するステップと、
目標位相差と測定された位相差の間の位相誤差を決定するステップと、
決定された位相誤差を用いて制御ループ内の2以上の振動制御項を演算するステップと、
2つの振動制御項を加算して、駆動信号を生成するのに用いられるコマンド周波数を生成するステップを備える、方法。
【請求項2】
前記振動制御項の1つは、比例積分制御ループの項である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記位相誤差を決定するステップは、
位相誤差=(目標位相差?測定された位相差)/目標位相差
との式に基づいて、位相誤差を計算する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記振動制御項の1つは、決定された位相誤差を受信する比例積分制御ループ用の比例ゲイン項である、請求項1乃至3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
前記比例ゲイン項は、
比例ゲイン=決定された位相誤差×Kp
との式に基づいて計算され、ここで、Kpは比例ゲイン定数である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記振動制御項の1つは、決定された位相誤差を受信する制御ループ用の積分項である、請求項1乃至5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
積分項は、
積分項=積分項+決定された位相誤差×Ki
との式に基づいて計算され、ここでKiは積分項定数である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
更に、コマンド周波数にて振動要素を振動させる駆動信号を生成するように構成された信号発生器にコマンド周波数を提供するステップを備える、請求項1乃至7の何れかに記載の方法。
【請求項9】
前記コマンド周波数は積分項と比例ゲイン項を用いて生成される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記コマンド周波数は積分項と比例ゲイン項を用いて、
コマンド周波数=積分項+比例ゲイン項
との式に基づいて、積分項と比例ゲイン項を加算することにより生成される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
振動要素(104)の振動を制御するメータ電子機器(20)であって、
振動要素(104)に結合されて、振動要素(104)に駆動信号を付与するように構成された駆動回路(138)と、
振動要素(104)に結合されて、振動要素(104)から振動信号を受信するように構成された受信回路(134)とを備え、
メータ電子機器(20)は、
駆動信号と振動信号の位相差を測定し、
目標位相差と測定された位相差との間の位相誤差を決定し、
決定された位相誤差を用いて制御ループ内の2以上の振動制御項を演算し、
2つの振動制御項を加算して、駆動信号を生成するのに用いられるコマンド周波数を生成するように構成されている、メータ電子機器(20)。
【請求項12】
前記振動制御項の1つは、比例積分制御ループの項である、請求項11に記載のメータ電子機器(20)。
【請求項13】
前記メータ電子機器(20)は位相誤差を決定するように構成され、
位相誤差=(目標位相差?測定された位相差)/目標位相差
との式に基づいて、位相誤差を演算するように構成されている、請求項11又は12に記載のメータ電子機器(20)。
【請求項14】
前記振動制御項の1つは、決定された位相誤差を受信する比例積分制御ループ用の比例ゲイン項である、請求項11乃至13の何れかに記載のメータ電子機器(20)。
【請求項15】
前記比例ゲイン項は、
比例ゲイン=決定された位相誤差×Kp
との式に基づいて計算され、ここで、Kpは比例ゲイン定数である、請求項14に記載のメータ電子機器(20)。
【請求項16】
前記振動制御項は決定された位相誤差を受信する制御ループ用の積分項である、請求項11乃至15の何れかに記載のメータ電子機器(20)。
【請求項17】
前記積分項は、
積分項=積分項+決定された位相誤差×Ki
との式に基づいて計算され、ここでKiは積分項定数である、請求項16に記載のメータ電子機器(20)。
【請求項18】
前記メータ電子機器(20)は更に、コマンド周波数(ω_(c))にて振動要素(104)を振動させる駆動信号を生成するように構成された信号発生器(147c)にコマンド周波数(ω_(c))を提供するように構成されている、請求項11乃至17の何れかに記載のメータ電子機器(20)。
【請求項19】
前記コマンド周波数(ω_(c))は積分項と比例ゲイン項を用いて生成される、請求項18に記載のメータ電子機器(20)。
【請求項20】
前記コマンド周波数(ω_(c))は積分項と比例ゲイン項を用いて、
コマンド周波数=積分項+比例ゲイン項
との式に基づいて積分項と比例ゲイン項を加算することにより生成される、請求項19に記載のメータ電子機器(20)。」

3 拒絶の理由
令和2年4月21日付けで当審が通知した拒絶理由は、次のとおりのものである。
本願の請求項1ないし20に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布されたまたは電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:国際公開第2014/176122号
引用文献2:米国特許出願公開第2008/0141787号明細書

4 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)(当審注:対応箇所の邦訳は、引用文献1の国内出願の公表特許公報である特表2016-518606号公報の記載を使用した。)。

ア「TECHNICAL FIELD
The embodiments described below relate to vibratory sensors and, more particularly, to methods of generating a drive signal for a vibratory sensor.」(明細書第1頁第2-5行)
(邦訳:
技術分野
下記の実施形態は、振動式センサに関し、特に振動式センサ用に駆動信号を生成する方法に関する。)

イ「ASPECTS
According to an aspect, a method (600) of generating a drive signal for a vibratory sensor (5) comprises vibrating a vibratory element (104, 510) configured to provide a vibration signal, receiving the vibration signal from the vibratory element (104, 510) with a receiver circuit (134), generating the drive signal that vibrates the vibratory element (104, 510) with a driver circuit (138) coupled to the receiver circuit (134) and the vibratory element (104, 510), and comparing a phase of the generated drive signal with a phase of the vibration signal.
Preferably, the comparing the phase of the generated drive signal with the phase of the vibration signal comprises comparing a sampled generated drive signal with a sampled vibration signal.
Preferably, the method (600) further comprises removing at least one frequency component from the at least one of the sampled generated drive signal and the sampled vibration signal.
Preferably, the comparing the sampled generated drive signal with the sampled vibration signal comprises performing a correlation of the sampled generated drive signal and the sampled vibration signal.
Preferably, the comparing the sampled generated drive signal with the sampled vibration signal comprises conjugating one of the sampled generated drive signal and the sampled vibration signal, and multiplying the conjugated one of the sampled generated drive signal and the sampled vibration signal with the non-conjugated one of the sampled generated drive signal and the sampled vibration signal.
Preferably, the comparing the phase of the generated drive signal with the phase of the vibration signal comprises determining a measured phase difference φ_(m)between the phase of the generated drive signal and the phase of the vibration signal, and comparing the measured phase difference φ_(m) with a target phase difference φ_(t) to determine if the measured phase difference φ_(m) is at the target phase difference φ_(t).
Preferably, the method (600) further comprises measuring a density of a fluid when the measured phase difference φ_(m) is at the target phase difference φ_(t).
Preferably, the method (600) further comprises determining a command frequency ω from the comparison of the phase of the generated drive signal and the phase of the vibration signal, providing the command frequency ω to a signal generator (147c), and generating the drive signal at the command frequency ω with the signal generator (147c).
Preferably, the method (600), wherein the generating the drive signal at the command frequency ω with the signal generator (147c) comprises forming a synthesized drive signal with a drive synthesizer (544), and converting the synthesized drive signal to the generated drive signal with a digital to analog converter (534).」(明細書第3頁第17行-第4頁第21行)
(邦訳:
態様
態様に従って、振動式センサ(5)用の駆動信号を生成する方法(600)は、振動信号を付与するように構成された振動要素(104、510)を振動させる工程と、受信回路(134)を用いて振動要素(104、510)から振動信号を受信する工程と、受信回路(134)及び振動要素(104、510)に連結された駆動回路(138)を用いて、振動要素(104、510)を振動させる駆動信号を生成する工程と、生成された駆動信号の位相を振動信号の位相と比較する工程を備える。
生成された駆動信号の位相を振動信号の位相と比較する工程は、生成された駆動信号のサンプルを振動信号のサンプルと比較する工程を備えるのが好ましい。
方法(600)は更に、生成された駆動信号のサンプルと振動信号のサンプルの少なくとも1つから、少なくとも1つの周波数成分を除去する工程を備えるのが好ましい。
生成された駆動信号のサンプルを振動信号のサンプルと比較する工程は、生成された駆動信号のサンプルと振動信号のサンプルの相関付けを実行する工程を備えるのが好ましい。
生成された駆動信号のサンプルを振動信号のサンプルと比較する工程は、生成された駆動信号のサンプルの1つを振動信号のサンプルに接合する工程と、該接合された1つの生成された駆動信号のサンプル及び振動信号のサンプルを、接合されない1つの生成された駆動信号のサンプル及び振動信号のサンプルと掛け合わせる工程を備えるのが好ましい。
生成された駆動信号の位相を振動信号の位相と比較する工程は、生成された駆動信号の位相と振動信号の位相間の測定された位相差φ_(m)を決定する工程、及び測定された位相差φ_(m)を目標位相差φtと比較し、測定された位相差φ_(m)が目標位相差φtにあるかを決定する工程を備えるのが好ましい。
方法(600)は更に、測定された位相差φ_(m)が目標位相差φtにあるときは、流体の密度を測定する工程を備えるのが好ましい。
方法(600)は更に、生成された駆動信号の位相と振動信号の位相の比較から、コマンド周波数ωを決定する工程と、信号生成器(147c)にコマンド周波数を供給する工程と、該信号生成器(147c)を用いてコマンド周波数ωにて駆動信号を生成する工程を備える。
方法(600)の信号生成器(147c)を用いてコマンド周波数ωにて駆動信号を生成する工程は、駆動シンセサイザ(544)を用いて合成された駆動信号を形成する工程と、デジタル/アナログコンバータ(534)を用いて合成された駆動信号を生成された駆動信号に変換する工程を含むのが好ましい。)

ウ「 The phase detector 147b can compare the phases of the sampled vibration and generated drive signal. The phase detector 147b can be a processor configured to execute one or more codes or programs that sample, process, and generate signals to detect a phase difference between two signals, as will be described in more detail in the following with reference to FIG. 5. Still referring to the embodiment of FIG. 4, the comparison provides a measured phase difference φ_(m) between the sampled vibration signal and the sampled generated drive signal.
The measured phase difference φ_(m) is compared with the target phase difference φ_(t). The target phase difference φ_(t) is a desired phase difference between the vibration signal and the generated drive signal. In an embodiment where the target phase difference φ_(t) is approximately 45°, the difference between the measured phase difference φm and the target phase difference φ_(t) can be zero if the measured phase difference φ_(m) is also the same as or about 45°. However, any appropriate target phase difference φ_(t) can be employed in alternative embodiments. Using the comparison between the measured phase difference φ_(m) and the target phasedifference φ_(t), the phasedetector 147b can generate a command frequency ω.
The command frequency ω can be employed to generate the drive signal. Additionally or alternatively, an initial frequency ω_(o) that is not determined from the comparison between the measured phase difference φ_(m) and the target phase difference φ_(t) can be employed. The initial frequency ω_(o) could be a preselected frequency used to form an initial generated drive signal. The initial generated drive signal can be sampled as described in the foregoing and compared with the sampled vibration signal. The comparison between the sampled initial generated drive signal and the sampled vibration signal can be used to generate the command frequency ω. The command frequency ω and the initial frequency ω_(o) can have units of radians per second although any suitable units can be employed. The command frequency ω or the initial frequency ω_(o) can be provided to the signal generator 147c.
The signal generator 147c can receive the command frequency ω from the phase detector 147b and provide the generated drive signal with a frequency that is the same as the command frequency ω. The generated drive signal is sent, as discussed in the foregoing, to the analog to digital converter 147a. The generated drive signal is also sent to the second piezo element 124 via the analog output filter 138b. Additionally or alternatively, the generated drive signal can be sent to other components in other embodiments. In these and other embodiments, the generated drive signal can therefore be determined from the difference between the measured phase difference φ_(m) and the target phase difference φ_(t), as will be described in more detail in the following.」(明細書第10頁第20行-第11頁第22行)
(邦訳:
位相検知器147bはサンプリングされた振動信号の位相と生成された駆動信号の位相を比較する。位相検知器147bは、図5に関して下記により詳細に記述されるように、2つの信号間の位相差を検知する信号をサンプリングし、処理し、生成する1以上のコードあるいはプログラムを実行するように構成されたプロセッサである。図4の実施形態に言及して、比較により振動信号のサンプルと生成された駆動信号のサンプル間の測定された位相差φ_(m)が付与される。
測定された位相差φ_(m)は目標位相差φ_(t)と比較される。目標位相差φ_(t)は振動信号と生成された駆動信号の所望の位相差である。実施形態にて、目標位相差φ_(t)が約45°であれば、測定された位相差φ_(m)と目標位相差φ_(t)との差は、測定された位相差φ_(m)が45°と同じ又は約45°であれば、ゼロである。しかし、代替の実施形態では、あらゆる適切な目標位相差φ_(t)が用いられ得る。測定された位相差φ_(m)と目標位相差φ_(t)との比較を用いて、位相検知器147bはコマンド周波数ωを生成することが出来る。
コマンド周波数ωは駆動信号を生成するのに用いられる。更に又は或いは、測定された位相差φ_(m)と目標位相差φ_(t)間の比較からは決定されない最初の周波数ω_(0)が用いられる。最初の周波数ω_(0)は、最初に生成された駆動信号を形成するのに用いられる予め選択された周波数である。最初に生成された駆動信号が上記の如く、サンプリングされ、サンプリングされた振動信号と比較される。最初に生成された駆動信号のサンプルと振動信号のサンプルの比較は、コマンド周波数ωを生成するのに用いられる。あらゆる適切な単位も使用することができるが、コマンド周波数ωと最初の周波数ω_(0)は、ラジアン/秒の単位を有する。コマンド周波数ω又は最初の周波数ω_(0)は、信号生成器147cに供給される。
信号生成器147cは位相検知器147bからコマンド周波数ωを受信し、該コマンド周波数ωと同じ周波数を有する生成された駆動信号を付与する。前記の如く、生成された駆動信号はアナログ/デジタル変換器147aに送信される。生成された駆動信号はまた、アナログ出力フィルタ138bを介して第2ピエゾ要素124に送信される。更に又は或いは、生成された駆動信号は他の実施形態の他の部品に送信される。従って、これら及び他の実施形態にて、生成された駆動信号は、以下により詳細に記載する如く、測定された位相差φmと目標位相差φ_(t)との差から決定される。)

エ「 In step 650, the command frequency ω can be determined from the measured phase difference φm . For example, in the embodiments described in the foregoing, if the measured phase difference φ_(m) is less than the target phase difference φ_(t), then the command frequency ω is increased. If the measured phased difference φ_(m) is greater than the target phase difference φ_(t) then the command frequency is decreased. However, in alterative embodiments, the command frequency ω can be determined from the measured phase difference φ_(m) with alternative means. In these and other embodiments, the command frequency ω is used to generate the drive signal in step 660. 」(明細書第15頁第24-31行)
(邦訳:
ステップ650で、コマンド周波数ωは測定された位相差φ_(m)から決定される。例えば、上記に記載の実施形態にて、測定された位相差φ_(m)が目標位相差φ_(t)よりも小さければ、コマンド周波数ωが増加される。しかし、代替の実施形態において、コマンド周波数ωは代替の手段を用いて測定された位相差φ_(m)から決定される。これらの又は他の実施形態において、コマンド周波数ωはステップ660にて駆動信号を生成するのに用いられる。)

(2)引用発明1
上記引用文献1の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「振動式センサ(5)用の駆動信号を生成する方法(600)において、
振動信号を付与するように構成された振動要素(104,510)を振動させる工程と、受信回路(134)を用いて振動要素(104,510)から振動信号を受信する工程と、受信回路(134)及び振動要素(104,510)に連結された駆動回路(138)を用いて、振動要素(104,510)を振動させる駆動信号を生成する工程と、生成された駆動信号の位相と振動信号の位相間の測定された位相差φ_(m)を決定する工程及び測定された位相差φ_(m)を目標位相差φ_(t)と比較し、測定された位相差φ_(m)が目標位相差φ_(t)にあるかを決定する工程と、測定された位相差φ_(m)と目標位相差φ_(t)との比較を用いて位相検知器147bで駆動信号を生成するのに用いられるコマンド周波数ωを生成する工程と、を備える方法。」

(3)引用文献2の記載
引用文献2には、以下の事項が記載されている。(当審注:当審による邦訳)。
ア「A process for operating a measurement device of the vibration type is disclosed. 」(【0003】段落)
(邦訳:
振動型の測定装置を動作させるための方法が開示されている。)

イ「An exemplary process disclosed herein can use a time-dependent force f(t)=F sin(ωt)+g(t) with at least one sinusoidal component having a force amplitude F. The force F can be a constant for a given measurement which can, if desired, be adjusted by actuation of a force actuator acting on a portion of the system, such as a flow tube configured to contain a measurement medium. The force f(t) includes an adjustable frequency ω stimulated by an exciter arrangement. The force f(t) can also include a possible extraneous time varying force factor g(t), such as a spurious force. This spurious force can, in some cases, be considered negligible or non-existent (e.g., value of 0) in terms of its influence on the force f(t). The force f(t) acts on at least one vibration-capable part (e.g., flow tube or other related device) of a measurement device of the vibration type. A response signal of the vibration-capable part can be measured. For example, a time dependent velocity v(t)=V sin(ωt+ψ)+h(t), with at least one sinusoidal component having a velocity amplitude V, the adjustable excitation frequency ω, and with a possible extraneous time varying velocity factor h(t) can be measured. The velocity constant V can be adjusted in response to changes in F, for a given measurement. The phase shift Ψ between the response signal and the force f of the signal component which oscillates with a frequency ω can be determined. The phase shift Ψ can be used as an input for a frequency controller so that the excitation frequency is automatically adjusted as a function of Ψ.」(【0015】段落)
(邦訳:
本明細書に開示される例示的なプロセスは、力の振幅Fをもつ少なくとも1つの正弦波成分の時間依存の力f(t)=F sin(ωt)+g(t)を使用することができる。力Fは一定値であり、望ましくは予備測定で、測定媒体に含まれるように設定されたフローチューブのような、システムの一部として作動するフォースアクチュエーターの作動により調整される。力f(t)は励磁機構に励起された調整可能な周波数ωを有する。力f(t)はまた、スプリアス力のような可能性のある外部の時間変化する力率g(t)、などを含むことができる。ある場合、このスプリアス力は力f(t)に対するその影響の観点で無視できるか、又は存在しない(例えば0の値)と考えることができる。力f(t)は、振動型の測定装置のうちの少なくとも1つの振動可能な部分(例えば、フローチューブ又はその他の関連機器)に作用する。振動可能な部分の応答信号を測定することができる。例えば、速度振幅Vと、調整可能な励起周波数ωを持つ正弦波成分と、可能性のある外部の時間変化速度係数h(t)と、を持つ少なくとも1つの正弦波成分をもつ時間依存速度v(t)=Vsin(ωt+ψ)+h(t)が測定される。速度定数Vは、予備測定でFの変化に応答して調整される。応答信号と、周波数ωで振動する信号要素の力fと、の間の位相シフトΨが決定される。位相シフトΨは励起周波数がΨの関数として自動的に調整されるように、周波数制御装置の入力として利用される。)

ウ「In another exemplary embodiment configuration, the frequency controller is operated in the sense of a PID control.」(【0017】段落)
(邦訳:
別の例示的な実施形態において、周波数制御装置は、PID制御の下で作動する。)

エ「In another exemplary embodiment, the PID controller is operated in the following sense:

wherein P, I And D are constants which can be determined empirically, in known fashion, and tuned from initial values based on feedback.」(【0018】段落)
(邦訳:
別の例示的な実施形態において、PID制御装置は、以下の式の下に作動する。

ここで
P,I,Dは公知のように、経験的に決定され、フードバックに基づいて初期値から調整されることができる定数である。)

(4)引用発明2
上記引用文献2の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「振動型の測定装置を動作させるための方法において、f(t)=F sin(ωt)で振動型の測定装置のうちの少なくとも1つの振動可能な部分に作用し、振動可能な部分の応答信号v(t)=Vsin(ωt+ψ)+h(t)が測定され、応答信号v(t)と力f(t)との位相シフトΨが決定され、位相シフトΨは周波数制御装置の入力として利用され、周波数制御装置はPID制御の下で作動し、PID制御装置は以下の式の下作動する。



5 対比及び判断
(1)本願発明1について
本願発明1と引用発明1を対比する。
ア 引用発明1における「振動要素(104,510)」は、本願発明1における「振動要素」に相当する。
イ 引用発明1における「振動信号」は、「振動要素(104,510)を振動させる」ために振動要素に「付与」される信号であるから、本願発明1における「振動要素を振動させる」ための「駆動信号」に相当する。
ウ 引用発明1における「振動信号を付与するように構成された振動要素(104,510)を振動させる工程」は、本願発明1における「駆動信号を用いて振動要素を振動させるステップ」に相当する。
エ 引用発明1における「受信回路(134)を用いて振動要素(104,510)から振動信号を受信する工程」は、本願発明1における「振動要素から振動信号を受信するステップ」に相当する。
オ 引用発明1における「駆動信号の位相と振動信号の位相間の測定された位相差φ_(m)を決定する工程」は、本願発明1における「駆動信号と振動信号との位相差を測定するステップ」に相当する。
カ 引用発明1における「測定された位相差φ_(m)を目標位相差φ_(t)と比較し、測定された位相差φ_(m)が目標位相差φ_(t)にあるかを決定する工程」は、本願発明1における「目標位相差と測定された位相差の間の位相誤差を決定するステップ」に相当する。
キ 引用発明1における「測定された位相差φ_(m)と目標位相差φ_(t)との比較を用いて位相検知器147bで駆動信号を生成するのに用いられるコマンド周波数ωを生成する工程」は、「測定された位相差φ_(m)と目標位相差φ_(t)との比較」が「位相誤差を決定する」ことに相当するのであるから、本願発明1における「決定された位相誤差を用いて」「駆動信号を生成するのに用いられるコマンド周波数を生成するステップ」に相当する。
ク 引用発明1における「振動式センサ(5)用の駆動信号を生成する方法(600)」は、「受信回路(134)及び振動要素(104,510)に連結された駆動回路(138)を用いて」、「測定された位相差φ_(m)と目標位相差φ_(t)との比較を用いて位相検知器147bで駆動信号を生成するのに用いられるコマンド周波数ωを生成」し、そのコマンド周波数ωで「振動要素(104,510)を振動させる」ものであるから、本願発明1における「位相誤差に基づいて振動要素の振動を制御する方法」に相当する。

ケ すると、本願発明1と、引用発明1とは、次の点で一致する。
<一致点>
位相誤差に基づいて振動要素の振動を制御する方法であって、
駆動信号を用いて振動要素を振動させるステップと、
振動要素から振動信号を受信するステップと、
駆動信号と振動信号との位相差を測定するステップと、
目標位相差と測定された位相差の間の位相誤差を決定するステップと、
決定された位相誤差を用いて、駆動信号を生成するのに用いられるコマンド周波数を生成するステップを備える、方法。

コ 一方で、両者は、次の点で相違する。
<相違点>
本願発明1では、位相誤差を用いて駆動信号を生成するのに用いられるコマンド周波数を生成する手法が、「決定された位相誤差を用いて制御ループ内の2以上の振動制御項を演算し」「2つの振動制御項を加算して、駆動信号を生成するのに用いられるコマンド周波数を生成する」のに対し、引用発明1では、「測定された位相差φ_(m)と目標位相差φ_(t)との比較を用いて位相検知器147bで駆動信号を生成するのに用いられるコマンド周波数ωを生成」しているが、その具体的生成方法が、不明である点。

サ 上記相違点について判断する。
引用例2は、「振動型の測定装置を動作させるための方法」を開示する文献であるから、引用例1と振動要素の振動を制御する方法という同一の技術分野に属する文献である。
引用例2に記載された引用発明2の、「周波数制御装置」は「f(t)=F sin(ωt)で振動型の測定装置のうちの少なくとも1つの振動可能な部分に作用」する周波数ωを生成するものである。また引用発明2では、周波数ωは「振動可能な部分の応答信号v(t)と」振動可能な部分に作用する「f(t)との位相シフトΨ」を入力として以下の式、

を用いたPID制御により周波数制御装置で生成される」ことから、引用発明2は、目的とする振動動作を達成するために、測定された振動と作動信号の位相差を入力信号として、比例項、積分項、微分項の3つの和から新たな周波数ωを求めるPID制御により作動信号の周波数ωを生成する技術を開示している。この引用発明2における技術は、本願発明1における「位相誤差を用いて制御ループ内の2以上の振動制御項を演算」し「2つの振動制御項を加算して、駆動信号を生成するのに用いられるコマンド周波数を生成する」技術に相当する。
よって、引用発明1における、「測定された位相差φ_(m)と目標位相差φ_(t)との比較を用いて位相検知器147bで駆動信号を生成するのに用いられるコマンド周波数ωを生成」する具体的生成方法として、引用発明2に開示された上記技術を採用して、上記相違点に係る発明特定事項を導き出すことは、当業者ならば容易になし得たことであり、その作用効果も当業者が予測しうる範囲のものである。

シ 以上のことから、本願発明1は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本願発明2ないし10について
本願発明2ないし10は、本願発明1に、各種限定事項を付加したものである。
しかしながら、本願発明2,4ないし10における各種限定事項は、前記「(1)」で検討したとおり、引用発明1及び引用発明2から当業者が容易になし得たことであり、その作用効果も当業者が予測しうる範囲のものである。また、本願発明3における、位相誤差を目標位相差で正規化した値とすることは、当業者が適宜なしうる設計的事項にすぎず、当業者が容易になし得たことである。
そして、本願発明2ないし10の作用効果も当業者が予測しうる範囲のものである。
以上のことから、本願発明2ないし10は、前記「(1)」に記載された対比判断と同様の理由により、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本願発明11ないし20について
本願発明11ないし20は、その発明特定事項を本願発明1ないし10と比較すると、本願発明1ないし10の方法発明を実現するメータ電子機器であると認められる。
しかしながら、前記「(1)」及び「(2)」で検討したとおり、本願発明11ないし20も、本願発明1ないし10と同様に、引用発明1及び引用発明2から当業者が容易になし得たことであり、その作用効果も当業者が予測しうる範囲のものである。
以上のことから、本願発明11ないし20に係る発明は、前記「(1)」及び「(2)」に記載された対比判断と同様の理由により、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)令和2年7月20日提出の意見書における請求人の主張について
請求人は、令和2年7月20日提出の意見書において、前記「(1)コ」の相違点に係る技術が引用文献2には開示されていない旨主張している。しかしながら、本願発明1の進歩性の判断については上記「(1)」のとおりであり、請求人の主張を採用することはできない。

(5)小括
以上のことから、本願発明1ないし20は、引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし20に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布されたまたは電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-08-07 
結審通知日 2020-08-11 
審決日 2020-08-24 
出願番号 特願2017-532622(P2017-532622)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北条 弥作子萩田 裕介  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 伊藤 幸仙
森 竜介
発明の名称 位相誤差に基づいて振動センサの振動を制御する方法  
代理人 特許業務法人 有古特許事務所  

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