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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J |
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管理番号 | 1369820 |
審判番号 | 不服2019-11389 |
総通号数 | 254 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-02-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-08-30 |
確定日 | 2021-01-07 |
事件の表示 | 特願2016-527780「インクジェットヘッド及びインクジェット記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月17日国際公開、WO2015/190409〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2015年6月5日(優先権主張2014年6月12日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成30年11月12日付けで拒絶理由が通知され、平成31年1月8日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、令和1年5月30日付けで拒絶査定がされ、これに対して、令和1年8月30日付けで拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、その後、当審において、令和2年6月22日付けで令和1年8月30日付けの手続補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、令和2年8月7日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1乃至10に係る発明は、令和2年8月7日付けで提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至10に記載された事項により特定されるとおりのものであって、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「【請求項1】 所定温度に加熱されたインクを吐出するインクジェット記録装置のインクジェットヘッドであって、 第1の部材と、 前記第1の部材に固着される板状の第2の部材と、 前記第1の部材のインク供給方向上流側に設けられて複数のノズルに前記インクを供給する共通インク室と、 前記共通インク室の外面に設けられ、前記第1の部材と前記第2の部材との固着部分、及び前記インクを加熱する複数のヒーターと、を備え、 前記第1の部材と前記第2の部材との界面に、シランカップリング剤が介在されており、 前記共通インク室は、前記第2の部材のうち前記第1の部材が固着された第1の面とは反対側の第2の面に接合されており、 前記複数のヒーターのうち少なくとも1つは、前記共通インク室の外面のうち、前記第2の面に対して交差する方向に延在する側面に設けられており、 前記側面に設けられた前記ヒーターの前記第2の面側の端部は、他の任意の部材を介さずに前記第2の面と対向していることを特徴とするインクジェットヘッド。」 第3 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由において通知した理由は、次に概略を記した理由を含むものである。 (理由2)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項 1?12 ・引用文献等 1 引 用 文 献 等 一 覧 1.特開2009-166309号公報 2.特開2012-171319号公報(周知技術を示す文献) 3.特開平6-49399号公報(周知技術を示す文献) 4.特開2013-6404号公報(周知技術を示す文献) 5.特開2013-10227号公報(周知技術を示す文献) 第4 引用文献に記載された事項及び引用発明について 1 引用文献に記載された事項 当審拒絶理由において引用した本願の優先日(2014年6月12日)前に出願公開された特開2009-166309号公報(以下「引用文献」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は審決で付した。以下同じ。) (1)「【技術分野】 【0001】 本発明は、インクジェット画像記録の用いるインクジェットヘッド及びインクジェットヘッドの製造方法に関し、詳しくは、インクジェットヘッドの組み立て段階で、組みたて精度、組み立て容易性が向上し、構成部材の接着性に優れたインクジェットヘッド及びインクジェットヘッドの製造方法に関するものである。」 (2)「【発明が解決しようとする課題】 【0012】 本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、組みたて精度、組み立て容易性に優れ、構成部材の接着性に優れたインクジェットヘッド及びインクジェットヘッドの製造方法を提供することにある。」 (3)「【0024】 図1は、本発明のインクジェットヘッドの一例を示す分解斜視図であり、図2はその断面図である。図1、2において、Hはインクジェットヘッド、1は圧力室基板(ヘッドチップともいう)、2はヘッドチップ1の前面に接合されるノズルプレート、3はヘッドチップ1の後面に接合される配線基板、4は配線基板3に接合されるFPC、5は配線基板3の後面に接合されるインクマニホールドである。」 (4)「【0035】 ノズルプレートは、ヘッドチップ1の各圧力室14の出口に対応する位置にそれぞれノズル21が開設されており、接続電極16が形成されたヘッドチップ1の前面に、例えば、本発明に係る光・熱硬化型接着剤を用いて接合される。従って、各圧力室14の入口、出口及びノズル21が直線状に配置される。」 (5)「【0097】 透明なガラス支持体からなる配線基板3のヘッドチップ1との接着部分に、図5、図6に記載の構成となる様に導電性ペーストをスクリーン印刷により形成及び焼結処理を行って、配線電極33を形成した。配線基板の熱膨張率とヘッドチップの熱膨張率の差は2%であった。次いで、形成した配線基板3のヘッドチップとの接合部分を被覆する様に、下記接着剤1をディスペンサーを用いて、厚さ5μmとなる条件で付与した。」 (6)「【0099】 次いで、配線基板3から、インク入口側141にむけて、高圧水銀灯を用いて、2000mW/cm2の照度で10秒間照射した後、100℃で1時間の加熱処理を行って、ヘッドチップ1と配線基板3とを接合して、インクジェットヘッド1を作製した。 【0100】 (接着剤1の組成) セロキサイド2021(脂環式エポキシ樹脂;ダイセルUCB社製):50部 エピコート807(ビスフェノールF型エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン製):50部 アデカオプトマーSP-170(光カチオン重合開始剤;アデカ製):2部 アデカオプトロンCP-77(熱カチオン重合開始剤;アデカ製):0.4部 A-187(シランカップリング剤;日本ユニカー社製):3部 ニッケル粒子(平均粒子径:3μm):100部 上記作製したインクジェットヘッドは、チャネルへの接着剤の流れ込みは無かった。また、電極の断線やショートもなかった。」 (7) (8)インクジェットヘッドはインクマニホールドから圧力室基板(ヘッドチップ)を経てノズルプレートのノズルへインクが供給されることが技術常識といえることを踏まえると、上記(4)及び図2より、インクマニホールドは、ヘッドチップのインク供給方向上流側に設けられて複数のノズルにインクを供給するものといえる。また、図2より、配線基板は板状であることが看取できる。 2 引用発明 上記「1 (1)乃至(8)」から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「ヘッドチップ、ヘッドチップの前面に接合されるノズルプレート、ヘッドチップの後面に接合される板状の配線基板、板状の配線基板に接合されるFPC、板状の配線基板の後面に接合されるインクマニホールドからなるインクジェットヘッドであって、 インクマニホールドは、ヘッドチップのインク供給方向上流側に設けられて複数のノズルにインクを供給し、 板状の配線基板のヘッドチップとの接合部分は光カチオン重合開始剤、熱カチオン重合開始剤及びシランカップリング剤を組成とする接着剤で被覆されている、インクジェットヘッド。」 第5 当審の判断 1 本願発明と引用発明との対比 (1)本願発明と引用発明とを対比する。 ア 後者の「インク」、「インクジェットヘッド」、「複数のノズル」、「インクマニホールド」及び「シランカップリング剤」は、それぞれ、前者の「インク」、「インクジェットヘッド」、「複数のノズル」、「共通インク室」及び「シランカップリング剤」に相当する。 イ 後者の「インクジェットヘッド」がインクを吐出し、インクジェット記録装置を構成する部材であることは、インクジェット記録装置分野における技術常識から、明らかな事項であるから、後者の「インクジェットヘッド」は、前者の「インクジェット記録装置のインクジェットヘッド」に相当する。 ウ 後者の「ヘッドチップのインク供給方向上流側に」は、インクマニホールドが設けられていることは、前者の「第1の部材のインク供給上流側」に「複数のノズルにインクを供給する共通インク室」が「設けられて」いることに相当し、後者の「ヘッドチップ」は、前者の「第1部材」に相当する。 エ 後者の「板状の配線基板」は、「ヘッドチップの後面に接合」されているから、前者の「第1の部材に固着される板状の第2部材」に相当する。 オ 後者の「板状の配線基板のヘッドチップとの接合部分はシランカップリング剤を組成とする接着剤で被覆されている」から、前者の「第1の部材と前記第2の部材との界面」と後者の「ヘッドチップ」と「板状の配線基板」との界面とは、「シランカップリング剤が介在されている」点で一致する。 カ 後者の「インクマニホールド」は、ヘッドチップの後面には板状の配線基板が接合され、その板状の配線基板の後面に接合されているから、前者の「共通インク室」と後者の「インクマニホールド」とは、「第2の部材のうち第1の部材が固着された第1の面とは反対側の第2の面に接合されて」いるものとの概念で共通する。 (2)したがって、本願発明と引用発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。 <一致点> 「インクを吐出するインクジェット記録装置のインクジェットヘッドであって、 第1の部材と、 前記第1の部材に固着される板状の第2の部材と、 前記第1の部材のインク供給方向上流側に設けられて複数のノズルに前記インクを供給する共通インク室と、を備え、 前記第1の部材と前記第2の部材との界面に、シランカップリング剤が介在されており、 前記共通インク室は、前記第2の部材のうち前記第1の部材が固着された第1の面とは反対側の第2の面に接合されている、インクジェットヘッド。」 <相違点> 本願発明は、「所定温度に加熱されたインク」を吐出し、「共通インク室の外面に設けられ、第1の部材と第2の部材との固着部分、及びインクを加熱する複数のヒーター」を備え、「前記複数のヒーターのうち少なくとも1つは、前記共通インク室の外面のうち、前記第2の面に対して交差する方向に延在する側面に設けられており、前記側面に設けられた前記ヒーターの前記第2の面側の端部は、他の任意の部材を介さずに前記第2の面と対向している」のに対し、引用発明は、そのような構成を備えていない点。 2 相違点についての判断 引用発明のヘッドチップ、及びヘッドチップの後面に接配線基板は、インクに接触しているのだから、その接合部分は、インクに接触するといえる。 また、接着剤にシランカップリング剤を配合することにより、その後の加熱環境において再結合が可能となること、それにより、接着力等が強化できることは一般に知られている技術事項(以下「技術事項」という。)である。 そして、インクジェット記録装置において、高粘度インクを加熱して低粘度化して吐出すること自体、ありふれた技術であって、当審拒絶理由において周知技術を示すために引用文献2として提示した特開2012-171319号公報に記載(【0010】、図3等参照。)されているように、インクジェット記録装置において、高粘度インクを加熱して低粘度化して吐出するために共通インク室の外面に複数のヒーターを設けることは周知の技術手段(以下「周知技術」という。)である。 そして、共通インク室の外形が直方体であることが一般的であるところからすると、共通インク室の外面に複数のヒーターを設けると、共通インク室がヘッドチップもしくは回路基板との接合面を除いた面、すなわち、前記接合面に対して交差する方向に延在する側面に設けられることは明らかである。 そして、前記周知技術において、高粘度インクを低粘度化して吐出するために加熱するのであるから、前記周知技術の共通インク室の外面に設けた複数のヒーターはインクジェットヘッドの稼働時に加熱するものといえる。 そうすると、引用発明において、高粘度インクを加熱して低粘度化して吐出することが、ありふれた技術である前提に立って、前記周知技術を適用し、共通インク室の外面に複数のヒーターを設け、複数のヒーターのうち少なくとも1つを、共通インク室の外面のうち、第2の面に対して交差する方向に延在する側面に設け、前記側面に設けられた前記ヒーターの前記第2の面側の端部は、他の任意の部材を介さずに前記第2の面と対向させ、以て、ヘッドチップとヘッドチップの後面に接合される配線基板の接合部分、及びインクを加熱するようにすることは当業者が容易になし得るものである。 そして、引用発明に上記周知技術を適用すれば、ヒーターの共通インク室が接合されるフレーム部材に側の端面は、自ずと、フレーム部材の共通インク室が接合される面に対して、他の部材を介さずに対向させることなるのは明らかである。 また、上記技術事項に照らせば、引用発明に上記周知技術を適用することにより、稼働時の共通インク室の外面に設けたヒーターの加熱で、ヘッドチップとヘッドチップの後面に接合される配線基板の接合部分のシランカップリング剤を含有する接着剤の接着力が強化されることは予測し得るものであるから、本願発明の効果も、当業者であれば容易に予測し得る程度のものである。 審判請求人は、「引用文献2には、…発熱手段12bは、共通液室13の外壁面を覆うフレーム部材10に開けられた貫通孔の底部に設置されており、発熱手段12bと上述の板状部材との間にはフレーム部材10の一部が介在しています。よって、引用文献2には、発熱手段12bの板状部材側の端部が他の任意の部材を介さずに板状部材と対向している構成は開示されておらず、補正後の請求項1の特徴(I)が記載も示唆もされていません。また、このような引用文献2の構成からは、上記(4-1)に記載しました、補正後の本願請求項1の発明が奏する効果は得られません」、と主張する。 しかし、上記のとおり、共通インク室の外形が直方体であることが一般的であるところからすると、共通インク室の外面に複数のヒーターを設けると、共通インク室がヘッドチップもしくは回路基板との接合面を除いた面、すなわち、前記接合面に対して交差する方向に延在する側面に設けられることとなるのであって、引用発明に前記周知技術を適用すると、ヒーターの端部は、自ずと、フレーム部材の共通インク室が接合される面に対して、他の部材を介さずに対向させることなるのは明らかである。 よって、審判請求人の主張は採用できない。 3 小括 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 第5 むすび 上記第4のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、上記の結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-10-27 |
結審通知日 | 2020-11-04 |
審決日 | 2020-11-17 |
出願番号 | 特願2016-527780(P2016-527780) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B41J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 村田 顕一郎 |
特許庁審判長 |
藤田 年彦 |
特許庁審判官 |
尾崎 淳史 藤本 義仁 |
発明の名称 | インクジェットヘッド及びインクジェット記録装置 |
代理人 | 特許業務法人光陽国際特許事務所 |