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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1369828
審判番号 不服2020-2544  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-26 
確定日 2021-01-07 
事件の表示 特願2018- 53953「樹脂フィルム、それを用いた偏光板及び樹脂フィルムの切断加工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 7月19日出願公開、特開2018-112754〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2018-53953号(以下「本件出願」という。)は、平成25年3月26日に出願した特願2013-63495号の一部を平成30年3月22日に新たな特許出願としたものであって、その手続等の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成30年 3月23日 :手続補正書
平成31年 2月21日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 6月13日 :手続補正書
令和 元年 6月13日 :意見書
令和 元年11月18日付け:拒絶査定
令和 2年 2月26日 :審判請求書
令和 2年 2月26日 :手続補正書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年2月26日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の(令和元年6月13日にした手続補正後の)特許請求の範囲の請求項1、請求項5及び請求項6の記載は、次のとおりである。
「 【請求項1】
炭酸ガスレーザーにより切断加工される樹脂フィルムであって、
切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たない高分子材料に、前記炭酸レーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物からなる添加剤が配合された組成物から形成されていることを特徴とする樹脂フィルム。」
「 【請求項5】
炭酸ガスレーザーにより積層フィルムを切断加工する方法であって、
前記積層フィルムは、切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たない高分子材料に、前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物からなる添加剤が配合された組成物から形成された樹脂フィルムを有することを特徴とする積層フィルムの切断加工方法。」
「【請求項6】
前記積層フィルムは、前記組成物から形成された樹脂フィルムが、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子に貼合された偏光板である、請求項5に記載の方法。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。
「 炭酸ガスレーザーにより積層フィルムを切断加工する方法であって、
前記積層フィルムは、切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たないシクロオレフィン系樹脂フィルム(炭酸レーザーの発振波長範囲に吸収を持つ添加剤なし)に、前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物のみからなる添加剤が配合された組成物から形成された樹脂フィルムを有し、
前記積層フィルムは、前記組成物から形成された前記樹脂フィルムが、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子に貼合された偏光板であり、
前記発振波長範囲における前記高分子材料の吸収及び前記有機化合物の吸収は、フーリエ変換赤外分光光度計で吸収スペクトルを測定することで確認できるものである積層フィルムの切断加工方法。」

(3)本件補正についての判断
本件補正は、以下の補正からなる。
ア 本件補正前の請求項6に記載された発明を特定するために必要な事項である「高分子材料」を、本件出願の願書に最初に添付した明細書の【0061】の記載に基づいて、「切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たない高分子材料」から「切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たないシクロオレフィン系樹脂フィルム(炭酸レーザーの発振波長範囲に吸収を持つ添加剤なし)」に限定する。
(当合議体注:「シクロオレフィン系樹脂フィルム」は、「シクロオレフィン系樹脂」又は「シクロオレフィン系樹脂フィルムを溶解させたもの」の意味と理解される。また、「炭酸レーザー」は、「前記炭酸ガスレーザー」の意味と理解される。)
イ 同じく【0062】の記載に基づいて、「添加剤」を、「有機化合物からなる添加剤」から「有機化合物のみからなる添加剤」に限定する。
ウ 同じく【0060】の記載に基づいて、「前記発振波長範囲における前記高分子材料の吸収及び前記有機化合物の吸収」が、「フーリエ変換赤外分光光度計で吸収スペクトルを測定することで確認できるものである」ことを明確にする。
(当合議体注:「前記高分子材料」は、「前記」されていないが、「シクロオレフィン系樹脂フィルム(炭酸レーザーの発振波長範囲に吸収を持つ添加剤なし)」のことと理解される。)
そうしてみると、本件補正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものということができる。また、本件補正前の請求項6に係る発明と本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)の、産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題は同一である(本件出願の明細書の【0001】及び【0009】)。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に適合するとともに、同条5項2号及び4号に掲げる事項を目的とするものである。
そこで、本件補正後発明が、同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

2 独立特許要件についての判断(明確性要件)
(1)本件補正後発明の「切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たない」及び「前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ」という構成に関して、本件明細書の【0023】には、「用いるレーザーの発振波長範囲に吸収を持たないとは、発振波長範囲内に吸収ピークを持たないこと、また、発振波長範囲外の吸収ピークによる吸収が発振波長範囲内まで及ばないことを意味する」と記載されている。また、本件補正後発明は、「前記発振波長範囲における前記高分子材料の吸収及び前記有機化合物の吸収は、「フーリエ変換赤外分光光度計で吸収スペクトルを測定することで確認できるものである」という構成を具備する。
ここで、例えば、本件出願の【図1】の「後述する実施例で用いたシクロオレフィン系樹脂フィルムである“ゼオノアフィルム”自体(添加剤なし)の吸収スペクトル」(同【0018】)に見られるように、光学フィルムの吸収スペクトル分布を測定した際に、大小様々な吸収ピークや、吸収ピークの裾が測定されることは、本件出願前の当業者における技術常識である。そして、本件補正後発明は、「吸収」の測定手段については「フーリエ変換赤外分光光度計で吸収スペクトルを測定する」と特定されているとしても、測定結果に基づく「吸収ピーク」の判定基準(「確認できる」とするか否かの基準)までは特定されていない結果、どのようなピークを「吸収ピーク」とするのかが明確であるということはできない。
(当合議体注:「確認できる」か否かは、分解能や反射回数等はもちろん、バックグラウンドの判定手法等にも依存すると考えられる。)
同様に、「発振波長範囲外の吸収ピークによる吸収が発振波長範囲内まで及ばない」とする判定基準についても、明確であるということができない。
(当合議体注:「シクロオレフィン系樹脂」には、種々の組成(材料、割合)のものがある。また、添加剤も同様で種々のものがあり、その添加量も様々である。さらに、試料の吸収スペクトルの吸収ピークの大きさは、試料の厚みに依存する。そうすると、「シクロオレフィン系樹脂」試料のスペクトル分布において、どの大きさのピークを吸収ピークとするのか不明である。同様に、「シクロオレフィン系樹脂」に含まれないとされる「添加剤」のスペクトル分布において、どの大きさのピークを吸収ピークとするのか不明である。
また、「発振波長範囲外の吸収ピーク」ついても、同様に、「吸収ピークによる吸収」の裾の範囲をどのように判断するのか、(「吸収ピークによる吸収」の)裾が「発振波長範囲」外であるかどうかをどのように判断するのか不明である。してみると、「切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たないシクロオレフィン系樹脂(フィルム)」及び「炭酸(ガス)レーザーの発振波長範囲に吸収を持つ添加剤」として、どのような吸収スペクトル特性のものが含まれるのか不明である。)
そうすると、本件補正後発明の「切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たないシクロオレフィン系樹脂フィルム(炭酸レーザーの発振波長範囲に吸収を持つ添加剤なし)」及び「前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物」という構成の範囲は、明確であるということができない。
(当合議体注:例えば、同一の「シクロオレフィン系樹脂フィルム」であっても、特許請求の範囲に記載がない「確認できる」か否かの基準によって、本件補正後発明の範囲に含まれたり含まれなかったりすることとなるから、第三者に不測の不利益を及ぼすこととなる。)
したがって、本件補正後発明は明確であるということができない。また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2及び3に係る発明についても、明確であるということができない。

(2)審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書の【請求の理由】[7]において、『出願人は、樹脂フィルムが「シクロオレフィン系樹脂フィルム(炭酸レーザーの発振波長範囲に吸収を持つ添加剤なし)に、前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物のみからなる添加剤が配合された組成物から形成された」ものに限定し、かかる「炭酸レーザーの発振波長範囲に吸収を持つ」という要件が、「フーリエ変換赤外分光光度計で吸収スペクトルを測定することで確認できる」ことを明確化しました。・・・中略・・・そして、このような炭酸レーザーの発振波長範囲に吸収を持つ添加剤が添加されていないシクロオレフィン系樹脂フィルムの代表例として、日本ゼオン(株)製のゼオノア(本明細書段落0068及び図1)のフーリエ変換赤外分光光度計で測定した吸収スペクトルが記載されています。当業者であれば、本明細書図1の吸収スペクトルにおいて、9.1?9.5μmに観測されている微小な検出は、ノイズと判断できます。そして、このようなノイズと、測定に用いたフーリエ変換赤外分光光度計のシグナル/ノイズ比とから、当該フーリエ変換赤外分光光度計におけるシグナルがどの程度であれば、吸収を持つと判断できるかは当業者であれば容易です。
したがって、本願発明1は当業者には明確と考えますので、理由3は解消したと思料いたします。』と主張する。
しかしながら、前記のとおりであるから、請求人の主張は採用できない。

(3)小括
本件出願の請求項1?請求項3に係る発明は、明確であるということができないから、本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項2号に適合するものであるということができない。
したがって、本件出願の請求項1?請求項3に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正の却下の決定のむすび
本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下の理由3を含むものである。
(理由3)本願発明は、明確であるということができないから、本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。

3 理由3(36条6項2項)について
本願発明は、「切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たない高分子材料」という構成を具備する。
しかしながら、「切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たない」という構成を具備する本願発明は、前記「第2」[理由]2に記載したのと同様の理由により、明確であるということができない。

第4 むすび
以上のとおり、本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項2号に適合するものであるということができない。
したがって、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
審理終結日 2020-10-23 
結審通知日 2020-10-27 
審決日 2020-11-18 
出願番号 特願2018-53953(P2018-53953)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 113- Z (G02B)
P 1 8・ 537- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小西 隆  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 福村 拓
河原 正
発明の名称 樹脂フィルム、それを用いた偏光板及び樹脂フィルムの切断加工方法  
代理人 中山 亨  
代理人 坂元 徹  

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