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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 E01D
管理番号 1369975
審判番号 不服2019-5669  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-26 
確定日 2021-01-26 
事件の表示 特願2017-157285「弾塑性履歴型ダンパ」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月 7日出願公開、特開2017-214824、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年12月14日(優先権主張 平成23年12月16日;以下、「優先権主張日」という。)に出願した特願2012-273962号(以下、「原出願」という。)の一部を、平成29年8月16日に新たな特許出願としたものであり、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 9月13日 :手続補正書の提出
平成30年 8月16日付け :拒絶理由通知書
(平成30年 8月28日送達)
平成30年10月26日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 2月22日付け :拒絶査定
(平成31年 2月26日送達)
平成31年 4月26日 :審判請求書の提出
令和 1年 6月28日付け :拒絶理由通知書
(令和 1年 7月 2日送達)
令和 1年 9月 2日 :意見書、手続補正書の提出
令和 1年10月 8日付け :審決
(令和 1年10月29日送達)
令和 1年11月28日 :知財高裁出訴
(令和元年(行ケ)10161)
令和 2年10月21日 :判決言渡(審決取消)

上記のとおり、本件拒絶査定不服審判事件に係る先の審決は、特許法第181条第1項の規定により裁判所において取り消され、その判決は確定したので、同条第2項の規定により、審判官の合議体により、更に審理を行うこととなった。

第2 原査定及び当審から通知した拒絶理由の概要
1 原査定の概要
原査定(平成31年 2月22日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1ないし11に係る発明は、以下の引用文献1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2 当審から通知した拒絶理由の概要
当審から通知した拒絶理由(令和 1年 6月28日付け拒絶理由)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1、4及び11に係る発明は、以下の引用文献1及び2に記載された発明に基いて、又は以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献3?4に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本願の請求項2、3及び5ないし10に係る発明は、以下の引用文献1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願の請求項1ないし11に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2000-73603号公報
2.特開2011-64028号公報
3.特開平10-30293号公報
4.特開2011-58258号公報

第3 本願発明
本願の請求項1ないし11に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」等という。)は、令和 1年 9月 2日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。

「 【請求項1】
建物及び/又は建造物に適用可能で、想定される入力方向に対して機能する向きに設置される弾塑性履歴型ダンパであって、
互いの向きが異なる二つの剪断部が、当該ダンパの端部を成す連結部を介して一連に設けられ、
上記ダンパを囲繞する空間が、二つの該剪断部の間の空間に一連であって、
上記想定される入力方向に対し、二つの上記剪断部の面内方向が傾斜するように上記剪断部が設置され、
上記剪断部は、外部からの一定以上の入力時に弾塑性的に面外方向を含む方向に変形してエネルギー吸収することを特徴とする弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項2】
前記二つの剪断部の間隔は、前記連結部側に比し、前記連結部とは反対側の端部の方が狭いことを特徴とする請求項1に記載の弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項3】
前記二つの剪断部の間隔は、前記連結部側から反対側の端部に向かって鋭角状に漸次広がるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項4】
前記二つの剪断部の間隔は、前記連結部側から反対側の端部に向かって鈍角状又は直角状に漸次広がるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項5】
前記剪断部は、前記連結部と反対側の端部に補強部を有することを特徴とする請求項1-4の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項6】
前記補強部は、前記剪断部に対して鋭角状に外側に広がることを特徴とする請求項5に記載の弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項7】
前記補強部は、前記剪断部に対して鈍角状又は直角状に外側に広がることを特徴とする請求項5に記載の弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項8】
前記補強部は、前記剪断部に対して円弧状の角部を介して外側に広がることを特徴とする請求項5に記載の弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項9】
前記補強部は、筒形状を有することを特徴とする請求項5に記載の弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項10】
前記補強部は、前記剪断部と一体又は別体であることを特徴とする請求項5-9の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項11】
前記剪断部及び前記連結部は、一つ以上の互いに対向し得る剛性を有する平面部に設けられることを特徴とする請求項1-10の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。」

第4 引用文献の記載事項
1 引用文献1
(1)記載事項
本願原出願の優先権主張日前に頒布された刊行物である引用文献1(特開2000-73603号公報)には、次の記載がある。

ア 技術分野、従来の技術
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は極低降伏点鋼製パネルを用いた制震パネルダンパとそれを用いた制震構造に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、図6(A)に正面図で、(B)に断面平面図で示すように、この種の制震パネルダンパ12は、上下の普通鋼製のエンドプレート14と、これら上下のエンドプレート14の間に上下に延在して設けられた極低降伏点鋼製パネル16などからなり、上下のエンドプレー14の取り付け孔1404やこの取り付け孔1404に挿通されるボルトなどを介して制震パネルダンパ12が、例えば、図7(A)、(B)で示すように、間柱18の延在方向の中間部に配設される。そして、極低降伏点鋼製パネル16の両側に普通鋼製のフランジ20が設けられ、また、極低降伏点鋼製パネル16の両面に普通鋼製の補強リブ22が十字状に設けられ、極低降伏点鋼製パネル16がその面方向に沿って塑性変形し易く、面と直交する方向に塑性変形しにくいように構成されている。このような制震パネルダンパ12によれば、建物の震動時に、図7(A)、(B)で示すように、極低降伏点鋼製パネル16がその面方向に沿って塑性変形し、これにより震動エネルギが吸収される。なお、図7において、符号24は上下階の梁、26は柱を示している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の制震パネルダンパ12は、極低降伏点鋼製パネル16の面の方向に沿った単一の方向についての震度エネルギしか吸収できず、水平面内においての全方向についての震動エネルギを吸収するためには2つの制震パネルダンパ12を、それらの極低降伏点鋼製パネル16の向きが直角になるようにL字状やT字状に並べて配設するしかなく、大きなスペースを必要とし、また、取り付けの手間も2倍となってコストダウンを図る上でも不利があった。本発明は前記事情に鑑み案出されたものであって、本発明の目的は、大きなスペースを要せずに水平面内においての全方向についての震動エネルギを吸収でき、コストダウンを図る上でも有利な制震パネルダンパとこの制震パネルダンパを用いた制震構造を提供することにある。」

イ 課題を解決するための手段
「【0004】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため本発明は、上下の普通鋼製のエンドプレートと、これら上下のエンドプレートの間に上下に延在して設けられた極低降伏点鋼製パネル部とからなる制震パネルダンパであって、前記極低降伏点鋼製パネル部は平面視した場合に互いに直交させた2枚の極低降伏点鋼製パネルから構成され、前記各極低降伏点鋼製パネルの両側には、極低降伏点鋼製パネルの厚さ方向に延在する幅で上下のエンドプレートの間にわたり延在する普通鋼製のフランジが設けられていることを特徴とする。また、本発明は、上下の普通鋼製のエンドプレートと、これら上下のエンドプレートの間に上下に延在して設けられた極低降伏点鋼製パネル部とからなる制震パネルダンパであって、前記極低降伏点鋼製パネル部は平面視した場合に互いに直交させた2枚の極低降伏点鋼製パネルから構成され、前記各極低降伏点鋼製パネルの両側には、極低降伏点鋼製パネルの厚さ方向に延在する幅で上下のエンドプレートの間にわたり延在する極低降伏点鋼製のフランジが設けられていることを特徴とする。また、本発明は、前記平面視した場合に互いに直交させて設けられる2枚の極低降伏点鋼製パネルのうち、一方の一枚は単体からなり、他方の一枚は分割された2つの半体からなり、前記各半体は平面視した場合互いに同一直線上に位置するように前記一方の一枚の両面にそれぞれ溶接により固定されていることを特徴とする。また、本発明は、上下の普通鋼製のエンドプレートと、これら上下のエンドプレートの間に上下に延在して設けられた極低降伏点鋼製パネル部とからなる制震パネルダンパであって、前記極低降伏点鋼製パネル部は極低降伏点鋼製パネルからなり、平面視した場合に断面が中空の矩形になるように4つの側面から四角柱状に形成されていることを特徴とする。また、本発明は、上下の普通鋼製のエンドプレートと、これら上下のエンドプレートの間に設けられた極低降伏点鋼製パネル部とからなる制震パネルダンパであって、前記極低降伏点鋼製パネル部は、極低降伏点鋼製パネルから上下に延在する円筒状に形成されていることを特徴とする。また、本発明は、二つの建物が近接して設けられ、これら建物が互いに向かい合う側部からそれぞれ張り出し部が向かい合う建物に向けて水平に、かつ、上下方向に間隔をおいて対向するように設けられ、これら張り出し部の間に前記上下のエンドプレートを固定させて前記制震パネルダンパが配設されていることを特徴とする。
【0005】本発明では、上下のエンドプレートの間に配設された極低降伏点鋼製パネル部により、水平方向の全方向からの震動について、それら震動をX成分とY成分とに分担して極低降伏点鋼製パネルが塑性変形し、これにより水平面における全方向についての震動エネルギが吸収される。また、本発明の制震パネルダンパは、建物躯体中の箇所のみならず、二つの建物が近接して設けられる場合に、これら建物から突設された張り出し部の間に配置されて用いられる。」

ウ 実施形態
「【0006】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について説明する。図1(A)は制震パネルダンパの正面図、(B)は同断面平面図を示す。本実施の形態による制震パネルダンパ30は、上下のエンドプレート32と、これら上下のエンドプレート32間に設けられた極低降伏点鋼製パネル部33と、フランジ36から構成されている。
【0007】前記エンドプレート32は普通鋼から正方形に形成され、エンドプレート32には、制震パネルダンパ30を建物躯体側に取り付けるための取り付け孔(不図示)が複数形成されている。
【0008】前記極低降伏点鋼製パネル部33は2枚の極低降伏点鋼製パネル34からなり、各極低降伏点鋼製パネル34は矩形板状に形成されており、平面視した場合に十字状に互いに直交するように配置されている。より詳細には、平面視した場合にそれら極低降伏点鋼製パネル34の交点がエンドプレート32の中心に位置し、各極低降伏点鋼製パネル34が、エンドプレート32の輪郭をなす正方形の各辺に平行するように設けられている。2枚の極低降伏点鋼製パネル34のうち、一方の一枚は単体34Aから構成され、他方の一枚は分割された2つの半体34Bから構成されている。前記各半体34Bは、平面視した場合互いに同一直線上に位置するように前記一方の一枚34Aの中央の両面にそれぞれ溶接により固定されている。なお、2枚の極低降伏点鋼製パネル34の上端と下端はそれぞれエンドプレート32に溶接により固定されている。
【0009】前記フランジ36は普通鋼からなり各極低降伏点鋼製パネル34の両側に設けられている。前記フランジ36は、極低降伏点鋼製パネル34の厚さ方向に延在する幅を有して上下に延在し(言い換えると、フランジ36はその面を極低降伏点鋼製パネル34の面と直交する方向に向けて上下に延在し)、幅方向の中央部が極低降伏点鋼製パネル34の端部に溶接などにより固定され、フランジ36の上下の端部は対応するエンドプレート32に溶接などにより固定されている。
【0010】このような構成からなる制震パネルダンパ30は、例えば、従来と同様に建物躯体中に連結されて用いられる。制震パネルダンパ30では2枚の極低降伏点鋼製パネル34が直交して設けられており、水平方向の全方向からの震動について、それら震動をX成分とY成分とに分担して2枚の各極低降伏点鋼製パネル34がそれぞれ塑性変形し、これにより水平面における全方向についての震動エネルギを吸収できる。そして、上下のエンドプレート32の間に2枚の極低降伏点鋼製パネル34が十字状に設けられているので、従来の2つの制震パネルダンパをL字状やT字状に並べて配設する場合に比べ小さなスペース内に配設でき、また、取り付けの手間も1つの制震パネルダンパを取り付ける場合と同様であり、したがって取り付けも簡単になされ、コストダウンを図る上でも有利となる。
【0011】制震パネルダンパ30は上述のように従来と同様に建物躯体中に連結されて用いられる他、建物同士の間に用いることも可能である。図2および図3は制震パネルダンパを建物同士の間に用いた場合の説明図であり、図2は建物の正面図、図3は制震パネルダンパ部分の拡大正面図を示す。図2、図3に示すように、二つの建物40,42が近接して設けられている。そして、一方の建物40の側部で上下に間隔をおいた複数箇所からI形鋼やH形鋼製の梁などからなる張り出し部44が他方の建物42に向けて水平に突設され、また、他方の建物42の側部で上下に間隔をおいた複数箇所から同様に梁などからなる張り出し部46が一方の建物40に向けて水平に突設されいる。各張り出し部44、46は上下方向に間隔をおいて対向しているように設けられ、これら張り出し部44、46に上下のエンドプレート32を固定させて制震パネルダンパ30が配設されている。
【0012】このように制震パネルダンパ30を配置した場合でも、張り出し部44,46を介して水平方向の全方向からの震動について、それら震動をX成分とY成分とに分担して2枚の各極低降伏点鋼製パネル34がそれぞれ塑性変形し、建物40、42の一方、または両方の水平面における全方向についての震動エネルギを吸収できる。そして、上下のエンドプレート32の間に2枚の極低降伏点鋼製パネル34が十字状に設けられているので、従来の2つの制震パネルダンパをL字状やT字状に並べて配設する場合に比べ張り出し部44,46を小さくでき、また、取り付けの手間も1つの制震パネルダンパを取り付ける場合と同様であり、したがって取り付けも簡単になされ、コストダウンを図る上でも有利となる。
【0013】なお、上記の実施の形態では、各極低降伏点鋼製パネル34がその面方向に沿って塑性変形し易く、面と直交する方向に塑性変形しにくくするように、フランジ36を普通鋼で構成した場合について説明したが、本発明では2枚の極低降伏点鋼製パネル34が直交して設けられており、震動をX成分とY成分とに分担して2枚の各極低降伏点鋼製パネル34がそれぞれ塑性変形するので、フランジ36を極低降伏点鋼で形成するようにしてもよい。フランジ36を極低降伏点鋼で形成した場合には、フランジ36の幅方向に平行する極低降伏点鋼製パネル34の塑性変形時に該フランジ36も塑性変形し、このフランジ36の幅方向に沿った塑性変形により極低降伏点鋼製パネル34に加えフランジ36によっても震動エネルギを吸収することになる。」

エ 別の実施形態
「【0014】次に、図4および図5を参照して本発明の別の実施の形態について説明する。図4、図5において(A)は制震パネルダンパの正面図、(B)は同断面平面図を示す。上記の実施の形態と同様な箇所、部材に同様の符号を付して説明すると、図4に示す制震パネルダンパ50は、上下のエンドプレート32と、これら上下のエンドプレート32間に設けられた極低降伏点鋼製パネル部52から構成されている。前記極低降伏点鋼製パネル部52は極低降伏点鋼製パネル54からなり、平面視した場合に断面が中空の矩形(本実施の形態では正方形)になるように4つの側面から四角柱状に形成されている。前記極低降伏点鋼製パネル部52は極低降伏点鋼製パネル54に曲げ加工を施すことで形成してもよく、あるいは、各側面をなす4枚の極低降伏点鋼製パネル54を溶接により接合することで形成してもよく、その製造方法は任意である。
【0015】図5に示す制震パネルダンパ60は、上下のエンドプレート32と、これら上下のエンドプレート32間に設けられた極低降伏点鋼製パネル部62から構成されている。前記極低降伏点鋼製パネル部62は極低降伏点鋼製パネル64から上下に延在する円筒状に形成されている。このような制震パネルダンパ50,60によっても前記制震パネルダンパ30と同様に、水平方向の全方向からの震動について、それら震動をX成分とY成分とに分担して極低降伏点鋼製パネル54,64が塑性変形し、これにより水平面における全方向についての震動エネルギを吸収でき、また、小さなスペース内に配設でき、取り付けの手間も簡単になされ、コストダウンを図る上でも有利となる。なお、前記制震パネルダンパ30以外にいくつかの他の制震パネルダンパの別実施例を説明したが、こらら制震パネルダンパが用いられる箇所も制震パネルダンパ30と同様であり、建物躯体中に連結されて、あるいは、図2、図3に示すように、二つの建物40,42の張り出し部44,46の間に連結されて用いられる。」

オ 効果
「【0016】
【発明の効果】以上の説明で明らかなように本発明の制震パネルダンパによれば、水平方向の全方向からの震動について、それら震動をX成分とY成分とに分担して極低降伏点鋼製パネルが塑性変形し、これにより水平面における全方向についての震動エネルギを吸収できる。そして、上下一対のエンドプレートの間に極低降伏点鋼製パネル部が設けられているので、従来の2つの制震パネルダンパをL字状やT字状に並べて配設する場合に比べ小さなスペース内に配設でき、また、取り付けの手間も1つの制震パネルダンパを取り付ける場合と同様であり、したがって取り付けも簡単になされ、コストダウンを図る上でも有利となる。本発明の制震パネルダンパは、従来のように建物躯体中に配置されるのみならず、二つの建物が近接して設けられる場合に、これら建物から突設された張り出し部の間に配置されて好適である。」

カ 実施形態の図
図1には、次の図示がある。

図1より、2枚の極低降伏点鋼製パネル34は、交点から離れたフランジ36側で互いに離間していることが見て取れる。

キ 別の実施形態の図
図4には、次の図示がある。


また、図5には、次の図示がある。


(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)の記載から、引用文献1には、実施形態、及び図4が示す別の実施形態に各々着目して整理すると、次の発明(以下、「引用発明1-1」、「引用発明1-2」といい、両者をまとめて「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
ア 引用発明1-1
「上下のエンドプレート32と、これら上下のエンドプレート32間に設けられた極低降伏点鋼製パネル部33と、フランジ36から構成される、建物躯体中または建物の間に配置される制震パネルダンパ30であり、
前記極低降伏点鋼製パネル部33は、面方向に沿って塑性変形し易い2枚の極低降伏点鋼製パネル34が、平面視した場合に十字状に互いに直交するように配置されており、極低降伏点鋼製パネル34の交点は溶接により固定されており、2枚の極低降伏点鋼製パネル34の上端と下端はそれぞれエンドプレート32に溶接により固定されており、水平方向の全方向からの震動について、それら震動をX成分とY成分とに分担して極低降伏点鋼製パネル34が塑性変形し、これにより水平面における全方向についての震動エネルギを吸収できる制震パネルダンパ30であって、
各極低降伏点鋼製パネル34の両側には、普通鋼または極低降伏点鋼からなるフランジ36が、極低降伏点鋼製パネル34の厚さ方向に延在する幅を有して設けられており、2枚の極低降伏点鋼製パネル34は前記交点から離れたフランジ36側で互いに離間しており、震動をX成分とY成分とに分担して2枚の各極低降伏点鋼製パネル34がそれぞれ塑性変形するので、フランジ36を極低降伏点鋼で形成した場合には、フランジ36の幅方向に平行する極低降伏点鋼製パネル34の塑性変形時に該フランジ36も塑性変形し、このフランジ36の幅方向に沿った塑性変形により極低降伏点鋼製パネル34に加えフランジ36によっても震動エネルギを吸収することになり、
上下一対のエンドプレート32の間に、水平方向の全方向からの震動について、それら震動をX成分とY成分とに分担して塑性変形する極低降伏点鋼製パネル34で震動エネルギを吸収できる極低降伏点鋼製パネル部33を設けたことにより、上下のエンドプレート14の間に単一の方向についての震度エネルギしか吸収できない極低降伏点鋼製パネル16が設けられた従来の制震パネルダンパ12を、2つL字状やT字状に並べて配設する場合に比べて、小さなスペース内に配設でき、取り付けの手間も1つの制震パネルダンパを取り付ける場合と同様である、
制震パネルダンパ30。」

イ 引用発明1-2
「上下のエンドプレート32と、これら上下のエンドプレート32間に設けられた極低降伏点鋼製パネル部52から構成される、建物躯体中または建物の間に配置される制震パネルダンパ50であり、
前記極低降伏点鋼製パネル部52は面方向に沿って塑性変形し易い極低降伏点鋼製パネル54からなり、平面視した場合に断面が中空の矩形になるように4つの側面から四角柱状に形成されており、
前記極低降伏点鋼製パネル部52は極低降伏点鋼製パネル54に曲げ加工を施すことで形成するか、あるいは、各側面をなす4枚の極低降伏点鋼製パネル54を溶接により接合することで形成されており、水平方向の全方向からの震動について、それら震動をX成分とY成分とに分担して極低降伏点鋼製パネル54が塑性変形し、これにより水平面における全方向についての震動エネルギを吸収できる制震パネルダンパ50であって、
上下一対のエンドプレート32の間に、水平方向の全方向からの震動について、それら震動をX成分とY成分とに分担して塑性変形する極低降伏点鋼製パネル54で震動エネルギを吸収できる極低降伏点鋼製パネル部52を設けたことにより、上下のエンドプレート14の間に単一の方向についての震度エネルギしか吸収できない極低降伏点鋼製パネル16が設けられた従来の制震パネルダンパ12を、2つL字状やT字状に並べて配設する場合に比べて、小さなスペース内に配設でき、取り付けの手間も1つの制震パネルダンパを取り付ける場合と同様である、
制震パネルダンパ50。」

2 引用文献2
(1)記載事項
本願原出願の優先権主張日前に頒布された刊行物である引用文献2(特開2011-64028号公報)には、次の記載がある。
ア 実施の形態1
「【0015】
実施の形態1.
・・・・・(中略)・・・・・
【0021】
(せん断パネル型ダンパーの構成)
続いて、図2を用いて、せん断パネル型ダンパー10の詳細について説明する。
図2は、本発明の実施の形態1に係るせん断パネル型ダンパーの構成を示す正面図である。
せん断パネル型ダンパー10は、パネル部11、載荷部材12、及び荷重伝達抑制手段20を備えている。
【0022】
パネル部11は、板状部材であり、正面視において略矩形状の四隅に円弧状フレアー11aが形成された形状となっている。このパネル部材は、例えばLYP-100(公称降伏点が100N/mm^(2))等の極低降伏比鋼により形成されている。極低降伏比鋼は、普通鋼の一種であるSS400に比べて適度な低降伏性を有し、延性が極めて高い鋼材である。例えば、LYP-100は、SS400に対して、0.2%の永久ひずみに対応した応力(0.2%オフセット値σ_(0.2))が約1/3(80N/mm^(2))であり、伸び変形量が約3倍(60%)もある。
なお、パネル部11の材質は、極低降伏比鋼に限らず、延性の高い普通鋼、アルミニウム合金、銅、又は非磁性鋼等であってもよい。これらの材質を組み合わせてパネル部11を形成してもよい。
パネル部11は、その下辺が橋梁下部構造102の例えば上面に固定され、橋梁下部構造102の上面に立設されている。
・・・・・(中略)・・・・・・
【0029】
このように橋梁下部構造102と橋梁上部構造105とが相対移動する場合、従来のせん断パネル型ダンパーの上辺は平面視において橋梁上部構造105に追従するので、従来のせん断パネル型ダンパーの上辺は図3(a)に示す中心軸1aの位置となる。つまり、従来のせん断パネル型ダンパーは、その下辺が中心軸1bの位置となり、その上辺が中心軸1aの位置となる。このため、従来のせん断パネル型ダンパーのパネル部は、面内方向(パネル部の面に沿った方向、図3(a)ではX方向)と垂直な方向である面外方向に変形することとなる。したがって、パネル部が面内方向にうまく変形できず、橋梁下部構造と橋梁上部構造とを相対的に移動させるエネルギーを吸収することができない場合がある。
【0030】
一方、上述のように橋梁下部構造102と橋梁上部構造105とが相対移動する場合、本実施の形態1に係るせん断パネル型ダンパー10は、パネル部11の一方の側辺11b側(図3における右側)において、パネル部11の側辺11bと載荷部材12の側面12aとの間に荷重伝達抑制手段20の転動体21が挟持されることとなる。このため、パネル部11の側辺11bと載荷部材12の側面12aとの間で転動体21が転動することにより、載荷部材12にかっている荷重200の面外方向成分202がパネル部11に伝達されることが抑制される。これにより、パネル部11の上辺が中心軸1bの位置(平面視においてパネル部11の下辺の位置)に移動することができ、パネル部11が面外方向に変形することを抑制できる。
【0031】
また、このとき、パネル部11には、主に荷重200の面内方向成分201がかかることとなる。このため、図3(b)に示すように、パネル部11が面内方向にうまく変形することができ、橋梁下部構造と橋梁上部構造とを相対的に移動させるエネルギーを吸収することができる。
【0032】
以上のように、本実施の形態1に係るせん断パネル型ダンパー10は、パネル部11の側辺11bと載荷部材12の側面12aとの間に荷重伝達抑制手段20が設けられているので、荷重200の面外方向成分202がパネル部11に伝達されることを抑制できる。このため、パネル部11が面内方向にうまく変形することができ、橋梁下部構造と橋梁上部構造とを相対的に移動させるエネルギーを吸収することができる。
【0033】
また、パネル部11は、SS400に比べて適度な低降伏性を有し、延性が極めて高い極低降伏比鋼によって形成されている。このため、地震エネルギーの吸収性能が増大する。」

イ 実施の形態6
「【0065】
実施の形態6.
(橋梁、支承構造)
本実施の形態6では、実施の形態1?実施の形態5に示したせん断パネル型ダンパーを設置した橋梁の支承構造の一例について説明する。なお、本実施の形態6において、特に記述しない項目については実施の形態1?実施の形態5と同様とする。
【0066】
図11(a)?図13(g)は、本発明の実施の形態6に係る橋梁支承構造の一例を示す平面図である。なお、図11(a)?図13(g)では、せん断パネル型ダンパーの設置位置の理解を容易とするために、移動支承の図示を省略している。また、図11(a)?図13(g)では、実施の形態1?実施の形態5に示したせん断パネル型ダンパーの総称として、せん断パネル型ダンパー90と示している。つまり、せん断パネル型ダンパー90は、実施の形態1?実施の形態5に示したせん断パネル型ダンパーのいずれであってもよいということである。また、図11(a)?図13(g)では、せん断パネル型ダンパー90のパネル部が橋梁下部構造102の上面に直接的又は間接的に設置された場合を例に説明する。
【0067】
橋梁上部構造と橋梁下部構造とが平面視において2次元的に相対移動可能な橋梁支承構造の場合、例えば図11(a)?図12(e)のようにせん断パネル型ダンパー90を設置してもよい。つまり、設置されるせん断パネル型ダンパー90の一部は、その面内方向(下辺長手方向に同じ)がX軸方向(橋軸方向)となるように設置される。また、設置されるせん断パネル型ダンパー90の残りの一部は、その面内方向がY軸方向(橋軸方向と垂直な方向)となるように設置される。
【0068】
このようにせん断パネル型ダンパー90を設置することにより、橋梁下部構造と橋梁上部構造とを相対的に移動させるエネルギーのX軸方向成分は、面内方向がX軸方向となるように設置されたせん断パネル型ダンパー90によって吸収される。また、橋梁下部構造と橋梁上部構造とを相対的に移動させるエネルギーのY軸方向成分は、面内方向がY軸方向となるように設置されたせん断パネル型ダンパー90によって吸収される。したがって、耐震性能に優れた橋梁支承構造及び橋梁を得ることができる。
【0069】
なお、図11(a)?図12(e)に示すように、面内方向がX軸方向となるように設置されたせん断パネル型ダンパー90の設置位置や設置数、面内方向がX軸方向となるように設置されたせん断パネル型ダンパー90の設置位置や設置数は任意である。
【0070】
また、橋梁上部構造と橋梁下部構造とが平面視において2次元的に相対移動可能な橋梁支承構造の場合、例えば図12(f)のように、せん断パネル型ダンパー90の面内方向がX軸にもY軸にも向かないようにせん断パネル型ダンパー90を設置してもよい。つまり、面内方向が平面視で放射状となるようにせん断パネル型ダンパー90を設置する等、一部のせん断パネル型ダンパー90の面内方向がその他のせん断パネル型ダンパー90の面内方向と異なるように設置すればよい。このようにせん断パネル型ダンパー90を設置しても、各せん断パネル型ダンパー90は、橋梁下部構造と橋梁上部構造とを相対的に移動させるエネルギーの各々の面内方向成分を吸収する。したがって、耐震性能に優れた橋梁支承構造及び橋梁を得ることができる。」

ウ 図面



図12(d)(e)より、4つのせん断パネル型ダンパー90を端部で連結することなく略矩形状に配置する様子が見て取れる。また図11(b)より、2つのせん断パネル型ダンパー90を端部で連結することなく略L字状に配置する様子が見て取れる。

(2)記載された発明
上記(1)の記載から、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「適度な低降伏性を有する板状部材であるパネル部11が、面内方向に変形することで地震エネルギーを吸収する、せん断パネル型ダンパー90に、
荷重200の面外方向成分202がパネル部11に伝達されることを抑制する荷重伝達抑制手段20を設けるとともに、
一部のせん断パネル型ダンパー90の面内方向がその他のせん断パネル型ダンパー90の面内方向と異なるように設置することで、2次元的に橋梁下部構造と橋梁上部構造とが相対移動する際の、エネルギーの各々の面内方向成分を吸収する、せん断パネル型ダンパー90の配置方法であり、
面内方向がX軸方向となるように設置されたせん断パネル型ダンパー90の設置位置や設置数は任意であり、4つのせん断パネル型ダンパー90を端部で連結することなく略矩形状に配置してもよく、2つのせん断パネル型ダンパー90を端部で連結することなく略L字状に配置してもよい、
せん断パネル型ダンパー90の配置方法。」

3 引用文献3
本願原出願の優先権主張日前に頒布された刊行物である引用文献3(特開平10-30293号公報)には、次の記載がある。

「【0037】この免震装置40は、前記したと同様の上下一対の鋼製の水平板42,44と、両水平板42,44間に配置されかつ該両水平板に固定された鋼製の1つの垂直板46とを有する。
【0038】垂直板46は全体に矩形の平面形状を有し、布基礎10の伸長方向へ伸びている。垂直板46は、布基礎10の伸長方向すなわち垂直板46の伸長方向に互いに間隔をおいて設けられ上下方向に伸びる複数の穴(長穴)48を有する。
【0039】複数の穴48を有する垂直板48を備える免震装置40は、その一部が、布基礎10に設けられた凹所30内に配置され、その上方の水平板42が建物12の土台16に相対しかつ土台16に固定され、また、下方の水平板44が凹所30の底壁32に接しかつこれに固定されている。免震装置40は、凹所30の深さ寸法より大きい高さ寸法を有し、その一部が凹所30から上方に突出している。このため、建物12は複数の免震装置40を介して布基礎10上に支持されている。
【0040】免震装置40と凹所30の各側壁34との間に空間が設けられている。これにより、垂直板46は凹所30内においてその長手方向に変形することができる。
【0041】免震装置40を含む免震構造14によれば、布基礎10の伸長方向に地震力が作用するとき、免震装置40の垂直板46の複数の穴48間の細長い部分50および垂直板46の長手方向端と穴48との間の細長い部分50が塑性変形し、建物12の振動加速度を低減する。また、地震力が布基礎10の伸長方向に対して直角な水平方向に作用するときは、この方向に垂直板46が曲がり、建物12の振動加速度を低減する。したがって、免震装置40を含む免震構造14によっても、互いに直交する2方向のそれぞれに関する免震効果を実現することができる。
【0042】免震装置40は、凹所30を設けることなしに、布基礎10の前記頂面に配置することができる。また、免震装置40の垂直板46は前記穴48を有することから、長穴48を有しないものに比べて剛性が低く、また、降伏耐力が低い。垂直板46の長さ方向に関する変形抵抗すなわちその剛性または降伏耐力は、垂直板46の厚さ寸法、長穴48の数量、長穴48の高さ寸法、長穴48の幅寸法等を変えることにより、任意に設定することができる。また、垂直板46の厚さ方向すなわち布基礎10に直交する前記水平方向に関する変形抵抗は、垂直板46の厚さ寸法、高さ寸法および長さ寸法を変えることにより、任意に設定することができる。」

4 引用文献4
本願原出願の優先権主張日前に頒布された刊行物である引用文献4(特開2011-58258号公報)には、次の記載がある。

「【0030】
せん断パネルダンパー6は、1枚の鋼板41からなる。この鋼板41は、ボルト28および図示しないナットにより間柱8aに取り付けられる第1接合部46と、この第1接合部46と同様の方法で間柱8bに取り付けられる第2接合部47と、第1接合部46と第2接合部47の間に形成されたエネルギー吸収部49とを備えて構成されている。
第1接合部46および第2接合部47に取り付けられる間柱8a、8bは、例えば地震などによる振動が建築構造物1に伝達された場合において、水平方向である相対変位方向Aに向けて互いに相対的に変位することになる。すなわち、相対変位方向Aは、第1接合部46および第2接合部47と、間柱8a、8bとの接合方向Bに交差する方向(鉛直方向)であって、この相対変位方向Aに沿った間柱8a、8b間の相対変位に応じ、エネルギー吸収部49がせん断変形し、曲げせん断降伏後に塑性変形することにより、エネルギー吸収性能を発揮するものである。
【0031】
このエネルギー吸収部49には、1以上のスリット65が少なくとも相対変位方向Aに沿って所定間隔ごとに設けられている。なお、スリット65の配置は、一列に限定されるものではなく、複数列で構成されていてもよい。また、スリット65が規則的に並んでいる場合のみならず、ランダムに散在させるようにしてもよい。
また、スリット65は、いかなる形状で構成されていてもよいが、少なくとも接合方向Bに向けて延びる縦長の形状とされていることが望ましい。また、ここでは、略ひし形のスリット65で構成した場合を例示しているが、これに限定されるものではなく、長方形状で構成してもよいし、その他多角形状、不定形状で構成してもよい。
【0032】
このようなスリット65をエネルギー吸収部49に設けることにより、少なくとも当該エネルギー吸収部49の降伏強度を下げることが可能となる。具体的には、間柱8a,8b間において相対変位方向Aに向けて相対変位が生じた場合、エネルギー吸収部49を容易に曲げせん断降伏させることが可能となる。この曲げせん断降伏は、特に隣接するスリット65間の領域であるダンパー部66において幅が狭小となっていることから、このダンパー部66が優先的に降伏する場合が多い。なお、エネルギー吸収部49にスリット65を設けることは必須でなく、スリット65を1個も設けない構成としてもよい。」

第5 対比・判断
1 本願発明1
(1)引用発明1-2を主引用発明とした進歩性
ア 対比
引用発明1-2と本願発明1とを対比する。
引用発明1-2における「制震パネルダンパ50」は、「塑性変形する極低降伏点鋼製パネル54で震動エネルギを吸収できる」ものであるところ、上記(1)アにおいて引用発明1-1における「塑性変形する極低降伏点鋼製パネル34」に関して言及した技術常識を勘案すれば、引用発明1-2における「極低降伏点パネル54」の変形は「弾塑性」的な変形ということができ、引用発明1-2における「制震パネルダンパ50」は「弾塑性」型かつ「履歴」型のダンパということができる。そのため、引用発明1-2における「制震パネルダンパ50」は、本願発明1における「弾塑性履歴型ダンパ」に相当する。
引用発明1-2における「制震パネルダンパ50」が「建物躯体中または建物の間に配置される」ことは、本願発明1における「弾塑性履歴型ダンパ」が「建物及び/又は建造物に適用可能」であることに相当する。
引用発明1-2において、「極低降伏点鋼製パネル54」からなる「極低降伏点鋼製パネル部52」は、「平面視した場合に断面が中空の矩形になるように4つの側面から四角柱状に形成されて」おり、四角柱状の4つの側面のうち隣接する2側面を構成する「極低降伏点鋼製パネル54」を含んでいるところ、当該隣接する2側面の「極低降伏点鋼製パネル54」は、本願発明1における「互いの向きが異なる二つの剪断部」に相当する。また、引用発明1-2において、隣接する2側面を構成する「極低降伏点鋼製パネル54」が、側面と側面との間で「曲げ加工を施す」かあるいは「溶接により接合」されている構成は、四角柱の側面と側面との間の稜線は平面視した場合の「矩形」の端部に位置することを踏まえると、本願発明1において「向きが異なる二つの剪断部が、当該ダンパの端部を成す連結部を介して一連に設けられ」た構成に相当する。
引用発明1-2において、「極低降伏点鋼製パネル54」が「塑性変形」により「震動エネルギを吸収できる」構成と、本願発明1において、「上記剪断部は、外部からの一定以上の入力時に弾塑性的に面外方向を含む方向に変形してエネルギー吸収する」構成とを対比すると、引用発明1-2における「極低降伏点鋼製パネル54」が、降伏点に至る前の段階では弾性変形していることが、先に述べたとおり技術常識であることをふまえると、両者は、「上記剪断部は、外部からの一定以上の入力時」に「弾塑性的」に「変形してエネルギー吸収する」点で共通する。

以上より、本願発明1と引用発明1-2とは、次の点で一致する。
<一致点>
「建物及び/又は建造物に適用可能な弾塑性履歴型ダンパであって、
互いの向きが異なる二つの剪断部が、当該ダンパの端部を成す連結部を介して一連に設けられ、
上記剪断部は、外部からの一定以上の入力時に弾塑性的に変形してエネルギー吸収する、弾塑性履歴型ダンパ。」

本願発明1と引用発明1-2との相違点は、次の点である。
<相違点1B>
本願発明1では、「想定される入力方向に対して機能する向きに設置される」弾塑性履歴型ダンパにおいて、「二つの剪断部が、当該ダンパの端部を成す連結部」で連結され、「ダンパを囲繞する空間が、二つの該剪断部の間の空間に一連」であり、剪断部が、「想定される入力方向に対し、二つの上記剪断部の面内方向が傾斜するように上記剪断部が設置され」るのに対し、引用発明1-2では、上下のエンドプレート32間に設けられた4枚の極低降伏点鋼製パネル54からなる極低降伏点鋼製パネル部52が、平面視した場合の断面が中空の矩形となる四角柱状に形成され、四角柱の隣接する二つの側面を構成する2枚の極低降伏点鋼製パネル54の間の空間は、四角柱の残る2側面を構成する他の2枚の極低降伏点鋼製パネル54によって閉鎖されており、「ダンパを囲繞する空間」と「一連」ではなく、上記極低降伏点鋼製パネル54が、それら震動をX成分とY成分とに分担して塑性変形し、これにより水平面における全方向についての震動エネルギを吸収する点。

<相違点2B>
剪断部の変形方向について、
本願発明1では、剪断部が弾塑性的に「面外方向を含む方向に」変形してエネルギー吸収すると特定されているのに対し、引用発明1-2では、平面視した場合に断面が中空の矩形になるように4つの側面から四角柱状に形成された極低降伏点鋼製パネル部52が、極低降伏点鋼製パネル54に曲げ加工を施すことで形成するか、あるいは、各側面をなす4枚の極低降伏点鋼製パネル54を溶接により接合することで形成されたうえで、極低降伏点鋼製パネル54が、水平方向の全方向からの震動について、それら震動をX成分とY成分とに分担して塑性変形し、これにより水平面における全方向についての震動エネルギを吸収する点。

イ 判断
相違点1Bについて検討する。
(ア)判決における相違点1Bについての判断
相違点1Bについては、判決において、相違点4’として以下のように判断されている(以下の判決中、「本件補正発明」、「相違点4’」は、それぞれ、審決の「本願発明1」、「相違点1B」を指す。)。
「 (2)相違点4’の容易想到性について
ア 前記2(1)で認定した引用文献1の記載からすると,引用発明1は,水平方向の全方向からの震動エネルギを,X成分とY成分に分担して極低降伏点鋼製パネルが塑性変形して吸収する制震パネルダンパであること,従来は,水平方向の全方向からの震動エネルギを吸収するために,極低降伏点鋼製パネルの向きが直角となるように二つのダンパをL字状やT字状に並べて配置していたところ,そのようなダンパの配置方法では,それぞれのパネル毎に一対のエンドプレートを設置するため,取り付けのためのスペースが大きくなり,また,取り付けのための手間がかかるという課題があり,同課題を解決するために,引用発明1-2は,ダンパの形状を,平面視した場合に断面が中空の矩形になる四角柱状とし,これを一対のエンドプレートの間に設置する構成にしたもの,引用発明1-1は,ダンパの形状を,平面視した場合に断面が互いに直交する十字状としたものであり,それぞれこれを一対のエンドプレートの間に設置する構成にしたものであることが認められる。
一方,本件補正発明の特許請求の範囲の「想定される入力方向に対して機能する向きに設置される弾塑性履歴型ダンパであって」,「上記想定される入力方向に対し,二つの上記剪断部の面内方向が傾斜するように上記剪断部が設置され」との記載及び前記1で認定した本件明細書の記載によると,本件補正発明は,振動エネルギーの入力方向を想定し,特定の入力方向からの振動に対応するダンパであること,本件補正発明の従来技術であるダンパは,剪断部を一つしか有していないために,地震の際にいずれの方向から水平力の入力があるかは予測困難であるのに,一方向からの水平力に対してしか機能せず,また,想定される入力方向に対して高精度にダンパの剪断変形方向を合わせる設置角度設定が必要であるという課題があったこと,本件補正発明は,剪断部を二つ設け,これらを端部で連結させたことにより大きな振動エネルギーを吸収できるようにし,また,向きの異なる二つの剪断部を想定される入力方向に対し面内方向に傾斜するように設置できる形状とすることにより,入力の許容範囲及び許容角度が広くなり,据付誤差を吸収することができるようにしたことが認められる。
このように,引用発明1は,水平方向の全方向からの震動エネルギーを吸収するためのダンパであるのに対し,本件補正発明は,振動エネルギーの入力方向を想定し,その想定される方向及びその方向に近い一定の範囲の方向からの振動エネルギーを吸収するためのダンパであり,両発明の技術的思想は大きく異なる。これに反する被告の主張は理由がない。
そして,相違点4’に係る本件補正発明の構成は,上記のような技術的思想に基づくものであるから,引用発明1-2との実質的な相違点であり,それが設計事項にすぎないということはできない。
イ(ア) 前記2(2)で認定した引用文献2の記載からすると,引用文献2には,本件審決が認定した引用発明2(前記第2の3(1)イ)が記載されているが,引用発明2の略L字状に配置された二つの剪断パネル型ダンパー90の各パネル部は,端部で連結されていないことが認められる。
引用発明1-2においては,各側面のパネルはすべて端部で隣接するパネルと連結されているが,引用発明1-2のこの構成に代えて,引用発明1-2に,二つの剪断パネル型ダンパー90のパネル部を,端部を連結することなく,略L字状に配置するという引用発明2の上記構成を適用して,ダンパの断面形状をL字状とするなど2枚のパネルを端部で連結する構成とすることの動機付けは認められない。
(イ) 前記2(3),(4)で認定した引用文献3,4の記載によると,塑性変形する部材を用いて震動を吸収するダンパー部材において,塑性変形する部材の降伏強度を調整するなどの目的で,穴又はスリットを設けることは,周知技術であることが認められるが,引用発明1-2にこの技術を適用したとしても,ダンパを囲繞する空間と一連とはなるが,ダンパの断面形状をL字状とするなど2枚のパネルを端部で連結する構成となるものではない。
(ウ) その他,相違点4’に係る本件補正発明の構成を引用発明1-2に基づいて容易に想到することができたというべき事情は認められない。
(エ) 以上からすると,その余の点について判断するまでもなく,引用発明1-2に基づいて本件補正発明を容易に発明することができたとは認められない。」(判決書第69頁第21行?第71頁第22行)

(イ)当審の判断
上記(ア)に摘記した判決の判断は、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により当合議体を拘束する。
よって、引用発明2及び引用文献3、4に記載された周知技術を参酌しても、相違点1Bに係る本願発明1の構成は、引用発明1-2に基いて容易に想到し得たものではない。
以上から、相違点2Bについて判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明1、2ないし引用文献3、4に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。

(2)引用発明1-1を主引用発明とした進歩性
ア 対比
引用発明1-1と本願発明1とを対比する。
引用発明1-1における「制震パネルダンパ30」は、「塑性変形する極低降伏点鋼製パネル34で震動エネルギを吸収できる」ものであるところ、「降伏点」とは素材が塑性変形し始める時の応力であり、「降伏点」に至る前の弾性領域においては、素材がその時加わっている応力に応じて変形し、応力がなくなれば元の形状に戻るという、弾性的な変形をすること、及び、「降伏点」に至った後には、素材が応力がなくなっても元の形状に戻らない塑性的な変形により、塑性領域で加えられたエネルギーを履歴として吸収することが、技術常識として明らかである。そのため、引用発明1-1における「極低降伏点パネル34」の変形は、「塑性変形」及び降伏点に至る前の弾性領域における変形を含めて、「弾塑性」的な変形ということができ、かような極低降伏点鋼製パネル34により震動エネルギを吸収する「制震パネルダンパ30」は、「弾塑性」型のダンパということができる。また、引用発明1-1における「制震パネルダンパ30」は、「塑性変形する極低降伏点鋼製パネル34」が、塑性領域において加えられた応力を、該応力がなくなっても元の形状に戻らない塑性変形により、履歴として吸収することが、技術常識として明らかであることから、「履歴」型のダンパともいうことができる。これらのことから、引用発明1-1における「制振パネルダンパ30」は、本願発明1における「弾塑性履歴型ダンパ」に相当する。
引用発明1-1において、「制震パネルダンパ30」が「建物躯体中または建物の間に配置される」ことは、本願発明1において、「弾塑性履歴型ダンパ」が「建物及び/又は建造物に適用可能」であることに相当する。
引用発明1-1において、「平面視した場合に十字状に互いに直交するように配置されて」いる「面方向に沿って塑性変形し易い2枚の極低降伏点鋼製パネル34」は、面方向に沿った成分を含む変形を行う部材は剪断変形を行う部材ということができるから、本願発明1における「互いの向きが異なる二つの剪断部」に相当する。また、引用発明1-1において、該2枚の「極低降伏点鋼製パネル34」の「交点」が「溶接により固定されて」いる点と、本願発明1において、「二つの剪断部が、当該ダンパの端部を成す連結部を介して一連に設けられ」ている点とは、「二つの剪断部」が「連結部を介して一連に設けられ」ている点で、共通する。
引用発明1-1において、「2枚の極低降伏点鋼製パネル34」が「交点から離れたフランジ36側で互いに離間して」いる構成は、「2枚の極低降伏点鋼製パネル34」の間の空間が「フランジ36側」で閉鎖されておらず、「制震パネルダンパ30」の周囲の空間と隔てられていない構成であるから、本願発明1において、「上記ダンパを囲繞する空間が、二つの該剪断部の間の空間に一連」である構成に相当する。
引用発明1-1において、「極低降伏点鋼製パネル34」が「塑性変形」により「震動エネルギを吸収できる」構成と、本願発明1において、「上記剪断部は、外部からの一定以上の入力時に弾塑性的に面外方向を含む方向に変形してエネルギー吸収する」構成とを対比すると、引用発明1-1における「極低降伏点鋼製パネル34」が、降伏点に至る前の段階では弾性変形していることが、先に述べたとおり技術常識であることをふまえると、両者は、「上記剪断部は、外部からの一定以上の入力時」に「弾塑性的」に「変形してエネルギー吸収する」点で共通する。

以上より、本願発明1と引用発明1-1とは、次の点で一致する。
<一致点>
「建物及び/又は建造物に適用可能な弾塑性履歴型ダンパであって、
互いの向きが異なる二つの剪断部が、連結部を介して一連に設けられ、
上記ダンパを囲繞する空間が、二つの該剪断部の間の空間に一連であって、
上記剪断部は、外部からの一定以上の入力時に弾塑性的に変形してエネルギー吸収する、弾塑性履歴型ダンパ。」

本願発明1と引用発明1-1との相違点は、次の点である。

<相違点1A>
本願発明1では、「想定される入力方向に対して機能する向きに設置される」弾塑性履歴型ダンパにおいて、「二つの剪断部が、当該ダンパの端部を成す連結部」で連結され、剪断部が、「想定される入力方向に対し、二つの上記剪断部の面内方向が傾斜するように上記剪断部が設置され」るものであるのに対し、引用発明1-1では、上下のエンドプレート32間に設けられた2枚の極低降伏点鋼製パネル34は、平面視した場合に断面が互いに直交する十字状であり、「連結部」が「ダンパの端部」を成しておらず、水平方向の全方向からの震動について、互いに直交するように配置された極低降伏点鋼製パネル34が、それら震動をX成分とY成分とに分担して塑性変形し、これにより水平面における全方向についての震動エネルギを吸収する点。

<相違点2A>
本願発明1では、剪断部が弾塑性的に「面外方向を含む方向に」変形してエネルギー吸収すると特定されているのに対し、引用発明1-1では、互いに直交するように配置され、交点が溶接され、かつ上端と下端がそれぞれエンドプレート32に溶接により固定された極低降伏点鋼製パネル34が、水平方向の全方向からの震動について、それら震動をX成分とY成分とに分担して塑性変形し、これにより水平面における全方向についての震動エネルギを吸収する点。

イ 判断
相違点1Aについて検討する。
(ア)判決における相違点1Aについての判断
相違点1Aについては、判決において、相違点1’として以下のように判断されている(以下の判決中、「本件補正発明」、「相違点1’」は、それぞれ、審決の「本願発明1」、「相違点1A」を指す。また、「前記3(2)」は、判決中の「(2)相違点4’の容易想到性について」を指し、上記(1)イ(ア)に摘記されている。)。
「 (2) 相違点1’の容易想到性について
ア 前記3(2)アで判示したとおり,本件補正発明と引用発明1の技術的思想は大きく異なるのであり,相違点1’に係る本件補正発明の構成は,本件補正発明の技術的思想に基づくものであるから,引用発明1-1との実質的な相違点であり,設計的事項にすぎないということはできない。
イ(ア) 前記3(2)イ(ア)のとおり,引用文献2には引用発明2が記載されているが,引用発明2の略L字状に配置された二つの剪断パネル型ダンパー90の各パネル部は,端部で連結されていない。
引用発明1-1においては,2枚のパネルは中央部分で連結しているが,パネルを中央部分で連結させるという引用発明1-1の構成に代えて,引用発明1-1に,二つの剪断パネル型ダンパー90の各パネル部を,端部を連結することなく略L字状に配置するという引用発明2の上記構成を適用して,ダンパの断面形状をL字状とするなど2枚のパネルを端部で連結する構成とすることの動機付けは認められない。
(イ) その他,相違点1’に係る本件補正発明の構成を引用発明1-1に基づいて容易に想到することができたというべき事情は認められない。
(ウ) 以上からすると,その余の点について判断するまでもなく,引用発明1-1に基づいて本件補正発明を容易に発明することができたとは認められない。」(判決書第74頁第22行?第75頁第13行。)

(イ)当審の判断
上記(ア)に摘記した判決の判断は、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により当合議体を拘束する。
よって、引用発明2及び引用文献3、4に記載された周知技術を参酌しても、相違点1Aに係る本願発明1の構成は、引用発明1-1に基いて容易に想到し得たものではない。
以上から、相違点2Aについて判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明1、2ないし引用文献3、4に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。

(3)小括
本願発明1は引用文献1ないし4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2ないし11
本願発明2ないし11は、本願発明1の従属請求項であって、本願発明1の構成を全て含み、さらに他の構成を付加したものである。
そして、上記1で判断したように、本願発明1は引用文献1ないし4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本願発明2ないし11も、同様に、引用文献1ないし4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審から通知した拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-01-05 
出願番号 特願2017-157285(P2017-157285)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (E01D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石川 信也  
特許庁審判長 住田 秀弘
特許庁審判官 袴田 知弘
土屋 真理子
発明の名称 弾塑性履歴型ダンパ  

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