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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61B
管理番号 1369977
異議申立番号 異議2019-700726  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-12 
確定日 2020-10-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6483890号発明「診断支援装置、機械学習装置、診断支援方法、機械学習方法および機械学習プログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6483890号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕、〔11-13〕について訂正することを認める。 特許第6483890号の請求項1、3ないし13に係る特許を取り消す。 特許第6483890号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 特許第6483890号の特許請求の範囲について令和2年1月31日にされた訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
また、特許第6483890号の明細書について令和2年1月31日にされた訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕、〔11-13〕について訂正することを認める。
上記訂正により、特許第6483890号の請求項1、3ないし13に係る発明は、令和2年1月31日にされた訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1、3ないし13に記載された事項により特定されるとおりのものである。
これに対して、令和2年6月3日付けで取消理由(決定の予告)を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは応答がなかった。
そして、上記の取消理由は妥当なものと認められるので、請求項1、3ないし13に係る特許は、この取消理由(決定の予告)によって取り消すべきものである。
また、請求項2は、訂正により削除されることで、特許異議の申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により請求項2に係る特許に対する特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
診断支援装置、機械学習装置、診断支援方法、機械学習方法および機械学習プログラム
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽度認知障害患者が所定期間内にアルツハイマー病を発症するかを予測する技術に関し、特に、人工知能によって予測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)に対する治療のためには発症早期、望ましくは、発症前に診断する技術を開発する必要がある。このような技術の開発にあたり、画像検査を中心とした研究のためのプロジェクトがAlzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)であり、北米を中心に、オーストラリア、ヨーロッパ、日本などが共同で研究が行なわれている。
【0003】
ADの前段階とされる健忘型の軽度認知障害(aMCI:amnesic type mild cognitive impairment)の患者は、その全てがADになるのではなく、その一部がADに進行すると言われている。また、ADNIによる研究の結果、aMCIの中でもADに進展する進行性のpMCI(progressive MCI)と、進展しない非進行性のsMCI(stable MCI)に分類されることが判明している。従来より、aMCIは積極的な治療対象と見なされていたが、進行性のpMCIと非進行性のsMCIとを判別して、治療対象をpMCIに絞る必要がある。
【0004】
これに対し、PiB PET検査では、脳のアミロイドβの蓄積に基づいてADの発症を予測している(非特許文献1)。また、早期AD(Alzheimer’s Disease)診断支援システムとして、VSRAD(登録商標)(Voxel-Based Specific Regional Analysis System for Alzheimer’s Disease)が開発されている(特許文献1)。VSRAD(登録商標)は、前駆期を含む早期ADに特徴的にみられる海馬傍回付近の萎縮の程度をMRI画像から読み取るための画像処理・統計解析ソフトウエアである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2013/047278号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chen et al.,Eur J Neurol;21:1060-1067,2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、PiB PET検査において脳のアミロイドβの蓄積が疑われても(PiB陽性であっても)pMCIとは限らない。実施例において後述するように、本発明者による計算では、北米のADNIデータベースでPiB陽性のaMCI症例の診断後オッズは3.5であり、非特許文献1に記載のメタ解析の報告においても、PiB陽性のaMCI症例の診断後オッズは4.03であった。
【0008】
また、ADの症例には海馬以外の大脳皮質の萎縮(主に後方)のある症例、さらには海馬にあまり萎縮のない症例の存在が知られている。そのため、後述の実施例に示されるように、VSRAD(登録商標)による診断後オッズは3.11とPiB検査よりも低く、進行性のpMCIと非進行性のsMCIとを高精度に予測することは難しい。
【0009】
本発明は、aMCIの被験者が進行性のpMCIであるか、非進行性のsMCIであるかを高精度に予測することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、人工知能を用いることにより前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。更に具体的には、本発明は、脳の3次元画像情報から、灰白質と白質を分離し、それぞれを複数の関心領域に分割し、各分割領域の体積の教師データと被験者のデータとを比較して、その統計的差異を人工知能により評価するようにしたものである。
【0011】
本発明は、次の態様を含む。
項1.
軽度認知障害の被験者が所定期間内にアルツハイマー病を発症するか否かの予測を行う診断支援装置であって、
機械学習された予測アルゴリズムに従って、前記被験者が所定期間内にアルツハイマー病を発症するか否かの予測を行う予測部を備えた、診断支援装置。
項2.
項1に記載の診断支援装置であって、
前記被験者から取得した脳画像を灰白質、白質、および髄液部分に分割する領域分割部と、
前記分割された各領域に複数の関心領域を設定する関心領域設定部と、
各関心領域の体積について、各関心領域におけるt値およびp値を演算するt値およびp値演算部と、
前記t値およびp値に基づいて、各関心領域のz値を演算するz値演算部と、をさらに備え、
前記予測部は、前記z値に基づいて前記予測を行う、診断支援装置。
項3.
項2に記載の診断支援装置であって、
前記領域分割部は、前記髄液部分から側脳室を分離する、診断支援装置。
項4.
項2または3に記載の診断支援装置であって、
前記領域分割部は、脳梁と周囲白質との境界を、流体の表面張力と粘度のパラメーターにより決定することにより、前記周囲白質を分離する、診断支援装置。
項5.
項2?4のいずれかに記載の診断支援装置であって、
前記関心領域設定部は、前記白質に白質病変部が存在する場合、前記白質病変部を取り出し、前記被験者の前記白質の平均信号値で置換した後に、前記白質における前記関心領域を設定する、診断支援装置。
項6.
項2?5のいずれかに記載の診断支援装置であって、
前記予測部は、シグモイド関数によりハイパー平面への距離から事後確率として前記予測を行う、診断支援装置。
項7.
項1?6のいずれかに記載の予測アルゴリズムを学習する機械学習装置であって、
複数の軽度認知障害の患者の脳画像、および、各患者が前記脳画像の取得から前記所定期間内にアルツハイマー病を発症したか否かを示す診断結果から作成された教師データに基づいて、前記予測アルゴリズムを学習する学習部を備える、機械学習装置。
項8.
項7に記載の機械学習装置であって、
前記学習部はサポートベクターマシンで構成される、機械学習装置。
項9.
項7または8に記載の機械学習装置であって、
前記脳画像はMRI画像である、機械学習装置。
項10.
項7?9のいずれかに記載の機械学習装置であって、
前記複数の軽度認知障害の患者の脳画像、および、各患者が前記脳画像の取得から前記所定期間内にアルツハイマー病を発症したか否かを示す診断結果に基づいて、前記教師データを作成する教師データ作成部をさらに備える、機械学習装置。
項11.
項7?10のいずれかに記載の機械学習装置であって、
前記教師データ作成部は、
前記患者から取得した脳画像を灰白質、白質、および髄液部分に分割する領域分割部と、
前記分割された各領域に複数の関心領域を設定する関心領域設定部と、
各関心領域の体積について、各関心領域におけるt値およびp値を演算するt値およびp値演算部と、
前記t値およびp値に基づいて、各関心領域のz値を演算するz値演算部と、を備え、
前記教師データは、前記診断結果と、前記z値とを含む、機械学習装置。
項12.
軽度認知障害の被験者が所定期間内にアルツハイマー病を発症するか否かの予測を行う診断支援方法であって、
機械学習された予測アルゴリズムに従って、前記被験者が所定期間内にアルツハイマー病を発症するか否かの予測を行う予測ステップを備えた、診断支援方法。
項13.
項12に記載の予測アルゴリズムを学習する機械学習方法であって、
複数の軽度認知障害の患者の脳画像、および、各患者が前記脳画像の取得から前記所定期間内にアルツハイマー病を発症したか否かを示す診断結果から作成された教師データに基づいて、前記予測アルゴリズムを学習する学習ステップを備える、機械学習方法。
項14.
項12に記載の予測アルゴリズムをコンピュータに学習させる機械学習プログラムであって、
複数の軽度認知障害の患者の脳画像、および、各患者が前記脳画像の取得から前記所定期間内にアルツハイマー病を発症したか否かを示す診断結果から作成された教師データに基づいて、前記予測アルゴリズムを学習する学習ステップを前記コンピュータに実行させる、機械学習プログラム。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、aMCIの被験者が進行性のpMCIであるか、非進行性のsMCIであるかを高精度に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る予測システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る機械学習装置の機能を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る機械学習方法の全体的な手順を示すフローチャートである。
【図4】教師データ作成ステップの手順を示すフローチャートである。
【図5】脳画像分割による効果の説明図である。
【図6】側脳室分離による効果の説明図である。
【図7】脳梁の3次元構造を求め、その境界を明確にした例の説明図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る診断支援装置の機能を示すブロック図である。
【図9】PMSおよびVSRAD(登録商標)による予測のROC曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照して説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
(全体構成)
図1は、本実施形態に係る予測システム100の概略構成を示すブロック図である。予測システム100は、機械学習装置1および診断支援装置2を備えている。機械学習装置1は、軽度認知障害の被験者が所定期間内にアルツハイマー病を発症するか否かの予測を行うための予測アルゴリズムを学習する。診断支援装置2は、機械学習装置1によって学習された予測アルゴリズムに従って、軽度認知障害の被験者が所定期間内にアルツハイマー病を発症するか否かの予測を行う。機械学習装置1と診断支援装置2とは、別個の装置で実現してもよいし、機械学習装置1と診断支援装置2とを一つの装置で構成してもよい。
【0016】
以下、機械学習装置1および診断支援装置2の構成例について説明する。
【0017】
(機械学習装置)
図2は、本実施形態に係る機械学習装置1の機能を示すブロック図である。機械学習装置1は、例えば汎用のパーソナルコンピュータで構成することができ、ハードウェア構成として、CPU(図示せず)、主記憶装置(図示せず)、補助記憶装置11などを備えている。機械学習装置1では、CPUが補助記憶装置11に記憶された各種プログラムを主記憶装置に読み出して実行することにより、各種演算処理を実行する。補助記憶装置11は、例えばハードディスクドライブ(HDD)やソリッドステートドライブ(SSD)で構成することができる。また、補助記憶装置11は、機械学習装置1に内蔵されてもよいし、機械学習装置1とは別体の外部記憶装置として設けてもよい。
【0018】
機械学習装置1は、健忘型の軽度認知障害(aMCI:amnesic type mild cognitive impairment)の被験者が所定期間内(例えば3年以内)に認知症を発症するか否かの予測、すなわち進行性のpMCIであるか非進行性のsMCIであるかの予測を行うための予測アルゴリズムD4を学習する機能を有している。この機能を実現するために、機械学習装置1は、機能ブロックとして、教師データ作成部12および学習部13を備えている。教師データ作成部12は、軽度認知障害の患者の脳画像D1および診断結果D2から教師データD3を作成する機能ブロックである。学習部13は、教師データD3に基づいて、予測アルゴリズムD4を学習する機能ブロックである。教師データ作成部12および学習部13は、補助記憶装置11に格納されている機械学習プログラムを実行することにより実現される。
【0019】
機械学習装置1は、診断情報データベースDBにアクセス可能となっている。診断情報データベースDBには、複数のaMCI患者の脳画像D1、および、各aMCI患者が脳画像D1の取得から所定期間内に認知症を発症したか否かを示す診断結果D2が格納されている。本実施形態では、脳画像D1は3次元のMRI画像である。脳画像D1および診断結果D2は、軽度認知障害から認知症に至った対象者群、および、認知症に至らなかった対象者群のそれぞれについて、統計的有意差の得られる一定数以上用意されていることが望ましい。診断情報データベースDBは、1つの医療機関が所有するものであってもよいし、複数の医療機関が共有するものであってもよい。
【0020】
教師データ作成部12は、教師データD3を作成するための機能ブロックとして、脳画像取得部121、領域分割部122、画像補正部123、関心領域設定部124、t値およびp値演算部125、体積演算部126、z値演算部127および診断結果取得部128を備えている。
【0021】
脳画像取得部121は、aMCI患者の脳画像D1を診断情報データベースDBから取得する。領域分割部122?z値演算部127は、取得された脳画像D1に対して、脳領域に複数の関心領域(ROI)を設定し、各関心領域のz値を算出する等の演算処理を行う。領域分割部122?z値演算部127の各部の具体的な演算処理内容は、後述する。
【0022】
診断結果取得部128は、脳画像D1が取得されたaMCI患者の診断結果D2を、診断情報データベースDBから取得する。教師データ作成部12は、各aMCI患者について、各関心領域のz値と診断結果D2とを対応づけて教師データD3を作成し、補助記憶装置11に保存する。
【0023】
学習部13は、教師データD3に基づいて予測アルゴリズムD4を学習し、学習済みの予測アルゴリズムD4を補助記憶装置11に保存する。機械学習法は、特に限定されないが、本実施形態では、学習部13はサポートベクターマシンで構成される。
【0024】
(機械学習方法)
本実施形態に係る機械学習方法は、図2に示す機械学習装置1を用いて実施される。図3は、本実施形態に係る機械学習方法の全体的な手順を示すフローチャートである。図4は、本実施形態に係る機械学習方法における教師データ作成ステップの手順を示すフローチャートである。
【0025】
図3に示すステップS1では、脳画像取得部121および診断結果取得部128が、診断情報データベースDBから、aMCI患者の脳画像D1および診断結果D2をそれぞれ取得する。なお、一人分の脳画像D1および診断結果D2を取得してもよいし、一度に複数人分の脳画像D1および診断結果D2を取得してもよい。
【0026】
ステップS2では、教師データ作成部12が、取得された脳画像D1および診断結果D2から教師データD3を作成する。
【0027】
図4は、教師データを作成するためのステップS2の具体的な処理手順を示すフローチャートである。ステップS2は、主にステップS21?S27を備えている。
【0028】
ステップS21では、領域分割部122が、取得された脳画像D1から脳以外の組織を分離除去し、さらに、脳以外の組織が分離除去された脳画像を、灰白質、白質および髄液部分に分割し、髄液部分から側脳室を分離する。本実施形態では、領域分割部122は、SPMなど従来法による標準化により脳病変が無視されることを防ぐために、信号強度に依存した最尤法および事後確率法を用いて脳画像を分割する。これに伴い生じる白質病変の灰白質への混入を防ぐ目的で、FLAIR画像をセグメンテーションに導入するマルチチャンネルセグメンテーションの技術を可能にした。空間情報が低いFLAIR画像は3次元脳画像データにより高い空間情報に補完されたのち、白質病変のみを切り出し、被検者白質の平均信号値で穴埋め(置換)することにより、従来にない精度の分離が可能となっている。
【0029】
図5は、その効果を示すものである。図5において、従来の方法では、灰白質の上部2か所で白い部分が混入し、白質ではやはり上部2か所で白質が欠損している。本実施形態の方法を用いることにより、従来にない精度での分離が可能となっている。
【0030】
その後、必要に応じて、脳画像の画質評価を行い、画質が一定レベル以下の場合、警告を表示する等の処理を行ってもよい。
【0031】
ステップS22では、画像補正部123が、ステップS21において分割された脳画像を補正する。本実施形態では、画像補正部123は、aMCI患者の年代、性別、体格等に基づいて共変量調整を行い、必要に応じて、灰白質の解析時に灰白質の体積による補正を行う。
【0032】
ステップS23では、関心領域設定部124が、脳画像に含まれる脳領域、すなわち、灰白質、白質、および側脳室の各領域に複数の関心領域を設定する。本実施形態では、関心領域設定部124は、灰白質を272ヶ所に分割し、白質を33ヶ所に分割し、側脳室を複数箇所に分割し、分割した各領域を関心領域に設定する。
【0033】
髄液部分からは側脳室を分離する。通常の脳萎縮は脳表が中心方向に向かって縮まる(頭蓋骨と脳表に隙間ができる)が、白質病変があると、代償的に側脳室が拡大して内側から外側に向かって縮まる。このようなことがあるため、本実施形態では側脳室を分離する。この処置により側脳室と灰白質、白質との境界を精度よく決定することができ、これにより判別精度が向上する。
【0034】
本実施形態における側脳室分離の効果を図6に示す。従来の方法で求めた3例と右下の本実施形態を比較すると、図中破線で区切って示すように、側脳室と白質との境界が精度よく得られている。これにより従来よりも精度のよい判別ができる。
【0035】
灰白質は、Automated Anatomical Labeling(AAL)98箇所、Brodmann118箇所、Loni Probabilistic Brain Atlas(LPBA)56箇所を用いることにより分割できる。白質は、MNI空間において独自に作成した関心領域により分割できる。
【0036】
従来の方法では、脳梁はその矢状断での断面積でのみ大きさが評価できたが、本実施形態では、これを3次元評価する目的で、脳梁と周囲白質との境界の設定を流体の表面張力と粘度のパラメーターを調整することにより分割する。
【0037】
脳梁は皮質下の白質と境界なく連続しているため、その関心領域作成には特殊な手法が必要である。さらに具体的には、脳3次元画像において、脳梁の前頭部及び後頭部位置に、仮想流体を置き、仮想流体が、脳内で3次元的に拡がっていく状況をシミュレーションしてその境界を決定する。代表的には髄液に相当する水滴を想定し、その水滴がその表面張力と粘度に基づいて、自由に拡がっていく形状から脳梁の前頭部側及び後頭部側形状を求め、これにより脳梁と接する部分の灰白質と白質の形状を決定する。これにより実際には3次元的に微細な入り組んだ形状部分のある境界面を単純だが精度の高い方法で明確にすることができる。
【0038】
図7は、本実施形態の方法により、脳梁の3次元構造を求め、その境界を明確にした例である。これにより灰白質、白質との境界が明確となり、判別精度が向上する。境界面の確定により、その形状を確定した灰白質および白質について分割処理を行う。この処理を導入することにより、後述するt値、p値およびz値の精度を大幅に改善することができる。
【0039】
側脳室は、事前にMNI空間に用意したテンプレートを用いることにより分割できる。
【0040】
ステップS24では、t値およびp値演算部125が、各関心領域の体積について、各関心領域におけるt値およびp値を演算する。この目的のために、対照群として標準に用いられるIXI databaseを用いることができる。なお、t値およびp値は統計的検証に用いられる値である。
【0041】
ステップS25では、体積演算部126が、各関心領域の体積を演算する。本実施形態では、体積演算部126は、テンソル変換時のヤコブ行列を利用して体積を計算する。
【0042】
ステップS26では、z値演算部127が、各関心領域におけるt値およびp値に基づいて、各関心領域におけるz値を演算する。これにより、脳画像D1から、複数の関心領域におけるz値が算出される。なお、z値はt値およびp値より求められる統計的検証のための値である。
【0043】
ステップS27では、複数の関心領域およびz値からなるデータを診断結果D2と対応付けることにより、教師データD3が作成される。
【0044】
以上のステップS21?S27により図3に示すS2が終了する。作成された教師データD3は、補助記憶装置11に保存され、教師データD3が補助記憶装置11に十分蓄積されるまで(ステップS3においてYES)、ステップS1およびステップS2が繰り返される。
【0045】
続いて、ステップS4では、学習部13が補助記憶装置11に保存された教師データD3に基づいて、予測アルゴリズムD4を学習する。本実施形態では、学習部13は、RBF(radial basis function)カーネルを用いたサポートベクタマシン(SVM)によって学習を行う。この際、交差検証にleave-one-out法を用いて、スラック変数と境界マージンの2つのパラメーターの最適値を求め、これらを用いて、軽度認知障害から認知症に至った対象者群と認知症に至らなかった対象者群との判別境界を求める。学習済みの予測アルゴリズムD4は、補助記憶装置11に保存される。
【0046】
(診断支援装置)
以下では、学習済みの予測アルゴリズムD4を用いて疾患の判定を行う形態について説明する。
【0047】
図8は、本実施形態に係る診断支援装置2の機能を示すブロック図である。診断支援装置2は、図2に示す機械学習装置1と同様に、例えば汎用のパーソナルコンピュータで構成することができる。すなわち、診断支援装置2は、ハードウェア構成として、CPU(図示せず)、主記憶装置(図示せず)、補助記憶装置21などを備えている。診断支援装置2では、CPUが補助記憶装置21に記憶された各種プログラムを主記憶装置に読み出して実行することにより、各種演算処理を実行する。補助記憶装置21は、例えばハードディスクドライブ(HDD)やソリッドステートドライブ(SSD)で構成することができ、学習済みの予測アルゴリズムD4が記憶されている。また、補助記憶装置21は、診断支援装置2に内蔵されてもよいし、診断支援装置2とは別体の外部記憶装置として設けてもよい。
【0048】
診断支援装置2は、MRI装置3に接続されており、MRI装置3によって取得された軽度認知障害の被験者の脳画像が、診断支援装置2に送信される。なお、MRI装置3によって取得された患者の脳画像を一旦、記録媒体に保存し、当該記録媒体を介して脳画像を診断支援装置2に入力してもよい。
【0049】
診断支援装置2は、被験者の脳画像に基づいて、被験者が所定期間内(例えば3年以内)に認知症を発症するか否かの予測を行う機能を有している。この機能を実現するために、診断支援装置2は、機能ブロックとして、画像処理部22および予測部23を備えている。
【0050】
画像処理部22は、外部から取得された脳画像に対して、脳領域に複数の関心領域を設定し、各関心領域のz値を算出する等の演算処理を行い、各関心領域のz値を予測部23に出力する。画像処理部22は、各関心領域のz値を生成するために、脳画像取得部221、領域分割部222、画像補正部223、関心領域設定部224、t値およびp値演算部225、体積演算部226およびz値演算部227を備えている。これらの機能ブロックは、図2に示す教師データ作成部12の脳画像取得部121、領域分割部122、画像補正部123、関心領域設定部124、t値およびp値演算部125、体積演算部126およびz値演算部127とそれぞれ同一の機能を有している。
【0051】
被験者の脳画像は、脳画像取得部221によって取得される。その後、領域分割部222?z値演算部227の各部が、図4に示すステップS21?S27の処理を行い、各関心領域のz値を生成する。
【0052】
予測部23は、予測アルゴリズムD4に従って、被験者が所定期間内に認知症を発症するか否かの予測を行う。本実施形態では、予測部23は、画像処理部22が生成した各関心領域のz値に基づいて、被験者が所定期間内に認知症を発症するか否かの予測を行う。予測結果は、例えば、診断支援装置2に接続されたディスプレイ4に表示される。なお、診断支援装置2では、単にpMCIかsMCIの判別を行うのではなく、例えば、どちらであるかの可能性をシグモイド関数により、ハイパー平面(初等幾何学における超平面、二次元の平面をそれ以外の次元へ一般化するもの)への距離から事後確率(0?1)として求めることができる。
【0053】
以上により、診断支援装置2は、予測アルゴリズムD4を用いて、被験者が所定期間内に認知症を発症するか否かの予測を行う。ここで、予測アルゴリズムD4は、機械学習装置1における機械学習によって得られたものであり、十分な量の教師データD3を用いて機械学習させることで、診断支援装置2の予測精度を高めることが可能となる。このように本実施形態では、人工知能を用いることにより、被験者が進行性のpMCIであるか非進行性のsMCIであるかを高精度に予測することができる。
【0054】
[付記事項]
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0055】
例えば、上記実施形態では、脳画像としてMRI画像を用いていたが、X線CT画像、SPECT画像、またはPET画像などを用いてもよい。さらには、Tensor-based morphometryを用いたMRI画像の啓示的な変化を用いてもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、機械学習装置1が教師データ作成部12および学習部13の両方を備えているが、教師データ作成部12および学習部13を別個の装置で実現する構成としてもよい。すなわち、機械学習装置1以外の装置において作成した教師データD3を機械学習装置1に入力し、機械学習装置1では、予測アルゴリズムD4の学習のみを行ってもよい。
【0057】
同様に、診断支援装置2の画像処理部22および予測部23を別個の装置で実現する構成としてもよい。この場合、診断支援装置2以外の装置において作成した各関心領域のz値を診断支援装置2に入力し、診断支援装置2では、予測アルゴリズムD4に基づく予測のみを行ってもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、予測アルゴリズムD4を学習するための教師データD3は、複数の軽度認知障害の患者の脳画像、および、各患者が前記脳画像の取得から前記所定期間内にアルツハイマー病を発症したか否かを示す診断結果から作成していたが、本発明はこれに限定されない。例えば、アルツハイマー病の患者の脳画像およびアルツハイマー病ではない健常者の脳画像から、教師データを作成してもよい。このような教師データに基づいて学習された予測アルゴリズムを用いて診断支援装置を構築した場合であっても、後述の実施例で示したように、従来技術よりも高い精度で、pMCIであるかsMCIであるかを予測することができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0060】
本実施例では、図2に示す診断情報データベースDBとして、北米のADNIデータベースを用いた。本発明者は、ADNIデータベースから、1832例のデータを抽出した。このうち、aMCIからADに進行したpMCIの症例が303例、進行しなかったsMCIの症例が595例であった。さらにpMCIの中で、発症の3年前に取得したMRI脳画像のデータが存在する47の対象群、および、sMCIの中でADに進行せずに4年以上経過観察ができている110の対象群について、両者の違いを調べた。pMCIの対象群およびsMCIの対象群の、年齢、ミニメンタルステート検査(MMSE;認知症の診断用に米国で1975年、フォルスタインらが開発した質問セット)、認知機能下位尺度(ADAS-cog11)、アポリポ蛋白E(AP_(O)E;アルツハイマー病に関連する蛋白)、ADS(Alzheimer’s disease score)および各指標のp値を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
上記47例のpMCI患者のMRI脳画像および診断結果、および110例のsMCI患者のMRI脳画像および診断結果を、上記実施形態に係る機械学習装置1に入力して教師データD3を作成し、教師データD3に基づいて予測アルゴリズムD4(PMS)を学習させた。また、比較例に係る予測アルゴリズムとして、VSRAD(登録商標)も用意した。
【0063】
PMSおよびVSRAD(登録商標)によって、pMCIであるかsMCIであるかの予測を行い、ADNIデータベースを用いて予測精度の評価を行った。
【0064】
図9(a)および(b)は、それぞれ本実施例のPMSおよび比較例としての従来のVSRAD(登録商標)による予測のROC曲線であり、PMSによる予測において、感度、特異度、正答率、AUC(Area Under the Curve;ROC曲線より下の部分の面積で、AUCは0から1までの値をとり、値が1に近いほど判別能が高いことを示す。判別能がランダムであるとき、AUC=0.5となる。)はそれぞれ、79.2%、88.2%、85.4%、0.8886であった。一方、VSRAD(登録商標)による予測では、感度、特異度、正答率、AUCはそれぞれ、51.5%、74.5%、65.7%、0.7059であった。
【0065】
特に、PMSの診断後オッズは28.3であり、VSRAD(登録商標)による診断後オッズ(3.11)の9倍近い値を示した。
【0066】
また、PiB検査における診断後オッズは、本発明者によるADNIデータベースを用いた計算では3.5であり、非特許文献1におけるPiB検査の診断後オッズは4.03であった。すなわち、PMSによる予測において、診断後オッズがPiB検査よりも6倍以上高い結果となった。
【0067】
本実施例における方法を用いることにより、軽度認知障害から実際にADに進展するのは、aMCIの約1/3であり、残りの約2/3は長期経過観察をしてもADに進行しないこと、および、ADに進展する期間はaMCIになってから2年以内が多いことが明らかになった。
【符号の説明】
【0068】
1 機械学習装置
11 補助記憶装置
12 教師データ作成部
121 脳画像取得部
122 領域分割部
123 画像補正部
124 関心領域設定部
125 t値およびp値演算部
126 体積演算部
127 z値演算部
128 診断結果取得部
13 学習部
2 診断支援装置
21 補助記憶装置
22 画像処理部
221 脳画像取得部
222 領域分割部
223 画像補正部
224 関心領域設定部
225 t値およびp値演算部
226 体積演算部
227 z値演算部
23 予測部
3 MRI装置
4 ディスプレイ
D1 脳画像
D2 診断結果
D3 教師データ
D4 予測アルゴリズム
DB 診断情報データベース
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽度認知障害の被験者が所定期間内にアルツハイマー病を発症するか否かの予測を行う診断支援装置であって、
前記被験者から取得した脳画像を灰白質、白質、および髄液部分に分割し、前記髄液部分から側脳室を分離する領域分割部と、
前記灰白質、前記白質、および前記側脳室の各領域に複数の関心領域を設定する関心領域設定部と、
各関心領域の体積について、各関心領域におけるt値およびp値を演算するt値およびp値演算部と、
前記t値およびp値に基づいて、各関心領域のz値を演算するz値演算部と、
機械学習された予測アルゴリズムに従って、前記被験者が所定期間内にアルツハイマー病を発症するか否かの予測を行う予測部とを備え、
前記予測部は、前記z値に基づいて前記予測を行う、診断支援装置。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
請求項1に記載の診断支援装置であって、
前記領域分割部は、脳梁と周囲白質との境界を、流体の表面張力と粘度のパラメーターにより決定することにより、前記周囲白質を分離する、診断支援装置。
【請求項4】
請求項1および3のいずれかに記載の診断支援装置であって、
前記関心領域設定部は、前記白質に白質病変部が存在する場合、前記白質病変部を取り出し、前記被験者の前記白質の平均信号値で置換した後に、前記白質における前記関心領域を設定する、診断支援装置。
【請求項5】
請求項1、3および4のいずれかに記載の診断支援装置であって、
前記予測部は、シグモイド関数によりハイパー平面への距離から事後確率として前記予測を行う、診断支援装置。
【請求項6】
請求項1および3?5のいずれかに記載の予測アルゴリズムを学習する機械学習装置であって、
複数の軽度認知障害の患者の脳画像、および、各患者が前記脳画像の取得から前記所定期間内にアルツハイマー病を発症したか否かを示す診断結果から作成された教師データに基づいて、前記予測アルゴリズムを学習する学習部を備える、機械学習装置。
【請求項7】
請求項6に記載の機械学習装置であって、
前記学習部はサポートベクターマシンで構成される、機械学習装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の機械学習装置であって、
前記脳画像はMRI画像である、機械学習装置。
【請求項9】
請求項6?8のいずれかに記載の機械学習装置であって、
前記複数の軽度認知障害の患者の脳画像、および、各患者が前記脳画像の取得から前記所定期間内にアルツハイマー病を発症したか否かを示す診断結果に基づいて、前記教師データを作成する教師データ作成部をさらに備える、機械学習装置。
【請求項10】
請求項9に記載の機械学習装置であって、
前記教師データ作成部は、
前記患者から取得した脳画像を灰白質、白質、および髄液部分に分割し、前記髄液部分から側脳室を分離する領域分割部と、
前記灰白質、前記白質、および前記側脳室の各領域に複数の関心領域を設定する関心領域設定部と、
各関心領域の体積について、各関心領域におけるt値およびp値を演算するt値およびp値演算部と、
前記t値およびp値に基づいて、各関心領域のz値を演算するz値演算部と、を備え、
前記教師データは、前記診断結果と、前記z値とを含む、機械学習装置。
【請求項11】
軽度認知障害の被験者が所定期間内にアルツハイマー病を発症するか否かの予測を行う診断支援方法であって、
前記被験者から取得した脳画像を灰白質、白質、および髄液部分に分割し、前記髄液部分から側脳室を分離する領域分割ステップと、
前記灰白質、前記白質、および前記側脳室の各領域に複数の関心領域を設定する関心領域設定ステップと、
各関心領域の体積について、各関心領域におけるt値およびp値を演算するt値およびp値演算ステップと、
前記t値およびp値に基づいて、各関心領域のz値を演算するz値演算ステップと、
機械学習された予測アルゴリズムに従って、前記被験者が所定期間内にアルツハイマー病を発症するか否かの予測を行う予測ステップとを備え、
前記予測ステップでは、前記z値に基づいて前記予測を行う、診断支援方法。
【請求項12】
請求項11に記載の予測アルゴリズムを学習する機械学習方法であって、
複数の軽度認知障害の患者の脳画像、および、各患者が前記脳画像の取得から前記所定期間内にアルツハイマー病を発症したか否かを示す診断結果から作成された教師データに基づいて、前記予測アルゴリズムを学習する学習ステップを備える、機械学習方法。
【請求項13】
請求項11に記載の予測アルゴリズムをコンピュータに学習させる機械学習プログラムであって、
複数の軽度認知障害の患者の脳画像、および、各患者が前記脳画像の取得から前記所定期間内にアルツハイマー病を発症したか否かを示す診断結果から作成された教師データに基づいて、前記予測アルゴリズムを学習する学習ステップを前記コンピュータに実行させる、機械学習プログラム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-09-07 
出願番号 特願2018-86422(P2018-86422)
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (A61B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 後藤 順也  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 三崎 仁
渡戸 正義
登録日 2019-02-22 
登録番号 特許第6483890号(P6483890)
権利者 株式会社ERISA 国立大学法人滋賀医科大学
発明の名称 診断支援装置、機械学習装置、診断支援方法、機械学習方法および機械学習プログラム  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 杉村 純子  
代理人 東崎 賢治  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 田村 爾  

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