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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1369980
異議申立番号 異議2019-701002  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-12-06 
確定日 2020-11-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6559372号発明「合金部材、セルスタック及びセルスタック装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6559372号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕、5、6について訂正することを認める。 特許第6559372号の請求項5、6に係る特許を維持する。 特許第6559372号の請求項1?4に係る特許についての特許異議申立を却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6559372号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成31年1月23日(優先権主張平成30年9月7日)の出願であって、令和1年7月26日付けでその特許権の設定登録がなされ、同年8月14日に特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、その特許について、令和1年12月6日差出で特許異議申立人亀崎伸宏(以下、「申立人」という。)により請求項1?6(全請求項)に対して特許異議の申立てがなされ、令和2年4月6日付けで取消理由(以下、「取消理由」という。)が通知され、これに対して、同年5月28日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、同年6月25日差出で本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)について、申立人から意見書が提出され、その後、同年7月27日付けで審尋がなされ、これに対して、同年8月13日に回答書が提出されたものである。

第2 訂正請求について
1 訂正の趣旨、及び、訂正の内容
本件訂正請求は、特許第6559372号の特許請求の範囲を、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?6について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。
なお、訂正箇所には、当審で下線を付した。

(1)訂正事項1
請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
請求項5の「前記基材の厚み方向の断面における前記複数の埋設部について、前記厚み方向に垂直な面方向における各埋設部のうち各凹部に埋設された部分の中点を連ねた線分の実長さの平均値は、前記線分の始点と終点とを結ぶ直線長さの平均値より長く、」を「前記基材の厚み方向の断面における前記複数の埋設部について、前記厚み方向に垂直な面方向における各埋設部のうち各凹部に埋設された部分の中点を連ねた線分の実長さの平均値は、前記線分の始点と終点とを結ぶ直線長さの平均値より長く、前記実長さの平均値は、前記直線長さの平均値の1.10倍以上であり、」と訂正する。

(6)訂正事項6
請求項6の「前記基材の厚み方向の断面における前記複数の埋設部について、前記厚み方向に垂直な面方向における各埋設部のうち各凹部に埋設された部分の中点を連ねた線分の実長さの平均値は、前記線分の始点と終点とを結ぶ直線長さの平均値より長く、」を「前記基材の厚み方向の断面における前記複数の埋設部について、前記厚み方向に垂直な面方向における各埋設部のうち各凹部に埋設された部分の中点を連ねた線分の実長さの平均値は、前記線分の始点と終点とを結ぶ直線長さの平均値より長く、前記実長さの平均値は、前記直線長さの平均値の1.10倍以上であり、」と訂正する。

2 当審の判断
2-1 訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無
(1)訂正事項1?4
訂正事項1?4は、それぞれ、請求項1?4を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載された範囲内の訂正である。

(2)訂正事項5、6
訂正事項5、6は、それぞれ、訂正前の請求項5、6の発明特定事項である「実長さの平均値」について、「直線長さの平均値の1.10倍以上であ」ることを特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。

2-2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?4は請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?4は一群の請求項である。 また、本件訂正前の請求項5、6は、いずれも引用関係のない独立した請求項である。
そして、本件訂正は、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めがないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?4〕、5、6を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

2-3 独立特許要件について
本件訂正請求に係る請求項はいずれも特許異議の申立てがなされているので、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、令和2年5月28日に特許権者が行った訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕、5、6についての訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
令和2年5月28日に特許権者が行った請求項1?6についての訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?6に係る発明(以下、請求項番号に応じて、それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」という。また、請求項1?9に係る発明をまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
表面に複数の凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、
前記複数の凹部内にそれぞれ配置され、セラミックス材料によってそれぞれ構成される複数の埋設部と、
前記基材の表面の少なくとも一部を覆い、前記複数の埋設部に接続されるコーティング膜と、
を備え、
前記基材の厚み方向の断面における前記複数の埋設部について、前記厚み方向に垂直な面方向における各埋設部のうち各凹部に埋設された部分の中点を連ねた線分の実長さの平均値は、前記線分の始点と終点とを結ぶ直線長さの平均値より長く、
前記実長さの平均値は、前記直線長さの平均値の1.10倍以上であり、
前記複数の埋設部それぞれは、前記コーティング膜と異なる材料によって構成される、
合金部材。
【請求項6】
表面に複数の凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、
前記複数の凹部内にそれぞれ配置され、クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物によってそれぞれ構成される複数の埋設部と、
前記基材の表面の少なくとも一部を覆い、前記複数の埋設部に接続されるコーティング膜と、
を備え、
前記基材の厚み方向の断面における前記複数の埋設部について、前記厚み方向に垂直な面方向における各埋設部のうち各凹部に埋設された部分の中点を連ねた線分の実長さの平均値は、前記線分の始点と終点とを結ぶ直線長さの平均値より長く、
前記実長さの平均値は、前記直線長さの平均値の1.10倍以上であり、
前記複数の埋設部それぞれにおいて、クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の平均含有率は、カチオン比で0.05以上である、
合金部材。」

2 取消理由の概要
2-1 特許法第36条第6項第2号について
本件特許は、その特許請求の範囲について下記(1)?(4)の記載が明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、取り消されるべきものである。
(1)本件訂正前の請求項1、5、6の「実長さ」、「直線長さ」及び本件訂正前の請求項1、2、5、6の「埋設部」
(2)本件訂正前の請求項1、5、6の「実長さ」のピッチ
(3)本件訂正前の請求項2の「接合長さ」
(4)本件訂正前の請求項5の「コーティング膜と異なる材料」

なお、上記(4)は、取消理由において、請求項6の「コーティング膜と異なる材料」と記載されていたが、「請求項6」は「請求項5」の誤記である。

2-2 特許法第36条第4項第1号について
本件訂正前の請求項1?6の記載は、上記2-1のとおり明確ではないために、願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)がその実施をすることができる程度に明確、かつ、十分に記載したものとはいえず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、取り消されるべきものである。

2-3 特許法第29条第1項第3号及び同条第2項について
本件特許の本件訂正前の請求項6に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された下記Aの刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。
また、本件特許の本件訂正前の請求項6に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された下記Aの刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(引用文献)
A 特許第6188181号公報
(申立人が提出した甲第3号証、以下、「甲3」という。)

なお、申立人は、上記甲3の他に、いずれも、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった次の文献を提出している。
・特許第5315476号公報
(申立人が提出した甲第1号証、以下、「甲1」という。)
・Chun-Lin Chu et al., ”Oxidation behavior of metallic interconnect coated with La-Sr-Mn film by screen painting and plasma sputtering”, International journal of Hydrogen Energy 34 (2009) p422-434
(申立人が提出した甲第2号証、以下、「甲2」という。)
・国際公開第2010/087298号
(申立人が提出した甲第4号証、以下、「甲4」という。)
・国際公開第2013/172451号
(申立人が提出した甲第5号証、以下、「甲5」という。)

3 上記2以外の特許異議の申立ての理由の概要
3-1 特許法第29条第1項第3号について
本件特許の本件訂正前の下記の請求項に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

・請求項1?3、5について
刊行物:甲1

・請求項1?3、5、6について
刊行物:甲2

・請求項5について
刊行物:甲3

3-2 特許法第29条第2項について
また、本件特許の本件訂正前の下記の請求項に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

・請求項4
刊行物:甲1(周知技術との組み合わせ)

・請求項6について
刊行物:甲1及び甲2

・請求項1?4について
刊行物:甲3

4 本件明細書及び図面の記載
本件明細書及び図面には、次の記載がある。
「【0059】
基材210は、表面210aと複数の凹部210bとを有する。表面210aは、基材210の外側の表面である。基材210は、表面210aにおいてコーティング膜211に接合される。図7において、表面210aは略平面状に形成されているが、微小な凹凸が形成されていてもよいし、全体的或いは部分的に湾曲又は屈曲していてもよい。」
「【0063】
コーティング膜211は、基材210の少なくとも一部を覆い、各埋設部213に接続される。本実施形態において、コーティング膜211は、酸化クロム膜211aと被覆膜211bとを含む。」
「【0068】
埋設部213は、基材210の凹部210b内に配置される。埋設部213は、凹部210bの開口部付近において酸化クロム膜211aに接続される。本実施形態では、各埋設部213と被覆膜211bとの間に酸化クロム膜211aが介挿されているため、各埋設部213は酸化クロム膜211aに接続される。ただし、各埋設部213と被覆膜211bとの間に酸化クロム膜211aが介挿されていない場合、各埋設部213は被覆膜211bに接続される。」
「【0070】
複数の埋設部213の平均実長さとは、各埋設部213の実長さL1の平均値である。実長さL1とは、図7に示すように、厚み方向に垂直な面方向において、埋設部213のうち凹部210bに埋設された部分の中点を連ねた線分の長さである。実長さL1は、埋設部213の延在方向に沿った全長を示す。【0071】
埋設部213の平均実長さは、基材210の断面をFE-SEM(電界放射型走査型電子顕微鏡)で1000倍-20000倍に拡大した画像から無作為に選出した20個の埋設部213それぞれの実長さL1を算術平均することによって求められる。なお、1つの断面において20個の埋設部213を観察できない場合には、複数の断面から20個の埋設部213を選択すればよい。ただし、実長さL1が0.1μm未満の埋設部213は、アンカー効果が軽微でありコーティング膜211の剥離抑制効果への寄与が小さいため、埋設部213の平均実長さを算出する際には除外するものとする。【0072】
複数の埋設部213の平均直線長さとは、各埋設部213の直線長さL2の平均値である。直線長さL2とは、図7に示すように、実長さL1を規定する線分の始点と終点とを結ぶ直線の長さである。直線長さL2は、埋設部213の両端の最短距離を示す。【0073】
複数の埋設部213の平均直線長さは、上述の平均実長さを求めるために選出した20個の埋設部213それぞれの直線長さL2を算術平均することによって求められる。」
「【0125】
【表1】




「【図7】




5 引用文献の記載
(1)甲1の記載
甲1には、次の記載がある。なお、引用文献に記載された発明の認定に関連する箇所に、当審で下線を付した。以下、同じ。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、集電部材及び集電部材を備える燃料電池に関する。」
「【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、基材の第1導電性セラミックス膜から第2導電性セラミックス膜が剥離することを抑制可能な集電部材及びその集電部材を備える燃料電池を提供することができる。」
「【0015】
(集電部材20の構成)
集電部材20は、図1に示すように、凹部20Aを有する。凹部20Aは、導電性接着剤21を介して空気極13の表面に接続されている。発電時において、空気は、凹部20Aを通って空気極13に供給される。
【0016】
ここで、図2は、集電部材20の拡大断面図である。図2に示すように、集電部材20は、基材210と、第2導電性セラミックス膜220と、を備える。
【0017】
基材210は、合金部材211と、第1導電性セラミックス膜212と、を有する。
【0018】
合金部材211は、Fe及びCrを含む板状部材である。合金部材211は、例えばフェライト系ステンレス部材によって構成することができる。合金部材211の厚みは、例えば0.3mm?1mmとすることができる。
【0019】
第1導電性セラミックス膜212は、合金部材211の表面上に形成される。第1導電性セラミックス膜212は、Cr_(2)O_(3)を主成分として含有する。Cr_(2)O_(3)には、合金部材211や第2導電性セラミックス膜220を構成する元素が不純物として含有されていてもよい。第1導電性セラミックス膜212は、RF(radio-frequency)マグネトロンスパッタ装置を用いてCrターゲットをArスパッタリングし、反応ガス(例えば、酸素)との反応により酸化物を成膜することによって形成することができる。第1導電性セラミックス膜212の厚みは、例えば1μm?20μmとすることができる。
【0020】
第2導電性セラミックス膜220は、第1導電性セラミックス膜212の表面上に形成される。第2導電性セラミックス膜220は、Mn及びCoを含むスピネル型の導電性酸化物セラミックス材料によって構成される。具体的に、第2導電性セラミックス膜220は、(Mn,Co)_(3)O_(4)によって構成されていてもよい。(Mn,Co)_(3)O_(4)には、Mn_(1.5)Co_(1.5)O_(4)やMn_(2)Co_(2)O_(4)などが含まれる。また、第2導電性セラミックス膜220は、(Mn_(X)Fe_(1-X))Cr_(2)O_(4)を含んでいてもよい。」
「【図2】




(2)甲1記載の発明
ア 上記(1)の図2より、合金部材211は、表面に複数の凹部を有し、当該凹部には、第1導電性セラミックス膜212が埋設されていることが看取できる。

イ 上記(1)及び上記アから、集電部材20に注目すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「基材210と、第2導電性セラミックス膜220と、を備えた集電部材20であって、
基材210は、合金部材211と、第1導電性セラミックス膜212と、を有し、
合金部材211は、Fe及びCrを含む板状部材であり、
第1導電性セラミックス膜212は、合金部材211の表面上に形成され、
第1導電性セラミックス膜212は、Cr_(2)O_(3)を主成分として含有し、
第2導電性セラミックス膜220は、第1導電性セラミックス膜212の表面上に形成され、
第2導電性セラミックス膜220は、Mn及びCoを含むスピネル型の導電性酸化物セラミックス材料によって構成され、
合金部材211は、表面に複数の凹部を有し、当該凹部には、第1導電性セラミックス膜212が埋設されている、
集電部材20。」

(3)甲2の記載
甲2には、次の記載がある。なお、翻訳は当審による。
ア「2. Experimental
Two types of metallic materials, Crofer22 APU and equivalent ZMG232, are used as the base of coating of LSM. Their compositions as determined by induction-coupled plasma (ICP)-AES and Spark-OES instruments are listed in Table 1. The preparation of LSM paste for coating film by applying screen painting starts with mixing three kinds of high-purity (99.9%) oxide powder, La_(2)O_(3), SrCO_(3) and MnO_(2) at a specific ratio. They are first poured into a container and wetted with alcohol, then stirred and ground for 24 h with a ball-type grinding apparatus to obtain a presumably homogeneous mixture. Subsequently, the mixed powder is dried in an oven to evaporate the alcohol, and taken out to pass a screener of 325 mesh. This particle-size controlled mixture is calcined at 1100℃ for 2.5 h to obtain LSM powder which is then added with 1 wt.% bonding reagent, PVB (polyvinyl butyral), and ground for 5 h to produce the paste. Now, the LSM is ready to be printed on the base alloys using a screen plate with the designed pattern. Before painting coating, the samples were cut to 10mm×10mm×2 mm. Each sample was then polished with sandpaper of grade 1200, washed under ultrasonic waves in three cleaning liquids (alcohol, acetone, and distilled water), and blown dry for later use. Finally, the painted specimen receives sintering treatment, 1100℃ for 2.5 h in 90%Ar+10% vol.% N_(2) atmospheric environment. After completion of the preparation described above, the specimens are ready for simulated oxidation test 800℃ for 200 h. The oxide scale was observed and analyzed in surface and cross-sectional directions with a scanning microscope and other auxiliary apparatus. The coating completed surfaces via screen-painting method before oxidation tests are displayed in Fig. 1.」(第423頁右欄第10行?第425頁右欄第4行)
(翻訳)「2.実験
LSMのコーティングのベースとして、2種類の金属材料、Crofer22 APUおよびZMG232等価物が使用されます。誘導結合プラズマ(ICP)-AESおよびSpark-OES装置によって決定されるそれらの組成を表1に示します。スクリーン塗装を適用した塗膜用LSMペーストの調製は、La_(2)O_(3)、SrCO_(3)、MnO_(2)の3種類の高純度(99.9%)酸化物粉末を特定の比率で混合することから始まります。それらを最初に容器に注ぎ、アルコールで濡らし、次にボール型粉砕装置で24時間撹拌および粉砕して、ほぼ均質な混合物を得ます。続いて、混合粉末をオーブンで乾燥させてアルコールを蒸発させ、取り出して325メッシュのスクリーナーを通過させます。この粒径制御された混合物を1100℃で2.5時間か焼してLSM粉末を得、これに1 wt.%の結合試薬PVB(ポリビニルブチラール)を加え、5時間粉砕してペーストを生成します。これで、LSMはスクリーンプレートを使用して設計されたパターンでベース合金に印刷する準備ができました。コーティングを塗装する前に、サンプルを10mm×10mm×2 mmにカットしました。次に、各サンプルをグレード1200のサンドペーパーで研磨し、超音波下で3つの洗浄液(アルコール、アセトン、蒸留水)で洗浄し、後で使用するためにブロー乾燥しました。最後に、塗装された試験片は、90%Arと 10%vol.%N_(2)の大気環境で2.5時間1100℃で焼結処理されます。上記の準備が完了すると、試験片は800℃で200時間の模擬酸化試験の準備が整います。 酸化物スケールは、走査型顕微鏡および他の補助装置を用いて、表面および断面方向で観察および分析されました。酸化試験前のスクリーン塗装法による塗装面を図1に示します。」

イ「Fig. 12(b) shows the SEM image of LSM/equivalent ZMG232 at a high temperature after 200 h. In the figure, the thickness of the oxide layer increases to 5 μm. The above results indicate that the intermediate layer is solely Cr_(2)O_(3) without any mixture of spinel structure. The upper layer is the LSM coating, thickened by internal dispersion, which is an important determinant O of the thickness of the film. As indicated by the EPMA Element Distribution Diagram, Fe and Cr are the major elements and only a small amount of O exists. The lower part is the alloy equivalent ZMG232. The major elements in the coating are La, Sr, O and Mn. LSM/ equivalent ZMG232 produces the oxide because the elements Cr and Mn disperse outwards and oxidize. 」(第430頁左欄第7行?最後から2行)
(翻訳)「図12(b)は、高温において200時間後のLSM/ZMG232の等価物のSEM画像を示しています。図では、酸化物層の厚さが5 μmに増加しています。上記の結果は、中間層にはスピネル構造の混合はなく、Cr_(2)O_(3)のみであることを示しています。上層はLSMコーティングで、内部分散によって厚くなっており、フィルムの厚さの重要な決定要素です。 EPMA元素分布図に示されているように、FeとCrが主要元素であり、Oは少量しか存在しません。下部はZMG232合金の等価物です。コーティングの主な元素は、La、Sr、O、Mnです。 LSM /ZMG232の等価物は、元素のCrおよびMnが外側に分散して酸化するため、酸化物を生成します。」

ウ「


」(第423頁上部)
(翻訳)「表1 合金の化学組成(wt.%)」

エ「



Fig. 12 - BEI (backscatter electron image) and EPMA (electron probe micro analysis) of LSM-coated alloys in cross-section view showing that compounds consist of Cr, O, Fe, La, Sr and Mn.・・・(略)・・・ (b) equivalent ZMG232. Both are prepared by screen painting, and receive oxidation test at 800℃ for 200 h.

(翻訳)「図12 - LSM被覆合金のBEI(後方散乱電子像)とEPMA(電子プローブマイクロ分析)の断面図。化合物がCr、O、Fe、La、Sr、Mnで構成されていることを示しています。 ・・・(略)・・・(b)ZMG232の等価物。 両方ともスクリーンペインティングによって準備され、800℃で200時間酸化されています。」

(4)甲2記載の発明
ア 上記(3)のウのTable1より、ZMG232合金は、wt.%でNi0.3、Cr23.57、Mn0.56、Si0.16、V0.07、Mo0.01、Nb0.01、C0.03、La0.01、Zr0.01を含み、残部はFeであることが読み取れる。

イ 上記(3)のイより、図12bのLSM/ZMG232の等価物の積層体において、中間層はCr_(2)O_(3)のみであり、上層はLSMコーティングであり、下部はZMG232合金であるところ、上記(3)のエのBEI断面図より、上記ZMG232合金は、表面に複数の凹部を有し、当該複数の凹部には、中間層から続くCr_(2)O_(3)が形成されていることが看取できる。

ウ 上記(3)に記載されたLSM/ZMG232の積層体は、上記(3)のイより、中間層はCr_(2)O_(3)のみであり、上層はLSMコーティングであり、下部はZMG232合金であるから、合金部材であるといえる。

エ 上記(3)及び上記ア?ウからすると、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「中間層はCr_(2)O_(3)のみであり、
上層はLSMコーティングであり、
下部はZMG232合金であり、
ZMG232合金は、wt.%でNi0.3、Cr23.57、Mn0.56、Si0.16、V0.07、Mo0.01、Nb0.01、C0.03、La0.01、Zr0.01を含み、残部はFeであり、
ZMG232合金は、表面に複数の凹部を有し、
前記複数の凹部には、中間層から続くCr_(2)O_(3)が形成されている合金部材。」

オ なお、申立人は、特許異議申立書(第35頁第4?8行、第39頁第8行、第39頁最後から2行?第40頁第1行)において、甲2の図12(b)から、ZMG232合金の表面の複数の凹部内にMnが存在することが看取できるから、各凹部内に埋設された酸化物スケールの埋設部はMnを含有する旨主張している。

カ しかしながら、甲2の図12(b)によれば、ZMG232合金の表面の複数の凹部とO(酸素)の存在箇所の界面とは概ね一致するものの、Mn(マンガン)については、該界面まで存在するとはいえず、Mnの存在領域が該界面よりも上方となっており、ZMG232合金の表面の複数の凹部内にMnが存在するとまではいいきれない。

キ また、仮に、ZMG232合金の表面の複数の凹部内にMnが存在したとしても、該Mnが酸化物として存在するともいいきれない。

ク よって、申立人の上記オの主張には理由がない。

(5)甲3の記載
甲3には、次の記載がある。
「【0011】
本発明によれば、被覆膜の剥離を抑制可能な合金部材、セルスタック及びセルスタック装置を提供することができる。」
「【0014】
[セルスタック装置100]
図1は、セルスタック装置100の斜視図である。セルスタック装置100は、マニホールド200と、セルスタック250とを備える。
【0015】
[マニホールド200]
図2は、マニホールド200の斜視図である。マニホールド200は、「合金部材」の一例である。」
「【0017】
マニホールド200は、天板201と、容器202とを有する。天板201は、平板状に形成される。容器202は、コップ状に形成される。天板201は、容器202の上方開口を塞ぐように配置される。」
「【0052】 [マニホールド200の詳細構成] 次に、マニホールド200の詳細構成について、図面を参照しながら説明する。図6は、図2のP-P断面図である。図7は、図6の領域Aの拡大図である。」
「【0054】
天板201は、基材210と、酸化クロム膜211と、被覆膜212と、アンカー部213とを有する。容器202は、基材220と、酸化クロム膜221と、被覆膜222と、アンカー部223とを有する。」
「【0058】
基材210は、Cr(クロム)を含有する合金材料によって構成される。このような金属材料としては、Fe-Cr系合金鋼(ステンレス鋼など)やNi-Cr系合金鋼などを用いることができる。基材210におけるCrの含有割合は特に制限されないが、4?30質量%とすることができる。
【0059】
基材210は、表面210aと凹部210bとを有する。表面210aは、基材210の外側の表面である。凹部210bは、表面210aに形成される。凹部210bは、穴状であってもよいし、溝状であってもよい。」
「【0063】
凹部210bの断面形状は特に制限されるものではなく、例えば、楔形、半円形、矩形、及びその他の複雑形状であってもよい。図7では、断面形状が楔形の凹部210bが図示されており、凹部210bの最深部が鋭角的であるが、これに限られるものではない。凹部210bの最深部は、鈍角状であってもよいし、丸みを帯びていてもよい。また、凹部210bは、基材210の内部に向かって真っ直ぐに延びていなくてもよく、例えば、厚み方向に対して斜めに形成されていてもよいし、部分的に曲がっていてもよい。」
「【0065】
酸化クロム膜211は、アンカー部213に接続される。酸化クロム膜211は、基材210の表面210aとアンカー部213の表面213aとを覆うように配置される。酸化クロム膜211は、基材210の表面210aの少なくとも一部を覆っていればよいが、表面210aの略全面を覆っていてもよい。酸化クロム膜211は、アンカー部213の表面213aの少なくとも一部を覆っていればよいが、表面213aの略全面を覆っていることが好ましい。酸化クロム膜211は、基材210の凹部210bの開口を塞ぐように形成される。酸化クロム膜211の厚みは、0.5?10μmとすることができる。
【0066】
被覆膜212は、酸化クロム膜211の少なくとも一部を覆う。詳細には、被覆膜212は、酸化クロム膜211のうちセルスタック装置100の運転中に酸化剤ガスと接触する領域の少なくとも一部を覆う。被覆膜212は、酸化クロム膜211のうち酸化剤ガスと接触する領域の全面を覆っていることが好ましい。被覆膜212の厚みは特に制限されないが、例えば3?200μmとすることができる。」
「【0068】
被覆膜212を構成する材料としては、セラミックス材料を用いることができる。セラミックス材料の具体的な種類は、適用箇所に応じて適宜好適選択することができる。本実施形態では、被覆膜212が絶縁性を求められるマニホールド200に適用されているため、セラミックス材料として、例えばアルミナ、シリカ、ジルコニア、及び結晶化ガラスなどを用いることができる。また、被覆膜212を導電性が求められる集電部材などに適用する場合には、セラミックス材料として、LaおよびSrを含有するペロブスカイト形複合酸化物、及びMn,Co,Ni,Fe,Cu等の遷移金属から構成されるスピネル型複合酸化物などを用いることができる。ただし、被覆膜212は、Crの揮発を抑制できればよく、被覆膜212の構成材料は上記セラミックス材料に限られるものではない。
【0069】
アンカー部213は、基材210の凹部210b内に配置される。アンカー部213は、凹部210bの開口部付近において被覆膜212に接続される。アンカー部213が凹部210bに係止されることによってアンカー効果が生まれて、被覆膜212の基材210に対する密着力を向上させることができる。その結果、被覆膜212が基材210から剥離することを抑制できる。」
「【0071】
アンカー部213は、Cr(クロム)よりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物(以下、「低平衡酸素圧酸化物」という。)を含有する。すなわち、アンカー部213は、Crよりも酸素との親和力が大きく酸化しやすい元素の酸化物を含有する。そのため、セルスタック装置100の運転中、被覆膜212を透過してくる酸素をアンカー部213に優先的に取り込むことによって、アンカー部213を取り囲む基材210が酸化することを抑制できる。これにより、アンカー部213の深さが幅よりも大きい形態を維持することができるため、アンカー部213によるアンカー効果を長期間に亘って得ることができる。その結果、被覆膜212が基材210から剥離することを長期間に亘って抑制することができる。
【0072】
Crよりも平衡酸素圧の低い元素としては、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、Ca(カルシウム)、Si(シリコン)、Mn(マンガン)などが挙げられるが、これに限られるものではない。低平衡酸素圧酸化物としては、Al_(2)O_(3)、TiO_(2)、CaO、SiO_(2)、MnO、MnCr_(2)O_(4)などが挙げられるが、これに限られるものではない。
【0073】
アンカー部213は、低平衡酸素圧酸化物を主成分として含有していることが好ましい。アンカー部213における低平衡酸素圧酸化物の含有割合は、60mol%以上が好ましく、70mol%以上がより好ましく、80mol%以上が特に好ましい。これにより、アンカー部以外の部分と比較して、酸素との親和力の差をより大きくすることでアンカー部213を取り囲む基材210の酸化進行をさらに抑制できるため、アンカー形状を長期に渡って維持することができる。」
「【0088】
上記実施形態では、凹部210b内にアンカー部213が配置されることとしたが、基材210が複数の凹部210bを有する場合、アンカー部213が配置されていない凹部210bが存在していてもよい。」
「【図2】


「【図6】


【図7】




(6)甲3記載の発明及び甲3記載の事項
ア 上記(5)によれば、図7のマニホールド200に注目すると、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。
「セルスタック装置100のマニホールド200である合金部材であって、
マニホールド200は、天板201と、容器202とを有し、
天板201は、基材210と、酸化クロム膜211と、被覆膜212と、アンカー部213とを有し、
基材210は、Cr(クロム)を含有する合金材料によって構成され、
基材210は、表面210aと複数の凹部210bとを有し、
凹部210bは、部分的に曲がっていてもよく、
アンカー部213は、基材210の凹部210b内に配置され、
酸化クロム膜211は、アンカー部213に接続されるとともに、基材210の表面210aとアンカー部213の表面213aとを覆うように配置され、
被覆膜212は、酸化クロム膜211の少なくとも一部を覆い、
被覆膜212は、シリカであり、
アンカー部213は、Cr(クロム)よりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物を含有し、
低平衡酸素圧酸化物は、Al_(2)O_(3)であり、
アンカー部213における低平衡酸素圧酸化物の含有割合は、80mol%以上である、
合金部材。」

イ また、上記(5)によれば、図7のマニホールド200に注目すると、甲3には、次の事項が記載されている。
「セルスタック装置100のマニホールド200である合金部材において、
マニホールド200は、天板201と、容器202とを有し、
天板201は、基材210と、酸化クロム膜211と、被覆膜212と、アンカー部213とを有し、
基材210は、Cr(クロム)を含有する合金材料によって構成され、
基材210は、表面210aと複数の凹部210bとを有し、
凹部210bは、部分的に曲がっていてもよく、
アンカー部213は、基材210の凹部210b内に配置され、
酸化クロム膜211は、アンカー部213に接続されるとともに、基材210の表面210aとアンカー部213の表面213aとを覆うように配置され、
被覆膜212は、酸化クロム膜211の少なくとも一部を覆い、
被覆膜212は、シリカであり、
アンカー部213は、Cr(クロム)よりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物を含有し、
低平衡酸素圧酸化物は、Al_(2)O_(3)であり、
アンカー部213における低平衡酸素圧酸化物の含有割合は、80mol%以上である、
事項。」

(7)甲4の記載
甲4には、次の記載がある。
「[0012]さらに、Crを含有する合金を、燃料電池セルに燃料ガス等の反応ガスを供給するためのマニホールド等の部材として用いる場合には、燃料電池セルを長時間発電させることにより、Crを含有する合金からのCr拡散により合金の表面に酸化クロムの被膜が形成され、酸化クロムの被膜中のCrが揮散するいわゆるCr揮散が生じ、それにより、燃料電池セルにCr被毒が生じ、燃料電池セルの発電性能が低下するおそれがある。」
「[0029]本発明の燃料電池セルスタック装置は、複数個の燃料電池セルと、複数個の該燃料電池セルをそれぞれ電気的に直列に接続するための上記の集電部材と、前記燃料電池セルの下端を固定するとともに、前記燃料電池セルに反応ガスを供給するための上記のマニホールドとを具備することから、Cr拡散を抑制することができ、燃料電池セルがCr被毒することを抑制できる。それにより、長期信頼性に優れた燃料電池セルスタック装置とすることができる。」
「[図3]




(8)甲5の記載
甲5には、次の記載がある。
「[0017]セルスタック2を構成する各燃料電池セル3の下端部は、ガスタンク6に、ガラス等のシール材(図示せず)により固定されており、これにより、ガスタンク6の燃料ガスを、燃料電池セル3の内部に設けられたガス流路12を介して燃料電池セル3の燃料極層8に供給することができる。」
「[図1]




6 当審の判断
6-1 特許法第36条第6項第2号について(上記2の2-1)
(1)「実長さ」、「直線長さ」及び「埋設部」について
ア 請求項5、6には、「基材の厚み方向の断面における前記複数の埋設部について、前記厚み方向に垂直な面方向における各埋設部のうち各凹部に埋設された部分の中点を連ねた線分の実長さの平均値は、前記線分の始点と終点とを結ぶ直線長さの平均値より長く、前記実長さの平均値は、前記直線長さの平均値の1.10倍以上である」と記載されている。

イ そして、上記アの「実長さ」について、本件明細書には、「実長さL1とは、図7に示すように、厚み方向に垂直な面方向において、埋設部213のうち凹部210bに埋設された部分の中点を連ねた線分の長さである」(【0070】)と、また、上記アの「直線長さ」について、「直線長さL2とは、図7に示すように、実長さL1を規定する線分の始点と終点とを結ぶ直線の長さである」(【0072】)と、それぞれ記載されている。

ウ また、上記イの記載の「埋設部213」や「凹部210b」について、本件明細書には、「基材210は、表面210aと複数の凹部210bとを有する」(【0059】)、「埋設部213は、基材210の凹部210b内に配置される」(【0068】)と記載されているものの、「埋設部213」や「凹部210b」の定義について特段の記載はない。

エ ここで、上記イ、ウの記載から、上記アの「各埋設部のうち各凹部に埋設された部分の中点を連ねた線分の実長さ」がどのようなものかについて検討するにあたり、凹部の一例として、いずれも甲1の図2に記載された合金部材211の表面の凹部に基いて作成した、下記参考図1?3(以下、単に「参考図1」?「参考図3」という。)を用いる。
なお、ここでは、参考図1?3において、紙面内の上下方向を請求項1、5、6の「基材の厚み方向」とし、また、各凹部の全ての領域に埋設部が配置されているとする。
また、P1、P2は、凹部上方の最狭部の両端の点であり、P3は、P1とともに基材の厚み方向と垂直である面内に存在する点であり、P4は、「凹部に埋設された部分の中点」の紙面内最下端である。
さらに、Mは、直線P1P2の中点であり、Nは、直線P1P3の中点である。

オ 上記イより、「実長さL1とは、図7に示すように、厚み方向に垂直な面方向において、埋設部213のうち凹部210bに埋設された部分の中点を連ねた線分の長さである」(【0070】)とされているものの、本件明細書には、この「埋設部213」の定義について特段の記載はない。

カ そして、「埋設部213」について、その文言から、参考図1のP1、P2、P3、P4、P1で囲まれる領域と、参考図3のP1,P3,P4、P1で囲まれる領域とが考えられるところ、上記ウより、「基材210は、表面210aと複数の凹部210bとを有する」とされており、下記参考図1のP2からP3に至る箇所は、「基材210」の「表面210a」とは言い難く、「凹部210b」の一部であると考えられるから、この記載からすると、「埋設部213」は、参考図1においてP1、P2、P3、P4、P1で囲まれる領域であると考えられる。

キ また、上記イより、「実長さL1とは、図7に示すように、厚み方向に垂直な面方向において、埋設部213のうち凹部210bに埋設された部分の中点を連ねた線分の長さである」から、実長さL1には、参考図1において、P4からNに至る線分が含まれることは理解できる。

ク そして、実長さL1が、Nから凹部の開口(直線P1P2)に至る経路については、参考図1の直線P1P2よりも上の部分は「埋設部213」とは言い難いから、上記イの「実長さL1とは、図7に示すように、厚み方向に垂直な面方向において、埋設部213のうち凹部210bに埋設された部分の中点を連ねた線分の長さである」との記載からすると、「埋設部213のうち凹部210bに埋設された部分の中点を連ねた線分」は、参考図1のP4からNを経由してP2に至る線分となる。

ケ しかしながら、「埋設部」の「実長さ」との文言からすると、参考図1のL1(すなわち、P4からNを経由してP2に至る線分)について、P4からNに至る箇所は、「埋設部」の中央を通る線分であるから、「埋設部」の「実長さ」との文言が表現されていると考えられるものの、NからP2に至る箇所は、P2が「埋設部」の右端であるから、「埋設部」の「実長さ」との文言が表現されているとは言い難い。

コ また、「埋設部」の「実長さ」との文言からすると、「実長さL1」は、参考図2で示した、P4からNを経由してMに至る線分(ただし、Mは直線P1P2の中点。)であるとも考えられる。

サ さらに、上記ク、ケでの検討事項からすると、「実長さL1」は、参考図3で示した、P4からNに至る線分であることも考えられる。

シ そこで、「埋設部」及び「実長さL1」について、次のスの取消理由を通知した。

ス 「埋設部」とは、次の(あ)?(う)のどの意味であるかが不明であるし、「実長さL1」とは、次の(ア)?(エ)のどの意味であるのか不明である。
(あ)参考図1において、直線P1P2よりも紙面内の下の部分
(い)参考図3において、直線P1P3よりも紙面内の下の部分
(う)上記(あ)、(い)以外の部分

(ア)参考図1において、P4からNを経由してP2に至る線分の長さ
(イ)参考図2において、P4からNを経由してMに至る線分の長さ
(ウ)参考図3において、L1で示された、P4からNに至る線分の長さ
(エ)上記(ア)?(ウ)以外の線分の長さ

セ これに対し、特許権者は令和2年5月28日付けの意見書において、「埋設部」とは、上記スの(あ)の意味であり、「実長さL1」とは、上記スの(ア)の意味である旨釈明したが、かかる釈明は、いずれも本件明細書の記載及び技術常識と整合するものである。

ソ また、本件明細書には、「直線長さL2とは、図7に示すように、実長さL1を規定する線分の始点と終点とを結ぶ直線の長さである」(【0072】)と記載されているから、上記セのとおり、「実長さL1」が上記スの(ア)の意味であると、「直線長さL2」とは、その始点P4と終点P2とを結ぶ直線(参考図1のL2)の長さとなる。

タ したがって、本件発明5、6は、「実長さ」、「直線長さ」及び「埋設部」について明確でないとはいえない。

(参考図1)



(参考図2)



(参考図3)



(2)「実長さ」のピッチについて
ア 請求項5、6には、「基材の厚み方向の断面における前記複数の埋設部について、前記厚み方向に垂直な面方向における各埋設部のうち各凹部に埋設された部分の中点を連ねた線分の実長さの平均値は、前記線分の始点と終点とを結ぶ直線長さの平均値より長く、前記実長さの平均値は、前記直線長さの平均値の1.10倍以上である」と記載されている。

イ そして、上記アの「実長さ」について、本件明細書には、「実長さL1とは、図7に示すように、厚み方向に垂直な面方向において、埋設部213のうち凹部210bに埋設された部分の中点を連ねた線分の長さである」(【0070】)と記載されている。

ウ しかしながら、本件明細書には、上記イの「埋設部213のうち凹部210bに埋設された部分の中点を連ねた線分」の「中点」のピッチについて何ら記載がない。

エ そして、上記イの「埋設部213のうち凹部210bに埋設された部分の中点を連ねた線分」の「中点」のピッチが異なれば、請求項5、6の「厚み方向に垂直な面方向における各埋設部のうち各凹部に埋設された部分の中点を連ねた線分の実長さ」も異なることとなる。

オ そうすると、同一の「合金部材」であっても、「中点」のピッチをどのように設定するかにより、本件発明5、6の範囲内となったり範囲外となったりすることがあり得る。

カ そこで、上記イの「埋設部213のうち凹部210bに埋設された部分の中点を連ねた線分」の「中点」のピッチが不明である旨を取消理由で通知したところ、特許権者は令和2年5月28日付けの意見書(第3頁第13?21行)において、次の釈明をした。
「本件明細書の段落【0125】に記載の表1において、実施例10の実長さが0.5μmとなっていることから、「中点」のピッチが0.1μmに設定されていることは明らかである。
また、本件明細書の段落【0071】において、「ただし、実長さL1が0.1μm未満の埋設部213は、アンカー効果が軽微でありコーティング膜211の剥離抑制効果への寄与が小さいため、埋設部213の平均実長さを算出する際には除外するものとする」と記載されているように、0.1μm未満の端数が違ったとしても剥離抑制効果への実質的な影響はないため、表1に記載の実長さは0.1μm未満の端数を切り捨てた値である。」

キ ここで、上記カの主張を踏まえ、上記イの「埋設部213のうち凹部210bに埋設された部分の中点を連ねた線分」の「中点」のピッチについて、検討する。

ク 一般に、曲線の長さを正確に測ることは困難であることから、ピッチを定めて複数の直線の和で近似計算を行うことは広く行われていることであり、そのピッチは、測定対象の曲線の長さに近い値であると誤差が大きくなり、また、曲線の長さよりも過度に小さい値であると算出の負担が増えることは技術常識である。

ケ そして、本件明細書に記載された実施例1?23の合金部材は、埋設部の平均実長さが0.5?580μm、平均直線長さが0.4?439μmである(【0125】の表1参照。)ところ、埋設部の平均実長さが0.5μm(実施例10)の曲線の長さを算出するには、最大でも0.1μmのピッチでないとある程度正確な値とはならないと考えられるし、580μm(実施例2)の曲線の長さを算出するには、0.1μmよりも小さいピッチであると、5800以上の直線の長さの和を求めなければならないことから、算出の負担が過度に大きくなる。

コ そうすると、上記カの釈明のとおり、「実施例10の実長さが0.5μmとなっていることから、「中点」のピッチが0.1μmに設定されていることは明らかである」か否かはともかくとして、上記イの「埋設部213のうち凹部210bに埋設された部分の中点を連ねた線分」の「中点」のピッチが0.1μmであることに、ある程度の合理性がある。

サ したがって、上記イの「埋設部213のうち凹部210bに埋設された部分の中点を連ねた線分」の「中点」のピッチが0.1μmとなるから、上記オのように、同一の「合金部材」であっても、本件発明5、6の範囲内となったり範囲外となったりすることはない。

シ よって、本件発明5、6は、明確でないとはいえない。

ス なお、申立人は、令和2年6月25日差出の意見書(第3頁第17行?第5頁第8行)において、令和2年5月28日付けの特許権者の意見書での主張に対して、次の主張をし、中点のピッチが0.1μmに設定されているとはいえない旨主張している。
(ア)実施例10の実長さが0.5μmであるからといって、中点のピッチが0.1μmに設定されていることが明らかであるとはいえない。
(イ)本件明細書の表1に記載された実長さは0.1ミクロン未満の端数を切り捨てた値であるとしても、それを根拠に、中点のピッチが0.1μmに設定されているとはいえない。

セ 確かに、実施例10の実長さが0.5μmであるからといって、中点のピッチが0.1μmに設定されていることが明らかであるとはいえないし、本件明細書の表1に記載された実長さは0.1ミクロン未満の端数を切り捨てた値であるとしても、それを根拠に、中点のピッチが0.1μmに設定されているとはいえないかもしれない。

ソ しかしながら、上記クで述べたとおり、曲線の長さを測る際にピッチを定めることは技術常識であるし、実施例1?23の合金部材の実長さ及び直線長さからすると、上記ケ、コで検討したように、「埋設部213のうち凹部210bに埋設された部分の中点を連ねた線分」の「中点」のピッチが0.1μmであることに、ある程度の合理性があるから、申立人の上記スの主張には理由がない。

(3)「接合長さ」について
ア 本件訂正前の請求項2には、「複数の埋設部と前記コーティング膜との接合長さは、0.1μm以上である」と記載されていた。

イ そして、本件訂正により、本件訂正前の請求項2は削除されたから、本取消理由は解消された。

(4)「コーティング膜と異なる材料」について
ア 請求項5には、「複数の埋設部それぞれは、前記コーティング膜と異なる材料によって構成される」(以下、「請求項5の事項」という。)と記載されている。

イ ここで、上記アの「コーティング膜」について、本件明細書には、「本実施形態において、コーティング膜211は、酸化クロム膜211aと被覆膜211bとを含む」(【0063】)と、「コーティング膜」が複数の膜からなっていてもよいことが記載されており、また、本件明細書には、「被覆膜211b」の具体例として、「アルミナ、シリカ、ジルコニア、結晶化ガラスなど」、「LaおよびSrを含有するペロブスカイト形複合酸化物やMn,Co,Ni,Fe,Cu等の遷移金属から構成されるスピネル型複合酸化物」(【0067】)と、「酸化クロム膜」以外の材料が記載されているから、これらの記載からすると、「コーティング膜」が複数種の膜からなることもあり得るといえる。

ウ そこで、「コーティング膜」が複数種の膜からなっている場合、請求項5の事項を満たすには、どのようなケースがあり得るかを以下の(参考表)を用いて検討する。
なお、以下の(参考表)は、コーティング膜がA成分及びB成分からなる場合について、埋設部それぞれはどのような成分の材料によって構成されているかを表したものであり、「○」が埋設部それぞれに含まれる成分を表し、「×」が埋設部それぞれに含まれない成分を表している。
以下の(参考表)において、例えば、ケース1は、埋設部それぞれに、A成分、B成分、A成分及びB成分に以外の成分が全て含まれているケースを示し、ケース4は、埋設部それぞれに、A成分のみが含まれているケースを示している。

エ 請求項5の事項の文言からすると、ケース2は、複数の埋設部それぞれにおいて構成される材料と、コーティング膜の複数種の材料とが完全に一致するから、請求項5の事項には該当しないと考えられる。

オ また、請求項5の事項の文言からすると、ケース7は、複数の埋設部それぞれにおいて構成される材料と、コーティング膜の複数種の材料とが完全に相違するから、請求項5の事項に該当すると考えられる。

カ しかしながら、ケース1、3?6は、複数の埋設部それぞれにおいて構成される材料と、コーティング膜の複数種の材料とが、一部一致したり、コーティング膜の複数種の材料とは異なる材料が含まれているものである。

キ そこで、請求項5の事項を満たすものとはどのようなものであるかを取消理由で通知したところ、特許権者は令和2年5月28日付けの意見書において、次の釈明をした。
「取消理由通知書第9頁の参考表に記載のケース1?7のうちケース7のみが請求項5の事項を満たすことは明らかである。」

ク そして、上記キの釈明は、本件明細書の記載と整合するものであるから、本件発明5は、明確でないとはいえない。




6-2 特許法第36条第4項第1号について(上記2の2-2)
ア 上記6-1で検討したとおり、本件発明5、6は明確であって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確、かつ、十分に記載したものであるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。

6-3 特許法第29条第1項第3号及び同条第2項について(上記2の2-3、並びに、上記3の3-1及び3-2)
(1)甲1を主引例とした取消理由
(1-1)本件発明5について
まず、本件発明5と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「Fe及びCrを含む板状部材であ」る「合金部材」は、本件発明5の「クロムを含有する合金材料によって構成される基材」に相当する。

イ 本件発明5の「コーティング膜」は、本件明細書によれば、「酸化クロム膜211aと被覆膜211bとを含む」(【0063】)ものである。
また、甲1発明の「第1導電性セラミックス膜212」は、「合金部材211の表面上に形成され、」かつ、「凹部」に「埋設されている」ものである。
そうすると、甲1発明の「第1導電性セラミックス膜212」のうち「凹部」に「埋設されている」部分は、本件発明5の「複数の凹部内にそれぞれ配置され、セラミックス材料によってそれぞれ構成される複数の埋設部」に相当する。
さらに、甲1発明の「第1導電性セラミックス膜212」のうち「合金部材211の表面上に形成され」た部分、及び、「第2導電性セラミックス膜220」は、「基材の表面の少なくとも一部を覆い、前記複数の埋設部に接続されるコーティング膜」に相当する。

ウ 甲1発明の「合金部材211は、表面に複数の凹部を有」する事項は、本件発明5の「表面に複数の凹部を有」する「基材」「を備え」る事項に相当する。

エ 甲1発明の「集電部材」は、「基材210と、第2導電性セラミックス膜220と、を備えた」ものであって、「基材210は、合金部材211と、第1導電性セラミックス膜212と、を有し、合金部材211は、Fe及びCrを含む板状部材であ」るから、甲1発明の「集電部材」は、本件発明5の「合金部材」に相当する。

オ 上記ア?エより、本件発明5と甲1発明とは、
「表面に複数の凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、
前記複数の凹部内にそれぞれ配置され、セラミックス材料によってそれぞれ構成される複数の埋設部と、
前記基材の表面の少なくとも一部を覆い、前記複数の埋設部に接続されるコーティング膜と、
を備えた合金部材。」で一致し、次のA、Bの点で相違する。

(相違点)
A 本件発明5は、「基材の厚み方向の断面における前記複数の埋設部について、前記厚み方向に垂直な面方向における各埋設部のうち各凹部に埋設された部分の中点を連ねた線分の実長さの平均値は、前記線分の始点と終点とを結ぶ直線長さの平均値より長く、前記実長さの平均値は、前記直線長さの平均値の1.10倍以上であ」るのに対し、甲1発明は、前記二つの平均値の関係が不明である点。
B 「複数の埋設部それぞれ」が、本件発明5では、「前記コーティング膜と異なる材料によって構成される」のに対し、甲1発明では、「コーティング膜」の一部を構成する「第1導電性セラミックス膜212」の「合金部材211の表面上に形成され」た部分と同一の材料によって構成されており、「Cr_(2)O_(3)を主成分として含有」するものである点。

カ なお、上記Aの相違点について、申立人は、特許異議申立書(第22頁第3行?第26頁第7行)において、甲1に記載された発明は、実長さの平均値が、直線長さの平均値の1.19倍であって、上記Aの相違点は相違点ではなく一致点である旨述べているが、本件発明5の「実長さの平均値」を算出するにあたり、上記6-2の(2)で検討したように、「埋設部213のうち凹部210bに埋設された部分の中点を連ねた線分」の「中点」のピッチは0.1μmであって、上記値はかかるピッチで計算したものではないから、採用できない。

キ 以下、上記相違点について検討するに、上記Bは、構成材料の異同に係るものであるから、実質的な相違点である。そこで、事案に鑑み、まず上記Bの相違点について検討する。

ク 上記5の(6)のイで示したとおり、甲3には、次の事項が記載されている。
「セルスタック装置100のマニホールド200である合金部材において、
マニホールド200は、天板201と、容器202とを有し、
天板201は、基材210と、酸化クロム膜211と、被覆膜212と、アンカー部213とを有し、
基材210は、Cr(クロム)を含有する合金材料によって構成され、
基材210は、表面210aと複数の凹部210bとを有し、
凹部210bは、部分的に曲がっていてもよく、
アンカー部213は、基材210の凹部210b内に配置され、
酸化クロム膜211は、アンカー部213に接続されるとともに、基材210の表面210aとアンカー部213の表面213aとを覆うように配置され、
被覆膜212は、酸化クロム膜211の少なくとも一部を覆い、
被覆膜212は、シリカであり、
アンカー部213は、Cr(クロム)よりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物を含有し、
低平衡酸素圧酸化物は、Al_(2)O_(3)であり、
アンカー部213における低平衡酸素圧酸化物の含有割合は、80mol%以上である、
事項。」

ケ そして、上記6-1の(4)での検討に照らせば、甲3の上記クの事項の「アンカー部213は、基材210の凹部210b内に配置され、酸化クロム膜211は、アンカー部213に接続されるとともに、基材210の表面210aとアンカー部213の表面213aとを覆うように配置され、被覆膜212は、酸化クロム膜211の少なくとも一部を覆い、」「アンカー部213は、Cr(クロム)よりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物を含有し、低平衡酸素圧酸化物は、Al_(2)O_(3)であ」る事項は、本件発明5の「複数の埋設部それぞれは、前記コーティング膜と異なる材料によって構成される」事項に相当する。

コ しかしながら、甲3の上記クの事項は、「被覆膜212が基材210から剥離することを長期間に亘って抑制することができる」(甲3の【0071】)ものであるのに対し、甲1発明は、「基材の第1導電性セラミック膜から第2導電性セラミック膜が剥離することを抑制可能な」(甲1の【0007】)ものであって、合金部材211(甲3では、「基材210」に相当。)と第1導電性セラミック膜212(甲3では、「酸化クロム膜211」に相当。)との剥離を考慮したものではないから、甲1発明において、甲3の上記ケの事項を適用する動機がない。

サ したがって、本件発明5は、甲1発明及び甲3記載の事項から、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

シ また、申立人が提出した他の文献を考慮しても、上記サの結論は変わらない。

ス よって、上記Aの相違点について更に検討するまでもなく、本件発明5は、甲1発明ではないし、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(1-2)本件発明6について
まず、本件発明6と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「Fe及びCrを含む板状部材であ」る「合金部材」は、本件発明6の「クロムを含有する合金材料によって構成される基材」に相当する。

イ 本件発明6の「コーティング膜」は、本件明細書によれば、「酸化クロム膜211aと被覆膜211bとを含む」(【0063】)ものである。
また、甲1発明の「第1導電性セラミックス膜212」は、「合金部材211の表面上に形成され、」かつ、「凹部」に「埋設されている」ものである。
そうすると、甲1発明の「第1導電性セラミックス膜212」のうち「凹部」に「埋設されている」部分と、本件発明6の「複数の凹部内にそれぞれ配置され、クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物によってそれぞれ構成される複数の埋設部」とは、「複数の凹部内にそれぞれ配置され、セラミック材料によってそれぞれ構成される複数の埋設部」で一致する。
さらに、甲1発明の「第1導電性セラミックス膜212」のうち「合金部材211の表面上に形成され」た部分、及び、「第2導電性セラミックス膜220」は、本件発明6の「基材の表面の少なくとも一部を覆い、前記複数の埋設部に接続されるコーティング膜」に相当する。

ウ 甲1発明の「合金部材211は、表面に複数の凹部を有」する事項は、本件発明6の「表面に複数の凹部を有」する「基材」「を備え」る事項に相当する。

エ 甲1発明の「集電部材」は、「基材210と、第2導電性セラミックス膜220と、を備えた」ものであって、「基材210は、合金部材211と、第1導電性セラミックス膜212と、を有し、合金部材211は、Fe及びCrを含む板状部材であ」るから、本件発明6の「合金部材」に相当する。

オ 上記ア?エより、本件発明6と甲1発明とは、
「表面に複数の凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、
前記複数の凹部内にそれぞれ配置され、セラミック材料によってそれぞれ構成される複数の埋設部と、
前記基材の表面の少なくとも一部を覆い、前記複数の埋設部に接続されるコーティング膜と、
を備えた合金部材。」で一致し、次のC、Dの点で相違する。

(相違点)
C 本件発明6は、「基材の厚み方向の断面における前記複数の埋設部について、前記厚み方向に垂直な面方向における各埋設部のうち各凹部に埋設された部分の中点を連ねた線分の実長さの平均値は、前記線分の始点と終点とを結ぶ直線長さの平均値より長く、前記実長さの平均値は、前記直線長さの平均値の1.10倍以上であ」るのに対し、甲1発明は、両者の平均値の関係が不明である点。
D 埋設部のセラミック材料について、本件発明6は、「クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物」であって、「複数の埋設部それぞれにおいて、クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の平均含有率は、カチオン比で0.05以上である」のに対し、甲1発明は、「第1導電性セラミックス膜212は、合金部材211の表面上に形成され、第1導電性セラミックス膜212は、Cr_(2)O_(3)を主成分として含有し、」「凹部には、第1導電性セラミックス膜212が埋設されている」点。

カ 以下、上記相違点について検討するに、上記Dは、構成材料の異同に係るものであるから、実質的な相違点である。そこで、事案に鑑み、まず上記Dの相違点について検討する。

キ 上記5の(6)のイで示したとおり、甲3には、次の事項が記載されている。
「セルスタック装置100のマニホールド200である合金部材において、
マニホールド200は、天板201と、容器202とを有し、
天板201は、基材210と、酸化クロム膜211と、被覆膜212と、アンカー部213とを有し、
基材210は、Cr(クロム)を含有する合金材料によって構成され、
基材210は、表面210aと複数の凹部210bとを有し、
凹部210bは、部分的に曲がっていてもよく、
アンカー部213は、基材210の凹部210b内に配置され、
酸化クロム膜211は、アンカー部213に接続されるとともに、基材210の表面210aとアンカー部213の表面213aとを覆うように配置され、
被覆膜212は、酸化クロム膜211の少なくとも一部を覆い、
被覆膜212は、シリカであり、
アンカー部213は、Cr(クロム)よりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物を含有し、
低平衡酸素圧酸化物は、Al_(2)O_(3)であり、
アンカー部213における低平衡酸素圧酸化物の含有割合は、80mol%以上である、
事項。」

ク そして、甲3の上記キの事項において、「アンカー部213における低平衡酸素圧酸化物の含有割合は、80mol%以上である」事項は、カチオン比に換算すると、0.8となるから、甲3の上記ケの事項の「アンカー部213は、Cr(クロム)よりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物を含有し、低平衡酸素圧酸化物は、Al_(2)O_(3)であり、アンカー部213における低平衡酸素圧酸化物の含有割合は、80mol%以上である」事項は、本件発明6の「複数の埋設部」は、「クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物によってそれぞれ構成され」、「複数の埋設部それぞれにおいて、クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の平均含有率は、カチオン比で0.05以上である」事項に相当する。

ケ しかしながら、甲3の上記キの事項は、「被覆膜212が基材210から剥離することを長期間に亘って抑制することができる」(甲3の【0071】)ものであるのに対し、甲1発明は、「基材の第1導電性セラミック膜から第2導電性セラミック膜が剥離することを抑制可能な」(甲1の【0007】)ものであって、合金部材211(甲3では、「基材210」に相当。)と第1導電性セラミック膜212(甲3では、「酸化クロム膜211」に相当。)との剥離を考慮したものではないから、甲6発明において、甲3の上記キの事項を適用する動機がない。

コ したがって、本件発明6は、甲1発明及び甲3記載の事項から、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

サ また、上記5の(4)のオ?クで検討したとおり、甲2には、ZMG232合金の表面の複数の凹部内にMnが存在し、各凹部内に埋設された酸化物スケールの埋設部がMnを含有するとまではいえない。

シ さらに、申立人が提出した他の文献を考慮しても、上記コの結論は変わらない。

ス よって、上記Cの相違点について更に検討するまでもなく、本件発明6は、甲1発明ではないし、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)甲2を主引例とした取消理由
(2-1)本件発明5について
まず、本件発明5と甲2発明とを対比する。
ア 甲2発明の「ZMG232合金は、wt.%でNi0.3、Cr23.57、Mn0.56、Si0.16、V0.07、Mo0.01、Nb0.01、C0.03、La0.01、Zr0.01を含み、残部はFeであり、ZMG232合金は、表面に複数の凹部を有」する事項は、本件発明5の「表面に複数の凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材」「を備え」る事項に相当する。

イ 甲2発明の「前記複数の凹部には、」「Cr_(2)O_(3)が形成されている」事項は、本件発明5の「複数の凹部内にそれぞれ配置され、セラミックス材料によってそれぞれ構成される複数の埋設部」「を備え」る事項に相当する。

ウ 本件発明5の「コーティング膜」は、本件明細書によれば、「酸化クロム膜211aと被覆膜211bとを含む」(【0063】)ものであるから、甲2発明の「Cr_(2)O_(3)のみであ」る「中間層」及び「LSMコーティングであ」る「上層」は、本件発明5の「コーティング膜」に相当する。

エ 甲2発明の「Cr_(2)O_(3)」は、「中間層から」「凹部」に「続く」ものであるから、甲2発明の「中間層はCr_(2)O_(3)のみであり、上層はLSMコーティングであ」る事項は、本件発明5の「基材の表面の少なくとも一部を覆い、前記複数の埋設部に接続されるコーティング膜」「を備え」る事項に相当する。

オ 上記ア?エより、本件発明5と甲2発明とは、
「表面に複数の凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、
前記複数の凹部内にそれぞれ配置され、セラミックス材料によってそれぞれ構成される複数の埋設部と、
前記基材の表面の少なくとも一部を覆い、前記複数の埋設部に接続されるコーティング膜と、
を備えた合金部材。」で一致し、次のE、Fの点で相違する。

(相違点)
E 本件発明5は、「基材の厚み方向の断面における前記複数の埋設部について、前記厚み方向に垂直な面方向における各埋設部のうち各凹部に埋設された部分の中点を連ねた線分の実長さの平均値は、前記線分の始点と終点とを結ぶ直線長さの平均値より長く、前記実長さの平均値は、前記直線長さの平均値の1.10倍以上であ」るのに対し、甲2発明は、前記二つの平均値の関係が不明である点。
F 「複数の埋設部それぞれ」が、本件発明5では、「前記コーティング膜と異なる材料によって構成される」のに対し、甲2発明では、「コーティング膜」の一部に相当する、「Cr_(2)O_(3)のみであ」る「中間層」と同一の材料によって構成されるものである点。

カ 以下、上記相違点について検討するに、上記Fは、構成材料の異同に係るものであるから、実質的な相違点である。そこで、事案に鑑み、まず上記Fの相違点について検討する。

キ 上記5の(6)のイで示したとおり、甲3には、次の事項が記載されている。
「セルスタック装置100のマニホールド200である合金部材において、
マニホールド200は、天板201と、容器202とを有し、
天板201は、基材210と、酸化クロム膜211と、被覆膜212と、アンカー部213とを有し、
基材210は、Cr(クロム)を含有する合金材料によって構成され、
基材210は、表面210aと複数の凹部210bとを有し、
凹部210bは、部分的に曲がっていてもよく、
アンカー部213は、基材210の凹部210b内に配置され、
酸化クロム膜211は、アンカー部213に接続されるとともに、基材210の表面210aとアンカー部213の表面213aとを覆うように配置され、
被覆膜212は、酸化クロム膜211の少なくとも一部を覆い、
被覆膜212は、シリカであり、
アンカー部213は、Cr(クロム)よりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物を含有し、
低平衡酸素圧酸化物は、Al_(2)O_(3)であり、
アンカー部213における低平衡酸素圧酸化物の含有割合は、80mol%以上である、
事項。」

ク そして、上記6-2の(4)での検討の結論に照らせば、甲3の上記キの事項の「アンカー部213は、基材210の凹部210b内に配置され、酸化クロム膜211は、アンカー部213に接続されるとともに、基材210の表面210aとアンカー部213の表面213aとを覆うように配置され、被覆膜212は、酸化クロム膜211の少なくとも一部を覆い、被覆膜212は、シリカであり、アンカー部213は、Cr(クロム)よりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物を含有し、低平衡酸素圧酸化物は、Al_(2)O_(3)であ」る事項は、本件発明5の「複数の埋設部それぞれは、前記コーティング膜と異なる材料によって構成される」事項に相当する。

ケ しかしながら、甲3の上記キの事項は、「被覆膜212が基材210から剥離することを長期間に亘って抑制することができる」(甲3の【0071】)ものであるのに対し、甲2発明は、下部のZMG232合金と中間層のCr_(2)O_(3)との剥離について何ら記載も示唆もないから、甲2発明には、甲3の上記キの事項を適用する動機がない。

コ したがって、本件発明5は、甲2発明に基いて当業者が容易に想到できたものとはいえない。

サ また、申立人が提出した他の文献を考慮しても、上記コの結論は変わらない。

シ よって、上記Eの相違点について更に検討するまでもなく、本件発明5は、甲2発明ではないし、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-2)本件発明6について
まず、本件発明6と甲2発明とを対比する。
ア 甲2発明の「ZMG232合金は、wt.%でNi0.3、Cr23.57、Mn0.56、Si0.16、V0.07、Mo0.01、Nb0.01、C0.03、La0.01、Zr0.01を含み、残部はFeであり、ZMG232合金は、表面に複数の凹部を有」する事項は、本件発明6の「表面に複数の凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材」「を備え」る事項に相当する。

イ 甲2発明の「Cr_(2)O_(3)」も、本件発明6の「クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物」も、いずれもセラミック材料であるといえるから、甲2発明の「前記複数の凹部には、」「Cr_(2)O_(3)が形成されている」事項と、本件発明6の「複数の凹部内にそれぞれ配置され、クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物によってそれぞれ構成される複数の埋設部」「を備え」る事項とは、「複数の凹部内にそれぞれ配置され、セラミック材料によってそれぞれ構成される複数の埋設部」「を備え」る事項で共通する。

ウ 本件発明6の「コーティング膜」は、本件明細書の記載によれば、「酸化クロム膜211aと被覆膜211bとを含む」(【0063】)ものであるから、甲2発明の「Cr_(2)O_(3)のみであ」る「中間層」及び「LSMコーティングであ」る「上層」は、本件発明6の「コーティング膜」に相当する。

エ 甲2発明の「Cr_(2)O_(3)」は、「中間層から」「凹部」に「続く」ものであるから、甲2発明の「中間層はCr_(2)O_(3)のみであり、上層はLSMコーティングであ」る事項は、本件発明6の「基材の表面の少なくとも一部を覆い、前記複数の埋設部に接続されるコーティング膜」「を備え」る事項に相当する。

オ 上記ア?エより、本件発明6と甲2発明とは、
「表面に複数の凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、
前記複数の凹部内にそれぞれ配置され、セラミック材料によってそれぞれ構成される複数の埋設部と、
前記基材の表面の少なくとも一部を覆い、前記複数の埋設部に接続されるコーティング膜と、
を備えた合金部材。」で一致し、次のG、Hの点で相違する。

(相違点)
G 本件発明6は、「基材の厚み方向の断面における前記複数の埋設部について、前記厚み方向に垂直な面方向における各埋設部のうち各凹部に埋設された部分の中点を連ねた線分の実長さの平均値は、前記線分の始点と終点とを結ぶ直線長さの平均値より長く、前記実長さの平均値は、前記直線長さの平均値の1.10倍以上であ」るのに対し、甲2発明は、前記二つの平均値の関係が不明である点。
H 埋設部のセラミック材料について、本件発明6は、「クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物」であって、「複数の埋設部それぞれにおいて、クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の平均含有率は、カチオン比で0.05以上である」のに対し、甲2発明は、「Cr_(2)O_(3)が形成されて」おり、クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物が形成されていない点。

カ 以下、上記相違点について検討するに、上記Hは、構成材料の異同に係るものであるから、実質的な相違点である。そこで、事案に鑑み、まず上記Hの相違点について検討する。

キ 上記5の(6)のイで示したとおり、甲3には、次の事項が記載されている。
「セルスタック装置100のマニホールド200である合金部材において、
マニホールド200は、天板201と、容器202とを有し、
天板201は、基材210と、酸化クロム膜211と、被覆膜212と、アンカー部213とを有し、
基材210は、Cr(クロム)を含有する合金材料によって構成され、
基材210は、表面210aと複数の凹部210bとを有し、
凹部210bは、部分的に曲がっていてもよく、
アンカー部213は、基材210の凹部210b内に配置され、
酸化クロム膜211は、アンカー部213に接続されるとともに、基材210の表面210aとアンカー部213の表面213aとを覆うように配置され、
被覆膜212は、酸化クロム膜211の少なくとも一部を覆い、
被覆膜212は、シリカであり、
アンカー部213は、Cr(クロム)よりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物を含有し、
低平衡酸素圧酸化物は、Al_(2)O_(3)であり、
アンカー部213における低平衡酸素圧酸化物の含有割合は、80mol%以上である、
事項。」

ク そして、甲3の上記キの事項において、「アンカー部213における低平衡酸素圧酸化物の含有割合は、80mol%以上である」事項は、カチオン比に換算すると、0.8となるから、甲3の上記ケの事項の「アンカー部213は、Cr(クロム)よりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物を含有し、低平衡酸素圧酸化物は、Al_(2)O_(3)であり、アンカー部213における低平衡酸素圧酸化物の含有割合は、80mol%以上である」事項は、本件発明6の「複数の埋設部」は、「クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物によってそれぞれ構成され」、「複数の埋設部それぞれにおいて、クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の平均含有率は、カチオン比で0.05以上である」事項に相当する。

ケ しかしながら、甲3の上記キの事項は、「被覆膜212が基材210から剥離することを長期間に亘って抑制することができる」(甲3の【0071】)ものであるのに対し、甲2発明は、下部のZMG232合金と中間層のCr_(2)O_(3)との剥離について何ら記載がないから、甲2発明において、甲3の上記キの事項を適用する動機がない。

コ したがって、本件発明6は、甲2発明に基いて当業者が容易に想到できたものとはいえない。

サ また、申立人が提出した他の文献を考慮しても、上記コの結論は変わらない。

セ よって、上記Gの相違点について更に検討するまでもなく、本件発明6は、甲2発明ではないし、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)甲3を主引例とした取消理由
(3-1)本件発明5について
まず、本件発明5と甲3発明とを対比する。
ア 甲3発明の「基材210は、Cr(クロム)を含有する合金材料によって構成され、基材210は、表面210aと複数の凹部210bとを有」する事項は、本件発明5の「表面に複数の凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材」「を備え」る事項に相当する。

イ 甲3発明の「アンカー部213は、基材210の凹部210b内に配置され、」「アンカー部213は、Cr(クロム)よりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物を含有し、低平衡酸素圧酸化物は、Al_(2)O_(3)であ」る事項は、本件発明5の「複数の凹部内にそれぞれ配置され、セラミックス材料によってそれぞれ構成される複数の埋設部」「を備え」る事項に相当する。

ウ 甲3発明の「酸化クロム膜211」と「酸化クロム膜211の少なくとも一部を覆」う「被覆膜212」とは、本件発明6の「コーティング膜」に相当するから、甲3発明の「天板201は、」「酸化クロム膜211と、被覆膜212と」「を有し、」「酸化クロム膜211は、アンカー部213に接続されるとともに、基材210の表面210aとアンカー部213の表面213aとを覆うように配置され」、「被覆膜212は、酸化クロム膜211の少なくとも一部を覆」う事項は、本件発明6の「基材の表面の少なくとも一部を覆い、前記複数の埋設部に接続されるコーティング膜」「を備え」る事項に相当する。

エ 甲3には、「本発明によれば、被覆膜の剥離を抑制可能な合金部材、セルスタック及びセルスタック装置を提供することができる」(【0011】)、「アンカー部213は、基材210の凹部210b内に配置される。アンカー部213は、凹部210bの開口部付近において被覆膜212に接続される。アンカー部213が凹部210bに係止されることによってアンカー効果が生まれて、被覆膜212の基材210に対する密着力を向上させることができる。その結果、被覆膜212が基材210から剥離することを抑制できる」(【0069】)と記載されており、アンカー部によるアンカー効果を高めて被覆膜の剥離を抑制するためには、多くの凹部210bにおいて、アンカー部213が十分に充填されていなければならないこととなるから、甲3発明の「複数の凹部210b」のうち多くの「凹部210b」には、「アンカー部213」が十分に充填されていると考えられる。
そうすると、甲3発明の「凹部210bは、部分的に曲がっていてもよ」い事項は、アンカー部213が部分的に曲がっていてもよいことを意味するから、本件発明5の「基材の厚み方向の断面における前記複数の埋設部について、前記厚み方向に垂直な面方向における各埋設部のうち各凹部に埋設された部分の中点を連ねた線分の実長さの平均値は、前記線分の始点と終点とを結ぶ直線長さの平均値より長」い事項に相当する。

オ 本件発明5の「コーティング膜」は、本件明細書の記載によれば、「酸化クロム膜211aと被覆膜211bとを含む」(【0063】)ものであるから、甲3発明の「酸化クロム膜211」及び「被覆膜212」に相当する。

カ 上記6の6-1の(4)の検討に照らせば、甲3発明の「酸化クロム膜211」「を有し、」「被覆膜212は、酸化クロム膜211の少なくとも一部を覆い、」「被覆膜212は、シリカであり、アンカー部213は、Cr(クロム)よりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物を含有し、低平衡酸素圧酸化物は、Al_(2)O_(3)であ」る事項は、本件発明5の「複数の埋設部それぞれは、前記コーティング膜と異なる材料によって構成される」事項に相当する。

キ 上記ア?カより、本件発明5と甲3発明とを対比すると、
「表面に複数の凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、
前記複数の凹部内にそれぞれ配置され、セラミックス材料によってそれぞれ構成される複数の埋設部と、
前記基材の表面の少なくとも一部を覆い、前記複数の埋設部に接続されるコーティング膜と、
を備え、
前記基材の厚み方向の断面における前記複数の埋設部について、前記厚み方向に垂直な面方向における各埋設部のうち各凹部に埋設された部分の中点を連ねた線分の実長さの平均値は、前記線分の始点と終点とを結ぶ直線長さの平均値より長く、
前記複数の埋設部それぞれは、前記コーティング膜と異なる材料によって構成される、
合金部材。」で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
I 本件発明5は、「実長さの平均値は、前記直線長さの平均値の1.10倍以上であ」るのに対し、甲3発明は、実長さと直線長さとの関係が不明である点。

ク 以下、上記Iの相違点について検討する。

ケ 甲3発明は、「凹部210bは、部分的に曲がっていてもよ」いものであるものの、甲3には、アンカー部の実長さと直線長さとの関係は何ら記載も示唆もされていない。

コ したがって、上記Iの相違点に係る本件発明5の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。

サ よって、本件発明5は、甲3発明とはいえないし、甲3発明に基いて当業者が容易に想到できたものともいえない。

シ なお、申立人は、特許異議申立書(第53頁第9行?第54頁第15行)において、訂正前の請求項1の「実長さの平均値は、前記直線長さの平均値の1.10倍以上であ」る事項について、数値範囲に臨界的意義が認められないから、甲3発明の課題を解決するために数値範囲を最適化または好適化したものにすぎないと主張している。

ス しかしながら、甲3には、アンカー部の直線長さの平均値に対する実長さの平均値なるパラメータは、記載も示唆もされておらず、当該パラメータが記載も示唆もされていない以上、当業者が当該パラメータを最適化または好適化することは困難であるといえる。

セ よって、申立人の主張には理由がない。

(3-2)本件発明6について
まず、本件発明6と甲3発明とを対比する。
ア 甲3発明の「基材210は、Cr(クロム)を含有する合金材料によって構成され、基材210は、表面210aと複数の凹部210bとを有」する事項は、本件発明6の「表面に複数の凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材」「を備え」る事項に相当する。

イ 甲3発明の「アンカー部213は、基材210の凹部210b内に配置され、」「アンカー部213は、Cr(クロム)よりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物を含有し、低平衡酸素圧酸化物は、Al_(2)O_(3)であ」る事項は、本件発明6の「複数の凹部内にそれぞれ配置され、クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物によってそれぞれ構成される複数の埋設部」「を備え」る事項に相当する。

ウ 甲3発明の「酸化クロム膜211」と「酸化クロム膜211の少なくとも一部を覆」う「被覆膜212」とは、本件発明6の「コーティング膜」に相当するから、甲3発明の「天板201は、」「酸化クロム膜211と、被覆膜212と」「を有し、」「酸化クロム膜211は、アンカー部213に接続されるとともに、基材210の表面210aとアンカー部213の表面213aとを覆うように配置され」、「被覆膜212は、酸化クロム膜211の少なくとも一部を覆」う事項は、本件発明6の「基材の表面の少なくとも一部を覆い、前記複数の埋設部に接続されるコーティング膜」「を備え」る事項に相当する。

エ 甲3には、「本発明によれば、被覆膜の剥離を抑制可能な合金部材、セルスタック及びセルスタック装置を提供することができる」(【0011】)、「アンカー部213は、基材210の凹部210b内に配置される。アンカー部213は、凹部210bの開口部付近において被覆膜212に接続される。アンカー部213が凹部210bに係止されることによってアンカー効果が生まれて、被覆膜212の基材210に対する密着力を向上させることができる。その結果、被覆膜212が基材210から剥離することを抑制できる」(【0069】)と記載されており、アンカー部によるアンカー効果を高めて被覆膜の剥離を抑制するためには、多くの凹部210bにおいて、アンカー部213が十分に充填されていなければならないこととなるから、甲3発明の「複数の凹部210b」のうち多くの「凹部210b」には、「アンカー部213」が十分に充填されていると考えられる。
そうすると、甲3発明の「凹部210bは、部分的に曲がっていてもよ」い事項は、アンカー部213が部分的に曲がっていてもよいことを意味するから、本件発明6の「基材の厚み方向の断面における前記複数の埋設部について、前記厚み方向に垂直な面方向における各埋設部のうち各凹部に埋設された部分の中点を連ねた線分の実長さの平均値は、前記線分の始点と終点とを結ぶ直線長さの平均値より長」い事項に相当する。

オ 本件発明6の「コーティング膜」は、本件明細書の記載によれば、「酸化クロム膜211aと被覆膜211bとを含む」(【0063】)ものであるから、甲3発明の「酸化クロム膜211」及び「被覆膜212」に相当する。

カ 甲3発明の「低平衡酸素圧酸化物は、Al_(2)O_(3)であり、アンカー部213における低平衡酸素圧酸化物の含有割合は、80mol%以上である」事項は、2/2×0.8=0.8とカチオン比が算出できるから、本件発明6の「複数の埋設部それぞれにおいて、クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の平均含有率は、カチオン比で0.05以上である」事項に相当する。

キ 上記ア?カより、本件発明6と甲3発明とを対比すると、
「表面に複数の凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、
前記複数の凹部内にそれぞれ配置され、クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物によってそれぞれ構成される複数の埋設部と、
前記基材の表面の少なくとも一部を覆い、前記複数の埋設部に接続されるコーティング膜と、
を備え、
前記基材の厚み方向の断面における前記複数の埋設部について、前記厚み方向に垂直な面方向における各埋設部のうち各凹部に埋設された部分の中点を連ねた線分の実長さの平均値は、前記線分の始点と終点とを結ぶ直線長さの平均値より長く、
前記複数の埋設部それぞれにおいて、クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の平均含有率は、カチオン比で0.05以上である、
合金部材。」で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
J 本件発明6は、「実長さの平均値は、前記直線長さの平均値の1.10倍以上であ」るのに対し、甲3発明は、実長さと直線長さとの関係が不明である点。

ク 以下、上記Jの相違点について検討するに、上記Jの相違点は、上記(3-1)のキのIの相違点と同一のものであるから、上記(3-1)のク?サで検討した理由と同様の理由により、本件発明6は、甲3発明とはいえないし、甲3発明に基いて当業者が容易に想到できたものともいえない。

7 むすび
以上のとおり、本件の請求項5、6に係る特許は、令和2年4月6日付けで通知された取消理由に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項5、6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件の請求項1?4は、本件訂正により削除されたから、本件の請求項1?4に係る特許に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
表面に複数の凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、
前記複数の凹部内にそれぞれ配置され、セラミックス材料によってそれぞれ構成される複数の埋設部と、
前記基材の表面の少なくとも一部を覆い、前記複数の埋設部に接続されるコーティング膜と、
を備え、
前記基材の厚み方向の断面における前記複数の埋設部について、前記厚み方向に垂直な面方向における各埋設部のうち各凹部に埋設された部分の中点を連ねた線分の実長さの平均値は、前記線分の始点と終点とを結ぶ直線長さの平均値より長く、
前記実長さの平均値は、前記直線長さの平均値の1.10倍以上であり、
前記複数の埋設部それぞれは、前記コーティング膜と異なる材料によって構成される、
合金部材。
【請求項6】
表面に複数の凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、
前記複数の凹部内にそれぞれ配置され、クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物によってそれぞれ構成される複数の埋設部と、
前記基材の表面の少なくとも一部を覆い、前記複数の埋設部に接続されるコーティング膜と、
を備え、
前記基材の厚み方向の断面における前記複数の埋設部について、前記厚み方向に垂直な面方向における各埋設部のうち各凹部に埋設された部分の中点を連ねた線分の実長さの平均値は、前記線分の始点と終点とを結ぶ直線長さの平均値より長く、
前記実長さの平均値は、前記直線長さの平均値の1.10倍以上であり、
前記複数の埋設部それぞれにおいて、クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の平均含有率は、カチオン比で0.05以上である、
合金部材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-10-26 
出願番号 特願2019-9259(P2019-9259)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 536- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 守安 太郎  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 平塚 政宏
土屋 知久
登録日 2019-07-26 
登録番号 特許第6559372号(P6559372)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 合金部材、セルスタック及びセルスタック装置  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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