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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A01N 審判 全部申し立て 2項進歩性 A01N 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A01N |
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管理番号 | 1369997 |
異議申立番号 | 異議2019-700384 |
総通号数 | 254 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-02-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-05-13 |
確定日 | 2020-11-11 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6423833号発明「抗菌性金属ナノ粒子の組成物および方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6423833号の特許請求の範囲を令和2年9月30日付け手続補正書により補正された令和2年5月25日付けの訂正請求書に添付した上記手続補正書により補正された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕、〔9-16〕について訂正することを認める。 特許第6423833号の請求項1?16に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6423833号の請求項1?16に係る特許についての出願は、2012年5月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年5月24日、2011年12月31日、いずれもアメリカ合衆国(US))を国際出願日として出願した特願2014-512123号の一部を、平成28年9月5日に新たな特許出願としたものであって、平成30年10月26日に特許権の設定登録がされ、平成30年11月14日にその特許公報が発行された。 本件特許異議申立の経緯は次のとおりである。 令和元年 5月13日 :特許異議申立人岩部英臣(以下「異議申立人 1」という。)による特許異議の申立て 同年 5月14日 :特許異議申立人森田弘潤(以下「異議申立人 2」という。)による特許異議の申立て 同年 7月23日付け:取消理由通知 同年10月24日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 同年11月 8日付け:両異議申立人に対する特許法第120条の5 第5項に基く通知 同年12月12日 :異議申立人1による意見書の提出 同年 同月 同日 :異議申立人2による意見書の提出 令和2年 2月19日付け:取消理由通知(決定の予告) 同年 5月25日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 同年 6月 5日付け:両異議申立人に対する特許法第120条の5 第5項に基く通知 同年 7月10日 :異議申立人1による意見書の提出 同年 7月13日 :異議申立人2による意見書の提出 同年 9月29日付け:訂正拒絶理由通知 同年 9月30日 :特許権者による令和2年5月25日提出の訂 正請求書及び訂正特許請求の範囲を補正対象 書類とする手続補正書の提出 令和元年10月24日提出の訂正請求書による訂正の請求は、令和2年5月25日に訂正請求書が提出されたことにより、特許法第120条の5第7項の規定によって、取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の適否 特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である令和2年5月25日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1?16について訂正することを求めた。 その後、当審からの訂正拒絶理由通知に対して、特許権者は同年9月30日に手続補正書を提出して、上記訂正請求書及び訂正特許請求の範囲を手続補正書に記載のとおり補正することを求めたので、この手続補正が上記訂正請求書の要旨を変更するものか否かを検討し、その上で訂正の適否について検討する。 1 令和2年9月30日付け手続補正 (1)補正の内容 ア 令和2年5月25日付け訂正請求書の7.請求の理由の(2)訂正事項において、第3頁第3?6行に記載された訂正事項2の内容を全て削除する。 イ 令和2年5月25日付け訂正請求書の7.請求の理由の(2)訂正事項において、第3頁第8行に記載の「ウ 訂正事項3」を「イ 訂正事項2」と補正し、第3頁第17行に記載の「エ 訂正事項4」を「ウ 訂正事項3」と補正する。 ウ 令和2年5月25日付け訂正請求書の7.請求の理由の(3)訂正の理由における「ア 一群の請求項についての説明」において、第4頁第3行に記載の「訂正事項3」を「訂正事項2」と補正する。 エ 令和2年5月25日付け訂正請求書の7.請求の理由の(3)訂正の理由における「イ 訂正事項が全ての訂正要件に適合している事実の説明」において、第7頁第18行?第8頁第28行に記載された訂正事項2の内容を全て削除する。 オ 令和2年5月25日付け訂正請求書の7.請求の理由の(3)訂正の理由における「イ 訂正事項が全ての訂正要件に適合している事実の説明」において第9頁第2行に記載の「(ウ)訂正事項3」を「(イ)訂正事項2」と補正し、第9頁第17行、同頁第26行、第10頁第2行、同頁第10行、同頁第14行、同頁第17行、同頁第23行、第12頁第28行および第13頁第6行にそれぞれ記載の「訂正事項3」を「訂正事項2」と補正する。 カ 令和2年5月25日付け訂正請求書の7.請求の理由の(3)訂正の理由における「イ 訂正事項が全ての訂正要件に適合している事実の説明」において、第13頁第10行に記載の「(エ)訂正事項4」を「(ウ)訂正事項3」と補正し、第13頁第18行、同頁第22行、第14頁第3行、同頁第7行および同頁第14行にそれぞれ記載の「訂正事項4」を「訂正事項3」と補正する。 (2)判断 上記(1)のア及びエの補正は、訂正事項2に関する記載を削除するものであり、訂正請求書の要旨を変更するものではない。 また、上記(1)のイ、ウ、オ、カの補正は、ア及びエにおいて訂正事項2に関する記載を削除することに伴って、訂正事項3及び訂正事項4の項番及び項目名を訂正事項2及び訂正事項3に繰り上げるものであり、訂正請求書の要旨を変更するものではない。 よって、当該手続補正による訂正請求書の補正を認める。 2 訂正請求の趣旨及び訂正の内容 上記1で述べたとおり、令和2年9月30日付けの手続補正でした訂正請求書の補正は認められたので、令和2年5月25日付けの訂正請求の趣旨は、「特許第6423833号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?16について訂正することを求める。」というものであり、令和2年5月25日付けの訂正請求書による訂正の内容は、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲を、令和2年9月30日付け手続補正書に添付した訂正特許請求の範囲のとおりに訂正する以下のとおりのものである(以下「本件訂正」という。)。 [訂正事項] (1)訂正事項1 訂正前の請求項1に「銅濃度が0.001?5重量%未満のヨウ化銅の成形された粒子を含む抗菌性の製品であって」と記載されているのを、「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つを含む抗菌性の製品であって、前記製品における前記ヨウ化銅は銅濃度で0.001?5重量%未満であり、」に訂正する。また請求項1の記載を引用する請求項2?8も同様に訂正する(下線は訂正箇所を示す。本項目内において以下同様。)。 (2)訂正事項2 訂正前の請求項9に「銅濃度が0.001?5重量%未満のヨウ化銅の成形された粒子を含む抗菌性の製品であって」と記載されているのを、「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子を含む抗菌性の製品であって、前記製品における前記ヨウ化銅は銅濃度で0.001?5重量%未満であり、」に訂正する。また請求項9の記載を引用する請求項10?16も同様に訂正する。 (3)訂正事項3 訂正前の請求項16に「前記製品が、抗臭性を提供するものである」と記載されているのを、「前記製品が、個人衛生用品であって、抗臭性を提供するものである」に訂正する。 3 訂正目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について ア 訂正目的の適否について 訂正前の請求項1には「銅濃度が0.001?5重量%未満のヨウ化銅の成形された粒子を含む抗菌性の製品」が記載されていたところ、訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1の「ヨウ化銅の成形された粒子」を「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」と特定し、限定するものであり、さらに訂正前の請求項1の銅濃度の記載について、「前記製品における前記ヨウ化銅は銅濃度で0.001?5重量%未満であり」とすることにより、製品における銅濃度であることを明確にするものであるから、当該訂正は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。請求項1を引用する請求項2?8の訂正についても同様である。 イ 新規事項の有無について 本件特許明細書には以下の記載がある。 「【0022】 本発明の他の実施形態において、ハロゲン化銅を含んでいる多孔質担体粒子またはハロゲン化銅およびハロゲン化銀は、望ましい抗菌作用を備えるコーティングまたは固形物として使用されるマトリクス材に組み込まれる。」(下線は当審で付した。以下同様。) 「【0028】 ・・・特に、ハロゲン化銅、ヨウ化銅(「CuI」)は、本特許内の教示に従って形成される際、広範囲にわたる即効性のある抗菌剤として驚くほど有効であることが明らかになっている。そのため、本発明の第一の実施形態は、少なくとも一つの無機銅塩を持つ粒子を有する抗菌作用を持つ組成物を対象とするもので、その粒子の平均粒子径は約1000nm未満であることが好ましく、少なくとも一つの機能化剤がその粒子に接し、その機能化剤は、担体内の粒子を安定化させて抗菌的に有効な量のイオンが微生物環境へ放出されるようにする。後述されるとおり、機能化剤はいくつかの機能を有する。一つは、担体内(液体中)の粒子を安定化させ、粒子が塊にならずに均一に分散されるようにすることである。また、抗菌的に有効な量のイオンを微生物環境へ放出する手助けをすることもある。本発明のいくつかの実施形態は、無機銅塩を含んでいる。臭化銅、塩化銅等のハロゲン化銅は他の実施形態を有するが、ヨウ化銅が最も研究されている実施形態である。ハロゲン化銅(I)粒子は水に溶けにくいため、何らかの形で分散されない限り水の中で塊(「凝集」)になりやすい。一つの実施形態において、粒子は、溶液中でより安定し、微生物ならびに他の病原菌にとってより魅力的になり、また塗料、樹脂および成形可能なプラスチック製品等の他のコーティング製剤に抗菌剤として加えられる際に相溶性がより高くなるよう、その表面化学を修飾することによって「機能化」される。機能化剤には、ポリマー、特に親水性および疎水性ポリマー、モノマー、界面活性剤、アミノ酸、チオール、グリコール、エステル、炭水化物ならびに微生物に特異的なリガンドが含まれる。機能化剤の実施形態は、ポリウレタンおよび、ポリビニルピロリドン(PVP)ならびにポリエチレングリコール(PEG)等の水溶性ポリマーを含んでいる。これらはCuIナノ粒子を安定化させ、塗料内での溶解を促進し、また外側の微生物表面への付着を助けることで銅イオンを対陰極に接近させる。機能化剤には、微粒子表面を修飾するために乳剤および溶液として使われる疎水性ポリマーも含まれる。金属ハロゲン化物の性質および機能化剤の品質という両要因は、抗菌性組成物の全体的な有効性にとって重要である。」 「【0079】 g.多孔質粒子 本発明の他の実施形態は、金属ハロゲン化物とそれが注入される多孔質担体粒子、抗菌的に有効な量のイオンが微生物環境へ放出されるよう金属ハロゲン化物を安定化させる担体粒子を有する、抗菌作用を持つ組成物を対象とするものである。「多孔質粒子」、「多孔質担体粒子」、「担体粒子」という用語は、本特許では交互に使われる。一つの実施形態では、より大きな多孔質担体粒子の多孔性範囲内で抗菌性組成物を形成することができる。金属および金属化合物または金属塩、特に金属ハロゲン化物が、注入物質として好まれ、例えば、臭化銀あるいは特にヨウ化銅を細孔へ注入することができる。」 「【0098】 ・・・上記の組成物の多くは市販されており、本発明の抗菌性物質をこれらに添加して、最も効果的な濃度を作り出すこともできる。本特許における本発明の抗菌性物質を添加する場合、その割合は最終製品の0.001?5%(有効成分の金属濃度の重量をベースとする)であることが好ましい。溶液(または懸濁液)が最終製品となる製剤については、本発明の抗菌性物質は重量で1%を下回ることが望ましい。」 上記【0022】及び【0079】の記載から、訂正前の請求項1の「ヨウ化銅の成形された粒子」の具体的な態様の一つとして「ヨウ化銅を含む多孔質粒子」が記載されていたといえる。 また、上記【0028】の記載から、訂正前の請求項1の「ヨウ化銅の成形された粒子」の別の具体的な態様の一つとして「機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子」が記載されていたといえる。 そして、上記【0098】の記載から、製品中の抗菌性物質の添加割合は、有効成分の金属濃度の重量ベースで0.001?5%であることが理解でき、ここで、抗菌性物質の有効成分はヨウ化銅であって、その金属濃度とは、すなわち銅濃度であるから、「製品における前記ヨウ化銅は銅濃度で0.001?5重量%未満」であることが記載されていたといえる。 したがって、訂正事項1は、上記発明の詳細な説明の記載に基いて「ヨウ化銅の成形された粒子」を技術的に特定し、製品中のヨウ化銅の銅濃度を明確にしたものであるから、本件特許の願書に添付した発明の詳細な説明、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。請求項1を引用する請求項2?8の訂正についても同様である。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 上記アで検討したとおり、訂正事項1は訂正前の請求項1の「ヨウ化銅の成形された粒子」を「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」と特定し、限定すると共に、銅濃度に関する記載を明確にするものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでない。請求項1を引用する請求項2?8の訂正についても同様である。 エ まとめ したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (2)訂正事項2について ア 訂正目的の適否について 訂正前の請求項9に「銅濃度が0.001?5重量%未満のヨウ化銅の成形された粒子を含む抗菌性の製品であって」が記載されていたところ、訂正事項2に係る請求項9についての訂正は、訂正前の請求項9の「ヨウ化銅の成形された粒子」を「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」と特定し、限定するものであり、さらに訂正前の請求項9の銅濃度の記載について「前記製品における前記ヨウ化銅は銅濃度で0.001?5重量%未満であり」とすることにより、製品における銅濃度であることを明確にするものであるから、当該訂正は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。請求項9を引用する請求項10?16の訂正についても同様である。 イ 新規事項の有無について 本件特許明細書には以下の記載がある。 「【0010】 本発明の第一の実施形態は、少なくとも一つの無機銅塩を持つ粒子を有する抗菌作用を持つ組成物を対象とするものである。少なくとも一つの機能化剤がその粒子に接し、その機能化剤は、担体内の粒子を安定化させて抗菌的に有効な量のイオンが微生物環境へ放出されるようにする。一実施形態において、担体は機能化剤がその中で溶解する液体である。別の実施形態では、担体は液体で、機能化剤がその中で溶解するが安定化されている。機能化剤には粒子を複合化させる作用があり、それによって液体内の粒子が安定化される。ある実施形態では液体担体は水性で、他の実施形態では液体担体は油性である。液体担体の実施形態において、粒子は液体担体によって溶液中で懸濁している。他の実施形態では、担体は、溶融ブレンド樹脂等の固体である。別の実施形態では、無機銅塩は、銅のハロゲン化塩を備えている。他の実施形態において、ハロゲン化物は、ヨウ化物、臭化物および塩化物からなる群より選択される。特に、好適な実施形態では、無機銅塩は、ヨウ化銅(CuI)である。」 「【0012】 本発明の実施形態は機能化剤を含んでいる。前記機能化剤には、アミノ酸、チオール、ポリマー、特に親水性ポリマー、疎水性ポリマー乳剤、界面活性剤、またはリガンド特異的な結合剤が含まれている。・・・前記親水性ポリマーの好適な実施形態としては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、前記ポリマーを形成するモノマーの少なくとも一つを有する共重合体およびそれらの混合体がある。・・・本発明の好適な実施形態では、CuI、CuBr、CuCl等のハロゲン化銅が利用される。」 「【0013】 ここで説明される本発明の他の実施形態は、CuI粉末を取得し、そのCuI粉末を極性非水溶媒で溶解し、前記CuIを極性非水溶媒内で安定化させるに十分な量の機能化剤を加え、機能化剤によって複合化されたCuI粒子粉末が形成されるよう、前記の安定化したCuI粒子を乾燥させられるまで溶媒を除去し、機能化剤によって複合化されたCuI粒子粉末を約1?約6pHの水溶液に分散させて水中で安定化するCuI粒子を形成し、任意選択で、水を除去できるまで安定化されたCuI粒子を乾燥させるというステップを含んでいるプロセスに従って生まれる、抗菌作用を持つ組成物である。もう一つの任意のステップとして、任意の乾燥ステップの前に分散のpHを中和させるというものがある。」 「【0028】 ・・・本発明のいくつかの実施形態は、無機銅塩を含んでいる。臭化銅、塩化銅等のハロゲン化銅は他の実施形態を有するが、ヨウ化銅が最も研究されている実施形態である。ハロゲン化銅(I)粒子は水に溶けにくいため、何らかの形で分散されない限り水の中で塊(「凝集」)になりやすい。一つの実施形態において、粒子は、溶液中でより安定し、微生物ならびに他の病原菌にとってより魅力的になり、また塗料、樹脂および成形可能なプラスチック製品等の他のコーティング製剤に抗菌剤として加えられる際に相溶性がより高くなるよう、その表面化学を修飾することによって「機能化」される。機能化剤には、ポリマー、特に親水性および疎水性ポリマー、モノマー、界面活性剤、アミノ酸、チオール、グリコール、エステル、炭水化物ならびに微生物に特異的なリガンドが含まれる。機能化剤の実施形態は、ポリウレタンおよび、ポリビニルピロリドン(PVP)ならびにポリエチレングリコール(PEG)等の水溶性ポリマーを含んでいる。これらはCuIナノ粒子を安定化させ、塗料内での溶解を促進し、また外側の微生物表面への付着を助けることで銅イオンを対陰極に接近させる。」 「【0041】 ・・・例証上、水性液体等の液状担体の場合、PVP等のポリマーで機能化された金属ハロゲン化物粒子を持つ乾燥粉末が水に加えられ、粒子-PVP複合体は均一に分散するといったPVPの物理的および/または化学的特性が原因で、担体内で溶解または分散することもある。」 「【0143】 例23: PVPで機能化されたヨウ化銅ナノ粒子の合成 100mlの丸底フラスコへ、0.380gのヨウ化銅粉末(Aldrich,98%)と60mlsの無水アセトニトリル51gが添加された。フラスコに栓をして10分間超音波処理をし、黄色の透明な溶液を得た。この溶液に1.956gのPVP(Aldrich,Mol.wt.10K)が添加され、10分超音波処理されて淡い緑色の溶液が形成された。この溶液はロータリーエバポレータに移され、30℃で約30分、その後温度を60℃に上げて15分間真空下でアセトニトリルが除去された。これにより明るい緑色の固体が得られた(粗い粒子のポリマー粉末で、粉砕してどんな大きさの粉末にもできるが、ナノサイズよりもはるかに大きいことが望ましい)。この固体は安定していて、水で再分散させてナノ粒子を生成することもできる。このCuI/PVP固形物の入ったフラスコに、攪拌子と100mlの脱イオン水が添加され、乳白色の不透明な混合物が形成された。この混合物は周辺の光から遮断され、25℃で3日間攪拌された。これにより、半透明で淡いピンク色の安定した分散系が生成された。この分散系における銅の重量%は0.13%で、平均粒子径は4nmだった(動的光拡散による体積分率分布をベースとする)。」 「【0098】 ・・・上記の組成物の多くは市販されており、本発明の抗菌性物質をこれらに添加して、最も効果的な濃度を作り出すこともできる。本特許における本発明の抗菌性物質を添加する場合、その割合は最終製品の0.001?5%(有効成分の金属濃度の重量をベースとする)であることが好ましい。溶液(または懸濁液)が最終製品となる製剤については、本発明の抗菌性物質は重量で1%を下回ることが望ましい。」 上記【0010】【0012】【0013】【0028】【0041】及び【0143】の記載から、訂正前の請求項9の「ヨウ化銅の成形された粒子」の具体的な態様の一つとして、機能化剤であるポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体によって複合化されたヨウ化銅粒子、すなわち「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」が記載されていたといえる。 そして、上記【0098】の記載から、製品中の抗菌性物質の添加割合は、有効成分の金属濃度の重量ベースで0.001?5%であることが理解でき、ここで、抗菌性物質の有効成分はヨウ化銅であって、その金属濃度とは、すなわち銅濃度であるから、「製品における前記ヨウ化銅は銅濃度で0.001?5重量%未満」であることが記載されていたといえる。 したがって、訂正事項2は、上記発明の詳細な説明の記載に基いて「ヨウ化銅の成形された粒子」を技術的に特定し、製品中のヨウ化銅の銅濃度を明確にしたものであるから、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。請求項9を引用する請求項10?16の訂正についても同様である。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 上記アで検討したとおり、訂正事項2は訂正前の請求項9の「ヨウ化銅の成形された粒子」を「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」と特定し、限定すると共に、銅濃度に関する記載を明確にするものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでない。請求項9を引用する請求項10?16の訂正についても同様である。 エ まとめ したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (3)訂正事項3について ア 訂正目的の適否について 訂正前の請求項16に「前記製品が、抗臭性を提供するものである」と記載されていたところ、訂正事項3に係る請求項16についての訂正は、製品を「個人衛生用品」に特定し、限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。 イ 新規事項の有無について 本件特許明細書には以下の記載がある。 「【0090】 4.組成物の使用 本発明の実施形態は、幅広い抗菌性用途において有用性がある。これらの用途の一部を下記第1表に示す。抗菌性化合物としての直接の使用の他に、他の実施形態では、機能性粒子が他の物質に組み込まれて新規のかつ有用な物質を得る方法が含まれている。 【0091】 【表1A】 第1表 機能性抗菌ナノ粒子の代表的な用途 (当審注:表1Aは省略する。) 【表1B】 (当審注:表1B 27.?35.、37.?39.は省略する。) ・・・・ 36.デオドラントなど個人衛生用の応用を含む抗臭製剤」 本件訂正前の請求項16に係る発明の「製品」は、「抗臭性を提供する」ものであったところ、上記【0090】?【0091】の記載から、その例として「個人衛生用」の製品が記載されていたといえる。 よって、上記訂正は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 上記アで検討したとおり、訂正事項3は、訂正前の請求項16の「製品」を「個人衛生用品」に特定し、限定するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでない。 エ まとめ したがって、訂正事項3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 4 一群の請求項について 訂正事項1に係る訂正前の請求項1?8について、請求項2?8は、それぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、請求項1?8は特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 訂正事項2に係る訂正前の請求項9?16について、請求項10?16は、それぞれ請求項9を引用しているものであって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項9に連動して訂正されるものであるから、請求項9?16は特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項である請求項1?8及び請求項9?16について請求されている。 5 異議申立人2の主張について 異議申立人2は、令和2年7月13日に提出した意見書の3(2)において、以下のように主張している。 (1)訂正事項1の違法性について 訂正前の請求項1の「ヨウ化銅の成形された粒子」を「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」とする訂正は、元々単独で記載されていた粒子について複数選択肢の少なくとも一つとするものであり、明らかに特許請求の範囲の拡張または変更にあたる。 また、令和2年5月25日に提出した訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の訂正後の請求項7についてする訂正の内容からみても、訂正前の請求項1の「ヨウ化銅の成形された粒子」として「ヨウ化銅を含む多孔質粒子」は想定されていなかったと考えるのが合理的であるから、その意味でも訂正事項1は特許請求の範囲の減縮や明瞭でない記載の釈明に該当するものではなく、特許請求の範囲または変更にあたる。 (2)令和2年5月25日に提出した訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の訂正後の請求項7についてする訂正の違法性について 訂正前の請求項7の「前記ヨウ化銅が、平均粒径が1000nm以下の粒子として存在する」を「前記(b)のヨウ化銅の粒子は、平均粒径が1000nm以下である」とする訂正について、仮に訂正前の請求項1の「ヨウ化銅の成形された粒子」として「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子」を含んでいたのであれば、「平均粒径が1000nm以下」という限定がかかっていたことが一義的に明確であり、不明瞭な点は存在しない。 そして、上記訂正は、「前記(b)のヨウ化銅の粒子」についてのみ平均粒径を限定するものであり、「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子」の平均粒子径は限定されないものとなる。 したがって、上記訂正は特許請求の範囲の減縮や明瞭でない記載の釈明に該当するものではなく、特許請求の範囲または変更にあたる。 しかしながら、(1)については、上記3(1)において検討したとおり、適法なものであるから、異議申立人2の主張は採用できない。 また、(2)については、令和2年9月29日付けで当審から訂正拒絶理由を通知し、これに対して特許権者は同年9月30日に手続補正書を提出して、上記訂正事項を削除する旨の訂正請求書及び訂正特許請求の範囲の補正を行ったから、異議申立人2の主張の対象となる訂正事項は存在しないものとなった。 6 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕、〔9-16〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 上述の第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正により訂正された請求項1?16に係る発明は、令和2年9月30日付け手続補正書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項1?16に係る発明をそれぞれ、「本件発明1」?「本件発明16」という。) 「【請求項1】 (a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つを含む抗菌性の製品であって、前記製品における前記ヨウ化銅は銅濃度で0.001?5重量%未満であり、前記製品が、医薬品、医療機器又は消毒薬であり、前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される抗菌性の製品。 【請求項2】 前記ヨウ化銅が、ポリマーマトリクス内に存在する請求項1に記載の抗菌性の製品。 【請求項3】 前記製品が、コーティングである請求項1に記載の抗菌性の製品。 【請求項4】 前記製品が、クリームである請求項1に記載の抗菌性の製品。 【請求項5】 抗生物質および抗菌物質から選択される少なくとも一つの付加的な成分をさらに含む、請求項1に記載の抗菌性の製品。 【請求項6】 前記製品が、外傷用製品である請求項1に記載の抗菌性の製品。 【請求項7】 前記ヨウ化銅が、平均粒径が1000nm以下の粒子として存在する請求項1に記載の抗菌性の製品。 【請求項8】 前記製品が、消毒液である請求項1に記載の抗菌性の製品。 【請求項9】 ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子を含む抗菌性の製品であって、前記製品における前記ヨウ化銅は銅濃度で0.001?5重量%未満であり、前記製品が消費者製品であり、前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される抗菌性の製品。 【請求項10】 前記製品が、押出された製品または射出成型された製品である請求項9に記載の抗菌性の製品。 【請求項11】 前記製品が、繊維である請求項9に記載の抗菌性の製品。 【請求項12】 前記製品が、消毒薬である請求項9に記載の抗菌性の製品。 【請求項13】 前記製品が、電子機器である請求項9に記載の抗菌性の製品。 【請求項14】 前記製品が、シャンプーである請求項9に記載の抗菌性の製品。 【請求項15】 前記製品が、衣料品である請求項9に記載の抗菌性の製品。 【請求項16】 前記製品が、個人衛生用品であって、抗臭性を提供するものである請求項9に記載の抗菌性の製品。」 第4 特許異議申立人が申立てた理由及び意見書における主張の概要 1 異議申立人1の申立理由及び主張の概要及び証拠 (1)異議申立人1の申立理由の概要 異議申立人1は、令和元年5月13日付け異議申立書において甲第1号証?甲第13号証を提出して以下の理由を申立てている。 (1-1)甲第1号証を主引例とする新規性及び進歩性について 訂正前の請求項1、2、6、7、9?11、15、16に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、訂正前の請求項1?16に係る発明は、甲第1号証に記載された発明又は甲第1号証に記載された発明及び周知技術、甲第4号証に記載された事項、甲第10号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (1-2)甲第2号証を主引例とする新規性及び進歩性について 訂正前の請求項1、7、9に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、訂正前の請求項1、9に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (1-3)甲第3号証を主引例とする申立理由(拡大先願)について 訂正前の請求項1、9に係る発明は、甲第3号証に記載された発明と同一であり、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (1-4)明確性要件について 訂正前の請求項1、3、9に係る発明は、その特許請求の範囲の記載が以下の点で特許法第36条第6項第2号に適合していないため、当該発明に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (1-4-1)「ヨウ化銅の成形された粒子」について 請求項1,9の特定事項である「ヨウ化銅の成形された粒子」は単なるヨウ化銅の粒子であると解されるが、製品に所定の銅濃度でヨウ化銅の粒子を含ませただけでは本願発明の効果を達成できるとは到底考えられないから、請求項1,9に係る発明は本件発明の効果を達成する上で不明確である。 (1-4-2)「コーティング」について 請求項3の特定事項である「コーティング」は、対象物の表面を覆うものであり、本件発明1の医薬品、医療機器及び消毒薬のいずれにも属さないから、本件発明1と本件発明3の関係が不明である。 (2)異議申立人1の意見書における主張の概要 異議申立人1は、令和元年12月12日付け意見書において、また、令和2年7月10日付け意見書において甲第14号証?甲第17号証を追加で提出して、以下の主張をしている。 (2-1)甲第1号証を主引例とする新規性及び進歩性について 令和元年10月24日付け訂正請求による訂正後の請求項1、7、8、9、11、12、15に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術、甲第4号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 また、令和2年5月25日付け訂正請求による訂正後の請求項1、2、5、6、7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、令和2年5月25日付け訂正請求による訂正後の請求項1、2、5、6、7、9、10、11、12、15、16に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2-2)甲第2号証を主引例とする新規性及び進歩性について 令和元年10月24日付け訂正請求による訂正後の請求項1、7、8、9、12に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、令和元年10月24日付け訂正請求による訂正後の請求項1、7、8、9、11、12、15に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 また、令和2年5月25日付け訂正請求による訂正後の請求項1、5、7、8、9、12に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2-3)電子的技術情報3(令和元年7月23日付け取消理由通知で使用した刊行物3、異議申立人2の提出した甲第1号証)を主引例とする新規性及び進歩性について 令和元年10月24日付け訂正請求による訂正後の請求項1、9に係る発明は、電子的技術情報3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、令和元年10月24日付け訂正請求による訂正後の請求項1、7、8、9、11、12、15に係る発明は、電子的技術情報3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 また、令和2年5月25日付け訂正請求による訂正後の請求項1?5、7、8に係る発明は、電子的技術情報3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、令和2年5月25日付け訂正請求による訂正後の請求項1?16に係る発明は、電子的技術情報3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2-4)甲第3号証を主引例とする申立理由(拡大先願)について 令和元年10月24日付け訂正請求による訂正後の請求項1、8、9、11、12、15に係る発明は、甲第3号証に記載された発明と実質同一であり、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 また、令和2年5月25日付け訂正請求による訂正後の請求項1、2、5、7、9?12、16に係る発明は、甲第3号証に記載された発明と同一又は実質同一であり、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2-5)サポート要件について 令和元年10月24日付け訂正請求による訂正後の請求項1、8、9に係る発明は、その特許請求の範囲の記載が以下の点で特許法第36条第6項第1号に適合していないため、当該発明に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 令和2年5月25日付け訂正請求による訂正後の請求項1、9に係る発明は、その特許請求の範囲の記載が以下の点で特許法第36条第6項第1号に適合していないため、当該発明に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (2-5-1)「ヨウ化銅の成形された粒子」について 令和元年10月24日付け訂正請求による訂正後の請求項1,9の特定事項である「ヨウ化銅の成形された粒子」は、特許権者の意見書における主張をみると凝集、沈殿しないものである必要があると考えられるが、一方で凝集、沈殿しないようにするために必須の成分であると考えられる機能化剤は必須の成分ではないとも主張しており、請求項1,9に係る発明は本件発明の課題が解決できると当業者が認識できる範囲を超えるものであり、発明の詳細な説明に記載したものでない。 (2-5-2)「ヨウ化銅の成形された粒子」及び「ポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体」の関係について 特許権者の意見書における主張をみると、PVPといった機能化剤は、ヨウ化銅の成形された粒子を得るために用いられ、粒子に作用するものであることが認められるが、令和元年10月24日付け訂正請求による訂正後の請求項8に係る発明は、PVPが製品に含まれていることを特定しているだけであるから、「ヨウ化銅の成形された粒子」と「ポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体」の関係が不明であり、請求項8に係る発明は本件発明の課題が解決できると当業者が認識できる範囲を超えるものであり、発明の詳細な説明に記載したものでない。 (2-5-3)製品に対する「銅濃度」について 令和2年5月25日付け訂正請求による訂正後の請求項1に係る発明は、最終製品の重量に対する銅の重量の割合であると理解できるが、本件特許明細書中ではコーティング、抗菌液、塗り薬について抗菌作用を確認しているものの、それら以外の製品については抗菌効果を何ら確認していない。 そして、請求項1に係る発明の製品、特に、医療機器については、製品自体の重量が様々であり、「銅濃度」は、製品自体の重量に応じて変化すること、(a)や(b)の粒子が製品中(特に医療機器)でどのような状態で存在するかによっても抗菌性に与える影響が変化することは明らかであることから、「銅濃度を0.001?5重量%未満」とする範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 (2-5-4)「ポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体」について 令和2年5月25日付け訂正請求による訂正後の請求項9に係る発明の「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体」として、本件特許明細書中ではPV-VA(BASF Luvitec VA 64)を用いた例だけが記載されている。甲第17号証からこれは酢酸ビニル-ビニルピロリドン共重合体である。 酢酸ビニル-ビニルピロリドン共重合体以外の「ポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体」については効果を確認しておらず、技術常識を考慮しても、抗菌効果を発揮できるかは不明である。 したがって、請求項9の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 (2-6)明確性要件について 令和元年10月24日付け訂正請求による訂正後の請求項1、8、9に係る発明は、その特許請求の範囲の記載が以下の点で特許法第36条第6項第2号に適合していないため、当該発明に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 令和2年5月25日付け訂正請求による訂正後の請求項1、2、3、4、6、8に係る発明は、その特許請求の範囲の記載が以下の点で特許法第36条第6項第2号に適合していないため、当該発明に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (2-6-1)「ヨウ化銅の成形された粒子」について 令和元年10月24日付け訂正請求による訂正後の請求項1,9の特定事項である「ヨウ化銅の成形された粒子」とはどのようなものであるのかが不明であるから、請求項1,9に係る発明は不明確である。 (2-6-2)「ヨウ化銅の成形された粒子」及び「ポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体」の関係について 令和元年10月24日付け訂正請求による訂正後の請求項8に係る発明は、PVPが製品に含まれていることを特定しているだけであるが、特許権者の意見書における主張をみると、機能化剤はヨウ化銅の粒子に作用するものであることが認められるから、「ヨウ化銅の成形された粒子」と「ポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体」の関係が不明であり、請求項8に係る発明は不明確である。 (2-6-3)「ヨウ化銅を含む多孔質粒子」について 令和2年5月25日付け訂正請求による訂正後の請求項1の特定事項である「ヨウ化銅を含む多孔質粒子」について多孔質粒子がどのような状態でヨウ化銅を含んでいるのかが不明である。 (2-6-4)「機能化剤」について 令和2年5月25日付け訂正請求による訂正後の請求項1の特定事項である「機能化剤」は、どのような機能を有する「剤」であるのかが不明である。 (2-6-5)「前記ヨウ化銅が、ポリマーマトリクス内に存在する」について 令和2年5月25日付け訂正請求による訂正後の請求項2の特定事項である「前記ヨウ化銅が、ポリマーマトリクス内に存在する」について、「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子」、「(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子」それぞれとの関係が不明である。 (2-6-6)「コーティング」について 令和2年5月25日付け訂正請求による訂正後の請求項3の特定事項である「コーティング」は、本件発明1の「医薬品、医療機器又は消毒薬」のいずれの下位概念であるのか、「コーティング」と「医薬品、医療機器又は消毒薬」の関係が不明である。 (2-6-7)「クリーム」について 令和2年5月25日付け訂正請求による訂正後の請求項4の特定事項である「クリーム」は、本件発明1の「医薬品、医療機器又は消毒薬」のいずれの下位概念であるのか、「クリーム」と「医薬品、医療機器又は消毒薬」の関係が不明である。 (2-6-8)「外傷用製品」について 令和2年5月25日付け訂正請求による訂正後の請求項6の特定事項である「外傷用製品」は、本件発明1の「医薬品、医療機器又は消毒薬」のいずれの下位概念であるのか、「外傷用製品」と「医薬品、医療機器又は消毒薬」の関係が不明である。 (2-6-9)「消毒液」について 令和2年5月25日付け訂正請求による訂正後の請求項8の特定事項である「消毒液」は、本件発明1の「医薬品、医療機器又は消毒薬」のいずれの下位概念であるのか、「消毒液」と「医薬品、医療機器又は消毒薬」の関係が不明である。 (2-7)甲第15号証に基く申立理由(新規性及び進歩性)について 令和2年5月25日付け訂正請求による訂正後の請求項1、2、3、5、8に係る発明は、甲第15号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、令和2年5月25日付け訂正請求による訂正後の請求項1、2、3、4、5、8に係る発明は、甲第15号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)証拠 甲第1号証 :特開平4-240205号公報 甲第2号証 :特開2010-239897号公報 甲第3号証 :特開2012-24566号公報 甲第4号証 :特開2004-307900号公報 甲第5号証 :特開2006-104272号公報 甲第6号証 :特開2007-39444号公報 甲第7号証 :特開2002-338481号公報 甲第8号証 :特開2004-161632号公報 甲第9号証 :特開2005-139292号公報 甲第10号証:特開2011-63525号公報 甲第11号証:特開平7-33615号公報 甲第12号証:医療用医薬品:インタール、商品詳細情報、販売開始年月: 2000年9月、2019/3/20版 甲第13号証:特願2010-145678号の出願書類 甲第14号証:Chemistry Letters, 34(7), 2005, 902-903 甲第15号証:特開2011-178720号公報 甲第16号証:新村出編、広辞苑、第7版第1刷、株式会社岩波書店、20 18年1月12日、312頁、「えいせい」の項 甲第17号証:Technical Information Luvitec VA Products, BASF SE, 2 015年4月 2 異議申立人2の申立理由及び主張の概要及び証拠 (1)異議申立人2の申立理由の概要 異議申立人2は、令和元年5月14日付け異議申立書において甲第1号証?甲第6号証を提出して以下の理由を申し立てている。 (1-1)甲第1号証を主引例とする新規性及び進歩性について 訂正前の請求項1?16に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (1-2)甲第2号証を主引例とする新規性及び進歩性について 訂正前の請求項1、7、8、9、12、16に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、訂正前の請求項1、4、6、7、8、9、12、14、16に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、訂正前の請求項2、3、5、10、11、13,15に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (1-3)サポート要件について 訂正前の請求項1?16に係る発明は、その特許請求の範囲の記載が以下の点で特許法第36条第6項第1号に適合していないため、当該発明に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (1-3-1)「ヨウ化銅の成形された粒子」について 本件特許明細書にはそもそも具体的にどのような技術的課題を解決するための発明なのか明記されておらず、本件発明の課題は不明であるが、本件特許明細書において作用効果を奏することが記載されているのは、PVPなどの機能化剤を金属イオンと所定の割合で配合された「機能性粒子」及び多孔質シリカを用いた「多孔質粒子」といった特殊な方法によって形成された粒子のみであり、どのような構造の粒子であっても、ヨウ化銅が粒子に含まれてさえいればその効果を奏するとは認められない。 したがって、本件発明は当業者が出願時の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えて規定されているものである。 (1-3-2)「粒子径」の限定について 本件特許明細書にはそもそも具体的にどのような技術的課題を解決するための発明なのか明記されておらず、本件発明の課題は不明であるが、本件発明の機能性粒子に関して、本件特許明細書には「【0238】 ・・・CuIを含んでいるすべてのサンプルが高い抗菌作用を示し、CuIを含まないサンプルが大きな抗菌作用を示さなかった。これらの方法で調製したすべての機能性粒子が高い抗菌作用を示したことは驚きだったが、その平均的大きさは約1,000nmから6nmだった。」と記載されていることから明らかなとおり、その粒子径がナノ単位であることが課題解決のために必須と認識されており、その結果が驚くべき(予測し難い)ものとして検証されているのも約1,000nmから6nmというナノ単位の粒子に限られているのであるから、粒子径について何ら限定が存在しない本件発明は、当業者が出願時の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えて規定されているものである。 (1-3-3)「前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される」について 本件特許明細書の実施例に係る抗菌性がどのようなメカニズムに基くものか何ら明らかにされておらず、「前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される」ということの裏付けとなるデータも何ら存在しないから、本件特許明細書に記載された実施例はいずれも本件発明のサポートとはなり得ない。 よって、本件発明はこの出願の発明の詳細な説明に記載されたものでない。 (1-4)明確性要件について 訂正前の請求項1?16に係る発明は、その特許請求の範囲の記載が以下の点で特許法第36条第6項第2号に適合していないため、当該発明に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (1-4-1)「ヨウ化銅の成形された粒子」について 請求項1の特定事項である「ヨウ化銅の成形された粒子」の、特に「成形された」とは、どのような粒子のこと意味しているのか、その技術的意味が不明確である。 (1-4-2)「銅濃度」の対象について 請求項1,9の特定事項である「銅濃度が0.001?5重量%未満」について、本件発明におけるその対象物は「抗菌性の製品」と規定され、本件発明1では「医薬品、医療機器又は消毒薬」、本件発明9では「消費者製品」、本件発明11ないし15では「繊維」「消毒液」「電子機器」「シャンプー」「衣料品」等様々な製品が規定され、また、本件特許明細書【0093】には「本発明の抗菌性組成物は、成型、押出をされたポリマー製品へ均質に加えられるか、成形、押出作業を用いるコーティングまたはレイヤーとしてこれらの物体に加えられる。」と記載されているところ、成形、押出されたポリマーのみで一つの製品を構成することは極めて稀であり、通常は他の部品ないし部材を組み合わせて最終的な製品が作られるのが通常であるから、上記特定事項が何に対する濃度であるのかが不明である。 (1-4-3)「前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される」について 請求項1,9の特定事項である「前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される」について、本件特許明細書には「【0052】 「銅カチオンの放出」という用語は、概して、機能化剤によって懸濁状態になっている金属塩から微生物が現在置かれている環境に、銅カチオンを提供することを指す。この放出機構は、本発明の管理する特徴ではない。一つの実施形態において、放出は、例えば銅イオンがハロゲン化銅粒子から溶解することによって起こる。別の実施形態では、PVP等の機能化剤によって放出が仲介される。PVPは、微生物に接触してその外部環境へカチオンを移動させるまで、銅カチオンの錯体形成を行う。機構はいくつであっても銅カチオンの放出要因となりうるし、本発明はどの機構にも限られることはない。また、潜在的に抗菌効果があるのはハロゲン化銅粒子からの陰イオンの放出で、例えば三ヨウ化物アニオン(I_(3)^(-))は既知の抗菌剤である。」と記載されているから、銅イオン自体によってその抗菌性能が発揮されることを要件としているのか、それとも抗菌効果があるのはむしろ陰イオンの部分であり、本件発明における「銅イオンの放出」という用語は、銅イオンを放出することに伴って陰イオンが放出され、陰イオンの抗菌性によって効果が発揮されることを規定しているのか、もしくは銅イオンが放出さえされていれば、その抗菌性は銅イオン自体によって発揮されているか、銅イオンの放出に伴って陰イオンによって発揮されているかを問わないのか、いずれの解釈をすべきかが不明である。 (1-4-4)「平均粒径」について 請求項7の特定事項である「平均粒径が1000nm以下」について、甲第6号証の記載によれば、非球形の粒子の平均粒子径を定義するにあたっては、代表径の取り方、粒度分布の表し方、平均粒子径の選び方の3点を定義する必要があるのに対し、本件特許明細書【0034】の記載をみても、これらの点が定義されていないから不明確である。 (2)異議申立人2の意見書における主張の概要 異議申立人2は、令和元年12月12日付け意見書において、また、令和2年7月13日付け意見書において甲第7号証?甲第8号証を追加で提出して、以下の主張をしている。 (2-1)甲第1号証を主引例とする新規性及び進歩性について 令和元年10月24日付け訂正請求による訂正後の請求項1?10、13、14、16に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 また、令和2年5月25日付け訂正請求による訂正後の請求項1?10、12?14、16に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2-2)甲第2号証を主引例とする新規性及び進歩性について 令和元年10月24日付け訂正請求による訂正後の請求項1?10、13、14、16に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 また、令和2年5月25日付け訂正請求による訂正後の請求項1?10、12?14、16に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2-3)サポート要件について 令和元年10月24日付け訂正請求による訂正後の請求項1?16に係る発明は、その特許請求の範囲の記載が以下の点で特許法第36条第6項第1号に適合していないため、当該発明に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 また、令和2年5月25日付け訂正請求による訂正後の請求項1?8に係る発明は、その特許請求の範囲の記載が以下の点で特許法第36条第6項第1号に適合していないため、当該発明に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (2-3-1)「ヨウ化銅の成形された粒子」について 令和元年10月24日付け訂正請求による訂正後の請求項1?10、13、14、16に係る発明の「ヨウ化銅の成形された粒子」の解釈指針となり得る記載は本件特許明細書中になく、通常の用語の解釈に従えば、表面に修飾等が施されていない単なる粒子のみも含まれ得るのであって、本件特許明細書の実施例においてその作用効果が確認されている特定の材料を用いて製造されたものに限定して解釈することはできない。 したがって、請求項1?10、13、14、16に係る発明は、「銀基抗菌性粒子と同等又はそれ以上の抗菌性を有する製品を提供することができる」という課題を達成することができるものに限定されているとはいえない。 (2-3-2)「粒子径」の限定について 本件発明の機能性粒子に関して、本件特許明細書には「【0238】 ・・・CuIを含んでいるすべてのサンプルが高い抗菌作用を示し、CuIを含まないサンプルが大きな抗菌作用を示さなかった。これらの方法で調製したすべての機能性粒子が高い抗菌作用を示したことは驚きだったが、その平均的大きさは約1,000nmから6nmだった。」と記載されていることから明らかなとおり、その粒子径がナノ単位であることが課題解決のために必須と認識されており、その結果が驚くべき(予測し難い)ものとして検証されているのも約1,000nmから6nmというナノ単位の粒子に限られているのであるから、粒子径について何ら限定が存在しない令和元年10月24日付け訂正請求による訂正後の請求項11、12、15に係る発明は、当業者が出願時の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えて規定されているものである。 (2-3-3)「(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子」について 本件特許明細書において、機能化剤による処理がなされた粒子に関し、本件特許明細書において、具体的にその作用効果の裏付けと思しきデータが記載されているのは、ポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体のみであり、それ以外の機能化剤を用いた場合の効果に関しては一切の裏付けが存在しない。 機能化剤には多様のポリマーが含まれ得、その種類によってその機能が大きく異なるから、機能化剤としてポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体を用いた場合の効果が示されているとしても、「(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子」についてまで、その効果を一般化できるとはいえない。 したがって、請求項1?8に係る発明は、当業者が出願時の技術常識に照らして本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められない。 (2-4)明確性要件について 訂正前の請求項1?16に係る発明は、その特許請求の範囲の記載が以下の点で特許法第36条第6項第2号に適合していないため、当該発明に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 また、令和元年10月24日付け訂正請求による訂正後の請求項1?10、13、14、16に係る発明は、その特許請求の範囲の記載が以下の点で特許法第36条第6項第2号に適合していないため、当該発明に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (2-4-1)「ヨウ化銅の成形された粒子」について 令和元年10月24日付け訂正請求による訂正後の請求項1?10、13、14、16に係る発明の「ヨウ化銅の成形された粒子」は、具体的にどのような粒子を指すのか明らかにされておらず、「単にヨウ化銅からなる粒子」を指すのか、何らかの修飾等が施された粒子を指すのかが曖昧であるとの取消理由5の指摘事項が全く解消されていない。 (2-4-2)「(但し、消毒液、繊維、織物、及びシートを除く)」について 令和元年10月24日付け訂正請求による訂正後の請求項1の特定事項である「前記製品が、医薬品又は医療機器であり(但し、消毒液、繊維、織物、及びシートを除く)」及び令和元年10月24日付け訂正請求による訂正後の請求項9の特定事項である「前記製品が、消費者製品であり(但し、消毒液、繊維、織物、及びシートを除く)」の但書で除かれている物の範囲が不明確である。 請求項1を引用する請求項2?7に係る発明に及び請求項9を引用する請求項10、13、14、16に係る発明についても同様である。 (3)証拠 甲第1号証:国際公開第2010/026730号 甲第2号証:特開2010-239897号公報 甲第3号証:特開平3-213509号公報 甲第4号証:特開平5-163614号公報 甲第5号証:特開平10-292107号公報 甲第6号証:神保元二ら編、微粒子ハンドブック、初版第1刷、株式会社朝 倉書店発行、1991年9月1日、52-61頁、174-2 07頁 甲第7号証:特開2010-131771号公報 甲第8号証:特開2017-19938号公報 第5 取消理由通知に記載した取消理由について 1 取消理由通知の概要 当審が令和元年7月23日付け及び令和2年2月19日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。 (1)刊行物1を主引例とする取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)(令和元年7月23日付け) 訂正前の請求項1、2、5?7、9?12、15、16に係る発明は、下記刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、刊行物1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)刊行物2を主引例とする取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)(令和元年7月23日付け及び令和2年2月19日付け) 訂正前の請求項1、5、7?9、12に係る発明は、下記刊行物2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、刊行物2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 また、令和元年10月24日付け訂正請求による訂正後の請求項8、12に係る発明は、刊行物2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)電子的技術情報3を主引例とする取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)(令和元年7月23日付け及び令和2年2月19日付け) 訂正前の請求項1?5、7?13、15、16に係る発明は、下記電子的技術情報3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、訂正前の請求項1?16に係る発明は、電子的技術情報3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 また、令和元年10月24日付け訂正請求による訂正後の請求項1?7、9、10、13、14、16に係る発明は、電子的技術情報3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (4)取消理由3(拡大先願)(令和元年7月23日付け) 訂正前の請求項1、2、5、7、9?12、16に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた下記の特許出願4の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の上記特許出願に係る発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (5)取消理由4(サポート要件)(令和元年7月23日付け及び令和2年2月19日付け) 訂正前の請求項1?16に係る発明は、その特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合していないため、当該発明に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (6)取消理由5(明確性要件)(令和元年7月23日付け及び令和2年2月19日付け) 訂正前の請求項1?16に係る発明は、その特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第2号に適合していないため、当該発明に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 記 刊行物1 :特開平4-240205号公報 (異議申立人1が提示した甲第1号証) 刊行物2 :特開2010-239897号公報 (異議申立人1が提示した甲第2号証、 異議申立人2が提示した甲第2号証) 電子的技術情報3:国際公開第2010/026730号 (令和元年7月23日付け取消理由通知の刊行物3、 異議申立人2が提示した甲第1号証) 特許出願4 :特願2010-145678号(特開2012-245 66号公報) (令和元年7月23日付け取消理由通知の刊行物等4、 異議申立人1が提示した甲13号証及び甲第3号証) 2 取消理由についての当審の判断 (1)刊行物1を主引例とする取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)について (1-1)刊行物1の記載 本件特許出願前に頒布された刊行物である上記刊行物1には、以下の事項が記載されている。 (刊1a)「【請求項1】 (A)金属銅および銅化合物の少なくとも1種、ならびに(B)金属ゲルマニウムおよびゲルマニウム化合物の少なくとも1種を含有する合成繊維。 【請求項2】 金属銅および銅化合物の少なくとも1種、ならびに金属ゲルマニウムおよびゲルマニウム化合物の少なくとも1種を、銅元素およびゲルマニウム元素に換算して、下記の数式1?数式4; 【数1】0.0001重量%≦ Cu ≦5.0重量% 【数2】0.03重量%≦ Ge ≦5.0重量% 【数3】0.03重量%≦Cu+Ge≦10.0重量% 【数4】0:100<Cu:Ge≦50:50を満足する量で含有する請求項1の合成繊維。 【請求項3】 請求項1または請求項2の合成繊維から形成された製品。」 (刊1b)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は合成繊維およびそれから製造された製品に関する。詳細には、抗菌作用および保健作用を有する合成繊維および繊維製品に関する。」 (刊1c)「【0006】本発明においては、汗などの水分が合成繊維中に浸入して、合成繊維中に含有されている(A)金属銅および銅化合物の少なくとも1種、ならびに(B)金属ゲルマニウムおよびゲルマニウム化合物の少なくとも1種が、徐々に極く微量ずつ溶出して、これが抗菌作用、保健作用および黄ばみ防止作用を示すものと考えられる。」 (刊1d)「【0007】金属銅および金属ゲルマニウムとしては、純度が高く且つ球状粒子であり粒径分布のシャープなものが合成繊維中への混合分散を均一に行うことができ望ましい。金属銅や金属ゲルマニウムではその結晶構造から極く微量の銅イオンまたはゲルマニウムイオンが放出されて、それらの金属イオンが抗菌作用や保健作用を示す。また、好ましい銅化合物の例としてはヨウ化銅(I)等を挙げることができるが、勿論これに限定されない。」 (刊1e)「【0008】金属銅および/または銅化合物、ならびに金属ゲルマニウムおよび/ゲルマニウム化合物を合成繊維中に均一に分散含有させることができ、しかもそれらの分散含有によって繊維化時の工程性や得られる合成繊維の性質を大きく損なわない限りは、繊維中への金属ゲルマニウムおよびゲルマニウム化合物の混合方法は特に制限されない。一般に、金属銅および銅化合物の少なくとも1種、ならびに金属ゲルマニウムおよびゲルマニウム化合物の少なくとも1種を、重合後の合成繊維用重合体中に加えて、銅とゲルマニウムを含有する繊維を製造するのが便利である。そのために、金属銅、銅化合物、金属ゲルマニウムおよびゲルマニウム化合物の粒子径を、湿式粉砕や乾式粉砕等の任意の手段によって繊維化時の妨げにならないような10μm以下の微粒子にしておくのがよく、特に5μm以下、更に1μm以下にしておくのが望ましい。金属銅、銅化合物、金属ゲルマニウムおよびゲルマニウム化合物の粒子径が大きくなると、繊維化時に口金孔の目詰まりや断糸等を生じて望ましくない。その上、金属銅、銅化合物、金属ゲルマニウムおよびゲルマニウム化合物の粒子径が小さいほど繊維への少量の配合で抗菌作用や保健作用を発揮でき、且つそれらの作用が安定したものとなるので、この点からも粒子径が小さい方が望ましい。」 (刊1f)「【0009】合成繊維中に金属銅および銅化合物の少なくとも1種、ならびに金属ゲルマニウムおよびゲルマニウム化合物の少なくとも1種を含有させるにあたっては、それらが重合系中に存在すると重合を妨害したり、得られる重合体の着色や変質等の問題を生ずることがあるので、上記したように重合後の合成繊維用重合体に加えて紡糸を行うのがよく、その場合に重合終了後にそれらを加えて引き続いて合成繊維を製造しても、または予め製造または入手した重合体にそれらを加えて紡糸してもよい。一般に、繊維形成性重合体は粘度が高く、金属銅、銅化合物、金属ゲルマニウムおよびゲルマニウム化合物の均一分散が困難である場合が多いので、そのような場合は分散媒体を併用するのがよい。分散媒体を併用すると、合成繊維に含有されている金属銅および/または銅化合物、ならびに金属ゲルマニウムおよび/またはゲルマニウム化合物を微量ずつ安定に長期間持続して溶出させることができ、これは分散媒体が繊維内部から繊維表面にわずかずつ浸み出しそれによって水分の繊維内部への浸入を促進するためであると考えられる。しかも分散媒体の併用は、重合体を繊維化する際に重合体分子の配向結晶化を促進することができるという点からも好ましい。 【0010】分散媒体としては、重合体と相溶性であり且つ常温で液状の物質が好ましい。分散媒体の例を挙げると、繊維形成性重合体がポリエステルの場合はエステル系、リン系、ポリエステル系の可塑剤やポリエステルポリオール等を、繊維形成性重合体がポリアミドの場合はヒドロキシアミド、スルフォンアミド、オキシベンゾールエステル等を使用することができ、そして繊維形成性重合体がポリオレフィンの場合はシクロパラフィン、ナフテン系オイル等を使用することができる。いずれの場合も、分散媒体はそれが使用される重合体と類似した化学構造を有していて、重合体と溶解度パラメーターが近似していて重合体と相溶性のものが適している。分散媒体を併用する場合には、金属銅および銅化合物の少なくとも1種、ならびに金属ゲルマニウムおよびゲルマニウム化合物の少なくとも1種を分散媒体と混合しておき、この混合物を繊維形成性重合体に加える方法を採用するのが望ましい。その際に定量ポンプを使用すると、該混合物を繊維形成性重合体に正確な量比で加えることができ、また分散媒体混合物中の金属銅および/または銅化合物ならびに金属ゲルマニウムおよび/またはゲルマニウム化合物の濃度を10?70重量%、好ましくは30?60%程度にしておくと定量ポンプの配管中での流動性が良好になる。」 (刊1g)「【0011】合成繊維中への金属銅および/銅化合物、ならびに金属ゲルマニウムおよび/またはゲルマニウム化合物の配合量は、合成繊維用重合体の重量に基づいて、銅およびゲルマニウム元素に換算して、下記の数式1?数式4; 【数1】0.0001重量%≦ Cu ≦5.0重量%」 (刊1h)「【0013】本発明の合成繊維は、人体に直接触れる下着、靴下、ストッキング、手袋等の衣類、浴用タオル等に使用すると、その抗菌作用によって、菌類やかび類の繁殖防止、防臭、皮膚の炎症防止、黄ばみ防止等の作用を示し、更にその保健作用によって美容効果や、血液をアルカリ性にする等の効果を有する。また、本発明の合成繊維は、各種治療用の布や基布、食品の腐敗防止や鮮度保持用の材料としても利用できる。したがって、本発明は、合成繊維だけでなく、該合成繊維から形成された繊維製品のすべてを包含し、例えば糸状物、編織物や不織布等の布帛類、衣類等はいずれも本発明に含まれる。」 (刊1i)「【0015】 【実施例】〈実施例 1〉金属銅粒子(三井金属鉱業社製:MNFT1040)6kg、二酸化ゲルマニウム(日本電子金属社製)1kgおよびポリエステル系可塑剤(アデカアーガス社製:商品名PN-350)7kgを粗混合した後、振動ミル(中央化工機社製MB-1型振動ミル)によって湿式粉砕して平均粒子径1.2μmの微粒状にし、120℃で乾燥後冷却、真空脱泡して金属銅、二酸化ゲルマニウムおよび可塑剤からなる微粒状混合物を製造した。上記で製造した微粒状混合物を、ポリエチレンテレフタレート([η]=0.65dl/g:フェノールとテトラクロロエタンの等量混合溶媒を用いて30℃の恒温槽中で測定した極限粘度)に対して、該ポリエステルの重量に基づいて、金属銅3.0重量%(Cu元素に換算して3.0重量%)および二酸化ゲルマニウム0.5重量%(Ge元素に換算して0.35重量%)の割合で加えて、常法により孔数310の丸断面ノズルを用いて紡糸した後、延伸して単糸デニールが2d、繊維長51mmのポリエステルステープル繊維を製造し、この繊維から常法により靴下を作成した。 【0016】〈実施例 2〉金属銅の代わりにヨウ化第1銅をポリエステルの重量に基づいて1.0重量%(Cu元素に換算して0.33重量%)になるようにして、また二酸化ゲルマニウムの代わりに(GeCH_(2)CH_(2)COOH)_(2)O_(3)をポリエステルの重量に基づいて1.0重量%(Ge元素に換算して0.43重量%)になるようにして使用した以外は、実施例1と同様にして靴下を作成した。」 (刊1j)「【0018】 その結果は、表1および表2に示すとおりであった。 【表1】 黄色ぶどう球菌に対する抗菌性 (当審注:表1は省略する。) 【0019】 【表2】 肺炎桿菌に対する抗菌性 (当審注:表2は省略する。) 【0020】表1および表2の結果から、実施例1?3の本発明の靴下は、比較例の靴下および対照例の局方ガーゼに比べて抗菌作用において極めて優れていることがわかる。」 (1-2)刊行物1に記載された発明 摘示(刊1a)の特に請求項3には銅化合物を銅元素に換算して0.0001重量%以上5.0重量%以下の量で含有する合成繊維から形成された製品が記載されており、摘示(刊1d)(刊1i)から、この銅化合物は好ましくはヨウ化銅(I)であること、摘示(刊1f)(刊1i)から、銅化合物は分散媒体と混合した微粒状混合物として含有されてよいこと、摘示(刊1b)(刊1c)(刊1d)(刊1j)から、銅化合物から放出された銅イオンが抗菌作用を示し、それによって合成繊維や合成繊維から形成された製品も抗菌作用を示すことが理解され、摘示(1h)から、この製品は各種治療用の布であってよいことも理解される。 これらのことから、刊行物1には、「合成繊維に対して、ヨウ化銅と分散媒体とを混合した微粒状混合物を、銅元素に換算して0.0001重量%以上5.0重量%以下で含有させて得られた抗菌作用を有する合成繊維から形成された各種治療用の布であって、繊維に含有されるヨウ化銅から銅イオンが放出されることによって抗菌作用を示す合成繊維から形成された各種治療用の布」の発明(以下、「引用発明1-1」という。)が記載されているといえる。 また、刊行物1には、「合成繊維に対して、ヨウ化銅と分散媒体とを混合した微粒状混合物を銅元素に換算して0.0001重量%以上5.0重量%以下の割合で含有させて得られた抗菌作用を有する合成繊維であって、繊維に含有されるヨウ化銅から銅イオンが放出されることによって抗菌作用を示す合成繊維」の発明(以下、「引用発明1-2」という。)も記載されているといえる。 (1-3)対比・判断 (1-3-1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と引用発明1-1とを対比する。 本件発明1の「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」と引用発明1-1の「ヨウ化銅と分散媒体とを混合した微粒状混合物」はいずれもヨウ化銅を含む粒子であるといえる。 本件特許明細書の【0098】には、本件発明における銅濃度(%)は有効成分の金属の重量をベースとすると記載されているから、引用発明1-1の「銅元素に換算して・・・の割合」は、本件発明1の「銅濃度」に相当する。 そして、引用発明1-1の銅の配合量範囲は本件発明1の範囲と重複するし、ヨウ化銅の配合例として摘示(刊1i)の【0016】に記載の実施例2では、ヨウ化第一銅をCu元素に換算して0.33重量%という、本件発明1の範囲に含まれる割合にて用いているから、引用発明1-1の銅濃度は、本件発明1の「ヨウ化銅は銅濃度で0.001?5重量%未満」に該当する。 また、本件特許明細書の【0104】には、医療機器に、綿ガーゼや繊維状の創傷包帯といった布製品が含まれる旨記載されているから、引用発明1-1の「抗菌作用を有する合成繊維から形成された各種治療用の布」は、本件発明1の「医療機器」である「抗菌性の製品」に該当する。 さらに、引用発明1-1の「繊維に含有されるヨウ化銅から銅イオンが放出されることによって抗菌作用を示す」は、本件発明1の「前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される」に相当する。 そうすると、本件発明1と引用発明1-1は、「ヨウ化銅を含む粒子を含む抗菌性の製品であって、前記製品における前記ヨウ化銅は銅濃度で0.001?5重量%未満であり、前記製品が、医薬品、医療機器又は消毒薬であり、前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される抗菌性の製品。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1-1> ヨウ化銅を含む粒子が本件発明1では「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」であるのに対し、引用発明1-1では「ヨウ化銅と分散媒体とを混合した微粒状混合物」である点 イ 判断 相違点1-1について検討する。 まず、本件発明1の「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子」について検討する。 摘示(1f)には分散媒体が金属銅、銅化合物、金属ゲルマニウムおよびゲルマニウム化合物を繊維形成性重合体に均一分散させるためのものであること、分散媒体は繊維形成性重合体と類似した化学構造を有していて、重合体と相溶性のものが適していること、その例として種々の可塑剤や有機化合物が挙げられることが記載されているものの、分散媒体が多孔質粒子であり得ることは記載されていない。 そうすると、引用発明1-1の分散媒体は多孔質粒子ではなく、また、刊行物1のその他の記載をみても、ヨウ化銅を多孔質粒子に含ませることは記載も示唆もされていないから、引用発明1-1の「ヨウ化銅と分散媒体とを混合した微粒状混合物」を「ヨウ化銅を含む多孔質粒子」とすることは動機付けられない。 さらに、引用発明1-1の「ヨウ化銅と分散媒体とを混合した微粒状混合物」を「ヨウ化銅を含む多孔質粒子」とすることを動機付ける本件優先日における技術常識もない。 次に、本件発明1の「(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子」について検討する。 本件発明1の「(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子」は、その記載からみて、機能化剤とヨウ化銅とが単に混合されているとか、単に接しているといった態様では足りず、ヨウ化銅の表面が機能化剤によって修飾されているものでなければならないと解される。 ここで、本件特許明細書の記載をみると、以下の記載がある。 「【0010】 本発明の第一の実施形態は、少なくとも一つの無機銅塩を持つ粒子を有する抗菌作用を持つ組成物を対象とするものである。少なくとも一つの機能化剤がその粒子に接し、その機能化剤は、担体内の粒子を安定化させて抗菌的に有効な量のイオンが微生物環境へ放出されるようにする。一実施形態において、担体は機能化剤がその中で溶解する液体である。別の実施形態では、担体は液体で、機能化剤がその中で溶解するが安定化されている。機能化剤には粒子を複合化させる作用があり、それによって液体内の粒子が安定化される。」 「【0012】 本発明の実施形態は機能化剤を含んでいる。前記機能化剤には、アミノ酸、チオール、ポリマー、特に親水性ポリマー、疎水性ポリマー乳剤、界面活性剤、またはリガンド特異的な結合剤が含まれている。前記アミノ酸剤の好適な実施形態としては、アスパラギン酸、ロイシンおよびレジンが、前記チオール剤の好適な実施形態としては、アミノチオール、チオグリセロール、チオグリシン、チオ乳酸、チオリンゴ酸、チオクト酸およびチオシランがある。前記親水性ポリマーの好適な実施形態としては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、前記ポリマーを形成するモノマーの少なくとも一つを有する共重合体およびそれらの混合体がある。その他の好ましいポリマーとしては、ポリウレタン、アクリルポリマー、およびエポキシ樹脂があり、表面修飾中に乳剤および液剤として使用される際は、特に、シリコーンおよびフルオロシリコーンが好まれる。・・・ 【0013】 ここで説明される本発明の他の実施形態は、CuI粉末を取得し、そのCuI粉末を極性非水溶媒で溶解し、前記CuIを極性非水溶媒内で安定化させるに十分な量の機能化剤を加え、機能化剤によって複合化されたCuI粒子粉末が形成されるよう、前記の安定化したCuI粒子を乾燥させられるまで溶媒を除去し、機能化剤によって複合化されたCuI粒子粉末を約1?約6pHの水溶液に分散させて水中で安定化するCuI粒子を形成し、任意選択で、水を除去できるまで安定化されたCuI粒子を乾燥させるというステップを含んでいるプロセスに従って生まれる、抗菌作用を持つ組成物である。もう一つの任意のステップとして、任意の乾燥ステップの前に分散のpHを中和させるというものがある。」 「【0143】 例23: PVPで機能化されたヨウ化銅ナノ粒子の合成 100mlの丸底フラスコへ、0.380gのヨウ化銅粉末(Aldrich,98%)と60mlsの無水アセトニトリル51gが添加された。フラスコに栓をして10分間超音波処理をし、黄色の透明な溶液を得た。この溶液に1.956gのPVP(Aldrich,Mol.wt.10K)が添加され、10分超音波処理されて淡い緑色の溶液が形成された。この溶液はロータリーエバポレータに移され、30℃で約30分、その後温度を60℃に上げて15分間真空下でアセトニトリルが除去された。これにより明るい緑色の固体が得られた(粗い粒子のポリマー粉末で、粉砕してどんな大きさの粉末にもできるが、ナノサイズよりもはるかに大きいことが望ましい)。この固体は安定していて、水で再分散させてナノ粒子を生成することもできる。このCuI/PVP固形物の入ったフラスコに、攪拌子と100mlの脱イオン水が添加され、乳白色の不透明な混合物が形成された。この混合物は周辺の光から遮断され、25℃で3日間攪拌された。これにより、半透明で淡いピンク色の安定した分散系が生成された。この分散系における銅の重量%は0.13%で、平均粒子径は4nmだった(動的光拡散による体積分率分布をベースとする)。」 「【0151】 例28: CuI/PVP分散液の合成 50mlの無水アセトニトリル(99.8%Sigma Aldrich Cat.#271004)の入った反応フラスコに10gのPVP(10,000MW,Sigma Aldrich Cat.#PVP10)を入れ、攪拌し、淡黄色の溶液を得た。この溶液に0.0476gのCuI(98.0%Sigma Aldrich Cat.#205540)を添加し、30分攪拌して淡緑色の溶液を得た。次に、30℃で減圧下で大部分のアセトニトリルを除去し、粘着性のペーストを得た。その後、温度を60℃に上げ、溶媒を完全に除去し、淡緑色の固体を得た。これに50mlのDI水(18Mohm-cm)を添加し、攪拌し、透明で鮮烈な黄色の分散液を得た。分散液の希釈されたサンプルに動的光散乱をすることによって平均粒径4nmのものを得た。」 「【0156】 例33: CuI/PVP-BASF+酢酸+HNO_(3)の合成 反応フラスコに4.05gのPVP(BASF K17)と50mlの無水アセトニトリル(99.8%Sigma Aldrich Cat.#271004)を入れ、蓋をし、常温で攪拌し、澄明な液を得た。この溶液に0.0476gのCul(99.999%Sigma Aldrich Cat.#215554)を添加し、25℃で30分攪拌して透明な淡緑色の溶液を得た。30℃で減圧下で大部分のアセトニトリルを除去し、粘着性のペーストを得た。その後、温度を60℃に上げ、溶媒を完全に除去し、均質な黄色の固体を得た。この固体に50mlのDI水(18Mohm-cm)を添加し、攪拌し、濁った白い色の分散液を得た。これを暗いところで3日間静置し、分散液は濁ったままで、淡白色の沈殿物があった。これを攪拌しながら0.3mlの氷酢酸(ACS試薬≧99.7%Sigma Aldrich Cat.#320099)をすぐに添加し、分散液がオレンジ/黄色に変わったが、まだ濁っていて、微量の沈殿があった。この混合液に0.05mlの濃硝酸(ACS試薬≧90%Sigma Aldrich Cat.#258121)を添加すると、溶液が透明で淡緑色の溶液に変わった。」 本件特許明細書【0010】【0012】【0013】の記載、特に【0013】には「CuI粉末を極性非水溶媒で溶解し、前記CuIを極性非水溶媒内で安定化させるに十分な量の機能化剤を加え、機能化剤によって複合化されたCuI粒子粉末が形成されるよう、前記の安定化したCuI粒子を乾燥させられるまで溶媒を除去し、」と記載されていることからみて、本件発明1の「(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子」の「表面が修飾される」とは、機能化剤がヨウ化銅粒子と複合体を形成してヨウ化銅粒子を安定化させ、抗菌的に有効な量のイオンが微生物環境へ放出される機能を付与するものでなくてはならず、そのための機能化剤としては具体的には【0012】に例示されているような物質を用いて、さらに【0013】に記載され、【0143】【0151】【0156】等で具体的に用いられている方法、すなわち、ヨウ化銅を極性非水溶媒に溶解させ、これにPVPのような機能化剤を添加した後、溶媒を除去するという工程を含む方法によって製造され、ようやく機能化剤で「表面が修飾され」たものとなると理解される。 これに対し、引用発明1-1の「ヨウ化銅と分散媒体とを混合した微粒状混合物」の分散媒体は、摘示(刊1f)をみると、ヨウ化銅を繊維形成性重合体に均一分散させるために用いられる物質で、繊維形成性重合体と相溶性であり且つ常温で液状の物質が好ましいとされており、具体的に例示されている物質も、本件発明の機能化剤として本件特許明細書【0012】に具体的に例示されている物質とは異なっているから、その機能においても、具体的な成分としても、本件発明の「機能化剤」とは異なるものである。 また、引用発明1-1の「ヨウ化銅と分散媒体とを混合した微粒状混合物」の製造方法についてみても、摘示(刊1f)(刊1i)から、ヨウ化銅と分散媒体を混合して湿式粉砕した微粒状混合物であるから、本件発明のヨウ化銅を極性非水溶媒に溶解させ、これにPVPのような機能化剤を添加した後、溶媒を除去するという工程を経て製造されたものでなく、ヨウ化銅の表面が機能化剤で修飾されたものとなっているとはいえない。また、製造工程が異なっていても、本件発明と同様にヨウ化銅の表面が機能化剤で修飾されたものとなっていることが明らかともいえない。 なお、本件特許権者は、令和2年5月25日付け意見書第6頁第8-15行において「本件特許明細書の段落【0143】の例23、段落【0151】の例28、段落【0156】の例33に、ヨウ化銅とPVP等の機能化剤とから固体の粒子を形成して、表面がPVP等の機能化剤で修飾されてなるヨウ化銅の粒子を得たことが記載されておりますが、これらの例は、いずれも、ヨウ化銅とPVPの混合液から固体粒子を得ており、刊行物2のように単にヨウ化銅微粒子を、PVPが添加された水や低級アルコール等の分散媒に分散させただけでは、表面がPVPによって修飾されてなるヨウ化銅の粒子(上記特徴1Aの(b))を得ることはできません。」と主張しており、当審の判断は、このような本件特許権者の主張とも合致する。 したがって、引用発明1-1の「ヨウ化銅と分散媒体とを混合した微粒状混合物」は、本件発明1の「(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子」に相当するとはいえない。 また、引用発明1-1の「ヨウ化銅と分散媒体とを混合した微粒状混合物」を「機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子」とすることは動機付けられない。 さらに、引用発明1-1の「ヨウ化銅と分散媒体とを混合した微粒状混合物」を「機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子」とすることを動機付ける本件優先日における技術常識もない。 以上のことから、引用発明1-1の「ヨウ化銅と分散媒体とを混合した微粒状混合物」は、本件発明1の「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」ではなく、また、本件発明1の「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」とすることは当業者が容易に想到しえたことともいえない。 ウ 結論 上記のとおり、相違点1-1は実質的な相違点であり、当業者が容易に想到できたものでもないから、本件発明1は引用発明1-1ではなく、また、引用発明1-1及び刊行物1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (1-3-2)本件発明2、5?7について 本件発明2、5?7は、本件発明1を引用するものであって、いずれも本件発明1と同様に「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」を発明特定事項とする発明であり、本件発明1と同じ相違点1-1を有するものである。 そして、相違点1-1については、上記(1-3-1)で既に検討したとおりであるから、本件発明2、5?7は、本件発明1と同様に、引用発明1-1ではなく、また、引用発明1-1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (1-3-3)本件発明9について ア 対比 本件発明9と引用発明1-2とを対比する。 本件発明9の「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」と引用発明1-2の「ヨウ化銅と分散媒体とを混合した微粒状混合物」はいずれもヨウ化銅を含む粒子であるといえる。 また、上記(1-3-1)アにおいて検討したのと同様に、引用発明1-2の「銅元素に換算して・・・の割合」は、本件発明9の「銅濃度」に相当し、引用発明1-2の銅濃度は、本件発明9の「ヨウ化銅の銅濃度で0.001?5重量%未満」に相当し、引用発明1-2の「繊維に含有されるヨウ化銅から銅イオンが放出されることによって抗菌作用を示す」は、本件発明9の「前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される」に相当する。 また、本件発明9は「消費者製品」であるところ、引用発明1-2の「抗菌作用を示す合成繊維」は明らかに消費者に用いられるためのものであるから、引用発明1-2の「抗菌作用を示す合成繊維」は、本件発明9の「消費者製品」である「抗菌性の製品」に相当する。 そうすると、本件発明9と引用発明1-2は、「ヨウ化銅を含む粒子を含む抗菌性の製品であって、前記製品における前記ヨウ化銅は銅濃度で0.001?5重量%未満であり、前記製品が消費者製品であり、前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される抗菌性の製品。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1-2> ヨウ化銅を含む粒子が本件発明9では「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」であるのに対し、引用発明1-2では「ヨウ化銅と分散媒体とを混合した微粒状混合物」である点 イ 判断 相違点1-2について検討する。 摘示(1f)には分散媒体が金属銅、銅化合物、金属ゲルマニウムおよびゲルマニウム化合物を繊維形成性重合体に均一分散させるためのものであること、分散媒体は繊維形成性重合体と類似した化学構造を有していて、重合体と相溶性のものが適していること、その例として種々の可塑剤や有機化合物が挙げられることが記載されているものの、分散媒体がポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体であり得ることは記載されていない。 そして、摘示(1f)に記載されているように、分散媒体は銅化合物等を分散させる繊維形成性重合体との相溶性等を考慮して、適切なものを選択して使用するものであるところ、ポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体が、銅化合物等を分散させる繊維形成性重合体との相溶性等を考慮した場合に適切なものであるという本件優先日における技術常識もないから、これらを分散媒体として用いることは動機づけられない。 したがって、引用発明1-2の「ヨウ化銅と分散媒体とを混合した微粒状混合物」は、本件発明9の「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」ではなく、また、本件発明9の「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」とすることは当業者が容易に想到しえたこととはいえない。 ウ 結論 上記のとおり、相違点1-2は実質的な相違点であり、当業者が容易に想到できたものでもないから、本件発明9は引用発明1-2ではなく、また、引用発明1-2及び刊行物1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (1-3-4)本件発明10?12、15、16について 本件発明10?12、15、16は、本件発明9を引用するものであって、いずれの発明も、本件発明9の「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」を発明特定事項とする発明であり、本件発明9と同じ相違点1-2を有するものである。 そして、本件発明9の相違点1-2については、上記(1-3-3)で既に検討したとおりであるから、本件発明10?12、15、16は、本件発明9と同様に、引用発明1-2ではなく、また、引用発明1-2及び刊行物1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (2)刊行物2を主引例とする取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)について (2-1)刊行物2の記載 本件特許出願前に頒布された刊行物である上記刊行物2には、以下の記載がある。 (刊2a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 一価の銅化合物微粒子および分散媒を含むことを特徴とするウイルス不活化剤。 【請求項2】 前記一価の銅化合物微粒子が、塩化物、酢酸物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、酸化物、水酸化物、シアン化物、チオシアン酸塩、またはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載のウイルス不活化剤。 【請求項3】 前記一価の銅化合物微粒子が、CuCl、Cu_(2)(CH_(3)COO)_(2)、CuI、CuBr、CuO_(2)、CuOH、CuCN、CuSCNからなる群から少なくとも1種類選択されることを特徴とする請求項1または2に記載のウイルス不活化剤。 【請求項4】 前記分散媒が水および/または低級アルコールであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載のウイルス不活化剤。 【請求項5】 請求項1から4のいずれか1つに記載のウイルス不活化剤と、噴射剤とを含むことを特徴とするエアゾール製品。」 (刊2b)「【0001】 本発明は、タンパク質の有無に関わらず様々なウイルスを不活化することができる一価の銅化合物微粒子を含有するウイルス不活化剤に関する。 ・・・ 【0004】 これらの問題を解決するために、抗ウイルス効果のある金属を担持したゼオライトなどの無機多孔質物質との複合繊維を用いた抗ウイルス不織布が知られている(特許文献1)。・・・ 【0006】 しかしながら、ゼオライトなどの無機多孔質物質は、ウイルスよりも、タンパク質などの有機成分と優先的に結合する。そのため、両者が混在した環境下では、ウイルスへの結合能が低下したり、結合したウイルスを放出してしまう、などの問題がある。・・・ 【0007】 そこで本発明は、上記課題を解決するために、エンベロープの有無に関係なく、また、脂質やタンパク質の存在下でも様々なウイルスを不活化することができるウイルス不活化剤を提供するものである。」 (刊2c)「【0015】 本実施形態のウイルス不活化剤によるウイルスの不活化機構については現在のところ必ずしも明確ではないが、一価の銅化合物微粒子にウイルスが接触したときに、一価の銅化合物微粒子の一部が空気中の水分によって、より安定な二価の銅イオンになろうとするために電子を放出し、その時に放出された電子がウイルス表面の電気的チャージやDNAなどに何らかの影響を与えることにより、不活化させるものと考えられる。」 (刊2d)「【0017】 実施形態において、有効成分である一価の銅化合物微粒子の種類については特に限定されないが、塩化物、酢酸物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、酸化物、水酸化物、シアン化物、チオシアン酸塩またはそれらの混合物からなることが好ましい。このうち、一価の銅化合物が、CuCl、Cu_(2)(CH_(3)COO)_(2)、CuI、CuBr、CuO_(2)、CuOH、CuCN、CuSCNからなる群から少なくとも1種類選択されることが一層好適である。 【0018】 本実施形態において、含有される一価の銅化合物微粒子の大きさは特に限定されないが、平均の粒子径が1nm以上、200μm以下とすることが好ましい。 【0019】 さらに、ウイルス不活化剤は、一価の銅化合物微粒子について、良好な分散安定性を有することが好ましい。また、エアゾール化したり噴霧器などを用いてウイルス不活化剤を基材などの被処理物に噴霧できるように構成する場合、ノズルからの良好な放出性を有していることが好ましい。このような点を考慮すると、一価の銅化合物微粒子の平均粒子径は、10nmから100μmであることが特に好ましい。 【0020】 また、本実施形態において、含有される一価の銅化合物微粒子の量としては使用する目的や用途及び微粒子の大きさを考慮して適宜設定すればよいが、含有される不揮発成分に対し0.1質量%から60質量%であることが好ましい。一価の銅化合物微粒子が0.1質量%に満たない場合は、抗ウイルス作用が十分に発現しないことがある。また、60質量%よりも多くしても60質量%の場合と比較して抗ウイルス性の効果に大差はない。」 (刊2e)「【0022】 本実施形態の一価の銅化合物微粒子および分散媒を含有するウイルス不活化剤には、分散安定性を高めるための分散剤が含まれることが好ましい。分散剤としては、例えば界面活性剤を用いることができる。具体的には、アニオン系界面活性剤とノニオン系界面活性剤を使用できる。アニオン系界面活性剤としては、親水基としてカルボン酸、スルホン酸、あるいはリン酸構造を持つものとすることができる。・・・。 【0023】 ・・・ 【0024】 さらに、高分子系分散剤としては、ポリウレタンプレポリマー、スチレン・ポリカルボン酸共重合体、リグニンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロース、アクリル酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩、アクリルアミド、ポリビニルピロリドン、カゼイン、ゼラチン、さらに、オリゴマーおよびプレポリマーとしては、不飽和ポリエステル、不飽和アクリル、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、シリコーンアクリレート、マレイミド、ポリエン/ポリチオールや、アルコキシオリゴマーなどが用いられる。」 (刊2f)「【0033】 (実施例2) 市販のヨウ化銅(I)粉末(和光純薬工業株式会社製 和光一級、粒径5.0μm)をエタノール100μlに懸濁液濃度10質量%、または2質量%になるように懸濁し、ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス性を評価した。なお、本明細書において懸濁液濃度とは、懸濁液を構成するヨウ化物や溶媒等の全成分の質量を100%とし、その中の特定成分(例えばヨウ化物)の質量%を意味する。」 (刊2g)「【0035】 (本発明の抗ウイルス性評価) 抗ウイルス性は、ノロウイルスの代替ウイルスとして一般によく用いられるネコカリシウイルスに対する抗ウイルス性を評価した。各サンプル100μlと、ブランクとしてMEM希釈液100μlとし、最終濃度が40mg/ml、20mg/ml、10mg/ml、0mg/mlになるようにタンパク質としてブイヨンタンパクを加えたウイルス液100μlを、各サンプルおよびブランクに加え、室温25℃で1分間、200rpm/分にて振蘯した。続いて、それぞれの化合物の反応を停止させるために20mg/mlのブイヨンタンパクを1800μl加えた。その後、各反応サンプルが10^(-2)?10^(-5)になるまでMEM希釈液にて希釈を行い(10倍段階希釈)、コンフルエントCrFK細胞に100μl、反応後のサンプル液を接種した。90分間のウイルス吸着後、0.7%寒天培地を重層し、48時間、34℃、5%CO_(2)インキュベータにて培養後、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い形成されたプラーク数をカウントして、ウイルスの感染価(PFU/0.1ml,Log10);(PFU:plaque-forming units)を算出した。そして、実施例を用いた場合におけるウイルスの感染価とコントロールにおけるウイルス感染価とに基づき、ウイルス活性を比較した。 【0036】 (コントロール1) サンプルを添加しないMEM希釈液を用い、コントロールとした。 【0037】 【表1】(当審注:表1は省略する。) 【0038】 上記結果より、一価の銅化合物である実施例1と実施例2では、タンパク質を含まない場合、ウイルスとの接触時間1分という短時間で、不活化率99.9998%以下という非常に高い抗ウイルス性能(ウイルス不活化効果)があることが認められた。また、タンパク質を40mg/mlの高濃度になるように加えた場合でも、ウイルスとの接触時間が1分という短時間で、不活化率99.9998%以下という非常に高い抗ウイルス性能を示した。特に、実施例1は、1価の銅化合物微粒子の割合が実施例2の場合より少なくとも、高い抗ウイルス性能を示している。すなわち、1価の銅化合物微粒子として塩化銅(I)の微粒子を用いることがさらに好ましいことが、当該結果より理解される。これに対し、比較例1では、タンパク質を加えない場合、短時間に不活化率99.9998%以下という高い抗ウイルス性能を示すものの、タンパク質を加えた全ての系では、ほとんどウイルスを不活化できなかった。なお、ここでいう不活化率とは下記の式で定義された値を言う。 不活化率(%)= 100×(10^(ブランクのウイルス感染価)-10^(試料のウイルス感染価))/10^(ブランクのウイルス感染価)」 (2-2)刊行物2に記載された発明 摘記(刊2a)の請求項3から、刊行物2には、「ヨウ化銅微粒子および分散媒を含むことを特徴とするウイルス不活化剤」の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。 (2-3)対比・判断 (2-3-1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と引用発明2とを対比する。 本件発明1の「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」と引用発明2の「ヨウ化銅微粒子」はいずれもヨウ化銅を含む粒子であるといえる。 また、本件特許明細書の【0037】には、本件発明における抗菌効果は、細菌、ウイルス、カビ、菌類または胞子の殺滅を含むと記載されており、段落【0212】のポリオウイルスに対する使用例の記載からすると、本件発明1の「抗菌性」とは、ウイルスを含む幅広い病原体に対する効能を意図していると解される。 よって、引用発明2の「ウイルス不活化剤」は、ウイルスを不活化するための剤であるから、本件発明1の「医薬品」又は「消毒薬」に相当し、また、「抗菌性の製品」にも相当する。 そうすると、本件発明1と引用発明2は、「ヨウ化銅を含む粒子を含む抗菌性の製品であって、前記製品が、医薬品、医療機器又は消毒薬である抗菌性の製品。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点2-1> ヨウ化銅を含む粒子が本件発明1では「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」であるのに対し、引用発明2では「ヨウ化銅微粒子」である点 <相違点2-2> 本件発明1では、「前記製品における前記ヨウ化銅は銅濃度で0.001?5重量%未満」と特定されているのに対して、引用発明2では、銅濃度についての特定がない点 <相違点2-3> 本件発明1では「前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される」と特定されているのに対して、引用発明2ではそのような特定がない点 イ 判断 事案に鑑み、まず、相違点2-1について検討する。 引用発明2の「ヨウ化銅微粒子」は、摘示(刊2f)において市販のヨウ化銅(I)粉末をエタノールに懸濁させて使用しているように、ヨウ化銅そのものの微粒子であるから、本件発明1の「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子」には相当しない。 また、摘示(刊2b)から、引用発明2より前の従来技術として、抗ウイルス効果のある金属を担持したゼオライトなどの無機多孔質物質が知られていたが、ゼオライトなどの無機多孔質物質は、ウイルスよりも、タンパク質などの有機成分と優先的に結合するため、ウイルスとタンパク質が混在した環境下では、ウイルスへの結合能が低下したり、結合したウイルスを放出してしまう、などの問題があったところ、引用発明2は、この問題を解決するものであったことが理解されるから、引用発明2のヨウ化銅微粒子を多孔質粒子に含有せしめることには阻害要因があるといえ、本件発明1の「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子」とすることは、当業者が容易に想到しえたこととはいえない。 さらに、引用発明2の「ヨウ化銅微粒子」を「ヨウ化銅を含む多孔質粒子」とすることを動機付ける本件優先日における技術常識もない。 引用発明2の「ヨウ化銅微粒子」は、上記と同様に、ヨウ化銅そのものの微粒子であるから、本件発明1の「(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子」にも相当しない。 また、摘示(刊2e)には引用発明2において分散安定性を高めるためにウイルス賦活化剤に分散剤が含まれることが好ましいことが記載され、分散剤としてポリビニルピロリドン等の種々のものが例示もされているが、前記(1)(1-3-1)イにおいて検討したとおり、本件発明1の「(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子」は、機能化剤とヨウ化銅とが単に混合されているとか、単に接しているといった態様では足りず、ヨウ化銅の表面が機能化剤によって修飾されているものでなければならないと解されるところ、摘示(刊2e)に記載された分散剤は、本件発明1の「機能化剤」とはその機能において異なる上に、摘示(刊2e)に基いて、引用発明2において分散剤をさらに含有させる場合であっても、分散剤でヨウ化銅の「表面を修飾した」粒子としてから含有させることは動機づけられない。 さらに、引用発明2の「ヨウ化銅微粒子」を「機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子」とすることを動機付ける本件優先日における技術常識もない。 以上のことから、引用発明2の「ヨウ化銅微粒子」は、本件発明1の「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」ではなく、また、本件発明1の「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」とすることは当業者が容易に想到しえたことともいえない。 ウ 結論 上記のとおり、相違点2-1は実質的な相違点であり、当業者が容易に想到できたものでもないから、相違点2-2及び相違点2-3について検討するまでもなく、本件発明1は引用発明2ではなく、また、引用発明2及び刊行物2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (2-3-2)本件発明5、7、8について 本件発明5、7、8は、本件発明1を引用するものであって、いずれの発明も、本件発明1の「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」を発明特定事項とする発明であり、本件発明1と同じ相違点2-1を有するものである。 そして、本件発明1の相違点2-1については、上記(2-3-1)で既に検討したとおりであるから、本件発明5、7、8は、本件発明1と同様に、引用発明2ではなく、また、引用発明2及び刊行物2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (2-3-3)本件発明9について ア 対比 本件発明9と引用発明2とを対比する。 本件発明9の「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」と引用発明2の「ヨウ化銅微粒子」はいずれもヨウ化銅を含む粒子であるといえる。 また、上記(2-3-1)において検討したのと同様に、引用発明2の「ウイルス不活化剤」は、ウイルスを不活化するための剤であるから、本件発明9の「抗菌性の製品」に相当する。 そして、引用発明2の「ウイルス不活化剤」は明らかに消費者に用いられるためのものであるから、引用発明2の「ウイルス不活化剤」は、本件発明9の「消費者製品」にも相当する。 そうすると、本件発明9と引用発明2は、「ヨウ化銅を含む粒子を含む抗菌性の製品であって、前記製品が消費者製品であり、抗菌性の製品。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点2-4> ヨウ化銅を含む粒子が本件発明9では「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」であるのに対し、引用発明2では「ヨウ化銅微粒子」である点 <相違点2-5> 本件発明9では、「前記製品における前記ヨウ化銅は銅濃度で0.001?5重量%未満」と特定されているのに対して、引用発明2では、銅濃度についての特定がない点 <相違点2-6> 本件発明9では「前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される」と特定されているのに対して、引用発明2ではそのような特定がない点 イ 判断 事案に鑑み、まず、相違点2-4について検討する。 引用発明2の「ヨウ化銅微粒子」は、摘示(刊2f)において市販のヨウ化銅(I)粉末をエタノールに懸濁させて使用しているように、ヨウ化銅そのものの微粒子であるから、本件発明9のヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」には相当しない。 また、摘示(刊2e)には引用発明2において分散安定性を高めるためにウイルス賦活化剤に分散剤が含まれることが好ましいことが記載され、分散剤としてポリビニルピロリドン等の種々のものが例示もされている。 ここで、本件発明9の「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」について、本件特許明細書の記載をみると、以下の記載がある。 「【0013】 ここで説明される本発明の他の実施形態は、CuI粉末を取得し、そのCuI粉末を極性非水溶媒で溶解し、前記CuIを極性非水溶媒内で安定化させるに十分な量の機能化剤を加え、機能化剤によって複合化されたCuI粒子粉末が形成されるよう、前記の安定化したCuI粒子を乾燥させられるまで溶媒を除去し、機能化剤によって複合化されたCuI粒子粉末を約1?約6pHの水溶液に分散させて水中で安定化するCuI粒子を形成し、任意選択で、水を除去できるまで安定化されたCuI粒子を乾燥させるというステップを含んでいるプロセスに従って生まれる、抗菌作用を持つ組成物である。もう一つの任意のステップとして、任意の乾燥ステップの前に分散のpHを中和させるというものがある。」 「【0143】 例23: PVPで機能化されたヨウ化銅ナノ粒子の合成 100mlの丸底フラスコへ、0.380gのヨウ化銅粉末(Aldrich,98%)と60mlsの無水アセトニトリル51gが添加された。フラスコに栓をして10分間超音波処理をし、黄色の透明な溶液を得た。この溶液に1.956gのPVP(Aldrich,Mol.wt.10K)が添加され、10分超音波処理されて淡い緑色の溶液が形成された。この溶液はロータリーエバポレータに移され、30℃で約30分、その後温度を60℃に上げて15分間真空下でアセトニトリルが除去された。これにより明るい緑色の固体が得られた(粗い粒子のポリマー粉末で、粉砕してどんな大きさの粉末にもできるが、ナノサイズよりもはるかに大きいことが望ましい)。この固体は安定していて、水で再分散させてナノ粒子を生成することもできる。このCuI/PVP固形物の入ったフラスコに、攪拌子と100mlの脱イオン水が添加され、乳白色の不透明な混合物が形成された。この混合物は周辺の光から遮断され、25℃で3日間攪拌された。これにより、半透明で淡いピンク色の安定した分散系が生成された。この分散系における銅の重量%は0.13%で、平均粒子径は4nmだった(動的光拡散による体積分率分布をベースとする)。」 「【0151】 例28: CuI/PVP分散液の合成 50mlの無水アセトニトリル(99.8%Sigma Aldrich Cat.#271004)の入った反応フラスコに10gのPVP(10,000MW,Sigma Aldrich Cat.#PVP10)を入れ、攪拌し、淡黄色の溶液を得た。この溶液に0.0476gのCuI(98.0%Sigma Aldrich Cat.#205540)を添加し、30分攪拌して淡緑色の溶液を得た。次に、30℃で減圧下で大部分のアセトニトリルを除去し、粘着性のペーストを得た。その後、温度を60℃に上げ、溶媒を完全に除去し、淡緑色の固体を得た。これに50mlのDI水(18Mohm-cm)を添加し、攪拌し、透明で鮮烈な黄色の分散液を得た。分散液の希釈されたサンプルに動的光散乱をすることによって平均粒径4nmのものを得た。」 「【0156】 例33: CuI/PVP-BASF+酢酸+HNO_(3)の合成 反応フラスコに4.05gのPVP(BASF K17)と50mlの無水アセトニトリル(99.8%Sigma Aldrich Cat.#271004)を入れ、蓋をし、常温で攪拌し、澄明な液を得た。この溶液に0.0476gのCul(99.999%Sigma Aldrich Cat.#215554)を添加し、25℃で30分攪拌して透明な淡緑色の溶液を得た。30℃で減圧下で大部分のアセトニトリルを除去し、粘着性のペーストを得た。その後、温度を60℃に上げ、溶媒を完全に除去し、均質な黄色の固体を得た。この固体に50mlのDI水(18Mohm-cm)を添加し、攪拌し、濁った白い色の分散液を得た。これを暗いところで3日間静置し、分散液は濁ったままで、淡白色の沈殿物があった。これを攪拌しながら0.3mlの氷酢酸(ACS試薬≧99.7%Sigma Aldrich Cat.#320099)をすぐに添加し、分散液がオレンジ/黄色に変わったが、まだ濁っていて、微量の沈殿があった。この混合液に0.05mlの濃硝酸(ACS試薬≧90%Sigma Aldrich Cat.#258121)を添加すると、溶液が透明で淡緑色の溶液に変わった。」 これらの記載からみて、本件発明9の「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」とは、ヨウ化銅を極性非水溶媒に溶解させ、これにポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体を添加した後、溶媒を除去することによって、ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とが複合化して成形された粒子であると理解される。 そうすると、摘示(刊2e)に基いて、引用発明2においてポリビニルピロリドンをさらに含有させる場合であっても、それによって「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)とから成形された粒子」が形成されるとはいえず、ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)とから成形された粒子としてから含有させることは動機づけられない。 さらに、引用発明2の「ヨウ化銅微粒子」を「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」とすることを動機付ける本件優先日における技術常識もない。 なお、本件特許権者は、令和2年5月25日付け意見書第8頁第1-13行において「刊行物2には、上述したように、【0024】に、高分子系分散剤の数多くの例示物の一つとして、ポリビニルピロリドン(PVP)(上記特徴9A)が記載されております。 しかしながら、刊行物2には、上述したように、一価の銅化合物微粒子を分散するための水または低級アルコールなどの分散媒に添加するための高分子系分散剤が例示されているに留まり、本件発明9の上記特徴9Aのように、ヨウ化銅とPVPとで粒子を形成することについてまでは、記載も示唆もされておりません。なお、本件特許明細書の段落【0143】の例23、段落【0151】の例28、段落【0156】の例33に、ヨウ化銅とPVPとから固体の粒子を得たことが記載されておりますが、これらの例は、いずれも、ヨウ化銅とPVPの混合液から固体粒子を得ており、刊行物2のように単にヨウ化銅微粒子を、PVPが添加された水や低級アルコール等の分散媒に分散させただけでは、ヨウ化銅とPVPとから形成された粒子(上記特徴9A)を得ることはできません。」と主張しており、当審の判断は、このような本件特許権者の主張とも合致する。 したがって、引用発明2の「ヨウ化銅微粒子」は、本件発明9の「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」ではなく、また、本件発明9の「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」とすることは、当業者が容易に想到しえたこととはいえない。 ウ 結論 上記のとおり、相違点2-4は実質的な相違点であり、当業者が容易に想到できたものでもないから、相違点2-5及び相違点2-6について検討するまでもなく、本件発明9は引用発明2ではなく、また、引用発明2及び刊行物2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (2-3-4)本件発明12について 本件発明12は、本件発明9を引用するものであって、本件発明9の「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」を発明特定事項とする発明であり、本件発明9と同じ相違点2-4を有するものである。 そして、本件発明9の相違点2-4については、上記(2-3-3)で既に検討したとおりであるから、本件発明12は、本件発明9と同様に、引用発明2ではなく、また、引用発明2及び刊行物2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)電子的技術情報3を主引例とする取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)について (3-1)電子的技術情報3の記載 本件特許出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった電子的技術情報3には、以下の記載がある。 (刊3a)「請求の範囲 [請求項1] ヨウ素と周期律表の第4周期から第6周期かつ8族から15族の元素とからなる少なくとも1種のヨウ化物の粒子を有効成分として含むことを特徴とする抗ウイルス剤。 [請求項2] 前記周期律表の第4周期から第6周期かつ8族から15族の元素が、Cu、Ag、Sb、Ir、Ge、Sn、Tl、Pt、Pd、Bi、Au、Fe、Co、Ni、Zn、In、またはHgであることを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス剤。 [請求項3] 前記ヨウ化物が、CuI、AgI、SbI_(3)、IrI_(4)、GeI_(4)、GeI_(2)、SnI_(2)、SnI_(4)、TlI、PtI_(2)、PtI_(4)、PdI_(2)、BiI_(3)、AuI、AuI_(3)、FeI_(2)、CoI_(2)、NiI_(2)、ZnI_(2)、HgIおよびInI_(3)からなる群から少なくとも1つ選択されることを特徴とする請求項2に記載の抗ウイルス剤。 [請求項4] 少なくとも1種の一価の銅化合物の粒子を有効成分として含むことを特徴とする抗ウイルス剤。 [請求項5] 前記一価の銅化合物が、塩化物、酢酸物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、酸化物、またはチオシアン化物であることを特徴とする請求項4に記載の抗ウイルス剤。 [請求項6] 前記一価の銅化合物がCuCl、CuOOCCH_(3)、CuBr、CuI、CuSCN、Cu_(2)SおよびCu_(2)Oからなる群から少なくとも1つ選択されることを特徴とする請求項5に記載の抗ウイルス剤。 [請求項7] 請求項1から6のいずれか1つに記載の抗ウイルス剤が含有されている、または外面に固定されていることを特徴とする繊維構造体。 [請求項8] 請求項1から6のいずれか1つに記載の抗ウイルス剤が含有されている、または外面に固定されていることを特徴とする成型体。 [請求項9] 請求項1から6のいずれか1つに記載の抗ウイルス剤が含有されている、または外面に固定されていることを特徴とするフィルムまたはシート。」 (刊3b)「[0017] 本発明によれば、ウイルスを不活化することができる抗ウイルス剤、および当該抗ウイルス剤を備える製品を提供することができる。」 (刊3c)「[0019] 本実施形態の抗ウイルス剤のウイルスを不活化する機構については現在のところ必ずしも明確ではないが、本実施形態に係るヨウ化物や一価の銅化合物とウイルスとが接触することにより、ウイルスのDNAやRNAに作用して不活化したり、細胞質が破壊されることなどが考えられる。また、一価の銅化合物については、空気中の水分などにより生じた一価の銅イオンが、電子を放出して、より安定な二価の銅イオンになる時の電子の移動がウイルス表面の電気的チャージに影響を与えて不活化させる、とも考えられる。」 (刊3d)「[0020] 本実施形態の抗ウイルス剤は、有効成分であるヨウ化物、または一価の銅化合物が、安定剤等を混合しなくとも抗ウイルス性を示す。すなわち、本実施形態の抗ウイルス剤は、従来の抗ウイルス剤と比較して、構成成分のより自由な設計が可能となる。 [0021] また、安定剤等の混合を省略できるため、抗ウイルス成分の前処理を経ることなく製造でき、製造過程を簡略化することができる。加えて、本実施形態の抗ウイルス剤は空気中および水などの分散液中で安定であるため、特殊な洗浄等を行う必要がない。そのため、ウイルスの不活化を容易に発現および維持することができる。」 (刊3e)「[0026] 本実施形態において、ヨウ化物や一価の銅化合物の粒子の大きさは特に限定されず、等業者が適宜設定することができるが、平均粒子径が500μm以下の微粒子とすることが好ましい。さらに樹脂に混練して紡糸する場合には、繊維強度の低下を考慮すると1μm以下であることが好ましい。また、本実施形態においては特に限定されず、当業者が適宜設定可能であるが、粒子の大きさは1nm以上とすることが、粒子の製造上、取扱上および化学的安定性の観点より好ましい。なお、本明細書において、平均粒子径とは、体積平均粒子径のことをいう。」 (刊3f)「[0028] 本実施形態の抗ウイルス剤は、様々な態様で用いることができる。例えば、本実施形態の抗ウイルス剤は、取り扱いの点から考えると粉体が最も好適に用いられるが、これに限られるものではない。例えば、当該抗ウイルス剤を水などの分散媒に分散させた状態で用いてもよい。・・・さらに、他の抗ウイルス剤、抗菌剤、防黴剤、抗アレルゲン剤、触媒、反射防止材料、遮熱特性を持つ材料などと混合されて使用されるようにしてもよい。」 (刊3g)「[0029] さらにまた、本実施形態の抗ウイルス剤は、繊維構造体に含有される、または当該繊維構造体の外面に固定される構成とすることができる。 [0030] 含有、または固定させるときの具体的な処理については当業者が適宜選択することができ、特に限定されない。例えば高分子材料に本実施形態の抗ウイルス剤を添加後、混練、紡糸することで、繊維構造体に含有されるようにしてもよい。また、織物や不織布などの繊維構造物へバインダーなどを用いて固定してもよい。さらに、ゼオライトなどの無機材料へ抗ウイルス剤を固定した後、抗ウイルス剤が固定された該無機材料を繊維構造物に固定して、抗ウイルス性繊維構造物を構成することもできる。なお、本明細書において、抗ウイルス剤の含有とは、当該抗ウイルス剤が外面に露出している場合も含む概念である。 [0031] 繊維構造物は、具体的には、マスク、エアコンフィルター、空気清浄機用フィルター、衣服、防虫網、鶏舎用ネットなどが挙げられる。また、繊維構造物を構成する高分子材料としては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ナイロン、アクリル、ポリテトラフロロエチレン、ポリビニルアルコール、ケブラー、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、レーヨン、キュプラ、テンセル、ポリノジック、アセテート、トリアセテート、綿、麻、羊毛、絹、竹、等が挙げられる。 [0032] さらにまた、本実施形態の抗ウイルス剤は、成型体に含有される、または該成型体の外面に固定される構成とすることもできる。繊維構造体の場合と同様に、本実施形態においては、抗ウイルス剤を含有、または外面に固定させるときの具体的な処理については特に限定されず、当業者が適宜選択できる。例えば、成型体が樹脂などの有機物から成るものについては、成型前に樹脂に混練してから当該成型体を成型してもよい。また、成型体が金属などの無機物から成るものについては、バインダーを用いて外面に固定することができる。このように、本実施形態の抗ウイルス剤を備えることで、成型体に接触したウイルスを不活化することができる。・・・ [0033] さらにまた、本発明の抗ウイルス剤は、前述の繊維構造体や成型体と同じく、混練やバインダーを用いた固定方法により、フィルムやシートに含有される、または外面に固定される構成とすることができる。フィルムまたはシートとして、具体的には、壁紙、包装袋、または包装用フィルムなどが挙げられる。これらの表面に付着したウイルスは、抗ウイルス剤の作用により不活化される。したがって、当該壁紙を病院の壁に貼り付けたり、当該包装袋または包装用フィルムにより医療用具を包装することで、病院における院内感染や、医療用具のウイルス汚染を抑制することができる。 [0034] ここで、本実施形態の抗ウイルス剤を構成するヨウ化物の粒子または一価の銅化合物の粒子の1つであるヨウ化銅(I)を例として、該抗ウイルス剤が含有される、または外面に固定される抗ウイルス繊維の製法を説明すると、以下に示すような種々の方法が挙げられる。具体的には、繊維にヨウ素を吸着させ、ついで得られたヨウ素吸着繊維を第一銅化合物水溶液で処理して該形成体中にヨウ化銅(I)を含有させる方法、ヨウ化銅(I)粉末を溶融樹脂中に分散し紡糸する方法、ヨウ化銅(I)粉末を高分子溶液中に分散し紡糸する方法、メカニカルミリング法により、繊維表面にヨウ化銅(I)粉末を固定化する方法、繊維表面にコーティング剤で固定化する方法などを選択することができる。これらの方法では、幅広い高分子材料にヨウ化銅(I)を含有または外面に固定させることができ、さらに、低濃度から高濃度までの幅広い固定化が可能である。 [0035] 上記実施形態の抗ウイルス剤を含有する抗ウイルス性繊維においては、有効成分であるヨウ化物が抗ウイルス性繊維に対し、0.2質量%以上含有される、または固定されることがより十分な抗ウイルス性を得る上で好ましい。なお、ヨウ化物の含有量(固定量)の上限については特に限定されず、当業者が適宜設定できるが、例えば、80質量%以下とすることが繊維の強度等の物理的特性の点から好ましい。・・・ [0036] また、塩化銅(I)を一価の銅化合物の例として、本実施形態の抗ウイルス剤が含有される、または外面に固定される抗ウイルス繊維の製法としては、以下に示すような種々な方法が挙げられる。すなわち、溶融させた高分子に塩化銅(I)粉末を投入し、混練することによって分散させたのちに繊維を構成する方法や、メカニカルミリング法により、繊維表面に塩化銅(I)粉末を固定化する方法、繊維表面にコーティング剤で固定化する方法、溶媒に溶かした高分子に塩化銅(I)を分散させた後、他の材料に塗布し固定化する方法、塩酸水溶液に塩化銅(I)を溶解させ、その水溶液中にナイロン6やポリアクリル酸などの親水性の高分子材料を浸漬することにより、高分子材料に1価の銅イオンを固定化した後、塩酸水溶液でさらに浸漬することによって析出させる方法などがある。また、温度応答性を持つポリ-N-イソプロピルアクリルアミドで塩化銅(I)を包み込んだカプセルを構成し、該カプセルを繊維に含有または外面に固定化する方法などを用いてもよい。 [0037] なお、以上ではヨウ化銅を用いたときに抗ウイルス繊維に対し0.2質量%から80質量%含有または固定されることが好ましいと説明したが、同様の理由から、本実施形態に係る他のヨウ化物や1価の銅化合物についても抗ウイルス繊維に対し0.2質量%から80質量%含有または固定されることが好ましい。また、当然ではあるが、繊維構造体とした場合も、本実施形態の抗ウイルス剤が、繊維構造体に対し、0.2質量%から80質量%含有または固定されることが好ましい。」 (刊3h)「[0038] 次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。 (抗HA効果による抗ウイルス性評価) (実施例1?27) 表1に示す市販のヨウ素化合物および一価の銅化合物の粉末を、それぞれMEM(Minimum Essential Medium Eagle、MPバイオメディカル社製)100μlに懸濁液濃度5、0.5質量%となるように調整し、抗ウイルス性を評価した。なお、本明細書において、懸濁液濃度とは、懸濁液を構成するヨウ化物や一価の銅化合物と溶媒等の全成分の質量を100%とし、その中の特定成分(例えばヨウ化物や一価の銅化合物)の質量%を意味する。 (評価方法) 実施例1から27について、赤血球凝集(HA)の力価(HA価)を定法により、目視にて完全凝集を判定した。対象ウイルスとして、MDCK細胞を用いて培養したインフルエンザウイルス(influenza A/北九州/159/93(H3N2))を用いた。 [0039] ・・・ [0043] [表2](当審注:表2は省略する。) [0044] 表2の結果より、実施例1?27の全ての物質においてウイルスの不活化効果が認められており、濃度5%であればHA価は32以下、すなわち75%以上のウイルスが不活化していることが確認された。 ・・・ (実施例28?31) 市販のヨウ化銅(I)粉末(和光純薬工業株式会社製和光一級)をMEM希釈液100μlに懸濁液濃度5、1、0.2、0.1質量%になるように懸濁し、それぞれの懸濁液を実施例28、29、30、31とし、ネコカリシウイルスとインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス性を評価した。 ・・・ [0047][表3](当審注:表3は省略する。) [0048] 表3の結果より、ヨウ化銅(I)粉末はエンベロープをもつインフルエンザウイルスに対しても、エンベローブを持たない強いウイルスであるネコカリシウイルスに対しても1分という短時間で十分なウイルス不活化効果を示した。」 (3-2)電子的技術情報3に記載された発明 摘示(刊3a)の請求項6の記載からすると、電子的技術情報3には、「CuIの粒子を有効成分として含むことを特徴とする抗ウイルス剤」の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているといえる。 (3-3)対比・判断 (3-3-1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と、引用発明3とを対比する。 引用発明3の「CuI」は本件発明1の「ヨウ化銅」に相当し、本件発明1の「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」と引用発明3の「CuIの粒子」はいずれもヨウ化銅を含む粒子であるといえる。 また、前記(2)(2-3-1)で検討したのと同様に、本件発明1の「抗菌性」とは、ウイルスを含む幅広い病原体に対する効能を意図しているといえるから、引用発明3の「抗ウイルス剤」は、本件発明1の「医薬品」又は「消毒薬」に相当し、また、「抗菌性の製品」にも相当する。 そうすると、本件発明1と引用発明3とは、「ヨウ化銅を含む粒子を含む抗菌性の製品であって、前記製品が、医薬品、医療機器又は消毒薬である抗菌性の製品」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点3-1> ヨウ化銅を含む粒子が本件発明1では「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」であるのに対し、引用発明3では「CuIの粒子」である点 <相違点3-2> 本件発明1では、「前記製品における前記ヨウ化銅は銅濃度で0.001?5重量%未満」と特定されているのに対して、引用発明3では、銅濃度についての特定がない点 <相違点3-3> 本件発明1では「前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される」と特定されているのに対して、引用発明3ではそのような特定がない点 イ 判断 事案に鑑み、まず、相違点3-1及び相違点3-3について合わせて検討する。 引用発明3の「CuIの粒子」は、摘示(刊3d)に記載されているように抗ウイルス成分の前処理を経ることなく製造できるものであり、摘示(刊3h)において市販のヨウ化銅(I)粉末をMEM希釈液にエタノールに懸濁させて使用しているように、ヨウ化銅そのものの微粒子であるから、本件発明1の「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子」には相当しない。 また、摘示(刊3g)には含有、または固定させるときの具体的な処理については当業者が適宜選択することができること、ゼオライトなどの無機材料へ抗ウイルス剤を固定した後、抗ウイルス剤が固定された該無機材料を繊維構造物に固定して、抗ウイルス性繊維構造物を構成することもできることが記載されている。 しかしながら、電子的技術情報3には抗ウイルス剤をゼオライトなどの無機材料へ固定してから用いた具体例の開示はなく、摘示(刊3d)に、引用発明3のヨウ化銅が安定であり、安定剤等を混合する等の前処理を経なくても製造、使用できることが記載されているように、市販のヨウ化銅(I)粉末等の抗ウイルス剤を直接溶媒に懸濁させて使用した具体例が開示されるにとどまる。 ここで、本件発明1の「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子」について、本件特許明細書には以下の記載がある。 「【0079】 g.多孔質粒子 本発明の他の実施形態は、金属ハロゲン化物とそれが注入される多孔質担体粒子、抗菌的に有効な量のイオンが微生物環境へ放出されるよう金属ハロゲン化物を安定化させる担体粒子を有する、抗菌作用を持つ組成物を対象とするものである。「多孔質粒子」、「多孔質担体粒子」、「担体粒子」という用語は、本特許では交互に使われる。一つの実施形態では、より大きな多孔質担体粒子の多孔性範囲内で抗菌性組成物を形成することができる。金属および金属化合物または金属塩、特に金属ハロゲン化物が、注入物質として好まれ、例えば、臭化銀あるいは特にヨウ化銅を細孔へ注入することができる。・・・細孔内に抗菌性組成物を有する多孔質担体粒子は、バルク生成物、コーティング、クリーム、ゲル、溶液に組み込まれて抗菌特性を付与する。これらは充填剤としてポリマーに加えられ、その後成型、押出によってバルク生成物の形となる。」 そうすると、本件発明1の「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子」は、多孔質粒子によって、抗菌的に有効な量のイオンが微生物環境へ放出されるようヨウ化銅を安定化させるものであるが、摘示(3g)には単に抗ウイルス剤を固定化させるためにゼオライトを用いることが記載されているにすぎず、当該記載に従って、CuIの粒子をゼオライト粒子に固定化させても、CuI粒子が固定化してしまうのであるから、CuIが安定化されて、抗菌的に有効な量のイオンが微生物環境へ放出されるものとなるとはいえず、また、電子的技術情報3には、「前記抗菌性が先記製品からの銅イオンの放出によって供給される」ものとすることは、記載も示唆もされていないから、引用発明3において、「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子」とし、「前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される」ものとすることは当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。 引用発明3の「CuIの粒子」は、上記と同様に、ヨウ化銅そのものの微粒子であるから、本件発明1の「(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子」にも相当しない。 また、摘示(刊3d)には、引用発明3のヨウ化銅が安定であり、安定剤等を混合する等の前処理を経なくても製造、使用できることが記載されているから、引用発明3の「CuIの粒子」を「機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子」とすることは動機づけられない。 さらに、前記(1)(1-3-1)イにおいて検討したとおり、本件発明1の「(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子」は、機能化剤とヨウ化銅とが単に混合されているとか、単に接しているといった態様では足りず、ヨウ化銅の表面が機能化剤によって修飾されているものでなければならないと解されるところ、粒子を分散させるために分散剤や界面活性剤を添加することが周知であったとしても、引用発明3において、「CuIの粒子」を分散剤や界面活性剤でヨウ化銅の表面を修飾した粒子としてから含有させることは動機づけられない。 さらに、引用発明3の「CuIの粒子」を「機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子」とすることを動機付ける本件優先日における技術常識もない。 以上のことから、引用発明3の「CuIの粒子」は、本件発明1の「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」ではなく、また、本件発明1の「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」であって「抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される」ものとすることは当業者が容易に想到しえたことともいえない。 ウ 結論 上記のとおり、相違点3-1及び相違点3-3は実質的な相違点であり、当業者が容易に想到できたものでもないから、相違点3-2について検討するまでもなく、本件発明1は引用発明3ではなく、また、引用発明3及び電子的技術情報3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3-3-2)本件発明2?8について 本件発明2?8は、本件発明1を引用するものであって、いずれの発明も、本件発明1の「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」を含む発明であり、本件発明1と同じ相違点3-1を有するものである。 そして、本件発明1の相違点3-1については、上記(3-3-1)で既に検討したとおりであるから、本件発明2?8は、本件発明1と同様に、引用発明3ではなく、また、引用発明3及び電子的技術情報3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3-3-3)本件発明9について ア 対比 本件発明9と引用発明2とを対比する。 引用発明3の「CuI」は本件発明9の「ヨウ化銅」に相当し、本件発明9のヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」と引用発明3の「CuIの粒子」はいずれもヨウ化銅を含む粒子であるといえる。 また、上記(3-3-1)において検討したのと同様に、引用発明3の「抗ウイルス剤」は、本件発明9の「抗菌性の製品」に相当する。 そして、引用発明3の「抗ウイルス剤」は明らかに消費者に用いられるためのものであるから、本件発明9の「消費者製品」にも相当する。 そうすると、本件発明9と引用発明3は、「ヨウ化銅を含む粒子を含む抗菌性の製品であって、前記製品が消費者製品である抗菌性の製品。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点3-4> ヨウ化銅を含む粒子が本件発明9では「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」であるのに対し、引用発明3では「CuIの粒子」である点 <相違点3-5> 本件発明9では、「前記製品における前記ヨウ化銅は銅濃度で0.001?5重量%未満」と特定されているのに対して、引用発明3では、銅濃度についての特定がない点 <相違点3-6> 本件発明9では「前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される」と特定されているのに対して、引用発明3ではそのような特定がない点 イ 判断 事案に鑑み、まず、相違点3-4について検討する。 引用発明3の「CuIの粒子」は、摘示(刊3d)に記載されているように抗ウイルス成分の前処理を経ることなく製造できるものであり、摘示(刊3h)において市販のヨウ化銅(I)粉末をMEM希釈液にエタノールに懸濁させて使用しているように、ヨウ化銅そのものの微粒子であるから、本件発明9の「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」には相当しない。 また、摘示(刊3d)には、引用発明3のヨウ化銅が安定であり、安定剤等を混合する等の前処理を経なくても製造、使用できることが記載されているから、引用発明3の「CuIの粒子」を「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」とすることは動機づけられない。 さらに、前記(2)(2-3-3)イにおいて検討したとおり、本件発明9の「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」は、ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とが単に混合されているとか、単に接しているといった態様では足りず、ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とが粒子として成形されたものでなければならないと解されるところ、粒子を分散させるためにポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体を用いることが周知であったとしても、引用発明3において、「CuIの粒子」をヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とを成形した粒子としてから含有させることは動機づけられない。 そして、引用発明3の「CuIの粒子」を「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とを成形した粒子」とすることを動機付ける本件優先日における技術常識はない。 したがって、引用発明3の「CuIの粒子」は、本件発明9の「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」ではなく、また、本件発明9の「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」とすることは、当業者が容易に想到しえたこととはいえない。 ウ 結論 上記のとおり、相違点3-4は実質的な相違点であり、当業者が容易に想到できたものでもないから、相違点3-5及び相違点3-6について検討するまでもなく、本件発明9は引用発明3ではなく、また、引用発明3及び電子的技術情報3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3-3-4)本件発明10?16について 本件発明10?16は、本件発明9を引用するものであって、いずれの発明も、本件発明9の「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」を発明特定事項とする発明であり、本件発明9と同じ相違点3-4を有するものである。 そして、本件発明9の相違点3-4については、上記(3-3-3)で既に検討したとおりであるから、本件発明10?16は、本件発明9と同様に、引用発明3ではなく、また、引用発明3及び電子的技術情報3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (4)出願4に基く取消理由3(拡大先願)について (4-1)出願4の願書に最初に添付された明細書又は図面の記載 本件特許の出願日前に出願された特許出願4(特願2010-145678号)の願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面(以下、「先願明細書等」という。)及び特許出願4を優先基礎として出願され、本件特許の出願後に出願公開された特願2011-141236号(特開2012-024566号)の願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面の両方には以下の記載がある。 (先4a)「【0001】 本発明は、乾燥状態でも湿った状態でも付着したウイルスおよび細菌を拭き取り可能で、かつ、拭き取り後、該拭き取りシートから離れ難くした状態でウイルスを不活化し、さらに細菌も殺菌できる床や机などに、ヨウ化白金(II)、ヨウ化パラジウム(II)、ヨウ化銅(I)、チオシアン酸銅(I)、塩化銅(I)、酸化銅(I)、金属パラジウム、パラジウム酸化物の群から、少なくとも1種以上選択された微粒子を含有する拭き取りシートに関する。」 (先4b)「【0018】 第1実施形態において、ウイルス不活化微粒子2は、ヨウ化白金(II)、ヨウ化パラジウム(II)、ヨウ化銀(I)、ヨウ化銅(I)、およびチオシアン酸銅(I)、塩化銅(I)、酸化銅(I)、金属パラジウム、パラジウム酸化物からなる群から少なくとも1種選択される微粒子であり、エンベロープの有無に係らずウイルスを離し難くして不活化可能であり、細菌についても殺菌可能である。また、第1実施形態に係るウイルス不活化微粒子2は、タンパク質や脂質の存在下にあっても、ウイルスを不活化することができる。 【0019】 ウイルス不活化微粒子2のウイルスの不活化機構、殺菌機構については現在のところ必ずしも明確ではないが、ウイルス不活化微粒子2が空気中あるいは飛沫中の水分と接触すると、その一部が酸化還元反応により、第1実施形態の拭き取りシート100に付着したウイルス表面や細菌表面の電気的チャージや遺伝子などに何らかの影響を与えて不活化させるものと考えられる。 【0020】 ここで、シート本体1の表面に保持されるウイルス不活化微粒子2の大きさは特に限定されず当業者が適宜設定可能であるが、平均の粒子径が1nm以上、500nm未満であるのが好ましい。1nm未満では化学的に不安定となるため、安定してウイルス不活化効果を維持できない。また、500nm以上である場合は、シート本体1との密着性が1nm?500nmの範囲内にある場合よりも低下する。なお、本明細書において、平均粒子径とは、体積平均粒子径をいう。」 (先4c)「【0028】 ここで、ウイルス不活化微粒子2が第1実施形態の拭き取りシート100に保持される量は、使用する目的や用途及びウイルス不活化微粒子2の大きさを考慮して当業者が適宜設定することが可能であるが、シート本体1の全体重量に対し0.01質量%から80.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%から50.0質量%、さらに好ましくは0.1質量%から30.0質量%であることが好ましい。ウイルス不活化微粒子2が0.01質量%に満たない場合は、0.01?80.0質量%の範囲内にある場合と比較して、ウイルスを不活化する活性が低下する。また、80.0質量%より多くしても、0.01?80.0質量%の範囲内にある場合と比較してウイルス不活化性の効果に大差はないほか、シランモノマー3の縮合反応により形成されたオリゴマー4の結合力が低下し、0.01?80.0質量%の範囲内にある場合よりもウイルス不活化微粒子2がシート本体1から離脱し易くなる。なお、本明細書において、シート本体1上に保持される物質には、シランモノマー3またはそのオリゴマー4も含まれる。」 (先4d)「【0034】 次に、粉砕したウイルス不活化微粒子2を、水、メタノール、エタノール、MEK(メチルエチルケトン)、アセトン、キシレン、トルエンなどの溶媒に分散させる。このとき、他の材料、例えばバインダー成分やシリカゲルや、メソポーラスシリカ、ゼオライト、珪藻土、石膏、パイロサイト、モンモリロナイトなどの活性白土、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、活性炭などの無機化合物、チタニア、ジルコニア、アルミナ、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルト、セリアなどの金属酸化物からなる微粒子や、機能性材料を混合するようにしてもよい。続いて、必要に応じて界面活性剤などの分散剤を加え、ビーズミルやボールミル、サンドミル、ロールミル、振動ミル、ホモジナイザーなどの装置を用いて分散・解砕し、ウイルス不活化微粒子2を分散したスラリーを作製する。このようにスラリーを作製することにより、ウイルス不活化微粒子2の粒子径は小さくなり、シート本体1表面においてウイルス不活化微粒子2の間に過剰なすき間が形成されることなく、ウイルス不活化微粒子2が並ぶ。よって、ウイルス不活化微粒子2の粒子密度を大きくすることができるため、ウイルス不活化性を向上させることができる。」 (先4e)「【0061】 (様々なウイルスを不活化できる作用を有する拭き取りシートの作製) 実施例1: ウイルス不活化性を有するウイルス不活化微粒子として、市販のヨウ化銅(I)粉末(和光純薬工業株式会社製、和光一級)を、乾式粉砕装置ナノジェットマイザー(株式会社アイシンナノテクノロジーズ社製)を用いて、平均粒子径170nmに粉砕した。粉砕したヨウ化銅(I)微粒子をエタノールに4.0質量%加え、さらに、テトラメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM-04)を0.4質量%加えた後、ホモジナイザーで5分間プレ分散してスラリーを作製した。ここでいう平均粒子径とは、体積平均粒子径のことをいう。 【0062】 次に、80g/m^(2)の綿不織布を、作製したスラリーに浸漬した後、余剰分のスラリーを除去し、120℃で10分間乾燥することで、ウイルス不活化作用を有する拭き取りシートを得た。この拭き取りシートのヨウ化銅(I)の付着量を原子吸光分析法で測定したところ、12.8質量%であった。」 (先4f)「【0067】 実施例4: ウイルス不活化微粒子として、市販のヨウ化銅(I)粉末(和光純薬工業株式会社製、和光一級)40.0gと、ウイルス不活化微粒子以外の他の無機微粒子6として、不飽和結合部を有するシランモノマーであるメタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM-503)を通常の方法により脱水縮合させ表面に共有結合させた酸化ジルコニウム粒子(日本電工株式会社製、PCS)60.0gを、900.0gのエタノールにプレ分散後、ビーズミルにて解砕・分散し、平均粒子径100nmのヨウ化銅(I)と、平均粒子径37nmのメタクリロキシプロピルトリメトキシシランで被覆した酸化ジルコニウムとを含むスラリーを得た。得られたスラリーは固形分濃度が0.5質量%になるようにエタノールを加えて調整した。なお、ここでいう平均粒子径とは、体積平均粒子径のことをいう。 【0068】 続いて、上記スラリーを80g/m^(2)のレーヨン不織布にスプレーにて塗布・乾燥させたのち、ウイルス不活化作用を有する拭き取りシートを得た。この拭き取りシートのヨウ化銅(I)の付着量を原子吸光分析法で測定したところ、0.01質量%であった。 【0069】 実施例5: 固形分濃度を2.0質量%に調整した実施例4のスラリーを、80g/m^(2)のパルプとPP(ポリプロピレン)からなる不織布にスプレーにて塗布した後、余剰分のスラリーを除去し、120℃で10分間乾燥することで、ウイルス不活化作用を有する拭き取りシートを得た。この拭き取りシートのヨウ化銅(I)の付着量を原子吸光分析法で測定したところ、0.5質量%であった。 【0070】 実施例6: 固形分濃度を1.0質量%に調整した実施例4のスラリーに、80g/m^(2)のレーヨンとPP(ポリプロピレン)からなる不織布を浸漬した後、余剰分のスラリーを除去し、120℃で10分間乾燥することで、ウイルス不活化作用を有する拭き取りシートを得た。この拭き取りシートのヨウ化銅(I)の付着量を原子吸光分析法で測定したところ、2.8質量%であった。」 (先4g)「【0081】 【表2】(当審注:表2は省略する。)」 (先4h)「【0089】 【表3】(当審注:表3は省略する。) 【0090】 以上の結果より、評価1(ト゛ライ/ト゛ライ)における実施例10以外、すべての実施例において、洗い出し液中のウイルスは99.9999%以上、拭き取りシートにウイルスが付着したままの状態にあるか、たとえウイルスが遊離したとしても、遊離したウイルスは不活化されていることがわかった。評価1(ト゛ライ/ト゛ライ)の実施例10でも、インフルエンザウイルスでは99.999%、ネコカリシウイルスでは99.997%のウイルスが拭き取りシートに付着したままの状態又は、不活化していることがわかった。また比較例1では、インフルエンザウイルスには多少(評価4(ウェット/ウェット)で94.99%)効果があったものの、ネコカリシウイルスではほとんど効果がなかった。 【0091】 (様々なウイルスに対するウイルス不活化作用を有する拭き取りシートでのウイルス不活化性評価) 次に、拭き取りシートに付着した各ウイルスが不活化しているかどうかについて試験を行った。拭き取り試験後の各サンプル(評価1?4)を30mm×65mmのバイアル瓶に入れ、60分間(評価1(ト゛ライ/ト゛ライ)のサンプルは180分間)作用させたのち、20mg/mlのブイヨン蛋白液1800μlを添加し、ピペッティングによりウイルスを洗い出した。その後、各反応サンプルが10^(-2)?10^(-5)になるまでMEM希釈液にて希釈を行った(10倍段階希釈)。シャーレに培養したMDCK細胞にサンプル液100μLを接種した。90分間静置しウイルスを細胞へ吸着させた後、0.7%寒天培地を重層し、48時間、34℃、5%CO_(2)インキュベータにて培養後、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い形成されたプラーク数をカウントして、ウイルスの感染価(PFU/0.1ml,Log10);(PFU:plaque-forming units)を算出した。その結果を表4および表5に示す。表4は、評価2?4におけるウイルス感染価を示しており、表5は、実施例1?3、比較例1およびコントロールにおいて、評価1でのウイルス感染価を示している。表4において、ウイルス感染価は、評価2?4において同一の値を示したため、各実施例1?12、比較例1およびコントロールに対して1つのウイルス感染価を示している。 【0092】 【表4】(当審注:表4は省略する。) 【0093】 【表5】(当審注:表5は省略する。) 【0094】 以上の結果より、すべての実施例において、2つのウイルスに対し不活化作用が認められ、特に実施例1?3、5、6、8、9、11、12については60分間で不活化率99.9999%以上という非常に高い作用が認められた。他の実施例についても、悪いものでも60分間において、インフルエンザウイルスに対し99.997%、ネコカリシウイルスに対して99.94%と高いウイルス不活化効果があることがわかった。また乾燥時でも、実施例1?3において180分間でインフルエンザウイルスを99.999%?99.00%、ネコカリシウイルスを92.06?99.99%、不活化できることがわかった。このことにより、本発明の拭き取りシートは、一度シート本体に付着したウイルスでも、ウイルス不活化微粒子の量などに応じてばらつきはあるものの、湿った条件下ではおよそ1時間、乾燥条件下でも3時間程度で不活化させることができるため、使い捨てではなく、長期に渡って使用できる拭き取りシートを提供することができる。」 (なお、特許出願4を優先基礎として出願され、本件特許の出願後に出願公開された特願2011-141236号(特開2012-024566号)の願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面では、それぞれ【0001】、【0020】?【0022】、【0030】、【0036】、【0065】、【0066】、【0071】?【0074】、【0088】、【0096】?【0101】の記載に相当する。) (4-2)出願4の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明 摘示(先4a)?(先4c)から、先願明細書等には、「付着したウィルスを不活化し、かつ付着した細菌を殺菌できる拭き取りシートであって、ヨウ化銅の微粒子がシート本体に対して0.01質量%から80質量%の割合で保持されている拭き取りシート」の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されているといえる。 (4-3)対比・判断 (4-3-1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と先願発明とを対比する。 本件発明1の「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」と先願発明の「ヨウ化銅の微粒子」はいずれも「ヨウ化銅を含む粒子」であるといえる。 先願発明の「ヨウ化銅の微粒子がシート本体に対して0.01質量%から80質量%の割合で保持されている」から銅濃度を計算すると、0.01×63.546/190.45=約0.0033質量%、80×63.546/190.45=約26.69質量%であるから、約0.0033質量%から約26.69質量%となり、本件発明1の「銅濃度が0.001?5重量%」の範囲と重複し、さらに、摘示(先4e)の実施例におけるヨウ化銅の付着量(含有量)から計算した銅濃度は、12.8×63.546/190.45=約4.27質量%、及び(先4f)の実施例におけるヨウ化銅の付着量(含有量)から計算した銅濃度は、0.01×63.546/190.45=約0.0033質量%、0.5×63.546/190.45=約0.17質量%、2.8×63.546/190.45=約0.93質量%となり、明らかに本件発明1の範囲に相当する。 また、本件特許明細書の【0037】には、本件発明における「抗菌効果」は、細菌、ウイルス、カビ、菌類または胞子の殺滅を含むと記載されていることに加えて、本件特許明細書の【0104】には、医療機器に、綿ガーゼや繊維状の創傷包帯といった布製品が含まれる旨記載されているから、先願発明の「付着したウィルスを不活化し、かつ付着した細菌を殺菌できる拭き取りシート」は、「医薬機器」である「抗菌性の製品」、あるいは、「消毒薬」である「抗菌性の製品」に相当する。 そうすると、本件発明1と先願発明は「ヨウ化銅を含む粒子を含む抗菌性の製品であって、前記製品における前記ヨウ化銅は銅濃度で0.001?5重量%未満であり、前記製品が、医薬品、医療機器又は消毒薬である抗菌性の製品。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点4-1> ヨウ化銅を含む粒子が本件発明1では「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」であるのに対し、先願発明では「ヨウ化銅の微粒子」である点 <相違点4-2> 本件発明1では「前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される」と特定されているのに対して、先願発明ではそのような特定がない点 イ 判断 摘示(先4e)(先4f)において、市販のヨウ化銅(I)粉末が用いられていることからみて、先願発明の「ヨウ化銅の微粒子」は、ヨウ化銅そのものの微粒子であり、本件発明1の「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」に相当しない。 また、摘示(先4d)にはウイルス不活化微粒子を溶媒に分散させるときにシリカゲルや、メソポーラスシリカ、ゼオライト、珪藻土、石膏、パイロサイト、モンモリロナイトなどの活性白土等からなる微粒子や必要に応じて界面活性剤などの分散剤を加えて、分散・解砕し、ウイルス不活化微粒子2を分散したスラリーを作製してもよいことが記載されているものの、ウイルス不活化微粒子を含む多孔質粒子とすることや、機能化剤で表面が修飾されてなるウイルス不活化微粒子とすることは記載されていない。 したがって、本件発明1は、先願発明と同一ではない。 ウ 結論 上記のとおり、相違点4-1は実質的な相違点であるから、相違点4-2について検討するまでもなく、本件発明1は先願発明と同一ではない。 (4-3-2)本件発明2、5、7について 本件発明2、5、7は、本件発明1を引用するものであって、いずれの発明も、本件発明1の「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」を含む発明であり、本件発明1と同じ相違点4-1を有するものである。 そして、本件発明1の相違点4-1については、上記(4-3-1)で既に検討したとおりであるから、本件発明2、5、7は、本件発明1と同様に、先願発明と同一ではない。 (4-3-3)本件発明9について ア 対比 本件発明9と先願発明とを対比する。 本件発明9の「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」と先願発明の「ヨウ化銅の微粒子」はいずれも「ヨウ化銅を含む粒子」であるといえる。 上記(4-3-1)アにおいて検討したのと同様に、先願発明の銅濃度は、明らかに本件発明9の銅濃度の範囲に相当し、先願発明の「付着したウィルスを不活化し、かつ付着した細菌を殺菌できる拭き取りシート」は、本件発明9の「抗菌性の製品」に相当する。 また、先願発明の「拭き取りシート」は明らかに消費者に用いられるためのものであるから、本件発明9の「消費者製品」にも相当する。 そうすると、本件発明9と先願発明は「ヨウ化銅を含む粒子を含む抗菌性の製品であって、前記製品における前記ヨウ化銅は銅濃度で0.001?5重量%未満であり、前記製品が消費者製品である抗菌性の製品。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点4-3> ヨウ化銅を含む粒子が本件発明9では「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」であるのに対し、先願発明では「ヨウ化銅の微粒子」である点 <相違点4-4> 本件発明9では「前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される」と特定されているのに対して、先願発明ではそのような特定がない点 イ 判断 摘示(先4e)(先4f)において、市販のヨウ化銅(I)粉末が用いられていることからみて、先願発明の「ヨウ化銅の微粒子」は、ヨウ化銅そのものの微粒子であり、本件発明1の「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」に相当しない。 また、摘示(先4d)にはウイルス不活化微粒子を溶媒に分散させるときにシリカゲルや、メソポーラスシリカ、ゼオライト、珪藻土、石膏、パイロサイト、モンモリロナイトなどの活性白土等からなる微粒子や必要に応じて界面活性剤などの分散剤を加えて、分散・解砕し、ウイルス不活化微粒子2を分散したスラリーを作製してもよいことが記載されているものの、ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子とすることは記載されていない。 したがって、本件発明9は、先願発明と同一ではない。 ウ 結論 上記のとおり、相違点4-3は実質的な相違点であるから、相違点4-4について検討するまでもなく、本件発明9は先願発明と同一ではない。 (4-3-4)本件発明10?12、16について 本件発明10?12、16は、本件発明9を引用するものであって、いずれの発明も、本件発明9の「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」を含む発明であり、本件発明9と同じ相違点4-3を有するものである。 そして、本件発明9の相違点4-3については、上記(4-3-3)で既に検討したとおりであるから、本件発明10?12、16は、本件発明9と同様に、先願発明と同一ではない。 (5)取消理由4(サポート要件)について (5-1)取消理由4の具体的な内容 本件特許の訂正前の請求項1には、「ヨウ化銅の形成された粒子」を所定の割合で含み、抗菌性が銅イオンの放出によってもたらされる抗菌性の製品が記載されており、当該「ヨウ化銅の成形された粒子」については、単なる粒子のみで表面に修飾等が施されていない場合も含まれうるものとなっている。 本件発明の課題は、本件特許明細書の記載事項並びに本願出願時の技術常識からみて、ある種の銅粒子、特にヨウ化銅の粒子を用いることによって、様々な微生物、ウィルス、カビ、菌類に対し、同様の銀基抗菌性粒子よりもはるかに大きな効能を有する抗菌性の製品を提供することにあると認められる。 一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当該「ヨウ化銅の成形された粒子」の形成方法として、多孔質物質からなる担体に担持された場合、研削による粒子形成を行う場合、機能化剤によって錯化された場合等が記載されており、これらに対応した製造例、及びこれらを用いて各種細菌やウイルスに対する活性を測定し、ハロゲン化銀系の抗菌粒子と同等あるいはそれ以上の抗菌性・抗ウイルス性を有することが示された例も記載されているものの、抗菌性や抗ウイルス性を有することが具体的に裏付けられている例として記載されているのは、いずれもポリビニルピロリドンやビニルピロリドンの共重合体等を用いていたり、粒子を多孔質シリカに担持させていたりしており、単なる粒子のみを用いた場合は記載されていない。 そして、本件特許明細書の【0007】【0008】には具体的にどのような状況において、微量物質の特定のナノ粒子が病原体に対して抗菌作用を示すのかということは具体的には明らかにはなっていない旨が記載されているうえに、【0028】にはハロゲン化銅は凝集しやすい特性を持っているという問題点があることが記載されていることに鑑みると、本件特許明細書に具体例として製造され、抗菌性あるいは抗ウイルス性を有することが確認されている、特定の処理を施されたヨウ化銅粒子のみをもってして、あらゆるヨウ化銅からなる粒子が同様に銀系の抗菌性粒子よりも有利な(少なくとも同等の)効果を奏し、本件発明の課題を解決することができるか否かが不明である。また、そのような記載や示唆がなくとも、上記本件発明の課題が解決できると当業者が認識できる、本件特許出願日時点の技術常識も存在しない。 したがって、本件特許の訂正前の請求項1で規定される範囲全てにおいて、本件発明の課題が解決できるのかが不明であるから、訂正前の本件発明1は、本件発明の課題が解決できると当業者が認識できる範囲を超えるものであり、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。 本件発明2?16についても同様である。 (5-2)判断 本件訂正により、「ヨウ化銅の成形された粒子」は、「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」又は「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」と特定された。 そして、これらの粒子は、本件特許明細書の段落【0143】の例23、段落【0151】の例28、段落【0156】の例33等において具体的に製造され、ハロゲン化銀系の抗菌粒子と同等あるいはそれ以上の抗菌性・抗ウイルス性を有することが示された例も開示されているものであるから、本件発明の課題が解決できると当業者が認識できる程度に発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。 よって、取消理由通知に記載した上記取消理由4(サポート要件)によっては、本件請求項1?16に係る特許を取り消すことはできない。 (6)取消理由5(明確性要件)について (6-1)取消理由5の具体的内容 訂正前の請求項1,9に係る発明の特定事項としての「ヨウ化銅の成形された粒子」は、どのような状態になった粒子をその範囲に包含し、どのような状態になった粒子がその範囲に包含されていないのかが当業者の技術常識を考慮しても明らかであるとはいえない。 したがって、請求項1,9及びこれらを引用する請求項2?8、10?16に係る発明は不明確である。 (6-2)判断 本件訂正により、「ヨウ化銅の成形された粒子」は、「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」又は「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」と特定され、「ヨウ化銅の成形された粒子」という発明特定事項は存在しなくなったので、取消理由5は解消したものと認められる。 よって、取消理由通知に記載した上記取消理由5(明確性)によっては、本件請求項1?16に係る特許を取り消すことはできない。 (7)当審の判断のまとめ 以上のとおりであるから、本件発明1?16に係る特許につき、当審が通知した取消理由はいずれも理由がなく、当該理由によって本件発明1?16に係る特許は取り消すことはできない。 第6 取消理由通知で採用しなかった異議申立理由についての当審の判断 1 異議申立人1の申立理由について 前記第4の1(1)の異議申立人1の申立理由のうち、取消理由通知において採用しなかった申立理由及び当審の判断については以下のとおりである。 (1-1)甲第1号証に基く新規性及び進歩性について 異議申立人1は、甲第1号証を主引例として、新規性及び進歩性欠如の異議申立理由を主張しているが、前記第5の2(1)において検討したのと同様に、相違点1-1又は相違点1-2が存在し、これらの点は、甲第1号証及びその他のいずれの証拠をみても当業者が容易に発明をすることができたものではないから、上記理由によって、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 (1-2)甲第2号証を主引例とする新規性及び進歩性について 異議申立人1は、甲第2号証を主引例として、新規性及び進歩性欠如の異議申立理由を主張しているが、前記第5の2(2)において検討したのと同様に、相違点2-1又は相違点2-4が存在し、これらの点は、甲第2号証及びその他のいずれの証拠をみても当業者が容易に発明をすることができたものではないから、上記理由によって、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 (1-3)甲第3号証を主引例とする申立理由(拡大先願)について 異議申立人1は、甲第3号証を主引例とする異議申立理由(拡大先願)を主張しているが、前記第5の2(4)において検討したのと同様に、実質的な相違点である相違点4-1又は相違点4-2が存在し、甲第3号証に記載された発明と同一とはいえないから、上記理由によって、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 (1-4)明確性要件について (1-4-1)「ヨウ化銅の成形された粒子」について 本件訂正により、「ヨウ化銅の成形された粒子」は、「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」又は「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」と特定された。 そして、これらの粒子については、本件特許明細書中で具体的に製造され、その抗菌効果が確認されているから、本件発明はその効果を達成する上で不明確とはいえない。 したがって、上記理由によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 (1-4-2)「コーティング」について 本件特許明細書には以下の記載がある。 「【0090】 4.組成物の使用 本発明の実施形態は、幅広い抗菌性用途において有用性がある。これらの用途の一部を下記第1表に示す。抗菌性化合物としての直接の使用の他に、他の実施形態では、機能性粒子が他の物質に組み込まれて新規のかつ有用な物質を得る方法が含まれている。 【0091】 【表1A】 第1表 機能性抗菌ナノ粒子の代表的な用途 (当審注:表1Aは省略する。) 2. インプラントのコーティング ・・・・・ 23. 医療用溶液、または点眼薬の入ったボトルのコーティング ・・・・・ 【表1B】 (当審注:表1B 27.?37.、39.は省略する。) ・・・・・ 38. 歯のコーティング、シーラント、詰め物、虫歯用の冠、矯正用ブリッジ、インプラント ・・・・・」 第1表のNo.2、38に記載されたインプラントのコーティング、歯のコーティングは、「医薬品」に該当し、第1表のNo.23に記載された医療用溶液、または点眼薬の入ったボトルのコーティングは、「医療機器」に該当するコーティングである。 そして、これらの例からみて、本件発明3は、本件発明1の医薬品、医療機器又は消毒薬である抗菌性の製品のうち、コーティングであるものを特定しているものといえ、請求項1及び3に係る発明は不明確とはいえないから、上記理由によって本件特許発明に係る特許を取り消すことはできない。 2 異議申立人2の申立理由について 前記第4の2(1)の異議申立人2の申立理由のうち、取消理由通知において採用しなかった申立理由と、それに対する当審の判断については以下のとおりである。 (1-1)甲第1号証を主引例とする新規性及び進歩性について 異議申立人2は、甲第1号証を主引例として、新規性及び進歩性欠如の異議申立理由を主張しているが、前記第5の2(3)において検討したのと同様に、相違点3-1及び相違点3-3又は相違点3-4が存在し、これらの点は、甲第1号証及びその他のいずれの証拠をみても当業者が容易に発明をすることができたものではないから、上記理由によって、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 (1-2)甲第2号証を主引例とする新規性及び進歩性について 異議申立人2は、甲第2号証を主引例として、新規性及び進歩性欠如の異議申立理由を主張しているが、前記第5の2(2)において検討したのと同様に、相違点2-1又は相違点2-4が存在し、これらの点は、甲第2号証及びその他のいずれの証拠をみても当業者が容易に発明をすることができたものではないから、上記理由によって、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 (1-3)サポート要件について (1-3-2)「粒子径」の限定について 本件発明の課題は、本件特許明細書(特に【0009】)の記載事項並びに本願出願時の技術常識からみて、ある種の銅粒子、特にヨウ化銅の粒子を用いることによって、様々な微生物、ウィルス、カビ、菌類に対し、同様の銀基抗菌性粒子よりもはるかに大きな効能を有する抗菌性の製品を提供することにあると認められる。 確かに、本件特許明細書には「【0034】本発明の実施形態は、平均粒子径が約1000nmから約4nmの範囲であることを明示しており、平均粒子径が約1,000nm未満、約300nm未満、約100nm未満、約30nm未満、および約10nm未満であるものが含まれる。用途によっては、一般的に、平均粒子径がより小さいものが好まれることがあるが、平均粒子径は、粒子からイオンが放出される放出率特性と関係するため、粒子径と放出率とは相互依存的である。」と記載され、同【0238】には申立人の示す記載があり、本件特許明細書の大部分において本件発明の実施例として開示された「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」又は「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」の平均粒径は約1,000nmから数nmの範囲のものであるから、平均粒径の好ましい範囲はこの程度であると理解される。 しかしながら、本件発明の抗菌性製品は、「前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される」ものであり、本件特許明細書には「【0052】 「銅カチオンの放出」という用語は、概して、機能化剤によって懸濁状態になっている金属塩から微生物が現在置かれている環境に、銅カチオンを提供することを指す。この放出機構は、本発明の管理する特徴ではない。一つの実施形態において、放出は、例えば銅イオンがハロゲン化銅粒子から溶解することによって起こる。別の実施形態では、PVP等の機能化剤によって放出が仲介される。PVPは、微生物に接触してその外部環境へカチオンを移動させるまで、銅カチオンの錯体形成を行う。機構はいくつであっても銅カチオンの放出要因となりうるし、本発明はどの機構にも限られることはない。」と記載されていることを考慮すると、平均粒径が上記範囲外の粒子を用いた場合であっても、同様に銅イオンの放出によってある程度の抗菌性が発揮されると考えられる。 また、本件特許明細書には「【0239】 ・・・最後のサンプルのS53は平均粒度が920nmで、2峰性(の)分布があり、粒子の平均の大きさが170と1,500nmで最大化していた。これらがすべて高い抗菌効果を示し、粒度の最も小さいサンプル(サンプルS51に対する結果のR48)程、短時間で最大の効果を発揮した。」との記載もあり、粒径が1500nmの粒子を含む場合であっても、高い抗菌効果が得られていることからみて、平均粒径が上記範囲外の粒子を用いた場合には本願発明の課題が解決できないということもできない。 そうすると、粒子の平均粒径が限定されていないことをもって、本件発明が本件発明の課題が解決できると当業者が認識できる範囲を超えるものであり、発明の詳細な説明に記載されていないものであるとすることはできない。 したがって、上記理由によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 (1-3-3)「前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される」について 本件特許明細書には以下の記載がある。 「【0028】 本特許に関連する発明者は、ある種の銅塩粒子が、様々な細菌、ウィルス、カビ、菌類に対し、既知の銀のみがベースとなっている抗菌性粒子よりもはるかに大きな効能を有するという驚くべき発見をした。特に、ハロゲン化銅、ヨウ化銅(「CuI」)は、本特許内の教示に従って形成される際、広範囲にわたる即効性のある抗菌剤として驚くほど有効であることが明らかになっている。そのため、本発明の第一の実施形態は、少なくとも一つの無機銅塩を持つ粒子を有する抗菌作用を持つ組成物を対象とするもので、・・・少なくとも一つの機能化剤がその粒子に接し、その機能化剤は、担体内の粒子を安定化させて抗菌的に有効な量のイオンが微生物環境へ放出されるようにする。・・・また、抗菌的に有効な量のイオンを微生物環境へ放出する手助けをすることもある。本発明のいくつかの実施形態は、無機銅塩を含んでいる。臭化銅、塩化銅等のハロゲン化銅は他の実施形態を有するが、ヨウ化銅が最も研究されている実施形態である。・・・これらはCuIナノ粒子を安定化させ、塗料内での溶解を促進し、また外側の微生物表面への付着を助けることで銅イオンを対陰極に接近させる。・・・金属ハロゲン化物の性質および機能化剤の品質という両要因は、抗菌性組成物の全体的な有効性にとって重要である。」 「【0049】 「無機銅塩」という用語は、比較的水に溶けにくい無機銅化合物を含んでいる。無機銅塩はイオン銅化合物で、陽イオンが他の無機物質の陰イオンとともにこの化合物を形成する。このような塩が水の近くに置かれると、通常これらの化合物は銅イオン(Cu^(+) or Cu^(++))を放出する。水溶性の低い、すなわち100mg/リットル未満であり、15mg/リットル未満の銅塩が望ましい。このような望ましい銅塩としては、ハロゲン化銅、酸化第一銅およびチオシアン酸第一銅がある。」 「【0052】 「銅カチオンの放出」という用語は、概して、機能化剤によって懸濁状態になっている金属塩から微生物が現在置かれている環境に、銅カチオンを提供することを指す。この放出機構は、本発明の管理する特徴ではない。一つの実施形態において、放出は、例えば銅イオンがハロゲン化銅粒子から溶解することによって起こる。別の実施形態では、PVP等の機能化剤によって放出が仲介される。PVPは、微生物に接触してその外部環境へカチオンを移動させるまで、銅カチオンの錯体形成を行う。機構はいくつであっても銅カチオンの放出要因となりうるし、本発明はどの機構にも限られることはない。」 「【0059】 無機銅塩には様々な水溶特性がある。しかし、本発明の銅塩は、進行が遅く予測可能な銅カチオンの放出特性が備わるように、低水溶性であること(常温で水1リットルあたり1gの不水溶性塩)が好ましい。配合によっては、Cu(II)またはより可溶性の高い塩を加えてCuイオンの一部がすぐに得られるようにすることが望ましい。試験を行った中で、Cu(I)カチオンが様々な微生物に対して最も高い有効性を示した。常温において、銅(I)塩の可溶性は、1リットルあたり約100g未満が好ましく、1リットルあたり約15g未満がより好ましい。」 「【0089】 j.理論 本発明の新規組成物の驚くべき抗菌効果の由来に関して、特定の理論に縛られたくはないが、現在、本発明の組成物(またはそこから放出されるイオン)は標的病原体の表面に引き付けられると考えられている。病原体表面に付着すると、活性微量種(一般的には金属カチオン等のイオンだが、ヨウ素等のアニオンも含まれる)が粒子から病原体表面および/または内部へ移される。いくつかの実施形態においては、機能性粒子と病原体との相互作用が十分に強力で、粒子が病原体の外膜に埋め込まれる。これにより膜機能に有害な効果が引き起こされるが、これはある輸送タンパク質がカチオンによって不活性化されることがあるためである。他の実施形態においては、特に粒子が非常に小さい(粒子径が10nm未満)場合、機能性粒子は病原体の外膜を横切って輸送され吸収される。このような条件化で、微量種は粒子から病原体内部へ直接運び込まれて細胞小器官、RNA、DNA等と結合し、それによって通常の細胞過程を妨げる。細菌の場合、これは細菌のペリプラズムまたは細胞質における活性微量種の直接沈着となる。本発明の作動機構理論はこのようなもので、根本的な有効性を説明する多くの理論のひとつである。」 特に【0049】に記載されているように、銅ハロゲン化物等の無機銅塩は、低溶解性ながらも、水に多少は溶解して銅イオンを放出することは技術常識である。 そして、本件特許明細書には種々の銅ハロゲン化物を用いて粒子を製造し、その抗菌性を確認した具体例が開示されているところ、少なくとも【0028】【0052】【0059】【0089】には、銅イオンが抗菌性の達成に寄与していることが記載されている。 そうすると、「前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される」という点について、本件発明は、この出願の発明の詳細な説明に記載されていないものとすることはできない。 したがって、上記理由によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 (1-4)明確性要件について (1-4-2)「銅濃度」の対象について 本件特許明細書には以下の記載がある。 「【0090】 4.組成物の使用 本発明の実施形態は、幅広い抗菌性用途において有用性がある。これらの用途の一部を下記第1表に示す。抗菌性化合物としての直接の使用の他に、他の実施形態では、機能性粒子が他の物質に組み込まれて新規のかつ有用な物質を得る方法が含まれている。 【0091】 【表1A】 第1表 機能性抗菌ナノ粒子の代表的な用途 (当審注:表1Aは省略する。) 【表1B】 (当審注:表1Bは省略する。)」 「【0092】 a.組み込みの手法 本発明の実施形態は、(a)平均粒子径が1000nm?4nmの安定化されたヨウ化銅ナノ粒子を形成する、(b)この安定化されたヨウ化銅ナノ粒子を懸濁培地内で分散させる、(c)一定量の分散されたヨウ化銅ナノ粒子を前駆体へ加える、(d)その前駆体の少なくとも一部から製品を形成し、それによって製品全体にヨウ化銅ナノ粒子を分散させる、というステップを含んでいるプロセスに沿って形成される抗菌作用を有する組成物を対象とする。この前駆体は、ポリマー物質を含んでいることもある。他の実施形態において、成型、押出をされた熱可塑性製品への本発明のナノ粒子の組み込みは、通常マスターバッチを初めて作成することによって実現され、抗菌性化合物(粒子としてまたは多孔質マトリクスに注入されて)は、ポリマーマトリクス内に比較的高い濃度で存在する(金属重量の1?10%が好ましい)。このマスターバッチはその後ポリマー(樹脂)と混ぜられ、成型、押出をされた製品となる。・・・・加工業者は通常、マスターバッチ1に対し樹脂は10という割合で、上記で挙げられたようなマスターバッチの抗菌性濃度からスタートし、約0.1?1%(金属濃度ベース)の抗菌性濃度の最終製品を提供することになる。」 「【0093】 本発明の抗菌性組成物は、成型、押出をされたポリマー製品へ均質に加えられるか、成形、押出作業を用いるコーティングまたはレイヤーとしてこれらの物体に加えられる。後者の場合、共押出、インモールド装飾、インモールドコーティング、マルチショット成型等の作業が、その結果として製品の表面を形成する樹脂/物質に抗菌性添加剤が存在する場合のみ利用される。」 「【0096】 このような抗菌性組成物から形成される製品の別の実施形態に、医薬品また消費者製品の両用途で使われる局所用クリームがある。一例として、機能性ナノ粒子がLubrizol社のCarbopol(登録商標)ポリマーに添加または組み込まれ、感染症、真菌、外傷、にきび、火傷等の治療用抗菌クリームとして使われるゲルおよびクリームが作られることがある。治療効果が得られるものであればどのような濃度の機能性ナノ粒子でも使うことができるが、最終製品内の金属濃度(ナノ粒子由来)は、10?50,000ppmが有用である。どの局所用クリームも、本特許で提示された任意の抗菌効果定量法で試験をすることで正確な濃度が決定されるか、正確な濃度が当業者へ知らされる。 【0097】 機能性ナノ粒子はワセリンにも組み込まれ、優れた耐水性を発揮する。界面活性剤および相溶剤を追加して、疎水性のワセリンが塗布部分を保護する一方、親水性の可能性のあるその下の部分へ抗菌性物質を放出することもできる。本発明の機能性金属ハロゲン化物粉末を併用した抗菌作用を持つクリームや軟膏の生成方法を、当調剤業者は知ることになるだろう。 【0098】 本発明の抗菌性物質は、感染対策またはそれに関連する用途の抗菌クリームまたは製剤等、他の製剤の添加剤として使われる。本発明の抗菌性物質は、火傷を受けた組織の修復を助けながら感染症も防ぐ火傷用クリームに添加されることもある。もしくは、バシトラシン、ネオマイシン、ポリミキシン、スルファジアジン銀、硫化セレン、亜鉛ピリチオン、パラモキシン(paramоxine)等の抗生物質や感染症軽減/予防、鎮痛剤に混ぜられることもある。上記の組成物の多くは市販されており、本発明の抗菌性物質をこれらに添加して、最も効果的な濃度を作り出すこともできる。本特許における本発明の抗菌性物質を添加する場合、その割合は最終製品の0.001?5%(有効成分の金属濃度の重量をベースとする)であることが好ましい。溶液(または懸濁液)が最終製品となる製剤については、本発明の抗菌性物質は重量で1%を下回ることが望ましい。」 請求項1,9の特定事項である「銅濃度が0.001?5重量%未満」は、その記載から、「抗菌性の製品」に対する濃度であることが理解され、本件特許明細書【0098】にも、「銅濃度が0.001?5重量%未満」とは「最終製品」に対する濃度であることが記載されている。 ここで、「抗菌性の製品」には【0091】に具体的に記載されるようなものがあることが理解できるが、【0096】【0098】等の記載からみて、その中で、抗菌薬やクリームといった医薬品、消毒薬、繊維、消毒液、シャンプー等の、製品が単一の組成物で形成されるようなものについては、「抗菌性の製品」の重量は明確に定まるから、「銅濃度」が何に対する濃度であるかは明確であるといえる。 一方、「医療機器」「消費者製品」「電子機器」「衣料品」等であって、製品が複数の部品や部材を組み合わせて製造されるようなものについては、【0092】【0093】の記載をみるに、「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」又は「ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子」の抗菌性ナノ粒子を配合したポリマー組成物を成形や押出等の手法によって部材とする場合には、当該部材が「抗菌性の製品」に該当するものと解され、「銅濃度」はその「抗菌性の製品」に対する濃度であると解される。 したがって、「銅濃度が0.001?5重量%未満」は「抗菌性の製品」に対する濃度であって、その意味するところは不明確とはいえず、上記理由によって本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 (1-4-3)「前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される」について 請求項1,9の特定事項である「前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される」を、文言に従って理解すると、抗菌性は、製品から銅イオンが放出されることによって供給、すなわち発揮されることを意味していると解される。 さらに、本件特許明細書には以下の記載もある。 「【0089】 j.理論 本発明の新規組成物の驚くべき抗菌効果の由来に関して、特定の理論に縛られたくはないが、現在、本発明の組成物(またはそこから放出されるイオン)は標的病原体の表面に引き付けられると考えられている。病原体表面に付着すると、活性微量種(一般的には金属カチオン等のイオンだが、ヨウ素等のアニオンも含まれる)が粒子から病原体表面および/または内部へ移される。」 この記載からみれば、金属カチオン等のイオンも、ヨウ素等のアニオンも抗菌効果を有するものと考えられ、本件特許明細書【0052】に潜在的に抗菌効果があるのは陰イオンの放出であることが記載されていることと矛盾もしない。 したがって、請求項1,9に係る発明は不明確とはいえず、上記理由によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 (1-4-4)「平均粒径」について 本件特許明細書には以下の記載がある。 「【0034】 「XX」がナノメートルの数として変化する「平均径約XX未満」という用語は、動的光散乱または顕微鏡検査等の任意の従来方法によって測定されるような、直径平均が約XXナノメートル未満の粒子の抽出サンプルの平均粒子径として本特許で定義される。計算上、不定形粒子はお約の直径を持つ、すなわちほぼ球状であると仮定する。粒子は球形でないことがよくある。このため、この仮定は、純粋に平均粒子径を割り出すためだけに使われる。粒子径の測定方法は、動的光散乱、走査電子顕微鏡法または透過電子顕微鏡法を含んでいる。」 「【0141】 ・・・データを体積分率へ変換した後に動的光拡散で測定された粒子径は1 0?40nmだった。」 「【0142】 ・・・最終混合物における銀の重量%は0.17%で、平均粒子径は4nmだった(動的光拡散による体積分率分布をベースとする)。」 「【0143】 例23: PVPで機能化されたヨウ化銅ナノ粒子の合成 ・・・この分散系における銅の重量%は0.13%で、平均粒子径は4nmだった(動的光拡散による体積分率分布をベースとする)。」 「【0151】 例28: CuI/PVP分散液の合成 ・・・分散液の希釈されたサンプルに動的光散乱をすることによって平均粒径4nmのものを得た。」 「【0159】 例36a: CuI/PVP-BASF+HNO_(3)の合成 ・・・分散液の希釈試料へ動的光散乱が体積分率分析で2峰性の分布を示し、最高の粒径が263と471nmだった。」 「【0173】 ・・・粒径の測定はHORIBAレーザー散乱粒径分布解析器(モデルLA-950A)で行った。平均粒径は68nmで、標準偏差は7.4nmだった。研削された粒子を含んでいる分散液の安定性を試験するために粒径を次の日に再び測定したら、平均粒径は70nmで、標準偏差は8.2nmだったことが判明した。」 「【0174】 ・・・粒径(平均)は前述のHORIBAレーザー散乱粒径分布解析器で測定したら、それぞれ920nm(2峰性分布で、ピークが170と1,500nmだった)、220nmと120nmだった。」 「【0229】 表12は、抗菌に対する結果を示す表13-19に使われたサンプル、粒径および機能化の一覧である。この表における粒径は別段の記載がない限り動的光散乱を利用して測定された。一部の例では、粒径が光吸収または走査電子顕微鏡法(SEM)によって確認された。動的光散乱の基づく測定の場合、最終的に1センチの路長キュベットにおいて透明な液が得られるように、ナノ粒子懸濁液の1-2滴が数mlの水(DI水)に薄められた。粒子が大きい場合、測定直前に溶液をかき回した。サンプルの繰り返し性と再現性を確保するために測定が何回も繰り返された。大部分の測定は173°の散乱角で後方散乱モードを利用し、周囲温度でMalvern ZetasizerのナノZS光散乱解析器(Malvern Inc,Westborough,MAから入手)を利用して実施された。装置の校正に既知サイズ(60nm)の商業用ポリスチレン球を使った。 いくつかの測定の場合、光ファイバープローブを利用し後方散乱モードでナノトラック粒子解析器(Malvern Inc,Westborough,MAから入手)を使った。データが体積割合モードに変換・報告された。」 これらの記載からみて、具体的に本件発明の実施例の大部分で粒径の測定に用いられているのは動的光散乱法であり、平均粒径は体積分率ベースで求められていることが理解される。 そうすると、請求項7の特定事項である「平均粒径が1000nm以下」についても動的光散乱法で測定された粒径に基いて体積分率ベースで求められた平均粒径であるといえ、請求項7に係る発明は不明確とはいえない。 したがって、上記理由によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 3 当審の判断のまとめ 以上のとおりであるから、本件発明1?16に係る特許につき、上記申立理由はいずれも理由がないから、これらの理由によって、本件発明1?16に係る特許は取り消すことはできない。 第7 異議申立人の意見書における主張についての当審の判断 1 異議申立人1の主張について 前記第4の1(2)の異議申立人1の主張については以下のとおりである。 (2-1)甲第1号証に基く新規性及び進歩性について 前記第6の1(1-1)において検討したのと同様である。 (2-2)甲第2号証を主引例とする新規性及び進歩性について 前記第6の1(1-2)において検討したのと同様である。 (2-3)電子的技術情報3(令和元年7月23日付け取消理由通知で使用した刊行物3、異議申立人2の提出した甲第1号証)を主引例とする新規性及び進歩性について 前記第6の2(1-1)において検討したのと同様である。 (2-4)甲第3号証を主引例とする申立理由(拡大先願)について 前記第6の1(1-3)において検討したのと同様である。 (2-5)サポート要件について (2-5-1)「ヨウ化銅の成形された粒子」について 前記第5の2(5)において検討したのと同様である。 (2-5-2)「ヨウ化銅の成形された粒子」及び「ポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体」の関係について 本件訂正により、「ヨウ化銅の成形された粒子」を含み、当該粒子とは別に「ポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体」をさらに含むことを特定しているだけの請求項は存在しなくなったから、上記理由によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 (2-5-3)製品に対する「銅濃度」について 前記第6の2の(1-4)(1-4-2)において検討したとおり、「銅濃度」は製品に対して定まるものである。 また、本件発明1の「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つ」は前記第5の2の(1)(1-3)(1-3-1)で検討したとおりのものであり、また、これを含む製品は、前記第6の2の(1-3)(1-3-3)で検討したとおり「前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される」ものである。 そうすると、「前記製品における前記ヨウ化銅は銅濃度で0.001?5重量%未満」の範囲において、製品からの銅イオンの放出によって抗菌性が発揮されると考えられるから、上記理由は採用できず、この理由によって、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 (2-5-4)「ポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体」について 本件特許明細書の記載をみると、「機能化剤」について以下の記載がある。 「【0010】 本発明の第一の実施形態は、少なくとも一つの無機銅塩を持つ粒子を有する抗菌作用を持つ組成物を対象とするものである。少なくとも一つの機能化剤がその粒子に接し、その機能化剤は、担体内の粒子を安定化させて抗菌的に有効な量のイオンが微生物環境へ放出されるようにする。一実施形態において、担体は機能化剤がその中で溶解する液体である。別の実施形態では、担体は液体で、機能化剤がその中で溶解するが安定化されている。機能化剤には粒子を複合化させる作用があり、それによって液体内の粒子が安定化される。」 「【0012】 本発明の実施形態は機能化剤を含んでいる。前記機能化剤には、アミノ酸、チオール、ポリマー、特に親水性ポリマー、疎水性ポリマー乳剤、界面活性剤、またはリガンド特異的な結合剤が含まれている。前記アミノ酸剤の好適な実施形態としては、アスパラギン酸、ロイシンおよびレジンが、前記チオール剤の好適な実施形態としては、アミノチオール、チオグリセロール、チオグリシン、チオ乳酸、チオリンゴ酸、チオクト酸およびチオシランがある。前記親水性ポリマーの好適な実施形態としては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、前記ポリマーを形成するモノマーの少なくとも一つを有する共重合体およびそれらの混合体がある。その他の好ましいポリマーとしては、ポリウレタン、アクリルポリマー、およびエポキシ樹脂があり、表面修飾中に乳剤および液剤として使用される際は、特に、シリコーンおよびフルオロシリコーンが好まれる。・・・ 【0013】 ここで説明される本発明の他の実施形態は、CuI粉末を取得し、そのCuI粉末を極性非水溶媒で溶解し、前記CuIを極性非水溶媒内で安定化させるに十分な量の機能化剤を加え、機能化剤によって複合化されたCuI粒子粉末が形成されるよう、前記の安定化したCuI粒子を乾燥させられるまで溶媒を除去し、機能化剤によって複合化されたCuI粒子粉末を約1?約6pHの水溶液に分散させて水中で安定化するCuI粒子を形成し、任意選択で、水を除去できるまで安定化されたCuI粒子を乾燥させるというステップを含んでいるプロセスに従って生まれる、抗菌作用を持つ組成物である。もう一つの任意のステップとして、任意の乾燥ステップの前に分散のpHを中和させるというものがある。」 これらの記載からみて、本件発明1の「(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子」の「機能化剤」とは、ヨウ化銅粒子と複合体を形成してヨウ化銅粒子を安定化させ、抗菌的に有効な量のイオンが微生物環境へ放出される機能を付与するものでなくてはならず、そのような機能を付与するためには、【0013】に記載されている方法、すなわち、ヨウ化銅を極性非水溶媒に溶解させ、これに機能化剤を添加した後、溶媒を除去するという工程を含む方法を経るものであること、そして、そのための機能化剤としては具体的には【0012】に例示されているような「ポリビニルピロリドン」や「ポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体」を含む種々の物質であることが理解できる。 そして、本件特許明細書には、当該機能化剤として、異議申立人1が主張する酢酸ビニル-ポリビニルピロリドン共重合体を用いた例34(【0157】)、例35(【0158】)のみならず、ポリビニルピロリドンを用いた例23(【0143】)、例28(【0151】)、例33(【0156】)、例43(【0191】?【0214】特に表2のH-02_(B)、H-04_(A)、表3のF-01?X-04、表4のF-05_(A)?I-1、表5のH-02_(C)、表6のF-05_(C)?H-04_(B)、表7のH-04_(B)、表8のG-01_(B)?X-04_(A)、表9のG-01_(B)?I-1)も具体的に開示されている。 そうすると、本件発明の「機能化剤」は酢酸ビニル-ポリビニルピロリドン共重合体にとどまらないものであり、ポリビニルピロリドンでも、さらに他の種類の物質でもよいことが理解できるのであるから、少なくともビニルピロリドン由来の部分構造を有することが確実な、酢酸ビニル-ポリビニルピロリドン共重合体以外の「ポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体」を用いても抗菌効果を発揮するものと考えられ、請求項9に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとはいえない。 したがって、上記理由によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 (2-6)明確性要件について (2-6-1)「ヨウ化銅の成形された粒子」について 前記第5の2(6)において検討したのと同様である。 (2-6-2)「ヨウ化銅の成形された粒子」及び「ポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体」の関係について 本件訂正により、「ヨウ化銅の成形された粒子」を含み、当該粒子とは別に「ポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体」をさらに含むことを特定しているだけの請求項は存在しなくなったから、上記理由によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 (2-6-3)「ヨウ化銅を含む多孔質粒子」について 請求項1に記載された「ヨウ化銅を含む多孔質粒子」は、その文言自体から多孔質粒子がヨウ化銅を含むものであることが理解でき、さらに請求項1の記載から「ヨウ化銅を含む多孔質粒子」は「前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される」ようにヨウ化銅を含んでいることが理解できるから、それ自体で不明確であるということはできない。 また、本件特許明細書には以下の記載がある。 「【0079】 g.多孔質粒子 本発明の他の実施形態は、金属ハロゲン化物とそれが注入される多孔質担体粒子、抗菌的に有効な量のイオンが微生物環境へ放出されるよう金属ハロゲン化物を安定化させる担体粒子を有する、抗菌作用を持つ組成物を対象とするものである。「多孔質粒子」、「多孔質担体粒子」、「担体粒子」という用語は、本特許では交互に使われる。一つの実施形態では、より大きな多孔質担体粒子の多孔性範囲内で抗菌性組成物を形成することができる。金属および金属化合物または金属塩、特に金属ハロゲン化物が、注入物質として好まれ、例えば、臭化銀あるいは特にヨウ化銅を細孔へ注入することができる。多孔質粒子は、好ましくは相互に連結した細孔を持つべきである。担体粒子の上限は、100μmより小さいことが好ましく、20μm未満であることがより好ましく、5μm未満であることが最も好ましい。」 「【0168】 例40: 多孔質粒子へ金属と無機金属化合物の注入 この例は抗菌作用のある組成物の合成と抗菌試験について明らかにする。同組成物は、ヨウ化銅、臭化銅および塩化銅からなる群より選定されるハロゲン化銅粒子とハロゲン化銅粒子を注入された多孔質担体粒子によって構成され、微生物の環境に抗菌効果が発揮されるのに有効なイオンの量が放出されるように、担体粒子がハロゲン化銅粒子を安定化させるものである。 【0169】 ハロゲン化銅・多孔質粒子の組成物は多孔質シリカ担体粒子にハロゲン化銅を注入する利用された二つのプロセスの実施態様によって立証される。これらの方法は、反応沈殿および/または溶媒の蒸発によって他の金属化合物(他の金属ハロゲン化物を含んでいる)を含んでいるためにも使うことができる。担体粒子に注入される物質の量を増やすために、金属ハロゲン化物の濃縮液(飽和溶液または飽和に近い溶液)を使うことができる。一度細孔に溶液を注入すれば、金属化合物が粒子(細孔の表面を含んでいる)の表面に堆積されるように多孔質粒子を除去し、乾燥させる。金属ハロゲン化物の濃度をさらに増やすために、すでに堆積されたものが可溶化しないために飽和溶液または飽和に近い溶液を使ってこのプロセスを数回繰り返すことができる。Silicycle Inc.(カナダ、ケベック市)社からのさまざまな種類の多孔質シリカ粒子を利用した。多孔質シリカ粒子はIMPAQ(登録商標)角ばったシリカゲルB10007B親水性シリカで、その平均粒径は10μm(細孔径が6nm、細孔容積が約0.8ml/g、表面積が>450m^(2)/g)、0-20μmの粒径のシリカ(細孔径が6nm、細孔容積が500m^(2)/g);や0.5-3μmのシリカ(製品番号R10003B、細孔径6nm)等であった。 【0170】 方法1 0.6gのCuI(Sigma Aldrich社製,純度98.5%)を常温で20mlのアセトニトリルに溶解した(約0.68gのCuIが溶液を蒸発させたからである)。この溶液に1gのシリカ粉末(0-20μm)を添加した。この溶液を常温で3時間攪拌(この場合、時間を数秒から3時間以上に変えることができる)し、0.45μmナイロンフィルター(Micron Separations Inc社製、Westboro,MA)を使ってろ過し、最後に70℃で乾燥させた。ヘラを使って材料を容易に細かい粉末に砕くことができる。このシリカの民間試験所での誘導結合プラズマ(ICP)による原子吸光分析で銅は重量でシリカの1.88%だったことが確認された。 【0171】 例41: 多孔質粒子へ金属と無機金属化合物の注入 方法2 この方法においてCuIの溶媒は3.5M KIの水溶液だった。KI溶液は29gのKIを40mlの脱イオン水に溶解・攪拌し、水を添加し、最終容積を50mlにすることによって得られた。配合後KI溶液の容積は50mlと測定された。1.52gのCuIを添加し、常温で攪拌した。溶液がすぐに黄色になり、次の日にやや黒くなった。この溶液を6ml取り、0.5gの多孔質シリカ担体粒子(0.5から3μm)を添加し、6時間にわたって攪拌した。シリカ粒子をろ過した後、シリカの表面にくっ付いていたCuIを沈殿させるために水を添加した。このシリカの誘導結合プラズマ(ICP)AA装置による分析で銅は重量でシリカの1.46%だったことが確認された。」 【0079】【0168】の記載から、本件発明の「ヨウ化銅を含む多孔質粒子」とは、ヨウ化銅を多孔質担体粒子の細孔に注入して、微生物の環境に抗菌効果が発揮されるのに有効なイオンの量が放出されるように、担体粒子がヨウ化銅粒子を安定化させたものであり、【0169】?【0171】に具体的に示された方法で製造されるものであると理解できるから、本件特許明細書の記載をみても、請求項1の特定事項である「ヨウ化銅を含む多孔質粒子」は不明確とはいえない。 したがって、上記理由により本件特許発明に係る特許を取り消すことはできない。 (2-6-4)「機能化剤」について 本件特許明細書には「機能化剤」について以下の記載がある。 「【0010】 本発明の第一の実施形態は、少なくとも一つの無機銅塩を持つ粒子を有する抗菌作用を持つ組成物を対象とするものである。少なくとも一つの機能化剤がその粒子に接し、その機能化剤は、担体内の粒子を安定化させて抗菌的に有効な量のイオンが微生物環境へ放出されるようにする。一実施形態において、担体は機能化剤がその中で溶解する液体である。別の実施形態では、担体は液体で、機能化剤がその中で溶解するが安定化されている。機能化剤には粒子を複合化させる作用があり、それによって液体内の粒子が安定化される。」 「【0012】 本発明の実施形態は機能化剤を含んでいる。前記機能化剤には、アミノ酸、チオール、ポリマー、特に親水性ポリマー、疎水性ポリマー乳剤、界面活性剤、またはリガンド特異的な結合剤が含まれている。前記アミノ酸剤の好適な実施形態としては、アスパラギン酸、ロイシンおよびレジンが、前記チオール剤の好適な実施形態としては、アミノチオール、チオグリセロール、チオグリシン、チオ乳酸、チオリンゴ酸、チオクト酸およびチオシランがある。前記親水性ポリマーの好適な実施形態としては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、前記ポリマーを形成するモノマーの少なくとも一つを有する共重合体およびそれらの混合体がある。その他の好ましいポリマーとしては、ポリウレタン、アクリルポリマー、およびエポキシ樹脂があり、表面修飾中に乳剤および液剤として使用される際は、特に、シリコーンおよびフルオロシリコーンが好まれる。・・・ 【0013】 ここで説明される本発明の他の実施形態は、CuI粉末を取得し、そのCuI粉末を極性非水溶媒で溶解し、前記CuIを極性非水溶媒内で安定化させるに十分な量の機能化剤を加え、機能化剤によって複合化されたCuI粒子粉末が形成されるよう、前記の安定化したCuI粒子を乾燥させられるまで溶媒を除去し、機能化剤によって複合化されたCuI粒子粉末を約1?約6pHの水溶液に分散させて水中で安定化するCuI粒子を形成し、任意選択で、水を除去できるまで安定化されたCuI粒子を乾燥させるというステップを含んでいるプロセスに従って生まれる、抗菌作用を持つ組成物である。もう一つの任意のステップとして、任意の乾燥ステップの前に分散のpHを中和させるというものがある。」 「【0046】 「機能化」という用語は、以下のうちの一つまたはそれ以上を達成するための粒子の表面化学の修飾を意味している:1)他の物質、特に微生物種との相互作用の向上、2)コーティングおよびバルク材構成要素との相互作用ならびに分布均一性の向上、3)懸濁液内に分散している粒子の安定性の向上。「機能化剤」という用語は、第一の実施形態において、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリウレタンポリマー、アクリルポリマー、イオン性部位を持つポリマー等の様々なポリマー種を含んでいる。」 これらの記載からみて、本件発明1の「機能化剤」とは、ヨウ化銅粒子と複合体を形成してヨウ化銅粒子を安定化させ、抗菌的に有効な量のイオンが微生物環境へ放出される機能を付与するものであり、【0013】に記載された方法、すなわち、ヨウ化銅を極性非水溶媒に溶解させ、これに機能化剤を添加した後、溶媒を除去するという工程を含む方法によってヨウ化銅粒子と複合体を形成し、ヨウ化銅粒子の表面を修飾するものであって、具体的には【0012】に例示されているような物質であることが理解できるから、請求項1の特定事項である「機能化剤」は不明確とはいえない。 したがって、上記理由により本件特許発明に係る特許を取り消すことはできない。 (2-6-5)「前記ヨウ化銅が、ポリマーマトリクス内に存在する」について 「前記ヨウ化銅が、ポリマーマトリクス内に存在する」とは、その文言からみて、ポリマーマトリクスの中にヨウ化銅が存在していればよいのであり、ヨウ化銅を含んでいる「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子」又は「(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子」の形態で含まれていても、「前記ヨウ化銅が、ポリマーマトリクス内に存在する」ことと矛盾しない。 また、本件特許明細書には以下の記載がある。 「【0022】 本発明の他の実施形態において、ハロゲン化銅を含んでいる多孔質担体粒子またはハロゲン化銅およびハロゲン化銀は、望ましい抗菌作用を備えるコーティングまたは固形物として使用されるマトリクス材に組み込まれる。」 「【0033】 モノマーは、粒子表面に付着することができ、またこのような修飾された粒子が取り込まれるマトリクスに反応または結合することもできる物質を含んでいる。「マトリクス材」とは、このモノマーが反応または錯体形成等の物理的結合によって結合することになるポリマーである。モノマーのいくつかの例としては、ポリオール類、シラン、金属アルコキシド、アクリルポリオール、メタクリル酸ポリオール、グリシジルエステル、アクリルおよびメタクリルが挙げられる。」 「【0072】 表面機能化によって、粒子の凝集阻止(特に液状生成物における懸濁液の安定性向上等)、粒子が物体の様々な表面もしくは微生物にも付着することの実現、またマトリクス材が合成物として他の物質に組み込まれている場合、粒子がマトリクス材へ付着する支援等、多数の属性のうちの一つまたは複数が付与される。この機能化は、抗菌性粒子をこれらのマトリクス内へ容易に分散させる助けにもなる(後に物体に成型される熱硬化性または熱可塑性ポリマーとの混合等)。」 「【0074】 ・・・粒子の機能化によって、粒子を実際に応用させるために望まれる属性も追加される。これらの属性とは、バルク材およびコーティング内等特定のマトリクスに対する粒子の溶着および/または反応の促進、粒子および微生物間の相互作用をより引力のあるものにすることによる、あるいは特定の応用に対して両者を他の物質と結合または組み合わせることによる抗菌特性の強化である。・・・多様な高分子マトリクスとの相溶性を向上させる結合剤およびモノマーの例として、有機シラン(エポキシマトリクスで使用するエポキシシラン、ウレタンおよびナイロンマトリクスで使用するメルカプトシラン、反応性ポリエステルおよびアクリルポリマーで使用するアクリル、メタクリルおよびビニルシラン)がある。その他のモノマーは、粒子表面に付着することができ、またこのような修飾された粒子が取り込まれるマトリクスに反応または結合することもできる物質を含んでいる。」 「【0092】 a.組み込みの手法 ・・・他の実施形態において、成型、押出をされた熱可塑性製品への本発明のナノ粒子の組み込みは、通常マスターバッチを初めて作成することによって実現され、抗菌性化合物(粒子としてまたは多孔質マトリクスに注入されて)は、ポリマーマトリクス内に比較的高い濃度で存在する(金属重量の1?10%が好ましい)。このマスターバッチはその後ポリマー(樹脂)と混ぜられ、成型、押出をされた製品となる。」 「【0095】 これらの粒子がコーティング、成型済み製品、その他立体製品に使用されると光を散乱させることがあるが、これは粒子の濃度、粒子径、マトリクスに比例する屈折率によって変化する。このため、製品の厚みの増加、また特に粒子径の増大、粒子濃度の増加、粒子とマトリクスの屈折率(RI)の差異の拡大が進むと、透明性が損なわれる可能性、ヘイズを引き起こす可能性がある(米国特許出願公開20100291374を参照)。・・・通常、最も一般的なポリマーのマトリクスのRIは、1.4から1.6である。シリコーンは1.4に近く、アクリルは1.5、ポリカーボネートは1.6に近くなる。」 これらの記載のように、本件特許明細書中で用いられている「ポリマーマトリクス」や「マトリクス材」という用語は、コーティングや樹脂組成物等の、本件発明のヨウ化銅を含む所定の粒子を配合して抗菌性を付与するポリマーマトリクスを意味していると理解されるから、請求項2の特定事項である「前記ヨウ化銅が、ポリマーマトリクス内に存在する」とは、ヨウ化銅が「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子」又は「(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子」として、コーティングや樹脂組成物等を構成するポリマーマトリクス内に存在することを意味していると解される。 したがって、「前記ヨウ化銅が、ポリマーマトリクス内に存在する」と「(a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子」又は「(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子」の関係は不明確ではなく、上記理由によっては本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 (2-6-6)「コーティング」について 前記第6の1(1-4)(1-4-2)において検討したのと同様である。 (2-6-7)「クリーム」について 本件特許明細書には以下の記載がある。 「【0090】 4.組成物の使用 本発明の実施形態は、幅広い抗菌性用途において有用性がある。これらの用途の一部を下記第1表に示す。抗菌性化合物としての直接の使用の他に、他の実施形態では、機能性粒子が他の物質に組み込まれて新規のかつ有用な物質を得る方法が含まれている。 【0091】 【表1A】 第1表 機能性抗菌ナノ粒子の代表的な用途 (当審注:表1Aは省略する。) 【表1B】 (当審注:表1B 28.?39.は省略する。) 27.外傷、切り傷、火傷、皮膚および爪の感染症向けの医療用局所クリーム ・・・・・」 「【0096】 このような抗菌性組成物から形成される製品の別の実施形態に、医薬品また消費者製品の両用途で使われる局所用クリームがある。一例として、機能性ナノ粒子がLubrizol社のCarbopol(登録商標)ポリマーに添加または組み込まれ、感染症、真菌、外傷、にきび、火傷等の治療用抗菌クリームとして使われるゲルおよびクリームが作られることがある。・・・ 【0097】 機能性ナノ粒子はワセリンにも組み込まれ、優れた耐水性を発揮する。界面活性剤および相溶剤を追加して、疎水性のワセリンが塗布部分を保護する一方、親水性の可能性のあるその下の部分へ抗菌性物質を放出することもできる。本発明の機能性金属ハロゲン化物粉末を併用した抗菌作用を持つクリームや軟膏の生成方法を、当調剤業者は知ることになるだろう。 【0098】 本発明の抗菌性物質は、感染対策またはそれに関連する用途の抗菌クリームまたは製剤等、他の製剤の添加剤として使われる。本発明の抗菌性物質は、火傷を受けた組織の修復を助けながら感染症も防ぐ火傷用クリームに添加されることもある。」 「【0104】 本発明の他の実施形態は、本発明のナノ粒子組成物で機器表面に接触するという方法を使い、抗菌性を有するとみなされる医療機器を含んでいる。医療機器は、・・・、ヒドロゲル、クリーム、ローション、ゲル(水性または油性)、乳剤、リポソーム、軟膏、接着剤、・・・等を含んでいるが、この限りではない。」 表1のNo.27や【0096】?【0098】【0104】に記載された外傷、切り傷、火傷、皮膚および爪の感染症向けの医療用局所クリーム、感染症、真菌、外傷、にきび、火傷等の治療用抗菌クリーム、抗菌作用を持つクリームや軟膏、感染対策またはそれに関連する用途の抗菌クリーム、火傷用クリーム等のクリームは、「医薬品」又は「消毒薬」に該当する。 そして、これらの例からみて、本件発明4は、本件発明1の医薬品、医療機器又は消毒薬である抗菌性の製品のうち、クリームであるものを特定しているものといえ、請求項1及び4に係る発明は不明確とはいえないから、上記理由によって本件特許発明に係る特許を取り消すことはできない。 (2-6-8)「外傷用製品」について 本件特許明細書には以下の記載がある。 「【0096】 このような抗菌性組成物から形成される製品の別の実施形態に、医薬品また消費者製品の両用途で使われる局所用クリームがある。一例として、機能性ナノ粒子がLubrizol社のCarbopol(登録商標)ポリマーに添加または組み込まれ、感染症、真菌、外傷、にきび、火傷等の治療用抗菌クリームとして使われるゲルおよびクリームが作られることがある。」 「【0102】 ・・・本発明のポピドンヨード組成物は、動物および人間の感染部位の治療に使用されることがある。一例として、PVPおよびヨウ素の局所用水溶液(PVPの重量の約8?12%がヨウ素)は、外傷用消毒薬、また手術前の皮膚消毒薬として広く使われている。」 「【0104】 本発明の他の実施形態は、本発明のナノ粒子組成物で機器表面に接触するという方法を使い、抗菌性を有するとみなされる医療機器を含んでいる。医療機器は、カテーテル(静脈、導尿、フォーリーまたは疼痛管理、あるいはこの変形形態)、ステント、腹部プラグ、綿ガーゼ、繊維状の創傷包帯(アルギン酸塩製のシートおよびロープ、CMCまたはその混合物、架橋または非架橋セルロース)、コラーゲンまたはたんぱく質マトリクス、止血材、粘着フィルム、コンタクトレンズ、レンズケース、絆創膏、縫合糸、ヘルニアメッシュ、メッシュベースの創傷カバー、造瘻およびその他外傷用製品、・・・等を含んでいるが、この限りではない。」 【0096】【0102】【0104】に記載された外傷の治療用抗菌クリーム、外傷用消毒薬、創傷包帯、止血材絆創膏、縫合糸等の種々の外傷用製品は、「医薬品、医療機器又は消毒薬」に該当する外傷用製品である。 そして、これらの例からみて、本件発明6は、本件発明1の医薬品、医療機器又は消毒薬である抗菌性の製品のうち、外傷の処置等に使用されるものを特定しているものといえ、請求項1及び6に係る発明は不明確とはいえないから、上記理由によって本件特許発明に係る特許を取り消すことはできない。 (2-6-9)「消毒液」について 本件特許明細書には以下の記載がある。 「【0102】 ・・・本発明のポピドンヨード組成物は、動物および人間の感染部位の治療に使用されることがある。一例として、PVPおよびヨウ素の局所用水溶液(PVPの重量の約8?12%がヨウ素)は、外傷用消毒薬、また手術前の皮膚消毒薬として広く使われている。・・・ポピドンヨード(PVP-I)は安定したポリビニルピロリドン(ポピドン、PVP)錯化合物で、元素状ヨウ素である。・・・10%水溶液が、局所消毒液として広く使われている。本発明の金属および金属ハロゲン化物の機能性粒子をこのようなPVP・ヨウ素液に加え、消毒能力を著しく高めた新たな消毒液を作ることができる。このようなPVP・ヨウ素液に添加された金属ハロゲン化物粒子の組成物も、本発明の範囲内である。」 【0102】に記載された消毒液は、「医薬品」又は「消毒薬」に該当する消毒液である。 そして、上記の例からみて、本件発明8は、本件発明1の医薬品、医療機器又は消毒薬である抗菌性の製品のうち、消毒に用いられる液状のものを特定しているものといえ、請求項1及び8に係る発明は不明確とはいえないから、上記理由によって本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 (2-7)甲第15号証に基く申立理由(新規性及び進歩性)について 甲第15号証は、令和2年7月10日付け意見書に添付して提出されたものであり、異議申立人1は職権審理の対象とするよう求めているが、特許異議申立期間経過後に提出された証拠に基づくものであるから、採用しない。 (なお、甲第15号証の公開日は本件特許の最先の優先日よりも後であるから、甲第15号証がただちに本件特許発明の新規性及び進歩性を否定する文献となり得るとはいえない。) 2 異議申立人2の主張について 前記第4の2(2)の異議申立人2の主張については以下のとおりである。 (2-1)甲第1号証を主引例とする新規性及び進歩性について 前記第6の2(1-1)において検討したのと同様である。 (2-2)甲第2号証を主引例とする新規性及び進歩性について 前記第6の2(1-2)において検討したのと同様である。 (2-3)サポート要件について (2-3-1)「ヨウ化銅の成形された粒子」について 前記第5の2(5)において検討したのと同様である。 (2-3-2)「粒子径」の限定について 前記第6の2(1-3)(1-3-2)において検討したのと同様である。 (2-3-3)「(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子」について 本件特許明細書の記載をみると、「機能化剤」について以下の記載がある。 「【0010】 本発明の第一の実施形態は、少なくとも一つの無機銅塩を持つ粒子を有する抗菌作用を持つ組成物を対象とするものである。少なくとも一つの機能化剤がその粒子に接し、その機能化剤は、担体内の粒子を安定化させて抗菌的に有効な量のイオンが微生物環境へ放出されるようにする。一実施形態において、担体は機能化剤がその中で溶解する液体である。別の実施形態では、担体は液体で、機能化剤がその中で溶解するが安定化されている。機能化剤には粒子を複合化させる作用があり、それによって液体内の粒子が安定化される。」 「【0012】 本発明の実施形態は機能化剤を含んでいる。前記機能化剤には、アミノ酸、チオール、ポリマー、特に親水性ポリマー、疎水性ポリマー乳剤、界面活性剤、またはリガンド特異的な結合剤が含まれている。前記アミノ酸剤の好適な実施形態としては、アスパラギン酸、ロイシンおよびレジンが、前記チオール剤の好適な実施形態としては、アミノチオール、チオグリセロール、チオグリシン、チオ乳酸、チオリンゴ酸、チオクト酸およびチオシランがある。前記親水性ポリマーの好適な実施形態としては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、前記ポリマーを形成するモノマーの少なくとも一つを有する共重合体およびそれらの混合体がある。その他の好ましいポリマーとしては、ポリウレタン、アクリルポリマー、およびエポキシ樹脂があり、表面修飾中に乳剤および液剤として使用される際は、特に、シリコーンおよびフルオロシリコーンが好まれる。・・・ 【0013】 ここで説明される本発明の他の実施形態は、CuI粉末を取得し、そのCuI粉末を極性非水溶媒で溶解し、前記CuIを極性非水溶媒内で安定化させるに十分な量の機能化剤を加え、機能化剤によって複合化されたCuI粒子粉末が形成されるよう、前記の安定化したCuI粒子を乾燥させられるまで溶媒を除去し、機能化剤によって複合化されたCuI粒子粉末を約1?約6pHの水溶液に分散させて水中で安定化するCuI粒子を形成し、任意選択で、水を除去できるまで安定化されたCuI粒子を乾燥させるというステップを含んでいるプロセスに従って生まれる、抗菌作用を持つ組成物である。もう一つの任意のステップとして、任意の乾燥ステップの前に分散のpHを中和させるというものがある。」 「【0046】 「機能化」という用語は、以下のうちの一つまたはそれ以上を達成するための粒子の表面化学の修飾を意味している:1)他の物質、特に微生物種との相互作用の向上、2)コーティングおよびバルク材構成要素との相互作用ならびに分布均一性の向上、3)懸濁液内に分散している粒子の安定性の向上。「機能化剤」という用語は、第一の実施形態において、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリウレタンポリマー、アクリルポリマー、イオン性部位を持つポリマー等の様々なポリマー種を含んでいる。」 これらの記載からみて、本件発明1の「機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子」とは、機能化剤がヨウ化銅粒子と複合体を形成してヨウ化銅粒子を安定化させ、抗菌的に有効な量のイオンが微生物環境へ放出される機能を付与した粒子でなくてはならず、そのような機能を付与するための機能化剤としては具体的には【0012】に例示されているような「ポリビニルピロリドン」や「ポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体」を含む種々の物質を使用でき、さらに、【0013】に記載されている方法、すなわち、ヨウ化銅を極性非水溶媒に溶解させ、これに機能化剤を添加した後、溶媒を除去するという工程を含む方法を経て製造されるものであることが理解できる。 本件発明の「機能化剤」は上記機能を付与するためのものであるから、機能化剤としてポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体を用いた場合の効果しか具体的に示されていないものの、他の機能化剤を用いた場合であっても、例えば、他の物質との相互作用の向上等の、【0046】に記載された1)?3)のいずれか1以上の作用を付与することができるものと認められる。 したがって、上記理由によって、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 (2-4)明確性要件について (2-4-1)「ヨウ化銅の成形された粒子」について 前記第5の2(6)において検討したのと同様である。 (2-4-2)「(但し、消毒液、繊維、織物、及びシートを除く)」について 本件訂正により、特定の製品を除く旨を規定する特定事項は存在しなくなったから、上記理由により本件特許発明に係る特許を取り消すことはできない。 3 異議申立人の意見書における主張についての当審の判断のまとめ 以上のとおりであるから、本件発明1?16に係る特許につき、異議申立人の意見書における主張はいずれも採用することができない。 第8 むすび 以上のとおり、当該訂正後の本件の請求項1?16に係る特許は、特許異議申立の理由及び当審が通知した取消理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件の請求項1?16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (a)ヨウ化銅を含む多孔質粒子および(b)機能化剤で表面が修飾されてなるヨウ化銅の粒子のうちの少なくとも1つを含む抗菌性の製品であって、前記製品における前記ヨウ化銅は銅濃度で0.001?5重量%未満であり、前記製品が、医薬品、医療機器又は消毒薬であり、前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される抗菌性の製品。 【請求項2】 前記ヨウ化銅が、ポリマーマトリクス内に存在する請求項1に記載の抗菌性の製品。 【請求項3】 前記製品が、コーティングである請求項1に記載の抗菌性の製品。 【請求項4】 前記製品が、クリームである請求項1に記載の抗菌性の製品。 【請求項5】 抗生物質および抗菌物質から選択される少なくとも一つの付加的な成分をさらに含む、請求項1に記載の抗菌性の製品。 【請求項6】 前記製品が、外傷用製品である請求項1に記載の抗菌性の製品。 【請求項7】 前記ヨウ化銅が、平均粒径が1000nm以下の粒子として存在する請求項1に記載の抗菌性の製品。 【請求項8】 前記製品が、消毒液である請求項1に記載の抗菌性の製品。 【請求項9】 ヨウ化銅とポリビニルピロリドン(PVP)、またはポリビニルピロリドンを形成するモノマーを有する共重合体とから成形された粒子を含む抗菌性の製品であって、前記製品における前記ヨウ化銅は銅濃度で0.001?5重量%未満であり、前記製品が消費者製品であり、前記抗菌性が前記製品からの銅イオンの放出によって供給される抗菌性の製品。 【請求項10】 前記製品が、押出された製品または射出成型された製品である請求項9に記載の抗菌性の製品。 【請求項11】 前記製品が、繊維である請求項9に記載の抗菌性の製品。 【請求項12】 前記製品が、消毒薬である請求項9に記載の抗菌性の製品。 【請求項13】 前記製品が、電子機器である請求項9に記載の抗菌性の製品。 【請求項14】 前記製品が、シャンプーである請求項9に記載の抗菌性の製品。 【請求項15】 前記製品が、衣料品である請求項9に記載の抗菌性の製品。 【請求項16】 前記製品が、個人衛生用品であって、抗臭性を提供するものである請求項9に記載の抗菌性の製品。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-10-30 |
出願番号 | 特願2016-172434(P2016-172434) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(A01N)
P 1 651・ 537- YAA (A01N) P 1 651・ 121- YAA (A01N) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 斉藤 貴子 |
特許庁審判長 |
瀬良 聡機 |
特許庁審判官 |
安孫子 由美 冨永 保 |
登録日 | 2018-10-26 |
登録番号 | 特許第6423833号(P6423833) |
権利者 | アジエニック,インコーポレイテッド |
発明の名称 | 抗菌性金属ナノ粒子の組成物および方法 |
代理人 | 水島 亜希子 |
代理人 | 森本 聡二 |
代理人 | 水島 亜希子 |
代理人 | 奥山 尚一 |
代理人 | 奥山 尚一 |
代理人 | 中村 綾子 |
代理人 | 中村 綾子 |
代理人 | 森本 聡二 |