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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C04B
管理番号 1370014
異議申立番号 異議2020-700266  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-04-16 
確定日 2020-12-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6591455号発明「高熱伝導性窒化珪素焼結体、それを用いた窒化珪素基板および窒化珪素回路基板並びに半導体装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6591455号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?19〕について訂正することを認める。 特許第6591455号の請求項2?19に係る特許を維持する。 特許第6591455号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6591455号の請求項1?19に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)1月19日(優先権主張 平成27年1月23日)を国際出願日とする出願であって、令和1年9月27日にその特許権の設定登録がされ、同年10月16日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年 4月16日 : 特許異議申立人 佐藤徹による請求項1?19に係る特許に対する特許異議の申立て
令和2年 6月 9日付け: 取消理由通知書
同年 8月 7日 : 訂正の請求(特許権者)
なお、上記のとおり訂正の請求があったので、特許法第120条の5第5項の規定に従い、特許異議申立人に意見書を提出する機会を与えたが、応答はなかった。

第2 訂正の適否についての判断

令和2年8月7日になされた訂正の請求(以下、その訂正を「本件訂正」という。)は、以下のとおり、適法になされたものと判断する。
1 訂正の内容
本件訂正は、一群の請求項を構成する請求項1?19を訂正の単位として請求されたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に従うものであるところ、その訂正の内容(訂正事項)は、次のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記I_(29.3°)およびI_(29.7°)は希土類元素-ハフニウム-酸素系化合物結晶に応じたピークであり、前記I_(27.0°)およびI_(36.1°)はβ-Si_(3)N_(4)結晶に応じたピークであることを特徴とする請求項1記載の高熱伝導性窒化珪素焼結体。」とあるのを、独立形式に改め、「熱伝導率が50W/m・K以上であり、3点曲げ強度が600MPa以上である高熱伝導性窒化珪素焼結体において、窒化珪素焼結体の任意の断面をXRD分析したときに、回折角29.3±0.2°、29.7±0.2°、27.0±0.2°、36.1±0.2°で検出される最強ピーク強度をI_(29.3°)、I_(29.7°)、I_(27.0°)、I_(36.1°)としたときに、ピーク比(I_(29.3°))/(I_(27.0°)+I_(36.1°))が0.01?0.08を満たし、かつ、ピーク比(I_(29.7°))/(I_(27.0°)+I_(36.1°))が0.02?0.16を満たし、前記I_(29.3°)およびI_(29.7°)は希土類元素-ハフニウム-酸素系化合物結晶に応じたピークであり、前記I_(27.0°)およびI_(36.1°)はβ-Si_(3)N_(4)結晶に応じたピークであることを特徴とする高熱伝導性窒化珪素焼結体。」(当審注:下線を付した部分が訂正箇所である。以下、同じ。)に訂正し、その結果として、請求項2を引用する請求項3?19も同様に訂正する。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4における引用請求項を「請求項1ないし請求項3のいずれか1項」から「請求項2ないし請求項3のいずれか1項」に訂正する。

(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5における引用請求項を「請求項1ないし請求項4のいずれか1項」から「請求項2ないし請求項4のいずれか1項」に訂正する。

(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7における引用請求項を「請求項1ないし請求項6のいずれか1項」から「請求項2ないし請求項6のいずれか1項」に訂正する。

(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8における引用請求項を「請求項1ないし請求項7のいずれか1項」から「請求項2ないし請求項7のいずれか1項」に訂正する。

(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9における引用請求項を「請求項1ないし請求項8のいずれか1項」から「請求項2ないし請求項8のいずれか1項」に訂正する。

(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項10における引用請求項を「請求項1ないし請求項9のいずれか1項」から「請求項2ないし請求項9のいずれか1項」に訂正する。

(9) 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項11における引用請求項を「請求項1ないし請求項10のいずれか1項」から「請求項2ないし請求項10のいずれか1項」に訂正する。

(10) 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項12における引用請求項を「請求項1ないし請求項11のいずれか1項」から「請求項2ないし請求項11のいずれか1項」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1を削除するというものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2が請求項1の記載を引用する記載であるところ、請求項1の記載を引用しないものとして、独立形式へ改める訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、また、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3?10について
訂正事項3?10は、訂正事項1により削除した請求項1を引用しないように、引用請求項の中から請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1?19〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正後の本件発明

上記「第2」のとおり本件訂正は適法になされたものと認められるので、本件特許請求の範囲の請求項2?19に係る発明(以下、「本件発明2」などといい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項2?19に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項2】
熱伝導率が50W/m・K以上であり、3点曲げ強度が600MPa以上である高熱伝導性窒化珪素焼結体において、窒化珪素焼結体の任意の断面をXRD分析したときに、回折角29.3±0.2°、29.7±0.2°、27.0±0.2°、36.1±0.2°で検出される最強ピーク強度をI_(29.3°)、I_(29.7°)、I_(27.0°)、I_(36.1°)としたときに、ピーク比(I_(29.3°))/(I_(27.0°)+I_(36.1°))が0.01?0.08を満たし、かつ、ピーク比(I_(29.7°))/(I_(27.0°)+I_(36.1°))が0.02?0.16を満たし、前記I_(29.3°)およびI_(29.7°)は希土類元素-ハフニウム-酸素系化合物結晶に応じたピークであり、前記I_(27.0°)およびI_(36.1°)はβ-Si_(3)N_(4)結晶に応じたピークであることを特徴とする高熱伝導性窒化珪素焼結体。
【請求項3】
前記希土類元素-ハフニウム-酸素系化合物結晶は、構成元素は同じで組成比が異なる化合物結晶を2種以上含有することを特徴とする請求項2に記載の高熱伝導性窒化珪素焼結体。
【請求項4】
前記ピーク比(I_(29.3°))/(I_(27.0°)+I_(36.1°))と前記ピーク比(I_(29.7°))/(I_(27.0°)+I_(36.1°))との和が0.03?0.20を満たすことを特徴とする請求項2ないし請求項3のいずれか1項に記載の高熱伝導性窒化珪素焼結体。
【請求項5】
34.8±0.2°に検出される最強ピーク強度をI_(34.8°)としたとき、ピーク比(I_(34.8°))/(I_(27.0°)+I_(36.1°))が0.02以下(ゼロ含む)であることを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の高熱伝導性窒化珪素焼結体。
【請求項6】
前記I_(29.3°)およびI_(29.7°)は希土類元素-ハフニウム-酸素系化合物結晶に応じたピークであり、前記希土類元素-ハフニウム-酸素系化合物結晶は、Y_(1.6)Hf_(0.3)O_(3)結晶、Y_( 0.5)Hf_(0.5)O_(1.75)結晶、Y_(0.1)Hf_(0.9)O_(1.95)結晶から選択される2種以上を含有することを特徴とする請求項2ないし請求項5のいずれか1項に記載の高熱伝導性窒化珪素焼結体。
【請求項7】
イットリウムを含有していることを特徴とする請求項2ないし請求項6のいずれか1項に記載の高熱伝導性窒化珪素焼結体。
【請求項8】
前記窒化珪素焼結体の任意の断面で、粒界相の最大径が10μm以下であることを特徴とする請求項2ないし請求項7のいずれか1項に記載の高熱伝導性窒化珪素焼結体。
【請求項9】
窒化珪素結晶粒子の長径の平均粒径が1?10μmであることを特徴とする請求項2ないし請求項8のいずれか1項に記載の高熱伝導性窒化珪素焼結体。
【請求項10】
焼結体の気孔率が3%以下(ゼロ含む)であることを特徴とする請求項2ないし請求項9のいずれか1項に記載の高熱伝導性窒化珪素焼結体。
【請求項11】
50Hzでの比誘電率をεr_(50)、1kHzでの比誘電率をεr_(1000)としたとき、(εr_(50)-εr_(1000))/εr_(50)≦0.1であることを特徴とする請求項2ないし請求項10のいずれか1項に記載の高熱伝導性窒化珪素焼結体。
【請求項12】
請求項2ないし請求項11のいずれか1項に記載の高熱伝導性窒化珪素焼結体から成ることを特徴とする窒化珪素基板。
【請求項13】
前記窒化珪素基板の厚さが0.10mm以上0.70mm以下であることを特徴とする請求項12記載の窒化珪素基板。
【請求項14】
前記窒化珪素基板の厚さが0.10mm以上0.30mm未満であることを特徴とする請求項13記載の窒化珪素基板。
【請求項15】
前記高熱伝導性窒化珪素焼結体中の窒化珪素結晶粒子の長径の最大径は、前記窒化珪素基板の厚さの20%以下であることを特徴とする請求項12ないし請求項14のいずれか1項に記載の窒化珪素基板。
【請求項16】
請求項12ないし請求項15のいずれか1項に記載の窒化珪素基板に金属板を接合したことを特徴とする窒化珪素回路基板。
【請求項17】
前記窒化珪素基板の少なくとも一方の表面に複数個の金属板を接合したことを特徴とする請求項16記載の窒化珪素回路基板。
【請求項18】
少なくとも一つの金属板の厚さは0.70mm以上であることを特徴とする請求項16または請求項17のいずれか1項に記載の窒化珪素回路基板。
【請求項19】
請求項16ないし請求項18のいずれか1項に記載の窒化珪素回路基板に半導体素子を搭載したことを特徴とする半導体装置。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について

1 取消理由の概要
当審が令和2年6月9日付けで特許権者に通知した取消理由は、本件訂正前の請求項1、4、5、7?19に係る発明に対するものであって、その要旨は次のとおりである。
(1) (サポート要件違反)本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願時の技術常識に基づいて、当業者が本件発明の課題を解決することができると認識できる範囲は、窒化珪素焼結体が「希土類-ハフニウム-酸素系化合物結晶」に応じた所定のピーク強度を有する場合であるといえるから、この点を限定しない本件訂正前の請求項1、4、5、7?19に係る発明は、上記範囲を超えるものである。

(2) (明確性要件違反)本件訂正前の請求項1、4、5、7?19に係る発明の発明特定事項により、高熱伝導性窒化珪素焼結体が、希土類元素-ハフニウム-酸素系化合物結晶を含むことを限定しているのか否かが不明であり、それらの発明を正確に把握することができない。

2 取消理由1(サポート要件違反)及び2(明確性要件違反)についての当審の判断
本件発明2?19は、上記取消理由1及び2の対象外である本件訂正前の請求項2に係る発明の全ての発明特定事項(「前記I_(29.3°)およびI_(29.7°)は希土類元素-ハフニウム-酸素系化合物結晶に応じたピークであり、前記I_(27.0°)およびI_(36.1°)はβ-Si_(3)N_(4)結晶に応じたピークである」という発明特定事項)を具備するものであるので、本件発明2?19に対して、上記取消理由1及び2は妥当しない。
したがって、当該取消理由1及び2を理由に、本件請求項2?19に係る特許を取り消すことはできない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

1 標記特許異議申立理由の概要
特許異議申立人が、特許異議申立書において主張する特許異議申立理由のうち、当審が上記取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
(1) (委任省令要件違反)本件訂正前の請求項1?19に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、経済産業省令で定めるところにより記載したものではなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当するから、取り消されるべきものである(以下、「申立理由1」という。)。

(2) (実施可能要件違反)本件訂正前の請求項1?19に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当するから、取り消されるべきものである(以下、「申立理由2」という。)。

(3) (サポート要件違反)本件訂正前の請求項1?19に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当するから、取り消されるべきものである(以下、「申立理由3」という。)。

2 申立理由1(委任省令要件違反)についての当審の判断
(1) 申立理由1(委任省令要件違反)についての具体的な指摘事項は、要するに、本件発明は特定のXRDピーク比を特定の範囲とすることで、熱伝導率が50W/m・K以上であり、3点曲げ強度が600MPa以上である高熱伝導性窒化珪素焼結体を得て、「強度と絶縁耐圧性とを共に向上させた窒化珪素焼結体を提供する」(本件明細書の段落【0004】参照。)という本件発明の課題を解決するものと認められるが、一方で、3点曲げ強度及びXRDピーク比が本件発明の範囲外である比較例1及び2においても、「比較例1?2は、熱伝導率や3点曲げ強度は優れていた」(同段落【0047】参照。)とされ、比較例2においては20kV/mmという実施例10と同等の絶縁耐圧を有しており(同【表6】参照。)、そうすると、上記特定のXRDピーク比を特定の範囲とすることと、上記課題解決に至る熱伝導率、3点曲げ強度及び絶縁耐圧性との技術的な関係が不明であり、当業者が上記課題解決のための手段を理解することができないというものである。

(2) 当該申立理由1について検討すると、特許法第36条第4項第1号所定の委任省令要件で、発明の詳細な説明に記載することが求められるのは、発明の属する技術分野、発明が解決しようとする課題及びその解決手段といった事項と解されるところ、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、まず、本件発明の属する技術分野は「高熱伝導性窒化珪素焼結体、それを用いた窒化珪素基板および窒化珪素回路基板並びに半導体装置」(【0001】参照。)に関するものであり、本件発明の課題は上記(1)に記載のとおり、「強度」と「絶縁耐圧性」の向上にあることを理解することができる。
そして、【表3】には、「特定のXRDピーク比を特定の範囲」内とした実施例の3点曲げ強度が600MPa以上であるのに対し、「特定のXRDピーク比を特定の範囲」外とした比較例の3点曲げ強度は600MPa未満であることが示されていることから、特定のXRDピーク比を特定の範囲とするという手段による「強度」向上作用を、また、【表6】及び【表8】には、「特定のXRDピーク比を特定の範囲」内とした実施例は、「特定のXRDピーク比を特定の範囲」外とした比較例に対して、絶縁耐圧が同等以上であり、かつ、TCT試験後の絶縁耐圧の低下割合が低いことが示されていることから、特定のXRDピーク比を特定の範囲とするという手段による「絶縁耐圧性」向上作用を、それぞれ看取することができるから、上記課題の解決手段についても理解することができる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、特許異議申立人が指摘するような委任省令要件違反に係る記載不備は見当たらないから、申立理由1を理由に、本件請求項2?19に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由2(実施可能要件違反)についての当審の判断
(1) 申立理由2(実施可能要件違反)についての具体的な指摘事項は、要するに、本件明細書の実施例に記載の特定の構成元素、組成及び組成比を有する特定の焼結助剤粉末と、窒化珪素粉末とを焼結して得られた窒化珪素焼結体以外の窒化珪素焼結体においては、どのような構成元素、組成及び組成比を有する焼結助剤粉末を、窒化珪素粉末と共に、どのような焼結温度、焼結時間、及び焼結速度等の条件において焼結することで、本件発明の課題を解決できる窒化珪素焼結体が得られるのか理解できず、このような焼結体を得ることは、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするというものである。

(2) 当該申立理由2について検討すると、まず、「物の発明」について実施をすることができるとは、その物を作れ、かつ、その物を使用できることであるから、この観点から本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみると、【0041】?【0058】の実施例には、「熱伝導率が50W/m・K以上」であり、「3点曲げ強度が600MPa以上」であり、ピーク強度I_(29.3°)およびI_(29.7°)を示す希土類元素-ハフニウム-酸素系化合物結晶を有し、「ピーク比(I_(29.3°))/(I_(27.0°)+I_(36.1°))が0.01?0.08」を満たし、かつ、「ピーク比(I_(29.7°))/(I_(27.0°)+I_(36.1°))が0.02?0.16」を満たす本件発明に相当する窒化珪素焼結体の製造方法、及び、当該窒化珪素焼結体が、上記本件発明の課題を解決し、窒化珪素基板として使用できることが記載されているといえる。
更に、焼結助剤として実施例以外の希土類元素を用いた場合についても、上記実施例における製造方法の記載及び希土類元素が類似の性質を有するという本件出願時の技術常識に基づいて、上記所定のピーク強度及び物性を有する本件発明の窒化珪素焼結体を製造し得ることを当業者であれば理解できるといえる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に説明されているといえるから、申立理由2を理由に、本件請求項2?19に係る特許を取り消すことはできない。

4 申立理由3(サポート要件違反)についての当審の判断
(1) 申立理由3(サポート要件違反)についての具体的な指摘事項は、要するに、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、上記本件発明の課題解決に至るものとして認識できるのは、実施例に記載された特定の化合物結晶を含む窒化珪素焼結体のみであり、それ以外の化合物結晶を含む本件発明全体にまでこれを拡張ないし一般化することはできないというものである。

(2) 当該申立理由3について検討すると、本件訂正後の本件発明は、当該化合物結晶として、希土類元素-ハフニウム-酸素系化合物結晶を有するものとなっているところ、当該希土類元素が実施例以外の元素である場合についても、希土類元素が類似の性質を有するという本件出願時の技術常識に照らせば、その特性を類推することができるから、当業者であれば、本件発明全体についても、当該実施例及び技術常識に基づいて、上記本件発明の課題解決に至るものであると認識し得ると解するのが相当である。
したがって、上記の特許異議申立人の指摘は当たらず、申立理由3を理由に、本件請求項2?19に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項2?19に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項2?19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
更に、本件特許の特許請求の範囲の請求項1は、本件訂正により削除され、当該請求項1に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
熱伝導率が50W/m・K以上であり、3点曲げ強度が600MPa以上である高熱伝導性窒化珪素焼結体において、窒化珪素焼結体の任意の断面をXRD分析したときに、回折角29.3±0.2°、29.7±0.2°、27.0±0.2°、36.1±0.2°で検出される最強ピーク強度をI_(29.3°)、I_(29.7°)、I_(27.0°)、I_(36.1°)としたときに、ピーク比(I_(29.3°))/(I_(27.0°)+I_(36.1°))が0.01?0.08を満たし、かつ、ピーク比(I_(29.7°))/(I_(27.0°)+I_(36.1°))が0.02?0.16を満たし、前記I_(29.3°)およびI_(29.7°)は希土類元素-ハフニウム-酸素系化合物結晶に応じたピークであり、前記I_(27.0°)およびI_(36.1°)はβ-Si_(3)N_(4)結晶に応じたピークであることを特徴とする高熱伝導性窒化珪素焼結体。
【請求項3】
前記希土類元素-ハフニウム-酸素系化合物結晶は、構成元素は同じで組成比が異なる化合物結晶を2種以上含有することを特徴とする請求項2に記載の高熱伝導性窒化珪素焼結体。
【請求項4】
前記ピーク比(I_(29.3°))/(I_(27.0°)+I_(36.1°))と前記ピーク比(I_(29.7°))/(I_(27.0°)+I_(36.1°))との和が0.03?0.20を満たすことを特徴とする請求項2ないし請求項3のいずれか1項に記載の高熱伝導性窒化珪素焼結体。
【請求項5】
34.8±0.2°に検出される最強ピーク強度をI_(34.8°)としたとき、ピーク比(I_(34.8°))/(I_(27.0°)+I_(36.1°))が0.02以下(ゼロ含む)であることを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の高熱伝導性窒化珪素焼結体。
【請求項6】
前記I_(29.3°)およびI_(29.7°)は希土類元素-ハフニウム-酸素系化合物結晶に応じたピークであり、前記希土類元素-ハフニウム-酸素系化合物結晶は、Y_(1.6)Hf_(0.3)O_(3)結晶、Y_(0.5)Hf_(0.5)O_(1.75)結晶、Y_(0.1)Hf_(0.9)O_(1.95)結晶から選択される2種以上を含有することを特徴とする請求項2ないし請求項5のいずれか1項に記載の高熱伝導性窒化珪素焼結体。
【請求項7】
イットリウムを含有していることを特徴とする請求項2ないし請求項6のいずれか1項に記載の高熱伝導性窒化珪素焼結体。
【請求項8】
前記窒化珪素焼結体の任意の断面で、粒界相の最大径が10μm以下であることを特徴とする請求項2ないし請求項7のいずれか1項に記載の高熱伝導性窒化珪素焼結体。
【請求項9】
窒化珪素結晶粒子の長径の平均粒径が1?10μmであることを特徴とする請求項2ないし請求項8のいずれか1項に記載の高熱伝導性窒化珪素焼結体。
【請求項10】
焼結体の気孔率が3%以下(ゼロ含む)であることを特徴とする請求項2ないし請求項9のいずれか1項に記載の高熱伝導性窒化珪素焼結体。
【請求項11】
50Hzでの比誘電率をεr_(50)、1kHzでの比誘電率をεr_(1000)としたとき、(εr_(50)-εr_(1000))/εr_(50)≦0.1であることを特徴とする請求項2ないし請求項10のいずれか1項に記載の高熱伝導性窒化珪素焼結体。
【請求項12】
請求項2ないし請求項11のいずれか1項に記載の高熱伝導性窒化珪素焼結体から成ることを特徴とする窒化珪素基板。
【請求項13】
前記窒化珪素基板の厚さが0.10mm以上0.70mm以下であることを特徴とする請求項12記載の窒化珪素基板。
【請求項14】
前記窒化珪素基板の厚さが0.10mm以上0.30mm未満であることを特徴とする請求項13記載の窒化珪素基板。
【請求項15】
前記高熱伝導性窒化珪素焼結体中の窒化珪素結晶粒子の長径の最大径は、前記窒化珪素基板の厚さの20%以下であることを特徴とする請求項12ないし請求項14のいずれか1項に記載の窒化珪素基板。
【請求項16】
請求項12ないし請求項15のいずれか1項に記載の窒化珪素基板に金属板を接合したことを特徴とする窒化珪素回路基板。
【請求項17】
前記窒化珪素基板の少なくとも一方の表面に複数個の金属板を接合したことを特徴とする請求項16記載の窒化珪素回路基板。
【請求項18】
少なくとも一つの金属板の厚さは0.70mm以上であることを特徴とする請求項16または請求項17のいずれか1項に記載の窒化珪素回路基板。
【請求項19】
請求項16ないし請求項18のいずれか1項に記載の窒化珪素回路基板に半導体素子を搭載したことを特徴とする半導体装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-11-24 
出願番号 特願2016-570651(P2016-570651)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C04B)
P 1 651・ 537- YAA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森坂 英昭  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 宮澤 尚之
村岡 一磨
登録日 2019-09-27 
登録番号 特許第6591455号(P6591455)
権利者 株式会社東芝 東芝マテリアル株式会社
発明の名称 高熱伝導性窒化珪素焼結体、それを用いた窒化珪素基板および窒化珪素回路基板並びに半導体装置  
代理人 特許業務法人東京国際特許事務所  
代理人 特許業務法人東京国際特許事務所  
代理人 特許業務法人東京国際特許事務所  
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