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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09K
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
管理番号 1370046
異議申立番号 異議2020-700293  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-04-23 
確定日 2021-01-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第6613462号発明「熱伝導性シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6613462号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6613462号(以下「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願(特願2019-526902)は、平成30年6月25日(優先権主張:平成29年6月27日(JP)日本国〕を国際出願日とする出願であって、令和1年11月15日にその特許権の設定登録がされ、同年12月4日付けで特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和2年4月23日に、本件特許について、特許異議申立人中水麻衣(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年8月4日付けで、当審より取消理由が通知され、同年10月6日に特許権者より意見書が提出され、同年10月20日付けで、当審より特許権者に対して審尋が通知され、同年12月11日に特許権者より回答書が提出されたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」という。)は、特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「 【請求項1】
架橋構造を有するオルガノポリシロキサンから構成されるマトリクスと、
前記マトリクス中に分散した黒鉛化炭素繊維を含む熱伝導性充填材と、
アルコキシシラン化合物及びアルコキシシロキサン化合物から選ばれる少なくとも一種のケイ素化合物と、を含有し、
前記マトリクスと前記ケイ素化合物との合計質量に対する前記ケイ素化合物の質量割合が、0.1質量%以上、50質量%以下であることを特徴とする熱伝導性シート。
【請求項2】
前記ケイ素化合物が、前記アルコキシシラン化合物を含み、
前記マトリクスと前記アルコキシシラン化合物との合計質量に対する前記アルコキシシラン化合物の質量割合が、0.1質量%以上、10質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性シート。
【請求項3】
前記ケイ素化合物が、前記アルコキシシロキサン化合物を含み、
前記マトリクスと前記アルコキシシロキサン化合物との合計質量に対する前記アルコキシシロキサン化合物の質量割合が、5質量%以上、50質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱伝導性シート。
【請求項4】
前記ケイ素化合物が、昇温開始温度25℃、昇温速度10℃/分で100℃まで昇温した後、100℃で一定に保つ熱重量分析において昇温開始から60分経過した時点における質量の減少割合が5%以上、60%以下の範囲である化合物を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱伝導性シート。
【請求項5】
前記ケイ素化合物が、昇温開始温度25℃、昇温速度10℃/分で100℃まで昇温した後、100℃で一定に保つ熱重量分析において昇温開始から60分経過した時点における質量の減少割合が5%未満である化合物を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の熱伝導性シート。
【請求項6】
前記ケイ素化合物が、ケイ素原子に結合したアルキル基を有する化合物を含むことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の熱伝導性シート。」

第3 特許異議申立理由、取消理由の概要

1 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証を提出し、以下の申立理由1?2により、請求項1?6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

(1)申立理由1
請求項1、2、4、6に係る発明は、甲第1号証(特開2010?174139号公報)に記載された発明であるから、請求項1、2、4、6に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものである。

(2)申立理由2
請求項1?6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることできたものであるから、請求項1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

2 取消理由の概要
当審が令和2年8月4日付けで通知した取消理由は、以下の取消理由1?2である。また、取消理由1?2で刊行物として以下の刊行物1?3を引用するものである。

(1)取消理由
ア 取消理由1
(新規性)本件発明1、2、4、6は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件発明1、2、4、6に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
イ 取消理由2
(進歩性)本件発明1?6は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物1に記載された発明及び刊行物2?3に記載された技術的事項に基いて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件発明1?6に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(2)証拠
ア 主たる証拠とした刊行物
・刊行物1:特開2010-174139号公報(申立人が甲第1号証として提出した証拠。)
イ 従たる証拠とした刊行物
・刊行物2:国際公開第2015/170514号公報
・刊行物3:特開2011-165792号公報

第4 当審の判断
1 取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)について

(1) 刊行物1?3の記載事項
ア 刊行物1の記載
刊行物1には、「熱伝導性樹脂組成物」(発明の名称)について、次の記載がある。
摘記1a:
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)エラストマー成分100質量部と、
(b)平均繊維長50?300μm、平均繊維径5?15μmの炭素繊維又は平均粒径1?150μmのグラファイト粉50?600質量部と、
(c)セラミックス粉体(d)に比べて相対的に小粒径のセラミックス粉体50?500質量部と、
(d)金属系フィラー又はセラミックス粉体(c)に比べて相対的に大粒径のセラミックス粉体0?500質量部と、
(e)硬化剤又は加硫剤0.05?20質量部
を含み、平面方向の熱伝導率が8W/m・K以上であり、硬化していることを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。…
【請求項3】
前記(a)成分は、シリコーンゴムである請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。…
【請求項5】
前記(b)成分は、請求項4の表面処理をしたうえでさらにR(CH_(3))_(a)Si(OR)_(3-a)(但し、Rは炭素数6?20の非置換または置換有機基、Rは炭素数1?4のアルキル基、aは0もしくは1)のシラン、もしくはその部分加水分解物で表面処理されている請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。…
【請求項11】
前記(c)成分は、R(CH_(3))_(a)Si(OR)_(3-a)(Rは炭素数6?20の非置換または置換有機基、Rは炭素数1?4のアルキル基、aは0もしくは1)のシラン、もしくはその部分加水分解物で被覆処理されている請求項1又は9に記載の熱伝導性樹脂組成物。」
摘記1b:
「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はエラストマー成分に炭素繊維又はグラファイト粉が大量に充填されているにもかかわらず、ゴム弾性があり平面方向の熱伝導性が高い熱伝導組成物を提供する。」
摘記1c:
「【0020】
本発明に用いられる(c)成分は、平均粒径0.02?1.5μmの金属酸化物,窒化物でありこれらから選ばれる一種又は二種以上の混合物であり、それらがR(CH_(3))_(a)Si(OR)_(3-a)(Rは炭素数6?20の非置換または置換有機基、Rは炭素数1?4のアルキル基、aは0もしくは1)のシラン、もしくはその部分加水分解物で被覆処理されるセラミックス粉体が好ましい。形状は球状,鱗片状,多面体状などがあるが比表面積は0.6?80m^(2)/gの範囲であればどのような形状のものを使用してもよい。なおここでいう比表面積ほBET比表面積であり、測定方法はJIS R1626による。…
【0022】
小粒径セラミックス粉体はR(CH_(3))_(a)Si(OR)_(3-a)(Rは炭素数6?20の非置換または置換有機基、Rは炭素数1?4のアルキル基、aは0もしくは1)のシラン、もしくはその部分加水分解物で表面を被覆処理されることが好ましい。R(CH_(3))_(a)Si(OR)_(3-a)(Rは炭素数6?20の非置換または置換有機基、R’は炭素数1?4のアルキル基、aは0もしくは1)のシランは一種又は二種以上の混合物が好適に用いることができる。
【0023】
R(CH_(3))_(a)Si(OR)_(3-a)(Rは炭素数6?20の非置換または置換有機基、Rは炭素数1?4のアルキル基、aは0もしくは1)のシランにはヘキシルトリメトキシラン,ヘキシルトリエトキシシラン,オクチルトリメトキシシラン,オクチルトリエトキシラン,デシルトリメトキシシラン,デシルトリエトキシシラン,ドデシルトリメトキシシラン,ドデシルトリエトキシシラン,ヘキサドデシルトリメトキシシラン,ヘキサドデシルトリエトキシシシラン,オクタデシルトリメトキシシラン,オクタデシルトリエトキシシシランなどがありここに挙げた限りでない。」
摘記1d:
「【0030】
炭素繊維又はグラファイト粉を金属アルコキシドで処理した粉体をさらに小粒径セラミックス粉体同様にR(CH_(3))_(a)Si(OR)_(3-a)(Rは炭素数6?20の非置換または置換有機基、Rは炭素数1?4のアルキル基、aは0もしくは1)のシラン、もしくはその部分加水分解物で表面処理してもよい。そのときのシラン量は0.5?1.5重量%であることが好ましい。処理方法は小粒径セラミックス粉体と同じ方法が使用できる。」
摘記1e:
「【実施例】
【0038】
本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0039】
(実施例1?24、比較例1?12)
まず炭素繊維又はグラファイト粉の表面処理を検討した。以下検討した炭素繊維又はグラファイト粉の一覧を表1に示す。
【0040】
【表1】

(備考)平均粒径は各社のカタログ値による。なお、平均粒子径はレーザ光散乱法を使用して測定できる。
【0041】
処理は以下のようにおこなう。フィラーをCB-150,金属アルコキシドをチタンテトライソプロポキシドを例として記述するがその他の炭素繊維又はグラファイトも同様な処理をおこなう。
【0042】
(炭素繊維又はグラファイト粉の予備乾燥)
熱風循環式オーブンにて110℃、2時間の乾燥をおこなった後、デシケータ内で冷却した。
【0043】
(金属アルコキシド)
テトライソプロポキシチタン(和光純薬工業社製)
75%テトラn-プロポキシジルコニウム溶液(日本曹達社製)
(カップリング剤)
ヘキシルテトラエトキシシラン(製品名:KBE3063 信越化学工業社製)
イソプロピルトリイソステアロイルチタネート(製品名:KR-TTS 味の素ファインテクノ社製)
(溶剤)
イソプロピルアルコールは一度素蒸留したものを用意した。
【0044】
(金属アルコキシドでの処理)
500ml三角フラスコにCB-150を100質量部投入し、さらに素蒸留したイソプロピルアルコールを150質量部入れた。均一にCB-150が分散するまでフラスコを振って撹拌した。次にチタンテトライソプロポキシド1質量部に対して、素蒸留したイソプロピルアルコールを10質量部で希釈して調整した薬剤を一気に添加し、すぐにフラスコを振って撹拌した。撹拌は1時間毎に4時間おこない、その後は12時間放置した。12時間経過したらイソプロピルアルコールを完全に揮発させ、200℃で4時間熱風循環式オーブンにて乾燥をした。
【0045】
(カップリング剤での処理)
500ml三角フラスコに金属アルコキシドで処理をしたCB-150を100質量部投入し、さらに素蒸留したイソプロピルアルコールを150質量部入れた。均一にCB-150が分散するまでフラスコを振って撹拌した。次にヘキシルテトラエトキシシラン1質量を一気に添加し、すぐにフラスコを振って撹拌した。撹拌は1時間毎に4時間おこない、その後は12時間放置した。12時間経過したらイソプロピルアルコールを完全に揮発させた。
【0046】
(ゴム硬化性の確認)
二液室温硬化型シリコーンゴム(製品名:CF5036 東レ・ダウコーニング社製)100質量部に対して金属アルコキシドで処理したCB-150又は金属アルコキシドで処理し、さらにカップリング剤での処理したCB-150を130質量部添加し、プラネタリーミキサーで脱泡しながら5分間混練りして、混練りしたコンパウンドを容量50ccのポリプロピレンに20g流し込み、そのまま熱風循環式オーブンにて100℃で10分間熱処理して硬化させた。
【0047】
実施例1?24と比較例1?12の条件と結果を表2?4にまとめて示す。
【0048】
【表2】


【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

表2?4の実施例1?24と比較例1?12を比較する。グラファイト又は炭素繊維を金属アルコキシドで処理することによってコンパウンドは硬化する。それに対して処理をしないグラファイト又は炭素繊維を用いたコンパウンドは硬化しない。同様に、シランップリング剤又はチタンカップリング剤で処理したグラファイト又は炭素繊維を用いたコンパウンドも硬化せず、明確な差がでた。しかし、繊維長が長い場合は金属アルコキシドでの処理を行わなくても硬化する。
【0051】
(実施例25?40、比較例13?29)
次に上記の実験で確立した金属アルコキシド処理品を使用したグラファイト又は炭素繊維とセラミックス粉体を組み合わせた系の説明をする。検討には以下材料を使用した。
【0052】
(エラストマー成分)
二液室温硬化型シリコーンゴム(製品名:CF5036 東レ・ダウコーニング社製)
ポリイソブチレン(製品名:EP200A カネカ社製)
水素化α-オレフィン(製品名:PAO-5010 出光興産社製)
(架橋材)
シリコーン用メチルハイドロジェンポリシロキン(製品名:SE1700キャタリスト 東レ・ダウコーニング社製)
ポリイソブチレン用メチルハイドロジェンポリシロキン(製品名:CR300カネカ社製)
(小粒径セラミックス粉体)
平均粒径0.4μmのアルミナ AL160SG-1 昭和電工株式会社製
平均粒径0.4μmの酸化亜鉛 酸化亜鉛1種 ハクスイテック社製
(金属系フィラー)
平均粒径20?25μmの銅粉 日鉱マテリアルズ製
(大粒径セラミックス粉体)
平均粒径22μmのアルミナ AS20 昭和電工株式会社製
(硬化剤又は加硫剤)
ポリイソブチレン硬化剤 PT-VTSC-3.0IPA ユミコアプレシャスメタルズ・ジャパン社製
(遅延剤)
サーフィノール61 日信化学工業製
小粒径セラミックス粉体 AL160SG-1,酸化亜鉛1種の処理は以下のようにおこなった。
【0053】
(AL160SG-1)
KBE3063の必要量=熱伝導性無機粉体の量(g)×熱伝導性無機粉体の比表面積(m^(2)/g)/シランの最小被覆面積(m^(2)/g)で算出した。KBE3063の最小被覆面積は315m^(2)/gであることから1000g×7.0m^(2) /g/315m^(2)/g=22.2gとした。KBE3063:22.2g、イソプロパノール:40g、水:2gの割合で混合し薬剤とした。ブレンダーにAL160SG-1を1kg投入し撹拌しながら薬剤を少しずつ添加し、15分撹拌し、1日放置後、100℃で2時間乾燥した。
【0054】
(酸化亜鉛1種)
KBE3063の必要量=熱伝導性無機粉体の量(g)×熱伝導性無機粉体の比表面積(m^(2)/g)/シランの最小被覆面積(m^(2)/g)で算出した。KBE3063の最小被覆面積は315m^(2)/gであることから1000g×4m^(2)/g/315m^(2)/g=12.7gとした。KBE3063:12.7g、イソプロパノール:20g、水:1gの割合で混合し薬剤とした。ブレンダーに酸化亜鉛1種を1kg投入し撹拌しながら薬剤を少しずつ添加し、15分撹拌し、1日放置後、100℃で2時間乾燥した。
【0055】
(コンパウンド作成方法)
プラネタリーミキサーにポリマー成分に炭素繊維又はグラファイト粉,小粒径セラミックス粉体,金属系フィラー又は大粒径セラミックス粉体,硬化剤又は加硫剤を投入して脱泡しながら10分撹拌した。
【0056】
(シート成形方法)
フッ素離型処理をしたポリエステルフィルムに厚さ2mmの金型を置き、コンパウンドを仕込み、もう一枚のフッ素離型処理をしたポリエステルフィルムを載せた。これを5MPaの圧力で120℃、30分加熱し、その後冷却し、熱伝導性樹脂組成物を得た。
【0057】
実験で使用したCB-100,RA-301,XN-100N-03Zは以下に示すととおり、上記実施例で処理したものを使用した。
CB-100 :実施例11
RA-301 :実施例17
XN-100N-03Z:実施例23
以上の条件と結果を表5?6にまとめて示す。
【0058】
【表5】

【0059】
【表6】

(物性の測定方法) (i)平面方向の熱伝導率:ホットディスク法(京都電子 工業株式会社)熱物性測定装置TPA-501(製品名)を使用して測定した。この装置の説明は同社のホームページに掲載されている。測定試料は以下のように作成した。各実施例,比較例で記述してあるシート成形方法にて作成した厚み2mmシートを大きさ縦50mm×横50mmにカットし、これを2個用意した。直径7mmのセンサ-を、用意したシートで上下に挟み、冶具にセットした。冶具を挟むトルクは30N・cmでおこなった。
【0060】
測定方法は、冶具にセットしたら風があたらないよう冶具付属の覆いをし、15分間安定化させた。安定化したら測定を開始し、数字を読みとった。別の試料を測定する場合は同じ作業を繰り返す。
(ii)硬度:ASTM D2240 Shore C
(iii)粘度:精密回転粘度計
実施例25?32と比較例13,14、これに対応して実施例33?40と比較例21,22を比較する。各実施例品は、炭素繊維又はグラファイト粉と小粒径セラミックス粉体を併用しても硬度があまり上昇することがない熱伝導性樹脂組成物を得ることができた。そのうえ炭素繊維の系では小粒径セラミックス粉体を添加することでコンパウンドにまとまりがでて粘度が測定できるようになった。これはコンパウンドが、ぱさつかない(粘性を保つ)ことを示しておりシート成形性が格段によくなったことを示す。さらに、実施例25?32と比較例15?18これに対応して実施例33?40と比較例23?26を比較する。小粒径セラミックス粉体の添加が少ないと平面方向の熱伝導率も向上しないことがわかる。とくに炭素繊維の系は小粒径セラミックス粉体併用の効果が際だっている。小粒径セラミックス粉体の種類にかかわらず炭素繊維又はグラファイト粉と併用することによって平面方向の熱伝導率が向上することもわかる。」
摘記1f:
「【0061】
しかし、実施例25?32と比較例17,18これに対応して実施例33?40と比較例25,26を比較してもわかるとおり小粒径セラミックス粉体を添加しすぎると炭素繊維又はグラファイト粉が充填できなくなる場合もある。また、比較例19,20,27,28のように小粒径セラミックス粉体を表面処理しないとコンパウンドの粘度は高くなるうえコンパウンドが硬化しない。」

(2)刊行物2の記載
刊行物2には、次の記載がある。
摘記2a:
「【0039】
…付加反応によって硬化する東レダウコーニング社製、製品番号:CF5036A&Bの各1kgに平均粒子径30μmのアルミナ2.5kg、平均粒子径2μmのアルミナ1.2kg、および平均粒子径0.17μmの四三酸化鉄(着色剤)0.1kgを混合の後、脱泡することにより、シリコーン熱伝導性組成物のA液とB液を得た。なお、CF5036A液には白金触媒が含まれており、B液にはSiH基を含有する架橋剤が含まれている。」

(3)刊行物3の記載
刊行物3には、次の記載がある。
摘記3a:
「【0091】
…繊維状炭素材料として黒鉛化炭素短繊維(帝人(株)製;Raheama R-A301、平均繊維径8μm、平均繊維長200μm以下、真密度2.2g/cc、平均アスペクト比25)…」

3 刊行物1に記載された発明(引用発明1)
刊行物1の摘記1a(特許請求の範囲)に記載されている熱伝導性樹脂組成物について、摘記1e(実施例)に、種々の組成の組成物を製造したこと、当該組成物をシートに成形し、熱伝導率等の物性を測定したことが記載されている。

また、摘記1e【0058】に記載の実施例33?36は、CF5036A、CF5036B、SE1700cat、AL160SG-1:処理品、RA-301:処理品、金属粉を構成成分とする組成物が記載されており(単位については明示されていないため、重量部とした。)、上記組成物に用いられるCF5036A、CF5036Bは二液室温硬化型シリコーンゴムであること、SE1700catはシリコーン用メチルハイドロジェンポリシロキンであること(【0052】)、AL160SG-1:処理品は、「KBE3063(ヘキシルテトラエトキシシラン(【0043】。ヘキシルトリエトキシシランの誤記であると思われる。)):22.2g、イソプロパノール:40g、水:2gの割合で混合し薬剤とした。ブレンダーにAL160SG-1(小粒径セラミックス粉体。【0052】)を1kg投入し撹拌しながら薬剤を少しずつ添加し、15分撹拌し、1日放置後、100℃で2時間乾燥」されたものであること(【0053】)、RA-301:処理品は、ピッチ系の炭素繊維であるRA?301 100質量部を金属アルコキシド1質量部で処理をしたものをヘキシルテトラエトキシシラン1質量部で処理したものであること(【0040】?【0049】。特に【0045】と【0049】の実施例17)が、それぞれ記載されている。

なお、AL160SG-1:処理品はAL160SG-1の1kgに対して、22.2gのヘキシルテトラエトキシシランを混合して一日放置後、100℃で2時間乾燥されたものであるから、AL160SG-1:処理品には、その表面に化学的に結合したヘキシルテトラエトキシシランのみが含まれており、未反応のヘキシルテトラエトキシシランは乾燥された際に揮発していると認められるので、遊離のヘキシルテトラエトキシシランは含まれていないと認められるし、同様にRA-301:処理品にも遊離のヘキシルテトラエトキシシランは含まれていないと認められる。
以上を総合すると、刊行物1には「二液室温硬化型シリコーンゴムCF5036を100重量部と、シリコーン用メチルハイドロジエンポリシロキンを0.2重量部、AL160SG-1:処理品を50重量部または300重量部、RA?301:処理品を103重量部または123.6重量部を含有するコンパウンドを金型に仕込み、加熱し、その後冷却して得られた熱伝導性樹脂組成物のシート」(以下、引用発明とする)が記載されているといえる。

4 本件発明1?6の新規性進歩性について

(1)本件発明1について
ア 対比、判断
本件発明1と引用発明とを対比する。

引用発明の「二液室温硬化型シリコーンゴムCF5036」は、刊行物2の摘記2aに記載されるように白金触媒と架橋剤を含むものであり、硬化時には架橋構造を有するものとなるから本件発明1の「架橋構造を有するオルガノポリシロキサンから構成されるマトリクス」に、引用発明の「熱伝導性樹脂組成物のシート」は同じく本件発明1の「熱伝導性シート」に、それぞれ相当する。
また引用発明の「RA-301:処理品」は、「二液室温硬化型シリコーンゴムCF5036」中に分散していると認められるし、RA-301が、刊行物3の摘記3aに記載される(刊行物3ではR-A301と記載されているが同じものであると考えられる。)ように黒鉛化炭素短繊維であるから、本件発明1の「マトリクス中に分散した黒鉛化炭素繊維を含む熱伝導性充填材」に相当するといえる。

そこで本件発明1と引用発明とを対比すると、両者は
「架橋構造を有するオルガノポリシロキサンから構成されるマトリクスと、
前記マトリクス中に分散した黒鉛化炭素繊維を含む熱伝導性充填材と、
を含有する熱伝導性シート。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1):本件発明1は、アルコキシシラン化合物及びアルコキシシロキサン化合物から選ばれる少なくとも一種のケイ素化合物を含有し、マトリクスと、ケイ素化合物との合計質量に対するケイ素化合物の質量割合が0.1質量%以上、50質量%以下であるのに対して、引用発明は、アルコキシシラン化合物及びアルコキシシロキサン化合物から選ばれる少なくとも一種のケイ素化合物を含有するものでない点

新規性についての判断
本件発明1と引用発明とには、上記相違点が存在し、当該相違点は実質的なものであるから、本件発明1と引用発明は同一ではない。

進歩性についての判断
上記相違点1について検討する。
引用発明は、AL160SG-1:処理品やRA-301:処理品として、小粒径セラミック粉体や、金属アルコキシドをアルコキシシランであるヘキシルテトラエトキシシラン(KBE3063)で処理したものを用いるものである。
しかしながら、特許権者が令和2年10月6日の意見書において主張するように、上記の処理の際には、ヘキシルテトラエトキシシランはAL160SG-1やRA-301と反応しているため、「AL160SG-1:処理品」と「RA-301:処理品」のいずれにもヘキシルテトラエトキシシランは含有されてないと認められるし(この点については当該特許権者が令和2年12月11日に記載の「(イ)刊行物1に記載の発明の検証」の実験結果によっても確認できると認める。)、刊行物1には、特に、熱伝導性シートにヘキシルテトラエトキシシランを含有させることについて記載されていない。

また、本件明細書の【0078】?【0079】に記載される実施例1?8と比較例1?3を対比すると、アルコキシシラン化合物及びアルコキシシロキサン化合物から選ばれるケイ素化合物を配合することにより、高い熱伝導率が発揮されるという顕著な効果が認められる。

してみれば、本件発明1は引用発明及び刊行物2?3に記載されている技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2?6について
本件発明2?6は、本件発明1を直接又は間接的に引用しさらに限定するものであるから、本件発明1と同様の理由により、引用発明と同一ではない。
また、本件発明2?6は、引用発明及び刊行物2?3に記載されている技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人が主張する申立理由は、第3の1に記載の通りであり、取消理由は第3の2に記載の通りである。
また、申立人の申立理由1、2は、取消理由1、2として採用されているから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。

第5 まとめ
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、本件発明1?6の特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明1?6の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-01-06 
出願番号 特願2019-526902(P2019-526902)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C09K)
P 1 651・ 121- Y (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中野 孝一  
特許庁審判長 天野 斉
特許庁審判官 蔵野 雅昭
古妻 泰一
登録日 2019-11-15 
登録番号 特許第6613462号(P6613462)
権利者 積水ポリマテック株式会社
発明の名称 熱伝導性シート  
代理人 虎山 滋郎  
代理人 田口 昌浩  
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