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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01B
管理番号 1370304
審判番号 不服2020-3516  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-03-13 
確定日 2021-01-12 
事件の表示 特願2016- 69226「接地線付き平型ケーブル」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月 5日出願公開,特開2017-183103〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成28年3月30日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 元年 7月30日付け :拒絶理由通知書
令和 元年11月 5日 :意見書の提出
令和 元年12月13日付け :拒絶査定(原査定)
令和 2年 3月13日 :審判請求書の提出

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は,出願当初の特許請求の範囲の請求項1-11に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,その請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。

「【請求項1】
導体と前記導体の表面に設けられた絶縁被覆とを有する複数の絶縁電線と,複数の前記絶縁電線の外周を被覆するシース部とを備える平型ケーブルと,
接地導体と前記接地導体の表面に設けられた第一被覆部とを有する接地線と,を備える接地線付き平型ケーブルであって,
前記シース部と前記第一被覆部とを結合する結合部を備え,
前記結合部は,発泡樹脂で構成されており,その厚さが前記平型ケーブルの厚さよりも薄い接地線付き平型ケーブル。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1-11に係る発明は,本願出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1-6に記載された発明及び周知技術に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用文献1.特開2006- 66218号公報
引用文献2.特開2002-150847号公報
引用文献3.特開2010-153325号公報
引用文献4.実願平2-105511号(実開平4-61811号)
のマイクロフィルム
引用文献5.実公昭36-1872号公報
引用文献6.実願平5-47788号(実開平7-14513号)
のCD-ROM

第4 引用文献
1 引用文献1の記載事項,引用発明
(1)原査定の拒絶の理由で引用された特開2006-66218号公報(以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,複数の導体を互いに隔離した状態で平行に並べ外周に絶縁シースを形成してなる平型ケーブルにアース線を取り付けてなるアース線付平型ケーブルに係り,特に,アース線を容易に分離することができ,配線時の施工作業性を向上し電気配線工事の負担を低減することのできるアース線付平型ケーブルに関する。」

「【背景技術】
【0002】
銅などで形成された導体4上に絶縁被覆材5が形成されて構成される3本の電力用導線2とアース用導線3とが1列に並べられ,一括して外部被覆材6で被覆するようにして形成されるVVF(ビニル絶縁ビニルシースケーブル),CVF(ポリエチレン絶縁ビニルシースケーブル),EM-EEF(ポリエチレン絶縁耐熱性ポリエチレンシースケーブル)線などのような配電用絶縁電線1は,従来から有る。そして,配線工事の作業性をよくし,配線後の安全性を確保するとともに見栄えも良くすることができ,しかも外部からみてアース用導線の位置を確認することができる絶縁電線が提案されている(たとえば,特許文献1参照)。
・・・中略・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この特許文献1に記載される絶縁電線10は,3本の電力用導線12とアース用導線14とを含み,これらの導線12,14は,導体16を絶縁被覆材18で被覆することにより形成されており,電力用導線12とアース用導線14とを並べ,外部被覆材20で被覆してある。この外部被覆材20は,断面8字状に形成されており,この外部被覆材20によって電力用導線12とアース用導線14とを分離するようになっている。すなわち,特許文献1の絶縁電線10は,外部被覆材20が断面8字状に形成されているため,外部被覆材20を2つに分割でき,しかも,アース用導線14と他の導線とが外部被覆材20で分離されているため,外部被覆材20を有する状態で,アース用導線14と他の導線とを分割することができるように構成されている。
【0005】
しかしながら,特許文献1の絶縁電線10は,外部被覆材20が断面8字状に形成されているとはいえ,アース用導線14と他の導線とを分割するには,相当の引き裂き荷重を要するため,電工ナイフやカッター等で必要な長さの被覆を剥がし,アース用導線14と他の導線を分離しなければならない。また,アース線用導線14は,外部被覆材20を剥離して露出した後,アース用導線14に被覆された絶縁被覆材18の剥離するという,2回の剥離作業を行って配線しなければならず,配線に手間取るという問題を有している。
【0006】
本発明の目的は,アース線を容易に分離することができ,配線時の施工作業性を向上し電気配線工事の負担を低減することのできるアース線付平型ケーブルを提供することにある。」

「【実施例1】
【0013】
以下,本発明に係るアース線付平型ケーブルの実施例について,詳細に説明する。
【0014】
図1には,本発明に係るアース線付平型ケーブルの第1の実施例を示す端面図が示されている。
【0015】
図1において,アース線付平型ケーブル1には,導体2に絶縁体3を被覆してなる絶縁導体4が複数本(本実施例においては,3本)隣接して並べられており,この3本の絶縁導体4と,アース用導体5が絶縁導体4と隔離した状態で平行に並べられている。そして,この複数本の絶縁導体4と,この絶縁導体4と隔離した状態で絶縁導体4と平行に並べられているアース用導体5の外周に絶縁シース6を被覆して一体に形成し,複数本(本実施例においては,3本)の絶縁導体4を絶縁シース6を被覆してなる平型ケーブル7と,アース用導体5に絶縁シース6を被覆してなるアース線8とが形成されている。さらに,この平型ケーブル7とアース線8とは,絶縁シース6によって構成されるブリッジ部9によって分離独立して設けられており,このアース線8は,平型ケーブル7に対して外付けに構成されている。また,アース線8の絶縁シース6の上には,識別のためのマーキングが施してある。
・・・中略・・・
【0017】
この表1から,ブリッジ部9の長さAは,最小値が0.3mmで,最大値が1.5mmである。そして,ブリッジ部9の長さAの最適値は,0.7mmである。また,ブリッジ部9の厚さBは,最小値が0.5mmで,最大値が1.5mmである。そして,ブリッジ部9の厚さBの最適値は,0.7mmである。このことから,ブリッジ部9の長さAは,0.3mm?1.5mmで構成することができ,最適値が,0.7mmであることが分かる。また,ブリッジ部9の厚さBは,0.5mm?1.5mmで構成することができ,最適値が,0.7mmであることが分かる。
【0018】
ここで,ブリッジ部9の長さAを,0.3mm?1.5mmとしたのは,ブリッジ部9の長さAが0.3mm以上ないと,カッターや電工ナイフで切り裂くことが難しく,ブリッジ部9の長さAが0.3mm未満の場合は,平型ケーブル7の絶縁シース6やアース線8の絶縁シース6に切り込んでしまうことがあるからである。また,ブリッジ部9の長さAが1.5mmを超えると,連続生産した場合,ブリッジ部9のところで折曲がり,アース線8が平型ケーブル7にところどころ貼り付いてしまい,連続的に図1に図示の構造を実現できないという問題が生じるからである。さらに,ブリッジ部9の長さAが1.5mmを超えると,アース線8の絶縁シース6の厚さが0.5mmであってもステップルNo4(3×2.6用)に入らないからである。
【0019】
このブリッジ部9の長さAが1.5mmを超えると,押出直後(絶縁シース6がまだ冷えていない)にアース線8の自重によってブリッジ部9が折れる。あるいは,折れて,アース線8と平型ケーブル7がくっついてそのまま成形される場合があるからである。
【0020】
また,ブリッジ部9の厚さBを,0.5mm?1.5mmとしたのは,ブリッジ部9の厚さBが0.5mm以下ではアース線付平型ケーブル1を連続して生産することができず,部分部分でブリッジ部9が切れてしまう場合があるからである。そして,ブリッジ部9の厚さBが1.5mmを超えると,カッターや電工ナイフなどで切り込みを入れずに,手で引き裂こうとしても容易に引き裂くことができなくなるからである。
【0021】
したがって,本実施例によれば,ブリッジ部9を電工ナイフやカッターを使用することなく切り裂くことができる。また,本実施例によれば,ブリッジ部9を切り裂く場合,電工ナイフやカッターを使用しないため,アース線8の絶縁シース6を傷つけることなく,絶縁シース6の形状を保つことができ,刃物を使用しないので安全である。さらに,本実施例によれば,アース線8には絶縁シース6しか被覆されていないため,1回の剥離作業でアース用導体5を露出させることができる。またさらに,本実施例によれば,アース線8の絶縁シース6の上には,識別のためのマーキングが施してあるため,外部から線心の識別を行うことができる。また,本実施例によれば,アース線8には絶縁シース6しか被覆されていないため,軽量に構成されている。」

(2)上記【0015】?【0020】の記載及び図1によれば,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「導体2に絶縁体3を被覆してなる絶縁導体4が複数本隣接して並べられており,この複数本の絶縁導体4と,アース用導体5が絶縁導体4と隔離した状態で平行に並べられ,この複数本の絶縁導体4と,この絶縁導体4と隔離した状態で絶縁導体4と平行に並べられているアース用導体5の外周に絶縁シース6を被覆して一体に形成し,絶縁導体4を絶縁シース6を被覆してなる平型ケーブル7と,アース用導体5に絶縁シース6を被覆してなるアース線8とが形成され,
平型ケーブル7とアース線8とは,絶縁シース6によって構成されるブリッジ部9によって分離独立して設けられており,
ブリッジ部9の長さAを,0.3mm?1.5mmとし,ブリッジ部9の厚さBを,0.5mm?1.5mmとする,アース線付平型ケーブル1。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由で引用された特開2002-150847号公報(以下,「引用文献2」という。)には,図面とともに,次の記載がある(下線は当審で付与した。以下同様。)。

「【0006】
本発明の目的は,シース切裂き性,シース柔軟性,シース引抜き性を向上させて,平型ケーブルの施工性を良くし,電気配線工事の負担を低減することのできる平型ビニル絶縁ビニルシースケーブルを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために,本願請求項1に記載の平型ビニル絶縁ビニルシースケーブルは,導体に絶縁体を被覆した絶縁線心を並列し一括してシースを被覆してなる平型ビニル絶縁ビニルシースケーブルにおいて,前記シースを軟質塩化ビニルをベースに発泡率13?32%に構成したものである。
このように軟質塩化ビニルを発泡させるのは,シース内の気泡作用によって外気温が低温の場合の柔軟性を向上させるためで,軟質塩化ビニルの発泡率を上げると低温における柔軟性が向上し,シースを切裂く場合,シース内に存在する気泡によって材料切断の際の切断面積が小さくなり,切裂き荷重の低減効果が著しく大きくなる。さらに,軟質塩化ビニルを発泡させるのは,シース表面の発泡により重ね巻きしたときのシース間のシース材料の接着面積を減少せしめ,高温接着性の著しい低下を図るためと,シースと絶縁体との接着面積を減少せしめ,高温接着性の著しい低下を図り,シース引き抜き荷重の低減を図るためである。
【0008】
そして,軟質塩化ビニルを発泡率13%?32%に構成するのは,発泡率が13%未満では,シース内での発泡に留まり,シース表面まで発泡が進まず,重ね巻きしたときのシース間のシース材料の接着面積が変らず,高温接着性に変化がないためと,シース表面まで発泡が進まないことからシースと絶縁体との接着面積に変化がなく,シース引き抜き荷重に変化が見られないからである。そして,発泡率を13%以上にすると,シース内での発泡に留まらず,シース表面まで発泡が進み,表面発泡率増大によりシース間接着面積を減少させ,高温接着性が著しく低下し,気泡によりシース弾力性が向上されシース引き抜き荷重の低減が図れる。また,軟質塩化ビニルを発泡率32%を超えて発泡させると,軟化の程度が大きくシース変形が悪くなってしまうからである。
このように構成することにより,請求項1に記載の発明によると,シース切裂き性,シース柔軟性,シース引抜き性を向上させて,平型ケーブルの施工性を良くし,電気配線工事の負担を低減することができる。」

「【0024】
また,表1において,低温切裂荷重(N)は,平型ケーブル10を-10℃の雰囲気中に放置し,平型ケーブル10のシース温度が-10℃になった状態で,シース切裂荷重は,平型ケーブル10の2本の絶縁線心4を分けるように2本の絶縁線心4の間にカッターナイフ等の刃物を切り入れ,シース5を刃物で切裂いたときの荷重(N)を測定したものである。」

上記記載(特に下線部)によれば,引用文献2には,以下の技術事項が記載されていると認められる。
「導体に絶縁体を被覆した絶縁線心を並列し一括してシースを被覆してなる平型ビニル絶縁ビニルシースケーブルにおいて,前記シースを軟質塩化ビニルをベースに発泡率13?32%に構成することにより,軟質塩化ビニルの発泡率を上げると低温における柔軟性が向上し,シースを切裂く場合,シース内に存在する気泡によって材料切断の際の切断面積が小さくなり,切裂き荷重の低減効果が著しく大きくなり,平型ケーブルの2本の絶縁線心を分けるように2本の絶縁線心の間にカッターナイフ等の刃物を切り入れ,シースを刃物で切裂いたときの切裂き荷重が低減すること。」

3 その他の文献について
(1)本願出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,特開2002-343142号公報(以下,「周知文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
「【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために,請求項1に記載の発明に係る平型ケーブルは,導体の上に絶縁体を被覆した複数の絶縁導体と該絶縁導体上に被覆されるシースとを備えた平型ケーブルにおいて,前記シースを発泡剤を配合したノンハロゲン難燃性樹脂組成物で構成し,且つ前記シースに,ケーブル長手方向に連続して前記平型ケーブルの外表面に不完全融着面を設けたことを特徴とするものである。
このような請求項1に記載の発明に係る平型ケーブルによると,シースに発泡剤を配合しているので,ケーブルの柔軟性(屈曲性)が向上する。また,シースには不完全融着面を設けたので,シースを剥離してシースから絶縁導体を露出する際に剥離する長さ分カッターナイフで切り込まなくても,シースの端部の一部を人間の手の爪等で引き裂き,その後,絶縁導体とシースとを引き分けるようにして手で容易にシースを引き裂くことができ,引き裂き性が向上する。
【0010】
上記目的を達成するために,請求項2に記載の発明に係る平型ケーブルは,前記不完全融着面は前記平型ケーブルの外表面から0.3mm?1.5mmの範囲で設けたことを特徴とするものである。
不完全融着面の深さを平型ケーブルの外表面から0.3mm?1.5mmとしたのは,0.3mm未満であると引き裂き性が悪くなるおそれがあるからであり,一方,1.5mmを超えると引っ張り強度等の機械的特性に影響を与えるおそれがあるからである。
このように構成することにより請求項2に記載の発明に係る平型ケーブルによると,ケーブルの柔軟性(屈曲性)が向上するとともに,引っ張り強度等の機械的特性に影響を与えることなくシースの引き裂き性が向上する。」

上記記載(特に下線部)によれば,周知文献1には,以下の技術事項が記載されていると認められる。
「導体の上に絶縁体を被覆した複数の絶縁導体と該絶縁導体上に被覆されるシースとを備えた平型ケーブルにおいて,前記シースを発泡剤を配合したノンハロゲン難燃性樹脂組成物で構成し,且つ前記シースに,ケーブル長手方向に連続して前記平型ケーブルの外表面に不完全融着面を設けることにより,シースに発泡剤を配合しているので,ケーブルの柔軟性(屈曲性)が向上し,シースには不完全融着面を設けたので,シースを剥離してシースから絶縁導体を露出する際に剥離する長さ分カッターナイフで切り込まなくても,シースの端部の一部を人間の手の爪等で引き裂き,絶縁導体とシースとを引き分けるようにして手で容易にシースを引き裂くことができ,引き裂き性が向上すること。」

(2)本願出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,特開2000-353430号公報(以下,「周知文献2」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら,シースに難燃剤を添加して難燃化させているために硬度が固く,そのようなシース引き裂き作業に臨んで手ではもちろん,手軽なカッターナイフなどの切断具でもシースを切り裂き難い。無理をすれば,内部の導体まで傷め易いなどといった作業性に難点がある。
【0005】
したがって,本発明の目的は,特に絶縁導体を並べた平型ケーブルに設けられるシースとして好適で,絶縁導体を露出させる際に引き裂き易く作業性に優れたポリオレフィン系樹脂シースを有する耐燃性ケーブルおよびその製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために,本発明による請求項1に記載の耐燃性ケーブルは,導体を絶縁体で被覆した絶縁導体の複数本を並べて配置し,それら絶縁導体を耐燃性ポリオレフィンシースで被覆してなっているものであって,前記絶縁導体間の前記耐燃性ポリオレフィンシースにケーブル全長にわたって,シース全体部分であるシース本体部よりも高いシース高発泡部を設けたことを特徴とするものである。
【0007】
以上から,シース高発泡部の発泡率をシース本体部の発泡率よりも高く成形することにより,引裂荷重を小さくでき,シース高発泡部から切り裂き易くなって,皮剥ぎ作業性が高められる。
【0008】
また,請求項2に記載の耐燃性ケーブルは,前記シース本体部の発泡率αが0?15%,前記シース高発泡部の発泡率βが3?20%であって,α≦βとなっていることを特徴とするものである。」

上記記載(特に下線部)によれば,周知文献2には,以下の技術事項が記載されていると認められる。
「導体を絶縁体で被覆した絶縁導体の複数本を並べて配置し,それら絶縁導体を耐燃性ポリオレフィンシースで被覆してなっているものにおいて,前記絶縁導体間の前記耐燃性ポリオレフィンシースにケーブル全長にわたって,シース全体部分であるシース本体部よりも高いシース高発泡部を設け,シース高発泡部の発泡率をシース本体部の発泡率よりも高く成形することにより,引裂荷重を小さくでき,シース高発泡部から切り裂き易くなること。」

(3)周知技術
上記引用文献2,周知文献1,周知文献2に記載の技術事項によれば,本願出願前において,以下の技術事項が周知であったと認められる。
「導体の上に絶縁体を被覆した複数の絶縁導体と該絶縁導体上に被覆されるシースとを備えた平型ケーブルにおいて,前記シースを発泡樹脂で構成すること。」(以下,「周知技術」という。)

第5 対比
1 本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「複数本隣接して並べられて」いる「導体2に絶縁体3を被覆してなる絶縁導体4」は,本願発明の「導体と前記導体の表面に設けられた絶縁被覆とを有する複数の絶縁電線」に相当するといえる。
(2)引用発明の「絶縁導体4を絶縁シース6を被覆してなる平型ケーブル7」は,本願発明の「複数の前記絶縁電線の外周を被覆するシース部とを備える平型ケーブル」に相当するといえる。
(3)引用発明の「アース用導体5に絶縁シース6を被覆してなるアース線8」は,本願発明の「接地導体と前記接地導体の表面に設けられた第一被覆部とを有する接地線」に相当するといえる。
(4)引用発明の「絶縁シース6によって構成されるブリッジ部9」は,平型ケーブル7とアース線8とを結合しているから,本願発明の「前記シース部と前記第一被覆部とを結合する結合部」に相当するといえる。
(5)引用発明の「絶縁シース6によって構成されるブリッジ部9」は,「厚さB」が「0.5mm?1.5mm」であり,引用文献1の図1を参照すれば,厚さが平型ケーブル7の厚さよりも薄いこと,「絶縁シース6」は【0002】の記載からみて,ビニル等の樹脂であることは明らかであるから,本願発明の「前記結合部は,発泡樹脂で構成されており,その厚さが前記平型ケーブルの厚さよりも薄い」ことと「前記結合部は,樹脂で構成されており,その厚さが前記平型ケーブルの厚さよりも薄い」点では共通するといえる。
(6)引用発明の「アース線付平型ケーブル1」は,後述する相違点を除き,本願発明の「接地線付き平型ケーブル」に相当するといえる。

2 以上のことから,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
(一致点)
「導体と前記導体の表面に設けられた絶縁被覆とを有する複数の絶縁電線と,複数の前記絶縁電線の外周を被覆するシース部とを備える平型ケーブルと,
接地導体と前記接地導体の表面に設けられた第一被覆部とを有する接地線と,を備える接地線付き平型ケーブルであって,
前記シース部と前記第一被覆部とを結合する結合部を備え,
前記結合部は,樹脂で構成されており,その厚さが前記平型ケーブルの厚さよりも薄い接地線付き平型ケーブル。」

(相違点)
本願発明では,結合部は「発泡樹脂で構成されている」のに対し,引用発明では,ブリッジ部9はそのように特定されていない点。

第6 判断
以下,上記相違点について検討する。
引用発明の「ブリッジ部9」は,アース用導体5と絶縁導体4を被覆する絶縁シース6によって構成されているところ,「導体の上に絶縁体を被覆した複数の絶縁導体と該絶縁導体上に被覆されるシースとを備えた平型ケーブルにおいて,前記シースを発泡樹脂で構成すること。」は,本願出願前には当該技術分野における周知技術であった。また,引用発明は,「シース切裂き性,シース柔軟性,シース引抜き性を向上させて,平型ケーブルの施工性を良くし,電気配線工事の負担を低減することのできる平型ビニル絶縁ビニルシースケーブルを提供すること」を課題としており,「ブリッジ部9」を含む「絶縁シース6」について,発泡樹脂で構成することの動機付けも認められる。
そうすると,上記「絶縁導体を結合しているシースを発泡樹脂で構成する」という周知技術を引用発明の「ブリッジ部9」に適用し,シースによって構成される「ブリッジ部9」を発泡樹脂とすることは,当業者であれば適宜になし得ることである。

したがって,引用発明において上記周知技術を適用し,相違点に係る本願発明の構成にすることは,当業者が容易になし得ることである。

そして,本願発明の奏する作用効果は,引用発明及び周知技術に記載された技術の奏する作用効果から,予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明ついて検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-11-10 
結審通知日 2020-11-11 
審決日 2020-11-25 
出願番号 特願2016-69226(P2016-69226)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 辻本 泰隆
▲吉▼澤 雅博
発明の名称 接地線付き平型ケーブル  
代理人 坂本 寛  
代理人 山野 宏  

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