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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02M |
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管理番号 | 1370334 |
審判番号 | 不服2020-5360 |
総通号数 | 255 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-03-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-04-21 |
確定日 | 2021-02-02 |
事件の表示 | 特願2015-111053「電力変換装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月18日出願公開、特開2016- 27777、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成27年6月1日(優先権主張平成26年6月30日(以下,「優先日」という。))の出願であって,平成30年12月14日付けで拒絶の理由が通知され,平成31年1月21日に意見書とともに手続補正書が提出され,令和1年6月26日付けで拒絶の理由が通知され,同年8月30日に意見書とともに手続補正書が提出され,令和2年1月28日付けで拒絶査定(謄本送達日同年2月4日)がなされ,これに対して同年4月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ,同年7月15日付けで審査官により特許法164条3項の規定に基づく報告がなされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(令和2年1月28日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ●理由1(進歩性)について ・請求項 1 ・引用文献等 1-6 ・請求項 2-4 ・引用文献 1-7 <引用文献等一覧> 1.特開2012-164878号公報 2.国際公開第2014/080462号 3.実願昭48- 14275号(実開昭49-116004号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム 4.実願昭51-127996号(実開昭53- 45423号)の願昭に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム 5.実公昭45- 29536号公報 6.特開2013-251319号公報 7.特開昭62-254411号公報 第3 審判請求時の補正について 審判請求時の補正(以下,「本件補正」という。)は,以下に示すとおり,特許法17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。 本件補正により,本件補正前の請求項1の「第2の放熱部を前記底壁の外側に上下にわたる風路を有して構成する」とされていたものを,「前記第2の放熱部及び前記第3の放熱部は前記底壁の外側に上下に延びる風路を備え」るとする補正事項は,「第3の放熱部」について限定的に減縮するものと認める。 また,本件補正により,本件補正前の請求項1の「第2の放熱部」及び「第3の放熱部」につき,「前記第2の放熱部及び前記第3の放熱部は、前記第2の放熱部の風路の幅よりも大きな間隔を開けて設けられ」るとする補正事項は,「第2の放熱部」及び「第3の放熱部」について限定的に減縮するものと認める。 そして,当初明細書の段落【0024】には,「このフィンF1(第2の放熱部に相当)は上壁11を上として底壁15の外側のほぼ中心に上下に複数の風路を構成しており、この風路を空気が下から上へ流れてインテリジェントモジュールIPMの放熱(冷却)を行うものである。これら風路の内左右両端の風路は以下に説明するケース40a、40bからの放熱(輻射熱)に対する断熱効果とインテリジェントモジュールIPMの放熱との両方に寄与している。」と記載され,同段落【0025】には,「底壁15の外側にフィンF1(第2の放熱部に相当)を挟んで左右の上側に底壁15を貫通する孔17a(図示せず)、17bが2つ設けられている。左壁13側の孔17a(図示せず)を覆うようにケース40a(第1の放熱部)を設け、右壁14側の孔17bを覆うようにケース40b(第3の放熱部)が設けられている。ケース40aには昇圧回路4を成す直流用のリアクトルDCLが収納され、ケース40bにはフィルタ6を成す交流用のリアクトルACLが収納されている。ケース40a、40bを底壁15の上側に構成することによって、ケース40a、40bからの放熱がフィンF1(第2の放熱部)に伝達される熱量を抑制している。」と記載され,また本願図面の図3より,ケース40b(第3の放熱部)には,上下に延びる風路を備えること,及び,フィンF1(第2の放熱部)とケース40b(第3の放熱部)との間には,フィンF1の風路の幅よりも大きな幅の間隔を有していることを読取ることができるから,「前記第2の放熱部及び前記第3の放熱部は前記底壁の外側に上下に延びる風路を備え」るという事項,及び,「前記第2の放熱部及び前記第3の放熱部は、前記第2の放熱部の風路の幅よりも大きな間隔を開けて設けられ」るという事項は,当初明細書等に記載された事項であり,新規事項を追加するものではないといえる。 図3 そして,以下第4ないし第6に示すように,補正後の請求項1ないし4に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。 第4 本願発明 本願請求項1ないし4に係る発明(以下「本願発明1」ないし「本願発明4」といい,これらをまとめていう場合には,単に「本願発明」という。)は,令和2年4月21日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された,次のとおりのものと認める。(下線は,審判請求人が付したものである。) 「【請求項1】 太陽電池から出力される直流電力をインバータ回路で系統と同等の周波数を有する交流電力に変換して出力する電力変換装置であって、 前面側を開口し、底壁を有する有底状の容器と、 前記インバータ回路をなす半導体素子の放熱に寄与する第2の放熱部と、 前記交流電力を得る際のフィルタを成すリアクトルの放熱に寄与する第3の放熱部と、 を備え、前記第2の放熱部と前記第3の放熱部は、前記容器の前記底壁に前記容器の外側に向かってそれぞれ別体に設けられ、 前記第2の放熱部及び前記第3の放熱部は前記底壁の外側に上下に延びる風路を備え、 前記第2の放熱部及び前記第3の放熱部は、前記第2の放熱部の風路の幅よりも大きな間隔を開けて設けられ、 前記第3の放熱部と前記底壁との間には断熱に寄与する部材が設けられている電力変換装置。 【請求項2】 前記第3の放熱部は、前記容器とは別体に構成されるケースであり、前記ケースには前記リアクトルが収納されることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。 【請求項3】 前記第3の放熱部は、前記底壁と取付部材を介して前記底壁の外側に取付けられ、前記取付け部材と前記底壁との間には空気層が設けられることを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。 【請求項4】 前記第3の放熱部は、前記ケースの開口にフランジが設けられ、前記フランジと前記底壁との間に前記断熱に寄与する部材を介して取付けられていることを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。」 第5 引用例 1 引用例1に記載された事項及び引用発明 原査定の拒絶の理由において引用した,本願の優先日前既に公知である,特開2012-164878号公報(平成24年8月30日公開。以下,これを「引用例1」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。(下線は当審で付加。以下同様。) A 「【0025】 本発明に係るパワーコンディショナPCDは、高電圧となる電装部品を含み所期の動作をする電気回路部CTが筐体1内に収容された形態である。この電気回路部CTのうち、図1には本発明に係るパワーコンディショナPCDの主回路MCの構成を示している。図1において、太陽電池PVが発電する直流電力の直流電圧を昇圧する昇圧回路を構成する昇圧部DC/DCを備え、昇圧部DC/DCで昇圧した直流電力を交流電力に変換するインバータ回路を構成するインバータ部INVを備える。直流電源である太陽電池PVからの直流電力は、チョッパ動作により昇圧部DC/DCにて昇圧され、昇圧部DC/DCで昇圧した直流電力は、インバータ部INVにより交流電力に変換(DC/AC変換という)された後、ローパスフィルタ回路を構成するフィルタ部LPFを介して商用電力系統GRIDの周波数に相当する所定の低周波数の正弦波の交流電力として商用電力系統GRIDへ供給される構成である。昇圧部やインバータ部などは高電圧となる電装部品である。 【0026】 図1において、昇圧部DC/DCは、リアクトルL1、スイッチング素子T1、ダイオードD0、ダイオードD1及びコンデンサC1で昇圧回路が構成され、太陽電池PVから供給される直流電圧は、チョッパ制御部H1による制御によってスイッチング素子T1がON(オンという)及びOFF(オフという)動作して所定電圧に昇圧される。 【0027】 また、インバータ回路INVは、スイッチング制御のために4個のスイッチング素子T2?T5が単相フルブリッジ接続されており、4個のスイッチング素子T2?T5が、昇圧部DC/DCから供給される直流電力をPWM制御部H2によってON(オンという)及びOFF(オフという)動作して、商用電力系統GRIDの周波数に相当する所定の周波数の交流電力に変換される。このため、インバータ部INVは、DC/AC変換部と称することができる。 【0028】 フィルタ部LPFは、リアクトルL2、リアクトルL3及びコンデンサC3にて高周波数を遮断するローパスフィルタ回路を構成し、インバータ部INVのスイッチング素子T2とT3の接続点QがリアクトルL2に接続され、スイッチング素子T4とT5の接続点RがリアクトルL3に接続され、インバータ部INVから出力されるパルス電圧を平滑(高調波成分を取り除いて)して商用電力系統GRIDの周波数に相当する周波数の交流電力とし、制御リレーRYを介して商用電力系統GRIDへ出力される。」 B 「【0036】 筐体1は、略直方形状の金属製箱体であり、金属製ケーシング2と、このケーシング2の表側の開口1Aを開閉可能な金属製蓋3にて閉じられ、裏側壁の少なくとも一部がヒートシンク5で構成され、内部にパワーコンディショナPCDの電気回路部が収容された構成である。ヒートシンク5は、平板状の基盤部5Bの裏側に縦方向の放熱フィン5Aが上下方向の空気通路5Cを存して複数並列形成されたものであり、ヒートシンク5は、アルミニウムなどの熱良導体で押し出し成形される長尺のものを所定長さに切断することにより、量産される。ヒートシンク5は、基盤部5Bが筐体1内に臨み放熱フィン5Aが筐体1の裏側に露出した状態でケーシング2に取り付けられる。筐体1を金属製としたのは、屋外設置であるため、太陽光に対して劣化しないように耐光性を考慮したものである。 【0037】 ケーシング2は、上下の壁2A、2B及び左右の壁2C、2Dでもって周囲壁2Sを構成し、表側と裏側に開口2F、2Rを形成した金属製である。ケーシング2の裏側壁の少なくとも一部がヒートシンク5で構成されるように、ケーシング2の裏壁2Eに形成した裏側開口2Rの周縁部のフランジ2R1に、ヒートシンク5の基盤部5Bが密着するようにネジ9にて取り付けられ、ケーシング2の裏側開口2Rが防水状態に塞がれている。この取り付けによって、放熱フィン5Aが筐体1の裏側に露出した状態となる。この場合、フランジ2R1とヒートシンク5の間にシール用パッキンを介在させてもよい。」 C 「【0043】 リアクトルL2、L3は、図9に示すように、柔軟性の熱伝導シート18Aと電気絶縁シート19Aを介して、筐体1の内側に露出したヒートシンク5の基盤部5Bにリアクトルを構成するコイル部の外周部が熱伝導的に取り付けた構成である。熱伝導シート18Aは、シリコンオイルを含浸させたシリコン高分子材で構成され、厚さが略3mm?10mm(例えば5mm)である。また電気絶縁シート19Aは合成樹脂製シートであり、熱が伝導の阻害とならないように厚さが0.5mm?2mmの薄いシートである。」 D 「【0053】 プリント配線基板PB1は、ヒートシンク5の平板状の基盤部5Bと間隔SPを存して基盤部5Bの前面側に基盤部5Bに並行に配置している。また、発熱量の大きい回路素子としては、スイッチング素子T1?T5を一つのパッケージに収容したIPM(インテリジェントパワーモジュール)があるが、このIPMは、プリント配線基板PB1から外れない位置において、ヒートシンク5の基盤部5Bに取り付けられる。具体的には、IPMは、間隔SPに配置されるように、図2、図3及び図7に示すように、プリント配線基板PB1の配線と接続する状態でプリント配線基板PB1の裏側に配置され、且つ、このIPMの裏側面(図2の下側面)が金属製の放熱板KHとなっており、この放熱板KHが筐体1側に露出したヒートシンク5の基盤部5Bに密着するように、ネジ12によってヒートシンク5に固定されている。これによって、IPMから発生する熱は、放熱板KHを通してヒートシンク5に伝達され、ヒートシンク5の放熱フィン5Aから放散される構成である。」 E 「【0062】 上記のように、ヒートシンク5は単一の構成であり、このヒートシンク5の基盤部5Bに、発熱性の電装部品であるダイオードD0、インバータ部INVを構成するスイッチング素子T2?T5、リアクトルL1?L3が取り付けられているため、これら電気部品の放熱用ヒートシンクをそれぞれ設ける場合に比して、放熱式の筐体1の構成が簡素され、これら電気部品の配置及び取り付けがし易いものとなる。」 以上,上記AないしEの記載事項(特に下線部)より,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「高電圧となる電装部品を含み所期の動作をする電気回路部が筐体内に収容されたパワーコンディショナであって,太陽電池が発電する直流電力の直流電圧を昇圧する昇圧回路を構成する昇圧部を備え,前記昇圧部で昇圧した直流電力を交流電力に変換するインバータ回路を構成するインバータ部を備え,直流電源である前記太陽電池からの直流電力は,チョッパ動作により前記昇圧部にて昇圧され,前記昇圧部で昇圧した直流電力は,前記インバータ部により交流電力に変換された後,ローパスフィルタ回路を構成するフィルタ部を介して商用電力系統の周波数に相当する所定の低周波数の正弦波の交流電力として商用電力系統へ供給され, 前記インバータ回路は,スイッチング制御のために4個のスイッチング素子T2?T5が単相フルブリッジ接続され, 前記フィルタ部は,リアクトルL2,リアクトルL3及びコンデンサC3にて高周波数を遮断するローパスフィルタ回路を構成し,前記インバータ部から出力されるパルス電圧を平滑して商用電力系統の周波数に相当する周波数の交流電力とし, 筐体は,略直方形状の金属製箱体であり,金属製ケーシングと,前記ケーシングの表側の開口を開閉可能な金属製蓋にて閉じられ,裏側壁の少なくとも一部がヒートシンクで構成され,内部に前記パワーコンディショナの電気回路部が収容された構成であり, 前記ヒートシンクは,平板状の基盤部の裏側に縦方向の放熱フィンが上下方向の空気通路を存して複数並列形成され, 前記ケーシングは,上下の壁及び左右の壁でもって周囲壁を構成し,表側と裏側に開口を形成した金属製であり,前記ケーシングの裏側壁の少なくとも一部が前記ヒートシンクで構成され, 前記リアクトルL2,L3は,柔軟性の熱伝導シートと電気絶縁シートを介して,前記筐体の内側に露出した前記ヒートシンクの基盤部にリアクトルを構成するコイル部の外周部が熱伝導的に取り付けた構成であり, 発熱量の大きい前記スイッチング素子T1?T5を一つのパッケージに収容したIPM(インテリジェントパワーモジュール)は,前記ヒートシンクの基盤部に取り付けられ, 前記ヒートシンクは単一の構成であり,このヒートシンクの基盤部に,発熱性の電装部品であるダイオード,前記インバータ部を構成する前記スイッチング素子T2?T5,前記リアクトルL1?L3が取り付けられている パワーコンディショナ。」 2 引用例2に記載された事項 原査定の拒絶の理由において引用した,本願の優先日前既に公知である,国際公開第2014/080462号(平成26年5月30日公開。以下,これを「引用例2」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。 F 「[0013](第1の実施形態) 以下、図面に基づき本発明の第1の実施形態を詳述する。図1に示すように、電力変換装置1は、例えば太陽電池2(直流電源)の出力電力(直流電力)を商用電力系統3に同期した交流電力に変換した後商用電力系統3に重畳する。具体的には、電力変換装置1は、昇圧回路41、インバータ回路42、及びフィルタ回路43を有している。尚、直流電力は太陽電池から得られるものに限るものではなく、風力発電や水力発電など交流電力を出力する発電器から得られる交流電力を整流平滑した直流電力を用いてもよい。」 G 「[0018] 次に電力変換装置1の具体的な構造について述べる。図3(a)は電力変換装置1を下側壁W2側から見た側面図であり、図3(b)は、電力変換装置1を前面カバー13側から見た正面図である。図3(b)は説明を容易にするため、前面カバー13、直流リアクトルDCL及び電装基板12を取り除いている。図2、図3に示すように、電力変換装置1は、直流リアクトルDCL、交流リアクトルACL、スイッチモジュールIPM及び電装基板12を収容する筐体10を具えている。 [0019] 筐体10は、前面に開口を有する箱形の直方体形状をしている。具体的には、筺体10は、四方を上側壁W1、下側壁W2、右側壁W3、左側壁W4で囲むと共に、背面部材11を有している。筐体10は側壁W1?W4及び背面部材11をアルミニウム合金(他の金属また他の合金を用いてもよい)でダイカスト加工して一体に成形している。」 H 「[0022] 背面部材11はダイカスト加工されたアルミ合金であり、熱伝導性に優れ筐体内の熱を外部に容易に放熱する作用を有している。本発明はこの背面部材11の外側にフィン11a?11cを成形しさらに放熱作用を高めている。背面部材11には2つの窪み17a、17bが成形され夫々直流リアクトルDCLと交流リアクトルACLとが配置される。窪み17a、17bの外側にフィン11a、11bが夫々複数成形されている。また、背面部材11の2つの窪み17の間にはスイッチモジュールIPMが配置され、スイッチモジュールIPMが配置される背面部材11の外側の2つの窪み17a、17bの間には複数のフィン11cが成形されている。これにより、直流リアクトル及び交流リアクトルは電装基板12の両側に配置される。」 3 引用例3に記載された事項 原査定の拒絶の理由において引用した,本願の優先日前既に公知である,実願昭48-14275号(実開昭49-116004号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和49年10月3日公開。以下,これを「引用例3」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。 I 「各種装置が収容されている本体ケースと、電気的発熱体が取り付けられる放熱板と、該発熱体を上記本体ケースの一側面に対向させ且つ上記発熱体の周囲を囲むごとくして上記放熱板を上記本体ケースの上記側面に密閉接合する耐熱性の非熱伝導体とからなる電気器機における密閉型ケース。」(実用新案登録請求の範囲) 4 引用例4に記載された事項 原査定の拒絶の理由において引用した,本願の優先日前既に公知である,実願昭51-127996号(実開昭53-45423号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和53年4月18日公開。以下,これを「引用例4」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。 J 「(14)は上記筺体(1)と上記放熱フイン(7)の間に設けられた断熱材で、上記放熱フイン(7)の半導体素子(6)取付面の周囲に亘つて設けられている。」(6ページ9-11行) K 「 第3図」 5 引用例5に記載された事項 原査定の拒絶の理由において引用した,本願の優先日前既に公知である,実公昭45-29536号公報(昭和45年11月13日公開。以下,これを「引用例5」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。 L 「17はトランジスタ10を放熱平板11に固定させるためのナット、18はナット17のにげ孔19および放熱平板11と一体化せしめるためのビス20,21が挿入される挿入孔22,23を有した放熱板、24はシャーシ、25,26,27,28は断熱用スペーサ、29,30は断熱用スペーサ25,26および27,28によってシャーシ24をサンドイッチし、かつ先端部が放熱平板11に螺合し補助放熱平板とシャーシ24とを一体化せしめるためのビスである。」(2欄10-19行) M 「 第2図」 6 引用例6に記載された事項 原査定の拒絶の理由において引用した,本願の優先日前既に公知である,特開2013-251319号公報(平成25年12月12日公開。以下,これを「引用例6」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。 N 「発熱体である半導体部品3を含む電気部品を収納する筐体1と、発熱体からの熱を筐体1の外部へ放出させるヒートシンク2と、筐体1にヒートシンク2を固定する固定部であるネジ7と、固定部によって互いに固定された筐体1およびヒートシンク2の間において、ヒートシンク2から筐体1への熱伝導を抑制させる低熱伝導構造体である低熱伝導率部材層8と、を有する。」(要約) O 「 図1」 7 引用例7に記載された事項 原査定の拒絶の理由において引用した,本願の優先日前既に公知である,特開昭62-254411号公報(昭和62年11月6日公開。以下,これを「引用例7」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。 P 「密閉箱の内部にリアクトル本体を内蔵し、インバータの如き半導体変換装置などに装着される如くにしたリアクトル装置において、前記リアクトル本体をその器壁との間に弾性を有する適宜の絶縁材を介在させて密閉された箱体の内部に収納するとともに、前記箱体が適宜の防振材を介して支持される保持板を前記半導体変換装置などの適所に固定する如くにしてなることを特徴とするリアクトル装置。」(特許請求の範囲) Q 「 第1図」 第6 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「太陽電池」,「インバータ回路」及び「パワーコンディショナ」は,それぞれ本願発明1の「太陽電池」,「インバータ回路」及び「電力変換装置」に相当する。 引用発明の「パワーコンディショナ」は,「直流電源である前記太陽電池からの直流電力」が「インバータ部により交流電力に変換され」,「商用電力系統の周波数に相当する所定の低周波数の正弦波の交流電力として商用電力系統へ供給され」るものであるから,引用発明と本願発明1とは,“太陽電池から出力される直流電力をインバータ回路で系統と同等の周波数を有する交流電力に変換して出力する電力変換装置”の点で一致する。 イ 引用発明の「筐体」は,本願発明1の「容器」に相当する。 そして,引用発明の「筐体」は,「略直方形状の金属製箱体」であって,「金属製ケーシングと,前記ケーシングの表側の開口を開閉可能な金属製蓋にて閉じられ」るものであるから,当該「金属製蓋」で閉じられる部分は,“開口”しているといえる。 また,引用発明の「筐体」は,「裏側壁の少なくとも一部がヒートシンクで構成され,内部に前記パワーコンディショナの電気回路部が収容された構成であ」ることから,当該「裏側壁」は,本願発明1の「底壁」に相当するといえ,引用発明と本願発明1とは,“前面側を開口し,底壁を有する有底状の容器”を備える点で一致する。 ウ 引用発明の「インバータ回路」における,「単相フルブリッジ接続され」た「スイッチング制御のため」の「4個のスイッチング素子T2?T5」は,本願発明1の「インバータ回路をなす半導体素子」に相当する。 そして,引用発明は,「発熱量の大きい前記スイッチング素子T1?T5を一つのパッケージに収容したIPM(インテリジェントパワーモジュール)は,前記ヒートシンクの基盤部に取り付けられ」るものであり,引用発明の「ヒートシンク」はさらに,「基盤部」に,「インバータ部を構成する前記スイッチング素子T2?T5」が「取り付けられ」るものであり,当該「スイッチング素子T2?T5」が取り付けられる部分は,本願発明1の「第2の放熱部」に相当するといえるから,引用発明と本願発明1とは,“前記インバータ回路をなす半導体素子の放熱に寄与する第2の放熱部”を備える点で一致する。 エ 引用発明の「フィルタ部」の「高周波数を遮断するローパスフィルタ回路を構成」する「リアクトルL2,リアクトルL3」は,本願発明1の「交流電力を得る際のフィルタを成すリアクトル」に相当する。 引用発明の「ヒートシンク」は,「リアクトルL1?L3が取り付けられている」ものであり,そのうち,「リアクトルL2」及び「リアクトルL3」が取り付けられる部分は,本願発明1の「リアクトルの放熱に寄与する第3の放熱部」に相当するといえるから,引用発明と本願発明1とは,“前記交流電力を得る際のフィルタを成すリアクトルの放熱に寄与する第3の放熱部”を備える点で一致する。 オ 引用発明の「ヒートシンク」は,「平板状の基盤部の裏側に縦方向の放熱フィンが上下方向の空気通路を存して複数並列形成され」るものであり,当該「放熱フィン」が形成する「上下方向の空気通路」は,本願発明1の「上下に延びる風路」に相当する。 また,当該「ヒートシンク」は,「筐体」の「金属製ケーシング」の「裏側壁の少なくとも一部」に「構成され」るものであり,本願発明1と“容器の底壁に前記容器の外側に向かって”設けられる点で一致するといえることから,上記イ及びエの認定を踏まえると,引用発明と本願発明1とは,“前記第2の放熱部及び前記第3の放熱部は前記底壁の外側に上下に延びる風路を備える”点で一致する。 カ 以上,アないしオの検討から,引用発明と本願発明1とは,次の一致点及び相違点を有する。 〈一致点〉 太陽電池から出力される直流電力をインバータ回路で系統と同等の周波数を有する交流電力に変換して出力する電力変換装置であって, 前面側を開口し,底壁を有する有底状の容器と, 前記インバータ回路をなす半導体素子の放熱に寄与する第2の放熱部と, 前記交流電力を得る際のフィルタを成すリアクトルの放熱に寄与する第3の放熱部と, を備え, 前記第2の放熱部及び前記第3の放熱部は前記底壁の外側に上下に延びる風路を備える 電力変換装置。 〈相違点1〉 本願発明1が,「前記第2の放熱部と前記第3の放熱部は、前記容器の前記底壁に前記容器の外側に向かってそれぞれ別体に設けられ」ているのに対し,引用発明の「ヒートシンクは単一の構成であ」る点。 〈相違点2〉 本願発明1が,「前記第2の放熱部及び前記第3の放熱部は、前記第2の放熱部の風路の幅よりも大きな間隔を開けて設けられ」ているのに対し,引用発明の「ヒートシンクは単一の構成であ」り,「発熱性の電装部品であるダイオード,前記インバータ部を構成する前記スイッチング素子T2?T5」を放熱する部分と「リアクトルL1?L3」を放熱する部分とは「単一の構成であ」る点。 〈相違点3〉 本願発明1が,「前記第3の放熱部と前記底壁との間には断熱に寄与する部材が設けられている」のに対し,引用発明は,「リアクトルL2,L3は,柔軟性の熱伝導シートと電気絶縁シートを介して,前記筐体の内側に露出した前記ヒートシンクの基盤部にリアクトルを構成するコイル部の外周部が熱伝導的に取り付けた構成」である点。 (2)相違点についての判断 事案に鑑み,先に相違点1及び相違点2について検討する。 本願発明は,従来,左右に離隔した第1のヒートシンク及び第2のヒートシンクを用いたものでは,発熱量が相対的に大きい順に2つの電気部品の配置を行うものであり,発熱量の大きい電気部品が増えた場合は充分に対応できず,また,第1のヒートシンクと第2のシートシンクとの離隔を保つためには,この間に発熱する電気部品を配置できず,相対的に発熱量の大きい電気部品の使用数が制限され(【0005】),数KW以上の出力を有する電力変換装置の昇圧回路,インバータ回路,高周波成分対応のフィルタなど発熱性の電気部品を多用する場合は従来の離間の構造では対応が難しいものであったことを課題とし(【0006】),多数の発熱性の電気部品を単一の容器内に収納する際に,電気部品どうしの熱干渉を抑制できる電力変換装置を提供することを目的としたものである(【0007】)。 そして本願発明は,とりわけ,第2の放熱部と第3の放熱部とを前記第2の放熱部の風路の幅よりも大きな間隔を開けて設けること,すなわち相違点2の構成を有することにより,リアクトルとインテリジェントモジュールIPM(半導体素子等)との放熱温度による熱干渉を抑制し,夫々の温度設定の自由度が増し,限られたスペース内でインテリジェントモジュールIPMの冷却を主体とした構成が可能となるという格別な効果を奏するものである(【0035】)。 一方,引用発明の放熱部たる「ヒートシンク」は,「単一の構成であり」,「基盤部に,発熱性の電装部品であるダイオード,前記インバータ部を構成する前記スイッチング素子T2?T5,前記リアクトルL1?L3が取り付けられている」ものであって,これを「別体」のものとすること,すなわち,前記第2の放熱部と前記第3の放熱部を容器の底壁に前記容器の外側に向かってそれぞれ別体に設けること(相違点1)は,引用発明を記述する引用例1には記載も示唆もされていない。 すると,引用発明に基づいて,電気部品どうしの熱干渉を抑制しつつ限られたスペース内に当該部品を配置するべく,相違点1及び相違点2に係る構成を想起することは,当業者といえども容易とはいえない。 そして,相違点1及び相違点2に係る構成は,その他上記第5 2ないし7に示した引用例2ないし7にも記載も示唆もされておらず,本願優先日前に周知な構成ともいえないから,上記その余の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明及び引用例2ないし7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 2 本願発明2ないし4について 本願発明2ないし4は,本願発明1を直接又は間接的に引用するものであり,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用例2ないし7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第7 原査定について 1 理由1(特許法29条2項)について 審判請求時の補正により,本願発明1ないし4は「前記第2の放熱部及び前記第3の放熱部は、前記第2の放熱部の風路の幅よりも大きな間隔を開けて設けられ」るという事項を有するものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1ないし7(上記第5の引用例1ないし7)に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由1を維持することはできない。 第8 むすび 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-01-15 |
出願番号 | 特願2015-111053(P2015-111053) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H02M)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 白井 孝治 |
特許庁審判長 |
田中 秀人 |
特許庁審判官 |
山崎 慎一 小林 秀和 |
発明の名称 | 電力変換装置 |
代理人 | 鎌田 健司 |
代理人 | 野村 幸一 |