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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1370364
審判番号 不服2019-6464  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-17 
確定日 2021-01-15 
事件の表示 特願2016-551103「アンチニュートンリング積層体およびそのアンチニュートンリング積層体を用いた静電容量式タッチパネル」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月 7日国際公開、WO2016/051247〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、本願は、2015年(平成27年)9月25日(優先権主張 平成26年9月30日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成30年 6月15日付け:拒絶理由通知
平成30年10月24日 :意見書の提出
平成31年 2月 6日付け:拒絶査定
令和 元年 5月17日 :審判請求
令和 2年 6年 2日付け:拒絶理由通知
令和 2年 8月 6日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 8月25日付け:拒絶理由通知
令和 2年10月30日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
令和2年10月30日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「 少なくとも片面に凹凸の表面形状を有する第1の層と、少なくとも片面に凹凸の表面形状を有する第2の層とを備え、
前記第1の層の凹凸の表面形状および前記第2の層の凹凸の表面形状の厚さが1?6μm、表面粗さが40nm以上であり60nmより小さく、
前記第1の層の凹凸面および前記第2の層の凹凸面は、少なくとも2種類の成分を含有する樹脂組成物が相分離して凹凸を形成しており、
前記第1の層の凹凸の表面形状と前記第2の層の凹凸の表面形状とが対向して該凹凸の表面形状が互いに接触するように積層されている積層体。」

第3 拒絶の理由
令和2年8月25日付けで当審が通知した拒絶理由(理由1)は、次のとおりのものを含むものである。

本願発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2011-175601号公報(以下、「引用文献1」という。)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 引用文献の記載事項及び引用発明
1 引用文献1の記載事項
引用文献1には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は、強調のために当審が付した。以下同じ。)。

ア 「【0001】
本発明は、電気・電子又は精密機器の表示部において、表示装置と組み合わせて用いられる透明導電性膜及びこの透明導電性膜を備えたタッチパネルに関する。」

イ 「【0011】
従って、本発明の目的は、抵抗膜方式タッチパネルにおけるニュートンリングの発生を有効に抑制でき、かつ打鍵耐久性にも優れる透明導電性膜及びこの透明導電膜を備えたタッチパネルを提供することにある。」

ウ 「【0017】
本発明では、相分離により、規則的で均一性が高く、なだらかな凹凸構造が形成された相分離層の上に、導電性ポリマーで構成された透明導電層を積層するため、前記相分離層の構造によって、抵抗膜方式タッチパネルにおけるニュートンリングの発生を有効に抑制できるとともに、微粒子を用いることなく形成された凹凸構造に対して、追従性の高い導電性ポリマーで被覆しているため、打鍵耐久性も向上できる。…(後略)」

エ 「【0019】
[相分離層]
本発明の透明導電性膜は、相分離構造を有する相分離層の上に透明導電層が形成されている。相分離層の相分離構造は、液相からのスピノーダル分解(湿式スピノーダル分解)により形成されている。すなわち、ポリマーと硬化性樹脂前駆体と溶媒とで構成された樹脂組成物を用い、この樹脂組成物の液相(又は均一溶液やその塗布層)から、溶媒を乾燥などにより蒸発又は除去する過程で、濃縮に伴って、スピノーダル分解による相分離が生じ、相間距離が微細で比較的規則的な相分離構造を形成できる。より具体的には、前記湿式スピノーダル分解は、通常、1又は複数のポリマーと1又は複数の硬化性樹脂前駆体と溶媒とを含む混合液又は樹脂組成物(均一溶液)を支持体にコーティングし、形成された塗布層から溶媒を蒸発させることにより行うことができる。前記支持体として剥離性支持体を用いる場合には、硬化した塗布層の上にさらに透明導電層を形成した後、得られた透明導電性膜を支持体から剥離することにより透明導電性膜を得ることができ、支持体として非剥離性支持体(好ましくは透明支持体)を用いることにより、支持体と透明導電性膜とで構成された積層体を得ることができる。このような相分離構造による凹凸構造は、微粒子による凹凸構造と比較して微細であり、かつ硬質な微粒子を用いなくとも凹凸構造を形成できるので打鍵耐久性が向上する。」

オ 「【0071】
相分離層の厚みは、例えば、0.3?20μm程度、好ましくは1?15μm(例えば、1?10μm)程度であってもよく、通常、2?10μm(特に3?7μm)程度である。」

カ 「【0081】
透明導電層の厚みは、例えば、0.01?1μm、好ましくは0.01?0.5μm、さらに好ましくは0.03?0.3μm(特に0.05?0.2μm)程度である。」

キ 「【0093】
本発明の透明導電性膜のヘイズは、0.1?50%程度の範囲から選択でき、例えば、0.1?20%、好ましくは0.5?15%、さらに好ましくは1?10%(特に2?8%)程度である。本発明では、このような低いヘイズ値を有することにより、アンチニュートンリング性と表示装置の表示部における視認性とを両立できる。」

ク 「【0097】
表面の凹凸構造について、前述の規則に加えて、均一で微小な凹凸構造が形成されている。JIS B 0601に準拠した測定方法において、算術平均粗さRaは、例えば、0.005?0.5μm、好ましくは0.01?0.3μm、さらに好ましくは0.01?0.1μm(特に0.02?0.08μm)程度である。…(後略)」

ケ 「【0117】
本発明のタッチパネル(特に抵抗膜方式タッチパネル)は、前記透明電極を備えている。図2は、本発明のタッチパネルの一例を示す概略断面図である。このタッチパネル10は、上部透明電極11と下部透明電極13とがスペーサー12を介して積層されており、上部透明電極11の透明導電層11aと下部透明電極13の透明導電層13aとが対向し、液晶パネル20の上に配設されている。
【0118】
上部透明電極11は、透明プラスチックフィルムで構成された透明基板11cの一方の面(パネル表側又は上部の面)にハードコート層11dが形成され、他方の面(パネル裏側又は下部の面)に相分離層(アンチニュートンリング層)11bが形成されている。相分離層11bの表面(パネル裏側又は下部の面)には前記透明導電層11aが形成されており、相分離層11bの表面が均一で規則的な凹凸構造を有するため、透明導電層11aの表面も相分離層11bの凹凸構造に追従した凹凸構造を有している。上部透明電極11は、指やペンなどの押圧部材によって押圧することより、透明導電層11aが撓んで下部透明電極13の透明導電層13aと接触して導通し、位置検出が行われる。本発明では、上部透明電極11の透明導電層11aの表面が相分離層11bに追随して均一な凹凸構造を有しているため、上部透明電極11を押圧しても、上部透明電極11とスペーサー12によって形成された空間(空気層)との界面反射光の干渉によるニュートンリングの発生を抑制できる。」

コ 「【0120】
下部透明電極13は、前記スペーサー12を介在させて、上部透明電極11の下部に配設されており、ガラスで構成された透明基板13cの一方の面(パネル表側又は上部の面)に、透明導電層13aが形成され、他方の面(パネル裏側又は下部の面)にハードコート層13dが形成されている。下部透明電極13の透明導電層13aの表面は平滑であるが、上部透明電極11と同様に、相分離層(アンチニュートンリング層)を形成し、表面に凹凸構造を形成してもよい。上部透明電極11及び下部透明電極13の双方に相分離層を形成することにより、アンチニュートンリング効果を向上できる。一方、上部透明電極11に凹凸構造を形成することなく、下部透明電極13に相分離層を形成してもよい。アンチニュートンリング効果とタッチパネルの下部に配設する表示装置の視認性とを両立できる点からは、一方の透明電極(特に上部透明電極)に相分離層を形成するのが好ましい。…(後略)」

サ 「【0157】
導電性ポリマー塗布前のニュートンリング防止フィルムの評価結果を表1に示し、導電性ポリマー塗布後の透明導電性膜の評価結果を表2に示す。
【0158】
【表1】

【0159】
【表2】


当該サの記載から、透明導電性膜の評価結果を示す(【0157】)上記【0159】の【表2】には、透明導電性膜の例の一つである実施例1は、算術平均粗さRaが0.05μmであり、ヘイズが3.6%であることが見て取れる。

シ 「【図2】



2 引用発明
前記1からみて、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「 表示装置と組み合わせて用いられ、ニュートンリングの発生を有効に抑制でき、かつ打鍵耐久性にも優れる透明導電性膜及びこの透明導電性膜を備えた抵抗膜方式のタッチパネルであって、
透明導電性膜は、相分離構造を有する相分離層の上に透明導電層が形成されたものであり、
タッチパネル10は、上部透明電極11と下部透明電極13とがスペーサー12を介して積層されており、上部透明電極11の透明導電層11aと下部透明電極13の透明導電層13aとが対向し、液晶パネル20の上に配設され、
上部透明電極11は、透明基板11cの他方の面(パネル裏側又は下部の面)に相分離層(アンチニュートンリング層)11bが形成され、相分離層11bの表面(パネル裏側又は下部の面)には透明導電層11aが形成されており、相分離層11bの表面が均一で規則的な凹凸構造を有するため、透明導電層11aの表面も相分離層11bの凹凸構造に追従した凹凸構造を有し、
相分離層の厚みは、好ましくは1?10μm程度であってもよく、
透明導電層の厚みは、好ましくは特に0.05?0.2μm程度であり、
表面の凹凸構造の算術平均粗さRaは、好ましくは、0.01?0.1μm程度であり、
透明導電性膜のヘイズは、0.1?50%程度の範囲から選択でき、例えば、0.1?20%、好ましくは0.5?15%、さらに好ましくは1?10%(特に2?8%)程度であり、このような低いヘイズ値を有することにより、アンチニュートンリング性と表示装置の表示部における視認性とを両立でき、
透明導電性膜の例の一つである実施例1は、算術平均粗さRaが0.05μmであり、ヘイズが3.6%であり、
相分離により、規則的で均一性が高く、なだらかな凹凸構造が形成された相分離層が形成され、
相分離層の相分離構造は、ポリマーと硬化性樹脂前駆体と溶媒とで構成された樹脂組成物を用い、この樹脂組成物の液相(又は均一溶液やその塗布層)から、溶媒を乾燥などにより蒸発又は除去する過程で、濃縮に伴って、スピノーダル分解による相分離が生じ、相間距離が微細で比較的規則的な相分離構造を形成でき、
下部透明電極13は、上部透明電極11と同様に、相分離層(アンチニュートンリング層)を形成し、表面に凹凸構造を形成してもよく、上部透明電極11及び下部透明電極13の双方に相分離層を形成することにより、アンチニュートンリング効果を向上でき、
上部透明電極11は、指やペンなどの押圧部材によって押圧することより、透明導電層11aが撓んで下部透明電極13の透明導電層13aと接触して導通し、位置検出が行われる、
透明導電性膜及びこの透明導電膜を備えたタッチパネル。」

第5 対比
以下、本願発明と引用発明とを対比する。

a 引用発明の「透明導電性膜」は、相分離構造を有する「相分離層」の上に「透明導電層」が形成されたものであり、「膜」は「層」といい得るものである。
また、引用発明の「相分離層11bの表面が均一で規則的な凹凸構造を有するため、透明導電層11aの表面も相分離層11bの凹凸構造に追従した凹凸構造を有し」において、相分離層11bの表面の凹凸構造に追従した、透明導電層11aの表面の凹凸構造は、本願発明の「表面の凹凸形状」に相当する。
また、引用発明における、透明導電層11aの表面の凹凸構造は、「透明導電性膜」全体からすると「片面」に存在するものである。
そうすると、引用発明において、「上部透明電極11」を構成する「相分離層11b」と「透明導電層11a」とから構成される「透明導電性膜」(以下、「上部透明導電性膜」という。)は、本願発明の「少なくとも片面に凹凸の表面形状を有する第1の層」に相当する。

b 引用発明は、「下部透明電極13は、上部透明電極11と同様に、相分離層(アンチニュートンリング層)を形成し、表面に凹凸構造を形成してもよく」及び「透明導電層11aが撓んで下部透明電極13の透明導電層13aと接触して導通し」との構成を備えるものであるから、「上部透明電極11」と同様に、「下部透明電極13」が、「相分離層」とその上に「透明電極13a」とが「透明導電性膜」(以下、「下部透明導電性膜」という。)を構成し、その表面に「凹凸構造」を備える態様を含んでいる。
よって、引用発明の「下部透明導電性膜」は、後述する相違点を除いて本願発明の「少なくとも片面に凹凸の表面形状を有する第2の層」に相当する。

c 前記a及びbより、引用発明は、本願発明の「少なくとも片面に凹凸の表面形状を有する第1の層と、少なくとも片面に凹凸の表面形状を有する第2の層とを備え」との構成を備える。

d 本願発明において、「凹凸の表面形状の厚さ」は、本願明細書の【0034】の記載によれば、「凹凸の表面形状の最も薄い部分の厚み」であり、具体的には、「凹部の底から基材側の表面までの距離」である。
一方、引用発明は、「相分離層の厚みは、好ましくは1?10μm程度であってもよく」及び「透明導電層の厚みは、好ましくは特に0.05?0.2μm程度であり」との構成を備えるため、「上部透明導電性膜」の厚さは、1.05?10.2μm程度となる。
また、引用発明において、「表面の凹凸構造の算術平均粗さRa」は、「好ましくは、0.01?0.1μm程度」と小さく、また、「相分離層11bの表面が均一で規則的な凹凸構造を有する」ため、凹部の底から上部透明導電性膜の透明基板11c(基材側)の表面までの距離と、「上部透明導電性膜」の厚さとの差は、誤差の範囲といえるから、引用発明における「凹凸の表面形状」の「厚さ」は、1.05?10.2μm程度となる。
そうすると、引用発明は、本願発明の「前記第1の層の凹凸の表面形状の凹凸の表面形状」の「厚さが1?6μm」と重複する範囲を含んでいる。

e 本願発明の「表面粗さが40nm以上であり60nmより小さく」との構成(以下、「表面粗さ構成」という。)に関して、令和2年10月30日に提出された意見書の第2ページには次のように述べられている。

「 上記本願発明の特徴に関して、本願明細書[0045]段落には、凹凸の表面粗さが大きい方が第1の層と第2の層との接触面積が小さく、離れやすいため、優れたアンチニュートンリング効果が発揮されることが記載されています。他方、表面粗さが60nmよりも小さいことにより積層体のヘイズが小さくなることも記載されています。このような本願発明の特徴を具現化しているのが本願明細書の実施例3です。実施例3では第1の層及び第2の層の凹凸の両方を相分離により形成し、表面粗さが50nmであり、アンチニュートンリング効果及びヘイズの両方の観点で優れた効果が得られています。これに対して、本願明細書の比較例7では第1の層及び第2の層の両方の凹凸の表面粗さが77nmであり、このような表面粗さではアンチニュートンリング効果は良好であるもののヘイズが有意に大きくなることが示されています。
第1の層及び/又は第2の層に凹凸形成用の微粒子を含有する場合には当該微粒子がヘイズに及ぼす影響を考慮すべきであるところ、本願明細書の実施例3は、第1の層及び第2の層の両方の凹凸を相分離により形成する前提でどのような表面粗さがアンチニュートンリング効果及びヘイズの両方の観点で優れた効果が得られるかを実証しています。そして、両層の凹凸の表面粗さが50nmである実施例3の結果は補正後の本願請求項1及び3の凹凸の表面粗さの規定(40nm以上60nm未満)まで敷衍でき、本願発明の課題が解決できることは当業者であれば認識できます。」

以上の主張からすると、本願発明の表面粗さ構成は、本願明細書に記載された実施例3によってサポートされており、当該実施例3における凹凸の表面粗さは50nmであり、本願発明の表面粗さ構成における「40nm以上であり60nmより小さく」との数値範囲は、実施例3の「50nm」を「敷衍」したものであるから、結局、前記数値範囲には臨界的意義はないといわざるを得ず、実質的には、「表面粗さ」が「50nm」程度であることをその技術的意義としているものと認められる。

一方、引用発明の(上部透明導電性膜)の「表面の凹凸構造の算術平均粗さRaは、好ましくは、0.01?0.1μm程度」は、1μm=1000nmであることは技術常識であることから、本願発明の「記第1の層の凹凸の表面形状」の「表面粗さが40nm以上であり60nmより小さく」との範囲を含み、また、引用発明の「透明導電性膜の例の一つである実施例1は、算術平均粗さRaが0.05μmであり」との構成は、上述したような、「表面粗さ」が「50nm」程度であるとの技術的意義にも合致するものである。

f 前記d及びeを参酌すると、引用発明と本願発明の「前記第1の層の凹凸の表面形状および前記第2の層の凹凸の表面形状の厚さが1?6μm、表面粗さが40nm以上であり60nmより小さく」とは、「前記第1の層の凹凸の表面形状の厚さが1?6μm、表面粗さが40nm以上であり60nmより小さく」との構成を備える点において共通する。

g 前記aを参酌すると、引用発明において、相分離層11bの表面の凹凸構造に追従した、透明導電層11aの表面の凹凸構造の表面は、本願発明の「第1の層の凹凸面」に相当する。
また、前記a及びbを参酌すると、引用発明において「下部透明導電性膜」の表面の凹凸構造の表面は、本願発明の「第2の層の凹凸面」に相当する。

h 引用発明において、「相分離層」の「相分離構造」は、「ポリマー」と「硬化性樹脂前駆体」と「溶媒」とで構成された「樹脂組成物」を用いたスピノーダル分解による「相分離」により形成され、この「相分離」により「凹凸構造」が「相分離層」に形成され、「相分離層11bの表面が均一で規則的な凹凸構造を有するため、透明導電層11aの表面も相分離層11bの凹凸構造に追従した凹凸構造を有し」との構成により、「透明導電層11a」の表面に前記「凹凸構造」に追従した「凹凸構造」が形成されるものである。
よって、引用発明の「上部透明導電性膜」の「相分離層」においては、「樹脂組成物」が「相分離」して「凹凸構造」(相分離構造)すなわち、「上部透明導電性膜」の「凹凸」を「形成」しているといえる。
また、引用発明において、「樹脂組成物」を構成する「ポリマー」、「硬化性樹脂前駆体」及び「溶媒」は、「少なくとも2種類の成分」といえる。

i 前記a及びbを参酌すると、引用発明において、「下部透明導電性膜」の「相分離層」は、「相分離」して「凹凸構造」すなわち「下部透明導電性膜」の「凹凸」を「形成」しているといえる。

j 前記h及びiより、引用発明と本願発明の「前記第1の層の凹凸面および前記第2の層の凹凸面は、少なくとも2種類の成分を含有する樹脂組成物が相分離して凹凸を形成しており」とは、「前記第1の層の凹凸面は、少なくとも2種類の成分を含有する樹脂組成物が相分離して凹凸を形成しており、前記第2の層の凹凸面は、相分離して凹凸面を形成しており、」との構成を備える点において共通する。

k 引用発明は、「上部透明電極11と下部透明電極13とがスペーサー12を介して積層されており、上部透明電極11の透明導電層11aと下部透明電極13の透明導電層13aとが対向し」、及び、「上部透明電極11は、指やペンなどの押圧部材によって押圧することより、透明導電層11aが撓んで下部透明電極13の透明導電層13aと接触して導通し、位置検出が行われる」との構成を備えている。
よって、引用発明は、上部透明電極11の「上部透明導電性膜」と下部透明電極13の「下部透明導電性膜」とが対向して、上部透明電極11が押圧されると「上部透明導電性膜」の透明導電層11aと「下部透明導電性膜」の透明導電層13aとが互いに接触するようにスペーサ12を介して積層されているといえ、また、この積層構造を「積層体」と称することは任意である。
そうすると、引用発明は、本願発明の「前記第1の層の凹凸の表面形状と前記第2の層の凹凸の表面形状とが対向して該凹凸の表面形状が互いに接触するように積層されている積層体」との構成を備えている。

第6 一致点・相違点
したがって、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致ないし相違する。

[一致点]
「 少なくとも片面に凹凸の表面形状を有する第1の層と、少なくとも片面に凹凸の表面形状を有する第2の層とを備え、
前記第1の層の凹凸の表面形状の厚さが1?6μm、表面粗さが40nm以上であり60nmより小さく、
前記第1の層の凹凸面は、少なくとも2種類の成分を含有する樹脂組成物が相分離して凹凸を形成しており、前記第2の層の凹凸面は、相分離して凹凸を形成しており、
前記第1の層の凹凸の表面形状と前記第2の層の凹凸の表面形状とが対向して該凹凸の表面形状が互いに接触するように積層されている積層体。」

[相違点]
<相違点1>
本願発明は、「第2の層の凹凸の表面形状」についても、「第1の層の凹凸の表面形状」と同様に、その「厚さが1?6μm、表面粗さが40nm以上であり60nmより小さく」との構成を備えるのに対し、引用発明は、「下部透明電極13」に「相分離層」を設けた場合における「下部透明導電性膜」の具体的な構成(厚さ、表面粗さ)について具体的に特定していない点。
<相違点2>
本願発明は、「第2の層の凹凸面」についても「相分離」する成分を「少なくとも2種類の成分を含有する樹脂組成物」に限定しているのに対し、引用発明は、「下部透明電極13」に「相分離層」を設けた場合における「相分離」する成分について具体的に特定していない点。

第7 判断
1 相違点についての検討
上記相違点1及び2についてまとめて検討する。
引用発明は、「下部透明電極13は、上部透明電極11と同様に、相分離層(アンチニュートンリング層)を形成し、表面に凹凸構造を形成してもよく、上部透明電極11及び下部透明電極13の双方に相分離層を形成することにより、アンチニュートンリング効果を向上でき、」との構成を備えるものであり、当業者は、「上部透明電極11と同様に」との記載に接すれば、「下部透明電極13」に「相分離層」を形成する場合について、「上部透明電極11」と同じ構成を採用することは容易に想起できることである。
よって、引用発明において、「下部透明電極13」を構成する「下部透明導電性膜」(新たに設ける相分離層と元から存在する透明導電膜13a)を、「上部透明電極11」を構成する「上部透明導電性膜」(相分離層11bと透明導電膜11a)と同じ厚さ、表面粗さ、及び、「相分離」する成分を採用すること、すなわち、相違点1及び2に係る本願発明の構成を採用することは当業者が容易に想到し得たことである。

2 請求人の主張について
請求人は、令和2年10月30日に提出された意見書において、次のように主張している。

「 しかしながら、引用文献1、2の広い開示によれば、凹凸面を対向させるとともに両方の凹凸面を相分離により形成することは当業者にとって想起できるとしても、引用文献1、2のいずれにも相分離により形成した一対の凹凸面を対向させた具体的な実施例はなく、引用文献1、2のいずれにも「第1の層及び第2の層の両方の凹凸を相分離により形成する前提で両層の凹凸の表面粗さを40nm以上60nm未満に規定することにより、アンチニュートンリング効果及びヘイズの両方の観点で優れた効果が得られる」という本願発明独特の構成及び効果は明示的に記載されておらず、ましてや当該本願発明の優れた効果は引用文献1、2からは当業者は予測することもできません。
例えば、引用文献1の表1、2には、導電性ポリマー塗布前のニュートンリング防止フィルムの評価結果、導電性ポリマー塗布後の透明導電性膜の評価結果がそれぞれ示されています(引用文献1の[0157]段落及び表1、2)。各表の実施例1の結果を見ると、本願発明における凹凸の表面粗さに対応するRa(μm)が導電性ポリマー塗布前には0.05μm(=50nm)、導電性ポリマー塗布後には0.04μm(=40nm)であることが記載されており、これらの表面粗さの数値は本願発明における凹凸の表面粗さの範囲に包含されています。しかしながら、表1(導電性ポリマー塗布前)、表2(導電性ポリマー塗布後)の各ヘイズは3.4%、3.6%と比較的大きく、凹凸面を対向配置して積層体とした場合にはヘイズはより大きな値となることが容易に推測できます。これに対して、本願明細書の実施例3では、樹脂フィルム1、2のヘイズはともに1.2であり、積層体のヘイズも2.5に留まっており、引用文献1の実施例1に比して顕著にヘイズが小さいことが示されています。このような引用文献1には、優れたアンチニュートンリング効果と小さなヘイズとの両立のために、凹凸面を相分離で形成する前提においてどのような表面粗さとすることが必要であるかについて示唆するところは全くありません。引用文献2についても凹凸面を対向させる具体的な構成における教示は全くありません。よって、本願発明は引用文献1、2に対して進歩性を有することは明らかです。」

上記主張について検討する。
まず、請求人は、引用文献1には、本願発明の構成に相当する実施例(実験結果等)が具体的に記載されていない旨主張するが、引用文献に実施例(実験結果等)が具体的に記載されている事項しか引用発明の構成として認定することができないということはない。引用発明は、前記第4の2のように特定することができ、また、本願発明と引用発明との間の一致点ないし相違点は、前記「第6」で述べたとおりであり、また、相違点についての判断は前記1で述べたとおりである。
また、請求人は、引用文献1には、「第1の層及び第2の層の両方の凹凸を相分離により形成する前提で両層の凹凸の表面粗さを40nm以上60nm未満に規定することにより、アンチニュートンリング効果及びヘイズの両方の観点で優れた効果が得られる」という本願発明独特の構成及び効果が明示的に記載されておらず、その記載から予測することもできず、さらに、引用文献1に記載の実施例1のヘイズは3.4%又は3.6%と比較的大きく、本願明細書の実施例3では、樹脂フィルム1、2のヘイズはともに1.2であり、積層体のヘイズも2.5に留まっており、引用文献1の実施例1に比して顕著にヘイズが小さい旨主張している。
しかしながら、本願請求項1に係る「積層体」は、「アンチニュートンリング効果及びヘイズの両方の観点で優れた効果」を必要とするための前提となる構成(例えば、各層が、表示装置上に積層されるタッチパネルに使用される透明の部材である等)を備えておらず、特に、「ヘイズ」については、「積層体」として満たすべき数値が2.5以下であることは示唆すらされていない。
よって、本願発明について、請求人が主張する上記「本願発明独特の構成及び効果」について考慮すべき事情はない。
もっとも、引用発明は「表示装置と組み合わせて用いられ、ニュートンリングの発生を有効に抑制でき、かつ打鍵耐久性にも優れる透明導電性膜及びこの透明導電性膜を備えた抵抗膜方式のタッチパネル」に関するものであるため、本願発明との関係は措いておくとしても、引用発明自体には「アンチニュートンリング効果及びヘイズの両方」について考慮すべき事情が存在しないわけはない。しかしながら、引用発明は、「下部透明電極13は、上部透明電極11と同様に、相分離層(アンチニュートンリング層)を形成し、表面に凹凸構造を形成してもよく、上部透明電極11及び下部透明電極13の双方に相分離層を形成することにより、アンチニュートンリング効果を向上でき」との構成を備えているため、前記1で述べたように、「下部透明電極13」に「相分離層」を設ける場合に「上部透明電極11」と同じ構成を採用することは当業者が容易に想到し得ることである。また、引用発明は、「透明導電性膜のヘイズは、0.1?50%程度の範囲から選択でき、例えば、0.1?20%、好ましくは0.5?15%、さらに好ましくは1?10%(特に2?8%)程度であり、このような低いヘイズ値を有することにより、アンチニュートンリング性と表示装置の表示部における視認性とを両立でき」及び「透明導電性膜の例の一つである実施例1は、算術平均粗さRaが0.05μmであり、ヘイズが3.6%であり」との構成を備えるため、「下部透明電極13」に「上部透明電極11」と同じ構成を採用する場合は、実施例1に基づけば、ヘイズは、透明導電性膜が単層である場合の3.6%の2倍の7.2%程度となることは当業者が容易に予測できることであり、引用発明において好ましいヘイズの値である「1?10%(特に2?8%)程度」の範囲に含まれることも当業者が容易に予測できることである。そして、当該好ましいヘイズの値の範囲に含まれる場合は、「このような低いヘイズ値を有することにより、アンチニュートンリング性と表示装置の表示部における視認性とを両立でき」るとの作用効果を得ることができることになる。
よって、仮に、引用発明において、「アンチニュートンリング効果及びヘイズの両方」について考慮したとしても、「下部透明電極13」に「上部透明電極11」と同じ構成を採用し、上記相違点1及び相違点2に係る本願発明の構成を想到することは当業者にとって何ら困難なことではない。
よって、上記請求人の主張は採用することができない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-11-11 
結審通知日 2020-11-17 
審決日 2020-11-30 
出願番号 特願2016-551103(P2016-551103)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 萩島 豪滝谷 亮一  
特許庁審判長 ▲吉▼田 耕一
特許庁審判官 林 毅
太田 龍一
発明の名称 アンチニュートンリング積層体およびそのアンチニュートンリング積層体を用いた静電容量式タッチパネル  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
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