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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B43K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B43K
管理番号 1370389
審判番号 不服2019-16267  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-02 
確定日 2021-01-14 
事件の表示 特願2015-200235「筆記具」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月13日出願公開,特開2017- 71148〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成27年10月8日に出願されたものであって,令和1年5月23日付けで拒絶の理由が通知され,それに対して,同年7月23日に手続補正書及び意見書が提出されたが,同年8月23日付けで同年5月23日付けの拒絶理由通知により通知された理由(以下,「原査定の理由」という。)により拒絶査定がなされ,その謄本は,同年9月3日に請求人に送達された。
その後,同年12月2日付けで拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書の提出がされたものである。

第2 令和1年12月2日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和1年12月2日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容について
(1)本件補正は,特許請求の範囲及び明細書について補正するものであり,その補正の一部には,本件補正前の請求項1の記載を本件補正後の請求項1のとおりに補正する補正事項(以下,「本件補正事項」という。)を含むものである。

ア 本件補正前の特許請求の範囲(令和1年7月23日にされた手続補正による補正後のもの)の請求項1の記載
「【請求項1】
内部にインクを収容し先端にボールペンチップが装着された筆記具であって,
前記ボールペンチップは,筆記ボールと,該筆記ボールを先端に抱持するホルダーと,該ホルダーの内部に装着され該筆記ボールを前方に付勢する弾発部材と,を備え,
前記ホルダーは,ビッカース硬度が200以上450以下のビスマス含有のフェライト系ステンレス製であって,該ホルダーの後端側の部分は円筒形状を呈する筒状部であるとともに,該ホルダーの先端側の部分は円錐台形状を呈するテーパー部であり,
前記ホルダーの内周には,前記テーパー部の内部空間であるボールハウスと,該ホルダーの後端から該ボールハウスの近傍まで達する孔であるバック孔と,該ボールハウスと該バック孔との間を貫通する断面円形の孔であるインク孔と,が備えられ,
前記テーパー部の先端部分には,先端部分が内側に縮径されたカシメ部が備えられ,
前記ボールハウスの底面には,前記筆記ボールを後方へ押圧した際に該筆記ボールの曲面が転写されたボール受座が形成され,
前記インク孔の周囲には,前記ボールハウスから後方に向かって穿設された放射状の溝であるチャンネル溝が複数等配されており,
前記インクには,顔料と,防錆材としてサポニン,トリルトリアゾール,ベンゾトリアゾール,テトラゾール,リン酸オクチル,チオリン酸ジオクチル,イミダゾール,ベンゾイミダゾール,2-メルカプトベンゾチアゾール,オクチルオキシメタンホスホン酸,ジシクロヘキシルアンモニウム・ナイトライト,ジイソプロピルアンモニウム・ナイトライト,プロパルギルアルコール及びジアルキルチオ尿素からなる群から選ばれた1種又は2種以上と,が含まれ,
前記筆記ボールは超硬合金製で表面の算術平均高さSaが0.06μm以下であって,
前記カシメ部の外周面は,表面の算術平均高さSaが10nm以下であって,曲率Rが0.20mm以下の曲面形状であり,
前記カシメ部においては,筆記ボール及び該カシメ部に接する接線と筆記具の軸心とがなす角度である接触角度が前記テーパー部の傾斜面と筆記具の軸心とがなす角度であるテーパー角度以上であって,かつ50°未満であることを特徴とする筆記具。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載
「【請求項1】
内部にインクを収容し先端にボールペンチップが装着された筆記具であって,
前記ボールペンチップは,筆記ボールと,該筆記ボールを先端に抱持するホルダーと,該ホルダーの内部に装着され該筆記ボールを前方に付勢するとともに表面処理の施されていない裸線の弾発部材と,を備え,
前記ホルダーは,ビッカース硬度が200以上450以下のビスマス含有のフェライト系ステンレス製であって,該ホルダーの後端側の部分は円筒形状を呈する筒状部であるとともに,該ホルダーの先端側の部分は円錐台形状を呈するテーパー部であり,
前記ホルダーの内周には,前記テーパー部の内部空間であるボールハウスと,該ホルダーの後端から該ボールハウスの近傍まで達する孔であるバック孔と,該ボールハウスと該バック孔との間を貫通する断面円形の孔であるインク孔と,が備えられ,
前記テーパー部の先端部分には,先端部分が内側に縮径されたカシメ部が備えられ,
前記ボールハウスの底面には,前記筆記ボールを後方へ押圧した際に該筆記ボールの曲面が転写されたボール受座が形成され,
前記インク孔の周囲には,前記ボールハウスから後方に向かって穿設された放射状の溝であるチャンネル溝が複数等配されており,
前記インクには,顔料と,防錆材としてサポニン,トリルトリアゾール,ベンゾトリアゾール,テトラゾール,リン酸オクチル,チオリン酸ジオクチル,イミダゾール,ベンゾイミダゾール,2-メルカプトベンゾチアゾール,オクチルオキシメタンホスホン酸,ジシクロヘキシルアンモニウム・ナイトライト,ジイソプロピルアンモニウム・ナイトライト,プロパルギルアルコール及びジアルキルチオ尿素からなる群から選ばれた1種又は2種以上と,が含まれ,
前記筆記ボールは超硬合金製で表面の算術平均高さSaが0.06μm以下であって,
前記カシメ部の外周面は,表面の算術平均高さSaが10nm以下であって,曲率Rが0.20mm以下の曲面形状であり,
前記カシメ部においては,筆記ボール及び該カシメ部に接する接線と筆記具の軸心とがなす角度である接触角度が前記テーパー部の傾斜面と筆記具の軸心とがなす角度であるテーパー角度以上であって,かつ50°未満であることを特徴とする筆記具。」(下線は,当審で付加したものである。下線については,以下同じである。)

(2)本件補正の目的について
本件補正事項は,本件補正前の請求項1において特定されている発明特定事項である「該ホルダーの内部に装着され該筆記ボールを前方に付勢する弾発部材」を,本件補正により,「該ホルダーの内部に装着され該筆記ボールを前方に付勢するとともに表面処理の施されていない裸線の弾発部材」とさらに限定して特定するものであり,当該補正により,「産業上の利用分野」及び「解決しようとする課題」が,変更されるものではない。
したがって,本件補正事項の目的は,特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮に該当するものである。
なお,本願の願書に最初に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0020】には,「弾発部材32は,表面処理の施されていない,いわゆる裸線である。」と記載されているから,当該補正事項は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内でするものであるといえる。

2 独立特許要件についての検討
上記のとおり,本件補正事項による補正は,特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮(いわゆる限定的減縮)を目的とするものに該当するから,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)は,同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するもの,すなわち,特許出願の際に独立して特許を受けることができるものでなければならない。
よって,つぎに,本願補正発明が,いわゆる独立特許要件を満たすものであるかについて検討する。
(1)本願補正発明
本願補正発明は,上記1(1)イにおいて摘示したとおりの発明特定事項により特定されるものである。

(2)引用例
ア 原査定の拒絶の理由の引用文献1として引用され,本願の出願前に出願公開された特開2013-151153号公報(以下,「引用文献1」という。)には,つぎの事項が記載されている。
(ア)「【0009】
ボールペンチップの基本的な構造は,紙面などの被筆記面と接触してインキを転写する筆記部材となるボールと,これを回転自在に抱持するボールホルダーとからなるものであり,インキの通り道であるボールホルダーの貫通孔を通じて被筆記面にインキを付与するものである。
ボールホルダーの貫通孔であるインキ通路は,該ボールホルダーがインキタンクとなる部材と直接又は接続部材を介して接続されることによってインキタンクの内孔と連通している。また,ボールホルダーは,インキ通路の途中に,内方突出部を形成し,ボールの後退規制部とすると共に,先端開口部をボールの直径よりも小径に加工したカシメ部として,先端からのボールの抜け止めをなして,ボールを抱持している。
内方突出部には,中心孔に連通した放射状溝が略均等に分割され,周状に配置されている。
・・・
【0010】
非使用時に,ボールをボールホルダーの先端開口部に周状に当接させ,特に,低粘度インキを使用した場合のインキの漏れ出しを抑制することを目的にボールホルダーのインキ通路に,コイルスプリングを挿入し,その先端で直接又は部材を介してボールを前方付勢することができる。コイルスプリングの後方移動規制は,ボールホルダーの後端をカシメたり,インキタンクや,インキタンクとの接続部材に形成した段部にコイルスプリングの後端を当て,後方移動規制をすることもできる。
尚,このように,コイルスプリングを挿入する場合,前述したインキ通路横断面積は,コイルスプリング先端部分の横断面積を差し引いた有効インキ通路横断面積である。」
(イ)「【0018】
ボールは,タングステンカーバイドやシリコンカーバイドなどを主成分とした焼結体のボールを使用でき,ボールホルダーとなる金属製の柱状部材は,ステンレスや黄銅,洋白などの合金製の線材を切断して使用できるが,ボールペンチップとしてインキとの耐食性や筆記時のボール回転によるチップホルダーとボールとの接触部分の耐摩耗性の高いステンレス材の使用が主であり,具体的には,パイプ状の素材に側面からピンを押し込み,内抱突出部の形成と同時に,放射状のインキ通路を形成する塑性加工を主とした製造方法を採用する場合は,フェライト系ステンレス材より伸び率の高いオーステナイト系ステンレス材であるSUS303,SUS304が適しているが,放射状溝を切削刃により加工するような切削加工を主とした製造方法を採用する場合は,切削性の高いフェライト系ステンレス材であるSUS430が適している。
更に,SUS303と同程度まで耐食性を向上し,切削性もより向上させた快削ステンレスSF20T(下村特殊精工株式会社)が好ましい。
更に,切削性に影響する成分である鉛をビスマスに置き換え切削性を保ちつつ,環境に考慮した快削ステンレス材は,より好ましい。
インキ流通路である放射状溝を加工する際のボール抱持室底面の後孔側への倒れこみや,ボール抱持室の側壁部分周辺の内側への倒れこみの抑制のためには,加工し易い材料が望ましく,剪断抵抗がステンレスの約1/2と小さい黄銅,洋白のほうが好ましいがインキとの腐食性や筆記時のボールとの接触部の摩耗性から外周付近の硬度がHv220?280程度のステンレス材を使用することが一般的であるが,反面,硬度が高いと,放射状に配置された切削刃を有する切削冶具の耐久性が低下し,剪断力が低下し,加工面の剪断面が短く,破断面が長くなることで切削抵抗が増加し,ボール抱持室の変形を助長する。また,放射状溝の加工は,ボールホルダーの中心付近を切削して形成されるので,外周付近の硬度がHv240?270程度で中心付近の硬度をHv220?250程度とすることが好ましい。」
(ウ)「【0021】
次に,筆記部材となるボールを,ボール抱持室に配置し,ボールホルダーの先端開口部の縁部分を圧接工具によるカシメと呼ばれる塑性変形加工を行うことで,ボールの直径よりも小径に縮径され,ボールの抜け止めがなされる。
続いて,ハンマー工具によってボールに衝撃力を付与する所謂ハンマー工程を施して,ボールをボール抱持室と中心孔との間の段部に撃ち付け,ボールの形状に塑性変形させて凹状のボール転写部を形成すると同時にボールが前後に移動可能な空間を形成する。これによって,筆記時にボールが紙面と当接して後退し,インキが吐出される隙間が形成される。従って,この凹状ボール転写部の大きさを調整することで,ボールの前後移動可能な空間が調整され,インキ吐出を適量にできる。
また,ボールを深く押圧することによって凹状ボール転写部の大きさを広いものとすることで筆記時のボール回転による凹状のボール転写部の摩耗により,放射状溝の凹状のボール転写部の外縁に開口するインキ通路の減少によるインキ吐出量減少が抑制できるが内方突出部の体積に対する放射状溝の容積の関係同様,内方突出部の体積に対する凹状のボール転写部の容積の比が大きくなり,内方突出部の体積に対する加工量に比例した歪み量が増大し,ボール抱持室の変形となるので適宜,凹状のボール転写部の大きさを調整する必要がある。
尚,カシメ行程を,凹状のボール転写部を形成する工程の後に施した場合には,後穴からピンを挿入してボールを押し上げて,カシメられたボールホルダー先端部分を若干拡開し,ボールが前後に移動可能な空間を形成することもできる。
【0022】
本発明で得られたボールペンチップを使用するボールペンに適用するインキとしては,水を主媒体とした水性インキ,アルコールなどの有機溶剤を主媒体とした油性インキのいずれも使用可能であり,これに着色成分である顔料及びまたは染料,凍結防止などのための高沸点有機溶剤,被筆記面への定着性を付与する樹脂成分,表面張力や粘弾性,潤滑性などを調整する界面活性剤や多糖類,防錆・防黴剤などが配合されたものであり,誤字修正などを目的とした酸化チタンなどの白色隠蔽成分を配合したものであってもよい。
また,インキの粘度や残量確認などの必要に応じて,インキ界面に接触させて,インキと相溶しない,α-オレフィンやポリブテンなどのゲル化物,シリコーンオイルなどの高粘度流体などをインキ界面に追従して移動するように層状に充填配置することもできる。この高粘度流体は,インキの逆流を抑制する働きをも担いうる。」
(エ)「【0023】
以下,図面に基づいて一例を説明する。
図4に示したものは,筆記部材としてのボール7を,ボールホルダー6先端開口部6aより一部突出した状態で回転自在に抱持してなるボールホルダー6とインキ収容部8が接合されたボールペン本体である。外装体に収容されて使用される所謂リフィルと称されるものとして示してあるが,外装についての図示及び説明は省略する。
後端の小径部は,ポリプロピレン樹脂などの押し出し成形パイプであるインキ収容部8の先端に圧入して固定されている。
インキ収容部8内には,インキ9が収容されており,インキ9の後端界面に接して,インキと相溶しない高粘度流体である逆流防止体組成物10が配置されている。
【0024】
図4のボールペンチップの拡大図である図5に示すように,ボールホルダー6の内部には,ボール7を背面より押して前方付勢するコイルスプリング11が配設されている。このコイルスプリング11は,ボールホルダー6に挿入された後に,押し込まれて全長を圧縮された状態で,ボールホルダー6の後端開口部6bを縮径するカシメ加工を施すことによって,ボール7の後端を付勢した状態で固定されている。
コイルスプリング11は,伸縮する巻き部11aと先端に直線状に起立した先端直状部11bを備えており,先端直状部11bが,ボールホルダー6のインキ通路である貫通孔を通ってボール7の後端を直接押し,ボール7をボールホルダー6の先端開口部6aの内縁に周接させている。
【0025】
図6は,ボールペンチップのみのII部拡大図であり,説明の都合上,ボール7の外形を破線にて表示し,透過視した状態を示している。
ボールホルダー6は,円柱状金属部材に貫通したインキの通路として,先端側よりボール抱持室12,中心孔2,後孔13を有している。ボール抱持室12と後孔13との間には,内方突出部14が形成されている。
ボール抱持室12の先端開口部6aは,カシメ加工にて縮径化されており,この縮径化された先端開口部6aと,内方突出部14にて前記ボール7の前後方向への移動し得る範囲を規定していると共に,放射状溝の形成時,加工抵抗を受ける部分となる。
また,内方突出部14に,環状に等間隔で放射状溝1が形成されている。この放射状溝1は,中心孔2に連通し,後孔13に貫通している貫通放射状溝を図示しているが,中心孔2に連通し,後孔13に非貫通状態とした非貫通放射状溝でもよい。
【0026】
内方突出部14には,ボール7を押し付けることによって凹状のボール転写部15が形成されており,凹状のボール転写部15は,筆記時に紙面などに当接してボール7が後退した状態の時にボールの位置を安定させ,不要な振動等の少ない円滑な回転を保障せんとするものであり,ボール7と凹状のボール転写部15とが略面状に接触するような形状となし,膜状に介在するインキ9をボール7の回転に対する潤滑剤として生かすこともできるものである。
また,前述の放射状溝1は,内方突出部14の凹状のボール転写部15の外側に開口部1aを有しており,ボール抱持室12へのインキ供給を確保している。」
(オ)「【0030】
試験に使用したインキの配合は次の通り。尚,組成の単に「部」とあるのは「重量部」を表す。
ウォーターブラック#108-L(C.I.DIRECT BLACK19の14%水溶液,オリエント化学工業(株)製) 40.0部
ケルザンAR(キサンタンガム,剪断減粘樹脂,三晶(株)製)0.2部
エチレングリコール 10.0部
グリセリン 10.0部
ベンゾトリアゾール 0.5部
ハイドロキノンスルホン酸カリウム 0.5部
プロクセルGXL(1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン,防腐剤,ICI(株)製 ) 0.3部
イオン交換水 38.5部
上記成分中,ケルザンARの全量と水5.0部とをラボミキサーにて30分間攪拌して均一に溶解しケルザン水溶液を調整した。残りの各成分を混合し1時間混合攪拌した後ケルザンAR水溶液を加え更に2時間攪拌して剪断速度10sec^(-1)の時の粘度70mPa・sの黒色インキを得た。」
(カ)【図4】

(キ)図5


(ク)図6

(ケ)上記(キ)及び(ク)によれば,ボールホルダーの後端側が円筒形状を呈する筒状部であり,ボールホルダーの先端側の部分は円錐台形状を呈するテーパー部であること,また,カシメ部においては,筆記ボール及び該カシメ部に接する接線と筆記具の軸心とがなす角度である接触角度が前記テーパー部の傾斜面と筆記具の軸心とがなす角度であるテーパー角度以上であることが看て取れる。
(コ)上記摘記事項(ア)ないし(ク)及び認定事項(ケ)から,引用文献1には以下の事項(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「筆記部材としてのボール7を,ボールホルダー6先端開口部6aより一部突出した状態で回転自在に抱持してなるボールホルダー6とインキ収容部8が接合されたボールペン本体であって,
ボールホルダー6の内部には,ボール7を背面より押して前方付勢するコイルスプリング11が配設され,
ボールホルダー6の後端側は,円筒形状を呈する筒状部であり,先端側の部分は円錐台形状を呈するテーパー部であり,
ボールホルダー6は,円柱状金属部材に貫通したインキの通路として,先端側よりボール抱持室12,中心孔2,後孔13を有し,ボール抱持室12と後孔13との間には,内方突出部14が形成されており,
ボール抱持室12の先端開口部6aは,カシメ加工にて縮径化されており,この縮径化された先端開口部6aと,内方突出部14にて前記ボール7の前後方向への移動し得る範囲を規定し
内方突出部14に,環状に等間隔で放射状溝1が形成され,ボール7を押し付けることによって凹状のボール転写部15が形成されており,
水を主媒体とした水性インキ,アルコールなどの有機溶剤を主媒体とした油性インキのいずれも使用可能であり,これに着色成分である顔料及びまたは染料,凍結防止などのための高沸点有機溶剤,被筆記面への定着性を付与する樹脂成分,表面張力や粘弾性,潤滑性などを調整する界面活性剤や多糖類,防錆・防黴剤などが配合され,防錆剤としてのベンゾトリアゾールを含むインキが用いられるボールペン本体において,
ボールは,タングステンカーバイドやシリコンカーバイドなどを主成分とした焼結体のボールを使用するものであり,
ボールホルダーとなる金属製の柱状部材は,切削性に影響する成分である鉛をビスマスに置き換え切削性を保ちつつ,環境に考慮した快削ステンレス材であり,外周付近の硬度がHv240?270程度で中心付近の硬度をHv220?250程度であり,
カシメ部においては,筆記ボール及び該カシメ部に接する接線と筆記具の軸心とがなす角度である接触角度が前記テーパー部の傾斜面と筆記具の軸心とがなす角度であるテーパー角度以上であるボールペン本体」の発明が記載されているものと認められる。

イ 原査定の拒絶の理由の引用文献2として引用され,本願の出願前に出願公開された特開2003-276383号公報(以下,「引用文献2」という。)にはつぎの事項が記載されている。
(ア)「【0014】ところで,前記した様にボールペンを最小筆記可能角度αに近い角度に傾斜しても筆記は可能であり,さらに最小筆記可能角度αに傾斜しても筆記することはできる。しかしながら従来技術のボールペンは,最小筆記可能角度αに近い角度に傾斜した時の筆記感がすこぶる悪い。すなわちボールペン50を最小筆記可能角度αに近い角度に傾斜して使用すると,紙などの被筆記材とボールペンチップ100のハウジング105が接触し,引っかかり感が発生する。従来技術のおける筆記具の引っかかり感は,ガリガリと紙面を削る様な感触である。すなわち従来技術のボールペン50を最小筆記可能角度αに近い角度に傾斜して使用すると,筆記の方向と反対方向に不連続な抵抗を感じる。
【0015】さらに従来の方法により製造されたボールペンチップは,図13(a)や図14(a)に示されるようなものであるが,これを拡大して,微視的に見た場合,図13(b)や図14(b)に示されるように,かしめ部102には,加工前の形状と比較して局所的に変形が大きい部分(いわゆるバリ)が発生する場合がある。すなわち,前記かしめ加工は,ボールペンチップ100の先端部を外側から内側に向かって応力を加えて塑性変形させて加工をするため,バリは図13(b)や図14(b)のような,鋭角状となる。そして,このバリの先端部が接触点22となる。したがって,傾斜して筆記した場合には,被筆記材とバリが接触するため,引っかかり感を強く感じる。
【0016】また上記した引っかかり感は,長期の使用によって軽減する場合もあるが,ボールペンチップの材質がステンレス材の場合には,引っかかり感が残る。そこで,本発明は,ボールペンの筆記の際に発生する引っかかり感を抑制することを課題とする。」
(イ)「【0043】ボールペンチップ1の製造工程は,かしめ加工以外については,従来技術のボールペンチップと同じである。ボールペンチップ1のかしめ加工は,図2及び図3に示される。かしめ加工具40に有する当接面41をボールペンチップのハウジング5の先端に押し当てて行う。かしめ加工具40の当接面41には,図3のように,ボールペンチップ5の軸心に向かって凸状の突起42を有しており,突起42の後端側付け根43はR状である。このかしめ加工具40によってかしめ加工を行えば,ボールペンチップの先端部が内側に曲げられると同時に,後端側付け根43のR状の形状が転写されて,ボールペンチップの先端部の外側は曲面状となる。すなわち,かしめの際には,ボールペンチップの先端部の外側は,後端側付け根43に押さえられ,角にはならず曲面状となる。かしめ加工具40により,かしめ加工を行うと,従来のかしめ加工と同様に,かしめ加工を行うだけで,ボールペンチップの先端部の外側が曲面状となり,特に加工工程を増やすことなくボールペンチップの加工ができる。」
(ウ)「【0045】次に,ボールペンチップ1が傾いてハウジング5と接する際の状況について説明する。ボールペンを用いて筆記する際には,ボール12が後方に押圧されながらボールペンチップ1が傾く。図1における仮想平面Aは,ボール12とハウジング5の双方に接触する面である。上述したように,ボール12は軸方向にはほとんど移動しない。したがって,図1におけるボールの位置が,押圧された状態でのボールの位置であり,非筆記状態と筆記されて押圧した状態のボール12の位置は略同じである。
【0046】そして,紙の面などの平面上で,ボール12を接触させながらボールペンチップ1を傾けて,ハウジング5の外側が平面に接触したときには,平面はハウジング5とボール12とが同時に接触することとなる。このときの状態が,筆記状態で,最もボールペンチップが傾いた状態であり,仮想平面Aとボールペンチップ1の軸線Bとの角度が,最小筆記可能角度αとなる。本実施例では,最小筆記可能角度αは約49°である。
【0047】第1の実施形態におけるハウジング5は,仮想平面Aとハウジング5は,接触点22で接しており,接触点22は曲面状である。また,最小筆記可能角度αは50°以下である。すなわちハウジング5の縦断面における前記接触点22の部位の輪郭線が曲線である。したがって,筆記の際にボールペンチップ1が傾斜しても,最小筆記可能角度αは50°以下と小さいため,被筆記材である紙の面と接触しにくい。またハウジング5が紙に接触しても,ハウジング5の縦断面における接触点22の部位の輪郭線が曲線であり,接触点22が曲面状であるから,引っかかり感はない。そして,接触点22は,ハウジング5の先端であり,ハウジング5の先端から接触点22までの輪郭線は,曲線又は直線であるので,被筆記材が変形して仮想平面Aよりも内側に入っても引っかかり感はなく,良好な筆記感が得られる。」
(エ)図1




(オ)上記(ア)ないし(エ)によれば,引用文献2には,つぎの技術事項が記載されているものと認められる。
「ハウジングの先端に内部にボールを回転自在に抱持したボールペンチップを,紙の面などの平面上でボールを接触させながら傾けて,ハウジングの外側が平面に接触した最小筆記可能角度αを50度以下と小さくし,その時のハウジングの平面との接触点を曲面状とすることにより引っかかり感のない書き味を実現することができること。」(以下,「技術事項2」という。)

ウ 原査定の拒絶の理由の引用文献3として引用され,本願の出願前に出願公開された特開2003-231386号公報(以下,「引用文献3」という。)にはつぎの事項が記載されている。
(ア)「【0009】本発明の好ましい態様としては,前記ボール表面における平坦部の平滑性を示すRaが0.01μm以下,Ryが0.08μm以下若しくはRzが0.06μm以下であるボールペン用ボールである。
【0010】なお,前記穴と前記平坦部との境界が略曲面状となっていることが好ましい。特に,前記ボールをセラミック焼結体で構成することが好ましく,さらに好ましくは,いわゆる半焼結体ではなく,内部欠陥のないセラミック焼結体,いわゆる完全セラミック焼結体を素材として用いるのが好ましく,中でも表面が無穴のセラミック焼結体,表面が無穴で内部空隙のない略球状体を用いて,それを粗研磨して得られたポーラスな表面のセラミック焼結体の略球状体を用いてボールペン用ボールとすることが好ましい。」
(イ)「【0017】本発明は前記平坦部を鏡面にすることが重要であり,その鏡面の程度を示す平滑性は,Raが0.01μm以下,Ryが0.8μm以下若しくはRzが0.06μm以下とすることが好ましい。ボール表面の平坦部がこのような平滑性を持つことにより,ボールペンのペン先チップにおける座とボールとの摩擦を抑えることができ,また手油面での手油面の筆記も良好である。なお,前記実施形態も含め本発明のRa,Ry及びRzについては,JISB0601-1994,JISB0610-1987及びJISB0651-1996の規定に従うものであり,Raは算術平均粗さ,Ryは最大高さ,Rzは十点平均粗さを言うものである。」
(ウ)上記(ア)及び(イ)によれば,引用文献3には,つぎの技術事項が記載されている。
「ボールペン用ボールの表面における平坦部の平滑性を示すRaが0.01μm以下,Ryが0.08μm以下若しくはRzが0.06μm以下とすることにより,ボールペンのペン先チップにおける座とボールとの摩擦を抑えることができること。」(以下,「技術事項3」という。)

エ 原査定の拒絶の理由の引用文献4として引用され,本願の出願前に出願公開された特開2006-35692号公報(以下,「引用文献4」という。)にはつぎの事項が記載されている。
(ア)「【0005】
小径のボールを使用したことにより,筆記時ボールホルダーの先端部分は紙面に接触したり埋没したりして,紙の繊維を擦って繊維を分断することがある。特に,ボールホルダーが金属材料を切削加工や塑性変形などでその形状を形成されている場合,表面上の切削ひき目や圧延加工の境界部分の角等の凸部が紙面繊維の表面にひっかかり,紙繊維や光沢紙上に塗られているコーティング剤などを切り取ってしまい,紙繊維や紙表面物質は,ボールの回転とともにボールハウス内に侵入し,微細なインキ通路を塞ぐことがあり,結果 ,後方からインキが供給できなくなり,筆跡カスレや筆記不能が発生していた。」
(イ)「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は,ボールと,このボールを一部突出して回転自在に抱持するボールホルダーとから少なくともなるボールペンチップにおいて,前記ボールが直径0.3mm以下であり ,前記ボールホルダーの外表面の角度変化部のうち最先端部を曲面状とすると共に,ボール突出口先端から0.02mm以上の範囲の表面粗さ(Ra)を10nm以下としたボールペンチップを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば,紙面と埋没する部分に,紙の繊維や紙の表面物質を削ることが極力抑制され,もってこれらがボールハウス内部に侵入してインキ通路を塞ごうとすることも防止され,筆記カスレや筆記不能状態が抑制されるものである。」
(ウ)上記(ア)及び(イ)によれば,引用文献4には,つぎの技術事項が記載されているものと認められる。
「ボールホルダーの外表面の角度変化部のうち最先端部を曲面状とすると共に,ボール突出口先端から0.02mm以上の範囲の表面粗さ(Ra)を10nm以下とすることにより,紙面と埋没する部分に,紙の繊維や紙の表面物質を削ることが極力抑制され,もってこれらがボールハウス内部に侵入してインキ通路を塞ごうとすることも防止され,筆記カスレや筆記不能状態が抑制されるボールペンチップが実現できること。」(以下,「技術事項4」という。)

(3)対比
ア 本願補正発明と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「筆記部材としてのボール」,「ボールを先端開口部より一部突出した状態で回転自在に抱持してなるボールホルダー」は,それぞれ,本願補正発明の「筆記ボール」,「筆記ボールを先端に抱持するホルダー」に相当し,引用発明1の「ボールホルダー」は,「内部に」「ボール」を「背面より押して前方付勢するコイルスプリング」が「配設」されていることから,本願補正発明の「筆記ボール」と「該筆記ボールを先端に抱持するホルダー」と「該ホルダーの内部に装着され該筆記ボールを前方に付勢する弾発部材」を備える「ボールペンチップ」に相当するものといえる。
(イ)引用発明1の「ボールホルダーとインキ収容部が接合されたボールペン本体」は,上記(2)ア(ウ)において「ボールペン本体」につき「外装体に収容されて使用される所謂リフィルと称されるものとして示してあるが,外装についての図示及び説明は省略する。」旨記載されていることに照らせば,本願補正発明の「内部にインクを収容し先端にボールペンチップが装着された筆記具」に相当するものといえる。
(ウ)引用発明1の「ボールホルダーとなる金属製の柱状部材は,切削性に影響する成分である鉛をビスマスに置き換え切削性を保ちつつ,環境に考慮した快削ステンレス材であり,外周付近の硬度がHv240?270程度で中心付近の硬度をHv220?250程度である」ことは,本願補正発明の「ホルダーは,ビッカース硬度が200以上450以下のビスマス含有のフェライト系ステンレス製」であることに相当する。
(エ)引用発明1の「ボールホルダー」の「後端側は,円筒形状を呈する筒状部であり,先端側の部分は円錐台形状を呈するテーパー部であ」ることは,本願補正発明の「該ホルダーの後端側の部分は円筒形状を呈する筒状部であるとともに,該ホルダーの先端側の部分は円錐台形状を呈するテーパー部であ」ることに相当する。
(オ)引用発明1の「ボールホルダー」は,内部に「ボール」を「背面より押して前方付勢するコイルスプリング」が「配設」されており,「円柱状金属部材に貫通したインキ通路として,先端側よりボール抱持室」,「中心孔」,「後孔」を有し,「ボール抱持室」と「後孔」との間に「内方突出部」が「形成され」ており,「ボール抱持室」の「先端開口部」は,「カシメ加工にて縮径化されており,この縮径化された先端開口部」と,「内方突出部」にて「前記ボール」の前後方向への移動し得る範囲を規定し」,「内方突出部」に,「環状に等間隔で放射状溝」が「形成され」,「ボール」を「押し付けることによって凹状のボール転写部」が形成されていることから,本願補正発明の「内周に」「ボールハウスと,該ホルダーの後端から該ボールハウスの近傍まで達する孔であるバック孔と,該ボールハウスと該バック孔との間を貫通する断面円形の孔であるインク孔と,が備えられ」,「テーパー部の先端部分には,先端部分が内側に縮径されたカシメ部が備えられ」,「ボールハウス」の「底面に」,「筆記ボールを後方へ押圧した際に該筆記ボールの曲面が転写されたボール受座」が形成され,「インク孔の周囲」には,「ボールハウスから後方に向かって穿設された放射状の溝であるチャンネル溝が複数等配されている「ホルダー」に相当する。
(カ)引用発明1のボールペン本体において用いられる「水を主媒体とした水性インキ,アルコールなどの有機溶剤を主媒体とした油性インキのいずれも使用可能であり,これに着色成分である顔料及びまたは染料,凍結防止などのための高沸点有機溶剤,被筆記面への定着性を付与する樹脂成分,表面張力や粘弾性,潤滑性などを調整する界面活性剤や多糖類,防錆・防黴剤などが配合され,防錆剤としてのベンゾトリアゾールを含むインキ」は,本願補正発明の「顔料と,防錆材としてサポニン,トリルトリアゾール,ベンゾトリアゾール,テトラゾール,リン酸オクチル,チオリン酸ジオクチル,イミダゾール,ベンゾイミダゾール,2-メルカプトベンゾチアゾール,オクチルオキシメタンホスホン酸,ジシクロヘキシルアンモニウム・ナイトライト,ジイソプロピルアンモニウム・ナイトライト,プロパルギルアルコール及びジアルキルチオ尿素からなる群から選ばれた1種又は2種以上と,が含まれ」る「インク」に相当する。
(キ)引用発明1の「ボール」が「タングステンカーバイドやシリコンカーバイドなどを主成分とした焼結体のボールを使用する」ものであることは,本願補正発明の「筆記ボールは超硬合金製」であることに相当する。

イ 一致点及び相違点
上記アの対比を踏まえると,本願補正発明と引用発明1とは,つぎの一致点において一致し,つぎの各相違点で相違する。
<一致点>
「内部にインクを収容し先端にボールペンチップが装着された筆記具であって,
前記ボールペンチップは,筆記ボールと,該筆記ボールを先端に抱持するホルダーと,該ホルダーの内部に装着され該筆記ボールを前方に付勢する弾発部材と,を備え,
前記ホルダーは,ビッカース硬度が200以上450以下のビスマス含有のフェライト系ステンレス製であって,該ホルダーの後端側の部分は円筒形状を呈する筒状部であるとともに,該ホルダーの先端側の部分は円錐台形状を呈するテーパー部であり,
前記ホルダーの内周には,前記テーパー部の内部空間であるボールハウスと,該ホルダーの後端から該ボールハウスの近傍まで達する孔であるバック孔と,該ボールハウスと該バック孔との間を貫通する断面円形の孔であるインク孔と,が備えられ,
前記テーパー部の先端部分には,先端部分が内側に縮径されたカシメ部が備えられ,
前記ボールハウスの底面には,前記筆記ボールを後方へ押圧した際に該筆記ボールの曲面が転写されたボール受座が形成され,
前記インク孔の周囲には,前記ボールハウスから後方に向かって穿設された放射状の溝であるチャンネル溝が複数等配されており,
前記インクには,顔料と,防錆材としてサポニン,トリルトリアゾール,ベンゾトリアゾール,テトラゾール,リン酸オクチル,チオリン酸ジオクチル,イミダゾール,ベンゾイミダゾール,2-メルカプトベンゾチアゾール,オクチルオキシメタンホスホン酸,ジシクロヘキシルアンモニウム・ナイトライト,ジイソプロピルアンモニウム・ナイトライト,プロパルギルアルコール及びジアルキルチオ尿素からなる群から選ばれた1種又は2種以上と,が含まれ,
前記筆記ボールは超硬合金製である筆記具」

<相違点1>
本願補正発明の「弾発部材」が,「表面処理の施されていない裸線」のものであるのに対して,引用発明1の「コイルスプリング」がそのようなものであるかが不明である点

<相違点2>
本願補正発明の「ボール」の表面の算術平均高さSaが0.06μm以下であるのに対して,引用発明1の「ボール」の表面の算術平均高さは不明である点

<相違点3>
本願補正発明の「カシメ部の外周面」は,「表面の算術平均高さSaが10nm以下であって,曲率Rが0,20mm以下の曲面形状である」のに対して,引用発明1の「カシメ部の外周面」がそのようなものであるか否かが不明である点

<相違点4>
本願補正発明の「カシメ部においては,筆記ボール及び該カシメ部に接する接線と筆記具の軸心とがなす角度である接触角度が50°未満である」のに対して,引用発明1における当該角度が不明である点

(4)相違点についての検討
ア 相違点1について
例えば,特開2011-136511号公報(以下,「周知例1」という。)には「【0014】これは,摩耗の抑制を考慮すると,コイルスプリングとして,表面処理を施した線材を用いることが好ましいが,表面処理した材料の耐食性等,ボールペン用インキとの関係等,新たな課題が発生する。そのため,コイルスプリングとしては,ステンレス鋼線の裸線を用いることが最も好ましいためである。」と記載され,また,特開2002-127664号公報(以下,「周知例2」という。)には「【0004】【発明が解決しようとする課題】しかるに,従来のボールペンは,上記コイルスプリングのニッケルメッキ層が原因と推測されるが,インクが経時的に変質して筆記掠れや不書き等の不具合を生じることがあった。すなわち,上記コイルスプリングとインクとの長期にわたる接触により,コイルスプリング表面のニッケルメッキが腐食し硫化ニッケルがインク内に溶け出してインクと反応し,インクの粘度が上昇することが原因と推測される。特に,インクが所謂剪断減粘性を有する水性インクの場合に筆記掠れや不書きの現象がみられた。【0005】本発明は,上記従来事情に鑑みその不具合を解消して,インクの経時的な変質を防止して筆記掠れや不書き等のない筆記性能に優れたボールペンを提供することを目的とする。【0006】【課題を解決するための手段】斯る本発明は,チップの先端内部に抱持した回転自在な転写ボールの背面をコイルスプリングにより付勢するようにしたボールペンにおいて,前記コイルスプリングの表面がメッキ層のない状態であることを特徴とする。」と記載されているように,ボールペンのボールを付勢するコイルスプリングをステンレス鋼線の裸線により構成することで,コイルスプリングのメッキ層による影響が生じないようにすることは,周知技術(以下,「周知技術1」という。)である。
してみると,引用発明1の「コイルスプリング」をメッキ層の影響が生じないようにするために当該周知技術1であるステンレス鋼線の裸線により構成するようにすることで,上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が容易になし得ることであるというべきである。

イ 相違点2について
上記(2)ウ(イ)のとおり,引用文献3には,「ボールペン用ボールの表面における平坦部の平滑性を示すRaが0.01μm以下」とすることで,ボールペンのペン先チップにおける座とボールとの摩擦を抑えることができる」という技術事項3が記載されている。
また,それ以外にも,例えば,特開2006-181881号公報(以下「周知例3」という。)に「【0014】・・・ボール1はタングステンカーバイド(WC)系の超硬ボールで,表面性状(JIS B 0601:2001参照)を表す輪郭曲線の算術平均高さ(Ra)は,0.001μm以上0.05μm以下が望ましい。・・・」と記載され,特開平10-250280号公報(以下「周知例4」という。)に「【0007】一般的に,比較的にインキの粘度が高い油性ボールペンは,チップ内でボールに供給されたインキがボールを介して紙に転写され筆跡が得られるという機構を利用している。そのためボールにインキがぬれやすくするように(乗り移りやすくするように)ボールの表面を粗面にしているが,前記大玉の場合,ボールの表面粗さを0.015μmより大きくすると,ボールへのインキのぬれ性が大き過ぎ,インキの付着量が多くなり,乾燥時のボールの回転抵抗が大となり,線かすれが発生してしまう。また,0.005μm以下では,ボールに対するインキのぬれ性が不充分となり,筆記時に筆跡の中抜け現象を引き起こしてしまう。そのために,算術平均粗さ(Ra)は0.005?0.015μmが好適である。【0008】算術平均粗さ(Ra)とは,触針式表面粗さ測定器(Rank TaylorHobson社製の機種名:Form-Talysurf-S1F-50)により測定された粗さ曲線から,その平均線の方向に基準長さLだけ抜き取り,この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し,平均した値である。」と記載されているように,ボールペンのボールの表面を算術平均粗さ0.01μm程度とすることが好適な範囲として周知のものといえる。(以下「周知技術2」という。)
してみると,引用発明1に周知技術2を適用して,ボールの表面の粗さを好適な数値範囲である算術平均高さSaが0,01μm程度とすることにより,上記相違点2に係る本願補正発明の構成のようにすることは,当業者が適宜なし得る程度のことというべきである。

ウ 相違点3について
上記(2)エ(ウ)のとおり,引用文献4には,「ボールホルダーの外表面の角度変化部のうち最先端部を曲面状とすると共に,ボール突出口先端から0.02mm以上の範囲の表面粗さ(Ra)を10nm以下とすることにより,紙面と埋没する部分に,紙の繊維や紙の表面物質を削ることが極力抑制され,もってこれらがボールハウス内部に侵入してインキ通路を塞ごうとすることも防止され,筆記カスレや筆記不能状態が抑制されるボールペンチップが実現できる」という技術事項4が記載されている。
また,例えば,特開2013-49232号公報(以下,「周知例5」という。)に「【0013】 続いて,ボールホルダーの先端開口部の縁部分は,圧接工具によるカシメと呼ばれる塑性変形加工によってボールの直径よりも小径に縮径され,ボールの抜け止めがなされる。カシメられた先端部分は,筆記時に紙面と接触することがあるため,該部にエッジやバリが発生していると,書き味を損なったり,紙繊維を削ってしまい,その紙繊維がボールの回転と共にボール抱持室の内部に侵入して放射状溝の一部を塞いでしまうこともあるため,曲面状に形成してR面取り形状にしたり,カシメ部の表面粗さを5?50nmと凹凸の極めて少ない鏡面状態に加工することが好ましい。 また,このカシメ加工にて,ボールホルダーの先端内縁部分を帯状にボールに押し付けることができ,その場合,ボールホルダーのボールに当接する部分にボールと同曲率である幅を持った帯状のボール転写部を形成することができる。この帯状のボール転写部の表面粗さが,5?30nmと凹凸の極めて少ない鏡面であれば,ボールの回転が円滑となるし,また,ボールホルダーの内部にボールを前方付勢するコイルスプリングを挿入して,そのコイルスプリングの一部でボールを押圧して,未筆記時におけるインキの乾燥性を防止する場合に,この帯状のボール転写部にてボールと密接することになるので密閉性が保たれ,経時的に安定したボールペンを得ることができる。尚,この工程は,後述する内方突出部にボールを押し付けることによって凹状のボール転写部を形成する工程の後に施してもよい。」と記載され,特開2010-221408号公報(以下,「周知例6」という。)に「【0015】 ボールホルダーの先端開口部の縁部分は,圧接工具によるカシメと呼ばれる塑性変形加工によってボールの直径よりも小径に縮径され,ボールの抜け止めがなされる。カシメられた先端部分は,筆記時に紙面と接触することがあるため,該部にエッジやバリが発生していると,書き味を損なったり,紙繊維を削ってしまい,その紙繊維がボールの回転と共にボール抱持室の内部に侵入して放射状溝の一部を塞いでしまうこともあるため,R面取り形状にしたり,カシメ部の表面粗さを鏡面加工することが好ましい。」と記載されている。
以上のことからすれば,カシメ部の先端部分の形状をR面取り形状とすること,表面粗さを鏡面加工すること,そしてその表面粗さを10nm程度とすることは,周知の技術(以下,「周知技術3」という。)であるといえる。
してみると,引用発明1において,周知技術3を適用して,カシメ部の外周面を表面の算術平均高さSaが10nm以下であって曲面形状とすることは,当業者が容易に想到し得ることというべきである。
そして,その際に,曲面形状の曲率Rを0.20mm以下とすることは,最適範囲を選択したものにすぎず,当該数値範囲とすることにより臨界的意義は見出せないから,当業者が適宜なし得る程度のことにすぎない。
以上のことから,引用発明1に周知技術3を適用することにより,相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が適宜なし得る程度のことであるといえる。

エ 相違点4について
上記(1)イ(オ)のとおり,引用文献2には「ハウジングの先端に内部にボールを回転自在に抱持したボールペンチップを,紙の面などの平面上でボールを接触させながら傾けて,ハウジングの外側が平面に接触した最小筆記可能角度αを50度以下と小さくし,その時のハウジングの平面との接触点を曲面状とすることにより引っかかり感のない書き味を実現することができる」という技術事項2が記載されている。
なお,引用文献2の図1によれば,「カシメ部においては,筆記ボール及び該カシメ部に接する接線と筆記具の軸心とがなす角度である接触角度が前記テーパー部の傾斜面と筆記具の軸心とがなす角度であるテーパー角度以上である」ことは明らかである。
してみると,引用発明1において,引っかかり感のない書き味を実現するために,引用文献2に記載の技術事項2を適用して,最小筆記角度αが50度以下となるようにすることで,相違点4に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が容易になし得ることというべきである。

そして,本願補正発明の発明特定事項全体によって奏される作用効果も,引用発明1及び周知技術1ないし3並びに技術事項2から,当業者が予測しうる程度のものである。
したがって,本願補正発明は,引用発明1並びに周知技術1ないし3及び技術事項2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)請求人の主張について
ア 請求人は,表面粗さに関して,算術平均高さSaと算術平均粗さRaとは異なるものであるから,引用文献3や引用文献4から,本願補正発明の算術平均高さSaに到達することはできない旨主張する。
しかしながら,上記(4)イにおいて検討したとおり,本願出願時において,ボールペンのボールの表面を算術平均粗さ0.01μm程度とすることが好適な範囲として知られている数値範囲であること,算術平均高さとしても0,01μmが望ましい範囲として知られていることであるし,同ウにおいて検討したとおり,カシメ部の先端部分の形状をR面取り形状とすること,表面粗さを鏡面加工すること,そしてその表面粗さを10nm程度とすることは,周知の技術であることからすれば,当該周知技術に基づいて,本願補正発明のボール表面やカシメ部表面の粗さ程度とすることは当業者であれば容易に想到し得るものというべきであるから,請求人の主張は採用することができない。
なお,算術平均高さSaが面を基準とするものであるのに対して,算術平均粗さRaが線を基準とするものではあるが,上記の検討において問題とされているのは,ボール表面,カシメ部の先端部分の表面,すなわち面の粗さについてであるから,算術平均粗さRaと算術平均高さSaでの評価が大きく異なるものではないし,算術平均粗さRaでの数値範囲に基づいて,算術平均高さSaの数値範囲とすることに格別の困難性はないものというべきである。
したがって,請求人の主張は採用することができない。
イ 請求人は,本件発明では,ビッカース硬度,筆記ボールの表面の算術平均高さSaカシメ部の表面の算術平均高さSaおよび曲率Rがそれぞれ請求項に規定する数値を有することによって,「ホルダーの内部や筆記ボールに対する表面処理を施さずとも,カスレの生じにくい筆記具を提供することができる」との本件発明作用効果が奏されることから,これらの構成は一体不可分の構成である旨主張する。
しかしながら,ビッカース硬度,筆記ボールの表面の算術平均高さ,カシメ部の表面の算術平均高さ及び曲率Rが,それぞれ協働することで当該作用効果が奏されるものではなく,これらの各構成の作用を寄せ集めた結果として当該作用効果が奏されるものであるから,これらの構成を一体不可分の構成と解することは相当ではない。
なお,ビッカース硬度については上記のとおり相違点とはされていない。
そして,上記で検討したように,筆記ボールの表面の算術平均高さ,カシメ部の表面の算術平均高さ及び曲率Rについては,先行技術においては,それぞれ独立した観点から検討されているものであることからしても,一体不可分の構成として検討することは相当でないことが裏付けられる。
以上のとおりであるから,請求人の主張は採用することができない。

(6)独立特許要件の検討に関する小括
以上検討したように,本願補正発明は,引用発明1並びに周知技術1ないし3及び技術事項2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,本願補正発明は,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は,特許法第17条の2第6項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に違反する。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり,本件補正は,上記「1(2)」において検討したように,補正の目的が特許法第17条の2第5項第2号に該当する補正事項を含むものであるところ,本件補正後の本願補正発明が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから,本件補正は,同法第159条第1項で読み替えて準用する第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は,上記第2のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,令和1年7月23日にされた手続補正による補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される上記第2の1(1)アにおいて説示したとおりのものである。(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

2 原査定の拒絶の理由の概要
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は,概略次の理由を含んでいる。
本願発明は,その出願前日本国内において,頒布された刊行物に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をしたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
前記査定理由で引用された引用例は,上記補正却下の決定における引用文献1ないし4である。

3 引用例及びその記載事項
原査定で引用された引用文献1ないし4に記載の事項及び引用発明1及び技術事項2ないし4は,それぞれ,上記「第2 2(2)」において説示し,認定したとおりである。

4 本願発明と引用発明との対比・判断
(1)一致点及び相違点
上記「第2 2(3)ア」の対比を踏まえると,本願発明と引用発明1とは,上記「第2の2(3)イ」の<一致点>において一致し,<相違点2>ないし<相違点4>で相違する。

(2)相違点についての検討
上記相違点2ないし相違点4は,上記「第2の2(4)イないしエ」ですでに検討したとおりである。
以上のことからすれば,本願発明は,引用発明1並びに周知技術2及び3,及び技術事項2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
上記で検討したとおり,本願発明は,引用発明1並びに周知技術2及び3,及び技術事項2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は拒絶すべきものである。
よって,上記結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-11-09 
結審通知日 2020-11-10 
審決日 2020-11-24 
出願番号 特願2015-200235(P2015-200235)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B43K)
P 1 8・ 121- Z (B43K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中澤 俊彦  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 藤田 年彦
尾崎 淳史
発明の名称 筆記具  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
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