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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1370476
審判番号 不服2020-5935  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-05-01 
確定日 2021-02-09 
事件の表示 特願2018-536105「基板を保持するための保持構成,基板を支持するためのキャリア,真空処理システム,基板を保持するための方法,及び基板を解放するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 7月20日国際公開,WO2017/121467,平成31年 2月14日国内公表,特表2019-504497,請求項の数(15)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2016年(平成28年) 1月13日を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年 9月 3日 :翻訳文の提出
平成30年 9月 5日 :手続補正書の提出
令和 1年 8月 6日付け:拒絶理由通知書
令和 1年11月11日 :意見書,手続補正書の提出
令和 2年 2月20日付け:拒絶査定
令和 2年 5月 1日 :審判請求書,手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和 2年 2月20日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

理由2 本願請求項1-2,6-7,9-10に係る発明は,以下の引用文献1-2に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1 特開2007- 73892号公報
引用文献2 米国特許出願公開第2008/0025822号明細書

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正は,補正前の請求項1,8の保持構成について,発明特定事項である「シール(130)」を,補正後に「弾性のシール(130)」と限定を加えるものである。
また,審判請求時の補正は,補正前の請求項11の,保持構成を用いて基板を保持するための方法,補正前の請求項15の,保持構成から基板を解放するための方法について,保持構成を,「前記乾燥接着剤(120)を取り囲み,真空領域を設けるように構成された弾性のシール(130)とを備え」ると限定を加えるものであるから,特許請求の範囲の限縮を目的とするものである。
ここで,審判請求時の補正は,本願の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲及び図面に記載された事項であり,新規事項を追加するものではないといえ,当該補正によっても,補正前の請求項に記載された発明とその補正後の請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であることは明らかである。
そして,「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように,補正後の請求項1-15に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1-15に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明15」という。)は,令和 2年 5月 1日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-15に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1-15は,以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
基板を保持するための保持構成であって,
第1のサイド(112)を有する本体部分(110),
前記本体部分(110)の前記第1のサイド(112)に設けられた乾燥接着剤(120),
前記乾燥接着剤(120)を取り囲み且つ前記第1のサイド(112)に真空領域を設けるように構成された弾性のシール(130)であって,前記乾燥接着剤(120)が前記真空領域内に設けられている,シール(130),及び
前記真空領域を排気する導管(140)を備え,
基板を前記本体部分(110)に向かって移動させることにより基板(10)を解放するように構成されている,保持構成。
【請求項2】
第1の負圧(p1)を前記真空領域に加えた条件下で,前記乾燥接着剤(120)が,基板(10)を前記本体部分(110)に取り付けるように構成されている,請求項1に記載の保持構成。
【請求項3】
前記基板(10)を前記乾燥接着剤(120)に押し付ける力を増加させるために,第2の負圧(p2)を前記真空領域に加えた条件下で,前記乾燥接着剤(120)が,前記基板(10)を前記本体部分(110)から解放するように構成されている,請求項2に記載の保持構成。
【請求項4】
前記第1の負圧(p1)が,約1バールより小さく,且つ/又は,前記第2の負圧(p2)が,前記第1の負圧(p1)より小さく,且つ/又は,前記第2の負圧(p2)が,0バールより大きい,請求項3に記載の保持構成。
【請求項5】
保持した基板(10)を前記本体部分(110)に向けて移動させることによって,前記乾燥接着剤(120)が,前記基板(10)を前記本体部分(110)から解放するように構成されている,請求項1から4のいずれか一項に記載の保持構成。
【請求項6】
前記乾燥接着剤(120)が,合成剛毛材料及び/又はヤモリ接着剤である,請求項1から5のいずれか一項に記載の保持構成。
【請求項7】
前記導管(140)が,前記真空領域に負圧を加えるための吸引ポートと連結されるように構成されている,請求項1から4のいずれか一項に記載の保持構成。
【請求項8】
真空処理チャンバ内で基板処理中に基板を保持するための保持構成であって,
第1のサイド(112)を有する本体部分(110),
前記本体部分(110)の前記第1のサイド(112)に設けられ且つ複数のフィラメント(122)を備えた乾燥接着剤(120),
前記乾燥接着剤(120)を取り囲み且つ前記第1のサイド(112)に真空領域を設けるように構成された弾性のシール(130)であって,前記乾燥接着剤(120)が前記真空領域内に設けられている,シール(130),及び
前記真空領域を排気する導管(140)を備え,
前記導管(140)が,前記真空領域に第1の負圧(p1)を加えて前記基板(10)を取り付けるように構成され,前記導管(140)が,前記真空領域に第2の負圧(p2)を加えて前記基板(10)を前記本体部分(110)のより近くに移動させ,前記複数のフィラメント(122)を曲げて,前記基板(10)を解放するように構成されている
,保持構成。
【請求項9】
基板を支持するためのキャリアであって,
キャリア本体(210),及び
請求項1から8のいずれか一項に記載の1以上の保持構成(100)を備え,前記1以上の保持構成(100)が,前記キャリア本体(210)に取り付けられている,キャリア。
【請求項10】
請求項9に記載のキャリア(200)を備えた,堆積システム。
【請求項11】
乾燥接着剤(120)と前記乾燥接着剤(120)を取り囲み,真空領域を設けるように構成された弾性のシール(130)とを備えた少なくとも1つの保持構成(100)を用いて基板を保持するための方法であって,
基板(10)を前記少なくとも1つの保持構成(100)に取り付けるために前記少なくとも1つの保持構成(100)の前記真空領域に第1の負圧(p1)を加えること,
処理チャンバ(312)を通して前記基板(10)を移動させること,及び
前記基板(10)を前記少なくとも1つの保持構成(100)から解放するために前記少なくとも1つの保持構成(100)の前記真空領域に第2の負圧(p2)を加えること
を含む,方法。
【請求項12】
前記第2の負圧(p2)を加えることによって,前記基板(10)が,前記少なくとも1つの保持構成(100)に向けて移動する,請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記基板(10)を取り付けること及び/又は解放することが,非真空条件下で実行される,請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記基板(10)を前記乾燥接着剤(120)に押し付ける力を増加させるために,前記第2の負圧(p2)が加えられる,請求項11から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
乾燥接着剤(120)と前記乾燥接着剤(120)を取り囲み,真空領域を設けるように構成された弾性のシール(130)とを備えた少なくとも1つの保持構成から基板を解放するための方法であって,前記基板(10)を解放するために,前記基板(10)を乾燥接着剤(120)に押し付ける力を増加させるように,前記少なくとも1つの保持構成(100)の前記真空領域内の真空レベルを高めることを含む,方法。」

第5 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
(1) 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。以下同様である。)

「【0010】
グラディエント力を発生させる場合,吸着対象のガラス基板と電極の間の距離は短い程有利であるが,吸着溝126のパターンと第一,第二の電極123a,123bのパターンとは,相互に独立に設計されていたため,吸着溝126と第一,第二の電極123a,123bとが交差していた。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は,上記従来技術の課題を解決するために創作されたものであり,絶縁性の基板に対するグラディエント力と真空吸着力の両方が大きく,基板貼り合わせに適した吸着装置を提供することにある。」

「【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図6の符号10は,本発明の貼り合わせ装置を示している。この貼り合わせ装置10は,真空槽41と,本発明の第一例の吸着装置1(又は後述する他の例の吸着装置2,3)を有している。
【0021】
吸着装置1の構造を図1に示す。同図符号1aは内部構造を説明するための平面図,符号1b,1cは,それぞれ,そのA-A線,B-B線切断断面図である。
この吸着装置1は,板状の基板20を有している。
【0022】
基板20は,金属製の板から成る基体(支持板)21と,該基体21の表面に形成された樹脂製の下地膜22とを有している。下地膜22は絶縁性であり,基板20の表面が絶縁性を有するようにされている。ここでは,下地膜22には,ポリイミド樹脂の膜が用いられているが,下地膜22には,シリコン樹脂や他の樹脂の膜や,アルミナ,二酸化ケイ素や窒化ケイ素等のセラミックスの板,又は膜を用いることができる。
【0023】
基板20の表面には,パターニングされた導電性材料膜から成る第一?第三の電極23a,23b,23cが配置されている。第一?第三の電極23a?23cの底面は,下地膜22の表面に密着されている。
【0024】
第一?第三の電極23a?23cは,電気導電性を有する導電性材料の膜を塗布して形成したり,銅やアルミニウム等の膜をスパッタリンや蒸着法で形成した後,エッチング等でパターニングして構成することができる。また,スクリーン印刷によって直接パターニングした導電性材料膜を形成し,第一?第三の電極23a?23cを構成させることもできる。
【0025】
第一?第三の電極23a?23cは互いに所定間隔を開けて配置されており,その間には基板20の表面(ここでは下地膜22)が位置している。
前記第一?第三の電極23a?23cの間隔は2mm以下であり,第一?第三の電極23a?23cの幅は4mm以下である。
【0026】
第一,第二の電極23a,23bは例えば櫛の歯状であり,互いにかみ合うように配置されている。第三の電極23cはリング状であり,第一,第二の電極23a,23bとは非接触の状態で,第一,第二の電極23a,23bを取り囲んでいる。
【0027】
第一?第三の電極23a?23cの表面には,絶縁性の保護膜24が形成されている。保護膜24は柔軟性を有し,圧縮されると変形する樹脂で構成されており,ポリイミド,シリコン樹脂,ポリエステル等の樹脂の他,各種天然ゴム又は合成ゴム等も用いることができる。ここではシリコン樹脂が用いられている。
第一?第三の電極23a?23cの間は,第一?第三の電極23a?23cが位置する部分よりも低く,吸着溝26が形成されている。
【0028】
排気孔27は,基体21と下地膜22を貫通しており,上端と下端は吸着溝26の底面と基体21の表面とに開口を形成している。基体21表面の開口は,配管によって上述の切替器44に接続されている。
上記例では基板20を,金属製の基体21と下地膜22の積層体で構成させたが,絶縁性の板によって基板を構成してもよい。」

「【0040】
吸着装置1は,真空槽41内に配置されている。吸着装置1は,第一?第三の電極23a?23c及び保護膜24が鉛直下方に向けて配置されており,第一のパネル11をハンドラ19上に乗せ,真空吸着した状態で真空槽41内に搬入し,吸着装置1の下方で静止させる。次いで,ハンドラ19を上昇させ,又は,吸着装置1を降下させ,図7に示すように,第一のパネル11を吸着装置1の保護膜24に当接させる。
【0041】
第一?第三の電極23a?23c上の保護膜24の高さは互いに等しくなっており,吸着装置1の第一?第三の電極23a?23c上の保護膜24は,第一のパネル11の表面に同時に接触する。
【0042】
吸着溝26の周囲は第三の電極膜23cで取り囲まれており,第一のパネル11が保護膜24に密着した状態では,吸着溝26は第一のパネル11によって蓋がされた状態になる。この状態では吸着溝26の内部は吸着装置1の周囲の雰囲気から遮断されている。
【0043】
高真空排気系42及び低真空排気系43は予め動作させておき,切替器44によって吸着装置1を低真空排気系43に接続し,吸着溝26の内部を低真空排気系43で真空排気する。吸着溝26の内部の気体は真空排気され,数分の一気圧に減圧される。
【0044】
第一のパネル11及び吸着装置1の周囲雰囲気は大気圧であり,吸着溝26の内部との差圧により,第一のパネル11は吸着装置1に真空吸着される。
そして,ハンドラ19の真空吸着を解除して降下させると,吸着装置1の真空吸着力によって,第一のパネル11は吸着装置1で懸吊される。
図8はその状態を示しており,ハンドラ19は真空槽41の外部に退避されている。
【0045】
基板20には裏面又は側面からは不図示の配線が挿通されており,第一?第三の電極23a?23cは,その配線によって電源装置48に接続されている。
電源装置48を動作させ,第一,第二の電極23a,23bに電圧を印加する。真空槽41と基体21は接地電位に接続されている。電極23a,23bと基体21の間には,電極23a,23b間の半分の電圧しか印加されない。また,電極23a,23bと基体21間は下地膜22によって絶縁されているので,放電が生じることはない。
【0046】
第一,第二の電極23a,23bには,互いに逆極性の電圧を印加する。即ち,第一の電極23aに正電圧を印加する場合には第二の電極23bには負電圧,逆に第一の電極23aに負電圧を印加する場合には第二の電極23bには正電圧を印加する。
第三の電極23cは,第一の電極23a又は第二の電極23bのいずれか一方と短絡されており,第一又は第二の電極23a,23bと同じ電圧が印加される。
【0047】
第一,第二の電極23a,23b間に電圧が印加されると,その間に形成される電界によってグラディエント力が発生する。絶縁性の第一のパネル11には,真空吸着力に加えてグラディエント力も加わる。
【0048】
ここで形成されたグラディエント力は単独でも第一のパネル11を懸吊可能な大きさであり,第一のパネル11にグラディエント力が印加された後,真空槽41を高真空排気系42に接続し,高真空排気系42によって真空槽41内を真空排気する。」

「【0062】
次に,本発明の他の例について説明する。
下記第二,第三例の吸着装置2,3の保護膜24も柔軟性を有しており,圧縮変形可能である。その他,下記第二例及び第三例の吸着装置2,3については,第一例の吸着装置1と同じ部材には同じ符号を付して説明を省略する。第一例の吸着装置1は,第一,第二の電極23a,23bとは離間した第三の電極23cを有しており,吸着溝26は第三の電極23cによって囲まれていた。
【0063】
図2の第二例の吸着装置2では,第三の電極は設けられておらず,吸着溝26は第一又は第二の電極(この吸着装置2では第二の電極23b)で囲まれている。図2の符号2aは,第二例の吸着装置2の内部構造を説明するための平面図,同図符号2b,2cは,C-C線,D-D線切断断面図である。
【0064】
上記第一,第二例の吸着装置1,2では,第一のパネル11が保護膜24と接触した状態では,吸着溝26の内部は外部雰囲気から分離されていたが,真空吸着力が低下しなければ外部雰囲気と接続されていてもよい。【0065】
図3の第三例の吸着装置3では,吸着溝26が電極で囲まれておらず,吸着溝26の周囲は,第一,第二の電極23a,23bが位置する部分よりも,第一,第二の電極23a,23bの膜厚分だけ薄くなっている。
【0066】
しかし,スパッタ法や蒸着法によって形成した金属薄膜をパターニングして第一,第二の電極23a,23bを形成すれば,その膜厚は非常に薄くできる。例えば1μm以下にできる。従って,この吸着装置3の保護膜24と第一のパネル11とを接触させ,吸着溝26の内部を真空排気したときに,吸着溝26の周囲から吸着溝26内に流入する気体は僅かであり,真空吸着力は低下しない。
【0067】
第三例の吸着装置3では,吸着溝26を取り囲む領域の高さが第1,第2の電極23a,23bが位置する部分の高さよりも低くなっていたが,第一,第二の電極23a,23bの内側だけ溝を形成すれば,第一,第二の電極23a,23bで挟まれた領域の端部28が吸着溝26の端部となり,周囲ではなく,この端部28だけから気体が流入するため,流入量は一層少くなる。
【0068】
吸着溝26内に気体が流入する場合,排気孔27は,気体が流入する領域からできるだけ遠い位置に設け,気体流入のコンダクタンスを小さくしておくとよい。なお,上記各例の吸着装置1?4の平面図では,第一?第三の電極23a?23cのパターンは,実際よりも簡略化してある。」

















(2)ここで,引用文献1に記載されている事項を検討する。
ア 引用文献1の段落0014の記載から,引用文献1の「吸着装置」は,「絶縁性の基板」に対して,「グラディエント力」と「真空吸着力」で吸着するものであることは明らかである。

イ 引用文献1の段落0020-0028及び図1の記載から,引用文献1の「吸着装置1」は,「基板20」の表面に「第一?第三の電極23a,23b,23c」が配置され,「第一?第三の電極23a?23c」の表面には,絶縁性の「保護膜24」が形成され,「第一?第三の電極23a?23c」の間は,「吸着溝26」が形成され,「吸着溝26」には,基体21の表面に開口を形成している「排気孔27」が備えられている。
また,引用文献1の段落0027から,「保護膜24」は柔軟性を有し,圧縮されると変形する樹脂で構成されている。

ウ 引用文献1の段落0028,0042-0044の記載から,引用文献1における「排気孔27」は,配管によって切替器44に接続され,切替器44によって「吸着装置1」を低真空排気系43に接続し,「吸着溝26」の内部を「真空排気」することにより,「第一のパネル11」を真空吸着することが記載されている。

エ 引用文献1の段落0045-0048の記載を参照すると,引用文献1において,「第一,第二の電極23a,23b」間に電圧が印加されると,その間に形成される電界によってグラディエント力が発生し,グラディエント力は単独でも絶縁性の「第一のパネル11」を懸吊可能であることが記載されている。

オ 引用文献1の段落0065-0067及び図3の記載を参照すると,引用文献1には,「吸着溝26」が電極で囲まれていない,第三例の「吸着装置3」が記載されている。
ここで,特に図3から,「第一,第二の電極23a,23b」は「吸着溝26」内に設けられ,かつ,「吸着溝26」は,「基板20」の「表面」の外周に設けられた「保護膜24」で囲まれていることは明らかである。
なお,第三例において,「基板20」の「表面」の外周に設けられた「保護膜24」は,「第一,第二の電極23a,23b」が位置する部分よりも,電極の膜厚分だけ薄くなっているが,特に引用文献1の段落0066の「吸着溝26の周囲から吸着溝26内に流入する気体は僅かであり,真空吸着力は低下しない。」旨の記載を参酌すれば,第三例においても,「吸着溝26」の内部が「真空排気」されることは明らかである。
また,引用文献1の段落0062の記載から,第三例の「吸着装置3」は,「吸着溝26」が電極で囲まれていない,すなわち,「第三の電極23c」を備えていない点を除き,「吸着装置1」と同様の構成を有していることは明らかである。

(3)上記(1),(2),特に第三例の記載を参酌すると,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「 絶縁性の基板に対して,グラディエント力と真空吸着力で吸着する吸着装置であって,
基板20の表面に,第一,第二の電極23a,23bが配置され,
第一,第二の電極23a,23bは吸着溝26内に設けられ,かつ,吸着溝26は,基板20の表面の外周に設けられた保護膜24で囲まれており,
保護膜24は柔軟性を有し,圧縮されると変形する樹脂で構成され,
吸着溝26は,吸着溝26の内部を真空排気する排気孔27を備え,
第一,第二の電極23a,23b間に電圧が印加されると,その間に形成される電界によってグラディエント力が発生し,第一のパネル11を懸吊可能であり,
吸着溝26の内部を真空排気することにより,第一のパネル11を真空吸着すること。」

2 その他の文献について
(1) 原査定の拒絶の理由において引用された引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。(当審注:日本語訳は当審により付記した。)

「[0027] With reference to FIGS. 1 and 2, an object handling module 10 in accordance with an embodiment of the invention is described. As described in more detail below, the object handling module 10 is designed to use hold or clamp an object of interest, such as semiconductor wafers, thin-film plates, glass plates and liquid crystal display (LCD) panels, organic light emitting diode (OLED) panels, optical pick-up lenses and low pass filters (LPFs) for digital cameras, using van der Waals forces. Thus, the object handling module 10 can operate in a vacuum environment. However, unlike an Electric Static Chuck (ESC), the object handling module 10 can be made without using expensive fabrication technologies. In addition, since the object handling module 10 uses van der Waals forces rather than electrostatic forces, the possibility of device failures due to exposure to electric field and/or magnetic filed is significantly minimized.

[0028] As illustrated in FIG. 1, the object handling module 10 can be used in various fabrication equipments including, but is not limited to, One Drop Filling (ODF) equipment 12A, Flip-chip packaging equipment 12B, Chip-scale packaging equipment 12C, Micro-Electro-Mechanical-Systems (MEMS) fabrication equipment 12D, semiconductor fabrication equipment 12E, liquid crystal display (LCD) panel fabrication equipment 12F and organic light-emitting diode (OLED) panel fabrication equipment 12G. In fact, the object-handling module 10 can be used in any equipment where an object needs to be handled, for example, in order to hold, lift, transport and/or reverse the object. Thus, the object handling module 10 can be considered as a device that can be part of an overall system.

[0029] As shown in FIG. 2, which is an enlarged perspective view of the object handling module 10, the object handling module includes directional adhesive structures 14A and 14B, base plates 16A and 16B, arms 18A and 18B and a foundation plate 20. The directional adhesive structure 14A is attached to a bottom surface of the base plate 16A. Similarly, the directional adhesive structure 14B is attached to a bottom surface of the base plate 16B. As an example, the directional adhesive structures 14A and 14B may be attached to the bottom surfaces of the base plates 16A and 16B, respectively, using an adhesive material. As described in more detail below, the directional adhesive structures 14A and 14B are configured to provide controllable adhesion between the object handling module 10 and an object of interest using van der Waals forces to attach the object onto the object handling module and to release the object from the object handling module.」
(当審訳;[0027] 図1および図2を参照して,本発明の一実施形態に従ったオブジェクトハンドリングモジュール10を説明する。以下にさらに詳細に説明するように,オブジェクトハンドリングモジュール10は,半導体ウェハ,薄膜プレート,ガラスプレート,液晶ディスプレイ(LCD)パネル,有機発光ダイオード(OLED)パネル,光ピックアップレンズ,デジタルカメラ用ローパスフィルタ(LPF)などの関心のある物体を,ファンデルワールス力を用いて保持またはクランプするために設計されている。このように,オブジェクトハンドリングモジュール10は,真空環境下で動作することができる。しかし,電気的静電チャック(ESC)とは異なり,オブジェクトハンドリングモジュール10は,高価な製作技術を用いることなく製作することができる。さらに,オブジェクトハンドリングモジュール10は,静電力ではなくファンデルワールス力を使用するので,電界および/または磁界に曝されることによるデバイスの故障の可能性は,大幅に最小化される。

[0028] 図1に示されるように,オブジェクトハンドリングモジュール10は,ワンドロップフィリング(ODF)装置12A,フリップチップパッケージング装置12B,チップスケールパッケージング装置12C,マイクロ電子機械システム(MEMS)製造装置12D,半導体製造装置12E,液晶ディスプレイ(LCD)パネル製造装置12F,および有機発光ダイオード(OLED)パネル製造装置12Gを含むがこれらに限定されない,様々な製造装置で使用することができる。実際には,オブジェクトハンドリングモジュール10は,例えば,物体を保持したり,持ち上げたり,搬送したり,および/または反転させたりするために,物体をハンドリングする必要がある装置であれば,どのような装置でも使用することができる。したがって,オブジェクトハンドリングモジュール10は,全体的なシステムの一部となり得る装置とみなすことができる。

[0029] オブジェクトハンドリングモジュール10の拡大透視図である図2に示すように,オブジェクトハンドリングモジュールは,方向性接着構造体14Aおよび14Bと,ベースプレート16Aおよび16Bと,アーム18Aおよび18Bと,基礎プレート20とを含む。方向性接着構造体14Aは,ベースプレート16Aの下面に取り付けられている。同様に,方向性接着構造体14Bは,ベースプレート16Bの下面に取り付けられている。一例として,方向性接着構造体14A,14Bは,接着剤材料を用いて,それぞれベースプレート16A,16Bの底面に接着されていてもよい。以下でより詳細に説明するように,方向性接着構造体14A,14Bは,オブジェクトハンドリングモジュール10と関心のある物体との間に,物体をオブジェクトハンドリングモジュールに付着させ,物体をオブジェクトハンドリングモジュールから解放するために,ファンデルワールス力を用いて制御可能な接着を提供するように構成されている。)

「[0042] As illustrated in FIG. 5A, the directional adhesive structures 14A and 14B are attached to their respective base plates 16A and 16B such that the contact surfaces 38 of the anisotropic hair-like features 34 of the directional adhesive structure 14A are facing the contact surfaces 38 of the anisotropic hair-like features 34 of the directional adhesive structure 14B. With such orientation of the anisotropic hair-like features 34 of the directional adhesive structures 14A and 14B, the strength of van der Waals forces between the anisotropic hair-like features and a target object M is stronger when tangential forces are applied to the directional adhesive structures toward each other. However, when tangential forces are removed or applied to the directional adhesive structures 14A and 14B away from each other, the strength of van der Waals forces between the anisotropic hair-like features 34 and the target object M is weakened. Consequently, the van der Waals forces between the anisotropic hair-like features 34 and the target object M can be controlled to selectively attach and detach the target object M by controlling the directionality of tangential forces applied to the directional adhesive structures 14A and 14B.

[0043] An attaching operation of the object handing module 10 in accordance with an embodiment of the invention is now described with reference to FIGS. 5A and 5B. Initially, the object handing module 10 and/or the object M of interest is/are moved such that tips of the anisotropic hair-like features 34 of the directional adhesive structures 14A and 14B are in contact with a surface of the object M, as illustrated in FIG. 5A. This may be achieved by one or more external mechanisms to move the object handling module 10 and/or the object M. The arms 18A and 18B of the object handing module 10 are then pivoted by the motor 26 directed by the controller 28 to linearly displace the base plates 16A and 16B toward each other, which results in tangential forces being applied to the base structures 32 of the directional adhesive structures 14A and 14B in directions toward each other, as indicated by arrows 44 in FIG. 5B, and a downward force applied to the base structures 32 in a downward direction, as indicated by an arrow 46. Due to the applied tangential forces and the downward force, the angle between the anisotropic hair-like features 34 and the normal line 36 (shown in FIG. 3) is increased, which causes the contact surfaces 38 of the anisotropic hair-like features 34 to contact the object surface. The areas of the contact surfaces 38 of the anisotropic hair-like features 34 contacting the object surface are increased as the applied tangential forces are increased, as illustrated in FIG. 5B, which causes the object M to be attached to the anisotropic hair-like features 34 of the adhesive structures 14A and 14B due to van der Waals forces. The strength of the van der Waals forces between the directional adhesive structures 14A and 14B and the object M can be controlled by the amount of tangential forces being applied to the directional adhesive structures via the arms 18A and 18B.

[0044] A detaching operation of the object handing module 10 in accordance with an embodiment of the invention is now described with reference to FIGS. 5B, 5C and 5D. Initially, tangential forces are applied to the directional adhesive structures 14A and 14B toward each other, as illustrated in FIG. 5B, in order to hold the object M using van der Waals forces. To detach or release the object M from the directional adhesive structures 14A and 14B, the tangential forces being applied to the directional adhesive structures 14A and 14B are removed. Alternatively, the arms 18A and 18B of the object handing module 10 are pivoted by the motor 26 directed by the controller 28 to linearly displace the base plates 16A and 16B away from each other, which results in tangential forces being applied to the base structures 32 of the directional adhesive structures 14A and 14B in directions away from each other, as indicated by arrows 48 in FIG. 5C, and an upward force applied to the base structures 32 in a upward direction, as indicated by an arrow 50. The applied tangential forces and the upward force cause the contact surfaces 38 of the anisotropic hair-like features 34 to detach from the object surface to release the object M, as illustrated in FIG. 5D.

[0045] In an alternatively embodiment, as illustrated in FIGS. 6A and 6B, the object handing module 10 may utilize guiding pins 52 to detach the object M from the directional adhesive structures 14A and 14B, which may be useful in releasing the object at a precise location. As shown in FIGS. 6A and 6B, the guiding pins 52 may be connected to an actuator 54, which pushes the guiding pins 50 downward to detach the object M from the directional adhesive structures 14A and 14B. The actuator 54 is attached to the foundation plate 20. In some implementations, the guiding pins 52 and the actuator 54 may be integrated into one or both of the base plates 16A and 16B.

[0046] Although the object handing module 10 has been illustrated and described as being configured to attach an object of interest by applying tangential forces to the base plates 16A and 16B toward each other and to detach the object by removing the applied tangential forces or applying tangential forces to the base plates away from each other, the object handing module 10 may be configured to operate in the reverse. That is, the directional adhesive structures 14A and 14B may be attached to their respective base plates 16A and 16B such that the contact surfaces 38 of the anisotropic hair-like features 34 of the directional adhesive structure 14A are facing away from the contact surfaces 38 of the anisotropic hair-like features 34 of the directional adhesive structure 16B. In this embodiment, the object handing module 10 is configured to attach an object of interest by applying tangential forces to the base plates 16A and 16B away from each other and to detach the object by removing the applied tangential forces or applying tangential forces to the base plates toward each other. Furthermore, although a specific embodiment of the object handing module 10 has been illustrated and described, other embodiments of the object handling module are possible without departing from the spirit of the current invention.」
(当審訳;[0042] 図5Aに示すように,方向性接着構造体14A,14Bは,方向性接着構造体14Aの異方性毛髪状特徴部34の接触面38が方向性接着構造体14Bの異方性毛髪状特徴部34の接触面38に対向するように,それぞれのベースプレート16A,16Bに取り付けられている。このような方向性接着構造体14A,14Bの異方性毛髪状特徴部34の向きによって,方向性接着構造体14A,14Bの異方性毛髪状特徴部34と対象物Mとの間のファンデルワールス力の強さは,方向性接着構造体同士に向けて接線方向の力が作用した場合に強くなる。しかし,互いに離れた方向性接着構造体14A,14Bに接線方向の力が除去されたり,印加されたりすると,異方性毛髪状特徴部34と対象物Mとの間のファンデルワールス力の強さが弱くなる。従って,異方性毛髪状特徴部34と対象物Mとの間のファンデルワールス力は,方向性接着構造体14A,14Bに加わる接線力の方向性を制御することで,対象物Mを選択的に着脱するように制御することができる。

[0043] 本発明の一実施形態に従ったオブジェクトハンドリングモジュール10の貼付動作を,図5Aおよび図5Bを参照して説明する。最初に,オブジェクトハンドリングモジュール10および/または関心のある物体Mは,図5Aに図示されているように,方向性接着構造体14A,14Bの異方性毛髪状特徴部34の先端が物体Mの表面に接触するように/移動される。これは,オブジェクトハンドリングモジュール10および/または物体Mを移動させるための1つ以上の外部機構によって達成されてもよい。次に,オブジェクトハンドリングモジュール10のアーム18A,18Bは,コントローラ28によって指示されたモータ26によって枢動されて,ベースプレート16A,16Bを互いに向かって直線的に変位させ,その結果,図5Bの矢印44によって示されるように,方向性接着構造体14A,14Bのベース構造32に互いに向かう方向に接線方向の力が加えられ,矢印46によって示されるように,ベース構造32に下降方向の力が加えられている。印加された接線力と下向きの力により,異方性毛髪状特徴部34と法線36(図3に示す)との間の角度が増大し,これにより,異方性毛髪状特徴部34の接触面38が物体表面に接触する。異方性毛髪状特徴部34の接触面38が物体表面に接触する面積は,図5Bに示されるように,印加される接線力が増加するにつれて増加し,これにより,物体Mがファンデルワールス力により接着構造体14A,14Bの異方性毛髪状特徴部34に接着される。方向性接着構造体14A,14Bと物体Mとの間のファンデルワールス力の強さは,アーム18A,18Bを介して方向性接着構造体に加えられる接線方向の力の量によって制御することができる。

[0044] 本発明の一実施形態によるオブジェクトハンドリングモジュール10の取り外し動作を,図5B,5Cおよび5Dを参照して説明する。最初は,ファンデルワールス力を使用して物体Mを保持するために,図5Bに図示されているように,方向性接着構造体14A,14Bに互いに向かって接線方向の力が加えられる。物体Mを方向性接着構造体14A,14Bから離脱または解放するために,方向性接着構造体14A,14Bに加えられている接線方向の力が除去される。あるいは,オブジェクトハンドリングモジュール10のアーム18A,18Bは,コントローラ28によって指示されたモータ26によって枢動されて,ベースプレート16A,16Bを互いに離れて直線的に変位させ,その結果,図5Cの矢印48によって示されるように,方向性接着構造体14A,14Bのベース構造32に互いに離れた方向に接線方向の力が加えられ,矢印50によって示されるように,ベース構造32に上向きの力が加えられている。加えられた接線方向の力および上向きの力は,図5Dに図示されているように,異方性毛状特徴34の接触面38を物体表面から剥離させ,物体Mを解放する。

[0045] 代替的な実施形態では,図6Aおよび6Bに図示されるように,オブジェクトハンドリングモジュール10は,方向性接着構造体14Aおよび14Bから物体Mを離間させるためにガイドピン52を利用してもよく,これは,正確な位置で物体を解放するのに有用であるかもしれない。図6Aおよび図6Bに示すように,ガイドピン52は,アクチュエータ54に接続されていてもよく,このアクチュエータ54は,ガイドピン50を下方に押し下げて,物体Mを方向性接着構造体14Aおよび14Bから切り離すようにしてもよい。アクチュエータ54は,基礎プレート20に取り付けられている。いくつかの実施形態では,ガイドピン52およびアクチュエータ54は,ベースプレート16A,16Bの一方または両方に一体化されていてもよい。

[0046] オブジェクトハンドリングモジュール10は,ベースプレート16A,16Bに互いに対向して接線方向の力を加えることによって関心のある物体を取り付け,適用された接線方向の力を除去するか,または互いに離れてベースプレートに接線方向の力を加えることによって物体を取り外すように構成されるように図示され,説明されてきたが,オブジェクトハンドリングモジュール10は,逆に動作するように構成されていてもよい。すなわち,方向性接着構造体14A,14Bは,方向性接着構造体14Aの異方性毛髪状特徴部34の接触面38が方向性接着構造体16Bの異方性毛髪状特徴部34の接触面38から離れる方向を向くように,それぞれのベースプレート16A,16Bに取り付けられていてもよい。この実施形態では,オブジェクトハンドリングモジュール10は,ベースプレート16A,16Bに互いに離れて接線方向の力を加えることによって目的の物体を取り付け,適用された接線方向の力を除去するか,またはベースプレートに互いに向かって接線方向の力を加えることによって目的の物体を取り外すように構成されている。さらに,オブジェクトハンドリングモジュール10の特定の実施形態が図示され,記載されているが,本発明の精神から逸脱することなく,オブジェクトハンドリングモジュールの他の実施形態も可能である。)

















(2)上記(1)の記載から,上記引用文献2には次の事項(以下,「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。

「 半導体ウェハ,薄膜プレート,ガラスプレート,液晶ディスプレイ(LCD)パネル,有機発光ダイオード(OLED)パネル,光ピックアップレンズ,デジタルカメラ用ローパスフィルタ(LPF)などの関心のある物体を,ファンデルワールス力を用いて保持またはクランプするために設計されているオブジェクトハンドリングモジュール10であって,
方向性接着構造体14Aおよび14Bと,ベースプレート16Aおよび16Bと,アーム18Aおよび18Bと,基礎プレート20とを含み,
方向性接着構造体14A,14Bは,オブジェクトハンドリングモジュール10と関心のある物体との間に,物体をオブジェクトハンドリングモジュールに付着させ,物体をオブジェクトハンドリングモジュールから解放するために,ファンデルワールス力を用いて制御可能な接着を提供するように構成されており,
方向性接着構造体14A,14Bは,方向性接着構造体14Aの異方性毛髪状特徴部34の接触面38が方向性接着構造体14Bの異方性毛髪状特徴部34の接触面38に対向するように,それぞれのベースプレート16A,16Bに取り付けられており,
異方性毛髪状特徴部34と対象物Mとの間のファンデルワールス力は,方向性接着構造体14A,14Bに加わる接線力の方向性を制御することで,対象物Mを選択的に着脱するように制御することができること。」

(3)本願の出願前に頒布された刊行物である,Purtov,et al. "Switchable Adhesion in Vacuum Using Bio-Inspired Dry Adhesives", ACS Appl. Mater. Interfaces 2015,7, 24127-24135(以下,「参考文献」という。)の,"ABSTRACT","2.5. Adhesion Measurements."には,「乾燥接着構造に基づいた,ガラス板のような物体を接着するシステムにおいて,乾燥接着構造を有するサンプルをガラス板に近づけ接触させた後,サンプルとガラス板との間に,座屈圧力Pb以下の与圧Pをかけることにより,サンプルとガラス板とを接着し,座屈圧力Pb以上の予圧Pをかけることにより乾燥接着構造が座屈し,サンプルとガラス板とを離脱すること。」が記載されている。
ここで,「乾燥接着構造が座屈」することから,「サンプル」と「ガラス板」との間隔を狭めることにより離脱するものと認められる。
以上から,参考文献には,「乾燥接着構造に基づいた,ガラス板のような物体を接着するシステムにおいて,乾燥接着構造を有するサンプルとガラス板との間隔を狭めることにより,サンプルとガラス板とを離脱すること。」(以下,「参考文献記載事項」という。)が記載されていると認められる。

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると,次のことがいえる。

ア 引用発明1の「吸着装置」は,「絶縁性の基板に対して,グラディエント力と真空吸着力で吸着する」ものであるから,本願発明1の「基板を保持するための保持構成」に対応する。

イ 引用発明1の,「基板20」,「表面」が,本願発明1の「本体部分(110)」,「第1のサイド(112)」に相当することは明らかである。
そして,「基板20」の「表面」に配置された,「第一,第二の電極23a,23b」は,グラディエント力を発生し,グラディエント力により「第1の基板」を懸吊可能なものであるから,本願発明1の「乾燥接着剤(120)」と,「乾燥吸着する部材」である点で一致する。

ウ 引用発明1において,「吸着溝26」は「基板20の表面の外周に設けられた保護膜24」で囲まれており,「吸着溝26」の内部は真空排気されるものであるから,引用発明1の「吸着溝26」内は,本願発明1の「真空領域」に相当する。
また,引用発明1において,「第一,第二の電極23a,23b」は「吸着溝26」内に設けられており,「吸着溝26」は「基板20の表面の外周に設けられた保護膜24」で囲まれているから,引用発明1の「基板20の表面の外周に設けられた保護膜24」が,「第一,第二の電極23a,23b」を取り囲んでいることは明らかである。
そして,引用発明1の「保護膜24」は,「柔軟性を有し,圧縮されると変形する樹脂で構成され」ているから,本願発明1の「シール(130)」と,「乾燥吸着する部材を取り囲み且つ前記第1のサイド(112)に真空領域を設けるように構成された弾性のシール(130)であって,前記乾燥吸着する部材が前記真空領域内に設けられている,シール(130)」である点で一致する。

エ 引用発明1の「排気孔27」は,「吸着溝26の内部を真空排気する」ものであるから,本願発明1の「真空領域を排気する導管(140)」に相当する。

(2)一致点・相違点
したがって,本願発明1と引用発明1との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「 基板を保持するための保持構成であって,
第1のサイド(112)を有する本体部分(110),
前記本体部分(110)の前記第1のサイド(112)に設けられた乾燥吸着する部材,
前記乾燥吸着する部材を取り囲み且つ前記第1のサイド(112)に真空領域を設けるように構成された弾性のシール(130)であって,前記乾燥吸着する部材が前記真空領域内に設けられている,シール(130),及び
前記真空領域を排気する導管(140)を備えている,保持構成。」

(相違点)
(相違点1)乾燥吸着する部材に関して,本願発明1は,「乾燥接着剤(120)」と特定されているのに対し,引用発明1は,そのように特定されていない点。

(相違点2)保持構成に関して,本願発明1は,「基板を前記本体部分(110)に向かって移動させることにより基板(10)を解放するように構成されている」と特定されているのに対し,引用発明1は,そのように特定されていない点。

(3)相違点についての判断
ア 相違点2について
事案に鑑みて,相違点2について最初に検討する。
まず,引用文献1には,「吸着装置1」に「第一のパネル11」を吸着する点については記載されているが,どの様に解放するのかは何ら記載されていない。
そして,引用文献2記載事項には,「オブジェクトハンドリングモジュール10と関心のある物体との間に,物体をオブジェクトハンドリングモジュールに付着させ,物体をオブジェクトハンドリングモジュールから解放するために,ファンデルワールス力を用いて制御可能な接着を提供するように構成され」た「方向性接着構造体14A,14B」(本願発明1の「乾燥接着剤」に相当すると認められる。)において,「方向性接着構造体14A,14Bに加わる接線力の方向性を制御することで,対象物Mを選択的に着脱するように制御する」点が記載されている。
しかしながら,引用文献2記載事項において,「対象物M」の「着脱」は,「接線力」,すなわち,「方向性接着構造体14A,14B」の接線方向の力の方向性により制御されるものであり,「対象物M」を法線方向に移動させるものではなく,本願発明1の,「基板を前記本体部分(110)に向かって移動させることにより基板(10)を解放するように構成されている」点について,何ら記載されていない。

また,参考文献記載事項には,「乾燥接着構造に基づいた,ガラス板のような物体を接着するシステムにおいて,乾燥接着構造を有するサンプルとガラス板との間隔を狭めることにより,サンプルとガラス板とを離脱すること。」が記載されている。
しかしながら,引用発明1の「第一,第二の電極23a,23b」は,グラディエント力により基板を吸着する部材であり,引用文献1の段落0010に「グラディエント力を発生させる場合,吸着対象のガラス基板と電極の間の距離は短い程有利」と記載されているように,その距離が近づく程吸着力が強くなるものであるから,その特性が逆のものであり,引用発明1の「乾燥吸着する部材」として,参考文献記載事項の「乾燥接着構造」を採用することには,動機付けが認められない。

してみると,当業者であっても,引用文献1及び引用文献2,参考文献に基づいて,本願発明1の相違点2に係る構成とすることは,容易に発明できたものであるとはいえない。

イ したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,引用文献1及び引用文献2,参考文献に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2-7について
本願発明2-7は,本願発明1の全ての構成を備える発明であり,本願発明1の相違点2に係る構成と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用文献1及び引用文献2,参考文献に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

3 本願発明8-10について
本願発明8は,本願発明1の「保持構成」が備える「基板を前記本体部分(110)に向かって移動させることにより基板(10)を解放するように構成されている」点を,「前記導管(140)が,前記真空領域に第1の負圧(p1)を加えて前記基板(10)を取り付けるように構成され,前記導管(140)が,前記真空領域に第2の負圧(p2)を加えて前記基板(10)を前記本体部分(110)のより近くに移動させ,前記複数のフィラメント(122)を曲げて,前記基板(10)を解放するように構成されている」と限定するものであるから,本願発明1を減縮した発明であり,本願発明1の相違点2に係る構成と同一の構成を備えるものである。
また,本願発明9-10は,本願発明1又は8の全ての構成を備える発明である。
すると,本願発明8-10は本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用文献1及び引用文献2,参考文献に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

4 本願発明11について
(1)対比
本願発明11と引用発明1とを対比すると,次のことがいえる。

ア 引用発明1の「吸着装置」は,「絶縁性の基板に対して,グラディエント力と真空吸着力で吸着する」ものであるから,本願発明11の「保持構成(100)」に対応する。

イ 引用発明1の「基板20」の「表面」に配置された,「第一,第二の電極23a,23b」は,グラディエント力を発生し,グラディエント力により基板を吸着するものであるから,本願発明11の「乾燥接着剤(120)」と,「乾燥吸着する部材」である点で一致する。

ウ 引用発明1において,「吸着溝26」は「基板20の表面の外周に設けられた保護膜24」で囲まれており,「吸着溝26」の内部は真空排気されるものであるから,引用発明1の「吸着溝26内」は,本願発明11の「真空領域」に相当する。
また,引用発明1において,「第一,第二の電極23a,23b」は「吸着溝26」内に設けられており,「吸着溝26」は「基板20の表面の外周に設けられた保護膜24」で囲まれているから,引用発明1の「基板20の表面の外周に設けられた保護膜24」が,「第一,第二の電極23a,23b」を取り囲んでいることは明らかである。
そして,引用発明1の「保護膜24」は,「柔軟性を有し,圧縮されると変形する樹脂で構成され」ているから,本願発明11の「シール」と,「乾燥吸着する部材を取り囲み,真空領域を設けるように構成された弾性のシール(130)」である点で一致する。

エ 引用発明1の「吸着溝26の内部を真空排気することにより,第一のパネル11を真空吸着すること」において,「吸着溝26」内は真空排気により一定の値の負圧となっていることは明らかである。
すると,引用発明1の「吸着溝26の内部を真空排気することにより,第一のパネル11を真空吸着すること」は,本願発明11の「基板(10)を前記少なくとも1つの保持構成(100)に取り付けるために前記少なくとも1つの保持構成(100)の前記真空領域に第1の負圧(p1)を加えること」に相当する。

(2)一致点・相違点
したがって,本願発明11と引用発明1との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「 乾燥吸着する部材と乾燥吸着する部材を取り囲み,真空領域を設けるように構成された弾性のシール(130)とを備えた少なくとも1つの保持構成(100)を用いて基板を保持するための方法であって,
基板(10)を前記少なくとも1つの保持構成(100)に取り付けるために前記少なくとも1つの保持構成(100)の前記真空領域に第1の負圧(p1)を加えること,
を含む,方法。」

(相違点)
(相違点1)乾燥吸着する部材に関して,本願発明11は,「乾燥接着剤(120)」と特定されているのに対し,引用発明1は,そのように特定されていない点。

(相違点2)本願発明11は,「処理チャンバ(312)を通して前記基板(10)を移動させる」と特定されているのに対し,引用発明1は,基板の移動について特定されていない点。

(相違点3)本願発明11は,「前記基板(10)を前記少なくとも1つの保持構成(100)から解放するために前記少なくとも1つの保持構成(100)の前記真空領域に第2の負圧(p2)を加える」と特定されているのに対し,引用発明1は,基板の解放について特定されていない点。

(3)相違点についての判断
ア 相違点3について
事案に鑑みて,相違点3について最初に検討する。
相違点3に係る本願発明11の「乾燥吸着する部材を取り囲み真空領域を設けるように構成された弾性のシールを備えた保持構成から基板を解放するために,真空領域に第2の負圧(p2)を加えること」は,上記引用文献1及び引用文献2,参考文献に記載されておらず,また,本願出願前において周知技術であるとも認められない。
してみると,当業者であっても,引用文献1及び引用文献2,参考文献に基づいて,本願発明11の相違点3に係る構成とすることは,容易に発明できたものであるとはいえない。

イ したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明11は,当業者であっても引用文献1及び引用文献2,参考文献に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

5 本願発明12-14について
本願発明12-14は,本願発明11の全ての構成を備える発明であり,本願発明11の相違点3に係る構成と同一の構成を備えるものであるから,本願発明11と同じ理由により,当業者であっても,引用文献1及び引用文献2及び参考文献に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

6 本願発明15について
(1)対比
本願発明15と引用発明1とを対比すると,次のことがいえる。

ア 引用発明1の「吸着装置」は,「絶縁性の基板に対して,グラディエント力と真空吸着力で吸着する」ものであるから,本願発明15の「保持構成(100)」に対応する。

イ 引用発明1の「基板20」の「表面」に配置された,「第一,第二の電極23a,23b」は,グラディエント力を発生し,グラディエント力により基板を吸着するものであるから,本願発明15の「乾燥接着剤(120)」と,「乾燥吸着する部材」である点で一致する。

ウ 引用発明1において,「基板20の表面の外周に設けられた保護膜24」で囲まれており,「吸着溝26」の内部は真空排気されるものであるから,引用発明1の「吸着溝26内」は,本願発明15の「真空領域」に相当する。
また,引用発明1において,「吸着溝26」は「第一,第二の電極23a,23b」は「吸着溝26」内に設けられており,「吸着溝26」は「基板20の表面の外周に設けられた保護膜24」で囲まれているから,引用発明1の「基板20の表面の外周に設けられた保護膜24」が,「第一,第二の電極23a,23b」を取り囲んでいることは明らかである。
そして,引用発明1の「保護膜24」は,「柔軟性を有し,圧縮されると変形する樹脂で構成され」ているから,本願発明15の「シール」と,「乾燥吸着する部材を取り囲み,真空領域を設けるように構成された弾性のシール(130)」である点で一致する。

(2)一致点・相違点
したがって,本願発明15と引用発明1との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「乾乾燥吸着する部材と前記乾燥吸着する部材を取り囲み,真空領域を設けるように構成された弾性のシール(130)とを備えた少なくとも1つの保持構成。」

(相違点)
(相違点1)乾燥吸着する部材に関して,本願発明15は,「乾燥接着剤(120)」と特定されているのに対し,引用発明1は,そのように特定されていない点。

(相違点2)基板(10)を保持構成(100)から解放する点について,本願発明15は,「前記基板(10)を解放するために,前記基板(10)を乾燥接着剤(120)に押し付ける力を増加させるように,前記少なくとも1つの保持構成(100)の前記真空領域内の真空レベルを高めることを含む」と特定されているのに対し,引用発明1は,基板の解放について特定されていない点。

(3)相違点についての判断
ア 相違点2について
事案に鑑みて,相違点2について最初に検討する。
相違点2に係る本願発明1の「前記基板(10)を解放するために,前記基板(10)を乾燥接着剤(120)に押し付ける力を増加させるように,前記少なくとも1つの保持構成(100)の前記真空領域内の真空レベルを高めることを含む」について,上記引用文献1及び引用文献2,参考文献には記載されておらず,また,本願出願前において周知技術であるとも認められない。
してみると,当業者であっても,引用文献1及び引用文献2,参考文献に基づいて,本願発明15の相違点2に係る構成とすることは,容易に発明できたものであるとはいえない。

イ したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明15は,当業者であっても引用文献1及び引用文献2,参考文献に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第7 原査定について
1 理由2について
本願請求項1-2,6-7,9-10に係る発明は,は,上記「第6 対比・判断」の「1 本願発明1について」の「(1)対比」における相違点2に係る構成を有するものとなっており,拒絶査定において引用された引用文献1及び引用文献2に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。
したがって,原査定の理由2を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。


 
審決日 2021-01-20 
出願番号 特願2018-536105(P2018-536105)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 杢 哲次中田 剛史湯川 洋介  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 井上 和俊
▲吉▼澤 雅博
発明の名称 基板を保持するための保持構成、基板を支持するためのキャリア、真空処理システム、基板を保持するための方法、及び基板を解放するための方法  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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