• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1370525
審判番号 不服2019-6907  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-28 
確定日 2021-01-21 
事件の表示 特願2015- 29903「光学シート、映像源ユニット及び映像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月22日出願公開、特開2016-151710〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特願2015-29903号(以下、「本件出願」という。)は、平成27年2月18日を出願日とする特許出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成30年 9月27日付け:拒絶理由通知書
平成30年12月 7日提出:意見書、手続補正書
平成31年 2月26日付け:拒絶査定(以下、当該拒絶査定を「原査定」という。)
令和 元年 5月28日提出:審判請求書
令和 2年 6月 3日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 9月 8日提出:意見書、手続補正書

2 本願発明
本件出願の請求項1に係る発明は、令和2年9月8日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のものである。

「 複数の層を有する光学シートであって、
基材層と、
前記基材層の一方の面に積層され、光を透過可能に前記基材層の層面に沿って配列される複数の光透過部、隣り合う前記光透過部間に光を吸収可能に配列される光吸収部、及び、隣り合う光透過部を連結させる光透過可能な連結部を有する光学機能層と、を備え、
前記光透過部及び前記光吸収部は層厚方向断面が台形、
前記光透過部と前記光吸収部との界面は前記光学機能層の法線との成す角が0°以上10°以下、
隣り合う前記光透過部のピッチが30μm以上100μm以下、
前記光吸収部の厚さが60μm以上150μm以下、及び、
前記光透過部の方が前記光吸収部よりも屈折率が高く、前記光透過部と前記光吸収部との屈折率の差が0.07以上0.14以下であり、
前記光学機能層の層厚方向断面において、隣り合う1つの前記光透過部と前記光吸収部との合計の断面積に対する前記光透過部の断面積が82.1%以上88.5%以下であり、
前記連結部は前記光透過部の前記台形のうち長い下底同士を連結し、前記光吸収部は隣り合う前記光透過部と前記連結部とによる溝に形成されている、
光学シート。」

3 当合議体の拒絶の理由
令和2年6月3日付け拒絶理由通知書によって当合議体が通知した拒絶の理由は、概略、以下の拒絶の理由を含むものである。
●理由2(進歩性)
本件出願の請求項1?5に係る発明は、本件出願の出願前に日本国内または外国において頒布された刊行物である下記の引用例に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(引用例等一覧)
引用例3:特開2014-63106号公報
引用例4:特開2006-171700号公報
(当合議体注:引用例3は主引用例、引用例4は副引用例である。)

●理由3(サポート要件)
本件出願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第2 当合議体の判断
1 引用例3を主引用例とする理由2(進歩性)についての判断
(1)引用例の記載及び引用発明
ア 引用例3の記載
当合議体の拒絶の理由において引用された、特開2014-63106号(以下、同じく「引用例3」という。)は、本件出願の出願前に頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の事項が記載されている(当合議体注:下線は、当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断において活用した箇所を示す。)。
(ア) 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用として好適な車載用視野角制御シートと、これを備えた車載用表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車ではカーナビゲーション装置の設置が一般化してきている。しかし、カーナビゲーション装置は、通常、フロントガラスの下方に位置するダッシュボードの幅方向中央部の手前側に設置されることが多く、設置条件によっては、特に夜間において、フロントガラスにカーナビゲーション装置の画面が映り込むことがある。
・・・略・・・
ただ、カーナビゲーション装置については、カー用品店での市販品、或いは車両製造時から設置されているものも含めて、車両室内のデザイン上の関係で、ひさしが設置されない構造、或いは、ひさしが設置されたとしても、計器盤の場合ほど充分に機能できない構造となることがあるため、フロントガラスへの映り込みが生じることになる。
・・・略・・・
【0004】
こうした濃淡ムラ、光線透過率低下を改善できる構成として、光硬化性樹脂を2P法(フォトポリマー法とも言う)によって成形した光硬化性樹脂の硬化物からなる光透過部と、光吸収部とが交互にシート面に平行な面に沿って配列した、車載用に適用可能とされる視野角制御シートが提案されている(特許文献2)。また、特許文献2で開示された視野角制御シートは、他の光学部品と空気層を挟んで隣接配置しても、光学密着による干渉縞(ニュートンリングとも言う)が生じないようにする為に、シート表面を算術平均粗さRaが0.1μm以上の粗面にした構成を提案している。
・・・略・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2で開示された視野角制御シートは、車載用として、バックライトと液晶表示パネルとの間に、これらの部材と空気層を挟んで隣接配置して使用すると、走行時の振動、車の過酷な温湿度環境による反り発生等によって、光学密着を防ぐ為に設けた粗面を有する表面が、バックライトとの接触、或いは液晶表示パネルとの接触によって傷付いて、光学密着防止効果が低下して、干渉縞発生により表示画面に明暗ムラが生じるなど、光学性能が低下することがある。
【0007】
すなわち、本発明の課題は、フロントガラスなど乗り物の窓ガラスへの表示面の映り込みを改善でき、空気層を挟んでバックライトと表示パネルとの間に隣接配置しても、これらとの接触面に設けた粗面による光学密着防止効果が低下し難く、光学性能が低下し難い、車載用として好適な車載用視野角制御シートと、これを備えた車載用表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明では、次の様な構成の、車載用視野角制御シートと、これを備えた車載用表示装置とした。
(1)車載用表示装置の表示パネルとバックライトとの間に、空気層を挟んで隣接配置される車載用視野角制御シートであって、
光を透過する光透過部と、光を吸収する光吸収部とが、シート面に平行な面に沿って少なくとも一方向に交互に配置され、前記光吸収部は、一方のシート面から前記光透過部に入光し前記光吸収部の側面に到達した光の一部は全反射して、他方のシート面に出光する視野角制御層と、
前記2つのシート面のうち少なくとも片面を形成する、表面の算術平均粗さRaが0.1μm以上の粗面を呈するハードコート層と、
を含む車載用視野角制御シート。
(2)前記視野角制御層の一方の面と前記ハードコート層との間、前記視野角制御層の他方の面と前記ハードコート層との間、のいずれか1以上に、透明基材層を含む、前記(1)の車載用視野角制御シート。
・・・略・・・
(4)バックライトと、このバックライトからの照明光を表示光に利用して表示する表示パネルと、前記バックライトと前記表示パネルとの間に、前記粗面を呈するハードコート層で形成されたシート面側では空気層を挟んで隣接配置された前記(1)?(3)のいずれかの車載用視野角制御シートとを含む、車載用表示装置。
(5)乗り物のフロントガラス及びサイドウインドガラスのうち少なくとも一方の窓ガラスが、前記表示パネルからの表示光が遮られることなく到達する場所に設置される、前記(4)の車載用表示装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フロントガラスなど乗り物の窓ガラスへの表示面の映り込みを改善できる上、空気層を挟んで車載用視野角制御シートがバックライトと表示パネルとの間に隣接配置されても、これらとの接触面に設けた粗面による光学密着防止効果が低下し難く、光学性能を低下し難くできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による車載用視野角制御シートの一実施形態例を示す断面図。
【図2】視野角制御層によって、バックライトからの光の進行方向が制御され集光される様子を説明する断面図。
【図3】視野角制御層の各部寸法を説明する断面図。
【図4】本発明による車載用視野角制御シートの別の実施形態例(透明基材層が2層)を示す断面図。
【図5】本発明による車載用表示装置の一実施形態例を示す断面図。」

(イ) 「【発明を実施するための形態】
【0011】
・・・略・・・
【0015】
〔B〕車載用視野角制御シート
以下、本発明による車載用視野角制御シートを、実施形態毎に説明する。
【0016】
《第1の実施形態》
先ず、図1は、本発明による車載用視野角制御シートの一実施形態例を示す断面図である。
図1に示す車載用視野角制御シート10は、視野角制御層1と、この視野角制御層1に接して積層された透明基材層3と、視野角制御層1及び透明基材層3を挟むようにして、片方は視野角制御層1に接して形成され、もう片方は透明基材層3に接して形成された、表面が特定の粗面2aを呈する2層のハードコート層2とからなる。
【0017】
〔視野角制御層1〕
視野角制御層1は、光を透過する光透過部1aと、光を吸収する光吸収部1bとが、シート面10pに平行な面に沿って、本実施形態では、一方向に交互に配置された光学構造を有する。
光透過部1aの配置の形態は、本実施形態では、一定の配列周期Pで図面左右方向に配列された形態である。同様に、光吸収部1bの配置の形態も、本実施形態では、前記配列周期Pと同じ一定の配列周期Pで図面左右方向に配列した形態となる。
【0018】
さらに、本実施形態の視野角制御層1は、透明で光透過性であるランド部1cも視野角制御層1の全面に有する。このランド部1cは、同図に示すように、視野角制御層1の図面上方側、楔状形状の光吸収部1bに対して言えば幅狭となる側に存在し図面上方の側の層面1pを構成している。
ランド部1cは、光透過部1aと一体的に形成され同一材料からなる。このため、ランド部1cと光透過部1aとの互いの境界は、屈折率及び透過率など光学的物性は同一となっている。図1では、ランド部1cと光透過部1aとの境界は、点線で示してある。
・・・略・・・
【0019】
同図は、シート面10pの法線Nを含む面の断面図であり、同図の形態では、光透過部1aの断面形状は台形形状であり、その上底及び下底のうち辺の長さが小さい方の上底を図面下方として配置される。一方、光吸収部1bの断面形状も台形形状からなる楔状形状であり、光吸収部1bは光透過部1aとは逆に、その楔状形状の幅狭となる上底を図面上方として配置される。
【0020】
このように、本実施形態においては、光透過部1a及び光吸収部1bは、それぞれ断面形状が台形形状の柱状体であり、ともにその柱状体の延在方向が直線状で紙面に垂直方向となっている。したがって、同図の断面図は、光透過部1a及び光吸収部1bに対して主切断面でもある。
【0021】
[視野角制御層による集光作用]
図2の断面図は、車載用視野角制御シート10の視野角制御層1が、バックライトからの光を集光する作用を模式的に説明する図である。
【0022】
図2は、視野角制御層1のうち、二つの光吸収部1bを中心した部分拡大断面図である。視野角制御層1に対して、図面下側の層面1pが入光面Pinであり、図面上側の層面1pが出光面Poutであり、図面上下方向が車載用視野角制御シート10のシート面10pに対する法線Nである。この法線Nの方向の図面上方が正面方向である。
車載用視野角制御シート10に入光した光は、視野角制御層1に入光面Pinから入光し、そのうちの一部を除いて出光面Poutから出光する。図面は、視野角制御層1に入光する光として、視野角制御層1への入射角に応じて、4種類の光を描いてある。
【0023】
先ず、視野角制御層1の光透過部1aの部分に入射角90°で垂直に入光した光Laは、光透過部1aの内部を直進して通過し、出光面Poutから出光される。なお、図示はしないが、視野角制御層1の光吸収部1bの部分に入射角90°で垂直に入光した光は、光吸収部1bで吸収され、視野角制御層1によって遮断される。
視野角制御層1の光透過部1aの部分に入射角90°未満で斜めに入光した光のうち、光吸収部1bとの境界付近に入光した光Lbは、光透過部1aの内部を斜めに進行して、前記光吸収部1bに隣接する光吸収部1bによって遮られることなく、出光面Poutから出光される。したがって、この光Lbの入射角よりも大きい角度で光透過部1aに入光する光は、光吸収部1bによって遮られる結果、視野角制御層1に入光する光全体としては集光される。
視野角制御層1の光透過部1aの部分に入射角90°未満で斜めに入光した光のうち、光透過部1aの内部を斜めに進行して、光吸収部1bの側面に到達する光Lcは、光吸収部1bの側面で反射されて、進行方向を正面方向側に変えて集光され、光透過部1aを通過する。このとき、光吸収部1bの屈折率nbが、光透過部1aの屈折率naよりも小さく設定されていると、光吸収部1bの側面に臨界角以上の入射角で到達した光Lcは、光吸収部1bで吸収されることなく、全反射される。このため、全反射作用によって、光線透過率が向上する。
視野角制御層1の光透過部1aの部分に入射角90°未満で斜めに入光した光のうち、光透過部1aの内部を斜めに進行して光吸収部1bの側面に前記光Lcよりも該側面に対する入射角を小さくして到達した光Ldは、光吸収部1bの側面で反射するにしても一部で、残りは光吸収部1bで吸収される。
【0024】
こうして、視野角制御層1によって、車載用視野角制御シート10のシート面10pの正面方向から大きく離れた角度で出光する光を減らすことができ、この車載用視野角制御シート10を車載用表示装置に用いると、フロントガラスなど乗り物の窓ガラスへの映り込みが改善されることになる。
【0025】
[光透過部1aとランド部1c]
光透過部1aは、透明材料から構成され、好ましくは、形成が容易な点等から透明樹脂から構成される。この透明樹脂としては、公知の透明樹脂を用いることができる。例えば、透明樹脂としては、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂を用いることができる。但し、透明樹脂としては、熱可塑性樹脂に比べて、耐溶剤性があり形成時の固化が迅速などの点で、好ましくは、硬化性樹脂、それも、紫外線や電子線で硬化する光硬化性樹脂を用いるのがよい。光硬化性樹脂としては、アクリレート系、エポキシ系、ポリエステル系などの樹脂が挙げられ、例えばアクリレート系では、ウレタンアクリレート系樹脂などを用いることができる。
【0026】
ランド部1cは、光学性能的には、また、本発明においては、必須ではないが、光透過部1aを形成時に付随的に同時に形成され得る部分であり、視野角制御層1に属する要素である。ランド部1cは透明であり不要光を吸収不可能な部分でもある。
・・・略・・・
【0027】
[光吸収部1b]
光吸収部1bは、光透過部1aとの共同作用により、正面方向から大きく離れた角度で視野角制御層1に入光する光を遮断することで、それ以外の光を視野角制御層1から出光するように制御をする。また、光吸収部1bは、その側面に適度な角度で到達した光は全反射して、視野角制御層1から集光された光として出光させることで、光線透過率を向上させることができる。
【0028】
(主切断面形状)
光吸収部1bの主切断面形状は、本実施形態においては、図面上方の側が幅狭となる楔状形状をしている。
光吸収部1bは、図2のような、幅狭の方をシート出光面Pout側とする楔状形状とすることで、光吸収部1bの側面、具体的には光吸収部1bと光透過部1aとの界面に、光透過部1aの内部を進行して到達する光を、全反射させて正面方向に集光して映り込みを改善しつつ、光線透過率を向上させることができる。
・・・略・・・
【0031】
このように、光吸収部1bの主切断面形状を調整することで、側面での不要光の吸収、側面での全反射条件の調整などにより、集光機能及び光線透過率を調整することができる。
【0032】
[構成材料]
光吸収部1bは、光吸収粒子と、この光吸収粒子を分散し保持する透明な樹脂バインダとから構成することができる。
【0033】
前記光吸収粒子としては、カーボンブラック等の光吸収性の着色粒子が好ましく用いられるが、これらに限定されるものではなく、映像光の特性に合わせて特定の波長を選択的に吸収する着色粒子を使用してもよい。
・・・略・・・
【0034】
前記樹脂バインダとしては、樹脂を含む透明なバインダ材料を用いることができ、典型的には、紫外線で硬化する光硬化性樹脂を用いることができる。樹脂バインダの樹脂(バインダ樹脂)としては、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂でもよいが、形成時の固化が迅速などの点で、好ましくは、硬化性樹脂、それも、紫外線や電子線で硬化する光硬化性樹脂を用いるのが好ましい。光硬化性樹脂としては、アクリレート系、エポキシ系、ポリエステル系などの樹脂が用いられる。
【0035】
[各部の寸法]
ここで、視野角制御層1を構成する各部の寸法について説明する。
光吸収部1bの主切断面形状に於ける寸法は、図3に示すように、例えば、高さAは光透過部1aの厚み以下であり10?200μm、幅は、台形形状の場合で言えば、下底Bは5?50μm、上底Cは2?10μm、シート面10pの法線Nに対する、光吸収部1bの側面の傾斜角αは0?15°とすることができる。
光吸収部1bの配列周期Pは、10?200μmとすることができる。この配列周期Pは、光透過部1aの配列周期Pでもある。
【0036】
光透過部1aの厚みは、光制御機能に応じて適宜に設定すればよく、例えば20?200μmとすることができる。
光透過部1aは、シート面10pの法線Nの方向から観察したときに、通常、視野角制御層1を、その層面1p乃至はシート面10pに投影した面積の主要な部分を占める。前記主要とは、投影面積が50%を超過することを意味する。
【0037】
ランド部1cの厚みは、例えば、0?50μmとすることができる。0μmとは、ランド部1cを設けない場合である。
【0038】
[光透過部1aと光吸収部1bとの屈折率差]
光吸収部1bの樹脂バインダの屈折率をnbとし、光透過部1aを構成する材料の屈折率をnaとしたときに、屈折率nbと屈折率naの大きさの関係を調整することで、光吸収部1bと光透過部1aとの界面での光の屈折及び全反射を含む反射光量を調整して、集光機能及び光線透過率を調整することができる。
全反射の光量を増やせる点で、屈折率nbは屈折率naよりも小さくするのが好ましい。例えば、屈折率nbは屈折率naよりも0.01以上、より好ましくは0.06?0.07、小さくする。こうした屈折率の差は、汎用的な材料で容易に屈折率差を大きくとることができる利点がある。
【0039】
[形成法]
光透過部1a及び光吸収部1b、さらにランド部1cも含み得る視野角制御層1は、視野角制御層1に対する従来公知の材料及び形成法を適宜採用することができる。
【0040】
例えば、加熱された成形型を熱可塑性樹脂層に押圧する熱プレス法、熱可塑性樹脂組成物を成形型内に注入して固化させるキャスティング法、射出成形法、光硬化性樹脂組成物を成形型上(内)に注入して活性エネルギー光線で硬化させる2P法(フォトポリマー法)等を利用できる。これらの成形法の中でも、2P法は生産性に優れる点でより好ましい。2P法では、シリンダ状(円筒状)の成形型を使用して、帯状シートなどを供給しながら連続的に成形できる。帯状シートとして透明基材層3を用いれば、透明基材層3上に積層された、ランド部1cと、ランド部1c上に該ランド部1cと一体的に積層された光透過部1aと、この光透過部1a側の面に光吸収部1bの形状に対応した凹部とを形成できる。・・・略・・・
そして、前記凹部の内部に、光吸収粒子と樹脂バインダを含む光吸収部形成用組成物を、ワイピング法によって充填し固化させれば光吸収部1bを形成できる。
【0041】
〔ハードコート層2〕
ハードコート層2は、表面がJIS B0601:1994年版による算術平均粗さRaが0.1μm以上の粗面2aを呈する硬質な塗工層である。ハードコート層2は、車載用視野角制御シート10の表裏両面のシート面のうち少なくとも片面を形成する。
ハードコート層2は、その表面の粗面2aによって、車載用視野角制御シート10が、車載用表示装置に組み込まれたときに、隣接する他の光学部材との接触によって傷付き難くすると共に、その表面の粗面2aによって光学密着を防止し、ひいては、光学密着による干渉縞の発生を抑制し、光学性能が低下し難いようにすることができる。
・・・略・・・
【0043】
[算術平均粗さRa]
算術平均粗さRaは、JIS B0601:1994年版による算術平均粗さRaで、0.1μm以上とする。
算術平均粗さRaが、上記値未満であると、光学密着防止効果が充分に発揮されないことがある。一方、算術平均粗さRaの上限は、1.5μmとすることが好ましい。算術平均粗さRaが上記値を超えると、光の拡散が多くなり、光を集光する効果が低減することがあるからである。よって、算術平均粗さRaは、0.1?1.5μmの範囲内が好ましい。
【0044】
(空気層を挟んで隣接配置されるとは)
本実施形態において、車載用視野角制御シート10は、バックライトと表示パネルとの間に、空気層を挟んで隣接配置されるものであるが、ここでは、先ず、粗面2aを呈するハードコート層2で形成されたシート面に対向して配置されるバックライトや表示パネルを「対向部材」と言うことにする。そして、「空気層を挟んで」とは、車載用視野角制御シート10が、その粗面2aの凸部で、対向部材と接触しており、その粗面2aの凹部の部分に存在する空気を挟んでという意味である。したがって、「空気層を挟んで隣接配置される」とは、車載用視野角制御シート10と、対向部材とが、完全に離間した状態で、粗面2aが有する全ての凸部が、対向部材と接触していない状態のことを意味するのではなく、粗面2aの全ての凸部のうち、少なくともその一部が、対向部材と接触する様に、隣接して配置されていることを意味する。
【0045】
[粗面2aの形成法]
ハードコート層2の表面を、上記特定の粗面2aとするには、熱プレスによるエンボス法、サンドブラスト加工、光硬化性樹脂を用いた2P法、凸部をパターン形成する印刷法、粗面形成用の粒子を含有する塗料で塗布形成する塗工法、など、公知の方法を適宜採用することができる。
【0046】
ハードコート層2の厚みは、用途、要求仕様に応じて設定すればよく、例えば、3?20μm程度とすることができる。厚みが薄すぎると、傷付きに対する耐性が不足することがあり、厚みが厚すぎると過剰性能となることがある。
【0047】
[構成材料]
ハードコート層2は、架橋された樹脂層として形成することが好ましく、架橋された樹脂としては、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂でもよいが、より優れた耐傷付き性が得易い点で、光硬化性樹脂を主要な樹脂に用いるのが好ましい。
・・・略・・・
【0053】
[形成法]
粗面2aを有するハードコート層2の形成法は、特に限定されない。
・・・略・・・
【0054】
〔透明基材層3〕
透明基材層3は、光を透過可能な透明な基材シートから構成される。透明基材層3は、視野角制御層1のみでは機械的強度が不足する場合に機械的強度を補うことができ、また、2P法(フォトポリマー法)等において視野角制御層1を形成するときの基材として作用し、形成を容易にすることができる。
透明基材層3としては、透明性を備えた材料であれば、特に制限はなく公知のものを適宜採用できる。例えば、透明基材層3には、ポリカーボネート系樹脂、・・・略・・・などを用いることができる。
なかでも、車載用として耐熱性の点で、ポリカーボネート系樹脂は好ましい。・・・略・・・
これら樹脂は、フィルム、シート、板の形態で使用される。透明基材層3の厚みは、要求仕様などに応じて適宜に設定され、例えば25?300μmである。
・・・略・・・
【0055】
〔構成例〕
ここで、本実施形態の車載用視野角制御シート10について、より具体的な構成例を示す。透明基材層3には厚み150μmの透明なポリカーボネート系樹脂シートを用い、この透明基材層3の表側とする面に、厚み3μmで粗面2aを呈するハードコート層2を塗工形成して、先ず、ハードコート層付きポリカーボネート系樹脂シートを作成する。上記ハードコート層2は、アクリレート系重合性化合物を含む光硬化性樹脂中に、平均粒子径4μmの透明な架橋アクリル系樹脂ビーズを添加した光硬化性樹脂組成物からなる塗料を塗工し紫外線照射により硬化物層として形成する。粗面2aは、算術平均粗さRaが0.2μmである。
【0056】
次に、上記ポリカーボネート系樹脂シートを帯状シートとして用いて、そのハードコート層2が形成された面とは反対側の面に、シリンダ状の成形型を用いた2P法により連続的に、光透過部1a及びランド部1cを形成すると同時に、光吸収部1bに対応する逆凹凸形状の溝状凹部を形成し、次いで、この溝状凹部内にワイピング法によって光吸収部1bを形成することで、視野角制御層1を形成する。視野角制御層1を構成する光透過部1a及びランド部1cの樹脂には、ウレタンアクリレート系重合性化合物を含む光硬化性樹脂を用い、光吸収部1bには、アクリレート系重合性化合物を含む光硬化性樹脂中に、カーボンブラックにより黒色に着色した平均粒子径4μmの架橋アクリル系着色樹脂ビーズを添加した樹脂組成物からなる暗色塗料を用いる。なお、光硬化性樹脂の硬化には紫外線を用いる。
視野角制御層1の厚みは、180μm、光吸収部1bは左右対称形である等角台形形状からなる楔状形状とした光吸収部1bの寸法は、高さAは160μm、幅は、台形の下底Bが10μm、上底Cが3.5μm、側面の傾斜角αは1.5°である。
屈折率差は、波長589nmに於いて光吸収部1bの屈折率nbが1.490、光透過部1aの屈折率naが1.550で、光透過部1aが光吸収部1bよりも0.06大きい屈折率差である。
【0057】
次に、上記視野角制御層1の面に、前記ハードコート層2の形成に用いた塗料を同様に塗工形成して、視野角制御層1の面にも、表面が粗面2aを呈するハードコート層2を形成する。
この結果、図1に示した、車載用視野角制御シート10が得られる。
【0058】
〔本実施形態による効果〕
本実施形態によれば、フロントガラスなど乗り物の窓ガラスへの表示面の映り込みを改善できる上、空気層を挟んで車載用視野角制御シートがバックライトと表示パネルとの間に隣接配置されても、これらとの接触面に設けた粗面による光学密着防止効果が低下し難く、光学性能を低下し難くできる。
さらに、透明基材層3を1層有するので、機械的強度が増して、取り扱い易くなり、皺や反りの発生を生じ難くすることができる。
【0059】
《第2の実施形態》
第2の実施形態は、上記第1の実施形態の構成に対して、透明基材層3を、視野角制御層1の両側の面に設けた構成である。
本実施形態の車載用視野角制御シート10は、図4の断面図に示すように、視野角制御層1と、この視野角制御層1の一方の面(同図では視野角制御層1の図面上方の層面1p)に接して積層された透明基材層3と、他方の面(同図では視野角制御層1の図面下方の層面1p)に、間に接着層4を介して積層された前記透明基材層3とは別体の透明基材層3と、これら視野角制御層1及び2つの透明基材層3を挟むようにして、それぞれの透明基材層3に接して形成され、表面が粗面2aを呈する2層のハードコート層2とからなる。
【0060】
本実施形態では、図4からも判るように、上記第1の実施形態に対して、層構成的には、透明基材層3が1層追加され、追加された透明基材層3が視野角制御層1を挟む様に形成されている点、及び、この追加された透明基材層3が接着層4を介して形成されている点が異なる以外は、上記第1の実施形態と同じである。
よって、ここでは、これらの相違点に関係する事項についてのみ説明する。
【0061】
〔透明基材層3〕
本実施形態のように、視野角制御層1の表裏両側に設ける場合の、透明基材層3としては、上記第1の実施形態で説明した材料を用いることができる。
・・・略・・・
本実施形態においては、2層の透明基材層3に、同じポリカーボネート系樹脂シートを用いてある。
接着層4に接する側の透明基材層3は、この接着層4によって既に形成済みの視野角制御層1に接着積層することができる。このとき、ハードコート層2を形成ずみの透明基材層3を用いることができる。
【0062】
本実施形態のように、視野角制御層1を表裏両側から挟み込むように、車載用視野角制御シート10の表裏両側に透明基材層3を設けることで、反りを減らせることがあり、それによるシート面10pの傷付きを減らせる点で好ましい。
【0063】
〔接着層4〕
接着層4は、その両側の層を接合するための透明な層である。接着層4は接着の必要性に応じて設けられる。本実施形態では、接着層4は、視野角制御層1を形成した後の、この視野角制御層1の面に透明基材層3を接着するために、使われている。
・・・略・・・
【0064】
〔構成例〕
ここで、本実施形態の車載用視野角制御シート10について、より具体的な構成例を示す。本実施形態は、前記第1の実施形態に対して、透明基材層3が1層追加され、この透明基材層3が接着層4を介して積層されている点が異なるので、この追加の透明基材層3と接着層4について説明する。その他の構成は、光吸収部1bなどの各部の寸法を下記のように変更した他は、同じである。
視野角制御層1の厚みは、180μm、光吸収部1bは左右対称形である等角台形形状からなる楔状形状とした光吸収部1bの寸法は、高さAは150μm、幅は、台形の下底Bが22μm、上底Cが3μm、側面の傾斜角αは4.2°である。
よって、ハードコート層付きポリカーボネート系樹脂シートの片面に、視野角制御層1を形成する段階までは、同様にして作成される。
【0065】
実施形態では、上記第1の実施形態の具体的構成例において、上記ハードコート層付きポリカーボネート系樹脂シートの視野角制御層1の面に対して、ハードコート層2を直接に塗工形成する代わりに、接着層4を介して、上記ハードコート層付きポリカーボネート系樹脂シートと同じシートを接着積層する。接着層4には、アクリレート系重合性化合物を含む光硬化性樹脂からなる紫外線照射で硬化可能な透明な接着剤を、前記視野角制御層1の面と、前記ハードコート層付きポリカーボネート系樹脂シートの粗面2aとは反対側の面を対向させて、これらの面の間に前記接着剤を供給して貼り合わせた後、紫外線照射で接着剤を硬化させて、光硬化性樹脂の硬化物かなる接着層4とする。
この結果、図4に示した、車載用視野角制御シート10が得られる。
【0066】
〔本実施形態による効果〕
本実施形態によれば、フロントガラスなど乗り物の窓ガラスへの表示面の映り込みを改善できる上、空気層を挟んで車載用視野角制御シートがバックライトと表示パネルとの間に隣接配置されても、これらとの接触面に設けた粗面による光学密着防止効果が低下し難く、光学性能を低下し難くできる。
さらに、透明基材層3を2層、視野角制御層1を挟むように有するので、透明基材層3が1層のみの構成に比べてさらに、機械的強度が増して、取り扱い易くなり、皺や反りの発生を生じ難くすることができる。
・・・略・・・
【0072】
〔C〕車載用表示装置
本発明による車載用表示装置は、バックライトと、このバックライトからの照明光を表示光に利用して表示する表示パネルと、前記バックライトと前記表示パネルとの間に、粗面2aを呈するハードコート層2で形成されたシート面側では空気層を挟んで隣接配置された上記本発明の車載用視野角制御シート10とを含む、車載用の表示装置である。
図5の実施形態例で示す車載用表示装置100は、図面下側の光源側から順に、バックライト20、車載用視野角制御シート10、及び、表示パネル30を含んだ構成である。
図面上方が、車載用表示装置100の表示面を観察する観察者Vの側である。
同図では、車載用視野角制御シート10について、視野角制御層1、及び粗面2aを有するハードコート層2のみを描いてあり、この他の構成層、例えば透明基材層3、接着層4などは、含まれている構成であっても図示は省略してある。
また、同図に示す本実施形態における車載用視野角制御シート10は、シート面の両面に、粗面2aを呈するハードコート層2を有する場合の形態例である。
【0073】
〔車載用視野角制御シート10〕
車載用視野角制御シート10は、その視野角制御層1の光透過部1a及び光吸収部1bの配列方向を、表示パネル30の表示画面の天地方向になる様にして配置される。
・・・略・・・
【0078】
〔効果〕
以上のような構成とすることで、車載用表示装置100は、車載用視野角制御シート10による効果が得られ、バックライト10から表示パネル30に到達する照明光を集光して、表示パネル30からの表示光のうち、フロントガラスなど乗り物の窓ガラスのある方向に向かう光を少なくして、乗り物の窓ガラスへの映り込みを改善することができる。また、車載用視野角制御シート10として、前記変形形態で述べたような2方向の視野角を制御できるものを用いれば、フロントガラスとサイドウインドガラスへの映り込みも改善することができる。
こうして、車載用表示装置100は、乗り物のフロントガラス及びサイドウインドガラスのうち少なくとも一方の窓ガラスが、前記表示パネルからの表示光が遮られることなく到達する場所に設置される装置として好適なものとなる。
さらに、車載用表示装置100は、その車載用視野角制御シート10が、バックライト20及び表示パネル30に対して、これらとの間に接着剤層や粘着剤層などの樹脂層を介して固着することなく、空気層を挟んで隣接配置する構造が採用されているため、樹脂層で固着する構造に比べて、組み立てが容易であり、故障修理時でも、光源ユニットのみの交換、或いは、表示パネルのみの交換などが容易に行え、より低コストな補修費用とすることができる。
・・・略・・・
【0081】
〔適用する車〕
車載用表示装置100の用途は、フロントガラスなど乗り物の窓ガラスへの映り込みが生じ得る表示面を有し、この表示にバックライトを利用する車載用の表示装置であれば、特に制限はない。例えば、カーナビゲーション装置、カーオーディオ装置、計器盤、空調装置、、或いは、列車、バス、航空機など客席モニター表示装置などがある。
車載用表示装置100を適用可能な車は、フロントガラスやサイドウインドガラスなどの窓ガラスを有する乗り物であれば、特に制限はない。例えば、自動車、鉄道車両、船舶、航空機などである。
【符号の説明】
【0082】
1 視野角制御層
1a 光透過部
1 光
1c ランド部
1p 視野角制御層の層面
2 ハードコート層
2a 粗面
3 透明基材層
4 接着層
10 車載用視野角制御シート
10p シート面
20 バックライト
・・・略・・・
100 車載用表示装置
A 光吸収部の高さ
B 光吸収部の入光面側となる下底の幅
C 光吸収部の出光面側となる上底の幅
La,Lb,Lc,Ld 光
P 光吸収部又は光透過部の配列周期
Pin 入光面
Pout 出光面
Sin シート入光面側
Sout シート出光面側
V 観察者
α 光吸収部の側面のシート法線に対する傾斜角」

(ウ) 「【図1】



(エ) 「【図2】



(オ) 「【図3】



(カ) 「【図4】



(キ) 「【図5】



イ 引用発明
(ア) 引用例3の【0059】、【0064】、【0065】には、「第2の実施形態」の「構成例」として、「図4」にその「断面図」が示される「車載用視野角制御シート10」が記載されている。

(イ) 引用例3の上記(ア)の記載によれば、「第2の実施形態」の「構成例」は、「上記第1の実施形態の具体的構成例において、上記ハードコート層付きポリカーボネート系樹脂シートの視野角制御層1の面に対して、ハードコート層2を直接に塗工形成する代わりに、接着層4を介して、上記ハードコート層付きポリカーボネート系樹脂シートと同じシートを接着積層」し、「その他の構成は、光吸収部1bなどの各部の寸法を」、「視野角制御層1の厚みは、180μm、光吸収部1bは左右対称形である等角台形形状からなる楔状形状とした光吸収部1bの寸法は、高さAは150μm、幅は、台形の下底Bが22μm、上底Cが3μm、側面の傾斜角αは4.2°である」「ように変更した他は、同じ」としたものである。
また、「第1の実施形態の具体的構成例」については、引用例3の【0055】?【0057】に記載されている。
さらに、【0035】、【0082】及び図1、3によれば、「側面の傾斜角α」とは、「光吸収部1b」「の側面の」「車載用視野角制御シート10」の「法線Nに対する」「傾斜角」であると理解できる。

(ウ) 上記ア(ア)?(キ)及び上記(ア)、(イ)より、引用例3には、「第2の実施形態」の「構成例」として、次の「車載用視野角制御シート10」の発明が記載されているものと認められる。

「 透明基材層3に厚み150μmの透明なポリカーボネート系樹脂シートを用い、この透明基材層3の表側とする面に、厚み3μmで、算術平均粗さRaが0.2μmである粗面2aを呈するハードコート層2を塗工形成して、先ず、ハードコート層付きポリカーボネート系樹脂シートを作成し、
次に、上記ポリカーボネート系樹脂シートを帯状シートとして用いて、そのハードコート層2が形成された面とは反対側の面に、シリンダ状の成形型を用いた2P法により連続的に、光透過部1a及びランド部1cを形成すると同時に、光吸収部1bに対応する逆凹凸形状の溝状凹部を形成し、次いで、この溝状凹部内にワイピング法によって光吸収部1bを形成することで、視野角制御層1を形成し、
屈折率差は、光吸収部1bの屈折率nbが1.490、光透過部1aの屈折率naが1.550で、光透過部1aが光吸収部1bよりも0.06大きい屈折率差であり、
上記ハードコート層付きポリカーボネート系樹脂シートの視野角制御層1の面に対して、接着層4を介して、上記ハードコート層付きポリカーボネート系樹脂シートと同じシートを接着積層して、得られる車載用視野角制御シート10であって、
視野角制御層1の厚みは、180μm、左右対称形である等角台形形状からなる楔状形状とした光吸収部1bの寸法は、高さAは150μm、幅は、台形の下底Bが22μm、上底Cが3μm、側面の傾斜角αは4.2°であり、ここで、側面の傾斜角αは、光吸収部1bの側面の車載用視野角制御シート10の法線Nに対する傾斜角である、
車載用視野角制御シート10。」

(3) 対比
ア 光学シート、基材層
引用発明の「車載用視野角制御シート10」は、「透明基材層3に厚み150μmの透明なポリカーボネート系樹脂シートを用い」たものであり、また、また、前記(2)に記載のとおりの製造工程から理解される層構造を具備する。
そうすると、引用発明の「基材層3」は、本願発明の「基材層」に相当する。また、引用発明の「車載用視野角制御シート10」は、本願発明の「複数の層を有する」とされる「光学シート」に相当する。

イ 光透過部、光吸収部、連結部、光学機能層
引用発明の「視野角制御層1」は、「上記ポリカーボネート系樹脂シートを帯状シートとして用いて、そのハードコート層2が形成された面とは反対側の面に、シリンダ状の成形型を用いた2P法により連続的に、光透過部1a及びランド部1cを形成すると同時に、光吸収部1bに対応する逆凹凸形状の溝状凹部を形成し、次いで、この溝状凹部内に」「光吸収部1bを形成することで」、「形成」されたものである。また、引用発明の「光吸収部1bは左右対称形である等角台形形状からなる」。加えて、引用発明は「車載用視野角制御シート10」であるから、「光透過部1a」及び「光吸収部1b」が、「基材層3」の面に沿って交互に複数配列されていること、及び「ランド部1c」も含め、その文言が意味するとおりの機能及び形状を具備することは明らかである(当合議体注:製造工程や図4からも確認できる事項である。)。
そうしてみると、引用発明の「光透過部1a」は、本願発明の「光透過部」に相当するとともに、本願発明の「光透過部」の、「光を透過可能に前記基材層の層面に沿って配列される複数の」との要件を具備する。また、引用発明の「光吸収部1b」は、本願発明の「光吸収部」に相当するとともに、本願発明の「光吸収部」の、「隣り合う前記光透過部間に光を吸収可能に配列される」との要件を具備する。さらに、引用発明の「光透過部1a」及び「光吸収部1b」は、本願発明の「光透過部」及び「光吸収部」における、「前記光透過部及び前記光吸収部は層厚方向断面が台形」との要件を具備する。そして、引用発明の「ランド部1c」は、本願発明の「連結部」に相当するとともに、本願発明の「連結部」の、「隣り合う光透過部を連結させる光透過可能な」との要件を具備する。
加えて、引用発明の「視野角制御層1」は、本願発明の「光学機能層」に相当する。また、引用発明の「視野角制御層1」は、本願発明の「光学機能層」の、「前記基材層の一方の面に積層され」、「光透過部」、「光吸収部」「及び」「連結部を有する」との要件を具備する。また、引用発明の「車載用視野角制御シート10」は、本願発明の「光学シート」における、「前記連結部は前記光透過部の前記台形のうち長い下底同士を連結し、前記光吸収部は隣り合う前記光透過部と前記連結部とによる溝に形成されている」との要件を具備する。

ウ 寸法及び屈折率差
引用発明の「左右対称形である等角台形形状からなる楔状形状とした光吸収部1bの寸法は、高さAは150μm、幅は、台形の下底Bが22μm、上底Cが3μm、側面の傾斜角αは4.2°であ」る。また、「屈折率差は、光吸収部1bの屈折率nbが1.490、光透過部1aの屈折率naが1.550で、光透過部1aが光吸収部1bよりも0.06大きい屈折率差であ」る。
そうすると、引用発明の「車載用視野角制御シート10」は、本願発明の「光学シート」における、「前記光吸収部の厚さが60μm以上150μm以下」、「前記光透過部の方が前記光吸収部よりも屈折率が高く」及び「前記光透過部と前記光吸収部との界面は前記光学機能層の法線との成す角が0°以上10°以下」との要件を具備する。

エ 光学シート
上記ア?ウより、引用発明の「車載用視野角制御シート10」は、本願発明の「光学シート」の、「基材層と」、「光学機能層と、を備え」との要件を具備する。

(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「 複数の層を有する光学シートであって、
基材層と、
前記基材層の一方の面に積層され、光を透過可能に前記基材層の層面に沿って配列される複数の光透過部、隣り合う前記光透過部間に光を吸収可能に配列される光吸収部、及び、隣り合う光透過部を連結させる光透過可能な連結部を有する光学機能層と、を備え、
前記光透過部及び前記光吸収部は層厚方向断面が台形、
前記光透過部と前記光吸収部との界面は前記光学機能層の法線との成す角が0°以上10°以下、
前記光吸収部の厚さが60μm以上150μm以下、及び、
前記光透過部の方が前記光吸収部よりも屈折率が高く、
前記連結部は前記光透過部の前記台形のうち長い下底同士を連結し、前記光吸収部は隣り合う前記光透過部と前記連結部とによる溝に形成されている、
光学シート。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は、次の点で相違する。
(相違点1)
「隣り合う前記光透過部のピッチ」が、本願発明は、「30μm以上100μm以下」であるのに対して、引用発明は、これが不明である点。
また、本願発明は、「前記光学機能層の層厚方向断面において、隣り合う1つの前記光透過部と前記光吸収部との合計の断面積に対する前記光透過部の断面積が82.1%以上88.5%以下であ」るのに対して、引用発明は、そのようなものとなっているかどうか不明である点。

(相違点2)
「前記光透過部と前記光吸収部との屈折率の差」が、本願発明は、「0.07以上0.14以下であ」るのに対して、引用発明は、「0.06」である点。

(4) 判断
ア 相違点2
相違点2について、先に検討する。
(ア) 引用発明の「光透過部1aの屈折率na」と「光吸収部1bの屈折率nb」との「屈折率差」について、引用例3の【0038】には、「屈折率nbと屈折率naの大きさの関係を調整することで、光吸収部1bと光透過部1aとの界面での光の屈折及び全反射を含む反射光量を調整して、集光機能及び光線透過率を調整することができる。」、「全反射の光量を増やせる点で、屈折率nbは屈折率naよりも小さくするのが好ましい。例えば、屈折率nbは屈折率naよりも0.01以上、より好ましくは0.06?0.07、小さくする。こうした屈折率の差は、汎用的な材料で容易に屈折率差を大きくとることができる利点がある。」と記載されている。
引用例3の上記記載に接した当業者は、全反射光量の増加の観点からは、汎用的な材料で容易に実現できる屈折率差(na-nb)として、0.07(上限)が最も好ましいものと理解できる。

(イ) 引用例3の【0021】?【0024】には、「視野角制御層1」における全反射の光量と集光機能及び光線透過率との関係が記載されているところ、【0023】の「光吸収部1bの屈折率nbが、光透過部1aの屈折率naよりも小さく設定されていると、光吸収部1bの側面に臨界角以上の入射角で到達した光Lcは、光吸収部1bで吸収されることなく、全反射される。このため、全反射作用によって、光線透過率が向上する。」との記載によれば、当業者は、光線透過率を高めるには、全反射作用・全反射光量を増加させればよいと理解できる。

(ウ) そうしてみると、引用例3の上記(ア)、(イ)の記載に基づき、引用発明において、汎用的な材料により、「光透過部1a」と「光吸収部1b」との「屈折率差」を0.07(上限)として、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、全反射光量の増加による光線透過率の向上を考える当業者が容易になし得ることである。

(エ) あるいは、引用例3の上記(ア)の記載からは、全反射の光量の増加を重視する場合、汎用的な材料によらずに、当該屈折率差(na-nb)を0.07を超えて設定してもよいと理解できる。してみると、引用発明において、「光透過部1a」と「光吸収部1b」との「屈折率差」を0.08?0.1程度とし、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、全反射量の増加、光線透過率の向上をより重視する当業者が容易になし得たことである(当合議体注:例えば、本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開2006-171700号公報(以下、同じく「引用例4」という。)の【0051】、【0057】?【0059】(「レンズ部材料(樹脂)屈折率:1.56」、「楔形部主材料屈折率:1.48」)や。本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開2011-508262号公報の【0002】、【0032】(「本発明は、0.005?0.1などの小さい屈折率差・・・略・・・を有する材料を含むLCFを目的とする」等)、【0056】【表2】(「N1-N2」「0.1等」)等に記載されているように、光(視野角)制御フィルムにおいて、0.08?0.1程度の屈折率差は、普通に想定される値である。)。

イ 相違点1について
(ア) 引用発明の「視野角制御層1を構成する各部の寸法」について、引用例3の【0035】には、「光吸収部1bの配列周期Pは、10?200μmとすることができる。この配列周期Pは、光透過部1aの配列周期Pでもある。」との記載がある。そうしてみると、この範囲内で、引用発明の「光吸収部1b」の配列周期Pを設計することは、当業者が試みる事項といえる。

(イ) 一方、引用例4(【0001】?【0004】、実施例1(【0050】)、図2、図8、図9等)には、カーナビゲーションシステム等の車載型の液晶表示装置において、光源と表示パネルとの間に設置される視野角制御シートの光透過部(断面形状が台形のレンズ部であって、台形の長さが短い上底が光源側となる)のピッチを83μm(特に、実施例1【0050】)とすることが記載されている。

(ウ) 引用発明の具体化を考える当業者であれば、「光吸収部1b」あるいは「光透過部1a」の配列周期として、引用発明と同じ用途・機能・配置の引用例4に記載の視野角制御シートの光透過部の83μmのピッチを参考にすることができる。
してみると、引用発明において、光透過部が、83μmのピッチを有するものとして具体化し、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
そして、引用発明3において上記の設計変更を施したものは、「光吸収部1b」の「下底B」が「22μm」、「上底C」が「3μm」より、「光透過部1a」の上底が「61μm」、下底が「80μm」であり、光透過部と光吸収部との合計の断面積に対する光透過部の断面積が84.9%(当合議体注:「光透過部1a」の面積は、1/2×(61(μm)+80(μm))×150(μm)=10575(μm^(2))、「光透過部1a」と「光吸収部1b」との合計の面積は、83(μm)×150(μm)=12450(μm^(2))となるから、10575/12450=0.84939・・・が得られる。)となるから、上記相違点3に係る本願発明の構成を具備するものとなる。

ウ 本願発明の効果について
(ア) 本願発明の効果として、本件出願明細書の段落【0013】には、【発明の効果】として、「遮光性を備えつつも光の利用効率を高く維持することができる。」と記載されている。

(イ) しかしながら、引用発明も遮光性を当然に有する。また、引用例3の【0038】によれば、引用発明の屈折率差0.06は、「汎用的な材料で容易に屈折率差を大きくと」ったものであるから、光線透過率が大きく、したがって、光の利用効率も高い。また、引用発明において、前記ア(ア)で述べたとおり創意工夫する当業者が期待する効果でもある。

エ 令和2年9月8日提出の意見書における請求人の主張について
(ア) 請求人は、同意見書の「2.2.理由2(進歩性)について」において、引用例3について、「引用文献3は、明細書段落[0038]には光透過部と光吸収部との屈折差を0.07よりも小さくする旨が記載されています。本発明では屈折率差が比較的小さい場合を効果の観点から除外しています。」、「引用文献4にはその表1の実施例2に屈折差が0.08である例が開示されておりますが、本発明の上記課題を解決するために、この引用文献4から屈折率差のみを抽出して引用文献3に組み合わせることは当業者であっても容易に想到することができるとは言えません。」、「以上より、・・・略・・・及び引用文献3のいずれを主引例とした場合であっても、本発明はこれら文献に基づいて容易に想到することができた発明ではありませんので理由2にかかる拒絶理由も解消しました。」旨主張している。

(イ) しかしながら、上記アで述べたとおり、当該屈折率差を「0.07」とすることは、引用例3の【0038】に記載・示唆されていることである。あるいは、引用例3の【0038】に記載・示唆に基づき、全反射光量の増加を重視する当業者が、汎用的な材料によらずに、当該屈折率差を0.08?0.1程度とすることは容易である。
したがって、請求人の同意見書の主張を採用することはできない。

2 理由3(サポート要件)についての判断
(1) 本願発明が解決しようとする課題は、「遮光性を備えつつも光の利用効率を高く維持することができる光学シートを提供することを課題とする。」、「また、この光学シートを備える映像源ユニット及び映像表示装置を提供する。」(本件出願明細書【0006】)ことにある。

(2) 本件出願の請求項1の記載によれば、本願発明は、「光学シート」において、「前記光透過部及び前記光吸収部は層厚方向断面が台形」、「前記光透過部と前記光吸収部との界面は前記光学機能層の法線との成す角が0°以上10°以下」、「隣り合う前記光透過部のピッチが30μm以上100μm以下、前記光吸収部の厚さが60μm以上150μm以下」、「前記光透過部の方が前記光吸収部よりも屈折率が高く、前記光透過部と前記光吸収部との屈折率の差が0.07以上0.14以下であり」、「前記光学機能層の層厚方向断面において、隣り合う1つの前記光透過部と前記光吸収部との合計の断面積に対する前記光透過部の断面積が82.1%以上88.5%以下であり」りさえすれば(以下、この要件を「光透過部・光吸収部要件」という。)、光学シートのいずれの面を入射面としてもよいものである(光透過部の長い下底側から光が入射し、短い上底側から出射する態様のものを含むものである)。

(3) 上記の「光透過部・光吸収部要件」に関し、本件出願明細書の【0035】には、「本発明では、隣り合う1つの光透過部22と光吸収部23との合計の断面積(図4に表れる断面の断面積であり、光透過部22及び光吸収部23が延びる方向に直交する方向の断面積)に対する光透過部22の断面積の割合(光透過部断面積率)が百分率で78.2%以上88.5%以下とする。」、「これにより、所定の遮光性を有しつつも光の利用効率を高い水準とすることができる。この光透過部断面積率が78.2%より小さいと光源から供給された光の利用効率が低くなってしまう。一方、光透過部断面積率が88.5%を超えると遮光性が低下してしまい、除外すべき光も透過させてしまう。また、光透過部断面積率が88.5%を超えると光吸収部がさらに微細となるので精度良い光吸収部を作製することが困難になる。」と記載されている。
また、本件出願明細書の【0032】には、「光透過部22の屈折率Ntと光吸収部23の屈折率Nrとの屈折率の差は特に限定されることはないが、0.05以上が好ましい。一方、屈折率差の上限も特に限定されることはないが、材料の入手性の観点から当該屈折率差は0.14以下であることが好ましい。」、【0035】には、「光吸収部1bの主切断面形状に於ける寸法は、・・・略・・・例えば、高さAは光透過部1aの厚み以下であり10?200μm、幅は、台形形状の場合で言えば、下底Bは5?50μm、上底Cは2?10μm、シート面10pの法線Nに対する、光吸収部1bの側面の傾斜角αは0?15°とすることができる。」、「光吸収部1bの配列周期Pは、10?200μmとすることができる。この配列周期Pは、光透過部1aの配列周期Pでもある。」、【0036】には、「その他、特に限定されることはないが、例えば次のように光透過部22及び光吸収部23が形成される。・・・略・・・光透過部22及び光吸収部23のピッチは30μm以上100μm以下であることが好ましい。・・・略・・・光吸収部23と光透過部22との斜辺における界面と、光学機能層21の層面の法線と、の成す角は0°以上10°以下であることが好ましい。・・・略・・・光吸収部23の厚さは60μm以上150μm以下であることが好ましい。これらの範囲内とすることにより、光の透過と光の吸収とのバランスがさらに良好になる。」と記載されている。
そして、同【0050】?【0063】及び図6?14には、比較例1?3とともに、「光学シートの実施例として、以下[ア]?[カ]の実施例が示されている。
[ア] 光透過部の屈折率を1.56、光吸収部(のバインダー)の屈折率を1.49、光透過部の断面を等脚台形(傾斜角1.7°)、上底を29μm、下底を35μm、高さ102μmとし、光吸収部の断面を等脚台形、上底を4μm、下底を10μm、高さを102μmとした、光透過部断面積率が82.1%の実施例1(図6)。
[イ] 光透過部の屈折率を1.56、光吸収部の屈折率を1.49、光透過部の断面を等脚台形(傾斜角1.4°)、上底を28μm、下底を33μm、高さ102μmとし、光吸収部の断面を等脚台形、上底を6μm、下底を11μm、高さを102μmとした、光透過部断面積率が78.2%の実施例2(図7)。
[ウ] 光透過部の屈折率を1.56、光吸収部の屈折率を1.49、光透過部の断面を等脚台形(傾斜角1.4°)、上底を32μm、下底を37μm、高さ102μmとし、光吸収部の断面を等脚台形、上底を2μm、下底を7μm、高さを102μmとした、光透過部断面積率が88.5%の実施例3(図8)。
[エ] 光透過部の屈折率を1.56、光吸収部の屈折率を1.49、光透過部、光吸収部の2つの脚部の傾斜角が異なり、一方が3.4°、他方は0°(光学シートの層面に対する法線と平行)であり、光透過部の上底を29μm、下底を35μm、高さ102μmとし、光吸収部の上底を4μm、下底を10μm、高さを102μmとした、光透過部断面積率が82.1%の実施例4(図9)。
[オ] 光透過部の屈折率を1.56、光吸収部の屈折率を1.49、光透過部、光吸収部の2つの脚部の傾斜角が異なり、一方が2.8°、他方は0°であり、光透過部の上底を28μm、下底を33μm、高さ102μmとし、光吸収部の上底を6μm、下底を11μm、高さを102μmとした、光透過部断面積率が78.2%の実施例5(図10)。
[カ] 光透過部の屈折率を1.56、光吸収部の屈折率を1.49、光透過部、光吸収部の2つの脚部の傾斜角が異なり、一方が2.8°、他方は0°であり、光透過部の上底を32μm、下底を37μm、高さ102μmとし、光吸収部の上底を2μm、下底を7μm、高さを102μmとした、光透過部断面積率が88.5%の実施例6(図11)。
また、面光源装置の出射光側に実施例1?6の光学シートを配置し、光学シートの出光面側に液晶パネルを配置した6.5インチ液晶表示装置について、「積分輝度」(±80°までの10°毎の輝度の積分値)及び「遮光性」(正面輝度に対する45°の輝度の比)の測定を行った結果として、実施例1?6の「積分輝度(cd/m^(2))」及び「遮光性」が、それぞれ、「2841」及び「6.7%」、「2610」及び「5.2%」、「3200」及び「9.8%」、「2841」及び「6.7%」、「2610」及び「5.2%」、「3200」及び「9.8%」となることが示されている。

(4) 上記3の実施例及び「積分輝度」及び「遮光性」の測定結果より、光透過部の屈折率を1.56、光吸収部(のバインダー)の屈折率を1.49(屈折率差0.07)とし、図6?図11に示された光透過部、光吸収部の特定の寸法・形状・傾斜角・ピッチの光学シートを、光源と液晶パネルとの間に、光透過部の短い上底が光源側、長い下底が液晶パネル側となる向きに配置した場合に、実施例1?5の光学シートが、「光透過部断面積率」が「72.3?78.1%」の比較例1?3に比べて積分輝度(光利用効率)が高く、また、10%以下となり良好な遮光性を示すことが理解される。
しかしながら、光透過部及び光吸収部が交互に配列された光学シートにおいては、光透過部及び光吸収部が台形である場合、光透過部の短い上底側から光が入射するのか、あるいは、光透過部の長い下底側から光が入射するのか、に依存して、出射光の視野角特性(遮光性)や入射光に対する光利用効率が変化することは、技術常識である。
具体的には、光透過部の長い下底側から光が入射し、光透過部の短い上底側から出射する場合には、界面での反射により光が拡散することとなるから、視野角が広がり、視野角特性(遮光性)に悪い影響を与える。特に、屈折率差(例えば、0.14等)が大きい場合には、全反射により拡散される光量が増大し、視野角特性(遮光性)の劣化も大きくなる。また、光学シートのどちら側から入射するかによって、入射光に対する開口率が異なることとなり、光利用効率に大きな影響を与える。
そして、光透過部及び光吸収部が交互に配列された光学シートにおいて、上記の「光透過部・光吸収部要件」を満たしさえすれば、遮光性を備えつつ、高い光利用効率を維持できるとの技術常識もない。

(5) そうしてみると、たとえ技術常識を参酌したとしても、発明の詳細な説明の記載から、当業者が、発明の課題を解決できると認識できるのは、光源と液晶パネルとの間に、光透過部の短い上底が光源側、長い下底が液晶パネル側となる向きに配置され、光透過部の屈折率を1.56、光吸収部(のバインダー)の屈折率を1.49(屈折率差0.07)とし、図6?図11に示された光透過部、光吸収部の特定の寸法・形状・傾斜角・ピッチの「光透過部断面積率」が「78.2?88.5%」の「光学シート」の各実施例から理解される範囲に限られるというべきであって、上記(2)に示した、光学シートのいずれの面を入射面としてもよい態様のもの(透過部の長い下底側から光が入射し、短い上底側から出射する態様を含むもの)までもが、発明の課題を解決できると当業者が認識することはできない。

したがって、本願発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではなく、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし発明の課題が解決できると認識できる範囲のものでもない。
よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるということができない。

第3 むすび
本願発明は、引用例3に記載された発明及び引用例4に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本件出願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-11-10 
結審通知日 2020-11-17 
審決日 2020-12-04 
出願番号 特願2015-29903(P2015-29903)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
P 1 8・ 537- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 草野 顕子  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 神尾 寧
河原 正
発明の名称 光学シート、映像源ユニット及び映像表示装置  
代理人 山本 典輝  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ