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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1370531 |
審判番号 | 不服2020-257 |
総通号数 | 255 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-03-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-01-09 |
確定日 | 2021-01-21 |
事件の表示 | 特願2018-533990「耐PID且つ耐風塵の結晶シリコン太陽電池モジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月30日国際公開、WO2017/049798、平成30年 9月20日国内公表、特表2018-527763〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2015年12月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年9月23日、中国)を国際出願日とする出願であって、その後の主な手続経緯は、以下のとおりである。 平成30年 3月16日 :国内書面・出願審査請求書の提出 平成31年 1月30日付け:拒絶理由通知(同年2月5日発送) 同年 4月10日 :手続補正書・意見書の提出 令和元年 8月30日付け;拒絶査定(同年9月10日送達。 以下「原査定」という。) 令和2年 1月 9日 :審判請求書・手続補正書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1ないし3に係る発明は、令和2年1月9日付けの手続補正により補正された請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 耐PID且つ耐風塵の結晶シリコン太陽電池モジュールであって、太陽電池ストリングと、前記太陽電池ストリングの両側に積層されたポリオレフィン層と、そのうちの一方の前記ポリオレフィン層上に積層された前板ガラス層と、他方の前記ポリオレフィン層上に積層された裏板と、前記裏板及び前記前板ガラス層を挟み込むためのフレームと、前記裏板上に取り付けられ、 前記太陽電池ストリングと外部回線とを接続するための接続箱と、を含み、前記ポリオレフィン層の厚さは0.25?0.8mmであり、前記裏板の材質はポリアミドであることを特徴とする耐PID且つ耐風塵の結晶シリコン太陽電池モジュール。」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由の概要は、以下のものである。 【理由】(進歩性) この出願の請求項1ない5に係る発明は、下記の引用文献1ないし引用文献4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 <引用文献等一覧> 1.特開2014-011270号公報 2.米国特許出願公開第2010/0324207号明細書 (周知技術を示す文献) 3.米国特許出願公開第2014/0332063号明細書 (周知技術を示す文献) 4.中国実用新案第203423205号明細書 第4 引用文献 1 引用文献1 (1)原査定の拒絶の理由において、引用文献1として引用された「特開2014-011270号公報」(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、以下の記載がある。 ア 「【請求項1】 1以上の太陽電池素子からなる太陽電池素子群と、 該太陽電池素子群の外表面を覆っている、非エステル系樹脂を主成分とする樹脂からなる封止材とを備えており、 前記太陽電池素子群の前記外表面からの前記封止材の最小厚みをT〔m〕とし、前記封止材の飽和含水時における絶縁破壊電圧をVb〔V/m〕とした場合に、前記最小厚みTと前記絶縁破壊電圧Vbとの積が最大システム電圧以上である太陽電池モジュール。 【請求項2】 前記非エステル系樹脂がポリエチレン系樹脂である請求項1に記載の太陽電池モジュール。」 イ 「【0015】 そこで、本発明の目的の一つは、湿度が高い環境下でのPIDの発生を抑制した太陽電池モジュールおよびそれを用いた太陽光発電システムを提供することである。」 ウ 「【0022】 <<太陽電池モジュール>> 図1に示すように、本実施形態に係る太陽電池モジュールXは、例えば、光が入射される透光性基板1と、後述するように非エステル系樹脂を主成分として含む第1封止材2aと、インターコネクタ5で互いに電気的に接続された太陽電池素子3と、同様に非エステル系樹脂を主成分として含む第2封止材2bと、保護シートとしての裏面保護材4とが、順次積まれて構成されている。 【0023】 … 【0025】 <透光性基板> 透光性基板1は、主として光が入射する受光面と、第1封止材2aと接着される裏面とを有している。このような透光性基板1は、例えば、青板ガラス(ソーダライムガラス)または青板ガラスから鉄分を除いた白板ガラスもしくは硬質ガラス等のガラス、透明のポリカーボネート樹脂もしくは透明のアクリル樹脂などの合成樹脂等、または硬質で透光性を有する基板等が使用可能である。 【0026】 … 【0030】 封止材2は非エステル系の樹脂を主成分として含むものであればよい。ここで、「主成分として含む」とは、封止材2を100重量部とした場合に非エステル系の樹脂を80重量部以上含むものをいい、以下同様とする。また、「非エステル系の樹脂」とは、例えば、エチレン‐α‐オレフィン共重合体を主成分とし、ポリエチレン化合物を重合した樹脂をいう。 【0031】 … 【0041】 次に、単位重量あたりで飽和含水した状態と同等に吸水した、封止材2と同じ材質の試料を準備する。試料は、できるだけ封止材2として用いるときに近い形状であることが好ましく、例えば厚さ1mmのシート状が好ましい。封止材2に吸水させる方法は、飽和含水時と同等の吸水量になればよく、100℃の0.1%の食塩水での煮沸(IEC1109準用)、室内環境での自然な吸湿、上記耐湿性試験と同様の試験槽への投入、または温水への浸漬を行なってもよい。 【0042】 … 【0047】 <太陽電池素子群> 太陽電池素子群3’は、入射される太陽光を電気に変換する機能を有している。本実施形態における太陽電池素子群3’は、複数の太陽電池素子3をインターコネクタ5および接続配線6で電気的に接続してなるものである。太陽電池素子3は、例えば、厚み0.1?0.4mm程度の単結晶シリコンまたは多結晶シリコンなどからなる。太陽電池素子3の内部にはpn接合が形成されている。そして、太陽電池素子3の受光面と裏面とには、それぞれ電極が設けられており、さらに、太陽電池素子3の受光面に反射防止膜を設けてもよい。太陽電池素子3の大きさは、多結晶シリコンであれば70?160mm角程度である。このような太陽電池素子3は、インターコネクタ5および接続配線6によって、直列または並列等に電気的に接続されて太陽電池素子群3’を構成している。 【0048】 … 【0049】 <裏面保護材> 裏面保護材4は、太陽電池素子3、第1封止材2aおよび第2封止材2bに水分が入り込むのを低減する機能を有する。このような裏面保護材4としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)シート、ポリエチレンナフタレート(PEN)シートもしくはポリフッ化ビニル(PVF)シート、これらの積層物、アルミ箔を挟持した耐候性を有するフッ素系樹脂シート、または、アルミナもしくはシリカを蒸着したポリエチレンテレフタレ-ト(PET)シートなどが用いられる。 【0050】 <インターコネクタおよび接続配線> インターコネクタ5および接続配線6は、太陽電池素子3同士を電気的に接続する機能を有する。このようなインターコネクタ5および接続配線6は、形状および材質等は特に限定されないが、例えば、厚さ0.1mm程度、幅1mm?6mm程度の銅箔の全面をハンダコートしたものを、所定の長さに切断して、太陽電池素子3の電極上などにハンダ付する形態が好適である。」 エ 図1は、以下のものである。 X:太陽電池モジュール 1:透光性基板 2、2’:封止材 2a、2a’:第1封止材 2b、2b’:第2封止材 3:太陽電池素子 4:裏面保護材 5:インターコネクタ 6:接続配線 7:端子ボックス 8:フレーム (2)引用文献1に記載された発明 ア 上記(1)ア及びイの記載からして、引用文献1には、 「1以上の太陽電池素子からなる太陽電池素子群と、 該太陽電池素子群の外表面を覆っている、ポリエチレン系樹脂を主成分とする樹脂からなる封止材とを備えており、 前記太陽電池素子群の前記外表面からの前記封止材の最小厚みをT〔m〕とし、前記封止材の飽和含水時における絶縁破壊電圧をVb〔V/m〕とした場合に、前記最小厚みTと前記絶縁破壊電圧Vbとの積が最大システム電圧以上である、PIDの発生を抑制した太陽電池モジュール。」が記載されているものと認められる。 イ 上記(1)ウの記載を踏まえて、図1を見ると、以下のことが理解できる。 (ア)「太陽電池素子群」は、複数の単結晶シリコンからなる太陽電池素子をインターコネクタおよび接続配線で電気的に接続してなること。 (イ)「封止材」は、「T〔m〕×Vb〔V/m〕≧最大システム電圧」を満たすように、例えば、厚さ1mmのシート状に形成されること。 (ウ)「太陽電池モジュール」は、 a 硬質ガラスからなる透光性基板と、ポリエチレンテレフタレート(PET)シートからなる裏面保護材を備えること。 b 裏面保護材板と透光性基板を挟み込むためのフレームを備えること。 c 裏面保護材板に取り付けられた端子ボックスを備えること。 ウ 上記ア及びイの検討からして、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「PIDの発生を抑制した太陽電池モジュールであって、 硬質ガラスからなる透光性基板と、 複数の単結晶シリコンからなる太陽電池素子をインターコネクタおよび接続配線で電気的に接続してなる太陽電池素子群と、 ポリエチレンテレフタレート(PET)シートからなる裏面保護材と、 1以上の太陽電池素子と、太陽電池素子同士を電気的に接続するインターコネクタおよび接続配線からなる太陽電池素子群と、 前記太陽電池素子群の外表面を覆っている、ポリエチレン系樹脂を主成分とする樹脂からなる封止材と、 前記裏面保護材板と前記透光性基板を挟み込むためのフレームと、 前記裏面保護材板に取り付けられた端子ボックスと、を備え、 前記封止材の厚みは、 前記太陽電池素子群の前記外表面からの前記封止材の最小厚みをT〔m〕とし、前記封止材の飽和含水時における絶縁破壊電圧をVb〔V/m〕とした場合に、 T〔m〕×Vb〔V/m〕≧最大システム電圧を満たすように、例えば、厚さ1mmのシート状に形成される、PIDの発生を抑制した太陽電池モジュール。」 2 引用文献4 (1)原査定の拒絶の理由において、引用文献4として引用された「中国実用新案第203423205号明細書」(以下「引用文献4」という。)には、以下の記載がある(なお、日本語訳は、当審で作成した。)。 ア 「 」(第2頁上段) (日本語訳 1.以下を特徴とする積層が設置する表面硬化ガラス層(3)、第1のフィル層(41)、電 池レイヤーセット(5)、第1のバスバー(21)、EPE剥離層(1)、第2のバスバー(22)、第2のフィルム層(42)とバックシート層(6)を含むポリオレフィンフィルムパッケージ太陽電池ユニット:前記第1のフィルム層(41)と第2のフィルム層(42)はポリオレフィンフィルム膜とし、前記太陽電池ユニットは周辺でアルミの枠(8)から密封する。 2.以下を特徴とする請求項1に記載のポリオレフィンフィルムパッケージ太陽電池ユニット: 前記バックシート層(6)外側の引き出し線部の位は接続箱(7)を取り付け、前記電池レイヤーセット(5)中の引き出し線の着こなした前記EPEの剥離層(1)及び前記バックシート層(6)は且つ前記接続箱(7)の端子スタッド上に溶接する。 3.以下を特徴とする請求項1に記載のポリオレフィンフィルムパッケージ太陽電池ユニット: 前記ポリオレフィンフィルム膜の厚さは0.4-0.6mmとする。) イ 「 」(第3頁上段) (日本語訳 背景技術 [0002] エネルギー欠乏と環境保護は人類が直面した共通の問題である。21世紀の人類にとっては、日光はして限りなく利用することができて、エコの新型再生可能エネルギ、それの自身どうしても財産。全世界のエネルギー不足の背景で、太陽エネルギーなどの再生可能エネルギの地位はますます重要である。 [0003] 現在光電モジュール生産加工過程にEVAを用いてパッケージゲルフィルムとすること必要に、太陽電池ユニットは使用プロセスに容易にEVAが現われて劣化し、誘導アセンブリ光線透過率が黄変して低下し、電力減衰失効などの問題は、そして太陽光作用で、一面において酢酸を放出して太陽電池のバックプレート、電極と溶接ストリップなどの金属製部分を腐食する可能性があり、深刻な腐食はさらには開回路を引き起こすことができる。一方、現在光電モジュール適用範囲の拡大にかんがみて、湿気地区にPID(潜在的電位誘導減衰)の現象が発生してますます多く、モジュールの発電効率は厳しさを減衰してそれで、EVAは封入材料が高温高湿条件で、容易にリークパスを形成することとし、直接発電所投資収益率リスクを増大させる。 [0004] ポリオレフィン熱可塑性エラストマはエチレンを基礎とした共重合体である。抗紫外線、水蒸気透過率が低いこと、低温耐衝撃性能の高い、やさしい加工などの特徴を有する。EVA材料と比較して、ポリオレフィンは優れた耐候性と材料安定性を所有する。) ウ 「 」(第3頁中段) (日本語訳 [0008] 好ましくは、前記ポリオレフィンフィルム膜の厚さは0.4-0.6mmとする。] (2) 引用文献2に記載された技術事項 上記(1)の記載からして、引用文献2には、次の技術事項(以下「技術事項1」という。)が記載されていると認められる。 「太陽電池ユニットにおいて、膜厚0.4ないし0.6mmのポリオレフィンフィルムを利用することにより、PID現象を解決できること。」 第5 当審の判断 1 対比 (1)本願発明と引用発明とを対比するといかのことがいえる。 ア 引用発明の「太陽電池モジュール」は、本願発明の「太陽電池モジュール」に相当する。 以下、同様に、 「PIDの発生を抑制した」は、「耐PID」に、 「単結晶シリコン」は、「結晶シリコン」に、 「硬質ガラスからなる透光性基板」は、「前板ガラス層」に、 「裏面保護材」は、「裏板」に、 「インターコネクタおよび接続配線」は、「太陽電池ストリング」に、 「ポリエチレン系樹脂を主成分とする樹脂からなる封止材」は、「ポリオレフィン層」に、 「面保護材板と透光性基板を挟み込むためのフレーム」は、「裏板及び前板ガラス層を挟み込むためのフレーム」に、 「裏面保護材板に取り付けられた端子ボックス」は、「裏板上に取り付けられ、太陽電池ストリングと外部回線とを接続するための接続箱」に、それぞれ、相当する。 イ 上記アを整理すると、本願発明と引用発明とは、 「耐PIDの結晶シリコン太陽電池モジュールであって、太陽電池ストリングと、前記太陽電池ストリングの両側に積層されたポリオレフィン層と、そのうちの一方の前記ポリオレフィン層上に積層された前板ガラス層と、他方の前記ポリオレフィン層上に積層された裏板と、前記裏板及び前記前板ガラス層を挟み込むためのフレームと、前記裏板上に取り付けられ、前記太陽電池ストリングと外部回線とを接続するための接続箱と、を含む」点で一致する。 ウ 引用発明の「封止材」の厚みは、所定厚であることから、本願発明と引用発明とは、「ポリオレフィン層の厚さは所定厚である」点で一致する。 エ 引用発明の「ポリエチレンテレフタレート(PET)シートからなる裏面保護材」と本願発明の「『材質はポリアミドである』『裏板』」とは、「裏板の材質は樹脂である」点で一致する。 (2)上記(1)から、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致する。 〈一致点〉 「耐PIDの結晶シリコン太陽電池モジュールであって、 太陽電池ストリングと、 前記太陽電池ストリングの両側に積層されたポリオレフィン層と、 そのうちの一方の前記ポリオレフィン層上に積層された前板ガラス層と、 他方の前記ポリオレフィン層上に積層された裏板と、 前記裏板及び前記前板ガラス層を挟み込むためのフレームと、 前記裏板上に取り付けられ、前記太陽電池ストリングと外部回線とを接続するための接続箱と、を含み、 前記ポリオレフィン層の厚さは所定厚であり、前記裏板の材質は樹脂である、耐PIDの結晶シリコン太陽電池モジュール。」 また、両者は、以下の点で相違する。 〈相違点1〉 ポリオレフィン層の厚さに関して、 本願発明は、「0.25?0.8mm」であるのに対して、 引用発明は、「太陽電池素子群の外表面からの封止材の最小厚みをT〔m〕とし、前記封止材の飽和含水時における絶縁破壊電圧をVb〔V/m〕とした場合に、 T〔m〕×Vb〔V/m〕≧最大システム電圧を満たすように、例えば、厚さ1mmのシート状に形成される」ものであるものの、「0.25?0.8mm」であるか否か不明である点。 〈相違点2〉 裏板の材質に関して、 本願発明は、「ポリアミド」であるのに対して、 引用発明は、「ポリエチレンテレフタレート(PET)」である点。 〈相違点3〉 太陽電池モジュールの特性に関して、 本願発明は、「耐風塵」であるのに対して、 引用発明は、そのようなものであるか否か不明である点。 2 判断 (1)上記〈相違点1〉について検討する。 ア 本願発明において、ポリオレフィン層の厚さを「0.25?0.8mm」とする技術的意義について、本願明細書の記載を参酌して検討する。 本願明細書には、以下の記載がある。 「【0015】 …ポリオレフィン層2は二層あり、それぞれ太陽電池ストリング1の両側に積層され、必要に応じて熱硬型又は熱可塑型のものを採用可能であり、厚さが0.25?0.8mmであることが好ましく、その具体的なパラメータについて、波長が382?1100nm、可視光透過率が>90%、横収縮率が≦2%、縦収縮率が≦5%、架橋度が60?80%、吸水率が≦0.01%である。」 上記記載からして、厚みは、 可視光透過率、収縮率、架橋度及び吸水率を勘案して決められたものであり、その上限値が0.8mmである点、及び、下限値が0.25mmである点に臨界的な技術的意義は認められない。 イ 一方、引用発明の「封止材」の厚みは、「T〔m〕×Vb〔V/m〕≧最大システム電圧を満たすように、例えば、厚さ1mmのシート状に形成」されるものであって、「厚さ1mm」が必須とはいえず、むしろ、絶縁破壊電圧(Vb〔V/m〕)が十分大きければ、厚さを薄くすることもできると認められるところ、引用文献2には、以下の「技術事項1」が記載されている。 「太陽電池ユニットにおいて、膜厚0.4ないし0.6mmのポリオレフィンフィルムを利用することにより、PID現象を解決できること。」 ウ また、「封止材」の厚みが大きいほど、光線透過率に影響を与えることは当然のことであるから、引用発明において、「封止材」として、ポリオレフィン樹脂を選択し、その厚みを、1mm以下の、例えば、「0.4?0.6mm程度」の適宜の値にすることは、「(具体的なポリオレフィン樹脂の)絶縁破壊電圧(Vb〔V/m〕)」を勘案して、当業者が容易になし得ることである。 厚みと光線透過率の関係については、必要ならば、例えば、特開2015-162498号公報(【要約】、【0071】及び【0076】)を参照。 ちなみに、【0071】には、以下の記載がある。 「【0071】 本発明の太陽電池封止材は、通常、0.1?1mm程度の厚みのシート状に成形して使用される。0.1mmよりも薄いと強度が小さく、接着が不十分となり、1mmよりも厚いと透明性が低下して問題になる場合がある。好ましい厚さは、0.1?0.8mmである。」 エ 以上の検討からして、引用発明において、上記〈相違点1〉に係る本願発明の「(ポリオレフィン層の厚さ)0.25?0.8mm」とすることは、当業者が上記「技術事項1」に基づいて容易になし得ることである。 (2)上記〈相違点2〉について検討する。 ア 本願発明において、裏板の材質を「ポリアミド」とする技術的意義を本願明細書の記載を参酌して検討する。 本願明細書には、以下の記載がある。 「【0016】 …裏板4の材質はポリアミドであり、その具体的なパラメータについて、水蒸気バリアが1.25g/dm_(2)であり、反射率が従来の裏板より10%程度高く、従来のPETフッ素裏板を捨て去って無フッ素汚染の要求を満たすことで、環境に対して優しくなっており、さらに、以下のような予想できない効果がある。即ち、モジュールの耐風塵性能を3倍以上向上させ、アンモニア・アルカリ耐性も普通の裏板より優れており、この結晶シリコン太陽電池モジュールの耐PID性及び耐風塵性によって、その使用範囲を拡大し、高温高湿及び高風塵の地区に適用することができる。」 上記記載からして、 裏板の材質は、水蒸気バリア、反射率及び無フッ素汚染などを勘案して「ポリアミド」に決められたものであると認められる。 イ しかしながら、太陽電池モジュールの裏面保護材の材質として「ポリアミド」を利用することは、原査定の拒絶の理由において、周知例として提示した「米国特許出願公開第2010/0324207号明細書(【要約】、【0021】)以外に、下記の文献にも記載されているように、本願の優先日(2015年9月23日)において周知であり(以下、「周知技術」という。)、引用発明において、「材質がポリアミドである裏板」を採用することは、当業者が上記周知技術から容易になし得ることである。 特開2011-3905号公報(【要約】) 特開2012-182316号公報(【0005】) ちなみに、特開2012-182316号公報の【0005】には、以下の記載がある。 「本発明が解決しようとする課題は、耐候性、耐熱性、電気絶縁性、耐加水分解性に優れ、環境に配慮したポリアミド樹脂を含む太陽電池バックフィルムを提供することにある。」 ウ 以上の検討からして、引用発明において、上記〈相違点2〉に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が上記周知技術に基づいて容易になし得ることである。 (3)上記〈相違点3〉について検討する。 ア 上記〈相違点1〉及び〈相違点2〉に係る構成を備えた引用発明は、結果として、「耐風塵」の機能を備えたものであると認められる。 イ 以上の検討からして、引用発明において、上記〈相違点3〉に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が上記技術事項1及び上記周知技術に基づいて容易になし得ることである。 (4)効果 本願発明の奏する効果は、当業者が引用発明において、上記技術事項1及び上記周知技術から予測し得る範囲内のものである。 3 審判請求書における主張 (1)請求人は、本願発明における太陽電池モジュールは、優れたPID抵抗を備えており、システム電圧は15000Vで、85℃の温度で192時間から1000時間の85%エージングテストに対応できる旨主張する(第6頁中段)。 しかしながら、本願明細書には、具体的な試験(実施例)は一切記載されておらず、請求人の主張は、明細書の記載に基づかないものである。 また、モノマー(オレフィン樹脂)の種類及びポリアミドの種類に関係なく、ポリオレフィン樹脂全般において、上記効果を常に奏するとは確認できない。 (2)よって、請求人の主張は、採用できない。 4 平成31年4月10日提出の意見書における主張 請求人は、引用文献4における「0.4?0.6mmの厚さ」を引用発明に適用すると、引用発明の効果が損なわれる恐れがある旨主張する(2.意見の内容(3)(3-3))。 (1)しかしながら、引用発明の「封止材」の厚みは、Vb〔V/m〕を考慮して決定されるものであり、常に、「1mm」に限定されているわけではない。 そして、引用発明において、引用文献4における「0.4?0.6mmの厚さ」を採用することを妨げる特段の事情は見当たらない。 (2) よって、請求人の主張は、採用できない。 5 まとめ 本願発明は、当業者が引用発明、上記技術事項1及び上記周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび 本願発明は、当業者が引用発明、上記技術事項1及び上記周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり、審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2020-08-05 |
結審通知日 | 2020-08-18 |
審決日 | 2020-09-02 |
出願番号 | 特願2018-533990(P2018-533990) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 竹村 真一郎 |
特許庁審判長 |
瀬川 勝久 |
特許庁審判官 |
松川 直樹 星野 浩一 |
発明の名称 | 耐PID且つ耐風塵の結晶シリコン太陽電池モジュール |
代理人 | 特許業務法人コスモス国際特許商標事務所 |