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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F02M |
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管理番号 | 1370597 |
審判番号 | 不服2020-8135 |
総通号数 | 255 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-03-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-06-11 |
確定日 | 2021-02-16 |
事件の表示 | 特願2018-510281「高圧燃料供給ポンプ」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月12日国際公開、WO2017/175539、請求項の数(19)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2017年(平成29年)3月10日(優先権主張平成28年4月6日)を国際出願日とする出願であって、令和元年6月5日付け(発送日:同年6月11日)で拒絶理由が通知され、令和元年8月7日に意見書及び手続補正書が提出され、令和元年10月31日付け(発送日:同年11月5日)で拒絶理由が通知され、令和元年12月25日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和2年3月19日付け(発送日:同年3月24日)で拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対して、令和2年6月11日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正書が提出されたものである。 第2 原査定の概要 原査定の概要は、次のとおりである。 理由(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記(引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項1-5 引用文献1-3 ・請求項6-9、13及び14 引用文献1-4 ・請求項12、15及び16 引用文献1-5 ・請求項17-20 引用文献1-4、6 <引用文献等一覧> 1.特開2002-371339号公報 2.特開2010-270366号公報(周知技術を示す文献) 3.特開2006-214301号公報(周知技術を示す文献) 4.国際公開第2015/163245号 5.特開2012-251467号公報 6.国際公開第2014/083979号 第3 本願発明 本願の請求項1ないし19に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明19」という。)は、令和2年6月11日の手続補正により補正がされた特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載された事項により特定された以下のとおりのものである。 「【請求項1】 加圧室を形成する金属製のポンプボディを備えた高圧燃料供給ポンプにおいて、 前記ポンプボディはCrを12%?18%、Niを3%?7%、Moを0.5%?3%を含む鉄鋼材料であり、内部が20MPa?60MPaの高圧燃料による荷重に耐える強度を有し、 前記ポンプボディは、エンジンに取付けられるフランジが同一部材で一体に鍛造成形され、上面視で前記フランジの取付部と重ならないようにスペースが設けられ、 前記スペースにおける前記ポンプボディの外周面の一部が鍛造面であることを特徴とする高圧燃料供給ポンプ。 【請求項2】 請求項1に記載の高圧燃料供給ポンプであって、 前記ポンプボディはPおよびSを0.05%以下とした鉄鋼材料であり、引張強度が900MPa以上である高圧燃料供給ポンプ。 【請求項3】 請求項1又は2に記載の高圧燃料供給ポンプであって、 前記ポンプボディは2%以下のMnを含む鉄鋼材料である高圧燃料供給ポンプ。 【請求項4】 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の高圧燃料供給ポンプであって、 前記ポンプボディは0.08%以下のCを含む鉄鋼材料である高圧燃料供給ポンプ。 【請求項5】 請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の高圧燃料供給ポンプであって、 前記ポンプボディは0.01%?0.1%のNを含む鉄鋼材料である高圧燃料供給ポンプ。 【請求項6】 請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の高圧燃料供給ポンプであって、 前記ポンプボディは、前記高圧燃料供給ポンプがエンジンに挿入されるエンジン嵌合部位を同一部材で一体に成形していることを特徴とする高圧燃料供給ポンプ。 【請求項7】 請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の高圧燃料供給ポンプであって、 前記ポンプボディは、吐出ジョイントを同一部材で一体に成形していることを特徴とする高圧燃料供給ポンプ。 【請求項8】 請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の高圧燃料供給ポンプであって、 前記ポンプボディは、吸入ジョイントを同一部材で一体に成形していることを特徴とする高圧燃料供給ポンプ。 【請求項9】 請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の高圧燃料供給ポンプであって、 前記ポンプボディの素材はEN1.4418である高圧燃料供給ポンプ。 【請求項10】 請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の高圧燃料供給ポンプであって、 前記ポンプボディの素材はEN1.4313である高圧燃料供給ポンプ。 【請求項11】 請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の高圧燃料供給ポンプにおいて、前記ポンプボディを上部から覆うカバーと、前記カバーを前記ポンプボディに対し直接固定する溶接部と、を備えた高圧燃料供給ポンプ。 【請求項12】 請求項1に記載の高圧燃料供給ポンプにおいて、 前記ポンプボディは外周部がほぼ円筒形状になるように形成され、前記フランジ部の上部は前記外周部の最外周側端部に対して内側に凹んだ凹み部で形成された高圧燃料供給ポンプ。 【請求項13】 請求項1に記載の高圧燃料供給ポンプにおいて、 前記フランジ部は前記ポンプボディの外周部において対称となる2箇所に形成され、 前記ポンプボディは外周部がほぼ円筒形状になるように形成され、 2箇所の前記フランジ部の上部は前記外周部の最外周側端部に対して内側に凹んだ凹み部で形成された高圧燃料供給ポンプ。 【請求項14】 請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の高圧燃料供給ポンプにおいて、 前記ポンプボディは外周部がほぼ円筒形状になるように形成され、 前記ポンプボディには前記加圧室で加圧された燃料を吐出する吐出ジョイントが挿入される孔部が形成され、 前記ポンプボディの外周部のうち、前記孔部が形成される部位は前記外周部の最外周側端部に対して内側に凹んだ凹み部で形成された高圧燃料供給ポンプ。 【請求項15】 請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の高圧燃料供給ポンプにおいて、 前記ポンプボディは外周部がほぼ円筒形状になるように形成され、 前記ポンプボディには燃料を吸入する吸入ジョイントが挿入される孔部が形成され、前記ポンプボディの外周部のうち、前記孔部が形成される部位は前記外周部の最外周側端部に対して内側に凹んだ凹み部で形成された高圧燃料供給ポンプ。 【請求項16】 請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の高圧燃料供給ポンプにおいて、 前記ポンプボディの上部には前記加圧室で加圧された燃料を吐出する吐出ジョイントが挿入される孔部が形成され、 前記ポンプボディは前記孔部に対応する位置に前記鍛造面よりも滑らかに形成される機械加工面を有し、前記孔部よりも下側において前記鍛造面を有する高圧燃料供給ポンプ。 【請求項17】 請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の高圧燃料供給ポンプにおいて、 前記ポンプボディの上部には前記加圧室で加圧された燃料を吐出する吐出ジョイントが挿入される孔部が形成され、 前記ポンプボディは前記孔部に対応する位置の全外周において前記鍛造面よりも滑らかに形成される機械加工面を有し、前記孔部よりも下側において前記鍛造面を有する高圧燃料供給ポンプ。 【請求項18】 請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の高圧燃料供給ポンプにおいて、 前記ポンプボディには前記加圧室で加圧された燃料を吐出する吐出ジョイントが挿入される孔部が形成され、 前記ポンプボディの外周部のうち、前記孔部の周りは前記孔部の開口面とほぼ同一面の平面部が形成され、前記平面部は前記鍛造面よりも滑らかに形成される機械加工面で形成され、 前記ポンプボディには前記平面部から下側に向かって外周側に広がるように傾斜面が形成された高圧燃料供給ポンプ。 【請求項19】 請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の高圧燃料供給ポンプにおいて、 前記ポンプボディには前記加圧室で加圧された燃料を吐出する吐出ジョイントが挿入される孔部が形成され、 前記ポンプボディの外周部のうち、前記孔部の周りは前記孔部の開口面とほぼ同一面の平面部が形成され、前記平面部は前記鍛造面よりも滑らかに形成される機械加工面で形成され、 前記ポンプボディには前記平面部から下側に向かって外周側に広がり、かつ前記平面部よりも下側の鍛造面まで繋がる傾斜面が形成された高圧燃料供給ポンプ。」 第4 引用文献の記載及び引用発明 1 引用文献1 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、特開2002-371339号公報(以下「引用文献1」という。)には、「加工性、冷間鍛造性に優れた軟質ステンレス鋼板」に関して、図面(特に【図1】ないし【図3】)とともに以下の事項が記載されている(下線は、当審が付与したものである。以下同様。)。 ア 「【請求項5】ステンレス鋼が(C+N):0.06質量%以下,Si:2.0質量%以下,Mn:5質量%以下,Cr:15?20質量%,Ni:5?9質量%,Cu:1.0?4.0質量%,Al:0.003質量%以下,S:0.005質量%以下,残部が実質的にFeの組成をもつ請求項1?4の何れかに記載の軟質ステンレス鋼板。 【請求項6】ステンレス鋼が更にTi:0.5質量%以下,Nb:0.5質量%以下,Zr:0.5質量%以下,V:0.5質量%以下,Mo:3.0質量%以下,B:0.03質量%以下,REM(希土類金属):0.02質量%以下,Ca:0.03質量%以下の1種又は2種以上を含む請求項1?5の何れかに記載の軟質ステンレス鋼板。」 イ 「【0015】加工硬化指数n:0.40?0.55,破断伸びEl:50%以上の軟質ステンレス鋼板は、成形加工時に導入される歪を素材の塑性変形(メタルフロー)として吸収する。しかも、加工誘起マルテンサイト及び積層欠陥が生成しがたい材料であるため、二次加工の際にもオーステナイト系特有の軟質状態が維持される。そのため、図1に示したウォータポンプ部品に限らず、過酷な加工が多段に施されて製品化される電機モータケース,センサケース,へら絞り加工による照明用笠,形鋼等にも使用される。また、鋼中の非金属介在物を軟質のMnO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)系介在物に制御することにより加工性の更なる向上が図られる。特に、SiO_(2):15質量%以上,Al_(2)O_(3):40質量%以下の組成をもつMnO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)系介在物が非金属介在物全体に占める割合を70質量%以上にすることにより、加工性が顕著に改善される。 ウ 「【0041】各ステンレス鋼板からブランク径74mmの試験片を切り出し、パンチ径33mm,パンチR3mm,ダイス径35mm,ダイスR3mmの円筒ポンチ及びダイスを用い、皺押え圧力1トンで高さ7mmまで絞り加工した。次いで、径26mmのパンチ及び径26.1mmのポンチを用い、絞り加工品の底部中心に穴径26mmで穿孔した後、パンチ径33mm,パンチR3mm,ダイス径35mm,ダイスR3mmの円筒ポンチ及びダイスにより粘度60mm^(2)/s(40℃)の潤滑油を用いて穿孔部2をバーリング加工し(図1)、ウォータポンプ部品を作製した。」 エ 【図1】ウォータポンプ部品の製造工程を示す概念図 オ 上記ア、ウの記載及びエの【図1】により、金属製のウォータポンプ部品を備えたウォータポンプにおいて、ウォータポンプ部品はCrを15?20重量%、Niを5?9重量%、Moを3.0重量%以下を含む鉄鋼材料である事項が記載されている。 上記アないしオに示した事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 [引用発明] 「金属製のウォータポンプ部品を備えたウォータポンプにおいて、 前記ウォータポンプ部品はCrを15?20重量%、Niを5?9重量%、Moを3.0重量%以下含む鉄鋼材料であるウォータポンプ。」 2 引用文献2 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、特開2010-270366号公報(以下「引用文献2」という。)には、「温間鍛造潤滑膜形成方法」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。 カ 「【0028】 次に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。 本発明において、金属からなる上記被鍛造材としては、例えば鉄鋼材等を採用することができる。また、非鉄金属材を採用することもできる。 具体的には、上記被鍛造材としては、鉄、鉄合金、銅合金、アルミニウム、又はアルミニウム合金を採用することができる(請求項13)。 【0029】 本発明においては、温間鍛造加工用の上記被鍛造材に上記温間鍛造用潤滑膜を形成する。 温間鍛造加工(温鍛加工)は、被鍛造材を室温よりも高温に加熱した後に鍛造加工するものである。その加熱温度は金属の種類により異なる。例えば鉄鋼からなる被鍛造材に対しては、例えば温度300?1000℃で行う。また、非鉄金属からなる被鍛造材については、例えばアルミニウム、アルミニウム合金からなる被鍛造材に対しては例えば温度200?450℃で行い、銅又は銅合金からなる被鍛造材に対しては例えば温度200?600℃で行う。」 キ 「【0063】 本例においては、被鍛造材として、自動車のエンジン部品(燃料供給用ポンプの構成部品:材質SUS410相当品 マルテンサイト系ステンレス材)を用いる。温間鍛造前の被鍛造材1を図1に示し、温間鍛造後の被鍛造材1を図2に示す。本例においては、図1に示す被鍛造材1に、温間鍛造用潤滑膜を形成する。」 上記カ及びキに示した事項及び図面の図示内容を総合し整理すると、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。 [引用文献2記載事項] 「燃料供給用ポンプの構成部品を鍛造加工すること。」 3 引用文献3 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、特開2006-214301号公報(以下「引用文献3」という。)には、「筒内直接燃料噴射装置用燃料ポンプ」に関して、図面(特に、(【図4】及び【図5】を参照。)とともに以下の事項が記載されている。 ク 「【0012】 本発明に係る筒内直接燃料噴射装置用燃料ポンプは、アルコール含有ガソリンを燃料とする筒内直接燃料噴射装置用燃料ポンプにおいて,燃料ポンプをアルミニウムまたはアルミニウム合金で形成し、燃料ポンプのボディの表面にめっき層を形成被覆すると共に、燃料ポンプのボディのめっき層の上にアルミニウムの水和酸化物皮膜処理(ベーマイト処理)を行うことによって、めっき欠陥部からの腐食発生を抑制したものである。」 ケ 「【0030】 また、ポンプボディ本体の概略形状は鍛造により形成することもできる。この鍛造は、丸棒素材を高面圧のプレスにより成形する手法であり、ダイカストに劣らず生産性に優れた製造法である。」 上記ク及びケに示した事項及び図面の図示内容を総合し整理すると、引用文献3には、次の事項(以下「引用文献3記載事項」という。)が記載されている。 [引用文献3記載事項] 「筒内直接燃料噴射装置用燃料ポンプ本体の概略形状を鍛造により形成すること。」 4 引用文献4 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、国際公開第2015/163245号(以下「引用文献4」という。)には、「高圧燃料供給ポンプ」に関して、図面(特に、([図1]-[図4]を参照。)とともに以下の事項が記載されている。 コ 「[0014] 図4に示すシステムの全体構成図を用いてシステムの構成と動作を説明する。 破線で囲まれた部分が高圧燃料供給ポンプ(以下高圧ポンプと呼ぶ)本体を示し、この破線の中に示されている機構,部品は高圧ポンプ本体1に一体に組み込まれていることを示す。燃料タンク20の燃料はフィードポンプ21によって汲み上げられ、吸入配管28を通してポンプ本体1の吸入ジョイント10aに送られる。 [0015] 吸入ジョイント10aを通過した燃料は圧力脈動低減機構9,吸入通路10bを介して容量可変機構を構成する電磁吸入弁30の吸入ポート30aに至る。脈動防止機構9については後述する。 [0016] 電磁吸入弁30は電磁コイル308を備え、電磁コイル308が通電されていない時は、アンカーばね303の付勢力と弁ばね304の付勢力の差により、吸入弁体301は開弁方向に付勢され吸入口30dは開けられた状態となっている。尚、アンカーばね303の付勢力と弁ばね304の付勢力は、 アンカーばね303の付勢力 > 弁ばね304の付勢力 となるよう設定されている。 [0017] この電磁コイル308が通電されている状態ではアンカー305が図4の左方に移動した状態で、アンカーばね303が圧縮された状態が維持される。電磁プランジャ305の先端が同軸で接触するように取り付けられた吸入弁体301は弁ばね304の付勢力により高圧ポンプの加圧室11につながる吸入口30dを閉じている。」 サ 「[0028] 以下に高圧燃料ポンプの構成,動作を図1乃至図4を用いてさらに詳しく説明する。一般に高圧ポンプはポンプ本体1に設けられたフランジ1eを用い内燃機関のシリンダヘッド41の平面に密着して固定される。シリンダヘッドとポンプ本体間の気密保持のためにOリング61がポンプ本体1に嵌め込まれている。」 シ 上記コ、サの記載並びに[図2]及び[図3]から、高圧燃料供給ポンプのポンプ本体に、内燃機関に取付けられるフランジが設けられること、及び、上面視でフランジの取付部と重ならないようにスペースが設けられことが看取される。 上記コないしシに示した事項及び図面の図示内容を総合し、整理すると、引用文献4には、次の事項(以下「引用文献4記載事項」という。)が記載されている。 [引用文献4記載事項] 「高圧燃料供給ポンプ本体は、内燃機関に取付けられるフランジが設けられ、上面視でフランジの取付部と重ならないようにスペースが設けられていること。」 5 引用文献5 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、特開2012-251467号公報(以下「引用文献5」という。)には、「燃料の圧力脈動低減機構、及びそれを備えた内燃機関の高圧燃料供給ポンプ」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。 ス「【0088】 なお、全実施例を通じて、カバー14はその周囲のスカート部14Aの内側が、ポンプボディ1の外周の環状面122に圧入され、全周をレーザ溶接することで固定されている。」 上記スに示した事項及び図面の図示内容を総合し、整理すると、引用文献5には、次の事項(以下「引用文献5記載事項」という。)が記載されている。 [引用文献5記載事項] 「ポンプボディを上部から覆うカバーをポンプボディに対しレーザ溶接すること。」 6 引用文献6 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、国際公開第2014/083979号(以下「引用文献6」という。)には、「高圧燃料供給ポンプ」に関して、図面(特に、([図3]を参照。)とともに以下の事項が記載されている。 セ「[0020] 加圧室11としての凸部1Aの中心軸線に対して、吐出弁機構8装着用の凹所11Aと電磁吸入弁機構30を取付けるための孔の軸線は交わる方向に形成されており、加圧室11から吐出通路に燃料を吐出するための吐出弁機構8が設けられている。」 ソ「[0032] 戻し行程中に、吸入通路10cへ戻された燃料により吸入通路10bには圧力脈動が発生する。この圧力脈動は金属ダイアフラム組体9Aが膨張、収縮することで吸収低減される。戻し行程中、燃料は吸入通路10aから吸入配管28を通して僅かに逆流するのみであり、大部分は金属ダイアフラム組体9A容積変化によって吸収される。 吐出口(吐出側配管接続部)12はポンプハウジング1に形成されており、吸入口10aから出口12に至る燃料通路の途中に、燃料を加圧する加圧室11が形成されている。加圧室11の入り口には電磁吸入弁機構30が設けられている。吸入弁31は電磁吸入弁機構30内に設けられた吸入弁ばね33によって吸入口を閉じる方向に付勢力がかけられている。これにより電磁吸入弁機構30は燃料の流通方向を制限する逆止弁となる。これは前述したとおりである。」 タ 上記セ、ソ及び[図3]により、ポンプハウジング1の外周部の凹所に吐出口12及び吸入口10aを備えている点が看取される。 上記セないしタに示した事項及び図面の図示内容を総合し、整理すると、引用文献6には、次の事項(以下「引用文献6記載事項」という。)が記載されている。 [引用文献6記載事項] 「ポンプハウジングの外周部の凹所に吐出口及び吸入口を備えること。」 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、「ウォータポンプ部品」はポンプ部品の一種であることを踏まえると、引用発明の「金属製のウォータポンプ部品を備えたウォータポンプ」は本願発明1の「加圧室を形成する金属製のポンプボディを備えた高圧燃料供給ポンプ」と、「金属製のポンプ部品を備えたポンプ」という限りにおいて一致する。 また、引用発明の「ウォータポンプ部品はCrを15?20重量%、Niを5?9重量%、Moを3.0重量%以下含む鉄鋼材料」は本願発明1の「ポンプボディはCrを12?18%、Niを3?7%、Moを0.5?3%を含む鉄鋼材料」と、「ポンプ部品はCr、Ni、Moを所定の割合で含む鉄鋼材料」という限りにおいて一致する。 したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。 [一致点] 「金属製のポンプ部品を備えたポンプにおいて、前記ポンプ部品はCr、Ni、Moを所定の割合で含む鉄鋼材料である、ポンプ。」 [相違点1] 「金属製のポンプ部品を備えたポンプ」に関して、本願発明1は、ポンプ部品が「加圧室を形成する金属製のポンプボディ」であり、当該「ポンプボディ」を備えた「高圧燃料供給ポンプ」であるのに対して、引用発明は、ポンプ部品が「金属製のウォータポンプ部品」であり、当該「ウォータポンプ部品」を備えた「ウォータポンプ」である点。 [相違点2] 「前記ポンプ部品はCr、Ni、Moを所定の割合で含む鉄鋼材料」に関して、本願発明1においては「ポンプボディはCrを12%?18%、Niを3%?7%、Moを0.5%?3%を含む鉄鋼材料」であるのに対して、引用発明では「ウォータポンプ部品はCrを15?20重量%、Niを5?9重量%、Moを3.0重量%以下含む鉄鋼材料」である点。 [相違点3] 本願発明1は「内部が20MPa?60MPaの高圧燃料による荷重に耐える強度を有し」ているのに対して、引用発明は、そのような強度を有しているか不明な点。 [相違点4] 本願発明1ポンプボディは「エンジンに取付けられるフランジが同一部材で一体に鍛造成形され、上面視で前記フランジの取付部と重ならないようにスペースが設けられ、前記スペースにおける前記ポンプボディの外周面の一部が鍛造面」であるのに対して、引用発明はそのような事項を備えていない点。 (2)判断 事案に鑑み、上記相違点1、2及び4について検討する。 上記第4 2ないし6で示したように、引用文献2記載事項は「燃料供給用ポンプの構成部品を鍛造加工すること。」というものであり、引用文献3記載事項は「筒内直接燃料噴射装置用燃料ポンプ本体の概略形状を鍛造により形成すること。」というものであり、引用文献4記載事項は「高圧燃料供給ポンプ本体は、内燃機関に取付けられるフランジが設けられ、上面視でフランジの取付部と重ならないようにスペースが設けられていること。」であり、引用文献5記載事項は「ポンプボディを上部から覆うカバーをポンプボディに対しレーザ溶接すること。」であり、引用文献6記載事項は「ポンプハウジングの外周部の凹所に吐出口及び吸入口を備えること。」というものである。 しかしながら、引用発明のウォータポンプを、用途が異なる高圧燃料供給ポンプとして用いること、及び、ウォータポンプのポンプ部品に用いられる材料を、高圧燃料供給ポンプのポンプボディに適用することについて、上記引用文献2記載事項ないし引用文献6記載事項は、いずれも開示ないし示唆するものではない。 また、ウォータポンプを高圧燃料供給ポンプとして使用すること、及びウォータポンプ部品の材料を高圧燃料供給のポンプボディとして用いることが、容易であるとする証拠はない。 さらに、フランジが設けられている引用文献4記載事項について、引用文献4を参照すると、ポンプ本体とフランジとを成形するにあたっての材料及び成形方法についての記載はなく、鍛造による形成が周知であるとする引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項を参照したとしても、引用発明のウォータポンプに「エンジンに取付けられるフランジ」を設け、ポンプボディに「フランジが同一部材で一体に鍛造成形」されることにより、上記相違点4に係る本願発明特定事項のようにすることは、当業者であっても容易に想到するとはただちにいえない。 そして、本願発明1は、鍛造性に良好な材料を用いることで、ポンプボディとフランジとを一体に成形するための鍛造性を良好とし、製造コストの低下、破損に対する信頼性の向上という特有の作用効果を奏するものである(本願明細書の段落【0049】ないし【0052】参照)。 したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び引用文献2記載事項ないし引用文献6記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 本願発明2ないし19について 本願の特許請求の範囲における請求項2ないし19は、請求項1の記載を他の記載に置換することなく引用して記載されたものであるから、本願発明2ないし19は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。 したがって、本願発明2ないし19は、本願発明1について述べたものと同様の理由により、引用発明及び引用文献2記載事項ないし引用文献6記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。 3 小括 本願発明1ないし19は、原査定で引用された引用文献1ないし6に記載された発明に基いて。当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第6 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-01-26 |
出願番号 | 特願2018-510281(P2018-510281) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(F02M)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 小笠原 恵理 |
特許庁審判長 |
渡邊 豊英 |
特許庁審判官 |
西中村 健一 北村 英隆 |
発明の名称 | 高圧燃料供給ポンプ |
代理人 | 特許業務法人信友国際特許事務所 |