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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1370648
審判番号 不服2019-12215  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-09-13 
確定日 2021-02-16 
事件の表示 特願2016-510582「タッチセンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月 1日国際公開、WO2015/147323、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)3月30日(優先権主張 平成26年3月28日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成31年 4月 1日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 5月27日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年 6月10日付け:拒絶査定
令和 元年 9月13日 :審判請求書の提出
令和 2年 9月28日付け:拒絶理由通知書
令和 2年11月30日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年12月 8日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
令和 2年12月18日 :意見書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和元年6月10日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1ないし9に係る発明は、以下の引用文献AないしEに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

[引用文献等一覧]
A 特開2013-109520号公報
B 特開2013-041476号公報
C 特開2013-030166号公報
D 国際公開第2013/187324号
E 特開2014-006865号公報

第3 当審拒絶理由の概要
1 当審拒絶理由1
令和2年9月28日付けの拒絶理由通知により通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由1」という。)の概要は次のとおりである。

(1)理由1(明確性要件違反)
請求項1ないし9に係る発明は、以下のアないしエにおいて、明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
ア 「センサシート」が意味するところが明確ではない。
イ 「レジスト層」の構成が明確ではない。
ウ 「保護層」が何を保護するものであるのか明確ではない。
エ 「癖付け」及び「折曲部」の意義が明確ではない。

(2)理由2(進歩性欠如)
本願請求項1ないし9に係る発明は、以下の引用文献1ないし4に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

[引用文献等一覧]
1 特開2013-109520号公報(拒絶査定時の引用文献A)
2 特開2007-134473号公報(当審において新たに引用した文献)
3 特開2007-172025号公報(当審において新たに引用した文献)
4 特開2013-41476号公報(当審において新たに引用した文献)

2 当審拒絶理由2
令和2年12月8日付けの拒絶理由通知書により通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由2」という。)の概要は次のとおりである。

本願請求項1ないし8に係る発明は、上掲の引用文献1ないし4に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 本願発明
本願請求項1ないし8に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明8」という。)は、令和2年12月18日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1ないし8は以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
複数のセンサ電極と、基板に接続する接続部と、前記各センサ電極から前記接続部に伸びる配線とを有するセンサシートを備えるタッチセンサにおいて、
前記センサシートは、
電極形成部と縁部とを有する第1の樹脂フィルムと、
前記樹脂フィルムの一方の面に前記複数のセンサ電極と前記配線とを含めて積層するレジスト層と、
前記レジスト層又は前記第1の樹脂フィルムの他方の面に積層する保護層とを有し、
前記電極形成部は、前記センサ電極を有する前記第1の樹脂フィルムの部分であり、
前記縁部は、前記配線と前記接続部とを有する前記第1の樹脂フィルムの部分であって、さらに前記保護層が積層された状態で前記保護層を通る折曲線に沿って前記配線を横断して折り曲げられることにより、折り曲げられた状態が維持される折曲部が形成されるものであり、
前記保護層は、前記縁部の前記折曲部で折り曲げられる前記配線の伸びを抑えるためのものであって且つ前記レジスト層に貼り付けた第2の樹脂フィルム又は前記縁部の前記他方の面に貼り付けた第3の樹脂フィルムにて形成されており、さらに前記折曲部をなす前記第1の樹脂フィルムとともに折り曲げられた状態が維持されるものである
タッチセンサ。
【請求項2】
前記折曲部にある前記保護層を前記配線と重ならない位置に設ける
請求項1記載のタッチセンサ。
【請求項3】
前記折曲部にある前記保護層を前記配線と重なる位置に設ける
請求項1または請求項2記載のタッチセンサ。
【請求項4】
前記縁部に、前記接続部の幅より広く前記電極形成部の幅より狭い広がり部を形成し、この広がり部に前記保護層を設けて前記折曲部を形成する
請求項1?請求項3何れか1項記載のタッチセンサ。
【請求項5】
前記広がり部を前記接続部から前記電極形成部側に向けて広がる形状に形成する
請求項4記載のタッチセンサ。
【請求項6】
前記折曲部は、折曲げられて対向位置にある内面どうしが接触しない所定の折曲半径を有する湾曲形状である
請求項1?請求項5何れか1項記載のタッチセンサ。
【請求項7】
前記センサシートの一方面と他方面のそれぞれに、少なくとも前記センサ電極、前記接続部、前記配線を有する
請求項1?請求項6何れか1項記載のタッチセンサ。
【請求項8】
筐体と、前記筐体の内部に設けた請求項1?請求項7何れか1項に記載のタッチセンサとを備える電子機器。」

第5 当審拒絶理由2について
1 引用文献、引用発明等
(1)引用文献1について
ア 引用文献1記載事項
当審拒絶理由2に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は、強調のため当審が付与した。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネルに関する。」

「【0021】
…(中略)…タッチパネル100は、樹脂基板3の一面に設けられ第一の方向に延在する、微細金属線でできたストライプ状の複数の第一の電極1と、第一の電極1が配された面の裏面に設けられ、第一の電極1と交差する第二の方向に延在する、微細金属線でできたストライプ状の複数の第二の電極2とによって格子状に配された電極を有する操作面部10と、引き出し配線4を有するコネクタ部20とを有している。第一の電極1の表面には、絶縁体である表面保護層5が設けられている。
【0022】
操作面部10の第一の電極1および第二の電極2の各一方の末端は、樹脂基板3の各面において、第一の電極1および第二の電極2と一体にプリントされることによって設けられた引き出し配線4と電気的に接続されており、これら引き出し配線4は、操作面部10の一端から集められて平行に整列され、コネクタ部20へと延びている。引き出し配線4は、コネクタ部20末端の入出力端子6を介して外部の制御回路と電気的に接続される。」

「【0024】
タッチパネル100は、タッチパネル部材100’を折り曲げることによって形成される。タッチパネル部材100’の樹脂基板3は、切り欠き部30の一点を支点にして折り曲げられている。詳しくは、切り欠き部30によって形成されたコネクタ部20側の樹脂基板3の辺のうちの一点である点Yを支点として、引き出し配線4やその表面保護層5とともに、折り曲げ部となる仮想折り曲げ線Y-Y’で折り曲げられる。…(中略)…
【0027】
…(中略)…。本実施の形態のタッチパネル100は、図3および図4に示されるタッチパネル用部材100’のコネクタ部20を、図5および図6に示されるように、仮想折り曲げ線Y-Y’で樹脂基板3の表層側である第一の電極1および表面保護層5が配された面を内側にする方向に折り曲げることによって形成されている。」

「【0028】
仮想折り曲げ線Y-Y’でタッチパネル用部材100’を折り曲げると、図5に示される樹脂基板3の三角形状の重なり領域40において、第一の電極1の引き出し配線4と第二の電極2の引き出し配線4との間、第一の電極1の引き出し配線4同士の間、および第二の電極2の引き出し配線4同士の間に、図6に示されるような、タッチパネル100の断面方向の引き出し配線4の重なり部7が複数形成される。すると、表面保護層5や樹脂基板3を介して第一の電極1および第二の電極2が絶縁的に格子状に配される、操作面部10と同様の電極構造が生じ、この領域にも静電容量が発生する。このような操作面部10以外での静電容量の形成は、タッチパネル100において、操作面部10で生じた容量変化の影響を相対的に低下させる。その結果、タッチパネル感度を低下させてしまうこととなる。」

「【0036】
本実施の形態においては、折り曲げ部50の引き出し配線4もメッシュ形状にされている。引き出し配線4をメッシュ状にすると、引き出し配線4の材料である金属を含む硬い成分の塗布面積が大幅に低減されるため、引き出し配線4の他領域と比べ、その面が折り曲げに対して相対的に柔らかくなる。したがって、図示のように引き出し配線4の折り曲げ部50をメッシュ形状とすると、折り曲げ部50のみ柔らかくなって折り曲げやすくなるため、樹脂基板3を仮想折り曲げ線Y-Y’の位置で正確に折り曲げることができ、また引き出し配線4の折り曲げによる断線を防止することができる。」

「【0049】
樹脂基板3への第一の電極1および第二の電極2の配置の仕方も、図1等に示したように樹脂基板3の表裏に配してもよく、樹脂基板3の一方の面に第一の電極1を設けた後、絶縁膜を介して第二の電極2を設けてもよい。…(後略)」

「【図2】



「【図3】



「【図6】



「【図8】



イ 引用発明
したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 タッチパネルであって、
タッチパネル部材100’は、樹脂基板3の一面に設けられ第一の方向に延在する、微細金属線でできたストライプ状の複数の第一の電極1と、第一の電極1が配された面の裏面に設けられ、第一の電極1と交差する第二の方向に延在し、微細金属線でできたストライプ状の複数の第二の電極2とによって格子状に配された電極を有する操作面部10と、引き出し配線4を有するコネクタ部20とを有し、第一の電極1の表面には、絶縁体である表面保護層5が設けられており、
樹脂基板3の一方の面に第一の電極1を設けた後、絶縁膜を介して第二の電極2を設けてもよく、
引き出し配線4は、コネクタ部20末端の入出力端子6を介して外部の制御回路と電気的に接続され、
タッチパネル100は、タッチパネル部材100’のコネクタ部20を、樹脂基板3の表層側である第一の電極1および表面保護層5が配された面を内側にする方向に折り曲げることによって形成され、
詳しくは、切り欠き部30によって形成されたコネクタ部20側の樹脂基板3の辺のうちの一点である点Yを支点として、引き出し配線4やその表面保護層5とともに、折り曲げ部となる仮想折り曲げ線Y-Y’で折り曲げることによって形成され、
折り曲げ部50の引き出し配線4もメッシュ形状にされることより、引き出し配線4の折り曲げ部50のみ柔らかくなって折り曲げやすくなるため、樹脂基板3を仮想折り曲げ線Y-Y’の位置で正確に折り曲げることができ、また引き出し配線4の折り曲げによる断線を防止することができる、
タッチパネル。」

(2)引用文献2ないし4について
ア 引用文献2について
当審拒絶理由2に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
本発明は、電子機器の配線などに使用されるフレキシブル配線基板に関し、屈曲部に形状保持部材を設けたフレキシブル配線基板およびその製造方法に関する。」

「【0030】
図1に示すように、フレキシブル配線基板1は、例えばPETからなる絶縁性基板10の少なくとも一方の面に、例えば銀ペーストなどの導電性樹脂で形成された導体パターン20を備えている。そして、導体パターン20の上には、絶縁性基板10の少なくとも1つの端部近傍の端子部40で導体パターン20を露出させ、端子部40以外は被覆するように、例えばレジストなどの保護層30が設けられている。さらに、絶縁性基板10の他方の面に、予めフレキシブル配線基板1を所定の形状に保持するために、例えば少なくとも絶縁性基板10のガラス転移温度以下で硬化する熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂などからなる形状保持部材50を有している。
【0031】
ここで、所定の形状とは、接続する回路基板間の配置や接続する方向に応じて、任意に設計されるものである。例えば、図1のように、180°のR部55のような形状に形成されるものである。」

「【0033】
本発明の第1の実施の形態によれば、形状保持部材50でフレキシブル配線基板1が任意の形状に予め加工して保持されるため、回路基板間を接続する場合に折り曲げ加工などの工程を削減でき、作業性を大幅に向上できる。さらに、作業時の折り曲げ加工に起因する、例えば鋭角的な折り曲げを防ぐことができるため、導電性樹脂からなる導体パターン20の断線が未然に防止され、信頼性に優れたフレキシブル配線基板1が得られる。
…(中略)…
【0035】
さらに、導体パターンも形状保持部材の加工と同時に、加熱しながら変形させることができるため、加工時の断線や導体抵抗の増加などを生じることが少ない。
【0036】
なお、本発明の第1の実施の形態では、形状保持部材50を絶縁性基板10側に設けた例で説明したが、保護層30側に設けても、同様の効果が得られることはいうまでもない。」

「【0060】
つぎに、図2(d)に示すように、少なくとも絶縁性基板10の他方の面に、所定の形状にフレキシブル配線基板を保持するために、例えばウレタンアクリレート樹脂やエポキシアクリレート樹脂などの光硬化性樹脂を、例えばスクリーン印刷法を用いて塗布する。そして、塗布された光硬化性樹脂に、上記で述べたようなUV照射機で紫外線を照射し、仮硬化させて形状保持部材50を形成する。」

「【0063】
つぎに、図2(e)示すように、仮硬化させた形状保持部材50に、ガラス転移温度以上に加熱した、例えばステンレス製の形状加工治具60を押し当てて、所定の形状に加工する。そして、所定の形状を保ちながら、少なくともガラス転移温度以下まで冷却する。その結果、所定の形状が、例えば図1(b)に示すような180°のR形状に形状保持部材50で保持されたフレキシブル配線基板1が作製できる。」

「【0069】
図4は、形状保持部材を保護層の面にも設けている点で、図1とは異なるものである。
【0070】
図4に示すように、絶縁性基板10の他方の面に形状保持部材50を形成するとともに、保護層30の上にも形状保持部材70を、第1の実施の形態と同様の方法により設けたものである。
【0071】
この構成により、折り曲げ部の補強効果と形状保持効果をさらに高めることができる。さらに、導体パターン20を折り曲げの中立面近傍に配置できるため、折り曲げ部の厚み方向に上下で生じる張力や圧縮力などが発生しない。そのため、折り曲げ加工時の導体パターン20の断線などをさらに低減したフレキシブル配線基板3を実現できる。」

「【0099】
なお、上記では形状保持部材を形状記憶樹脂で形成し、加熱により所定の形状に加工する例で説明したが、これに限らない。例えば、形状保持部材を予め所定の形状に加工し、貼り合わせてフレキシブル配線基板を作製してもよい。これにより、所定の形状の保持精度に優れたフレキシブル配線基板が得られる。」

「【図1】



よって、引用文献2には、次の事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されているといえる。

「 屈曲部に形状保持部材を設けたフレキシブル配線基板であって、
フレキシブル配線基板1は、絶縁性基板10の少なくとも一方の面に、導体パターン20を備え、導体パターン20の上には、端子部40以外は被覆するように、例えばレジストなどの保護層30が設けられ、絶縁性基板10の他方の面に、予めフレキシブル配線基板1を所定の形状に保持するために、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂などからなる形状保持部材50を有し、
所定の形状とは、接続する回路基板間の配置や接続する方向に応じて、任意に設計されるものであり、例えば、180°のR部55のような形状に形成されるものであり、
少なくとも絶縁性基板10の他方の面に、所定の形状にフレキシブル配線基板を保持するために、例えばウレタンアクリレート樹脂やエポキシアクリレート樹脂などの光硬化性樹脂を、例えばスクリーン印刷法を用いて塗布し、そして、塗布された光硬化性樹脂に、UV照射機で紫外線を照射し、仮硬化させて形状保持部材50を形成し、
仮硬化させた形状保持部材50に、加熱した形状加工治具60を押し当てて、所定の形状に加工し、所定の形状を保ちながら冷却し、その結果、180°のR形状に形状保持部材50で保持されたフレキシブル配線基板1が作製でき、
作業性を大幅に向上でき、導体パターン20の断線が未然に防止され、信頼性に優れたフレキシブル配線基板1が得られ、加工時の断線や導体抵抗の増加などを生じることが少なく、
形状保持部材50を保護層30側に設けても同様の効果が得られ、
形状保持部材を保護層の面にも設けている構成により、折り曲げ部の厚み方向に上下で生じる張力や圧縮力などが発生しないため、折り曲げ加工時の導体パターン20の断線などをさらに低減したフレキシブル配線基板3を実現でき、
形状保持部材を予め所定の形状に加工し、貼り合わせてフレキシブル配線基板を作製してもよい、
フレキシブル配線基板。」

イ 引用文献3について
当審拒絶理由2に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
本発明は、主に各種電子機器の操作に用いられるタッチパネルに関するものである。」

「【0018】
本発明の請求項1に記載の発明は、配線基板の上面または下面に、配線パターンの両端以外を覆うカバーシートを設けると共に、カバーシート端部を上基板または下基板の少なくとも一方の内方へ延出させてタッチパネルを構成したものであり、カバーシート端部を内方へ延出させ、電子回路に接続するため配線基板を折曲した際、力が集中する配線パターンの折曲部付近をカバーシートで覆うことによって、折曲力を緩和し配線パターンの割れや破断を防ぐことができるため、安定した電気的接続が得られ、確実な操作や電気的接離の可能なタッチパネルを得ることができるという作用を有する。」

よって、引用文献3には、次の事項(以下、「引用文献3記載事項」という。)が記載されているといえる。

「 タッチパネルにおいて、
配線基板を折曲した際、力が集中する配線パターンの折曲部付近をカバーシートで覆うことによって、折曲力を緩和し配線パターンの割れや破断を防ぐことができるため、安定した電気的接続が得られ、確実な操作や電気的接離の可能なタッチパネルを得ることができること。」

ウ 引用文献4について
当審拒絶理由2に引用された引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
本発明は、フレキシブル基板、及び、タッチパネルに関する。」

「【0034】
透明導電膜230の各々の導電領域の分割は、導電領域となる領域間の透明導電膜230を除去することにより行われる。これにより、分割された導電領域間では電気的に絶縁することができる。各々の分割された透明導電膜230は、上部電極基板10の短手方向の両端に設けられた引出電極部13における各々の引出電極と接続されており、上部電極基板10の周囲に配線され、上部電極基板10の長手方向の一方の端部においてフレキシブル基板260と接続されている。フレキシブル基板260の端部には、端子260Aが接続されている。端子260Aは、座標検出回路50を含む駆動回路51(図7参照)に接続される。」

「【図5】



よって、引用文献4には、次の事項(以下、「引用文献4記載事項」という。)が記載されているといえる。

「 フレキシブル基板、及び、タッチパネルにおいて、
基板60と上部電極基板10とを接続する引出電極が配線されるフレキシブル基板260が、基板側の端部にある端子260Aから上部電極基板10側に向かって広がる構造を備え、かつ、フレキシブル基板26の上部電極基板10側の幅が、上部電極基板10の短手方向の幅より狭いこと。」

2 対比・判断
(1) 本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

(ア)引用発明の「複数の第一の電極1」及び「複数の第二の電極2」は、本願発明1の「複数のセンサ電極」に相当する。

(イ)引用発明において、「引き出し配線4」が、「コネクタ部20」末端の「入出力端子6」を介して電気的に接続されている「外部の制御回路」は基板上に配置されて構成されていることは明らかであるから、「入出力端子6」は「外部の接続回路」の「基板」に接続されているといい得る。よって、引用発明の「外部の制御回路」及び「入出力端子6」はそれぞれ、本願発明1の「基板」及び「基板に接続する接続部」に相当する。

(ウ)引用発明の「引き出し配線4」は、本願発明1の「前記各センサ電極から前記接続部に伸びる配線」に相当する。

(エ)引用発明は、「樹脂基板3の一方の面に第一の電極1を設けた後、絶縁膜を介して第二の電極2を設けてもよく」との構成である場合を含み、また、上記(ア)ないし(ウ)から、引用発明は、「樹脂基板3」の一面に、「複数の第一の電極1」と「複数の第二の電極2」、「入出力端子6」及び「引き出し配線4」が設けられる態様を含む。
そうすると、引用発明の「樹脂基板3」の一面に「複数の第一の電極1」及び「複数の第二の電極2」、「入出力端子6」並びに「引き出し配線4」が設けられている構造は、本願発明1の「複数のセンサ電極と、基板に接続する接続部と、前記各センサ電極から前記接続部に伸びる配線とを有するセンサシート」に相当する。

(オ)引用発明の「樹脂基板3」は、本願発明の「第1の樹脂フィルム」に相当する。

(カ)引用発明の「樹脂基板3」のうち、「電極」が設けられる「操作面部10」に対応する部分は、本願発明1の「前記センサ電極を有する前記第1の樹脂フィルムの部分」である「電極形成部」に相当する。

(キ)引用発明の「樹脂基板3」のうち、「引き出し配線4」と末端に「入出力端子6」を有する「コネクタ部20」に対応する部分は、本願発明1の「前記配線と前記接続部とを有する前記第1の樹脂フィルムの部分」である「縁部」に相当する。

(ク)前記(オ)ないし(キ)より、引用発明は、本願発明1の「前記センサシートは、電極形成部と縁部とを有する第1の樹脂フィルムと」「を有し」との構成を備える。

(ケ)引用発明は、「樹脂基板3」の「第一の電極1」側の一面(一方の面)に「絶縁体である表面保護層5」が設けられている構造を有し、「絶縁体である表面保護層5」は、「レジスト層」といい得るものである。
よって、前記(エ)を参酌すると、引用発明は、本願発明1の「前記センサシートは」「前記樹脂フィルムの一方の面に前記複数のセンサ電極と前記配線とを含めて積層するレジスト層と」「を有し」との構成を備える。

(コ)前記(カ)より、引用発明は、本願発明1の「前記電極形成部は、前記センサ電極を有する前記第1の樹脂フィルムの部分であり」との構成を備える。

(サ)前記(キ)より、引用発明は、本願発明1の「前記縁部は、前記配線と前記接続部とを有する前記第1の樹脂フィルムの部分であって」との構成を備える。

(シ)引用発明において、「コネクタ部20」は、「引き出し配線4やその表面保護層5とともに、折り曲げ部となる仮想折り曲げ線Y-Y’」で「折り曲げる」構造を有していることから、「折り曲げ部」は、「仮想折曲線Y-Y’」に沿って「引き出し配線4」を横断して折り曲げられることにより形成されるものといい得るものである。
そうすると、前記(キ)及び(サ)を参酌すると、引用発明と、本願発明1の「前記縁部は、前記配線と前記接続部とを有する前記第1の樹脂フィルムの部分であって、さらに前記保護層が積層された状態で前記保護層を通る折曲線に沿って前記配線を横断して折り曲げられることにより、折り曲げられた状態が維持される折曲部が形成されるものであり」とは、「前記縁部は、前記配線と前記接続部とを有する前記第1の樹脂フィルムの部分であって、さらに折曲線に沿って前記配線を横断して折り曲げられることにより、折曲部が形成されるものであり」との構成を備える点において共通する。

(ス)引用発明の「タッチパネル100」は、タッチを感知する「センサ」として機能することは明らかであるから、後述する相違点を除いて本願発明1の「タッチセンサ」に相当する。

イ 一致点・相違点
前記アより、本願発明1と引用発明とは、以下の点において一致ないし相違する。

[一致点]
「複数のセンサ電極と、基板に接続する接続部と、前記各センサ電極から前記接続部に伸びる配線とを有するセンサシートを備えるタッチセンサにおいて、
前記センサシートは、
電極形成部と縁部とを有する第1の樹脂フィルムと、
前記樹脂フィルムの一方の面に前記複数のセンサ電極と前記配線とを含めて積層するレジスト層と、
を有し、
前記電極形成部は、前記センサ電極を有する前記第1の樹脂フィルムの部分であり、
前記縁部は、前記配線と前記接続部とを有する前記第1の樹脂フィルムの部分であって、さらに折曲線に沿って前記配線を横断して折り曲げられることにより、折曲部が形成されるものである、
タッチセンサ。」

[相違点]
<相違点1>
本願発明1は、「前記レジスト層又は前記第1の樹脂フィルムの他方の面に積層する保護層」及び「前記保護層は、前記縁部の前記折曲部で折り曲げられる前記配線の伸びを抑えるためのものであって且つ前記レジスト層に貼り付けた第2の樹脂フィルム又は前記縁部の前記他方の面に貼り付けた第3の樹脂フィルムにて形成されており、さらに前記折曲部をなす前記第1の樹脂フィルムとともに折り曲げられた状態が維持されるものである」との構成を備えるのに対し、引用発明は、当該「保護層」に関する構成を備えない点。

<相違点2>
「折曲部」に関し、本願発明1は、「前記保護層が積層された状態で前記保護層を通る折曲線に沿って前記配線を横断して折り曲げられることにより、折り曲げられた状態が維持される折曲部が形成される」との構成を備えるのに対し、引用発明の「折り曲げ部」は、「仮想折り曲げ線Y-Y’」が「保護層を通る」ものではなく、また、「前記保護層が積層された状態」で折り曲げられることにより、「折り曲げられた状態が維持される」ものであることを特定していない点。

ウ 相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点2について先に検討すると、相違点2に係る本願発明1の「前記保護層が積層された状態で前記保護層を通る折曲線に沿って前記配線を横断して折り曲げられることにより、折り曲げられた状態が維持される折曲部が形成される」という構成は、上記引用文献2ないし4には記載されておらず、本願優先日において周知技術であるともいえない。
なお、引用文献2記載事項は、「フレキシブル配線基板1は、絶縁性基板10の少なくとも一方の面に、導体パターン20を備え、導体パターン20の上には、端子部40以外は被覆するように、例えばレジストなどの保護層30が設けられ、絶縁性基板10の他方の面に、予めフレキシブル配線基板1を所定の形状に保持するために、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂などからなる形状保持部材50を有し」、「少なくとも絶縁性基板10の他方の面に、所定の形状にフレキシブル配線基板を保持するために、例えばウレタンアクリレート樹脂やエポキシアクリレート樹脂などの光硬化性樹脂を、例えばスクリーン印刷法を用いて塗布し、そして、塗布された光硬化性樹脂に、UV照射機で紫外線を照射し、仮硬化させて形状保持部材50を形成し」、「仮硬化させた形状保持部材50に、加熱した形状加工治具60を押し当てて、所定の形状に加工し、所定の形状を保ちながら冷却し、その結果、180°のR形状に形状保持部材50で保持されたフレキシブル配線基板1が作製でき」及び「形状保持部材50を保護層30側に設けても同様の効果が得られ」との技術的事項を備えるが、ここで、「絶縁性基板10」の他方の面又は保護層30側に「塗布」された(仮硬化前の)「熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂などからなる形状保持部材50」は、本願発明1の「前記レジスト層に貼り付けた第2の樹脂フィルム」又は「前記他方の面に貼り付けた第3の樹脂フィルム」には相当しない。
さらに、引用文献2記載事項は、「形状保持部材を予め所定の形状に加工し、貼り合わせてフレキシブル配線基板を作製してもよい」との技術的事項を含むが、ここで、「予め所定の形状に加工」した「形状保持部材」を貼り合わせることは、本願発明1の「前記保護層が積層された状態で」「折り曲げられることにより、折り曲げられた状態が維持される折曲部」には相当しない。
したがって、引用発明に、引用文献2記載事項に含まれるいずれの技術的事項を適用しても相違点2に係る本願発明1の構成には到達しない。
よって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2ないし4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)本願発明2ないし8について
本願発明2ないし8は、本願発明1の「前記保護層が積層された状態で前記保護層を通る折曲線に沿って前記配線を横断して折り曲げられることにより、折り曲げられた状態が維持される折曲部が形成される」との構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2ないし4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

以上のとおり、当審拒絶理由2は解消した。

第6 当審拒絶理由1について
1 理由1(明確性要件違反)について
ア 「センサシート」について、本願発明1ないし8は、「前記センサシートは、
電極形成部と縁部とを有する第1の樹脂フィルムと、
前記樹脂フィルムの一方の面に前記複数のセンサ電極と前記配線とを含めて積層するレジスト層と、
前記レジスト層又は前記第1の樹脂フィルムの他方の面に積層する保護層とを有し」との構成を備えることから、「センサシート」の構成は明確である。
イ 「レジスト層」について、本願発明1ないし8は、「前記樹脂フィルムの一方の面に前記複数のセンサ電極と前記配線とを含めて積層するレジスト層」との構成を備えることから、「レジスト層」の構成は明確である。
ウ 「保護層」について、本願発明1ないし8は、「前記保護層は、前記縁部の前記折曲部で折り曲げられる前記配線の伸びを抑えるためのものであって」との構成を備えることから、「保護層」が何を保護するものであるのかは明確である。
エ 「癖付け」及び「折曲部」について、本願発明1ないし8は、「癖付け」の語を含まず、また、本願発明1ないし8は、「前記縁部は、前記配線と前記接続部とを有する前記第1の樹脂フィルムの部分であって、さらに前記保護層が積層された状態で前記保護層を通る折曲線に沿って前記配線を横断して折り曲げられることにより、折り曲げられた状態が維持される折曲部が形成される」との構成を備えるから、「折曲部」の技術的意義は明確である。
以上から、当審拒絶理由1の理由1(明確性要件違反)は解消した。

2 理由2(進歩性欠如)について
理由2(進歩性欠如)において引用される引用文献は、当審拒絶理由2において引用される引用文献と、主たる引用文献を含め同じである。
よって、前記「第5 当審拒絶理由2について」と同様に、当審拒絶理由1の理由2(進歩性欠如)も解消した。

第7 原査定についての判断
令和 2年12月18日に提出された手続補正書による補正により、補正後の請求項1ないし8は、「前記保護層が積層された状態で前記保護層を通る折曲線に沿って前記配線を横断して折り曲げられることにより、折り曲げられた状態が維持される折曲部が形成される」との構成を備えるものとなった。当該構成は、原査定における引用文献AないしE(うち、引用文献Aは、当審拒絶理由における引用文献1に相当する。)には記載されておらず、本願優先日前における周知技術でもないので、本願発明1ないし8は、当業者であっても、原査定における引用文献AないしEに基づいて容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-01-26 
出願番号 特願2016-510582(P2016-510582)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 ▲高▼瀬 健太郎  
特許庁審判長 稲葉 和生
特許庁審判官 林 毅
富澤 哲生
発明の名称 タッチセンサ  
代理人 大竹 正悟  

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