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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1370718
審判番号 不服2019-11689  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-09-05 
確定日 2021-01-27 
事件の表示 特願2014-207796「フレキシブル表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月12日出願公開、特開2016- 75869〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特願2014-207796号(以下「本件出願」という。)は、平成26年10月9日の出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成29年11月16日付け:拒絶理由通知書
平成30年 2月20日提出:意見書
平成30年 2月20日提出:手続補正書
平成30年 7月23日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
平成30年11月 9日提出:意見書
平成30年11月 9日提出:手続補正書
平成31年 4月24日付け:平成30年11月9日の手続補正についての補正の却下の決定
平成31年 4月24日付け:拒絶査定
令和 元年 9月 5日提出:審判請求書
令和 元年 9月 5日提出:手続補正書
令和 2年 3月27日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 6月30日提出:意見書
令和 2年 6月30日提出:手続補正書


第2 本願発明
本願の請求項1?7に係る発明は、令和2年6月30日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「 可撓性を有する透明樹脂フィルム基材の少なくとも一方の面に、無機微粒子とマトリクス樹脂とを含有する反射防止層が直接設けられた反射防止フィルムが、画像表示面に配置されているフレキシブル表示装置であって、
前記反射防止層における前記無機微粒子の体積比率が40体積%以上であり、
前記マトリクス樹脂が前記無機微粒子の間にある全ての空隙を満たし、
前記無機微粒子の直径が5?200nmの範囲であり、
前記反射防止層の厚さが50?200nmの範囲であり、
前記反射防止層と前記透明樹脂フィルム基材とを有する前記反射防止フィルムが、5% ?6%の反射率及び88%?91%の全光線透過率を有することを特徴とするフレキシブル表示装置。」


第3 拒絶の理由
令和2年3月27日付けの当審が通知した拒絶理由のうちの理由4は、概略、本件出願の請求項1?7に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である下記の引用文献に記載された発明に基づいて本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2004-258267号公報
引用文献2:特開2008-132746号公報
引用文献3:特開2012-141459号公報
引用文献4:特開2013-41275号公報
引用文献5:特開2014-41169号公報
(当合議体注:引用文献1は、主引用例であり、引用文献2?3は、請求項2、7についての副引用例であり、引用文献4?5は、請求項5についての副引用例である。)


第4 引用文献1及び引用発明
1 引用文献1の記載事項
当審の拒絶の理由で引用文献1として引用され、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である特開2004-258267号公報(以下、同じく「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付与したものであって、引用発明の認定及び判断等で活用した箇所である。

(1)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、低屈折率により反射を防止することができる反射防止膜、またこの反射防止膜を製造する方法、さらにこの反射防止膜を透明支持体に形成することによって得られる、ディスプレイ(CRTディスプレイ、プラズマディスプレイ、液晶ディスプレイ、プロジェクションディスプレイ、ELディスプレイ等)の表示画面表面に適用される反射防止フィルム等の反射防止部材に関するものである。
・・・(省略)・・・
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、中空微粒子が低屈折率層内において高充填されており、中空微粒子の内部の空洞によって低屈折率を確保して反射防止を可能とし、また、中空微粒子間の空隙に第2バインダーを充填することによって中空微粒子間の結合を補強して耐摩耗性を向上することができる反射防止膜、この反射防止膜の製造方法、この反射防止膜を用いて製造される反射防止部材を提供することを目的とするものである。
【0013】
また、上記の効果に加えて、第2バインダーに含フッ素化合物や含シリコーン化合物等を含有させることによって防汚性を付与することができる反射防止膜、この反射防止膜の製造方法、この反射防止膜を用いて製造される反射防止部材を提供することを目的とするものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1に係る反射防止膜は、内部が空洞1である中空微粒子2を第1バインダー3で相互に結合させることによって形成される低屈折率層4からなる反射防止膜において、低屈折率層4内の中空微粒子2間の空隙5に第2バインダー6を充填して成ることを特徴とするものである。
【0015】
また請求項2の発明は、請求項1において、中空微粒子2として、屈折率が1.2?1.45及び平均粒子径が0.5?200nmのものを用い、この中空微粒子2が内部の空洞1も含めて低屈折率層4全体の40?95体積%を占めると共に、第1バインダー3、第2バインダー6及び中空微粒子2間の空隙5が残りの60?5体積%を占めることを特徴とするものである。
【0016】
また請求項3の発明は、請求項1又は2において、中空微粒子2内の空洞1及び中空微粒子2間の空隙5が低屈折率層4内の10?60体積%を占め、かつ、第2バインダー6が中空微粒子2間の空隙5全体の40体積%以上を占めることを特徴とするものである。
【0017】
また請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかにおいて、中空微粒子2として1種類以上のものを用いると共に、そのうち少なくとも1種類のものが中空シリカゾルであることを特徴とするものである。
・・・(省略)・・・
【0033】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0034】
図1は、本発明に係る反射防止部材の中に含まれる反射防止フィルムの1例を示す断面図である。この反射防止フィルムは、透明支持体7として透明樹脂フィルムを用い、この透明支持体7の表面にハードコート層8を介して低屈折率層4(この低屈折率層4が本発明に係る反射防止膜に相当する)を形成することによって、製造することができる。なお、透明支持体7としては、上記の透明樹脂フィルムのほか、透明樹脂板を用いることができる。また、図1に示す反射防止部材にあっては、透明支持体7の片面にハードコート層8を介して低屈折率層4を形成するようにしているが、透明支持体7の両面にハードコート層8を介して低屈折率層4を形成するようにしてもよく、さらに、透明支持体7の表面にハードコート層8を介することなく直接、低屈折率層4を形成するようにしてもよい。以下においては、図1に基づいて説明することとする。
【0035】
まず、透明支持体7について説明する。透明支持体7としては、種々の有機高分子からなる透明樹脂フィルム又は透明樹脂板を挙げることができる。通常、光学部材として使用される有機高分子は、透明性、屈折率、ヘイズ等の光学特性、さらには耐衝撃性、耐熱性、耐久性等の諸物性の点から、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド系(ナイロン-6、ナイロン-66等)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、アクリル、セルロース系(トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セロファン等)、シクロオレフィン系、あるいはこれらの有機高分子の共重合体等であり、これらの有機高分子等をフィルム状又は板状に成形することによって、透明樹脂フィルム又は透明樹脂板を製造することができる。
・・・(省略)・・・
【0038】
次に、ハードコート層8について説明する。このハードコート層8は、低屈折率層4を形成する前に、透明支持体7の表面にハードコート材料を塗布(塗工)して、これを硬化させることによって形成されるものである。透明支持体7と低屈折率層4との間にハードコート層8を形成しておくと、透明支持体7の表面の硬度を向上させ、鉛筆等の荷重のかかる引っ掻きによる傷を防止し、また、透明樹脂フィルムのように屈曲性のある透明支持体7を用いる場合において、この透明支持体7が屈曲したときに反射防止膜にクラックが発生するのを抑制することができ、反射防止膜の機械的強度を改善することができるものである。
・・・(省略)・・・
【0046】
次に、低屈折率層4について説明する。この低屈折率層4は、中空微粒子2を含有する第1バインダー3(これは組成物として用いるので、以下「第1コーティング剤組成物」ともいう。)をハードコート層8の表面(あるいは透明支持体7の表面)に塗布(塗工)して、これを硬化させることによって形成されるものであり、本発明においてはこの低屈折率層4の表面にさらに、第2バインダー6(これも組成物として用いることができるので、以下「第2コーティング剤組成物」ともいう。)を塗布(塗工)して、これを硬化させることによって、反射防止膜を製造するようにしている。
【0047】
低屈折率層4は、反射を防止するためには、屈折率が1.20?1.50であることが好ましく、1.25?1.45であることが、より好ましい。低屈折率層4の屈折率を調整する方法については後述する。また、低屈折率層4の厚み(d)は、低屈折率層4の屈折率をnとすると、nd=λ/4(ただし、λ:波長)の式を満たすものであることが好ましい。具体的には、d=50?400nmであることが好ましく、d=50?200nmであることが、より好ましい。
【0048】
図2は、第2コーティング剤組成物を塗布する前の低屈折率層4の概略断面図を示すものであり、また図3は、第2コーティング剤組成物を塗布した後の低屈折率層4(つまり、本発明に係る反射防止膜)の概略断面図を示すものである。図2に示すように低屈折率層4は、第1コーティング剤組成物の硬化物として形成されており、略球形の中空微粒子2は、低屈折率層4内において密に充填(高充填)されていると共に、第1バインダー3で相互に結合されている。このときの実際の様子を図4に示す。図4は、第2コーティング剤組成物を塗布する前の低屈折率層4の電子顕微鏡写真(撮影倍率:10万倍)を示すものである。図4により、ハードコート層8の表面に低屈折率層4が形成され、中空微粒子2間に空隙5が存在していることが確認される。そしてこの低屈折率層4の表面に、第2コーティング剤組成物を塗布すると、第1バインダー3のみでは充填しきれなかった上記の中空微粒子2間の空隙5に第2バインダー6が浸透していき、図3に示すように上記の空隙5に第2バインダー6が充填されることによって、反射防止膜が製造されるのである。このときの実際の様子を図5に示す。図5は、第2コーティング剤組成物を塗布した後の低屈折率層4の電子顕微鏡写真(撮影倍率:10万倍)を示すものである。図5により、中空微粒子2間の空隙5に第2バインダー6が密に充填されていることが確認される。つまり、本発明に係る反射防止膜は、第1コーティング剤組成物の硬化物をベースとして、この硬化物の内部の中空微粒子2間の結合が第2バインダー6で補強された構造を有している。以下、第1コーティング剤組成物を構成する第1バインダー3及び中空微粒子2、第2コーティング剤組成物を構成する第2バインダー6について、詳細に説明する。
【0049】
まず、第1バインダー3について説明する。第1バインダー3は、シリコンアルコキシド系であっても、飽和炭化水素、ポリエーテルを主鎖として有するポリマー(UV硬化型樹脂、熱硬化型樹脂)であっても良い。またその中にフッ素原子を含む単位を含有していても良い。具体的には、後述する含フッ素化合物(含フッ素界面活性剤、含フッ素ポリマー、含フッ素エーテル、含フッ素シラン化合物等)である。
・・・(省略)・・・
【0059】
なお、上記の第1バインダーを構成する材料は、第2バインダーを構成する材料として使用することができる。すなわち、第1バインダーと第2バインダーとは、同じ材料で構成されていても、あるいは異なる材料で構成されていてもよい。
【0060】
次に、中空微粒子2について説明する。中空微粒子2は、図2や図3に示すように内部に空洞1を有する略球形の微粒子であり、この中空微粒子2自体が低屈折率(例えば、屈折率:1.20?1.45)を有している。具体例としては、中空シリカ微粒子等を挙げることができる。上記の空洞1は、略球形の外殻9によって完全に包囲されているので、この空洞1に第1バインダー3や第2バインダー6等の異物が浸入することはない。このことは、図4や図5により確認される。そしてこの空洞1が存在していることによって低屈折率化を図ることができるものであり、また空洞1内への異物の浸入が阻止されていることによって屈折率の増加を防止することができ、反射防止の効果を得ることができるものである。なお、空洞1を1つの微粒子に複数設けて形成される多孔質微粒子を中空微粒子2の代わりに用いたり、中空微粒子2と一緒に用いたりしてもよい。
【0061】
具体的には、低屈折率層4の屈折率を低減するためには、次のようにすればよい。すなわち、低屈折率の中空微粒子2(例えば、屈折率:1.20?1.45)を第1バインダー3に添加して第1コーティング剤組成物を調製し、この第1コーティング剤組成物を用いて低屈折率層4を形成すればよいのである。そうすると、中空微粒子2によって低屈折率層4内において空洞1が確保され、この空洞1によって低屈折率化を図ることができ、反射防止膜としての機能を実現することができるものである。
【0062】
ここで、中空微粒子2としては、屈折率が1.2?1.45及び平均粒子径が0.5?200nmのものを用いるのが好ましい。中空微粒子2の屈折率は、低いほど好ましいが、1.2が実質上の下限であり、また1.45を超えると十分な反射防止機能を得ることができないおそれがある。また、中空微粒子2の平均粒子径が200nmよりも大きくなると、製造される反射防止膜においてレイリー散乱によって光が乱反射されて反射防止膜が白っぽく見え、その透過率が低下することがある。逆に中空微粒子2の平均粒子径が0.5nmよりも小さくなると、中空微粒子2の分散性が低下し、第1コーティング剤組成物中で凝集を生じてしまうおそれがある。
【0063】
さらに、上記の屈折率及び平均粒子径を有する中空微粒子2(内部の空洞1も含む)が、低屈折率層4全体の40?95体積%を占めていると共に、第1バインダー3、第2バインダー6及び中空微粒子2間の空隙5が、残りの60?5体積%を占めていることが好ましい(請求項2の発明)。一般的に粒径の等しい(完全な単分散の)球状微粒子を最密充填したときの微粒子の、最大体積分率は、Horsfieldの充填モデルによると、0.74となり、幾何学的な関係から、必然的に26体積%粒子間間隙が生じてしまう。従って理想的には、第1コーティング剤組成物において中空微粒子2(すべての粒子径が等しいと仮定する)が74体積%を占め、第1バインダー3が残りの24体積%を占めているとき、低屈折率層4内において中空微粒子2間の空隙5はすべて第1バインダー3で置換され、高充填かつ非常に緻密な低屈折率層4が得られることになる。しかしながら実際には、中空微粒子2は粒度分布を持っており、また中空微粒子2/第1バインダー3の界面のぬれ性不足、ナノサイズの粒子径のため、第1コーティング剤組成物中で凝集等が生じている。そして実際には、第1コーティング剤組成物において中空微粒子2の添加量が40体積%以上であると、この第1コーティング剤組成物によって形成される低屈折率層4中において中空微粒子2の充填不良を生じ、第1バインダー3の未充填に起因する空隙5が中空微粒子2間に生じることになるのである。なお、中空微粒子2が40体積%未満であると、第1バインダー3によって中空微粒子2間を結合すると同時に中空微粒子2間の空隙5を埋めることはできるが、中空微粒子2の量が相対的に少ないために低屈折率化を図ることができないおそれがある。
【0064】
上記のように、中空微粒子2を高充填(40体積%以上)とすることによって生じた低屈折率層4内における中空微粒子2間の空隙5は、この低屈折率層4の強度、耐摩耗性能を著しく低下させることとなる。すなわち、低屈折率の中空微粒子2を添加することによる従来の低屈折率層4の屈折率低減方法は、40体積%以上の中空微粒子2を用いる場合には、耐摩耗性と完全にトレードオフの関係になり、実用上利用困難なものとなる。そして本発明者は、このトレードオフの問題を解決するために、中空微粒子2を高充填する場合において、低屈折率層4中の中空微粒子2間の空隙5に第2バインダー6を充填する方法を発明したのである。
【0065】
なお、中空微粒子2(内部の空洞1も含む)が、低屈折率層4全体の95体積%を超えるような場合には、中空微粒子2間を結合する第1バインダー3等の量が相対的に少なくなり、中空微粒子2間を十分に結合して保持することができなくなるおそれがある。そのため、中空微粒子2が占める体積の上限を低屈折率層4全体の95体積%としている。そうすると、中空微粒子2が占める体積以外の体積は、低屈折率層4全体の60?5体積%となる。この体積は、第1バインダー3及び第2バインダー6のみで占められる(つまり、中空微粒子2間の空隙5が全く存在しない)のが好ましいが、実際には、中空微粒子2間の空隙5がごくわずか残っている場合がある。しかし、中空微粒子2間の大部分に第2バインダー6が存在しているので、中空微粒子2間のごくわずかの空隙5は、耐摩耗性低下の要因とはならないものである。
【0066】
また、図3に示すように、第2コーティング剤組成物を塗布した後の低屈折率層4において、中空微粒子2内の空洞1及び中空微粒子2間の空隙5が低屈折率層4内の10?60体積%を占め、かつ、第2バインダー6が中空微粒子2間の空隙5全体の40体積%以上(上限は100体積%未満)を占めていることが好ましい(請求項3の発明)。特に、図3に示す低屈折率層4については、中空微粒子2間の空隙5に第1、第2コーティング剤組成物が完全に充填されており、中空微粒子2内の空洞1が低屈折率層4内の10?60体積%を占めている。この空洞1によって低屈折率化の効果をさらに高く得ることができるものである。なお、図3においては上述のように、中空微粒子2間の空隙5に第1、第2コーティング剤組成物が完全に充填されているが、完全には充填されていなくてもよい。この場合には空隙5に空気が存在することとなり、このように空気が存在する空隙5によって、低屈折率化を図ることができるからである。また、図3に示す低屈折率層4については、第1、第2コーティング剤組成物が充填されている中空微粒子2間の空隙5全体の40体積%以上を第2バインダー6が占めている。このような割合で中空微粒子2間の空隙5に第2バインダー6を充填することによって、中空微粒子2間の結合をさらに補強して耐摩耗性を向上することができるものである。
【0067】
上記のように、低屈折率層4の屈折率を低減する効果は、低屈折率層4内に空気(空隙5)を含有させることによって得ることができる。しかしながら従来においては、微粒子間に空隙5を設け、そこに空気を存在させることによって屈折率を低減しようとしていた。そのため微粒子間の結合が弱くなり、低屈折率層4の耐摩耗性が著しく低下するのであり、このことは確認されている。よって、従来の技術よりも、本発明のように低屈折率層4内の空隙5は、中空微粒子2や多孔質微粒子等の微粒子内部の空洞1によって形成することとし、微粒子間の空隙5は可能な限り低減するようにした方が、低屈折率化と耐摩耗性を両立する上で好ましいのである。ここで、第1コーティング剤組成物を調製するにあたって、中空微粒子2の添加量を増加させておけば、それに伴って空洞1の量も増加し、低屈折率層4内に多くの空洞1を導入することができ、屈折率をさらに低下して反射防止性能を高めることができるものである。なお、以下において「低屈折率層4内空隙5率」という用語を使用する場合があるが、これは、第2コーティング剤組成物を塗布した後の低屈折率層4全体の体積に対する、中空微粒子2内の空洞1及び中空微粒子2間の空隙5が占める体積の割合を意味するものとする。
【0068】
既述のように、第2コーティング剤組成物を塗布した後の低屈折率層4においては、中空微粒子2内の空洞1及び中空微粒子2間の空隙5が低屈折率層4内の10?60体積%を占めていること、換言すれば、低屈折率層4内空隙5率が10?60体積%であることが好ましいとしているが、その理由は次の通りである。すなわち、低屈折率層4内空隙5率が10体積%未満である場合には、屈折率低減効果を高く得ることができないおそれがあるからであり、逆に低屈折率層4内空隙5率が60体積%を超える場合には、空洞1の容積が非常に大きい中空微粒子2や多孔質微粒子が必要となり、これらの微粒子自身の機械的強度等が低下してしまい、実用上好ましくないからである。
【0069】
また、中空微粒子2間の空隙5のうち、第1、第2コーティング剤組成物が充填されていない空隙5は60体積%未満(よって、第1、第2コーティング剤組成物が充填されている空隙5は40体積%以上)であることが好ましい。このように空気が内在する空隙5が中空微粒子2間の空隙5全体の60体積%以上であると、低屈折率層4全体がポーラスになり、耐摩耗性が低下してしまうおそれがある。
【0070】
また、中空微粒子2として1種類以上のものを用いると共に、そのうち少なくとも1種類のものが中空シリカゾル(SiO_(2))であることが好ましい(請求項4の発明)。その理由は、低屈折率層4の屈折率低減の効果をさらに高く得ることができるからである。
【0071】
中空微粒子2は、既述の通り、外殻9によって包囲された空洞1を有する微粒子である。また、中空微粒子2自体の屈折率は1.20?1.45であることが好ましく、この中空微粒子2の屈折率は特開2001-233611号公報(特許文献11)に開示されている方法によって測定することができる。また、中空微粒子2の平均粒子径は0.5?200nmであることが好ましい。中空微粒子2の外殻9を構成する材料は、シリカのほか、金属酸化物であることも好ましい。中空微粒子2は、その平均粒子径に比べて外殻9の厚みが薄いものを用いるのが好ましく、また、低屈折率層4中に占める中空シリカ微粒子(内部の空洞1も含む)の体積が多いこと(40体積%以上)が好ましい。このような中空微粒子2は、例えば、特開2001-233611号公報(特許文献11)に開示されており、そこに開示されている中空微粒子2を第1コーティング剤組成物を調製する際に使用することができる。
【0072】
中空微粒子2の外殻9を構成する材料を具体的に挙げると、SiO_(2)、SiO_(x)、TiO_(2)、TiO_(x)、SnO_(2)、CeO_(2)、Sb_(2)O_(5)、ITO、ATO、Al_(2)O_(3)等の単独材料又はこれらの材料のいずれかの組み合わせの混合物の形態の材料である。また、これらの材料のいずれかの組み合わせの複合酸化物であってもよい。なお、SiO_(x)は、酸化雰囲気中で焼成した場合に、SiO_(2)となるものが好ましい。
【0073】
また、平均粒子径がそれぞれd_(1),d_(2),……,d_(n)(ただし、d_(1)>d_(2)>……>d_(n))の中空微粒子2をn種類混合して用いると共に、平均粒子径がd_(k-1)の中空微粒子2と平均粒子径がd_(k)の中空微粒子2とがd_(k)<0.5×d_(k-1)(k=1?n、2≦n)の関係を有することが好ましい(請求項5の発明)。このように、平均粒子径(粒度分布)の異なる複数種類(n種類、nはn≧2を満たす整数)の中空微粒子2を混合して使用する場合において、各種の中空微粒子2を平均粒子径の大きさの順に並べたとき、隣り合う2種類の中空微粒子2の平均粒子径d_(k)、d_(k-1)が上記の関係であれば、平均粒子径d_(k)の中空微粒子2が平均粒子径d_(k)の中空微粒子2間の間隙に充填され、複数種類からなる中空微粒子2の最大体積分率が上昇する。つまり、低屈折率層4内において、中空微粒子2間の空隙5が占める体積が減少する。したがって、第1、第2コーティング剤組成物を充填すべき空隙5の量が減少することによって、未充填を防止して耐摩耗性を保持することができると共に、上記空隙5の代わりに中空微粒子2の空洞1が設けられることによって、屈折率のさらなる低減が可能となるものである。なお、隣り合う2種類の中空微粒子2の平均粒子径d_(k)、d_(k-1)が、上記の関係とは逆にd_(k)≧0.5×d_(k-1)という関係であれば、平均粒子径d_(k)の中空微粒子2が平均粒子径d_(k-1)の中空微粒子2間の間隙に充填されにくくなるおそれがある。
・・・(省略)・・・
【0077】
また、第2バインダー6が反応性有機珪素化合物からなるものであることが好ましい(請求項8の発明)。特に、低屈折率層4を構成する中空微粒子2として、中空シリカ微粒子を用いる場合に、反応性有機珪素化合物を第2バインダー6として用いると、中空シリカ微粒子とのぬれ性が良好となり、中空シリカ微粒子間の空隙5に第2コーティング剤組成物が浸入しやすくなるものである。
・・・(省略)・・・
【0080】
また、低屈折率層4に対する第2バインダー6の接触角が0?70°であることが好ましい(請求項6の発明)。この接触角は、以下のものを意味する。すなわち、第1コーティング剤組成物をハードコート層8の表面(あるいは透明支持体7の表面)に塗布(塗工)して、これを硬化させることによって図2に示すような低屈折率層4を形成し、この低屈折率層4の表面に第2コーティング剤組成物(つまり、第2バインダー6)を滴下したときに測定される接触角を意味する。そして上記の接触角が0?70°であると、第2バインダー6が低屈折率層4内の中空微粒子2間の空隙5へ容易に浸入し、反射防止膜を緻密な薄膜として製造することができるものである。しかし、上記の接触角が70°を超えると、このような効果を得るのが難しくなる。
【0081】
また、第2バインダー6の分子量(重量平均分子量)が100?5000であることが好ましい(請求項9の発明)。第2バインダー6の分子量が100未満であると、粘度が低下することによって空隙5にとどまらないおそれがあり、また硬化も難しくなるおそれがあり、逆に、第2バインダー6の分子量が5000を超えると、低屈折率層4内の中空微粒子2間の空隙5への浸入が困難になり、反射防止膜を緻密な薄膜として製造することができないおそれがある。
【0082】
また、第2バインダー6が硬化触媒(架橋剤)を含有することが好ましい(請求項10の発明)。これによって、第1コーティング剤組成物をハードコート層8の表面(あるいは透明支持体7の表面)に塗布(塗工)してこれを乾燥する際に、縮合反応が促進されて低屈折率層4中の架橋密度が高くなり、低屈折率層4の耐水性及び耐アルカリ性を向上させることができるものである。このような効果を得るためには、硬化触媒としては、金属キレート化合物(例えば、Tiキレート化合物、Zrキレート化合物等)、有機酸等を用いることができる。これらの硬化触媒のうち金属キレート化合物は、4官能アルコキシシランを原料として第1コーティング剤組成物を調製する場合に用いると、特に有効である。
【0083】
また、上記の硬化触媒としては、有機ジルコニウムを用いるのが好ましい。既述の効果をさらに高く得ることができるからである。有機ジルコニウムとしては、特に限定されるものではないが、例えば、一般式ZrO_(n)R^(2)_(m)(OR^(1))_(p)(m,pは0?4の整数、nは0又は1、2n+m+p=4)で表される。この化学式中のアルコキシル基(OR^(1))の官能基(R^(1))は、1価の炭化水素基であれば、特に限定されるものではないが、炭素数1?8の1価の炭化水素基であることが好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ペプチル基、オクチル基等のアルキル基を例示することができる。また、R^(2)としては、例えば、C_(5)H_(7)O_(2)であるもの(アセチルアセトネート錯体)やC_(6)H_(9)O_(3)であるもの(エチルアセトアセテート錯体)を挙げることができる。R^(1)とR^(2)としては、1つの分子中に同一あるいは異種のものが存在していてもよい。特に有機ジルコニウムとして、Zr(OC_(4)H_(9))_(4)、Zr(OC_(4)H_(9))_(3)(C_(5)H_(7)O_(2))及びZr(OC_(4)H_(9))_(2)(C_(5)H_(7)O_(2))(C_(6)H_(9)O_(3))のうち少なくともいずれかを用いると、低屈折率層4の機械的強度を一層向上させることができるものである。例えば、中空シリカ微粒子に対して(ポリ)シロキサン化合物、例えば、4官能加水分解可能アルコキシシランを縮合して得られるシリコーンレジンの割合が少ない第1コーティング剤組成物を用いて低屈折率層4を形成すると、この低屈折率層4の機械的強度は不足する場合があるが、有機ジルコニウムを添加することによって、低屈折率層4の機械的強度を向上させることができるものである。また、この第1コーティング剤組成物をハードコート層8の表面(あるいは透明支持体7の表面)に塗布(塗工)した後に、これを比較的低温(例えば、100℃)で熱処理をして得られる低屈折率層4は、有機ジルコニウムを添加しない場合において高温(例えば、300℃)で熱処理する場合と同等の強度を有する。つまり、有機ジルコニウムを添加しておけば、低温で熱処理することができ、エネルギーの消費を抑制することができるものである。」

(2)「【0106】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0107】
透明支持体(透明樹脂フィルム)及びハードコート材料として、以下のものを用いた。
【0108】
・透明樹脂フィルム:PETフィルム、東洋紡績(株)製「A4300」(188μm厚)
・ハードコート材料:アクリル系紫外線硬化型樹脂、大日精化工業(株)製「セイカビームPET-HC15」(有効成分60%)
そして上記の透明樹脂フィルムの表面に上記のハードコート材料をワイヤーバーコーター#10番で塗布し、これを40℃で1分間乾燥させた後に、UV照射(1000mJ/cm^(2))して硬化させることによって、ハードコート層を形成した。
【0109】
(実施例1)
テトラエトキシシラン208部(「部」は「重量部」を意味する。以下同じ。)にメタノール356部を加え、さらに水18部及び0.01Nの塩酸水溶液18部を加え、これをディスパーを用いて混合することによって、混合液を得た。この混合液を25℃恒温槽中で2時間攪拌することによって、重量平均分子量を850に調整したシリコーンレジン(A)を得た。
【0110】
次に、低屈折率微粒子として中空シリカIPA(イソプロパノール)分散ゾル(固形分20重量%、平均粒子径60nm、触媒化成工業(株)製)を用い、これをシリコーンレジン(A)に加え、中空シリカ微粒子/シリコーンレジンが縮合固形物換算で体積比50/50となるように配合し、その後、全固形分が1%になるようにメタノールで希釈することによって、第1コーティング剤組成物を調製した。得られたゾル液の屈折率は1.36であった。
【0111】
次に、シリコーンレジン(A)を全固形分が0.5%になるようにメタノールで希釈することによって、第2コーティング剤組成物を調製した。
【0112】
そして、上記のようにして形成したハードコート層の表面に、コロナ処理を施し、まず、第1コーティング剤組成物を膜厚が約100nmになるようにワイヤーバーコーターでコーティング(塗布)した。次に、これを100℃、1時間の条件で乾燥させ、硬化させることによって、低屈折率層を形成した。その後、この低屈折率層の表面に第2コーティング剤組成物を固形分膜厚換算で50nmとなるようにワイヤーバーコーターでコーティング(塗布)した。そして、これを100℃、1時間の条件で乾燥させ、硬化させることによって、反射防止膜を製造した。
・・・(省略)・・・
【0124】
実施例1?10及び比較例1、2について、低屈折率層内空隙率(中空微粒子内の空洞及び中空微粒子間の空隙が占める体積の割合)を求め、さらに、この低屈折率層内空隙率に対する第2コーティング剤組成物の充填率を求めた。その結果を表1に示す。なお、上記の低屈折率層内空隙率及び第2コーティング剤組成物の充填率は、低屈折率層(反射防止膜)断面のFE-SEM観察像を用い、その面積分率から算出した。
【0125】
そして、実施例1?10及び比較例1、2の反射防止膜について、反射率、接触角、油性ペン拭き取り性、指紋拭き取り性、耐摩耗性(スチールウール試験)、密着性(クロスカットテープ試験)を評価した。その結果を表2に示す。なお、各種の物性評価方法を以下に示す。
【0126】
(a)光学特性
反射率測定:透明樹脂フィルムの表面(図1の最下面)をサンドペーパーでこすり、艶消しの黒色塗料を塗布した後、波長550nmの光の入射角5゜での片面の反射率を測定した。この測定には日立製作所(株)製「U-3400」を用いた。
【0127】
(b)防汚性
(b)-1 接触角測定:接触角計〔CA-X型:協和界面科学(株)製〕を用いて、乾燥状態(20℃-65%RH)で直径1.8μlの液滴を針先に作り、これを低屈折率層の表面に接触させて液滴を作った。接触角とは、固体と液体が接する点における液体表面に対する接線と固体表面がなす角で、液体を含む方の角度で定義した。液体には、蒸留水
を使用した。
【0128】
(b)-2 油性ペンの拭き取り性:反射防止膜の表面に付着した油性ペンをセルロース製不織布〔ベンコットM-3:旭化成(株)製〕で拭き取り、その取れ易さを目視判定を行った。判定基準を以下に示す。
【0129】
「○」:油性ペンを完全に拭き取ることができる。
【0130】
「△」:油性ペンの拭き取り跡が残る。
【0131】
「×」:油性ペンを拭き取ることができない。
【0132】
(b)-3 指紋の拭き取り性:反射防止膜の表面に付着した指紋をセルロース製不織布〔ベンコットM-3:旭化成(株)製〕で拭き取り、その取れ易さを目視判定を行った。判定基準を以下に示す。
【0133】
「○」:指紋を完全に拭き取ることができる。
【0134】
「△」:指紋の拭き取り跡が残る。
【0135】
「×」:指紋の拭き取り跡が拡がり、拭き取ることができない。
【0136】
(c)機械強度
(c)-1 耐摩耗性:反射防止膜の表面をスチールウール〔ボンスター#0000:日本スチールウール(株)製〕により250g/cm^(2)及び500g/cm^(2)で10回擦り、傷の有無を目視判定を行った(スチールウール試験)。判定基準を以下に示す。
【0137】
「○」:傷を確認することができない。
【0138】
「△」:数本傷を確認できる。
【0139】
「×」:傷が多数確認できる。
【0140】
(c)-2 密着性:反射防止膜の表面を1mm角100点カット後、粘着セロハンテープ〔ニチバン(株)製工業用24mm巾セロテープ(登録商標)〕による剥離の有無を目視判定を行った(クロスカットテープピール試験)。
【0141】
【表1】

【0142】
【表2】

【0143】
表1にみられるように、実施例1?10のものはいずれも低屈折率層内空隙率が高く、しかも第2バインダーの充填率が高いことが確認される。よって、実施例1?10の反射防止膜は、反射防止性能及び耐摩耗性の両方の特性に優れていると考えられる。一方、比較例1のものは低屈折率層内空隙率は高いものの、第2バインダーの充填率が低く、また、比較例2のものは第2バインダーの充填率は高いものの、低屈折率層内空隙率が低いことが確認される。つまり、比較例1の反射防止膜は耐摩耗性が悪く、比較例2の反射防止膜は反射防止性能が悪いと考えられる。
【0144】
上記の事項は、表2にみられるように各種物性試験によって実証された。しかも、含フッ素化合物やシリコーン化合物を用いた実施例3、6?8の反射防止膜は、防汚性にも優れていることが実証された。
【0145】
すなわち、本発明者が研究の結果、発明した反射防止膜は、屈折率が非常に低く、耐摩耗性に優れ、低屈折率層の剥離がなく、また低屈折率層の表面に、指紋、皮脂、油性マジック、化粧品等の汚れが付着することを防止し、付着しても容易に拭き取ることが可能となるものである。そして、このような反射防止膜を用いることにより、画像表示装置等の表示面における光の反射を格段に防止することができるものと考えられる。
【0146】
【発明の効果】
上記のように本発明の請求項1に係る反射防止膜は、内部が空洞である中空微粒子を第1バインダーで相互に結合させることによって形成される低屈折率層からなる反射防止膜において、低屈折率層内の中空微粒子間の空隙に第2バインダーを充填するので、内部に空洞を有する中空微粒子が低屈折率層内において高充填されていることによって、低屈折率を十分に確保して反射防止を可能とするものであり、また、中空微粒子間の空隙に第2バインダーを充填することによって、中空微粒子間の結合を補強して耐摩耗性を向上することができるものである。
【0147】
また請求項2の発明は、中空微粒子として、屈折率が1.2?1.45及び平均粒子径が0.5?200nmのものを用い、この中空微粒子が内部の空洞も含めて低屈折率層全体の40?95体積%を占めると共に、第1バインダー、第2バインダー及び中空微粒子間の空隙が残りの60?5体積%を占めるので、低屈折率化による反射防止機能をさらに高めることができると共に、耐摩耗性をさらに向上させることができるものである。
【0148】
また請求項3の発明は、中空微粒子内の空洞及び中空微粒子間の空隙が低屈折率層内の10?60体積%を占め、かつ、第2バインダーが中空微粒子間の空隙全体の40体積%以上を占めるので、低屈折率化による反射防止機能をさらに高めることができると共に、耐摩耗性をさらに向上させることができるものである。
【0149】
また請求項4の発明は、中空微粒子として1種類以上のものを用いると共に、そのうち少なくとも1種類のものが中空シリカゾルであるので、低屈折率層の屈折率低減の効果をさらに高く得ることができるものである。」

(3)図1




(4)図2



(5)図3




(6)図4




(7)図5




2 引用発明
(1)引用文献1の【0034】、【0046】、図1の記載により、反射防止フィルムは、透明支持体7の片面にハードコート層8を介して低屈折率層4を形成したものであって、中空微粒子2を含有する第1バインダー3(第1コーティング剤組成物)及び第2バインダー6(第2コーティング剤組成物)を塗布、硬化させることによって、反射防止膜を製造するようにしたものである。上記記載に基づくと、引用文献1の実施例1(【0109】?【0112】)において、ハードコート層の表面に第1コーティング剤組成物及び第2コーティング剤組成物を塗布、硬化させた層は、反射防止膜であるといえる。

(2)引用文献1の【0124】?【0125】の記載によれば、引用文献1の表1(【0141】)、表2(【0142】)に記載された各数値は、各実施例、比較例に係る反射防止膜についてのものと理解される。

(3)そうしてみると、実施例1の反射防止膜を透明支持体に形成することによって得られた反射防止フィルムが表示画面表面に適用されたディスプレイとして、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、「反射防止部材」を「反射防止フィルム」に、「中空シリカ」及び「微粒子」を「中空シリカ微粒子」に、「第1バインダー」を「第1コーティング剤組成物」に、「第2バインダー」を「第2コーティング剤組成物」に、それぞれ用語を統一して記載した。

「PETフィルムである透明樹脂フィルム(188μm厚)の表面にアクリル系紫外線硬化型樹脂であるハードコート材料をワイヤーバーコーター#10番で塗布し、これを40℃で1分間乾燥させた後に、UV照射(1000mJ/cm^(2))して硬化させることによって、ハードコート層を形成し、
テトラエトキシシラン208部にメタノール356部を加え、さらに水18部及び0.01Nの塩酸水溶液18部を加え、これをディスパーを用いて混合することによって、混合液を得、この混合液を25℃恒温槽中で2時間攪拌することによって、重量平均分子量を850に調整したシリコーンレジン(A)を得、
次に、低屈折率微粒子として中空シリカ微粒子IPA(イソプロパノール)分散ゾル(固形分20重量%、平均粒子径60nm)を用い、これをシリコーンレジン(A)に加え、中空シリカ微粒子/シリコーンレジンが縮合固形物換算で体積比50/50となるように配合し、その後、全固形分が1%になるようにメタノールで希釈することによって、第1コーティング剤組成物を調製し、得られたゾル液の屈折率は1.36であり、
次に、シリコーンレジン(A)を全固形分が0.5%になるようにメタノールで希釈することによって、第2コーティング剤組成物を調製し、
そして、上記のようにして形成したハードコート層の表面に、コロナ処理を施し、まず、第1コーティング剤組成物を膜厚が約100nmになるようにワイヤーバーコーターでコーティング(塗布)し、次に、これを100℃、1時間の条件で乾燥させ、硬化させることによって、低屈折率層を形成し、その後、この低屈折率層の表面に第2コーティング剤組成物を固形分膜厚換算で50nmとなるようにワイヤーバーコーターでコーティング(塗布)し、そして、これを100℃、1時間の条件で乾燥させ、硬化させることによって、反射防止膜を形成して反射防止フィルムを製造し、
中空シリカ微粒子内の空洞及び中空シリカ微粒子間の空隙が占める体積の割合は22.5%であり、
中空シリカ微粒子間空隙に対する第2コーティング剤組成物の充填率は95.0%であり、
反射防止膜の反射率は1.21%であり、
得られた反射防止フィルムが表示画面表面に適用されたディスプレイ。」


第5 対比
1 本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)透明樹脂フィルム基材について
引用発明の「透明樹脂フィルム」が「基材」として機能することは明らかであるから、引用発明の「透明樹脂フィルム」は、本願発明の「透明樹脂フィルム基材」に相当する。

(2)無機微粒子、マトリクス樹脂、反射防止層について
引用発明の「反射防止膜」は、「PETフィルムである透明樹脂フィルムの表面にアクリル系紫外線硬化型樹脂である・・・ハードコート層を形成し」、「テトラエトキシシラン208部にメタノール356部を加え、さらに水18部及び0.01Nの塩酸水溶液18部を加え、これをディスパーを用いて混合することによって、混合液を得、この混合液を25℃恒温槽中で2時間攪拌することによって、重量平均分子量を850に調整したシリコーンレジン(A)を得」、「次に、低屈折率微粒子として中空シリカIPA(イソプロパノール)分散ゾル(固形分20重量%、平均粒子径60nm)を用い、これをシリコーンレジン(A)に加え、中空シリカ微粒子/シリコーンレジンが縮合固形物換算で体積比50/50となるように配合し、その後、全固形分が1%になるようにメタノールで希釈することによって、第1コーティング剤組成物を調製し、得られたゾル液の屈折率は1.36であり」、「次に、シリコーンレジン(A)を全固形分が0.5%になるようにメタノールで希釈することによって、第2コーティング剤組成物を調製し」、「ハードコート層の表面に、コロナ処理を施し、まず、第1コーティング剤組成物を膜厚が約100nmになるようにワイヤーバーコーターでコーティング(塗布)し、次に、これを100℃、1時間の条件で乾燥させ、硬化させることによって、低屈折率層を形成し、その後、この低屈折率層の表面に第2コーティング剤組成物を固形分膜厚換算で50nmとなるようにワイヤーバーコーターでコーティング(塗布)し、そして、これを100℃、1時間の条件で乾燥させ、硬化させることによって」、「形成し」たものである。
上記構成及び製法からみて、引用発明の「中空シリカ微粒子」及び「シリコーンレジン(A)」は、それぞれ、本願発明の「無機微粒子」及び「マトリクス樹脂」に相当する。また、引用発明の「中空シリカ微粒子」は、「平均粒子径60nm」であるから、本願発明の「無機微粒子」の「直径が5?200nmの範囲であ」るとの要件を満たす。
次に、引用発明の「反射防止膜」が「層」をなすことは明らかであることと、上記構成及び製法からみて、引用発明の「反射防止膜」は、本願発明の「反射防止層」に相当する。また、上記構成及び製法からみて、引用発明の「反射防止膜」は、「PETフィルムである透明樹脂フィルム」の一方の面に設けられたものであるから、引用発明の「反射防止膜」は、本願発明の「反射防止層」の「透明樹脂フィルム基材の少なくとも一方の面に、無機微粒子とマトリクス樹脂とを含有する」との要件を満たす。
さらに、上記構成及び製法により、引用発明において、「第1コーティング剤組成物」の膜厚が約100nmであり、「第2コーティング剤組成物」は固形分膜厚換算で50nmとなるものであるから、引用発明の「反射防止膜」の膜厚は、100nmから150nmの間であることは明らかである。そうしてみると、引用発明の「反射防止膜」は、本願発明の「反射防止層」の「厚さが50?200nmの範囲である」との要件を満たす。

(3)反射防止フィルムについて
引用発明の「反射防止フィルム」は、「ハードコート層の表面に、コロナ処理を施し、まず、第1コーティング剤組成物を膜厚が約100nmになるようにワイヤーバーコーターでコーティング(塗布)し、次に、これを100℃、1時間の条件で乾燥させ、硬化させることによって、低屈折率層を形成し、その後、この低屈折率層の表面に第2コーティング剤組成物を固形分膜厚換算で50nmとなるようにワイヤーバーコーターでコーティング(塗布)し、そして、これを100℃、1時間の条件で乾燥させ、硬化させることによって、反射防止膜を形成して」「製造し」たものである。
上記(1)及び(2)の構成及び製法並びに上記構成及び製法からみて、引用発明の「反射防止フィルム」は、本願発明において、「透明樹脂フィルム基材の少なくとも一方の面に、無機微粒子とマトリクス樹脂とを含有する反射防止層が」「設けられた」及び「前記反射防止膜と前記透明樹脂フィルム基材とを有する」とされる、「反射防止フィルム」に相当する。

(4)表示装置について
引用発明の「ディスプレイ」は、「得られた反射防止フィルムが表示画面表面に適用された」ものである。
また、引用発明の「ディスプレイ」及び「表示画面表面」は、その機能からみて、それぞれ、本願発明の「表示装置」及び「画像表示面」に相当する。
そうすると、引用発明の「ディスプレイ」は、本願発明の「表示装置」の「反射防止フィルムが、画像表示面に配置されている」との要件を満たす。

2 一致点及び相違点
(1)一致点
以上の対比結果を踏まえると、本願発明と引用発明は、以下の点で一致する。
「 透明樹脂フィルム基材の少なくとも一方の面に、無機微粒子とマトリクス樹脂とを含有する反射防止層が設けられた反射防止フィルムが、画像表示面に配置されている表示装置であって、
前記無機微粒子の直径が5?200nmの範囲であり、
前記反射防止層の厚さが50?200nmの範囲である、表示装置。」

(2)相違点
本願発明と引用発明は、以下の点で相違するか、一応、相違する。
(相違点1)
「透明樹脂フィルム基材」が、本願発明は、「可撓性を有する」のに対して、引用発明の「透明樹脂フィルム」は、「PETフィルム(188μm厚)である」とされるにとどまり、可撓性を有するかどうかが特定されていない点。

(相違点2)
「反射防止層」が、本願発明は、「透明樹脂フィルム基材の少なくとも一方の面に」、「直接設けられた」のに対して、引用発明は、「PETフィルムである透明樹脂フィルムの表面に」「ハードコート層を形成し」、「ハードコート層の表面に」、「反射防止膜を形成し」た点。

(相違点3)
「表示装置」が、本願発明は、「フレキシブル」であるのに対して、引用発明の「ディスプレイ」は、このような特定がなされていない点。

(相違点4)
「反射防止層における前記無機微粒子の体積比率」が、本願発明は、「40体積%以上であ」るのに対して、引用発明は、この点が特定されていない点。

(相違点5)
「マトリクス樹脂」が、本願発明では、「無機微粒子の間にある全ての空隙を満た」すのに対して、引用発明では、「中空シリカ微粒子間空隙に対する第2コーティング剤組成物の充填率は95.0%であ」ることから、「シリコーンレジン(A)」(マトリクス樹脂)が、「中空シリカ無機微粒子の間にある全ての空隙を満た」すとはいえない点。

(相違点6)
「反射防止フィルム」の「反射率」が、本願発明は、「5%?6%」であるのに対して、引用発明の「反射防止膜の反射率は1.21%であ」る点。

(相違点7)
「反射防止フィルム」の「全光線透過率」が、本願発明は、「88%?91%」であるのに対して、引用発明では明らかでない点。


第6 判断
1 相違点についての判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1及び3について
本願発明は、フレキシブル性の程度を特定した発明ではない。そして、引用発明の「反射防止フィルム」は、「PETフィルム」の厚さ(188μm)及び「反射防止膜」の厚さ(上記1(3)参照。)からみて、たかだか200μm程度であって、この程度の厚さであれば、ある程度の可撓性を有しているといえる。
仮にそうでないとしても、可撓性のあるPETフィルムも、フレキシブル表示装置も慣用手段であるところ、PETフィルムや表示装置の柔軟性をどの程度とするかは設計事項であるから、引用発明の「PETフィルムである透明樹脂フィルム」を可撓性のものとし、引用発明の「反射防止フィルム」をフレキシブルとして、上記相違点1及び3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
引用文献1の【0034】には、「透明支持体7の表面にハードコート層8を介することなく直接、低屈折率層4を形成するようにしてもよい。」と記載されている他、引用文献1の【0080】、【0082】、【0083】には、「第1コーティング剤組成物をハードコート層8の表面(あるいは透明支持体7の表面)に塗布(塗工)」と記載されていて、引用文献1には、透明支持体の表面にハードコート層を介することなく直接、低屈折率層(反射防止膜)を形成することが記載されている。
そうしてみると、引用発明において、「PETフィルムである透明樹脂フィルム」の表面に直接、「反射防止膜」を形成して、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点4について
引用文献1の【0015】、【0063】、【0064】には、それぞれ、「中空微粒子2が内部の空洞1も含めて低屈折率層4全体の40?95体積%を占める」、「中空微粒子2(内部の空洞1も含む)が、低屈折率層4全体の40?95体積%を占めている・・・中空微粒子2が40体積%未満であると、第1バインダー3によって中空微粒子2間を結合すると同時に中空微粒子2間の空隙5を埋めることはできるが、中空微粒子2の量が相対的に少ないために低屈折率化を図ることができないおそれがある。」、「上記のように、中空微粒子2を高充填(40体積%以上)とすることによって生じた低屈折率層4内における中空微粒子2間の空隙5は、この低屈折率層4の強度、耐摩耗性能を著しく低下させることとなる。すなわち、低屈折率の中空微粒子2を添加することによる従来の低屈折率層4の屈折率低減方法は、40体積%以上の中空微粒子2を用いる場合には、耐摩耗性と完全にトレードオフの関係になり、実用上利用困難なものとなる。そして本発明者は、このトレードオフの問題を解決するために、中空微粒子2を高充填する場合において、低屈折率層4中の中空微粒子2間の空隙5に第2バインダー6を充填する方法を発明したのである。」と記載されている。
上記記載から、引用発明は、中空シリカ微粒子を高充填(40体積%以上)とすることを前提として、中空シリカ微粒子間の空隙を第2コーティング剤組成物(第2バインダー2)で補強する発明と理解される。
そうしてみると、上記相違点4は実質的な差異ではないか、仮に相違するとしても、引用発明において、上記相違点4に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)相違点5について
引用文献1の【0064】、【0065】、【0066】には、それぞれ、「40体積%以上の中空微粒子2を用いる場合には、耐摩耗性と完全にトレードオフの関係になり、実用上利用困難なものとなる。そして本発明者は、このトレードオフの問題を解決するために、中空微粒子2を高充填する場合において、低屈折率層4中の中空微粒子2間の空隙5に第2バインダー6を充填する方法を発明したのである。」、「中空微粒子2が占める体積の上限を低屈折率層4全体の95体積%としている。そうすると、中空微粒子2が占める体積以外の体積は、低屈折率層4全体の60?5体積%となる。この体積は、第1バインダー3及び第2バインダー6のみで占められる(つまり、中空微粒子2間の空隙5が全く存在しない)のが好ましい」、「図3に示す低屈折率層4については、中空微粒子2間の空隙5に第1、第2コーティング剤組成物が完全に充填されており、中空微粒子2内の空洞1が低屈折率層4内の10?60体積%を占めている。」と記載されている。
上記記載によれば、引用文献1には、耐摩耗性を高めるために低屈折率層中の中空微粒子(中空シリカ微粒子)間の空隙に第2バインダー(第2コーティング剤組成物)を高充填することによって、中空微粒子(中空シリカ微粒子)間の空隙が、第1バインダー3(第1コーティング剤組成物)及び第2バインダー6(第2コーティング剤組成物)のみで占められて、中空微粒子(中空シリカ微粒子)間の空隙が全く存在しないことが好ましいことが記載されている。
そうしてみると、上記記載に接した当業者であれば、引用発明において、中空シリカ微粒子間の全ての空隙を満たすために、例えば、引用文献1の【0077】の「低屈折率層4を構成する中空微粒子2として、中空シリカ微粒子を用いる場合に、反応性有機珪素化合物を第2バインダー6として用いると、中空シリカ微粒子とのぬれ性が良好となり、中空シリカ微粒子間の空隙5に第2コーティング剤組成物が浸入しやすくなるものである。」との記載や、引用文献1の【0080】の「第1コーティング剤組成物をハードコート層8の表面(あるいは透明支持体7の表面)に塗布(塗工)して、これを硬化させることによって図2に示すような低屈折率層4を形成し、この低屈折率層4の表面に第2コーティング剤組成物(つまり、第2バインダー6)を滴下したときに測定される接触角を意味する。そして上記の接触角が0?70°であると、第2バインダー6が低屈折率層4内の中空微粒子2間の空隙5へ容易に浸入し、反射防止膜を緻密な薄膜として製造することができるものである。」等の記載を参考にして、第2コーティング剤組成物を中空シリカ微粒子間の空隙に侵入しやすくするような調製を試みると考えられる。そして、その際さらに、シリコーンレジン(A)ひいては第2コーティング剤組成物の粘度や固形分濃度、第2コーティング剤組成物をコーティングないし乾燥、硬化する際の温度、時間等の諸条件、についても適宜設定することは、当業者にとって格別困難なことではない。
そうしてみると、引用発明において、上記相違点5に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

なお、念のため付言すると、引用文献1には、実施例4において、反射防止膜に相当する低屈折率層内空隙率に対する第2コーティング剤組成物の充填率を45.0%とし ている。このことは、「空隙によって、低屈折率化を図ることができる」(引用文献1の【0066】)からである。
しかしながら、反射防止フィルムにおいて、耐摩耗性を重視するか、低屈折率化を重視するかは、求められる仕様によるものであり、どちらを重視するかは当業者にとって適宜選択可能な設計事項である。そして、上述したように、引用文献1には、中空シリカ微粒子間の空隙が全く存在しないのが好ましいと記載されているので、中空シリカ微粒子間空隙に対する第2コーティング剤組成物の充填率を低くする実施例が記載されていることは、容易想到性の判断に影響を及ぼすものではない。

(5)相違点6について
反射防止フィルムにおいては、一般に反射率を低くすることが望まれているところ、耐摩耗性や防汚性などのために透明支持体や反射防止膜の材料を選択するなどして反射率を数%程度とすることは、当業者にとって適宜選択可能な設計事項にすぎない。
そうしてみると、引用発明において、上記相違点6に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(6)相違点7について
反射防止フィルムにおいては、一般に透過率を高くすることが望まれているところ、全光線透過率を90%程度に留めた上で、他の目的、例えば、耐摩耗性や防汚性向上などのために透明支持体や反射防止膜の材料を適宜選択することは、当業者にとって通常の創意工夫の範囲内の事項である。
そうしてみると、引用発明において、上記相違点7に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

2 効果について
本願発明に関して、本件明細書の【0007】には、「本発明によれば、低コストで生産性が高く、且つ耐屈曲性、耐擦傷性及び透明性に優れる反射防止フィルムを備えるフレキシブル表示装置を提供することができる。」と記載されている。
しかしながら、このような効果は、引用発明が備える効果であるか、または予測できる範囲内のものである。

3 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和2年6月30日提出の意見書において、「本願発明では例えば塗布液の塗布という一つの塗布工程によって単一のマトリクス樹脂を与えています。これに対し、引用文献2(当合議体注:引用文献1の誤記である。)においては「第1バインダー3と第2バインダー6をそれぞれ塗布するという二つの塗布工程により、第1バインダー3と第2バインダー6という2つのバインダーを浸透させています。・・・引用文献1では本願発明の「前記マトリクス樹脂が前記無機微粒子間にある全ての空隙を満たし」ているという構成とは全く異なる構成を用いております。」と主張している。
しかしながら、「一つの塗布工程」及び「単一のマトリクス樹脂」は、いずれも本願発明の構成ではないので、審判請求人の上記主張は、採用することができない。

4 小括
本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本件出願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-08-28 
結審通知日 2020-09-01 
審決日 2020-09-14 
出願番号 特願2014-207796(P2014-207796)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池田 博一  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 福村 拓
井口 猶二
発明の名称 フレキシブル表示装置  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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