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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04J |
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管理番号 | 1370809 |
審判番号 | 不服2018-14741 |
総通号数 | 255 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-03-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-11-05 |
確定日 | 2021-02-03 |
事件の表示 | 特願2016-540022「パイロット信号を送信する方法、基地局及びユーザ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月25日国際公開、WO2015/089715、平成29年 3月23日国内公表、特表2017-508318〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成25年(2013年)12月16日を国際出願日とする出願であって、以降の手続は次のとおりである。 平成28年 8月25日 :手続補正書の提出 平成29年 7月31日付け:拒絶理由通知 平成30年 1月 9日 :意見書、手続補正書の提出 平成30年 6月29日付け:拒絶査定 平成30年11月 5日 :拒絶査定不服審判の請求、手続補正書の提 出 令和 元年 8月30日付け:拒絶理由通知 令和 元年12月 3日 :意見書、手続補正書の提出 令和 2年 3月24日付け:拒絶理由通知 令和 2年 6月26日 :意見書、手続補正書の提出 第2 本願発明 令和2年6月26日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 パイロット信号を送信する方法であって、 1つの第1のパイロットアンテナポートとして少なくとも2つの第2のパイロットアンテナポートを決定するステップと、 基地局が、前記第1のパイロットアンテナポートに対応するリソースを使用することによってユーザ装置に第1のパイロット信号を送信するステップであって、前記第1のパイロット信号はチャネル品質測定に使用される、送信するステップと、 を有し、 前記1つの第1のパイロットアンテナポートとして少なくとも2つの第2のパイロットアンテナポートを決定するステップは、 前記基地局が、前記第1のパイロットアンテナポートを取得するため、位相加重係数を利用することによって前記第2のパイロットアンテナポートのそれぞれに対して位相加重を実行し、 前記位相加重係数は、前記基地局によって予め規定されるか、あるいは、前記ユーザ装置によってフィードバックされ、 前記位相加重係数は、 【数1】 として定義され、 W_(GOB)は前記位相加重係数であり、mは第1のパイロットアンテナポートを形成するのに利用されるm番目の第2のパイロットアンテナポートを示し、λはビームの波長を示し、kは第1のパイロットアンテナポートの総数であり、αは、前記ユーザ装置の物理アンテナでの前記基地局からの前記ビームの到来角であり、dは、前記ユーザ装置の2つの隣接する物理アンテナの間の距離である、方法。 【請求項2】 前記基地局が、前記第1のパイロットアンテナポートに対応するリソースを使用することによってユーザ装置に第1のパイロット信号を送信するステップは、 前記基地局が、前記第1のパイロットアンテナポートに対応するリソースを使用することによって前記ユーザ装置に前記第1のパイロット信号を定期的に送信するステップを有する、請求項1記載の方法。 【請求項3】 前記基地局が、前記第1のパイロットアンテナポートに対応するリソースを使用することによってユーザ装置に第1のパイロット信号を送信するステップの前に、 前記基地局が、前記ユーザ装置に第2のコンフィギュレーション情報を送信するステップを更に有し、前記第2のコンフィギュレーション情報は前記第1のパイロット信号のコンフィギュレーションパラメータを示すのに使用される、請求項1又は2記載の方法。 【請求項4】 前記第2のコンフィギュレーション情報はダウンリンク制御情報DCIであり、前記DCIは第2のフラグビットを搬送し、前記第2のフラグビットは前記第1のパイロット信号のコンフィギュレーションパラメータを示すのに使用される、請求項3記載の方法。 【請求項5】 パイロット信号を受信する方法であって、 ユーザ装置が、第1のパイロットアンテナポートに対応するリソースを使用することによって、基地局によって送信される第1のパイロット信号を受信するステップを有し、 前記第1のパイロットアンテナポートは少なくとも2つの第2のパイロットアンテナポートに従って前記基地局によって決定され、前記第1のパイロット信号はチャネル品質測定に使用され、 前記第1のパイロットアンテナポートは、前記基地局によって、位相加重係数を利用することによって前記第2のパイロットアンテナポートのそれぞれに対して位相加重を実行することで取得され、 前記位相加重係数は、前記基地局によって予め規定されるか、あるいは、前記ユーザ装置によってフィードバックされ、 前記位相加重係数は、 【数2】 として定義され、 W_(GOB)は前記位相加重係数であり、mは第1のパイロットアンテナポートを形成するのに利用されるm番目の第2のパイロットアンテナポートを示し、λはビームの波長を示し、kは第1のパイロットアンテナポートの総数であり、αは、前記ユーザ装置の物理アンテナでの前記基地局からの前記ビームの到来角であり、dは、前記ユーザ装置の2つの隣接する物理アンテナの間の距離である、方法。 【請求項6】 前記ユーザ装置が、第1のパイロットアンテナポートに対応するリソースを使用することによって、基地局によって送信される第1のパイロット信号を受信するステップの前に、 前記ユーザ装置が、前記基地局によって送信される第2のコンフィギュレーション情報を受信するステップと、 前記ユーザ装置が、前記第2のコンフィギュレーション情報に従って前記第1のパイロット信号のコンフィギュレーションパラメータを取得するステップと、 を更に有する、請求項5記載の方法。 【請求項7】 前記ユーザ装置が、第1のパイロットアンテナポートに対応するリソースを使用することによって、基地局によって送信される第1のパイロット信号を受信するステップの前に、 前記ユーザ装置が、前記基地局によって送信される第3のコンフィギュレーション情報を受信するステップを更に有し、 前記第3のコンフィギュレーション情報は、前記基地局が前記ユーザ装置に第2のパイロット信号を送信すべきか示すのに使用される、請求項5又は6記載の方法。 【請求項8】 基地局であって、 1つの第1のパイロットアンテナポートとして少なくとも2つの第2のパイロットアンテナポートを決定するよう構成される決定モジュールと、 前記第1のパイロットアンテナポートに対応するリソースを使用することによってユーザ装置に第1のパイロット信号を送信するよう構成される送信モジュールと、 を有し、 前記第1のパイロット信号はチャネル品質測定に使用され、 前記決定モジュールは、前記第1のパイロットアンテナポートを取得するため、位相加重係数を利用することによって前記第2のパイロットアンテナポートのそれぞれに対して位相加重を実行するよう構成され、 前記位相加重係数は、前記基地局によって予め規定されるか、あるいは、前記ユーザ装置によってフィードバックされ、 前記位相加重係数は、 【数3】 として定義され、 W_(GOB)は前記位相加重係数であり、mは第1のパイロットアンテナポートを形成するのに利用されるm番目の第2のパイロットアンテナポートを示し、λはビームの波長を示し、kは第1のパイロットアンテナポートの総数であり、αは、前記ユーザ装置の物理アンテナでの前記基地局からの前記ビームの到来角であり、dは、前記ユーザ装置の2つの隣接する物理アンテナの間の距離である、基地局。 【請求項9】 前記送信モジュールは、 前記第1のパイロットアンテナポートに対応するリソースを使用することによって前記ユーザ装置に前記第1のパイロット信号を定期的に送信するよう構成される、請求項8記載の基地局。 【請求項10】 前記送信モジュールは更に、 前記ユーザ装置に第2のコンフィギュレーション情報を送信するよう構成され、前記第2のコンフィギュレーション情報は前記第1のパイロット信号のコンフィギュレーションパラメータを示すのに使用される、請求項8又は9記載の基地局。 【請求項11】 ユーザ装置であって、 第1のパイロットアンテナポートに対応するリソースを使用することによって、基地局によって送信される第1のパイロット信号を受信するよう構成される受信モジュールを有し、 前記第1のパイロットアンテナポートは少なくとも2つの第2のパイロットアンテナポートに従って前記基地局によって決定され、前記第1のパイロット信号はチャネル品質測定に使用され、 前記第1のパイロットアンテナポートは、前記基地局によって、位相加重係数を利用することによって前記第2のパイロットアンテナポートのそれぞれに対して位相加重を実行することで取得され、 前記位相加重係数は、前記基地局によって予め規定されるか、あるいは、前記ユーザ装置によってフィードバックされ、 前記位相加重係数は、 【数4】 として定義され、 W_(GOB)は前記位相加重係数であり、mは第1のパイロットアンテナポートを形成するのに利用されるm番目の第2のパイロットアンテナポートを示し、λはビームの波長を示し、kは第1のパイロットアンテナポートの総数であり、αは、前記ユーザ装置の物理アンテナでの前記基地局からの前記ビームの到来角であり、dは、前記ユーザ装置の2つの隣接する物理アンテナの間の距離である、ユーザ装置。 【請求項12】 前記受信モジュールは更に、 前記基地局によって送信される第2のコンフィギュレーション情報を受信し、 前記第2のコンフィギュレーション情報に従って前記第1のパイロット信号のコンフィギュレーションパラメータを取得するよう構成される、請求項11記載のユーザ装置。 【請求項13】 前記受信モジュールは更に、 前記基地局によって送信される第3のコンフィギュレーション情報を受信するよう構成され、 前記第3のコンフィギュレーション情報は、前記基地局が前記ユーザ装置に第2のパイロット信号を送信すべきか示すのに使用される、請求項11又は12記載のユーザ装置。」 第3 当審の拒絶理由の概要 当審の拒絶の理由である、令和2年3月24日付け拒絶理由通知の理由は、概略、次のとおりのものである。 1 (新規事項)令和元年12月3日にした手続補正は、下記の点で外国語書面の翻訳文に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 2 (サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 3 (明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 4 (実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 ●理由1(新規事項)、理由2(サポート要件)及び理由3(明確性)について(省略) ●理由4(実施可能要件)について (1)明細書に記載された[数1]([0167])の特に下式の導出根拠が不明であるため、第2のパイロットアンテナポートに対する重み付けとして、[数1]を適用して第1のパイロットアンテナポートを形成した場合に、パイロット信号のオーバヘッドを低下することができる理由が不明である。 (2)明細書には図9とともに「基地局からのビームがUEの物理的アンテナに到来するとき、到来角と物理的アンテナとの間の角度はαによって示され」([0164])ると記載されているところ、[数2]([0169])で用いる「固定的な位相差」が「8α」([0168])である理由が不明である。 (3)(省略) 第4 当審の判断 1 本願の発明の詳細な説明の記載 令和2年6月26日の手続補正により補正された発明の詳細な説明及び図面には、次の内容が記載されている。 (1)「【背景技術】 【0002】 無線通信システムでは、送信端及び受信端は、より高いレートを取得するため、複数のアンテナを空間多重方式で利用する。通常の空間多重方式と比較して、エンハンスされた技術は、受信端がチャネル情報を送信端にフィードバックし、送信端が取得したチャネル情報に従っていくつかの送信プリコーディング技術を利用し、送信性能を大きく向上させるというものである。 【0003】 より高いセル平均スペクトル効率を取得し、セル端カバレッジ及びスループットを向上させるため、既存のロング・ターム・エボリューション(Long Term Evolution、略してLTE)システムに基づき、ロング・ターム・エボリューション-アドバンスト(Long Term Evolution-Advanced、略してLTE-A)は、ダウンリンクにおいて最大で8個のアンテナをサポートし、いくつかのフィードバックエンハンスメント技術がコードブックフィードバックに関して進められ、それらは主としてコードブックフィードバック精度をエンハンスし、チャネル情報の時間相関及び/又は周波数領域相関を利用することによってオーバヘッドを低下させるためのものである。チャネル情報をフィードバックする必要がある1つのサブバンド又は複数の結合したサブバンドについて、ユーザ装置は、チャネル状態情報-リファレンス信号(Channel State Information-Reference Signal、略してCSI-RS)に従ってチャネル状態情報(Channel State Information、略してCSI)を測定し、PMI1及びPMI2の2つのプリコーディング・マトリクス・インジケータ(Precoding Matrix Index、略してPMI)を基地局にフィードバックし、ここで、PMI1はコードブックC1におけるコードワードW1に対応し、PMI2は他のコードブックC2におけるコードワードW2に対応する。基地局端は、同一のC1及びC2に関する情報を有し、PMI1及びPMI2を受信した後に対応するコードブックC1及びC2から対応するコードワードW1及びW2を検出し、バーチャルWに対応するコードブックを取得する。 【0004】 しかしながら、アンテナスケールが増加するに従って、プリコーディングマトリクスを測定するのに用いられるパイロットオーバヘッド、すなわち、上記のCSI-RSのオーバヘッドがまた従来技術では増加する。 【発明の概要】 【0005】 本発明は、アンテナスケールが増加するに従ってパイロットオーバヘッドが増加するという従来技術における問題を解決するため、パイロット信号を送信する方法、基地局及びユーザ装置を提供する。」 (2)「【0164】 図8は、交差偏波における64個のパイロットアンテナポートの概略図である。図8に示されるように、x軸方向に沿ったプラス45度の角度の32本の直線は32個の第2のパイロットアンテナポートを示し、x軸方向に沿ったマイナス45度の角度の32本の直線はまた32個の第2のパイロットアンテナポートを示す。さらに、実際には、UEは、到来角に基づく測定によってプリコーディング情報を取得し、基地局にプリコーディング情報をフィードバックしてもよい。図9は、本発明の実施例6によるビームの到来角の測定の概略図である。図9に示されるように、図において黒で充填された円はUEの物理的アンテナを示し、基地局からのビームがUEの物理的アンテナに到来するとき、物理的アンテナでの基地局からのビームの到来角はαによって示され、UEの2つの近傍の物理的アンテナの間の距離はdであり、従って、UEの第1の物理的アンテナとk番目の物理的アンテナとの間の距離はd*(k-1)である。 【0165】 上記の図8及び図9の説明に基づき、基地局はまず、加重係数を使用することによって第1のパイロットアンテナポートとして第2のパイロットアンテナポートを重み付けしてもよく、例えば、まずプラス45度の角度で第1のパイロットアンテナポートを形成するため、図8においてプラス45度の角度にある各行における8つの第2のパイロットアンテナポートに対して重み付けを実行し、それから、マイナス45度の角度で第1のパイロットアンテナポートを形成するため、図8においてマイナス45度の角度にある各行における8つの第2のパイロットアンテナポートに対して重み付けを実行してもよい。このようにして、重み付けによって、64個の第2のパイロットアンテナポートが、図8における8つの第1のパイロットアンテナポートを生成するのに使用されてもよい。 【0166】 任意的には、式 【0167】 【数1】 は、上記の決定された第1のパイロットアンテナポートの加重係数として使用されてもよく、ここで、W_(GOB)は上記の加重係数を示し、mは第1のパイロットアンテナポートを形成するのに使用されるm番目の第2のパイロットアンテナポートを示し、ここでは値は1?8であり、λは光波の波長を示し、kは第1のパイロットアンテナポートの総数を示し、ここでは8であり、従って、W_(GOB)のサイズは8行*1列である。 【0168】 式(1)に基づき、合計で64個の第2のパイロットアンテナポートについて、固定的な位相差8αは、主偏波方向における何れか2つの近傍の第1のパイロットアンテナポート間、すなわち、図8における2つの近傍の第1のパイロットアンテナポート間だけ異なり、従って、図8における64個の第2のパイロットアンテナポートについて、8つの第1のパイロットアンテナポートの生成された合計の加重係数は、 【0169】 【数2】 である具体的な式によって、W_(BF)により示されてもよい。 【0170】 8つの第1のパイロットアンテナポートを決定した後、基地局は、8つの第1のパイロットアンテナポートを使用することによって第1のパイロット信号を送信してもよい。第1のパイロット信号を受信した後、UEは、プリコーディングマトリクスWpを取得し、W_(BF)*W_(p)を用いることによって包括的なプリコーディングマトリクスを計算するため、第1のパイロット信号に対してチャネル品質測定を実行し、それから、基地局に包括的なプリコーディングマトリクスをフィードバックしてもよい。 【0171】 上記の実施例では、少なくとも2つの第2のパイロットアンテナポートが1つの第1のパイロットアンテナポートとして決定され、それから、第1のパイロット信号が第1のパイロットアンテナポートに対応するリソースを使用することによってユーザ装置に送信され、これにより、第1のパイロット信号を送信するためのアンテナポートの数を低下させ、パイロット信号のオーバヘッドを更に低下させる。」 (3)図8 (4)図9 2 発明の詳細な説明における「α」の意味について 発明の詳細な説明の「図9に示されるように、図において黒で充填された円はUEの物理的アンテナを示し、基地局からのビームがUEの物理的アンテナに到来するとき、物理的アンテナでの基地局からのビームの到来角はαによって示され」(【0164】)の記載から見て、「α」は、「物理的アンテナでの基地局からのビームの到来角」を示す記号であり、図9において黒で充填された円が示す物理アンテナが並ぶ方向と、ビームが到来する方向とがなす角度のことであると理解できる。 3 理由4(1)についての判断 請求項1に係る発明は、「1つの第1のパイロットアンテナポートとして少なくとも2つの第2のパイロットアンテナポートを決定するステップ」を備え、ポートを減らすことで、「アンテナスケールが増加するに従ってパイロットオーバヘッドが増加するという従来技術における問題を解決する」(【0005】)発明であるといえるところ、発明の詳細な説明には、請求項1及び【0167】に記載された次の数式(以下「数式1-1」という。)の導出根拠が示されていない。 そこで、数式1-1について検討する(説明のため図9において、以下のように「a」、「b」とおく。)と、 黒で充填された円が示す2つの物理的アンテナに到来するビーム間の位相差は長さbに対応するものといえる。一方、位相加重係数に用いられる数式1-1において、d*sinαは、上図でaの長さに対応するから、上記数式1-1は、2つの物理的アンテナに到来するビーム間の位相差を示すものではない。 そうすると、位相差を示すものではない数式1-1を用いて定義された【数1】のW_(GOB)が何故「位相加重係数」と呼ばれているのかが不明であるし、数式1-1を含めた【数1】が表す物理的な意義が不明である。 よって、請求項1に係る発明において、第2のパイロットアンテナポートに数式1-1を含む【数1】で定義された位相加重係数を適用して形成した第1のパイロットアンテナポートは、いかなる技術的な意義をもつものであるか不明である。さらに、当該第1のパイロットアンテナポートを形成した場合に、パイロット信号のオーバヘッドを低下することができる理由が不明である。 したがって、発明の詳細な説明の記載は、本願の請求項1に係る発明を、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 請求項2-13に係る発明についても、請求項1に係る発明と同様の理由により、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 4 理由4(2)についての判断 請求項1に係る発明は、「1つの第1のパイロットアンテナポートとして少なくとも2つの第2のパイロットアンテナポートを決定するステップ」を備え、ポートを減らすことで、「アンテナスケールが増加するに従ってパイロットオーバヘッドが増加するという従来技術における問題を解決する」(【0005】)発明であるといえ、【数1】においてαが用いられているところ、前記αに関連して、2つの近傍の第1のパイロットアンテナポート間の「固定的な位相差8α」(【0168】)について、発明の詳細な説明には、「式(1)に基づき、合計で64個の第2のパイロットアンテナポートについて、固定的な位相差8αは、主偏波方向における何れか2つの近傍の第1のパイロットアンテナポート間、すなわち、図8における2つの近傍の第1のパイロットアンテナポート間だけ異なり、従って、図8における64個の第2のパイロットアンテナポートについて、8つの第1のパイロットアンテナポートの生成された合計の加重係数は、 【数2】 である具体的な式によって、W_(BF)により示されてもよい。」(【0168】-【0169】)ことが記載されており、8つの第1のパイロットアンテナポートの生成された合計の加重係数を示す【数2】には、「固定的な位相差8α」の倍数が用いられ、該「固定的な位相差8α」は、「主偏波方向における何れか2つの近傍の第1のパイロットアンテナポート間、すなわち、図8における2つの近傍の第1のパイロットアンテナポート間だけ異な」るとされるものであって(【0168】)、請求項1に係る発明を実施する上で、必須の事項であるといえる。 ここで、「α」は、上記2のとおり、「物理的アンテナでの基地局からのビームの到来角」であり、物理アンテナが並ぶ方向と、ビームが到来する方向とがなす角度のことであると理解できるから、「8α」とは、到来角αの8倍の角度であるといえる。 そうすると、主偏波方向における2つの近傍の第1のパイロットアンテナポート間の位相差(固定的な位相差)が、物理的アンテナでの基地局からのビームの到来角αの8倍である「8α」で定義されることとなるが、前記到来角の8倍がなぜ前記「固定的な位相差」と等しくなるのか不明であり、ひいては、前記固定的な位相差と前記到来角αとの技術的関係も不明であるから、到来角αを用いる請求項1に係る発明の技術的な意義が不明である。 したがって、発明の詳細な説明の記載は、本願の請求項1に係る発明を、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 請求項2-13に係る発明についても、請求項1に係る発明と同様の理由により、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 5 請求人の意見書における主張について (1)請求人は、令和2年6月26日に提出した意見書(以下「意見書)という。)において上記理由4(1)及び(2)について、それぞれ以下のとおり主張している。 「4.理由4(実施可能要件)に対して (1)理由4(1)について m個の第2のパイロットアンテナポートが第1のパイロットアンテナポートを形成し、1つのパイロットアンテナポートは1つの時間/周波数リソースを占有します。故に、ポートが減ると、占有されるリソース(パイロット信号のオーバヘッド)も低下することは明らかです。 (2)理由4(2)について 2つの第2のパイロットアンテナポートごとの位相差はαです。64個の第2のパイロットアンテナポートにより8つの第1のパイロットアンテナポートが形成される場合に、言い換えると、8つの第2のパイロットアンテナポートが1つの第1のパイロットアンテナポートを形成する場合に、2つの第1のパイロットアンテナポートの間の位相差は8αになることは明らかです。」 上記請求人の主張について検討する。 理由4(1)について、確かに「ポートが減ると、占有されるリソース(パイロット信号のオーバヘッド)も低下することは明らか」ということはできるが、上記3のとおり、ポートを減らす手段として請求項1に係る発明で採用した【数1】で定義された位相加重係数を用いることができる理由、すなわち、数式1-1の導出根拠が依然として不明であるから、請求人の主張を採用することはできない。 理由4(2)について、「2つの第2のパイロットアンテナポートごとの位相差はαで」あることを前提に主張しているが、「α」は、上記2のとおり、「物理的アンテナでの基地局からのビームの到来角」であるから、この主張の前提は発明の詳細な説明と異なる。したがって、請求人の主張は、発明の詳細な説明に基づくものではないため、採用できない。 6 小括 したがって、発明の詳細な説明の記載は、本願の請求項1ないし13に係る発明を、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 第5 むすび 以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2020-08-27 |
結審通知日 | 2020-09-01 |
審決日 | 2020-09-18 |
出願番号 | 特願2016-540022(P2016-540022) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(H04J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 太田 龍一 |
特許庁審判長 |
佐藤 智康 |
特許庁審判官 |
丸山 高政 中野 浩昌 |
発明の名称 | パイロット信号を送信する方法、基地局及びユーザ装置 |
代理人 | 大貫 進介 |
代理人 | 伊東 忠彦 |
代理人 | 伊東 忠重 |