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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1370818
審判番号 不服2019-11788  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-09-06 
確定日 2021-02-03 
事件の表示 特願2017-173960「S-(+)-フルルビプロフェンを含む原薬の調製物、医薬組成物、そして剤形」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月 8日出願公開、特開2018- 35165〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年10月5日(パリ条約による優先権主張 2012年9月21日 (GB)英国)を出願日とする特願2012-222973号の一部を平成29年9月11日に新たな出願としたものであって、出願後の主な経緯は、以下のとおりである。
平成29年10月10日 :手続補正書の提出
平成30年 5月31日付け:拒絶理由通知
平成30年11月30日 :意見書及び手続補正書の提出
平成31年 4月22日付け:拒絶査定
令和 1年 9月 6日 :審判請求書及び手続補正書の提出
令和 1年10月23日 :審判請求の理由についての手続補正書(方式)の提出(以下、「審判請求の理由補充書」という。)
第2 令和1年9月6日提出の手続補正書による手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和1年9月6日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項5の記載は、次のとおり補正された。なお、下線部は、補正により追加された箇所である。
「【請求項5】
(1)医薬品有効成分として、(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸またはその薬学的に許容可能な塩と、
(2)0.001重量%から2重量%までの、前記医薬品有効成分に特性は匹敵しないが構成は類似する目的物質由来不純物(product-related impurities)であって、0.5重量%以下の2-(4-ビフェニリル)プロピオン酸またはその塩と、1重量%以下のエナンチオマたる不純物であって、(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸またはその塩と、を含む目的物質由来不純物と、
重量百万分率およそ1,000ppm以下の(S)-(-)-α-メチルベンジルアミンと、0.05重量%から0.5重量%までの目的物質由来不純物であって、メチル(2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル))プロピオン酸塩、1-フェニルエチル-(2-2(フルオロビフェニル-4-イル))プロピオンアミド、および2-(2-フルオロビフェニル-4-イル)プロピオンアミドを含む目的物質由来不純物と、
を有する
ことを特徴とする原薬の調製物。」
2 新規事項の追加の有無
(1)当初明細書等に記載された事項
本願の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲(以下、両者を併せて「当初明細書等」という。)には、次のとおりの記載がある。下線は、当審合議体による。
(摘記a)「【請求項27】
原薬の調製物には以下のものが含まれる: (1)医薬品有効成分として、(S)-(+)-2-(2‐フルオロ‐4‐ビフェニリル) プロピオン酸、あるいはその薬学的に許容可能な塩あるいはそのエステル;そして (2)重さが約0.001%から約2%の間の目的物質由来不純物(product-related impurities)。
【請求項28】
当該目的物質由来不純物(product-related impurities)が、2-(4-ビフェニリル) プロピオン酸を約0.5%以下含有することを特徴とする請求項27記載の原薬の調製物。
【請求項29】
当該目的物質由来不純物(product-related impurities)が、メチル (2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)) プロピオン酸塩を約0.1%以下含有することを特徴とする請求項27または28記載の原薬の調製物。
【請求項30】
当該目的物質由来不純物(product-related impurities)が、エナンチオマである不純物(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸、またはその塩を重さ1.0%以下含有することを特徴とする請求項27から29のうちのいずれか一つ記載の原薬の組成物。
【請求項31】
当該目的物質由来不純物(product-related impurities)は、製造工程由来不純物(process-related impurity)である(S)-(-)-α-メチルベンジルアミンを約1,000 ppm 以下含有することを特徴とする請求項27から30のいずれか一つの記載の原薬の調製物。」
(摘記b)「【0016】
本発明は、(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸、またはその塩あるいはそのエステルに関する、また、有効成分として(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸、またはその塩あるいはそのエステルを有し、また有効成分の合成および精製に関連している特定の不純物の実質上一定限度量用いる原薬の調製に関する。」
(摘記c)「【0023】
このように、高純度な (S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニル) プロピオン酸 ((S)-(+)-フルルビプロフェン) またはその塩あるいはそのエステルには、特定の目的物質由来不純物(product-related impurities)、製造工程由来不純物(process-related impurities)、残留溶媒(residual solvents)そして重金属(heavy metals)を実質的にごく限られた量しか含まれない。
【0024】
本発明のさらなる態様によると、有効成分として(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸または塩あるいはエステルを含み、また有効成分の合成および精製に関連している特定の不純物の実質上一定限度量を有している医薬組成物を提供する。
【0025】
本発明の本態様の一実施形態では、(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸、またはその塩あるいはそのエステルの中に含まれている全ての不純物を、(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸、または塩またはエステルの総重量に対して、約5%以下、 4%以下、 3%以下、 2%以下、 1%以下、 0.9%以下、 0.8%以下、 0.7%以下、 0.6%以下、 0.5%以下、 0.4%以下、0.3%以下、 0.2%以下、 0.1%以下、 0.01%以下あるいは 0.001%以下に制限する。上記の不純物の全ての値を、以下のように解釈するものとする:
【0026】
[一種類あるいは複数の種類の不純物の総重量] x 100% [(S-(+)-フルルビプロフェン)の総重量]
【0027】
別の実施形態では、本発明は、 (S-(+)-フルルビプロフェン)、またはその塩あるいはそのエステルの総重量に対して、約2%以下、1%以下、 0.5%以下、 0.25%以下、0.1%以下、 0.05%以下、 0.025%以下、 0.01%以下、 0.005%以下、 0.0025%以下あるいは 0.001%以下の(R)-(-)-2-(2‐フルオロ‐4‐ビフェニリル) プロピオン酸または塩あるいはそのエステルを有効成分として含有している(S)-(+)-2-(2‐フルオロ‐4‐ビフェニリル) プロピオン酸またはその塩、あるいはそのエステルを提供する。
【0028】
別の実施形態では、本発明は、いずれか一つの特定の不純物を重量0.001%-0.01%、 0.005%-0.05%、 0.01%-0.1%、 0.05%-0.5%、 または 0.1%-l%有している(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸、またはその塩あるいはそのエステルを提供する。
【0029】
別の実施形態では、本発明は、特定の目的物質由来不純物(product-related impurities)、製造工程由来不純物(process-relatedimpurities)、 残留溶媒(residual solvents)そして重金属(heavy metals)を重量0.001%-0.01%、0.005%-0.05%、0.01%-0.1%、0.05%-0.5%、0.1%-l%、あるいは0.5%-5%を有する(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸またはその塩あるいはそのエステルを提供する。」
(摘記d)「【0030】
ある実施形態では、本発明は、有効成分として前述のように(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸、またはその塩あるいはそのエステルや、また特定の目的物質由来不純物(product-related impurities)を実質上一定限度量含有している原薬の調製物から成る。
【0031】
本実施形態では、一定限度量で存在する目的物質由来不純物(product-related impurities)は、例えばエナンチオマである不純物の(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸(それはまた(R)-(-)-フルルビプロフェン)、2-(4-ビフェニリル) プロピオン酸、 そして メチル (2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)として知られている)プロピオン酸が含まれる。
【0032】
具体的な実施形態では、本発明は、有効成分として(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸、またはその塩あるいはそのエステルから成る。ここで、2-(4-ビフェニリル) プロピオン酸や、エナンチオマである不純物の (R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸の量は、一定の最大レベル未満に制限される。
【0033】
別の具体的な実施形態において、本発明は、(S)-(+)-2-(2‐フルオロ‐4‐ビフェニリル) プロピオン酸またはその塩あるいはそのエステルを包含する。ここで、2-(4-ビフェニル) プロピオン酸やメチル (2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)) プロピオン酸塩の双方、そしてエナンチオマである不純物(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸は、一定の最大レベル未満に制限される。
【0034】
特定の実施形態において、本発明は、(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸、またはその塩あるいはエステルで構成される。ここで、2つの既知の目的物質由来不純物(product-related impurities)のうちのいずれかの量や、エナンチオマである不純物(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸の量も一定の最大レベル未満に制限され、また特定の製造工程由来不純物(process-related impurities)も一定の最大レベル未満に制限される。本実施形態では、一定の最大レベル未満に制限された主な製造工程由来不純物(process-related impurity)は、(S)-(-)-α-メチルベンジルアミン(それはまた(S)-(-)-l-フェニルエチルアミン)として知られている)であり、それは、ラセミ体フルルビプロフェン(例えば、(R, S)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸)から、 あるいは(R)-(-)-フルルビプロフェン および (S)-(+)-フルルビプロフェンの非ラセミ混合物から、(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸を分割したり、分離したりするためのキラル結晶化剤として使用される。
【0035】
別の実施形態では、最大レベル未満に制限された別の製造工程由来不純物(process-related impurities)には、残留溶媒(residual solvents)や 重金属(heavy metals)が含まれる。本実施形態においては、制限されるべき残留溶媒(residual solvents)は、例えばトルエン、メタノール、 そしてn-ヘプタンが含まれる。
【0036】
本発明の別の実施形態では、本発明は、(S)-(+)-2-(2‐フルオロ‐4‐ビフェニリル) プロピオン酸、またはその塩あるいはそのエステルと、エナンチオマである不純物(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリルプロピオン酸、 2-(4-ビフェニリル) プロピオン酸、メチル (2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル))プロピオン酸塩を含む3つの目的物質由来不純物(product-related impurities)を一定限度量と、製造工程由来不純物(process-related impurities)の(S)-(-)-α-メチルベンジルアミンを一定限度量と、残留溶媒(residual solvents)および重金属(heavy metals)を一定限度量包含する。」
(摘記e)「【0082】
【化1】

本出願で使用する「原薬」および「原薬の調製」という用語は、本発明の医薬組成物、剤形および製剤を、賦形剤と一緒に調剤するのに用いる有効成分配合の物質のことをいう。 それは、有効成分と、特定の目的物質由来不純物(product-related impurities)、製造工程由来不純物(process-related impurities)、残留溶媒(solvents)そして重金属(heavy metals)を一定限度量包含する。…
【0089】
本発明の原薬の調製物、医薬組成物および剤形でみられる(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸以外の目的物質由来不純物(product-relatedimpurities)は、 以下のものを含む:
【0090】
【化3】

2-(4-ビフェニリル) プロピオン酸;
【0091】
【化4】

メチル (2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)) プロピオン酸塩;
【0092】
【化5】

l-フェニルエチル-(2-2(フルオロビフェニル-4-イル)) プロピオンアミド; そして
【0093】
【化6】

2-(2-フルオロビフェニル-4-イル)プロピオンアミド;
場合によっては、それらのキラル体。」
(摘記f)「【0098】
上記のように、本発明の原薬の調製物に含有する(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニル) プロピオン酸 ((S)-(+)-フルルビプロフェン) に生じる不純物には、目的物質由来不純物(product-related impurities)、製造工程由来不純物(process-related impurities)、残留溶媒(residual solvents)そして重金属(heavy metals)が含まれる。 本発明の原薬の調製物内で生じることで知られる目的物質由来不純物(product-related impurities)には、エナンチオマである不純物(enantiomeric impurity)の(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸 (例えば、(R-フルルビプロフェン)や 2-(4-ビフェニリル) プロピオン酸 および メチル (2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)) プロピオン酸塩が含まれ、また場合により、l -フェニルエチル-(2-2(フルオロビフェニル-4-イル)) プロピオンアミド および 2-(2-フルオロビフェニル-4-イル) プロピオンアミドが含まれる。 本発明の原薬の調製物内で生じることで知られる製造工程由来不純物(process-related impurities)は、キラル結晶化剤(S)-(-)-α-メチルベンジルアミンや、溶剤トルエン、メタノールおよびn-ヘプタン、微量重金属などの残留溶媒(residual solvents)を含有する。
【0099】
上記記載を鑑みて、本発明の第1の特徴は、(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸またはその塩あるいはエステルを含有している、また実質的に特定の目的物質由来不純物(product-related impurities)、製造工程由来不純物(process-related impurities)、残留溶媒(residual solvents)そして重金属(heavy metals)の一定限度量を含有している原薬の調製物を提供する。本発明の一つの実施形態では、これらの原薬の調製物の中に存在する不純物は、例えば以下の式で、原薬の調製物の総重量の約5%、4%、3%、2%、1%あるいはそれ以下 に制限される。
【0100】
[一種類あるいは複数の種類の不純物の総重量] x 100%
[原薬の調製物の総重量]
約5%、4%、3%。2%、1%またはそれ以下。
【0101】
別の実施形態では、本発明は、(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸、またはその塩あるいはそのエステルや、目的物質由来不純物(product-related impurities)のような原薬の調製物を総重量の約2%、1%、0.5%、0.25%、0.1%、0.05%、0.025%、0.01%、0.005%、0.0025%または0.001%包含する医薬組成物を提供する。
【0102】
別の実施形態では、本発明は、いずれかの特定の不純物の重量が0.001%-0.01%、 0.005%-0.05%、 0.01%-0.1%、 0.05%-0.5%、 または 0.1%-l%である原薬の調製物を提供する。別の実施形態では、本発明は、ここで同定される特定の目的物質由来不純物(product-related impurities)、製造工程由来不純物(process-related impurities)、 残留溶媒(residual solvents)そして重金属(heavy metals)を、重量0.001 %-0.01%、0.005%-0.05%, 0.01%-0.1%、0.05%-0.5%、0.1%-1.0%あるいは0.5%-5%有する原薬の調製物を提供する。
【0103】
ある実施形態では、本発明は、有効成分として(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸やまた特定の目的物質由来不純物(product-related impurities)を実質的に限られた量含有している原薬の調製物から成る。 本実施形態では、一定限度量で存在する目的物質由来不純物(product-related impurities)には、(R-フルルビプロフェン), 2-(4-ビフェニリル) プロピオン酸、 そして メチル (2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸としても知られるエナンチオマである不純物(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸を含有する。具体的な実施形態では、本発明は原薬の調製物で構成される。ここで、2-(4-ビフェニリル) プロピオン酸の量や、エナンチオマである不純物(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸の量が一定の最高レベル未満に制限される。別の具体的な実施形態では、本発明は原薬の調製物から成り、ここで、2-(4- ビフェニリル) プロピオン酸およびメチル (2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル))プロピオン酸やエナンチオマである不純物である(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸の量は、一定の最高レベル以下に制限される。
【0104】
特定の実施形態において、本発明は、原薬の調製物で構成される。ここで、一種類あるいは複数の種類の既知の目的物質由来不純物(product-related impurities)やエナンチオマである不純物(enantiomeric impurity)(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸の量を一定の最大レベル未満に、また特定の製造工程由来不純物(process-related impurity)の量もまた一定の最大レベル未満に制限される。本実施形態では、一定の最大レベル未満に制限された主な製造工程由来不純物(process-related impurity)は、(S)-(-)-α-メチルベンジルアミンで、それはまた(R)-(+)-l-フェニルエチルアミン)として知られており、またラセミ体フルルビプロフェン(例えば、(R, S)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸)から、 あるいは(R)-(-)-フルルビプロフェン および (S)-(+)-フルルビプロフェンの非ラセミ混合物から、(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸を分割したり、分離したりするために使用される。さらなる実施形態では、最大レベル以下に制限された別の製造工程由来不純物(process-related impurities)には、残留溶媒(residual solvents)や 重金属(heavy metals)が含まれる。本実施形態においては、制限されるべき残留溶媒(residual solvents)は、例えばトルエン、メタノール、 そしてn-ヘプタンを包含する。
【0105】
本発明のこの側面の好適実施形態においては、本発明は、以下を含有する原薬の調製物から成る:(S)-(+)-2-(2‐フルオロ‐4‐ビフェニリル) プロピオン酸、またはその塩あるいはエステルと、エナンチオマである不純物(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸、 2-(4-ビフェニリル) プロピオン酸、 メチル (2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル))プロピオン酸塩を含む3つの目的物質由来不純物(product-related impurities)を一定限度量と、製造工程由来不純物(process-related impurities)の(S)-(-)-α-メチルベンジルアミンを一定限度量と、残留溶媒(residual solvents)および重金属(heavy metals)を一定限度量。
【0106】
明確に示されているように、原薬の調製物を含有している(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸の模範的バッジで検出される限定された目的物質由来不純物(product-related impurities)には、例えばフルルビプロフェンR-エナンチオマあるいは(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸や、そして2-(4-ビフェニリル) プロピオン酸およびメチル (2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル))が含まれる。同様に、本発明の原薬の調製物に含有する(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニル) プロピオン酸の模範的バッジで検出される製造工程由来不純物(process-related impurities)には、例えば(S)-(-)-α-メチルベンジルアミン、残留トルエン、残留メタノールおよび残留n-ヘプタンそして微量重金属(heavy metals)が含まれる。 重要なことには、上記に記載されている不純物を一定限度量含有する、発明に関する原薬の調製によって、治療上効果的な量の(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸 (あるいはその塩の薬学的に受容許容し得る量)と、不純物を実質上一定限度量用いる医薬組成物や剤形の製造を可能にする。」
(摘記g)「【0113】
いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物や剤形で使用される原薬の調整物を包含する(S)-(+)-2-(2‐フルオロ‐4‐ビフェニリル) プロピオン酸は、メチル (2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸塩を重さ約0.2%未満、0.18%未満、0.16%未満、0.14%未満、0.12%未満、0.1%未満、0.09%未満、0.08%未満、0.07%未満あるいは0.06%未満有する。
【0114】
いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物や剤形で使用される原薬の調製物を包含する(S)-(+)-2-(2‐フルオロ‐4‐ビフェニリル) プロピオン酸は、l-フェニルエチル-(2-2(フルオロビフェニル-4-yl))プロピオンアミドを重さ約0.2%未満、0.18%未満、0.16%未満、0.14%未満、0.12%未満、0.1%未満、0.09%未満、0.08%未満、0.07%未満あるいは0.06%未満有する。
【0115】
いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物や剤形で使用される原薬の調製物を包含する(S)-(+)-2-(2‐フルオロ‐4‐ビフェニリル) プロピオン酸は、2-(2-フルオロビフェニル-4-イル) プロピオンアミドを重さ約0.2%未満、0.18%未満、0.16%未満、0.14%未満、0.12%未満、0.1%未満、0.09%未満、0.08%未満、0.07%未満あるいは0.06%未満有する。」
(摘記h)「【0127】
その他の実施形態では、本発明の医薬組成物や剤形で使用される(S)-(+)-2-(2‐フルオロ‐4‐ビフェニリル) プロピオン酸含有の原薬の調製物は、検出不可能不純物を有する。あるいは、不純物は検知できるが、原薬の調製物の重量の約0.01%未満である。」
(摘記i)「【0179】
前記本発明は、明白な理解のために例として詳細に記載してきたが、本発明の原理の例として図示された添付の図面と共に考慮すると以下の詳細な説明から明白になる
【0180】
(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸の調製方法
(S) -(+)-フルルビプロフェンは、国際特許出願第WO 2008/095186No. に開示された方法を変更することにより、ラセミ体フルルビプロフェン二水和物(racemic sodium flurbiprofen dihydrate )から選択的に分離されるが、このことを参照として本明細書中に取り込む。この方法によって得られた物質はその後試験された。
【0181】
ナトリウム・フルルビプロフェン二水和物(sodiumflurbiprofen dihydrate) (200.0g)は、トルエン(370 mL)および塩酸(37%、H2O133mL内に80 mL)に溶解され、その混合物は30分間60°Cの温度で加熱された。その後、水性層を取り除き、それから有機層をお湯(108 mL)で洗った。その後、メタノール(94 mL)を追加し、そして混合物を60°Cまで加熱した。 トルエン(71.5 mL)内の(S) -(+)-α-メチルベンジルアミン(35.2g)を30分間以上に渡って滴加した。その溶液を30 分間60°Cでかくはんし、次に68°Cに暖め、そして30分間そのままの状態で置いた。その溶液を50°Cに冷やし、さらに3°Cに冷やし、1時間そのままの状態に置いた。(S)-(+)-フルルビプロフェン-(S)-(-)-α-メチルベンジルアミンの結晶を分離させ、冷たいトルエン(53 mL)で洗い、真空フィルターで一晩乾燥させた。
【0182】
(S)-(+)-フルルビプロフェン-(S)-(-)-α-メチルベンジルアミンの結晶(49.4g) を容器に戻し、メタノール (125 mL)とメチルトルエン(500mL)で洗った。その混合物を70℃まで温め、15分間かくはんし、次に55℃まで冷まし、また30分間かくはんした。その溶液を60℃まで30分かけて温め、ゆっくりと50℃まで冷まし、さらに3°Cまで冷やし、1時間かくはんした。(S)-(+)-フルルビプロフェン-(S)-(-)-α-メチルベンジルアミンの結晶を分離させ、冷たいトルエン(53 mL)で洗い、真空フィルターで一晩乾燥させた。
【0183】
(S)-(+)-フルルビプロフェン-(S)-(-)-α-メチルベンジルアミンの結晶(38.4 g) を、脱イオン水(38 mL)、トルエン(160 mL)および水性の塩酸(37%、16 mL)で溶解し、30分間60°Cでかくはんした。得られた溶液を暖かいうちに分液ロートに移し、水性層を取り除いた。その有機層を、水(50 mL)および水性の塩酸(37%、2mL)で、そしてさらに水(2×50 mL)で洗った。その後、有機層を熱し、それから部分的に溶媒を取り除き、それから約100
mLにまでに量を減らした。その得られた溶液を30℃にまで冷まし、次に30分間かくはんした。その溶液をゆっくりと0℃にまで冷まし、得られた結晶を1分間かくはんした。それから、結晶の(S)-(+)-フルルビプロフェンをフィルター処理し、冷たいn-ヘプタン (40 mL) で洗い、60℃で真空下で一晩乾燥させた。収量19.9 g (12.5%)。
【0184】
【表1】


(2)当審の判断
ア 上記1にて摘示したように、本件補正は、請求項5において、(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸またはその塩を含む原薬の調製物が、「0.05重量%から0.5重量%までの目的物質由来不純物であって、メチル(2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル))プロピオン酸塩、1-フェニルエチル-(2-2(フルオロビフェニル-4-イル))プロピオンアミド、および2-(2-フルオロビフェニル-4-イル)プロピオンアミドを含む目的物質由来不純物」(以下、この3つの目的物質由来不純物を「特定の3成分」ということがある。)を有する、という特定を新たに加える補正事項を含むものである。
そこで、上記「特定の3成分」の含有量が「0.05重量%から0.5重量%」であることを特定する補正が、新たな技術的事項を導入するものであるか否かについて検討する。
イ 当初明細書等の【0016】、【0082】によれば、原薬の調製物とは、有効成分である「(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸、またはその塩あるいはそのエステル」と、有効成分の合成および精製に関連している特定の不純物を実質上一定限度量含むものである。
ウ ここで、当初明細書等には、原薬における不純物の量については、
(i)全ての不純物を、(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸、または塩またはエステルの総重量に対して、「約0.001%から約2%」、「約5%以下、4%以下…0.5%以下、…0.001%以下」とすること(請求項27、【0025】)、
(ii)いずれか一つの特定の不純物を、「重量0.001%-0.01%、…0.05%-0.5%、または 0.1%-l%」とすること(【0028】、【0102】)、
(iii)特定の目的物質由来不純物(product-related impurities)、製造工程由来不純物(process-relatedimpurities)、残留溶媒(residual solvents)そして重金属(heavy metals)を、「重量0.001%-0.01%…0.05%-0.5%、0.1%-l%、あるいは0.5%-5%」とすること(【0029】、【0102】)、
が記載されているものの、これらの数値範囲が不純物のうちどの成分の含有量であるかは記載されていない。
また、目的物質由来不純物については、
(iv)エナンチオマである不純物の(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸、2-(4-ビフェニリル) プロピオン酸、メチル (2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)) プロピオン酸塩が含まれること(請求項28、【0030】、【0031】、【0036】)、
(v)2-(4-ビフェニリル) プロピオン酸、メチル (2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)) プロピオン酸塩、l-フェニルエチル-(2-2(フルオロビフェニル-4-イル)) プロピオンアミド、2-(2-フルオロビフェニル-4-イル)プロピオンアミドもまた含まれること(請求項29、【0089】?【0093】)、
(vi)メチル (2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸塩を、「約0.1%以下」、「重さ約0.2%未満、0.18%未満、0.16%未満、0.14%未満、0.12%未満、0.1%未満、0.09%未満、0.08%未満、0.07%未満あるいは0.06%未満」とすること(請求項29、【0113】)、
(vii)l-フェニルエチル-(2-2(フルオロビフェニル-4-yl))プロピオンアミドを、「重さ約0.2%未満、0.18%未満、0.16%未満、0.14%未満、0.12%未満、0.1%未満、0.09%未満、0.08%未満、0.07%未満あるいは0.06%未満」とすること(【0114】)、
(viii)2-(2-フルオロビフェニル-4-イル) プロピオンアミドを、「重さ約0.2%未満、0.18%未満、0.16%未満、0.14%未満、0.12%未満、0.1%未満、0.09%未満、0.08%未満、0.07%未満あるいは0.06%未満」とすること(【0115】)が記載されており、上記「特定の3成分」のそれぞれについて許容可能な上限値が「重さ約0.2%未満」と記載されていることから、上記「特定の3成分」の総含有量を約0.6重量%未満とすることは当初明細書等に記載されているといえるものの、当該「特定の3成分」の総含有量の下限値を「0.05重量%」とすることまでが記載されているとはいえない。
エ また、当初明細書等の実施例において、特定の調製方法で得られた(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸の最終製品(エナンチオマ純度99.2%)をHPLCにより分析した不純物は、2-(4-ビフェニリル) プロピオン酸0.09%、α-メチルベンジルアミン16ppmであり、メチル(2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル))プロピオン酸塩、1-フェニルエチル-(2-2(フルオロビフェニル-4-イル))プロピオンアミド、他の同定された不純物及び他の同定されなかった不純物は、いずれも「検出されなかった」と記載されている(【0184】)。
一方、「約0.01%未満」程度の含有量であれば「不純物は検知できる」とされていることから(【0127】)、実施例の最終製品における「検出されなかった」不純物とは、約0.01%よりも少なものと理解でき、最終製品における上記「特定の3成分」の含有量は、本件補正において新たに特定された下限値である「0.05重量%」に満たないものであるといえる。
そうすると、当初明細書等の実施例の記載から、上記「特定の3成分」の含有量を「0.05重量%から0.5重量%」とすること、特に、下限値を「0.05重量%」とし必須の成分であるとすることが、自明な事項であるということもできない。
オ そして、当初明細書等の【0016】によれば、本発明は、「有効成分の合成および精製に関連している特定の不純物の実質上一定限度量用いる原薬」を提供することを課題とするものであるから、不純物の具体的な成分とその含有量は、課題と直接関連する技術的事項である。
カ したがって、不純物である上記「特定の3成分」の含有量を「0.05重量%から0.5重量%」と特定する補正事項を含む本件補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することによる導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものとはいえない。
(3)小括
以上によれば、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものとはいえず、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
3 独立特許要件について
(1)上記2で説示したように、本件補正は、「原薬の調製物」における「目的物質由来不純物」の種類及び量について限定を加えるものであり、本件補正前後の請求項5に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項5に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。
(2)引用文献について
ア 引用文献1(特表平8-504193号公報)の記載事項及び引用発明

(ア)引用文献1には、以下の記載がある。下線は、特段の注釈がない限り、当審合議体によるものである。
(摘記1a)「【特許請求の範囲】
1.イブプロフエンまたはフルルピプロフエンより選択されるフエニルプロピオン酸の一つの望みの鏡像異性体の濃度を高められた製品を製造する方法において、前記の方法は次の段階、すなわち
(a)溶媒としてトルエンとメタノールの混合物中で、フエニルプロピオン酸の実質的ラセミ混合物をα-メチルベンジルアミンの一つの鏡像異性体と、実質上ラセミ体のフエニルプロピオン酸のα-メチルベンジルアミンに対するそれぞれのモル比が約1:0.25から約1:1までの範囲内において、接触させることにより、望みの鏡像異性体の濃度を高められたフエニルプロピオン酸のα-メチルベンジルアミン塩が調製される分割段階、
(b)その結果生成する濃縮塩をトルエンとメタノールの混合物から再結晶させて、望みの鏡像異性体の濃度をさらに高められたフエニルプロピオン酸のα-メチルベンジルアミン塩を得る再結晶段階、
(c)望みの鏡像異性体の濃度をさらに高められたフエニルプロピオン酸を前記の再結晶塩から遊離させる任意選択の遊離段階、
(d)望みの鏡像異性体の濃度をさらに高められたフエニルプロピオン酸の固体塩を遊離させ、その固体塩が任意に望みの鏡像異性体においてさらに一層鏡像異性的に濃度を高められる、任意選択の塩の製造段階、
から成る前記の方法。
2.フエニルプロピオン酸の望みの鏡像異性体は(S)-イブプロフエン、(S)-フルルピプロフエンおよび(R)-フルルビプロフエンより選択される請求項1に記載の方法。」(第2頁、特許請求の範囲、請求項1、2)
(摘記1b)「イブプロフエン(その化学名は2-(4-イソブチルフエニル)プロピオン酸である)およびフルルビプロフエン(その化学名は2-(2-フルオロ-4-ビフエニリル)-プロピオン酸である)は抗炎症、解熱および鎮痛作用を有するよく知られた医薬である。イブプロフエンおよびフルルビプロフエンの既知の用途は筋骨格の疾患、例えば、リウマチ性疾患、における疼痛と炎症の治療、およびその他多種の疾患、例えば、頭痛、神経痛および月経困難症、における疼痛の治療を含む。
イブプロフエンとフルルビプロフエンの両者は不斉置換炭素原子に単一のキラル中心を含み、従って両者は二つの鏡像異性体の形で存在する。S(+)-イブプロフエンは有効薬剤であること、およびR(-)-イブプロフエンは人体内でS(+)-イブプロフエンに変換されるとしても不完全であることが知られている。また、S(+)-フルルビプロフエンは有効薬剤であることも知られている。R(-)-フルルビプロフエンは人体内で(S)-鏡像異性体に変換されないことが知られているが、しかしR(-)-フルルビプロフエンは鎮痛活性のみを有すると示唆されたことがある(国際特許出願第WO92/04018号[Paz])。イブプロフエンとフルルビプロフエンは従来ラセミ混合物として市販されていた。しかしある事情においては実質上一つの鏡像異性体のみを投与すると有利なことがある。従ってイブプロフエンとフルルビプロフエンより選択されるフエニルプロピオン酸の一つの望みの鏡像異性体の濃度を高められた製品を製造するための改良された方法を提供することが望ましい。」(第8頁第7?26行)
(摘記1c)「もしR(-)-イブプロフエン、R(-)-フルルビプロフエンまたはそれらの医薬として許容される塩が望まれるならば、上記の各製造工程は、本発明の方法の分割段階(a)における分割剤として(S)-α-メチルベンジルアミンを(R)-α-メチルベンジルアミンに置き換えることにより、およびその後の段階に対応する一部変更を伴って、R(-)-イブプロフエン、R(-)-フルルビプロフエンまたはそれらの医薬として許容される塩の製造に容易に適合され得ることは容易に理解されるであろう。」(第15頁第16?22行)
(摘記1d)「例7(左記下線は、当審合議体によるものではない。)
(S)-濃縮-フルルビプロフエン-(S)-α-メチルベンジルアミンの製造によるフルルビプロフエンの分割(左記下線は、当審合議体によるものではない。)
ラセミ体フルルビプロフエン(61.0g)をメタノール(40ml)とトルエン(160ml)の混合物に溶解させた。その混合物を60℃に加熱してから、(S)-α-メチルベンジルアミン16.9mlを10分間にわたって加えた。(S)-フルルビプロフエン-(S)-α-メチルベンジルアミンの種結晶をその反応混合物に加え、それからその混合物を0から5℃までに冷やし、そしてその温度に1時間保った。沈殿物を濾過により採集すると92.2%の鏡像異性体純度の(S)-濃縮-フルルビプロフエン-(S)-α-メチルベンジルアミンの(S)-α-メチルベンジルアミン塩を得た。メタノール(48ml)とトルエン(192ml)の混合物から前記の沈殿物を再結晶させた後、98.5%の鏡像異性体純度のさらに(S)-濃縮された-フルルビプロフエン-(S)-α-メチルベンジルアミンが得られた。
前記の再結晶から得られた母液を濃塩酸(10ml)と水(25ml)により酸性にしてから25℃で15分間攪拌した。(S)-α-メチルベンジルアミンを含む下の水性層を採集して再使用した。上の有機層は、それぞれS(+)対R(-)の重量比41.5%:58.5%のフルルビプロフエン酸鏡像異性体の混合物を含んでいた。このフルルビプロフエンをラセミ化されたそのメチルエステルに変換し、水酸化ナトリウムによりラセミ体フルルビプロフエンに変換して戻してから、前記の分割工程へ導入した。
例8(左記下線は、当審合議体によるものではない。)
(R)-フルルビプロフエン-(R)-α-メチルベンジルアミンの製造(左記下線は、当審合議体によるものではない。)
例8.1から8.6までは下の表2に従って行われた。ラセミ体フルルビプロフエン(i)gをメタノール(ii)mlとトルエン(iii)ml、および任意に水(iv)ml、の混合物中に溶解させた。その混合物を55℃に加熱して溶液を形
成させ、そして(R)-α-メチルベンジルアミン(v)mlを10分間にわたって加えた。(R)-フルルビプロフエン-(R)-α-メチルベンジルアミンの種結晶を25℃に冷やされたその混合物に加えた。沈殿物を濾過により採集すると(vi)%の鏡像異性体純度の(R)-濃縮-フルルビプロフエンの(R)-α-メチルベンジルアミン塩を得た。分割工程のために用いられたものと同じ比率のメタノール、トルエンおよび水の混合物からその沈殿物を再結晶させた後、(vii)%の鏡像異性体純度のさらに(R)-濃縮された-フルルビプロフエン-(R)-α-メチルベンジルアミンの固体が得られた。

脚注(左記下線は、当審合議体によるものではない。)
1.この例における第二の再結晶はさらに固体の99.9%以上の鏡像異性体純度の(R)-濃縮-フルルビプロフエン-(R)-α-メチルベンジルアミンを与えた。
例9(a)(左記下線は、当審合議体によるものではない。)
(R)-濃縮-フルルビプロフエンの遊離(左記下線は、当審合議体によるものではない。)
99.1%の鏡像異性体純度を有する(R)-濃縮-フルルビプロフエン-(R)-α-メチルベンジルアミン(58.7g-例8に記載のものと同様の方法で製造された)を、n-ヘプタン(160ml)、水(200ml)および濃塩酸(17ml-比重1.18)の混合物と共に80℃で15分間加熱した。その有機層を分離してから0から5℃に冷やした。(R)-濃縮-フルルビプロフエンが結晶化し、採集され、n-ヘプタンで洗われてから真空乾燥された。
例9(b)(左記下線は、当審合議体によるものではない。)
(S)-濃縮-フルルビプロフエンの遊離(左記下線は、当審合議体によるものではない。)
例9(a)に記載のものと同様の方法で、(S)-濃縮-フルルビプロフエンを例7に記載ののものと同様の方法で製造された(S)-濃縮-フルルビプロフエン-(S)-α-メチルベンジルアミンから遊離させた。
例10(a)(左記下線は、当審合議体によるものではない。)
再結晶による(S)-濃縮-フルルビプロフエンの鏡像異性体純化(左記下線は、当審合議体によるものではない。)
98.9%の鏡像異性体純度の(S)-濃縮-フルルビプロフエン(47.2g)をトルエン(132ml)に加えて50℃に加熱した。(S)-フルルビプロフエンの結晶を42℃の温度で加えてからその溶液を-5℃まで冷やした。濾過により固体の(S)-濃縮-フルルビプロフエンが採集され、それは99.8%の鏡像異性体純度を有することが見いだされた。
例10(b)(左記下線は、当審合議体によるものではない。)
再結晶による(S)-濃縮-フルルピプロフエンの鏡像異性体純化(左記下線は、当審合議体によるものではない。)
98.4%の鏡像異性体純度の(S)-濃縮-フルルピプロフエン(13.5g)をトルエン(26ml)に加えて50℃に加熱した。その溶液をそれから-10℃に冷やした。濾過により固体の(S)-濃縮-フルルビプロフエンが採集され、それは99.8%の鏡像異性体純度を有することが見いだされた。収量13.0g。」(第20?22頁、例7?例10(b))
(イ)上記摘記1a、1b、1dの記載に照らせば、引用文献1には、次のとおりの発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる(なお、引用文献1の「フルルビプロフエン」は、「フルルビプロフェン」と表記する。以下、同様。)。
「99.8%の鏡像異性体純度を有する、(S)-濃縮-フルルビプロフェン。」
イ 引用文献2(国際公開第2008/095186号)の記載事項
引用文献2には、以下の記載がある。引用文献2は英文であることから、当審による訳文にて示す。下線は、特段の注釈がない限り、当審合議体によるものである。
(摘記2a)「請求の範囲
我々が請求するのは:
1.医薬品有効成分としての(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸又はその薬学的に許容される塩と、約0.001%?約3重量%の目的物質由来不純物とを含み、前記目的物質由来不純物が、約0.5重量%以下の2-(4-ビフェニリル)プロピオン酸、約2重量%以下のエナンチオマー不純物である(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸、又はそれらの塩を含むものである、原薬の調製物。
2. 前記目的物質由来不純物は、約0.1重量%以下のメチル(2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル))プロピオン酸を含むものである、請求項1に記載の原薬の調製物。
3.前記目的物質由来不純物は、約1重量%以下のエナンチオマー不純物である(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸の又はその塩を含むものである、請求項1又は2に記載の原薬の調製物。
4.前記目的物質由来不純物は、約0.5重量%以下のエナンチオマー不純物である(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸又はその塩を含むものである、請求項1又は2に記載の原薬の調製物。」(第66頁、請求項1?4)
(摘記2b)「11.更に製造工程由来不純物である(R)-(+)-α-メチルベンジルアミンを約50ppm以下含むものである、請求項1?4に記載の原薬の調製物。」(第67頁、請求項11)
(摘記2c)「本発明の原薬の調製物、医薬組成物、剤形の中に見出される
目的物質由来不純物の具体例には、(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸のほか、次のものが含まれる。

2-(4-ビフェニリル) プロピオン酸

メチル (2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)) プロピオン酸塩

l-フェニルエチル-(2-2(フルオロビフェニル-4-イル)) プロピオンアミド


2-(2-フルオロビフェニル-4-イル)プロピオンアミド」(第18頁、[49])
(摘記2d)「実施例1:医薬品有効成分として(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸を含む、高純度な原薬の調製
概要:
[0140]本発明で用いられる高純度なラセミ体のフルルビプロフェン(すなわち、(R,S)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸)は、例えば米国特許第3,755,427号又は第3,959,364号に記載される、当該分野で公知の方法によって製造され得る。次いで、この高純度なラセミ体フルルビプロフェンは、米国特許第5,599,969号に概略され、且つ、以下に詳述する分割工程に供される。この分割工程は、(R)-(+)-メチルベンジルアミンと、(R)-及び(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸両方の塩の形成を促進する条件下で、光学的に純粋な光学分割剤である(R)-(+)-メチルベンジルアミンをラセミ体フルルビプロフェンに制御しながら添加することを伴う。それから、(R)-(+)-メチルベンジルアミンの(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸との塩は、以下で説明する選択的結晶化方法により単離される。
[0141]選択的結晶化方法は、所望の(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸と(R)-(+)-α-メチルベンジルアミンの塩と、不所望の(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸と(R)-(+)-α-メチルベンジルアミンの塩の、化学的及び物理的特性における差異を利用して、フルルビプロフェンの2種の鏡像異性体を効率よく分割する。一度結晶性物質として単離・洗浄された後、以下に記載されるように、(R)-(+) -α-メチルベンジルアミン: (R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸塩結晶は、再溶解され、塩酸の添加により分解反応に供される。分解反応は、遊離酸として、(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸を放出し、これが抽出工程によって単離され、更なる結晶化工程により回収される。
(R)-(+)-α-メチルベンジルアミンと、(R) -2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸及び(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸との塩の形成、及び、(R)-(+) -α-メチルベンジルアミン:(R) -2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸の塩の選択的結晶化
[142]約750kgの(R,S)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸(すなわち、ラセミ体フルルビプロフェン)は、約1500kgのトルエン及び約350kgのメタノールに溶解され、混合物は50?70℃に加温された。(R)-(+)-α-メチルベンジルアミンの30?35%(w/w)トルエン溶液約500kgが、約30分にわたって制御された速度で過飽和溶液を形成するよう添加され、混合物の温度は50?70℃周辺に保持された。(R)-(+)-α-メチルベンジルアミンの添加後、混合物は約30分間、50?70℃の間の温度に置かれ、攪拌され、その間に、(R)-(+)-α-メチルベンジルアミン:(R) -2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸の塩の結晶が自然に生成した。次に、約30分攪拌しながら、混合物の温度を5?10℃上昇させることで、結晶が熱的熟成工程に供された。そして、混合物は40?60℃にゆっくり冷やされ、その後、0?5℃の間にまで冷却された。混合物は0?5℃で保持され、約1時間攪拌された。結晶は濾過により単離され、トルエンで洗浄された。洗浄された結晶は、その質量の約2?3倍の質量のメタノールと、約8?10倍の質量のトルエンに溶解された。混合物は約15分間、70℃に加温され、その後、約60℃に冷却された。約30分間攪拌した後、溶液は、(R)-(+)-α-メチルベンジルアミン:(R) -2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸の塩の結晶の存在について確認された。結晶化が起こっていなければ、約3kgの(R)-(+)-α-メチルベンジルアミン:(R) -2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸の塩の結晶を種として結晶化がなされた。結晶は約60℃で約30分間、成長を許容される。混合物は約30分間、約5℃加温された。その後、混合物は約10℃ずつゆっくり冷やされ、その後、0?5℃の間まで冷却され、そして約1時間攪拌された。結晶は濾過により単離され、トルエンで洗浄された。
塩酸を用いた分解反応による(R) -2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸の放出
[143]再結晶化され、洗浄された、(R)-(+)-α-メチルベンジルアミン:(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸の塩の結晶は、脱イオン水及びトルエンに溶解された。使用された溶媒の体積は、塩結晶1kg当たり、脱イオン水が0.5?1.5kg、トルエンが2.5?3.5kgであった。塩結晶1kg当たり、0.5kgの塩酸が結晶の再溶解液に添加され、そして、混合物は50?70℃に加温され、約30分間攪拌された。有機層と水層は分離可能であった。遊離した(R)-(+)-α-メチルベンジルアミンを含有する下部の水層を捨て、(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸を含む有機層は、水及び塩酸で洗浄して、残留する(R)-(+)-α-メチルベンジルアミンを除去した。続いて、有機層は脱イオン水で2回洗浄された。(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸を含有するトルエン混合物を蒸留し、そして、酸性化前、最初に溶解した塩結晶1kg当たり、約2?3kgとなるまで体積を減少させるために、有機層は加熱された。
(R) -2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸の結晶化、及び、原薬の単離
[144]蒸留後、残った溶液は30?35℃まで冷却され、(R)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸の過飽和溶液が創出され、これは約30分間攪拌された。(R) -2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸の結晶化が自然に起こらない場合、1?3kgの(R) -2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸結晶を種として結晶化がなされる。結晶化は約30分間、25?35℃で継続を許容される。この初期結晶化期間の後、混合物は0℃以下までゆっくり冷却され、そして、約1時間攪拌下に置かれる。(R)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸の結晶は濾過により収集され、冷n-ヘプタンで洗浄された。原薬の調製物は、約60℃で真空下、固体を乾燥することにより得られた。」(第50?53頁、[140]?[144])
(摘記2e)「実施例3:原薬の典型的なバッチにおける、選択された不純物
[162]2バッチの原薬(すなわち、原薬の調製物)は、実施例1で概説したキラル結晶化プロトコールを用いて調製し、実施例2に記載された技術を使用してアッセイされた。バッチAは、187kgの原薬をもたらし、光学純度((S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸に対する、(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸の光学的過剰)は99.7%eeであった。バッチBは、300kgの原薬をもたらし、光学純度((S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸に対する、(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸の光学的過剰)は99.9%eeであった。表4は、これらの2つの原薬のバッチに対して行った不純物についてのアッセイの結果を提供する。
表4.

*光学純度((S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル) プロピオン酸に対する、(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸の光学的過剰)から計算された値で、バッチAの光学純度は99.7%ee、バッチBの光学純度は99.9%eeである。」(第58?59頁、[162])
(3)当審の判断
ア 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
上記摘記1bのとおり、フルルビプロフェンは、2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)-プロピオン酸の一般名である。
また、フルルビプロフェンには、上記摘記1bのとおり、S(+)-フルルビプロフェンとR(-)-フルルビプロフェンとの2つの鏡像異性体があり、ラセミ体はこれら2つの鏡像異性体を含む混合物であるが、引用発明は、上記摘記1a、摘記1dのとおり、ラセミ体フルルビプロフェンの混合物から調製された、99.8%の鏡像異性体純度を有するS(+)-フルルビプロフェンである。
そして、「(S)-濃縮-フルルビプロフェン」における「濃縮」とは、鏡像異性体純度を高めたことを意味するにすぎない記載であることから、引用発明の「(S)-濃縮-フルルビプロフェン」は、本件補正発明の「(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸またはその塩」に相当する。
してみれば、本件補正発明と引用発明は、S(+)-フルルビプロフェンとR(-)-フルルビプロフェンの混合物から、S(+)-フルルビプロフェンの鏡像異性体純度が高められ、且つR(-)-フルルビプロフェン((R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸と同義)の量が低減されているものである点において共通するということができる。
そうすると、本件補正発明と引用発明とは、下記の点において一致及び相違するといえる。
<一致点>
「(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸の含有量が低減されている、(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸またはその塩。」
<相違点1>
本件補正発明は、(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸またはその薬学的に許容可能な塩を「医薬品有効成分」として有する「原薬の調製物」であるのに対し、引用発明ではそのような特定がなされていない点。
<相違点2>
本件補正発明では、(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸またはその塩が「0.001重量%から2重量%までの、前記医薬品有効成分に特性は匹敵しないが構成は類似する目的物質由来不純物(product-related impurities)であって、0.5重量%以下の2-(4-ビフェニリル)プロピオン酸またはその塩と、1重量%以下のエナンチオマたる不純物であって、(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸またはその塩と、を含む目的物質由来不純物と、重量百万分率およそ1,000ppm以下の(S)-(-)-α-メチルベンジルアミンと、0.05重量%から0.5重量%までの目的物質由来不純物であって、メチル(2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル))プロピオン酸塩、1-フェニルエチル-(2-2(フルオロビフェニル-4-イル))プロピオンアミド、および2-(2-フルオロビフェニル-4-イル)プロピオンアミドを含む目的物質由来不純物と、を有する」と特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定がなされていない点。
イ 判断
(ア)相違点1について
上記摘記1bによれば、S-フルルビプロフェンは医薬における有効薬剤として使用可能なものであることから、引用発明に係る「(S)-濃縮-フルルビプロフェン」を「原薬の調製物」における「医薬品有効成分」とすることは、当業者が容易になし得る事項にすぎない。
(イ)相違点2について
a 引用発明は、鏡像異性体純度(R体とS体の合計を100%としたときの純度)が99.8%まで高められた(S)-濃縮-フルルビプロフェンであり、上記摘記1dのとおり、ラセミ体フルルビプロフェンを溶解した混合物に、(S)-α-メチルベンジルアミン溶液を添加し、(S)-濃縮-フルルビプロフェン -(S)-α-メチルベンジルアミンの塩を得た後、再結晶化を行い、塩酸を添加して、(S)-α-メチルベンジルアミンを含む水性層と、フルルビプロフェンを含む有機層を分離する調製方法によって得られたものである。
引用文献1には、鏡像異性体以外の不純物の含有量については記載されていない。
しかしながら、本願優先日当時、医薬品は品質管理が厳密に行われており、多くの医薬品の純度は99.9%以上であることは技術常識であった(例えば、C.G.WERMUTH 編, 長瀬博 監訳,最新 創薬化学 下巻,1999年,p.562(拒絶査定において引用された引用文献3)参照)。
したがって、引用発明に係る(S)-濃縮-フルルビプロフェンを、原薬の調製物における医薬品有効成分とするに当たり、鏡像異性体だけでなく、それ以外の不純物も極力低減すべきことは、当業者であれば、当然想起し得る事項である。
b 一方、引用文献2には、摘記2dのとおり、ラセミ体フルルビプロフェンを溶解した混合物に、(R)-α-メチルベンジルアミンの溶液を添加し、(R)-フルルビプロフェン -(R)-α-メチルベンジルアミンの塩の結晶を得た後、塩酸を添加して、(R)-α-メチルベンジルアミンを含む水性層と、(R)-フルルビプロフェンを含む有機層を分離することで、(R)-フルルビプロフェンの純度が高められた原薬の調製方法が記載されている。
具体的には、ラセミ体フルルビプロフェンを溶解したトルエンとメタノールの混合物に、(R)-(+)-α-メチルベンジルアミンのトルエン溶液を添加して、50?70℃に加温して(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸と(R)-(+)-α-メチルベンジルアミンの塩を生成させ、30分間撹拌し、混合物の温度を5?10℃上昇させ、結晶を熱的熟成工程に供した後、40?60℃に冷やし、0?5℃まで冷却・保持して、結晶を単離し、トルエンで洗浄した後、上記塩の結晶を脱イオン水及びトルエンに溶解し、塩酸を添加して、50?70℃に加温し、30分間撹拌することで、(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸と(R)-(+)-α-メチルベンジルアミンの塩の分解反応を行い、(R)-(+)-α-メチルベンジルアミンを含む水層を捨てる一方、有機層には水及び塩酸による洗浄を行って残留する(R)-(+)-α-メチルベンジルアミンを除去した後、加熱にて体積を減少させてから、(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸の結晶を収集することが記載されている。
c そして、引用文献2には、摘記2eの表4(上記摘記2aのとおり、引用文献2の特許請求の範囲では、不純物の含有量が重量%を基準として記載されていることから、表4に記載された%は重量%を意味すると解される。)のとおり、上記調製方法を用いて得られたバッチAの原薬の調製物は、エナンチオマー不純物である(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸を0.15%、2-(4-ビフェニリル)プロピオン酸を0.11%、メチル(2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル))プロピオン酸を検出限界以下の量、目的物質由来不純物の総量を0.1%、(R)-(+)-メチルベンジルアミンを<50ppmの量で含むものであり、不純物が少ないことが記載されている。
上記バッチAの原薬の調製物においては、目的物質由来不純物の具体例として記載された、4つの化合物(摘記2c)のうち、2-(4-ビフェニリル)プロピオン酸は0.11%、メチル(2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル))プロピオン酸は検出限界以下であったことが記載されているから、それらの合計量より少ない0.1%である「目的物質由来不純物」は、上記4つの化合物のうち、残り2つの1-フェニルエチル-(2-2(フルオロビフェニル-4-イル))プロピオンアミド及び2-(2-フルオロビフェニル-4-イル)プロピオンアミドであると解することができ、これら2成分に加え、検出限界以下の量であるメチル(2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル))プロピオン酸と合わせた3成分(本件補正発明における「特定の3成分」に相当)の含有量も、合計0.1%程度であるといえる。
そうすると、引用文献2に記載されたバッチAの原薬の調製物は、(4-ビフェニリル)プロピオン酸が0.11%、(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸が0.15%、(R)-(+)-メチルベンジルアミンが<50ppm、また、メチル(2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル))プロピオン酸、1-フェニルエチル-(2-2(フルオロビフェニル-4-イル))プロピオンアミド及び2-(2-フルオロビフェニル-4-イル)プロピオンアミド(本件補正発明における「特定の3成分」に相当)が合計0.1%程度の不純物を有するものといえる。
d 引用文献1と引用文献2とに記載された調製方法は、目的とするフルルビプロフェン原薬及び不純物とする化合物の鏡像異性が逆であること以外は、「ラセミ体フルルビプロフェンの溶液に対して、所望の鏡像異性体を結晶化させるに適した立体配置を有するメチルベンジルアミンを添加し、フルルビプロフェン-メチルベンジルアミン塩の結晶を単離した後、酸の添加によってフルルビプロフェン-メチルベンジルアミン塩を分解し、目的のフルルビプロフェンの鏡像異性体を取得する点」において共通するものであるから、引用発明においても、引用文献2に記載されたような目的物質由来不純物や(R)-(+)-メチルベンジルアミンを含む製造工程由来不純物を含み得ることを、当業者であれば当然に理解し、これらの特定の不純物の量を、引用文献2に記載された程度に低減させる動機付けがあるといえる。
e そして、引用文献2に具体的に示された加熱温度や撹拌時間等の条件を参考にして、引用発明に係る(S)-濃縮-フルルビプロフェンを調製し、引用文献2に記載のバッチAの原薬の調製物と同程度の非常に少ない不純物の含有量、すなわち、(4-ビフェニリル)プロピオン酸を0.15%、(S)-(+)-メチルベンジルアミンを<50ppm、また、メチル(2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル))プロピオン酸、1-フェニルエチル-(2-2(フルオロビフェニル-4-イル))プロピオンアミド及び2-(2-フルオロビフェニル-4-イル)プロピオンアミドの合計を0.1%程度とし、相違点2に係る本件補正発明の構成に想到することは、当業者が容易になし得た事項にすぎない。
(4)請求人の主張について
審判請求の理由補充書3.[2](2)において、審判請求人は、主引用発明及び副引用発明は、本件補正発明で特定される目的物質由来不純物、製造工程由来不純物の双方に係る「化学的純度」を所定水準まで向上させる旨を教示も示唆もしていないことは明白であり、引用文献3は医薬品の純度向上が当業者にとっての共通の課題であることを示すに留まることから、このような周知事項が目的物質由来不純物と製造工程由来不純物の双方に係る「化学的純度」を所定水準まで向上せしめる動機付けを与えるものではない旨を主張している。
しかし、当業者であれば、引用発明に係る(S)-濃縮-フルルビプロフェンにおける不純物の量を、引用文献2に記載された程度に低減させる動機付けがあることは、上記(3)イにおいて説示したとおりである。
してみれば、請求人の主張を採用することはできない。
(5)小括
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明、引用文献1、2の記載事項及び技術常識に基いて当業者が容易になし得たものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
4 補正の却下の決定のまとめ
以上によれば、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定及び特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定のいずれかに違反するものであるので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1?7に係る発明は、平成30年11月30日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項5に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項5】
(1)医薬品有効成分として、(S)-(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)プロピオン酸またはその薬学的に許容可能な塩と、
(2)0.001重量%から2重量%までの、前記医薬品有効成分に特性は匹敵しないが構成は類似する目的物質由来不純物(product-related impurities)であって、0.5重量%以下の2-(4-ビフェニリル)プロピオン酸またはその塩と、1重量%以下の(R)-(-)-2-(2-フルオロ-4- ビフェニリル)プロピオン酸またはその塩と、を含む目的物質由来不純物と、
重量百万分率およそ1,000ppm以下の(S)-(-)-α-メチルベンジルアミンと、
を有する
ことを特徴とする原薬の調製物。」
2 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、この出願の請求項1?7に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
3 当審の判断
本願発明は、本件補正発明から、「原薬の調製物」が「0.05重量%から0.5重量%までの、有効成分に特性は匹敵しないが構成が類似する目的物質由来不純物であって、メチル(2-(2-フルオロ-4-ビフェニリル))プロピオン酸塩、1-フェニルエチル-(2-2(フルオロビフェニル-4-イル))プロピオンアミド、および2-(2-フルオロビフェニル-4-イル)プロピオンアミドを含む不純物」を有する、という発明特定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに上記特定の3成分の総量についての特定を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2の3で述べたとおり、引用発明、引用文献1、2の記載事項及び技術常識に基いて当業者が容易になし得たものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明、引用文献1、2の記載事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

4 小括
以上によれば、本願発明は、引用発明、引用文献1、2の記載事項及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明することができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願請求項5に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-08-27 
結審通知日 2020-09-01 
審決日 2020-09-16 
出願番号 特願2017-173960(P2017-173960)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 561- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 福代  
特許庁審判長 藤原 浩子
特許庁審判官 穴吹 智子
石井 裕美子
発明の名称 S-(+)-フルルビプロフェンを含む原薬の調製物、医薬組成物、そして剤形  
代理人 山口 朔生  

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