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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B
管理番号 1370831
審判番号 不服2020-790  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-21 
確定日 2021-02-04 
事件の表示 特願2015-242977「ゴルフボール」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月22日出願公開、特開2017-108766〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年12月14日の出願であって、令和1年7月17日付けで拒絶理由が通知され、同年9月13日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、令和2年1月21日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、令和2年1月21日付けで補正された特許請求の範囲及び明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
コアと、このコアの外側に位置する中間層と、この中間層の外側に位置するカバーとを備えたゴルフボールであって、
上記コアにおける表面と中心点とのショアC硬度の差DH;上記中間層における厚みTm(mm)、ショアD硬度Hm及び体積Vm(mm^(3));並びに上記カバーにおける厚みTc(mm)、ショアD硬度Hc及び仮想体積Vc(mm^(3))が、下記数式(1.1)及び(1.2)を満たし、
(DH ・ Hm) /(Hc ・ Tc) >63 (1.1)
3.0 < ((Vm ・Hm) / (Vc ・ Hc)) < 7.5 (1.2)
上記カバーの硬度Hcが40以下であり、
その表面に複数のディンプルを有しており、
上記ゴルフボールの仮想球の表面積に対する、上記ディンプルの面積の合計の比率Soが、81.0%以上であり、
その直径が上記ゴルフボールの直径の9.60%以上10.37%以下であるディンプルの数の、ディンプルの総数に対する比率Rsが、50%以上であり、
その直径が上記ゴルフボールの直径の10.10%以上10.37%以下であるディンプルの数の、ディンプルの総数に対する比率Rs’が、50%以上であり、
上記ゴルフボールの半球のディンプルパターンが、互いに回転対称である3つのユニットからなり、
それぞれのユニットのディンプルパターンが、互いに鏡面対称である2つの小ユニットからなり、
下記数式(2.2)及び(2.5)を満たすゴルフボール。
Rs ≧ -2.5 ・ So + 278 (2.2)
Rs’ ≧ -2.2 ・ So + 252 (2.5)」(以下「本願発明」という。)


第3 原査定における拒絶理由の概要
原査定において通知した拒絶理由は、次に概略を記した理由を含むものである。
(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記(引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1
・引用文献等 1、2
<引用文献等>
1.特開2013-248298号公報
2.特開2012-040374号公報


第4 当審の判断
1 引用例
(1)引用例1
本願の出願日前の平成25年12月12日に公開され、原査定の拒絶理由に引用された特開2013-248298号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボールに関し、特に、飛距離が大きく、アプローチ性能および耐久性に優れたゴルフボールに関する。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ゴルファーにとって、ドライバーショットの飛距離が大きいゴルフボールが好まれる。しかし、スコアメイクには、ドライバーショットの飛距離だけではなく、アプローチショットの精度も重要であることは言うまでもない。カバー材料として、比較的軟質な熱可塑性ポリウレタンを採用したゴルフボールは、40ヤード?100ヤードの距離のアプローチショットに対するコントロール性に優れる。しかし、40ヤード未満、特に10ヤード?20ヤード程度のグリーン周りからのアプローチショットに対するコントロール性については、ほとんど検討されていない。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、ドライバーショットの飛距離が大きく、40ヤード?100ヤード程度のアプローチショット及びグリーン周りからのアプローチショットに対するコントロール性が高く、耐久性に優れたゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のゴルフボールは、少なくとも一層の球状コアと、前記球状コアの外側に配設された中間層と、前記中間層の外側に配設されたカバーとを有するゴルフボール本体と、前記ゴルフボール本体表面に設けられた塗膜とを有するゴルフボールであって、
前記ゴルフボールは、接触力試験機を用いて算出した摩擦係数が、0.35以上、0.60以下であり、
前記ゴルフボールは、表面に多数のディンプルを備えており、下記数式(I)を満足し、
Y≦3.8・X-2.894 (I)
(数式(I)において、Xは、その仮想球の表面積に対する全てのディンプルの面積の合計の比を表し、Yは全てのディンプルの直径の標準偏差(mm)を表す)
前記球状コアの少なくとも一層は、ゴム組成物から形成されたゴム層であり、
前記ゴム層の厚みを球状コアの半径方向に12.5%間隔で等分した9点で測定したJIS-C硬度を、前記ゴム層の最内点からの距離(%)に対してプロットしたときに、最小二乗法によって求めた線形近似曲線のR2が0.95以上であり、
前記ゴム層の最外点の硬度が、最内点の硬度よりも大きく、
前記中間層のスラブ硬度(Hm)が前記カバーのスラブ硬度(Hc)よりも大きいことを特徴とする。」
ウ 「【0056】
全てのディンプルの面積sの合計の、仮想球の表面積に対する比は、占有率Xと称される。乱流化の観点から、占有率Xは0.78以上が好ましく、0.79以上がより好ましく、0.80以上が特に好ましい。占有率Xは、0.95以下が好ましい。図2から7に示されたゴルフボール2では、ディンプルの合計面積は4753.5mm^(2)である。このゴルフボール2の仮想球の表面積は5728.0mm^(2)なので、占有率Xは0.830である。
【0057】
全てのディンプルの直径の標準偏差Yは、0.30以下が好ましい。標準偏差Yが0.30以下であるゴルフボール2では、乱流化が促進される。この観点から、標準偏差Yは0.29以下がより好ましく、0.28以下が特に好ましい。標準偏差Yは、ゼロでもよい。図2から7に示されたゴルフボール2の標準偏差Yは下記数式によって算出される。
Y=(((4.500-4.321)^(2)・28+(4.400-4.321)^(2)・122+(4.300-4.321)^(2)・100+(4.150-4.321)^(2)・74)/324)^(1/2)このゴルフボール2の標準偏差Yは、0.109である。」
エ 「【0214】
【表6】


オ 「【0217】


カ 「【0223】
(6)塗膜の形成
(5)で得られたゴルフボール本体の表面をサンドブラスト処理して、マーキングを施した後、スプレーガンで塗料を塗布し、40℃のオーブンで24時間塗料を乾燥させ、直径42.7mm、質量45.6gのゴルフボールを得た。塗膜の厚さは、20μmとした。塗装は、図15に示した回転体にゴルフボール本体を載置し、回転体を300rpmで回転させ、ゴルフボール本体からエアーガンを吹き付け距離(7cm)だけ離間させて上下方向に移動させながら行った。重ね塗りの各回のインターバルを1.0秒とした。エアーガンの吹付条件は、吹付エアー圧;0.15MPa、圧送タンクエアー圧;0.10MPa、1回の塗布時間;1秒、雰囲気温度;20℃?27℃、雰囲気湿度;65%以下の条件で塗装とした。」
キ 「【0229】


ク 上記ウ?カより、ゴルフボールNo.26は、球状コアと、この球状コアの外側に位置する中間層と、この中間層の外側に位置するカバーとを備えたゴルフボールであって、その仕様からなるものと認める。
(ア)球状コアにおける表面と中心点とのショアC硬度の差DH:32.5
(イ)中間層における厚みTm(mm):1.0、ショアD硬度Hm:65
(ウ)カバーにおける厚みTc(mm):0.5、ショアD硬度Hc:29
(エ)中間層の体積Vm(mm^(3))は、球状コアの直径(mm):39.7及び中間層の厚みTm(mm):1.0より、5202.4(mm^(3))
(オ)カバーの仮想体積Vc(mm^(3))は、ボールの直径(mm):42.7、球状コアの直径(mm):39.7及び中間層の厚みTm(mm):1.0より、2796.1(mm^(3))
(カ)全てのディンプルの面積sの合計の、仮想球の表面積に対する比である占有率X:83.0%
(キ)ディンプルの総数:324、ゴルフボールの直径の9.60%以上10.37%以下であるディンプルの数:222、ゴルフボールの直径の10.10%以上10.37%以下であるディンプルの数:122
(ク)ゴルフボールの直径の10.10%以上10.37%以下であるディンプルの数:122
ケ 上記キのゴルフボールNo.26の仕様より、下記のとおり、各数式の値が算出できる。
(ア)(DH ・ Hm) /(Hc ・ Tc)=145.7
(イ)(Vm ・Hm) / (Vc ・ Hc)=4.2

そうすると、上記ア乃至ケの事項より、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「球状コアと、この球状コアの外側に位置する中間層と、この中間層の外側に位置するカバーとを備えたゴルフボールであって、ゴルフボールは、表面に多数のディンプルを備えており、その仕様が、
(ア)球状コアにおける表面と中心点とのショアC硬度の差DH:32.5
(イ)中間層における厚みTm(mm):1.0、ショアD硬度Hm:65
(ウ)カバーにおける厚みTc(mm):0.5、ショアD硬度Hc:29
(エ)中間層の体積Vm(mm^(3))は、球状コアの直径(mm):39.7及び中間層の厚みTm(mm):1.0より、5202.4(mm^(3))
(オ)カバーの仮想体積Vc(mm^(3))は、ボールの直径(mm):42.7、球状コアの直径(mm):39.7及び中間層の厚みTm(mm):1.0より、2796.1(mm^(3))
(カ)全てのディンプルの面積sの合計の、仮想球の表面積に対する比は、占有率X:83.0%
(キ)ディンプルの総数:324、ゴルフボールの直径の9.60%以上10.37%以下であるディンプルの数:222、ゴルフボールの直径の10.10%以上10.37%以下であるディンプルの数:122
(ク)ゴルフボールの直径の10.10%以上10.37%以下であるディンプルの数:122
であって、
ゴルフボールの直径の9.60%以上10.37%以下であるディンプルの数の、ディンプルの総数に対する比率Rsが91.4であり、
ゴルフボールの直径の10.10%以上10.37%以下であるディンプルの数の、ディンプルの総数に対する比率Rs’が37.7であり、
(DH ・ Hm) /(Hc ・ Tc)=145.7
(Vm ・Hm) / (Vc ・ Hc)=4.2
である、ゴルフボール。」

(2)引用例2
本願の出願日前の平成24年3月1日に公開され、原査定の拒絶理由に引用された特開2012-40374号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボールに関し、特に、飛距離が大きく、アプローチ性能および耐久性に優れたゴルフボールに関する。」
イ 「【0005】
ゴルフボールのディンプルパターンもまた「一つのサイズで全てに間に合う」という標語に一致しない。例えば、スウィングスピードが比較的低いプレイヤーでは、ディンプルパターンは、ボールがドライバーで打たれたとき、該ボールのより高い上昇を助ける必要がある場合がある。なぜなら、それによって、このプレイヤーは、より長いドライバー距離を実現できるようなるからである。しかしながら、この同じディンプルパターンが、高いスウィングスピードを持つプレイヤーによって使用されると、その初期飛行中、ボールの「舞い上がり( balloon) 」を誘発し、結果としてドライバーからの距離の低下をもたらす場合がある。一方、ボールの飛行軌道の調節に有用であり、比較的速いスウィングスピードにおいて最適距離( 例えば、ドライバーからの) を実現するディンプルパターンでは、ボールは、ドライバーによって比較的低いスウィングスピードで打たれると、その飛距離は比較的短くなる場合がある。」
ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、ゴルフボールに対し技術的改善がなされているけれども、ボールの飛行、ボールの感触、及びボールの性能に影響を及ぼす、ゴルフボール選択肢がさらに付け加えられることになれば、それは、当該技術分野において歓迎すべきことであろう。」
エ 「【0042】
図1Aは、本発明の例示特色を含む可能性のある、例示のスリーピース固体ゴルフボール構築100を示す。この例示構造では、ボール100は、固体中心すなわち内部コア102、内部コア102の最外側面102aを包囲し、それに直接隣接するマントル層104、及び、マントル層104を包囲するカバー層106を含む。カバー層106は、その外部表面106aに形成される複数のディンプル108を含む。」
オ 「【0070】
3.ディンプルレイアウト局面及び特色
本発明の各種局面は、ゴルフボール面上の、ディンプルレイアウト及び配置の局面及び特色に関する。図3A及び3Bは、本発明の局面によるディンプルレイアウト及び配置特色のいくつかを具体的に示すのに役立つ。先ず、これらの図に示すように、ゴルフボール300は、それぞれ、事実上半球形の、二つの半分300a及び300bを含む。ただし、図3Bの立面図に示すように、各ボール半分300a及び300bの底部は、ボール上に、ボール周囲の「大円」又は赤道には一致しないシームラインSLの供給を支援するよう、曲線状又は階段状になっていてもよい。このようにして、ボール300は、ボールの赤道(二つの極Pの間の半分道)の大円を含む、ボール300上の全ての大円が、少なくとも一つのディンプルと交差する(このボールの生産時に、金型の半分同士が接合する、見かけのシームラインが存在しない)という点で「シームレス」外観を呈してもよい。
【0071】
ゴルフボール300のディンプルたち(この例示構造ではA型からE型まで)は、各半分300a及び300bにおいて、N個の反復セクター302の中に配置され、ここで、Nは、2から10の範囲内の整数であり、ある実施例では、2から8、場合によっては、3から6である。図3A及び3Bの特定例示ボール300では、各ボール半分300a及び300bは、極Pの周囲に繰り返される、3個のセクター302を含み(各セクター302は、ボール外周の120°をカバーする)、ボール300の全表面では合計6個のセクターとなる。この例示のディンプル配置における各個別セクター302は、対称線LS(図3Aでは破線として示される)を含み、対称線LSの一方側のセクター内の個別ディンプル(及びディンプル部分)は、同じセクター302内の対称線LSの他側の個別ディンプル(及びディンプル部分)の鏡像として配置される。要すれば、ディンプルパターン半部の中に、対称線を含まない一つ以上のセクターを設けてもよく、例えば、そのようなセクターを、対称線を含むセクターの間に等間隔で配布してもよい。言い換えると、本発明は、ボール上のディンプルの各特定可能セクターが対称線を含むことを要求しない。
【0072】
図3Aに示すように、各セクター302は、球面三角領域である。望むのであれば(要求はされないけれども)、これらのセクター302の少なくともいくつかは、共通点、又は場合によって共通辺を共有してもよい。図3Aに示す例示構造では、各半球300a及び300bのセクター302は、その半球の極点Pを共有する。それとは別に、要すれば、セクター302は、共通点を共有する必要はないし(例えば、球面三角は、極点Pから下方に遠ざけられてもよい)、及び/又は、それらは、共通辺を共有する必要もない(同じディンプルパターンを持つセクター302の間に、多くの異なるセクターが配置されてもよい)。
【0073】
一方のボール半分300aにおけるディンプルパターン半部(すなわち、ディンプルレイアウト及び配置)は、他方のボール半分300bのディンプルパターン半部(すなわち、ディンプルレイアウト及び配置)と同じであるが、これらのディンプルは、シームラインSLを境界線として鏡像配置されない。むしろ、図3Bから明白なように、ディンプルパターン半部300a及び300bは、シームラインSL位置を境界として回転方向に互いに転位しており、例えば、2°から90°、5°から60°、5°から45°、10°から45°、10°から30°、場合によっては15°から30°の範囲内の転位量だけずれる。図3A及び3Bに示す実施例ではこの回転方向転位量は約60°である。
【0074】
ボール上には、本発明から逸脱することなく、所望の任意の数の総計ディンプルを含めてよく、例えば、320個から432個の総計ディンプル、又は場合によっては330個から392個の総計ディンプルを含めてもよい。本発明の実施例による、いくつかの特定ゴルフボールディンプル配置は、360個と390個の合計ディンプルを含む。図3A及び3Bの特定ディンプル配置は、390個の合計ディンプルを含み(セクター当たり65ディンプル、セクター半分当たり32.5個のディンプル)、5種の異なるディンプル型(A型からE型まで)がボール300上に配置される。図3A及び3Bに示すように、二つの隣接セクター302は個別ディンプルを共有するので、各セクターは、そのディンプルの半分ずつを含む。」
カ 「【図3A】


キ 「【図3B】


そうすると、上記ア乃至キの記載事項及び図面より、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「内部コア、内部コアの最外側面を包囲しそれに直接隣接するマントル層、及び、マントル層を包囲するカバー層を含み、カバー層は、その外部表面に形成される複数のディンプルを含む、ゴルフボールであって、
ゴルフボールは、半球形の、二つの半分を含み、
ゴルフボールのディンプルは、各半分において、N個の反復セクターの中に配置され、
各ボール半分は、極の周囲に繰り返される、3個のボール外周の120°をカバーするセクターを含み、
各個別セクターは、対称線を含み、対称線の一方側のセクター内の個別ディンプルは、同じセクター内の対称線の他側の個別ディンプルの鏡像として配置される、ゴルフボール。」

2 対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、
(1)後者の「球状コア」、「球状コアの外側に位置する中間層」、「中間層の外側に位置するカバー」、「ゴルフボール」は、それぞれ、前者の「コア」、「コアの外側に位置する中間層」、「中間層の外側に位置するカバー」、「ゴルフボール」に相当する。
(2)後者の「(DH ・ Hm) /(Hc ・ Tc)」は145.7であるから、前者の「(DH ・ Hm) /(Hc ・ Tc) >63 (1.1)」を充足する。
(3)後者の「(Vm ・Hm) / (Vc ・ Hc)」は4.2であるから、前者の「3.0 < ((Vm ・Hm) / (Vc ・ Hc)) < 7.5 (1.2)」を充足する。
(4)後者のカバーにおけるショアD硬度Hcは29であるから、前者の「カバーの硬度Hcが40以下」を充足する。
(5)前者のゴルフボールと、後者のゴルフボールとは、表面に多数のディンプルを備えている点で一致する。
(6)後者の全てのディンプルの面積sの合計の、仮想球の表面積に対する比である占有率Xは83.0%であるから、前者の「ゴルフボールの仮想球の表面積に対する、ディンプルの面積の合計の比率Soが、81.0%以上」を充足する。
(7)後者のゴルフボールの直径の9.60%以上10.37%以下であるディンプルの数の、ディンプルの総数に対する比率Rsは91.4であるから、前者の「その直径がゴルフボールの直径の9.60%以上10.37%以下であるディンプルの数の、ディンプルの総数に対する比率Rsが、50%以上」を充足する。
(8)後者のゴルフボールの直径の9.60%以上10.37%以下であるディンプルの数の、ディンプルの総数に対する比率Rsが91.4であること、及び占有率Xが83.0%であることから、後者のゴルフボールは、前者の数式「Rs ≧ -2.5 ・ So + 278 (2.2)」を充足する。
したがって、両者は、
「コアと、このコアの外側に位置する中間層と、この中間層の外側に位置するカバーとを備えたゴルフボールであって、
上記コアにおける表面と中心点とのショアC硬度の差DH;上記中間層における厚みTm(mm)、ショアD硬度Hm及び体積Vm(mm^(3));並びに上記カバーにおける厚みTc(mm)、ショアD硬度Hc及び仮想体積Vc(mm^(3))が、下記数式(1.1)及び(1.2)を満たし、
(DH ・ Hm) /(Hc ・ Tc) >63 (1.1)
3.0 < ((Vm ・Hm) / (Vc ・ Hc)) < 7.5 (1.2)
上記カバーの硬度Hcが40以下であり、
その表面に複数のディンプルを有しており、
上記ゴルフボールの仮想球の表面積に対する、上記ディンプルの面積の合計の比率Soが、81.0%以上であり、
その直径が上記ゴルフボールの直径の9.60%以上10.37%以下であるディンプルの数の、ディンプルの総数に対する比率Rsが、50%以上であり、
下記数式(2.2)を満たすゴルフボール。
Rs ≧ -2.5 ・ So + 278 (2.2)」
の点で一致し、以下の点で、相違する。

[相違点1]
本願発明は、「その直径が上記ゴルフボールの直径の10.10%以上10.37%以下であるディンプルの数の、ディンプルの総数に対する比率Rs’が、50%以上」であり、数式「Rs’ ≧ -2.2 ・ So + 252 (2.5)」を満たすゴルフボールであるのに対し、引用発明1は、比率Rs’が37.7%であって,Xが83%であって,数式(2.5)の関係を満たしていない点。
[相違点2]
本願発明は、ゴルフボールの半球のディンプルパターンが、互いに回転対称である3つのユニットからなり、それぞれのユニットのディンプルパターンが、互いに鏡面対称である2つの小ユニットからなるものであるのに対し、引用発明1は、ディンプルパターンが特定されていない点。

3 判断
(1)[相違点1]について
引用発明1は、上記「1 (1)イ」に記載された手段を採用することにより、飛距離が大きくコントロール性が高いゴルフボールを提供するという課題を解決しているものである。
ここで、引用文献1のゴルフボールNo.26のディンプルパターンD2を構成するディンプルの各種類の数を、以下のとおりのものとする。「種類A:25、種類B:179、種類C:89、種類D:65」
そうすると、ディンプルの総数が、358に対して、その直径が上記ゴルフボールの直径の10.10%以上10.37%以下であるディンプルの数は、179となり、ディンプルの総数に対する比率Rs’は50%となる。
また、ゴルフボールの全てのディンプルの面積sの合計の、仮想球の表面積に対する比は、占有率X(本願発明の仮想球の表面積に対する、ディンプルの面積の合計の比率So)は、92.3%となる。
そうすると、「Rs’ ≧ -2.2 ・ So + 252」なる上記相違点1の数式(2.5)を充足することとなる。
他方、上記「1 (1)イ」に記載された手段が、引用発明1の課題解決手段であるところ、ディンプルパターンD2を構成するディンプルの各種類の数を上記のとおりとした場合であっても、全てのディンプルの直径の標準偏差(mm)は0.103と算出できるから、「1 (1)イ」に記載された、「Y≦3.8・X-2.894 数式(I)」は充足することとなる。
以上のことから、引用発明1において、ディンプルに係る数式(I)を満足する範囲内で、ディンプルパターンを構成するデンィンプルの種類毎の数を上記のとおり選択したゴルフボールは、上記相違点1に係る構成を充足することが認められる。
そして、上記のとおりのディンプルパターンを構成するデンィンプルの種類毎の数を調整しても、引用発明1のディンプルに係る数式(I)を満足する範囲内において調整し得ることからすれば、引用発明1の課題を解決し得るものと当業者が理解できるのであるから、上記のようにディンプルに係る数式(I)を満足する範囲内において、ディンプルの種類毎の数を選択することは、当業者が適宜なし得るものというべきである。
してみると、上記相違点1に係る構成は、引用発明1より、当業者が適宜なし得るものである。

(2)[相違点2]について
引用発明2のディンプルの各セクターは、ボールの外周の120°をカバーし、反復しているものであるから、本願発明の「ディンプルパターン」と引用発明2の「ディンプル」とは、「互いに回転対称である3つのユニット」からなるディンプルパターンとの概念で共通する。
引用発明2のディンプルの個別セクターは、対称線を含み、対称線の一方側のセクター内の個別ディンプルは、同じセクター内の対称線の他側の個別ディンプルの鏡像として配置されるものであるから、本願発明の「ディンプルパターン」と引用発明2の「ディンプル」とは、「それぞれのユニットのディンプルパターンが、互いに鏡面対称である2つの小ユニットからなるもの」との概念で共通する。
そうすると、引用発明2には、上記相違点2に係る構成が示されているといえる。
そして、引用発明1も、引用発明2も、飛距離が大きいゴルフボールを提供することを課題とする点で共通するところ、上記「2 (2)イ」のとおり、ディンプルパターンは飛距離に影響を与えるものであるのであるから、引用発明1のゴルフボールのディンプルのパターンに引用発明2のディンプルのパターンを適用する動機付けがあるものといえ、以て、相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易になし得るものである。

請求人は、「数式(2.5)を満たすゴルフボールが飛行性能に優れる。本願発明は、各引用文献に記載された発明に比べ、有利な効果を奏する。」と主張する。
しかし、上記「1(1)イ」のとおり、引用発明1も本願発明と同じ「ドライバーショットの飛距離が大きく、アプローチショットに対するコントロール性が高いゴルフボールを提供すること」を課題とし、上記「1(1)カ」のとおり、そのドライバー飛距離及びアプローチスピン速度をみても、本願明細書に示された実施例と同等の値が示されているのであるから、本願発明の発明特定事項によって奏される効果も、引用発明1及び引用発明2から、当業者が予測し得る範囲内のものであるといえる。
よって請求人の主張は採用できない。

したがって,本願発明は,引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-11-27 
結審通知日 2020-12-01 
審決日 2020-12-14 
出願番号 特願2015-242977(P2015-242977)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 東 芳隆  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 畑井 順一
藤本 義仁
発明の名称 ゴルフボール  
代理人 特許業務法人 有古特許事務所  

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