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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G03G
管理番号 1371111
審判番号 不服2020-1214  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-29 
確定日 2021-03-02 
事件の表示 特願2015-237385「定着装置および画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月23日出願公開、特開2016-114942、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成27年12月4日(優先権主張 平成26年12月12日)の出願であって、令和1年8月13日付けで拒絶理由が通知され、同年10月18日付けで手続補正書及び意見書が提出され、同月29日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、その謄本は同年11月5日に請求人に送達された。それに対して、令和2年1月29日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、その後当審により同年12月1日付けで拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年12月16日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1ないし請求項12に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明12」という。)は、令和2年12月16日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし請求項12に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
長手方向に延在する複数の加熱手段と、前記加熱手段を内部に収容する筒状の回転体と、を有する画像形成装置の定着装置において、
前記複数の加熱手段のうち一の加熱手段に対する他の加熱手段からの加熱を調整する加熱調整部材が、当該回転体の内周側かつ当該加熱手段間に配置され、
前記加熱調整部材が、前記加熱手段から発生する熱を吸収する、
ことを特徴とする画像形成装置の定着装置。」

なお、本願発明2ないし12の概要は以下のとおりである。

本願発明2ないし10は、本願発明1をさらに減縮した発明である。
本願発明11ないし12は、本願発明1の定着装置を有する画像形成装置の発明である。

第3 引用文献、引用発明等

1.引用文献1について
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用された本願の優先日前である昭和63年6月15日に頒布された刊行物である実願昭61-186616号(実開昭63-92367号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同じ。)。
ア 「(産業上の利用分野)
本考案は複写機の定着装置に関するものである。
(従来の技術)
従来、複写機の定着装置には感光体の転写部でトナー像を転写した用紙を上下一対に設けたヒートローラとプレッシャーローラとの間を通過させて定着させていた。この定着装置に用いるヒートランプは第5図に示すように複数のヒートランプ1,2を配設するのが一般的であった。
(考案が解決しようとする問題点)
しかし、このようなヒートローラ3は前記ヒートランプ1,2間に互いのランプが発する光熱を遮断するものが何も設けられていなかった。
そのためにヒートランプ1,2はランプの直射および照り返しによる光熱で、
(1)ランプの管壁の温度が上昇して歪みが発生する.
(2)また、ヒートローラ2(当審注:第1図及び実施例の記載からみて、「ヒートローラ2」は、「ヒートローラ3」の誤記であると認める。)に供給する熱量は、前記ランプの管壁に吸収される分、減少する.
などの問題があった。
〈問題を解決するための手段および作用)
本考案は上記問題を解決するためになされたもので、ヒートローラ内に内蔵させる複数のヒートランプ間に互いの光熱を反射させるための部材を設け、この部材で互いにランプの直射および照り返しによる光熱をヒートローラの内壁に反射させるようにしたヒートローラを用いる複写機の定着装置を提供することを目的とするものである。」(明細書第1ページ第8行?第2ページ第15行)
イ 「第1図は本考案の定着装置の一実施例を示す側断面図である。
定着装置はヒートローラ3とブレッシャーローラ4とを上下一対に設け、これらの一外周にはそ

この定着装置のヒートローラ3にはヒートランプ1,2間に光熱を反射させるための断面凸レンズ状の反射部材8を設ける。
この反射部材8には主にアルミ箔、またはアルミ板、あるいは反射塗料を塗布した鉄板を用いる。
このように構成した本考案は前記ヒートランプ1,2を点灯させると、その直射および照り返しによる光熱が互いに前記部材8に当たって反射しヒートローラ3の内壁を照射する。
その結果、ヒートランプ2は管壁の温度が前記光熱によって上昇することが減少して歪みを発生させる度合が低くなる。同時に前記部材8で反射させた光熱でヒートローラ3を加熱させるので、その熱効率の向上をはかることができる。
第2図、第3図および第4図は本考案の他の実施例を示し、ヒートランプ1,2および9間に配置する反射部材8を菱形,丸形三角形、並びに三角形にしたものである。」(明細書第2ページ第19行?第4ページ第1行)
ウ 「(考案の効果)
以上説明したように本考案によれば、複数のヒートランプを使用するヒートローラにおいて、ヒートランプの管壁が互いのランプの直射および照り返しによる光熱で歪むことがなくなるのでこのヒートランプの寿命の延長が可能になる。また、前記互いのランプの直射および照り返しによる光熱をヒートローラの加熱に利用できるので熱効率

」(明細書第4ページ第2行?第10行)
エ 「第1図は本考案に係るヒートローラの一実施例を使用したヒートローラ定着装置の断面側面図,第2図,第3図,第4図は本考案のヒートローラの他の実施例を示す側断面図、第5図は従来のヒートローラの側断面図である。」(明細書第4ページ第11行?第15行)
オ 「



(2)引用文献1の記載事項から認定できる事項
ア 上記(1)アの「ヒートローラ内に内蔵させる複数のヒートランプ間に互いの光熱を反射させるための部材を設け、・・・(中略)・・・複写機の定着装置」との記載より、複写機の定着装置は、複数のヒートランプをヒートローラ内に内蔵させて設けていること。
イ 上記(1)ウの「複数のヒートランプを使用するヒートローラにおいて、ヒートランプの管壁が・・・」との記載、及び、上記(1)オの第1図のヒートランプ1,2が断面円形状をしていることが読み取れることより、複数のヒートランプの形状がいずれも管状であることは明らかであること。
ウ 上記(1)の「このように構成した本考案は前記ヒートランプ1,2を点灯させると、その直射および照り返しによる光熱が互いに前記部材8に当たって反射しヒートローラ3の内壁を照射する。その結果、ヒートランプ2は管壁の温度が前記光熱によって上昇することが減少して歪みを発生させる度合が低くなる。」との記載、及び、ヒートランプ1でもヒートランプ2と同様の効果を奏することは自明であるから、複数のヒートランプ(ヒートランプ1,2)を点灯させると、複数のヒートランプのうちの第1のヒートランプ(ヒートランプ1又は2)からの直射および照り返しによる光熱が部材に当たってヒートローラの内壁を照射する結果、複数のヒートランプのうちの第2のヒートランプ(ヒートランプ2又は1)は管壁の温度が前記光熱によって上昇することが減少して歪みを発生させる度合が低くなることは明らかであること。

(3)引用発明1について
上記(1)及び(2)の事項から、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「ヒートローラを用いる複写機の定着装置であって、
ヒートローラとブレッシャーローラとを上下一対に設け、
複数のヒートランプをヒートローラ内に内蔵させて設け、
複数のヒートランプはいずれも管状のヒートランプであり、
複数のヒートランプ間に互いの光熱を反射させるための部材を設け、
複数のヒートランプを点灯させると、複数のヒートランプのうちの第1のヒートランプからの直射および照り返しによる光熱が前記部材に当たって反射しヒートローラの内壁を照射する結果、複数のヒートランプのうちの第2のヒートランプは管壁の温度が前記光熱によって上昇することが減少して歪みを発生させる度合が低くなる、
複写機の定着装置。」

2.引用文献2について
(1)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用された本願の優先日前である平成20年8月28日に頒布された刊行物である特開2008-198548号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。

ア 「【技術分野】
【0001】
この発明はヒーターランプ装置に関する。特に、工業用の加熱装置、例えば、半導体の加熱処理に利用されるヒーターランプを配置したヒーターランプ装置であって、該ヒーターランプの側面に隣接するヒーターランプから直接入射する光によるヒーターランプの寿命バラツキを改善するための機構に特徴をもつヒーターランプ装置に関する。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0014】
この発明が解決しようとする課題は、半導体ウエーハ等を加熱処理する高出力のヒーターランプ装置において、隣接するヒーターランプから放射される光がヒーターランプ内に配置されたフィラメントに直接入射することにより、該フィラメント自身が異常加熱され、該フィラメントが断線し、該ヒーターランプ自身の寿命が短くなることがないヒーターランプを提供することにある。また、装置内に配置された該ヒーターランプの位置による寿命バラツキを低減し、該ヒーターランプ装置としての信頼性の向上と安定化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明のヒーターランプ装置は、発光体がガラス管内部に配置されたヒーターランプを複数本並列配置し、該ヒーターランプから放射される光を被加熱物側に反射する反射ミラーを備え、該ヒーターランプに冷却風を送風する冷却機構を持ったヒーターランプ装置であって、隣接する該ヒーターランプ間に該ヒーターランプの管軸方向に添った遮蔽部材を具備し、該遮光部材は、該ヒーターランプの発光体から放射される光が隣接するヒーターランプの発光体に直接的に入射する直接光を妨げ、且つ、該ヒーターランプの発光体から放射される光が隣接するヒーターランプに該反射ミラーを介して間接的に入射する間接光として通過できる空間を該反射ミラーと該遮光部材との間に設けたことを特徴とする。」
ウ 「【発明の効果】
【0019】
本発明のヒーターランプ装置によれば、該ヒーターランプ間に設けられた遮蔽部材によって、該ヒーターランプに隣接する他のヒーターランプから放射される光が直接入射することなく、発光体(フィラメント)の温度の上昇を抑えることができるといった効果がある。更には、個々のヒーターランプの短寿命化を防ぎ、該ヒーターランプ装置内に配置された各ヒーターランプの位置による寿命のバラツキを低減できる、といった効果がある。」
エ 「【0026】
図2は、本発明のヒーターランプ装置1の第1の実施例であって、直管状のガラスバルブで構成された該ヒーターランプ2の管軸方向に対して直交する方向で切断した断面図である。該ヒーターランプ装置1は、該直管状のガラス管4の内部に発光体3が配置されたヒーターランプ2が、複数本並列配置されており、該ヒーターランプ2から放射される光を被加熱物5側に反射する反射ミラー6を備え、該反射ミラー6の上部には該ヒーターランプ2を冷却するための冷却風を送付する冷却機構7が冷却ノズル8を介して接続されている。また、該冷却機構7には、吸入口9が設けられ、冷却機構7内部の冷却流体、例えばエアー、の圧力を一定値に高め、該冷却ノズル8を介して該ヒーターランプ2のガラス管4を冷却する。冷却に用いたエアー等は排気口10から外部へ排気される。また、該ヒーターランプ装置1には該ヒーターランプ2と該被加熱物5との間を仕切る光透過性の窓12が設けられており、該ヒーターランプ2を冷却する冷却風が被加熱物5周辺に流れ込まないようにしている。更に、被加熱物5は熱処理容器14内に設けられた基板支持機構13上に配置され、該熱処理容器14内の空気を排気機構15から排気し、必要に応じて雰囲気ガス導入孔16から雰囲気ガスを導入する。尚、本実施例において示した冷却風の流し方は、一例であって、この構成に限定されるものでは無い。例えば、10を吸入口、9を排気口とし、吸入口である10から導入された冷却流体が該ヒーターランプ2を冷却したのち、排気口である9から排出される等、種々の構成を取ることができる。
【0027】
該ヒーターランプ装置1に並列配置されたヒーターランプ2間には、ヒーターランプ2の発光体3であるフィラメントに、隣接するヒーターランプ2から放射された光が直接入射するのを妨げる遮光手段として遮蔽部材11を設けている。本実施例における該遮蔽部材11には、リボン状のモリブデン箔であって該ヒーターランプ2に対向する面を研磨処理等により拡散面としている。
【0028】
これにより、該ヒーターランプ2に隣接するヒーターランプから放射される光が直接該ヒーターランプ2の発光体3に入射することがないので、該ヒーターランプ2の発光体3であるフィラメントが異常に加熱され断線することがない。また、該ヒーターランプ2の寿命が短くなるといった不具合も回避できる、といった効果がある。更には、個々のヒーターランプ2の短寿命化を防ぎ、該ヒーターランプ装置1内に配置された各ヒーターランプ2の位置による寿命のバラツキを低減できる、といった効果がある。」
オ 「【0034】
また、図5-c)では、その他の実施例として、該遮蔽部材11cが、該ヒーターランプ2a、または、2bのガラス管4表面に形成された場合を示す。本実施例では、該ヒーターランプ2aのガラス管4表面上であって、該ヒーターランプ2bに対向する側に、該遮蔽部材11cが形成されている。該ヒーターランプ2aに配置された該発光体3aから放射された光は、該遮蔽部材11cによって遮光され、該ヒーターランプ2b側には到達しない。また、該ヒーターランプ2bに配置された該発光体3bから放射され、該ヒーターランプ2a側に直接放射される光は、該遮光部材11c(当審注:「遮光部材11c」は、「遮蔽部材11c」の誤記と認める。以下同じ。)によって遮光されるため、該ヒーターランプ2aに配置された該発光体3aに直接入射することが無い。これにより、該ヒーターランプ2a、または、2b内に配置された発光体3a、または、3bから放射された光が該遮蔽部材11cに遮蔽され、該発光体3a、または、3bを異常に加熱することがない、といった利点がある。また、該ヒーターランプ2aと該ヒーターランプ2bとの間に流す冷却風によって、該遮光部材11c自身も冷却することができるので、該ヒーターランプ2a自身が異常加熱することも無い。尚、本実施例では該遮光部材11cが形成された位置を一方向のみとしたが、該ガラス管4の該発光体3aを挟んで反対側の面(ヒーターランプ2aの図面左側の面)にも同様の遮光部材を設けても良い。」
カ 「【0036】
また、図5-c)で示した該遮蔽部材を構成する材料としては、アルミナとシリカの粉末を有機溶剤(例えば酢酸nブチルとニトロセルロースの混合液)等の中に混ぜて作製した懸濁液をスプレー等で塗布し、焼成したものが挙げられる。該懸濁液を塗布、焼成したもので、該ヒーターランプ2aの表面上に該遮蔽部材を形成できる。尚、該遮光部材としてガラス管上に塗布される材料としては、セラミック系材料や耐高温塗料などであっても良い。これらの材料から形成される該遮蔽部材によれば、該ヒーターランプから放射される光を吸収、または拡散反射することで、該ヒーターランプから放射される光が隣接するヒーターランプの発光体に直接放射されることを防止できる、といった利点がある。」
キ 「【図5】



(2)引用文献2の記載事項から認定できる事項
ア 上記(1)エの【0027】の「該ヒーターランプ装置1に並列配置されたヒーターランプ2間には、ヒーターランプ2の発光体3であるフィラメントに、隣接するヒーターランプ2から放射された光が直接入射するのを妨げる遮光手段として遮蔽部材11を設けている。」との記載、及び、図5-c)には、ヒーターランプ2aとヒーターランプ2bが並列配置されていることが図示されていることからすれば、並列配置されたヒーターランプ間には、一のヒーターランプ(ヒーターランプ2a)の発光体であるフィラメントに、当該一のヒーターランプに隣接する他のヒーターランプ(ヒーターランプ2b)から放射された光が直接入射するのを妨げる遮光手段として遮蔽部材を設けていること。
イ 上記(1)オの【0034】の「また、該ヒーターランプ2bに配置された該発光体3bから放射され、該ヒーターランプ2a側に直接放射される光は、該遮光部材11cによって遮光されるため、該ヒーターランプ2aに配置された該発光体3aに直接入射することが無い。これにより、該ヒーターランプ2a、または、2b内に配置された発光体3a、または、3bから放射された光が該遮蔽部材11cに遮蔽され、該発光体3a、または、3bを異常に加熱することがない、といった利点がある。」との記載、【0036】の「これらの材料から形成される該遮蔽部材によれば、該ヒーターランプから放射される光を吸収、または拡散反射することで、該ヒーターランプから放射される光が隣接するヒーターランプの発光体に直接放射されることを防止できる、といった利点がある。」との記載から、上記aの説示も踏まえると、該遮蔽部材によって、他のヒーターランプから放射される光を吸収することで、当該他のヒーターランプから放射される光が隣接する一のヒーターランプの発光体に直接放射されることを防止でき、当該一のヒーターランプの発光体を異常に加熱することがないものであること。

(3)引用発明2について
上記(1)及び(2)の事項から、引用文献2には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「ヒーターランプ装置であって、
該直管状のガラス管の内部に発光体が配置されたヒーターランプが、複数本並列配置されており、並列配置されたヒーターランプ間には、一のヒーターランプの発光体であるフィラメントに、当該一のヒーターランプに隣接する他のヒーターランプから放射された光が直接入射するのを妨げる遮光手段として遮蔽部材を設けており、
該遮蔽部材によって、他のヒーターランプから放射される光を吸収することで、当該他のヒーターランプから放射される光が隣接する一のヒーターランプの発光体に直接放射されることを防止でき、当該一のヒーターランプの発光体を異常に加熱することがない、
ヒーターランプ装置。」

3.引用文献3について
(1)引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用された本願の優先日前である平成25年9月30日に頒布された刊行物である特開2013-195613号公報(以下、「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている。

ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複写機、プリンタ、ファクシミリ、又は、それらの複合機等の画像形成装置と、そこに設置される定着装置と、に関するものである。」
イ 「【0006】
この発明の請求項1記載の発明にかかる定着装置は、内周面に対向するようにヒータが設置された加熱回転体と、前記加熱回転体、又は、前記加熱回転体に張架されたベルト部材、に圧接して記録媒体が搬送されるニップ部を形成する加圧回転体と、前記ヒータに対向するように前記加熱回転体の前記内周面の側に挿設されるとともに、装置の外部で記録媒体の搬送を案内するガイド部材に対して伝熱可能に接続される伝熱部材と、を備えたものである。」
ウ 「【0021】
次に、図2?図5を用いて、本実施の形態において特徴的な定着装置20の構成・動作について説明する。
図2及び図3を参照して、本実施の形態における定着装置20には、定着ローラ21(加熱回転体)の内部に2つのヒータ22、23が設置されている。」
エ 「【0024】
さらに、本実施の形態における定着装置20には、第2ヒータ23に対向するように定着ローラ21の内周面側に伝熱部材40が挿設されている。この伝熱部材40は、伝熱性の高い金属材料で形成されていて、ガイド板36(定着装置20の外部で記録媒体Pの搬
送を案内するガイド部材であって、本実施の形態では下流側ガイド板36である。)に対して伝熱可能に接続されている。
詳しくは、図3を参照して、伝熱部材40は、その一端側が、通紙可能な最大サイズの記録媒体の非通紙領域に対応する範囲(範囲Mの外側の範囲である。)で第2ヒータ23に対向するように設置されている。また、伝熱部材40は、その中央部が、断熱部材46を介して定着装置20の筐体(不図示である。)に保持されている。さらに、伝熱部材40は、その他端側が、ガイド板36に固設された伝熱中継部材43に対して面接触するように構成されている。
一方、ガイド板36には、伝熱中継部材43が面接触するように設置されていて、いずれの部材36、43も断熱部材47、48を介して画像形成装置本体1の本体側板70(筐体)に固定保持されている。また、ガイド板36と伝熱中継部材43とは、いずれも、伝熱性の高い金属材料で形成されている。」
オ 「【0034】
なお、本実施の形態では、定着部材として定着ローラ21を用いた定着装置に対して本発明を適用した。
これに対して、図7に示すように、定着部材として定着ベルト63を用いた定着装置20に対しても、本発明を適用することができる。詳しくは、定着ベルト63は、2つのヒータ22、23が内設された加熱ローラ61(加熱回転体)と、定着ベルト63を介して加圧ローラ24に圧接してニップ部を形成する定着補助ローラ62と、によって張架・支持されている。定着ベルト63は、基材上に弾性層や定着表面層等が積層された無端状のベルト部材である。このような場合にも、加熱回転体としての加熱ローラ61に内設された2つのヒータ22、23を本実施の形態のものと同様に構成して、第2ヒータ23に対向するように伝熱部材40を設置して、伝熱部材40をガイド板36に伝熱可能に接続することで、本実施の形態のものと同様の効果を得ることができる。」

(2)引用発明3について
上記(1)の事項から、引用文献3には、以下の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。

「画像形成装置に設置される定着装置であって、
2つのヒータ22、23が内設された加熱回転体と、
定着補助ローラ62と、
加熱回転体と定着補助ローラ62とによって張架・支持され、基材上に弾性層や定着表面層等が積層された無端状のベルト部材である定着ベルト63と、
前記加熱回転体に張架された定着ベルト63に圧接して記録媒体が搬送されるニップ部を形成する加圧回転体と、
前記ヒータ23に対向するように前記加熱回転体の前記内周面の側に挿設されるとともに、装置の外部で記録媒体の搬送を案内するガイド部材に対して伝熱可能に接続される伝熱部材と、
を備えた画像形成装置に設置される定着装置。」

第4 対比・判断

1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と、引用発明1とを対比すると、以下のことがいえる。

ア 引用発明1が、複数のヒートランプをヒートローラ内に「内蔵」させて設けているものであり、かつ、ヒートランプからの直射および照り返しによる光熱がヒートローラの「内壁」を照射することから、引用発明1の「ヒートローラ」が内壁を有し、ヒートランプを内蔵しており、かつ、引用発明1の「ヒートローラ」が筒状であることは明らかであるから、引用発明1の「ヒートローラ」は、本願発明1の「筒状の回転体」に相当する。

イ 引用発明1の「ヒートランプ」は、本願発明1の「加熱手段」に相当する。

ウ 引用発明1の「複写機の定着装置」は、「複写機」が画像形成装置の一種であることから、本願発明1の「画像形成装置の定着装置」に相当する。

エ 引用発明1の「ヒートローラ」を「設け」、「複数のヒートランプをヒートローラ内に内蔵させて設け、」との記載から、引用発明1の「複写機の定着装置」は、複数のヒートランプと、複数のヒートランプを内部に収容するヒートローラを有しているのであるから、上記アの説示も踏まえると、引用発明1の「複写機の定着装置」が「ヒートローラ」を「設け」、「複数のヒートランプをヒートローラ内に内蔵させて設け」ていることは、本願発明1の定着装置が「複数の加熱手段」と、「前記加熱手段を内部に収容する筒状の回転体」とを有することに相当する。

オ 引用発明1は「複数のヒートランプ間に互いの光熱を反射させるための部材を設け、複数のヒートランプを点灯させると、複数のヒートランプのうちの第1のヒートランプからの直射および照り返しによる光熱が前記部材に当たって反射しヒートローラの内壁を照射する結果、複数のヒートランプのうちの第2のヒートランプは管壁の温度が前記光熱によって上昇することが減少して歪みを発生させる度合が低くなる」と特定されていることから、引用発明1の当該「部材」は、第1のヒートランプからの光熱による第2のヒートランプの管壁の温度上昇が減少するという作用を奏するものであって、一のヒートランプに対する他のヒートランプからの光熱による加熱を調整するものといえる。
してみると、引用発明1の「複数のヒートランプ間に互いの光熱を反射させるための部材」は、上記イの説示も踏まえると、本願発明1の「前記複数の加熱手段のうち一の加熱手段に対する他の加熱手段からの加熱を調整する加熱調整部材」に相当する。

カ 引用発明1の「複数のヒートランプ間に互いの光熱を反射させるための部材を設け、」について、当該「部材」は、ヒートローラ内に内蔵された複数のヒートランプ間に設けられることから、複数のヒートランプ同様、ヒートローラ内に内蔵されていることは明らかである。
してみると、当該「部材」は、ヒートローラの内周側かつ複数のヒートランプ間に配置されていると認められるから、上記アの説示も踏まえると、引用発明1の「複数のヒートランプ間に互いの光熱を反射させるための部材を設け、」は、本願発明1の「加熱調整部材が、当該回転体の内周側かつ当該加熱手段間に配置され、」に相当する。

キ 上記アないしカから、本願発明1と引用発明1とは、以下の点で一致する。

[一致点]
「複数の加熱手段と、前記加熱手段を内部に収容する筒状の回転体と、を有する画像形成装置の定着装置において、
前記複数の加熱手段のうち一の加熱手段に対する他の加熱手段からの加熱を調整する加熱調整部材が、当該回転体の内周側かつ当該加熱手段間に配置される、
ことを特徴とする画像形成装置の定着装置。」

ク そして、本願発明1と引用発明1とは、以下の点で相違する。

[相違点1]
本願発明1は、複数の加熱手段が、「長手方向に延在する」のに対して、引用発明1は、複数の管状のヒートランプが、長手方向に延在するのか否かが明らかでない点

[相違点2]
本願発明1は、加熱手段間に配置された加熱調整部材が、「加熱手段から発生する熱を吸収する」のに対して、引用発明1は、複数のヒートランプ間に設けられた互いの光熱を反射させるための部材が、複数のヒートランプのうちの第1のヒートランプからの直射および照り返しによる光熱を反射する点

(2)相違点についての判断
上記各相違点について以下検討する。
ア [相違点1]について
本願発明1の「長手方向」は、明細書の【0011】及び【0013】の記載を参酌すれば、加熱ローラの回転軸方向であると解することができる。
そして、引用文献1の(従来の技術)にも記載されているように、複写機の定着装置は、感光体の転写部でトナー像を転写した用紙を上下一対に設けたヒートローラとプレッシャーローラとの間を通過させて定着させるためのものであって、複写機の定着装置における技術常識を勘案すれば、通常、ヒートローラとプレッシャーローラは、回転中心となる軸、すなわち、第1図に示す断面側面図における紙面に垂直な方向(以下、「回転軸方向」という。)の軸を有することは明らかである。また、ヒートローラとプレッシャーローラの回転軸方向の長さは、用紙に対してトナー像の定着を行う以上、ヒートローラとプレッシャーローラとの間を通過する用紙の幅よりも大きくする必要があり、かつ、定着のために、ヒートローラとプレッシャーローラの回転軸方向の長さ全域にわたって加熱する必要があることは、複写機の技術分野における当業者にとっての技術常識である。
このような技術常識を踏まえれば、引用発明における管状の「ヒートランプ」は、ヒートローラの回転軸方向、すなわち、本願発明1の「長手方向」に延在して設けられていると認められることから、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項は、実質的な相違点とは言えないか、少なくとも、引用発明1において、相違点1のように構成することは、当業者が上記技術常識を踏まえて適宜なし得ることであって、格別なことではない。

イ [相違点2]について
(ア)本願発明1と引用発明2の対比
a 引用発明2の「ヒーターランプ」は、本願発明1の「加熱手段」に相当する。

b 引用発明2は、「該遮蔽部材によって、他のヒーターランプから放射される光を吸収することで、当該他のヒーターランプから放射される光が隣接する一のヒーターランプの発光体に直接放射されることを防止でき、当該一のヒーターランプの発光体を異常に加熱することがない」という作用を奏することから、当該「遮蔽部材」は、一のヒーターランプに対する他のヒーターランプからの加熱を「調整」するものと認められる。
してみると、上記aの説示も踏まえれば、引用発明2の「遮蔽部材」は、本願発明1の「前記複数の加熱手段のうち一の加熱手段に対する他の加熱手段からの加熱を調整する加熱調整部材」に相当する。

c 引用発明2における「並列配置されたヒーターランプ間には、一のヒーターランプの発光体であるフィラメントに、当該一のヒーターランプに隣接する他のヒーターランプから放射された光が直接入射するのを妨げる遮光手段として遮蔽部材を設けており、」は、遮蔽部材が、ヒーターランプ間に設けられていることを特定していることから、上記a及びbの説示も踏まえれば、本願発明1の「加熱調整部材」が、「当該加熱手段間に配置され」ることに相当する。

d 引用発明2の「該遮蔽部材によって、他のヒーターランプから放射される光を吸収することで、当該他のヒーターランプから放射される光が隣接する一のヒーターランプの発光体に直接放射されることを防止でき、当該一のヒーターランプの発光体を異常に加熱することがない」との記載から、引用発明2において、他のヒーターランプから放射される光は、一のヒーターランプの発光体を加熱するための光熱であり、かつ、「他のヒーターランプ」が、複数本の「ヒーターランプ」のうちの少なくとも一部の「ヒーターランプ」であることは明らかであるから、上記a及びbの説示も踏まえれば、引用発明2の「該遮蔽部材によって、他のヒーターランプから放射される光を吸収する」は、本願発明1の「前記加熱調整部材が、前記加熱手段から発生する熱を吸収する」に相当する。

e 上記a?dより、引用発明2には、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を含む、本願発明1の「複数の加熱手段のうち一の加熱手段に対する他の加熱手段からの加熱を調整する加熱調整部材」が、「当該加熱手段間に配置され、前記加熱調整部材が、前記加熱手段から発生する熱を吸収する、」という事項が示されているといえる。

(イ)引用発明1と引用発明2に基づく本願発明1の容易想到性についての判断
a 引用発明2は、上記第3の2.(1)カに記載のとおり、遮蔽部材によって、他のヒーターランプから放射される光を吸収するものであることから、他のヒーターランプから放射される光の反射効率は低下し、ひいては、ヒーターランプによる熱効率も低下することは当業者にとって明らかである。
そして、引用発明1は、上記第3の1.(1)イ及びウに記載のとおり、複数のヒートランプ間に設けられた互いの光熱を反射させるための部材によって、熱効率の向上という効果を奏するものであるところ、引用発明1において、複数のヒートランプ間に設けられ、互いの光熱を反射させるための部材に、引用発明2の「遮蔽部材」を適用すると、熱効率の向上という効果が得られなくなってしまうことから、引用発明1において、複数のヒートランプ間に設けられ、互いの光熱を反射させるための部材を、複数のヒーターランプ間に設けられ、隣接するヒーターランプからの熱を吸収する引用発明2の「遮蔽部材」に置換することには阻害要因があるといえる。

b よって、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項は、当業者であっても引用発明1及び引用発明2に基づいて容易に想到し得たことであるとはいえない。

(ウ)引用発明1、引用発明2及び引用発明3に基づく本願発明1の容易想到性についての判断
a 引用発明3の「2つのヒータ22、23」、「加熱回転体」は、2つのヒータ22、23が加熱回転体に内設されていることから、それぞれ本願発明1の「複数の加熱手段」、「回転体」に相当する。

b しかしながら、引用発明3の「伝熱部材」は、装置の外部で記録媒体の搬送を案内するガイド部材に対して伝熱可能に接続されるものであるから、2つのヒータ22、23からの熱を吸収する作用を奏するものであるが、当該伝熱部材は、2つのヒータ22、23の間に挿設されているものではないので、本願発明1の「加熱手段間に配置され」た「加熱調整部材」には相当しない。
なお、仮に、引用発明3の「伝熱部材」が、本願発明1の「加熱手段間に配置され」た「加熱調整部材」に相当するとしても、引用発明3の「伝熱部材」は、2つのヒータ22、23からの熱を吸収する作用を奏するものであるから、上記(イ)aで検討したのと同様の理由により、引用発明1において、複数のヒートランプ間に設けられ、互いの光熱を反射させるための部材を、引用発明3の「伝熱部材」に置換することには阻害要因があるといえる。

c よって、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項は、当業者であっても引用発明1、引用発明2及び引用発明3に基づいて容易に想到し得たことであるとはいえない。

(3)小括
したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1、引用発明2及び引用発明3に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明2ないし12について
本願発明2ないし12も、本願発明1の上記相違点2に係る発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1、引用発明2及び引用発明3に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断

1.原査定の概要
原査定は、令和1年10月18日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1-8、10-12に係る発明について、上記引用文献1及び引用文献2に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとともに、同日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項9に係る発明について、上記引用文献1、引用文献2及び引用文献3に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

2.原査定についての判断
しかしながら、令和2年12月16日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1-12に係る発明は、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項である、「加熱手段間に配置され」た加熱調整部材が、「加熱手段から発生する熱を吸収する」という構成を有するものであるから、上記第4の1.(2)イで説示した理由により、当業者であっても、引用文献1、引用文献2及び引用文献3に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由通知について

1.特許法第36条第6項第1号について
当審では、令和2年1月29日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1-10に係る発明は、いかなる技術分野における「定着装置」であるのかについて何ら特定されていないため、画像形成装置の定着装置において、定着ベルトないし定着ローラから奪われる熱量がより増加する場合に対応して、加熱ローラ内に複数の加熱手段を配置して定着ベルトないし定着ローラの温度を維持することを前提とし、そのようにして複数の加熱手段を配置した場合における熱による加熱手段の劣化を抑えるという本願発明が解決しようとする課題を解決し得る範囲を超えて請求するものであるから、発明の詳細な説明に記載したものでないとの拒絶の理由を通知している。
これに対して、令和2年12月16日付け手続補正書による手続補正により、本願発明1ないし10が「画像形成装置の定着装置」であることが特定されたため、この拒絶の理由は解消した。

2.特許法第36条第6項第2号について
当審では、令和2年1月29日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1-12に係る発明は、加熱調整部材が他の加熱手段からではない一の加熱手段から発生する熱を吸収しない構成も包含されるところ、複数の加熱手段のうちのある加熱手段が、一の加熱手段となるか他の加熱手段となるかは相対的なものである以上、加熱調整部材は、他の加熱手段からの熱だけでなく、一の加熱手段から発生する熱も吸収することは明らかであるから、加熱調整部材が他の加熱手段からではない一の加熱手段から発生する熱を吸収しない構成も包含される「前記加熱調整部材が、前記他の加熱手段から発生する熱を吸収する」という記載と技術的に整合しないものであるため、明確でないとの拒絶の理由を通知している。
これに対して、令和2年12月16日付け手続補正書による手続補正により、本願発明1ないし12において、「前記加熱調整部材が、前記加熱手段から発生する熱を吸収する」ことが特定され、技術的に整合することとなったため、この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび

以上のとおり、本願発明1ないし12は、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-02-09 
出願番号 特願2015-237385(P2015-237385)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G03G)
P 1 8・ 537- WY (G03G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 三橋 健二  
特許庁審判長 藤本 義仁
特許庁審判官 吉村 尚
古川 直樹
発明の名称 定着装置および画像形成装置  
代理人 瀧野 文雄  

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