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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61B |
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管理番号 | 1371128 |
審判番号 | 不服2020-2625 |
総通号数 | 256 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-04-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-02-27 |
確定日 | 2021-02-09 |
事件の表示 | 特願2016-556995「血糖緊急度を決定するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月15日国際公開、WO2015/156965、平成29年 6月15日国内公表、特表2017-515520〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2015年(平成27年)3月16日(パリ条約による優先権主張 2014年4月10日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成30年3月16日に手続補正がなされ、平成31年2月25日付けで拒絶理由が通知されたが、指定した期間内に応答がなかったため令和元年10月23日付けで拒絶査定されたところ、令和2年2月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。 第2 令和2年2月27日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和2年2月27日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1?17の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。) 「【請求項1】 電子デバイス上で、各ステップを実行するアプリケーションを実行するプロセッサによって実行される、生理的状態に関連する使用者の緊急状態を決定する方法であって、前記方法は、 a.生理的状態に関連する第1の種類のデータを受信するステップと、 b.前記生理的状態に関連する第2の種類のデータを計算するステップであって、前記第2の種類のデータは、前記第1の種類のデータから得られる、ステップと、 c.前記生理的状態に関連する第3の種類のデータを受信するステップと、 d.前記第1の種類、第2の種類、及び第3の種類の前記受信されたデータに少なくとも基づいて緊急度指数を決定するステップと、 e.モバイルデバイス上に前記決定された緊急度指数の表示を提供するステップと、を含む、方法。 【請求項2】 前記生理的状態は、糖尿病であり、前記緊急度指数は、血糖緊急度指数であり、前記第1の種類のデータは、グルコース濃度である、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記グルコース濃度は、現在の測定されたグルコース濃度、過去に測定されたグルコース濃度、または未来の予測されるグルコース濃度である、請求項2に記載の方法。 【請求項4】 前記第1の種類のデータから得られる前記第2の種類のデータは、前記第1の種類のデータの時間に関する第1の導関数または第2の導関数である、請求項3に記載の方法。 【請求項5】 前記第1の種類のデータから得られる前記第2の種類のデータには、正常グルコースパターンからの偏差、経時的グルコース値のパターンデータ、予測されるグルコース値、グルコース値が規定の範囲内にある持続時間、前記緊急度指数の決定で考慮されるパラメータもしくは変数の重み付け、または前記第1の種類のデータの極大値もしくは極小値が含まれる、請求項3に記載の方法。 【請求項6】 前記第3の種類のデータを前記受信するステップには、使用者によって入力されたデータを受信するステップが含まれる、請求項2?5のいずれかに記載の方法。 【請求項7】 前記受信するステップには、モバイルデバイスのユーザーインターフェース上で使用者によって入力されたデータを受信するステップが含まれる、請求項6に記載の方法。 【請求項8】 前記生理的状態は、糖尿病であり、前記緊急度指数は、血糖緊急度指数であり、前記第1の種類のデータは、グルコース濃度であり、前記使用者によって入力された受信されたデータには、使用者の体重、前記使用者の活動レベル、前記使用者によって摂取されたかもしくは摂取される食品または飲料、身体計測データ、前記使用者に提供された前のインスリンに関するデータ、ストレスデータ、健康データ、前記第1の種類のデータを測定するセンサの配置に関するデータ、年齢、あるいは性別が含まれる、請求項6または7に記載の方法。 【請求項9】 前記使用者によって入力された受信されたデータには、前記使用者によって摂取されたかもしくは摂取される食品または飲料、あるいは前記使用者に提供されたかもしくは前記使用者に提供される、前のインスリンに関するデータが含まれ、前記方法は前記受信されたデータに基づいて前記血糖緊急度指数がより低い緊急性であると決定するステップをさらに含む、請求項6、7、または8に記載の方法。 【請求項10】 前記第3の種類のデータを前記受信するステップには、センサからデータを受信するステップが含まれる、請求項1?9のいずれかに記載の方法。 【請求項11】 前記生理的状態は、糖尿病であり、前記緊急度指数は、血糖緊急度指数であり、前記第1の種類のデータは、グルコース濃度であり、前記センサには、血糖計、体温計、加速度計、カメラ、GPSデバイス、またはマイクのうちの少なくとも1つが含まれる、請求項10に記載の方法。 【請求項12】 前記受信された第3の種類のデータには、使用者の体重、前記使用者の活動レベル、摂取されたかもしくは摂取される食品または飲料の表示、身体計測データ、前記使用者に提供された前のインスリンに関するデータ、生理的データ、ストレスデータ、または健康データが含まれる、請求項11に記載の方法。 【請求項13】 前記第3の種類のデータを前記受信するステップには、連続グルコース監視アプリケーションに含まれる照会処理エンジン、前記使用者と対話するように構成された電子デバイス、または電子使用者記録からのデータを受信するステップが含まれる、請求項1?12のいずれかに記載の方法。 【請求項14】 前記第3の種類のデータは、前記モバイルデバイスから受信され、アプリケーションと使用者との対話のレベルに対応し、前記表示はアプリケーションを通して提供される、請求項1?13のいずれかに記載の方法。 【請求項15】 前記緊急度指数がそれぞれ規定の警告閾値または警報閾値に達した場合、警告または警報を提供するステップをさらに含む、請求項1?14のいずれかに記載の方法。 【請求項16】 前記緊急度指数は、血糖指数であり、前記規定の警告閾値または警報閾値は、前記使用者が低血糖状態または高血糖状態にあることを示す、請求項15に記載の方法。 【請求項17】 前記受信された入力に基づいて追加の詳細な情報を提供するステップをさらに含む、請求項1?16のいずれかに記載の方法。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の、平成30年3月16日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?19の記載は次のとおりである。 「【請求項1】 生理的状態に関連する使用者の緊急状態を評価する方法であって、 a.生理的状態に関連する第1の種類のデータを受信するための手段と、 b.前記生理的状態に関連する第2の種類のデータを計算するための手段と、 c.前記生理的状態に関連する第3の種類のデータを受信するための手段と、 d.前記第1の種類、第2の種類、及び第3の種類の前記受信されたデータに少なくとも基づいて緊急度指数を決定するための手段と、 e.モバイルデバイス上に前記決定された緊急度指数の表示を提供するための手段と、を含む、方法。 【請求項2】 前記生理的状態は、糖尿病であり、前記緊急度指数は、血糖緊急度指数であり、前記第1の種類のデータは、グルコース濃度である、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記グルコース濃度は、現在の測定されたグルコース濃度、過去に測定されたグルコース濃度、または未来の予測されるグルコース濃度である、請求項2に記載の方法。 【請求項4】 前記第2の種類のデータは、前記第1の種類のデータから得られる、請求項1、2、または3に記載の方法。 【請求項5】 前記第1の種類のデータから得られる前記第2の種類のデータは、前記第1の種類のデータの時間に関する第1の導関数または第2の導関数である、請求項4に記載の方法。 【請求項6】 前記第1の種類のデータから得られる前記第2の種類のデータには、正常グルコースパターンからの偏差、経時的グルコース値のパターンデータ、予測されるグルコース値、グルコース値が規定の範囲内にある持続時間、前記緊急度指数の決定で考慮されるパラメータもしくは変数の重み付け、または前記第1の種類のデータの極大値もしくは極小値が含まれる、請求項4に記載の方法。 【請求項7】 前記第3の種類のデータを前記受信するための手段には、使用者によって入力されたデータを受信するための手段が含まれる、請求項1?6のいずれかに記載の方法。 【請求項8】 前記受信するための手段には、モバイルデバイスのユーザーインターフェース上で使用者によって入力されたデータを受信するための手段が含まれる、請求項7に記載の方法。 【請求項9】 前記生理的状態は、糖尿病であり、前記緊急度指数は、血糖緊急度指数であり、前記第1の種類のデータは、グルコース濃度であり、前記使用者によって入力された受信されたデータには、使用者の体重、活動レベルの使用者表示、摂取されたかもしくは摂取される食品または飲料の使用者表示、身体計測データ、前記使用者に提供された前のインスリンに関するデータ、ストレスデータ、健康データ、前記第1の種類のデータを測定するセンサの配置に関するデータ、年齢、あるいは性別が含まれる、請求項7または8に記載の方法。 【請求項10】 前記使用者によって入力された受信されたデータには、摂取されたかもしくは摂取される食品または飲料の使用者表示、あるいは前記使用者に提供されたかもしくは前記使用者に提供される前のインスリンに関するデータが含まれ、前記方法は前記受信されたデータに基づいて前記血糖緊急度指数がより低い緊急性であると決定するための手段をさらに含む、請求項7、8、または9に記載の方法。 【請求項11】 前記第3の種類のデータを前記受信する手段には、センサからデータを受信するための手段が含まれる、請求項1?10のいずれかに記載の方法。 【請求項12】 前記生理的状態は、糖尿病であり、前記緊急度指数は、血糖緊急度指数であり、前記第1の種類のデータは、グルコース濃度であり、前記センサには、目盛り、血糖計、体温計、加速度計、カメラ、GPSデバイス、またはマイクのうちの少なくとも1つが含まれる、請求項11に記載の方法。 【請求項13】 前記受信された第3の種類のデータには、使用者の体重、活動レベルの使用者表示、摂取されたかもしくは摂取される食品または飲料の表示、身体計測データ、前記使用者に提供された前のインスリンに関するデータ、生理的データ、ストレスデータ、または健康データが含まれる、請求項12に記載の方法。 【請求項14】 前記第3の種類のデータを前記受信する手段には、照会処理エンジン、機械が機械対話するように構成された電子デバイス、または電子使用者記録からのデータを受信するための手段が含まれる、請求項1?13のいずれかに記載の方法。 【請求項15】 前記第3の種類のデータは、前記モバイルデバイスから受信され、アプリケーションとの使用者対話のレベルに対応し、前記表示はアプリケーションを通して提供される、請求項1?14のいずれかに記載の方法。 【請求項16】 前記緊急度指数がそれぞれ規定の警告閾値または警報閾値に達した場合、警告または警報を提供するための手段をさらに含む、請求項1?15のいずれかに記載の方法。 【請求項17】 前記緊急度指数は、血糖指数であり、前記規定の警告閾値または警報閾値は、前記使用者が低血糖状態または高血糖状態にあることを示す、請求項16に記載の方法。 【請求項18】 前記生理的状態は、肥満、栄養失調、活動過多、鬱、または多産のうちの1つまたは複数を含む、請求項1に記載の方法。 【請求項19】 前記受信された入力に基づいて高度な出力を提供するための手段をさらに含む、請求項1?18のいずれかに記載の方法。」 2 補正の適否 本件補正は、補正前の請求項1における「b.前記生理的状態に関連する第2の種類のデータを計算する」という構成に「前記第2の種類のデータは、前記第1の種類のデータから得られる」という限定を付加するものを含む補正であって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)特許法36条4項1号に規定する要件について ア 発明の詳細な説明の記載 本願の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。 (本a) 「【背景技術】 【0003】 真性糖尿病は、膵臓が十分なインスリンを生成することができない(I型またはインスリン依存型)及び/またはインスリンが有効ではない(II型または非インスリン依存型)障害である。糖尿病の状態において、被害者は高血糖を患い、これは小さな血管の劣化に関連する数々の生理的障害、例えば、腎不全、皮膚潰瘍、または目の硝子体液内への出血を生じ得る。低血糖(hypoglycemic)反応(低血糖(low blood sugar))は、インスリンの不用意な過量摂取によってか、または並外れた運動または不十分な食品摂取を伴うインスリンまたはグルコース低下剤の通常投与後に誘発され得る。 【0004】 慣用的には、糖尿病を有する人は、自己監視型血糖(SMBG)モニタを携行し、これは一般的に不快な指穿刺法を必要とする。快適性及び便宜性を欠いていることに起因して、糖尿病を有する人は、通常その人のグルコースレベルを1日に2?4回だけ測定する。残念ながら、そのような時間間隔は、糖尿病を有する人が、高血糖状態または低血糖状態の発見が手遅れになる可能性が高いほどに大きく離れており、時に危険な副作用を被る。糖尿病を有する人が遅れずに危険な状態に気付いて、その状態に対処する可能性が低いだけでなく、糖尿病を有する人は、従来の方法に基づいてその人の血糖値が上昇している(より高い)のか、または下降している(より低い)のかも理解しない可能性が高い。したがって、糖尿病患者が知識に基づいたインスリン治療決定を下すことを妨げられ得る。 【0005】 一部の糖尿病患者が彼らの血糖を監視するために使用していた別のデバイスは、連続分析物センサ、例えば、連続グルコース監視(CGM)である。CGMは典型的に侵襲的にか、低侵襲的にか、または非侵襲的に配置されるセンサを含む。センサは、体内の所与の分析物、例えば、グルコースを測定し、センサに関連する電子装置によって生成される生信号を生成する。生信号は、表示装置上に表示される出力値へと変換される。生信号の変換の結果得られた出力値は一般的に、使用者に意味のある情報を提供する形態、及びmg/dLで表された血糖等の、使用者が分析についてよく理解する形態で表される。」 (本b) 「【発明の概要】 ・・・ 【0007】 血糖緊急度指数(GUI)の決定及び/または計算で多数の変数またはパラメータを用いるシステム及び方法が開示され、これは測定された血糖値に一部基づき得これは、一般に他の要因の考慮を含む。他の要因には、時間に関する血糖値の第1の導関数及び/もしくは第2の導関数、ならびに/または後に記載される他の要因、例えば、使用者が入力したデータ、他のセンサによって測定されたか、もしくはネットワークソースから受信されたデータ、または過去のデータが含まれ得る。次いで、GUIが例えば、スマートフォン等のモバイルデバイス上に、例えば背景色または他の人目につかない通知手段を介して、興味を起こさせる手段で使用者に提示される。このように、GUIが、(表示画面がオンであるか、またはさもなければ起動されたときはいつでも)使用者に連続的に提示され得る。GUIはまた、使用者に対して電子デバイス上に処置可能な警告及び警報(または他の出力)を作動させるのにも用いられ得る。GUI、または記載される変数及びパラメータの組み合わせから計算される別の指数は、ポンプ等の薬物送達デバイスを駆動させるためにも用いられ得る。一般に、所与のGUIは概して所与の使用者に対して、同じ通知(または処置可能な警告)をもたらすが、電流感度、使用者が彼らの電子デバイスをどのように構成しているか、使用者がデバイスに許可しているモード等に応じて、使用者は通知手段または警告における変形を目にするであろう。 【0008】 さらに詳しくは、第1の種類のデータは、生理的状態に関連して受信され得る。例えば、糖尿病を有する患者のGUIと機能的な関係にあるグルコース濃度が、測定され得る。次いで、第2の種類のデータが受信され得るか、または場合によっては例えば第1の種類のデータの時間的変化率が計算され得る。糖尿病管理の場合、第2の種類のデータは、グルコース濃度の変化率(すなわち、濃度が上昇しているかまたは下降しているか、及びどれくらい早く)であり得る。第2の種類のデータは、グルコース濃度の加速度でもあり得、例えば、これはグルコース濃度における好転を示し得る。時間的変化率に加えて、第2の種類のデータには、パターンデータ、正常グルコースパターンからの偏差、予測されるグルコース値、グルコース値(もしくはその時間的変化率)が規定の範囲内にある持続時間、または極大値もしくは極小値等も含まれ得る。第1の種類のデータと同様に、第2の種類のデータは、GUIと機能的な関係にある。例えば、幾つかの事例では第2の種類のデータが第1の種類のデータから得られるか、または計算される一方で、第2の種類のデータは、従属変数、すなわちGUIの決定に影響を与える独立変数である。 【0009】 第3の種類のデータも、受信され得、これらは、そこから得られた分析物濃度及びパラメータに加えて、他の要素に対応する。例えば、使用者によって入力されたデータは、第3の種類のデータであり得、例えば、データは、健康、運動、食事データ、薬物注入データ、または多数の他の入力に対応する。場合によっては、第3の種類のデータは、別のデバイス、例えば、GPSまたはモバイルデバイス上で実行している使用者によって行われた運動を示し得る運動アプリケーションから受信され得る。他のアプリケーションが、食事摂取等を監視するために用いられ得る。自動薬物送達デバイスは、例えば、GUIの決定における考慮のためのインスリンポンプ操作を示すために、システムとも連動され得る。同様に、GUIは、ポンプ操作に影響を与えることができる。第1の及び第2の種類のデータと同様に、第3の種類のデータは、GUIと機能的な関係にある。具体的には、第3の種類のデータは、(それが、パラメータ及び変数自体が幾らか相互関係があり得るパラメータ及び変数を特徴とし得ることに留意されるが)一般に従属変数、すなわち、GUIの決定に影響を与える独立変数である。 ・・・ 【0029】 糖尿病に加えて、生理的状態は、肥満、栄養失調、活動過多、鬱、または生殖能力のうちの1つ以上も含み得る。 ・・・ 【0073】 記載される機能の理解を容易にするために、連続グルコース監視が、続く説明の一部として使用される。記載されるシステム及び方法が、他の連続監視システムにも適用可能であることが理解されよう。例えば、論じられる機能は、乳酸塩、遊離脂肪酸、運動中の心拍数、IgG-抗グリアジン、インスリン、グルカゴン、運動追跡、生殖能力、カロリー摂取量、水分補給、塩分濃度、汗/発汗(ストレス)、ケトン、アディパネクチン、トロポニン、発汗、及び/または体温の連続監視に使用され得る。グルコース監視が例として使用される場合、状態を監視するこれらの代替例のうちの1つ以上は、置換され得る。したがって、GUIが上に記載されている一方で、類似のシステムにおいて、ラクトース緊急度指数、ケトン緊急度指数等が定義され得る。」 イ 判断 発明の詳細な説明において具体的に記載されているのは、グルコース濃度を第1の種類のデータ、そのデータから得られるデータを第2の種類のデータとし、糖尿病を生理的状態とした血糖緊急度指数を決定して表示するという構成である。 一方、本件補正発明は、「生理的状態に関連する使用者の緊急状態を評価する方法」であって、「生理的状態」が何であるのかが、及び、「第1の種類のデータ」が何であるのかが特定されていない。この点に関し、本願の明細書の発明の詳細な説明の段落【0029】には「生理的状態」について、「糖尿病に加えて、生理的状態は、肥満、栄養失調、活動過多、鬱、または生殖能力のうちの1つ以上も含み得る。」と記載されているが、生理的状態を糖尿病以外の生理的状態(肥満、栄養失調、活動過多、鬱、または生殖能力など)とした場合について、何を「第1の種類のデータ」、「第2の種類のデータ」、「第3の種類のデータ」とし、如何にして緊急度指数を決定するのかに関する具体的な記載はない。ここで、段落【0073】にはグルコース以外の監視対象や、GUI(血糖緊急度指数)に代わる緊急度指数が挙げられているが、あくまで監視対象や緊急度指数が列挙されているにすぎず、生理的状態を糖尿病以外の生理的状態(肥満、栄養失調、活動過多、鬱、または生殖能力など)とした場合について、何を「第1の種類のデータ」、「第2の種類のデータ」、「第3の種類のデータ」とし、如何にして緊急度指数を決定するのかにに関する具体的な記載は、当該段落にも、また、他の段落においても認められない。 そして、生理的状態が糖尿病である場合におけるグルコース濃度を用いた生理的状態に関連する使用者の緊急状態を評価する方法が、生理的状態が肥満、栄養失調、活動過多、鬱、または生殖能力などの場合においても応用できるといった技術常識は、当該技術分野において認められないから、本件補正発明のうち、「生理的状態」が糖尿病であり、「第1の種類のデータ」がグルコース濃度であるもの以外について、本願の発明の詳細な説明は、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 ウ 請求人の主張 請求人は、令和2年3月3日付けの手続補正書(方式)の【本願発明が特許されるべき理由】において、実施可能要件について以下の様に主張している。 「・理由3(実施可能要件) 審査官殿は、請求項1に記載の「生理的状態」が、従前の請求項18に記載の「肥満、栄養失調、活動過多、鬱、または多産」である場合に、何を第1?3のデータとして緊急度指数を決定するのかについて、具体的な記載が無いと認定されました。 従前の請求項18は削除致しました。」 しかし、請求項1を引用する請求項18を削除しても、本件補正発明において「生理的状態」が何であるのか、及び、「第1の種類のデータ」が何であるのかが特定されていないことに変わりはないから、上記主張は参酌できない。 エ 小括 以上のとおり、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法36条4項1号の規定する要件を満たしていないことから、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正についてのむすび よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和2年2月27日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年3月16日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2の[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、本件出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない、という下記の理由を含むものである。 「請求項1では、『生理的状態』が何であるのか、特定されておらず、請求項1を引用する請求項18には、『前記生理的状態は、肥満、栄養失調、活動過多、鬱、または多産のうちの1つまたは複数を含む』ことが特定されているが、発明の詳細な説明には、グルコース濃度を第1の種類のデータ、そのデータから得られるデータを第2の種類のデータとし、糖尿病を生理的状態とした血糖緊急度指数を決定して表示することについては、具体的な記載があるものの、生理的状態を糖尿病以外の生理的状態(肥満、栄養失調、活動過多、鬱、または多産等)とした場合については、何を『第1の種類のデータ』、『第2の種類のデータ』、『第3の種類のデータ』とし、如何にして緊急度指数を決定するのかについて、具体的な記載が何もない。そして、糖尿病におけるグルコース濃度を用いた評価手法が、肥満、栄養失調、活動過多、鬱、または多産といった生理的状態にそのまま適用できることは技術常識でもない。 よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1,・・・に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」 3 判断 本願発明では、本件補正発明と同様に、「生理的状態」が何であるのか、及び、「第1の種類のデータ」が何であるのかがが特定されていない。 そうすると、本件補正発明について、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおり、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないのであるから、本願発明についても、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 第4 補正案について なお、請求人は令和2年9月4日付けの上申書において、請求項1に係る発明を以下に記載されるものに補正する補正案を提示している。 「[請求項1] 電子デバイス上で、各ステップを実行するアプリケーションを実行するプロセッサによって実行される、生理的状態に関連する使用者の緊急状態を決定する方法であって、前記方法は、 a.生理的状態に関連する第1の種類のデータを受信するステップと、 b.前記生理的状態に関連する第2の種類のデータを計算するステップであって、前記第2の種類のデータは、前記第1の種類のデータから得られる、ステップと、 c.前記生理的状態に関連する第3の種類のデータを受信するステップと、 d.前記第1の種類、第2の種類、及び第3の種類の前記受信されたデータに少なくとも基づいて緊急度指数を決定するステップと、 e.モバイルデバイス上に前記決定された緊急度指数の表示を提供するステップと、を含む、方法であって、 前記生理的状態は、糖尿病である、方法。」 念のため、上記補正案についても検討する。 上記補正案により、「生理的状態」が糖尿病であることが特定され、その結果「生理的状態に関連する第1の種類のデータ」は「糖尿病に関連する」ものであることも特定される。しかし、「第1の種類のデータ」が具体的にどのデータであるかは依然として特定されていない。 そして、前記第2の[理由]2(2)イにおいて指摘したように、発明の詳細な説明において具体的に記載されているのは、グルコース濃度を第1の種類のデータ、そのデータから得られるデータを第2の種類のデータとし、糖尿病を生理的状態とした血糖緊急度指数を決定して表示するという構成である。 そうすると、「糖尿病に関連する」「第1の種類のデータ」としてはグルコース濃度以外にも様々なデータがあり得るところ、本願の発明の詳細な説明は、グルコース濃度以外の「第1の種類のデータ」、「第1の種類のデータから得られる」「第2の種類のデータ」、及び、「第3の種類のデータ」に基づいて、糖尿病に関連する緊急度指数を決定することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。 そのため、本願の発明の詳細な説明は、当業者が上記補正案による請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 第5 むすび 以上のとおり、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法36条4項1号の規定する要件を満たしておらず、本願発明は特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2020-09-11 |
結審通知日 | 2020-09-14 |
審決日 | 2020-09-25 |
出願番号 | 特願2016-556995(P2016-556995) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
Z
(A61B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 門田 宏 |
特許庁審判長 |
福島 浩司 |
特許庁審判官 |
磯野 光司 森 竜介 |
発明の名称 | 血糖緊急度を決定するための方法 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 阿部 達彦 |
代理人 | 村山 靖彦 |