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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
管理番号 1371208
審判番号 不服2018-14085  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-24 
確定日 2021-02-10 
事件の表示 特願2013-555185「動画像符号化方法、動画像符号化装置、動画像復号方法、および、動画像復号装置」拒絶査定不服審判事件〔2013年(平成25年)8月1日国際公開、WO2013/111551〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)1月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年1月27日、米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成28年 8月22日付け:拒絶理由通知書
同年11月29日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年 6月 1日付け:拒絶理由通知書
同年12月 6日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 6月22日付け:拒絶査定
同年10月24日 :審判請求書の提出
令和 元年12月10日付け:拒絶理由通知書(当審)
令和 2年 3月17日 :意見書、手続補正書の提出


第2 当審による拒絶の理由
当審により令和元年12月10日付けで通知された拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)は、本件出願の請求項1?5に係る発明は、その出願の日前の外国語特許出願(特許法第184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものを除く。)であって、その出願後に国際公開がされた以下の外国語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件出願の発明者がその出願前の外国語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件出願の時において、その出願人が上記外国語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の13参照)、というものである。

先願1:国際特許出願PCT/EP2012/072299号
(国際公開第2013/068547号)
(特表2014-533056号公報参照)


第3 本願発明
上記当審拒絶理由に対して、令和2年3月17日に提出された手続補正書による手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
なお、各構成の符号(A)?(H3)は、説明のために当審で付したものであり、以下、「構成A」?「構成H3」と称する。また、下線は今次補正箇所である。

〔本願発明〕
【請求項1】
(A)複数の動きベクトルを含むリストを用いて、動画像を符号化する動画像符号化方法であって、
(H1)符号化処理を第1規格に準拠する第1符号処理または第2規格に準拠する第2符号化処理に切り替える切り替えステップと、
(H2)切り替えられた前記符号化処理が準拠する第1規格または第2規格を示す識別情報をビットストリームに付加する付加ステップと、を含み、
(H3)前記識別情報が前記第1規格を示すとき、
(A)前記動画像符号化方法は、
(B)(a)符号化対象ピクチャとは異なるピクチャに含まれるブロックであって前記符号化対象ピクチャに含まれる符号化対象ブロックの位置に対応する位置のブロックであるco-locatedブロックを含むピクチャと、(b)前記符号化対象ピクチャとが同一のビューに属するか否かを判定する判定ステップと、
(C1)前記co-locatedブロックを含むピクチャと前記符号化対象ピクチャとが異なるビューに属すると前記判定ステップにおいて判定された場合に、前記co-locatedブロックの位置を補正する補正ステップと、
(D)前記co-locatedブロックから導出される動きベクトルを前記リストに追加する追加ステップと、
(E)前記リストから、前記符号化対象ブロックの符号化のために用いる動きベクトルを選択する選択ステップと、
(F)選択された前記動きベクトルを用いて前記符号化対象ブロックを符号化する符号化ステップと、を含み、
(C1)前記補正ステップは、
(C2)前記co-locatedブロックを含むピクチャが属するビューと、前記符号化対象ピクチャが属するビューとの間の視差ベクトルを取得する視差ベクトル取得ステップと、
(C3)取得された前記視差ベクトルの分、前記co-locatedブロックの位置を補正する位置補正ステップとを含み、
(G)前記co-locatedブロックを含むピクチャと前記符号化対象ピクチャとが異なるビューに属する場合に、前記リストには、前記符号化対象ピクチャと同一のビューに属するピクチャから導出される動きベクトルと、前記符号化対象ピクチャと異なるビューに属する前記co-locatedブロックから導出される動きベクトルと、が含まれる、
(A)動画像符号化方法。


第4 先願
1 国際出願明細書等の記載事項
本願の優先日前の外国語特許出願(優先日:2011年11月11日)であって、本願の国際出願の優先日の後に国際公開がされた上記先願1(以下、「先願」という。)の国際出願日における明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「国際出願明細書等」という。)には、以下の記載がある。
なお、国際出願明細書等の記載事項に続く仮訳は、先願の公表公報である特表2014-533056号公報に基づく訳文である。また、下線は当審が強調のために付したものである。
さらに、国際出願明細書等の記載箇所の後にかっこ書きで、優先権主張出願の願書に最初に添付された明細書又は図面における対応する記載箇所も付記する。

ア「The present invention is concerned with multi-view coding in accordance with a multi-view codec.
In multi-view video coding, two or more views of a video scene (which are simultaneously captured by multiple cameras) are coded in a single bitstream.」(1欄7?11行)(優先権主張出願の1欄7?11行)
(仮訳:本発明は、マルチビューコーデックによるマルチビュー符号化に関する。
マルチビュービデオ符号化において、ビデオシーンの2つ以上のビュー(それらは、複数のカメラによって同時にキャプチャされる)は、単一のビットストリームにおいて符号化される。(段落0001?0002))

イ「It is the object of the present invention to provide a more efficient multi-view coding concept.」(6欄12?13行)(優先権主張出願の6欄12?13行)
(仮訳:本発明の目的は、より効率的なマルチビュー符号化概念を提供することである。(段落0010))

ウ「・Motion vectors are not coded by using a fixed motion vector predictor. Instead there exists a list of motion vector predictor candidates, and one of these predictors is adaptively chosen on a block basis. The chosen predictor is signaled inside the bitstream.」(17欄5?8行)(優先権主張出願の16欄32?35行)
(仮訳:・動きベクトルは、一定の動きベクトル予測を用いることによって符号化されない。その代わりに、動きベクトル予測候補のリストが存在し、さらに、これらの予測の1つは、ブロックベースで適応的に選択される。選択された予測は、ビットストリーム内に信号で送られる。(段落0045))

エ「In addition, a motion/disparity vector difference specifying the difference between the motion/disparity vector used for motion/disparity-compensated prediction and the chosen predictor (indicated by the transmitted index into the motion/disparity vector predictor candidate list) can be transmitted as part of the bitstream. In one embodiment, this motion/disparity vector difference can be coded independently of the reference index and the chosen predictor. In another embodiment of the invention, the motion/disparity vector difference is coded depending on the transmitted reference index and/or the chosen predictor. For example, a motion/disparity vector difference could only be coded if a particular motion/disparity predictor is chosen.」(23欄6?14行)(優先権主張出願の22欄33行?23欄5行)
(仮訳:加えて、動き/視差補償予測のために用いられる動き/視差ベクトルおよび選択された予測(動き/視差ベクトル予測候補リストに、送信されたインデックスによって示される)間の差を特定する動き/視差ベクトル差は、ビットストリームの部分として送信され得る。1つの実施形態において、この動き/視差ベクトル差は、参照インデックスおよび選択された予測とは無関係に符号化され得る。本発明の別の実施形態において、動き/視差ベクトル差は、送信された参照インデックスおよび/または選択された予測に応じて符号化される。例えば、動き/視差ベクトル差は、特定の動き/視差予測が選択される場合、符号化され得るだけである。(段落0067))

オ「The reference picture list and the motion/disparity vector predictor candidate list are derived in the same way at encoder and decoder side. In specific configurations, one or more parameters are transmitted in the bitstream, for specifying how the reference picture lists and/or motion/disparity vector predictor candidate lists are derived. For the preferred embodiment of the invention, for at least one of the blocks of a picture in a dependent view such as 22, the list of motion/disparity vector predictor candidates contains a motion or disparity vector predictor candidate that is derived based on the given (estimated) depth values or based on the given (estimated) depth value and the motion parameters of an already coded view. Beside the motion/disparity vector predictor that is derived based on the given depth values and motion parameters of already coded views, the candidate list of motion/disparity vectors predictors may contain spatially predicted motion vectors (for example, the motion/disparity vector of a directly neighboring block (left or above block), a motion/disparity vector that is derived based on the motion/disparity vectors of directly neighboring blocks) and/or temporally predicted motion/disparity vectors (for example, a motion/disparity vector that is derived based on the motion/disparity vector of a co-located block in an already coded picture of the same view). The derivation of the motion/disparity vector candidate that is obtained by using the given depth data 64 and the already coded motion parameters such as 42 of other views such as 20 can be performed as described in the following.」(23欄15?33行)(優先権主張出願の23欄6?24行)
(仮訳:参照ピクチャリストおよび動き/視差ベクトル予測候補リストは、エンコーダおよびデコーダ側で同様に導出される。特定の構成において、1つ以上のパラメータは、参照ピクチャリストおよび/または動き/視差ベクトル予測候補リストが導出される方法を特定するために、ビットストリームにおいて送信される。本発明の好適な実施形態について、22のようなディペンデントビューにおけるピクチャのブロックの少なくとも1つのために、動き/視差ベクトル予測候補のリストは、所定の(推定された)デプス値に基づいて、または、所定の(推定された)デプス値およびすでに符号化されたビューの動きパラメータに基づいて、導出される動きまたは視差ベクトル予測候補を含む。所定のデプス値およびすでに符号化されたビューの動きパラメータに基づいて導出される動き/視差ベクトル予測のほかに、動き/視差ベクトル予測の候補リストは、空間的に予測された動きベクトル(例えば、直接的に隣接したブロック(左または上のブロック)の動き/視差ベクトル、直接的に隣接したブロックの動き/視差ベクトルに基づいて導出される動き/視差ベクトル)および/または時間的に予測された動き/視差ベクトル(例えば、同じビューのすでに符号化されたピクチャにおいて同じ位置に配置されたブロックの動き/視差ベクトルに基づいて導出される動き/視差ベクトル)を含むことができる。所定のデプスデータ64を用いることによって得られる動き/視差ベクトル候補および例えば20などの他のビューの例えば42などのすでに符号化された動きパラメータの導出は、以下において記載されるように実行され得る。(段落0068))

カ「For further illustration, the basic process for deriving a motion vector for the current block 50_(c) given the motion in a reference view 20 and a depth map estimate for the current picture 32t_(2)(T) (using a particular sample position inside the current block 50_(c)) is depicted in Fig. 4 using similar reference signs as in Fig. 1 in order to ease the mapping of the description of Fig. 4 onto Fig. 1 so as to serve as a possible source of more detailed explanation of possible implementations. Given a sample location x in the current block 50_(c) and a depth value d for this sample location (which is given by the estimate 64 of the depth map), a disparity vector 102 is derived, and based on this disparity vector 102, a reference sample location x_(R) in the reference view 20 is derived. Then, the motion parameters 42_(R) of the block 40_(R) in the reference view picture 32t_(1)(T) that covers the reference sample location x_(R) are used as a candidate for the motion parameters for the current block 50_(c) in the current view 22. Or alternatively, a subset of the motion parameters of the reference block is used for the current block 50_(c). If the reference index for the current block 50_(T) is given, only motion parameters 42_(R) of the reference block 40_(R) that refer to the same time instant T(or picture order count or reference index) as the given reference index for the current block 50_(c) or considered.」(26欄24行?27欄2行)(優先権主張出願の26欄14?30行)
(仮訳:さらなる説明のために、参照ビュー20において動きが与えられる現在のブロック50_(C)のための動きベクトルおよび(現在のブロック50_(C)内の特定のサンプル位置を用いて)現在のピクチャ32t_(2)(T)のためのデプスマップ推定を導出するための基本的なプロセスは、可能な実施のより詳細な説明の可能なソースとして役立つように図1に図4の説明のマッピングを容易にするために図1におけるような類似した参照符号を用いて図4において表される。現在のブロック50_(C)におけるサンプル位置xおよびこのサンプル位置のためのデプス値d(それは、デプスマップの推定64によって与えられる)が与えられると、視差ベクトル102が導出され、さらに、この視差ベクトル102に基づいて、参照ビュー20における参照サンプル位置x_(R)が導出される。そして、参照サンプル位置x_(R)をカバーする参照ビューピクチャ32t_(1)(T)におけるブロック40_(R)の動きパラメータ42_(R)が、現在のビュー22における現在のブロック50_(C)のための動きパラメータのための候補として用いられる。または、代わりに、参照ブロックの動きパラメータのサブセットが、現在のブロック50_(C)のために用いられる。現在のブロック50_(T)のための参照インデックスが与えられる場合、現在のブロック50_(C)のための所定の参照インデックスと同じ時刻T(またはピクチャ順序カウントまたは参照インデックス)を参照する参照ブロック40_(R)の動きパラメータ42_(R)だけが考慮される。(段落0074))(なお、当審において、上記「or considered」との記載は「are considered」の誤記と認めた。)

キ「

」(FIG 4)(優先権主張出願のFigure 4)
(仮訳:

)

2 先願発明
上記1から、国際出願明細書等には、次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。なお、各構成の符号(ア)?(オ)は、説明のために当審が付したものであり、以下、「構成ア」?「構成オ」と称する。

(ア)ビデオシーンの2つ以上のビューを符号化するマルチビュービデオ符号化の方法であって、
(イ)動きベクトル予測候補のリストが存在し、これらの予測の1つは、ブロックベースで適応的に選択され、
(ウ)動き/視差補償予測のために用いられる動き/視差ベクトルおよび選択された予測(動き/視差ベクトル予測候補リストに、送信されたインデックスによって示される)間の差を特定する動き/視差ベクトル差は、ビットストリームの部分として送信され、
(エ1)ディペンデントビューにおけるピクチャのブロックの少なくとも1つのために、動き/視差ベクトル予測候補のリストは、所定の(推定された)デプス値に基づいて、または、所定の(推定された)デプス値およびすでに符号化されたビューの動きパラメータに基づいて、導出される動きまたは視差ベクトル予測候補を含み、
(エ2)所定のデプス値およびすでに符号化されたビューの動きパラメータに基づいて導出される動き/視差ベクトル予測のほかに、動き/視差ベクトル予測の候補リストは、時間的に予測された動き/視差ベクトル(例えば、同じビューのすでに符号化されたピクチャにおいて同じ位置に配置されたブロックの動き/視差ベクトルに基づいて導出される動き/視差ベクトル)を含むことができ、
(オ)参照ビュー20において動きが与えられる現在のブロック50_(C)のための動きベクトルを導出するための基本的なプロセスは、
現在のブロック50_(C)におけるサンプル位置xおよびこのサンプル位置のためのデプス値d(それは、デプスマップの推定64によって与えられる)が与えられると、視差ベクトル102が導出され、さらに、視差ベクトル102に基づいて、参照ビュー20における参照サンプル位置x_(R)が導出され、
参照サンプル位置x_(R)をカバーする参照ビューピクチャ32t_(1)(T)におけるブロック40_(R)の動きパラメータ42_(R)が、現在のビュー22における現在のブロック50_(C)のための動きパラメータのための候補として用いられるものである
(ア)方法。

第5 対比
本願発明の構成A?構成H3を先願発明の構成ア?構成オと対比すると、次のことがいえる。

1 構成A、構成E、構成Fについて
先願発明の構成アの「ビデオシーンの2つ以上のビューを符号化するマルチビュービデオ符号化の方法」は、本願発明の構成Aの「動画像を符号化する動画像符号化方法」に相当する。
また、先願発明の上記方法は、構成イにおいて、動きベクトル予測候補のリストが存在し、これらの予測の1つが選択されるものであるから、前記リストに動きベクトルが複数含まれていることは明らかである。
そして、構成ウにおいて、動き/視差補償予測のために用いられる動き/視差ベクトルおよび動き/視差ベクトル予測候補リストから選択された予測の差を特定する動き/視差ベクトル差が、ビットストリームの部分として送信されるものであり、先願発明の上記方法は、複数の動きベクトルを含むリストを用いて動画像を符号化するものである。
したがって、本願発明と先願発明は、「複数の動きベクトルを含むリストを用いて、動画像を符号化する動画像符号化方法」(構成A)である点で一致する。

以上に加え、構成イにおいて、上記符号化の処理における動きベクトル予測候補の選択が、ブロックベースで行われているから、本願発明と先願発明は「前記リストから、符号化対象ブロックの符号化のために用いる動きベクトルを選択する選択ステップ」(構成E)及び「選択された前記動きベクトルを用いて前記符号化対象ブロックを符号化する符号化ステップ」(構成F)を備える点で一致する。

2 構成B、構成C1?構成C3、構成D、構成Gについて
(1)まず、先願発明における参照するピクチャについて検討する。

(1-1)先願発明の構成エ2の「同じビューのすでに符号化されたピクチャにおいて同じ位置に配置されたブロック」における「ブロック」及び「ピクチャ」は、本願発明の構成B(b)の「同一のビューに属する」場合の、構成B(a)の「符号化対象ピクチャとは異なるピクチャに含まれるブロックであって前記符号化対象ピクチャに含まれる符号化対象ブロックの位置に対応する位置のブロックであるco-locatedブロック」及び当該「co-locatedブロックを含むピクチャ」にそれぞれ相当する。

(1-2)先願発明の構成オの「参照ビュー20において動きが与えられる現在のブロック50_(C)」である「現在のビュー22における現在のブロック50_(C)」及び前記「現在のブロック50_(C)」が属するピクチャは、本願発明の「符号化対象ブロック」及び「符号化対象ピクチャ」に相当する。
また、先願発明の構成オの「参照ビューピクチャ32t_(1)(T)」は、参照ビューピクチャ32t_(1)(T)におけるブロック40_(R)がカバーする「参照サンプル位置x_(R)」が参照ビュー20におけるものであるから、参照ビュー20のものである。
加えて、先願発明における、「動きベクトルを導出する」処理の単位である「現在のブロック50_(C)」や、「動きパラメータ42_(R)が、現在のビュー22における現在のブロック50_(C)のための動きパラメータのための候補として用いられる」処理の単位である「参照ビューピクチャ32t_(1)(T)におけるブロック40_(R)」と同様に、先願発明の構成オの「参照ビューピクチャ32t_(1)(T)」には、ブロック40_(R)がカバーする参照サンプル位置x_(R)を導出するための参照ビュー20におけるサンプル位置xをカバーするブロックが存在することは明らかであり、当該ブロックが「現在のブロック50_(C)」に対応する位置のブロック、すなわちco-locatedブロックにあたる。そして、当該co-locatedブロックを含む「参照ビューピクチャ32t_(1)(T)」が属する「参照ビュー20」は、「現在のブロック50_(C)」が属する「現在のビュー22」とは異なるビューといえるから、当該「参照ビューピクチャ32t_(1)(T)」は、本願発明の構成C1の「co-locatedブロックを含むピクチャと符号化対象ピクチャとが異なるビューに属する」場合の、構成B(a)の「符号化対象ピクチャとは異なるピクチャに含まれるブロックであって前記符号化対象ピクチャに含まれる符号化対象ブロックの位置に対応する位置のブロックであるco-locatedブロックを含むピクチャ」に相当する。

(2)次に、先願発明における動き/視差ベクトルの導出について検討する。

(2-1)先願発明の構成エ2の「時間的に予測された動き/視差ベクトル(例えば、同じビューのすでに符号化されたピクチャにおいて同じ位置に配置されたブロックの動き/視差ベクトルに基づいて導出される動き/視差ベクトル)」は、本願発明の構成Gの「前記符号化対象ピクチャと同一のビューに属するピクチャから導出される動きベクトル」に相当する。

(2-2)前記(1-2)のとおり、先願発明の「参照ビューピクチャ32t_(1)(T)」には、co-locatedブロックが存在するといえるから、先願発明の構成オの「参照ビュー20」は、本願発明の構成C2の「前記co-locatedブロックを含むピクチャが属するビュー」に相当する。また、前記(1-2)のとおり、「現在のビュー22における現在のブロック50_(C)」が属するピクチャは、本願発明の「符号化対象ピクチャ」に相当するから、先願発明の構成オの「現在のビュー22」は、本願発明の構成C2の「前記符号化対象ピクチャが属するビュー」にそれぞれ相当する。
また、先願発明の構成オの「視差ベクトル102」は、現在のビュー22及び参照ビュー20の間のものであるから、本願発明の構成C2の「前記co-locatedブロックを含むピクチャが属するビューと、前記符号化対象ピクチャが属するビューとの間の視差ベクトル」に相当する。そして、構成オの「現在のブロック50_(C)におけるサンプル位置xおよびこのサンプル位置のためのデプス値d(それは、デプスマップの推定64によって与えられる)が与えられると、視差ベクトル102が導出され」ることは、本願発明の構成C2の「前記co-locatedブロックを含むピクチャが属するビューと、前記符号化対象ピクチャが属するビューとの間の視差ベクトルを取得する視差ベクトル取得ステップ」に相当する。
さらに、構成オの「さらに、視差ベクトル102に基づいて、参照ビュー20における参照サンプル位置x_(R)が導出され、」「参照サンプル位置x_(R)をカバーする参照ビューピクチャ32t_(1)(T)におけるブロック40_(R)」が導出されることは、本願発明の構成C3の「取得された前記視差ベクトルの分、前記co-locatedブロックの位置を補正する位置補正ステップ」に相当する。
以上のとおり、先願発明は、上記構成C2及び構成C3に相当する構成を備えているから、構成C2及び構成C3を含むものである構成C1の「co-locatedブロックの位置を補正する補正ステップ」に相当する構成を備えているといえる。

そして、先願発明の構成エ1の「所定の(推定された)デプス値に基づいて、または、所定の(推定された)デプス値およびすでに符号化されたビューの動きパラメータに基づいて、導出される動きまたは視差ベクトル」は、本願発明の構成Gの「前記符号化対象ピクチャと異なるビューに属する前記co-locatedブロックから導出される動きベクトル」に相当する。

(3)最後に、先願発明における動き/視差ベクトル予測の候補リストについて検討する。

先願発明の構成エ2の「所定のデプス値およびすでに符号化されたビューの動きパラメータに基づいて導出される動き/視差ベクトル予測」は、構成エ1の「所定の(推定された)デプス値に基づいて、または、所定の(推定された)デプス値およびすでに符号化されたビューの動きパラメータに基づいて、導出される動きまたは視差ベクトル予測」のことであるから、構成エ2は構成エ1の動き/視差ベクトル予測のほかに、「動き/視差ベクトル予測の候補リストは、時間的に予測された動き/視差ベクトルを含む」ものである。したがって、前記両者の動き/視差ベクトルは、併せて候補リストに含めるものである。

ここで、上記(2-2)のとおり、先願発明の構成エ1の「所定の(推定された)デプス値に基づいて、または、所定の(推定された)デプス値およびすでに符号化されたビューの動きパラメータに基づいて、導出される動きまたは視差ベクトル」は、本願発明の構成Gの「前記符号化対象ピクチャと異なるビューに属する前記co-locatedブロックから導出される動きベクトル」に相当し、上記(2-1)のとおり、先願発明の構成エ2の「時間的に予測された動き/視差ベクトル」は、本願発明の構成Gの「前記符号化対象ピクチャと同一のビューに属するピクチャから導出される動きベクトル」に相当するから、先願発明の構成エ2は、本願発明の構成Gの「リストには、前記符号化対象ピクチャと同一のビューに属するピクチャから導出される動きベクトルと、前記符号化対象ピクチャと異なるビューに属する前記co-locatedブロックから導出される動きベクトルと、が含まれる」に相当する構成を備えているといえる。

そして、先願発明の候補リストに含まれる「所定の(推定された)デプス値に基づいて、または、所定の(推定された)デプス値およびすでに符号化されたビューの動きパラメータに基づいて、導出される動きまたは視差ベクトル」及び「時間的に予測された動き/視差ベクトル」を候補リストに含めるために導出する際に、異なるビューの場合には視差ベクトルの導出を行い、同じビューの場合には視差ベクトルの導出を行わないことは明らかであり、このことは、本願発明の構成Gにおける前記両者の動きベクトルを導出する際に、前記両処理間で相違する要素である「動きベクトルを予測する際の対象となるピクチャが同一のビューに属するか否か」を判定し、異なるビューに属すると判定された場合に上記補正を行って、候補リストに含ませることに相当する。

(4)以上のことから、先願発明は、「(a)符号化対象ピクチャとは異なるピクチャに含まれるブロックであって前記符号化対象ピクチャに含まれる符号化対象ブロックの位置に対応する位置のブロックであるco-locatedブロックを含むピクチャと、(b)前記符号化対象ピクチャとが同一のビューに属するか否かを判定する判定ステップ」(構成B)、「前記co-locatedブロックを含むピクチャと前記符号化対象ピクチャとが異なるビューに属すると前記判定ステップにおいて判定された場合に、前記co-locatedブロックの位置を補正する補正ステップ」(構成C1)、「前記co-locatedブロックから導出される動きベクトルを前記リストに追加する追加ステップ」(構成D)、「前記補正ステップは、前記co-locatedブロックを含むピクチャが属するビューと、前記符号化対象ピクチャが属するビューとの間の視差ベクトルを取得する視差ベクトル取得ステップと、取得された前記視差ベクトルの分、前記co-locatedブロックの位置を補正する位置補正ステップとを含み」(構成C1?構成C3)及び「前記co-locatedブロックを含むピクチャと前記符号化対象ピクチャとが異なるビューに属する場合に、前記リストには、前記符号化対象ピクチャと同一のビューに属するピクチャから導出される動きベクトルと、前記符号化対象ピクチャと異なるビューに属する前記co-locatedブロックから導出される動きベクトルと、が含まれる」(構成G)に相当する構成を実質的に備えるものといえる。

3 構成H1?構成H3について
本願の優先権主張日前に公開されていた国際公開第2011/086647号(以下、「周知文献1」という。)には以下の記載がある。
「具体的には、上記各実施の形態で示した動画像符号化方法または装置において、PMTに含まれるストリームタイプ、または、ビデオストリーム属性情報に対し、上記各実施の形態で示した動画像符号化方法または装置によって生成された映像データであることを示す固有の情報を設定するステップまたは手段を設ける。この構成により、上記各実施の形態で示した動画像符号化方法または装置によって生成した映像データと、他の規格に準拠する映像データとを識別することが可能になる。」(段落0253)

また、本願の優先権主張日前に公開されていた特開2011-250219号公報(以下、「周知文献2」という。)には以下の記載がある。なお、下線は強調のため当審が付したものである。
「番組特定情報のPMTは、ISO/IEC13818-1で規定されているテーブル構造を用い、その2ndループ(ES(Elementary Stream)毎のループ)に記載の8ビットの情報であるstream_type(ストリーム形式種別)により、放送されている番組のESの形式を示すことができる。本発明の実施例では、従来よりもESの形式を増やし、例えば、図3に示すように放送する番組のESの形式を割り当てる。」(段落0029)
「まず、多視点映像符号化(例:H.264/MVC)ストリームのベースビューサブビットストリーム(主視点)について、既存のITU-T勧告H.264|ISO/IEC 14496-10映像で規定されるAVC映像ストリームと同じ0x1Bを割り当てる。」(段落0030)
「また、3D映像の複数視点を別ストリームで伝送する「3D2視点別ES伝送方式」でもちいる場合のH.262(MPEG2)方式のベースビュービットストリーム(主視点)について、既存のITU-T勧告H.262|ISO/IEC 13818-2映像と同じ0x02を割り当てる。」(段落0031)
上記周知文献2の摘記事項から、周知文献2には、PMTのテーブル構造の情報であるストリームタイプにより、異なる符号化方式のストリームの形式に対応して異なる符号を割り当てる技術が示されているといえる。(以下、「周知文献2記載事項」という。)

上記周知文献1の記載及び周知文献2記載事項によれば、PMTに含まれるストリームタイプに、各動画像符号化方法によって生成された映像データであることを示す固有の情報を設定して、映像データを他の規格に準拠する映像データと識別可能とすることは、周知技術であると認められる。
ここで、各動画像符号化方法によって映像データが生成される際に、各方法に対応して符号化の処理が切り替えられることは通常採られる手法と認められるから、本願発明の構成H1の「符号化処理を第1規格に準拠する第1符号処理または第2規格に準拠する第2符号化処理に切り替える切り替えステップと、」、構成H2の「切り替えられた前記符号化処理が準拠する第1規格または第2規格を示す識別情報をビットストリームに付加する付加ステップと、を含み、」及び構成H3の「前記識別情報が前記第1規格を示すとき、」とすることは、通常採られることといえる。

そして、先願発明の解決すべき課題は、先願の国際出願明細書(上記第4の1イ)によれば、「より効率的なマルチビュー符号化のコンセプトを提供すること」とされているところ、先願発明に上記周知技術を付加することは、上記課題を解決するための具体化手段における微差というべきものであって、新たな効果を奏するものではない。

したがって、構成H1?H3は、本願発明と引用発明との間で実質的に相違する構成とはいえない。

5 まとめ
以上のとおり、先願発明は、本願発明の構成A?構成H3の全てにおいて同一又は実質的に同一の構成を有するから、本願発明と実質的に同一である。したがって、本願発明は、国際出願明細書等に記載された発明であるといえる。
また、本願の発明者が先願の発明者と同一ではなく、本願の出願の時において、本願の出願人が先願の出願人と同一でもない。
よって、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。


第6 むすび
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-09-08 
結審通知日 2020-09-15 
審決日 2020-09-28 
出願番号 特願2013-555185(P2013-555185)
審決分類 P 1 8・ 161- WZ (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷川 素直  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 樫本 剛
川崎 優
発明の名称 動画像符号化方法、動画像符号化装置、動画像復号方法、および、動画像復号装置  
代理人 道坂 伸一  
代理人 新居 広守  
代理人 寺谷 英作  

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