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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
管理番号 1371221
審判番号 不服2019-9317  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-07-11 
確定日 2021-02-10 
事件の表示 特願2017-239522「内視鏡用の使い捨て可能な吸込弁」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 5月10日出願公開、特開2018- 69094〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)11月30日(パリ条約による優先権主張 2010年11月30日 米国)を国際出願日として出願した特願2013-542130号の一部を、平成28年10月7日に新たに出願した特願2016-198923号の一部を、さらに平成29年12月14日に新たに外国語書面出願したものであって、平成30年10月3日付けで拒絶理由が通知され、平成31年1月9日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年3月1日付けで拒絶査定されたところ、令和元年7月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。その後当審において令和2年2月12日付けで拒絶理由が通知され、同年5月18日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?17に係る発明は、令和2年5月18日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されるものであると認められるところ、その請求項1?17に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明17」という。)は、次のとおりのものである。

「請求項1】
吸込弁を製造する方法であって、
少なくとも一つの開口を有するステムを型成形するステップ、
前記ステムの周囲に配置される円筒状の外輪を有するばね支柱を型成形するステップ、
前記ステムの下端部をばねの中心を通して配置するステップ、
前記外輪の円筒状の壁が前記ステムの周囲に配置されるように、前記ステムの下端部を前記ばね支柱のステム開口に通して配置するステップ、および、
前記ばね支柱に、または前記ばね支柱の上に、ブートをオーバーモールドするステップ、を含み、
前記ブートの内側の表面は、前記ばね支柱の全周にわたって前記壁の外側面と下端から上端に至るまで連続的に合わさるように形成される、方法。
【請求項2】
(i)前記ステムは、カラーコード化されるかまたは、(ii)前記ブート上のシール棚は、前記ステムのボタンヘッドに対してシールを作成するか、(iii)前記ステムの凹所は、前記ばね支柱のタブに係合する切欠きを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(i)前記ステムは、吸込口の中で気密シールを保証するためにO-リングまたは代わりのシールデバイスを提供するかまたは、(ii)前記ステムは、前記吸込口または前記ステムの中で気密シールを保証するためにシール手段を提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(i)前記ステムは、吸込口の中で気密シールを保証する直径を有するかまたは、(ii)前記ステムの長さは、完全長の2.413センチメートルに対して10%、20%、30%、40%、50%または60%減少している、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
吸込弁アセンブリであって、
ステム、ばね支柱、ばね、およびブートを備え、
前記ステムは、当該ステムの縦軸に沿って配置された第1の開口、および前記第1の開口に対して横に配置された第2の開口を備え、前記第1および第2の開口は、空気および/または流体の通過を許容するためのものであり、
前記ばね支柱は、前記ステムに取り付けるように構成され、前記ステムを受け入れて、当該ばね支柱に関して前記ステムの上方へのおよび下方への位置の移動を許容するように構成される開口と、前記ステムの周囲に配置される円筒状の外輪と、を備え、
前記ばねは、前記ばね支柱および前記ステムと接触するように構成され、
前記ブートの内側の表面は、前記ばね支柱の全周にわたって円筒状の壁の外側面と下端から上端に至るまで連続的に合わさるように形成される、吸込弁アセンブリ。
【請求項6】
前記ステムが下方への位置に移動するとき前記ステムによって接触されるように構成されるブートをさらに備える、請求項5に記載の吸込弁アセンブリ。
【請求項7】
前記ステムは、下方への押圧力の適用で当該ステムが下方への位置に移動可能である、請求項5に記載の吸込弁アセンブリ。
【請求項8】
前記ばね支柱の前記開口は、前記ばね支柱の中心に配置され、前記ばね支柱は、前記ばねの第1の端部を受ける棚を備え、前記ステムは、前記ばねの第2の端部を受ける棚を備える、請求項5に記載の吸込弁アセンブリ。
【請求項9】
前記吸込弁アセンブリは、前記ステムの前記第1の開口から延びる中空部に配置され、前記ステムの外側から見えるステムインサートを備え、前記ステムインサートは、前記吸込弁アセンブリの作動位置にあるとき、前記第2の開口に接続され、前記吸込アセンブリが非作動位置にあるとき、前記第2の開口が外れるように位置する、請求項5に記載の吸込弁アセンブリ。
【請求項10】
前記ブートは、前記ステムの頂部が当該ブートの棚に接触するときに気密シールを提供するために前記ステムのボタンヘッド部分を受けるように構成される棚を備える、請求項6に記載の吸込弁アセンブリ。
【請求項11】
(i)前記ステムは、一端に複数の位置を、そして他端に指により接触されるように構成される頂部またはボタンヘッドを備え、(ii)前記ステムは、医療デバイスの吸込口の中で適切なシールを保証するためにシール部材を有する突部を備え、(iii)前記ステムは、医療デバイスの吸込口の中で適切なシールを保証するためにそれ自体に取り付けられるO-リングを備える、請求項5に記載の吸込弁アセンブリ。
【請求項12】
前記ステムは、医療デバイスの吸込口の中で気密シールを保証するために、前記ブートに対して同心円状に配置される、請求項6に記載の吸込弁アセンブリ。
【請求項13】
前記第1の開口は、前記第2の開口に連通し、そして、前記ステムが下向き方向に押圧されるとき、前記第2の開口は、医療器具の吸込チャネルと整列して、吸込接続への空気および/または流体の通過を許容する、請求項5に記載の吸込弁アセンブリ。
【請求項14】
前記医療器具は、内視鏡を含む、請求項13に記載の吸込弁アセンブリ。
【請求項15】
前記吸込弁アセンブリは、内視鏡の手順において用いられる、請求項5に記載の吸込弁アセンブリ。
【請求項16】
前記ステムが前記ばね支柱に係合するように、前記ステムの凹所に前記ばね支柱を配置するステップをさらに含み、前記凹所は、前記ステムの移動の制限を規定するように構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記ステムは、前記ばね支柱を固定する凹所をさらに含み、前記凹所により、前記ばね支柱に対して上方及び下方の位置での前記ステムの移動が可能となる、請求項5に記載の吸込弁アセンブリ。」

第3 当審における拒絶の理由
令和2年2月12日付けで当審が通知した拒絶理由は、概略以下のとおりのものである。

1.(委任省令要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
2.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
3.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
4.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



●理由1?3について:省略
●理由4(進歩性)について
・請求項1?17に対して、引用文献1?3

<引用文献等一覧>
1.特開昭62-133929号公報
2.特開2006-55447号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2000-217777号公報(周知技術を示す文献)

第4 当審の判断
1 理由1(委任省令要件)について
(1)当審における拒絶理由通知について
当審が通知した拒絶理由における理由1は、以下のとおりのものである。

「・請求項1-17
本願請求項1-17に係る発明(以下まとめて「本願発明」という。)の課題は、「洗浄、消毒および滅菌を繰り返す必要を減少または除去して、患者に感染する危険を減少または除去する新規な使い捨て可能な吸込弁および方法を開発する」こと(以下「課題1」という。)、または、「詰まりの危険が減少した吸込弁」を開発すること(以下「課題2」という。)と認められる(発明の詳細な説明段落【0008】参照)。
そして、上記課題2の解決手段ついては、発明の詳細な説明の段落【0037】【0038】、第4B図等に記載されているものの、課題1に関しては、以下に示すように、如何に課題を解決するものであるのか、発明の詳細な説明に記載されておらず、理解することができない。

本願の発明の詳細な説明には、課題を解決する手段として、
「いくつかの実施形態では、使い捨て可能な吸込弁は、主ステムの中心孔を通る空気通路を提供する主ステムを含んでよい。使い捨て可能な吸込弁はまた、ばね支柱カップおよびばねを含んでもよい。ブートは、ばね支柱カップの外側にオーバーモールドされてよい。
いくつかの実施形態では、使い捨て可能な吸込弁を製造する方法は、いくつかのステップを含んでよい。主ステムおよびばね支柱カップは、型成形される。主ステムの下端部は、ばねおよびばね支柱カップの中心を通って配置される。ブートは、使い捨て可能な吸込弁を完成するために、ばね支柱カップにオーバーモールドされてよい。
いくつかの実施形態では、ステム、ばね支柱、およびばねを備え、ステムは、ステム上に配置される少なくとも1つの凹所および/または突部、ステムの縦軸に沿って配置された第1の開口、および第1の開口に対して横に配置された第2の開口を備え、第1および第2の開口は、空気および/または流体の通過を許容するためのものであり、ばね支柱は、ステムの凹所および/または突部に取り付けるように構成される少なくとも1つの凹所および/または突部を備え、ばね支柱は、ステムを受け入れて、ステムの上方へのおよび下方への位置の移動を許容するように構成される開口を備え、ばねは、ばね支柱およびステムと接触するように構成される、吸込弁アセンブリが、ある。
いくつかの実施形態では、ステムの横ポートの下でステムの末端部を大きく減少させるステムが、提供される。」(発明の詳細な説明段落【0011】-【0014】参照)
等記載されているが、ステム、ばね支柱、ばね、ブート等により構成される吸込弁アセンブリにより、課題1の「使い捨て可能な吸込弁」がなぜ実現されるのか、発明の詳細な説明に記載されておらず、発明の技術上の意義を理解することができない。
また、発明の詳細な説明には、
「いくつかの実施形態では、従来技術の使い捨て可能ではない7つのコンポーネントの吸込弁とは異なり、目下の応用の使い捨て可能な吸込弁は、ステム15、ブート25、ばねカップ/支柱(図示せず)およびばね30の4つのコンポーネントから成る。いくつかの実施形態では、従来技術の使い捨て可能ではない7つのコンポーネントの吸込弁とは異なり、目下の応用の使い捨て可能な吸込弁は、ステム15、ブート25、ばねカップ/支柱(図示せず)、ばね30およびステムインサート20の5つのコンポーネントから成る。
いくつかの実施形態において、目下の応用の使い捨て可能な吸込弁と従来のものとの違いは、従来技術の弁構造では、従来技術の弁は、(ねじ付きボタンヘッド端部を有する)ステムに加えて、(ステムにねじこみ、プラスチックボタンヘッドのための安全な結合を提供する)金属受け板、およびプラスチックボタンヘッドを有することである。目下の応用の使い捨て可能な吸込弁において、いくつかの実施形態では、支柱カップは、型成形され、次いでブートは、この部品の上にオーバーモールドされる。したがって、いくつかの実施形態では、支柱カップは、ブートを有する一体物(例えば、それらは1つの部品である)であり、したがって、製造プロセスはより単純である。したがって、目下の応用の使い捨て可能な吸込弁は、製造するのがより容易でありえる。そして、従来技術の使い捨て可能ではない7つのコンポーネントの吸込弁と比較されるときに、コンポーネントが故障する危険はより少ない。」(発明の詳細な説明段落【0034】【0035】参照)
と記載されているが、従来技術の弁構造において必要とされていた「金属受け板、およびプラスチックボタンヘッド」を本願発明においてはなぜ省略することが可能であるのか不明であり、上記課題1を解決する手段を把握することができない。
また、従来技術の吸込弁が上記のように7つのコンポーネントからなるものであったとしても、上記金属受け板やプラスチックボタンヘッドも使い捨て可能な材料により形成することは必要に応じて適宜なされることと認められ、上記吸込弁を4つ乃至5つのコンポーネントから構成したとして、「新規な使い捨て可能な吸込弁および方法を開発する」(課題1)という課題を如何に解決したものであるのか把握できない。
さらに、発明の詳細な説明には、
「使い捨て可能な吸込弁とは対照的に、再使用可能な吸込弁は、繰り返しの洗浄、消毒および殺菌に適している金属コンポーネントを含んでよい。これらの金属コンポーネントは、使い捨て可能な吸込弁のコンポーネントよりも高コストの製造および複雑なアセンブリを必要としてよい。例えば、金属コンポーネントは、正確な機械加工/研削、ねじ切り、スタンピング、プレス機械加工等によって製造されてよい。さらに、組み立ての間、金属コンポーネントは、互いに溶接され、接着剤等を用いて接着されることが必要でもよい。これらのステップは、製造を複雑にしてよく、コストを上昇させてよい。」(発明の詳細な説明段落【0056】参照)
とあり、本願発明の吸込弁は、課題1の「使い捨て可能な吸込弁」とは対照的な再使用可能な吸込弁でもよいと記載されていることから、本願発明の課題及び課題を解決する手段が何であるか理解することができない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、請求項1-17に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものでない。」

(2)当審の判断
令和2年5月18日付けの手続補正書により、補正前の請求項1における「使い捨て可能な吸込弁」の「使い捨て可能な」が削除された。
しかしながら、特許法第36条第4項第1号の規定は、発明の詳細な説明の記載が、経済産業省令で定めるところによるものでなければならない、とするものであり、請求項1において「使い捨て可能な」の文言を削除したとしても、発明の課題は発明の詳細な説明から把握されるものであるから、「洗浄、消毒および滅菌を繰り返す必要を減少または除去して、患者に感染する危険を減少または除去する新規な使い捨て可能な吸込弁および方法を開発する」こと(課題1)、または、「詰まりの危険が減少した吸込弁」を開発すること(課題2)が本願発明の課題であるとした、上記当審が通知した拒絶理由における本願発明の課題の認定に変わりはない。
そうすると、上記の当審が通知した拒絶理由に記載したとおり、本願発明の課題である上記課題1に関して、いかに課題を解決するものであるのか、発明の詳細な説明に記載されておらず、理解することができない。

(3)請求人の主張について
請求人は令和2年5月18日付けの意見書の「(II 理由1) 6.委任省令要件に関して」において、

「請求項1から「使い捨て可能な」の文言を削除しました。また、請求項16を削除しました。
委任省令要件に関しては、「発明が解決しようとする課題」として、請求項に係る発明が解決しようとする技術上の課題が「少なくとも一つ」記載されることが求められています(審査基準 第2節 2(1)b(a))。本出願の明細書の段落0007には「高価な材料から吸込弁を製造するための高いコストを省く」という課題が示されています。そして、上記5.で述べた通り、「ブートの内側の表面は、ばね支柱の全周にわたって円筒状の壁の外側面と下端から上端に至るまで連続的に合わさるように形成される」ことにより、ブートとばね支柱で強度を確保することができるので、上記課題を解決することができます。
したがって、この出願の発明の詳細な説明は、請求項1?17に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものとなったことと思料いたします。」

と主張している。
しかしながら、上記「(2)当審の判断」で示したとおり、特許法第36条第4項第1号の規定は、発明の詳細な説明の記載が、経済産業省令で定めるところによるものでなければならない、とするものであって、請求項1において「使い捨て可能な」の文言を削除したとしても、発明の課題は発明の詳細な説明から把握されるものであり、上記当審が通知した拒絶理由における本願発明の課題の認定に変わりはない。
そうすると、上記の当審が通知した拒絶理由に記載したとおり、本願発明の課題である上記課題1に関して、いかに課題を解決するものであるのか、発明の詳細な説明に記載されておらず、理解することができない。

さらに、請求人が主張するように、「高価な材料から吸込弁を製造するための高いコストを省く」ことが本願発明の課題であるといえるかについて、以下検討する。
本願の発明の詳細な説明には、吸込弁の材料として、

「使い捨て可能な吸込弁10は、ステム15、ステムインサート20、ブート25、ばねカップ/支柱(図示せず)およびばね30を備えてよい。使い捨て可能な吸込弁の1つ以上のコンポーネントは、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリエーテル(アミド)、PEBA、熱可塑性エラストマーオレフィン、コポリエステル、スチレン熱可塑性エラストマー、炭素繊維、ガラス繊維、セラミックス、メタクリレート、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、PEO-PPO-PEO(プルロニック)、ゴム、プラスチック(例えば、ポリカーボネート)、ABS、MABS、シリコーン等またはそれらの組み合わせ、を含むがこれに限定されない使い捨て可能な材料から成ってよい。ステム15およびステムインサート20は、例えばプラスチック、高分子材料等の適切な材料またはその組合せから形成されてよい。」(段落【0027】、下線は当審が付したものである。以下同様。)
「対照的に、再使用可能な吸込弁のステムは、繰り返しの洗浄、消毒および殺菌に適した材料(例えばステンレス鋼等)でできた1つ以上のコンポーネントから形成されてよい。この材料によって、再使用可能な吸込弁は、再使用のために繰り返し洗浄されることができて、消毒されることができて、殺菌されることができるとはいえ、この種の材料は、高コストでもよく、適切に洗浄するのが困難でもあり、より多くのコンポーネントを必要としてもよく、付加的な製造および組み立てステップを必要としてもよく、より高コストの製造プロセスを必要としてもよく、等でもよい。使い捨て可能な吸込弁よりも製造コストが高いことに加えて、再使用可能な吸込弁はまた、弁を繰り返し洗浄し、消毒し、殺菌するために利用される器材および材料を必要とする。」(段落【0032】)
「使い捨て可能な吸込弁とは対照的に、再使用可能な吸込弁は、繰り返しの洗浄、消毒および殺菌に適している金属コンポーネントを含んでよい。これらの金属コンポーネントは、使い捨て可能な吸込弁のコンポーネントよりも高コストの製造および複雑なアセンブリを必要としてよい。例えば、金属コンポーネントは、正確な機械加工/研削、ねじ切り、スタンピング、プレス機械加工等によって製造されてよい。さらに、組み立ての間、金属コンポーネントは、互いに溶接され、接着剤等を用いて接着されることが必要でもよい。これらのステップは、製造を複雑にしてよく、コストを上昇させてよい。」(段落【0056】)

と記載されており、吸込弁のコンポーネントを「炭素繊維」のように、一般的に高価である材料を用いてもよいことが記載されており(段落【0027】)、また、吸込弁のコンポーネントを高コストな材料としてもよいと記載されている(段落【0032】【0056】)。
したがって、請求人が主張するように、「高価な材料から吸込弁を製造するための高いコストを省く」ことが本願発明の課題であるということはできないし、同課題を解決する手段が発明の詳細な説明に記載されているとは認められない。
また、請求人は、同課題の解決手段が「「ブートの内側の表面は、ばね支柱の全周にわたって円筒状の壁の外側面と下端から上端に至るまで連続的に合わさるように形成される」ことにより、ブートとばね支柱で強度を確保すること」であると主張するが、上記解決手段においても、高価な材料を使用することを排除していないから、「高価な材料から吸込弁を製造するための高いコストを省く」という課題を解決する手段であるとは認められない。
したがって、仮に、「高価な材料から吸込弁を製造するための高いコストを省く」ことが本願発明の課題であるとしても、同課題を解決する手段が発明の詳細な説明に記載されているとは認められない。
したがって、本願の発明の詳細な説明は、本願発明について、特許法第36条第4項第1号に規定される経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)で定めるところにより記載されたものではない。

2 理由2(サポート要件)について、
(1)当審における拒絶理由通知について
当審が通知した拒絶理由における理由2は、以下のとおりのものである。

「・請求項1-17
(請求項1-17について)
上記(理由1について)で示したように、本願発明の課題は、「洗浄、消毒および滅菌を繰り返す必要を減少または除去して、患者に感染する危険を減少または除去する新規な使い捨て可能な吸込弁および方法を開発する」こと(課題1)、または、「詰まりの危険が減少した吸込弁」を開発すること(課題2)と認められる。
そして、上記課題2を解決する手段は、発明の詳細な説明の段落【0037】【0038】などの記載から、ステム長を減少させることであるが、この手段が反映されているのは、請求項4に係る発明のみである。そこで、その余の請求項1-3,5-17に係る発明については、上記課題1に対応した発明であるとして検討する。
しかしながら、以下に示すように、請求項1-3,5-17に係る発明において規定される事項は、上記課題1を解決する手段が反映されたものとは認められない。

請求項1には、「使い捨て可能な吸込弁を製造する方法であって、・・・」と記載されているものの、続けて、ステム、ばね支柱を型形成するステップ、ステムの下端部を配置するステップ、ブートをオーバーモールドするステップ、ブートの内側の表面は、・・・形成されるステップしか規定されておらず、これらの工程を通じて製造される吸込弁が如何にして「使い捨て可能」となるのか把握することができない。
また、請求項5には、吸込弁アセンブリがステム、ばね支柱、ばね、ブートを備え、上記ステム、ばね支柱、ばね、ブートの内側表面を規定した構成のみが記載されており、請求項5の吸込弁アセンブリが如何にして「使い捨て可能」となるのか把握することができない。
同様に、請求項2-3、6-17に係る発明も如何にして「使い捨て可能」となるのか把握することができない。
なお、請求項16には、「前記吸込弁アセンブリは、使い捨て可能である」と記載されているが、使い捨て可能とするための構成が不明である。

また、上記(理由1について)で示したように、発明の詳細な説明には、「いくつかの実施形態では、従来技術の使い捨て可能ではない7つのコンポーネントの吸込弁とは異なり、目下の応用の使い捨て可能な吸込弁は、ステム15、ブート25、ばねカップ/支柱(図示せず)およびばね30の4つのコンポーネントから成る。いくつかの実施形態では、従来技術の使い捨て可能ではない7つのコンポーネントの吸込弁とは異なり、目下の応用の使い捨て可能な吸込弁は、ステム15、ブート25、ばねカップ/支柱(図示せず)、ばね30およびステムインサート20の5つのコンポーネントから成る。
いくつかの実施形態において、目下の応用の使い捨て可能な吸込弁と従来のものとの違いは、従来技術の弁構造では、従来技術の弁は、(ねじ付きボタンヘッド端部を有する)ステムに加えて、(ステムにねじこみ、プラスチックボタンヘッドのための安全な結合を提供する)金属受け板、およびプラスチックボタンヘッドを有することである。目下の応用の使い捨て可能な吸込弁において、いくつかの実施形態では、支柱カップは、型成形され、次いでブートは、この部品の上にオーバーモールドされる。したがって、いくつかの実施形態では、支柱カップは、ブートを有する一体物(例えば、それらは1つの部品である)であり、したがって、製造プロセスはより単純である。したがって、目下の応用の使い捨て可能な吸込弁は、製造するのがより容易でありえる。そして、従来技術の使い捨て可能ではない7つのコンポーネントの吸込弁と比較されるときに、コンポーネントが故障する危険はより少ない。」(発明の詳細な説明段落【0034】【0035】参照)
と記載されているが、請求項1-17に係る発明は、上記4つ乃至5つのコンポーネントからなる吸込弁乃至吸込弁を製造する方法のみならず、金属受け板、プラスチックボタンヘッドを有する7つのコンポーネントからなる、従来技術の吸込弁乃至吸込弁を製造する方法も含みうるため、上記請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決する手段が反映されたものとは認められない。
したがって、出願時の技術常識に照らしても、請求項1-17に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(以下、省略)」

(2)当審の判断
令和2年5月18日付けの手続補正書により、補正前の請求項1における「使い捨て可能な吸込弁」の「使い捨て可能な」が削除された。
しかしながら、サポート要件についての判断にあたって、発明の課題は発明の詳細な説明の記載から把握するものであり(審査基準 第II部第2章第2節2.1(3)参照)、請求項1において「使い捨て可能な」の文言を削除したとしても、「洗浄、消毒および滅菌を繰り返す必要を減少または除去して、患者に感染する危険を減少または除去する新規な使い捨て可能な吸込弁および方法を開発する」こと(課題1)、または、「詰まりの危険が減少した吸込弁」を開発すること(課題2)が本願発明の課題であるとした、上記当審が通知した拒絶理由における本願発明の課題の認定に変わりはない。
そうすると、上記の当審が通知した拒絶理由に記載したとおり、本願発明において規定される事項は、上記課題1を解決する手段が反映されたものとは認められず、出願時の技術常識に照らしても、本願発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(3)請求人の主張について
請求人は令和2年5月18日付けの意見書の「(II 理由1) 6.委任省令要件に関して」、「(III 理由2)7.サポート要件について」において、

「請求項1から「使い捨て可能な」の文言を削除しました。また、請求項16を削除しました。
委任省令要件に関しては、「発明が解決しようとする課題」として、請求項に係る発明が解決しようとする技術上の課題が「少なくとも一つ」記載されることが求められています(審査基準第2節2(1)b(a))。本出願の明細書の段落0007には「高価な材料から吸込弁を製造するための高いコストを省く」という課題が示されています。そして、上記5.で述べた通り、「ブートの内側の表面は、ばね支柱の全周にわたって円筒状の壁の外側面と下端から上端に至るまで連続的に合わさるように形成される」ことにより、ブートとばね支柱で強度を確保することができるので、上記課題を解決することができます。
したがって、この出願の発明の詳細な説明は、請求項1?17に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものとなったことと思料いたします。」
「請求項1?17につきましては、理由1について述べた内容により、請求項1?17に係る発明が、発明の詳細な説明に記載されたものとなったことと思料いたします。」
と主張している。
しかしながら、上記「(2)当審の判断」で示したとおり、サポート要件についての判断にあたって、発明の課題は発明の詳細な説明の記載から把握するものであり、請求項1において「使い捨て可能な」の文言を削除したとしても、上記当審が通知した拒絶理由における本願発明の課題の認定に変わりはない。
仮に、請求人が主張するように、本願発明の課題は、「高価な材料から吸込弁を製造するための高いコストを省く」ことであるとしても、本願発明には、吸込弁アセンブリの材料に関して何ら特定されておらず、「高価な材料から吸込弁を製造するための高いコストを省く」ための解決手段が反映されているとは認められない。
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

3 理由4(進歩性について)
(1)引用文献の記載事項、引用発明
ア 当審が通知した拒絶理由に引用された引用文献1には、以下の事項が記載されている。

(ア)「上記吸引切換え弁21は第2図で示すように構成されている。すなわち、操作部3の外壁体3aには取付け孔23が穿設されており、この取付け孔23に対して弁座体としてのシリンダ24が嵌着されている。このシリンダ24の外方側端部は外壁体3aから外部へ突き出しており、シリンダ24の内方側端部外周には上記外壁体3aの内面に当るつば25が形成されている。そして、シリンダ24の外方側端部の外周には取付け環26がねじ込み装着されていて、この取付け環26と上記つば25との間で上記外壁体3aを挾み込むことにより、上記シリンダ24は外壁体3aに取り付け固定されている。なお、取付け孔23の内周面とシリンダ24の外周面との間にはリングパッキング27が嵌め込まれ、その間の液密性を確保するようになっている。
また、上記シリンダ24の内方端には第1の接続管28を介して吸引用管路17の吸引源側管路部17aが接続されている。さらに、シリンダ24の側壁部にはそのシリンダ24内に開口する開孔部29が形成されており、この開孔部29には第2の接続管30を介して吸引用管路17の先端側管路部17bが接続されている。
上記シリンダ24の内部には切換え制御用のピストン31が上下動自在に嵌挿されている。そしてこのピストン31の内方側端部内にはその軸方向に沿う中空孔32が形成され、この中空孔32の上端はピストン31の中途部側壁に設けた開孔33を介して側方へ開通している。この開孔33は第2図で示すようにピストン31が待機位置にあるとき、シリンダ24の外方端よりも上方へ突出しており、また、後述するようにピストン31を押込み操作すると、その開孔33がシリンダ24の開孔部29に対向一致してそれに連通するようになっている。
また、第3図で示すようにピストン31の外周面には、開口部29と連通する位置に始点49aから終点49bまで溝49がある。そしてシリンダ24の側壁部には、ピストン31が待機状態の時に上記溝の終点49bと連通する位置に連通口50が設けてあり、その連通口50には、前記送気送液管路7が連結されている。
上記取付け環26はその外周面部に嵌着用の溝部34が形成されており、この溝部34を含めてその突出外端部を取付けフランジ35としてある。この取付けフランジ35には突当て部材36を着脱自在に装着するようになっている。上記突当て部材36はそれぞれ金属製の外筒部36aと内筒部36bとを同心的に配置し、その両筒部3a,3b(※)の一方の端部間を連結用底壁部36cで一体に連設形成したものであり、外筒部36aにはほぼ円筒状に形成したゴム部材37が一体的に連設してある。つまり、ゴム部材37は突当て部材36の外筒部36aに対してインサート成形により一体的に取着固定されている。さらに、ゴム部材37の一端には前記取付けフランジ35の溝部34に対して弾性的に密に嵌入する係合突縁部38が形成されている。また、突当て部材36の内筒部36bの外端にはその径方向内側に張り出す突当て部39が一体に形成されている。そして、この突当て部39には待機位置における前記ピストン31の上端段部41が当り、待機時の位置規制を行なうようになっている。
一方、上記ピストン31の上端にはおねじ31aが形成され、このおねじ31aには連結管42の一端部に形成しためねじ42aがねじ込み固定されている。
さらに連結管42の外端部には比較的硬質のプラスチックからなる操作釦43が嵌着されている。また、操作釦43の周縁は立ち下る円筒状の壁部44として形成されていて、この壁部44はピストン31を押し込んだとき上記ゴム部材37内へ入り込むとともに、その内縁突部37aの上面に当るようになっている。
さらに、上記連結管42の外端周縁と上記突当て部材36の底壁部36cとの間にはピストン31の周囲に位置して付勢部材としてのコイルばね45が介在している。そして、上記ピストン31を外方へ向けて付勢し、ピストン31の上端段部41が突当て部39に当る位置に待機させている。
また、突当て部材36の内筒部36bの壁部には複数のリーク孔46…が形成されていて、ピストン31の待機時においてピストン31の開孔33に連通するようになっている。
なお、上記ピストン31の回転を阻止するため、上記シリンダ24の側壁部にはその内壁面から突き出すガイドピン47を設け、また、このガイドピン47に対応して上記ピストン31の周面部にはその軸方向に沿う縦溝48を形成し、この縦溝48に対して上記ガイドピン47を係合させてある。」(第2頁左下欄第18行-第3頁右下欄第12行)

なお上記(※)の「両筒部3a,3b」は、「両筒部36a,36b」の誤記
である(同公報に添付された手続補正書参照)。

(イ)



イ 上記ア(ア)?(イ)の記載から、引用文献1には、以下の事項が記載されて
いると認められる。

(ア)上記ア(ア)の「一方、上記ピストン31の上端にはおねじ31aが形成され、このおねじ31aには連結管42の一端部に形成しためねじ42aがねじ込み固定されている。さらに連結管42の外端部には比較的硬質のプラスチックからなる操作釦43が嵌着されている。」、及び、ア(イ)の第2図から、引用文献1には、「ピストン31、前記ピストン31に連結する連結管42、前記連結管42に嵌着される操作釦43」が記載されているものと認められる。

(イ)上記ア(ア)の「上記シリンダ24の内部には切換え制御用のピストン31が上下動自在に嵌挿されている。そしてこのピストン31の内方側端部内にはその軸方向に沿う中空孔32が形成され、この中空孔32の上端はピストン31の中途部側壁に設けた開孔33を介して側方へ開通している。この開孔33は第2図で示すようにピストン31が待機位置にあるとき、シリンダ24の外方端よりも上方へ突出しており、また、後述するようにピストン31を押込み操作すると、その開孔33がシリンダ24の開孔部29に対向一致してそれに連通するようになっている。」、及び、ア(イ)の第2図から、引用文献1には、「ピストン31は、ピストン31の軸方向に沿う中空孔32、および前記中空孔32に対して側方に配置された開孔33を備える」ことが記載されているものと認められる。

(ウ)上記ア(ア)の「上記突当て部材36はそれぞれ金属製の外筒部36aと内筒部36bとを同心的に配置し、その両筒部3a,3b(※36a,36bの誤記)の一方の端部間を連結用底壁部36cで一体に連設形成したものであり、外筒部36aにはほぼ円筒状に形成したゴム部材37が一体的に連設してある。
・・・また、突当て部材36の内筒部36bの外端にはその径方向内側に張り出す突当て部39が一体に形成されている。そして、この突当て部39には待機位置における前記ピストン31の上端段部41が当り、待機時の位置規制を行なうようになっている。」、及び、ア(イ)の第2図から、引用文献1には、「外筒部36aと、ピストン31の待機時の位置規制を行なう突当て部39が形成された内筒部36bと、外筒部36a、内筒部36bの一方の端部間を一体に連設形成した連結用底壁部36cを備える突当て部材36」が記載されているものと認められる。
また、ア(イ)の第2図から、「外筒部36a」は、ピストン31の周囲に配置されることが見て取れる。

(エ)上記ア(ア)の「さらに、上記連結管42の外端周縁と上記突当て部材36の底壁部36cとの間にはピストン31の周囲に位置して付勢部材としてのコイルばね45が介在している。そして、上記ピストン31を外方へ向けて付勢し、ピストン31の上端段部41が突当て部39に当る位置に待機させている。」、及び、ア(イ)の第2図から、引用文献1には、「突当て部材36の底壁部36cと連結管42との間に介在するコイルばね45」が記載されているものと認められる。

(オ)上記ア(ア)の「上記突当て部材36はそれぞれ金属製の外筒部36aと内筒部36bとを同心的に配置し、その両筒部36a,36bの一方の端部間を連結用底壁部36cで一体に連設形成したものであり、外筒部36aにはほぼ円筒状に形成したゴム部材37が一体的に連設してある。つまり、ゴム部材37は突当て部材36の外筒部36aに対してインサート成形により一体的に取着固定されている。」、及び、ア(イ)の第2図から、引用文献1には、「突当て部材36の外筒部36aに対してインサート成形により一体的に取着固定されたゴム部材37」が記載されているものと認められる。

(カ)上記ア(ア)の「上記吸引切換え弁21は第2図で示すように構成されている。・・・」から、引用文献1には、「吸引切換え弁21」が記載されているものと認められる。

以上をふまえると、引用文献1には、以下の発明が記載されているものと認められる(以下「引用発明」という。)。

「ピストン31、前記ピストン31に連結する連結管42、前記連結管42に嵌着される操作釦43、突当て部材36、コイルばね45、ゴム部材37を備え、
前記ピストン31は、ピストン31の軸方向に沿う中空孔32、および前記中空孔32に対して側方に配置された開孔33を備え、
前記突当て部材36は、ピストン31の周囲に配置される外筒部36aと、ピストン31の待機時の位置規制を行なう突当て部39が形成された内筒部36bと、外筒部36a、内筒部36bの一方の端部間を一体に連設形成した連結用底壁部36cを備え、
前記コイルばね45は、突当て部材36の底壁部36cと連結管42の間に介在し、
前記ゴム部材37は、突当て部材36の外筒部36aに対してインサート成形により一体的に取着固定されている、
吸引切換え弁21。」

(2)対比
本願発明1?17のうち、本願発明1は、「吸込弁を製造する方法」であり、本願発明5は「吸込弁アセンブリ」の発明であるところ、引用発明は、「吸引切換え弁21」の発明であるので、以下、同一カテゴリーの独立請求項である、本願発明5と、引用発明とを対比することとする。
そして、本願発明5と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。

ア 「ステム:stem」は「茎」乃至「軸」を意味するものであるから、本願発明5の「ステム」は、軸状の部材を意味するものと認められる。
そうすると、引用発明の「ピストン31、前記ピストン31に連結する連結管42、前記連結管42に嵌着される操作釦43」からなる部分は、上記(1)ア(イ)の第2図から明らかに「軸状の部材」であるから、上記「ピストン31、前記ピストン31に連結する連結管42、前記連結管42に嵌着される操作釦43」からなる構成は、本願発明5の「ステム」に相当する。

イ 引用発明の「ピストン31の軸方向に沿う中空孔32」、「前記中空孔32に対して側方に配置された開孔33」は、それぞれ、本願発明5の「当該ステムの縦軸に沿って配置された第1の開口」、「前記第1の開口に対して横に配置された第2の開口」に相当する。
また、上記「中空孔32」「開孔33」は、空気または流体の通過を許容するためのものであることは明らかである。

ウ 引用発明の「突当て部材36」は、ピストン31に取り付けられることが上記(1)ア(イ)の第2図から見て取れる。
また、「ピストン31の待機時の位置規制を行なう」ものである「内筒部36b」の内側に、ピストン31の上方および下方への位置移動を許容する開口を備えることは、上記(1)ア(イ)の第2図から明らかである。
そして、「外筒部36a」は、「筒部」であり、「ほぼ円筒状に形成したゴム部材37が一体的に連設してある」((1)ア(ア)参照)ものであるから、「円筒状」であることは明らかであり、本願発明5の「前記ステムの周囲に配置される円筒状の外輪」に相当する。
したがって、引用発明の「ピストン31の周囲に配置される外筒部36a、および、ピストン31の待機時の位置規制を行なう突当て部39が形成された内筒部36b」を備える「突当て部材36」は、本願発明5の「前記ステムに取り付けるように構成され、前記ステムを受け入れて、当該ばね支柱に関して前記ステムの上方へのおよび下方への位置の移動を許容するように構成される開口と、前記ステムの周囲に配置される円筒状の外輪とを備える」「ばね支柱」に相当する。

エ 引用発明の「突当て部材36の底壁部36cと連結管42の間に介在」する「コイルばね45」は、(本願発明5の「ステム」に相当する構成の一部である)「連結管42」、及び、「突当て部材36の底壁部36c」と接触するように構成されることは、上記(1)ア(イ)の第2図から明らかであり、本願発明5の「前記ばね支柱および前記ステムと接触するように構成され」る「ばね」に相当する。

オ 引用発明の「ゴム部材37」は、本願発明5の「ブート」に相当する。また、引用発明の「ゴム部材37」は、「突当て部材36の外筒部36aに対してインサート成形により一体的に取着固定されている」ものであるから、「ゴム部材37」の内側表面は、突当て部材36の外筒部36aに対して合わさるように形成されるものである。

カ 引用発明の「吸引切換え弁21」は、本願発明5の「吸込弁アセンブリ」に相当する。

以上のことから、本願発明5と、引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

【一致点】
「吸込弁アセンブリであって、
ステム、ばね支柱、ばね、およびブートを備え、
前記ステムは、当該ステムの縦軸に沿って配置された第1の開口、および前記第1の開口に対して横に配置された第2の開口を備え、前記第1および第2の開口は、空気および/または流体の通過を許容するためのものであり、
前記ばね支柱は、前記ステムに取り付けるように構成され、前記ステムを受け入れて、当該ばね支柱に関して前記ステムの上方へのおよび下方への位置の移動を許容するように構成される開口と、前記ステムの周囲に配置される円筒状の外輪と、を備え、
前記ばねは、前記ばね支柱および前記ステムと接触するように構成され、
前記ブートの内側の表面は、前記ばね支柱と合わさるように形成される、
吸込弁アセンブリ。」

【相違点】
「ブートの内側の表面」について、本願発明5は、「前記ばね支柱の全周にわたって円筒状の壁の外側面と下端から上端に至るまで連続的に合わさるように形成される」のに対し、引用発明の「ゴム部材37」は、突当て部材36の外筒部36aに対して合わさるように形成されているものの、「前記ばね支柱の全周にわたって円筒状の壁の外側面と下端から上端に至るまで連続的に」合わさるように形成されているのか、定かではない点。

(3) 判断
以下、相違点について検討する。
上記(1)ア(イ)の第2図を参照すると、外筒部36aと底壁部36cの間が切り欠かれており、ゴム部材37は、上記と外筒部36aと底壁部36cの間の部分は突き当て部材36の内側まで入り込んで形成されている図が示されているが、上記のように「外筒部36a」は「突当て部材36」の一部であり、「外筒部36a、内筒部36b、底壁部36c」は、「一体に連設形成したもの」であるので、外筒部36aと底壁部36cは少なくとも周方向の一部で接続して形成されたものであることは明らかである。
また、引用発明の「ゴム部材37」は「突当て部材36の外筒部36aに対してインサート成形により一体的に取着固定」されるものであり、インサート成形により2つの部材を一体的に成形する際に、成形後の部材において求められる形状等に応じて適宜の切り欠きを設けたり、あるいは切り欠きを設けずに成形する構成とすることは、必要に応じて適宜行われる設計的事項にすぎず、引用発明における突当て部材36の「外筒部36a」と「底壁部36c」との間に切り欠き設けずに、「外筒部36a」を、全周にわたって一様な壁として構成することは、当業者が適宜なし得る事項である。
そうすると、「突当て部材36の外筒部36aに対してインサート成形により一体的に取着固定」される「ゴム部材37」の内側の表面は、「突当て部材36の全周にわたって外筒部36aの外側面と下端から上端に至るまで連続的に合わさるように形成される」こととなり、上記相違点に係る構成を満たすこととなる。

さらに、内視鏡の吸込弁の「ブートの内側の表面」を「ばね支柱の円筒状の壁の外側面と下端から上端に至るまで連続的に合わさるように形成」することは、例えば、当審による拒絶理由通知の引用文献2(特に段落【0032】、第2図のピストン受け筒22及びカバー22a参照)、同引用文献3(特に段落【0109】、第14図の取り付け基部515及び保持部材516参照)に記載されるように周知の構成にすぎないから、当該周知の構成を引用発明に適用し、引用発明の「ゴム部材37」の内側の表面を、「前記突当て部材36の円筒状の外筒部36aの外側面と下端から上端に至るまで連続的に合わさるように形成される」ように構成することは、当業者なら適宜なし得ることであり、この意味においても、上記相違点は当業者なら容易に想到しうるものである。
したがって、本願発明5は、引用発明に基づいて当業者が容易に想到しうるものである。

(4) 請求人の主張について
ア 請求人は令和2年5月18日付けの意見書の「(I 理由4)5-1.本願発明5と各引用文献記載の発明との対比」において、
「(1)本願発明5と引用文献1記載の発明との対比
引用文献1記載の発明は、上記要件5Gを具備していません。
引用文献1の内視鏡では、突き当て部36が内筒部36b及び外筒部36aを有するとは記載されているものの(3頁右上欄6?7行参照)、外筒部36aは断続的で、ゴム部材37自体が突き当て部36の外周を形成していることが図示されています(図2、図4、図5、図10、11等参照)。引用文献の突き当て部36は、外筒部36aの「全周にわたって」「下端から上端に至るまで連続的に合わさるように形成」されていません。よって、上記要件5Gを具備しておりません。

(2)本願発明5と引用文献2及び3記載の発明との対比
引用文献2の内視鏡用操作ボタン及び引用文献3の内視鏡の湾曲操作装置は、上記要件5Gを具備しておりません。
引用文献2には、ピストン受け筒22とカバー22aとが「下端から上端に至るまで連続的に合わさるように形成」される構成が図示されています(図2参照)。
引用文献3には、取付け基部515と保持部材516とが「下端から上端に至るまで連続的に合わさるように形成」される構成が図示されています(図14参照)。しかし、いずれの文献の明細書及び図面にも、それぞれが「全周にわたって」連続的に合わさっているか否かについては明記されていません。よって、何れの文献に記載の発明も、上記要件5Gを具備していません。

(3)本願発明5と各引用文献に記載の発明の組み合わせとの対比
以上のように、引用文献1?3のいずれにも、ブートの内側の表面が、ばね支柱の「全周にわたって」円筒状の壁の外側面と下端から上端に至るまで連続的に合わさるように形成されることは明示されていません。拒絶理由通知では、当業者であれば、引用文献1?3の内容から容易に想到しうるものであると述べられております。しかし、引用文献1では、突き当て部材36は金属製で(3頁右上欄6行目参照)剛性があるため、強度を確保する目的でゴム部材37と全周にわたって合わさることは、必要でありません。同様に、引用文献3においても、保持部材516が硬質のプラスチック又は金属であり、取り付け基部515がシリコゴムであることから、両者が全周にわたって合わさることは、必要ではありません。引用文献2においては、ピストン受け筒22の材質は明らかでありませんが、もとよりピストン20のシール部材30に関する発明の文献であり、詳細な考察はなされておりません。引用文献1?3のいずれにも、高価な材料から吸い込み弁を製造するための高いコストを省くという課題を有しておりません。
これに対して本願発明5では、ブートとばね支柱の外側の壁が全周にわたって、下端から上端まで連続的に合わさることにより、強度を確保することができます。その結果、(ア)「高価な材料から吸込弁を製造するための高いコストを省く」(段落0007参照)という効果を奏します。そして、低いコストで吸い込み弁アセンブリが製造される結果、(イ)「洗浄、消毒及び滅菌の必要がなく、繰り返し使わなくてもよい」という効果も重ねて奏します。」(「上記要件5G」は、「前記ブートの内側の表面は、前記ばね支柱の全周にわたって円筒状の壁の外側面と下端から上端に至るまで連続的に合わさるように形成される、吸込弁アセンブリ。」のこと。)
と主張する。

イ 上記「(1)本願発明5と引用文献1記載の発明との対比」について
請求人が主張するように、引用発明は、「前記ブートの内側の表面は、前記ばね支柱の全周にわたって円筒状の壁の外側面と下端から上端に至るまで連続的に合わさるように形成される」の構成を備えていないが、上記「(3)判断」で示したとおり、上記構成は、設計的事項、または、引用文献2,3に例示される周知技術から当業者が容易に想到しうる事項である

ウ 上記「(2)本願発明5と引用文献2及び3記載の発明との対比」について
上記引用文献2、引用文献3の図面には、吸込弁の断面図しか示されておらず、上記「ブートの内側の表面」を「ばね支柱の円筒状の壁の外側面と下端から上端に至るまで連続的に合わさるように形成」する構成が、「ばね支柱の全周にわた」るものであるのか明示的には示されていないが、上記図面に示された「ブートの内側の表面」を「ばね支柱の円筒状の壁の外側面と下端から上端に至るまで連続的に合わさるように形成」することに対応する構成が、周方向の一部にのみ適用されるものであると解すべき特段の理由は認められず、上記図面に示された上記構成は、「全周にわたって」形成されたものと解するのが相当である。
仮に、上記引用文献2,3の図面に示された構成が、周方向の一部にのみ適用されるものであると解したとしても、これを「全周にわたって」形成する構成とすることは、単なる設計的事項にすぎず、当業者なら適宜変更しうる事項である。

エ 上記「(3)本願発明5と各引用文献に記載の発明の組み合わせとの対比」について
請求人は、「これに対して本願発明5では、ブートとばね支柱の外側の壁が全周にわたって、下端から上端まで連続的に合わさることにより、強度を確保することができます。その結果、(ア)「高価な材料から吸込弁を製造するための高いコストを省く」(段落0007参照)という効果を奏します。そして、低いコストで吸い込み弁アセンブリが製造される結果、(イ)「洗浄、消毒及び滅菌の必要がなく、繰り返し使わなくてもよい」という効果も重ねて奏します。」と主張するが、本願発明5における「前記ブートの内側の表面は、前記ばね支柱の全周にわたって円筒状の壁の外側面と下端から上端に至るまで連続的に合わさるように形成される」という構成は、平成31年1月9日付けの手続補正書、令和元年7月11日付け手続補正書、令和2年5月18日付け手続補正書において、出願当初の明細書に添付された図面の第8図を主な根拠として、追加されたものであって、上記構成により、「強度を確保することができ」るとすることは、本願の出願当初の明細書等に何ら記載されていないし、「高価な材料から吸込弁を製造するための高いコストを省く」、「洗浄、消毒及び滅菌の必要がなく、繰り返し使わなくてもよい」といった効果を期待できるということも一切記載されていない。
そして、単に「ブート」と「ばね支柱」の内側表面を全周にわたって円筒状の壁の外側面と下端から上端に至るまで連続的に合わさるように形成するだけで、「高価な材料から吸込弁を製造するための高いコストを省く」ことができるほどの十分な強度が確保できると推認できる特段の事情も認められない。
したがって、本願発明5は、引用発明と比較して特段の有利な効果を有するものとは認められない。

4 そうすると、当審が通知した拒絶理由における理由3について、判断するまでもなく、本願の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本願発明5の記載が同第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願発明5は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本願発明5の記載が同第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願発明5は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-09-11 
結審通知日 2020-09-15 
審決日 2020-09-28 
出願番号 特願2017-239522(P2017-239522)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61B)
P 1 8・ 121- WZ (A61B)
P 1 8・ 536- WZ (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森口 正治森川 能匡  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 森 竜介
松谷 洋平
発明の名称 内視鏡用の使い捨て可能な吸込弁  
代理人 藤田 和子  

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