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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04S
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04S
管理番号 1371224
審判番号 不服2019-15445  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-18 
確定日 2021-02-10 
事件の表示 特願2017-126130「オーディオ提供装置及びオーディオ提供方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月 9日出願公開、特開2017-201815〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)12月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年(平成24年)12月4日、米国)を国際出願日とする出願である特願2015-546386号の一部を、平成29年6月28日に新たな特許出願としたものであって、平成30年7月23日付けで拒絶理由が通知され、平成30年10月29日に手続補正がされ、平成31年1月21日付けで拒絶理由が通知され、令和1年7月1日に手続補正がされ、令和1年7月9日付けで拒絶査定がされ、これを不服として令和1年11月18日に本件審判請求がされ、同時に手続補正がされたものである。

第2 令和1年11月18日にされた手続補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
令和1年11月18日にされた手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
令和1年11月18日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)は、令和1年7月1日に補正された特許請求の範囲の請求項1の記載を、本件補正後の請求項1の記載にする補正を含むものであり、本件補正前後の請求項1の記載は、それぞれ、次のとおりである。(下線部は、補正箇所である。)

[本件補正前の請求項1]
1つの高さ入力チャネル信号を含む複数の入力チャネル信号を受信する段階と、
前記受信した複数の入力チャネル信号のうち、相関度を有する入力チャネル信号の位相差を整列する段階と、
前記整列された位相差、入力レイアウト、及び出力レイアウトに基づいて、高度感のあるサウンドを提供するために、前記複数の入力チャネル信号を複数の出力チャネル信号にコンバーティングする段階と、を含み、
前記複数の出力チャネル信号は、ヘッド関連伝達関数とパニングゲインを使用してコンバーティングされ、
前記複数の入力チャネル信号の前記入力レイアウトは、1つの高度角度情報を含み、前記複数の出力チャネル信号の前記出力レイアウトは、水平面である、ことを特徴とするオーディオ提供方法。

[本件補正後の請求項1]
1つの高さ入力チャネル信号を含む複数の入力チャネル信号を受信する段階と、
前記受信した複数の入力チャネル信号のうち、相関度を有する入力チャネル信号の位相差を整列する段階と、
前記整列された位相差、入力スピーカレイアウト、及び出力スピーカレイアウトに基づいて、高度感のあるサウンドを提供するために、前記複数の入力チャネル信号を複数の出力チャネル信号にコンバーティングする段階と、を含み、
前記複数の出力チャネル信号は、ヘッド関連伝達関数とパニングゲインを使用してコンバーティングされ、
前記複数の入力チャネル信号の前記入力スピーカレイアウトは、1つの高度角度情報を含み、前記複数の出力チャネル信号の前記出力スピーカレイアウトは、水平面である、ことを特徴とするオーディオ提供方法。

2 補正の適否
(1)補正の目的
上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明特定事項である「入力レイアウト」、「出力レイアウト」を、それぞれ、「入力スピーカレイアウト」、「出力スピーカレイアウト」と限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件
本件補正は特許法第17条の2第5項第2号に該当するので、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記本件補正後の請求項1の記載により特定される次のとおりのものである。なお、本願発明の各構成について(A)?(D)の符号を付し、以下、構成A?Dと称する。

[本件補正発明]
(A)1つの高さ入力チャネル信号を含む複数の入力チャネル信号を受信する段階と、
(B)前記受信した複数の入力チャネル信号のうち、相関度を有する入力チャネル信号の位相差を整列する段階と、
(C)前記整列された位相差、入力スピーカレイアウト、及び出力スピーカレイアウトに基づいて、高度感のあるサウンドを提供するために、前記複数の入力チャネル信号を複数の出力チャネル信号にコンバーティングする段階と、を含み、
(C1)前記複数の出力チャネル信号は、ヘッド関連伝達関数とパニングゲインを使用してコンバーティングされ、
(C2)前記複数の入力チャネル信号の前記入力スピーカレイアウトは、1つの高度角度情報を含み、
(C3)前記複数の出力チャネル信号の前記出力スピーカレイアウトは、水平面である、
(D)ことを特徴とするオーディオ提供方法。

イ 引用文献、引用発明
(ア)引用文献1の記載事項、引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された特表2008-509600号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次に掲げる事項が記載されている。
なお、下線は強調のために当審で付したものである。

「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いくつかのオーディオチャンネルが結合されている多チャンネルオーディオ信号のチャンネル数の変更に関する。本発明の応用例には映画館や車両における多チャンネルオーディオの提供が含まれる。本発明には方法だけでなく、コンピュータプログラムによる実施及び装置による実施が含まれる。
【背景技術】
【0002】
最近の数十年間で、多チャンネルオーディオ素材の制作、配給、及び上演が増え続けている。この増加は、5.1チャンネル再生システムがほとんど普遍的になっている映画産業により、最近では5.1多チャンネルミュージックを制作し始めた音楽産業により目覚しく推進されてきた。
【0003】
一般に、このようなオーディオ素材は、素材として同じ数のチャンネルを持つ再生システムにより上演される。例えば、5.1チャンネルフイルムサウンドトラックは5.1チャンネルシネマ又は5.1チャンネルホームシアターオーディオシステムにより上演される。しかし、例えば、2個又は4個の再生チャンネルしか持たない自動車で5.1チャンネル素材を再生したり、5.1チャンネルシステムしか装備しない映画館で5.1チャンネル以上の映画サウンドトラックを再生したりするような、オーディオ素材のチャンネル数と同じ表現チャンネル数を持たないシステム又は環境中で多チャンネル素材を上演したいという要求は増大している。このような状況の元で、多チャンネル信号を表現するためにいくつかの又はすべてのチャンネルを結合又は「ダウンミックス」したいとするニーズがある。
【0004】
チャンネルの結合により可聴アーティファクトが生じることがある。例えば、ある周波数成分は、他の周波数成分が強くなったとき又は大きくなったとき打ち消されることがある。結合された2以上のチャンネル中に類似の又は相互に関係のあるオーディオ信号が存在する結果生じることがよくある。
【0005】
チャンネルを結合した結果生じるアーティファクトを極小化又は削除することが本発明の1つの目的である。本発明の他の目的は、本明細書を読んで理解することにより認識できるであろう。
【0006】
チャンネルを結合することは、チャンネル数を減少させるためだけではなく他の目的のためにも必要であることに留意しなければならない。例えば、多チャンネル信号中の2つ以上の元のチャンネルを組み合わせである付加的な再生チャンネルを作るニーズがあるかもしれない。これは、元のチャンネル数より多くする「アップミックス」の一形式として特徴づけることもできる。このように、「ダウンミックス」又は「アップミックス」のいずれの状況においても、チャンネルを結合することによりさらなるチャンネルを作ることは、可聴アーティファクトの原因となる可能性がある。
【0007】
チャンネルを結合することによるアーティファクトを最小限にするために共通する技法は、例えば、結合すべきチャンネル、又は、結合した後のチャンネル、又は、その両方に位相及び振幅(又はパワー)の調整を1回以上加えることを伴う。オーディオ信号は本質的に動的である。即ち、その特性は時間により変化する。したがって、オーディオ信号のそのような調整は一般に動的に計算し適用される。結合処理の結果生じたアーティファクトを削除するときに、そのような動的な処理により他のアーティファクトを生じさせることがある。このような動的な処理によるアーティファクトを最小限にするために、本発明は、聴覚の情景分析を採用し、原則として、聴覚の情景又は聴覚イベントの期間の動的な処理の調整を実質的に一定に保持し、そのような調整の変更を聴覚の情景又は聴覚イベントの境界部でのみ許可する。」

「【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の一般的な実施の形態を図1に示す。ここでは、オーディオチャンネル結合器又は結合処理100が示される。複数の入力チャンネル、P入力チャンネル、101-1から101-Pまで、がチャンネル結合器又は結合機能(「結合チャンネル」)102及び聴覚の情景分析装置又は聴覚の情景分析機能(「聴覚の情景分析」)103に入力される。2以上の入力チャンネルを結合することができる。チャンネル1?Pは、1組の入力チャンネルの一部又は全部を構成する。結合チャンネル102は、ここに入力されたチャンネルを結合する。この結合が、例えば、線形の付加結合であっても、結合技術は本発明にとって重要ではない。入力されたチャンネルを結合するのに加えて、結合チャンネル102は、結合すべきチャンネル又は結合した後のチャンネル又は結合すべきチャンネルと結合した後のチャンネルの両方のチャンネルに、時間、位相、及び振幅又はパワーの調整を動的に加える。このような調整は、混合アーティファクト又はチャンネル結合アーティファクトを削減することにより、チャンネル結合の質を改善する目的で行うことができる。特別な調整技術は、本発明において決定的なものではない。結合と調整のための適切な技法の例は、Mark Franklin Davisが2004年3月1日に出願した、米国暫定特許出願S.N.60/549,368、表題「Low Bit Rate Audio Encoding and Decoding in Which Multiple Channels Are Represented by a Monophonic Channel and Auxiliary Information」代理人受領証DOL11501と、Mark Franklin Davis等が2004年6月14日に出願した、米国暫定特許出願S.N.60/579,974、表題「Low Bit Rate Audio Encoding and Decoding in Which Multiple Channels Are Represented by a Monophonic Channel and Auxiliary Information」代理人受領証DOL11502と、Mark Franklin Davis等が2004年7月14日に出願した、米国暫定特許出願S.N.60/588,256、表題「Low Bit Rate Audio Encoding and Decoding in Which Multiple Channels Are Represented by a Monophonic Channel and Auxiliary Information」代理人受領証DOL11503とに記載されている。DavisとDavis等の上記3つの暫定特許出願のそれぞれは、参照としてすべて本明細書に組み込まれる。聴覚の情景分析103は、例えば、上述の出願における1つ以上の技法を用いて、又は他の適切な聴覚の情景分析装置又は聴覚の情景分析方法により、聴覚の情景情報を導き出す。少なくとも聴覚イベント同士の境界位置を含むこのような情報104は、結合チャンネル102に入力される。1以上の上記調整は、少なくともその一部は、結合されるべき1以上のチャンネル及び/又は結合された後のチャンネルにおける聴覚イベントの指標により制御される。
【0015】
図2は、本発明の特徴を実施したオーディオ信号プロセッサ又はオーディオ信号の処理方法200の一例を示している。結合すべき複数のオーディオチャンネル1?Pの信号101-1?101-Pは、図1と関連して説明したように、時間及び/又は位相修正装置又は時間及び/又は位相修正処理(「時間及び位相修正」)202に適用され、そして、聴覚の情景分析装置又は聴覚の情景分析処理(「聴覚の情景分析」)103に適用される。チャンネル1?Pは、1組の入力チャンネルの一部又はすべてを構成することができる。以下に図3と関連して説明するように、聴覚の情景分析103は、聴覚の情景情報104を導き出し、時間及び/又は位相修正を個々のチャンネルに適用し結合する時間及び位相修正202にそれを入力する。修正されたチャンネル205-1から205-Pまでは、次いで、チャンネルを結合して単一の出力チャンネル207を生成するチャンネル混合装置又はチャンネル混合処理(「チャンネルの混合」)206に適用される。さらに以下に記載するように、随意的に、チャンネルの混合206も聴覚の情景分析情報104により制御してもよい。図1及び図2の例に示したように、本発明の特徴を実施するオーディオ信号プロセッサ又はオーディオ信号処理方法は、チャンネル1?Pを結合して1以上の出力チャンネルを生成することもできる。」

「【0024】
[時間及び位相の修正202(図2)]
時間及び位相の修正202では、入力チャンネル同士の高い相関性及び時間及び位相の差を探す。図3は、時間及び位相の修正202をさらに詳細に示したものである。以下に説明するように、各ペアの内の1つのチャンネルが参照チャンネルとなる。相関性検出に適切な1技法を以下に説明する。他の適当な相関性検出技法を用いることもできる。非参照チャンネルと参照チャンネルとの間に高い相関性がある場合、この装置又はプロセスにおいて、非参照チャンネルの位相特性又は時間特性を修正することにより2つのチャンネル間の位相差又は時間差を減少させるよう試み、そして、この2つのチャンネルを結合するとき生じる可能性のあった可聴なチャンネル結合アーティファクトを減少又は削減する。そのようなアーティファクトのいくつかを一例として説明する。図5は、白色ノイズ信号の振幅スペクトルを示す。図5bは、白色ノイズからなる第1のチャンネルと、同じ白色ノイズからなるが約0.21ミリ秒の時間遅れを持つ第2のチャンネルとを単純に結合させた結果の振幅スペクトルを示す。遅れの無い白色ノイズと遅れのある白色ノイズとを結合させるとスペクトルの削除とスペクトルシェーピングとを行い、一般にくし型フィルタによるフィルタリングと呼ばれ、聞こえるサウンドは各入力信号の白色ノイズとは大きく異なる。」

「【0058】
解決手法は、映画オーディオにおける実施例での方法で説明することもできる。図7aと図7bは2組のオーディオチャンネルの部屋又は空間での位置を示す。図7aは、多チャンネルオーディオ信号中に表現されている、あるいは、「コンテンツチャンネル」と称されているチャンネルの概略空間位置を示している。図7bは、5チャンネルオーディオ素材を再生する装備がなされた映画館で再生することのできる「再生チャンネル」と称されているチャンネルの概略位置を示している。あるコンテンツチャンネルは対応する再生チャンネル位置、すなわちL,C,R,RS,及びLSチャンネルを持っている。他のコンテンツチャンネルは対応する再生チャンネル位置を有せず、したがって、1以上の再生チャンネルに混合させなければならない。一般的な方法は、そのようなコンテンツチャンネルを直近の再生チャンネルに結合させることである。」





上記記載事項(特に、下線部)によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
なお、引用発明の各構成の符号は、説明のために当審にて付したものであり、以下、構成aないし構成dと称する。また、【】内は、対応する構成が記載された引用文献1の段落番号を示す。

[引用発明]
(a)いくつかのオーディオチャンネルが結合されている多チャンネルオーディオ信号のチャンネル数の変更に関し、多チャンネルオーディオの提供が含まれる方法であって、【0001】
(b)5.1チャンネルシステムしか装備しない場合に、5.1チャンネル以上のサウンドトラックを再生したりするような状況の元で、いくつかの又はすべてのチャンネルを結合又は「ダウンミックス」したいとするニーズにより、チャンネルを結合した結果生じるアーティファクトを極小化又は削除することを目的とし、【0003】?【0005】
(c)結合すべき複数のオーディオチャンネル1?Pの信号101-1?101-Pは、時間及び位相修正202に適用され、チャンネル1?Pは、1組の入力チャンネルの一部又はすべてを構成することができ、時間及び/又は位相修正を個々のチャンネルに適用し結合する時間及び位相修正202にそれを入力し、修正されたチャンネル205-1から205-Pまでは、次いで、チャンネルを結合して単一の出力チャンネル207を生成するチャンネルの混合206に適用され、オーディオ信号処理方法は、チャンネル1?Pを結合して1以上の出力チャンネルを生成することもでき、【0015】
(d)時間及び位相の修正202では、入力チャンネル同士の高い相関性及び時間及び位相の差を探し、各ペアの内の1つのチャンネルが参照チャンネルとなり、非参照チャンネルと参照チャンネルとの間に高い相関性がある場合、非参照チャンネルの位相特性又は時間特性を修正することにより2つのチャンネル間の位相差又は時間差を減少させるよう試み、そして、この2つのチャンネルを結合するとき生じる可能性のあった可聴なチャンネル結合アーティファクトを減少又は削減する、【0024】
(a)方法。

(イ)引用文献2の記載事項
本願優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2012/005507号(以下、「引用文献2」という。)には、図6とともに次に掲げる事項が記載されている。

「[136]
FIG. 6 is a diagram showing an example of a 3D sound reproducing apparatus 100 for localizing a virtual sound source to a predetermined elevation by outputting 7-channel signals through 5 speakers, according to another exemplary embodiment.
[137]
The 3D sound reproducing apparatus 100 of FIG. 6 is the same as thatshown in FIG. 4 except for that the output signals that are supposed to output through the left top speaker (the speaker for the left top channel signal 413)and the right top speaker (the speaker for the right top channel signal 415) in Fig. 4, are output through the front left speaker (the speaker for the front left channel signal 611) and the front right speaker (the speaker for the front right channel signal 615) respectively.」
(訳:
[136]
別の実施例によれば、図6は、7チャンネル信号を5つのスピーカを通して出力することにより、仮想音源を予め定められた高度角に設定する、3Dサウンド再生装置100の一例を示すダイアグラムである。
[137]
図6の3Dサウンド再生装置100は、図4では左上のスピーカ(左上チャネル信号413のためのスピーカ)と右上のスピーカ(右上チャネル信号415のためのスピーカ)から出力されることとされている出力信号が、それぞれ、左前のスピーカ(左前チャネル信号611のためのスピーカ)と右前のスピーカ(右前チャネル信号615のためのスピーカ)から出力されることを除いて、図4に示されるものと同様である。)





(ウ)引用文献3の記載事項
本願優先日前に頒布された刊行物である特開2012-49967号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図6とともに次に掲げる事項が記載されている。
なお、下線は強調のために当審で付したものである。

「【0001】
本発明は、あるチャンネル数に対応する音響信号を、そのチャンネル数と異なるチャンネル数に対応する音響信号に変換する音響信号変換装置およびそのプログラム、ならびに、3次元音響パンニング装置およびそのプログラムに関する。」

「【0064】
これによって、再生チャンネル決定手段42は、1つの原音チャンネルを、3つの再生チャンネルに音響信号を分配する際に、面積最小の球面三角形で特定される再生スピーカの組を選択するため、記憶手段30に記憶されている再生スピーカの中から、音像をより明確に定位させる再生スピーカを決定することができる。
【0065】
重み係数計算手段43は、個々の原音チャンネル(原スピーカ)の音響信号を、再生チャンネル決定手段42によって決定された3つの再生チャンネル(再生スピーカ)に分配するための重み(重み係数)を計算するものである。この重み係数計算手段43は、計算により求めた重み係数を、音響信号分配手段50に出力する。」

「【0117】
[音響信号変換例]
次に、図6?図8を参照して、スーパーハイビジョン用22.2マルチチャンネルシステムの音響信号のうち、LFEチャンネルを除いた22チャンネルの音響信号を、10チャンネルの音響信号に変換する例について説明する。
【0118】
図6は、音響信号変換前のスーパーハイビジョン用22.2マルチチャンネルシステムのスピーカ位置を図示したものである。図6中、○印は受音点の位置を示し、●印はスピーカ(原スピーカ)の位置を示している。ここでは、仰角0°で方位角が0°,30°,60°,90°,120°,150°,180°,225°,270°,315°の方向に10個、仰角45°で方位角が0°,45°,90°,135°,180°,225°,270°,315°の方向に8個、仰角90°の方向に1個,仰角-30°で方位角が45°,90°,135°の方向に3個、計22個のスピーカを配置した例を示している。」

「【図6】



(エ)引用文献4の記載事項
本願優先日前に頒布された刊行物である特開2011-211312号公報(以下、「引用文献4」という。)には、図面とともに次に掲げる事項が記載されている。
なお、下線は強調のために当審で付したものである。

「【0023】
まず、仮想音像生成処理部4について説明する。図2に仮想音像生成処理部4の構成の一例を示す。図2において、211?216は仮想音像を作るための信号にそれぞれ重み係数K11?K16を掛けるための係数器、221?232はそれぞれ特性EQ21?EQ32を有する頭部伝達関数フィルタ、241?252はそれぞれ頭部伝達関数フィルタ221?232の出力信号にパンニングのための係数K41?K52を掛ける係数器、261?264は加算器である。」

「【図2】



ウ 本件補正発明と引用発明との対比
(ア)構成Aについて
引用発明は、構成a、bによれば、「いくつかのオーディオチャンネルが結合されている多チャンネルオーディオ信号のチャンネル数の変更に関し、多チャンネルオーディオの提供が含まれする方法」であって、「5.1チャンネルシステムしか装備しない場合に、5.1チャンネル以上のサウンドトラックを再生したりするような状況の元で、いくつかの又はすべてのチャンネルを結合又は「ダウンミックス」したい」ものであるから、5.1チャンネル以上のオーディオチャンネルをもつ多チャンネルオーディオ信号を入力し、チャンネル数を変更して、5.1チャンネルのオーディオチャンネルをもつオーディオ信号を出力する方法といえる。
したがって、引用発明は、5.1チャンネル以上のオーディオチャンネルをもつ多チャンネルオーディオ信号を入力する段階を含むものであり、この段階は、本件補正発明の「複数の入力チャネル信号を受信する段階」に相当する。
よって、本件補正発明と引用発明は、「(A’)複数の入力チャネル信号を受信する段階」を含む点で共通する。
しかしながら、「(A’)複数の入力チャネル信号を受信する段階」における「複数の入力チャネル信号」が、本件補正発明は、「1つの高さ入力チャネル信号を含む」のに対し、引用発明はそうではない点(相違点1)で両者は相違する。

(イ)構成Bについて
引用発明は、構成c、dによれば、1組の入力チャンネルの一部又はすべてを構成する複数のオーディオチャンネルチャンネル1?Pを、時間及び位相の修正202で、入力チャンネル同士に高い相関性がある場合、2つのチャンネル間の位相差又は時間差を減少させるようにする段階を含むものであり、この段階は、本件補正発明の「(B)前記受信した複数の入力チャネル信号のうち、相関度を有する入力チャネル信号の位相差を整列する段階」に相当する。
よって、本件補正発明と引用発明は、構成Bを含む点で一致する。

(ウ)構成Cについて
上記(ア)で述べたように、引用発明は、5.1チャンネル以上のオーディオチャンネルをもつ多チャンネルオーディオ信号を入力し、チャンネル数を変更して、5.1チャンネルのオーディオチャンネルをもつオーディオ信号を出力する方法といえる。このときの入力や出力の5.1チャンネルなどのオーディオチャンネルは、スピーカレイアウトを示すものであることは、当業者には明らかである(例えば、5.1チャンネルは、前方右、前方左、前方正面、後方右、後方左の5チャンネルのスピーカと低周波スピーカ1チャンネルであることは周知の事項であり、また、引用文献1の段落【0058】、図7a、図7bには、オーディオチャンネルは、オーディオの再生位置(スピーカレイアウト)を示すものであることが記載されている。)。
また、上記(イ)で述べたように、引用発明は、入力チャンネル同士に高い相関性がある場合、2つのチャンネル間の位相差又は時間差を減少させるようにする段階を含むものである。
したがって、引用発明は、高い相関性があるチャンネル間の位相差又は時間差を減少させるように、入力オーディオチャンネルと出力オーディオチャンネルに基づいてオーディオチャンネル数を変更する段階を含むといえる。
引用発明のこの段階は、本件補正発明の「(C)前記整列された位相差、入力スピーカレイアウト、及び出力スピーカレイアウトに基づいて、高度感のあるサウンドを提供するために、前記複数の入力チャネル信号を複数の出力チャネル信号にコンバーティングする段階」と、「(C’)前記整列された位相差、入力スピーカレイアウト、及び出力スピーカレイアウトに基づいて、前記複数の入力チャネル信号を複数の出力チャネル信号にコンバーティングする段階」といえる点では共通し、このような段階を含む点で本件補正発明と引用発明は共通している。
しかしながら、上記共通に含むコンバーティングする段階が、本件補正発明は、「高度感のあるサウンドを提供するために、」コンバーティングするのに対し、引用発明はそうではない点(相違点2)で両者は相違する。

(エ)構成C1?C3について
引用発明は、構成a、bによれば、出力チャンネルは5.1チャンネルであり、5.1チャンネルのスピーカレイアウトが水平面であるのは当業者には明らかなことである。
したがって、本件補正発明と引用発明は、構成C3の点で一致する。
しかしながら、本件補正発明は、「(C1)前記複数の出力チャネル信号は、ヘッド関連伝達関数とパニングゲインを使用してコンバーティングされ」るのに対し、引用発明はそうではない点(相違点3)で両者は相違する。
また、本件補正発明は、「(C2)前記複数の入力チャネル信号の前記入力スピーカレイアウトは、1つの高度角度情報を含」むのに対し、引用発明はそうではない点(相違点4)で両者は相違する。

(オ)構成Dについて
引用発明は、構成aによれば、「多チャンネルオーディオの提供が含まれる方法」であり、「オーディオ提供方法」といえる。
したがって、本件補正発明と引用発明は、構成Dである点で一致する。

(カ)一致点、相違点
以上をまとめると、本件補正発明と引用発明との間には、次の一致点及び相違点があるといえる。

[一致点]
(A’)複数の入力チャネル信号を受信する段階と、
(B)前記受信した複数の入力チャネル信号のうち、相関度を有する入力チャネル信号の位相差を整列する段階と、
(C’)前記整列された位相差、入力スピーカレイアウト、及び出力スピーカレイアウトに基づいて、前記複数の入力チャネル信号を複数の出力チャネル信号にコンバーティングする段階と、
を含み、
(C3)前記複数の出力チャネル信号の前記出力スピーカレイアウトは、水平面である、
ことを特徴とする
(D)オーディオ提供方法。

[相違点]
相違点1
「(A’)複数の入力チャネル信号を受信する段階」における「複数の入力チャネル信号」が、本件補正発明は、「1つの高さ入力チャネル信号を含む」のに対し、引用発明はそうではない点。

相違点2
「(C’)前記整列された位相差、入力スピーカレイアウト、及び出力スピーカレイアウトに基づいて、前記複数の入力チャネル信号を複数の出力チャネル信号にコンバーティングする段階」が、本件補正発明は、「高度感のあるサウンドを提供するために、」コンバーティングするのに対し、引用発明はそうではない点。

相違点3
本件補正発明は、「(C1)前記複数の出力チャネル信号は、ヘッド関連伝達関数とパニングゲインを使用してコンバーティングされ」るのに対し、引用発明はそうではない点。

相違点4
本件補正発明は、「(C2)前記複数の入力チャネル信号の前記入力スピーカレイアウトは、1つの高度角度情報を含」むのに対し、引用発明はそうではない点。

エ 判断
・相違点1、4について
引用発明は、「(b)5.1チャンネルシステムしか装備しない映画館で5.1チャンネル以上の映画サウンドトラックを再生したりするような状況の元で、いくつかの又はすべてのチャンネルを結合又は「ダウンミックス」したい」とするものであるから、入力される多チャンネルオーディオ信号として、5.1チャンネル以上のものが想定されている。そのような多チャンネルオーディオ信号としては様々なものが知られており、高度角度情報によって表された高さ入力チャネル信号を含む信号もよく知られたものである(例えば、引用文献2の[Fig.6]の記載によれば、入力側の7チャンネルの音響信号のうち、左上チャンネル信号LEFT TOP CHANNEL SIGNAL602、右上チャンネル信号RIGHT TOP CHANNEL SIGNAL606は、それぞれの信号が入力されるHRTF(ヘッド関連伝達関数)の隣に30°と記載されているから、30°の高度角のチャンネルであることが看取できる。また、引用文献3の【0117】、【0118】、【図6】には、チャンネル変換前の音響信号の例として、仰角45°などのチャンネルを含む22.2チャンネルスピーカ配置の例が記載されている。)から、そのような信号を引用発明の入力信号として採用することは当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。

・相違点2、3について
高度感のあるサウンドを提供するために、ヘッド関連伝達関数(HRTF)を使用したチャンネルの結合やダウンミックスを行うこと(例えば、引用文献2の[Fig.6]を参照されたい。)、及び、パンの制御のために、パニングゲインを使用してゲイン調整を行うこと(例えば、引用文献3の【0001】、【0064】、【0065】、引用文献4の【0023】、【図2】を参照されたい。)は、いずれも、多チャンネルオーディオ信号の処理として周知の技術であり、引用発明において、高度感のあるサウンドを提供し、かつ、パンの制御を行うために、ヘッド関連伝達関数やパニングゲインを使用してオーディオ信号を調整することは当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。

したがって、引用発明において、上記相違点1乃至4に係る本件発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、本件補正発明が奏する効果は、上記容易想到である構成から当業者が予測し得るものである。
よって、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

オ 独立特許要件のむすび
以上のとおりであるから、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)補正却下の決定の理由のむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和1年11月18日にされた手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1-3に係る発明は、令和1年7月1日に補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

[本願発明]
1つの高さ入力チャネル信号を含む複数の入力チャネル信号を受信する段階と、
前記受信した複数の入力チャネル信号のうち、相関度を有する入力チャネル信号の位相差を整列する段階と、
前記整列された位相差、入力レイアウト、及び出力レイアウトに基づいて、高度感のあるサウンドを提供するために、前記複数の入力チャネル信号を複数の出力チャネル信号にコンバーティングする段階と、を含み、
前記複数の出力チャネル信号は、ヘッド関連伝達関数とパニングゲインを使用してコンバーティングされ、
前記複数の入力チャネル信号の前記入力レイアウトは、1つの高度角度情報を含み、前記複数の出力チャネル信号の前記出力レイアウトは、水平面である、ことを特徴とするオーディオ提供方法。

2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1 特表2008-509600号公報
引用文献2 国際公開2012/005507号(周知技術を示す文献)
引用文献3 特開2012-049967号公報(周知技術を示す文献)

3 引用文献、引用発明
引用文献1乃至3には、上記「第2 2(2)イ」で述べた技術事項乃至引用発明が記載されている。

4 対比・判断
上記「第2 2(2)独立特許要件」で検討した本件補正発明は、本願発明の「入力レイアウト」、「出力レイアウト」に「スピーカ」との限定事項を付加して「入力スピーカレイアウト」、「出力スピーカレイアウト」とした本願発明の一態様といえる。
したがって、上記「第2 2(2)ウ 対比 エ 判断」と同様の対比、判断により、本願発明は、引用文献1に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-09-08 
結審通知日 2020-09-15 
審決日 2020-09-28 
出願番号 特願2017-126130(P2017-126130)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04S)
P 1 8・ 575- Z (H04S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 堀 洋介  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 千葉 輝久
間宮 嘉誉
発明の名称 オーディオ提供装置及びオーディオ提供方法  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  
代理人 大貫 進介  

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