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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61B |
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管理番号 | 1371226 |
審判番号 | 不服2020-865 |
総通号数 | 256 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-04-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-01-22 |
確定日 | 2021-02-10 |
事件の表示 | 特願2016-525341「肺測定システム、及び絶対肺気量を決定するためのコンピューター実装方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月15日国際公開、WO2015/005958、平成28年 9月 5日国内公表、特表2016-526466〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願(以下、「本願」という。)は、2014年(平成26年)3月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年7月9日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成30年3月1日付けで拒絶理由が通知され、同年9月5日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成31年1月16日付けで拒絶理由が通知され、令和元年7月18日付けで意見書及び手続補正書が提出され、令和元年10月10日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)されたところ、令和2年1月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし18に係る発明は、令和元年7月18日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載され、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 肺測定装置及びコントローラを含む肺測定システムであって、 前記肺測定装置は、 気流経路を含むマウスピースと、 前記気流経路の中に配置されたセンサーと を含み、 前記コントローラは前記センサーに通信可能に結合され、 前記コントローラはプロセッサと、メモリーに格納された命令とを含み、 前記コントローラは、 前記センサーからの測定値を同定することと、 前記メモリーに格納された複数の数式から特定の数式を同定することであって、前記複数の数式は、複数の健康な被験者及び複数の不健康な被験者を含む被験者集団に基づいたデータマイニングアルゴリズムによるデータ解析を使って開発され、前記特定の数式は、前記同定された測定値に基づいた入力パラメータを含むことと、 前記同定された測定値と前記特定の数式とに基づいて絶対肺気量の値を決定することとを含む動作を行うために前記プロセッサにより命令を実行するように動作可能であり、 前記入力パラメータは、健康又は疾患の表現である呼吸パラメータを含む肺測定システム。」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶理由の概要は以下のとおりである。 この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号(明確性)に規定する要件を満たしていない。 記 請求項1には、「前記メモリーに格納された複数の数式から特定の数式を同定することであって、前記複数の数式は、複数の健康な被験者及び複数の不健康な被験者を含む被験者集団に基づいたデータマイニングアルゴリズムによるデータ解析を使って開発され、前記特定の数式は、前記同定された測定値に基づいた入力パラメータを含むことと、 前記同定された測定値と前記特定の数式とに基づいて絶対肺気量の値を決定することと」と記載されている。 請求項1に記載された「複数の数式から特定の数式を同定すること」は、以下の(ア)、(イ)のいずれであってもよいことであると解される余地がある。 (ア) 「複数の健康な被験者及び複数の不健康な被験者を含む被験者集団に基づい」て開発された「出力パラメータ」が「異なる」(「TLC、FRC,TGV、およびRVを含んだ」「絶対肺気量(ALV)」)「複数の数式」から、「特定の数式」(例えば、「出力パラメータ」が「TLC」である「特定の数式」)を同定すること。 (イ) 「複数の健康な被験者・・・を含む被験者集団に基づい」て開発された「数式」と、「複数の不健康な被験者を含む被験者集団に基づい」て開発された「数式」とからなる「複数の数式」から、「特定の数式」(例えば、「複数の健康な被験者・・・を含む被験者集団に基づい」て開発された「数式」)を同定すること。 そして、請求項1に記載された「複数の数式から特定の数式を同定すること」は、上記(ア)、(イ)のいずれの意味であってもよいのか、いずれかに限定されたものであるのか不明確である よって、請求項1?18に係る発明は、明確でない。 第4 当審の判断 1(1) 本願発明は、「前記メモリーに格納された複数の数式から特定の数式を同定することであって、前記複数の数式は、複数の健康な被験者及び複数の不健康な被験者を含む被験者集団に基づいたデータマイニングアルゴリズムによるデータ解析を使って開発され、前記特定の数式は、前記同定された測定値に基づいた入力パラメータを含むことと、 前記同定された測定値と前記特定の数式とに基づいて絶対肺気量の値を決定すること」を発明特定事項として含むが、「複数の数式から特定の数式を同定すること」の具体的に意味するところが不明であり、どのようにして「複数の数式から特定の数式を同定する」のか、明確に把握することができない。 (2) 上記発明特定事項を解釈するにあたり、本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付したものである。 ア 「【0056】 前の側面のいずれとも組み合わせ可能である第8の側面では、1つ以上の入力パラメータの少なくとも1つは、患者の性別、患者の身長、患者の体重、または患者の肥満度指数、の1つ以上を含んだ擬人化情報を含む。」 イ 「【0098】 図6は、所望のパラメータを推定する数式を含んだ肺測定装置(装置100、200、300、400、500またはそれ以外)で、あらゆる健康または不健康な被験者上での所望の呼吸パラメータを計算するための例示的方法600のフローチャートである。装置上に格納されていても良く、所望の呼吸パラメータを計算するのに使われる数式は、いくつかの実施形態では、一例として、図7に示された方法700によって開発されていても良い。 【0099】 方法600は、データ解析(例えば、トレーニング人口に基づいたデータマイニング)から開発された数式(例えば、単一の数式または複数の数式の内の1つの特定の数式)を同定することによって、ステップ605で始まり得る。数式は、例えば、肺測定装置(例えば、装置100、200、300、400、500または本開示に従ったその他の装置)と通信可能に結合されたかまたはその一部であるメモリー(例えば、揮発性または不揮発性)中の実行可能な命令内に、格納されても良い。いくつかの側面では、数式は、トレーニング人口から集められた(例えば、装置で推定されたか、または全身プレチスモグラフィのような他の技術によって直接測定されたか、またはそれ以外の)臨床データを使ってデータ解析アプローチに基づいて決定されても良い。いくつかの実装では、数式は、ステップ605の実装に対して時間的に早く(可能性として相当早く)に導出されている。数式は、線形または非線形方程式であっても良く、いくつかの例では、回帰分析から導出されていても良い。」 ウ 「【0103】 他の呼吸パラメータを決定することが、ステップ620において行われても良い。例えば、絶対肺気量の決定に基づいて、または呼吸測定と数式に基づいて、TLC、FRC、TGV、RV、一酸化炭素についての肺の拡散能力(DLCO)、気道抵抗、または肺組織順応性の1つ以上が決定されても良い。一旦そのような呼吸パラメータ(絶対肺気量を含んだ)が決定されると、それらは肺測定装置を通して患者またはその他の被験者に提示されても良い。いくつかの側面では、初期に同定されたかまたは選択された特定の数式が、例えば、絶対肺気量のような、特定の呼吸パラメータを推定するかまたは決定するのに使われても良い。別の特定の、区別された数式が、上述したもの(例えば、TLC、FRC、TGV、RV、DLCO、気道抵抗、または肺組織順応性)のような、1つ以上のその他の呼吸パラメータを決定するかまたは推定するために、ステップ620において、選択されるかまたは同定されても良い。いくつかの側面では、複数の数式の、各特定の、区別された数式が、特定の、区別された呼吸パラメータを決定するかまたは推定するために選択されても良い。」 エ 「【0108】 その上で1つ以上の入力パラメータ(例えば、呼吸機能、呼吸器、全体的な呼吸的健康度、または身長、体重のような全体的な一般的健康度に関する入力パラメータ)と所望の出力パラメータを測定するための、被験者のトレーニング人口が選択される(705)。トレーニング人口の被験者の数と特性は、例えば、所望の出力パラメータの或る値と関連付けられた疾患に基づいて、選択されても良い。トレーニング人口は、健康な被験者、不健康な被験者(例えば、呼吸器疾患、呼吸器障害、呼吸器症候群、またはあらゆるその他の疾患を有すると医師によって診断された被験者)、または健康な被験者と不健康な被験者の両方、を含んでいても良い。トレーニング人口の被験者の数と特性はまた、性別、喫煙履歴、またはその他の特性のような特性に基づいて、選択されても良い。1つ以上の入力パラメータと所望の出力パラメータが、数式を生成する際に使われても良い。」 オ 「【0120】 1つより多くの数式が、肺測定システムまたは装置内で実装されていても良い。各数式は、異なる出力パラメータを計算しても良い。代替的に、各数式は、同じ出力パラメータを計算しても良いが、数式は、患者の異なるグループまたはクラス(例えば、分類子モデル)について異なっていても良い。例えば、数式は、出力パラメータを計算するのにどの数式を利用するかを決定するために、各個別の患者についての擬人化情報を使っても良い。」 カ 図6 ![]() (3)上記(2)イには、「方法600は、データ解析(例えば、トレーニング人口に基づいたデータマイニング)から開発された数式(例えば、単一の数式または複数の数式の内の1つの特定の数式)を同定することによって、ステップ605で始まり得る。」 と記載されており、上記(2)カの図6に示されるフローチャートのステップ605において、複数の数式のうちのの1つの特定の数式を同定することが示されているが、複数の数式から特定の数式をどのようにして同定するのかについては、ここには記載されていない。 (4)そして、上記(2)ウには、「初期に同定されたかまたは選択された特定の数式が、例えば、絶対肺気量のような、特定の呼吸パラメータを推定するかまたは決定するのに使われても良い。別の特定の、区別された数式が、上述したもの(例えば、TLC、FRC、TGV、RV、DLCO、気道抵抗、または肺組織順応性)のような、1つ以上のその他の呼吸パラメータを決定するかまたは推定するために、ステップ620において、選択されるかまたは同定されても良い。いくつかの側面では、複数の数式の、各特定の、区別された数式が、特定の、区別された呼吸パラメータを決定するかまたは推定するために選択されても良い。」 と記載されており、「初期に同定されたかまたは選択された特定の数式」が「絶対肺気量」の推定または決定に使われ、ステップ620において、「別の特定の、区別された数式」が、「TLC、FRC、TGV、RV、DLCO、気道抵抗、または肺組織順応性」のようなその他の呼吸パラメータを決定するかまたは推定に使われることが読み取れる。 さらに、上記(2)オには、「1つより多くの数式が、肺測定システムまたは装置内で実装されていても良い。各数式は、異なる出力パラメータを計算しても良い。代替的に、各数式は、同じ出力パラメータを計算しても良いが、数式は、患者の異なるグループまたはクラス(例えば、分類子モデル)について異なっていても良い。例えば、数式は、出力パラメータを計算するのにどの数式を利用するかを決定するために、各個別の患者についての擬人化情報を使っても良い。」 と記載されており、上記「各数式は、異なる出力パラメータを計算しても良い。」の「異なる出力パラメータ」は、上記の「絶対肺気量」や「TLC、FRC、TGV、RV、DLCO、気道抵抗、または肺組織順応性」の呼吸パラメータのことを意味することは明らかであり、この「各数式は、異なる出力パラメータを計算しても良い。」とは、上記(2)ウの記載事項と同様に、「各数式」を「絶対肺気量」や「TLC、FRC、TGV、RV、DLCO、気道抵抗、または肺組織順応性」の呼吸パラメータを計算するために用いてもよいことを示しているものと認められる。 よって、上記記載からすると、本願発明の「複数の数式から特定の数式を同定すること」は、「絶対肺気量、TLC、FRC、TGV、RV、DLCO、気道抵抗、肺組織順応性などの呼吸パラメータを同定するために上記各呼吸パラメータ毎に記憶された複数の数式の中から、特定の呼吸パラメータを同定するために、特定の数式を同定すること」(以下、「解釈1」という。)を意味するものと認められる。 (5)そして、上記(2)オの「代替的に、各数式は、同じ出力パラメータを計算しても良いが、数式は、患者の異なるグループまたはクラス(例えば、分類子モデル)について異なっていても良い。例えば、数式は、出力パラメータを計算するのにどの数式を利用するかを決定するために、各個別の患者についての擬人化情報を使っても良い。」は、その意味するところが明確ではないが、上記「患者の異なるグループまたはクラス」は、上記(2)エ記載の「健康な被験者、不健康な被験者」、「性別、喫煙履歴、またはその他の特性」のような患者の属性情報を持つ「トレーニング人口」のことを意味するものと認められ、上記「擬人化情報」は、上記(2)アからして、「患者の性別、患者の身長、患者の体重、または患者の肥満度指数」のような、患者の属性情報のことを意味するものと認められる。 そうすると、上記(2)オの記載からすると、本願発明の「複数の数式から特定の数式を同定すること」は、「同じ出力パラメータを計算するために、健康、不健康、性別、喫煙履歴等の属性情報の異なるトレーニング人口から導出された複数の数式が記憶されており、上記複数の数式から、各個別の患者の属性情報に該当するトレーニング人口から導出された数式を決定すること」(以下、「解釈2」という。)ことを意味するものと認められる。 (6)上記(4),(5)に示したとおり、本願の発明の詳細な説明の記載から、本願発明の「複数の数式から特定の数式を同定すること」は、「絶対肺気量、TLC、FRC、TGV、RV、DLCO、気道抵抗、肺組織順応性などの呼吸パラメータを同定するために上記各呼吸パラメータ毎に記憶された複数の数式の中から、特定の呼吸パラメータを同定するために、特定の数式を同定すること」(解釈1)と、「同じ出力パラメータを計算するために、健康、不健康、性別、喫煙履歴等の属性情報の異なるトレーニング人口から導出された複数の数式が記憶されており、上記複数の数式から、各個別の患者の属性情報に該当するトレーニング人口から導出された数式を決定すること」(解釈2)という、それぞれ全く異なる意味に解することができ、上記解釈1、2のいずれであってもよいのか、上記解釈1、2のいずれかを意味するのか、あるいは、上記以外を意味するのか、明確に把握することができない。 (7)請求人は、令和元年7月18日付けの意見書の「【意見の内容】2.(A)(2)拒絶理由で指摘された事項について」で、 「上記補正により、例えば当初明細書の段落0100、0115等の記載に基づいて、独立形式の請求項1及び11それぞれにおいて「前記複数の数式は、複数の健康な被験者及び複数の不健康な被験者を含む被験者集団に基づいたデータマイニングアルゴリズムによるデータ解析を使って開発され、前記特定の数式は、前記同定された測定値に基づいた入力パラメータを含」み「前記入力パラメータは、健康又は疾患の表現である呼吸パラメータを含む」こと、及び「複数の健康な被験者及び複数の不健康な被験者を含む被験者集団に基づいたデータマイニングアルゴリズムによるデータ解析を使って開発された複数の数式から、入力パラメータを含む特定の数式を同定」し「前記入力パラメータは、健康又は疾患の表現である呼吸パラメータを含む」ことが明確となった。 これにより、特許請求の範囲の記載において、上記拒絶理由において指摘された「(イ)「患者の異なるグループまたはクラス」に基づいた「複数の数式」から「特定の数式」(例えば、「健康な被験者」に基づいた「特定の数式」)を同定すること」との旨が明確となった。」 と主張しており、上記「(イ)「患者の異なるグループまたはクラス」に基づいた「複数の数式」から「特定の数式」(例えば、「健康な被験者」に基づいた「特定の数式」)を同定すること」は、上記「解釈2」に相当するものであるが、上記6に示したとおり、本願発明の「複数の数式から特定の数式を同定すること」は、本願の発明の詳細な説明の記載を参酌したとしても、上記「解釈2」のみを意味するものとして解釈することはできない。 (8)また、請求人は、令和2年1月22日付けの審判請求書の「【請求の理由】 4.拒絶査定の理由について」で、 「令和01年10月15日送達の原査定に係る上記拒絶理由は、平成31年01月22日発送の拒絶理由通知に係る拒絶理由を受けて補正された上記特許請求の範囲に対するものであるが、令和01年07月18日付けの意見書において述べた「これにより、特許請求の範囲の記載において、上記拒絶理由において指摘された「(イ)「患者の異なるグループまたはクラス」に基づいた「複数の数式」から「特定の数式」(例えば、「健康な被験者」に基づいた「特定の数式」)を同定すること」との旨が明確となった」との記載は、平成31年01月22日発送の拒絶理由通知に係る拒絶理由における「(イ)「患者の異なるグループまたはクラス」に基づいた「複数の数式」から「特定の数式」(例えば、「健康な被験者」に基づいた「特定の数式」)を同定すること」との記載を単純に引用したものである。 この「(イ)「患者の異なるグループまたはクラス」に基づいた「複数の数式」から「特定の数式」(例えば、「健康な被験者」に基づいた「特定の数式」)を同定すること」との旨が明確となった」との記載は、例えば、「健康な被験者」にも基づいて「特定の数式」が同定される程度の意味であった。」 と主張するが、上記6に示したとおり、本願発明の「複数の数式から特定の数式を同定すること」は、上記解釈1、2のいずれであってもよいのか、上記解釈1、2のいずれかを意味するのか、あるいは、上記以外を意味するのか、明確に把握することができないものであり、いずれを意味するのかについて、何ら反論していないため、依然として上記本願発明の記載は不明確であるといわざるを得ない。 2(1)仮に、令和元年7月18日付けの意見書において請求人が主張するように、本願発明の「複数の数式から特定の数式を同定すること」が、「(イ)「患者の異なるグループまたはクラス」に基づいた「複数の数式」から「特定の数式」(例えば、「健康な被験者」に基づいた「特定の数式」)を同定すること」(上記「解釈2」)を意味するものと解した場合について、以下検討する。 「健康な被験者」と「特定の数式」に関し、本願発明において、「特定の数式」は、「前記同定された測定値に基づいた入力パラメータを含」み、「前記入力パラメータは、健康又は疾患の表現である呼吸パラメータを含む」と記載されている。 しかしながら、「前記入力パラメータは、健康又は疾患の表現である呼吸パラメータを含む」の、「健康又は疾患の表現である呼吸パラメータ」とは具体的にどのような呼吸パラメータであるのか不明であり、発明を明確に把握することができない。 (2)上記の「前記入力パラメータは、健康又は疾患の表現である呼吸パラメータを含む」に関して、本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付したものである。 ア 「【0114】 図8は、1つ以上の測定された入力パラメータ、直接測定された所望の出力パラメータ、および図7の例示的方法を使って生成された数式(例えば、回帰方程式)の間の関係を示したブロック図800である。いくつかの例では、数式は、線形方程式(1): y=a+b*x1+c*x2+d*x3 (1) の形をとっても良い。 【0115】 パラメータyは、所望の出力パラメータである。パラメータx1、x2、およびx3は、ステップ710においてのように、入力パラメータの測定である。パラメータx1、x2、およびx3は、ステップ715においてのように、所望の出力パラメータを推定する (例えば、計算する)ために使われる、所望の入力パラメータとしてアルゴリズムによって選択された。最後に、パラメータa、b、c、およびdは、スケーリングおよびシフティング定数である。x1、x2、およびx3のいずれか1つは、健康または疾患の表現である呼吸パラメータであっても良い。例えば、数式(1)において、x1とx2は、健康な被験者の測定を考慮に入れていても良く、x3は、呼吸器疾患(例えば、気道閉塞による正常値からの気道抵抗の増加)によるx1とx2のずれを正確に考慮に入れた測定を表していても良い。」 上記のように本願の発明の詳細な説明においても、「入力パラメータの測定である」「x1、x2、およびx3のいずれか1つは、健康または疾患の表現である呼吸パラメータであっても良い。」と記載されるのみであって、「健康または疾患の表現である呼吸パラメータ」とはどのような呼吸パラメータであるのか、一切記載されていない。 (3)したがって、仮に、本願発明の「複数の数式から特定の数式を同定すること」が上記解釈2のみを意味するものと解するとしても、「健康又は疾患の表現である呼吸パラメータを含む」「特定の数式を同定すること」を発明特定事項として含む本願発明は、不明りょうである。 3 当審は、請求人に対して、原査定の拒絶の理由に係る本願発明の記載や技術内容について、面接による説明の機会を与えたものの(令和2年7月29日の面接記録参照。)、請求人からは原査定の拒絶の理由に対する具体的な反論はなかった。 第5 むすび 以上のとおり、本願は、明細書及び特許請求の範囲の記載が、特許法第3 6条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2020-09-07 |
結審通知日 | 2020-09-08 |
審決日 | 2020-09-23 |
出願番号 | 特願2016-525341(P2016-525341) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(A61B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山口 裕之 |
特許庁審判長 |
福島 浩司 |
特許庁審判官 |
森 竜介 松谷 洋平 |
発明の名称 | 肺測定システム、及び絶対肺気量を決定するためのコンピューター実装方法 |
代理人 | 三好 秀和 |
代理人 | 伊藤 正和 |
代理人 | 原 裕子 |
代理人 | 大渕 一志 |