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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
管理番号 1371254
審判番号 不服2019-9775  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-07-24 
確定日 2021-02-15 
事件の表示 特願2017-502668「水で除去できる組成物およびその応用」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月 4日国際公開、WO2016/018611、平成29年 9月 7日国内公表、特表2017-525799〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)7月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年(平成26年)7月30日(US) 米国特許商標庁)を国際出願日とする出願であって、平成31年3月22日付けでなされた拒絶査定に対し、令和1年7月24日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲についての手続補正がされたものであって、その後、当審において、令和2年4月28日付けで拒絶理由が通知され、令和2年7月27日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?14に係る発明(以下本願発明1?本願発明14といい、まとめて本願発明という場合もある。)は、令和2年7月27日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「 【請求項1】 組成物において、 50?95質量%のアルコールワックス; 5?50質量%の粘着付与剤;および 0.5?5質量%の着色剤を含み、 前記組成物中の前記着色剤の溶解度は、0.2?5%のスペクトル強度デルタ値により特徴付けられ、該スペクトル強度デルタ値は前記組成物をブタノール中に溶解させることにより測定される、組成物。
【請求項2】 前記アルコールワックスが、式CH_(3)(CH_(2))_(n)OHを有するアルコールを含み、式中、nは15から40の整数である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】 前記アルコールワックスが、前記組成物の総質量に基づいて、60?80質量%の量で該組成物中に存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項4】 前記粘着付与剤が、樹脂酸、ロジンエステル、ロジンアルコール、もしくはそれらの混合物または組合せを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項5】 前記粘着付与剤が、前記組成物の総質量に基づいて、10?40質量%の量で該組成物中に存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項6】 前記着色剤が有機染料を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項7】 10質量%までの防止剤または安定剤をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項8】 前記組成物の融点が約45℃から約80℃に及ぶ、請求項1記載の組成物。
【請求項9】 プラスチック基体表面から水で除去できる、請求項1記載の組成物。
【請求項10】 前記粘着付与剤が、前記組成物の総質量に基づいて、25?35質量%の量で該組成物中に存在する、請求項1記載の組成物。 【請求項11】 前記アルコールワックスが、式CH_(3)(CH_(2))_(n)OHを有するアルコールを含み、式中、nは16から22の整数である、請求項1記載の組成物。
【請求項12】 前記アルコールワックスが、式CH_(3)(CH_(2))_(n)OHを有するアルコールを含み、式中、nは16から22の整数であり、 前記アルコールワックスが、前記組成物の総質量に基づいて、60?80質量%の量で該組成物中に存在し、前記粘着付与剤が、樹脂酸、ロジンエステル、ロジンアルコール、もしくはそれらの混合物または組合せを含み、前記粘着付与剤が、前記組成物の総質量に基づいて、25?40質量%の量で該組成物中に存在し、前記着色剤が有機染料を含み、前記組成物の融点が約45℃から約80℃に及ぶ、請求項1記載の組成物。
【請求項13】 組成物において、 50?95質量%の、式CH_(3)(CH_(2))_(m)COOHを有し、式中、mは14から40の整数であるカルボン酸ワックス; 5?50質量%の粘着付与剤;および 0.5?5質量%の着色剤を含み、 前記組成物中の前記着色剤の溶解度が、0.2?5%のスペクトル強度デルタ値により特徴付けられ、該スペクトル強度デルタ値は前記組成物をブタノール中に溶解させることにより測定される、組成物。 【請求項14】 前記カルボン酸ワックスが、前記組成物の総質量に基づいて、60?80質量%の量で該組成物中に存在する、請求項13記載の組成物。」

第3 当審における拒絶理由

1 拒絶理由の概要
当審において、令和2年4年28日付けで通知した拒絶理由の概要は、以下のとおりである。

(1) (明確性)この出願は、請求項1?14の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(2) (実施可能要件)この出願は、請求項1?14の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
(3) (サポート要件)この出願は、請求項1?14の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

2 拒絶理由の要旨
(1) 理由1(明確性要件)について
本願発明1、13の「組成物中の前記着色剤の溶解度は、0.2?5%のスペクトル強度デルタ値により特徴付けられ」という発明特定事項は、希釈率、希釈溶媒、吸光度を測定する光の波長、温度、濾紙の種類や濾過の温度・圧力などの濾過条件などのスペクトル強度デルタ値の測定条件によって、同一の組成物が特許請求の範囲に含まれるか否かが異なるものとなるという点において、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎としても、特許請求の範囲の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であると言わざるを得ないため、請求項1?14の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(2) 理由2(実施可能要件)について
ア 機能・特性等の「定義」及び「定量方法」について
『機能、特性等によって物を特定しようとする記載を含む請求項において、その機能、特性等が標準的なものでなく、しかも当業者に慣用されているものでもない場合は、当該請求項に係る発明について実施可能に発明の詳細な説明を記載するためには、その機能、特性等の定義又はその機能、特性等を定量的に決定するための試験方法又は測定方法を示す必要がある。』にも関わらず、請求項1?14には、スペクトル強度デルタ値の測定条件が規定されていないため、「その機能、特性等の定義又はその機能、特性等を定量的に決定するための試験方法又は測定方法」が示されたものとは認められない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、本願発明1?14の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものであるとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。

イ 過度の試行錯誤について
本願明細書の記載からは、具体的に粘着付与剤や各種ワックスをどのようなものに換えれば、どのようにΔspecが変化するのか、粘着付与剤や各種ワックスの含有量を増減することによって、Δspecの値にどのような影響を与えるのかが理解できず、どのように組成を調整することによって、スペクトル強度デルタ値を0.2?5%とすることができるのか、その指針が開示されているとはいえないから、本願発明1?14は、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、どのように作るか理解」できないので、本件請求項1?14に係る発明を実施するために「当業者に期待し得る程度を越え得る試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要がある」ものと認めざるを得ない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、本願発明1?14の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものであるとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。

(3) 理由3(サポート要件)について
ア 組成物の「スペクトル強度デルタ値」は、組成が同一であっても、スペクトル強度デルタ値の測定条件によって大きく異なるものとなると考えられるところ、本願実施例に記載される測定方法によって得られた「スペクトル強度デルタ値」を特定の範囲とすることにより基体表面に対するインクの付着力と水によるインクの除去性が優れることをもって、本願以外の測定方法によって得られた「スペクトル強度デルタ値」を特定の範囲としたものが同様の効果を有すると認識できるものではないから、本願発明1?14は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではない。

イ 本願発明1、13のアルコールワックスや粘着付与剤、着色剤には、それぞれ膨大な化合物が包含されうる上に、それぞれの構成成分の含有量は、非常に大きな数値範囲で規定されているが、本願明細書【0066】?【0067】に記載される組成物は、上記の膨大な化合物を含むアルコールワックスやカルボン酸ワックス、粘着付与剤の中から、それぞれわずか2種類のものを、非常に限定された数値範囲の中で調整してなるものであるし、【表3】においてΔspecが0であるインク17がIPA除去スコア、水除去スコアが最も良いものである一方で、Δspec0.2?5を満足するインク10の水除去スコアが最も悪いことや、Δspecを0.2?5とすることによって、水除去スコアや基板への付着力値が好適なものとなる作用機序についての記載も存在せず、実施例に記載されるインクの記載を本願発明の範囲にまで拡張ないし一般化できるといえる明細書の「試験結果」や「作用機序」についての記載や出願時の「技術常識」の存在は見当たらないことから、本願発明1?14は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではない。

第4 当審の判断

1 理由1(明確性要件)について
(1) 一般に『法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は,仮に,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきことはいうまでもない。』とされているところ〔平成21年8月31日 知財高裁平成21年(行ケ)第10434号判決参照。〕、このような観点に基づいて、本件特許の明確性要件の適否を以下に検討する。

(2) 本願発明1の「組成物中の前記着色剤の溶解度は、0.2?5%のスペクトル強度デルタ値により特徴付けられ」という発明特定事項について、本願特許明細書の【0061】、【0065】から、インク1?18の「スペクトル強度デルタ値」は、等質量のインク1から18から取り出されたアリコートと、当該アリコートを取り出した残りの部分を「Whatman#3濾紙を備えたステンレス鋼製フィルタホルダを含む、加熱されたMOTT装置(MottMetallurgical)に通して濾過した。濾過は、平方インチ当たり約15ポンド(約103kPa)の圧力およびその混合物の融点より高い温度で行った。」処理することによって得られる濾過インクを、等体積の同じ溶媒中に溶かし、その吸光度を同一の測定条件で測定し、測定した吸光度をインクの濃度で割ったものをそれぞれSS_(濾過)、SS_(未濾過)として、
Δspec=[|(SS_(未濾過))-(SS_(濾過))|/(SS_(未濾過)およびSS_(濾過)の大きい方)]×100%で定義されるものであると理解できる。

(3) しかしながら、上記のようなスペクトル強度デルタ値を測定する際の希釈率、吸光度を測定する光の波長、温度、濾紙の種類や濾過の温度・圧力などの濾過条件など(以下、「スペクトル強度デルタ値の測定条件」という。)について、特許請求の範囲には一切の規定がされていないし、発明の詳細な説明においても、「スペクトル強度デルタ値の測定条件」は明確に定義されていないから、本願発明1の「スペクトル強度デルタ値」は任意の測定方法で求めることができると認められる。

(4) そして、本願明細書【0039】「・・・前記組成物中の着色剤の溶解度は、・・・スペクトル強度デルタ値(Δspec)により特徴付けられる。」との記載や、平成30年6月6日付意見書で「しかしながら、本願明細書の段落【0039】に記載されているように、スペクトル強度デルタ値は、組成物中の着色剤の溶解度の特徴であります。すなわち、スペクトル強度デルタ値が低くなると、着色剤の溶解度が高くなります(例えば、5%のスペクトル強度デルタ値は、10%のスペクトル強度デルタ値よりも着色剤の溶解度が高いことを示します)。・・・」との記載からも明らかであるように、スペクトル強度デルタ値は溶解度の特徴であるから、アリコートや上記残りの部分を等体積のトルエンに溶かす際の希釈倍率や温度を上げ着色剤の溶解度が高くなれば、同じ試料を使用した場合でも、希釈倍率や温度の低いものに比べて値は低くなると考えられる。
また、濾紙の保留粒子径(孔径)は濾紙の種類によって様々であるところ、例えば本願【0066】に記載されるインク10についてスペクトル強度を測定する際に、【0065】に記載される方法において濾紙として「Whatman#3濾紙」を用いるのに換えて、孔径が非常に大きく、濾過したインクと未濾過のインクの性状が変わらないものを使用すれば、SS_(未濾過)の値とSS_(濾過)の値は等しくなるから、インク10のスペクトル強度デルタ値も0となりうると考えられるし、同様に、物質の吸光度は波長によって大きく異なることは当該技術分野において周知の事項であるところ、吸光度を測定する光の波長として、580nmに換えて、濾過前のインク10、濾過後のインク10のいずれにも吸収のない波長を選択すれば、SS_(未濾過)及びSS_(濾過)の値はほぼ等しい値となると考えられるからインクのスペクトル強度デルタ値は0に近似した値となると考えられる。

(5) 加えて、審判請求人は、本件出願の審査の過程で提出した平成30年6月6日付けの意見(「3)理由3について」の項)において、概ね、SS_(未濾過)及びSS_(濾過)の測定値のそれぞれを得る際に同じ測定条件が維持される限り、希釈率、希釈溶媒、吸光度を測定する光の波長、温度などについて任意の条件が利用できると主張しているが、当該主張は、SS_(未濾過)(SS_(濾過))の測定値自体は、その測定条件に応じて異なる値になる(ので、SS_(未濾過)とSS_(濾過)のそれぞれを得る際に同じ測定条件が維持される必要がある)ことを自認するものであるといえる。

また、審判請求人は令和2年7月27日付の手続補正書で、請求項1を「該スペクトル強度デルタ値は前記組成物をブタノール中に溶解させることにより測定される」ものに限定すると共に、同日付の意見書で、請求項1において「スペクトル強度デルタ値は前記組成物をブタノール中に溶解させることにより測定される」ことを明確にする補正をしたため、Δspecを測定する際に用いられる溶媒が特定され、「組成物中の前記着色剤の溶解度は、0.2?5%のスペクトル強度デルタ値」という発明特定事項は明確になったとも主張する。しかしながら、測定の際に用いられる溶媒は、スペクトル強度デルタ値の測定条件のうちの一つに過ぎず、残りの測定条件については未だ特定されていないため、当該主張は認められない。

(6) してみれば、本願発明1に記載された「組成物中の前記着色剤の溶解度は、0.2?5%のスペクトル強度デルタ値」という発明特定事項は、スペクトル強度デルタ値の測定条件によって、同一の組成物が特許請求の範囲に含まれるか否かが異なるものとなるという点において、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎としても、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であると言わざるを得ない。

請求項13についても同様である。

したがって、本件特許の請求項1及びその従属項並びに請求項13とその従属項の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。

(7) なお、審判請求人は令和2年7月27日付の手続補正書で、請求項1を「該スペクトル強度デルタ値は前記組成物をブタノール中に溶解させることにより測定される」ものに限定すると共に、同日付の意見書で、請求項1において「スペクトル強度デルタ値は前記組成物をブタノール中に溶解させることにより測定される」ことを明確にする補正をしたため、Δspecを測定する際に用いられる溶媒が特定され、「組成物中の前記着色剤の溶解度は、0.2?5%のスペクトル強度デルタ値」という発明特定事項は明確になったと主張する。しかしながら、測定の際に用いられる溶媒は、スペクトル強度デルタ値の測定条件のうちの一つに過ぎず、残りの測定条件については未だ特定されていないため、当該主張は認められない。

2 理由2(実施可能要件)について

(1) 機能・特性等の「定義」及び「定量方法」について
ア 本件請求項1、13の「組成物中の前記着色剤の溶解度は、0.2?5%のスペクトル強度デルタ値により特徴付けられる」等の記載は、組成物のスペクトル強度デルタ値という「機能・特性等によって物を特定しようとする記載」を含むものである。
そして、一般に『機能、特性等によって物を特定しようとする記載を含む請求項において、その機能、特定等が標準的なものでなく、しかも当業者に慣用されているものでもない場合は、当該請求項に係る発明について実施可能に発明の詳細な説明を記載するためには、その機能、特性等の定義又はその機能、特性等を定量的に決定するための試験方法又は測定方法を示す必要がある。』とされている。
しかしながら、上記の「スペクトル強度デルタ値」は、理由1において検討したように、スペクトル強度デルタ値の測定条件によって、その値が大きく異なるものとなるにも関わらず、本願発明1、13においては、スペクトル強度デルタ値の測定条件が規定されていないため、「その機能、特性等の定義又はその機能、特性等を定量的に決定するための試験方法又は測定方法」が示されたものとは認められないものである。

イ なお、審判請求人は令和2年7月27日付の手続補正書で、請求項1を「該スペクトル強度デルタ値は前記組成物をブタノール中に溶解させることにより測定される」ものに限定すると共に、同日付の意見書で、請求項1において「スペクトル強度デルタ値は前記組成物をブタノール中に溶解させることにより測定される」ことを明確にする補正をしたため、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1?14の実施をすることができる程度に明確且つ十分に記載されている旨主張する。しかしながら、前述のように、測定の際に用いられる溶媒は、スペクトル強度デルタ値の測定条件のうちの一つに過ぎず、残りの測定条件については未だ特定されていないため、当該主張は認められない。

ウ したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、本願発明1、13とそれらの従属項に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものであるとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。

(2) 過度の試行錯誤について
本願発明1、13の「組成物中の前記着色剤の溶解度は、0.2?5%のスペクトル強度デルタ値により特徴付けられる」等の記載は、組成物のスペクトル強度デルタ値という「機能・特性等によって物を特定しようとする記載」を含むものである。
そして、一般に『物の有する機能、特性等からその物の構造等を予測することが困難な技術分野において、機能、特性等で特定された物のうち、発明の詳細な説明に具体的に製造方法が記載された物及びその物から技術常識を考慮すると製造できる物以外の物について、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、どのように作るか理解できない場合(例えば、そのような物を作るために、当業者に期待し得る程度を越え得る試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要がある場合)は、実施可能要件違反となる。』とされている。

そこで、発明の詳細な説明に具体的に製造方法が記載されたインク1?18について検討すると、【表1】、【表3】のインク1と2についての記載から、用いられる粘着付与剤の種類によってΔspecに差異が生じることについては理解が出来、インク1と4あるいは、13と16の記載から、用いられるアルコールワックス、カルボン酸ワックスの種類によってΔspecに差異が生じることについては理解ができるものの、具体的に粘着付与剤や各種ワックスをどのようなものに換えれば、どのようにΔspecが変化するのか、粘着付与剤や各種ワックスの含有量を増減することによって、Δspecの値にどのような影響を与えるのかは、【表1】?【表3】の記載からは理解できない。
また、本件明細書には、アルコールワックスやカルボン酸ワックス、粘着付与剤、着色剤のどのような構造、特性、あるいは含有量が、具体的にどのようにスペクトル強度デルタ値に影響を与えるのかについては記載されておらず、どのように組成を調整することによって、スペクトル強度デルタ値を0.2?5%とすることができるのか、その指針が開示されているとはいえない。
してみれば、【0061】あるいは【表1】?【表3】の開示だけでは、具体的に開示されるインク10、16及び実質的にこれらの実施例と同一といえる組成を有するインク以外の「組成物において、50?95質量%のアルコールワックス;5?50質量%の粘着付与剤;および0.5?5質量%の着色剤を含み、前記組成物中の前記着色剤の溶解度は、0.2?5%のスペクトル強度デルタ値により特徴付けられる、組成物。」または「組成物において、50?95質量%の、式CH_(3)(CH_(2))_(m)COOHを有し、式中、mは14から40の整数であるカルボン酸ワックス;5?50質量%の粘着付与剤;および0.5?5質量%の着色剤を含み、前記組成物中の前記着色剤の溶解度が、0.2?5%のスペクトル強度デルタ値により特徴付けられる、組成物。」について、「当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、どのように作るか理解」できないので、本願発明1?14を実施するために「当業者に期待し得る程度を越え得る試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要がある」ものと認めざるを得ない。
また、審判請求人は、令和2年7月27日付意見書で、この点について一切の反論を行っていない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、本願発明1、13とそれらの従属項に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものであるとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。

3 理由3(サポート要件)について
(1) サポート要件の判断手法(観点)について
一般に『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(…)が証明責任を負うと解するのが相当である。・・・いわゆるパラメータ発明に関するものであるところ,このような発明において,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するためには,発明の詳細な説明は,その数式が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が,特許出願時において,具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか,又は,特許出願時の技術常識を参酌して,当該数式が示す範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に,具体例を開示して記載することを要するものと解するのが相当である。』とされている〔平成17年11月11日 知財高裁平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕。

(2) 本願発明の「解決しようとする課題」について 本願発明1?14の「解決しようとする課題」は、【0003】「・・・プラスチック基体からより容易な様式で除去できる一方で、プラスチック基体の取扱い中のインクの除去に抵抗するのに十分なその基体に対する付着力を与える組成物を含む、印刷用途のための改善された組成物が必要とされている」、【0004】「1つの態様において、様々な印刷用途のためのものを含む、水分散性または水で除去できる組成物であって、いくつかの実施の形態において、従来の組成物を上回る1つ以上の利点を提供するであろう組成物がここに記載されている。・・・プラスチック基体に対する良好な付着力を与えるが、水による濯ぎまたは水中の浸漬によって、その基体から容易に除去されるインクとして使用できる。このように、ここに記載された組成物は、水分散性または水で除去できるインクであり得る。・・・さらに、ある場合には、ここに記載された組成物は、石鹸や洗浄剤を使用せずに、プラスチック基体から除去できる。ここに記載された組成物は、基体表面からの組成物の過剰な剥離、摩耗、または他の除去なく、プラスチック基体を取り扱えるおよび/または包装できるようにプラスチック基体に対する十分な付着力を提供することもできる。」などの記載を含む発明の詳細な説明の全体の記載からみて『プラスチック基体から、石鹸や洗浄剤を使用せずに、水で除去できる一方で、プラスチック基体の取扱中のインクの除去に抵抗するのに十分なその基体に対する付着力を与える組成物』を得ることであると認められる。

(3) 本件明細書の記載の概要について本願明細書【0039】には、「さらに、いくつかの実施の形態において、前記組成物中の着色剤の溶解度は、以下に記載されるように測定した場合、5%以下、3%以下、2%以下、または1%以下のスペクトル強度デルタ値(Δspec)により特徴付けられる。ある場合には、その組成物は、約0.1%から約1%、約1%から約5%、約1%から約3%、約2%から約5%、または約2%から約3%のスペクトル強度デルタ値を示す。ここに記載されたスペクトル強度デルタ値を示す組成物は、高い組成安定性および/または高い色安定性を示すことができる。」ことが記載されている。
また、【0061】?【0070】には、実施例として、「【0061】ここに記載されたいくつかの実施の形態による組成物またはインクを以下のように調製した。詳しくは、下記の表IおよびIIのインク1から18を、着色剤を除いて、各組成物の成分の全てをビーカーまたはガラス瓶に入れ、続いて、オーブン内において100?110℃でその成分を溶解させることにより調製した。次いで、溶解した混合物に着色剤を加え、油浴内の混合物を100?110℃に維持しながら、その混合物を約1時間に亘りかき混ぜた。次に、下記にさらに記載されるようなスペクトル強度測定のために、アリコート(約2g)を混合物から取り出した。混合物の残りの部分を、Whatman#3濾紙を備えたステンレス鋼製フィルタホルダを含む、加熱されたMOTT装置(Mott Metallurgical)に通して濾過した。濾過は、平方インチ当たり約15ポンド(約103kPa)の圧力およびその混合物の融点より高い温度で行った。次いで、濾過された混合物をアルミニウム製平鍋に注型し、冷却して、濾過された固体インク組成物を提供した。表IおよびIIにおける全ての量は、グラム(g)で表された識別された成分の重量である。
【0062】

【0063】

【0064】

【0065】 表IIIには、インク1?18のいくつかの性質が与えられている。表IIIにおける二重ハイフン「--」は、特定のインクについて、特定の値が測定されなかったことを示している。表IIIにおける粘度は、製造業者のプロトコル(“AR 500/1000 Rheometers: Rheometrics Series Getting Started Guide,”PN 500017.001 Rev. G, Issued October 2006, TAに記載されているような)にしたがって、110°でAR-1000コーンプレート流量計(1.97°の円錐角、40mmの円錐直径、および45μmの切断間隙を有するステンレス鋼製円錐)を使用して測定した動的粘度である。しかしながら、ここに記載されたインクは、概して、約80℃と約130℃の間の温度で約3cPから約30cPに及ぶ粘度、または約90℃と約115℃の間の温度で約5cPから約20cPに及ぶ粘度を示した。表IIIにおける「DSC」は、示差走査熱量測定法を称する。ピーク融点およびピーク凝固点は、DUPONT 2100熱量計を使用して、DSCにより測定した。インク1?6および13?15について、表IIIにおけるΔspec値は、トルエン中で測定した。インク7?12および16?18について、Δspec値は、ブタノール中で測定した。一般に、Δspec値は、以下の式にしたがって計算した:Δspec=[|(SS_(未濾過))-(SS_(濾過))|/(SS_(未濾過)およびSS_(濾過)の大きい方)]×100%式中、SS_(未濾過)は、上述した未濾過インクのアリコートのスペクトル強度であり、SS_(濾過)は、上述した濾過インクのスペクトル強度である。未濾過および濾過インクのスペクトル強度は、インクを溶媒(トルエンまたはブタノールなど)中に溶かし、Perkin Elmer Lambda 2S UV/vis分光光度計を使用して、所定の波長(580nmなど)でインク溶液の吸光度を測定することによって、測定した。スペクトル強度は、測定した吸光度(A)を、g/mLで表された溶液中のインクの濃度で割ったものと等しいと解釈した。例えば、250mLのブタノール中に溶かした167.96mgのインクについて、0.7634(任意単位)の580nmでの吸光度が測定され、1136のスペクトル強度値が与えられた。Δspecの計算について、等質量のインクの濾過および未濾過アリコートを等体積の同じ溶媒中に溶かした。
【0066】

【0067】 表IIIに与えられた性質に加え、インク1?18のいくつかについて、付着力値を測定した。詳しくは、ポリカーボネート基体表面に対するインクの付着力を、ガラスピペットでポリカーボネートシート上に110℃で液体インクのアリコートを滴下して、各々約5mmの直径を有する5?7滴のインクを形成することによって評価した。インクのドットの固化後、基体に対する付着力を、ドットを指の爪で押すかまたは引っ掻くことによって評価した。インク1、2、4、5、7、9、10、12、13、14、16、17、および18は、80?100%の付着力値を示した。ここで、付着力値は、指の爪の引っ掻きにより除去されなかったドットの百分率を称する。
【0068】 有機溶媒による、また水による、ここに記載されたいくつかのインクの除去性も評価した。有機溶媒によるインクの分散性または除去性は、インクの液滴を、上述したポリカーボネート基体上に堆積させることによって評価した。次に、イソプロピルアルコール(IPA)を基体表面に吹き付けた。次いで、基体表面を布で拭き取ることによって、IPAおよびインクの液滴を除去した。ドットの全てが除去されるまで、または8回のサイクルを完了するまで、吹き付け/拭き取りサイクルを繰り返した。インクの除去性は、1から10の尺度で評価した。ここで、1は最も容易な除去に相当し、10は最も困難な除去に相当した。例えば、吹き付けと拭き取りのたった1回のサイクル後に、80?100%のインクが除去された場合、1のスコアを割り当てた。8回のサイクル後に、基体上に約1?3%のインクが残留マークとして残っていた場合、6のスコアを割り当てた。8回のサイクル後に、基体上に少なくとも15%のインクが残っていた場合、10のスコアを割り当てた。IPAを吹き付ける代わりに、流水を使用したことを除いて、インクの水除去性を同様な様式で評価した。IPAおよび水の両方とも、約25℃の温度で使用した。その結果が表IVに示されている。 【0069】

【0070】 表IVに示されたインクに加え、他のインクの除去性も同様に評価した。インク2、4、5、13、および14はIPAで容易に除去され、インク2、5、13、および14は水で容易に除去された」と記載されている。

4 対比・判断

(1) 上記第4の1において検討したように、組成物の「スペクトル強度デルタ値」は、組成が同一であっても、スペクトル強度デルタ値の測定条件によって大きく異なるものとなると考えられる。一方で、組成物が『プラスチック基体から、石鹸や洗浄剤を使用せずに、水で除去できる一方で、プラスチック基体の取扱中のインクの除去に抵抗するのに十分なその基体に対する付着力を与え』られるか否かは、その組成によって決定されていると考えられる。
してみれば、本願明細書【0061】?【0070】において記載される「・・・表IおよびIIのインク・・・を、着色剤を除いて、各組成物の成分の全てをビーカーまたはガラス瓶に入れ、続いて、オーブン内において100?110℃でその成分を溶解させることにより調製した。次いで、溶解した混合物に着色剤を加え、油浴内の混合物を100?110℃に維持しながら、その混合物を約1時間に亘りかき混ぜた。次に、下記にさらに記載されるようなスペクトル強度測定のために、アリコート(約2g)を混合物から取り出した。 混合物の残りの部分を、Whatman#3濾紙を備えたステンレス鋼製フィルタホルダを含む、加熱されたMOTT装置(Mott Metallurgical)に通して濾過した。濾過は、平方インチ当たり約15ポンド(約103kPa)の圧力およびその混合物の融点より高い温度で行った。次いで、濾過された混合物をアルミニウム製平鍋に注型し、冷却して、濾過された固体インク組成物を提供した。」、「未濾過および濾過インクのスペクトル強度は、インクを溶媒(・・・ブタノールなど)中に溶かし、Perkin Elmer Lambda 2S UV/vis分光光度計を使用して、所定の波長(580nmなど)でインク溶液の吸光度を測定することによって、測定した。スペクトル強度は、測定した吸光度(A)を、g/mLで表された溶液中のインクの濃度で割ったものと等しいと解釈した。・・・Δspecの計算について、等質量のインクの濾過および未濾過アリコートを等体積の同じ溶媒中に溶かした。」なる方法(以下、本件方法という)によって測定された「スペクトル強度デルタ値」を特定の範囲とすることにより基体表面に対するインクの付着力と水によるインクの除去性が優れるということをもって、本件方法以外の測定方法によって得られた0.2?5%の「スペクトル強度デルタ値」により特徴付けられる組成物が、全て基体表面に対するインクの付着力と水によるインクの除去性に優れるものであると一概に認識できるものではないし、出願時の技術常識を参酌しても、どのような測定方法によって得られたものであれ、「スペクトル強度デルタ値」が0.2?5%である組成物であれば、基体表面に対するインクの付着力や、水によるインクの除去性を好適化しうると認識できるものでもない。

(2) 本願発明1は「組成物において、50?95質量%のアルコールワックス;5?50質量%の粘着付与剤;および0.5?5質量%の着色剤を含み、前記組成物中の前記着色剤の溶解度は、0.2?5%のスペクトル強度デルタ値により特徴付けられる、組成物。」、本願発明13は「組成物において、50?95質量%の、式CH_(3)(CH_(2))_(m)COOHを有し、式中、mは14から40の整数であるカルボン酸ワックス;5?50質量%の粘着付与剤;および0.5?5質量%の着色剤を含み、前記組成物中の前記着色剤の溶解度が、0.2?5%のスペクトル強度デルタ値により特徴付けられる、組成物。」であり、アルコールワックスや粘着付与剤、着色剤には、それぞれ膨大な化合物が包含されうる上に、それぞれの構成成分の含有量は、非常に幅広い数値範囲で規定されている。
しかしながら、現状、本願明細書において、組成物をブタノール中に溶解させることにより測定されるスペクトル強度デルタ値(Δspec)が0.2?5を満足し、かつ基体に対する付着力を満足するものは、上記の膨大な組み合わせが存在する組成物中において、ベヘン酸68.82gと樹脂酸(KR610)29.5g、着色剤(NEPTUNE Yellow075)1.50g、酸化防止剤(NAUGARD N445)を0.18g含んでなるインク10とステアリルアルコール66.51gとロジンエステル(KE100)30.05g、着色剤(NEPTUNE Yellow075)1.50g、酸化防止剤(NAUGARD N445)を1.94g含んでなるインク16のみである。
また、【表3】においてΔspecが0であり、本願発明の構成を満足しないものであるインク17が水除去スコアが最も良いものである一方で、本願発明の構成を満足するΔspec0.2?5を満足するインク10の水除去スコアが最も悪いことや、Δspecを0.2?5(あるいは5以下)とすることによって、水除去スコアが優れたものとなること、基板への付着力値が好適なものとなることの作用機序についての記載も存在しないことを考えれば、インク10、16等の記載を元に本願発明の範囲にまでにまで拡張ないし一般化できるといえる明細書の「試験結果」や「作用機序」についての記載や出願時の「技術常識」の存在は見当たらない。

(3) なお、審判請求人は意見書で「本願発明におけるインク組成物は、基体からの容易な除去と、基体の取り扱い中のインクの除去に抵抗するのに十分な付着力とのバランスを示すものであり、このバランスは、組成物をブタノール中に溶解させることにより測定される0.2?5%のスペクトル強度デルタ値を示すインクによって達成されるものであります。このことは、本願明細書の表4によって特に示されるものであり、ここではIPA除去スコアがさまざまのインクについて提供されています。すなわち、ブタノール中で0.2?5%のスペクトル強度デルタ値を満たすインク10および16は、それぞれ4および3のIPA除去スコアを示しており、これらのスコアは、取り扱い中の除去に抵抗するのに十分なインクの付着を示すものでありますが、基体から除去できないような抵抗性ではなく、これは、上記の繊細なバランスを示さないインク7、8、11、17、および18とは明確に異なるものであります。」と、あたかもIPA除去スコアが3、4という数値であることが、基体からの除去性とインクの除去に抵抗するのに十分な付着力のバランスを示すもので、IPA除去スコアが5であるインク8や、2であるインク11と明確に異なるものであると主張する。
しかしながら、【0068】「・・・有機溶媒によるインクの分散性または除去性は、インクの液滴を、上述したポリカーボネート基体上に堆積させることによって評価した。・・・インクの除去性は、1から10の尺度で評価した。ここで、1は最も容易な除去に相当し、10は最も困難な除去に相当した。」の記載からは、IPA除去スコアが、インクの分散性や除去性を示すものであることについては理解できるものの、IPA除去スコアと十分な付着力についての関連性は不明であるし、本願明細書には、その他にIPA除去スコアが基体からの容易な除去と、基体の取り扱い中のインクの除去に抵抗するのに十分な付着力とのバランス(とりわけ基体の取り扱い中のインクの除去に抵抗するのに十分な付着力)との関連性を示す記載は存在しないし、具体的な除去スコアについても、1が最も容易な除去に相当し、10は最も困難な除去に相当すると記載されているのみであって、除去スコア3、4のものが、2、5のものやそれ以外のものに比べてバランスに優れており好ましいことなどは記載されていない。
また、仮に、上記のIPA除去スコアが3、4という数値であることが、基体からの除去性とインクの除去に抵抗するのに十分な付着力のバランスを示すとしても、上記の効果はあくまで、本件方法によって測定された「スペクトル強度デルタ値」を特定の範囲とすることにより基体表面に対するインクの付着力と水によるインクの除去性が優れることを証明するものに過ぎず、本件方法以外の測定方法によって得られた0.2?5%の「スペクトル強度デルタ値」により特徴付けられる組成物が、全て基体表面に対するインクの付着力と水によるインクの除去性に優れるものであることや、どのような測定方法によって得られたものであれ、「スペクトル強度デルタ値」が0.2?5%である組成物であれば、基体表面に対するインクの付着力や、水によるインクの除去性を好適化しうることを証明するものとはいえない。

(4) 上記(1)?(3)の検討結果から、本件特許の請求項1及びその従属項並びに請求項13とその従属項の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載された範囲のものであるとはいえないので、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条6項1号、及び第36項6項2号に規定する角要件を満たしておらず、また、発明の詳細な説明の記載が、第36条4項1号に規定する要件を満たしていないので、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-09-15 
結審通知日 2020-09-17 
審決日 2020-09-30 
出願番号 特願2017-502668(P2017-502668)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C09D)
P 1 8・ 537- WZ (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田村 直寛南 宏樹上條 のぶよ  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 古妻 泰一
木村 敏康
発明の名称 水で除去できる組成物およびその応用  
代理人 樋口 洋  
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