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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1371306 |
審判番号 | 不服2020-1392 |
総通号数 | 256 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-04-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-02-03 |
確定日 | 2021-03-15 |
事件の表示 | 特願2017-509705「液状媒体を含有する有機半導体組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月25日国際公開、WO2016/027217、平成29年11月 2日国内公表、特表2017-532768、請求項の数(19)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,2015年(平成27年)8月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年8月18日:欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。 令和元年5月27日付け :拒絶理由通知書 令和元年9月13日 :意見書,手続補正書の提出 令和元年10月18日付け :拒絶査定 令和2年2月3日 :審判請求書の提出 令和2年9月23日付け :拒絶理由通知書(当審) 令和2年11月17日 :意見書,手続補正書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1?19に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明19」という。)は,令和2年11月17日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定される発明であり,そのうちの本願発明1は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 A)以下のものから選択される少なくとも1種の有機半導体: ・一般式(I.a)のリレン化合物: 【化1】 上記式中, nは,1,2,3,又は4であり, R^(a),及びR^(b)は相互に独立して,水素,非置換又は置換されたアルキル,非置換又は置換されたアルケニル,非置換又は置換されたアルカジエニル,非置換又は置換されたアルキニル,非置換又は置換されたシクロアルキル,非置換又は置換されたビシクロアルキル,非置換又は置換されたシクロアルケニル,及び非置換又は置換されたヘテロシクロアルキルから選択され, 基R^(n1),R^(n2),R^(n3),及びR^(n4)は相互に独立して,水素,F,Cl,Br,及びCNから選択され, B)式(II.1)の化合物: 【化2】 から選択される,20℃,及び1013mbarで液状である少なくとも1種の化合物,上記式中, X^(1)及びX^(2)は,_(*)-(C=O)-O-であり,ここで_(*)は,芳香族の炭素環に対する結合点であり,かつ R^(c),及びR^(d)は独立して,非分枝状,及び分枝鎖状のC_(1)?C_(12)アルキル,及びC_(2)?C_(12)アルケニルから選択される, を含有する組成物。」 本願発明2?13は,本願発明1を減縮したものである。 本願発明14は,本願発明1?13の組成物の使用の発明である。 本願発明15?19は,本願発明1?13の組成物を用いた電子デバイス,光学デバイス,光電子デバイス,又はセンサの製造方法の発明である。 第3 引用例の記載と引用発明 1.引用例1について (1)引用例1の記載 令和元年10月18日付け拒絶査定(以下「原査定」という。)の拒絶の理由に引用された,本願の優先日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例1(特開2009-78963号公報:原査定における引用文献2)には,次の記載がある。 「【0013】 (1)有機溶媒液膜形成工程 本発明では,まず,特定の有機溶媒を基板上に塗布して,有機溶媒液膜(以下,オイル薄膜ともいう。)を形成する。」 「【0018】 本発明に用いられる有機溶媒としては,ハロゲン系炭化水素,エステル系化合物,エーテル系化合物,シアノ系化合物,ケトン系化合物,アミノ系化合物,アルコール系化合物,カルボン酸系化合物,アミド系化合物,複素環系化合物,リン酸エステル系化合物が好適に用いられる。好ましくは,炭素数1?100のエステル系化合物もしくは炭素数1?100のリン酸エステル系化合物である。より好ましくは,炭素数1?50のアルキル基を有する,炭素数1?100のエステル系化合物もしくは炭素数1?50のアルキル基を有する,炭素数1?100のリン酸エステル系化合物である。好ましくは,アジピン酸エステル系化合物,フタル酸エステル系化合物もしくはリン酸エステル系化合物であり,さらに好ましくは,フタル酸エステル系化合物もしくはリン酸エステル系化合物である。 【0019】 本発明に用いられる有機溶媒の具体例としては,例えば,クロロヘプタン(誘電率:5.5),クロロオクタン(誘電率:5.1),クロロトルエン(誘電率:4.7),ブロモヘプタン(誘電率:5.3),ジメトキシベンゼン(誘電率:4.5),アセトニトリル(誘電率:37.5),アセトフェノン(誘電率:17.3),アミルアルコール(誘電率:15.8),ジメチルアミン(誘電率:6.3),フタル酸メチルエステル(誘電率:8.5),フタル酸エチルエステル,フタル酸プロピルエステル,フタル酸ブチルエステル(誘電率:6.4),フタル酸ペンチルエステル,フタル酸ヘキシルエステル(誘電率:6.6),フタル酸ヘプチルエステル,フタル酸オクチルエステル(誘電率:5.1),フタル酸ノニルエステル,フタル酸(2-エチルヘキシル)エステル(誘電率:6.6),リン酸トリメチルエステル(誘電率:21),リン酸トリエチルエステル(誘電率:11),リン酸トリプロピルエステル,リン酸トリブチルエステル(誘電率:8.3),リン酸トリペンチルエステル,リン酸トリヘキシルエステル,リン酸トリヘプチルエステル,リン酸トリオクチルエステル,リン酸トリデシルエステル,リン酸トリ(2-エチルヘキシル)エステル(誘電率:7.0)などが挙げられる。」 「【0024】 (2)有機半導体化合物供給工程 次に,基板上に形成された有機溶媒液膜に有機半導体化合物を供給し,有機溶媒中に有機半導体化合物を溶解させる。 【0025】 本発明で用いられる有機半導体化合物としては,半導体特性を示す有機化合物であればいかなるものであってもよいが,好ましくは,芳香族炭化水素化合物,複素環化合物,もしくは半導体特性を持つ有機金属錯体である。芳香族炭化水素,チオフェン誘導体,もしくは半導体特性を持つ有機金属錯体がより好ましい。 本発明で用いられる有機半導体化合物としては,p型であってもn型であってもよい。p型有機半導体化合物の具体例としては,例えば,置換又は無置換の,ペンタセン類,ルブレン類,オリゴチオフェン類,フタロシアニン類などが挙げられる。また,ケミカル レビュー誌,第107巻,第953?1010頁,2007年に記載されている有機半導体材料も好適に用いられる。高い移動度を得る目的としては,ペンタセン,ルブレン,オリゴチオフェンが特に好ましい。 n型有機半導体化合物の具体例としては,例えば,フラーレン誘導体類,フッ素原子などの電子吸引性基で置換されたフタロシアニン類,ペリレン類などが挙げられる。 また,p型有機半導体化合物結晶とn型有機半導体化合物結晶とを積層させてpn接合型素子として利用してもよい。」 「【0038】 実施例1 透明電極であるITO付きガラス基板(10mm角,イーエッチシー社製)上に,フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)エステル(誘電率=6.6,ITO基板に対する接触角=21°)をスピンコート法(3000rpm)にて塗布し,厚み10μmの有機溶媒液膜を作製した。この有機溶媒液膜が形成されたガラス基板を,真空蒸着装置のチャンバー内に設置した。 次に,ルブレン(アルドリッチ社製)を昇華ルツボ中に設置し,真空蒸着を2時間かけて行った。このときの条件は,真空度1×10^(-3)Pa,ヒーター加熱温度180℃,蒸着速度5nm/分であった。このときガラス基板の温度は25℃であった。 有機溶媒液膜付きガラス基板をチャンバーから取り出して,顕微鏡観察を行ったところ,ガラス基板上には,ルブレン単結晶薄膜が形成されていた。得られた単結晶は,ほぼ円形であり,平均直径は15μm,厚み5μm,アスペクト比3であった。」 「【0046】 実施例6 有機半導体材料をペンタセンに変更したこと以外は実施例1と同様にして,単結晶薄膜を作製した。 得られた単結晶は,平行四辺形であり,平均直径は20μm,厚み4μm,アスペクト比5であった。」 (2)摘記の整理と引用発明1 以上の記載から,引用例1には次の事項が記載されているものと理解できる。 ア まず,特定の有機溶媒を基板上に塗布して,有機溶媒液膜を形成し,次に,基板上に形成された有機溶媒液膜に有機半導体化合物を供給し,有機溶媒中に有機半導体化合物を溶解させること。(段落0013,0024) イ 有機溶媒として,フタル酸エステル系化合物もしくはリン酸エステル系化合物が好ましいこと。(段落0018) ウ 有機半導体化合物として,ペンタセン類,ルブレン類,オリゴチオフェン類,フタロシアニン類,フラーレン誘導体類,フッ素原子などの電子吸引性基で置換されたフタロシアニン類,ペリレン類などが挙げられること。(段落0025) 上記アから,引用例1には,特定の有機溶媒中に有機半導体化合物を溶解させた組成物が記載されているものと理解できる。そうすると,引用例1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「有機溶媒中に有機半導体化合物を溶解させた組成物であって, 前記有機溶媒が,フタル酸エステル系化合物もしくはリン酸エステル系化合物のいずれかであり, 前記有機半導体化合物が,ペンタセン類,ルブレン類,オリゴチオフェン類,フタロシアニン類,フラーレン誘導体類,フッ素原子などの電子吸引性基で置換されたフタロシアニン類,ペリレン類のいずれかである,組成物。」 (3)引用例1に記載の技術的事項 また,引用例1には,フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)エステルからなる有機溶媒液膜を作成したガラス基板に有機半導体材料としてルブレン又はペンタセンを真空蒸着することが記載されている。(段落0038,0046) 2.引用例2の記載 ア 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例2(特表2011-522097号公報:原査定における引用文献3)には,次の記載がある。 「【0023】 更なる好ましい実施形態において,式(I)の化合物は,式(I.B) 【化10】 [式中, R^(1)基,R^(2)基,R^(3)基及びR^(4)基の内の少なくとも2つはClであり,残りの基は水素であり;及び R^(a)及びR^(b)は,それぞれ独立して水素,或いは非置換又は置換のアルキル,アルケニル,アルカジエニル,アルキニル,シクロアルキル,ビシクロアルキル,シクロアルケニル,ヘテロシクロアルキル,アリール又はヘテロアリールである]の化合物から選択される。」 「【0110】 式(I),より具体的には式(I.A)及び(I.B)の化合物は,特に有利には,有機半導体として適切である。それらは,一般にn型半導体として機能する。本発明により使用される式(I)の化合物が他の半導体と組み合わせられ,且つエネルギーレベルの位置が,他の半導体がn型半導体として機能するという結果を有する場合,化合物(I)は,例外的な場合においてp^(-)半導体として機能することもできる。」 「【0182】 実施例 I. 式(I.B)の化合物の製造 実施例1: 【化30】 」 「【0186】 標題化合物は,室温で1質量%のトルエン溶解性,及び室温で3質量%のテトラヒドロフラン溶解性を示した。」 イ 以上によれば,引用例2には,以下の技術的事項が記載されているものと理解できる。 ・式(I.B)の化合物がn型の有機半導体として機能し,トルエン溶解性及びテトラヒドロフラン溶解性を示すこと。 3.引用例3の記載 ア 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例3(特表2014-504022号公報:原査定における引用文献4)には,次の記載がある。 「【0044】 一般に,本発明は,式I: 【化2】 [式中,R1及びR2は,組成的に同一又は実質的に同一の,不斉中心を含む分枝鎖状有機基である]の化合物の鏡像異性的に富化した混合物を含む薄膜半導体に関する。式Iが種々の可能な位置異性体を含むことが意図されるが,式Iは,最低でも,式Iの種々の可能な位置異性体の中で最も動力学的に安定であると公知である異性体: 【化3】 を包含することが意図される。 【0045】 より詳述すれば,ある実施態様において,R^(1)及びR^(2)は,同一であり,かつ分枝鎖状C_(4-40)アルキル基,分枝鎖状C_(4-40)アルケニル基及び分枝鎖状C_(4-40)ハロアルキル基から選択されてよく,その際分枝鎖状C_(4-40)アルキル基,分枝鎖状C_(4-40)アルケニル基及び分枝鎖状C_(4-40)ハロアルキル基は, 【化4】 [式中,R’は,C_(1-20)アルキル又はハロアルキル基であり,かつR"は,R’とは異なり,C_(1-20)アルキル基,C_(2-20)アルケニル基及びC_(1-20)ハロアルキル基から選択される] から選択される式を有してよい。アスタリスク*は,不斉中心を示し,R^(1)及びR^(2)が,(R)-又は(S)-配置を有する。混合物は,鏡像異性的に富化され,すなわち混合物は,(R,R)-立体異性体(R^(1)及びR^(2)の双方が(R)-配置を有する)又は,(S,S)-立体異性体(R^(1)及びR^(2)の双方が(S)-配置を有する)の過剰量を含む。より詳述すれば,鏡像異性的に富化した混合物における(R,R)-立体異性体:(S,S)-立体異性体の比,又は(S,S)-立体異性体:(R,R)-立体異性体の比は,約0.8:0.2?約0.98:0.02である。」 「【0058】 式Iの化合物は,一般に,種々の通常のよう在中で良好な溶解度を有する。従って,本発明の鏡像異性的に富化した混合物は,安価な溶液-相技術によって,種々の電子デバイス,光学デバイス及び電気光学デバイスに加工されてよい。本明細書において使用されるように,化合物は,少なくとも1mgの化合物が溶剤1ml中で溶解されてよい場合に,溶剤中で可溶性であると考えられてよい。通常の有機溶剤の例は,石油エーテル,アセトニトリル,芳香族炭化水素,例えばベンゼン,トルエン,キシレン及びメシチレン,ケトン,例えばアセトン及びメチルエチルケトン,エーテル,例えばテトラヒドロフラン,ジオキサン,ビス(2-メトキシエチル)エーテル,ジエチルエーテル,ジイソプロピルエーテル及びt-ブチルメチルエーテル,アルコール,例えばメタノール,エタノール,ブタノール及びイソプロピルアルコール,脂肪族炭化水素,例えばヘキサン,アセテート,例えばメチルアセテート,エチルアセテート,メチルホルメート,エチルホルメート,イソプロピルアセテート及びブチルアセテート,アミド,例えばジメチルホルムアミド及びジメチルアセトアミド,スルホキシド,例えばジメチルスルホキシド,ハロゲン化脂肪族及び芳香族炭化水素,例えばジクロロメタン,クロロホルム,塩化エチレン,クロロベンゼン,ジクロロベンゼン及びトリクロロベンゼン,並びに環状溶剤,例えばシクロペンタノン,シクロヘキサノン及び2-メチルピロリドンを含む。通常の無機溶剤の例は,水及びイオン性液体を含む。」 「【0080】 実施例4:デバイス製造及び測定 薄膜トランジスタ(TFT)デバイス(50?100μmチャネル長さ(L)及び1.0?4.0mmチャネル幅(W))を,半導体フィルムとして導入された式Iの化合物の立体異性体の種々の混合物で,トップゲートボトムコンタクト配置を使用して製造した。 半導体フィルムを,塩素化溶剤(2?10mg/ml)の溶液から,Au電極/ガラス基材の頂部でスピンコートした。次に,ゲート誘電層をスピンコートした。ゲート誘電の例は,PMMA,PS,PVA,PTBSであり,かつ300?1500nmの厚さを有する。デバイスを,ゲートコンタクトの堆積によって完成した。全ての電気的測定を,周囲大気中で実施した。以下に報告したデータは,半導体フィルム上の種々の位置で試験した少なくとも3つのデバイスから測定された平均値である。」 イ 以上によれば,引用例3には以下の技術的事項が記載されているものと理解できる。 ・式Iの化合物を半導体として用いることができ,石油エーテル,アセトニトリル,芳香族炭化水素,例えばベンゼン,トルエン,キシレン及びメシチレン,ケトン,例えばアセトン及びメチルエチルケトン・・・(中略)・・・並びに環状溶剤,例えばシクロペンタノン,シクロヘキサノン及び2-メチルピロリドンに溶解されること。 4.引用例4の記載 ア 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例4(特開2014-139143号公報:原査定における引用文献1)には,次の記載がある。 「【0038】 [有機薄膜トランジスタ用組成物] 本発明の有機薄膜トランジスタ用組成物は,本発明のジチエノフェナントレン化合物を含む組成物であり,ジチエノフェナントレン化合物のみからなってもよく,ジチエノフェナントレン化合物の他に,他の成分をさらに含んでもよい。 上記他の成分としては,ウンデセン酸,ドデセン酸等の脂肪族カルボン酸;ポリエチレン,ポリスチレン,ポリカーボネート,ポリメチルメタクリレート等の汎用高分子;ポリヘキシルチオフェン,ポリジヘキシルフルオレン等の導電性高分子;他の低分子有機半導体材料等が挙げられる。これらのうち,高移動度を与えるという面から,導電性高分子,低分子有機半導体材料が好ましい。」 イ 以上によれば,引用例4には,有機薄膜トランジスタ用組成物にポリスチレンを含有させることが記載されているものと理解できる。 第4 対比・判断 1.本願発明1について (1)本願発明1と引用発明1の対比 本願発明1と引用発明1を比較する。 ア 引用発明1の「有機溶媒中に有機半導体化合物を溶解させた組成物」は,本願発明1の「有機半導体」及び「20℃,及び1013mbarで液状である少なくとも1種の化合物」「を含有する組成物」に相当する。 イ 引用発明1の「前記有機溶媒が,フタル酸エステル系化合物もしくはリン酸エステル系化合物のいずれか」であることは,本願発明1の「20℃,及び1013mbarで液状である少なくとも1種の化合物」が 「式(II.1)の化合物: 【化2】 」 「上記式中, X^(1)及びX^(2)は,*-(C=O)-O-であり,ここで*は,芳香族の炭素環に対する結合点であり,かつ R^(c),及びR^(d)は独立して,非分枝状,及び分枝鎖状のC_(1)?C_(12)アルキル,及びC_(2)?C_(12)アルケニルから選択される」 (以下「本願化合物(II.1)」という。)であることに対応する。ここで,「本願化合物(II.1)」が「フタル酸エステル系化合物」に相当することは明らかである。 ウ 引用発明1の「前記有機半導体化合物が,ペンタセン類,ルブレン類,オリゴチオフェン類,フタロシアニン類,フラーレン誘導体類,フッ素原子などの電子吸引性基で置換されたフタロシアニン類,ペリレン類のいずれかである」ことは,本願発明1の 「以下のものから選択される少なくとも1種の有機半導体」が, 「・一般式(I.a)のリレン化合物: 【化1】 上記式中, nは,1,2,3,又は4であり, R^(a),及びR^(b)は相互に独立して,水素,非置換又は置換されたアルキル,非置換又は置換されたアルケニル,非置換又は置換されたアルカジエニル,非置換又は置換されたアルキニル,非置換又は置換されたシクロアルキル,非置換又は置換されたビシクロアルキル,非置換又は置換されたシクロアルケニル,及び非置換又は置換されたヘテロシクロアルキルから選択され, 基R^(n1),R^(n2),R^(n3),及びR^(n4)は相互に独立して,水素,F,Cl,Br,及びCNから選択され」 (以下「本願有機半導体(I.a)」という。)であることに対応する。 以上ア?ウによれば,本願発明1と引用発明1の一致点及び相違点は以下のとおりとなる。 <一致点> 「A)有機半導体: B)20℃,及び1013mbarで液状である少なくとも1種の化合物, を含有する組成物。」である点。 <相違点1> 本願発明1では,「有機半導体」が「本願有機半導体(I.a)」であるのに対し,引用発明1では「ペンタセン類,ルブレン類,オリゴチオフェン類,フタロシアニン類,フラーレン誘導体類,フッ素原子などの電子吸引性基で置換されたフタロシアニン類,ペリレン類のいずれかである」点。 <相違点2> 本願発明1では,「20℃,及び1013mbarで液状である少なくとも1種の化合物」が「本願化合物(II.1)」であるのに対し,引用発明1では「フタル酸エステル系化合物もしくはリン酸エステル系化合物のいずれか」である点。 (2)相違点についての判断 事案に鑑み,相違点1及び2についてまとめて検討する。 ア 上記第3の2.によれば,引用例2には,式(I.B)の化合物として「本願有機半導体(I.a)」に相当するリレン化合物が記載され,当該化合物が有機半導体であることが記載されている。また,上記第3の3.によれば,引用例3には,式Iの化合物として「本願有機半導体(I.a)」に相当するリレン化合物が記載され,当該化合物が有機半導体であることが記載されている。そうすると,「本願有機半導体(I.a)」は,有機半導体材料として周知のリレン化合物であると理解できる。 イ しかしながら,引用例2及び引用例3には,上記リレン化合物の有機溶媒として,トルエン及びテトラヒドロフラン(上記第3の2.イ)や,石油エーテル,アセトニトリル,芳香族炭化水素,例えばベンゼン,トルエン,キシレン及びメシチレン,ケトン,例えばアセトン及びメチルエチルケトン・・・(中略)・・・並びに環状溶剤,例えばシクロペンタノン,シクロヘキサノン及び2-メチルピロリドン(上記第3の3.イ)を用いることは記載されているものの,フタル酸エステル系化合物を用いることは記載されていない。 ウ 一方,引用例1には,「フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)エステル」を「ルブレン又はペンタセン」に対する有機溶媒として用いることは記載されているが(上記第3の1.(3)),リレン化合物に対し「フタル酸エステル系化合物」を有機溶媒として用いることは記載されていない。また,引用例4にも,リレン化合物に対して「フタル酸エステル系化合物」を有機溶媒として用いることを記載した箇所は見当たらない。さらに,引用例1?4において,リレン化合物からなる有機半導体と「フタル酸エステル系化合物」を組み合わせることの示唆を見出すことはできない。 エ ここで,溶媒と有機半導体との適合性が限定的であるという技術常識を参酌すると,引用発明1において,有機半導体として「ペンタセン類,ルブレン類,オリゴチオフェン類,フタロシアニン類,フラーレン誘導体類,フッ素原子などの電子吸引性基で置換されたフタロシアニン類,ペリレン類」から,周知の「ペリレン類」である引用例2及び引用例3のリレン化合物を選択し,かつ,有機溶媒として,「フタル酸エステル系化合物もしくはリン酸エステル系化合物」のうち「フタル酸エステル系化合物」を選択することが,引用例1?4から動機付けられるとはいえない。 そして,本願発明1は,「本願有機半導体(I.a)」と「本願化合物(II.1)」との組み合わせにより,大面積の有機半導体結晶が得られる(本願明細書段落0310?0313)等の,予測し得ない効果が得られるものである。 (3)小括 以上ア?エのとおり,上記相違点1及び2に係る構成とすることは,引用発明1及び引用例1?4の技術的事項から当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 したがって,本願発明1は,引用発明1及び引用例1?4に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 2.本願発明2?19について 本願発明2?13はいずれも本願発明1を減縮した発明であり,本願発明1と同じ技術的事項を備える発明である。また,本願発明14は本願発明1?13に係る組成物の使用の発明であり,本願発明15?19は本願発明1?13に係る組成物を用いたデバイスの製造方法の発明であり,本願発明1と同じ技術的事項を備える発明である。したがって,本願発明2?19は,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用例1?4に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 第5 原査定の概要及び原査定についての判断 原査定(令和元年10月18日付け拒絶査定)の概要は,本願の請求項1?19に係る発明は,下記引用文献1?4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 引用文献一覧 ・引用文献1.特開2014-139143号公報(上記引用例4と同じ文献) ・引用文献2.特開2009-78963号公報(上記引用例1と同じ文献) ・引用文献3.特表2011-522097号公報(上記引用例2と同じ文献) ・引用文献4.特表2014-504022号公報(上記引用例3と同じ文献) しかしながら,令和2年11月17日提出の手続補正書でした補正(以下「当審補正」という。)により,本願発明1?19はそれぞれ,上記相違点1及び相違点2(第4の1.(1))に係る構成を有するものとなっており,上記第4のとおり,本願発明1?19は,上記引用文献2に記載された発明及び上記引用文献1,3?4に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。 第6 当審拒絶理由について 当審では,令和2年9月23日付けで特許法36条6項2号の拒絶理由を通知しているが,以下に示すとおり,この拒絶の理由は解消した。 (1)当審では,請求項6の「より好ましくは」「より好ましくは少なくとも」「特に少なくとも」という記載の意味が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,当審補正により,「より好ましくは16?19mPa^(1/2)の範囲」,「より好ましくは8?11mPa^(1/2)の範囲」,「より好ましくは4?5mPa^(1/2)の範囲」,「より好ましくは少なくとも150℃,特に少なくとも200℃」との記載が削除された結果,この拒絶の理由は解消した。 (2)当審では,請求項9の「少なくとも0.01mg/ml,好ましくは少なくとも0.05mg/ml」との記載は不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,当審補正により,「好ましくは少なくとも0.05mg/ml」との記載が削除された結果,この拒絶の理由は解消した。 (3)当審では,請求項12の「少なくとも0.01mg/ml,好ましくは少なくとも0.1mg/ml」との記載は不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,当審補正により「好ましくは少なくとも0.1mg/ml」との記載が削除された結果,この拒絶の理由は解消した。 (4)当審では,請求項13の「好ましくは誘電性ポリマー若しくは半導体ポリマーから選択される粘度調整添加剤,特にポリスチレンを含有する」との記載は不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,当審補正により,請求項13の記載を「誘電性ポリマー若しくは半導体ポリマーから選択される粘度調整添加剤を含有する,請求項1から12までのいずれか1項に記載の組成物。」とする補正がされた結果,この拒絶の理由は解消した。 (5)当審では,請求項14の「好ましくは有機エレクトロニクスにおける,若しくは有機光電池における半導体材料を製造するための」との記載は不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,当審補正により「好ましくは」との記載が削除された結果,この拒絶の理由は解消した。 第7 結言 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-02-24 |
出願番号 | 特願2017-509705(P2017-509705) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 高柳 匡克、脇水 佳弘 |
特許庁審判長 |
恩田 春香 |
特許庁審判官 |
小川 将之 ▲吉▼澤 雅博 |
発明の名称 | 液状媒体を含有する有機半導体組成物 |
代理人 | 上島 類 |
代理人 | 前川 純一 |
代理人 | 森田 拓 |
代理人 | 二宮 浩康 |
代理人 | 永島 秀郎 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 篠 良一 |