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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  F04B
審判 一部無効 1項3号刊行物記載  F04B
管理番号 1371420
審判番号 無効2018-800013  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-02-07 
確定日 2021-03-09 
事件の表示 上記当事者間の特許第4304544号発明「ピストン式圧縮機における冷媒吸入構造」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第4304544号(以下、「本件特許」という。)の請求項1、2に係る発明についての出願は、平成14年11月7日(国内優先権主張平成13年11月21日)に出願した特願2002-324043号の一部を平成19年12月27日に新たな特許出願としたものであって、平成21年5月15日にその発明について特許権の設定登録(請求項の数2)がなされた。
そして、本件特許無効審判の請求人でもあるハノンシステムズ・ジャパン株式会社より平成27年5月1日に、本件特許の請求項1に係る発明の特許を無効することを求める特許無効審判:無効2015-800122号(以下、「第1次特許無効審判」という。)の請求がなされ、平成28年9月23日に、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める、審判の請求は成り立たない旨の審決がなされた。第1次特許無効審判に係る手続の概要は、概略、以下のとおりである。

平成27年 5月 1日 第1次特許無効審判の請求
同年 7月22日 審判事件答弁書提出
同年 8月18日 審理事項通知書提出
同年10月13日 口頭審理陳述要領書(請求人)提出
口頭審理陳述要領書(被請求人)提出
同年10月27日 口頭審理陳述要領書(2)(請求人)提出
同年10月27日 口頭審理
同年11月 6日 上申書(被請求人)提出
同年11月13日 上申書(請求人)提出
同年12月22日 審決の予告
平成28年 3月 7日 訂正請求書
上申書(被請求人)提出
同年 4月14日 審判事件弁駁書(請求人)提出
同年 9月23日 審決
平成30年 7月19日 審決確定

その後、請求人より平成30年2月7日に、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)の特許について本件特許無効審判の請求がなされた。

本件特許無効審判に係る手続の概要は、概略、以下のとおりである。
平成30年 2月 7日 特許無効審判の請求・証拠説明書提出
同年 5月 7日 審判事件答弁書提出
同年 7月27日 上申書(請求人)提出
同年 8月28日 審理事項通知書
同年 9月19日 口頭審理陳述要領書・証拠説明書(請求人
)提出
同年 9月19日 口頭審理陳述要領書(被請求人)提出
同年10月10日 口頭審理

第2 本件特許発明

第1次特許無効審判の審決が前記のとおり確定したので、特許法第134条の2第9項において準用する同法第128条の規定により、本件特許発明は、願書に添付した明細書及び図面並びに本件特許に係る第1次特許無効審判における平成28年3月7日付け訂正請求書(以下、「本件特許訂正請求書」という。)に添付した訂正特許請求の範囲(以下、「本件特許明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し、前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させ、前記回転軸と一体化されていると共に、前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を有するロータリバルブを備えたピストン式圧縮機において、
前記シリンダボアに連通し、かつ前記ロータリバルブの回転に伴って前記導入通路と間欠的に連通する吸入通路と、
吐出行程にある前記シリンダボア内の前記ピストンに対する圧縮反力を前記ロータリバルブに伝達して、吐出行程にある前記シリンダボアに連通する前記吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段とを有し、
前記シリンダブロックは、前記ロータリバルブを回転可能に収容する軸孔を有し、
前記導入通路の出口は、前記ロータリバルブの外周面上にあり、前記ロータリバルブの外周面は、前記導入通路の出口を除いて円筒形状とされ、前記吸入通路の入口は、前記軸孔の内周面上にあり、前記軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接支持されることによって前記ロータリバルブを介して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段となっており、前記ラジアル軸受手段は、前記カム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段であり、
前記ピストンは両頭ピストンであり、前記両頭ピストンを収容する前後一対のシリンダボアに対応する一対のロータリバルブが前記回転軸と一体的に回転し、前記ロータリバルブの各導入通路は前記回転軸内に形成された通路を介して連通し、前記カム体は、前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて前記回転軸の軸線の方向の位置を規制されており、前記一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方は前記圧縮反力伝達手段の一部をなし、該圧縮反力伝達手段の一部をなすスラスト軸受手段は、前記シリンダブロックの端面に形成された環状の突条と前記カム体の端面に形成された環状の突条とに当接し、前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくしたピストン式圧縮機における冷媒吸入構造。」

第3 請求人の主張の概要

請求人は、本件特許発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする旨の無効審判を請求し、証拠方法として、下記の甲第1ないし16号証及び甲第18ないし22号証を提出し、審判請求書に記載された、「訂正発明」(本件特許発明に相当)についての無効理由の主張(審判請求書7.4-3、第74ページ第7行ないし第76ページ第24行参照)に、「本件発明」(訂正前の請求項1に記載された発明に相当)についての無効理由の主張(審判請求書7.3、第4ページ第1行ないし第70ページ第6行参照)を合わせて考慮すると、以下のとおりの無効理由を主張している。

1.無効理由1
(1)無効理由1-1
本件特許発明は、甲第2号証に記載された発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当するから、本件特許発明に係る特許は同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(2)無効理由1-2
本件特許発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第5号証ないし甲第10号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

2.無効理由2
本件特許発明は、甲第13号証に記載された発明並びに甲第2号証及び甲第5号証ないし甲第12号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

3.無効理由3
本件特許発明は、甲第14号証に記載された発明並びに甲第2号証及び甲第5号証ないし甲第12号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

4.無効理由4
本件特許発明は、甲第15号証に記載された発明並びに甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第14号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

なお、審判請求書では、「したがって、訂正発明は、引用発明4並びに甲第2号証及び甲第5号証ないし甲第12号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである」(審判請求書第75ページ第22行ないし第24行)と記載されているが、その理由において「甲第2号証,甲第4号証,甲第9号証,甲第13号証及び甲第14号証に記載されているように,ロータリバルブの導入通路を回転軸内に形成された通路を介して連通させることは周知であるから」(審判請求書第75ページ第17行ないし第19行)との主張があるので、請求人の主張する無効理由4は前記のとおりであるといえる。

5.無効理由5
本件特許発明は、甲第16号証に記載された発明並びに甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第14号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

なお、前記「4.」のなお書きについて、無効理由5も同様である(審判請求書第76ページ第20行ないし第22行及び同ページ第15行ないし第17行参照)。

[証拠方法等]
甲第1号証:「一体化」の検索結果-Yahoo!辞書のウェブページ
「https://dic.yahoo.co.jp/search/?p=%E4%B8%80%E4%BD%93
%E5%8C%96&stype=full&aq=-1&oq=&ei=UTF-8」
甲第2号証:日本電装公開技報 整理番号57-088
甲第3号証:特開昭58-98674号公報
甲第4号証:特開昭60-164684号公報
甲第5号証:特開平10-18971号公報
甲第6号証:特開平9-60584号公報
甲第7号証:特開平9-42153号公報
甲第8号証:特開平8-61239号公報
甲第9号証:特開平7-63165号公報
甲第10号証:特開平8-144946号公報
甲第11号証:実公昭58-46263号公報
甲第12号証:特開平7-301177号公報
甲第13号証:日本電装公開技報 整理番号106-047
甲第14号証:特開平8-61230号公報
甲第15号証:特開平7-293431号公報
甲第16号証:特開平6-58256号公報
甲第18号証:特開平8-284815号公報
甲第19号証:特開平9-291883号公報
甲第20号証:特開平6-58252号公報
甲第21号証:特開平6-58250号公報
甲第22号証:特開平5-306680号公報
(甲第17号証及び甲第17号証の1は、平成30年9月19日付け口頭審理陳述要領書(第2ページ第20?21行(空白行を除く)参照。)により取り下げられた。)

第4 被請求人の主張の概要

被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めており、証拠方法として、下記の乙第1及び2号証を提出し、請求人の主張する無効理由はいずれも理由がなく、本件特許発明は、特許法第29条第1項又は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものではないと主張している。

[証拠方法等]
乙第1号証:知的財産高等裁判所平成28年(行ケ)第10231号判決
(平成29年10月26日言渡)
乙第2号証:知的財産高等裁判所平成29年(ネ)第10060号判決
(平成29年11月28日言渡)

第5 当審の判断

1.本件特許発明における「前記ラジアル軸受手段は、前記カム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段であり」について
請求人は、本件特許発明における「前記ラジアル軸受手段は、前記カム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段であり」とは、回転軸のカム体からロータリバルブの間には唯一のラジアル手段しかないと解される旨主張しており(審判請求書「7.3-5-1」(第44?45ページ))、被請求人は、請求人の当該解釈は誤りである旨主張している(審判事件答弁書「第6 2(2)」(第58?60ページ))。
当該主張について検討する。「側」とは、「(1)物の一つの方向・面。(2)相対する二つの一方。片方。(3)(中味に対し)外側を囲むもの。ふち。」(広辞苑 第六版)を意味するから、文理的には、特許請求の範囲の請求項1に記載された「前記カム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分」を「回転軸のカム体からロータリバルブの間」と解することはできない。
そして、本件特許明細書等には、「斜板23からロータリバルブ35側における回転軸21の部分」(段落0040)や「斜板23からロータリバルブ36側における回転軸21の部分」(段落0041)との記載がある。これらの記載は、斜板23から回転軸21の軸線の方向における両方向に延びる回転軸21の部分を、両頭ピストンであるピストン29,29Aを収容する前後一対のシリンダボアのうちの前側のシリンダボア27,27Aに対応するロータリバルブ35が存在する側と、該前後一対のシリンダボアのうちの後側のシリンダボア28,28A,28Bに対応するロータリバルブ36が存在する側とで区別する記載であり、先に述べた「側」の意味を考慮すれば、「斜板23からロータリバルブ35側における回転軸21の部分」との記載は、斜板23から前側(ロータリバルブ35側)に延びる回転軸21の部分を、「斜板23からロータリバルブ36側における回転軸21の部分」との記載は、斜板23から後側(ロータリバルブ36側)に延びる回転軸21の部分を意味すると解するのが相当である。
更に、本件特許明細書等には、「斜板23からロータリバルブ側における回転軸21の部分に関する唯一のラジアル軸受手段によって回転軸21を支持する構成は、吸入通路33A,34Aの入口331,341をロータリバルブ35,36によって塞ぐ作用を高める。」(段落0042)との記載がある。カム体(斜板23)からロータリバルブ(ロータリバルブ35又はロータリバルブ36)より離れた箇所であっても、ロータリバルブ以外のラジアル軸受手段が存在すると、圧縮反力がロータリバルブ以外のラジアル軸受手段にも分散されてしまい、吸入通路の入口をロータリバルブによって塞ぐ作用を高めるという効果を奏することができないから、「カム体からロータリバルブ側における回転軸の部分」を「回転軸のカム体からロータリバルブの間」と解することは、本件特許明細書等の記載と矛盾する。
そうすると、本件特許発明における「前記カム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分」は、「カム体から回転軸の軸線の方向における一方向(前側)に延びる回転軸の部分と、カム体から回転軸の軸線の方向における他方向(後側)に延びる回転軸の部分のうち、ロータリバルブが存在する側に延びる回転軸の部分」を意味すると解するべきものである。そして、本件特許発明は、「前記両頭ピストンを収容する前後一対のシリンダボアに対応する一対のロータリバルブが前記回転軸と一体的に回転」するもの、すなわちカム体から回転軸の軸線の方向における一方向(前側)に延びる回転軸の部分と、カム体から回転軸の軸線の方向における他方向(後側)に延びる回転軸の部分のいずれにもロータリバルブが存在するものであるから、結果として、本件特許発明においては、「前記カム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分」は「回転軸の、カム体と重畳しない部分」と等しくなる。
以上のとおりであるから、本件特許発明における「前記ラジアル軸受手段は、前記カム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段であり」は、請求人が主張するように「回転軸のカム体からロータリバルブの間には唯一のラジアル手段しかない」と解されるものではなく、「前記ラジアル軸受手段は、前記回転軸の、前記カム体と重畳しない部分に関する唯一のラジアル軸受手段である」と解すべきものであって、カム体から回転軸の軸線の方向における前側に延びる回転軸の部分に関しては、前後一対のシリンダボアのうちの前側のシリンダボアに対応するロータリバルブの外周面が軸孔の内周面に直接支持されることによるラジアル軸受手段が唯一のラジアル軸受手段であり、カム体から回転軸の軸線の方向における後側に延びる回転軸の部分に関しては、前後一対のシリンダボアのうちの後側のシリンダボアに対応するロータリバルブの外周面が軸孔の内周面に直接支持されることによるラジアル軸受手段が唯一のラジアル軸受手段である。

2.甲各号証に記載された発明及び事項
(1)甲第2号証
本件特許に係る国内優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に頒布された刊行物である甲第2号証には、図面と共に以下の記載がある(下線は、当審で付した。)。
ア.「本案は,自動車用エアコンに用いる圧縮機に関し,特にアキシャル型コンプレッサの吸入冷媒通路方法に関する。」(左欄第1?3行)
イ.「カークーラ用圧縮機は,年々小型軽量化という事で,外観寸法の抑制・軽量材料の採用が行なわれており,特に小型化のために,吸入及び吐出脈動の抑制を行なっている副吸入室及び副吐出室までもが小さくしている。そのため,吸入脈動ではサクション弁の自励振動による脈動音が生じ,又,吐出脈動においては車輌ボディーとの共振による共振音が生じ問題となっている。・・・(中略)・・・
尚,軽量化の問題については,摺動部材へのAl材採用により,潤滑機能が損なわれた時の耐久性の低下も問題となっている。」(左欄第4?18行)
ウ.「本案は上記点に鑑みてなされたもので,各摺動部へのオイル潤滑を過渡条件下でも,十分行なえるようにすると同時に,サクション弁の自励振動を無くし,吐出脈動を,現状体格にて抑制させることを目的とする。」(左欄第19行?右欄第2行)
エ.「その為,本案ではリヤハウジング1のうち,シャフト2と同軸部へ吸入サービスバルブ3を設ける。そして,ピストン4が下死点に位置した時開口するシリンダの吸入通路5をハウジングに形成する。又,シャフト2にはこの吸入通路5と連通する各摺動部位置に横穴6を形成し,更にこれらの穴6を連通して,吸入サービスバルブ部と通じる吸入連通穴7をシャフト2に内蔵させる。吸入冷媒は,シャフト2内部よりシリンダ側壁通路5よりシリンダ8内へ吸込まれるため副吸入室&サクション弁は廃止できる。また,副吸入室のスペースが無くなるため,この容積を副吐出室9とすることが出来,吐出脈動の低減にもなる。以上の吸入冷媒通路を設けることにより,吸入弁は廃止でき,弁の自励振動異音はなくなると共に,吐出脈動は低減することが出来る。更に,吸入冷媒が各摺動部を局部的に通過するため,過渡時におけるオイル潤滑性は,向上し,耐久性に優れる。」(右欄第3?21行)
そして、記載ア及びエ並びに図面の記載を併せてみると、技術常識を鑑みて、次のことが理解できる。
オ.ハウジングにおけるシャフト2の周囲に複数のシリンダ8が配列され、前記シリンダ8内にピストン4を収容し、シャフト2の回転に斜板を介してピストン4を連動させる。
カ.ハウジングは、シャフト2を回転自在に収容する軸孔を有する。
キ.斜板の両側の、横穴6が吸入通路5と連通する摺動部位置よりも斜板から離れた位置において、軸孔の内周面にシャフト2の外周面が一対のラジアル軸受を介して支持されている。
ク.ピストン4は、両頭ピストンであり、ピストン4を収容するシリンダ8は前後一対で設けられている。
ケ.斜板は、前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれてシャフト2の軸線の方向の位置を規制されており、前記一対のスラスト軸受手段は、ハウジングの端面に形成された環状の突条と前記斜板の端面に形成された環状の突条とに当接しており、前記斜板の突条の径が前記ハウジングの突条の径よりも大きい。
そして、記載エ及び図面の記載を併せてみると、「シリンダの吸入通路5」と「シリンダ側壁通路5」は同一のものであることが理解でき、更に記載ア?エ、事項オ?ケ及び図面の記載を総合してみて、甲第2号証には、「アキシャル型コンプレッサにおける冷媒吸入構造」が開示されているといえる。

以上のことから、甲第2号証には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)又は技術が記載されていると認める。
「ハウジングにおけるシャフト2の周囲に配列された複数のシリンダ8内にピストン4を収容し、シャフト2の回転に斜板を介してピストン4を連動させたアキシャル型コンプレッサにおいて、
ピストン4が下死点に位置した時開口するシリンダの吸入通路5をハウジングに形成し、シャフト2には吸入通路5と連通する各摺動部位置に横穴6を形成し、これらの横穴6を連通して吸入サービスバルブ部と通じる吸入連通穴7をシャフト2に内蔵させ、吸入冷媒はシャフト2内部よりシリンダの吸入通路5よりシリンダ8内へ吸込まれ、
前記ハウジングは、シャフト2を回転可能に収容する軸孔を有し、
斜板の両側の、横穴6が吸入通路5と連通する摺動部位置よりも斜板から離れた位置において、軸孔の内周面にシャフト2の外周面が一対のラジアル軸受を介して支持されており、
ピストン4は両頭ピストンであり、ピストン4を収容するシリンダ8は前後一対で設けられ、前記斜板は、前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれてシャフト2の軸線の方向の位置を規制されており、前記一対のスラスト軸受手段は、前記ハウジングの端面に形成された環状の突条と前記斜板の端面に形成された環状の突条とに当接し、前記斜板の突条の径が前記ハウジングの突条の径よりも大きい、
アキシャル型コンプレッサにおける冷媒吸入構造。」
(2)甲第3号証
本件特許に係る優先日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、図面と共に以下の記載がある。
ア.「本発明は冷媒圧縮用の多気筒圧縮機に関し、例えば自動車用空調装置に用いて有効である。」(第1ページ右下欄第8?9行)
イ.「第2図および第3図において、1はシャフトであり、図示されない電磁クラッチを介して駆動源をなす自動車用エンジンに連結し、エンジンの駆動力により回転するものである。2は鉄系金属を楕円形に成形してなる斜板で、シャフト1にキー止めにより固定されシャフト1と一体に揺動回転するようになっている。そして、この斜板2の揺動回転はシュー3,ボール4を介してピストン5を往復運動させる。6はこのピストン5の往復運動を支持するシリンダ部6aを有するハウジングで、図中左右に分割してダイカスト成形されたものをOリングを介して密着結合して形成したものである。7は図示しない蒸発器に連通してハウジング6内の吸入通路室6bへ冷媒ガスを導入する吸入サービスバルブである。
8,8はそれぞれハウジング6の両側端面に位置するサイドハウジングで、ガスケット21,21,バルブプレート9,9および吸入弁板22,22を介してハウジング6にボルト止めされている。そして、このサイドハウジング8の内吸入通路室6bと吸入通路穴9aを介して連通する部分には吸入室8bが形成されており、さらにこのサイドハウジング8中この吸入室8bの外方側には吐出室8aが形成されている。(第4,第5,第6,第7図図示)
この吐出室8aおよび吸入室8bは、それぞれその一部が前記ピストン5と対向するようになっており、ピストン5対向位置ではバルブプレート9に吐出孔25および吸入孔26が開口している。そして第8図に示すように、前記吸入弁板22は吸入孔26対向位置でピストン5側に屈曲成形されて吸入弁27を形成するようになっている。また、ハウジング6にはこの吸入弁27のストッパ20が切欠き形成されている。」(第2ページ右上欄第5行?左下欄第18行)
(3)甲第4号証
本件特許に係る優先日前に頒布された刊行物である甲第4号証には、図面と共に以下の記載がある。
ア.「特許請求の範囲
1.自動車のエンジンにより回転駆動され、空気調和装置の冷凍サイクルを循環する冷媒を吸入・圧縮する圧縮機において、該圧縮機の回転軸を中空に形成し、該回転軸の中空部を通して冷凍サイクルの低圧冷媒を前記圧縮機のシリンダ内に吸入する如く構成すると共に、該中空部を通る冷媒が該中空部に対して放射方向に穿設された穴を通して流入又は流出する様に構成した自動車用空気調和装置の圧縮機。」(第1ページ左下欄第3?12行)
イ.「〔発明の実施例〕
以下本発明を斜板式圧縮機に適用した例を第1図乃至第3図に基づき説明する。
斜板式圧縮機の圧縮機構に関しては前掲の特公昭57-50943号と同じである。
本実施例では吸入冷媒の流路に特徴があるのでその部分について以下詳説する。
シヤフト1の後端から圧縮機のフロント側に向つて10φの軸穴が穿設されている。この軸穴2は斜板3をはさむフロント,リア両スラストベアリング4,5のフロント側スラストベアリング4直下まで延びている。
シヤフト1には軸穴2から半径方向外側に向つて延び、シヤフトの周面に開口する放射孔6a,6b及び7a,7bが各々フロント側スラストベアリング4及びリア側スラストベアリング5に対面する位置に180度の間隔を置いて穿設されている。
斜板3のフロン卜側ボス部3aにはフロント側の斜板面3Aに沿つてシヤフトの回転中心に向う4φの通孔10a?10e(5本)が等間隔に穿設されている。
同様に斜板3のリア側ボス部3bにはリア側の斜板面3Bに沿つてシヤフトの回転中心に向う4φの通孔11a?11e(5本)が等間隔に穿設されている。
斜板3とシヤフト1との圧入固定面の通孔10a?10e,通孔11a?11eの内側端に対面する位置には環状溝12,13が刻設されており、各通孔はこの溝で連通されている。シヤフト1には溝12,13にその外方端が開口する様に軸穴2から半径方向に延びる5φの通孔8a,8b,8c(8b,8cは図示せず)及び9a,9b,9c(9b,9cは図示せず)が各々3本ずつ120度間隔で穿設されている。
結局軸穴2は放射孔6a,6b,7a,7b,及び両スラストベアリング4,5を介して斜板3が揺動するフロント,リア両シリンダブロツク15a,15b内の空間14に連通している。
更に、通孔8a(8b,8c)と9a(9b,9c)、溝12と13、及び通孔10a?10eと11a?11eを介して空間14に連通している。」(第3ページ左上欄第2行?左下欄第4行)
ウ.「電磁クラツチ30を介して伝達されるエンジンの回転によつてシヤフト1が回転すると斜板3が空間14内で揺動する。
斜板3の揺動によつて図示しない周知の両頭ピストンがシヤフ卜のまわりに並行に且つ等間隔に配置された3対のシリンダボア内を往復動する。
斜板3をはさんでフロント側に位置するシリンダ内へは吸入ユニオン24から導入された冷媒の一部が軸穴2を通り、放射孔6a,6b,7a,7bあるいは通孔8a?8c,9a?9cからそれぞれスラストベアリング4,5及び通孔10a?10e,11a?11eを通り、空間14,油分離室31a,通孔32,フロント側のサイドプレート19aに設けた通孔33,シヤフトシール34が配置されたフロント側サイドカバー20a内の低圧室21aを通つて、矢示する如く吸入される。」(第4ページ左上欄第2?18行)
(4)甲第5号証
本件特許に係る優先日前に頒布された刊行物である甲第5号証には、図面と共に以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。)。
ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ハウジング内に一対のラジアルベアリングを介して駆動シャフトを回転可能に支持し、その駆動シャフトの中間部にはカムプレートを配設し、そのカムプレートとハウジングとの間にはスラストベアリングを介装し、前記ハウジングの一部を構成するシリンダブロックには前記駆動シャフトと平行に延びるように複数のシリンダボアを形成し、そのシリンダボア内にピストンを往復動可能に挿嵌し、前記駆動シャフトのフロント側を駆動源に作動連結し、その駆動シャフトの回転により前記カムプレートを介して前記ピストンを往復動させて、圧縮作用を行うようにしたピストン式圧縮機において、
前記駆動シャフトを、フロント側ラジアルベアリングと対応する部分が最大径となるように形成したピストン式圧縮機。」
イ.「【0019】
【発明の実施の形態】
(第1実施形態)以下に、この発明の第1実施形態を、図1に基づいて説明する。」
ウ.「【0022】駆動シャフト17は、前記シリンダブロック11及びフロントハウジング12の中心に、一対のラジアルベアリング18A,18Bを介して回転可能に支持されている。」
エ.「【0028】次に、前記駆動シャフト17及びその支持構成について詳述する。・・・(中略)・・・駆動シャフト17のフロント側ラジアルベアリング18Aと対応する支持部分17bは、その外径D2が嵌着部分17aの外径D1よりも大であり、駆動シャフト17の全長で最大径となるように形成されている。・・・(中略)・・・
【0031】さらに、前記駆動シャフト17の後端中心には孔35が形成され、駆動シャフト17のリヤ側ラジアルベアリング18Bと対応する後端部分17cの断面積が減少されている。」
オ.「【0035】前記の実施形態によって期待できる効果について、以下に記載する。
・・・(中略)・・・
【0036】(b) この実施形態のピストン式圧縮機においては、フロント側ラジアルベアリング18Aが円筒状のプレーンベアリングで構成されている。このため、フロント側ラジアルベアリング18Aによる駆動シャフト17の支持剛性を向上することができて、駆動シャフト17の振れ回りをより効果的に抑制することができる。
・・・(中略)・・・
【0038】(d) この実施形態のピストン式圧縮機においては、ピストン21が両頭型に形成され、そのピストン21の中間部に斜板24が係留されている。このため、両頭型ピストン21の両端に圧縮反力が交互に作用して、斜板24及び駆動シャフト17を介してフロント側ラジアルベアリング18Aに加わる圧縮反力の割合が大きい場合でも、駆動シャフト17の振れ回りを確実に抑制することができる。」
カ.「【0048】なお、この発明は、次のように変更して具体化することも可能である。
・・・(中略)・・・
【0051】(4) 一対のラジアルベアリング18A,18Bを省略するとともに、駆動シャフト17の支持部分17b及び後端部分17cと対向するシリンダブロック11の内周面に摩擦係数の安定した物質の層を形成して、駆動シャフト17をシリンダブロック11の内周面でほぼ直接的に支持すること。
・・・(中略)・・・
【0053】これらのように構成しても、前記各実施形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。」
以上のことから、甲第5号証には以下の技術が記載されていると認める。
「ハウジング内に一対のラジアルベアリングを介して駆動シャフトを回転可能に支持したピストン式圧縮機において、一対のラジアルベアリング18A,18Bを省略するとともに、駆動シャフト17の該一対のラジアルベアリング18A,18Bと対応する支持部分17b及び後端部分17cと対向するシリンダブロック11の内周面で駆動シャフト17をほぼ直接的に支持する。」
(5)甲第6号証
本件特許に係る優先日前に頒布された刊行物である甲第6号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ア.「【請求項1】 ピストンを往復動可能に収納する複数のシリンダボアをケーシングのシリンダブロックに形成するとともに、そのケーシングにはクランク室を形成し、ケーシングと該ケーシングの後部側に収容されたスプールとの間に駆動シャフトを回転可能に支持し、その駆動シャフトにはカム板を一体回転可能に挿着し、カム板の回転によりピストンを往復動させて冷媒ガスを圧縮するとともに、前記スプールの移動と前記カム板の傾角の変更が連動して行われるように構成された可変容量圧縮機において、
前記スプールを150℃以上の熱変形温度を有する合成樹脂で一体形成した可変容量圧縮機。」
イ.「【請求項3】 前記駆動シャフトの後端部を、前記スプールのみを介してシリンダブロックに貫設されたスプールの収容孔の内周面で支持するようにした請求項1又は2に記載の可変容量圧縮機。」
ウ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば車両空調装置に使用される可変容量圧縮機に関するものである。
【0002】
【従来の技術】この種の圧縮機においては、駆動シャフトと一体回転可能かつ傾動可能に挿着されたカム板の回転によって、複数のピストンがシリンダブロックに形成されたシリンダボア内を往復動する。このような可変容量圧縮機として、前記駆動シャフトの後端部とシリンダブロックとの間にスプールが介在されたものが知られている。このスプールと駆動シャフトとの間には、例えばニードル転がり軸受あるいは円筒状のレースからなる滑り軸受等が介在されて、該駆動シャフトが該シリンダブロックに対して相対回転可能なものとなっている。」
エ.「【0007】
【発明が解決しようとする課題】ところで、従来の可変容量圧縮機においては、スプールと駆動シャフトとの間に例えばニードル軸受等転がり軸受、あるいは例えば円筒状のレースからなる滑り軸受等の別体の軸受部材が介在されている。これらの軸受部材は、高価なものであるとともに、これら軸受のために部品点数が増して圧縮機の構成が複雑化しているという問題があった。又、前記のように、該スプールは、その摺動性及び後端の遮断面のシール性確保のため、高価な表面処理を必要とするものであった。このため、圧縮機の製作コストの高騰を招いていた。
【0008】本発明の目的としては、スプールと駆動シャフト及びシリンダブロックとの摺動が安定で、しかも簡素な軸受構造により安価な可変容量圧縮機を提供することにある。」
オ.「【0014】従って、請求項1の発明によれば、・・・(中略)・・・該スプールが滑り軸受を構成し、駆動シャフトを該スプールによって別体の軸受部材を介することなく直接支持することができる。又、スプールとシリンダブロックとの間の焼き付きが防止される。また、該スプールが150℃以上の熱変形温度を有するため、該スプールの周辺環境温度を考慮しても該スプールが熱変形を生じる心配はほとんどない。
【0015】・・・(中略)・・・請求項3の発明によれば、駆動シャフトがスプールのみを介して、シリンダブロックに支持されるため、駆動シャフトの軸受構造が簡素化される。このため、従来の圧縮機に比べて部品点数が削減される。そして、圧縮機の組み付けにおいて従来必要であった、転がり軸受の圧入あるいは滑り軸受の嵌挿等の作業が不要となる。」
以上のことから、甲第6号証には以下の技術が記載されていると認める。
「ピストンを往復動可能に収納する複数のシリンダボアをケーシングのシリンダブロックに形成し、駆動シャフトの後端部とシリンダブロックとの間にスプールが介在された可変容量圧縮機において、従来このスプールと駆動シャフトとの間に介在されていたニードル転がり軸受あるいは滑り軸受等の別体の軸受部材を介することなく、駆動シャフトをスプールにより直接支持し、駆動シャフトの軸受構造を簡素化する。」
(6)甲第7号証
本件特許に係る優先日前に頒布された刊行物である甲第7号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ピストンを往復動可能に収納する複数のシリンダボアをケーシングのシリンダブロックに形成するとともに、そのケーシングにはクランク室を形成し、ケーシングに支持された駆動シャフトにはカム板を一体回転可能に挿着し、カム板の回転によりピストンを往復動させて、冷媒ガスを圧縮するように構成した圧縮機において、
前記駆動シャフトを前記シリンダブロックの軸孔に挿通するとともに、該駆動シャフトに作用するラジアル方向の荷重を該シリンダブロックで直接支持した圧縮機。」
イ.「【0002】
【従来の技術】この種のピストン式圧縮機において、駆動シャフトは、接合されたシリンダブロック及びハウジングの軸孔に一対のラジアル軸受を介して回転可能に支持されている。この両ラジアル軸受間において、斜板がボス部を介して該駆動シャフトに固着されるとともに、同ボス部の両端部とシリンダブロックとの間にスラスト軸受がそれぞれ介装されている。そして、駆動シャフトの回転と共動する斜板の回転により冷媒ガスの圧縮が行われる。この圧縮動作によって駆動シャフトに発生するラジアル荷重及びスラスト荷重は、前記ラジアル軸受及びスラスト軸受によって支持される。
【0003】このような圧縮機におけるラジアル軸受の構成としては、例えばニードル軸受等のころがり軸受及び円筒状のレースあるいは銅系のブッシュからなる滑り軸受等が知られている。
ウ.「【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところが、上記のような転がり軸受及び滑り軸受は高価なものであるとともに、これら軸受のために部品点数が増して圧縮機の構成が複雑化しているという問題があった。
・・・(中略)・・・
【0006】本発明の目的としては、運転中の騒音及び振動を低減できるとともに、駆動シャフトとシリンダブロックの軸孔との摺動が安定で、しかも簡素な軸受構造により安価な圧縮機を提供することにある。」
エ.「【0012】・・・(中略)・・・請求項1の発明によれば、圧縮機運転時において駆動シャフトに作用するラジアル方向の荷重は、別体の転がり軸受あるいは滑り軸受を介することなく、シリンダブロックによって直接支持される。このため、駆動シャフトの軸受構造が簡素化されて、従来の圧縮機に比べて部品点数が削減される。そして、圧縮機の組み付けにおいて従来必要であった、転がり軸受の圧入あるいは滑り軸受の嵌挿等の作業が不要となる。」
以上のことから、甲第7号証には以下の技術が記載されていると認める。
「ピストンを往復動可能に収納する複数のシリンダボアをケーシングのシリンダブロックに形成し、駆動シャフトを前記シリンダブロックの軸孔に挿通したピストン式圧縮機において、ラジアル軸受を省略して、駆動シャフトをシリンダブロックにより直接支持し、駆動シャフトの軸受構造を簡素化し、部品点数を削減する。」
(7)甲第8号証
本件特許に係る優先日前に頒布された刊行物である甲第8号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ア.「【0003】特開平5-231310号公報のピストン型圧縮機では、吸入弁の代わりにロータリバルブが用いられており、ロータリバルブの採用によって体積効率の向上が図られている。回転軸と一体的に回転するロータリバルブ内には吸入通路が形成されており、吸入通路の出口はロータリバルブの周面に開口している。この出口が回転軸の回転に伴って圧縮室の吸入ポートに順次連通する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ロータリバルブを用いた圧縮機では、フラッパ弁型の吸入弁を用いた圧縮機に内在する体積効率低下の問題はない。しかし、ロータリバルブの周面とその収容室の周面との間のシール性が悪ければ、圧縮又は吐出行程中の圧縮室内の冷媒ガスが吸入ポートからロータリバルブの周面と収容室の周面との間から洩れ、体積効率が低下する。ロータリバルブの周面と収容室の周面との間のシール性はロータリバルブの周面と収容室の周面との間のクリアランスの大小にのみ依存するが、周面間のクリアランス管理は大層厄介である。又、シリンダブロックが変形すればクリアランスが大きくなり、シール性が低下する。」
(8)甲第9号証
本件特許に係る優先日前に頒布された刊行物である甲第9号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ア.「【請求項1】複数個のシリンダが形成されたシリンダブロックと、前記シリンダ内に挿入された複数個のピストンと、前記シリンダブロック内に形成された斜板室と、前記斜板室に延びている回転軸と、前記回転軸に取り付けられて共に回転することにより前記複数個のピストンを往復運動させる斜板と、からなる斜板型圧縮機において、
前記シリンダブロック内において前記回転軸を支持する軸受がジャーナル軸受であって、前記シリンダブロック内に取り付けられる滑り軸受とそれによって支持される前記回転軸の一部としてのジャーナル部とから構成されており、
前記回転軸は少なくとも一部が中空であって、それによって前記回転軸の内部に圧縮すべき流体を導く吸入通路が形成されていると共に、それと接続する半径方向の吸入通路が少なくとも1個形成されており、
前記滑り軸受及び前記シリンダブロックには、前記回転軸の回転位置に応じて前記回転軸の前記半径方向の吸入通路と連通して、前記複数個のシリンダに順次圧縮すべき流体を吸入させる吸入ポートが形成されていることを特徴とする、前記斜板型圧縮機。」
イ.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、例えば自動車用空調装置の冷媒圧縮機として使用することができる斜板型圧縮機に係り、特にその吸入弁と軸受部に関するものである。」
ウ.「【0004】通常のロータリバルブを吸入弁として使用する先行技術によれば、リード弁を用いる場合に比して吸入弁の吸入抵抗(圧力損失)を低減させ得るので、体積効率を5%程度向上させることができるが、その反面、先行技術による斜板型圧縮機においては、ニードルベアリングのような転がり軸受であるラジアル軸受によって支持されている回転軸と、回転軸に取り付けられたロータリバルブを摺動回転可能に受け入れているハウジング側のバルブシリンダとの間には、各部品の製作上の加工誤差(公差)や、転がり軸受の作動に必要な遊隙等によって相当大きな心ずれが存在し、構造上その心ずれ量を少なくすることが難しいのと、例えば斜板型圧縮機のような場合には、斜板に作用する圧縮反力が回転軸の回りに均等に作用しないで一方に偏っていること等から、ロータリバルブのローターとバルブシリンダとの間のクリアランスが大きくなりやすく、それによってシリンダブロックに設けられた幾つかの吸入ポートのうちで、圧縮行程において閉塞されるべきものが完全に閉塞されないために、それらの吸入ポートの周囲からロータリバルブの外周を通じて圧縮された冷媒等の流体が漏洩し、それによって圧縮機の作動効率が低下するという別の問題が生じる。」
エ.「【0006】本発明は、従来技術や、それを改良するために考えられて来た先行技術における上記のような多くの問題点を改善し、弁部分における流体の抵抗や漏洩が少なくて作動効率が高い上に、作動室の上流側のデッドボリュームが小さくて体積効率も十分に高い小型の圧縮機を、それも比較的安価に製作可能とすることを発明の解決課題としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、複数個のシリンダが形成されたシリンダブロックと、前記シリンダ内に挿入された複数個のピストンと、前記シリンダブロック内に形成された斜板室と、前記斜板室に延びている回転軸と、前記回転軸に取り付けられて共に回転することにより前記複数個のピストンを往復運動させる斜板と、からなる斜板型圧縮機において、前記シリンダブロック内において前記回転軸を支持する軸受がジャーナル軸受であって、前記シリンダブロック内に取り付けられる滑り軸受とそれによって支持される前記回転軸の一部としてのジャーナル部とから構成されており、前記回転軸は少なくとも一部が中空であって、それによって前記回転軸の内部に圧縮すべき流体を導く吸入通路が形成されていると共に、それと接続する半径方向の吸入通路が少なくとも1個形成されており、前記滑り軸受及び前記シリンダブロックには、前記回転軸の回転位置に応じて前記回転軸の前記半径方向の吸入通路と連通して、前記複数個のシリンダに順次圧縮すべき流体を吸入させる吸入ポートが形成されていることを特徴とする。
【0008】
【作用】・・・(中略)・・・
【0009】回転軸を支持する軸受がジャーナル軸受であり、それが単にシリンダブロック内に設けられた滑り軸受と、回転軸の一部であるジャーナル部によって構成される簡単な構造であるだけでなく、そのジャーナル軸受の構成部材自体に半径方向の吸入通路や吸入ポートを形成して、各シリンダに対して圧縮すべき流体を吸入させるための吸入弁を構成しているため、軸受構造と吸入弁の構造が簡単になるだけでなく、滑り軸受の円筒内面の仕上げ加工が容易に行われて、ジャーナル部とのクリアランスをきわめて小さくすることが可能になり、圧縮された流体が吸入弁から漏洩することがない。言うまでもなくこのようにして構成された吸入弁は、所定の圧力差によって開弁するリード弁と異なって圧力損失が少ないから、圧縮機の効率が向上する。」
オ.「【0010】
【実施例】図1及び図2に示す本発明の第1実施例を示す斜板型圧縮機において、斜板型圧縮機1の本体は、中央のシリンダブロック2と、その左側にバルブプレート3を挟んで締結されたフロントハウジング4と、右側にバルブプレート5を挟んで締結されたリヤハウジング6とからなっている。シリンダブロック2は更にフロント側のシリンダブロック2aとリヤ側のシリンダブロック2bとの2つの部分に分かれている。そして、シリンダブロック2a及び2b,バルブプレート3及び5,フロントハウジング4及びリヤハウジング6を一体的に締結する手段として、5本(図2参照)の通しボルト7が用いられる。
【0011】フロント側のシリンダブロック2aには、中心のまわりの均等な位置に5個のシリンダ12a?12e(図1に12aのみを示す)が互いに平行となるように穿設されており、それらに対応してリヤ側のシリンダブロック2bにも、5個のシリンダ13a?13e(図2参照)が同様に穿設されている。フロントハウジング4内の外周部には環状の吐出室14が形成され、また、フロント側と略同様にリヤハウジング6内の外周部にも環状の吐出室15が形成されている。更に、リヤハウジング6の中央部分には、隔壁によって吐出室14と区画された吸入室16が形成されている。吸入室16は入口17を備えており、それに接続される図示しない吸入配管によって、例えば空調装置の冷凍回路に設けられた蒸発器から戻って来る低温低圧の冷媒のような、圧縮すべき流体を受け入れるようになっている。
【0012】フロント側のバルブプレート3には、シリンダ12a?12eの内部に形成されて拡縮する作動室と、環状で共通の吐出室14とを連通し得る吐出口18a?18e(図1に18aのみを示す)が開口しており、それらの吐出口の下流側の面は、薄いばね板からなるリード状の吐出弁によって閉塞されている。なお、図中19は、吐出口18a?18eに設けられる吐出弁の開弁角度を制限して吐出弁のリードを保護するための、所謂弁おさえの1つを例示している。
【0013】リヤ側のバルブプレート5にも同様に吐出口21a?21e(図1に21aのみを示す)が開口しており、それぞれシリンダ13a?13eの内部の作動室を環状で共通の吐出室15に連通させることができる。フロント側と同様に、各吐出口21a?21eの下流側の面にもそれぞれ図示しないリード状の吐出弁が設けられる。なお、22はそれらの吐出弁の弁おさえの1つを例示している。そして、リヤ側の吐出室15は図示しない管路によってフロント側の吐出室14と連通しており、それらの吐出室から送り出される高圧の冷媒は、合流して図示しない冷凍サイクルの凝縮器へ流れるようになっている。
【0014】シリンダブロック2の内部に形成された斜板室23には、図1において左側から回転軸24が伸びており、図示しない車両の内燃機関から電磁クラッチのような伝動装置を介して回転駆動される。回転軸24は、斜板室23の前後を後に詳細に説明する一対のジャーナル軸受25及び26によって半径方向に支持されている。斜板室23内において、回転軸24には楕円形の斜板27が適当な手段によって一体的に取り付けられており、斜板27を駆動することによって回転軸24に発生する反力としての軸方向荷重は、斜板27の両側に設けられた一対のスラスト軸受28及び29によって支持される。
【0015】回転軸24と平行にシリンダブロック2内に穿設されているフロント側のシリンダ12a?12eと、それらに対向するリヤ側のシリンダ13a?13eとの各対には、それぞれ両頭のピストン30a?30eが軸方向に往復摺動可能に挿入されており、それらの両端の頭部を接続するピストンロッドの中心部分に形成された溝の両側には、例えば球形の窪み31が設けられていて、窪み31にはそれと同径の球の一部をなす一対の耐摩耗性シュー32が挿入され、それらのシュー32の間に前述の斜板27の周縁部を摺動可能に挟んでいる。
【0016】シリンダブロック2内において回転軸24を支持しているジャーナル軸受25及び26は、主として、フロント側のシリンダブロック2a及びリヤ側のシリンダブロック2bのそれぞれの中心に同軸的に穿孔された内径が回転軸24の外径よりも例えば2?4mm程度大きい貫通穴33及び34の中に、打ち込み等の方法で一体的に固定されている比較的薄肉の滑り軸受35及び36と、それらの滑り軸受35及び36によって摺動回転可能に支持されている回転軸24自体の円筒面の一部であるジャーナル部24a及び24bとからなっている。滑り軸受35及び36は、例えば金属ベースの上にフッ素樹脂等を積層したもので、貫通穴33及び34の中に打ち込んで一体化したのち、内径を精密加工して、それに対応する回転軸24のジャーナル部24a及び24bの外径にきわめて近い内径となるように高精度に仕上げる。
【0017】回転軸24の一部は中空になっていて、図1の右側から軸方向に吸入通路37が形成されており、右端において吸入室16に連通している。ジャーナル軸受25のジャーナル部24aの左端寄りの位置には、吸入通路37に接続して、回転軸24の軸心に対して円周方向に例えば130°程度に開く扇形の開口である1個の吸入通路38が半径方向に形成される。また、ジャーナル軸受26のジャーナル部24bの右端寄りの位置には、吸入通路37に接続して、回転軸24の軸心に対して円周方向にやはり130°程度に開く(図2参照)扇形の開口である1個の吸入通路39が、吸入通路38とは180度の位相差を有するように半径方向に形成される。
【0018】フロント側のジャーナル軸受25には、回転軸24のジャーナル部24aに形成されている半径方向の吸入通路38に対して、回転軸24がそれぞれ所定の回転位置(角度)にあるときに連通して、冷媒を吸入通路37からフロント側の5つのシリンダ12a?12eのそれぞれに吸入させる半径方向の吸入ポート40a?40e(図1に40aのみを示す)が形成される。また、リヤ側のジャーナル軸受26にも同様に、ジャーナル部24bに形成された半径方向の吸入通路39に対して、回転軸24がそれぞれ所定の回転位置にあるときに連通して、冷媒を吸入通路37からリヤ側の5つのシリンダ13a?13eのそれぞれに吸入させる半径方向の吸入ポート41a?41e(図2参照)が形成される。
【0019】本発明の第1実施例による斜板型圧縮機1はこのように構成されているので、回転軸24が自動車の内燃機関等によって回転駆動されると、斜板27の運動の揺動成分によって両頭のピストン30a?30eがそれぞれのシリンダ内で往復運動を行い、フロント側及びリヤ側の各シリンダ内の作動室は拡縮を繰り返す。それと同時に、フロント側のジャーナル軸受25及びリヤ側のジャーナル軸受26の内部においては、回転軸24のジャーナル部24a及び24bに形成された半径方向の吸入通路38及び39が回転することによって、フロント側の扇形の吸入通路38が、シリンダ12a?12eのうちで、そのときに吸入行程に入ったものに対応している吸入ポート40a?40eに順次連通して行くと共に、リヤ側の扇形の吸入通路39が、シリンダ13a?13eのうちで、そのときに吸入行程に入ったものに対応している吸入ポート41a?41eに順次連通して行くことになる。この連通関係はどのシリンダについても、それが吸入行程にある間は継続するように、半径方向の吸入通路38及び39の扇形に開く角度(図2参照)が設定されている。」
カ.「【0021】本発明の第1実施例において、バルブ部分を有するジャーナル軸受25及び26のクリアランスから冷媒の漏洩が起こらない理由は、ジャーナル軸受25及び26を構成する滑り軸受35及び36の円筒内面の精密な仕上げ加工によって、回転軸24のジャーナル部24a及び24bとのクリアランスをきわめて小さくすることができた結果であって、このような滑り軸受35及び36の円筒内面と回転軸24のジャーナル部24a及び24bの円筒面の高精度の仕上げ加工と、微小なクリアランスの維持は、ジャーナル軸受25及び26がきわめて単純な構造であり、滑り軸受35及び36がシリンダ12a?12e及び13a?13eと平行に配置されることから初めて可能となったものである。従って、ジャーナル軸受25及び26自体に、半径方向の吸入通路38及び39や吸入ポート40a?40e及び41a?41eを穿設することによって形成された吸入弁は、リード弁のような吸入抵抗を生じないだけでなく、締切りが完全で、圧縮行程にあるシリンダからの流体の漏洩を許さない。」
キ.「【0028】これに対して、本発明の第1実施例による斜板型圧縮機1においては、回転軸24の支持をジャーナル軸受25及び26によって行い、それ自体に吸入弁を併設するので、軸受兼吸入弁の摺動回転する部分のクリアランスを大幅に小さくすることが可能になり、吸入弁の締切りを改善することができると共に、構造をきわめて簡素化し、加工を容易にすることができる。その結果、フロント側のシリンダブロック2aとリヤ側のシリンダブロック2bを組み合わせて、対になっているシリンダ12a?12e及び13a?13eをボーリング加工する際に、同時に滑り軸受35及び36の円筒内面の仕上げ加工を行うことが可能になって、回転軸24を挿入する際のクリアランスの大きさは考え得る最小限の値とすることができる。更に、回転軸24自体に吸入弁を構成する半径方向の吸入通路38及び39を形成するため、先行技術におけるロータリバルブ47及び48のように位置決めや固定手段の設置の必要がなくなり、これも構成の簡素化とコストの低減という好ましい結果をもたらす。」
ク.「【0035】
【発明の効果】本発明を実施すれば、斜板型圧縮機の吸入弁による吸入抵抗が低減するする(当審注:「低減するする」は、「低減する」の誤記)だけでなく、加圧された流体が吸入弁から漏洩することも防止される。しかも吸入弁と回転軸の軸受が簡素化されて一体化され、圧縮機の構成が簡単で小型なものとなり、コストも減少する。」
そして、図1及び2の記載からみて、次の事項が理解できる。
ケ.ジャーナル部24a、24bの外周面は、吸入通路38,39の出口を除いて円筒形状とされている。
記載ア、エ(特に段落0007)及びオ(特に段落0017)並びに図1の記載からみて、次の事項が理解できる。
コ.ジャーナル部24a,24bの各吸入通路38,39は、回転軸24内に形成された通路を介して連通している。

以上のことから、甲第9号証には以下の技術が記載されていると認める。
「シリンダブロック2における回転軸24の周囲に配列された複数のシリンダ12,13内にピストン30を収容し、回転軸24の回転に斜板27を介してピストン30を連動させ、回転軸24と一体化されていると共に、ピストン30によってシリンダ12,13内に区画される作動室に冷媒を導入するための吸入通路38,39を有するジャーナル部24a,24bを備えた斜板型圧縮機1において、
シリンダ12,13に連通し、かつジャーナル部24a,24bの回転に伴って吸入通路38,39と間欠的に連通する吸入ポート40,41と、
シリンダブロック2は貫通穴33,34を有し、その貫通穴33,34の中心に、ジャーナル部24a,24bを回転可能に収容する比較的薄肉の滑り軸受35,36が一体的に固定され、
吸入通路38,39の出口は,ジャーナル部24a,24bの外周面上にあり、ジャーナル部24a,24bの外周面は吸入通路38,39の出口を除いて円筒形状とされ、吸入ポート40,41の入口は、滑り軸受35,36の内周面上にあり、滑り軸受35,36の内周面にジャーナル部24a,24bの外周面が摺動回転可能に支持されることによってジャーナル部24a,24bを介して回転軸24を支持するジャーナル軸受25,26を有し、
ピストン30は両頭ピストンであり、両頭ピストンを収容する前後一対のシリンダ12,13に対応する一対のジャーナル部24a,24bが回転軸24と一体的に回転し、ジャーナル部24a,24bの各吸入通路38,39は前記回転軸24内に形成された通路を介して連通し、斜板27は、前後一対のスラスト軸受28,29によって挟まれて回転軸24の軸線の方向の位置を規制されているピストン式圧縮機における冷媒吸入構造。」
(9)甲第10号証
本件特許に係る優先日前に頒布された刊行物である甲第10号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ア.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動車用空調装置に用いられる圧縮機の吸入および吐出弁装置に関するものである。」
イ.「【0002】
【従来の技術】・・・(中略)・・・本願に特に関係するものとして特開平5-126040号がある。
【0004】この出願の図1において、リアハウジング4には内周側に弁板3の中央孔3aを介してシリンダブロック1の軸心孔1aと連通する吸入室17が形成されており、吸入室17はリア側端面中央に開口し、冷媒を導入する冷媒導入孔13aにより冷凍回路と接続されている。また、バルブプレ-ト3には、中央孔3aから放射上に延在し、各シリンダ1bの頂部と導通する吸入ポ-ト21が設けられている。そして図1に示すように軸心孔1aに延出したドライブシヤフト6の後端には、軸心孔1aおよび中央孔3aと滑合する円柱状の回転弁22がキ-23により装着されており、回転弁22のリア側は、吸入室17の隔壁に形成された段部にスラスト軸受24を介して支持されている。この回転弁22には、吸入室17の軸心中央から径方向に屈曲貫通する円孔25aと、該円孔25aに連なって外周面の約半周部分にわたって延在する溝部25bとによって吸入通路25が形成されており、この溝部25bが吸入行程にある各シリンダ1bの吸入ポ-ト21と対向する間、吸入通路25を介して吸入室17と吸入ポ-ト21とが連通するようになっている。・・・(中略)・・・従って、ドライブシヤフト6の回転運動が斜板9を介して揺動板12の前後揺動に変換され、ピストン15がシリンダ1b内を往復動することにより吸入室17からシリンダ1b内に吸入された冷媒が圧縮されつつ吐出室18へ吐出される。・・・(中略)・・・
【0005】この圧縮機が運転されてドライブシャフト6が回転すると、斜板9はドライブシャフト6とともに回転しつつ揺動運動する。揺動板12は斜板9に対して回転規制されて、揺動運動のみを行い、これによりピストン15がシリンダ1b内で往復動する。そして、シリンダ1b内でピストン15が上死点に向かって移動を開始して吸入行程に入ると、ドライブシャフト6と同期して回転する回転弁22の吸入通路25の溝部25bの先端側がそのシリンダ1bの吸入ポ-ト21と対向し、吸入通路25を介して吸入室17と吸入ポ-ト21と連通する。これにより、吸入室17からそのシリンダ1bに冷媒が吸入される。その後、シリンダ1b内のピストン15が上死点に到達すると、回転弁22の回転に伴って吸入通路25の溝部25bの後端側が吸入ポ-ト21と遮断される。そしてピストン15が下死点に向かって移動を開始すると、冷媒が圧縮されそのシリンダ1b内の圧力が高圧になるのに伴って吐出弁18bがリテ-ナ20に規制されて開弁し、冷媒が吐出ポ-ト18aから吐出室18に吐出される。このように回転弁22がドライブシャフト6と同期して回転することにより、各シリンダ1b内では冷媒を吸入室17から吸入し、圧縮し、吐出室18へ吐出する動作が繰り返し行われる。」
ウ.「【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のように、この種の回転弁は、弁の外周面にドライブシャフトの特定回転角度に対応する切欠き、すなわち周方向に延在する吸入通路を設けているが、この切欠き以外の部分には、圧縮行程時にシリンダ-からの圧力がかかるため、ここからの冷媒漏れに対処するために、軸心孔と回転弁との間には適正なシ-ルが要求され、軸心孔と回転弁の間には高精度のクリアランスが必要となるという問題点を有していた。すなわち吸入孔あるいは吐出孔と主軸と一体回転可能に連結され吸入あるいは吐出を制御する流体制御手段との間のシ-ルを高精度に行うことができないという問題点を有していた。以上の様に、本発明は前記従来の問題点に鑑み、吸入孔あるいは吐出孔と流体制御手段との間のシ-ルを容易でかつ高精度に行うことができるようにした圧縮機を提供しようとするものである。」
そして、記載イ並びに図1及び2の記載からみて、次の事項が理解できる。
エ.吸入通路25の出口は、回転弁22の外周面上にあり、回転弁22の外周面は、吸入ポート25の出口を除いて円柱形状となっている。
(10)甲第11号証
本件特許に係る優先日前に頒布された刊行物である甲第11号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ア.「実用新案登録請求の範囲
(1)(当審注:「(1)」は、1に丸数字の代替表示) 回転体と固定体のそれぞれの端面が対向する挾間に、コロを挾持した1対のレースを嵌挿して前記回転体と固定体との間に生ずる軸推力を受承するものにおいて、前記回転体と固定体のそれぞれの端面位置半径を互に異ならしめるとともに、組付時の前記両端面間軸方向距離を、コロと1対のレースとを組合せたスラスト軸受全体の軸方向寸法よりもやや小とし、かつ前記レースの前記コロと接触する側とは反対側の端面のいずれか一方もしくは両方に軟質金属よりなるメツキ層を被覆したことを特徴とするスラスト軸受装置。」(第1ページ第1欄第20?32行)
イ.「図は斜板式圧縮機に適用した例が示されており、1は回転軸2に固着され該回転軸2と共に回転する斜板であつて、該斜板1には図示はしないがシリンダブロツク3,4のボアに嵌挿されたピストンが係留している。5は斜板1のボス部端面と回転軸2の貫通する部分のシリンダブロツク3,4端面との挾間に嵌挿されるスラスト軸受であつて、該スラスト軸受5は1対の環板状のレース6,7と、これらレース6,7の間に挾持されたコロ8とより構成されている。」(第1ページ第2欄第31行?第2ページ第3欄第3行)
ウ.「なお上述のごとく斜板式圧縮機に適用した場合は、シリンダブロツク3,4の端面と斜板1のボス部端面の位置の半径を互に異ならしめ、かつ組付時のそれら両端面間の軸方向距離をスラスト軸受5全体の軸方向寸法よりやや小(5?100μ)とし、圧縮機の組立時において前記スラスト軸受5は斜板1ボス部端面とシリンダブロツク3,4との間で押圧挟持され、各部の寸法公差を吸収するため若干のすり鉢形状に変形された状態で使用される。」(第2ページ第3欄第21?30行)
そして、記載ウ及び第1?3図の記載からみて、次の事項が理解できる。
エ.回転軸2の貫通する部分のシリンダブロック3,4の端面と斜板1のボス部端面とに環状の突条が形成され、斜板1のボス部端面に形成された環状の突条の径がシリンダブロック3,4の端面に形成された環状の突条の径よりも大きく、スラスト軸受5をシリンダブロック3,4の端面に形成された環状の突条と斜板1のボス部端面に形成された環状の突条との狭間に嵌挿し、組付時の両前記環状の突条間の軸方向距離をスラスト軸受5全体の軸方向寸法よりやや小とする。
以上のことから、甲第11号証には以下の技術が記載されていると認める。
「回転軸に固着され該回転軸と共に回転しシリンダブロックのボアに嵌挿されたピストンが係留している斜板のボス部端面と、前記回転軸の貫通する部分の前記シリンダブロック端面と、の挾間にスラスト軸受が嵌挿されている斜板式圧縮機において、前記回転軸の貫通する部分の前記シリンダブロックの端面と前記斜板のボス部端面とに環状の突条を形成し、前記斜板の前記環状の突条の径が前記シリンダブロックの前記環状の突条の径よりも大きく、前記スラスト軸受を前記シリンダブロックの前記環状の突条と前記斜板の前記環状の突条との狭間に嵌挿し、組付時の両前記環状の突条間の軸方向距離を前記スラスト軸受全体の軸方向寸法よりやや小として、圧縮機の組立時において各部の寸法公差を吸収する。」
(11)甲第12号証
本件特許に係る優先日前に頒布された刊行物である甲第12号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】前後に対設された一対のシリンダブロックの両外端はそれぞれ弁板を介して前後のハウジングにより閉塞され、該前部ハウジングの中心軸孔及び各シリンダブロックの共通中心軸孔には駆動軸が前後一対のラジアル軸受を介して支承され、該駆動軸と共動する斜板のボス部に形成された受圧座と、各シリンダブロックの支承部に形成された受圧座との間でそれぞれスラスト軸受を挟持してなる両頭斜板式圧縮機において、上記各ラジアル軸受は上記斜板ボス部の軸方向中心点から互いに不等距離に装設されるとともに、該ラジアル軸受までの距離が長い側に配置される一方のスラスト軸受は対向する両受圧座によってリジッドに挟持され、他方のスラスト軸受にはアキシャル荷重を吸収する緩衝機能が付与されていることを特徴とする両頭斜板式圧縮機。」
イ.「【0002】
【従来の技術】車両空調用に供されている両頭斜板式圧縮機の多くは、特開昭64ー63669号公報に開示されているように、対のシリンダブロック10A、10Bによって支承された駆動軸11上に斜板12が取付けられ、該斜板12の前後に介装されたスラスト軸受13、13は、上記両シリンダブロック10A、10B並びにその外端を閉塞する両ハウジング14、15が通しボルト16によって共締めされることにより挟着されている。そしてこの共締めに伴う軸方向のしめしろをスラスト軸受13のレースに生じる弾性変形によって吸収すべく、インナレース13aはその外径近傍で斜板12の両ボス部に形成された環状受圧座12aと衝接し、一方、アウタレース13bはその内径近傍でシリンダブロック10A、10Bの支承部に形成された環状受圧座10aと衝接するように構成されている(図5)。」
ウ.「【0003】
【発明が解決しようとする課題】さて、図示しない電磁クラッチのオン作動に基づき斜板12が回転されると、冷媒ガスの圧縮反力によって生じるアキシャル荷重は、上記スラスト軸受13、13によって受承されるが、これらスラスト軸受13、13の双方は、上述した異径の環状受圧座10a、12aの挟持により積極的に弾性変形(緩衝機能)が生起するよう構成されているため、図6に略示するように、変動荷重を受承する斜板12の両側に事実上ばね手段Sが介在する結果となる。すなわち、圧縮反力が斜板12に作用するモーメントは、かかるばね手段S、Sの相互緩衝によって斜板12に不安定な振動を誘起し、とくに高速回転時に生じる透過性の強い周波数成分は騒音障害を一段と助長させる。」
エ.「【0004】また、一方では実開昭54ー170410号公報に開示されているように、斜板の両ボス部及びシリンダブロックの両支承部をいずれもフラットな受圧座として、両スラスト軸受をリジッドに挟持する形式も見受けられるが、このような構成ではしめしろ管理つまり通しボルトの緊締力の調整がきわめて難しく、しかも圧縮反力に基づくモーメントが斜板に作用した際、斜板の受圧座と全平面で衝合するインナレースが転動体(コロ)の外端部に喰込む形で強圧される結果、このようなコロに加わる偏荷重がスラスト軸受のフレーキングを伴って損耗を極端に早めるばかりでなく、振動、騒音の発生や動力損失にも少なからぬ影響を及ぼすといった問題がある。
【0005】本発明は、ごく簡潔な構成で振動、騒音の低減と同時にスラスト軸受の延命化を図ることを、解決すべき技術課題とするものである。」
オ.「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記課題解決のため、前後に対設された一対のシリンダブロックの両外端はそれぞれ弁板を介して前後のハウジングにより閉塞され、該前部ハウジングの中心軸孔及び各シリンダブロックの共通中心軸孔には駆動軸が前後一対のラジアル軸受を介して支承され、該駆動軸と共動する斜板のボス部に形成された受圧座と、各シリンダブロックの支承部に形成された受圧座との間でそれぞれスラスト軸受を挟持してなる両頭斜板式圧縮機において、上記各ラジアル軸受は上記斜板ボス部の軸方向中心点から互いに不等距離に装設されるとともに、該ラジアル軸受までの距離が長い側に配置される一方のスラスト軸受は対向する両受圧座によってリジッドに挟持され、他方のスラスト軸受にはアキシャル荷重を吸収する緩衝機能が付与されている新規な構成を採用している。なお、上記各ラジアル軸受までの距離とは、斜板ボス部の軸方向中心点から実質的に駆動軸を支承する各ラジアル軸受の内輪又はコロの内端までの距離をいう。」
カ.「【0013】
【実施例】以下、図1に基づいて本発明の実施例を具体的に説明する。なお、圧縮機の全体構成については特に変わるところはないので、詳しい図示説明は省略する。図において、1は、前部シリンダブロック2及び後部シリンダブロック3の共通中心軸孔に前後一対のラジアル軸受4A、4Bを介して支承された駆動軸で、該駆動軸1上に取付けられた斜板5の前後にはスラスト軸受6A、6Bが介装され、これら両スラスト軸受6A、6Bは従来と同様な通しボルトの共締めにより、斜板5の両ボス部と両シリンダブロック2、3の支承部との間に挟持されている。
【0014】本実施例のもっとも特徴的な構成であるスラスト軸受6A、6Bの挟持手段について詳述すると、後部のスラスト軸受6Bを挟持する上記斜板5の後部ボス並びに上記後部シリンダブロック3の支承部には、互いに対向するフラットな受圧座5b、3bが形成され、インナレース61、アウタレース62がそれぞれ該受圧座5b、3bとほぼ全面的に密合することにより、該スラスト軸受6Bは安定、かつリジッドに挟持されている。
【0015】一方、挟持手段を異にする前部のスラスト軸受6Aには、とくにアキシヤル荷重を吸収する緩衝機能が付与されている。すなわち、上記斜板5の前部ボスには比較的大径の環状受圧座5aが形成されて、インナレース61はその外径近傍で該環状受圧座5aと衝接し、一方、上記前部シリンダブロック2の支承部には比較的小径の環状受圧座2aが形成されて、アウタレース62はその内径近傍で該環状受圧座2aと衝接するよう構成されている。
【0016】次いで本実施例の更に特徴的な構成であるラジアル軸受4A、4Bの配置に関し、図2を参照して説明する。すなわち駆動軸1を支承する前後一対のラジアル軸受4A、4Bの距離Lは、これを長くするほど駆動軸1の曲りが大きくなり、逆に短くするほど駆動軸1の傾きが大きくなる。このため上記ラジアル軸受4A、4B間の距離Lは、かかる曲りと傾きの抑制をほどよく両立させるといった観点から設定されるが、このようにして求められた該距離Lを図のように単純に振分けて、斜板ボス部の軸方向中心点Sから各ラジアル軸受4A、4Bまでの距離a、bを等しく設定すると、スラスト軸受6Bをリジッド(図中、斜線で表示)に挟持する斜板5の受圧座5bから、斜板5を越えて反対側に位置するラジアル軸受4Aまでの距離cが必然的に決まってしまう。
【0017】ところが上述した斜板5に作用するモーメントは、主としてリジッドに挟持されているスラスト軸受6B、駆動軸1及びラジアル軸受4Aの3者で受承することになるため、上記距離cの長さに比例して駆動軸1の曲りやスラスト軸受6Bの負荷が増大するといった傾向がある。そこで本実施例では、斜板ボス部の軸方向中心点Sから各ラジアル軸受4A、4Bまでの距離a、bに積極的に差を設け、該距離a、bの長い側(図示b側)に配置されるスラスト軸受6Bをリジッドに挟持して、上記距離cを極力短くするように構成されている(図1)。
【0018】したがって、斜板5の両ボス部がスラスト軸受6A、6Bを介して両シリンダブロック2、3を含む共締め部材によって挟着されると、互いに異径の環状受圧座5a、2aと衝接する前部のスラスト軸受6Aのレース61、62自体に弾性変形が生じ、その緩衝機能により軸方向のしめしろは巧みに吸収されるので、共締め緊締力は容易、かつ安定的に調整することができる。
【0019】そして圧縮機が運転されれば、圧縮反力に基づくモーメントが斜板5に作用するが、リジッドに挟持されている後部のスラスト軸受6Bがその剛性によって斜板5の不安定振動を効果的に抑制し、変動するアキシヤル荷重は前部のスラスト軸受6Aに付与された上記緩衝機能によって巧みに吸収される。この場合、リジッドに挟持されているスラスト軸受6Bと衝合する受圧座5bから、斜板5を越えて反対側に位置するラジアル軸受4Aまでの距離cが短縮されているため、駆動軸1の曲りが小さくなり、該スラスト軸受6Bに作用する負荷は必然的に軽減されるので、該スラスト軸受6Bにとくに懸念されるフレーキングの発生は良好に防止される。
【0020】図3は本発明の他の実施例を示すものであって、本例は前実施例とは逆に、斜板ボス部の軸方向中心点Sから前部のラジアル軸受4Aまでの距離aを後部のラジアル軸受4Bまでの距離bよりも長く設定し、その長い側(斜板5の前側)に配置されるスラスト軸受6Aをリジッドに挟持して、該スラスト軸受6Aと衝合する受圧座5aから斜板5を越えて反対側に位置する後部のラジアル軸受4Bまでの距離cを短縮するように構成したものであって、このような構成によれば、上述のように主としてモーメントを受承するスラスト軸受6Aの負荷を軽減しうるばかりでなく、結果的に該前部のラジアル軸受4Aが電磁クラッチMに近づくこととなるため、電磁クラッチMの重心ずれに伴う駆動軸1の振れまわりを効果的に抑制することができる。」
以上のことから、甲第12号証には以下の事項が記載されていると認める。
「前後に対設された一対のシリンダブロックによって支承された駆動軸上に斜板が取付けられ、該斜板の前後に介装されたスラスト軸受が、前記一対のシリンダブロック並びにその外端を閉塞する前後のハウジングを通しボルトによって共締めすることにより挟着される両頭斜板式圧縮機において、
前記共締めに伴う軸方向のしめしろを前記スラスト軸受のレースに生じる弾性変形によって吸収すべく、インナレースはその外径近傍で前記斜板の両ボス部に形成された環状受圧座と衝接し、アウタレースはその内径近傍で前記シリンダブロックの支承部に形成された環状受圧座と衝接するように構成されると、圧縮反力が前記斜板に作用するモーメントは前記斜板に不安定な振動を誘起し、とくに高速回転時に生じる透過性の強い周波数成分が騒音障害を一段と助長させ、
あるいは、前記斜板の両ボス部及び前記シリンダブロックの両支承部をいずれもフラットな受圧座として、両スラスト軸受をリジッドに挟持すると、しめしろ管理がきわめて難しく、しかも圧縮反力に基づくモーメントが前記斜板に作用した際、損耗を極端に早めるだけでなく、振動、騒音の発生や動力損失にも影響を及ぼす、といった従来の技術の問題を解決するため、
前記一対のシリンダブロックに対して前記駆動軸を支承する前後一対のラジアル軸受を前記斜板のボス部の軸方向中心点から互いに不等距離に装設し、
前記斜板のボス部の軸方向中心点からラジアル軸受までの距離が長い側に配置される前記スラスト軸受を挟持する前記斜板のボス部及び前記シリンダブロックの支承部をフラットな受圧座として、前記一方のスラスト軸受をリジッドに挟持し、
前記斜板のボス部の軸方向中心点からラジアル軸受までの距離が短い側に配置される前記スラスト軸受を挟持する前記斜板のボス部及び前記シリンダブロックの支承部に環状受圧座を形成し、インナレースはその外径近傍で前記斜板のボス部に形成された比較的大径の環状受圧座と衝接し、アウタレースはその内径近傍で前記シリンダブロックの支承部に形成された比較的小径の環状受圧座と衝接するよう構成し、アキシャル荷重を吸収する緩衝機能を付与する。」
(12)甲第13号証
本件特許に係る優先日前に頒布された刊行物である甲第13号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ア.「【考案のポイント】
本案は,斜板型圧縮機のデッドボリュームを低減させ得る吐出弁構造に関する。
【具体的用途】
エアコン用の圧縮機」(左欄第1?5行)
イ.「【構成・作動・効果】
本案の構成例について図1により説明する。各シリンダ4と吐出室7は吐出弁2によって仕切られている。この吐出弁2はシリンダ4の径よりも大きく,シリンダの上端面5にスプリング3によって押さえつけられている。シリンダの上端面5には吐出弁2がずれないようなガイド8を設ける。このガイド8には切り欠き9が施されており(図2),吐出冷媒が吐出室に流れやすくなるようにしている。」(左欄第16?23行)
ウ.「吸入は本実施例のようにロータリーバルブ等で行うか若しくは,ピストン内に吸入構造を設けてもよい。」(左欄第24行?右欄第1行)
エ.「作動について説明する。図3に示すように,吸入行程では吸入ポート6より冷媒がシリンダ4内に吸入されるが,この間,吐出弁2はスプリング3によりシリンダ上端面5に押さえつけられており,吐出室7とシリンダ4間は仕切られている。
そして,圧縮行程に入ってくるとシリンダ4内の圧力は上昇し,この圧力により吐出弁2が押され。シリンダ内の冷媒を吐出する(図4)。」(右欄第2?9行)
オ.「このように,本案構造ではバルブプレートが不要であるため,従来吐出ポートにあったデッドボリュームを無くすことができ,性能を上げることができる。
また,本案ではバルブプレートがなく,シリンダと吐出室の間は吐出室側に移動可能な吐出弁で直接仕切っているため,ピストン1の上死点位置がシリンダの上端面5に対して吐出室7側に位置するような構造となっても何ら問題はない。従って従来の圧縮機では,ピストンをバルブプレートに当てないようにし,かつデッドボリュームを小さくするために斜板,ピストン,シリンダ等の軸方向の寸法精度を上げなければならなかったが,本案ではその必要がなくルーズな設計を可能にした。」(右欄第10?21行)
そして、記載アないしウ並びに図1の記載を併せてみると、技術常識を鑑みて、次のことが理解できる。
カ.シリンダブロックにおける回転軸の周囲に複数のシリンダ4が配列され、前記シリンダ4内にピストン1を収容し、回転軸の回転に斜板を介してピストン1を連動させる。
キ.ロータリーバルブは、回転軸に一体化されており、流路を有し、当該流路の出口は、ロータリーバルブの外周面上にある。
ク.シリンダブロックは、ロータリーバルブを回転自在に収容する軸孔を有し、ロータリーバルブの外周面は、前記軸孔の内周面に直接対向している。
ケ.斜板の両側の、ロータリーバルブよりも斜板に近接した位置において、軸孔の内周面に回転軸の外周面が一対のラジアル軸受を介して支持されている。
コ.ピストン1は、両頭ピストンであり、ピストン1を収容するシリンダ4は前後一対で設けられ、ロータリーバルブは、前後一対で設けられたシリンダ4に対応して一対設けられ、その各流路が回転軸内に形成された通路を介して連通している。
サ.斜板は、前後一対のスラスト軸受によって挟まれて回転軸の軸線の方向の位置を規制されている。
図1の記載から、ピストン1が下死点に位置している側の吸入ポート6と当該吸入ポート6に対応するロータリーバルブの流路とが連通している一方、ピストン1が上死点に位置している側の吸入ポート6と当該吸入ポート6に対応するロータリーバルブの流路とは連通していないことが看取できるから、記載ウ及びエ、事項キ及びコ並びに図1,3及び4の記載を併せてみると、技術常識を鑑みて、次のことが理解できる。
シ.入口が軸孔の内周面上にあり、出口がピストン1の下死点位置近傍でシリンダ4に開口し、ロータリーバルブの流路と吸入ポート6は、回転軸の回転に伴って間欠的に連通する。
ス.冷媒は、回転軸に形成された通路、ロータリーバルブの流路及び吸入ポート6を介してシリンダ4に導入される。
そして、記載ア?エ、事項オ?ス及び図1?4の記載を総合してみて、甲第13号証には、「斜板型圧縮機における冷媒吸入構造」が開示されているといえる。

以上のことから、甲第13号証には以下の発明(以下、「引用発明2」という。)又は技術が記載されていると認める。
「シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダ4内にピストン1を収容し、前記回転軸の回転に斜板を介してピストン1を連動させ、前記回転軸と一体化され、流路を有するロータリーバルブを備えた斜板型圧縮機において、
出口がピストン1の下死点位置近傍でシリンダ4に開口し、前記流路と前記回転軸の回転に伴って間欠的に連通する吸入ポート6を有し、
シリンダブロックは、前記ロータリーバルブを回転自在に収容する軸孔を有し、
前記流路の出口は、前記ロータリーバルブの外周面上にあり、吸入ポート6の入口は前記軸孔の内周面上にあり、前記ロータリーバルブの外周面は、前記軸孔の内周面に直接対向し、更に前記斜板の両側の、前記ロータリーバルブよりも前記斜板に近接した位置において、前記軸孔の内周面に前記回転軸の外周面が一対のラジアル軸受を介して支持されており、
ピストン1は両頭ピストンであり、ピストン1を収容するシリンダ4は前後一対で設けられ、前記ロータリーバルブは前後一対で設けられたシリンダ4に対応して一対設けられ、前記ロータリーバルブの各前記流路が前記回転軸内に形成された通路を介して連通し、前記斜板は、前後一対のスラスト軸受によって挟まれて前記回転軸の軸線の方向の位置を規制され、
冷媒は、前記通路、前記流路及び吸入ポート6を介してシリンダ4に導入される、斜板型圧縮機における冷媒吸入構造。」

(13)甲第14号証
本件特許に係る優先日前に頒布された刊行物である甲第14号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ア.「【0004】従来の斜板型圧縮機のように、吸入弁としてリードバルブを使用した場合に生じる吸入抵抗の増加の問題を解決するために、リードバルブに代わる吸入弁として、圧縮機の回転軸を支持しているラジアル軸受の近傍に、回転軸と一体化されて回転軸の回転に伴って摺動回転する所謂ロータリバルブを設けることが、先行技術において既に検討されている。
【0005】ロータリバルブを備えている先行技術としての斜板型圧縮機の構造及び作動等は、後に記載する実施例の項において実施例と対比して詳細に説明するが、ロータリバルブは、斜板型圧縮機の各シリンダの壁面に形成された吸入ポートと、回転軸に取り付けられて回転することにより吸入ポートを開閉する円筒形の弁体とからなっているので、各ピストンが上死点から下死点に向かって下降する吸入行程の全期間において吸入ポートが開口しているようにするために、各シリンダの吸入ポートはピストンの上死点に近い位置のシリンダの壁面に開口している。そして円筒形の弁体が回転してそれに形成された扇形の弁開口が吸入ポートと合致したときに、シリンダ内の圧縮室と中空の回転軸内に形成された吸入通路が連通し、圧縮されるべき冷媒等の流体が吸入通路から圧縮室内へ吸入されるようになっている。以下、このような構造のロータリバルブを備えている斜板型圧縮機の先行発明を「先行技術」と呼ぶことにする。」
イ.「【0014】
【実施例】図1は本発明の実施例としての斜板型圧縮機1の全体構造を示しており、それに対応して、図2は先行技術による斜板型圧縮機1’の全体構造を示している。図3は図1及び図2に共通なIII -III 断面における両者のロータリバルブの構造を示しており、この断面における本発明の実施例と先行技術の構造は、寸法的な面での差を除いて概ね同じである。本発明の実施例は先行技術と比べて、主としてIV-IV断面付近のロータリバルブの構造及びその作用において特徴を有すると言うことができる。従って、本発明の実施例におけるロータリバルブの形状と構造を明示するために、図4として図1のIV-IV断面の側面図を、また図5としてロータリバルブの弁体の斜視図を示している。」
ウ.「【0015】図1に示すように、本発明の実施例としての斜板型圧縮機1の本体は、中央のシリンダブロック2と、その左側にバルブプレート3を挟んで締結されたフロントハウジング4と、右側にバルブプレート5を挟んで締結されたリヤハウジング6とからなっている。シリンダブロック2は更にフロント側のシリンダブロック2aとリヤ側のシリンダブロック2bとの2つの部分に分かれている。そして、シリンダブロック2a及び2b,バルブプレート3及び5,フロントハウジング4及びリヤハウジング6を一体的に締結する手段として、5本(図3及び図4参照。)の通しボルト7が用いられる。
【0016】フロント側のシリンダブロック2aには、中心のまわりの均等な位置に5個のシリンダ12a?12e(図1に12aのみを示す。図3及び図4参照。)が互いに平行となるように穿設されており、それらに対応してリヤ側のシリンダブロック2bにも、5個のシリンダ13a?13e(図1及び図2にシリンダ13aのみが図示されている。)が同様に穿設されている。フロントハウジング4内の外周部には環状の吐出室14が形成され、また、リヤハウジング6内の外周部にも環状の吐出室15が形成される。更に、リヤハウジング6の中央部分には、隔壁によって吐出室15と区画された吸入室16が形成される。吸入室16は入口17を備えており、それに接続される図示しない吸入配管によって、例えば空調装置の冷凍回路に設けられた蒸発器から戻って来る低温低圧の冷媒のような、圧縮すべき流体を受け入れるようになっている。
・・・(中略)・・・
【0019】シリンダブロック2の内部に形成された斜板室23には、図1において左側から回転軸24が伸びており、例えば図示しない車両の内燃機関から電磁クラッチのような伝動装置を介して回転駆動される。回転軸24は、斜板室23の前後を後に詳細に説明する一対のラジアル軸受25及び26によって半径方向に支持されている。斜板室23内において、回転軸24には楕円形の斜板27が圧入等の適当な手段によって一体的に取り付けられており、斜板27を駆動することによって回転軸24に発生する圧縮反力としての軸方向荷重は、斜板27の両側に設けられた一対のスラスト軸受28及び29によって支持される。
【0020】回転軸24と平行にシリンダブロック2内に穿設されているフロント側のシリンダ12a?12eと、それらに対向するリヤ側のシリンダ13a?13eとの各対には、それぞれ両頭のピストン30a?30eが軸方向に往復摺動可能に挿入されており、それらの両端の頭部を接続するピストンロッドの中心部分に形成された溝の両側には、例えば球形の窪み31が設けられていて、窪み31にはそれと同径の球の一部をなす一対の耐摩耗性シュー32が挿入され、それらのシュー32の間に前述の斜板27の周縁部を摺動可能に挟んでいる。
【0021】シリンダブロック2a及び2bの中心部には、回転軸24と同軸心の平滑な円筒面を有するバルブシリンダ33及び34がフロント側とリヤ側のそれぞれに形成されており、これらのバルブシリンダ33及び34内には、回転軸24上に嵌合されて回転軸24に対して一体的に連結されている円筒形の弁体35及び36が、微小なクリアランスをおいて回転摺動可能に挿入されている。吸入弁としてのロータリバルブはこれらのバルブシリンダ33及び34と弁体35及び36によって構成される。
【0022】前後のバルブシリンダ33及び34の各壁面には、シリンダ12a?12e及び13a?13eのそれぞれ上死点に近い位置、即ちバルブプレート3及びバルブプレート5寄りの壁面部分に通じる吸入ポート37a?37e及び38a?38e(図1のIII -III 断面を示す図3参照。なお、図1及び図2に37a及び38aのみを図示する。)が開口しており、それらに順次連通し得るように、弁体35及び36には、軸心に関して円周方向に例えば130°程度に開く扇形の弁開口39及び40が半径方向に形成されている。弁開口39及び40は、それぞれ相手に対して180度の位相差を有する。
【0023】弁体35及び36に半径方向に形成された扇形の弁開口39及び40は、それぞれ回転軸24に形成された半径方向の吸入通路41及び42に接続することによって、回転軸24の中心に沿って形成されている吸入通路43を介して吸入室16に連通し、入口17から気化した冷媒のような圧縮すべき流体をシリンダ12a?12e及び13a?13e内へ吸入することができる。以上の構成は、図2に示す先行技術による斜板型圧縮機1’も、図1に示す本発明の実施例の場合と概ね同様である。」
エ.「【0026】なお、図5に示す一対の切り欠き50には、弁体35を回転軸24と一体的に連動させるための図1に示すような連結環51の爪片が係合する。」
オ.「【0027】本発明の実施例による斜板型圧縮機1はこのように構成されているので、回転軸24が自動車の内燃機関等によって回転駆動されると、斜板27の運動の揺動成分によって両頭のピストン30a?30eがフロント側及びリヤ側のそれぞれのシリンダシリンダ12a?12e及びシリンダ13a?13e内で往復運動を行い、各シリンダ内の圧縮室がピストン30a?30eの両端によって拡縮を繰り返す。各圧縮室が順次同じような作動を行うので、代表として図1に示すシリンダ12a内の圧縮室における作動を取り上げて説明することにする。
【0028】弁体35がバルブシリンダ33の中で回転することにより、ピストン30aの左端が吸入行程に入って下降(右へ移動)し始めると、まず、ピストン30aの左頭部によって閉塞されていた上死点に近い吸入ポート37aが開口し、また回転軸24と共に回転する弁体35の扇形の弁開口39も吸入ポート37aに連通する。それによって回転軸24に形成された吸入通路41と吸入通路43を介して吸入室16とシリンダ12a内の圧縮室が連通し、入口17から供給される冷媒のような流体の圧縮室内への吸入が開始される。しかし、本発明の実施例の斜板型圧縮機1においては、吸入ポート37aの開口面積は吸入ポート内のデッドスペースを減少させるために最小限度の大きさに設定されているから、流体の吸入には若干の抵抗を伴い、そのままでは吸入効率が低下する。以上の作動は図2に示した先行技術による斜板型圧縮機1’と実質的に同じである。」
そして、記載アないしウ並びに図2及び3の記載を併せてみると、技術常識を鑑みて、図2に示された先行技術に関して、次のことが理解できる。
カ.シリンダブロック2には中心のまわりの均等な位置に5個のシリンダ12a?12e,13a?13eが穿設され、シリンダ12a?12e,13a?13eにピストン30a?30eが挿入され、シリンダ12a?12e,13a?13eとピストン30a?30eによって圧縮室が形成される。
キ.回転軸24に対して一体的に連結されている弁体35,36には、弁開口39,40が形成され、弁開口39,40は、回転軸24に形成された吸入通路41,42,43を介して連通し、冷媒をシリンダ12a?12e,13a?13e内へ吸入することができる。
ク.斜板型圧縮機1’は、シリンダ12a?12e,13a?13eのそれぞれ上死点に近い位置の壁面部分に通じる吸入ポート37a?37e,38a?38eを有し、弁開口39,40は、それらに順次連通し得る。
ケ.シリンダブロック2には、弁体35,36が微小なクリアランスをおいて回転摺動可能に挿入されているバルブシリンダ33,34が形成されている。
コ.弁開口39,40は、弁体35,36の外周面に開口しており、吸入ポート37a?37e,38a?38は、バルブシリンダ33,34の壁面に開口しており、バルブシリンダ33,34の壁面に弁体35,36の外周面が直接対向し、回転軸24は、斜板24の前後の、弁体35,36よりも斜板24に近接した位置において、一対のラジアル軸受25,26によって半径方向に支持されている。
サ.ピストン30a?30eは、両頭のピストンであり、5個のシリンダ12a?12e,13a?13eは、フロント側のシリンダ12a?12eと、それらに対向するリヤ側のシリンダ13a?13eの各対からなり、弁体35は、フロント側のシリンダ12a?12eに対応し、弁体36は、リヤ側のシリンダ13a?13eに対応している。
シ.斜板27の両側には一対のスラスト軸受28,29が設けられている。
記載エ並びに図1、2及び5の記載からみて、図2に示された先行技術に関して、次のことが理解できる。
ス.弁体35,36の外周面は、弁開口39,40の出口及び連結環の爪片が係合する切り欠きを除いて円筒形状とされている。
記載ア、イ及びオ並びに図2の記載を併せてみると、技術常識を鑑みて、図2に示された先行技術に関して、次のことが理解できる。
セ.回転軸24が回転駆動されると、斜板27の運動の揺動成分によってピストン30a?30eがシリンダ12a?12e,シリンダ13a?13e内で往復運動を行う。
ソ.弁体35,36は、回転軸24と共に回転する。
そして、記載ア?オ、事項カ?ソ及び図2?5の記載を総合してみて、甲第14号証には、図2に示された先行技術として、「斜板式圧縮機における冷媒吸入構造」が開示されているといえる。

以上のことから、甲第14号証には、図2に示された先行技術として、以下の発明(以下、「引用発明3」という。)又は技術が記載されていると認める。
「シリンダブロック2には中心のまわりの均等な位置に5個のシリンダ12a?12e,13a?13eが穿設され、シリンダ12a?12e,13a?13eにピストン30a?30eが挿入され、シリンダ12a?12e,13a?13eとピストン30a?30eによって圧縮室が形成され、回転軸24が回転駆動されると、斜板27の運動の揺動成分によってピストン30a?30eがシリンダ12a?12e,シリンダ13a?13e内で往復運動を行い、回転軸24に対して一体的に連結されている弁体35,36には弁開口39,40が形成され、弁開口39,40は、冷媒をシリンダ12a?12e,13a?13e内へ吸入することができる斜板型圧縮機1’において、
シリンダ12a?12e,13a?13eのそれぞれ上死点に近い位置の壁面部分に通じる吸入ポート37a?37e,38a?38eを有し、弁開口39,40は、それらに順次連通し、
シリンダブロック2には、弁体35,36が微小なクリアランスをおいて回転摺動可能に挿入されているバルブシリンダ33,34が形成され、
弁開口39,40は、弁体35,36の外周面に開口しており、弁体35,36の外周面は、弁開口39,40の出口及び連結環の爪片が係合する切り欠きを除いて円筒形状とされ、吸入ポート37a?37e,38a?38eは、バルブシリンダ33,34の壁面に開口しており、バルブシリンダ33,34の壁面に弁体35,36の外周面が直接対向し、回転軸24は、斜板27の前後の、弁体35,36よりも斜板27に近接した位置において、一対のラジアル軸受25,26によって半径方向に支持され、
ピストン30a?30eは、両頭のピストンであり、5個のシリンダ12a?12e,13a?13eは、フロント側のシリンダ12a?12eと、それらに対向するリヤ側のシリンダ13a?13eの各対からなり、弁体35は、フロント側のシリンダ12a?12eに対応し、弁体36は、リヤ側のシリンダ13a?13eに対応し、弁体35,36は、回転軸24と共に回転し、弁開口39,40は、回転軸24に形成された吸入通路41,42,43を介して連通し、斜板27の両側には一対のスラスト軸受28,29が設けられている、斜板式圧縮機における冷媒吸入構造。」
(14)甲第15号証
本件特許に係る優先日前に頒布された甲第15号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ア.「【0005】
【発明が解決しようとする課題】シリンダボア内でピストンが往復動する上述の往復動型圧縮機においては、ピストンの摺動を滑らかに行うために、ピストンの外周面とシリンダボアの内周面との間には、サイドクリアランスが設けられている。ところが、ピストンの上死点側への移動によって圧縮室内の冷媒ガスが加圧されていくと、圧縮室内はピストンとシリンダボアとのサイドクリアランスによって完全気密の状態には設定されていないため、高圧状態の一部の冷媒ガスがピストンの外周面とシリンダボアの内周面との間隙へ流入することになる。
【0006】そして、その流入ガス(ブローバイガス)は、シリンダボアの内周面に沿って圧縮室外へと漏洩する。このような漏洩は圧縮室から吐出室への吐出冷媒ガス量の減少に繋がり、吐出効率を悪化させる原因となる。本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的はピストンの外周面とシリンダボアの内周面との間へ漏洩するブローバイガスの回収効率を向上させることにより、圧縮室内への冷媒ガス吸入効率を高めること可能な往復動型圧縮機における冷媒ガス吸入構造を提供することにある。」
イ.「【0007】
【課題を解決するための手段】上記問題点を解決するために、請求項1記載の発明は、シリンダブロックに対し駆動軸を取り巻くように配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容すると共に、前記駆動軸の回転に連動して前記ピストンを往復動させることにより、吸入路から冷媒ガスを前記ピストンによってシリンダボア内に区画される圧縮室へ吸入し、圧縮された冷媒ガスを吐出室へ吐出するように構成した往復動型圧縮機において、前記シリンダブロック内に設けられ、前記駆動軸と同軸上に位置する収容孔と、該収容孔と前記圧縮室との間にあって、該収容孔と該圧縮室との連通を図る導通路と、前記収容孔に摺接嵌合され、前記駆動軸に対し同期回転可能に支持されると共に、前記吸入路から吸入行程中の前記圧縮室へ冷媒ガスを吸入するための吸入通路及び、前記ピストンの外周面により圧縮室側の開口面が閉鎖される前記導通路と圧縮行程開始状態の前記圧縮室に連通する前記導通路とを前記駆動軸の回転に同期して連通させるガス放出通路が形成されたロータリバルブと、前記ピストンを貫穿するように配設され、圧縮行程中に前記シリンダボアの内周面と前記ピストンの外周面との間に漏洩するブローバイガスを少なくとも圧縮行程終了時に前記導通路へ導くバイパス通路とを備えたことをその要旨とする。
・・・(中略)・・・
【0009】
【作用】上記構成を採用したことにより、請求項1記載の発明では、ロータリバルブ内の吸入通路は、ロータリバルブの回転に伴って導通路を介して複数の圧縮室に順次連通する。この連通は圧縮室に対するピストンの吸入動作に同期して行われる。吸入通路と圧縮室とが連通している時にピストンが下死点側へ向かい、圧縮室の圧力が吸入通路の圧力(吸入圧力)以下まで低下していく。この圧力低下により吸入通路の冷媒ガスが圧縮室へ流入する。
【0010】ガス放出通路は、ロータリバルブの回転に伴って圧縮行程終了付近の状態にある圧縮室の導通路と、圧縮行程開始の状態にある圧縮室の導通路とを順次連通していく。圧縮行程終了付近の状態にある圧縮室の冷媒ガスの一部は、ピストン外周面とシリンダボア内周面との間から漏洩してゆくが、この高圧漏洩ガス(ブローバイガス)はピストン外周面に開口部を有するバイパス通路に滞留する。そして、ブローバイガスが滞留するバイパス通路は、ピストンの上死点側への移動により、圧縮行程終了付近の状態にある圧縮室の導通路に連通する。この連通によりバイパス通路内の高圧ブローバイガスは圧縮行程終了付近の状態にある圧縮室の導通路、ガス放出通路、圧縮行程開始の状態にある圧縮室の導通路を介して圧縮行程開始の状態にある圧縮室へ流入する。」
ウ.「【0013】
【実施例】以下、本発明を具体化した一実施例を図1?図8に基づいて説明する。図3に示すように、接合された前後一対のシリンダブロック1、2の端面には、フロントハウジング3及びリアハウジング4がバルブプレート5、6を介して接合されている。シリンダブロック1、2、バルブプレート5、6、フロントハウジング3及びリアハウジング4はボルト7により締め付け固定されており、バルブプレート5、6及び両ハウジング3、4は、ピン8、9によってシリンダブロック1、2に対する回動が阻止されている。シリンダブロック1、2の中心部にはテーパ形状の収容孔1a、2aが貫設されており、収容孔1a、2aの開口縁には環状の位置決め突起1b、2bが突設されている。位置決め突起1b、2bには、バルブプレート5、6が嵌合されており、この嵌合構成によりシリンダブロック1、2に対するバルブプレート5、6の位置決めが成されている。
【0014】フロントハウジング3及びリアハウジング4の中心部には、支持孔3a、4aが形成されている。支持孔3a、4aには円錐コロ軸受け10、11が収容されており、駆動軸12が円錐コロ軸受け10、11を介して両ハウジング3、4の間に回転可能に架設支持されている。駆動軸12の自由端部側であるリアハウジング4の支持孔4a内には、円錐コロ軸受け11の後面に係合して仕切板13が前後動可能に設けられており、この仕切板13の外周面と支持孔4aの内周面との間には、シールリング14が介在されている。この仕切板13の前後には、空間A及び空間Bが形成されている。
【0015】フロントハウジング3側からリアハウジング4側に向かって駆動軸12に作用するスラスト荷重は円錐コロ軸受け11及び仕切板13を介してリアハウジング4で受け止められる。又、リアハウジング4側からフロントハウジング3側へ向かって駆動軸12に作用するスラスト荷重は円錐コロ軸受け10を介してフロントハウジング3で受け止められる。
【0016】駆動軸12には、斜板15が固定支持されている。吸入路としての斜板室16を構成するシリンダブロック1、2には、導入口17が形成されており、導入口17には図示しない外部吸入冷媒ガス管路が接続されている。斜板室16には、外部吸入冷媒ガス管路から冷媒ガスが導入口17を介して導入される。従って、斜板室16は吸入圧領域となる。
【0017】図4及び図5に示すように、駆動軸12を中心とする等間隔角度位置には、複数のシリンダボア18a?18e、19a?19eが形成されている。図3に示すように前後で対となるシリンダボア18a?18e、19a?19e(本実施例では5対)内には、両頭ピストン20a?20eが往復動可能に収容されている。両頭ピストン20a?20eと斜板15の前後両面との間には半球状のシュー21、22が介在されている。従って、斜板15の回転はシュー21、22を介することによって両頭ピストン20a?20eのシリンダボア18a?18e、19a?19eにおいての往復動作に変換される。
【0018】一方、両ハウジング3、4内には吐出室23、24が形成されており、両頭ピストン20a?20eによって、シリンダボア18a?18e、19a?19e内に区画される圧縮室Pa1 ?Pa5 、Pb1 ?Pb5 は、バルブプレート5、6上の吐出ポート5a、6aを介して該吐出室23、24に接続されている。吐出ポート5a、6aはフラッパ弁型の吐出弁25、26により開閉され、吐出弁25、26の開度はリテーナ27、28により規制される。そして、吐出弁25、26及びリテーナ27、28は図示しないボルトによりバルブプレート5、6上に締付固定されている。吐出室23、24は図示しない外部吐出冷媒ガス管路に連通すると共に、通路4bを介して前記空間Bにも連通される。」
エ.「【0019】図4に示すように、収容孔1aの内周面には、シリンダボア18a?18eと同数の導通路29a?29eがシリンダボア18a?18eと一対一で常に連通するよう、等間隔角度位置に配列形成されている。同様に、図5に示すように、収容孔2aの内周面には、シリンダボア19a?19eと同数の導通路30a?30eがシリンダボア19a?19eと一対一で常に連通するよう、等間隔角度位置に配列形成されている。」
オ.「【0022】駆動軸12上にはテーパ形状を有したロータリバルブ34、35が該駆動軸12に嵌入支承されている。ロータリバルブ34、35には駆動軸12に止着されたキー12a、12bに係合するキー溝36、37が設けられており、ロータリバルブ34、35は駆動軸12と一体回転可能に、且つ、スライド可能に収容孔1a、2a内に収容されている。収容孔1a、2aはテーパ形状を有しており、それぞれ斜板室16側に向かうにつれて拡径となっている。そして、ロータリバルブ34、35は、その外周面が収容孔1a、2aの内周面に当接されるように嵌合挿入されている。即ち、ロータリバルブ34の小径端部34aが吐出室23側を向き、ロータリバルブ34の大径端部34bは斜板室16側を向いている。又、ロータリバルブ35の小径端部35aは吐出室24側を向き、ロータリバルブ35の大径端部35bは斜板室16側を向いている。
【0023】ロータリバルブ34、35の大径端部34b、35bには、斜板室16に開口する凹部34c、35cが形成され、該凹部34c、35cの底壁と斜板15との間には、シール力付与バネ38、39が介在されている。そして、そのシール力付与バネ38、39はロータリバルブ34、35を大径端部34b、35b側から小径端部34a、35a側へと付勢している。そのため、ロータリバルブ34、35の外周面はシール力付与バネ38、39のバネ力によって収容孔1a、2aの内周面に密接することになる。
【0024】又、図6に示すように、ロータリバルブ34、35内には、吸入通路40、41が形成されている。吸入通路40、41の入口は斜板室16に向けて開口しており、吸入通路40、41の出口はロータリバルブ34、35の外周面上に開口している。ロータリバルブ34、35の外周面上には、吸入通路40、41に接続された案内溝42、43が周方向に沿って設けられている。前述した各導通路29a?29e、30a?29eは案内溝42、43の周回領域内において配置されている。
【0025】更に、ロータリバルブ34の外周面上には、ガス放出通路44(45)が形成されている。ガス放出通路44(45)は、ロータリバルブ34の回転中心に関して吸入通路40(41)の出口とは反対側に設けられており、ガス放出通路44(45)は軸方向の接続溝44a(45a)と両接続溝44a(45a)を大径端部34b(35b)側で繋ぐ周回溝44b(45b)とから構成されている。ロータリバルブ34(35)の回転中心に関する接続溝44a(45a)の角度間隔は導通路29a?29e(30a?30e)の配列角度間隔の2倍にしてある。尚、ロータリバルブ35についての説明は括弧内の符号を以て説明を省略する。
【0026】支持孔3a、4aは駆動軸12とロータリバルブ34、35との間のクリアランスを介して斜板室16に連通している。従って、支持孔3a、4aは吸入圧領域となる。46は駆動軸12の周面におけるシールを行うリップシールである。リップシール46は支持孔3aから圧縮機外部への冷媒ガス漏洩を防止する。」
カ.「【0027】次に、上記構成の往復動型圧縮機における冷媒ガス吸入構造の作用について説明する。駆動軸7が図4、5に示す矢印Q方向に回転することにより、斜板室16内に供給された冷媒ガスは、圧縮室Pa1 ?Pa5 、Pb1 ?Pb5 内の圧力が斜板室16内の圧力を下回ると案内溝42、43と連通状態にある導通路29a?29e、30a?30eを介して圧縮室Pa1 ?Pa5 、Pb1 ?Pb5 に吸入される。
【0028】図3、図4及び図5に示す状態では両頭ピストン20aは前側のシリンダボア18aに対して上死点位置付近にあり、後側のシリンダボア19aに対して下死点位置付近にある。このようなピストン配置状態のとき、吸入通路40の出口は案内溝42を介してシリンダボア18aの導通路29aに連通する直前にあり、ガス放出通路44の接続溝44aとシリンダボア18aの導通路29aとが接続した直後にある。そして、両頭ピストン20aがシリンダボア18aに対して上死点位置から下死点位置に向かう吸入行程に入ったときには、吸入通路40は案内溝42を介してシリンダボア18aの圧縮室Pa1 に連通する。この連通により斜板室16内の冷媒ガスは吸入通路40を経由してシリンダボア18aの圧縮室Pa1 に吸入される。
【0029】一方、両頭ピストン20aがシリンダボア19aに対して下死点位置から上死点位置に向かう圧縮行程に入ったときには、吸入通路41はシリンダボア19aの圧縮室Pb1 との連通が遮断される。この連通遮断によりシリンダボア19aの圧縮室Pb1 内の冷媒ガスは両頭ピストン20aの移動に伴って圧縮され、所定圧力まで圧縮されると吐出弁26を押し退けつつ吐出ポート6aから吐出室24に吐出される。
【0030】このような冷媒ガスの吸入及び吐出は他のシリンダボア18b?18e、19b?19eの圧縮室Pa2 ?Pa5 、Pb2 ?Pb5 においても同様に行われ、吐出室23、24に吐出された冷媒ガスは図示しない排出口を介して外部吐出冷媒ガス管路に圧送される。この冷媒ガスの圧縮と同時に、斜板室16内の吸入冷媒ガスは、ロータリバルブ35と駆動軸12との間の通路を通過して空間Aに導かれ、吐出室24内の吐出冷媒ガスの一部は、通路4bを介して空間Bに導かれる。このため、仕切板13の前後に圧力差が生じ、仕切板13が前方に押圧される結果、円錐コロ軸受け11に前方に向かう予荷重が付与される。」
キ.「【0031】上記圧縮行程において、両頭ピストン20a?20eがシリンダボア18a?18e、19a?19eに対する上死点側に移動していくと、圧縮室Pa1 ?Pa5 、Pb1 ?Pb5 内の圧力は徐々に上昇する。その間、両頭ピストン20a?20eの外周面とシリンダボア18a?18e、19a?19eの内周面との間(クリアランス)には、圧縮室Pa1 ?Pa5 、Pb1 ?Pb5 内の一部の冷媒ガス(ブローバイガス)が漏洩することになる。そのブローバイガスは両頭ピストン20a?20eの外周面に設けられた捕捉溝31によって捕捉され、該捕捉溝31内とバイパス通路32内とに滞留する。
【0032】先ず、図7に示すように、一方のシリンダボア18aの上死点付近にある両頭ピストン20aは、その外周面によって導通路29aのシリンダボア18a側の開口面の閉鎖を行う。そして、その閉鎖と共に導通路29aは、ロータリバルブ34上のガス放出通路44の一方の接続溝44aに接続し、他方の接続溝44aは導通路29cに接続される。従って、導通路29aはガス放出通路44及び導通路29cを介して圧縮室Pa3 に連通される。導通路29aに連通する該圧縮室Pa3 は、圧縮行程開始状態にあり、この状態の圧縮室Pa3 内の圧力は吸入行程状態にある圧縮室Pa4 、Pa5 内の圧力とそれほど違わない。導通路29a内の残留ガスの圧力は圧縮室Pa3 内の圧力よりも高圧であるため、その残留ガスはガス放出通路44を経由して圧縮室Pa3 に放出され、導通路29a内の圧力が吸入圧近くまで低下する。・・・(中略)・・・
【0033】さて、図5、図8に示すように、両頭ピストン20aの上死点側への移動がさらに進むと、導通路29aは捕捉溝31及びバイパス通路32の開口部32aと連通することになる。そのため、捕捉溝31内及びバイパス通路32内に捕捉されたブローバイガスは、上記導通路29a内の高圧残留ガスと同様に、導通路29a、ガス放出通路44、導通路29cを介して圧縮行程開始状態にあるシリンダボア18cの圧縮室Pa3 に放出され、捕捉溝31内及びバイパス通路32内の圧力が吸入圧近くまで低下する。・・・(中略)・・・
【0035】圧縮行程終了直前の状態にある圧縮室から漏洩する冷媒ガスを圧縮行程開始状態にある他の圧縮室へ移行する作用は、圧縮室Pa2 、Pa4 間、圧縮室Pa3、Pa5 間、圧縮室Pa4 、Pa1 間、圧縮室Pa5 、Pa2 間でも同様に行われる。勿論、圧縮室Pb1 ?Pb5 においても捕捉溝31及びバイパス通路32によって同様に行われる。
【0036】以上詳述したように、本実施例の往復動型圧縮機における冷媒ガス吸入構造によれば、両頭ピストン20a?20eの外周面とシリンダボア18a?18e、19a?19eの内周面との間を介して圧縮室Pa1 ?Pa5 、Pb1 ?Pb5から漏洩したブローバイガスは、斜板室16へ流出することなく両頭ピストン20a?20eの捕捉溝31及びバイパス通路32に滞留することになる。従って、圧縮室Pa1 ?Pa5 、Pb1 ?Pb5 へ流入する冷媒ガス量は、斜板室16から吸入通路40、41を経由して吸入された冷媒ガス量と、捕捉溝31及びバイパス通路32からガス放出通路44、45を経由して流入した冷媒ガス量との和となり、従来以上に冷媒ガス吸入率を高めることができる。その結果、圧縮室Pa1 ?Pa5 、Pb1 ?Pb5 の体積効率を向上させることができると共に、圧縮行程における一行程当たりの圧縮ガスの吐出量を増大させることができる。」
ク.「【0041】・・・(中略)・・・
(2) 上記実施例では、テーパ形状を有したロータリバルブ34、35を用いたが、これに限定されるものでなく、例えば図10に示すように、ロータリバルブ34、35の外周面をストレート形状としてもよい。この場合、ガス放出通路44、45は圧縮行程にある圧縮室Pa1 ?Pa5 、Pb1 ?Pb5 の導通路29a?29e、30a?30eを包囲するように設定することが望ましい。このようにすれば、圧縮行程にある圧縮室Pa1 ?Pa5 、Pb1 ?Pb5 の導通路29a?29e、30a?30eから漏洩する冷媒ガスをガス放出通路44、45で捕捉することができる。
・・・(中略)・・・
【0043】・・・(中略)・・・
(5) 上記実施例では、吸入路として斜板室16を用いたが、ハウジング内において吸入路を設けることにより、ロータリバルブ34、35の吸入通路40、41に吸入冷媒ガスを導入してもよい。」
そして、記載ウ及び図3ないし5の記載を併せてみると、次のことが理解できる。
ケ.接合された前後一対のシリンダブロック1,2における駆動軸12を中心とする等間隔角度位置には、複数のシリンダボア18a?18e,19a?19eが形成されている。
コ.斜板15の両側の、ロータリバルブ34,35よりも斜板15から離れた位置において、駆動軸12が円錐コロ軸受け10,11を介して支持され、斜板15は、円錐コロ軸受け10,11によって駆動軸12の軸線の方向の位置を規制されている。
記載オ及びク並びに図3、6及び11の記載からみて、次の事項が理解できる。
サ.ロータリバルブ34,35は、駆動軸12と一体回転する。
シ.ロータリバルブ34,35の外周面は、吸入通路40,41の出口、吸入通路40,41に接続された案内溝42,43、及びガス放出通路44,45を除いて円筒形状とされ、ロータリバルブ34,35の外周面は、収容孔1a,2aの内周面に直接対向している。
記載ウ、オ及びカからみて,次の事項が理解できる。
ス.吸入通路40,41は、両頭ピストン20a?20eによって、シリンダボア18a?18e、19a?19e内に区画される圧縮室Pa1 ?Pa5 、Pb1 ?Pb5に冷媒ガスを吸入するためのものである。
記載カ及び図3ないし5の記載からみて、次の事項が理解できる。
セ.導通路29a?29e,30a?30eは、ロータリバルブ34,35の回転に伴って吸入通路40,41と間欠的に連通する。

以上のことから、甲第15号証には以下の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認める。
「接合された前後一対のシリンダブロック1,2における駆動軸12を中心とする等間隔角度位置には、複数のシリンダボア18a?18e,19a?19eが形成され、前後で対となるシリンダボア18a?18e,19a?19e内には、両頭ピストン20a?20eが往復動可能に収容され、斜板15の回転が両頭ピストン20a?20eのシリンダボア18a?18e,19a?19eにおいての往復動作に変換され、駆動軸12と一体回転し、両頭ピストン20a?20eによってシリンダボア18a?18e,19a?19e内に区画される圧縮室Pa1 ?Pa5 ,Pb1 ?Pb5に冷媒ガスを吸入するための吸入通路40,41が形成されているロータリバルブ34,35を備えた往復動型圧縮機において、
シリンダブロック1,2の中心部には、ロータリバルブ34,35が回転可能に収容される収容孔1a,2aが貫設され、
収容孔1a,2aの内周面にはシリンダボア18a?18e,19a?19eと一対一で常に連通する導通路29a?29e,30a?30eが形成され、導通路29a?29e,30a?30eは、ロータリバルブ34,35の回転に伴って吸入通路40,41と間欠的に連通し、
吸入通路40,41の出口は、ロータリバルブの外周面上に開口し、ロータリバルブ34,35の外周面は、吸入通路40,41の出口、吸入通路40,41に接続された案内溝42,43、及びガス放出通路44,45を除いて円筒形状とされ、ロータリバルブ34,35の外周面は、収容孔1a,2aの内周面に直接対向し、更に斜板15の両側の、ロータリバルブ34,35よりも斜板15から離れた位置において、駆動軸12が円錐コロ軸受け10,11を介して支持され、
斜板15は、円錐コロ軸受け10,11によって駆動軸12の軸線の方向の位置を規制されている、往復動型圧縮機における冷媒ガス吸入構造。」
(15)甲第16号証
本件特許に係る優先日前に頒布された甲第16号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】回転軸の周囲に配列された前後で対となる複数対のシリンダボア内に両頭ピストンを収容すると共に、回転軸に支持された斜板の回転運動を前記両頭ピストンの往復運動に変換し、両頭ピストンによってシリンダボア内に区画される圧縮室の冷媒ガスをシリンダブロックの前後の吐出室に吐出する斜板式圧縮機において、ロータリバルブ内に吸入通路を形成し、両頭ピストンの往復動に同期して前記圧縮室と前記吸入通路とを順次連通するように、かつ斜板を収容する斜板室と吐出圧領域とを遮断するように前記ロータリバルブを回転軸上に支持し、回転軸内に吐出通路を設けると共に、前後一対の吐出室を吐出通路で連通し、ロータリバルブの摺接周面に潤滑油を供給するための油供給孔を吐出圧領域に包囲された回転軸の周面から吐出通路にかけて貫設した斜板式圧縮機における潤滑構造。」
イ.「【0007】シリンダボアの配列間隔はシリンダブロックの必要な強度を確保し得る程度まで拡げられる。この配列間隔の大きさとシリンダボアの配列半径の大きさとは比例し、配列間隔を拡げれば配列半径が増大し、配列間隔を狭めれば配列半径も減少する。しかしながら、通常、前記吸入通路が回転軸の周囲に等角度位置に配列された複数のシリンダボアの狭間に1本ずつ設けられており、このような通路の存在がシリンダブロックの強度低下をもたらす。又、シリンダブロック内の吐出通路の存在もシリンダブロックの強度低下をもたらす。そのため、吸入通路及び吐出通路をシリンダブロック内に貫設する構成が採用される限りシリンダボアの配列半径の縮径化は困難であり、圧縮機のコンパクト化は困難である。
【0008】しかも、シリンダブロック内の吸入通路の存在は圧力損失の原因となり、圧縮効率が低下する。本発明は体積効率を向上する斜板式圧縮機を提供し、さらに圧縮機全体のコンパクト化を可能とする斜板式圧縮機を提供することを目的とする。」
ウ.「【0009】
【課題を解決するための手段】そのために本発明では、回転軸の周囲に配列された前後で対となる複数対のシリンダボア内に両頭ピストンを収容すると共に、回転軸に支持された斜板の回転運動を前記両頭ピストンの往復運動に変換し、両頭ピストンによってシリンダボア内に区画される圧縮室の冷媒ガスをシリンダブロックの前後の吐出室に吐出する斜板式圧縮機を対象とし、ロータリバルブ内に吸入通路を形成し、両頭ピストンの往復動に同期して前記圧縮室と前記吸入通路とを順次連通するように、かつ斜板を収容する斜板室と吐出圧領域とを遮断するように前記ロータリバルブを回転軸上に支持し、回転軸内に吐出通路を設けると共に、前後一対の吐出室を吐出通路で連通し、ロータリバルブの摺接周面に潤滑油を供給するための油供給孔を吐出圧領域に包囲された回転軸の周面から吐出通路にかけて貫設した。
【0010】
【作用】前後の吐出室の一方に吐出された冷媒ガスは回転軸内の吐出通路を介して他方の吐出室へ合流する。ロータリバルブは吸入圧領域である斜板室と吐出圧領域とを遮断し、吐出通路内を冷媒ガスと共に流動する潤滑油が油供給孔からロータリバルブの摺接周面に供給される。即ち、吐出通路の壁面に付着する潤滑油が回転軸の回転に伴う遠心作用によって油供給孔へ強制的に流入させられる。
【0011】ロータリバルブ内の吸入通路はロータリバルブの回転に伴って複数の圧縮室に順次連通する。この連通は両頭ピストンの吸入動作に同期して行われる。吸入通路と圧縮室とが連通している時にピストンが下死点側へ向かい、圧縮室の圧力が吸入通路の圧力(吸入圧)以下まで低下していく。この圧力低下により吸入通路の冷媒ガスが圧縮室へ流入する。
【0012】斜板室の冷媒ガスを圧縮室にロータリバルブを介して導入する構成は従来のシリンダブロック内の吸入通路を不要とする。シリンダブロック内の吸入通路の省略によってシリンダボアの配列半径の縮径化ができ、圧縮機全体がコンパクト化する。」
エ.「【0013】
【実施例】以下、本発明を斜板式圧縮機に具体化した一実施例を図1?図8に基づいて説明する。
【0014】図1に示すように接合された前後一対のシリンダブロック1,2の中心部には収容孔1a,2aが貫設されている。シリンダブロック1,2の端面にはバルブプレート3,4が接合されており、バルブプレート3,4には支持孔3a,4aが貫設されている。支持孔3a,4aの周縁には環状の位置決め突起3b,4bが突設されており、位置決め突起3b,4bは収容孔1a,2aに嵌入されている。バルブプレート3,4及びシリンダブロック1,2にはピン5,6が挿通されており、シリンダブロック1,2に対するバルブプレート3,4の回動がピン5,6により阻止されている。
【0015】バルブプレート3,4の支持孔3a,4aには回転軸7が円錐コロ軸受け8,9を介して回転可能に支持されており、回転軸7には斜板10が固定支持されている。斜板室11を形成するシリンダブロック1,2には導入口12が形成されており、導入口12には図示しない外部吸入冷媒ガス管路が接続されている。
【0016】図3及び図4に示すように回転軸7を中心とする等間隔角度位置には複数のシリンダボア13,13A,14,14Aが形成されている。図1に示すように前後で対となるシリンダボア13,14,13A,14A(本実施例では5対)内には両頭ピストン15,15Aが往復動可能に収容されている。両頭ピストン15,15Aと斜板10の前後両面との間には半球状のシュー16,17が介在されている。従って、斜板10が回転することによって両頭ピストン15,15Aがシリンダボア13,14,13A,14A内を前後動する。
【0017】シリンダブロック1の端面にはフロントハウジング18が接合されており、シリンダブロック2の端面にもリヤハウジング19が接合されている。図7及び図8に示すように両ハウジング18,19の内壁面には複数の押さえ突起18a,19aが突設されている。押さえ突起18aと円錐コロ軸受け8の外輪8aとの間には環状板形状の予荷重付与ばね20が介在されている。押さえ突起19aは円錐コロ軸受け9の外輪9aに当接している。外輪8a,9aと共にコロ8c,9cを挟む内輪8b,9bは回転軸7の段差部7a,7bに当接している。シリンダブロック1、バルブプレート3及びフロントハウジング18はボルト21により締め付け固定されている。シリンダブロック2、バルブプレート4及びリヤハウジング19はボルト22により締め付け固定されている。円錐コロ軸受け8,9は回転軸7に対するラジアル方向の荷重及びスラスト方向の荷重の両方を受け止める。ボルト21の締め付けは予荷重付与ばね20を撓み変形させ、この撓み変形が円錐コロ軸受け8を介して回転軸7にスラスト方向の予荷重を与える。
【0018】両ハウジング18,19内には吐出室23,24が形成されている。両頭ピストン15,15Aによりシリンダボア13,14,13A,14A内に区画される圧縮室Pa,Pbはバルブプレート3,4上の吐出ポート3c,4cを介して吐出室23,24に接続している。吐出ポート3c,4cはフラッパ弁型の吐出弁31,32により開閉される。吐出弁31,32の開度はリテーナ33,34により規制される。吐出弁31,32及びリテーナ33,34はボルト35,36によりバルブプレート3,4上に締め付け固定されている。吐出室23は排出通路25を介して図示しない外部吐出冷媒ガス管路に連通している。」
オ.「【0019】26は回転軸7の周面に沿った吐出室23から圧縮機外部への冷媒ガス漏洩を防止するリップシールである。回転軸7上の段差部7a,7bにはロータリバルブ27,28がスライド可能に支持されている。ロータリバルブ27,28と回転軸7との間にはシールリング39,40が介在されている。ロータリバルブ27,28は回転軸7と一体的に図3の矢印Q方向に回転可能に収容孔1a,2a内に収容されている。
【0020】図2に示すように収容孔1a,2aはテーパ形状であり、シリンダブロック1,2の端面から内部に向かうにつれて縮径となっている。ロータリバルブ27,28の周面は収容孔1a,2aと同形のテーパにしてあり、ロータリバルブ27,28の周面27c,28cは収容孔1a,2aの内周面にぴったりと嵌合可能である。即ち、ロータリバルブ27の大径端部27a側は吐出室23側を向き、ロータリバルブ27の小径端部27b側は斜板室11側を向いている。又、ロータリバルブ28の大径端部28a側は吐出室24側を向き、ロータリバルブ28の小径端部28b側は斜板室11側を向いている。
【0021】ロータリバルブ27,28内には吸入通路29,30が形成されている。吸入通路29,30の入口29a,30aは小径端部27b,28b上に開口しており、吸入通路29,30の出口29b,30bはテーパ周面27c,28c上に開口している。」
カ.「【0022】図3に示すようにロータリバルブ27を収容する収容孔1aの内周面にはシリンダボア13,13Aと同数の吸入ポート1bが等間隔角度位置に配列形成されている。吸入ポート1bとシリンダボア13,13Aとは1対1で常に連通しており、各吸入ポート1bは吸入通路29の出口29bの周回領域に接続している。
【0023】同様に、図4に示すようにロータリバルブ28を収容する収容孔2aの内周面にはシリンダボア14,14Aと同数の吸入ポート2bが等間隔角度位置に配列形成されている。吸入ポート2bとシリンダボア14,14Aとは1対1で常に連通しており、各吸入ポート2bは吸入通路30の出口30bの周回領域に接続している。」
キ.「【0024】図1、図3及び図4に示す状態では両頭ピストン15Aは一方のシリンダボア13Aに対して上死点位置にあり、他方のシリンダボア14Aに対して下死点位置にある。このようなピストン配置状態のとき、吸入通路29の出口29bはシリンダボア13Aの吸入ポート1bに接続する直前にあり、吸入通路30の出口30bはシリンダボア14Aの吸入ポート2bに接続した直後にある。即ち、両頭ピストン15Aがシリンダボア13Aに対して上死点位置から下死点位置に向かう吸入行程に入ったときには吸入通路29はシリンダボア13Aの圧縮室Paに連通する。この連通により斜板室11内の冷媒ガスが吸入通路29を経由してシリンダボア13Aの圧縮室Paに吸入される。一方、両頭ピストン15Aがシリンダボア14Aに対して下死点位置から上死点位置に向かう吐出行程に入ったときには吸入通路30はシリンダボア14Aの圧縮室Pbとの連通を遮断される。この連通遮断によりシリンダボア14Aの圧縮室Pb内の冷媒ガスが吐出弁31を押し退けつつ吐出ポート4cから吐出室24に吐出される。」
ク.「【0037】又、本発明ではロータリバブルの周面及びその収容孔をストレート形状としてもよい。このストレート周面ではロータリバルブと収容孔の周面との間のクリアランスはテーパ周面に比して大きくなり、ストレート周面同士のみによるシール性が悪くなる。しかしながら、油供給孔7c,7dから供給される潤滑油がシール性を高める。」
そして、記載エ並びに図1及び3ないし6の記載を併せてみると、次のことが理解できる。
ケ.接合された前後一対のシリンダブロック1,2における回転軸7を中心とする等間隔角度位置には複数のシリンダボア13,13A,14,14Aが形成されている。
コ.斜板10の両側の、ロータリバルブ27,28よりも斜板10から離れた位置において、回転軸7が円錐コロ軸受け8,9を介して支持され、斜板10は、円錐コロ軸受け8,9によって回転軸7の軸線の方向の位置を規制されている。
記載オ及びク並びに図1ないし4の記載からみて、次の事項が理解できる。
サ.ロータリバルブ27,28は、回転軸7と一体回転する。
シ.ロータリバルブ27,28の周面27c,28cは、吸入通路29,30の出口29b,30bを除いて円筒形状とされ、ロータリバルブ27,28の周面27c,28cは、収容孔1a,2aの内周面に直接対向している。
記載エ、オ及びキからみて,次の事項が理解できる。
ス.吸入通路29,30は、両頭ピストン15,15Aによりシリンダボア13,13A,14,14A内に区画される圧縮室Pa,Pbに冷媒ガスを吸入するためのものである。
記載キ及び図1ないし4の記載からみて、次の事項が理解できる。
セ.吸気ポート1b,2bは、ロータリバルブ27,28の回転に伴って吸入通路29,30と間欠的に連通する。
そして、記載ア?ク、事項ケ?セ及び図1?8の記載を総合してみて、甲第16号証には、「斜板式圧縮機における冷媒ガス吸入構造」が開示されているといえる。

以上のことから、甲第16号証には以下の発明(以下、「引用発明5」という。)が記載されていると認める。
「接合された前後一対のシリンダブロック1,2における回転軸7を中心とする等間隔角度位置には複数のシリンダボア13,13A,14,14Aが形成され、前後で対となるシリンダボア13,13A,14,14A内には両頭ピストン15,15Aが往復動可能に収容され、斜板10が回転することによって両頭ピストン15,15Aがシリンダボア13,13A,14,14A内を前後動し、回転軸7と一体回転し、両頭ピストン15,15Aによりシリンダボア13,14,13A,14A内に区画される圧縮室Pa,Pbに冷媒ガスを吸入するための吸入通路29,30が形成されているロータリバルブ27,28を備えた斜板式圧縮機において、
シリンダブロック1,2の中心部にはロータリバルブ27,28が回転可能に収容される収容孔1a,2aが貫設され、
収容孔1a,2aの内周面にはシリンダボア13,13A,14,14Aとは1対1で常に連通する吸気ポート1b,2bが形成され、吸気ポート1b,2bは、ロータリバルブ27,28の回転に伴って吸入通路29,30と間欠的に連通し、
吸入通路29,30の出口29b,30bはロータリバルブ27,28の周面27c,28c上に開口し、ロータリバルブ27,28の周面27c,28cは、吸入通路29,30の出口29b,30bを除いて円筒形状とされ、ロータリバルブ27,28の周面27c,28cは、収容孔1a,2aの内周面に直接対向し、更に斜板10の両側の、ロータリバルブ27,28よりも斜板10から離れた位置において、回転軸7が円錐コロ軸受け8,9を介して支持され、
斜板10は、円錐コロ軸受け8,9によって回転軸7の軸線の方向の位置を規制されている、斜板式圧縮機における冷媒ガス吸入構造。」

3.無効理由1について
(1)本件特許発明と引用発明1との対比
ア.引用発明1の「ハウジング」、「シャフト2」、「シリンダ8」、「ピストン4」、「斜板」及び「アキシャル型コンプレッサ」は、その構成及び機能からみて、それぞれ、本件特許発明の「シリンダブロック」、「回転軸」、「シリンダボア」、「ピストン」、「カム体」及び「ピストン式圧縮機」に相当する。そうすると、引用発明1の「ハウジングにおけるシャフト2の周囲に配列された複数のシリンダ8内にピストン4を収容し、シャフト2の回転に斜板を介してピストン4を連動させたアキシャル型コンプレッサ」は、本件特許発明の「シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し、前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させ」た「ピストン式圧縮機」に相当する。
イ.引用発明1の「吸入冷媒」は、本件特許発明の「冷媒」に相当する。更に、甲第2号証の記載エ(前記「2.(1)」参照)及び図面の記載からみて、引用発明1において、ピストン4によってシリンダ8内に圧縮室が区画されることは明らかであって、吸入冷媒は、シャフト2内部より、横穴6及び吸入通路5を介して、当該圧縮室内へ吸込まれており、横穴6は、前記圧縮機に吸入冷媒を導入するための通路といえるから、引用発明1の「シャフト2には吸入通路5と連通する各摺動部位置に」形成された「横穴6」は、本件特許発明の「前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路」に相当する。そして、本件特許発明において、ロータリバルブは、前記回転軸と一体化されており、前記回転軸の一部をなすといえ、前記導入通路は、前記回転軸に形成されているといえる。
引用発明1の「ピストン4が下死点に位置した時開口するシリンダの吸入通路5」は、本件特許発明の「前記シリンダボアに連通し、かつ前記ロータリバルブの回転に伴って前記導入通路と間欠的に連通する吸入通路」と、「シリンダボアに連通し、かつ導入通路と少なくとも回転軸の回転に伴って間欠的に連通する吸入通路」である点で一致し、更に、本件特許発明において、前記吸入通路が前記シリンダブロックに形成されていることは明らかである。
そうすると、引用発明1の「ピストン4が下死点に位置した時開口するシリンダの吸入通路5をハウジングに形成し、シャフト2には吸入通路5と連通する各摺動部位置に横穴6を形成し、これらの横穴6を連通して吸入サービスバルブ部と通じる吸入連通穴7をシャフト2に内蔵させ、吸入冷媒はシャフト2内部よりシリンダの吸入通路5よりシリンダ8内へ吸込まれ」ることは、本件特許発明の「前記回転軸と一体化されていると共に、前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を有するロータリバルブを備え」、「前記シリンダボアに連通し、かつ前記ロータリバルブの回転に伴って前記導入通路と間欠的に連通する吸入通路」「を有し」ていることと、「回転軸に、ピストンによってシリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を備え、シリンダボアに連通し、かつ導入通路と少なくとも回転軸の回転に伴って間欠的に連通する吸入通路を有する」点において一致する。
ウ.引用発明1の「前記ハウジングは、シャフト2を回転可能に収容する軸孔を有」することは、本件特許発明の「前記シリンダブロックは、前記ロータリバルブを回転可能に収容する軸孔を有」することと、「シリンダブロックは、回転軸を回転可能に収容する軸孔を有する」点で一致する。
エ.前記イにおいて検討したとおり、本件特許発明において、ロータリバルブは、前記回転軸の一部をなすといえ、前記導入通路は、前記回転軸に形成されているといえるから、引用発明1の「シャフト2」の、「吸入通路5と連通」し「横穴6を形成」される「摺動部位置」は、本件特許発明の「ロータリバルブ」と、「回転軸の前記導入通路が形成された部位」である点で一致する。
甲第2号証の図面の記載からみて、引用発明1において、吸入通路5の入口は、前記軸孔の内周面上にあり、横穴6の出口はシャフト2の外周面上にあり、シャフト2の前記摺動部位置の外周面が前記軸孔の内周面に対して直接対向していることが理解できる。しかしながら、引用発明1は、前記斜板の両側の、前記摺動部位置よりも前記斜板から離れた位置において、前記軸孔の内周面にシャフト2の外周面が一対のラジアル軸受を介して支持されており、甲第2号証の記載全体をみても、シャフト2の前記摺動部位置の外周面と前記軸孔の内周面との間のクリアランスと前記一対のラジアル軸受の軸受クリアランスとの関係は特定できない。前記軸受クリアランスがシャフト2の前記摺動部位置の外周面と前記軸孔の内周面との間のクリアランスよりも小さい場合、シャフト2の前記摺動部位置の外周面は、前記軸孔の内周面に直接接触しないこととなり、ラジアル軸受手段として機能しない。結果として、引用発明1において、前記軸孔の内周面にシャフト2の前記摺動部位置の外周面が直接支持されることによって前記軸孔に対してシャフト2を支持するラジアル軸受手段として機能しているのか否か特定できない。
そうすると、引用発明1において「ピストン4が下死点に位置した時開口するシリンダの吸入通路5をハウジングに形成し、シャフト2には吸入通路5と連通する各摺動部位置に横穴6を形成し、」「前記ハウジングは、シャフト2を回転可能に収容する軸孔を有」することは、本件特許発明において「前記導入通路の出口は、前記ロータリバルブの外周面上にあり、前記ロータリバルブの外周面は、前記導入通路の出口を除いて円筒形状とされ、前記吸入通路の入口は、前記軸孔の内周面上にあり、前記軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接支持されることによって前記ロータリバルブを介して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段となっており、前記ラジアル軸受手段は、前記カム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段であ」ることとは、「導入通路の出口は、回転軸の外周面上にあり、吸入通路の入口は、軸孔の内周面上にあり、前記軸孔の内周面に前記回転軸の前記導入通路が形成された部位の外周面が直接対向している」点で一致する。
オ.甲第2号証の図面の記載からみて、引用発明1において、シャフト2の、吸入通路5と連通し横穴6を形成される各摺動部位置は、両頭ピストンであるピストン4に対応して一対であることが理解できる。そうすると、引用発明1において「シャフト2には吸入通路5と連通する各摺動部位置に横穴6を形成し、」「ピストン4は両頭ピストンであり、ピストン4を収容するシリンダ8は前後一対で設けられ」ることは、本件特許発明において「前記ピストンは両頭ピストンであり、前記両頭ピストンを収容する前後一対のシリンダボアに対応する一対のロータリバルブが前記回転軸と一体的に回転」することと、「ピストンは両頭ピストンであり、前記両頭ピストンを収容する前後一対のシリンダボアに対応する一対の、回転軸の導入通路が形成された部位が前記回転軸と一体的に回転する」点で一致する。
カ.引用発明1の「吸入連通穴7」は、本件特許発明の「通路」に相当し、引用発明1の「これらの横穴6を連通して吸入サービスバルブ部と通じる吸入連通穴7をシャフト2に内蔵させ」ることは、本件特許発明の「前記ロータリバルブの各導入通路は前記回転軸内に形成された通路を介して連通」することと、「回転軸の導入通路が形成された部位の各該導入通路は前記回転軸内に形成された通路を介して連通する」点で一致する。
キ.引用発明1の「前記斜板は、前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれてシャフト2の軸線の方向の位置を規制されており、前記一対のスラスト軸受手段は、前記ハウジングの端面に形成された環状の突条と前記斜板の端面に形成された環状の突条とに当接し、前記斜板の突条の径が前記ハウジングの突条の径よりも大きい」ことは、本件特許発明の「前記カム体は、前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて前記回転軸の軸線の方向の位置を規制されており、前記一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方は前記圧縮反力伝達手段の一部をなし、該圧縮反力伝達手段の一部をなすスラスト軸受手段は、前記シリンダブロックの端面に形成された環状の突条と前記カム体の端面に形成された環状の突条とに当接し、前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくした」ことと、「カム体は、前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて回転軸の軸線の方向の位置を規制されており、前記一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方は、シリンダブロックの端面に形成された環状の突条と前記カム体の端面に形成された環状の突条とに当接し、前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくした」点で一致する。
ク.以上のことから、本件特許発明と引用発明1との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
【一致点】
「シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し、前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させ、前記回転軸に、前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を備えたピストン式圧縮機において、
前記シリンダボアに連通し、かつ前記導入通路と少なくとも前記回転軸の回転に伴って間欠的に連通する吸入通路を有し、
前記シリンダブロックは、前記回転軸を回転可能に収容する軸孔を有し、
前記導入通路の出口は、前記回転軸の外周面上にあり、前記吸入通路の入口は、前記軸孔の内周面上にあり、前記軸孔の内周面に前記回転軸の前記導入通路が形成された部位の外周面が直接対向し、
前記ピストンは両頭ピストンであり、前記両頭ピストンを収容する前後一対のシリンダボアに対応する一対の前記部位が前記回転軸と一体的に回転し、前記部位の各導入通路は前記回転軸内に形成された通路を介して連通し、前記カム体は、前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて前記回転軸の軸線の方向の位置を規制されており、前記一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方は、前記シリンダブロックの端面に形成された環状の突条と前記カム体の端面に形成された環状の突条とに当接し、前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくしたピストン式圧縮機における冷媒吸入構造。」
【相違点1-1】
本件特許発明は、回転軸の導入通路が形成された部位が回転軸と一体化されたロータリバルブであり、吸入通路が前記ロータリバルブの回転に伴って前記導入通路と間欠的に連通しているのに対し、
引用発明1は、回転軸(シャフト2)の導入通路(横穴6)が形成された部位がロータリバルブとして機能しているのか否か、及び吸入通路(吸入通路5)がいつ前記導入通路と連通し、いつ連通していないのか、が明らかではない点。
【相違点1-2】
本件特許発明は、ロータリバルブである、回転軸の導入通路が形成された部位の外周面が前記導入通路の出口を除いて円筒形状とされ、軸孔の内周面に前記部位の外周面が直接支持されることによって前記部位を介して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段となっており、前記ラジアル軸受手段がカム体から前記部位側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段であるのに対し、
引用発明1は、回転軸の導入通路が形成された部位の外周面が前記導入通路の出口を除いて円筒形状とされているのか否か、及び軸孔の内周面に前記部位の外周面が直接支持されることによって前記部位を介して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段となっているのか否かが明らかではなく、前記カム体の両側の、前記部位よりも前記カム体から離れた位置において、軸孔の内周面に前記回転軸の外周面が一対のラジアル軸受を介して支持されている点。
【相違点1-3】
本件特許発明は、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力をロータリバルブに伝達して、吐出行程にある前記シリンダボアに連通する吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段を有し、一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方は前記圧縮反力伝達手段の一部をなすのに対し、
引用発明1は、吐出行程にあるシリンダボア(シリンダ8)内のピストン(ピストン4)に対する圧縮反力を回転軸の導入通路が形成された部位に伝達して、吐出行程にある前記シリンダボアに連通する吸入通路の入口に向けて前記部位を付勢する圧縮反力伝達手段を有しているのか否か明らかではない点。
(2)相違点についての検討
請求人は、本件特許発明は、甲第2号証に記載された発明であり(無効理由1-1)、また甲第2号証に記載された発明及び甲第5号証ないし甲第10号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(無効理由1-2)旨主張しているので、以下それについて検討する。
ア.相違点1-1について
(ア)甲第2号証には「ピストン4が下死点に位置した時開口するシリンダの吸入通路5」との記載があり(前記「2(1)記載エ」参照)、さらに図面の記載から、吸入通路が、ピストンが上死点に位置している側の圧縮室には開口せず、ピストンが下死点に位置している側の圧縮室には開口しているが看取できる。そうすると、甲第2号証の記載からは、引用発明1において、冷媒(吸入冷媒)が回転軸内部より圧縮室内へ吸い込まれる通路が、ピストンの位置に応じて連通又は遮断されることが理解できる。
一方、甲第2号証には「シャフト2にはこの吸入通路5と連通する各摺動部位置に横穴6を形成し」との記載があり(前記「2(1)記載エ」参照)、さらに図面の記載からは、ピストンが上死点に位置している側の吸入通路に対応する導入通路と、ピストンが下死点に位置している側の吸入通路に対応する導入通路との双方が、対応する吸入通路に連通していることが看取できる。すなわち、引用発明1においては、冷媒が回転軸内部より吸入通路を介して圧縮室に吸い込まれる時以外にも導入通路は吸入通路に連通している。吸入通路と導入通路の連通状態に関して、甲第2号証には、これら以外に記載はない。
そして、先に検討したとおり、引用発明1においては、冷媒が回転軸内部より圧縮室内へ吸い込まれる通路はピストンの位置に応じて連通又は遮断されるから、吸入通路と導入通路が回転軸の回転に伴って連通又は遮断されることが圧縮室への冷媒の導入を制御する上で必然であるとはいえない。
そうすると、甲第2号証の記載からは、吸入通路がいつ導入通路と連通し、いつ連通していないのか、その態様を一に定めることはできず、引用発明1において、回転軸の導入通路が形成された部位がロータリバルブとして機能しているとまではいえない。
したがって、相違点1-1は、実質的な相違点である。

この点に関し、請求人は、導入通路を吸入通路と常に連通させることは構造的に不可能であり、意味もなく、引用発明1は、回転軸が回転して、ピストンが下死点に位置した時に導入通路と吸入通路とが該吸入通路と導入通路との間に存在する空間を介して連通し、吸入冷媒をシリンダ内へ吸込ませるものである旨主張している(口頭審理陳述要領書「3(1)」(第3?6ページ))。
しかしながら、前記空間を回転軸周りのかなりの部分で開けることに意味はなく、また冷媒をハウジングの広い空間に滞留させておくことは無駄であるから、あり得ないと主張しているものの、導入通路を吸入通路とを前記空間を介して常に連通させるようにすることが構造的に不可能ではないことは、請求人も自認するところである。更に、仮に所定の構成とすることに意味はないとしても、そのことのみから当該構成ではないとは必ずしもいえない。そして、先に検討したとおり、甲第2号証の記載からは請求人の主張するように一義的に解することはできない。
請求人は、甲第2号証の「尚,軽量化の問題については,摺動部材へのAl材採用により,潤滑機能が損なわれた時の耐久性の低下も問題となっている。本案は上記点に鑑みてなされたもので,各摺動部へのオイル潤滑を過渡条件下でも,十分行なえるようにすると同時に,サクション弁の自励振動を無くし,吐出脈動を,現状体格にて抑制させることを目的とする。」との記載(前記「2(1)記載イ、ウ」参照)及び「更に,吸入冷媒が各摺動部を局部的に通過するため,過渡時におけるオイル潤滑性は,向上し,耐久性に優れる。」との記載(前記「2(1)記載エ」参照)によれば、甲第2号証の図面の左側のピストンが上死点に位置している側の導入通路と吸入通路とにわたって記載されている矢印は、シリンダに冷媒が吸入されない過渡時に軸受などの摺動部に冷媒を通過させて潤滑することを示していると解され、甲第2号証の冷媒供給動作は、上下の導入通路の出口と吸入通路の入口とを間欠的に連通させて、一方の連通部ではシリンダに冷媒の供給を行い、他方の連通部では潤滑のための冷媒の供給を行っていると解され、吸入通路は常に導入通路と連通しているのではない旨も主張している(口頭審理陳述要領書「3(2)」(第6?7ページ))。
しかしながら、先に検討したとおり、甲第2号証の記載からは、吸入通路がいつ導入通路と連通し、いつ連通していないのか、その態様を一に定めることはできない。更に、請求人が主張するのと同様、甲第2号証の図面の前記矢印が軸受などの摺動部に冷媒を通過させて潤滑することを示していると解されるとしても、軸受などの摺動部は、間欠的に摺動するのではなく、常に摺動することからすると、冷媒は導入通路から前記摺動部へ常に供給され、結果として、前記摺動部に隣接する吸入通路へも常に供給されるとも解し得る。したがって、甲第2号証の記載からは請求人の主張するように一義的に解することはできない。
更に、請求人は、甲第13号証及び甲第14号証には、吸入ポートがピストンが下死点に位置した時開口するように形成され、ピストンの動きによって冷媒の供給を制御しているようにも解される圧縮機においても、ロータリバルブを有することが記載されているから、引用発明1もロータリバルブを有しているといえる旨も主張している(口頭審理陳述要領書「3(3)」(第8?10ページ))。
請求人が主張する当該事項が甲第13号証及び甲第14号証に記載されているのは、請求人の主張のとおりである。しかしながら、甲第13号証及び甲第14号証の記載を参照しても、吸入ポートがピストンが下死点に位置した時開口するように形成され、ピストンの動きによって冷媒の供給が制御される圧縮機において、ロータリバルブを有することが必然であるとはいえない。
以上のとおりであるから、請求人の主張を検討しても、引用発明1において、回転軸の導入通路が形成された部位がロータリバルブとして機能しているとまではいえない。

(イ)引用発明1において相違点1-1に係る本件特許発明を特定する事項を採用することが引用発明1及び甲第5号証ないし甲第10号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項であるかないか検討する。
a.甲第5号証ないし甲第7号証には、そもそも、ロータリバルブが記載されていない。また、甲第8号証ないし甲第10号証には、ロータリバルブは記載されているが、甲第8号証ないし甲第10号証に記載された圧縮機は、いずれも、吸入通路がピストンの上死点付近でシリンダボアに開口したものであり、吸入通路がピストンが下死点に位置した時開口するように形成されたものではない。したがって、甲第5号証ないし甲第10号証のいずれにも、吸入通路がピストンが下死点に位置した時開口するように形成された圧縮機において、ロータリバルブを有することは記載されておらず、甲第5号証ないし甲第10号証の記載からは、当該事項が周知であるとはいえない。
吸入通路がピストンの上死点付近でシリンダボアに開口している場合、吐出行程時に冷媒が吸入通路を介して吸入側に逆流することを防止するため、例えばロータリバルブのような、吸入通路を吸入側から遮断するため手段を別途設けることが必須となるが、吸入通路がピストンが下死点に位置した時開口するように形成されている場合、吐出行程の初期においてピストンにより吸入通路が閉塞されるため、冷媒が吸入通路を介して吸入側に逆流することを防止するために別途の手段を設けなくてもよい。そして、前記(ア)で検討したとおり、引用発明1は、吸入通路がピストンが下死点に位置した時開口するように形成され、ピストンの動きにより圧縮室への冷媒の導入が制御されるものであるから、引用発明1において、圧縮室への冷媒の導入を制御するために、回転軸の回転に伴って吸入通路と導入通路とを連通又は遮断するロータリバルブを採用する動機付けは存在しない。
b.以上のとおりであるから、引用発明1において相違点1-1に係る本件特許発明を特定する事項を採用することが引用発明1及び甲第5号証ないし甲第10号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項であるとはいえない。
イ.相違点1-2及び1-3について
(ア)甲第2号証には、回転軸の導入通路が形成された部位の外周面の態様について何ら記載されておらず、図面の記載からも回転軸の断面しか看取し得ないから、甲第2号証の記載全体をみても、引用発明1において、回転軸の導入通路が形成された部位の外周面がいかなる形状となっているのか特定することができない。
また、前記「第5 3(1)エ」で検討したとおり、引用発明1において、回転軸の導入通路が形成された部位は、カム体から前記部位側における回転軸の部分に関するラジアル軸受手段として機能しているか否か特定することができない。仮に前記部位がラジアル軸受手段として機能しているとしても、更にカム体の両側の、前記部位よりもカム体から離れた位置において、軸孔の内周面に回転軸の外周面が一対のラジアル軸受を介して支持されている。本件特許発明における「前記ラジアル軸受手段は、前記カム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段であり」とは、前記「第5 1」で検討したとおり、「前記ラジアル軸受手段は、前記回転軸の、前記カム体と重畳しない部分に関する唯一のラジアル軸受手段である」と解すべきものであるから、引用発明1において、仮に前記部位がラジアル軸受手段として機能しているとしても、前記部位によるラジアル軸受手段は、カム体から前記部位側における回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段であるとはいえない。
更に、前記部位がラジアル軸受手段として機能していなければ、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力が回転軸に伝達されたとしても、当該圧縮反力は前記一対のラジアル軸受によって支承されることとなり、前記部位に伝達されるとはいえない。そうすると、甲第2号証の記載からは、相違点1-2に係る引用発明1の構成も相まって、引用発明1は、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力を回転軸の導入通路が形成された部位に伝達して、吐出行程にある前記シリンダボアに連通する吸入通路の入口に向けて前記部位を付勢する圧縮反力伝達手段を有しているとまではいえない。
したがって、相違点1-2及び1-3は、実質的な相違点である。

この点に関し、請求人は、斜板型圧縮機は、回転軸が回転すると斜板が圧縮反力を受け、その圧縮反力がロータリバルブに伝達し、ロータリバルブを圧接する機能を有するものであるから、また甲第2号証のスラスト軸受は、スラスト荷重吸収機能を付与されたものであり、圧縮反力が伝達されることは明らかであるから、甲第2号証に記載された発明は、圧縮反力伝達手段を有し、スラスト軸受は、圧縮反力伝達手段の一部に相当する旨主張している(審判請求書「7.3-5-2(1)」(第46ページ))。
しかしながら、引用発明1においては、回転軸が回転してカム体が圧縮反力を受け、その圧縮反力が回転軸に伝達したとしても、必ずしも、圧縮反力が回転軸の導入通路が形成された部位に伝達され、吐出行程にあるシリンダボアに連通する吸入通路の入口に向けて前記部位を付勢するとはいえないことは、先に検討したとおりである。
したがって、請求人の主張を検討しても、引用発明1は、圧縮反力伝達手段を有し、スラスト軸受は、圧縮反力伝達手段の一部に相当するとまではいえない。

(イ)引用発明1において相違点1-2及び1-3に係る本件特許発明を特定する事項を採用することが引用発明1及び甲第5号証ないし甲第10号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項であるかないか検討する。
a.甲第9号証に記載された技術である、シリンダブロック(シリンダブロック2)における回転軸(回転軸24)の周囲に配列された複数のシリンダボア(シリンダ12,13)内にピストン(ピストン30)を収容し、前記回転軸の回転にカム体(斜板27)を介して前記ピストンを連動させ、前記回転軸に、前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路(吸入通路38,39)を備えたピストン式圧縮機(斜板式圧縮機1)においては、前記回転軸の前記導入通路が形成された部位(ジャーナル部24a,24b)の外周面が前記導入通路の出口を除いて円筒形状とされ、前記部位が前記カム体から前記部位側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段となっている。
甲第9号証の記載からみて、従来のロータリバルブを吸入弁として使用する斜板型圧縮機においては、(1)転がり軸受であるラジアル軸受によって支持されている回転軸とハウジング側のバルブシリンダとの間には、各部品の製作上の加工誤差(公差)や転がり軸受の作動に必要な遊隙等によって相当大きな心ずれが存在し、構造上その心ずれ量を少なくすることが難しい、(2)斜板に作用する圧縮反力が回転軸の回りに均等に作用しないで一方に偏っていること等を原因として、ロータリバルブのローターとバルブシリンダとの間のクリアランスが大きくなりやすく、シリンダブロックに設けられた幾つかの吸入ポートの周囲からロータリバルブの外周を通じて圧縮された冷媒等の流体が漏洩し、それによって圧縮機の作動効率が低下するという問題等があり、甲第9号証に記載された技術は、前記問題等を解決することを課題とし、当該課題を解決するために、シリンダブロック内において回転軸を支持する軸受について、ジャーナル軸受であって、シリンダブロック内に取り付けられる滑り軸受とそれによって支持される回転軸の一部としてのジャーナル部とから構成される軸受を採用するなどしたものである。
すなわち、甲第9号証に記載された技術は、ラジアル軸受として、ジャーナル軸受であって、滑り軸受とそれによって支持される回転軸の一部としてのジャーナル部とから構成される軸受を採用することにより、滑り軸受の円筒内面の仕上げ加工を容易に行い、ジャーナル部とのクリアランスを極めて小さくすることを可能としたものである。また、甲第9号証に記載された技術において、ジャーナル軸受25,26は、回転軸24のジャーナル部24a,24bと滑り軸受35,36から成るところ、滑り軸受35,36は、例えば金属ベースの上にフッ素樹脂等を積層した比較的薄肉のものであって、シリンダブロックの貫通穴33,34の中に打ち込んで回転軸と一体化した後、ジャーナル部24a及び24bの外径に極めて近い内径となるように精密加工されるものである。
このように、甲第9号証に記載された技術において、ラジアル軸受手段として「滑り軸受35,36」を有するジャーナル軸受が採用されたのは、滑り軸受の円筒内面の仕上げ加工を容易に行い、ジャーナル部とのクリアランスを極めて小さくするためである。そして、円筒内面の仕上げ加工を容易に行えるのは、例えば金属ベースの上にフッ素樹脂等を積層した比較的薄肉のものである滑り軸受35,36があらかじめ準備され、滑り軸受35,36はシリンダブロックの貫通穴33,34の中に打ち込まれることにより回転軸と一体化され、その後、ジャーナル部24a,24bの外径に極めて近い内径となるように滑り軸受35,36を精密加工できることによるものと解される。したがって、甲第9号証に記載された技術において、ラジアル軸受手段として「滑り軸受35,36」を有するジャーナル軸受が採用されたのは、クリアランスを極めて小さくするという課題の解決手段として必須の構成であるということができる。
そうすると、ラジアル軸受手段として「滑り軸受35,36」を有するジャーナル軸受を採用することを必須の事項とする甲第9号証に記載された技術を引用発明1に適用するにあたり、前記必須の事項を適用することなく、回転軸の導入通路が形成された部位をカム体から前記部位側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段とするということのみを適用することは、当該技術の必須の事項を無くすことになるから、当業者が容易になし得る事項ではないというべきである。
とすれば、仮に、引用発明1に甲第9号証に記載された技術を適用することにより、引用発明1において相違点1-2及び1-3に係る本件特許発明を特定する事項を採用しようとしても、不可避的に、「本件特許発明は、前記軸孔の内周面に前記回転軸の前記導入通路が形成された部位の外周面が直接支持されることによって前記部位を介して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段となっているのに対し、引用発明1に甲第9号証に記載された技術を適用したものは、前記軸孔の内周面に前記部位の外周面が滑り軸受を介して支持される」という新たな相違点を生じることとなる。
してみれば、仮に甲第9号証に記載された技術が周知技術であったとしても、引用発明1に甲第9号証に記載された周知技術を適用して、相違点1-2及び1-3に係る本件特許発明を特定する事項を採用することは、当業者が容易になし得る事項ではない。
b.一方、甲第5号証ないし甲第8号証及び甲第10号証のいずれにも、シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し、前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させ、前記回転軸に、前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を備えたピストン式圧縮機において、前記回転軸の前記導入通路が形成された部位を、前記カム体から前記部位側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段とすることは記載されておらず、甲第5号証ないし甲第8号証及び甲第10号証の記載からは、当該事項が周知であるとはいえない。
さらに、引用発明1において、回転軸の導入通路が形成された部位がラジアル軸受手段として機能していなければ、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力を前記部位に伝達して、吐出行程にある前記シリンダボアに連通する吸入通路の入口に向けて前記部位を付勢する圧縮反力伝達手段を有しているといえないことは、前記(ア)で検討したとおりである。
そうすると、引用発明1において相違点1-2及び1-3に係る本件特許発明を特定する事項を採用することが引用発明1及び甲第5号証ないし甲第8号証及び甲第10号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項であるとはいえない。
c.したがって、引用発明1において相違点1-2及び1-3に係る本件特許発明を特定する事項を採用することが引用発明1及び甲第5号証ないし甲第10号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項であるとはいえない。

この点に関し、請求人は、甲第5号証ないし甲第7号証に記載されているように、駆動シャフトの軸受構造を簡素化するという課題を解決するために、ラジアル軸受を省略して、回転軸をシリンダブロックにより直接支持する構成は周知であり、引用発明1においても、駆動シャフトの軸受構造を簡素化するという課題は当然にあるから、係る課題を解決するために、一対のラジアル軸受を省略することは容易である旨主張している(審判請求書「7.3-5-2(3)」(第47ページ))。
確かに、甲第5号証ないし甲第7号証には、シリンダブロックとは別体であるラジアル軸受を省略して、回転軸をシリンダブロックにより直接支持することが記載されている。
しかしながら、甲第5号証ないし甲第7号証に記載された技術は、いずれも、シリンダブロックとは別体であるラジアル軸受が省略されても、当該ラジアル軸受が設けられていたシリンダブロックの部位により直接支持されることにより、回転軸の前記ラジアル軸受と対応する部位が引き続きラジアル軸受手段として機能するものである。そうすると、甲第5号証ないし甲第7号証に記載された技術が周知技術であって、当該技術を引用発明1に適用し、回転軸の導入通路が形成された部位よりもカム体から離れた位置の外周面を支持していた一対のラジアル軸受を省略したとしても、回転軸の当該位置の外周面は、引き続き、ラジアル軸受手段として機能することになるから、回転軸の導入通路が形成された部位がラジアル軸受手段として機能することになるとは必ずしもいえない。そして、引用発明1において、回転軸の導入通路が形成された部位がラジアル軸受手段として機能しなければ、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力を回転軸の導入通路が形成された部位に伝達して、吐出行程にある前記シリンダボアに連通する吸入通路の入口に向けて前記部位を付勢する圧縮反力伝達手段を有しているといえないことは、前記(ア)で検討したとおりである。
したがって、請求人の主張を検討しても、引用発明1において相違点1-2及び1-3に係る本件特許発明を特定する事項を採用することが引用発明1及び甲第5号証ないし甲第10号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項であるとはいえない。

(3)本件特許発明の効果について
本件特許発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項を備えることにより、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力が回転軸を傾かせて、ロータリバルブの外周面を吐出行程にあるシリンダボアに連通する吸入通路の入口付近の軸孔の内周面に押接し、もって吐出行程にあるシリンダボアにおける圧縮室内の冷媒が吸入通路から洩れ難くなり、圧縮機における体積効率が向上するという効果を奏するものである。
しかしながら、甲2号証及び甲第5号証ないし甲第10号証のいずれにも、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力により回転軸を傾かせて回転軸の外周面を吐出行程にあるシリンダボアに連通する吸入通路の入口付近の軸孔の内周面に押接することが記載されておらず、本件特許発明が奏する効果は、甲第2号証の記載及び甲第5号証ないし甲第10号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る範囲を越えるものである。
(4)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明は、甲第2号証に記載された発明ではなく、かつ引用発明1及び甲第5号証ないし甲第10号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明に係る特許は、請求人が主張する無効理由1によっては、特許法第29条第1項又は同法同条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。

4.無効理由2について
(1)本件特許発明と引用発明2との対比
ア.引用発明2の「シリンダ4」、「ピストン1」、「斜板」、「ロータリーバルブ」及び「斜板型圧縮機」は、その構成及び機能からみて、それぞれ、本件特許発明の「シリンダボア」、「ピストン」、「カム体」、「ロータリバルブ」及び「ピストン式圧縮機」に相当する。
甲第13号証の記載エ(前記「2(12)」参照)及び図1の記載からみて、引用発明2において、ピストン1によってシリンダ4内に圧縮室が区画されることは明らかであって、更に「冷媒は、前記通路、前記流路及び吸入ポート6を介してシリンダ4に導入される」から、前記ロータリーバルブが有する「流路」は、本件特許発明の「導入通路」に相当する。
そうすると、引用発明2の「シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダ4内にピストン1を収容し、前記回転軸の回転に斜板を介してピストン1を連動させ、前記回転軸と一体化され、流路を有するロータリーバルブを備えた斜板型圧縮機」であって「冷媒は、前記通路、前記流路及び吸入ポート6を介してシリンダ4に導入される」ものは、本件特許発明の「シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し、前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させ、前記回転軸と一体化されていると共に、前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を有するロータリバルブを備えたピストン式圧縮機」に相当する。
イ.引用発明2の「吸入ポート6」は、本件特許発明の「吸入通路」に相当する。そうすると、引用発明2の「出口がピストン1の下死点位置近傍でシリンダ4に開口し、前記流路と前記回転軸の回転に伴って間欠的に連通する吸入ポート6を有」することは、本件特許発明の「前記シリンダボアに連通し、かつ前記ロータリバルブの回転に伴って前記導入通路と間欠的に連通する吸入通路」「を有」することに相当する。
ウ.引用発明2の「シリンダブロックは、前記ロータリーバルブを回転自在に収容する軸孔を有」することは、本件特許発明の「前記シリンダブロックは、前記ロータリバルブを回転可能に収容する軸孔を有」することに相当する。
エ.引用発明2において、前記ロータリーバルブの外周面は、前記軸孔の内周面に直接対向しているものの、前記斜板の両側の、前記ロータリーバルブよりも前記斜板に近接した位置において、前記軸孔の内周面に前記回転軸の外周面が一対のラジアル軸受を介して支持されており、甲第13号証の記載全体をみても、前記ロータリーバルブの外周面と前記軸孔の内周面との間のクリアランスと前記一対のラジアル軸受の軸受クリアランスとの関係は特定できない。前記軸受クリアランスが前記ロータリーバルブの外周面と前記軸孔の内周面との間のクリアランスよりも小さい場合、前記ロータリーバルブの外周面は、前記軸孔の内周面に直接接触しないこととなり、ラジアル軸受手段として機能しない。結果として、引用発明2において、前記軸孔の内周面に前記ロータリーバルブの外周面が直接支持されることによって前記ロータリーバルブを介して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段として機能しているのか否か特定できない。
そうすると、引用発明2の「前記流路の出口は、前記ロータリーバルブの外周面上にあり、吸入ポート6の入口は前記軸孔の内周面上にあり、前記ロータリーバルブの外周面は、前記軸孔の内周面に直接対向し」ていることは、
本件特許発明の「前記導入通路の出口は、前記ロータリバルブの外周面上にあり、前記ロータリバルブの外周面は、前記導入通路の出口を除いて円筒形状とされ、前記吸入通路の入口は、前記軸孔の内周面上にあり、前記軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接支持されることによって前記ロータリバルブを介して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段となっており、前記ラジアル軸受手段は、前記カム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段であ」ることと、
「導入通路の出口は、ロータリバルブの外周面上にあり、吸入通路の入口は、軸孔の内周面上にあり、前記軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接対向している」点で一致する。
オ.引用発明2において、前記ロータリーバルブは、前記回転軸と一体化されているから、前記回転軸と一体的に回転することは明らかであり、引用発明2の「ピストン1は両頭ピストンであり、ピストン1を収容するシリンダ4は前後一対で設けられ、前記ロータリーバルブは前後一対で設けられたシリンダ4に対応して一対設けられ」ていることは、本件特許発明の「前記ピストンは両頭ピストンであり、前記両頭ピストンを収容する前後一対のシリンダボアに対応する一対のロータリバルブが前記回転軸と一体的に回転し」ていることに相当する。
引用発明2の「前記ロータリーバルブの各前記流路が前記回転軸内に形成された通路を介して連通し」ていることは、本件特許発明の「前記ロータリバルブの各導入通路は前記回転軸内に形成された通路を介して連通し」ていることに相当する。
カ.引用発明2の「スラスト軸受」は、本件特許発明の「スラスト軸受手段」に相当する。そして、甲第13号証の図1の記載から、引用発明2において、前記スラスト軸受は、前記シリンダブロックの端面と前記斜板の端面とに当接しているものの、前記スラスト軸受が当接する前記シリンダブロックの端面と前記斜板の端面とに環状の突条が形成されていないことが理解できる。
そうすると、引用発明2の「前記斜板は、前後一対のスラスト軸受によって挟まれて前記回転軸の軸線の方向の位置を規制され」ていることは、本件特許発明の「前記カム体は、前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて前記回転軸の軸線の方向の位置を規制されており、前記一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方は前記圧縮反力伝達手段の一部をなし、該圧縮反力伝達手段の一部をなすスラスト軸受手段は、前記シリンダブロックの端面に形成された環状の突条と前記カム体の端面に形成された環状の突条とに当接し、前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくした」ことと、「カム体は、前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて回転軸の軸線の方向の位置を規制されて」いる点で一致する。
キ.以上のことから、本件特許発明と引用発明2との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
【一致点】
シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し、前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させ、前記回転軸と一体化されていると共に、前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を有するロータリバルブを備えたピストン式圧縮機において、
前記シリンダボアに連通し、かつ前記ロータリバルブの回転に伴って前記導入通路と間欠的に連通する吸入通路を有し、
前記シリンダブロックは、前記ロータリバルブを回転可能に収容する軸孔を有し、
前記導入通路の出口は、前記ロータリバルブの外周面上にあり、前記吸入通路の入口は、前記軸孔の内周面上にあり、前記軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接対向し、
前記ピストンは両頭ピストンであり、前記両頭ピストンを収容する前後一対のシリンダボアに対応する一対のロータリバルブが前記回転軸と一体的に回転し、前記ロータリバルブの各導入通路は前記回転軸内に形成された通路を介して連通し、前記カム体は、前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて前記回転軸の軸線の方向の位置を規制されている、ピストン式圧縮機における冷媒吸入構造。
【相違点2-1】
本件特許発明は、ロータリバルブの外周面が導入通路の出口を除いて円筒形状とされ、軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接支持されることによって前記ロータリバルブを介して回転軸を支持するラジアル軸受手段となっており、前記ラジアル軸受手段がカム体から前記ロータリバルブ側における回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段であるのに対し、
引用発明2は、ロータリバルブ(ロータリーバルブ)の外周面が導入通路(流路)の出口を除いて円筒形状とされているのか否か、及び軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接支持されることによって前記ロータリバルブを介して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段となっているのか否かが明らかではなく、カム体(斜板)の両側の、前記ロータリバルブよりも前記カム体に近接した位置において、軸孔の内周面に前記回転軸の外周面が一対のラジアル軸受を介して支持されている点。
【相違点2-2】
本件特許発明は、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力をロータリバルブに伝達して、吐出行程にある前記シリンダボアに連通する吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段を有し、一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方が前記圧縮反力伝達手段の一部をなし、該圧縮反力伝達手段の一部をなすスラスト軸受手段がシリンダブロックの端面に形成された環状の突条とカム体の端面に形成された環状の突条とに当接し、前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくしたのに対し、
引用発明2は、吐出行程にあるシリンダボア(シリンダ4)内のピストン(ピストン1)に対する圧縮反力をロータリバルブに伝達して、吐出行程にある前記シリンダボアに連通する吸入通路(吸入ポート6)の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段を有しているのか否か明らかではなく、スラスト軸受手段(スラスト軸受)がシリンダブロックの端面とカム体の端面とに当接しているものの、前記スラスト軸受が当接する前記シリンダブロックの端面と前記カム体の端面とに環状の突条が形成されていない点。
(2)相違点についての検討
引用発明2において相違点2-1及び2-2に係る本件特許発明を特定する事項を採用することが引用発明2並びに甲第2号証及び甲第5号証ないし甲第12号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項であるかないか検討する。
ア.前記「第5 3(2)イ(イ)a」において引用発明1について検討したのと同様の理由により、仮に、引用発明2に甲第9号証に記載された技術を適用しようとすると、不可避的に、「本件特許発明は、前記軸孔の内周面に前記回転軸の前記導入通路が形成された部位の外周面が直接支持されることによって前記部位を介して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段となっているのに対し、引用発明2に甲第9号証に記載された技術を適用したものは、前記軸孔の内周面に前記部位の外周面が滑り軸受を介して支持される」という新たな相違点を生じることとなる。
してみれば、仮に甲第9号証に記載された技術が周知技術であったとしても、引用発明2に甲第9号証に記載された周知技術を適用して、相違点2-1及び2-2に係る本件特許発明を特定する事項を採用することは、当業者が容易になし得る事項ではない。
イ.甲第2号証、甲第5号証ないし第8号証及び甲第10号証ないし甲第12号証についてみると、導入通路の出口が外周面上にあるロータリバルブであって、該外周面が前記導入通路の出口を除いて円筒形状とされたものは、甲第10号証に記載されている。
また、シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し、前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させるピストン式圧縮機であって、前記カム体は、前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて前記回転軸の軸線の方向の位置を規制されており、前記一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方は、前記シリンダブロックの端面に形成された環状の突条と前記カム体の端面に形成された環状の突条とに当接し、前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくしたものは、甲第2号証、甲第11号証及び甲第12号証に記載されている。
しかしながら、甲第2号証、甲第5号証ないし甲第8号証及び甲第10号証ないし甲第12号証のいずれにも、シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し、前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させ、前記回転軸と一体化されていると共に、前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を有するロータリバルブを備えたピストン式圧縮機において、前記ロータリバルブを、前記カム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段とすることは記載されておらず、甲第2号証、甲第5号証ないし甲第8号証及び甲第10号証ないし甲第12号証の記載からは、当該事項が周知であるとはいえない。
そして、前記「第5 3(2)イ(ア)」において引用発明1について検討したのと同様の理由により、引用発明2において、ロータリバルブがラジアル軸受手段として機能していなければ、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力を前記ロータリバルブに伝達して、吐出行程にある前記シリンダボアに連通する吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段を有しているといえない。
そうすると、仮に、甲第10号証に記載された前記ロータリバルブ並びに甲第2号証、甲第11号証及び甲第12号証に記載された前記ピストン式圧縮機がいずれも周知技術であって、これらを引用発明2に適用することにより、引用発明2において、ロータリバルブの外周面を導入通路の出口を除いて円筒形状とし、一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方を、シリンダブロックの端面に形成された環状の突条とカム体の端面に形成された環状の突条とに当接させ、前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくすることが、当業者が容易になし得る事項であったとしても、依然として、前記カム体の両側の、前記ロータリバルブよりも前記カム体に近接した位置において、軸孔の内周面に前記回転軸の外周面が一対のラジアル軸受を介して支持されていることに変わりはないから、前記圧縮反力伝達手段を有することになるとはいえない。
してみれば、引用発明2において相違点2-1及び2-2に係る本件特許発明を特定する事項を採用することが引用発明2並びに甲第2号証、甲第5号証ないし第8号証及び甲第10号証ないし甲第12号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項であるとはいえない。
ウ.したがって、引用発明2において相違点2-1及び2-2に係る本件特許発明を特定する事項を採用することが引用発明2並びに甲第2号証及び甲第5号証ないし甲第12号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項であるとはいえない。

この点に関し、請求人は、甲第5号証ないし甲第7号証に記載されているように、駆動シャフトの軸受構造を簡素化するという課題を解決するために、ラジアル軸受を省略して、回転軸をシリンダブロックにより直接支持する構成は周知であり、引用発明2においても、駆動シャフトの軸受構造を簡素化するという課題は当然にあるから、係る課題を解決するために、一対のラジアル軸受を省略することは容易である旨主張している(審判請求書「7.3-6-2(2)」(第53ページ))。
しかしながら、前記「第5 3(2)イ(イ)」において検討したとおり、甲第5号証ないし甲第7号証に記載された技術は、いずれも、シリンダブロックとは別体であるラジアル軸受が省略されても、当該ラジアル軸受が設けられていたシリンダブロックの部位により直接支持されることにより、回転軸の前記ラジアル軸受と対応する部位が引き続きラジアル軸受手段として機能するものである。そうすると、甲第5号証ないし甲第7号証に記載された技術が周知技術であって、当該技術を引用発明2に適用し、ロータリバルブよりもカム体に近接した位置の外周面を支持していた一対のラジアル軸受を省略したとしても、回転軸の前記位置の外周面は、引き続き、ラジアル軸受手段として機能することになるから、前記ロータリバルブがラジアル軸受手段として機能することになるとは必ずしもいえない。そして、引用発明2において、前記ロータリバルブがラジアル軸受手段として機能しなければ、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力を前記ロータリバルブに伝達して、吐出行程にある前記シリンダボアに連通する吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段を有しているといえないことは、先に検討したとおりである。
請求人は、甲第13号証に記載された発明は、「前記ロータリバルブの外周面は、前記導入通路の出口を除いて円筒形状とされ」という構成を備える旨も主張している(審判請求書「7.4-3(1)」(第74ページ))。
しかしながら、甲第13号証には、ロータリバルブの外周面の態様について何ら記載されておらず、図面の記載からも回転軸と一体化されたロータリバルブの断面しか看取し得ないから、甲第13号証の記載全体をみても、引用発明2において、ロータリバルブの外周面がいかなる形状となっているのか特定することができない。
したがって、請求人の主張を検討しても、引用発明2において相違点2-1及び2-2に係る本件特許発明を特定する事項を採用することが引用発明2並びに甲第2号証及び甲第5号証ないし甲第12号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項であるとはいえない。

(3)本件特許発明の効果について
本件特許発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項を備えることにより、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力が回転軸を傾かせて、ロータリバルブの外周面を吐出行程にあるシリンダボアに連通する吸入通路の入口付近の軸孔の内周面に押接し、もって吐出行程にあるシリンダボアにおける圧縮室内の冷媒が吸入通路から洩れ難くなり、圧縮機における体積効率が向上するという効果を奏するものである。
しかしながら、甲第13号証、甲2号証及び甲第5号証ないし甲第12号証のいずれにも、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力により回転軸を傾かせて回転軸の外周面を吐出行程にあるシリンダボアに連通する吸入通路の入口付近の軸孔の内周面に押接することが記載されておらず、本件特許発明が奏する効果は、甲第13号証の記載並びに甲第2号証及び甲第5号証ないし甲第12号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る範囲を越えるものである。
(4)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明は、引用発明2並びに甲第2号証及び甲第5号証ないし甲第12号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明に係る特許は、請求人が主張する無効理由2によっては、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。

5.無効理由3について
(1)本件特許発明と引用発明3との対比
ア.引用発明3の「シリンダブロック2」、「シリンダ12a?12e,13a?13e」、「ピストン30a?30e」、「回転軸24」、「斜板27」、「弁体35,36」及び「斜板型圧縮機1’」は、その構成及び機能からみて、それぞれ、本件特許発明の「シリンダブロック」、「シリンダボア」、「ピストン」、「回転軸」、「カム体」、「ロータリバルブ」及び「ピストン式圧縮機」に相当する。
甲第14号証の記載ア及びイ(前記「2(13)」参照)並びに図2ないし4の記載からみて、引用発明3において、「シリンダブロック2には中心のまわりの均等な位置に」「穿設され」た「5個のシリンダ12a?12e,13a?13e」が回転軸24の周囲に配列されていることは明らかであるから、引用発明3の「シリンダブロック2には中心のまわりの均等な位置に5個のシリンダ12a?12e,13a?13eが穿設され、シリンダ12a?12e,13a?13eにピストン30a?30eが挿入され」ていることは、本件特許発明の「シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し」ていることに相当する。
引用発明3の「回転軸24が回転駆動されると、斜板27の運動の揺動成分によってピストン30a?30eがシリンダ12a?12e,シリンダ13a?13e内で往復運動を行」うことは、本件特許発明の「前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させ」ることに相当する。
甲第14号証の記載オ(前記「2(13)」参照)からみて、引用発明3において、シリンダ12a?12e,13a?13e内へ吸入される冷媒は、シリンダ12a?12e,13a?13eとピストン30a?30eによって形成された圧縮室内へ吸入されることとなるので、引用発明3の「弁開口39,40」は、本件特許発明の「導入通路」に相当し、引用発明3において「シリンダ12a?12e,13a?13eとピストン30a?30eによって圧縮室が形成され、」「回転軸24に対して一体的に連結されている弁体35,36には弁開口39,40が形成され、弁開口39,40は、冷媒をシリンダ12a?12e,13a?13e内へ吸入することができる」ことは、本件特許発明の「前記回転軸と一体化されていると共に、前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を有するロータリバルブを備え」ることに相当する。
イ.引用発明3の「吸入ポート37a?37e,38a?38e」は、本件特許発明の「吸入通路」に相当する。引用発明3において、弁開口39,40が形成された弁体35,36は、回転軸24と共に回転するものであって、バルブシリンダ33,34とロータリバルブを構成するものであるから、バルブシリンダ33,34の壁面に開口する吸入ポート37a?37e,38a?38eとそれらに順次連通する弁開口39,40との連通の態様が弁体の回転に伴う間欠的な連通であることは、明らかである。そうすると、引用発明3の「シリンダ12a?12e,13a?13eのそれぞれ上死点に近い位置の壁面部分に通じる吸入ポート37a?37e,38a?38eを有し、弁開口39,40は、それらに順次連通」することは、本件特許発明の「前記シリンダボアに連通し、かつ前記ロータリバルブの回転に伴って前記導入通路と間欠的に連通する吸入通路」「を有し」ていることに相当する。
ウ.本件特許発明の「軸孔」は、「前記ロータリバルブを回転可能に収容する」ものであるから、引用発明3の「バルブシリンダ33,34」は、本件特許発明の「軸孔」に相当し、引用発明3の「シリンダブロック2には、弁体35,36が微小なクリアランスをおいて回転摺動可能に挿入されているバルブシリンダ33,34が形成され」ていることは、本件特許発明の「前記シリンダブロックは、前記ロータリバルブを回転可能に収容する軸孔を有し」ていることに相当する。
エ.引用発明3の「弁開口39,40は、弁体35,36の外周面に開口して」いることは、本件特許発明の「前記導入通路の出口は、前記ロータリバルブの外周面上にあ」ることに相当する。
引用発明3の「弁体35,36の外周面は、弁開口39,40の出口及び連結環の爪片が係合する切り欠きを除いて円筒形状とされ」ていることは、本件特許発明の「前記ロータリバルブの外周面は、前記導入通路の出口を除いて円筒形状とされ」ていることと、「導入通路の出口を除いたロータリバルブの外周面の少なくとも一部は、円筒形状とされている」点で一致する。
引用発明3の「バルブシリンダ33,34の壁面」は、本件特許発明の「軸孔の内周面」に相当し、引用発明3において「吸入ポート37a?37e,38a?38eは、バルブシリンダ33,34の壁面に開口して」いることは、本件特許発明において「前記吸入通路の入口は、前記軸孔の内周面上にあ」ることに相当する。
引用発明3において、弁体35,36は、微小なクリアランスをおいてバルブシリンダ33,34に挿入されている一方、回転軸24は、斜板27の両側の、弁体35,36よりも斜板27に近接した位置において、一対のラジアル軸受25,26によって半径方向に支持されているから、引用発明3において、弁体35,36の外周面は、バルブシリンダ33,34の壁面に直接対向しているものの、当該壁面に直接支持されることによって前記軸孔に対して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段として機能しているとはいえない。
そうすると、引用発明3の「バルブシリンダ33,34の壁面に弁体35,36の外周面が直接対向し」ていることは、本件特許発明の「前記軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接支持されることによって前記ロータリバルブを介して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段となっており、前記ラジアル軸受手段は、前記カム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段であ」ることと、「前記軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接対向している」点で一致する。
オ.引用発明3の「ピストン30a?30eは、両頭のピストンであり、5個のシリンダ12a?12e,13a?13eは、フロント側のシリンダ12a?12eと、それらに対向するリヤ側のシリンダ13a?13eの各対からなり、弁体35は、フロント側のシリンダ12a?12eに対応し、弁体36は、リヤ側のシリンダ13a?13eに対応し、弁体35,36は、回転軸24と共に回転」することは、本件特許発明の「前記ピストンは両頭ピストンであり、前記両頭ピストンを収容する前後一対のシリンダボアに対応する一対のロータリバルブが前記回転軸と一体的に回転」することに相当する。
引用発明3の「吸入通路41,42,43」は、本件特許発明の「通路」に相当し、引用発明3の「弁開口39,40は、回転軸24に形成された吸入通路41,42,43を介して連通し」ていることは、本件特許発明の「前記ロータリバルブの各導入通路は前記回転軸内に形成された通路を介して連通し」ていることに相当する。
カ.引用発明3の「スラスト軸受28,29」は、本件特許発明の「スラスト軸受手段」に相当する。そして、甲第14号証の図2の記載から、引用発明3において、スラスト軸受28,29は、シリンダブロック2の端面と斜板27の端面とに当接し、斜板27の回転軸24の軸線の方向の位置を規制しているものの、前記スラスト軸受が当接するシリンダブロック2の端面と斜板27の端面とに環状の突条が形成されていないことが理解できる。
そうすると、引用発明3の「斜板27の両側には一対のスラスト軸受28,29が設けられている」ことは、本件特許発明の「前記カム体は、前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて前記回転軸の軸線の方向の位置を規制されており、前記一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方は前記圧縮反力伝達手段の一部をなし、該圧縮反力伝達手段の一部をなすスラスト軸受手段は、前記シリンダブロックの端面に形成された環状の突条と前記カム体の端面に形成された環状の突条とに当接し、前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくした」ことと、「カム体は、前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて回転軸の軸線の方向の位置を規制されて」いる点で一致する。
キ.以上のことから、本件特許発明と引用発明3との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
【一致点】
「シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し、前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させ、前記回転軸と一体化されていると共に、前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を有するロータリバルブを備えたピストン式圧縮機において、
前記シリンダボアに連通し、かつ前記ロータリバルブの回転に伴って前記導入通路と間欠的に連通する吸入通路を有し、
前記シリンダブロックは、前記ロータリバルブを回転可能に収容する軸孔を有し、
前記導入通路の出口は、前記ロータリバルブの外周面上にあり、前記導入通路の出口を除いた前記ロータリバルブの外周面の少なくとも一部は、円筒形状とされ、前記吸入通路の入口は、前記軸孔の内周面上にあり、前記軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接対向し、
前記ピストンは両頭ピストンであり、前記両頭ピストンを収容する前後一対のシリンダボアに対応する一対のロータリバルブが前記回転軸と一体的に回転し、前記ロータリバルブの各導入通路は前記回転軸内に形成された通路を介して連通し、前記カム体は、前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて前記回転軸の軸線の方向の位置を規制されている、ピストン式圧縮機における冷媒吸入構造。」
【相違点3-1】
本件特許発明は、ロータリバルブの外周面が導入通路の出口を除いて円筒形状とされ、軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接支持されることによって前記ロータリバルブを介して回転軸を支持するラジアル軸受手段となっており、前記ラジアル軸受手段がカム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段であるのに対し、
引用発明3は、ロータリバルブ(弁体35,36)の外周面が導入通路(弁開口39,40)の出口及び連結環の爪片が係合する切り欠きを除いて円筒形状とされ、軸孔(バルブシリンダ33,34)の内周面(壁面)に前記ロータリバルブの外周面が直接対向しているがラジアル軸受手段ではなく、回転軸(回転軸24)がカム体(斜板27)の前後の、前記ロータリバルブよりも前記カム体に近接した位置において、一対のラジアル軸受25,26によって半径方向に支持されている点。
【相違点3-2】
本件特許発明は、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力をロータリバルブに伝達して、吐出行程にある前記シリンダボアに連通する吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段を有し、一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方が前記圧縮反力伝達手段の一部をなし、該圧縮反力伝達手段の一部をなすスラスト軸受手段がシリンダブロックの端面に形成された環状の突条とカム体の端面に形成された環状の突条とに当接し、前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくしたのに対し、
引用発明3は、吐出行程にあるシリンダボア(シリンダ12a?12e,13a?13e)内のピストン(ピストン30a?30e)に対する圧縮反力をロータリバルブに伝達して、吐出行程にある前記シリンダボアに連通する吸入通路(吸入ポート37a?37e,38a?38e)の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段とを有しているのか否か明らかではなく、スラスト軸受手段(スラスト軸受28,29)がシリンダブロック(シリンダブロック2)の端面とカム体の端面とに当接しているものの、前記スラスト軸受が当接する前記シリンダブロックの端面と前記カム体の端面とに環状の突条が形成されていない点。
(2)相違点についての検討
引用発明3において相違点3-1及び3-2に係る本件特許発明を特定する事項を採用することが引用発明3並びに甲第2号証及び甲第5号証ないし甲第12号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項であるかないか検討する。
ア.前記「第5 3(2)イ(イ)a」において引用発明1について検討したのと同様の理由により、仮に、引用発明3に甲第9号証に記載された技術を適用しようとすると、不可避的に、「本件特許発明は、前記軸孔の内周面に前記回転軸の前記導入通路が形成された部位の外周面が直接支持されることによって前記部位を介して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段となっているのに対し、引用発明3に甲第9号証に記載された技術を適用したものは、前記軸孔の内周面に前記部位の外周面が滑り軸受を介して支持される」という新たな相違点を生じることとなる。
してみれば、仮に甲第9号証に記載された技術が周知技術であったとしても、引用発明3に甲第9号証に記載された周知技術を適用して、相違点3-1及び3-2に係る本件特許発明を特定する事項を採用することは、当業者が容易になし得る事項ではない。
イ.甲第2号証、甲第5号証ないし第8号証及び甲第10号証ないし甲第12号証についてみると、導入通路の出口が外周面上にあるロータリバルブであって、該外周面が前記導入通路の出口を除いて円筒形状とされたものは、甲第10号証に記載されている。
また、シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し、前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させるピストン式圧縮機であって、前記カム体は、前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて前記回転軸の軸線の方向の位置を規制されており、前記一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方は、前記シリンダブロックの端面に形成された環状の突条と前記カム体の端面に形成された環状の突条とに当接し、前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくしたものは、甲第2号証、甲第11号証及び甲第12号証に記載されている。
しかしながら、甲第2号証、甲第5号証ないし甲第8号証及び甲第10号証ないし甲第12号証のいずれにも、シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し、前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させ、前記回転軸と一体化されていると共に、前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を有するロータリバルブを備えたピストン式圧縮機において、前記ロータリバルブを、前記カム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段とすることは記載されておらず、甲第2号証、甲第5号証ないし甲第8号証及び甲第10号証ないし甲第12号証の記載からは、当該事項が周知であるとはいえない。
そして、前記「第5 3(2)イ(ア)」において引用発明1について検討したのと同様の理由により、引用発明3において、ロータリバルブがラジアル軸受手段として機能していなければ、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力を前記ロータリバルブに伝達して、吐出行程にある前記シリンダボアに連通する吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段を有しているといえない。
そうすると、仮に、甲第10号証に記載された前記ロータリバルブ並びに甲第2号証、甲第11号証及び甲第12号証に記載された前記ピストン式圧縮機がいずれも周知技術であって、これらを引用発明3に適用することにより、引用発明3において、ロータリバルブの外周面を導入通路の出口を除いて円筒形状とし、一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方を、シリンダブロックの端面に形成された環状の突条とカム体の端面に形成された環状の突条とに当接させ、前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくすることが、当業者が容易になし得る事項であったとしても、依然として、前記カム体の両側の、前記ロータリバルブよりも前記カム体に近接した位置において、軸孔の内周面に前記回転軸の外周面が一対のラジアル軸受を介して支持されていることに変わりはないから、前記圧縮反力伝達手段を有することになるとはいえない。
してみれば、引用発明3において相違点3-1及び3-2に係る本件特許発明を特定する事項を採用することが引用発明3並びに甲第2号証、甲第5号証ないし第8号証及び甲第10号証ないし甲第12号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項であるとはいえない。
ウ.したがって、引用発明3において相違点3-1及び3-2に係る本件特許発明を特定する事項を採用することが引用発明3並びに甲第2号証及び甲第5号証ないし甲第12号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項であるとはいえない。

この点に関し、請求人は、甲第5号証ないし甲第7号証に記載されているように、駆動シャフトの軸受構造を簡素化するという課題を解決するために、ラジアル軸受を省略して、回転軸をシリンダブロックにより直接支持する構成は周知であり、引用発明2においても、駆動シャフトの軸受構造を簡素化するという課題は当然にあるから、係る課題を解決するために、一対のラジアル軸受を省略することは容易である旨主張している(審判請求書「7.3-7-2(2)」(第58ページ))。
しかしながら、前記「第5 3(2)イ(イ)」において検討したとおり、甲第5号証ないし甲第7号証に記載された技術は、いずれも、シリンダブロックとは別体であるラジアル軸受が省略されても、当該ラジアル軸受が設けられていたシリンダブロックの部位により直接支持されることにより、回転軸の前記ラジアル軸受と対応する部位が引き続きラジアル軸受手段として機能するものである。そうすると、甲第5号証ないし甲第7号証に記載された技術が周知技術であって、当該技術を引用発明3に適用し、ロータリバルブよりもカム体に近接した位置の外周面を支持していた一対のラジアル軸受を省略したとしても、回転軸の前記位置の外周面は、引き続き、ラジアル軸受手段として機能することになり、前記ロータリバルブがラジアル軸受手段として機能することになるとは必ずしもいえない。そして、引用発明3において、前記ロータリバルブがラジアル軸受手段として機能しなければ、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力を前記ロータリバルブに伝達して、吐出行程にある前記シリンダボアに連通する吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段を有しているといえないことは、先に検討したとおりである。
したがって、請求人の主張を検討しても、引用発明3において相違点3-1及び3-2に係る本件特許発明を特定する事項を採用することが引用発明3並びに甲第2号証及び甲第5号証ないし甲第12号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項であるとはいえない。

(3)本件特許発明の効果について
本件特許発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項を備えることにより、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力が回転軸を傾かせて、ロータリバルブの外周面を吐出行程にあるシリンダボアに連通する吸入通路の入口付近の軸孔の内周面に押接し、もって吐出行程にあるシリンダボアにおける圧縮室内の冷媒が吸入通路から洩れ難くなり、圧縮機における体積効率が向上するという効果を奏するものである。
しかしながら、甲第14号証、甲2号証及び甲第5号証ないし甲第12号証のいずれにも、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力により回転軸を傾かせて回転軸の外周面を吐出行程にあるシリンダボアに連通する吸入通路の入口付近の軸孔の内周面に押接することが記載されておらず、本件特許発明が奏する効果は、甲第14号証の記載並びに甲第2号証及び甲第5号証ないし甲第12号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る範囲を越えるものである。
(4)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明は、引用発明3並びに甲第2号証及び甲第5号証ないし甲第12号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明に係る特許は、請求人が主張する無効理由3によっては、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。

6.無効理由4について
(1)本件特許発明と引用発明4との対比
ア.引用発明4の「接合された前後一対のシリンダブロック1,2」、「駆動軸12」、「シリンダボア18a?18e,19a?19e」、「両頭ピストン20a?20e」、「斜板15」、「圧縮室Pa1?Pa5,Pb1?Pb5」、「冷媒ガス」、「吸入通路40,41」、「ロータリバルブ34,35」及び「往復動型圧縮機」は、その構成及び機能からみて、それぞれ、本件特許発明の「シリンダブロック」、「回転軸」、「シリンダボア」、「ピストン」、「カム体」、「圧縮室」、「冷媒」、「導入通路」、「ロータリバルブ」及び「ピストン式圧縮機」に相当する。
そうすると、引用発明4の「接合された前後一対のシリンダブロック1,2における駆動軸12を中心とする等間隔角度位置には、複数のシリンダボア18a?18e,19a?19eが形成され、前後で対となるシリンダボア18a?18e,19a?19e内には、両頭ピストン20a?20eが往復動可能に収容され」ていることは、本件特許発明の「シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し、」「前記ピストンは両頭ピストンであ」ることに相当する。
甲第15号証には、斜板15が駆動軸12に固定支持されていることが記載されているから(前記「2(14)記載ウ」参照)、引用発明4の「斜板15の回転が両頭ピストン20a?20eのシリンダボア18a?18e,19a?19eにおいての往復動作に変換され」ることは、本件特許発明の「前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させ」ることに相当する。
甲第15号証には、テーパ形状を有したロータリバルブ34,35について、駆動軸12に止着されたキー12a,12bに係合するキー溝36,37が設けられ、一体回転可能に、且つ、スライド可能に駆動軸12に嵌入支承されることが記載されているが(前記「2(14)記載オ」参照)、吸入通路40,41の出口、吸入通路40、41に接続された案内溝42、43、及びガス放出通路44,45を除いて外周面が円筒形状である(以下、単に「円筒状である」という。)ロータリバルブ34,35が駆動軸12に嵌入支承される態様については直接的な記載はない。しかしながら、図11の記載から、円筒状であるロータリバルブ34,35にもキー溝36,37が設けられていることが看取され、このことからすれば、駆動軸12への嵌入支承の態様について、テーパ形状を有したロータリバルブ34,35と円筒状であるロータリバルブ34,35との間に差異はない蓋然性が高い。してみれば、引用発明4において、ロータリバルブ34,35は駆動軸12と一体化されているとまではいえない。また、引用発明4において、冷媒ガスは、ロータリバルブ34の吸入通路40を経由してシリンダボア18a?18e内に区画される圧縮室Pa1?Pa5に吸入され、ロータリバルブ35の吸入通路41を経由してシリンダボア19a?19e内に区画される圧縮室Pb1?Pb5に吸入されるから(前記「2(14)記載カ」及び甲第15号証図3ないし5参照)、ロータリバルブ34がシリンダボア18a?18eに対応し、ロータリバルブ35がシリンダボア19a?19eに対応するといえる。してみれば、引用発明4において「駆動軸12と一体回転し、両頭ピストン20a?20eによってシリンダボア18a?18e,19a?19e内に区画される圧縮室Pa1 ?Pa5 ,Pb1 ?Pb5に冷媒ガスを吸入するための吸入通路40,41が形成されているロータリバルブ34,35を備えた」ことは、本件特許発明の「前記回転軸と一体化されていると共に、前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を有するロータリバルブを備え」、「前記両頭ピストンを収容する前後一対のシリンダボアに対応する一対のロータリバルブが前記回転軸と一体的に回転」することと、「回転軸と一体回転すると共に、ピストンによってシリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を有するロータリバルブを備え」、「両頭ピストンを収容する前後一対のシリンダボアに対応する一対のロータリバルブが前記回転軸と一体的に回転する」点で一致する。
イ.引用発明4の「収容孔1a,2a」は、本件特許発明の「軸孔」に相当し、引用発明4の「シリンダブロック1,2の中心部には、ロータリバルブ34,35が回転可能に収容される収容孔1a,2aが貫設され」ていることは、本件特許発明の「前記シリンダブロックは、前記ロータリバルブを回転可能に収容する軸孔を有し」ていることに相当する。
ウ.引用発明4の「導通路29a?29e,30a?30e」は、本件特許発明の「吸入通路」に相当する。そして、導通路29a?29e,30a?30eは、「収容孔1a,2aの内周面に」「形成され」ており、図3?5の記載を併せて参照すれば、その入口が収容孔1a,2aの内周上にあることは、明らかである。そうすると、引用発明4の「収容孔1a,2aの内周面にはシリンダボア18a?18e,19a?19eと一対一で常に連通する導通路29a?29e,30a?30eが形成され、導通路29a?29e,30a?30eは、ロータリバルブ34,35の回転に伴って吸入通路40,41と間欠的に連通」することは、本件特許発明の「前記シリンダボアに連通し、かつ前記ロータリバルブの回転に伴って前記導入通路と間欠的に連通する吸入通路」「を有し、」「前記吸入通路の入口は、前記軸孔の内周面上にあ」ることに相当する。
エ.引用発明4の「吸入通路40,41の出口は、ロータリバルブの外周面上に開口し」ていることは、本件特許発明の「前記導入通路の出口は、前記ロータリバルブの外周面上にあ」ることに相当する。
引用発明4において、案内溝42,43は、吸入通路40,41に接続されており、ロータリバルブ34,35の回転位置によっては吸入通路40,41が案内溝42,43を介して圧縮室Pa1 ?Pa5 ,Pb1 ?Pb5に連通するから(前記「2(14)記載カ」参照)、案内溝42,43は、吸入通路40,41の出口の一部をなすといえるものの、ロータリバルブ34,35の外周面には、更にガス放出通路44,45が形成されている。そうすると、引用発明4の「ロータリバルブ34,35の外周面は、吸入通路40,41の出口、吸入通路40,41に接続された案内溝42,43、及びガス放出通路44,45を除いて円筒形状とされ」ていることは、本件特許発明の「前記ロータリバルブの外周面は、前記導入通路の出口を除いて円筒形状とされ」ていることと、「導入通路の出口を除いたロータリバルブの外周面の少なくとも一部は、円筒形状とされている」点で一致する。
甲第15号証には、テーパ形状を有したロータリバルブ34,35について、前記アで検討したようにスライド可能に駆動軸12に嵌入支承されていることと相まって、その外周面がシール力付与バネ38,39のバネ力によって収容孔1a,2aの内周面に密接することが記載されているが(前記「2(14)記載オ」及び図3参照)、円筒状であるロータリバルブ34,35の外周面と収容孔1a、2aの内周面との関係については直接的な記載はない。円筒状であるロータリバルブ34,35の場合、その外周面と当該外周面に対向する収容孔1a,2aの内周面は、いずれも、駆動軸12と略同心状の円筒面となり、シール力付与バネ38、39のバネ力の方向は駆動軸12の軸線の方向であるから、当該バネ力が円筒状であるロータリバルブ34,35に付加されたとしても、当該バネ力は、円筒状であるロータリバルブ34,35の外周面を収容孔1a,2aの内周面に密接させるようには作用しない。更に、引用発明4において、ロータリバルブ34,35の外周面は、収容孔1a,2aの内周面に直接対向しているものの、斜板15の両側の、ロータリバルブ34,35よりも斜板15から離れた位置において、駆動軸12が円錐コロ軸受け10,11を介して支持されており、甲第15号証の記載全体をみても、円筒状のロータリバルブ34,35の外周面と収容孔1a,2aの内周面との間のクリアランスと円錐コロ軸受け10,11の軸受クリアランスとの関係は特定できない。前記軸受クリアランスが円筒状であるロータリバルブ34,35の外周面と収容孔1a,2aの内周面との間のクリアランスよりも小さい場合、円筒状であるロータリバルブ34,35の外周面は、収容孔1a,2aの内周面に直接接触しないこととなり、ラジアル軸受手段として機能しない。結果として、引用発明4において、収容孔1a、2aの内周面にロータリバルブ34,35の外周面が直接支持されることによってロータリバルブ34,35を介して駆動軸12を支持するラジアル軸受手段として機能しているのか否か特定できない。
そうすると、引用発明4の「ロータリバルブ34,35の外周面は、収容孔1a,2aの内周面に直接対向し」ていることは、本件特許発明の「前記軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接支持されることによって前記ロータリバルブを介して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段となっており、前記ラジアル軸受手段は、前記カム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段であ」ることと、「前記軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接対向している」点で一致する。
オ.引用発明4において、駆動軸12に作用するスラスト荷重は、円錐コロ軸受け10,11を介してフロントハウジング3,リアハウジング4で受け止められているから(前記「2(14)記載ウ」参照)、引用発明4の「円錐コロ軸受け10,11」は、本件特許発明の「スラスト軸受手段」に相当するとはいえる。そして、甲第15号証の図3の記載から、引用発明4において、円錐コロ軸受け10,11は、シリンダブロック1,2の端面と斜板15の端面とに当接していないことが理解できる。
そうすると、引用発明4の「斜板15は、円錐コロ軸受け10,11によって駆動軸12の軸線の方向の位置を規制されている」ことは、本件特許発明の「前記カム体は、前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて前記回転軸の軸線の方向の位置を規制されており、前記一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方は前記圧縮反力伝達手段の一部をなし、該圧縮反力伝達手段の一部をなすスラスト軸受手段は、前記シリンダブロックの端面に形成された環状の突条と前記カム体の端面に形成された環状の突条とに当接し、前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくした」ことと、「カム体は、前後一対のスラスト軸受手段によって回転軸の軸線の方向の位置を規制されて」いる点で一致する。

カ.以上のことから、本件特許発明と引用発明4との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
【一致点】
「シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し、前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させ、前記回転軸と一体回転すると共に、前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を有するロータリバルブを備えたピストン式圧縮機において、
前記シリンダボアに連通し、かつ前記ロータリバルブの回転に伴って前記導入通路と間欠的に連通する吸入通路を有し、
前記シリンダブロックは、前記ロータリバルブを回転可能に収容する軸孔を有し、
前記導入通路の出口は、前記ロータリバルブの外周面上にあり、前記導入通路の出口を除いた前記ロータリバルブの外周面の少なくとも一部は、円筒形状とされ、前記吸入通路の入口は、前記軸孔の内周面上にあり、前記軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接対向し、
前記ピストンは両頭ピストンであり、前記両頭ピストンを収容する前後一対のシリンダボアに対応する一対のロータリバルブが前記回転軸と一体的に回転し、前記カム体は、前後一対のスラスト軸受手段によって前記回転軸の軸線の方向の位置を規制されている、ピストン式圧縮機における冷媒吸入構造。」
【相違点4-1】
本件特許発明は、ロータリバルブが回転軸と一体化され、前記ロータリバルブの外周面が導入通路の出口を除いて円筒形状とされ、軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接支持されることによって前記ロータリバルブを介して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段となっており、前記ラジアル軸受手段がカム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段であり、前記ロータリバルブの各導入通路が前記回転軸内に形成された通路を介して連通しているのに対し、
引用発明4は、ロータリバルブ(ロータリバルブ34,35)が回転軸(駆動軸12)と一体回転するが、一体化されているとはいえず、前記ロータリバルブの外周面が導入通路(吸入通路40,41)の、案内溝42、43を含めた出口及びガス放出通路44,45を除いて円筒形状とされ、軸孔(収容孔1a,2a)の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接対向しているがラジアル軸受手段ではなく、カム体(斜板15)の両側の、前記ロータリバルブよりも前記カム体から離れた位置において、前記回転軸が円錐コロ軸受け10,11を介して支持され、前記回転軸内に形成され、前記ロータリバルブの各導入通路を連通させる通路を有していない点。
【相違点4-2】
本件特許発明は、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力をロータリバルブに伝達して、吐出行程にある前記シリンダボアに連通する吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段を有し、カム体が前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて前記回転軸の軸線の方向の位置を規制されており、一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方が前記圧縮反力伝達手段の一部をなし、該圧縮反力伝達手段の一部をなすスラスト軸受手段がシリンダブロックの端面に形成された環状の突条とカム体の端面に形成された環状の突条とに当接し、前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくしたのに対し、
引用発明4は、吐出行程にあるシリンダボア(シリンダボア18a?18e,19a?19e)内のピストン(両頭ピストン20a?20e)に対する圧縮反力をロータリバルブに伝達して、吐出行程にある前記シリンダボアに連通する吸入通路(導通路29a?29e,30a?30e)の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段とを有しているのか否か明らかではなく、カム体が前後一対のスラスト軸受手段(円錐コロ軸受け10,11)によって回転軸の軸線の方向の位置を規制されているものの前記前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれてはおらず、スラスト軸受手段がシリンダブロック(シリンダブロック1,2)の端面と前記カム体の端面とに当接していない点。
(2)相違点についての検討
引用発明4において相違点4-1及び4-2に係る本件特許発明を特定する事項を採用することが引用発明4並びに甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第14号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項であるかないか検討する。
ア.前記「第5 3(2)イ(イ)a」において引用発明1について検討したのと同様の理由により、仮に、引用発明4に甲第9号証に記載された技術を適用しようとすると、不可避的に、「本件特許発明は、前記軸孔の内周面に前記回転軸の前記導入通路が形成された部位の外周面が直接支持されることによって前記部位を介して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段となっているのに対し、引用発明4に甲第9号証に記載された技術を適用したものは、前記軸孔の内周面に前記部位の外周面が滑り軸受を介して支持される」という新たな相違点を生じることとなる。
してみれば、仮に甲第9号証に記載された技術が周知技術であったとしても、引用発明4に甲第9号証に記載された周知技術を適用して、相違点4-1及び4-2に係る本件特許発明を特定する事項を採用することは、当業者が容易になし得る事項ではない。
イ.甲第2号証、甲第4号証ないし第8号証及び甲第10号証ないし甲第14号証についてみると、導入通路の出口が外周面上にあるロータリバルブであって、該外周面が前記導入通路の出口を除いて円筒形状とされたものは、甲第10号証に記載されている。
しかしながら、甲第15号証の記載からみて、従来のシリンダボア内でピストンが往復動する往復動側圧縮機においては、ピストンの上死点側への移動によって圧縮室内の冷媒ガスが加圧されていくと、圧縮室内はピストンとシリンダボアとのサイドクリアランスによって完全気密の状態には設定されていないため、高圧状態の一部の冷媒ガスがピストンの外周面とシリンダボアの内周面との間隙へ流入し、その流入ガス(ブローバイガス)がシリンダボアの内周面に沿って圧縮室外へと漏洩し、圧縮室から吐出室への吐出冷媒ガス量の減少に繋がり、吐出効率を悪化させるという問題等があり、引用発明4は、当該問題等を解決することを課題とし、当該課題を解決するために、ピストンの外周面により圧縮室側の開口面が閉鎖される導通路と圧縮行程開始状態の圧縮室に連通する導通路とを駆動軸の回転に同期して連通させるガス放出通路をロータリバルブに形成したものである。
すなわち、引用発明4は、圧縮室側の開口面が閉鎖される導通路29a?9e,30a?30eと圧縮行程開始状態の圧縮室に連通する導通路29a?9e,30a?30eとを駆動軸12の回転に同期して連通させるガス放出通路44,45をロータリバルブ34,35に形成すること等により、圧縮行程中にシリンダボア18a?18e,19a?19eの内周面とピストン20a?20eの外周面との間に漏洩するブローバイガスを、圧縮室側の開口面が閉鎖される導通路すなわち圧縮行程終了付近の状態にある圧縮室の導通路29a?9e,30a?30e、ガス放出通路44,45及び圧縮行程開始の状態にある圧縮室の導通路29a?9e,30a?30eを介して圧縮行程開始の状態にある圧縮室Pa1 ?Pa5 ,Pb1 ?Pb5へ流入させ、ブローバイガスの回収効率を向上させ、結果、圧縮室の体積効率を向上させ、圧縮行程における一行程当たりの圧縮ガスの吐出量を増大させるものである。
したがって、引用発明4において、ロータリバルブ34,35の外周面に「ガス放出通路44,45」が形成されたのは、前記課題の解決手段として必須の構成であるということができる。
そうすると、ロータリバルブ34,35の外周面に「ガス放出通路44,45」が形成されることを必須の構成とする引用発明4に、「ガス放出通路44,45」を有しない構成である、甲第8号証及び甲第9号証に記載された前記ロータリバルブの技術を適用することは、引用発明4の必須の構成を無くすことになるから、動機付けを欠くというべきである
このことは、仮に、甲第10号証に記載された前記ロータリバルブが周知技術として認められたとしても左右されるものではない。
してみれば、引用発明4において相違点4-1に係る本件特許発明を特定する事項を採用することは、当業者が容易になし得る事項ではない。
ウ.シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し、前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させるピストン式圧縮機であって、前記カム体は、前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて前記回転軸の軸線の方向の位置を規制されており、前記一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方は、前記シリンダブロックの端面に形成された環状の突条と前記カム体の端面に形成された環状の突条とに当接し、前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくしたものは、甲第2号証、甲第11号証及び甲第12号証に記載されている。
しかしながら、甲第2号証、甲第11号証又は甲第12号証に記載されたピストン式圧縮機は、いずれも、前記一対のスラスト軸受手段とは別に、前記回転軸の外周面を支持する一対のラジアル軸受を備えるものであり、引用発明4は、カム体の両側の、ロータリバルブよりも前記カム体から離れた位置において回転軸を支持する円錐コロ軸受け10,11が一対のラジアル軸受と前後一対のスラスト軸受手段とを兼ねるものである。そうすると、甲第2号証、甲第11号証又は甲第12号証に記載されたピストン式圧縮機と引用発明4は、そもそも、軸受構造が異なるものであって、甲第15号証の記載全体をみても、甲第2号証、甲第11号証及び甲第12号証に記載された前記ピストン式圧縮機の技術を引用発明4に適用し、一対のラジアル軸受と前後一対のスラスト軸受手段とを兼ねている円錐コロ軸受け10,11をあえて一対のラジアル軸受と前後一対のスラスト軸受手段とに分離する動機付けは見いだせない。
更に、特に甲第11号証及び甲第12号証を参照すると、ピストン式圧縮機において、甲第2号証、甲第11号証及び甲第12号証に記載されているように、前記カム体を挟んで前記回転軸の軸線の方向の位置を規制する前後一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方を、前記シリンダブロックの端面に形成された環状の突条と前記カム体の端面に形成された環状の突条とに当接させ、前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくすることは、前記軸線方向の寸法公差の吸収を目的とするものである。一方、甲第15号証には、円筒コロ軸受け11をリアハウジング4の支持孔4aに収容し、円錐コロ軸受け11の後面にリアハウジング4の支持孔4a内に前後動可能に設けられる仕切板13を係合させることが記載されており(前記「2(14)記載ウ、カ」及び図3参照)、これからみて、回転軸の軸線の方向の寸法公差は、支持孔4a内で円錐コロ軸受け11が前記軸線方向に移動することにより吸収される。そうすると、甲第15号証に接した当業者にとって、甲第2号証、甲第11号証及び甲第12号証に記載された前記ピストン式圧縮機の技術を引用発明4に適用することは、動機付けを欠くというべきである。
これらのことは、仮に、甲第2号証、甲第11号証及び甲第12号証に記載された前記ピストン式圧縮機が周知技術として認められたとしても左右されるものではない。
加えて、甲第2号証、甲第4号証ないし甲第8号証及び甲第10号証ないし甲第14号証のいずれにも、シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し、前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させ、前記回転軸と一体化されていると共に、前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を有するロータリバルブを備えたピストン式圧縮機において、前記ロータリバルブを、前記カム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段とすることは記載されておらず、甲第2号証、甲第4号証ないし甲第8号証及び甲第10号証ないし甲第14号証の記載からは、当該事項が周知であるとはいえない。
そして、前記「第5 3(2)イ(ア)」において引用発明1について検討したのと同様の理由により、引用発明4において、ロータリバルブがラジアル軸受手段として機能していなければ、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力を前記ロータリバルブに伝達して、吐出行程にある前記シリンダボアに連通する吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段を有しているといえない。
そうすると、先に検討したとおり、甲第2号証、甲第11号証及び甲第12号証に記載された前記ピストン式圧縮機の技術を引用発明4に適用する動機付けはないが、仮に、甲第2号証、甲第11号証及び甲第12号証に記載された前記ピストン式圧縮機が周知技術であって、これを引用発明4に適用することにより、引用発明4において、(a)円錐コロ軸受け10,11を一対のラジアル軸受と前後一対のスラスト軸受手段とに分離し、当該前後一対のスラスト軸受手段によってカム体を挟み、一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方を、シリンダブロックの端面に形成された環状の突条とカム体の端面に形成された環状の突条とに当接させ、前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくすること、又は(b)円錐コロ軸受け10,11を一対のラジアル軸受と前後一対のスラスト軸受手段と分離することなく、円錐コロ軸受け10,11によってカム体を挟み、円錐コロ軸受け10,11の少なくとも一方を、シリンダブロックの端面に形成された環状の突条とカム体の端面に形成された環状の突条とに当接させ、前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくすることが、当業者が容易になし得る事項であったとしても、依然として、前記カム体の両側の、前記ロータリバルブよりも前記カム体から離れた位置において、前記回転軸が一対のラジアル軸受を介して支持されている、又は前記カム体の両側の、前記ロータリバルブよりも前記カム体に近接した位置において、前記回転軸が円錐コロ軸受け10,11を介して支持されていることに変わりはないから、前記圧縮反力伝達手段を有することになるとはいえない。
してみれば、引用発明4において相違点4-2に係る本件特許発明を特定する事項を採用することが引用発明2並びに甲第2号証、甲第5号証ないし第8号証及び甲第10号証ないし甲第12号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項であるとはいえない。
エ.したがって、引用発明4において相違点4-1及び4-2に係る本件特許発明を特定する事項を採用することが引用発明4並びに甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第14号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項であるとはいえない。

この点に関し、請求人は、甲第5号証ないし甲第7号証に記載されているように、駆動シャフトの軸受構造を簡素化するという課題を解決するために、ラジアル軸受を省略して、回転軸をシリンダブロックにより直接支持する構成は周知であり、引用発明4においても、駆動シャフトの軸受構造を簡素化するという課題は当然にあるから、係る課題を解決するために、一対のラジアル軸受を省略することは容易である旨主張している(審判請求書「7.3-8-2(3)」(第63?64ページ))。
しかしながら、引用発明4において、円錐コロ軸受け10,11は、一対のラジアル軸受と前後一対のスラスト軸受手段とを兼ねており、円錐コロ軸受け10,11を省略すると前後一対のスラスト軸受手段がなくなってしまうから、引用発明4に請求人が周知と主張する前記技術を適用することはできない。更に、前記「第5 3(2)イ(イ)」において検討したとおり、甲第5号証ないし甲第7号証に記載された技術は、いずれも、シリンダブロックとは別体であるラジアル軸受が省略されても、当該ラジアル軸受が設けられていたシリンダブロックの部位により直接支持されることにより、回転軸の前記ラジアル軸受と対応する部位が引き続きラジアル軸受手段として機能するものである。そうすると、甲第5号証ないし甲第7号証に記載された技術が周知技術であって、当該技術を引用発明4に適用し、ロータリバルブよりもカム体から離れた位置で回転軸を支持していた一対のラジアル軸受を省略したとしても、回転軸の前記位置の外周面は、引き続き、ラジアル軸受手段として機能することになり、前記ロータリバルブがラジアル軸受手段として機能することになるとは必ずしもいえない。そして、引用発明4において、前記ロータリバルブがラジアル軸受手段として機能しなければ、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力を前記ロータリバルブに伝達して、吐出行程にある前記シリンダボアに連通する吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段を有しているといえないことは、先に検討したとおりである。
また、請求人は、甲第20号証ないし甲第22号証を提示し、円錐コロ軸受けをラジアル軸受とスラスト軸受とに分離することに支障はなく、円錐コロ軸受けをラジアル軸受とスラスト軸受とに分離し、スラスト軸受については、斜板を前後一対のスラスト軸受手段によって挟むという一般的な構成に変えることは容易である旨も主張している(口頭審理陳述要領書「5(3)ウ(ア)」(第22?24ページ)。
しかしながら、甲第20号証及び甲第21号証は、回転軸が一対の円錐コロ軸受けにより支承されたピストン式圧縮機を、甲第22号証は、回転軸が一対のラジアル軸受と一対のスラスト軸受手段とにより支承されたピストン式圧縮機が記載されているにとどまり、甲第20号証ないし甲第22号証のいずれも、回転軸が一対の円錐コロ軸受けにより支承されたピストン式圧縮機において、円錐コロ軸受けに代えて、一対のラジアル軸受と一対のスラスト軸受手段とにより回転軸を支承することが記載又は示唆されたものではない。してみれば、回転軸が一対の円錐コロ軸受けにより支承されたピストン式圧縮機において、円錐コロ軸受けに代えて、一対のラジアル軸受と一対のスラスト軸受手段とにより回転軸を支承することが、甲第20号証ないし甲第22号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に想到し得る事項であるとはいえない。
したがって、請求人の主張を検討しても、引用発明4において相違点4-1及び4-2に係る本件特許発明を特定する事項を採用することが引用発明4並びに甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第14号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項であるとはいえない。

(3)本件特許発明の効果について
本件特許発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項を備えることにより、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力が回転軸を傾かせて、ロータリバルブの外周面を吐出行程にあるシリンダボアに連通する吸入通路の入口付近の軸孔の内周面に押接し、もって吐出行程にあるシリンダボアにおける圧縮室内の冷媒が吸入通路から洩れ難くなり、圧縮機における体積効率が向上するという効果を奏するものである。
しかしながら、甲第15号証、甲2号証及び甲第4号証ないし甲第14号証のいずれにも、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力により回転軸を傾かせて回転軸の外周面を吐出行程にあるシリンダボアに連通する吸入通路の入口付近の軸孔の内周面に押接することが記載されておらず、本件特許発明が奏する効果は、甲第15号証の記載並びに甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第14号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る範囲を越えるものである。
(4)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明は、引用発明4並びに甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第14号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明に係る特許は、請求人が主張する無効理由4によっては、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。

7.無効理由5について
(1)本件特許発明と引用発明5との対比
ア.引用発明5の「接合された前後一対のシリンダブロック1,2」、「回転軸7」、「シリンダボア13,13A,14,14A」、「両頭ピストン15,15A」、「斜板10」、「両頭ピストン15,15Aによりシリンダボア13,13A,14,14A内に区画される圧縮室Pa,Pb」、「冷媒ガス」、「吸入通路29,30」、「ロータリバルブ27,28」及び「斜板式圧縮機」は、その構成及び機能からみて、それぞれ、本件特許発明の「シリンダブロック」、「回転軸」、「シリンダボア」、「ピストン」、「カム体」、「前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室」、「冷媒」、「導入通路」、「ロータリバルブ」及び「ピストン式圧縮機」に相当する。
そうすると、引用発明5の「接合された前後一対のシリンダブロック1,2における回転軸7を中心とする等間隔角度位置には複数のシリンダボア13,13A,14,14Aが形成され、前後で対となるシリンダボア13,13A,14,14A内には両頭ピストン15,15Aが往復動可能に収容され」ていることは、本件特許発明の「シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し、」「前記ピストンは両頭ピストンであ」ることに相当する。
甲第16号証には、斜板10が回転軸7に固定支持されていることが記載されているから(前記「2(15)記載エ」参照)、引用発明5の「斜板10が回転することによって両頭ピストン15,15Aがシリンダボア13,13A,14,14A内を前後動」することは、本件特許発明の「前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させ」ることに相当する。
甲第16号証には、周面27c,28cがテーパにしてあるロータリバルブ27,28について、スライド可能に回転軸7上に支持され、且つ回転軸7と一体的に回転可能であることが記載されている(前記「2(15)記載オ」参照)。そして、甲第16号証には、吸入通路29,30の出口29b,30bを除いて周面27c,28cが円筒形状である(以下、単に「円筒状である」という。)ロータリバルブ27,28が回転軸7上に支持される態様について何ら直接的な記載はないから、回転軸7上への支持の態様について、周面27c,28cがテーパにしてあるロータリバルブ27,28と円筒状であるロータリバルブ27,28との間に差異はない蓋然性が高い。してみれば、引用発明5において、ロータリバルブ27,28は回転軸7と一体化されているとまではいえない。また、引用発明5において、冷媒ガスは、ロータリバルブ27の吸入通路29を経由してシリンダボア13,13A内に区画される圧縮室Paに吸入され、ロータリバルブ28の吸入通路30を経由してシリンダボア14,14A内に区画される圧縮室Pbに吸入されるから(前記「2(15)記載キ」及び甲第16号証図1ないし4参照)、ロータリバルブ27がシリンダボア13,13Aに対応し、ロータリバルブ28がシリンダボア14,14Aに対応するといえる。してみれば、引用発明5において「回転軸7と一体回転し、両頭ピストン15,15Aによりシリンダボア13,13A,14,14A内に区画される圧縮室Pa,Pbに冷媒ガスを吸入するための吸入通路29,30が形成されているロータリバルブ27,28を備えた」ことは、本件特許発明の「前記回転軸と一体化されていると共に、前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を有するロータリバルブを備え」、「前記両頭ピストンを収容する前後一対のシリンダボアに対応する一対のロータリバルブが前記回転軸と一体的に回転」することと、「回転軸と一体回転すると共に、ピストンによってシリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を有するロータリバルブを備え」、「両頭ピストンを収容する前後一対のシリンダボアに対応する一対のロータリバルブが前記回転軸と一体的に回転する」点で一致する。
イ.引用発明5の「収容孔1a,2b」は、本件特許発明の「軸孔」に相当し、引用発明5の「シリンダブロック1,2の中心部にはロータリバルブ27,28が回転可能に収容される収容孔1a,2aが貫設され」ていることは、本件特許発明の「前記シリンダブロックは、前記ロータリバルブを回転可能に収容する軸孔を有し」ていることに相当する。
ウ.引用発明5の「吸気ポート1b,2b」は、本件特許発明の「吸入通路」に相当する。そして、吸気ポート1b,2bは、「収容孔1a,2aの内周面に」「形成され」ており、図1?4の記載を併せて参照すれば、その入口が収容孔1a,2aの内周上にあることは、明らかである。そうすると、引用発明5の「収容孔1a,2aの内周面にはシリンダボア13,13A,14,14Aと1対1で常に連通する吸気ポート1b,2bが形成され、吸気ポート1b,2bは、ロータリバルブ27,28の回転に伴って吸入通路29,30と間欠的に連通」することは、本件特許発明の「前記シリンダボアに連通し、かつ前記ロータリバルブの回転に伴って前記導入通路と間欠的に連通する吸入通路」「を有し、」「前記吸入通路の入口は、前記軸孔の内周面上にあ」ることに相当する。
エ.引用発明5の「吸入通路29,30の出口29b,30bは、ロータリバルブの周面27c,28c上に開口し」ていることは、本件特許発明の「前記導入通路の出口は、前記ロータリバルブの外周面上にあ」ることに相当する。
引用発明5の「ロータリバルブ27,28の周面27c,28cは、吸入通路29,30の出口29b,30bを除いて円筒形状とされ」ていることは、本件特許発明の「前記ロータリバルブの外周面は、前記導入通路の出口を除いて円筒形状とされ」に相当する。
甲第16号証には、周面27c,28cがテーパにしてあるロータリバルブ27,28について、前記アで検討したようにスライド可能に回転軸7上に支持されていることと相まって、その周面27c,28cが、大径端部27a,28aに作用する吐出圧と小径端部27b,28bに作用する吸入圧との差圧によって収容孔1a,2aの内周面に押接されることが記載されているが(段落0030,0031参照)、円筒状であるロータリバルブ27,28については、その周面と収容孔1a、2aの内周面との間のクリアランスが、周面27c,28cがテーパにしてあるロータリバルブ27,28に比して大きくなる旨記載されている(前記「2(15)記載ク」参照)。加えて、円筒状であるロータリバルブ27,28の場合、その周面27c,28cと当該周面27c,28cに対向する収容孔1a,2aの内周面は、いずれも、回転軸7と略同心状の円筒面となり、大径端部27a,28aに作用する吐出圧と小径端部27b,28bに作用する吸入圧との差圧による力の方向は回転軸7の軸線の方向であるから、当該力が円筒状であるロータリバルブ27,28に付加されたとしても、当該力は、円筒状であるロータリバルブ27,28の周面27c,28cを収容孔1a,2aの内周面に押接させるようには作用しない。更に、引用発明5において、ロータリバルブ27,28の周面27c,28cは、収容孔1a,2aの内周面に直接対向しているものの、斜板10の両側の、ロータリバルブ27,28よりも斜板10から離れた位置において、回転軸7が円錐コロ軸受け8,9を介して支持されており、甲第16号証の記載全体をみても、円筒状のロータリバルブ27,28の周面27c,28cと収容孔1a,2aの内周面との間のクリアランスと円錐コロ軸受け8,9の軸受クリアランスとの関係は特定できない。前記軸受クリアランスが円筒状であるロータリバルブ27,28の周面27c,28cと収容孔1a,2aの内周面との間のクリアランスよりも小さい場合、円筒状であるロータリバルブ27,28の周面27c,28cは、収容孔1a,2aの内周面に直接接触しないこととなり、ラジアル軸受手段として機能しない。結果として、引用発明5において、収容孔1a、2aの内周面にロータリバルブ27,28の周面27c,28cが直接支持されることによってロータリバルブ27,28を介して回転軸7を支持するラジアル軸受手段として機能しているのか否か特定できない。
そうすると、引用発明5の「ロータリバルブ27,28の周面27c,28cは、収容孔1a,2aの内周面に直接対向し」ていることは、本件特許発明の「前記軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接支持されることによって前記ロータリバルブを介して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段となっており、前記ラジアル軸受手段は、前記カム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段であ」ることと、「前記軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接対向している」点で一致する。
オ.引用発明5において、円錐コロ軸受け8,9は、回転軸7に対するスラスト荷重を受け止められているから(前記「2(15)記載ウ」参照)、引用発明5の「円錐コロ軸受け8,9」は、本件特許発明の「スラスト軸受手段」に相当するとはいえる。そして、甲第16号証の図1の記載から、引用発明5において、円錐コロ軸受け8,9は、シリンダブロック1,2の端面と斜板10の端面とに当接していないことが理解できる。
そうすると、引用発明5の「斜板10は、円錐コロ軸受け8,9によって回転軸7の軸線の方向の位置を規制されている」ことは、本件特許発明の「前記カム体は、前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて前記回転軸の軸線の方向の位置を規制されており、前記一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方は前記圧縮反力伝達手段の一部をなし、該圧縮反力伝達手段の一部をなすスラスト軸受手段は、前記シリンダブロックの端面に形成された環状の突条と前記カム体の端面に形成された環状の突条とに当接し、前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくした」ことと、「カム体は、前後一対のスラスト軸受手段によって回転軸の軸線の方向の位置を規制されて」いる点で一致する。

カ.以上のことから、本件特許発明と引用発明5との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
【一致点】
「シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し、前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させ、前記回転軸と一体的に回転すると共に、前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を有するロータリバルブを備えたピストン式圧縮機において、
前記シリンダボアに連通し、かつ前記ロータリバルブの回転に伴って前記導入通路と間欠的に連通する吸入通路を有し、
前記シリンダブロックは、前記ロータリバルブを回転可能に収容する軸孔を有し、
前記導入通路の出口は、前記ロータリバルブの外周面上にあり、前記ロータリバルブの外周面は、前記導入通路の出口を除いて円筒形状とされ、前記吸入通路の入口は、前記軸孔の内周面上にあり、前記軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接対向し、
前記ピストンは両頭ピストンであり、前記両頭ピストンを収容する前後一対のシリンダボアに対応する一対のロータリバルブが前記回転軸と一体的に回転し、前記カム体は、前後一対のスラスト軸受手段によって前記回転軸の軸線の方向の位置を規制されている、ピストン式圧縮機における冷媒吸入構造。」
【相違点5-1】
本件特許発明は、ロータリバルブが回転軸と一体化され、軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接支持されることによって前記ロータリバルブを介して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段となっており、前記ラジアル軸受手段がカム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段であり、前記ロータリバルブの各導入通路が前記回転軸内に形成された通路を介して連通しているのに対し、
引用発明5は、ロータリバルブ(ロータリバルブ27,28)が回転軸(回転軸7)と一体的に回転するが、一体化されているとはいえず、軸孔(収容孔1a,2a)の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接対向しているがラジアル軸受手段ではなく、カム体(斜板10)の両側の、前記ロータリバルブよりも前記カム体から離れた位置において、前記回転軸が円錐コロ軸受け8,9を介して支持され、前記回転軸内に形成され、前記ロータリバルブの各導入通路(吸入通路29,30)を連通させる通路を有していない点。
【相違点5-2】
本件特許発明は、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力をロータリバルブに伝達して、吐出行程にある前記シリンダボアに連通する吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段を有し、カム体が前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて前記回転軸の軸線の方向の位置を規制されており、一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方が前記圧縮反力伝達手段の一部をなし、該圧縮反力伝達手段の一部をなすスラスト軸受手段がシリンダブロックの端面に形成された環状の突条とカム体の端面に形成された環状の突条とに当接し、前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくしたのに対し、
引用発明5は、吐出行程にあるシリンダボア(シリンダボア13,13A,14,14A)内のピストン(両頭ピストン15,15A)に対する圧縮反力をロータリバルブに伝達して、吐出行程にある前記シリンダボアに連通する吸入通路(吸気ポート1b,2b)の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段とを有しているのか否か明らかではなく、カム体が前後一対のスラスト軸受手段(円錐コロ軸受け8,9)によって回転軸の軸線の方向の位置を規制されているものの前記前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれてはおらず、スラスト軸受手段がシリンダブロック(シリンダブロック1,2)の端面と前記カム体の端面とに当接していない点。
(2)相違点についての検討
引用発明5において相違点5-1及び5-2に係る本件特許発明を特定する事項を採用することが引用発明5並びに甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第14号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項であるかないか検討する。
ア.前記「第5 3(2)イ(イ)a」において引用発明1について検討したのと同様の理由により、仮に、引用発明5に甲第9号証に記載された技術を適用しようとすると、不可避的に、「本件特許発明は、前記軸孔の内周面に前記回転軸の前記導入通路が形成された部位の外周面が直接支持されることによって前記部位を介して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段となっているのに対し、引用発明5に甲第9号証に記載された技術を適用したものは、前記軸孔の内周面に前記部位の外周面が滑り軸受を介して支持される」という新たな相違点を生じることとなる。
してみれば、仮に甲第9号証に記載された技術が周知技術であったとしても、引用発明5に甲第9号証に記載された周知技術を適用して、相違点5-1及び5-2に係る本件特許発明を特定する事項を採用することは、当業者が容易になし得る事項ではない。
イ.甲第2号証、甲第4号証ないし第8号証及び甲第10号証ないし甲第14号証についてみると、ロータリバルブを回転軸と一体化し、前記ロータリバルブの各導入通路が前記回転軸内に形成された通路を介して連通しているものは、甲第13号証及び甲第14号証に記載されている。
一方、シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し、前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させるピストン式圧縮機であって、前記カム体は、前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて前記回転軸の軸線の方向の位置を規制されており、前記一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方は、前記シリンダブロックの端面に形成された環状の突条と前記カム体の端面に形成された環状の突条とに当接し、前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくしたものは、甲第2号証、甲第11号証及び甲第12号証に記載されている。
しかしながら、甲第2号証、甲第11号証又は甲第12号証に記載されたピストン式圧縮機は、いずれも、前記一対のスラスト軸受手段とは別に、前記回転軸の外周面を支持する一対のラジアル軸受を備えるものであり、引用発明5は、カム体の両側の、ロータリバルブよりも前記カム体から離れた位置において回転軸を支持する円錐コロ軸受け8,9が一対のラジアル軸受と前後一対のスラスト軸受手段とを兼ねるものである。そうすると、甲第2号証、甲第11号証又は甲第12号証に記載されたピストン式圧縮機と引用発明5は、そもそも、軸受構造が異なるものであって、甲第16号証の記載全体をみても、甲第2号証、甲第11号証及び甲第12号証に記載された前記ピストン式圧縮機の技術を引用発明5に適用し、一対のラジアル軸受と前後一対のスラスト軸受手段とを兼ねている円錐コロ軸受け8,9をあえて一対のラジアル軸受と前後一対のスラスト軸受手段とに分離する動機付けは見いだせない。
更に、特に甲第11号証及び甲第12号証を参照すると、ピストン式圧縮機において、甲第2号証、甲第11号証及び甲第12号証に記載されているように、前記カム体を挟んで前記回転軸の軸線の方向の位置を規制する前後一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方を、前記シリンダブロックの端面に形成された環状の突条と前記カム体の端面に形成された環状の突条とに当接させ、前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくすることは、前記軸線方向の寸法公差の吸収を目的とするものである。一方、甲第16号証には、フロントハウジング18の内壁面に突設された複数の押さえ突起18aと円筒コロ軸受け8の外輪との間に予荷重付与ばね20を介在させることが記載されており(前記「第5 2(15)記載エ」並びに図1及び7参照)、これからみて、回転軸の軸線の方向の寸法公差は、円錐コロ軸受け9が前記軸線方向に移動することにより吸収される。そうすると、甲第16号証に接した当業者にとって、甲第2号証、甲第11号証及び甲第12号証に記載された前記ピストン式圧縮機の技術を引用発明5に適用することは、動機付けを欠くというべきである。
これらのことは、仮に、甲第2号証、甲第11号証及び甲第12号証に記載された前記ピストン式圧縮機が周知技術として認められたとしても左右されるものではない。
加えて、甲第2号証、甲第4号証ないし甲第8号証及び甲第10号証ないし甲第14号証のいずれにも、シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し、前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させ、前記回転軸と一体化されていると共に、前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を有するロータリバルブを備えたピストン式圧縮機において、前記ロータリバルブを、前記カム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段とすることは記載されておらず、甲第2号証、甲第4号証ないし甲第8号証及び甲第10号証ないし甲第14号証の記載からは、当該事項が周知であるとはいえない。
そして、前記「第5 3(2)イ(ア)」において引用発明1について検討したのと同様の理由により、引用発明5において、ロータリバルブがラジアル軸受手段として機能していなければ、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力を前記ロータリバルブに伝達して、吐出行程にある前記シリンダボアに連通する吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段を有しているといえない。
そうすると、先において検討したとおり、甲第2号証、甲第11号証及び甲第12号証に記載された前記ピストン式圧縮機の技術を引用発明5に適用する動機付けはないが、仮に、甲第2号証、甲第11号証及び甲第12号証に記載された前記ピストン式圧縮機が周知技術であって、これを引用発明5に適用することにより、引用発明5において、(a)円錐コロ軸受け8,9を一対のラジアル軸受と前後一対のスラスト軸受手段とに分離し、当該前後一対のスラスト軸受手段によってカム体を挟み、一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方を、シリンダブロックの端面に形成された環状の突条とカム体の端面に形成された環状の突条とに当接させ、前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくすること、又は(b)円錐コロ軸受け8,9を一対のラジアル軸受と前後一対のスラスト軸受手段と分離することなく、円錐コロ軸受け8,9によってカム体を挟み、円錐コロ軸受け8,9の少なくとも一方を、シリンダブロックの端面に形成された環状の突条とカム体の端面に形成された環状の突条とに当接させ、前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくすることが、当業者が容易になし得る事項であったとしても、依然として、前記カム体の両側の、前記ロータリバルブよりも前記カム体から離れた位置において、前記回転軸が一対のラジアル軸受を介して支持されている、又は前記カム体の両側の、前記ロータリバルブよりも前記カム体に近接した位置において、前記回転軸が円錐コロ軸受け8,9を介して支持されていることに変わりはないから、前記圧縮反力伝達手段を有することになるとはいえない。
してみれば、引用発明5において相違点5-2に係る本件特許発明を特定する事項を採用することが引用発明5並びに甲第2号証、甲第4号証ないし第8号証及び甲第10号証ないし甲第14号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項であるとはいえない。
ウ.したがって、引用発明5において相違点5-1及び5-2に係る本件特許発明を特定する事項を採用することが引用発明5並びに甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第14号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項であるとはいえない。

この点に関し、請求人は、甲第5号証ないし甲第7号証に記載されているように、駆動シャフトの軸受構造を簡素化するという課題を解決するために、ラジアル軸受を省略して、回転軸をシリンダブロックにより直接支持する構成は周知であり、引用発明5においても、駆動シャフトの軸受構造を簡素化するという課題は当然にあるから、係る課題を解決するために、一対のラジアル軸受を省略することは容易である旨主張している(審判請求書「7.3-9-2(3)」(第69ページ))。
しかしながら、引用発明5において、円錐コロ軸受け8,9は、一対のラジアル軸受と前後一対のスラスト軸受手段とを兼ねており、円錐コロ軸受け8,9を省略すると前後一対のスラスト軸受手段がなくなってしまうから、引用発明5に請求人が周知と主張する前記技術を適用することはできない。更に、前記「第5 3(2)イ(イ)」において検討したとおり、甲第5号証ないし甲第7号証に記載された技術は、いずれも、シリンダブロックとは別体であるラジアル軸受が省略されても、当該ラジアル軸受が設けられていたシリンダブロックの部位により直接支持されることにより、回転軸の前記ラジアル軸受と対応する部位が引き続きラジアル軸受手段として機能するものである。そうすると、甲第5号証ないし甲第7号証に記載された技術が周知技術であって、当該技術を引用発明5に適用し、ロータリバルブよりもカム体から離れた位置で回転軸を支持していた一対のラジアル軸受を省略したとしても、回転軸の前記位置の外周面は、引き続き、ラジアル軸受手段として機能することになり、前記ロータリバルブがラジアル軸受手段として機能することになるとは必ずしもいえない。そして、引用発明5において、前記ロータリバルブがラジアル軸受手段として機能しなければ、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力を前記ロータリバルブに伝達して、吐出行程にある前記シリンダボアに連通する吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段を有しているといえないことは、先に検討したとおりである。
また、引用発明5において、回転軸が一対の円錐コロ軸受け8,9を介して支承されていることに関する請求人の主張(口頭審理陳述要領書「5(3)ウ(ア)」(第22?24ページ)については、前記「第5 6(2)」において引用発明4について検討したとおりである。
したがって、請求人の主張を検討しても、引用発明5において相違点5-1及び5-2に係る本件特許発明を特定する事項を採用することが引用発明5並びに甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第14号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項であるとはいえない。

(3)本件特許発明の効果について
本件特許発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項を備えることにより、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力が回転軸を傾かせて、ロータリバルブの外周面を吐出行程にあるシリンダボアに連通する吸入通路の入口付近の軸孔の内周面に押接し、もって吐出行程にあるシリンダボアにおける圧縮室内の冷媒が吸入通路から洩れ難くなり、圧縮機における体積効率が向上するという効果を奏するものである。
しかしながら、甲第16号証、甲2号証及び甲第4号証ないし甲第14号証のいずれにも、吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力により回転軸を傾かせて回転軸の外周面を吐出行程にあるシリンダボアに連通する吸入通路の入口付近の軸孔の内周面に押接することが記載されておらず、本件特許発明が奏する効果は、甲第16号証の記載並びに甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第14号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る範囲を越えるものである。
(4)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明は、引用発明5並びに甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第14号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明に係る特許は、請求人が主張する無効理由5によっては、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明に係る特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-12-10 
結審通知日 2018-12-12 
審決日 2018-12-26 
出願番号 特願2007-338196(P2007-338196)
審決分類 P 1 123・ 113- Y (F04B)
P 1 123・ 121- Y (F04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 秀之  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 久保 竜一
柿崎 拓
登録日 2009-05-15 
登録番号 特許第4304544号(P4304544)
発明の名称 ピストン式圧縮機における冷媒吸入構造  
代理人 磯田 志郎  
代理人 日野 英一郎  
代理人 ▼廣▲瀬 文雄  
代理人 李 知▲ミン▼  
代理人 豊岡 静男  
代理人 中村 敬  
代理人 尾崎 英男  
代理人 上野 潤一  
代理人 佐藤 努  
代理人 永島 孝明  
代理人 伊東 正樹  
代理人 澤野 正明  
代理人 安國 忠彦  

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