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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A47C
管理番号 1371434
審判番号 不服2020-11553  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-19 
確定日 2021-03-16 
事件の表示 特願2015-198974号「着座補助具」拒絶査定不服審判事件〔平成29年4月13日出願公開、特開2017-70465号、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年10月7日の出願であって、令和1年10月30日付けで拒絶理由が通知され、令和2年1月6日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月13日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、同年8月19日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願の請求項1?5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
刊行物等
1.国際公開第2015/012321号
2.実願平5-27802号(実開平6-79348号)のCD-ROM
以下それぞれ「引用文献1」、「引用文献2」という。

第3 本願発明
本願の請求項1?5に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」?「本願発明5」という。)は、令和2年1月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
表面に第1の平面ファスナー(4)を備えた係止部材(2)と、
第1の平面ファスナー6(4)に密着係止される背面部(6)及びこの背面部の下端に設けられた着座面(7)で構成された吊下げ部材(3)とからなる、椅子又は車椅子の榻背部(20)から吊り下げて使用するための着座補助器具であって、
この係止部材(2)には榻背部(20)に固定するための装着紐体(5)が備わっており、
この吊下げ部材(3)には、その背面部(6)の裏面全体に第1の平面ファスナー(4)と脱着自在に密着しうる第2の平面ファスナー(8)が配されており、
さらに着座面(7)の中央には、先端を座面後方に向けた断面楔型の座骨支承用突起状弾性体(9)が配されていること、
を特徴とする着座補助器具(1)。
【請求項2】
前記第2の平面ファスナー(8)はニット編地からなり、吊下げ部材(3)の背面部(6)の裏面全体がこのニット編地で構成されていること、を特徴とする請求項1に記載の着座補助器具(1)。
【請求項3】
前記吊下げ部材(3)は、表面素材(10)と裏面の第2の平面ファスナー(8)との間に非伸縮性の生地からなる芯材(11)を備える一方で、
座骨支承用突起状弾性体(9)のほかに着座面(7)用の内部クッションを備えていないこと、を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の着座補助器具(1)。
【請求項4】
前記表面素材(10)は、経編二重構造であること、を特徴とする請求項3に記載の着座補助器具(1)。
【請求項5】
前記吊下げ部材(3)の着座面(7)は、その前端中央部が前方に突出した引出部位(12)を備えており、着座面(7)の後端中央は後方に膨らむように弧状に湾曲しており、さらに背面部(6)の下方は着座面の後端の湾曲形状に沿って曲面状に形成されていること、を特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の着座補助具(1)。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審が付した。以下同様である。)。
(1a)
「[請求項1] 背面部と座面部からなる外装体とその座面部にクッションを備えた、榻背部を有する椅子又は車椅子に該外装体の座面部を載置して使用する着座補助具であって、
該クッションは、座面部後方から座面部中央方向に向かって徐々にその肉厚を厚くするものであって、その座面の上平面を座面部後方から中央に向かって徐々に高くした傾斜面を備えており、
該外装体はその背面部を椅子又は車椅子の榻背部上方から吊り下げられることで着座者の背面と座面を支持することを特徴とする、着座補助具。」
(1b)
「[0044] 本発明の実施品の一形態の外装体2を図1(a)(b)および図2(c)(d)に示す。(b)は上平面側で、たとえば、背面部長さ230mmと座面部長さ190mmで、背面部3と座面部4が一体の外装体となっており、外装体2の全長420mm×幅210mmの長方形の表地は、伸縮性と体圧分散性と通気性に優れる経編のダブルラッセルの立体的な編目構造のポリエステル製の編地素材で構成されている。そして、(d)は裏面側であり、背面部裏面も伸縮性と通気性に優れるダブルラッセルとし、座面部4の底面5には、滑り止めの機能と面ファスナーのフック面との係着に適した機能を持ち合わせるループ状に密集起毛されたB面のニット素材を用いる。上記の(a)(b)に表した表面と裏面とは、その側面を縫製して、(c)に示すように一体の外装体2を得るものである。そして、外装体2の座面部4の内部空間6には、座面表面に傾斜面9を設けたクッション7を差し入れるようになっている。他方、外装体2の背面部3には、クッション材を入れてもよいが、クッションを入れずともよく、クッションを入れない場合にはさらに外装体2の表面と裏面のダブルラッセル生地同士を縫製して一体としてもよい。
[0045] 外装体2の背面部3の裏面左右上端部には、椅子24や車椅子25の背面上部もしくは車椅子25の手押しハンドル26の近傍に係止することのできる係止体11の紐12をそれぞれ逢着する。たとえば係止体11の紐12は、12mm幅のポリプロピレン製のリボンを用いる。そして、係止体11の紐12は、外装体2の背面部3の裏面の上端部から紐12の先端に向かって、逆ハの字に開くようにやや斜めに張り出さすように配置して逢着するものとする。椅子24や車椅子25の背面あるいは左右の手押しハンドル26にそれぞれ係止したりする際に、左右に開いた位置から吊り下げることとなるので、着座補助具1を安定させやすい。外装体2の背面部3の表面と裏面の間に挟むようにして係止体11を逢着しておいてもよい。また、係止体11の紐12は荷重がかかっても切れない強度と耐久性を備え、係止金具13などに通して折り曲げ可能で抜け落ちにくい素材であればよい。そこで、ポリプロピレン以外にもナイロンなどのプラスチック樹脂の紐12であれば、一般的に適用しうるものであって、紐12の形状もリボンに限定されるものではなく、さらに断面は円や楕円であってもよい。
・・・
[0049] 図3にクッション7を示す。クッション7は、座面中央に向かって座面後方から高くなるよう傾斜させた傾斜面9を有する。図3では、クッション7の座面中央から、座面前方に向かって緩やかに下る傾斜がつけられているが、座面中央から座面前方は、水平に近いものであってもよい。クッション7の座面後方から座面中央に向かって高くなる傾斜面9は着座者21の坐骨23と正対してこれを下方から支承するためである。この傾斜面9があることで、坐骨23を中心に着座者21の臀部を載せかけることができるので、着座者21は、ずっこけた姿勢のような弛緩した着座姿勢のままに安楽な姿勢を保持でき、さらに体が前方へと崩れ落ちることがないので、その弛緩した姿勢のままに椅子24もしくは車椅子25に着座してその身体を保持しうることとなる。
[0050] クッション7は、低反発弾性フォーム8と芯材10を複層にした構造をもつ。クッション7は、着座者21に当接する位置に近い上方部に低反発弾性フォーム8を配して、体圧分散に優れたものとしたうえで、坐骨23の周辺を傾斜面9でしっかりと支承できるように、芯材10には硬めで保形力のあるポリエチレンフォームを組み合わせている。たとえば、クッション7は、横幅400mm、全長350mmのものであり、表層ウレタンフィルム、厚み20mmの低反発弾性フォーム(ウレタン)、山形の芯材となるポリエチレンフォームの3層構造を接着剤で貼り合わせて得る。芯材10は、幅400mm長さ250mmで、長さ125mmの中央部の山の高さを50mm程度としたもので、坐骨を支える傾斜面9は約21度の傾斜角となっている。そして、芯材10のポリエチレンフォームは、たとえば、密度が20?40kg/m3で硬さが100?130Nぐらいのものとする。」
(1c)
図1(a)、(b)、図2(c)、(d)、図3及び図4は、以下のとおりである。

(2)引用文献1に記載された発明

図2(c)、(d)から、「クッション7」は、上面に対応する下面が水平であることが、明らかである。

上記ア、摘記(1a)、(1b)及び図2(c)、(d)(摘記(1c)参照)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明]
「背面部3と座面部4からなる外装体2とその座面部4にクッション7を備えた、榻背部を有する椅子24又は車椅子25に該外装体2の座面部3を載置して使用する着座補助具1であって、
背面部3長さ230mmと座面部4長さ190mmで、背面部3と座面部4が一体の外装体2となっており、外装体2の全長420mm×幅210mmの長方形の表地は、伸縮性と体圧分散性と通気性に優れる経編のダブルラッセルの立体的な編目構造のポリエステル製の編地素材で構成され、背面部3裏面も伸縮性と通気性に優れるダブルラッセルとし、座面部4の底面には、滑り止めの機能と面ファスナーのフック面との係着に適した機能を持ち合わせるループ状に密集起毛されたB面のニット素材を用い、外装体2の座面部4の内部空間6には、座面表面に傾斜面9を設けたクッション7を差し入れ、
クッション7は、横幅400mm、全長350mmのものであり、表層ウレタンフィルム、厚み20mmの低反発弾性フォーム、山形の芯材となるポリエチレンフォームの3層構造を接着剤で貼り合わせ、座面部4後方から座面部4中央方向に向かって徐々にその肉厚を厚くするものであって、その座面の上平面を座面部4後方から中央に向かって徐々に高くした傾斜面9を備えており、クッション7の座面中央から座面前方は、水平に近いものであり、上面に対応する下面が水平であり、傾斜面9は着座者21の坐骨23と正対してこれを下方から支承し、
外装体2の背面部3の裏面左右上端部には、椅子24や車椅子25の背面上部の近傍に係止することのできる係止体11の紐12をそれぞれ逢着し、外装体2はその背面部3を椅子24又は車椅子25の榻背部上方から吊り下げられることで着座者21の背面と座面を支持する、着座補助具1。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。
(2a)
「【0009】
【実施例】
以下、本考案に係る座席用の腰もたれ具の実施例を図面と共に説明すると、aは自動車における前席あるいは後席の座席シート、bは座席シートaの後端から上方に起立する背もたれ、cは背もたれの上面にシャフトc1 が着脱自在に取付けられるヘッドレストである。
【0010】
第1実施例を示す図1において、1は厚手の布地、例えば、デニムを縫製した所定の面積を有するシート状の支持部材であり、前記背もたれbの前面の所定の位置に縫着、接着等、適宜の手段で固定されている。そして、上記シート状の支持部材1の前面側の全域には、図2に示す腰当板3を係止するための面ファスナー2が設けられている。すなわち、上記腰当板3は、内部にはウレタンフォーム等の弾性材が充填されており、その裏面の両側とほゞ中央には前記面ファスナー2、あるいは後述する面ファスナー12に係止される短冊状の面ファスナー3aが固着されている。
【0011】
そして、その使用に際しては、腰当板3の裏面に固着された面ファスナー3aを、腰当板3が着席者の腰位置に対応するように位置調整しつつシート状の支持部材1の面ファスナー2に押付け固定する。
【0012】
このように、背もたれbに取付けた腰当板3に対して着席者が腰部を押し当てると腰部はしっかりホールドされ、かつ、背筋が伸びて腰への負担が軽減されると共に疲労が軽減される。
【0013】
次に、第2実施例を示す図3以降において、11は厚手の布地、例えば、デニムを帯状に縫製した帯状の支持部材にして、上方には前記ヘッドレストcのシャフトc1が挿入される孔11aが複数穿設されている。また、上記帯状の支持部材11の下端前面側には面ファスナー12が縫着されている。
【0014】
そして、その使用に際しては、先ず、帯状の支持部材11の孔11aをヘッドレストcのシャフトc1に挿入する。この時、着席者の座高に応じて孔11aの位置を選択し、面ファスナー12が着席者の腰位置になるようにする。次いで、ヘッドレストcのシャフトc1を背もたれbの上面に形成されている孔に挿入する。
【0015】
この状態において、帯状の支持部材11は背もたれbの前面に垂れ下がり面ファスナー12は着席者の腰位置になる。次に、腰当板3の裏面に固着された面ファスナー3aを面ファスナー12に対して、腰当板3が着席者の腰位置になるように押付け固定して取付けは終了する(図4)。
【0016】
このように、背もたれbに取付けた腰当板3に対して着席者が腰部を押し当てると腰部はしっかりホールドされ、かつ、背筋が伸びて腰への負担が軽減されると共に疲労が軽減される(図5)。
【0017】
また、使用しない場合には、帯状の支持部材11はそのままにして腰当板3を面ファスナー12から取外して、後部座席等に置いておけば肘掛けとしても使用でき、さらに、長期間使用しない場合には、帯状の支持部材11を背もたれbから外し、腰当板3に帯状の支持部材11を巻き付けコンパクトにした状態で、トランク等に収納しておいても邪魔になるようなことがない。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

(ア)
引用発明の「係止体11」は、本願発明1の「係止部材(2)」に相当する。
そうすると、引用発明の「係止体11」と、本願発明1の「表面に第1の平面ファスナー(4)を備えた係止部材(2)」とは、「係止部材」において共通している。
(イ)
引用発明の「外装体2の背面部3の裏面左右上端部には、椅子24や車椅子25の背面上部の近傍に係止することのできる係止体11の紐12をそれぞれ逢着し、外装体2はその背面部3を椅子24又は車椅子25の榻背部上方から吊り下げられることで着座者21の背面と座面を支持する」構成の「係止体11の紐12」は、「椅子24や車椅子25の背面上部の近傍に係止することのできる」紐体であり、その「紐12」により固定されることで、「外装体2はその背面部3を椅子24又は車椅子25の榻背部上方から吊り下げられること」が明らかである。
したがって、引用発明の上記構成の「係止体11の紐12」は、「外装体2」を「榻背部」に固定するための紐体であることが明らかである。
このことから、引用発明の上記の「係止体11の紐12」を備える上記の構成は、本願発明1の「この係止部材(2)には榻背部(20)に固定するための装着紐体(5)が備わって」いる構成に相当する。

(ア)
引用発明の「背面部3と座面部4からなる外装体2」は、「その背面部3を椅子24又は車椅子25の榻背部上方から吊り下げられる」から、本願発明1の「吊下げ部材(3)」に相当する。
このことから、引用発明の「背面部3と座面部4からなる外装体2」の「座面部4」は、「背面部3」の下端に設けられていることが明らかであり、本願発明1の「背面部の下端に設けられた着座面(7)」に相当する。
また、引用発明の「背面部3と座面部4からなる外装体2」の「背面部3」と、本願発明1の「第1の平面ファスナー(4)に密着係止される背面部(6)」とは、「背面部」において共通している。
引用発明の「着座補助具1」は、本願発明1の「着座補助器具」に相当する。
(イ)
上記(ア)及び上記ア(ア)を踏まえると、引用発明の「背面部3と座面部4からなる外装体2とその座面部4にクッション7を備えた、榻背部を有する椅子24又は車椅子25に該外装体2の座面部3を載置して使用する着座補助具1であって」、「外装体2の背面部3の裏面左右上端部には、椅子24や車椅子25の背面上部の近傍に係止することのできる係止体11の紐12をそれぞれ逢着し、外装体2はその背面部3を椅子24又は車椅子25の榻背部上方から吊り下げられることで着座者21の背面と座面を支持する、着座補助具1」と、本願発明1の「表面に第1の平面ファスナー(4)を備えた係止部材(2)と、第1の平面ファスナー(4)に密着係止される背面部(6)及びこの背面部の下端に設けられた着座面(7)で構成された吊下げ部材(3)とからなる、椅子又は車椅子の榻背部(20)から吊り下げて使用するための着座補助器具」とは、「係止部材と、背面部及びこの背面部の下端に設けられた着座面で構成された吊下げ部材とからなる、椅子又は車椅子の榻背部から吊り下げて使用するための着座補助器具」において共通している。

(ア)
引用発明の「クッション7」は、「横幅400mm、全長350mmのものであり、表層ウレタンフィルム、厚み20mmの低反発弾性フォーム、山形の芯材となるポリエチレンフォームの3層構造を接着剤で貼り合わせ」たものであるから、弾性体である。
また、引用発明の「クッション7」は、「座面部4後方から座面部4中央方向に向かって徐々にその肉厚を厚くするものであって、その座面の上平面を座面部4後方から中央に向かって徐々に高くした傾斜面9を備えており、クッション7の座面中央から座面前方は、水平に近いものであり、上面に対応する下面が水平であ」から、先端を座面後方に向けた断面楔型である。
さらに、引用発明の「クッション7」は、「傾斜面9を備えており」、「傾斜面9は着座者21の坐骨23と正対してこれを下方から支承し」ているから、座骨支承用である。
これらのことから、引用発明の「クッション7は、横幅400mm、全長350mmのものであり、表層ウレタンフィルム、厚み20mmの低反発弾性フォーム、山形の芯材となるポリエチレンフォームの3層構造を接着剤で貼り合わせ、座面部4後方から座面部4中央方向に向かって徐々にその肉厚を厚くするものであって、その座面の上平面を座面部4後方から中央に向かって徐々に高くした傾斜面9を備えており、クッション7の座面中央から座面前方は、水平に近いものであり、上面に対応する下面が水平であり、傾斜面9は着座者21の坐骨23と正対してこれを下方から支承し」ている構成の「クッション7」と、本願発明1の「先端を座面後方に向けた断面楔型の座骨支承用突起状弾性体」とは、「座骨支承用弾性体」において共通している。
(イ)
引用発明の「クッション7」は、上記(ア)のとおりであるから、上記イ(ア)を踏まえると、引用発明の「外装体2の座面部4の内部空間6には、座面表面に傾斜面9を設けたクッション7を差し入れ」る構成と、本願発明1の「さらに着座面(7)の中央には、先端を座面後方に向けた断面楔型の座骨支承用突起状弾性体(9)が配されている」構成とは、「さらに着座面には、座骨支承用弾性体が配されている」構成において共通している。

以上から、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「係止部材と、
背面部及びこの背面部の下端に設けられた着座面で構成された吊下げ部材とからなる、椅子又は車椅子の榻背部から吊り下げて使用するための着座補助器具であって、
この係止部材には榻背部に固定するための装着紐体が備わっており、
さらに着座面には、座骨支承用弾性体が配されている、
着座補助器具。」
<相違点1>
「係止部材」、及び、「吊下げ部材」の「背面部」の構造に関して、本願発明1は、「表面に第1の平面ファスナーを備えた」係止部材であり、「第1の平面ファスナーに密着係止される」背面部であり、「この吊下げ部材には、その背面部の裏面全体に第1の平面ファスナーと脱着自在に密着しうる第2の平面ファスナーが配されて」いる構造であるのに対して、引用発明は、「外装体2の背面部3の裏面左右上端部には、椅子24や車椅子25の背面上部の近傍に係止することのできる係止体11の紐12をそれぞれ逢着し」、「外装体2の全長420mm×幅210mmの長方形の表地は、伸縮性と体圧分散性と通気性に優れる経編のダブルラッセルの立体的な編目構造のポリエステル製の編地素材で構成され、背面部3裏面も伸縮性と通気性に優れるダブルラッセルとし」ている点。
<相違点2>
「着座面には、座骨支承用弾性体が配されている」ことに関して、本願発明1は、着座面「の中央」には、「先端を座面後方に向けた断面楔型の」座骨支承用「突起状」弾性体が配されているのに対して、引用発明は、「背面部3長さ230mmと座面部4長さ190mmで、背面部3と座面部4が一体の外装体2となっており、外装体2の全長420mm×幅210mmの長方形の表地は、伸縮性と体圧分散性と通気性に優れる経編のダブルラッセルの立体的な編目構造のポリエステル製の編地素材で構成され、背面部3裏面も伸縮性と通気性に優れるダブルラッセルとし、座面部4の底面には、滑り止めの機能と面ファスナーのフック面との係着に適した機能を持ち合わせるループ状に密集起毛されたB面のニット素材を用い、外装体2の座面部4の内部空間6には、座面表面に傾斜面9を設けたクッション7を差し入れ、クッション7は、横幅400mm、全長350mmのものであり、表層ウレタンフィルム、厚み20mmの低反発弾性フォーム、山形の芯材となるポリエチレンフォームの3層構造を接着剤で貼り合わせ、座面部4後方から座面部4中央方向に向かって徐々にその肉厚を厚くするものであって、その座面の上平面を座面部4後方から中央に向かって徐々に高くした傾斜面9を備えており、クッション7の座面中央から座面前方は、水平に近いものであり、上面に対応する下面が水平であり、傾斜面9は着座者21の坐骨23と正対してこれを下方から支承し」ている点。

(2)相違点についての判断

事案に鑑み、最初に相違点2について検討する。
(ア)
引用発明において、「背面部3と座面部4が一体の外装体2」は、「座面部4長さ190mm」であり、「伸縮性と体圧分散性と通気性に優れる経編のダブルラッセルの立体的な編目構造のポリエステル製の編地素材で構成され」た「長方形の表地」が「幅210mm」であり、「クッション7は、横幅400mm、全長350mmのものであ」る。
このことから、引用発明において、「クッション7」の長さ及び幅は、それぞれ、「外装体2」の「座面部4」の長さ及び幅より大きく、「外装体2の座面部4の内部空間6に」「クッション7を差し入れ」ると、「外装体2の座面部4」が伸び、「クッション7」は、「外装体2の座面部4」の全体に配されるようになることが、明らかである(図2?4も参照。)。
(イ)
そして、上記相違点2に係る本願発明1の構成である「着座面の中央には、先端を座面後方に向けた断面楔型の座骨支承用突起状弾性体が配されている」構成、すなわち、着座面の中央にのみに断面楔型の弾性体が配されていることで、当該弾性体が、座骨支承用突起状弾性体となっている構成は、引用文献1、2のいずれにも記載も示唆もされていない(摘記(1a)?(2a)等参照。)。
(ウ)
一方、本願発明1は、上記(イ)の構成を備えることで、「座骨の位置が前方に移動しないように断面楔形のクッションを着座面の中央に配しているにすぎず、座骨付近で上方からの荷重を1点で支えるといった従来の立ち姿勢を再現するような椅子とは異なっている。あくまで座面や腰部が全体で面として受け止めて支承することとなっているのであって、体圧は着座補助器具の着座面や腰部付近の背面部に適切に広く分散されることとなる。」(本願明細書の段落【0036】)という格別の効果を奏するものである。
(エ)
これらのことを総合すると、引用発明の「外装体2の座面部4」の全体に配されている「クッション7」(上記(ア)参照)を、「外装体2の座面部4」の中央にのみ配されるような断面楔型の突起状とすること、すなわち、引用発明において、「外装体2の座面部4の内部空間6」に「クッション7を差し入れ」る場合に、「外装体2の座面部4」の中央には断面楔型の突起状「クッション7」(弾性体)が配されるように構成することで、上記相違点2に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たとはいえない。

よって、相違点1について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び引用文献1ないし2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2?5について
本願発明2?5は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定したものであるから、本願発明1と同様に、引用発明及び引用文献1ないし2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 小括
上記1及び2のとおりであるから、原査定の理由を維持することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-02-18 
出願番号 特願2015-198974(P2015-198974)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A47C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井出 和水  
特許庁審判長 一ノ瀬 覚
特許庁審判官 島田 信一
出口 昌哉
発明の名称 着座補助具  
代理人 横井 知理  
代理人 横井 宏理  
代理人 横井 健至  

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